IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京エレクトロン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図1
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図2A
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図2B
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図2C
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図2D
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図3A
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図3B
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図3C
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図3D
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図4
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図5
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図6
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図7
  • 特許-エッチング方法及びエッチング装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】エッチング方法及びエッチング装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20221214BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H01L21/302 301Z
H01L21/302 201A
H01L21/302 105A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019066761
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167285
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信博
(72)【発明者】
【氏名】萩原 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】浅田 泰生
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145275(JP,A)
【文献】特開2018-098220(JP,A)
【文献】特開2004-071731(JP,A)
【文献】特開2010-205990(JP,A)
【文献】特開2004-311545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にエッチングガスを供給して当該基板に設けられるシリコン含有膜をエッチングするエッチング方法において、
前記シリコン含有膜、多孔質膜、前記エッチングガスに対して被エッチング性を有するエッチング非対象膜がこの順に隣り合って設けられる前記基板にアミンガスを供給し、前記多孔質膜の孔部を形成する孔壁にアミンを吸着させるアミンガス供給工程と、
前記孔壁にアミンが吸着した基板に、前記シリコン含有膜をエッチングするためのエッチングガスを供給するエッチングガス供給工程と、
を含むエッチング方法。
【請求項2】
前記アミンガス供給工程と前記エッチングガス供給工程とを、この順に複数回繰り返す繰り返し工程を含む請求項1記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記アミンガスを供給する期間と前記エッチングガスを供給する期間との間、前記基板の周囲を排気する工程を含む請求項1または2記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記基板への前記エッチングガスの供給と前記基板への前記アミンガスの供給とは、同時に行われる請求項1記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記アミンガス供給工程及び前記エッチングガス供給工程を行った後、前記孔部からアミンを除去するために、前記基板を加熱する加熱工程を含む請求項1ないし4のいずれか一つに記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記加熱工程は前記基板を100℃~400℃に加熱する工程である請求項5記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記多孔質膜は酸素を含む膜である請求項1ないし6のいずれか一つに記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記シリコン含有膜、前記多孔質膜、前記エッチング非対象膜は横方向に隣り合い、当該エッチング非対象膜の上側には、エッチングマスク膜が形成されている請求項1ないし7のいずれか一つに記載のエッチング方法。
【請求項9】
基板にエッチングガスを供給して当該基板に設けられるシリコン含有膜をエッチングするエッチング装置において、
処理容器と、
前記処理容器内に設けられ、前記シリコン含有膜、多孔質膜、前記エッチングガスに対して被エッチング性を有するエッチング非対象膜がこの順に隣り合って設けられる前記基板を載置するための載置部と、
