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特許7193783液晶配向剤、液晶配向膜、及びそれを用いた液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、及びそれを用いた液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20221214BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20221214BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
C08L79/08 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019566535
(86)(22)【出願日】2019-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2019001553
(87)【国際公開番号】W WO2019142927
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018007030
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 崇明
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳和
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072554(WO,A1)
【文献】特表2003-525724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
C08L 79/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分、および有機溶剤を含有する液晶配向剤。
(A)成分:下記式(1)の構造単位を有するポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体
(B)成分:下記式(B1-1)で表される構造を2つ以上有する化合物である
【化1】
脂環式構造を有する4価の有機基であり、Y下記式(4)又は(5)で表される構造から選ばれる少なくとも1種である2価の有機基である。Rは、水素原子、又は炭素数1~5のアルキル基であり、A~Aはそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、又は炭素数2~10のアルキニル基である。
【化2】

は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素数2~6のアルキニル基である。「*」は結合手を示す。
【化3】

は単結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、又は炭素数2~20の2価の有機基であり、A 3 は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、リン酸基、又は炭素数1~20の1価の有機基であり、aは1~4の整数であり、aが2以上の場合、A の構造は同一でも異なってもよい。b及びcはそれぞれ独立して1~2の整数である。
【請求項2】
(B)成分が、前記重合体に対して0.1~20質量%含有される請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
(B)成分が下記式(B-1)又は(B-2)から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2記載の液晶配向剤。
【化4】
【請求項4】
式(1)のXが下記式(X-1)~(X-10)の構造から選ばれる少なくとも1種である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化5】
からR23はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基であり、同一でも異なってもよい。
【請求項5】
が、下記式(X1-11)から(X1-16)の構造から選ばれる少なくとも1種である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化6】
【請求項6】
が、下記式(X1-11)又は(X1-12)から選ばれる少なくとも1種である請求項1~のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化7】
【請求項7】
が、下記式(Y1-1)~(Y1-23)から選ばれる少なくとも1種である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化8】
【化9】
【化10】
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の液晶配向剤から得られる液晶配向膜。
【請求項9】
請求項に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【請求項10】
請求項載の液晶配向膜を具備する横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向剤から得られる液晶配向膜、及び液晶配向膜を使用した液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビ、液晶ディスプレイなどに用いられる液晶表示素子は、通常、液晶の配列状態を制御するための液晶配向膜が素子内に設けられている。
【0003】
現在、工業的に最も普及している液晶配向膜は、電極基板上に形成されたポリアミック酸及び/又はこれをイミド化したポリイミドからなる膜の表面を、綿、ナイロン、ポリエステル等の布で一方向に擦る、いわゆるラビング処理を行うことで作製されている。
【0004】
ラビング処理は、簡便で生産性に優れた工業的に有用な方法である。しかし、液晶表示素子の高性能化、高精細化、大型化に伴い、ラビング処理で発生する配向膜の表面の傷、発塵、機械的な力や静電気による影響、更には、配向処理面内の不均一性などの種々の問題がある。
【0005】
