(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/489 20210101AFI20221214BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20221214BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221214BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221214BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221214BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20221214BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20221214BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20221214BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20221214BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/417
H01M4/13
H01M10/0566
H01M4/131
H01M4/133
H01M50/449
H01M50/414
H01M50/423
(21)【出願番号】P 2018101556
(22)【出願日】2018-05-28
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017105925
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】倉金 孝輔
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-202105(JP,A)
【文献】特開2011-210436(JP,A)
【文献】特開2012-099370(JP,A)
【文献】特開2013-117013(JP,A)
【文献】特開2016-199734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/0566
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータと、負極板と、を含む非水電解液二次電池であって、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度が、26.0gf/g/m
2以上であり、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.54以下の範囲にあり、
前記正極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.47以下の範囲にあり、かつ、
前記負極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にあ
り、
前記正極板が、粒径が1μm以上、20μm以下の正極活物質粒子を含み、かつ、正極合剤層の空隙率が10%以上、50%以下であり、
前記負極板が、粒径が1μm以上、20μm以下の負極活物質粒子を含み、かつ、負極合剤層の空隙率が10%以上、50%以下である、非水電解液二次電池。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
【請求項2】
前記正極板が、遷移金属酸化物を含む、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記負極板が、黒鉛を含む、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記非水電解液二次電池用セパレータは、前記ポリオレフィン多孔質フィルム上に積層された多孔質層を含み、
前記多孔質層は、樹脂を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記樹脂が、アラミド樹脂である、請求項4に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
正極板と、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータと、負極板と、がこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材であって、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度が、26.0gf/g/m
2以上であり、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.54以下の範囲にあり、
前記正極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.47以下の範囲にあり、かつ、
前記負極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にあ
り、
前記正極板が、粒径が1μm以上、20μm以下の正極活物質粒子を含み、かつ、正極合剤層の空隙率が10%以上、50%以下であり、
前記負極板が、粒径が1μm以上、20μm以下の負極活物質粒子を含み、かつ、負極合剤層の空隙率が10%以上、50%以下である、非水電解液二次電池用部材。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
【請求項7】
前記非水電解液二次電池用セパレータは、前記ポリオレフィン多孔質フィルム上に積層された多孔質層を含み、
前記多孔質層は、樹脂を含む、請求項6に記載の非水電解液二次電池用部材。
【請求項8】
前記樹脂が、アラミド樹脂である、請求項7に記載の非水電解液二次電池用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池および非水電解液二次電池用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウム二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用され、また最近では車載用の電池として開発が進められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池として、例えば、特許文献1に記載されたようなポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムを備える非水電解液二次電池が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解液二次電池においては、充放電時に電極の膨張および収縮が起こり、それに起因して、セパレータの電極に対する対向面表層の厚み方向の変形や、セパレータ電極界面に水平方向の力が生じることによって、上述の従来のセパレータを組み込んだ非水電解液二次電池においては、上述の厚み方向の変形および水平方向の力により、電極間距離の面方向の均一性が低下し、結果として、電池特性が低下することがあった。
【0006】
