(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20221214BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20221214BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20221214BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20221214BHJP
C10M 137/12 20060101ALN20221214BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20221214BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221214BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20221214BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20221214BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20221214BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20221214BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20221214BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20221214BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20221214BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/02
C10M133/12
C10M129/10
C10M137/12
C10N20:00 A
C10N30:00 Z
C10N30:04
C10N30:08
C10N30:10
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:12
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2018070292
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徳栄
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280540(JP,A)
【文献】特表2010-509472(JP,A)
【文献】特開2004-182391(JP,A)
【文献】特開2016-193994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留曲線における留出量2.0体積%と5.0体積%の2点間での蒸留温度の温度勾配Δ|Dt|が6.8℃/体積%以下であ
り、40℃における動粘度が19.8~110mm
2
/sであり、粘度指数が90以上160未満であり、パラフィン分(%C
P
)が60以上である鉱油系基油(A)と、
アミン系酸化防止剤(B1)、フェノール系酸化防止剤(B2)、及びリン系酸化防止剤(B3)を含む酸化防止剤(B)と、
を含む潤滑油組成物であって、
成分(B1)は、下記一般式(b1-1)で表される化合物(B11)及び下記一般式(b1-2)で表される化合物(B12)から選ばれる1種以上を含み、
【化1】
(上記一般式(b1-1)及び(b1-2)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基を示す。
また、p1、p2及びp3は、それぞれ独立に、1~5の整数である。)
前記フェノール系酸化防止剤(B2)は、一分子中に下記式(b2-0)で表される構造を少なくとも一つ有するヒンダードフェノール化合物であり、
【化2】
(上記式(b2-0)中、*は結合位置を示す。)
前記リン系酸化防止剤(B3)は、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(B31)を含み、該化合物(B31)は、下記一般式(b3-1)で表される化合物であり、
【化3】
(上記一般式(b3-1)中、R
11、R
12、R
13及びR
14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~30のアルキル基である。)
成分(B1)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.50~3.5質量%であり、
成分(B2)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.30~3.5質量%であり、
成分(B3)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.06~1.0質量%であり、
鉱油系基油(A)の留出量2.0体積%での蒸留温度が405~510℃であり、
鉱油系基油(A)の留出量5.0体積%での蒸留温度が425~550℃である、
潤滑油組成物。
【請求項2】
成分(B1)に対する成分(B2)の含有量比〔(B2)/(B1)〕が、質量比で、0.1~5.0である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
成分(B1)に対する成分(B3)の含有量比〔(B3)/(B1)〕が、質量比で、0.01~0.60である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