ラビング処理に代わる方法としては、偏光された放射線の照射により、液晶配向能を付与する光配向法が知られている。光配向法による液晶配向処理は、光異性化反応を利用したもの、光架橋反応を利用したもの、光分解反応を利用したものなどが提案されている(非特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1では、主鎖にシクロブタン環などの脂環構造を有するポリイミド膜を光配向法に用いることが提案されている。
上記のような光配向法は、ラビングレス配向処理方法として、工業的にも簡便な製造プロセスで生産できるだけでなく、IPS駆動方式やフリンジフィールドスイッチング(以下、FFS)駆動方式の液晶表示素子においては、ラビング処理法で得られる液晶配向膜に比べて、液晶表示素子のコントラストや視野角特性の向上が期待できるため、有望な液晶配向処理方法として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-297313号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「液晶光配向膜」木戸脇、市村 機能材料 1997年11月号 Vol.17、 No.11 13~22ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スマートフォンや携帯電話などのモバイル用途及び車載用ディスプレイ用途の液晶表示素子の信頼性試験として、パネルの振動試験を実施することがある。この振動試験では、輝点などの不良が発生しないことが求められる。振動試験後に不良が発生しない液晶表示素子を得るためには、液晶配向膜の機械強度を高める必要がある。液晶配向膜の機械強度、特に、硬度を改善する方法として、液晶配向剤に架橋剤を添加する方法が挙げられる。しかしながら、本発明者らの検討において、架橋剤を添加した場合、得られる液晶配向膜の膜硬度は改善するものの、液晶表示素子の黒輝度悪化に由来するコントラストの悪化や長期交流駆動による残像が悪化することがわかった。
従って、本発明は、膜硬度が高く、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子で発生する長期交流駆動による残像が抑制出来、且つ、液晶表示素子のコントラストが良好な液晶表示素子を得るための液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、該液晶配向膜を有する液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下に示す通りである。
1.下記(A)成分、(B)成分、および有機溶剤を含有することを特徴とする液晶配向剤。
(A)成分:下記式(1)の構造単位を有するポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体
(B)成分:下記式(2)の構造を2つ以上有する化合物
【0011】
【化1】
【0012】
は4価の有機基であり、Yは2価の有機基である。Rは、水素原子、又は炭素数1~5のアルキル基であり、A~Aはそれぞれ独立して水素原子、又は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、又は炭素数2~10のアルキニル基である。
【0013】
【化2】
【0014】
は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素数2~6のアルキニル基である。Zは、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素数2~6のアルキニル基である。「*」は結合手を示す。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液晶配向剤を用いることで、膜硬度が高い液晶配向膜を得ることができる。また、本発明の液晶配向膜を用いることで、架橋剤を導入しているにも関わらず、コントラストが良好な液晶表示素子が得られる。さらに本発明の液晶配向剤を用いることで、液晶配向性や電気特性を低下させることなく上述する課題を達成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の液晶配向剤は、下記(A)成分、(B)成分、および有機溶剤を含有することを特徴とする。
(A)成分:下記式(1)の構造単位を有するポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体
(B)成分:下記式(2)の構造を2個以上有する化合物
以下、それぞれの成分について詳述する。
【0017】
<(A)成分>
本発明の液晶配向剤に含まれる(A)成分は、下記式(1)の構造単位を有するポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体である。ポリイミド前駆体としては、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルなどの加熱又は触媒による化学イミド化によって、イミド環を形成するポリイミド前駆体であれば、特に限定されない。加熱、又は化学イミド化が進行しやすいという観点から、ポリイミド前駆体としては、ポリアミック酸、またはポリアミック酸エステルがより好ましい。
【0018】
【化3】
【0019】
は4価の有機基であり、Yは2価の有機基である。Rは、水素原子、又は炭素数1~5のアルキル基であり、A~Aはそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、又は炭素数2~10のアルキニル基である。
における上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基などが挙げられる。加熱によるイミド化のしやすさの観点から、Rは、水素原子、又はメチル基が好ましい。
及びAはそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数2~10のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2~10のアルキニル基である。