前記基板にアミンガスを供給し、前記多孔質膜の孔部を形成する孔壁にアミンを吸着させるアミンガス供給部と、
前記孔壁にアミンが吸着した基板に、前記シリコン含有膜をエッチングするためのエッチングガスを供給するエッチングガス供給部と、
を含むエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング方法及びエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を構成する配線が埋め込まれる層間絶縁膜としては、low-k膜と呼ばれる低誘電率膜により構成される場合が有り、このlow-k膜としては例えば多孔質膜によって構成される。そして半導体装置の製造工程においては、そのような多孔質膜が形成された半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)に対してエッチングが行われる場合が有る。
【0003】
例えば特許文献1には、low-k膜である層間絶縁膜が形成されたウエハに対してエッチングを行い、配線を埋め込むための凹部を形成することについて記載されている。この凹部内には、成膜ガスが供給されることによって凹部内に配線が埋め込まれるまでに大気に暴露されることを防ぐための被膜が形成される。また、特許文献2においては、多孔質膜である低誘電率膜に形成された凹部に埋め込まれた有機膜を、所定の量の二酸化炭素を含む処理ガスのプラズマを用いることでエッチングすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-63141号公報
【文献】特許第4940722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、多孔質膜の孔部をエッチングガスが通過してエッチング非対象膜がエッチングされることを防ぐことができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のエッチング方法は、基板にエッチングガスを供給して当該基板に設けられるシリコン含有膜をエッチングするエッチング方法において、前記シリコン含有膜、多孔質膜、前記エッチングガスに対して被エッチング性を有するエッチング非対象膜がこの順に隣り合って設けられる基板にアミンガスを供給し、前記多孔質膜の孔部を形成する孔壁にアミンを吸着させるアミンガス供給工程と、
前記孔壁にアミンが吸着した基板に、前記シリコン含有膜をエッチングするためのエッチングガスを供給するエッチングガス供給工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、多孔質膜の孔部をエッチングガスが通過してエッチング非対象膜がエッチングされることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係るエッチングが行われるウエハの表面の縦断側面図である。
図2A】前記エッチングを説明する工程図である。
図2B】前記エッチングを説明する工程図である。
図2C】前記エッチングを説明する工程図である。
図2D】前記エッチングを説明する工程図である。
図3A】前記エッチングを説明する工程図である。
図3B】前記エッチングを説明する工程図である。
図3C】前記エッチングを説明する工程図である。
図3D】前記エッチングを説明する工程図である。
図4】エッチング終了後のウエハの表面の縦断側面図である。
図5】エッチングを行うための基板処理装置の平面図である。
図6】前記基板処理装置に設けられるエッチングモジュールの縦断側面図である。
図7】評価試験で得られた画像を示す説明図である。
図8】評価試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示のエッチング方法の一実施形態に係る処理を以下に説明する。図1は、その処理が行われるウエハWの表面部の縦断側面図を示している。図中11はSiGe(シリコンゲルマニウム)膜であり、SiGe膜11の上側には酸化シリコン(SiOx)膜12が積層されている。この酸化シリコン膜12とSiGe膜11との積層体には、凹部13が形成されており、この凹部13内にはポリシリコン膜14が埋め込まれている。また、ポリシリコン膜14の側壁と凹部13の側壁との間には、ポリシリコン膜14の側方を囲み、ポリシリコン膜14の側壁及び凹部13の側壁に各々接するSiOCN膜15、即ちシリコン、酸素、窒素及び炭素により構成される膜が設けられている。従って、横方向に見てポリシリコン膜14、SiOCN膜15、SiGe膜11が、この順に隣り合うように形成されている。SiOCN膜15は層間絶縁膜であり、多孔質膜である。ポリシリコン膜14は被エッチング膜であり、SiGe膜11は非エッチング膜である。酸化シリコン膜12は、ポリシリコン膜14をエッチングする際におけるエッチングマスク膜である。
【0010】
この実施形態の処理の概要を述べておくと、上記のポリシリコン膜14を除去するにあたり、ウエハWに対してアミンガスの供給と、ClF(三フッ化塩素)ガスにより構成されるエッチングガスの供給とを、交互に繰り返し行う。仮にアミンガスを供給せずにポリシリコン膜14のエッチングを行うとする。その場合、ポリシリコン膜14のエッチングが進行する過程で、エッチングガスがSiOCN膜15の孔部を通過し、SiGe膜11の側壁に供給されてしまい、当該側壁がエッチングされてしまう。即ち、ポリシリコン膜14及びSiGe膜11は、エッチングガスに対して被エッチング性を有している。上記のアミンガスはSiOCN膜15の孔部におけるエッチングガスの通過を防止し、そのようなSiGe膜11のエッチングを防ぐために供給される。以下の説明において、このようなエッチングガスの通過を防止するためのガス供給を、封止処理と記載する場合が有る。なお、既述した特許文献1、2に記載される技術は、このように互いに隣り合うポリシリコン膜14、SiOCN膜15、SiGe膜11のうちのポリシリコン膜14をエッチングするものではない。そして、ポリシリコン膜14をエッチングするにあたり、上記のSiGe膜11の側壁がエッチングされる問題を解決できるものでも無い。
