(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】金属ペースト
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20221213BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20221213BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20221213BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20221213BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20221213BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20221213BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20221213BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20221213BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20221213BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20221213BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20221213BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20221213BHJP
【FI】
C09D17/00
H01B1/22 A
H01B1/00 E
B22F1/052
B22F1/102
B22F1/107
B22F9/00 B
H05K1/09 A
C08L1/00
C08K3/08
C09D5/24
C09D11/52
(21)【出願番号】P 2021169895
(22)【出願日】2021-10-15
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘規
(72)【発明者】
【氏名】藤田 優輝
(72)【発明者】
【氏名】岩井 輝久
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 優輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】大武 成行
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/033911(WO,A1)
【文献】特開2021-006610(JP,A)
【文献】特開2012-174797(JP,A)
【文献】特表2017-524761(JP,A)
【文献】特開2007-081339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/52
H01B 1/22
H01B 1/00
B22F 1/052
B22F 1/102
B22F 1/107
B22F 9/00
H05K 1/09
C08L 1/00
C08K 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護剤が結合された銀粒子からなる固形分を溶剤に混練してなる金属ペーストにおいて、
前記固形分は、粒径100~200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む銀粒子で構成されており、かつ、銀粒子全体の平均粒径が60~800nmであり、
前記銀粒子に結合する保護剤は、炭素数が4以上8以下のアミン化合物の少なくとも1種であり、
前記溶剤は、溶剤A及び溶剤Bの少なくとも2種の有機溶剤を混合した混合溶剤であり、
前記溶剤Aは、ジヒドロターピネオール又はターピネオールの少なくともいずれかであり、
前記溶剤Bは、沸点240℃以上の少なくとも1種の有機溶剤であり、
前記混合溶剤は、ジヒドロターピネオールに対するハンセン溶解度パラメータの距離Raが3.0MPa
1/2以下であり、
更に、第1の添加剤として数平均分子量が40000~90000の高分子量エチルセルロースと、第2の添加剤としてポリビニルアセタール樹脂を含むことを特徴とする金属ペースト。
【請求項2】
混合溶剤のジヒドロターピネオールに対するハンセン溶解度パラメータの距離Raが2.5MPa
1/2以下である請求項1記載の金属ペースト。
【請求項3】
溶剤Bは、ジヒドロターピネオールに対するハンセン溶解度パラメータの距離Raが3.0MPa
1/2以下であり、構造中に2以上のエステル基を含む有機溶剤である請求項1又は請求項2記載の金属ペースト。
【請求項4】
溶剤Bは、ヒルデブランドの溶解度パラメータSP値が8.5(cal/cm
3)
1/2以上9.5(cal/cm
3)
1/2以下である請求項3記載の金属ペースト。
【請求項5】
混合溶剤のジヒドロターピネオールに対するハンセン溶解度パラメータの距離Raが1.0MPa
1/2以下である請求項3又は請求項4記載の金属ペースト。
【請求項6】
溶剤Bは、ジヒドロターピネオールに対するハンセン溶解度パラメータの距離Raが3.0MPa
1/2超である請求項1又は請求項2記載の金属ペースト。
【請求項7】
溶剤Bは、テキサノール、ブチルグリコールアセテートの少なくともいずれかである請求項6記載の金属ペースト。
【請求項8】
第1の添加剤である高分子エチルセルロース含有量は、金属ペースト全体に対する質量比で1.0質量%以上3.0質量%以下である請求項1~請求項7のいずれかに記載の金属ペースト。
【請求項9】
第2の添加剤の含有量は、第1の添加剤の含有量に対して10質量%以上70質量%以下である請求項1~請求項8のいずれかに記載の金属ペースト。
【請求項10】
保護剤であるアミン化合物は、ブチルアミン、1,4-ジアミノブタン、3-メトキシプロピルアミン、ペンチルアミン、2,2-ジメチルプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、3-エトキシプロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、ベンジルアミン、イソブチルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミンである請求項1~請求項9のいずれかに記載の金属ペースト
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粒子が溶剤に分散する金属ペーストに関する。詳しくは、所定の平均粒径及び粒径分布を有する銀粒子を固形分として含み、低温焼結性に優れた金属ペーストであって、設計したパターン及び線幅どおりに金属配線を形成可能な印刷描画性に優れた金属ペーストに関する。更に、連続印刷性が良好であり、基板との密着性に優れる配線を形成できる金属ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