上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロヘキシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、上記のアルキル基に存在する1つ以上のCH-CH構造を、C=C構造に置き換えたものが挙げられ、より具体的には、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、前記のアルキル基に存在する1つ以上のCH-CH構造をC≡C構造に置き換えたものが挙げられ、より具体的には、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基などが挙げられる。
一般に、嵩高い構造を導入すると、アミノ基の反応性や液晶配向性を低下させる可能性があるため、A及びAとしては、水素原子、又は炭素数1~5のアルキル基がより好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
以下、重合体をなす原料となる各成分について詳述する。
【0020】
<ジアミン>
本発明の液晶配向剤に用いられるジアミン成分は、特にその構造は限定されない。
上記式(1)の構造を持つ重合体の重合に用いられるジアミンは以下の式(3)で一般式化出来る。Yの構造を例示すると、以下の(Y-1)~(Y-184)の通りである。
【0021】
【化4】
【0022】
上記式(3)のA及びAは好ましい例も含めて、上記式(1)のA及びAと同様の定義である。
【0023】
【化5】
【0024】
【化6】
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
【化9】
【0028】
【化10】
【0029】
【化11】
【0030】
【化12】
【0031】
【化13】
【0032】
【化14】
【0033】
【化15】
【0034】
【化16】
【0035】
【化17】
【0036】
【化18】
【0037】
【化19】
【0038】
【化20】
【0039】
【化21】
【0040】
【化22】
【0041】
【化23】
【0042】
【化24】
【0043】
また、液晶配向性の観点から、Yの構造としては直線性の高い構造が好ましく、下記式(4)及び下記式(5)で表される構造が挙げられる。
【0044】
【化25】
【0045】
式(4)及び(5)において、Aは単結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、又は炭素数2~20の2価の有機基であり、Aは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、リン酸基、又は炭素数1~20の1価の有機基であり、aは1~4の整数であり、aが2以上の場合、 の構造は同一でも異なってもよい。b及びcはそれぞれ独立して1~2の整数である。
【0046】
上記式(4)及び上記式(5)で表される構造の具体例としては、Y-7、Y-25,Y-26、Y-27、Y-43、Y-44、Y-45、Y-46、Y-48、Y-71、Y-72、Y-73、Y-74,Y-75,Y-76、Y-82、Y-87、Y-88、Y-89、Y-90、Y-92、Y-93、Y-94、Y-95、Y-96、Y-100、Y-101、Y-102,Y-103、Y-104,Y-105、Y-106、Y-110、Y-111、Y-112、Y-113、Y-115、Y-116、Y-121、Y-122、Y-126、Y-127、Y-128、Y-129、Y-132、Y-134、Y-153、Y-156、Y-157、Y-158、Y-159、Y-160、Y-161、Y-162、Y-163、Y-164、Y-165、Y-166、Y-167、Y-168、Y-169、及びY-170が挙げられる。
【0047】
上記式(4)及び上記式(5)で表されるジアミンの含有量は、全ジアミン成分1モルに対して、50%以上が好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。
ポリマーの溶解性が向上するという観点で、Yの構造中に、下記式(6)で表される構造を含むことが好ましい。
【0048】
【化26】
【0049】
上記式(6)において、Dは、加熱により水素原子に置き換わる置換基であり、公知の構造であれば、その構造が限定されない。熱脱離性の観点から、t-ブトキシカルボニル基が好ましい。上記式(6)で表される構造を含むYの具体例としては、Y-158、Y-159、Y-160、Y-161、Y-162、Y-163が挙げられる。
上記式(6)の構造を含むジアミンの含有量は、全ジアミン成分1モルに対して、0~50モル%が好ましく、5~30モル%がより好ましい。
【0050】
また、Yの構造として、(Y-1)~(Y-184)の中で特に好ましいのは以下の通りである。
【0051】
【化27】
【0052】
<テトラカルボン酸誘導体>
本発明の液晶配向剤に含有される、上記式(1)の構造単位を有する重合体を作製するためのテトラカルボン酸誘導体成分としては、テトラカルボン酸二無水物だけでなく、そのテトラカルボン酸誘導体であるテトラカルボン酸、テトラカルボン酸ジハライド化合物、テトラカルボン酸ジアルキルエステル化合物またはテトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライド化合物を用いることもできる。
【0053】
テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体としては、光反応性を有するテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体が好ましく、その中でも、下記式(7)で示されるテトラカルボン酸二無水物から選ばれる少なくとも1つを用いることがより好ましい。
【0054】
【化28】
【0055】
は、脂環式構造を有する4価の有機基であり、具体例としては、下記式(X1-1)~(X1-10)が挙げられる。
【0056】
【化29】
【0057】
からR23はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基であり、同一でも異なってもよい。液晶配向性の観点から、RからR23は、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、又はエチル基が好ましく、水素原子、又はメチル基がより好ましい。式(X1-1)の具体的な構造としては、下記式(X1-11)~(X1-16)で表される構造が挙げられる。液晶配向性及び光反応の感度の観点から、(X1-12)が特に好ましい。
