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特許7193782液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
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  • 特許-液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20221214BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019557337
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2018044087
(87)【国際公開番号】W WO2019107518
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2017231109
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】矢田 研造
(72)【発明者】
【氏名】杉山 暁子
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/178406(WO,A1)
【文献】特開2016-103011(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170681(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/105576(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157625(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー主鎖末端が下記式(1)の構造を有するポリイミド前駆体及びポリイミドから選ばれる少なくとも1種の重合体を含有する液晶配向剤。
【化1】
は、末端にアクリル基、メタクリル酸メチル基などの光反応性の官能基を含有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
【請求項2】
前記Rが、下記のR-1~R-10の構造から選ばれる基である請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
【請求項3】
前記ポリイミドが、テトラカルボン酸誘導体成分とジアミン成分との反応で得られるポリイミド前駆体のイミド化物であり、テトラカルボン酸誘導体成分が下記式で表されるテトラカルボン酸二無水物を含有する、請求項1または請求項2に記載の液晶配向剤。
【化3】
は、下記から選ばれる4価の有機基を表す。
【化4】
~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基である。
【請求項4】
前記ポリイミドが、テトラカルボン酸誘導体成分とジアミン成分との反応で得られるポリイミド前駆体のイミド化物であり、ポリイミド前駆体の重合中及び/又は重合後の溶液に、下記式(2)の化合物を加えたものである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリイミドの製造方法。
【化5】
は、前記Rと同一である。
【請求項5】
前記式(2)の化合物は、下記に例示するZ-1~Z-10の化合から選択される、請求項4に記載のポリイミドの製造方法。
【化6】
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液晶配向剤から得られる液晶配向膜。
【請求項7】
請求項6に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、軽量、薄型かつ低消費電力の表示デバイスとして知られている。近年では、急速にシェアを拡大してきた携帯電話やタブレット型端末向けの高精細液晶表示素子においても、高い表示品位が求められるほどの目覚ましい発展を遂げている。
【0003】
液晶表示素子は、電極を備えた透明な一対の基板により液晶層を挟持して構成される。そして、液晶表示素子では、液晶が基板間で所望の配向状態となるように有機材料からなる有機膜が液晶配向膜として使用されている。すなわち、液晶配向膜は、液晶表示素子の構成部材であって、液晶を挟持する基板の液晶と接する面に形成され、その基板間で液晶を一定の方向に配向させるという役割を担っている。
近年、スマートフォンや携帯電話などのモバイル用途向けに、液晶表示素子が用いられている。これら用途では、できるだけ多くの表示面を確保するため、液晶表示素子の基板間を接着させるために用いるシール剤の幅を、従来に比べて狭くする必要がある。さらに、上述した理由により、シール剤の位置を、シール剤との接着性が弱い液晶配向膜の端部に接した位置、あるいは液晶配向膜の上部にすることも求められている。このような場合、特に高温高湿条件下での使用では、シール剤と液晶配向膜との間から水が混入しやすくなり、液晶表示素子の額縁付近に表示ムラが発生してしまう。
この問題を解決する為、特定構造の添加剤を用いる液晶配向剤が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2015/072554
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし近年では、液晶配向膜とシール剤との更なる密着性改善が求められている。
【0006】
このうちシール剤からの特性改善では、シール剤と液晶配向膜との密着特性と、シール剤の透湿防止特性はその両立が難しいことが知られており、上記観点から、液晶配向膜からの特性改善が求められている。
そこで本発明は、シール剤と液晶配向膜との接着性を高め、高温高湿条件下において液晶表示素子の額縁付近の表示ムラの発生を抑制することのできる液晶配向剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして、本発明は、上記の知見に基づくものであり、下記の要旨を有する。
1.ポリマー主鎖末端が下記式(1)の構造を有するポリイミド前駆体及びポリイミドから選ばれる少なくとも1種の重合体を含有する液晶配向剤。





【0008】
【化1】
【0009】