PC、スマートフォン、タブレット端末等のディスプレイ光源用LED素子やパワー半導体素子等の金属配線の形成において、近年、金属粒子を溶剤に分散させた金属ペースト(金属インク)の利用が広がっている。金属ペーストは、スクリーン印刷法等の効率的なパターン形成技術に容易に適用可能であり、微細な配線パターンの形成に対応可能である。こうした理由から、金属ペーストの印刷による配線形成プロセスは、これまで主流であったフォトレジスト法やメッキ法等に替わるものとして期待されている。
【0003】
こうした配線形成用途に好適な金属ペーストとして、本願出願人は、所定の構成の銀ナノ粒子を含む金属ペーストを開示している(特許文献1)。金属粒子は数十nm以下のナノレベルの微粒子となるとバルク材に比べて著しく融点が降下するという現象を発現する。本願出願人による金属ペーストは、この現象を利用して平均粒径及び粒径分布が制御された銀ナノ粒子を金属成分とし、低温での配線形成を可能としている。また、この従来の金属ペーストは、添加剤として高分子エチルセルロースを含む。金属ペーストには、設計された微細な配線パターン形状に忠実に金属粒子を基板に転写させる印刷性が要求される。この点、金属ナノ粒子のみを溶剤に分散させた金属ペーストは、印刷性に乏しく、滲みや断線を含む配線を形成することがある。上記本願出願人の金属ペーストは、高分子エチルセルロースを配合することで、金属ペーストのレオロジー特性を好適化して印刷性の改善を図っている。そして、これらの構成により、本願出願人の金属ペーストは、上記各種用途の配線形成プロセスに十分対応できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したLED素子等の電子デバイスの配線パターンにおいては、その配線幅の更なる狭小化や形状の複雑化が図られている。具体的には、これまでは100μmオーバーで設定されてきた配線幅は、100μm以下のものが要求されるようになっており、ゆくゆくは50μm程度までも視野に入っている。
【0006】
こうした狭小化・複雑化する配線パターンに対する金属ペーストの対応に関し、上記本願出願人の金属ペーストもある程度は対応可能であるが十分なものとは言い難い。例えば、配線幅の狭小化についてみると、本願出願人の金属ペーストであっても設計値に対してわずかながら幅広の配線が形成される場合があることが確認されている。本願においては、設計どおり線幅の配線形成の可否を印刷描画性と定義する。これからの金属ペーストについては、この印刷描画性について優れたものが必要であり、本願出願人による金属ペーストにも改善の余地があることを確認している。
【0007】
配線パターンの狭小化・複雑化への対応については、印刷技術の改善の方向からの対応、例えば印刷機の改良によっても可能であると考えられる。しかしながら、配線の前駆体である金属粒子を含む金属ペーストの改善は必須といえる。
【0008】
もっとも、金属ペーストの印刷描画性の改善は重要事項であるが、金属ペーストの構成変更によって本来要求される特性が害されることは回避されなければならない。即ち、上記本願出願人の金属ペーストが有する低温焼結性や印刷性は必須のものである。金属ペーストの改良に際しては、これらの基本的な要求特性の維持が必須である。
【0009】
また、大量生産される電気・電子デバイスの配線基板の製造プロセスにおいては、連続的・安定的に同一の配線パターンを形成し続けることが必要である。更に、一旦形成した配線パターンは基板と密着性を良好にして接合された状態を維持する必要がある。配線パターンの狭小化は、連続印刷性や基板への密着性への影響を及ぼすことが予測されることから、印刷描画性の改善ではこれらとバランスの考慮も必要である。
【0010】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、銀粒子からなる金属粒子を固形分として含む配線形成用の金属ペーストについて、配線幅の狭小化等に対して設計どおりの線幅・パターンの配線を形成可能な金属ペーストを提供する。そして、本発明は、印刷描画性が良好であると共に、連続印刷性及び配線の密着性を確保することができる金属ペーストを明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した本発明の課題である金属ペーストの印刷描画性は、形成された配線の設計幅に対するズレ幅の大小により評価される。本発明者等は、上記した本願出願人による従来の金属ペーストの印刷描画性を評価しつつ、その印刷描画性の低下の要因についての予備的試験を行った。その結果として、金属ペーストの印刷描画性は溶剤による影響を大きく受けるとの考察に至った。そして、本発明者等は、印刷描画性を改善し得る溶剤の検討から着手したところ、ジヒドロターピネオール(メンタノール)又はターピネオールを溶剤とすることが有効であることを見出した。特に、ジヒドロターピネオールは最適な溶剤といえるものであり、これにより印刷描画性を良好にできることを確認した。本発明者等による予備的試験の内容については後に説明するが、ジヒドロターピネオールを溶剤とする金属ペーストによる配線パターン形成では、設計幅に対して極めて小さいズレ幅となることが確認されている。
【0012】
もっとも、ジヒドロターピネオール等を溶剤とする金属ペーストにおいては、印刷描画性の改善がみられるもののその効果は短期的なものであり、複数回の印刷により配線に掠れが生じるため、連続印刷性においては不十分であるという判定をせざるを得なかった。更に、配線の密着性に関しては、ジヒドロターピネオール等を含め、如何なる溶剤によっても改善の兆しはみられなかった。
【0013】
そこで、本発明者等は、印刷描画性及び連続印刷性の問題は溶剤により解決可能であるとする一方で、密着性については他の手段を適用すべきであると考察した。
【0014】
(I)溶剤による印刷描画性及び連続印刷性の改善
上述のとおり、ジヒドロターピネオールは、印刷描画性においては最善ともいえる溶剤であるが連続印刷性に劣る。ジヒドロターピネオールがズレ幅を極小とし描画性を改善する理由は明らかではない。本発明者等の仮説として、ジヒドロターピネオール等が銀粒子(及びその保護剤)の緩衝剤・保護剤となり、溶剤と銀粒子との相互作用により印刷時の過度の広がりを抑制していると考えるが定かではない。一方、ジヒドロターピネオールが連続印刷性を低下させる要因の一つとして、印刷中の溶剤の揮発にあると推察した。連続印刷性の低下が溶剤の揮発にあると仮定するならば、ジヒドロターピネオール等にそれらより高沸点の溶剤を混合して溶剤全体の沸点を上昇させることで連続印刷性の改善を図ることができると考えられる。
【0015】
もっとも、ジヒドロターピネオール等に他の溶剤を混合すると、ジヒドロターピネオール等による描画性が低下することが予測される。本発明者等による予備的試験では、ジヒドロターピネオール等以外の溶剤を使用すると、ズレ幅は悉く増大する傾向にある。よって、単に沸点を調整するための混合溶剤の適用は好ましくない。そこで、本発明者等は、印刷描画性の向上の要因が溶剤と銀粒子との相互作用にあるとするならば、ジヒドロターピネオール等に類似した相互作用を発揮し得る溶剤を形成すべきであると考えた。
【0016】