成分(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、1.0~4.0質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン、ガスタービン等のタービン、回転式ガス圧縮機、及び油圧機器等の機器に使用される潤滑油組成物は、高温環境下の系内を長期間循環しながら使用される。
これらの機器に使用される当該潤滑油組成物は、高温環境下で使用すると徐々に酸化防止性能の低下が見られ、長期間使用することが難しい場合が多い。そのため、高温環境下で長期間の使用に対しても酸化安定性を良好に維持し得る潤滑油組成物が求められている。このような要求に対応し得る、タービンや回転式ガス圧縮機、油圧機器等に好適に使用可能な潤滑油組成物について様々な開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、粘度指数120以上の潤滑油基油と、フェニル-α-ナフチルアミン又はその誘導体と、p,p’-ジアルキルジフェニルアミン又はその誘導体と、粘度指数向上剤とを含有する、回転式ガス圧縮機用潤滑油組成物が開示されている。
特許文献1によれば、当該潤滑油組成物は、高温下で使用された場合であっても、熱・酸化安定性と抗スラッジ性の双方を高水準で達成すると同時に、省エネルギー効果に優れる回転ガス圧縮機用潤滑油組成物となり得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の潤滑油組成物は、高温環境下で長期間の使用に対して、酸化安定性の向上という観点では、更なる改良の余地がある。
また、タービンや回転式ガス圧縮機、油圧機器等に使用される潤滑油組成物には、使用に伴って生じ得るスラッジの生成に対する抑制効果も求められる。特に、高温環境下での長期間の使用は、スラッジが生成し易い環境であるといえる。
生じたスラッジは、例えば、回転体の軸受に付着することで発熱して軸受の損傷を招く恐れや、循環ライン中に設けられたフィルタの目詰まりの発生、制御バルブにスラッジが堆積することによる制御系統の作動不良等の要因となることが多い。
本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の潤滑油組成物は、高温環境下で長期間使用した際のスラッジ生成に対する抑制効果が不十分であることが分かった。
そのため、高温環境下で長期間使用した際に、優れた酸化安定性が維持され、スラッジ生成に対する抑制効果が高い、長寿命な潤滑油組成物が求められている。
【0006】
本発明は、高温環境下で長期間の使用に対しても、優れた酸化安定性が維持され、長期間にわたりスラッジ生成に対する抑制効果が高い、長寿命な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、蒸留曲線における留出量2.0体積%と5.0体積%の2点間での蒸留温度の温度勾配を所定値以下となるように調製した鉱油系基油と、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、及び所定量のリン系酸化防止剤を含む酸化防止剤とを含有する潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記〔1〕を提供する。
〔1〕蒸留曲線における留出量2.0体積%と5.0体積%の2点間での蒸留温度の温度勾配Δ|Dt|が6.8℃/体積%以下である鉱油系基油(A)と、
アミン系酸化防止剤(B1)、フェノール系酸化防止剤(B2)、及びリン系酸化防止剤(B3)を含む酸化防止剤(B)と、
を含む潤滑油組成物であって、
成分(B3)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.06~1.0質量%である、
潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑油組成物は、高温環境下で長期間の使用に対しても、優れた酸化安定性が維持され、長期間にわたりスラッジ生成に対する抑制効果が高く、長寿命な潤滑油組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔潤滑油組成物〕
本発明の潤滑油組成物は、蒸留曲線における留出量2.0体積%と5.0体積%の2点間での蒸留温度の温度勾配Δ|Dt|が6.8℃/体積%以下である鉱油系基油(A)と、アミン系酸化防止剤(B1)、フェノール系酸化防止剤(B2)、及びリン系酸化防止剤(B3)を含む酸化防止剤(B)と、を含有する。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに合成油や、酸化防止剤以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
【0011】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分について説明する。
【0012】
<鉱油系基油(A)>
本発明の潤滑油組成物に含まれる鉱油系基油(A)は、蒸留曲線における留出量2.0体積%と5.0体積%の2点間での蒸留温度の温度勾配Δ|Dt|(以下、単に「温度勾配Δ|Dt|」ともいう)が6.8℃/体積%以下に調製されたものである。
【0013】
一般的な鉱油は、精製処理でも除去できない軽質分が含まれており、その軽質分は、長時間の使用に伴い、酸性物質に変化して、スラッジ生成の要因となる物質のスラッジ化を促進させる存在となり、酸化安定性の低下を引き起こすことがある。
なお、軽質分は、過度の精製処理を行っても完全な除去は難しく、かえって得られる潤滑油組成物の各種性状を悪化させてしまう場合もある。
また、鉱油中に含まれるワックス分の構造や分子量によっては、若干の軽質分が存在していたとしても、その軽質分に起因する弊害が抑えられる場合もあることが分かった。
【0014】
ここで、上記温度勾配は、このような軽質分の含有量と、ワックス分の構造等の鉱油の状態との関係を考慮したパラメータである。
鉱油の蒸留曲線において、留出量が2体積%未満の初留点付近では、蒸留曲線の挙動にバラツキがあり、鉱油の状態を正確に評価することが難しい。