は、末端にアクリル基、メタクリル酸メチル基などの光反応性の官能基を含有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤を用いることで、シール剤と液晶配向膜との接着性を高め、高温高湿条件下において液晶表示素子の額縁付近の表示ムラの発生を抑制できる液晶配向膜が得られる。この液晶配向膜を有する液晶表示素子はシール剤と液晶配向膜との接着性を高めることで額縁付近の表示ムラが解決出来るので、大画面で高精細の液晶ディスプレイに好適に利用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の液晶配向剤を用いて得られる液晶配向膜の密着性評価を行う際に作製する、評価サンプルの作製方法を表す図である。詳しくは後述する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<末端構造>
本発明の液晶配向剤は、ポリマー主鎖末端が下記式(1)の構造を有するポリイミド前駆体及びポリイミドから選ばれる少なくとも1種の重合体を含有する。
【0013】
【化2】
【0014】
は、末端にアクリル基、メタクリル酸メチル基などの光反応性の官能基を含有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
ここで、前記Rは、下記のR-1~R-10の構造から選ばれる基であることが好ましい。
【0015】
【化3】
【0016】
このような構造をポリイミド中に導入するには、ポリイミド前駆体の重合中及び重合後に、下記式(2)のような化合物を用いることが好ましい。
【0017】
【化4】
【0018】
式(2)の化合物の具体例としては、下記に例示するZ-1~Z-10の化合物が挙げられるが、シール密着性およびラビング耐性の関係からZ-1がより好ましく、Z-2が特に好ましい。
【0019】
【化5】
【0020】
<テトラカルボン酸誘導体>
本発明の液晶配向剤に含有されるポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸誘導体と、ジアミンとの反応から得られ、本発明の液晶配向剤に含有されるポリイミドは、前記ポリイミド前駆体をイミド化することにより得られる。以下に、用いられる材料の具体例及び製造方法を詳述する。
ポリイミド前駆体の製造に用いられるテトラカルボン酸誘導体としては、テトラカルボン酸二無水物だけでなく、その誘導体である、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸ジハライド化合物、テトラカルボン酸ジアルキルエステル、テトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライドが挙げられる。
テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体としては、なかでも、下記式(3)で表されるものが好ましい。
【0021】
【化6】
【0022】
の構造は特に限定されない。好ましい具体例としては、下記式(X1-1)~(X1-44)が挙げられる。その中でも特に、(X1-1)、(X1-5)、(X1-8)、(X1-27)が好ましい。
【0023】
【化7】
【0024】
【化8】
【0025】
【化9】






【0026】
【化10】
【0027】
【化11】
【0028】
【化12】
【0029】
式(X1-1)~(X1-4)において、R~R23は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基である。液晶配向性の点から、R~R23は、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、又はエチル基が好ましく、水素原子、又はメチル基が特に好ましい。
式(X1-1)の具体例としては、下記式(X1-1-1)~(X1-1-6)が挙げられる。液晶配向性及び光反応の感度の点から、(X1-1-1)が特に好ましい。







【0030】
【化13】
【0031】
<ジアミン>
ポリイミド前駆体の製造に用いられるジアミンは、下記式(4)で表わされる。
【0032】
【化14】
【0033】
及びAはそれぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~5のアルキル基、炭素数2~5のアルケニル基、又は炭素数2~5のアルキニル基である。
の構造は特に限定されない。好ましい構造としては以下の(Y-1)~(Y-182)が挙げられる。
【0034】
【化15】






【0035】
【化16】
【0036】
【化17】
【0037】
【化18】








【0038】
【化19】
【0039】
【化20】
【0040】
【化21】
【0041】
【化22】

【0042】
【化23】
【0043】
【化24】
【0044】
【化25】








【0045】
【化26】
【0046】
【化27】
【0047】
【化28】











【0048】
【化29】
【0049】
【化30】
【0050】
【化31】





【0051】
【化32】
【0052】
【化33】
上記式中、Meは、メチル基を表し、Rは水素原子または炭素数1~5の炭化水素基を表す。
【0053】
【化34】
【0054】
なかでも、Yの構造としては、(Y-7)、(Y-8)、(Y-16)、(Y-17)、(Y-18)、(Y-20),(Y-21)、(Y-22)、(Y-28)、(Y-35)、(Y-38)、(Y-43)、(Y-48)、(Y-64),(Y-66)、(Y-71)、(Y-72)、(Y-76),(Y-77)、(Y-80)、(Y-81)、(Y-82)、(Y-83)、(Y-156)、(Y-159)、(Y-160)、(Y-161)、(Y-162)(Y-168)、(Y-169)、(Y-170)が好ましく、特には、(Y-7)、(Y-8)、(Y-16)、(Y-17)、(Y-18)、(Y-21)、(Y-22)、(Y-28)、(Y-38)、(Y-64)、(Y-66)、(Y-72)、(Y-76)、(Y-81)、(Y-156)、(Y-159)、(Y-160)、(Y-161)、(Y-162)、(Y-168)、(Y-169)、(Y-170)、(Y-171)、(Y-173)、(Y-175)が好ましい。
【0055】