また、上述の充放電時における電極の膨張および収縮により、電極の合剤層内部の均一性が低下し、結果として、従来の非水電解液二次電池においては、電池特性が低下することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、非水電解液二次電池に含まれる、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルム(以下、ポリオレフィン多孔質フィルムと称する)、正極板および負極板において、スクラッチ試験により測定された、TDにおける臨界荷重までの距離(T)と、MDにおける臨界荷重までの距離(M)との割合を一定の範囲に調整することによって、優れた電池特性を備える非水電解液二次電池を得ることができることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
本発明は、以下に示す非水電解液二次電池および非水電解液二次電池用部材を包含する。
【0009】
〔1〕正極板と、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータと、負極板と、を含む非水電解液二次電池であって、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度が、26.0gf/g/m2以上であり、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.54以下の範囲にあり、
前記正極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にあり、かつ、
前記負極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にある、非水電解液二次電池。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
〔2〕前記正極板が、遷移金属酸化物を含む、〔1〕に記載の非水電解液二次電池。
【0010】
〔3〕前記負極板が、黒鉛を含む、〔1〕に記載の非水電解液二次電池。
【0011】
〔4〕正極板と、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータと、負極板と、がこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材であって、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度が、26.0gf/g/m2以上であり、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムの下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.54以下の範囲にあり、
前記正極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にあり、かつ、
前記負極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にある、非水電解液二次電池用部材。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池、または本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材を組み込んだ非水電解液二次電池は、電池特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明におけるスクラッチ試験に用いる装置およびその操作を示す図である。
【
図2】本発明におけるスクラッチ試験の結果から作成したグラフにおける、臨界荷重および臨界荷重までの距離を示した図である。
【
図3】実施例3~5において、熱固定後の延伸フィルムを冷却後、当該延伸フィルムの追加延伸を行う方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。尚、本出願において、「A~B」とは、「A以上、B以下」であることを示す。
【0015】
[実施形態1:非水電解液二次電池]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池は、正極板と、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータと、負極板と、を含む非水電解液二次電池であって、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度が、26.0gf/g/m2以上であり、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.54以下の範囲にあり、前記正極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にあり、かつ、前記負極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲である。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TD(Transverse Direction)における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MD(Machine Direction)における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
なお、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、上述の、正極板、負極板、非水電解液二次電池用セパレータ以外に非水電解液等を含む。
【0016】
<非水電解液二次電池用セパレータ>
本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルム(以下、多孔質フィルムということがある)を含む。
【0017】
前記多孔質フィルムは、単独で非水電解液二次電池用セパレータとなり得る。また、後述する多孔質層が積層された積層セパレータの基材ともなり得る。前記多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体や液体を通過させることが可能となっている。
【0018】
ポリオレフィン多孔質フィルムに占めるポリオレフィン系樹脂の割合は、多孔質フィルム全体の50体積%以上、好ましくは90体積%以上であり、より好ましくは95体積%以上である。また、前記ポリオレフィン系樹脂には、重量平均分子量が5×105~15×106の高分子量成分が含まれていることがより好ましい。特に、ポリオレフィン系樹脂に重量平均分子量が100万以上の高分子量成分が含まれていると、当該多孔質フィルムである非水電解液二次電池用セパレータ、および当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用積層セパレータの強度が向上するのでより好ましい。
【0019】