【0058】
【化30】
【0059】
本発明に用いられるテトラカルボン酸二無水物は、上記式(7)以外に、下記式(8)で表されるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体を用いてもよい。
【0060】
【化31】
【0061】
は4価の有機基であり、その構造は特に限定されない。具体例を挙げるならば、下記式(X-9)~(X-42)の構造が挙げられる。化合物の入手性の観点から、Xの構造は、X-17、X-25、X-26、X-27、X-28、X-32、X-35、X-37及びX-39が挙げられる。また、直流電圧により蓄積した残留電荷の緩和が早い液晶配向膜を得られるという観点から芳香族環構造を有するテトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましく、Xの構造としては、X-26、X-27、X-28、X-32、X-35、及びX-37がより好ましい。
【0062】
【化32】
【0063】
【化33】
【0064】
【化34】
【0065】
【化35】
【0066】
【化36】
【0067】
本発明に記載のポリイミド前駆体及びポリイミドの原料であるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体としては、全テトラカルボン酸二無水物及びその誘導体1モルに対して、上記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体を60~100モル%含むことが好ましい。良好な液晶配向性を有する液晶配向膜が得られるため、80モル%~100モル%がより好ましく、90モル%~100モル%がさらに好ましい。
<(B)成分>
本発明の液晶配向剤に含有される(B)成分は、下記式(2)の構造を2つ以上有する化合物である。
(B)成分は、下記式(2)で表される構造を2つ以上含めば、その構造は、特に、限定されない。分子量が高すぎると、液晶配向性の影響を与えるため、分子量2,000以下が好ましく、1,000以下がより好ましい。
【0068】
【化37】
【0069】
は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素数2~6のアルキニル基である。液晶配向性の観点から、Zは、メチル基、エチル基が好ましく、より好ましくは、メチル基である。
は、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素数2~6のアルキニル基である。架橋反応性の観点から、水素原子がより好ましい。「*」は結合手を示す。
(B)成分としては、上記式(2)で表される構造を2つ以上有する化合物が好ましく、3つ以上有する化合物がより好ましい。
また、(B)成分としては、下記式(B1-1)で表される構造を2つ以上有する化合物であることが好ましい。
【0070】
【化38】
【0071】
は好ましい例も含めて、式(2)と同様の定義である。(B)成分の具体的な例としては、下記式(B-1)~(B-18)の化合物が挙げられる。
【0072】
【化39】
【0073】
【化40】
【0074】
上記(B)成分は、多すぎると液晶配向性やプレチルト角に影響を与え、少なすぎると本発明の効果が得られない。そのため、(B)成分の添加量は、(A)成分の重合体に対して、0.1~30質量%が好ましく、0.1~20質量%、さらに1~15質量%がより好ましい。
<ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸及びポリイミドの製造方法>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステル、ポリアミック酸及びポリイミドは、例えば、国際公開公報WO2013/157586に記載されるような公知の方法で合成出来る。
【0075】
<液晶配向剤>
本発明に用いられる液晶配向剤は、前記した(A)成分であるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体(以下、特定構造の重合体とする)及び(B)成分の化合物が有機溶媒中に溶解された溶液の形態を有する。特定構造重合体の分子量は、重量平均分子量で2,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~300,000であり、さらに好ましくは、10,000~100,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、1,000~250,000であり、より好ましくは、2,500~150,000であり、さらに好ましくは、5,000~50,000である。
【0076】
本発明に用いられる液晶配向剤の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点から1重量%以上であることが好ましく、溶液の保存安定性の点からは10重量%以下とすることが好ましい。
【0077】
本発明に用いられる液晶配向剤に含有される有機溶媒は、重合体成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。その具体例を挙げるならば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。また、単独では重合体成分を均一に溶解できない溶媒であっても、重合体が析出しない範囲であれば、上記の有機溶媒に混合してもよい。
【0078】
本発明に用いられる液晶配向剤は、重合体成分を溶解させるための有機溶媒の他に、液晶配向剤を基板へ塗布する際の塗膜均一性を向上させるための溶媒を含有してもよい。かかる溶媒は、一般的に上記有機溶媒よりも低表面張力の溶媒が用いられる。その具体例としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、1-フェノキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート、プロピレングリコール-1-モノエチルエーテル-2-アセテート、ブチルセロソルブアセテート、ジプロピレングリコール、2-(2-エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル等が挙げられる。これらの溶媒は2種以上を併用してもよい。