【0011】
上記のようにアミンガスの供給によってSiGe膜11のエッチングが抑制される理由として、以下のような理由が考えられる。アミンは比較的高い塩基性を有することによって、酸素を含む膜と比較的吸着しやすい。従って、ウエハWに供給されたアミンは、上記のSiOCN膜15の表面に比較的多く吸着する。即ち、当該SiOCN膜15の孔部を形成する孔壁にも比較的多く吸着し、孔部が封止される。この封止により、エッチングガスが当該孔部を通過してSiGe膜11に供給されることが防止される。
【0012】
さらに、後述の評価試験で詳しく述べるように、アミンは上記のエッチングガスを構成するClFと比較的反応しやすい。この反応により、SiOCN膜15の孔部に供給されたエッチングガスのSiGe膜11に対するエッチング性が消失する。そして、アミンの他に孔部に生じたアミンとClFとの反応生成物によっても当該孔部が封止され、エッチングガスの孔部の通過が防止されることになる。なお、上記のようにアミンは気体としてウエハWに供給されるが、この孔部にて吸着される間に液体または固体になっている可能性が有る。そのようにウエハWへの供給時と孔部における滞留時とで、アミンについての状態が異なっていてもよい。
【0013】
続いて、図2A図2D及び図3A図3Dを参照して、ウエハWに対して行われる処理について、順を追って説明する。これらの図2A図2D図3A図3Dは、図1で説明したウエハWの表面部が処理によって変化する様子を示す模式図であり、これらの各図で示す処理は、ウエハWが処理容器に搬入され、当該処理容器内が排気されて所定の圧力の真空雰囲気とされた状態で行われる。図中、SiOCN膜15に形成されている孔部を16としている。また、各図ではアミンを21として示しており、この処理例では当該アミン21はヘキシルアミン(C15N)であるものとする。なお、このアミン21については、上記のように孔部16内と孔部16外とで状態が変わっている可能性が有るが、各図では各状態を区別せずに示している。また、エッチングガスについては上記のようにこの処理例ではClFガスであり、22として示している。
【0014】
先ず、処理容器内にガス状のアミン21(アミンガス)が供給されて封止処理が行われる(ステップS1、図2A)。上記したようにアミン21は比較的SiOCN膜15に吸着しやすいため、孔部16をなす孔壁にも比較的多くのアミン21が吸着し、当該孔部16に留まる。続いて、処理容器内へのアミン21の供給が停止し、処理容器内においては排気と例えばN(窒素)ガスであるパージガスの供給とが行われる状態となり(ステップS2、図2B)、孔部16に流入しなかったアミン21は、排気されるパージガスの気流に乗って除去される。
【0015】
続いて、処理容器内にエッチングガス22が供給され、ポリシリコン膜14がエッチングされて、SiOCN膜15の上部側の側壁が露出する(ステップS3、図2C)。このときSiOCN膜15の上部側の孔部16にはアミン21が留まっており、既述したようにエッチングガス22は当該アミン21と反応して反応生成物23を生じ、SiGe膜11に到達することが抑制される。また、このように生じた反応生成物23により、続けてSiOCN膜15に供給されるエッチングガス22の孔部16の通過、ひいてはSiGe膜11への供給が防止される。その後、処理容器内へのエッチングガス22の供給が停止し、処理容器内においては排気とパージガスの供給とが行われる状態となり(ステップS4、図2D)、処理容器内に残留するエッチングガス22は、処理容器内から排気されるパージガスの気流に乗って除去される。
【0016】
その後、処理容器内にガス状のアミン21が供給される。即ち、再度ステップS1が実行される。上記のステップS3でポリシリコン膜14がエッチングされて、SiOCN膜15の上部側の側壁が露出している。従って、この2回目のステップS1で供給されるアミン21は、SiOCN膜15において1回目のステップS1でアミン21が供給された孔部16よりも下方の孔部16に供給されて孔壁に吸着される(図3A)。
【0017】
その後、ステップS2の処理容器内における排気及びパージガスの供給が再度行われる。続いて、ステップS3の処理容器内へのエッチングガス22の供給が行われ、ポリシリコン膜14が下方へ向けてさらにエッチングされ、SiOCN膜15の側壁において露出する領域が下方に向けて拡大する。上記のように2回目のステップS1によって、SiOCN膜15においてアミン21が供給される領域が下方へと広げられていることにより、ポリシリコン膜14のエッチングによって新たに露出するSiOCN膜15の側壁付近の孔部16には、当該アミン21が留まっている。従って、この2回目のステップS3においても、エッチングガスがSiOCN膜15の孔部16を通過してSiGe膜11の側壁をエッチングすることを防ぐことができる(図3B)。このエッチング後、ステップS4の排気及びパージガスの供給が再度行われる。
【0018】
このように順番に行われるステップS1~S4を一つのサイクルとすると、例えば上記の2回目のステップS4が行われた後も、当該サイクルが繰り返し行われる。それにより、SiOCN膜15を下方へと次第に供給される範囲が広がるアミン21によって、SiGe膜11の側壁のエッチングが防止されつつ、ポリシリコン膜14が下方へとエッチングされる。
【0019】
そして、例えばポリシリコン膜14が全てエッチングされて、所定の回数のサイクルが終了すると(図3C)、ウエハWが加熱される(ステップS5)。この加熱は、SiOCN膜15における未反応のアミン21及び反応生成物23が気化した状態となり、図3Dに示すように当該SiOCN膜15から除去されるように行われる。なお、上記の図3Cでは図示の便宜上、未反応のアミン21を示しておらず、アミン21が全て反応生成物23に変化したように示している。具体的にこの処理例のステップS5では、上記のようにアミン21はヘキシルアミンであり、ヘキシルアミンの沸点は130℃以上であることから、130℃以上の温度にウエハWが加熱される。図4は、そのようにポリシリコン膜14がエッチングされて、アミン21及び反応生成物23が除去されたウエハWを示している。ポリシリコン膜14が除去されることで形成された凹部17内には、例えば後の工程で半導体装置のゲートが形成される。