ここで、本発明者等は、ジヒドロターピネオール等と性質が近い溶剤を形成するための方向性として、ハンセンの溶解度パラメータに基づく検討を行った。ハンセン溶解度パラメータ(以下、HSPと略するときがある)は、溶剤(溶媒)の溶解パラメータを規定する方法の一つである。HSPは、いわゆるヒルデブランド(Hildebrand)の溶解度パラメータ(SP値)を、分散項(δd)、極性項(δp)、水素結合項(δh)の3成分に分割して3次元空間に表したベクトルである。HSPは、通常は、溶剤と溶質との親和性を推定するために導入され、ある溶剤がある溶質をどの程度溶解することができるかを推測するために使用される。この点、本発明の対象となる金属ペーストにおいては、金属粒子(銀ナノ粒子)は、溶剤中で分散している状態にあって、溶剤に溶解することはない。しかし、溶剤と金属粒子との間で生じる挙動に関し、HSPが近似する溶剤同士は類似する挙動を示すと考えた。特に、本願出願人による従来の金属粒子は、所定の有機化合物(アミン化合物)に保護されていることから、有機化合物である溶剤と金属粒子との間の挙動を考察するのにHSPは有用であると考察した。
【0017】
そして、HSPに基づく検討のもと、本発明者等は、所定温度以上の沸点を有する溶剤であって、混合することによりジヒドロターピネオールに対してHSPの距離Raが所定値以下となる混合溶剤が印刷描画性及び連続印刷性の双方に優れたものであることを見出した。
【0018】
(II)配線の密着性の改善
上記のとおり、印刷描画性及び連続印刷性は適切な混合溶剤を適用することで改善可能である。一方、密着性に関しては溶剤による改善を望むことはできない。そこで、本発明者等は、金属ペーストの密着性改善の手段として、従来技術に対して新たな添加剤を適用することとした。この点、本願出願人による従来の金属ペーストでは、印刷性改善のための添加剤として高分子量エチルセルロースを添加し、また、金属ペーストのチキソトロピー性の更なる向上のため任意に低分子量エチルセルロース(数平均分子量10000~25000)を添加している。本発明者等は、この従来技術に基づき検討を行った結果、高分子量エチルセルロースの使用は基本的な印刷性のため必須であるが、低分子量エチルセルロースに替えて新たな添加剤としてポリビニルアセタール樹脂を適用することで、密着性の改善作用が観られることを見出した。
【0019】
以上のようにして、本発明者等は、印刷描画性及び連続印刷性の改善と配線の密着性の改善のそれぞれについての解決手段を見出し、本発明に想到した。即ち、本発明は、保護剤が結合された銀粒子からなる固形分を溶剤に混練してなる金属ペーストにおいて、前記固形分は、粒径100~200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む銀粒子で構成されており、かつ、銀粒子全体の平均粒径が60~800nmであり、 前記銀粒子に結合する保護剤は、炭素数が4以上8以下のアミン化合物の少なくとも1種であり、前記溶剤は、溶剤A及び溶剤Bの少なくとも2種の有機溶剤を混合した混合溶剤であり、溶剤Aは、ジヒドロターピネオール(ジヒドロターピネオール)又はターピネオールの少なくともいずれかであり、溶剤Bは、沸点240℃以上の少なくとも1種の有機溶剤であり、前記混合溶剤は、ジヒドロターピネオールに対するハンセン溶解度パラメータの距離Raが3.0MPa1/2以下であり、更に、第1の添加剤として数平均分子量が40000~90000の高分子量エチルセルロースと、第2の添加剤としてポリビニルアセタール樹脂を含むことを特徴とする金属ペーストである。以下、本発明に係る金属ペースト及びこれを適用した金属配線パターンの形成方法について説明する。
【0020】
(A)本発明に係る金属ペースト
上記のとおり、本発明に係る金属ペーストは、(1)銀粒子からなる固形分、(2)溶剤Aと溶剤Bとを混合してなる溶剤、(3)第1、第2の添加剤を必須の構成とする。以下、本願の金属ペーストのこれらの構成について説明する。
【0021】
(1)銀粒子
本発明に係る金属ペーストは、金属配線の前駆体である銀粒子からなる固形分を含む。銀粒子を採用するのは、銀は比抵抗の低い金属であり、その焼結体は導電膜として有効に作用することができるからである。また、銀は熱伝導性に優れるという利点もあり、銀を適用する金属ペーストは、パワーデバイス等の大電流化され動作温度が高温となる半導体機器製造のための接合材、熱伝導材としても有効であることにも基づく。
【0022】
本発明に係る金属ペーストでは、粒径100~200nmの銀粒子の粒子数が、全ての銀粒子の粒子数を基準して30%以上であることを要する。配線パターン形成用の金属ペーストには、低温で金属粒子を焼結させる低温焼結性が要求される。本発明では、低温焼結の意義として150℃以下での焼結の進行を意図する。そして、本発明においては、前記のような中程度に微細な粒径の銀粒子が低温焼結に寄与する。粒径100~200nmの銀粒子の粒子数割合が30%未満の場合、低温での焼結が全く生じないか不十分なものとなる。粒径100~200nmの銀粒子の粒子数割合の上限については、100%であるものも本発明の効果を有する。
【0023】
本発明に係る金属ペーストでは、ペーストに含まれる全ての銀粒子が粒径100~200nmであること、即ち、割合が100%であることが好ましいが、そうである必要はない。粒径100~200nmの銀粒子が30%以上、より好ましくは50%以上あれば、この粒径範囲外の粒子が存在していても良い。例えば、粒径100~200nmの銀粒子と粒径20~30nmの微細な銀粒子とが混在した金属ペーストであっても、粒径100~200nmの銀粒子の割合が30%以上であれば150℃以下の低温での焼結が可能であり、焼結体の抵抗値も低いものとなる。また、粒径100~200nmの銀粒子に粒径500nm超の粗大な銀粒子が混在した金属ペーストであっても良い。通常、500nm(0.5μm)を超える粗大な銀粒子は200℃以下で焼結することはない。しかし、本発明で適用する粒径100~200nmの銀粒子が一定割合以上存在すると、こうした粗大粒子も含めて銀粒子全体が低温で焼結する。
【0024】
本発明では、粒径100~200nmの銀粒子に対し、それよりも微細又は粗大な銀粒子が混在する場合がある。但し、本発明では、全ての銀粒子を対象とした平均粒径(数平均)が60~800nmであることを要する。平均粒径が60nm未満であると、粒子が焼結体を形成させる際、クラックが発生しやすいため、密着性の低下により抵抗値が高くなる場合がある。また、平均粒径が800nmを超えると、焼結が進行しにくく焼結体に割れが発生しやすい。
【0025】
本発明に係るペーストにおいて、銀粒子は保護剤により保護された状態で溶剤に分散する。保護剤とは、溶剤中で懸濁する金属粒子の一部又は全面に結合する化合物であって、金属粒子の凝集を抑制するものである。この保護剤は、粒径100~200nmの銀粒子の焼結性に関連する。
【0026】
本発明において、銀粒子と結合する保護剤は、炭素数が4以上8以下のアミン化合物である。本発明で適用する保護剤としてアミン化合物に限定するのは、アミン以外の保護剤を適用する場合、低温下での銀粒子の焼結が生じ難くなるからである。また、保護剤であるアミン化合物についてその炭素数を4以上8以下とするのは、銀粒子の粒径との関連でアミンの炭素数が銀粒子の安定性、焼結特性に影響を及ぼすからである。炭素数4未満のアミンは粒径100nm以上の銀微粒子を安定的に存在させるのが困難であり、均一な焼結体を形成させるのが困難となる。一方、炭素数8超のアミンは、銀粒子の安定性を過度に増大させ焼結温度を高温にする傾向がある。これらから、本発明の保護剤としては炭素数が4以上8以下のアミン化合物に限定される。
【0027】
更に、アミン化合物については、沸点220℃以下のアミン化合物が好ましい。沸点220℃を超えるアミン化合物が結合した銀粒子は、粒径範囲が適切範囲にあっても、焼結の際のアミン化合物の分離が困難となり焼結の進行を阻害することとなる。
【0028】