<ポリアミック酸>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、以下に示す方法で製造できる。具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒の存在下、-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃で、30分~24時間、好ましくは1~12時間反応させることによって合成できる。またその重合中及び/又は重合後に、上記(2)に示される化合物を反応させることにより、末端に特定構造を導入したポリイミド前駆体を得られる。
【0056】
上記の反応に用いる有機溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。ポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0057】
上記のようにして得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させて回収することができる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0058】
<ポリアミック酸エステル>
本発明に用いられるポリイミド前駆体の一つであるポリアミック酸エステルは、以下に示す(I)、(II)又は(III)の方法で製造できる。またその重合中及び/又は重合後に、上記(2)に示される化合物を反応させることにより、末端に特定構造を導入したポリイミド前駆体を得られる。
【0059】
(I)ポリアミック酸から製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるポリアミック酸をエステル化することによって合成できる。具体的には、ポリアミック酸とエステル化剤を有機溶剤の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~4時間反応させることによって合成できる。
【0060】
エステル化剤としては、精製によって容易に除去できるものが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジ-t-ブチルアセタール、1-メチル-3-p-トリルトリアゼン、1-エチル-3-p-トリルトリアゼン、1-プロピル-3-p-トリルトリアゼン、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドなどが挙げられる。エステル化剤の使用量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対し2~6モル当量が好ましい。
【0061】
上記の反応に用いる溶媒は、ポリマーの溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。反応液中のポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0062】
(II)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンから製造できる。具体的には、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとを塩基と有機溶剤の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~4時間反応させることによって合成することができる。
【0063】
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジンなどが使用できるが、反応が穏和に進行するためにピリジンが好ましい。塩基の使用量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという観点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対し、2~4倍モルが好ましい。
【0064】
上記の反応に用いる溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性からN-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。反応液中のポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミック酸エステルの合成に用いる溶媒はできるだけ脱水されていることが好ましく、窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0065】
(III)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを重縮合することにより製造できる。具体的には、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを縮合剤、塩基、及び有機溶剤の存在下で0℃~150℃、好ましくは0℃~100℃において、30分~24時間、好ましくは3~15時間反応させることによって製造できる。
【0066】
前記縮合剤には、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’-カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ-1,3,5-トリアジニルメチルモルホリニウム、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルなどが使用できる。縮合剤の添加量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して2~3倍モルが好ましい。
【0067】
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンが使用できる。塩基の使用量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという観点から、ジアミン成分に対して2~4倍モルが好ましい。
【0068】
また、上記反応において、ルイス酸を添加剤として加えることで反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量はジアミン成分に対して0~1.0倍モルが好ましい。
【0069】
上記3つのポリアミック酸エステルの製造方法の中でも、高分子量のポリアミック酸エステルが得られるため、上記(I)又は上記(II)の製造法が特に好ましい。
【0070】