【0020】
上記の実施形態の処理によれば、SiGe膜11の側壁がエッチングガスによりエッチングされることを抑制しつつ、ポリシリコン膜14を当該エッチングガスによりエッチングすることができる。ところで、ポリシリコン膜14を除去する他の手法として、例えばプラズマを用いた異方性エッチングによりポリシリコン膜の上部側を除去した後、ウエットエッチングによってポリシリコン膜14の下部側を除去することが考えられる。当該ウエットエッチングに用いられるエッチング液については上記のエッチングガスよりもSiOCN膜の透過性が比較的低いため、SiGe膜11のエッチングを抑制できる可能性が有る。
【0021】
しかし、ウエハWの周囲の雰囲気を、プラズマ処理を行うための真空雰囲気からウエットエッチングを行うための大気雰囲気に切り替えることは手間であり、処理に多くの時間を要してしまう懸念が有る。また、SiOCN膜15の側壁の厚さは小さくなる傾向に有り、当該SiOCN膜15の側壁の厚さが将来さらに小さくなった場合には、エッチング液のSiOCN膜15に対する透過性が上昇するおそれが有る。つまりウエットエッチングを行ったとしても、SiGe膜11がエッチングされてしまうおそれが有る。従って、上記の各図で述べた実施形態によれば、処理に要する手間及び時間を抑えつつ、より確実にSiGe膜11のエッチングを抑制することができる効果が有る。
【0022】
さらに、当該実施形態の処理によればプラズマを用いる必要が無いため、ウエハWの表面の各膜が当該プラズマからのダメージを受けることが無い。従って、ウエハWから形成される半導体装置の信頼性を高くすることができるという利点も有る。ただし、プラズマを用いてポリシリコン膜14のエッチングを行うことが禁止されるわけではない。
【0023】
また、後述の評価試験ではアミン及びイソシアネートを供給し、尿素結合を有する化合物で孔部16を封止することで、エッチングガスの当該孔部16の通過を防止する処理例を示している。上記の実施形態ではアミン及びイソシアネートのうちアミンのみを供給して処理を行うため、アミン及びイソシアネートを供給する処理例に比べて、処理を行う装置の運用コストや装置の製造コストを低下させることができる利点が有る。
【0024】
上記のステップS1~S4において処理容器の排気流量は一定であってもよいし、処理容器内の不要なガスを除去するためのステップS2、S4における排気流量についてはより確実にガスを除去することができるように、ステップS1、S3の排気流量よりも大きくしてもよい。また、ステップS2、S4ではパージガスの供給を行わず、排気のみによって不要なガスを除去するようにしてもよい。
【0025】
ところで、ポリシリコン膜14以外のシリコン含有膜が被エッチング膜であってもよい。このシリコン含有膜はシリコンを主成分として含む膜であり、具体的に例えばアモルファスシリコン膜、単結晶シリコン膜、SiGe膜などがシリコン含有膜に含まれる。そして、エッチングガスとしては、上記のシリコン含有膜をエッチングできるものであればよい。具体的に当該エッチングガスとしてはClFガス以外に、例えばフッ素(F)ガス、IF(五フッ化ヨウ素)ガス、BrF(三フッ化臭素)ガス、IF(七フッ化ヨウ素)ガスなどのフッ素を含有するガスを用いることができる。IFガスについては分子量が比較的大きいため、SiOCN膜15の孔部16を通過し難いと考えられるので好ましい。
【0026】
上記の実施形態ではエッチング非対象膜はSiGe膜11であるが、例えばSi膜であってもよい。また、エッチング非対象膜については、これらSi膜やSiGe膜11のようなシリコン含有膜以外の膜であってもよい。さらに、SiGe膜11上に設けられるマスク膜としては、エッチング時にSiGe膜11が上方側からエッチングされることを抑制できればよいので、酸化シリコン膜12であることには限られない。また、この酸化シリコン膜12が設けられる代わりに、SiGe膜11の上側がSiOCN膜15により覆われる構成であってもよい。つまり、SiOCN膜15がSiGe膜11の側方から上方に亘って設けられる構成とする。その場合、ウエハWにエッチングガスが供給されるときにはアミンガスがSiGe膜11の上側を覆うSiOCN膜15に吸着した状態となるので、SiGe膜11の上側からエッチングガスが当該SiGe膜11に接触することが防止される。さらに、多孔質膜についてもSiOCN膜15には限られず、SiOCN膜15の代わりにSiCO膜、SiCOH膜などの多孔質膜が形成されていてもよい。既述したように多孔質膜は、アミンを吸着させるために酸素を含むことが好ましい。なお、ここでいう酸素を含むとは、不純物として酸素を含む意味ではなく、膜を構成する成分として酸素を含むという意味である。アミン21についてもヘキシルアミンであることに限られないが、後に詳しく後述する。
【0027】
ステップS1~S4を行う回数については、既述の例のように3回以上行われることに限られず、2回以下であってもよい。また、ステップS5ではアミン21及び反応生成物23がSiOCN膜15から除去されるようにウエハWを加熱している。しかし、アミン21及び反応生成物23がSiOCN膜15の孔部16に残留していてもSiOCN膜15の誘電率が実用上問題無ければ、アミン21及び反応生成物23が残留していてもよいことが考えられる。従って、ステップS5の加熱処理は必須とは限られない。
【0028】
続いて、既述した一連の処理を行うための基板処理装置3について、図5の平面図を参照して説明する。基板処理装置3は、ウエハWを搬入出するための搬入出部31と、搬入出部31に隣接して設けられた2つのロードロック室41と、2つのロードロック室41に各々隣接して設けられた、2つの熱処理モジュール40と、2つの熱処理モジュール40に各々隣接して設けられた2つのエッチングモジュール5と、を備えている。