保護剤であるアミン化合物中のアミノ基の数としては、アミノ基が1つである(モノ)アミンや、アミノ基を2つ有するジアミンを適用できる。また、アミノ基に結合する炭化水素基の数は、1つ又は2つが好ましく、すなわち、1級アミン(RNH2)、又は2級アミン(R2NH)が好ましい。そして、保護剤としてジアミンを適用する場合、少なくとも1以上のアミノ基が1級アミン又は2級アミンのものが好ましい。アミノ基に結合する炭化水素基は、直鎖構造又は分枝構造を有する鎖式炭化水素の他、環状構造の炭化水素基であっても良い。また、一部に酸素を含んでいても良い。
【0029】
本発明で適用する保護剤の好適な具体例としては、炭素数4のブチルアミン、イソブチルアミン、1,4-ジアミノブタン、3-メトキシプロピルアミン、炭素数5のペンチルアミン、ネオペンチルアミン、2-メチルブチルアミン、2,2-ジメチルプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、炭素数6のヘキシルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミン、炭素数7のヘプチルアミン、ベンジルアミン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、炭素数8のオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン等が挙げられる。保護剤は、1種のアミン化合物のみを含んでいても良いが、複数種のアミン化合物を含んでいても良い。複数のアミン化合物を保護剤とするとき、いずれもが炭素数4以上8以下のものであれば良い。
【0030】
本発明に係るペースト中の保護剤(アミン化合物)の量に関しては、ペースト中の窒素濃度と銀濃度のバランスが重要である。具体的には、窒素濃度(質量%)と銀粒子濃度(質量%)との比(N(質量%)/Ag(質量%))で0.0001~0.015であるものが好ましい。0.0001未満では銀粒子への保護効果が不足し、0.015を超えると焼結体に割れが発生するおそれが生じる。尚、金属ペースト中の窒素濃度は、ペーストの元素分析(CHN分析等)により測定可能であり、銀粒子濃度はペースト製造時に使用する銀粒子質量及び溶剤量から容易に求めることができる。
【0031】
(2)溶剤(混合溶剤)
上述のとおり、本発明に係る金属ペーストは、銀粒子分散のための溶剤として、描画性及び連続印刷性を改善する溶剤Aと溶剤Bとの混合溶剤を採用する。そして、この混合溶剤は、ジヒドロターピネオールを基準としてHSPの距離Raが好適化されている。
【0032】
(2-1)溶剤A
溶剤Aとして必須の溶剤は、ジヒドロターピネオール又はターピネオールの少なくともいずれかである。上述のとおり、本発明の金属ペーストで適用される銀粒子に対し、ジヒドロターピネオールはそれ自体が描画性良好な溶剤である。また、ターピネオールは、ジヒドロターピネオール程ではないが、描画性が良好である。よって、これらが本願発明の溶剤Aとして必須となる。
【0033】
尚、ジヒドロターピネオール(メンタノール)は、α、βの構造異性体を、ターピネオールは、α、β、γの構造異性体を有するがいずれの構造でも良いし、構造異性体が混合したものでも良い。また、溶剤Aは、ジヒドロターピネオール、ターピネオール単独であっても良いし、それらが混合していても良い。但し、溶剤Aとしてターピネオール又はジヒドロターピネオールとターピネオールとの混合である場合、溶剤Bとの混合溶剤においてジヒドロターピネオールとのHSPの距離Raを3.0以下になるようにする必要がある。尚、ターピネオールは、ジヒドロターピネオールに対するHSPの距離Raが1.2MPa1/2である。
【0034】
(2-2)溶剤B
ジヒドロターピネオール等からなる溶剤Aに溶剤Bを混合するのは、描画性を維持しながら連続印刷性の改善を図るためである。この溶剤Bは、前提条件として沸点が240℃以上の有機溶剤である。この沸点は、ジヒドロターピネオール(沸点210℃)及びターピネオール(沸点219℃)より高い温度である。高沸点の溶剤Bは、ジヒドロターピネオール等の揮発を抑制して描画性を維持しつつ溶剤の状態変化を抑制する。
【0035】
(i)HSPのRa及び化学構造を基準とする溶剤B
本発明者等の検討による溶剤Bとして好ましい有機溶剤は、ジヒドロターピネオールに対するHSPの距離Raが3.0MPa1/2以下であり、構造中に2以上のエステル基を含む有機溶剤である。
【0036】
溶剤Bの具体的な選定基準として、優先的に挙げるべきは、当該有機溶剤とジヒドロターピネオールとのHSPの距離Raである。ジヒドロターピネオールとは、溶剤Aを構成する溶剤であり、更に混合溶剤のHSPの距離Raの基準(3.0Pa1/2以下)となっているからである。そして、本発明の溶剤Bは、ジヒドロターピネオールに対するHSPの距離Raが3.0MPa1/2以下とするのが好ましい。
【0037】
ここでHSPの距離Raについて説明すると、HSPは、各種の有機溶剤について、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの3成分より規定されるパラメータである。有機溶剤は、その構造に応じて固有のHSPを有する。そして、ジヒドロターピネオールを基準とするHSPの距離Raは、下記式にて計算可能である。
【数1】
【0038】
そして、本発明で好ましい溶剤Bは、ジヒドロターピネオールとのHSPの距離Raが3.0MPa1/2以下のものである。Raが3.0MPa1/2を超える溶剤を溶剤Bとして混合すると、混合溶剤のHSPのジヒドロターピネオールと距離Raが大きくなる傾向があるからである。その結果として、金属ペーストの描画性が低下して設計どおりの線幅・パターンで配線を形成することが困難となるおそれがある。溶剤BのRaは好ましくは2.0MPa1/2以下とする。尚、Raの下限については、1.0MPa1/2以上とするのが好ましい。
【0039】
また、溶剤Bは、ヒルデブランドの溶解度パラメータであるSP値が8.5(cal/cm3)1/2以上9.5(cal/cm3)1/2以下である有機溶剤が好ましい。上記した分散項δd、極性項δp、水素結合項δhで示されるHSPは、溶剤の溶解度パラメータに関するベクトルであり、ヒルデブランドの溶解度パラメータSP値は、当該ベクトルの長さに相当する。溶剤BのSP値は、下記の式で算出可能である。
【0040】
【0041】
上記したHSPの距離Raが3.0MPa1/2以下となる溶剤Bについては、SP値が近似する範囲内にあることが好ましいと考えられる。また、本発明で溶剤BのHSPの距離Raを算出する基準としているジヒドロターピネオールのSP値(8.94(cal/cm3)1/2)を考慮すると、溶剤BのSP値については、ジヒドロターピネオールのSP値に対して一定範囲内にあることが好ましいと考えられる。これらの理由から、本発明の溶剤BのSP値は、前記範囲のものが好ましい。
【0042】
また、本発明における溶剤BのHSPである、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの各成分の数値範囲としては、15≦δd≦17、2≦δp≦7、2≦δh≦10であるものが好ましい。
【0043】