【0079】
本発明の液晶配向剤には、上記の他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、特定重合体以外の重合体、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的の誘電体若しくは導電物質、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる目的のシランカップリング剤、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的の架橋性化合物、さらには塗膜を焼成する際にポリアミック酸のイミド化を効率よく進行させる目的のイミド化促進剤等を添加しても良い。
<液晶配向膜>
<液晶配向膜の製造方法>
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥、焼成して得られる膜である。本発明の液晶配向剤を塗布する基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板、ポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができ、液晶駆動のためのITO電極等が形成された基板を用いることがプロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極はアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0080】
本発明の液晶配向剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられる。本発明の液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択することができる。通常は、含有される有機溶媒を十分に除去するために50℃~120℃で1分~10分間乾燥させ、その後150℃~300℃で5分~120分間焼成される。焼成後の塗膜の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5~300nm、好ましくは10~200nmである。
【0081】
得られた液晶配向膜を配向処理する方法としては、ラビング法、光配向処理法などが挙げられる。
ラビング処理は既存のラビング装置を利用して行うことができる。この際のラビング布の材質としては、コットン、ナイロン、レーヨンなどが挙げられる。ラビング処理の条件としては一般に、回転速度300~2,000rpm、送り速度5~100mm/s、押し込み量0.1~1.0mmという条件が用いられる。その後、純水やアルコールなどを用いて超音波洗浄によりラビングにより生じた残渣が除去される。
【0082】
光配向処理法の具体例としては、前記塗膜表面に、一定方向に偏向した放射線を照射し、場合によってはさらに150~250℃の温度で加熱処理を行い、液晶配向能を付与する方法が挙げられる。放射線としては、100nm~800nmの波長を有する紫外線および可視光線を用いることができる。このうち、100nm~400nmの波長を有する紫外線が好ましく、200nm~400nmの波長を有するものが特に好ましい。また、液晶配向性を改善するために、塗膜基板を50~250℃で加熱しつつ、放射線を照射してもよい。前記放射線の照射量は、1~10,000mJ/cmが好ましく、100~5,000mJ/cmが特に好ましい。上記のようにして作製した液晶配向膜は、液晶分子を一定の方向に安定して配向させることができる。
【0083】
偏光された紫外線の消光比が高いほど、より高い異方性が付与できるため、好ましい。具体的には、直線に偏光された紫外線の消光比は、10:1以上が好ましく、20:1以上がより好ましい。
【0084】
上記で、偏光された放射線を照射した膜は、次いで水及び有機溶媒から選ばれる少なくとも1種を含む溶媒で接触処理してもよい。
【0085】
接触処理に使用する溶媒としては、光照射によって生成した分解物を溶解できれば、特に限定されない。具体例としては、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸メチル、ジアセトンアルコール、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及び酢酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を併用してもよい。
汎用性や安全性の点から、水、2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール及び乳酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。水、2-プロパノール、及び水と2-プロパノールの混合溶媒が特に好ましい。
【0086】
本発明において、偏光された放射線を照射した膜と有機溶媒を含む溶液との接触処理は、浸漬処理、噴霧(スプレー)処理などの、膜と液とが好ましくは十分に接触するような処理で行なわれる。なかでも、有機溶媒を含む溶液中に膜を、好ましくは10秒~1時間、より好ましくは1~30分浸漬処理する方法が好ましい。接触処理は常温でも加温してもよいが、好ましくは10~80℃、より好ましくは20~50℃で実施される。また、必要に応じて超音波などの接触を高める手段を施すことができる。
【0087】
上記接触処理の後に、使用した溶液中の有機溶媒を除去する目的で、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトンなどの低沸点溶媒によるすすぎ(リンス)や乾燥のいずれか、又は両方を行ってよい。
さらに、上記で溶媒による接触処理をした膜は、溶媒の乾燥及び膜中の分子鎖の再配向を目的に150℃以上で加熱してもよい。
加熱の温度としては、150~300℃が好ましい。温度が高いほど、分子鎖の再配向が促進されるが、温度が高すぎると分子鎖の分解を伴う恐れがある。そのため、加熱温度としては、180~250℃がより好ましく、200~230℃が特に好ましい。
加熱する時間は、短すぎると分子鎖の再配向の効果が得られない可能性があり、長すぎると分子鎖が分解してしまう可能性があるため、10秒~30分が好ましく、1分~10分がより好ましい。