また、留出量が10~20体積%では、蒸留曲線の変動は安定化しているが、蒸留点が、既に軽質分が排出される温度まで達しているため、上述の鉱油の状態を正確に評価できない。
【0015】
これに対して、本発明者は、鉱油系基油(A)の蒸留曲線における留出量2.0体積%と5.0体積%の2点間での蒸留温度の温度勾配Δ|Dt|に着目した。
留出量が2.0~5.0体積%では、蒸留曲線の変動は安定化しており、軽質分も残存している温度領域であるため、鉱油系基油の軽質分とワックス分の状態を、正確に評価することができる。
本発明者の検討によれば、蒸留曲線における留出量2.0体積%と5.0体積%の2点間での蒸留温度の温度勾配Δ|Dt|が6.8℃/体積%以下に調製した鉱油系基油(A)を用いることで、従来の鉱油に比べて、酸化安定性をより向上させた潤滑油組成物とすることができることが分った。
このような効果が発現するのは、鉱油系基油(A)は、軽質分が低減されていること、及び、若干の軽質分が含まれていたとしても、鉱油系基油(A)中のワックス分によって、その軽質分による弊害が抑制されていることによると考えられる。
【0016】
本発明の一態様で用いる鉱油系基油(A)の上記温度勾配Δ|Dt|は、酸化安定性により優れた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは6.5℃/体積%以下、より好ましくは6.3℃/体積%以下、更に好ましくは6.0℃/体積%以下、より更に好ましくは5.0℃/体積%以下であり、また、通常は0.1℃/体積%以上である。
【0017】
なお、本明細書において、上記温度勾配Δ|Dt|は、下記式から算出された値を意味する。
・温度勾配Δ|Dt|(℃/体積%)=|[鉱油系基油の留出量5.0体積%となる蒸留温度(℃)]-[鉱油系基油の留出量2.0体積%となる蒸留温度(℃)]|/3.0(体積%)
上記式中の「鉱油系基油の留出量5.0体積%及び2.0体積%となる蒸留温度」は、ASTM D6352に準拠した方法により測定された値であって、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0018】
本発明の一態様で用いる鉱油系基油(A)の留出量2.0体積%での蒸留温度としては、好ましくは405~510℃、より好ましくは410~500℃、更に好ましくは415~490℃、より更に好ましくは430~480℃である。
【0019】
また、本発明の一態様で用いる鉱油系基油(A)の留出量5.0体積%での蒸留温度としては、好ましくは425~550℃、より好ましくは430~520℃、更に好ましくは434~500℃、より更に好ましくは450~490℃である。
【0020】
本発明で用いる鉱油系基油(A)は、例えば、パラフィン系原油、中間系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;当該常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げ、溶剤脱ろう、接触脱ろう、異性化脱ろう、減圧蒸留等の精製処理の一つ以上の処理を施した鉱油;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(GTL);等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
これらの中でも、本発明の一態様で用いる鉱油系基油(A)は、パラフィン系鉱油であることが好ましい。
本発明の一態様で用いる鉱油系基油(A)のパラフィン分(%CP)としては、通常50以上、好ましくは55以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは65以上、より更に好ましくは70以上であり、また、通常99以下である。
なお、本明細書において、パラフィン分(%CP)は、ASTM D-3238環分析(n-d-M法)に準拠して測定された値を意味する。
【0022】
ここで、鉱油系基油(A)の温度勾配Δ|Dt|を、上述の範囲に調製するには、以下の事項を適宜考慮することで、調製可能である。なお、以下の事項は、あくまで一例であって、これら以外の事項も考慮して調製してもよい。
・原料油として原油を用いる場合、API度で分類される、いわゆる中質原油や重質原油を用いることが好ましく、重質原油を用いることがより好ましい。
・原料油を蒸留する際の蒸留塔の段数、リフラックス流量を適宜調整する。
・原料油を蒸留する際に、蒸留曲線の5体積%留分が425℃以上となるような蒸留温度で蒸留する。
・原料油に対して、水素化異性化脱ろう工程を含む精製処理を経ることが好ましく、水素化異性化脱ろう工程及び水素化仕上げ工程を含む精製処理を経ることがより好ましい。
・水素化異性化脱ろう工程における、水素ガスの供給割合としては、供給する原料油1キロリットルに対して、好ましくは200~500Nm3、より好ましくは250~450Nm3、更に好ましくは300~400Nm3である。
・水素化異性化脱ろう工程における、水素分圧としては、好ましくは5~25MPa、より好ましくは7~20MPa、更に好ましくは10~15MPaである。
・水素化異性化脱ろう工程における、液時空間速度(LHSV)としては、好ましくは0.2~2.0hr-1、より好ましくは0.3~1.5hr-1、更に好ましくは0.5~1.0hr-1である。
・水素化異性化脱ろう工程における、反応温度としては、好ましくは250~450℃、より好ましくは270~400℃、更に好ましくは300~350℃である。
【0023】
本発明の一態様で用いる鉱油系基油(A)の40℃における動粘度としては、好ましくは19.8~110mm2/s、より好ましくは28.8~90.0mm2/s、更に好ましくは35.0~80.0mm2/s、より更に好ましくは41.4~74.8mm2/sである。
【0024】
本発明の一態様で用いる鉱油系基油(A)の粘度指数としては、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上、より更に好ましくは110以上であり、また、好ましくは160未満、より好ましくは155以下、更に好ましくは150以下、より更に好ましくは145以下である。