【0029】
搬入出部31は、第1の基板搬送機構32が設けられると共に常圧雰囲気とされる常圧搬送室33と、当該常圧搬送室33の側部に設けられた、ウエハWを収納するキャリア34が載置されるキャリア用載置台35と、を備えている。図中36は常圧搬送室33に隣接するオリエンタ室であり、ウエハWを回転させて偏心量を光学的に求め、第1の基板搬送機構32に対するウエハWの位置合わせを行うために設けられる。第1の基板搬送機構32は、キャリア用載置台35上のキャリア34とオリエンタ室36とロードロック室41との間でウエハWを搬送する。
【0030】
各ロードロック室41内には、例えば多関節アーム構造を有する第2の基板搬送機構42が設けられており、当該第2の基板搬送機構42は、ウエハWをロードロック室41と熱処理モジュール40とエッチングモジュール5との間で搬送する。熱処理モジュール40を構成する処理容器内及びエッチングモジュール5を構成する処理容器内は真空雰囲気として構成されており、ロードロック室41内は、これらの真空雰囲気の処理容器内と常圧搬送室33との間でウエハWの受け渡しを行えるように、常圧雰囲気と真空雰囲気とが切り替えられる。
【0031】
図中43は開閉自在なゲートバルブであり、常圧搬送室33とロードロック室41との間、ロードロック室41と熱処理モジュール40との間、熱処理モジュール40とエッチングモジュール5との間に各々設けられている。熱処理モジュール40については、上記の処理容器、当該処理容器内を排気して真空雰囲気を形成するための排気機構及び処理容器内に設けられると共に載置されたウエハWを加熱可能な載置台などを含み、既述のステップS5を実行できるように構成されている。
【0032】
続いて、エッチングモジュール5について図6の縦断側面図を参照しながら説明する。このエッチングモジュール5はウエハWにステップS1~S4の処理を行うモジュールであり、例えば円形の処理容器51を備えている。つまり、ステップS1~S4の処理は、同じ処理容器内で行われる。処理容器51は気密な真空容器であり、当該処理容器51内の下部側には、水平に形成された表面(上面)にウエハWを載置する、円形の載置台61が設けられている。図中62は、載置台61に埋設されたステージヒーターであり、上記のステップS1~S4の処理が行えるようにウエハWを所定の温度に加熱する。図中63は、載置部である載置台61を処理容器51の底面に支持する支柱である。図中64は垂直な昇降ピンであり、昇降機構65により載置台61の表面を突没し、既述の第2の基板搬送機構42と載置台61との間でウエハWの受け渡しを行う。昇降ピン64は3つ設けられるが、2つのみ図示している
【0033】
図中66は、処理容器51の側壁に設けられた側壁ヒーターであり、処理容器51内の雰囲気の温度を調整する。なお、処理容器51の側壁には図示しない開閉自在なウエハWの搬送口が設けられている。図中67は処理容器51の底面に開口した排気口であり、排気管を介して真空ポンプ及びバルブなどにより構成される排気機構68に接続されている。排気機構68による排気口67からの排気流量が調整されることにより、処理容器51内の圧力が調整される。
【0034】
載置台61の上方で処理容器51の天井部には、アミンガス供給部及びエッチングガス供給部をなすガスシャワーヘッド7が、当該載置台61に対向するように設けられている。ガスシャワーヘッド7は、シャワープレート71、ガス拡散空間72及び拡散板73を備えている。シャワープレート71は、ガスシャワーヘッド7の下面部をなすように水平に設けられ、載置台61にシャワー状にガスを吐出するために、ガス吐出孔74が多数分散して形成されている。ガス拡散空間72は各ガス吐出孔74にガスを供給するために、その下方側がシャワープレート71によって区画されるように形成された扁平な空間である。このガス拡散空間72を上下に分割するように拡散板73が水平に設けられている。図中75は、拡散板73に形成される貫通孔であり、拡散板73に多数、分散して穿孔されている。図中77は天井ヒーターであり、ガスシャワーヘッド7の温度を調整する。
【0035】
ガス拡散空間72の上部側には、ガス供給管78、81の下流端が接続されている。ガス供給管78の上流側は、流量調整部79を介してClFガスの供給源70に接続されている。流量調整部78は、バルブやマスフローコントローラにより構成されており、ガス供給管68の下流側へ供給されるガスの流量を調整する。なお後述の各流量調整部についても、流量調整部78と同様に構成されており、流量調整部が介設される管の下流側へ供給されるガスの流量を調整する。
【0036】
ガス供給管81の上流側は、流量調整部82、バルブV1をこの順に介して気化部83に接続されている。気化部83内においては、上記のヘキシルアミンが液体の状態で貯留されており、気化部83はこのヘキシルアミンを加熱する図示しないヒーターを備えている。また、気化部83にはガス供給管84の一端が接続されており、ガス供給管84の他端はバルブV2、ガス加熱部85をこの順に介してN(窒素)ガス供給源86に接続されている。このような構成により、加熱されたNガスが気化部83に供給されて当該気化部83内のヘキシルアミンが気化されてアミンガスとして、当該気化に用いられたNガスと共にガスシャワーヘッド7に供給される。
【0037】
また、ガス供給管84についてガス加熱部85の下流側、且つバルブV2の上流側における部位は分岐してガス供給管87を形成し、このガス供給管87の端部はバルブV3を介して、ガス供給管81のバルブV1の下流側、且つ流量調整部82の上流側に接続されている。従って、アミンガスをガスシャワーヘッド7に供給しないときには、ガス加熱部85で加熱されたNガスを、気化部83を迂回させてガスシャワーヘッド7に供給することができる。
【0038】