【0088】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、前記液晶配向膜の製造方法によって得られた液晶配向膜を具備することを特徴とする。
本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤から前記液晶配向膜の製造方法によって液晶配向膜付きの基板を得た後、公知の方法で液晶セルを作製し、それを使用して液晶表示素子としたものである。
【0089】
液晶セル作製方法の一例として、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。尚、画像表示を構成する各画素部分にTFT(Thin Film Transistor)などのスイッチング素子が設けられたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子であってもよい。
【0090】
まず、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えばITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされる。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル-ゲル法によって形成されたSiO-TiOからなる膜とすることができる。
【0091】
次に、各基板の上に、本発明の液晶配向膜を形成する。次に、一方の基板に他方の基板を互いの配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール剤で接着する。シール剤には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサーを混入しておく。また、シール剤を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサーを散布しておくことが好ましい。シール剤の一部には、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておく。
【0092】
次に、シール剤に設けた開口部を通じて、2枚の基板とシール剤で包囲された空間内に液晶材料を注入する。その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付ける。以上の工程を経ることにより、本発明の液晶表示素子が得られる。
【0093】
本発明において、シール剤としては、例えば、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、ヒドロキシル基、アリル基、アセチル基などの反応性基を有する紫外線照射や加熱によって硬化する樹脂が用いられる。特に、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基の両方の反応性基を有する硬化樹脂系を用いるのが好ましい。
【0094】
本発明のシール剤には接着性、耐湿性の向上を目的として無機充填剤を配合してもよい。使用しうる無機充填剤としては特に限定されないが、具体的には球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられ、好ましくは球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウムである。前記の無機充填剤は2種以上を混合して用いても良い。
【実施例
【0095】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下における化合物の略号及び各特性の測定方法は、次のとおりである。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
GBL:γ―ブチロラクトン
BCS:ブチルセロソルブ
DA-1:1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン
DA-2:N-tert-ブトキシカルボニル-N-(2-(4-アミノフェニル)エチル)-N-(4-アミノベンジル)アミン
DA-3:p-フェニレンジアミン
DA-4:下記式(DA-4)参照
DA-5:4,4’ジアミノジフェニルアミン
DA-6:4,4’ジアミノジフェニルメタン
CA-1:下記式(CA-1)参照
CA-2:下記式(CA-2)参照
CA-3:下記式(CA-3)参照
AD-1:下記式(AD-1)参照
AD-2:下記式(AD-2)参照
【0096】
【化41】
【0097】
【化42】
【0098】
【化43】
【0099】
[粘度]
溶液の粘度は、E型粘度計TVE-22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE-1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0100】
[分子量]
分子量はGPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として数平均分子量(Mnと重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0101】
GPC装置:Shodex社製(GPC-101)、カラム:Shodex社製(KD803、KD805の直列)、カラム温度:50℃、溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム-水和物(LiBr・HO)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10mL/L)、流速:1.0mL/分。
【0102】
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量(Mw) 約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)約12,000、4,000、1,000)。測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000、1,000の4種類を混合したサンプル、及び150,000、30,000、4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々に測定した。