【0025】
なお、本明細書において、「動粘度」及び「粘度指数」は、JIS K2283:2000に準拠して測定された値である。
【0026】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、鉱油系基油(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上であり、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、更に好ましくは98.0質量%以下である。
【0027】
<合成油>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに合成油を含有してもよい。
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリオールエステル、二塩基酸エステル(例えば、ジトリデシルグルタレート等)、三塩基酸エステル(例えば、トリメリット酸2-エチルヘキシル)、リン酸エステル等の各種エステル;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;等が挙げられる。
【0028】
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、合成油の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0~30質量%である。
【0029】
<酸化防止剤(B)>
本発明の潤滑油組成物に含まれる酸化防止剤(B)は、アミン系酸化防止剤(B1)、フェノール系酸化防止剤(B2)、及びリン系酸化防止剤(B3)を含む。
アミン系酸化防止剤(B1)を含有する潤滑油組成物は、高温環境下で優れた酸化防止性能を発現することができる。
しかしながら、アミン系酸化防止剤(B1)のみでは、タービンや回転式ガス圧縮機、油圧機器等のような高温環境下で長期間の使用を想定した潤滑油組成物に要求される酸化安定性を発現させることは難しく、寿命の低下が問題となる。また、高温環境下での使用に伴い生じ得るスラッジの抑制効果にも問題がある。
これに対して、本発明者は、検討したところ、アミン系酸化防止剤(B1)と共に、フェノール系酸化防止剤(B2)及びリン系酸化防止剤(B3)を含有することで、高温環境下で長期間の使用にも適用し得る高い酸化安定性を発現し、従来に比べて更に長寿命化した潤滑油組成物となり得ることを見い出した。また、さらにスラッジ抑制効果にも優れた潤滑油組成物となり得ることも分かった。
【0030】
つまり、本発明では、酸化防止剤(B)として、アミン系酸化防止剤(B1)、フェノール系酸化防止剤(B2)、及びリン系酸化防止剤(B3)を組み合わせて用いることで、高温環境下で長期間の使用に対して優れた酸化安定性を有し、従来に比べて更に長寿命化し、更に優れたスラッジ抑制効果も有する潤滑油組成物としている。
【0031】
なお、本発明の潤滑油組成物において、成分(B3)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.06~1.0質量%であることを要する。
成分(B3)の含有量が0.06質量%未満である場合、高温環境下で長時間の使用に伴い、酸化安定性が不十分となる。一方で、成分(B3)の含有量が1.0質量%超であると、高温環境下で長時間の使用に伴い、スラッジ生成量が増加してしまう恐れがあると共に、不溶解分が析出し易く、貯蔵安定性の低下の恐れがある。
上記観点から、本発明の潤滑油組成物において、成分(B3)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.07~0.8質量%、より好ましくは0.08~0.6質量%、更に好ましくは0.09~0.5質量%、より更に好ましくは0.1~0.4質量%である。
【0032】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B1)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~3.8質量%、より好ましくは0.50~3.5質量%、更に好ましくは0.70~3.2質量%、より更に好ましくは1.2~3.0質量%である。
成分(B1)の含有量が上記範囲内であれば、優れた酸化防止性能を効果的に発現させることができると共に、高温環境下で長期間の使用に対して、優れた酸化安定性を維持し、長寿命化した潤滑油組成物とすることができる。
【0033】
上記観点から、成分(B1)に対する成分(B3)の含有量比〔(B3)/(B1)〕が、質量比で、好ましくは0.01~0.60、より好ましくは0.03~0.40、更に好ましくは0.04~0.30である。
【0034】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B2)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~3.8質量%、より好ましくは0.30~3.5質量%、更に好ましくは0.50~3.0質量%、より更に好ましくは0.70~2.5質量%である。
成分(B2)の含有量が上記範囲内であれば、スラッジ抑制効果に優れると共に、高温環境下で長期間の使用に対して、優れた酸化安定性を維持し、長寿命化した潤滑油組成物とすることができる。
【0035】
上記観点から、成分(B1)に対する成分(B2)の含有量比〔(B2)/(B1)〕は、質量比で、好ましくは0.1~5.0、より好ましくは0.15~4.0、更に好ましくは0.2~2.5、より更に好ましくは0.25~1.8である。