ガス供給管81には、流通中のアミンガスが液化することを防ぐために、例えば管内を加熱するための配管ヒーター52が各々管の周囲に設けられる。この配管ヒーター52と、上記のガス加熱部85と、気化部82に設けられるヒーターとによって、ガスシャワーヘッド7から吐出されるアミンガスの温度が調整される。なお、図示の便宜上、配管ヒーター52はガス供給管81の一部のみに示しているが、上記の液化を防ぐことができるようにこれらの管の比較的広い範囲に渡って設けられる。ガス導入管81における流量調整部91の上流側、流量調整部82、気化部83、バルブV1~V3、ガス供給管84、ガス加熱部85及びNガス供給源86をガス供給機構8とする。
【0039】
エッチングモジュール5において実施される上記のステップS1~S4と、ガスシャワーヘッド7から供給されるガスとの対応について示しておく。ステップS1では、ガス供給機構9からアミンガスと、アミンの気化に用いたNガスとがガスシャワーヘッド7に供給され、処理容器51内に供給される。ステップS2、S4では、ガス供給機構8からNガスがガスシャワーヘッド7に供給され、処理容器51内にパージガスとして供給される。ステップS3では、ガス供給機構8からのガスの供給は停止し、供給源70からClFガスがガスシャワーヘッド7に供給され、処理容器51内に供給される。
【0040】
ところで、図5図6に示すように基板処理装置3はコンピュータである制御部30を備えており、この制御部30は、プログラム、メモリ、CPUを備えている。プログラムには、既述したウエハWの処理及びウエハWの搬送が行われるように命令(各ステップ)が組み込まれており、このプログラムは、コンピュータ記憶媒体、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、DVD等に格納され、制御部30にインストールされる。制御部30は当該プログラムにより基板処理装置3の各部に制御信号を出力し、各部の動作を制御する。具体的には、エッチングモジュール5の動作、熱処理モジュール40の動作、第1の基板搬送機構32、第2の基板搬送機構42の動作、オリエンタ室36の動作が制御信号により制御される。上記のエッチングモジュール5の動作としては、各ヒーターの出力の調整、ガスシャワーヘッド7からの各ガスの給断、排気機構68による排気流量の調整、昇降機構65による昇降ピン64の昇降などの各動作が含まれる。この制御部30及びエッチングモジュール5により、エッチング装置が構成される。
【0041】
基板処理装置3におけるウエハWの搬送経路を説明する。図1で説明したように各膜が形成されたウエハWを格納したキャリア34がキャリア用載置台35に載置される。そして、このウエハWは、常圧搬送室33→オリエンタ室36→常圧搬送室33→ロードロック室41の順に搬送され、熱処理モジュール40を介してエッチングモジュール5に搬送される。そして、既述のようにステップS1~S4からなるサイクルが繰り返し行われて、ウエハWが処理される。続いて、ウエハWは熱処理モジュール40に搬送されてステップS5の処理を受ける。然る後、ウエハWは、ロードロック室41→常圧搬送室33の順で搬送されて、キャリア34に戻される。
【0042】
また、アミンガスの供給とエッチングガスの供給とは、互いに異なる処理容器内で行われ、搬送機構によりこれらの処理容器間でウエハWが搬送される構成であってもよい。ただし、同一の処理容器内でこれらのガスの供給を行うことで、上記のサイクルを繰り返し行うにあたり、ウエハWをモジュール間で搬送する時間を省くことができる。従って、基板処理装置3の構成によれば、スループットの向上を図ることができる。
【0043】
アミンガス及びエッチングガスについて、同時に処理容器51内に供給してもよい。つまり、SiOCN膜15の孔部16にアミン21を供給しつつ、ポリシリコン膜14のエッチングを行うようにしてもよい。その場合は、これらアミンガス及びエッチングガスの供給後に、パージガスを供給して処理容器51内をパージする。なお、アミンガス及びエッチングガスの供給と、その後のパージガスの供給とを1つのサイクルとし、1枚のウエハWに対してこのサイクルを繰り返し行うことで処理してもよい。また、上記の例ではアミンガス及びエッチングガスについて同じシャワーヘッド7から吐出しているが、そのようにウエハWに供給することには限られない。例えば、ガスシャワーヘッド7とは別に処理容器51にノズルを設けて、当該ノズルからアミンガス及びエッチングガスのうちの一方を吐出してもよい。なお、既述の例ではポリシリコン膜14、SiOCN膜15、SiGe膜11が横方向に並んで設けられているが、縦方向に並ぶ、即ち積層される場合にも本技術を適用することができる。
【0044】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0045】
(評価試験)
本開示の技術に関連して行われた評価試験について説明する。
・評価試験1
評価試験1では、既述したエッチングモジュール5と同様に、真空雰囲気が形成される処理容器51内に各種のガスを供給可能に構成された試験用の装置を用いて、図1で説明した膜構造を有する複数のウエハWに対して、ポリシリコン膜14をドライエッチングする処理を行った。エッチング開始前の各ウエハWについて、ポリシリコン膜14の膜厚は130nm、酸化シリコン膜12の膜厚は80nmである。また、エッチング処理としては、処理容器51内の圧力を0.1Torr(13.3Pa)~10Torr(1333Pa)とし、ClFガスとNガスとの混合ガスを処理容器51内に供給して行った。そのように処理容器51内に供給する流量について、ClFガスの流量は50sccm~400sccm、Nガスの流量は100sccm~1000sccmとした。そしてウエハWによっては、エッチングの合間にエッチングガス以外のガスの供給を行った。このエッチングの合間のガス供給は、エッチングガスのSiOCN膜15の孔部16の通過を防ぐための封止処理であり、当該封止処理は、処理容器51内の圧力を0.1Torr(13.3Pa)~10Torr(1333Pa)として行った。
【0046】