上記のようにして得られるポリアミック酸エステルの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0071】
<ポリイミド>
本発明に用いられるポリイミドは、前記ポリアミック酸又はポリアミック酸エステルをイミド化することにより製造できる。本発明で用いられるポリイミドのイミド化率は100%に限らない。電気特性の観点から20~99%が好ましい。ポリアミック酸エステルからポリイミドを製造する場合、前記ポリアミック酸エステル溶液、又はポリアミック酸エステル樹脂粉末を有機溶媒に溶解させて得られるポリアミック酸溶液に塩基性触媒を添加する化学的イミド化が簡便である。化学的イミド化は、比較的低温でイミド化反応が進行し、イミド化の課程で重合体の分子量低下が起こりにくいので好ましい。
【0072】
化学的イミド化は、イミド化させたいポリアミック酸又はポリアミック酸エステルを、有機溶媒中において塩基性触媒と酸無水物の存在下で攪拌することにより行うことができる。またその際に上記(2)に示される化合物を反応させることにより、末端に特定構造を導入したポリイミド前駆体を得られる。有機溶媒としては前述した重合反応時に用いる溶媒を使用することができる。塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができ、中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。通常、従来のポリイミドの場合は無水酢酸を用いると主鎖末端としてアセチル基が生成するのに対して、本発明はアセチル化を抑制することができる。
【0073】
イミド化反応を行うときの温度は、例えば-20℃~120℃であり、好ましくは0℃~100℃であり、反応時間は1~100時間で行うことができる。塩基性触媒の量はアミック酸基の0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量はアミック酸基の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間を調節することで制御することができる。
【0074】
ポリアミック酸エステル又はポリアミック酸のイミド化反応後の溶液には、添加した触媒等が残存しているので、以下に述べる手段により、得られたイミド化重合体を回収し、有機溶媒で再溶解して、本発明の液晶配向剤とすることが好ましい。
【0075】
上記のようにして得られるポリイミドの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。
【0076】
前記貧溶媒は、特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0077】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、特定重合体を含む重合体が特定溶媒を含む有機溶媒中に溶解された溶液の形態を有する。本発明に記載のポリイミド前駆体及びポリイミドの分子量は、重量平均分子量で2,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~300,000であり、さらに好ましくは、10,000~100,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、1,000~250,000であり、より好ましくは、2,500~150,000であり、さらに好ましくは、5,000~50,000である。
【0078】
本発明に用いられる液晶配向剤の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点から1重量%以上が好ましく、溶液の保存安定性の点からは10重量%以下が好ましい。
【0079】
本発明の液晶配向剤における溶媒は、ポリイミド前駆体及びポリイミドを溶解する溶媒(良溶媒ともいう)や、液晶配向剤を塗布した際の液晶配向膜の塗膜性や表面平滑性を向上させる溶媒(貧溶媒ともいう)が好ましく用いられる。下記に、その他の溶媒の具体例を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。
【0080】
良溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、3-メトキシーN,N-ジメチルプロパンアミド又は4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどを挙げることができる。
貧溶媒の具体例としては、1-ブトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシ-1-プロパノール、2-プロポキシエタノール、2-(2-プロポキシエトキシ)エタノール、1-プロポキシ-2-プロパノールエタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、3-エトキシブチルアセタート、1-メチルペンチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、2-(メトキシメトキシ)エタノール、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1-(ブトキシエトキシ)プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、プロピレングリコールジアセタート、ジイソペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル、ジイソブチルケトン、エチルカルビトール等が挙げられる。
また、貧溶媒としては、下記式で表される溶媒も好ましく用いられる。
【0081】
【化35】
【0082】
24、25はそれぞれ独立して、直鎖又は分岐の、炭素数1~8のアルキル基である。但し、R24+R25は3より大きい整数である。
【0083】
また、貧溶媒としては、液晶配向剤に含まれるポリイミド前駆体及びポリイミドの溶媒への溶解性が高い場合は、下記の[D-1]~式[D-3]で示される溶媒が好ましい。
【0084】
【化36】
【0085】
式[D-1]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-2]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-3]中、Dは炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0086】