【0036】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、優れた酸化防止性能を効果的に発現させることができると共に、高温環境下で長期間の使用に対して、優れた酸化安定性を維持し、長寿命化した潤滑油組成物とする観点から、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.50質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.5質量%以上、特に好ましくは1.8質量%以上であり、また、貯蔵安定性に優れた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.8質量%以下、更に好ましくは3.5質量%以下である。
【0037】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)は、成分(B1)、(B2)及び(B3)以外の酸化防止剤を含有してもよい。
ただし、優れた酸化防止性能及びスラッジ抑制効果を効果的に発現させることができると共に、高温環境下で長期間の使用に対して、優れた酸化安定性を維持し、長寿命化した潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)中の成分(B1)、(B2)及び(B3)の合計含有量としては、当該潤滑油組成物に含まれる成分(B)の全量(100質量%)に対して、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0038】
(アミン系酸化防止剤(B1))
本発明の一態様で用いるアミン系酸化防止剤(B1)としては、酸化防止性能を有し、アミノ基を有する化合物であればよい。
ただし、本明細書において、アミノ基を有し、且つリン原子を含有する化合物は、成分(B3)に属するものとし、成分(B1)とは区別される。つまり、アミン系酸化防止剤(B1)は、リン原子を含有しないものである。
また、アミン系酸化防止剤(B1)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の一態様で用いるアミン系酸化防止剤(B1)としては、酸化防止性能をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、下記一般式(b1-1)で表される化合物(B11)及び下記一般式(b1-2)で表される化合物(B12)から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、化合物(B11)及び化合物(B12)を共に含むことがより好ましい。
【0040】
【0041】
上記一般式(b1-1)及び(b1-2)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基を示す。
また、p1、p2及びp3は、それぞれ独立に、1~5の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1~2の整数、更に好ましくは1である。
なお、例えば、p1が2以上であり、R1が複数存在する場合、複数のR1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。R2及びR3が複数存在する場合においても同様である。
【0042】
前記一般式(b1-1)中のR1及びR2して選択し得るアルキル基の炭素数としては、それぞれ独立に、好ましくは1~20、より好ましくは4~16、更に好ましくは4~14である。
また、前記一般式(b1-1)中のR3として選択し得るアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~20、より好ましくは4~16、更に好ましくは6~14である。
【0043】
R1、R2及びR3して選択し得る具体的なアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、各種ノナデシル基、各種イコシル基、各種ヘンイコシル基、各種ドコシル基、各種トリコシル基、各種テトラコシル基、各種ペンタコシル基、各種ヘキサコシル基、各種ヘプタコシル基、各種オクタコシル基、各種ノナコシル基、各種トリアコンチル基、各種ヘントリアコンチル基、各種ドトリアコンチル基、各種トリトリアコンチル基、各種テトラトリアコンチル基、各種ペンタトリアコンチル基、各種ヘキサトリアコンチル基、各種ヘプタトリアコンチル基、各種オクタトリアコンチル基、各種ノナトリアコンチル基、各種テトラコンチル基等が挙げられる。
ここで、上記の「各種」との語は、対象となるアルキル基のすべての異性体を指す意味で使用した語である。
なお、当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
【0044】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B1)中の化合物(B11)及び(B12)の合計含有量としては、当該潤滑油組成物中に含まれる成分(B1)の全量(100質量%)基準で、好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%、更に好ましくは95~100質量%、より更に好ましくは98~100質量%である。
【0045】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、化合物(B11)と化合物(B12)との含有量比〔(B11)/(B12)〕としては、質量比で、好ましくは0.5~50、より好ましくは1~40、更に好ましくは3~30、より更に好ましくは5~20である。
【0046】
(フェノール系酸化防止剤(B2))
本発明の一態様で用いるフェノール系酸化防止剤(B2)としては、酸化防止性能を有し、フェノール構造を有する化合物であればよい。
ただし、本明細書において、フェノール構造を有し、且つリン原子を含有する化合物は、成分(B3)に属するものとし、成分(B2)とは区別される。つまり、フェノール系酸化防止剤(B2)は、リン原子を含有しないフェノール系化合物である。
また、フェノール系酸化防止剤(B2)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明の一態様で用いるフェノール系酸化防止剤(B2)としては、単環フェノール系化合物であってもよく、多環フェノール系化合物であってもよい。