120秒の封止処理と、この封止処理に続けて行う90秒のエッチング処理と、を試験用サイクルとする。評価試験1-1、1-2としては、エッチング処理を90秒行った後、試験用サイクルを2回行った。評価試験1-3として、エッチング処理を90秒行った後、試験用サイクルを3回行った。評価試験1-4として、エッチング処理を90秒行った後、さらにエッチング処理を30秒行った。評価試験1-5として、エッチング処理を90秒行った後、さらにエッチング処理を30秒行い、続いてさらにエッチング処理を30秒行った。従って、評価試験1-4、1-5においては封止処理を行っていない。
【0047】
評価試験1-1の封止処理には、既述の実施形態と同様にヘキシルアミンが用いられた。より詳しく述べると、当該評価試験1-1の封止処理は、ヘキシルアミンであるアミンガス及びAr(アルゴン)ガスを、共に処理容器51内に供給して行った。アミンガスの流量は10sccm~500sccm、Arガスの流量は100sccm~1000sccmとした。また、評価試験1-2の封止処理は、ヘキシルアミンのガスの代わりにイソシアン酸t-ブチルのガスを用いたことを除き、評価試験1-1の封止処理と同様に行った。評価試験1-3の封止処理は、ヘキシルアミンのガスを10sccm~500sccm、イソシアン酸t-ブチルのガスを10sccm~500sccm、Arガスを100sccm~1000sccmで処理容器内に供給した。そのように各ガスを供給したことを除き、評価試験1-3の封止処理は、評価試験1-1の封止処理と同様に行った。従って、この評価試験1-3では、試験用サイクルにおけるエッチング時には、これらの化合物から生成した尿素結合を有する化合物がSiOCN膜15の孔部16を塞いだ状態で行われることになる。
【0048】
以上のように処理された各評価試験1-1~1-5のウエハWについて、エッチング量(エッチングされたポリシリコン膜14の膜厚)、残留したポリシリコン膜14の膜厚、SiGe膜11の側壁におけるダメージの有無を調べた。以下、その結果を述べる。評価試験1-1のウエハWについては、エッチング量が120nm~130nm、残留したポリシリコン膜14の膜厚が10nm以下であり、SiGe膜11の側壁のダメージは略無かった。評価試験1-2のウエハWについては、エッチング量が130nm、残留したポリシリコン膜14の膜厚が0nmであり、SiGe膜11の側壁にダメージが見られた。評価試験1-3のウエハWについては、エッチング量が120nm~130nm、残留したポリシリコン膜14の膜厚が10nm以下であり、SiGe膜11の側壁のダメージが略無かった。ただし、評価試験1-1のウエハWと評価試験1-3のウエハWとを比べると、評価試験1-1のウエハWの方が、ダメージがより抑えられていた。評価試験1-4のウエハWについては、エッチング量が90nm、残留したポリシリコン膜14の膜厚が40nm以下であり、SiGe膜11の側壁にダメージが見られた。評価試験1-5のウエハWについては、エッチング量が120nm、残留したポリシリコン膜14の膜厚が10nmであり、SiGe膜11の側壁にダメージが見られた。
【0049】
評価試験1-1の結果と、評価試験1-3の結果とを比べると、評価試験1-3の方が上記の試験サイクルを行う回数が多いためエッチングを行う時間が長いが、エッチング量について同等である。そして、上記のようにSiGe膜11へのダメージは評価試験1-1の方が少ない。また、評価試験1-1の結果と、評価試験1-2の結果とを比べると、エッチング量については評価試験1-2の方が大きいが、評価試験1-2の方がSiGe膜11のダメージが大きい。また、評価試験1-1の結果と、評価試験1-4、1-5の結果とを比べると、評価試験1-1では、評価試験1-4、1-5よりもSiGe膜11のダメージが抑制されている。そして、評価試験1-1と、評価試験1-5とではエッチングを行った時間が同じであるが、エッチング量についての差が略無い。
【0050】
この評価試験1の結果より、アミンガスをウエハWに供給し、当該アミンガスがSiOCN膜15に吸着した状態でエッチングガスを供給することで、SiGe膜11のダメージを抑制することができることが分かる。つまりこの評価試験1の結果より、上記の実施形態の効果が確認された。また、アミンガスの供給により、エッチング量は略影響されないことが分かる。
【0051】
・評価試験2
評価試験2-1として、試験用の装置の処理容器内に、表面を洗浄したSi(シリコン)からなるウエハWを格納して当該処理容器内を真空雰囲気とし、t-ブチルアミンガスを5分間供給した。その後、ウエハWにIFガスを1分間供給し、然る後、当該ウエハWを100℃~400℃で5分間加熱するアニール処理を行った。また、評価試験2-2として、t-ブチルアミンガスの代わりにイソシアン酸t-ブチルガスを1分間供給したことを除いては、評価試験2-1と同様の処理を行った。これら評価試験2-1、2-2では、t-ブチルアミンガスまたはイソシアン酸t-ブチルガスの供給後でIFガスの供給前、IFガスの供給後でアニール処理前、アニール処理後の夫々において、ウエハWの表面を撮像した。さらに、IFガスの供給前と供給後とにおけるウエハWの重量差を測定した。
【0052】
図7は、この評価試験2で取得されたウエハWの画像を示している。図の左側に上下に配列した画像が評価試験2-1において取得された画像、図の右側に上下に配列した画像が評価試験2-2において取得された画像である。そして各列の上段の画像がt-ブチルアミンガス又はイソシアン酸t-ブチルガスの供給後でIFガスの供給前に取得された画像、中段の画像がIFガスの供給後でアニール処理前に取得された画像、下段の画像がアニール処理後に取得された画像である。
【0053】
評価試験2-1における上段の画像及び中段の画像を見ると、IFガスの供給により、ウエハWの表面状態が変化していることが分かる。この表面状態の変化は、t-ブチルアミンガスとIFガスとの反応生成物による膜が形成されたことによるものである。また、評価試験2-1の下段の画像から、ウエハWの表面が露出したことが確認された。つまり、アニール処理により反応生成物の膜が除去されたことが確認された。そして、この画像の露出したウエハWの表面においてはエッチングによるダメージが見られない。一方、評価試験2-2における上段の画像及び中段の画像を見ると、評価試験2-1のような反応生成物の膜が形成されていないことが分かる。そして、評価試験2-1の下段の画像より、ウエハWの表面がエッチングによるダメージを受けて荒れていることが分かる。