尚、HSPに関する計算のための分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの各成分の数値や計算方法に関しては、例えば、「INDUSTRIAL SOLVENTSHANDBOOK」(pp.35-68、Marcel Dekker, Inc.、1996年発行)や、「HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS:A USER‘S HANDBOOK」(P.1-41,CRC Press,1999)「DIRECTORYOF SOLVENTS」(pp.22-29、Blackie Academic & Professional、1996年発行)等に記載されている。また、より簡易な検討方法として、計算ソフト「Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP) Version4.1.03」(Steven Abbott,Charles M. Hansen,Hiroshi Yamamoto著)に含まれるデータベースの値を用いることができる。また、上記計算ソフトを使用しつつ溶剤の化学構造式に基づき計算を行うことができる。
【0044】
そして、上記HSPの距離Raに基づく選定基準に加え、溶剤Bは、化学構造的側面からの選定もなされている。即ち、本発明で好適となる溶剤Bは、その構造中、少なくとも2つのエステル基を有する有機溶剤である。このエステル基数に関する条件は、本発明者等による実験的成果によるものである。エステル基を有する有機溶剤が好ましい理由について、本発明者等は、溶剤分子に適度な極性を与えることができ、粒子分散に有効であるためと考察する。一方で、極性基としてアミノ基やアルコール基、カルボキシル基を有する溶剤分子は、粒子表面や印刷基材に界面活性剤として吸着し、本来の粒子、基材表面の性質を変化させるおそれがある。そのような場合、ペーストの基材への濡れ性が良くなり過ぎて、配線の印刷線幅が設計線幅を大きく上回る結果となる可能性がある。そのため、溶剤分子の極性の付与基としては、吸着が起こりにくいエステル気基が適していると推察している。そして、エステル基は2以上のものが好適である。尚、エステル基の数の上限としては、5以下の有機溶剤が好ましい。
【0045】
以上のハンセン溶解度パラメータ及び化学構造的因子に基づき選定される溶剤Bは、具体的には下記の有機溶剤が挙げられる。
【0046】
【0047】
(ii)溶剤Bとなり得る他の高沸点溶剤
溶剤Bに関しては、ジヒドロターピネオールとのHSPの距離Raが3.0MPa1/2を超える有機溶剤であっても使用可能である。本発明で具備すべき要件は、混合溶剤のRaが3.0MPa1/2以下の条件であるので、ジヒドロターピネオールとのHSPの距離Raが3.0MPa1/2を超える有機溶剤もジヒドロターピネオールとの混合比によっては、金属ペーストの混合溶剤としての基準を満たすことができるからである。
【0048】
この場合の有機溶剤の具体例としては、テキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート:日香NG-120の製品名で知られている)、ブチルグリコールアセテート等が挙げられる。尚、ジヒドロターピネオールとのHSPの距離Raが3.0MPa1/2を超える有機溶剤であって、溶剤Bとなり得る他の高沸点溶剤のRaの上限値としては5.5MPa1/2までのものが好ましい。
【0049】
(2-2)混合溶剤のジヒドロターピネオールとのHSPの距離Ra
本発明に係る金属ペーストの溶剤である混合溶剤は、ジヒドロターピネオールとのHSPの距離Raを3.0MPa1/2以下とする。このHSPの距離Raは、混合溶剤のHSP(δdm,δpm,δhm)を算出し、ジヒドロターピネオールのHSP(δdD,δpD,δhD)により下記式3で算出できる。また、混合溶剤のHSP(δdm,δpm,δhm)は、溶剤AのHSP(δdA,δpA,δhA)及び溶剤BのHSP(δdB,δpB,δhB)と、溶剤A及び溶剤Bの混合比(体積比:a、b(a+b=1))により下記式4から算出できる。
【0050】
【0051】
【0052】
尚、溶剤A及び/又は溶剤Bが、混合溶剤である場合には(例えば、溶剤Aがジヒドロターピネオールとターピネオールとの混合溶剤である場合等)、上記式4と同様の計算方法で溶剤A、BのHSPを算出し、その後に混合溶剤のパラメータを計算すれば良い。
【0053】
混合溶剤のジヒドロターピネオールとのHSPの距離Raの値は、それが小さい程、金属ペーストの印刷描画性を良好なものとし、配線の設計幅とのズレ幅を小さくすることができる。そのため、混合溶剤のHSPの距離Raについては、2.5MPa1/2以下がより好ましい。HSPの距離Raが2.5MPa1/2以下の混合溶剤を含む金属ペーストは、基板の材質を限定することなく高い印刷描画性を有する。後述のとおり、基材材質としては、ガラスの他にPETやPEI等の樹脂があるが、ガラス基板は印刷描画性の確保が比較的難しい傾向がある。混合溶剤のRaを2.5MPa1/2以下とすることで、ガラス基板に対しても高い印刷描画性を確保できる。そして、混合溶剤のHSPの距離Raの値は、1.0MPa1/2以下が特に好ましい。これにより、あらゆる基板に対し、極めて高い印刷描画性を発揮できる。もっとも、本発明が適用可能な基板の材質は限定されるべきではない。この点、混合溶剤のHSPの距離Raが3.0MPa1/2以下であれば、樹脂基板に対して高い印刷描画性を発揮できる。
【0054】
尚、溶剤Aと溶剤Bとの混合比は、基本的に混合溶剤としたときのHSPのRaが基準値以内となるようにして調整される。この混合比の目安としては、体積比で溶剤A:溶剤B=0.08:0.92~0.52:0.48と設定するのが好ましい。また、混合比を質量比で設定する場合、溶剤Bが混合溶剤全体に対して10質量%以上50質量%以下となるように混合することが好ましい。
【0055】
(2-4)固形分と溶剤(混合溶剤)との混合比
本発明の金属ペーストの固形分(銀粒子)と溶剤(混合溶剤)との配合比については、溶剤含有率を質量比で5%~60%とするのが好ましい。5%未満ではペーストの粘度が高くなりすぎる。また、60%を超えると必要な厚さの焼結体を得るのが困難となる。溶剤含有率は、質量比で25%~40%とするのがより好ましい。
【0056】
(3)添加剤
(3-1)第1の添加剤
本発明に係る金属ペーストは、第1の添加剤として、高分子量エチルセルロースを必須的に含む。必須添加剤である高分子量エチルセルロースは、金属ペーストの粘度やチキソトロピー性等のレオロジー特性を好適にして基礎的な印刷性を向上させる。高分子量エチルセルロースは、数平均分子量が40000~90000のエチルセルロースであり、好ましくは、数平均分子量が55000~85000のエチルセルロースである。このような高分子量エチルセルロースを適用することで、金属ペーストで配線パターンを形成する場合において、スキージへのペースト不着や転写不良を生じることなく、銀粒子を基板に転写して印刷することが可能になる。
【0057】
エチルセルロースの分子量を上記の高分子量とするのは、銀粒子の焼結後の配線抵抗値を好適にするためである。本発明者等の検討によれば、エチルセルロースの数平均分子量が小さすぎると、焼結後の抵抗値が高いものとなる場合がある。また、高分子量エチルセルロースの数平均分子量は、高すぎると印刷性向上の効果が得られにくい。これらより、基礎的な印刷性の獲得に加えて焼結体の抵抗値を考慮して上記高分子量エチルセルロースを採用している。
【0058】