また、本発明の液晶配向剤は、エポキシ基、イソシアネート基、オキセタン基又はシクロカーボネート基を有する架橋性化合物、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有する架橋性化合物、又は重合性不飽和結合を有する架橋性化合物を含んでいてもよい。
【0087】
そのような架橋性化合物は、その目的に応じ種々の公知の化合物を用いることが出来る。好ましく用いられるのは下記の化合物である。









【0088】
【化37】
【0089】
架橋性化合物の含有量は、全ての重合体成分100質量部に対して、0.1~150質量部が好ましい。なかでも、架橋反応が進行し目的の効果を発現させるためには、0.1~100質量部が好ましく、より好ましいのは、1~50質量部である。
【0090】
本発明の液晶配向剤は、液晶配向剤を塗布した際の液晶配向膜の膜厚の均一性や表面平滑性を向上させる化合物を含有することができる。
【0091】
液晶配向膜の膜厚の均一性や表面平滑性を向上させる化合物としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノ二オン系界面活性剤などが挙げられる。
界面活性剤の使用量は、液晶配向剤に含有される全ての重合体成分100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。
【0092】
<液晶配向膜、液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、上記の液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥、焼成して得られる膜である。本発明の液晶配向剤を塗布する基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板やポリカーボネート基板などのプラスチック基板等を用いることもできる。その際、液晶を駆動させるためのITO電極などが形成された基板を用いると、プロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならばシリコンウエハーなどの不透明な物でも使用でき、この場合の電極にはアルミニウムなどの光を反射する材料も使用できる。
【0093】
液晶配向剤の塗布方法は、工業的には、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷又はインクジェット法などで行う方法が一般的であり、その他の塗布方法としては、ディップ法、ロールコータ法、スリットコータ法、スピンナー法又はスプレー法などが知られている。
【0094】
液晶配向剤を基板上に塗布した後は、ホットプレート、熱循環型オーブン又はIR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段により、溶媒を蒸発させて液晶配向膜とすることができる。液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択することができる。通常は、含有される溶媒を十分に除去するために50~120℃で1~10分焼成し、その後、150~300℃で5~120分焼成する条件が挙げられる。焼成後の液晶配向膜の厚みは、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。
【0095】
本発明の液晶配向剤は、基板上に塗布、焼成した後、ラビング処理や、光配向処理などで配向処理し、また、垂直配向用途などでは配向処理無しで、液晶配向膜として使用できる。ラビング処理や光配向処理などの配向処理では、既知の方法や装置が使用できる。
液晶セルの作製方法の一例として、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。なお、画像表示を構成する各画素部分にTFT(Thin Film Transistor)などのスイッチング素子が設けられたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子であってもよい。
【0096】
具体的には、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えばITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされている。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル-ゲル法によって形成されたSiO-TiOの膜とすることができる。
【0097】
次に、各基板の上に液晶配向膜を形成し、一方の基板に他方の基板を互いの液晶配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール剤で接着する。シール剤には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサーを混入しておき、また、シール剤を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサーを散布しておくことが好ましい。シール剤の一部には、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておく。次いで、シール剤に設けた開口部を通じて、2枚の基板とシール剤で包囲された空間内に液晶材料を注入し、その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。液晶材料は、ポジ型液晶材料やネガ型液晶材料のいずれでもよいが、好ましいのは、ネガ型液晶材料である。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付ける。
【実施例
【0098】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下における化合物の略号及び各特性の測定方法は、次のとおりである。
【0099】
<テトラカルボン酸二無水物>
CBDA:1,2,3,4,-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
1,3-DM-CBDA:(1,3-ジメチル)―1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