【0103】
<イミド化率の測定>
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(NMRサンプリングチューブスタンダード,φ5(草野科学社製))に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6,0.05%TMS(テトラメチルシラン)混合品)(0.53mL)を添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。この溶液をNMR測定機(JNW-ECA500)(日本電子データム社製)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5ppm~10.0ppm付近に現れるアミド酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い以下の式によって求めた。
【0104】
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
上記式において、xはアミド酸のNH基由来のプロトンピーク積算値、yは基準プロトンのピーク積算値、αはポリアミド酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミド酸のNH基プロトン1個に対する基準プロトンの個数割合である。
【0105】
[液晶セルの作製]
フリンジフィールドスィッチング(Fringe Field Switching:FFS)モード液晶表示素子の構成を備えた液晶セルを作製する。
【0106】
始めに、電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×50mmの大きさで、厚さが0.7mmのガラス基板である。基板上には第1層目として対向電極を構成する、ベタ状のパターンを備えたITO電極が形成されている。第1層目の対向電極の上には第2層目として、CVD法により成膜されたSiN(窒化珪素)膜が形成されている。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目としてITO膜をパターニングして形成された櫛歯状の画素電極が配置され、第1画素及び第2画素の2つの画素を形成している。各画素のサイズは、縦約10mmで横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により電気的に絶縁されている。
【0107】
第3層目の画素電極は、中央部分が屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極が、中央部分の屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成されているため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字のくの字に似た形状を備える。そして、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
【0108】
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する液晶配向膜のラビング方向を基準とした場合、画素の第1領域では画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成され、画素の第2領域では画素電極の電極要素が-10°の角度(時計回り)をなすように形成されている。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される液晶の、基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が互いに逆方向となるように構成されている。
【0109】
次に、液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板と、裏面にITO膜が成膜されている高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板に、スピンコート法により塗布した。80℃のホットプレート上で2分間乾燥させ、塗膜面に偏光板を介して消光比10:1以上の直線偏光した波長254nmの紫外線を照射した後、230℃の熱風循環式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させた。上記2枚の基板を一組とし、基板上にシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合い配向方向が0°になるようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-3019(メルク社製)を注入し、注入口を封止して、液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを110℃で1時間加熱し、一晩放置してから評価に使用した。
【0110】
[黒輝度評価]
上記した液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。その後、電圧無印加の状態での透過光の輝度(黒輝度)を輝度計(TOPCON製SR-UL2)を用いて測定した。
【0111】
[鉛筆硬度の評価]
鉛筆硬度評価のサンプルは、以下のように作製した。30mm×40mmのITO基板に、スピンコート法により液晶配向剤を塗布した。80℃のホットプレート上で2分間乾燥させ、塗膜面に偏光板を介して消光比10:1以上の直線偏光した波長254nmの紫外線を照射した後、230℃の熱風循環式オーブンで20分間焼成を行い、液晶配向膜付き基板を得た。この基板を鉛筆硬度試験法(JIS K5400)で測定した。
【0112】
<合成例1>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの100mL四つ口フラスコに、DA-1を3.91g(16.0mmol)、DA-2を2.19g(6.41mmol)、DA-3を0.519g(4.80mmol)、DA-4を1.54g(4.81mmol)を取り、NMPを46.2g加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-1を5.70g(25.4mmol)、CA-2を1.20g(4.80mmol)添加し、更に固形分濃度が15質量%になるようにNMPを39.1g加え、40℃で24時間撹拌してポリアミック酸溶液(A)(粘度:450mPa・s)を得た。ポリアミック酸の分子量は、Mn=11200、Mw=26900であった。