高分子エチルセルロースの金属ペーストへの添加量は、金属ペースト全体に対する質量比で1.0質量%以上3.0質量%以下が好ましい。1.0質量%未満であると、上記した印刷性の向上効果が得られにくく、3.0質量%を超えると、焼結体の抵抗値が高くなり配線・電極としての機能に支障が生じ得る。
【0059】
(3-2)第2の添加剤
そして、本発明に係る金属ペーストは、第2の添加剤としてポリビニルアセタール樹脂を含む。第2の添加剤は、銀粒子の焼結により形成される金属膜と基板との密着性向上に寄与する。第2の添加剤であるポリビニルアセタール樹脂は、下記式2のとおり、アセタール基、アセチル基、水酸基を有する樹脂である。
【0060】
【0061】
本発明で第2の添加剤として好ましいポリアセタール樹脂は、ポリビニルアセトアセタール(R=CH3)、ポリビニルブチラール(R=C3H7)である。また、ポリアセタール樹脂は、水酸基の配合比が20mol%以上40mol%以下でアセタール化度60mol%以上75mol%以下が好ましい。更に、計算分子量として、1.0×104以上13×104以下のものが好ましい。
【0062】
また、ポリアセタール樹脂の含有量は、高分子量セルロースの含有量に対して10質量%以上70質量%以下とするのが好ましい。10質量%未満であると、密着性向上効果は得られにくく、70質量%を超えると、スクリーン印刷等の印刷法に使用する金属ペーストについて必要となる粘弾性特性が得られなくなるからである。ポリアセタール樹脂の含有量は、より好ましくは高分子量セルロースの含有量に対して10質量%以上50質量%以下とする。
【0063】
(3-3)他の添加剤(任意的添加剤)
本発明に係る金属ペーストは、添加剤として高分子量エチルセルロース及びポリアセタール樹脂を必須的に含むが、これら以外の添加剤を必要に応じて添加しても良い。任意の添加剤としては、高分子樹脂からなるバインダーを用いることができる。この高分子樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。本発明に係る金属ペーストにこのようなバインダーを添加することで、液晶ポリマーに対する密着性の向上を図ることができる。このバインダーについては、本発明に係る金属ペーストに対する質量比で0.8~2.5%含有することが好ましく、1.0~1.5%含有することが特に好ましい。但し、本発明に係る金属ペーストは、多様な基材に対して密着性が良好であるので、バインダーの添加は必須ではない。また、本願発明は、薄膜状の配線を形成する金属ペーストであるので、古くからある厚膜用ペーストで使用されるガラスフリットを含むことはない。また、配線となる金属膜は、銀ナノ粒子の焼結作用により形成されこれにより基板に定着していることから、金属ペースト中に接着剤成分を含むこともない。
【0064】
(II)本発明に係る金属ペーストの製造方法
本発明に係る金属ペーストの製造方法について説明する。本発明に係る金属ペーストは、上記した粒径100~200nmの銀粒子を30%以上含む固形分と第1(及び第2)の添加剤とを溶剤に混練することで製造される。
【0065】
本発明では、粒径100~200nmの銀粒子を30%以上含む銀粒子からなる固形分を使用する。よって、銀粒子の製造においては、粒径及び粒度分布の制御を伴う。かかる銀粒子の製造方法については、従来技術(特許文献1)が詳細を述べている。銀粒子の好適な製造方法は、銀錯体を前駆体とした熱分解法である。熱分解法は、シュウ酸銀(Ag2C2O4)や炭酸銀(Ag2CO3)等の熱分解性の銀化合物を出発原料とし、これに保護剤になるアミン化合物を添加して銀粒子の前駆体となる銀-アミン錯体を生成し、これを加熱して銀粒子を得る方法である。
【0066】
そして、銀-アミン錯体を含む反応系の加熱工程において、反応系中の水分量を規定する。具体的には原料となる銀化合物100質量部に対して5~100質量部とする。この水分は、銀-アミン錯体の分解工程において加熱を均一に進行させる緩衝剤として作用すると考えられる。そして、この緩衝作用により、加熱時の反応系内の温度差を緩和しつつ、銀粒子の核生成・核成長を均一化し促進する。
【0067】
また、銀-アミン錯体の加熱工程においては、粒径分布の調整等を図るため、好適には、アミドを骨格として有する有機化合物を均一化剤が添加される。均一化剤は、尿素及び尿素誘導体の他、N,N-ジメチルフォルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルフォルムアミド(DEF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等が挙げられる。
【0068】
銀-アミン錯体からなる反応系の加熱温度(分解温度)は、90~130℃に設定するのが好ましい。また、加熱工程における加熱速度は、設定した前記分解温度に到達するまで2.5~50℃/minの範囲で調整することが好ましい。そして、加熱工程により好適な粒径分布の銀粒子が析出する。析出した銀粒子は、固液分離を経て回収され、適宜に洗浄することで金属ペーストの固形分となる。尚、洗浄溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールが好ましい。上述したように、ジヒドロターピネオールも使用される。
【0069】
回収した銀粒子は固形分として溶剤と共に混練することで金属ペーストとすることができる。溶剤については上記混合溶剤が適用される。混合溶剤は予め溶剤Aと溶剤Bとを混合し、ここに固形分と第1及び第2の添加剤を同時又は順次に添加しても良い。また、予め、銀粒子と溶剤A又は溶剤Bのいずれか一方の溶剤と混合し、混合体と他方の溶剤と混錬しても良い。第1及び第2の添加剤の添加に関しても同様に、予め添加剤を溶剤A、Bの何れかに溶解しておいても良い。更に、添加剤に関しては、銀粒子の製造過程で形成する銀-アミン錯体を含む反応系に予め添加しておいても良い。
【0070】
(III)本発明に係る金属ペーストによる配線パターンの形成方法
本発明に係る金属ペーストを適用する配線パターンの形成方法においては、以上説明した金属ペーストを基板に塗布した後、銀粒子を焼結させる加熱処理を行う。
【0071】
基板の材質・形状・寸法については、特に制限はない。基材材質としては、ガラス、PET等の樹脂基板の他、金属基板やセラミック基板等が挙げられる。本発明においては、特に、第2の添加剤(ポリビニルアセタール樹脂)の添加により、ガラスのような金属(銀)との親和性に乏しい基板に対しても有効である。
【0072】
金属ペーストの塗布方法も特に制限はない。近年においては微細な配線パターンの形成についてスクリーン印刷法が適用される。但し、これに限定されることはなく、ディッピング、スピンコート、ロールコーターやブレード・スキージ等の塗布部材を用いた滴下法を使用しても良い。
【0073】
目的とする配線パターンで金属ペーストを基板に塗布した後、焼成処理を行って金属膜を形成する。焼成処理は、銀粒子の焼結を進行させると共に、金属膜中に残存し得る保護剤成分等を除去するために行う。この焼成処理は、40℃以上250℃で行うことが好ましい。40℃未満では保護剤の脱離や揮発に長時間を要するため好ましくない。また、250℃を超えると基材の材質によっては変形が生じることがある。本発明の金属ペーストは、低温焼結性に優れていることから、焼成温度の上限を150℃以下にすることもできる。焼成時間は、10分以上120分以下が好ましい。尚、焼成工程は、大気雰囲気で行っても良いし、真空雰囲気でも良い。
【0074】
焼成処理により金属ペースト中の銀粒子は結合・焼結して所望パターンの金属膜からなる金属配線が形成できる。