単環フェノール系化合物としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6-ジ-t-アミル-4-メチルフェノール、ベンゼンプロパン酸-3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0048】
多環フェノール系化合物としては、例えば、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0049】
本発明の一態様で用いるフェノール系酸化防止剤(B2)としては、一分子中に下記式(b2-0)で表される構造を少なくとも一つ有するヒンダードフェノール化合物が好ましく、ベンゼンプロパン酸3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシアルキルエステル、又は、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)がより好ましい。
【0050】
【化2】
(上記式(b2-0)中、*は結合位置を示す。)
【0051】
(リン系酸化防止剤(B3))
本発明の一態様で用いるリン系酸化防止剤(B3)としては、酸化防止性能を有し、リン原子を含有する化合物であればよい。
なお、本明細書において、上述のとおり、アミノ基を有するリン原子含有化合物や、フェノール構造を有するリン原子含有化合物は、成分(B3)に属するものとする。
また、リン系酸化防止剤(B3)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
リン系酸化防止剤(B3)としては、例えば、トリデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(デシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)エチルエステル亜リン酸、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチル-1-フェニルオキシ)(2-エチルヘキシルオキシ)ホスホラス、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル等が挙げられる。
【0053】
本発明の一態様で用いるリン系酸化防止剤(B3)としては、高温環境下で長期間の使用に対して優れた酸化安定性を有し、従来に比べて更に長寿命化し、更に優れたスラッジ抑制効果も有する潤滑油組成物とする観点から、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(B31)を含むことが好ましい。
化合物(B31)としては、下記一般式(b3-1)で表される化合物が好ましい。
【0054】
【0055】
上記一般式(b3-1)中、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~30のアルキル基である。
R11~R14として選択し得るアルキル基としては、上述のR1~R3として選択し得るアルキル基と同じものが挙げられる。
ただし、R11~R14として選択し得るアルキル基の炭素数としては、それぞれ独立に、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~6である。
【0056】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B3)中の化合物(B31)の含有量としては、当該潤滑油組成物中に含まれる成分(B3)の全量(100質量%)基準で、好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%、更に好ましくは95~100質量%、より更に好ましくは98~100質量%である。
【0057】
(その他の酸化防止剤)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の成分(B1)、(B2)及び(B3)以外の酸化防止剤を含有してもよい。
ただし、高温環境下で長期間の使用に伴い発生するスラッジの析出を抑制する観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物において、金属系酸化防止剤の含有量は少ないほど好ましく、金属系酸化防止剤を実質的に含有しないことがより好ましい。
当該金属系酸化防止剤としては、例えば、ジアルキルジチオりん酸亜鉛等の亜鉛含有酸化防止剤等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、金属系酸化防止剤の含有量は、当該潤滑油組成物中の成分(B)の全量100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは5質量部未満、更に好ましくは1質量部未満、より更に好ましくは0.1質量部未満である。
【0058】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤(B)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
当該潤滑油用添加剤としては、例えば、極圧剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び摩擦調整剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0059】
なお、本明細書において、粘度指数向上剤や消泡剤等の添加剤は、ハンドリング性や鉱油系基油(A)への溶解性を考慮し、希釈油に溶解した溶液の形態で、他の成分と配合される場合がある。このような場合、本明細書においては、消泡剤や粘度指数向上剤等の添加剤の含有量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量である。