BDA:1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
【0100】
<ジアミン>
DA-1:ビス(4-アミノフェノキシ)エタン
DA-2:tert-ブチル ビス(4-アミノフェニル)カーバメート
DA-3:ジ-tert-ブチル((アジポイルビス(アザネジイル))ビス(3-アミノ―6,1-フェニレン))ジカルバメート
DA-4:パラフェニレンジアミン
DA-5:5-((4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)フェノキシ)メチル)ベンゼン‐1,3-ジアミン
DA-6:4,4‘-(1H-ピロール-2,5-ジイル)ジアニリン
DA-7:4,4‘-ジアミノジフェニルアミン
DA-8:4,4‘-ジアミノジフェニルメタン







【0101】
【化38】
【0102】
<イソチオシアネート>
SCN-1:エチルイソチオシアネート
SCN-2:アリルイソチオシアネート
【0103】
【化39】
【0104】
<添加剤>
AD-1:3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
AD-2:N,N,N‘,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジピンアミド
【0105】
<有機溶媒>
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
GBL:γ‐ブチロラクトン
【0106】
実施例において、ポリアミック酸、ポリイミド前駆体、ポリイミドに関する分子量やイミド化率、は次のようにして評価した。
【0107】
<分子量測定>
ポリアミック酸及びポリイミドの分子量には、昭和電工社製 常温ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置(GPC-101)、Shodex社製カラム(KD-803、KD-805)を用いた。測定条件は、以下の通りである。
カラム温度:50℃
溶離液:N,N’-ジメチルホルムアミド(添加剤:臭化リチウム-水和物(LiBr・H2O)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)
流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(分子量 約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(分子量 約12,000、4,000、1,000)
【0108】
<イミド化率の測定>
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(草野科学社製、NMRサンプリングチューブスタンダード φ5)に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6、0.05%TMS(テトラメチルシラン)混合品)0.53mlを添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。この溶液について、日本電子データム社製NMR測定器(JNW-ECA500)を用いて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.0から11.0ppm付近に現れるアミド酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い、以下の数式(1)によって求めた。
【0109】
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100 ・・・(1)
【0110】
上記式(1)において、xはアミド酸のNH基由来のプロトンピーク積算値、yは基準プロトンのピーク積算値、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミド酸のNH基プロトン1個に対する基準プロトンの個数割合である。
【0111】
<合成例1>
1,3-DM-CBDA(12.68g,56.6mmol)、DA-2(10.4g,26.1mmol)、DA-3(7.26g,13.1mmol)、DA-1(11.69g,47.9mmol)をNMP(191.48g)中で混合し、40℃で1時間反応させた後、CBDA(3.67g,18.7mmol)とNMP(16.7g)を加え、20-25℃で2時間反応させポリアミック酸溶液(a)を得た。このポリアミック酸溶液(a)の数平均分子量は11440、重量平均分子量は23220であった。
ポリアミック酸溶液(a)(30.0g)にエチルイソシアネート(0.45g,5.2mmol)を加えて20-25℃で20時間反応させポリアミック酸末端に特定構造を導入したポリイミド前駆体(a―1)溶液を得た。このポリイミド前駆体(a―1)溶液(30.0g)にNMPを加えてポリイミド前駆体(a―1)の含有量が12質量%になるように希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(3.52g)、及びピリジン(0.91g)を加え、50℃で2.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(300ml)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、100℃で減圧乾燥し末端に特定構造を導入した特定イミド化重合体 (A―1)を得た。この特定重合体(A―1)のイミド化率は、76%であった。
【0112】
<合成例2>
合成例1で調製したポリアミック酸溶液(a)(30.0g)にアリルイソチオシアネート(0.51g,5.2mmol)を加えて20-25℃で20時間反応させポリアミック酸末端に特定構造を導入したポリイミド前駆体(a―2)溶液を得た。このポリイミド前駆体(a―2)溶液(30.0g)にNMPを加えてポリイミド前駆体(a―2)の含有量が12質量%になるように希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(3.52g)、及びピリジン(0.91g)を加え、50℃で2.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(300ml)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、100℃で減圧乾燥し末端に特定構造を導入した特定イミド化重合体(A―2)を得た。この特定イミド化重合体(A―2)のイミド化率は、76%であった。