前記ポリオレフィン多孔質フィルムに含まれるポリオレフィン系樹脂は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂である、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン等の単量体を(共)重合してなる単独重合体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン)または共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体)が挙げられる。ポリオレフィン多孔質フィルムは、これらのポリオレフィン系樹脂を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。このうち、過大電流が流れることをより低温で阻止(シャットダウン)することができるため、ポリエチレンがより好ましく、特に、エチレンを主体とする高分子量のポリエチレンが好ましい。なお、ポリオレフィン多孔質フィルムは、その機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン以外の成分を含むことを妨げない。当該ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられ、このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましく、重量平均分子量が5×105~15×106の高分子量成分が含まれていることが特に好ましい。
【0020】
前記多孔質フィルムの膜厚は、前記多孔質フィルムが単独で非水電解液二次電池用セパレータとなる場合、4μm~40μmであることが好ましく、5μm~30μmであることがより好ましく、6~15μmであることがさらに好ましい。また、前記多孔質フィルムを積層セパレータの基材として用い、前記多孔質フィルムの片面または両面に多孔質層を積層して非水電解液二次電池用セパレータ(積層体)を形成する場合においては、前記多孔質フィルムの膜厚は、当該積層体の膜厚を考慮して適宜決定すればよいものの、4~40μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましい。
【0021】
前記多孔質フィルムの膜厚が上述の範囲よりも小さい場合、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池において、電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができない。一方、前記多孔質フィルムの膜厚が上述の範囲よりも大きい場合には、リチウムイオンの透過抵抗が増加する。従って、当該セパレータを備える非水電解液二次電池において、充放電サイクルを繰り返すと正極板が劣化し、レート特性やサイクル特性が低下する。
【0022】
前記多孔質フィルムの単位面積当たりの目付は、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池セパレータの強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよい。また、前記非水電解液二次電池用セパレータを備える、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、4~20g/m2であることが好ましく、4~12g/m2であることがより好ましく、5~10g/m2であることがさらに好ましい。
【0023】
前記多孔質フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度は、26.0gf/g/m2以上であり、30.0gf/g/m2以上が好ましい。前記突き刺し強度が小さすぎる場合、すなわち26.0gf/g/m2未満である場合には、電池組立プロセスの正極板および負極板と、セパレータとの積層捲回操作や、捲回群の圧締操作、または電池に外部から圧力がかけられた場合等において、正負極活物質粒子によってセパレータが突き破られ、正極と負極とが短絡するおそれがある。
【0024】
前記多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で30~500sec/100mLであることが好ましく、50~300sec/100mLであることがより好ましい。前記多孔質フィルムが前記透気度を有することにより、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池セパレータが、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0025】
前記多孔質フィルムの空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)する機能を得ることができるように、20~80体積%であることが好ましく、30~75体積%であることがより好ましい。前記多孔質フィルムの空隙率が20体積%を下回ると、当該多孔質フィルムの抵抗が増加する。また、前記多孔質フィルムの空隙率が80体積%を上回ると、当該多孔質フィルムの機械的強度が低下する。
【0026】
また、前記多孔質フィルムが有する細孔の孔径は、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池セパレータが、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極や負極への粒子の入り込みを防止することができるように、0.3μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましい。
【0027】
[正極板]
本発明の一実施形態における正極板は、以下の式(1)で表される値が0.00以上、0.50以下である正極板であり、通常、正極活物質、導電剤および結着剤を含む正極合剤を正極集電体上に担持したシート状の正極板である。なお、正極板は、正極集電体の両面上に正極合剤を担持してもよく、正極集電体の片面上に正極合剤を担持してもよい。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TD方向における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MD方向における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、遷移金属酸化物が好ましく、当該遷移金属酸化物として、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。前記リチウム複合酸化物のうち、平均放電電位が高いことから、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のα-NaFeO2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネル等のスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物がより好ましい。当該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでいてもよく、複合ニッケル酸リチウムがさらに好ましい。
【0028】
さらに、Ti、Zr、Ce、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、前記少なくとも1種の金属元素の割合が0.1~20モル%となるように当該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル特性に優れるのでさらにより好ましい。中でもAlまたはMnを含み、かつ、Ni比率が85%以上、さらに好ましくは90%以上である活物質が、当該活物質を含む正極板を備える非水電解液二次電池の高容量での使用におけるサイクル特性に優れることから、特に好ましい。
【0029】