【発明の効果】
【0075】
本発明に係る金属ペーストは、銀粒子を分散させる溶剤を混合溶剤として特定の制限を付与し、これにより印刷描画性と連続印刷性の向上が図られている。本発明の金属ペーストは、今後狭小化・複雑化する配線パターンの製造において、設計されたパターンに追従した寸法・形状の配線パターンを形成することができる。また、本発明の金属ペーストは低温焼成が可能であり、基板の損傷・変質を生じさせることなく配線パターンの形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】金属ペーストの印刷描画性及び連続印刷性を評価するための配線パターンの外観を示す図。
【
図2】予備試験におけるブチルグリコールアセテート、ジヒドロターピネオールを溶剤とした金属ペーストにより印刷された配線の外観を示す写真。
【
図3】第1実施形態の連続印刷性の評価試験において、印刷掠れが生じた配線(溶剤:ジヒドロターピネオール)の外観を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0077】
第1実施形態:以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、最初に予備的検討として、各種の溶剤(単一溶剤)を用いて従来技術と同様の構成の金属ペーストを作製し、それらによる印刷描画性の適否を確認した。この予備的な検討は、形成される配線幅の設計幅からのズレ幅を確認しつつ、その要因を推察するためのものである。そして、本実施形態では、前記予備的検討の結果を参照しつつ、ハンセン溶解度パラメータに基づき複数種の溶剤を選定して金属ペーストを製造し、それらの印刷描画性及び連続印刷性を評価した。
【0078】
金属ペーストの製造
まず、熱分解法により本発明の粒径分布を有する銀粒子を製造した。炭酸銀102.2g(銀含有量80.0g)を水37.3g(炭酸銀100質量部に対して36.4wt%)を加えて湿潤状態にしたものを銀化合物原料とした。そして、この銀化合物に保護剤のアミン化合物として3-メトキシプロピルアミンを、銀質量に対するモル比で6倍量加えて銀-アミン錯体を製造した。
【0079】
この銀-アミン錯体について、水分量を調整しつつ、更に均一化剤(DMF)を添加した。この反応系について、分解温度を130℃に設定し、室温から加熱して(加熱速度10℃/min)、130℃で銀-アミン錯体を分解し銀粒子を析出させた。加熱は、二酸化炭素の発生がとまるまで加熱を継続した。この加熱工程で、銀粒子が懸濁した液体を得た。反応液は反応液にメタノールを添加して洗浄、遠心分離して銀粒子を回収した。この銀粒子は、平均粒径粒径100nmであり、100~200nmの銀粒子を粒子数基準で80%以上含む銀粒子であった。
【0080】
上記で得られた銀粒子を固形分として溶剤に添加し、更に第1の添加剤である高分子エチルセルロース(ダウケミカル社製 ETHOCEL(登録商標)STD100(数平均分子量63420))を添加し混練して金属ペーストとして。固形分である銀粒子の含有量は、70質量%であり、エチルセルロース(STD100)の含有量は、金属ペースト全体に対して1.7質量%とした。この予備試験では、溶剤としてテキサノール(商品名:日香NG-120)、ブチルグリコールアセテート、ジヒドロターピネオール、ターピネオールを使用し、同じ配分で4種の金属ペーストを製造した。溶剤は何れも市販の溶剤である。市販のジヒドロターピネオール及びターピネオールは、構造異性体の混合と推定されるがその比率は明らかではない。本実施形態では、ジヒドロターピネオール及びターピネオールのHSPの各パラメータ(δd、δp、δh)として、いずれもα型の化合物の値を用いて距離Ra等を計算している。ここでの金属ペーストの構成は、固形分(銀粒子)70質量%、高分子エチルセルロース2質量%、残部溶剤とした。尚、この予備試験では、溶剤と印刷描画性との関係の検討を焦点とするため、ポリビニルアセタール樹脂は添加しなかった。
【0081】
従来技術の印刷描画性の確認(予備試験)
スクリーン印刷法で上記金属ペーストを直線状の配線パターンに塗布・印刷を行った。金属ペーストを、スクリーンマスク上からガラス基板に印刷した。印刷は、ガラス基板にスクリーン印刷装置(ニューロング精密工業株式会社製LS-150)により、
図1で示すパターン(直線パターンの設計幅50μm、100μm、200μm)を有するスクリーンマスクを使用し、印刷速度50mm/secで印刷を行った。その後、150℃で30分間焼成し直線状の金属配線を形成した。そして、形成された3種の配線について線幅を測定し平均値を求め、ズレ幅を算出した。この予備試験の結果を表1に示す。また、
図2にブチルグリコールアセテート及びジヒドロターピネオールを溶剤とした金属ペーストで形成した配線の外観の写真を示す。
【0082】
【0083】
この予備試験の結果をみると、同種の溶剤の金属ペーストでは、設計幅に依らずズレ幅はほぼ一定の値となることが確認される。このズレ幅の値は溶剤毎に相違するが、前記の一定になる点で同様の傾向がある。この結果から、本発明者等は印刷描画性に関しては、溶剤の挙動が大きく関与していると考えられる。
【0084】
また、この予備試験によれば、ジヒドロターピネオールが印刷描画性の観点から最適な溶剤であることが確認された。また、ターピネオールは、ジヒドロターピネオールに次いで印刷描画性において好適な溶剤であるといえる。そして、本願の実施形態においては、印刷描画性の合否基準として設計幅に依らずズレ幅が20μm以下を描画性良好(合格=〇)と判定した。この合否判定の基準を20μm以下としたのは、公知の溶剤であり、予備試験でのズレ幅が比較的良好(平均で12~13μm程度)であったターピネオールを参照したこと、及び、今後要求される可能性がある幅50μm未満の配線の形成を考慮すると、ズレ幅はその線幅の半分未満にすることが必要であろうという考察に基づく。
【0085】
混合溶剤を適用する本実施形態の金属ペーストの製造・評価
本発明者等は、上記予備試験の結果を受け、溶剤Aとしてジヒドロターピネオールと溶剤Bとの混合溶剤を溶剤とする金属ペーストを製造・評価することとした。
【0086】
溶剤Bの選定
本実施形態では、溶剤Aと共に混合溶剤を構成する溶剤Bとして、表2に示す有機溶剤を使用した。表2には、溶剤の沸点、ハンセン溶解度パラメータの各成分(分散項δd、極性項δp、水素結合項δh)、ジヒドロターピネオールに対するHSPの距離Ra、HSPのSP値を示している。
【0087】
【0088】
本実施形態の金属ペーストの製造工程は、予備試験と同じ銀粒子を使用し、銀粒子と溶剤Aと混合した後、ここに溶剤Bを混合して金属ペーストとした。また、第1の添加剤であるエチルセルロースは、上記と同じものを同量添加し、第2の添加剤であるポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製、エスレックBH-S)をエチルセルロースに対して33質量%添加した。これらの添加剤は、銀粒子と各溶剤とを混合した後に添加した。また、溶剤Aと溶剤Bとの混合比は質量比で溶剤A:溶剤B=6:1に設定した(体積比による混合比は、後述の表3を参照)。
【0089】
各種の溶剤Bを使用した金属ペーストを製造した後、各種金属ペーストをスクリーン印刷して印刷描画性と連続印刷性を評価した。印刷描画性の評価試験では、予備試験と同じ印刷機で