【0113】
<合成例3>
BDA(8.9g,45mmol)、DA-5(14.21g,36.0mmol)、DA-4(5.84g,54.0mmol)をNMP(164.11g)中で混合し、40℃で2時間反応させた後、CBDA(8.65g,44.1mmol)とNMP(49.0g)を加え、40℃で2時間反応させポリアミック酸溶液(b)を得た。このポリアミック酸溶液(b)の数平均分子量は9100、重量平均分子量は34500であった。 ポリアミック酸溶液(b)(30.0g)にエチルイソチオシアネート(0.53g,10.0mmol)を加えて20-25℃で20時間反応させポリアミック酸末端に特定構造を導入したポリイミド前駆体(b―1)溶液を得た。このポリイミド前駆体(b―1)溶液(30.0g)にNMPを加えてポリイミド前駆体(b―1)の含有量が7質量%になるように希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(5.47g)、及びピリジン(1.70g)を加え、40℃で3.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(300ml)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、100℃で減圧乾燥し末端に特定構造を導入した特定イミド化重合体(B―1)を得た。この特定イミド化重合体(B―1)のイミド化率は、65%であった。
【0114】
<合成例4>
合成例3で調製したポリアミック酸(b)にアリルイソチオシアネート(0.54g,5.4mmol)を加えて20-25℃で20時間反応させポリアミック酸末端に特定構造を導入したポリイミド前駆体(b―2)溶液を得た。このポリイミド前駆体(b―2)溶液(30.0g)にNMPを加えてポリイミド前駆体(b―2)の含有量が7質量%になるように希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(5.47g)、及びピリジン(1.70g)を加え、40℃で3.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(300ml)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、100℃で減圧乾燥し末端に特定構造を導入した特定イミド化重合体(B―2)を得た。この特定イミド化重合体(B―2)のイミド化率は、65%であった。
【0115】
<合成例5>
CBDA(4.20g,21.4mmol)、DA-7(6.68g,33.5mmol)、DA-6(5.01g,20.1mmol)、DA-8(2.66g,13.4mmol)をNMP(24.65g),GBL(111.38g)中で混合し、40℃で1時間反応させた後、BPDA(11.83g,40.2mmol)とNMP(86.73g)を加え、50℃で15時間反応させポリアミック酸溶液(c)を得た。このポリアミック酸溶液(c)の数平均分子量は9370、重量平均分子量は20690であった。
【0116】
<合成例6>
合成例1で調製したポリアミック酸溶液(a)(30.0g)にNMPを加えてポリアミック酸(a)の含有量が12質量%になるように希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(3.52g)、及びピリジン(0.91g)を加え、50℃で2.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(300ml)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、100℃で減圧乾燥しイミド化重合体(A)を得た。このイミド化重合体(A)のイミド化率は、75%であった。
【0117】
<合成例7>
合成例3で調製したポリアミック酸溶液(b)(30.0g)にNMPを加えてポリアミック酸(b)の含有量が7質量%になるように希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(5.47g)、及びピリジン(1.70g)を加え、40℃で3.5時間反応させた。この反応溶液をメタノール(300ml)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、100℃で減圧乾燥しイミド化重合体(B)を得た。このイミド化重合体(B)のイミド化率は、65%であった。
【0118】
液晶配向剤の調製:
<実施例1>
合成例1で得られた特定イミド化重合体(A―1)(5.0g)にNMP(36.6g)加え70℃にて20時間撹拌して溶解させた。この溶液にNMP(25.1g)、及びBCS(16.6g)を加え、25℃にて2時間攪拌することにより、液晶配向剤[A]を得た。
【0119】
<実施例2>
合成例2で得られた特定イミド化重合体(A―2)(5.0g)にNMP(36.6g)加え70℃にて20時間撹拌して溶解させた。この溶液にNMP(25.1g)、及びBCS(16.6g)を加え、25℃にて2時間攪拌することにより、液晶配向剤[B]を得た。
【0120】
<実施例3>
合成例3で得られた特定イミド化重合体(B―1)(5.0g)にNMP(36.6g)加え70℃にて20時間撹拌して溶解させた。この溶液にNMP(8.4g)、及びBCS(33.3g)を加え、25℃にて2時間攪拌することにより、液晶配向剤[C]を得た。
【0121】
<実施例4>
合成例4で得られた特定イミド化重合体(B―2)(5.0g)にNMP(36.6g)加え70℃にて20時間撹拌して溶解させた。この溶液にNMP(8.4g)、及びBCS(33.3g)を加え、25℃にて2時間攪拌することにより、液晶配向剤[D]を得た。
【0122】
<実施例5>
合成例2で得られた特定イミド化重合体(A―2)(5.0g)にNMP(36.6g)加え70℃にて20時間撹拌して溶解させた。この溶液(3.63g)と合成例5で得られたポリアミック酸溶液(c)(8.5g)量り取り、NMP(2.85g)、GBL(5.36g)、BCS(5.1g)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(0.0145g)、N,N,N‘,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジピンアミド(0.043g)を加え、25℃にて2時間攪拌することにより、液晶配向剤[E]を得た。