前記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。前記導電剤は、1種類のみを用いてもよく、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いる等、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
前記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0031】
正極合剤を得る方法としては、例えば、正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧して正極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にして正極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0032】
前記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0033】
シート状の正極板の製造方法、即ち、正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0034】
[負極板]
本発明の一実施形態における負極板は、以下の式(1)で表される値が0.00以上、0.50以下である負極板であり、通常、負極活物質を含む負極合剤を負極集電体上に担持したシート状の負極板である。なお、負極板は、負極集電体の両面上に負極合剤を担持してもよく、負極集電体の片面上に負極合剤を担持してもよい。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TD方向における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MD方向における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
シート状の負極板には、好ましくは前記導電剤、および、前記結着剤が含まれる。
【0035】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極板よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化するアルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、シリコン(Si)などの金属、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、Mg2Si、NiSi2)、リチウム窒素化合物(Li3-xMxN(M:遷移金属))等が挙げられる。前記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極板と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、黒鉛を含むものが好ましく、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料がより好ましい。また、黒鉛とシリコンの混合物であってもよく、その黒鉛を構成する炭素(C)に対するSiの比率が5%以上である負極活物質が好ましく、10%以上である負極活物質がより好ましい。
【0036】
負極合剤を得る方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧して負極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0037】
前記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0038】
シート状の負極板の製造方法、即ち、負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。前記ペーストには、好ましくは前記導電剤、および、前記結着剤が含まれる。
【0039】
(スクラッチ試験)
本発明における「スクラッチ試験」とは、
図1に示すように、圧子に一定の荷重をかけ、多孔質フィルム、正極板および負極板といった測定対象の表層を厚み方向に圧縮変形(=圧子を押し込んだ状態)させた状態で水平方向に測定対象を移動させたときの、ある圧子移動距離における発生応力を測定する試験であり、具体的には、以下に示す方法にて実施される:
(1)測定対象3(多孔質フィルム、正極板または負極板)を20mm×60mmに裁断する。30mm×70mmのガラス製プレパラート(基板2)の表面全面に、水で5倍希釈したアラビックヤマト水性液状糊(ヤマト株式会社製)を、目付が1.5g/m
2程度となるように塗布する。当該裁断した測定対象3と、基板2とを、塗布された水性液状糊を介して貼り合わせた後、25℃の温度下にて一昼夜乾燥させることにより、試験用サンプルを作製する。なお、貼り合せるときは、測定対象3とガラス製プレパラート(基板2)との間に気泡が入らない様に注意する。なお、測定対象3が電極板(正極板または負極板)である場合には、当該電極板の合剤層(正極合剤層または負極合剤層)が、後述するダイヤモンド圧子1と接触する上面となるように、前記試験用サンプルを作製する。
(2)工程(1)にて作製された試験用サンプルを、マイクロスクラッチ試験装置(CSEM Instruments社製)に設置する。当該試験装置におけるダイヤモンド圧子1(頂角120°、先端半径0.2mmの円錐状)を、当該試験用サンプル上に、0.1Nの大きさの垂直荷重をかけたままの状態にて、当該試験装置におけるテーブルを、測定対象のTDに向けて、5mm/minの速さにて、10mmの距離を移動させ、その間の、前記ダイヤモンド圧子1と当該試験用サンプルとの間に発生する応力(摩擦力)を測定する。
(3)工程(2)にて測定された応力の変位と、前記テーブルの移動距離との関係を示す曲線グラフを作成し、当該曲線グラフから、
図2に示すように、TDにおける、臨界荷重値および、臨界荷重に至るまでの距離を算出する。
(4)前記テーブルの移動方向をMDに変更して、上述の工程(1)~(3)を繰り返して行い、MDにおける、臨界荷重値および、臨界荷重に至るまでの距離を算出する。
【0040】
なお、前記スクラッチ試験における、上述した条件以外の測定条件等に関しては、JIS R 3255に記載の方法と同様の条件にて実施される。
【0041】
本明細書におけるMDとは、ポリオレフィン多孔質フィルム、正極板、および負極板
の長手方向を指し、TDとはMDに直交する方向を指す。但し、ポリオレフィン多孔質フィルム、正極板、または負極板が正方形の場合は、任意の辺に平行する方向をMDとし、それに直交する方向をTDとする。
【0042】
測定対象が多孔質フィルムであるときのスクラッチ試験は、非水電解液二次電池において、電池充放電時に電極合剤層が膨張(充電時:負極板が膨張、放電時:正極板が膨張)および収縮することによる、非水電解液二次電池用セパレータへの影響機構を、モデル化して測定・算出する試験である。
【0043】
充放電時の電極合剤層の膨張および収縮に起因して、非水電解液二次電池用セパレータ(多孔質フィルム)の膨張する電極合剤層に対向する面側の表層は、厚み方向に変形(圧縮変形)されると共に、水平方向へも膨張した電極合剤層を介したせん断応力(セパレータ電極界面に水平方向の力)が生じる。非水電解液二次電池用セパレータが多孔質層を備えるときには、さらに多孔質層を介して、多孔質フィルムに前記せん断応力が生じる。さらに、このせん断応力は、非水電解液二次電池用セパレータ内部の樹脂を介して、膨張した電極と反対の、非水電解液二次電池用セパレータと電極との界面に伝達される。
【0044】