【0054】
また、重量変化については、評価試験2-1では、IFガスの供給前のウエハWの重量よりもIFガスの供給後のウエハWの重量の方が、19ppm大きかった。これは上記の反応生成物の膜の形成、及びウエハWの表面のエッチングが抑制されたことによるものと考えられる。一方、評価試験2-2では、IFガスの供給前のウエハWの重量よりもIFガスの供給後のウエハWの重量の方が118ppm小さかった。これは、上記のようにウエハWの表面がエッチングされたことによるものと考えられる。
【0055】
この評価試験2から、アミンをウエハWに供給することで、エッチングガスであるIFガスと反応して反応生成物の膜を形成し、ウエハWの表面のエッチングが抑制されることが確認された。ウエハWの表面のエッチングが抑制されたのは、このような反応生成物を生じることでIFガスのウエハW表面におけるエッチング性が失活したこと、及び反応生成物の膜がIFに対してウエハWの表面を保護する保護膜となったことによるものと考えられる。従って、この評価試験2から、実施形態で述べたようにSiOCN膜15にアミンを供給する封止処理を行い、SiGe膜11のエッチングを抑制することができることが分かる。なお、この評価試験2では、エッチングガスとしてIFガスを用いているが、後述の評価試験4で示すようにClFガスを用いた場合もアミンに対して比較的反応しやすく、反応生成物が生成されやすい。従って、同様にSiGe膜11のエッチングを抑制することができると考えられる。
【0056】
・評価試験3
評価試験3として、各々N(窒素)を含む分子であるNH(アンモニア)、ブチルアミン、ヘキシルアミン、トリメチルアミンについて、Siを含む各種の分子に対する吸着エネルギーをシミュレーションにより測定した。具体的にはSi(シリコン)、SiC(炭化シリコン)、SiN(窒化シリコン)、SiOCN、及びSiO(酸化シリコン)に対する吸着エネルギーを測定した。
【0057】
図8は、この評価試験3の結果を示す棒グラフである。グラフの縦軸は吸着エネルギー(単位:eV)を示しており、当該吸着エネルギーが低いほど吸着しやすい。この図8に示すように、Si、SiC及びSiNに対しては、NH、ブチルアミン、ヘキシルアミン及びトリメチルアミンのうちのいずれも吸着し難い。しかしSiOCN及びSiOに対しては、NH、ブチルアミン、ヘキシルアミン及びトリメチルアミンのうちのいずれも吸着しやすい。これはアミン及びアンモニアの吸着サイトがO原子であるためである。
【0058】
従って、この評価試験3の結果から、上記の実施形態においてSiOCN膜15にアミンを供給するにあたり、SiOCN膜15にはO原子が含まれるので、当該アミンはSiOCN膜15に比較的吸着しやすいことが示された。つまり、エッチングガスの供給時において当該アミンがSiOCN膜15の孔部16に残りやすく、既述したようにエッチングガスの孔部16の通過が防止されやすい。つまり、この評価試験の結果3は、上記の実施形態の効果を確認できるものとなった。
【0059】
・評価試験4
評価試験4として、ClFに対し、ブチルアミン、ヘキシルアミン、デシルアミンを夫々反応させたときの活性化エネルギー(単位:eV)、自由エネルギーの変化量(単位:eV)を算出した。ClFとブチルアミンとの反応について、活性化エネルギーは0.889eV、自由エネルギーの変化量は-1.018eVである。ClFとヘキシルアミンとの反応について、活性化エネルギーは0.888eV、自由エネルギーの変化量は-1.019eVである。ClFとブチルアミンとの反応について、活性化エネルギーは0.889eV、自由エネルギーの変化量は-1.018eVである。ClFとデシルアミンとの反応について、活性化エネルギーは0.888eV、自由エネルギーの変化量は-1.022eVである。なお、比較例としてClFとNHとの反応についての活性化エネルギー、自由エネルギーの変化量を示しておくと、夫々1.559eV、-0.492eVである。
【0060】
このようにブチルアミン、ヘキシルアミン、デシルアミンを用いた際の活性化エネルギーは比較的低く、反応の自由エネルギー変化も負での値で比較的絶対値が大きい。つまり、ClFとこれらのアミンとの間における反応性が高い。従って、エッチングガスとしてClFガスを用いた場合、これらのアミンを用いてSiOCN膜15を封止処理することで、評価試験2において述べたようにエッチングガスのエッチング活性を低下させると共に保護膜の形成を行うことができることが示された。従って評価試験4の結果から、既述の実施形態で述べた効果が得られることが推定される。
【0061】
このように各評価試験から、各種のアミンを用いて封止処理を行うことで、既述の実施形態で説明したシリコン含有膜のエッチングを抑制することができることが分かる。実施形態で説明した封止処理に用いるアミンに制限は無い。アミンの具体例を列挙しておくと、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジプロピルアミン、n-オクチルアミン、tertブチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、テトラデシルアミンなどが挙げられる。このように例示した各アミンの沸点は100℃~400℃の範囲内に含まれている。従って上記の実施形態のステップS5でアミンを気化状態としてSiOCN膜15から除去するためには、そのように100℃~400℃にウエハWを加熱することが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
W ウエハ
11 SiGe膜
14 ポリシリコン膜
15 SiOCN膜
16 孔部
21 アミン
22 エッチングガス
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8