以下、上記の各潤滑油用添加剤の詳細について説明する。
【0060】
(極圧剤)
極圧剤としては、例えば、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、酸性リン酸エステル類、酸性亜リン酸エステル類等のリン系極圧剤;チオリン酸エステル類等の硫黄-リン系極圧剤;塩素化炭化水素等のハロゲン系極圧剤;有機金属系極圧剤;等が挙げられる。
なお、これらの極圧剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明の一態様の潤滑油組成物が極圧剤を含有する場合、極圧剤の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.03~5質量%、更に好ましくは0.05~1.0質量%である。
【0062】
(清浄分散剤)
清浄分散剤としては、例えば、金属スルホネート、金属サリチレート、金属フェネート、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機リン酸金属塩、コハク酸イミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
金属スルホネート等の金属塩を構成する金属としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びバリウムがより好ましく、カルシウムが更に好ましい。
なお、コハク酸イミド、ベンジルアミン、及びコハク酸エステルは、ホウ素変性物であってもよい。
【0063】
本発明の一態様の潤滑油組成物が清浄分散剤を含有する場合、清浄分散剤の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.02~7質量%、更に好ましくは0.03~5質量%である。
【0064】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が粘度指数向上剤を含有する場合、粘度指数向上剤の樹脂分換算での含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.02~7質量%、更に好ましくは0.03~5質量%である。
【0065】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、金属スルホネート、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機スルフォン酸金属塩、有機リン酸金属塩、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が防錆剤を含有する場合、防錆剤の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.03~5.0質量%である。
【0066】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が金属不活性化剤を含有する場合、金属不活性化剤の含有量としては、当該潤滑油組成物の全質量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~5.0質量%、より好ましくは0.03~3.0質量%である。
【0067】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等のフッ素系消泡剤、ポリアクリレート系消泡剤等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、消泡剤の樹脂分換算での含有量としては、当該潤滑油組成物の全質量(100質量%)基準で、好ましくは0.0001~0.20質量%、より好ましくは0.0005~0.10質量%である。
【0068】
(摩擦調整剤)
摩擦調整剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)等のモリブデン系摩擦調整剤;炭素数6~30のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪族アミン、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤;等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が摩擦調整剤を含有する場合、摩擦調整剤の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~5.0質量%である。
なお、上述のとおり、高温環境下で長期間の使用に伴い発生するスラッジの析出を抑制する観点から、MoDTCやMoDTP等の硫黄原子含有摩擦調整剤は実質的に含有しないことが好ましい。
【0069】
〔潤滑油組成物の各種物性〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは5~300mm2/s、より好ましくは10~200mm2/s、更に好ましくは15~100mm2/sである。
【0070】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは85以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは95以上である。
【0071】
〔潤滑油組成物の用途、潤滑方法〕
本発明の一態様の潤滑油組成物は、蒸気タービン、原子力タービン、ガスタービン、水力発電用タービン等の各種タービンの潤滑に用いられるタービン油;送風機、回転式ガス圧縮機等の各種ターボ機械の潤滑に用いられる軸受油、ギヤ油、制御系作動油;さらには油圧作動油、内燃機関用潤滑油等として使用し得る。
つまり、本発明の潤滑油組成物は、各種タービンや各種ターボ機械、油圧機器等の潤滑用途に使用することが好ましい。
【実施例】
【0072】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