図1のパターンを用い印刷速度50mm/secで印刷した。金属ペーストの印刷塗布後、150℃で30分間の焼成処理を行い金属配線とした。印刷描画性の評価は、上記印刷工程後に形成された全ての金属配線(幅3種×3本)についてズレ幅を測定し、ズレ幅の平均値が設計幅に対して20μm以下であれば描画性「良(○)」とした。また、ズレ幅の平均値が20μmを超えた場合を描画性「不良(×)」と判定した。
【0090】
また、連続印刷性の評価試験では、配線パターンとして線幅20μm(長さ100mm)のスリットが200本(配線ピッチ0.3mm)形成されたスクリーンマスクを使用した。そして、各金属ペーストを用いて100回の連続印刷行った。印刷機は予備試験等と同じである。そして、連続印刷性の評価では、前記の連続印刷の過程で3回目、20回目、40回目、60回目、100回目の配線を光学顕微鏡像で観察した。各回の印刷後の観察では印刷された200本の配線から任意に3本選択して全長を観察して断線の有無を確認した。そして、選択した配線のいずれかで2個所以上の断線部位があった場合に印刷掠れが発生したと判断した。そして、100回目の印刷でも印刷掠れが生じなかった金属ペーストを連続印刷性「良(○)」と評価し、100回目までに印刷掠れが生じた金属ペーストを連続印刷性「不良(×)」と評価した。印刷試験による印刷描画性及び連続印刷性の結果を表3に示す。
【0091】
【0092】
表3から、本実施形態で適用した混合溶剤は、ジヒドロターピネオールに対するHSPの距離Raが1.0MPa
1/2以下であり、これらによる金属ペーストは、極めて良好な印刷描画性を発揮することが確認された(P-1~P-7)。そして、ジヒドロターピネオールの単一溶剤を適用する金属ペースト(P-8)が、印刷描画性に関しては最も良いといえる。しかし、ヒドロターピネオールの単一溶剤を適用する金属ペーストは連続印刷性に劣っている。
図3にペーストP-8(ジヒドロターピネオールの単一溶剤)による配線でみられた印刷掠れの写真を示す。ジヒドロターピネオールのみを溶剤とする金属ペーストでは、3回目の印刷の段階で配線の断線が複数個所で生じ始めており、100回目の印刷では島状の金属が点在する掠れた配線となっていた。尚、従来の金属ペーストの溶剤であるテキサノールに関しては(P-9)、連続印刷性は良好であるが、印刷描画性が大きく劣っていた。これは、上記予備試験の結果と符合している。
【0093】
次に、各金属ペーストについて配線の密着性に関する評価試験と行った。密着性については、上記各金属ペーストの一部であるペーストP-2(溶剤B:グリセロールトリブチラート)、ペーストP-3(溶剤B:アセチルクエン酸トリエチルエステル)、ペーストP-8(ジヒドロターピネオールの単一溶剤)について評価した。これら3つの金属ペースト評価においては、第2添加剤であるポリアセタール樹脂を添加しないものを作製して比較した。
【0094】
密着性の評価試験は、上記と同様のスクリーン印刷機で同じ配線パターンの印刷を行った(1回)。印刷後の焼成処理は、60℃、80℃、100℃の3パターンの焼成温度で行い、各焼成温度で製造した金属配線の密着性を評価した。比較例となるポリアセタール樹脂のない金属ペーストについては、焼成温度は100℃のみとした。そして、印刷後の配線の密着性の評価はピール試験で評価した。ピール試験では、基板上の配線が形成された領域に粘着テープ(ASTM D3359 Cross Hatch Adhesion Test Tape)を貼り付けた後に一気に剥離した。粘着テープ剥離後、全ての配線が剥離しなかったものを密着性が「良好(〇)」と判定した。また、1本でも剥離があった場合を密着性が「不良(×)」とした。この配線の密着性の評価結果を表4に示す。
【0095】
【0096】
表4から、第2添加剤としてポリビニルアセタール樹脂を金属ペーストに添加することで、金属配線の密着性が大きく向上することが確認された。そして、金属配線の密着性は、焼成温度を比較低温(60℃)としても良好であることも分かった。本実施形態のピール試験は、強制的に金属膜を剥離する試験方法であり、密着性について比較的厳しい判定結果を示す、第2添加剤であるポリアセタール樹脂はこの厳しい条件の下でも配線の密着性を確保できることが確認された。
【0097】
第2実施形態:本実施形態では、溶剤Bとしてジヒドロターピネオールに対するHSPの距離Raが比較的大きい有機溶剤(Ra:3.0MPa1/2超)を適用した混合溶剤による金属ペーストを製造・評価した。また、第1実施形態で評価した溶剤B(Ra:3.0MPa1/2以下)について、混合溶剤の混合比率を調製した金属ペーストについても検討した。本実施形態で使用した有機溶剤を表5に示す。
【0098】
【0099】
本実施形態でも第1実施形態と同様の工程及び構成にて金属ペーストを作製した。そして第1実施形態と同様に印刷試験(印刷描画性評価と連続印刷性評価)及び密着性評価(ピール試験)を行った。本実施形態では、基板として第1実施形態と同じガラス基板に加えて、PET基板、PEI基板を使用し、各基板材質における印刷描画性等を評価した(密着性のみガラス基板について評価した)。各基板の寸法と印刷パターンは第1実施形態と同じである。本実施形態の各金属ペーストの試験結果を表6に示す。
【0100】
【0101】
予備試験の結果から、テキサノールは単一溶剤としては印刷描画性に劣る溶剤であることが確認されておる。また、これとHSPのRaが近い日香MARSも同様と予測される。しかし、これらの溶剤も溶剤Bとしてジヒドロターピネオール(溶剤A)と混合することで好適な混合溶剤になることが確認された。溶剤Bの混合比によって調整された混合溶剤のHSPのRaについては、3.0MPa1/2を超えると、いずれの基材材質に対しても印刷描画性が低下することが分かる。混合溶剤のRaについては、2.5MPa1/2以下であればガラス基板や樹脂基板の双方に有効であるが、3.0MPa1/2以下でも樹脂基板には描画性も良好となる。また、HSPのRaの観点から好適な溶剤Bであるグリセロールトリブチラートやアセチルクエン酸トリエチルエステルは、混合比を増加させても、混合溶剤のRaを大きく上昇させることなく、好適な印刷描画性及び連続印刷性を示す。尚、配線の密着性に関しては、ポリアセタール樹脂の添加によりいずれも良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明に係る銀ペーストは、描画性と連続印刷性の双方において良好である。本発明によれば、100μm以下の線幅を有する配線パターンを正確に形成することも可能となる。本発明は、LED素子、パワー半導体素子等の電気・電子デバイスの電極、配線形成に好適である。
【要約】
【課題】銀粒子からなる金属粒子を固形分として含む金属ペーストに関して、印刷描画性及び連続印刷性が良好であると共に密着性良好な配線を形成可能なものを提供する。
【解決手段】本発明は、銀粒子からなる固形分を溶剤に混練してなる金属配線形成用の金属ペーストに関する。金属ペーストの固形分は、所定の粒径分布及び平均粒径を有し、アミン化合物を保護剤とする銀粒子からなる。溶剤は、溶剤A及び溶剤Bの2種の有機溶剤を混合した混合溶剤である。溶剤Aはジヒドロターピネオール又はターピネオールであり、溶剤Bは、沸点240℃以上の少なくとも1種の有機溶剤である。そして、この混合溶剤は、ジヒドロターピネオールに対するハンセン溶解度パラメータの距離Raが3.0MPa
1/2以下である。更に、金属ペーストには、第1の添加剤として高分子量エチルセルロースと、第2の添加剤としてポリビニルアセタール樹脂が含まれる。
【選択図】
図3