【0123】
<比較例1>
合成例6で得られたイミド化重合体(A)(5.0g)にNMP(36.6g)加え70℃にて20時間撹拌して溶解させた。この溶液にNMP(25.1g)、及びBCS(16.6g)を加え、25℃にて2時間攪拌することにより、液晶配向剤[F]を得た。
【0124】
<比較例2>
合成例7で得られたイミド化重合体(B)(5.0g)にNMP(36.6g)加え70℃にて20時間撹拌して溶解させた。この溶液にNMP(8.4g)、及びBCS(33.3g)を加え、25℃にて2時間攪拌することにより、液晶配向剤[G]を得た。
【0125】
<比較例3>
合成例6で得られたイミド化重合体(A)(5.0g)にNMP(36.6g)加え70℃にて20時間撹拌して溶解させた。この溶液(3.63g)と合成例5で得られたポリアミック酸溶液(c)(8.5g)量り取り、NMP(2.85g)、GBL(5.36g)、BCS(5.1g)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(0.0145g)、N,N,N‘,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジピンアミドを加え、25℃にて2時間攪拌することにより、液晶配向剤[H]を得た。
【0126】
<比較例4>
比較例4のシール密着性は、ITO基板とシール剤のシール密着性(N/mm)の結果である。
【0127】
【表1】
【0128】
<密着性評価サンプルの作製>
液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、30mm×40mmのITO付きガラス基板上にスピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間乾燥した後、230℃で20分間焼成して、膜厚が100nmのポリイミド膜を得た。このようにして得られたポリイミド膜付基板および30mm×40mmのITO付ガラス基板を用意し、一方の基板のポリイミド膜面上に、直径が4μmのビーズスペーサーを散布した後、UV硬化型のシール剤を点状に塗布した。次いで、図1に示すように基板が重なっている部分の中心にシール剤が位置するように貼り合わせを行った。その際、貼り合わせ後のシール剤の直径が約3mmとなるようにシール剤滴下量を調整した。貼り合わせた2枚の基板をクリップにて固定して高圧水銀ランプでUVを3J照射した後、120℃で1時間熱硬化させて、密着性評価用のサンプルを作製した。
【0129】
<密着性の測定>
作製したサンプルを陽屹科技股▲ふん▼有限公司製の卓上形精密万能試験機(QC-H42A2-S00)にて、上下基板それぞれ端5mm幅の部分を固定した後、下側の基板は下方向へ、上側の基板は上方向へそれぞれ引っ張り、シールが剥離する際の圧力(N)を測定した。計測したシール剤の直径より見積もった面積(mm)で圧力(N)を割り算して規格化した値をシール密着性の指標とした。
【0130】
<ラビング耐性の評価>
液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、30mm×40mmのITO付きガラス基板上にスピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間乾燥した後、230℃で20分間焼成して、膜厚が100nmのポリイミド膜を得た。このポリイミド膜をレーヨン布で1回ラビング(ロール系120mm、回転数1000rpm、移動速度20mm/sec、押し込み量0.6mm)した。この膜表面を光学顕微鏡にて観察し、倍率200倍で削れカスの有無と傷の有無を観察した。削れカスや傷が少ないものを「良好」と定義し、多くの削れカスやラビング傷が見られるものを「不良」と定義して評価した。
【0131】
<液晶セルの作製>
実施例1、2、5および比較例1、3で得られた液晶配向剤をそれぞれ1.0μmのフィルターで濾過した後、下記の手順にて液晶セルを作製した。液晶配向剤をITO付ガラス基板上にスピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間乾燥した後、230℃で20分間焼成して、膜厚が100nmの塗膜を得た。このポリイミド膜をレーヨン布でラビング(ロール径120mm、回転数1000rpm、移動速度20mm/sec、押し込み量0.4mm)した後、純水中にて1分間超音波照射を行い、80℃で10分間乾燥した。このようにして得られた液晶配向膜付き基板を2枚用意し、一方の基板の液晶配向膜面に4μmのスペーサーを設置した後、2枚の基板のラビング方向が逆平行になるように組み合わせ、液晶注入口を残して周囲をシールし、セルギャップが4μmの空セルを作製した。このセルに液晶(MLC-2041、メルク社製)を常温で真空注入し、注入口を封止してアンチパラレル液晶セルとした。
【0132】
<液晶セルの作製(PSAセル)>
実施例3、4および比較例2で得られた液晶配向剤をそれぞれ1.0μmのフィルターで濾過した後、下記の手順にて液晶セルを作製した。液晶配向剤をITO付ガラス基板上にスピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間乾燥した後、230℃で20分間焼成して、膜厚が100nmの塗膜を得た。このようにして得られた液晶配向膜付き基板を2枚用意し、一方の基板の液晶配向膜面に4μmのスペーサーを設置した後、2枚の基板を組み合わせ、液晶注入口を残して周囲をシールし、セルギャップが4μmの空セルを作製した。このセルに液晶(MLC-3023、メルク社製)を常温で真空注入し、注入口を封止した後、得られた液晶セルに、直流15Vの電圧を印加しながら、照度140mWのメタルハライドランプを用いて、325nm以下の波長をカットし、365nm換算で5J/cmの紫外線照射を行い、液晶の配向方向が制御された液晶セル(PSAセル)を得た。
【0133】
<液晶配向性>
作製した液晶セルの配向状態を偏光顕微鏡にて観察し、配向欠陥がないものを「良好」、配向欠陥があるものを「不良」とした。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の液晶配向剤は、多くの表示面を確保することが出来る狭額縁液晶表示素子において、シール剤と液晶配向膜との接着性を高めることで額縁付近の表示ムラが解決でき、産業上有用である。
図1