[各種物性値の測定方法]
(1)動粘度及び粘度指数
JIS K2283:2000に準拠し、測定及び算出した。
(2)留出量2.0体積%及び5.0体積%での蒸留温度
ASTM D6352に準拠し、蒸留ガスクロマトグラフィーにて測定した。
(3)パラフィン分(%Cp)
ASTM D-3238環分析(n-d-M法)に準拠して測定した。
(4)酸価
JIS K2501(指示薬法)に準拠して測定した。
【0074】
製造例1(鉱油系基油(A-1)の調製)
200ニュートラル以上の留分油である原料油を、水素化異性化脱ろう処理を施した後、さらに水素化仕上げ処理を施し、その後に、蒸留曲線の5体積%留分が460℃以上となるような蒸留温度で蒸留し、40℃における動粘度が19.8~50.6mm2/sの範囲となる留分を回収して、鉱油系基油(A-1)を調製した。
なお、水素化異性化脱ろう処理の条件は以下のとおりである。
・水素ガスの供給割合:供給する原料油1キロリットルに対して、300~400Nm3。
・水素分圧:10~15MPa。
・液時空間速度(LHSV):0.5~1.0hr-1。
・反応温度:300~350℃。
【0075】
得られた鉱油系基油(A-1)の各種性状は、以下のとおりであった。
・留出量2.0体積%での蒸留温度:451.0℃
・留出量5.0体積%での蒸留温度:464.0℃
・温度勾配Δ|Dt|=4.3℃/体積%
・40℃における動粘度=43.75mm2/s
・粘度指数=143
・パラフィン分(%CP)=94.1
【0076】
製造例2(鉱油系基油(a-1)の調製)
パラフィン系鉱油を用いて、蒸留曲線の5体積%留分が400℃以上となるような蒸留温度で蒸留し、40℃における動粘度が19.8~50.6mm2/sの範囲となる留分を回収した以外は、製造例1と同様にして、鉱油系基油(a-1)を調製した。
得られた鉱油系基油(a-1)の各種性状は、以下のとおりであった。
・留出量2.0体積%での蒸留温度:383.1℃
・留出量5.0体積%での蒸留温度:404.0℃
・温度勾配Δ|Dt|=7.0℃/体積%
・40℃における動粘度=34.96mm2/s
・粘度指数=119
・パラフィン分(%CP)=74.7
【0077】
実施例1~5、比較例1~8
下記に示す基油、酸化防止剤、及び各種添加剤を、表1及び表2に示す配合量にて配合し、十分に混合して、潤滑油組成物(X1)~(X5)及び(Y1)~(Y8)をそれぞれ調製した。使用した基油、酸化防止剤、及び各種添加剤の詳細は、以下のとおりである。
【0078】
<基油>
・「鉱油系基油(A-1)」:製造例1で調製した鉱油系基油。
・「PAO(1)」:40℃動粘度=30.8mm2/s、粘度指数=138のポリα-オレフィン。
・「鉱油系基油(a-1)」:製造例2で調製した鉱油系基油。
【0079】
<酸化防止剤>
・「アミン系AO(B1-1)」:ジ(オクチルフェニル)アミン。前記一般式(b1-1)中のR1及びR2がオクチル基、p1=p2=1である化合物。
・「アミン系AO(B1-2)」:オクチルフェニル-α-ナフチルアミン。前記一般式(b1-2)中のR3がオクチル基、p3=1である化合物。
・「フェノール系AO(B2-1)」:ベンゼンプロパン酸-3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシアルキルエステル。
・「リン系AO(B3-1)」:ジアルキル-4-ヒドロキシベンジルホスフォン酸ジエチル。
【0080】
<各種添加剤>
・「極圧剤」:ジチオリン酸エステル。
・「金属系清浄分散剤」:カルシウムサリシレート及びカルシウムスルホネートの混合物
・「粘度指数向上剤」:ポリメタクリレート系粘度指数向上剤。
・「防錆剤」:アルケニルコハク酸多価アルコールエステル。
・「銅不活性化剤」:N-ジアルキルアミノメチルベンゾトリアゾール。
・「消泡剤」:樹脂分濃度1質量%のシリコーン系消泡剤。
【0081】
【0082】
【0083】
調製した潤滑油組成物(X1)~(X5)及び(Y1)~(Y8)の各々について、以下の試験をそれぞれ行った。これらの結果を表3-1~3-5、表4-1~4-4、及び表5-1~5-4に示す。
【0084】
(1)パネルコーキング試験
Fed. Test Method Std. 791-3462に準拠し、パネルコーキング試験機を用いて、パネル温度260℃、油温100℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒、停止時間45秒のサイクルで各表に記載のそれぞれの時間で処理したパネルの重量を測定し、試験前のパネル重量との差から、パネルに付着したコーキング量を測定した。
【0085】
(2)酸化安定性試験(Dry-TOST)
ASTM D7873に準拠し、260℃で酸化安定性試験(Dry-TOST法)を行い、各表に記載のそれぞれの時間における、40℃動粘度、酸価、ミリポア値(スラッジ生成量)、及びASTM D2272に準拠したRPVOT値をそれぞれ測定した。
なお、動粘度及び酸価は、上述の規格に準拠して測定した。
また、上記ミリポア値は、ASTM D7873に準拠し、平均孔径1.0μmのミリポア社のメンブランフィルターを用いて測定した。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
実施例1~5で調製した潤滑油組成物(X1)~(X5)は、高温環境下での長時間の使用に対しても、パネルコーキング試験によるパネルに付着したコーキング量が少なく、酸化安定性試験によるミリポア値も小さく、スラッジ生成の抑制効果が高いといえる。また、潤滑油組成物(X1)~(X5)は、高温環境下での長時間の使用に対する、動粘度及び酸価の値の変化も比較的小さく、長時間の使用に対しても高いRPVOT値を維持しており、良好な酸化安定性が維持され、長寿命のものであるといえる。
一方、比較例1~8で調製した潤滑油組成物(Y1)~(Y8)は、試験開始から比較的短時間で、パネルコーキング試験によるパネルに付着したコーキング量が増大し、また、RPVOT値の低下が見たれ、寿命の点で問題がある結果となった。