【0113】
<合成例2>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの100mL四つ口フラスコに、DA-5を5.10g(25.6mmol)、DA-6を1.27g(6.41mmol)を取り、NMPを36.1g加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-2を4.00g(16.0mmol)、CA-3を4.42g(15.0mmol)添加し、更に固形分濃度が15質量%になるようにNMPを47.7g加え、50℃で24時間撹拌してポリアミック酸溶液(B)(粘度:904mPa・s)を得た。ポリアミック酸の分子量は、Mn=14600、Mw=37500であった。
【0114】
<合成例3>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの100mL四つ口フラスコに得られたポリアミック酸溶液(A)を30g取り、NMPを15.0g加え、30分撹拌した。得られたポリアミック酸溶液に、無水酢酸を4.89g、ピリジンを1.51g加えて、50℃で2時間30分加熱し、化学イミド化を行った。得られた反応液を154mLのメタノールに撹拌しながら投入し、析出した沈殿物をろ取し、続いて、154mLのメタノールで3回洗浄した。得られた樹脂粉末を60℃で12時間乾燥することで、ポリイミド樹脂粉末(A)を得た。このポリイミド樹脂粉末のイミド化率は64%であり、Mn=9900、Mw=20000であった。
【0115】
<合成例4>
合成例3で得られたポリイミド樹脂粉末(A)3.00gを100mL三角フラスコに取り、固形分濃度が12%になるようにNMPを22.0g加え、70℃で24時間撹拌し溶解させてポリイミド溶液(A)を得た。
【0116】
<実施例1>
合成例4で得られたポリイミド溶液(A)3.80gと合成例2で得られたポリアミック酸溶液(B)4.56gを100mL三角フラスコに取り、AD-1を0.114g、NMPを1.64g、GBLを6.00g、BCSを4.00g添加して室温で3時間撹拌し、液晶配向剤(1)を得た。この液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0117】
<比較例1>
合成例4で得られたポリイミド溶液(A)3.80gと合成例2で得られたポリアミック酸溶液(B)4.56gを100mL三角フラスコに取り、NMPを1.64g、GBLを6.00g、BCSを4.00g添加して室温で3時間撹拌し、液晶配向剤(2)を得た。この液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0118】
<比較例2>
合成例4で得られたポリイミド溶液(A)3.80gと合成例2で得られたポリアミック酸溶液(B)4.56gを100mL三角フラスコに取り、AD-2を0.114g、NMPを1.64g、GBLを6.00g、BCSを4.00g添加して室温で3時間撹拌し、液晶配向剤(1)を得た。この液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
<実施例2>
実施例1で得られた液晶配向剤(1)を1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板と裏面にITO膜が成膜されている高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板に、スピンコート法により塗布した。80℃のホットプレート上で2分間乾燥させ、塗膜面に偏光板を介して消光比26:1の直線偏光した波長254nmの紫外線を0.25J/cm照射した後、230℃の熱風循環式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜付き基板を得た。
得られた上記2枚の基板を一組とし、基板上にシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合い配向方向が0°になるようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-3019(メルク社製)を注入し、注入口を封止して、液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを110℃で1時間加熱し、一晩放置してから黒輝度の評価を実施した。この液晶セルの電圧無印加状態での透過光の輝度は27cd/mであった。
【0119】
<比較例3~4>
液晶配向剤(1)の代わりに、それぞれ、表1に示した液晶配向剤を用いた以外は、実施例2と同様の方法で液晶セルを作製し、黒輝度の評価を実施した。それぞれ得られた液晶セルの電圧無印加状態での透過光の輝度を、表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
<実施例3>
実施例1で得られた液晶配向剤(1)を1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板と裏面にITO膜が成膜されている高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板に、スピンコート法により塗布した。80℃のホットプレート上で2分間乾燥させ、塗膜面に偏光板を介して消光比26:1の直線偏光した波長254nmの紫外線を0.25J/cm照射した後、230℃の熱風循環式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜付き基板を得た。この基板を鉛筆硬度試験法(JIS K5400)で測定した結果、3Hであった。
【0122】
<比較例5~6>
液晶配向剤(1)の代わりに、それぞれ、表2に示した液晶配向剤を用いた以外は、実施例3と同様にして鉛筆硬度試験用のサンプルをそれぞれ作製した。それぞれの鉛筆硬度試験の評価を行った結果を、表2に示す。
【0123】
【表2】