従って、前記スクラッチ試験にて算出される臨界荷重値までの距離は、(a)多孔質フィルム(非水電解液二次電池用セパレータ)表層の塑性変形容易性の指標、(b)測定面と反対の面へのせん断応力の伝達性の指標となる。前記臨界荷重値までの距離が長いことは、測定対象の多孔質フィルムにおいて、(a’)表層部が塑性変形し難く、(b’)測定面と反対の面へのせん断応力の伝達性が低い(応力が伝わり難い)ことを示す。
【0045】
ここで、本発明の一実施形態における多孔質フィルムは、以下の式(1)で表される値が、0.00以上、0.54以下の範囲にあり、0.00以上、0.50以下であることが好ましく、0.00以上、0.45以下であることがより好ましい。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TD方向における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MD方向における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
また、本発明の一実施形態における多孔質フィルムは、以下の式(2)で表される値が、0.00以上、0.54以下であることが好ましく、0.00以上、0.50以下であることがより好ましく、0.00以上、0.45以下であることがさらに好ましい。
1-T/M …(2)
(式(2)中、TおよびMは、式(1)におけるTおよびMと同一の意味を表す。)
前記式(1)、式(2)にて表される値は、多孔質フィルムに対するスクラッチ試験における臨界荷重までの距離の異方性を示す値であり、その値がゼロに近いほど、前記臨界荷重までの距離が等方性であることを示す。
【0046】
以上のことから、多孔質フィルムにおける式(1)の値が、0.54を超えることは、前記臨界荷重値までの距離において、TDとMDとの間に大きな異方性が存在することを示す。これら大きな異方性を有する多孔質フィルムを、セパレータまたはセパレータの部材として含む非水電解液二次電池においては、充放電に伴うセパレータ(多孔質フィルム)表層の塑性変形、並びに、膨張した電極との対向面と反対側の面への表面応力の伝達性の、TDとMDとの大きさの差に起因したセパレータと電極間界面におけるシワおよび隙間が、特定の方向に優先的に発生し、結果として電極間距離の面方向の均一性が低下することにより、当該非水電解液二次電池の充放電サイクル後におけるレート特性維持率が低下する。
【0047】
続いて、多孔質フィルムをセパレータまたはセパレータの部材として用いる、電極とセパレータとからなる積層体の一態様である、積層体が捲回した態様の非水電解液二次電池を考える。当該捲回した態様の非水電解液二次電池内においては、セパレータに対して、MD方向に張力がかかった状態にて、前記積層体が捲回しているため、多孔質フィルムのMDの平滑性が向上する一方で、TDに対しては内向きに内部応力が発生している。従って、積層体が捲回した態様の非水電解液二次電池においては、実際の作動時のMDの臨界荷重までの距離は、前記スクラッチ試験にて算出したMDの臨界荷重までの距離よりも大きくなっており、TD方向の臨界荷重までの距離は、前記スクラッチ試験にて算出したTDの臨界荷重までの距離よりも小さくなっている。従って、TDとMDの臨界荷重までの距離が近い、すなわち等方性の高い場合も、具体的には式(2)の値が-0.54以上、0.00未満の多孔質フィルムを、積層体が捲回した態様の非水電解液二次電池の、セパレータまたはセパレータの部材として用いる場合、MD方向の臨界荷重までの距離が増加し、TD方向の臨界荷重までの距離が低下するため、実際には、TDへのセパレータ(多孔質フィルム)表層の塑性変形、並びに、MDへの膨張した電極との対向面と反対側の面への表面応力の伝達性の差に起因したセパレータと電極間界面におけるシワおよび隙間が、TDに優先的に発生し、電極間距離の面方向の均一性が低下する。一方、積層体が捲回した態様の非水電解液二次電池においても、異方性が大きい、具体的には、式(1)の値が0.54を超える場合には、上述の理由と同様の理由から、臨界荷重までの距離が大きな方向への、非水電解液二次電池用セパレータ(多孔質フィルム)表層の塑性変形、並びに、膨張した電極との対向面と反対側の面への表面応力の伝達性の、TDとMDとの差に起因したセパレータと電極間界面におけるシワおよび隙間の発生が、臨界荷重までの距離が大きな方向に増加する。その結果、当該非水電解液二次電池の充放電サイクル後におけるレート特性維持率が低下する。それゆえに、積層体が捲回した態様の非水電解液二次電池といった形態の非水電解液二次電池にも好適に使用できるという観点において、式(2)の値は、0.00以上、0.54以下であることが好ましい。
【0048】
前記スクラッチ試験は、測定対象が電極板(正極板または負極板)である場合、当該電極板を組み込んだ非水電解液二次電池において、充放電に伴い発生する、電極合剤層(電極活物質粒子(正極活物質粒子、負極活物質粒子))の膨張収縮による電極合剤層内部の応力伝達の均一性を、モデル化して測定・算出する試験である。
【0049】
また、前記スクラッチ試験において、測定対象が電極板である場合、測定される臨界荷重までの距離は、当該電極板の表層(電極合剤層)の均一性、当該電極板の電極合剤層表面における粒子の配向度、形状(例えば、当該粒子のアスペクト比、等)および粒径に影響される。
【0050】
ここで、本発明の一実施形態における正極板は、以下の式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にあり、0.00以上、0.47以下であることが好ましく、0.00以上、0.45以下であることがより好ましい。
【0051】
また、本発明の一実施形態における負極板は、以下の式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にあり、0.00以上、0.49以下であることが好ましく、0.00以上、0.45以下であることがより好ましい。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TD方向における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MD方向における0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
前記式(1)にて表される値は、電極板に対するスクラッチ試験における臨界荷重までの距離の異方性を示す値であり、その値がゼロに近いほど、前記臨界荷重までの距離が等方性であることを示す。
【0052】
以上のことから、電極板における式(1)の値が、0.50を超えることは、前記臨界荷重値までの距離において、TDとMDとの間に大きな異方性が存在することを示す。上述のこれら大きな異方性を有する電極板は、電極板表面の均一性が小さいため、非水電解液二次電池を組み立てた際に、電極板と非水電解液二次電池用セパレータとの密着性が不十分となる恐れおよび電極間距離の面方向の均一性が不十分となる恐れがあり、結果として、当該電極板を含む非水電解液二次電池の初期レート特性が悪化する恐れがある。
【0053】
また、これら大きな異方性を有する電極板を含む非水電解液二次電池においては、充放電に伴い発生する、電極活物質粒子の膨張収縮による電極合剤層内部における応力伝達が不均一となるため、電極合剤層内部の空隙の孔径および分布が不均一となり、また、電極合剤層内部にて応力が局所的な方向に発生する。その結果、充放電サイクルの過程にて、電極合剤層内部の導電パスの切断、電極活物質および導電剤の結着剤(バインダー)からの剥離、並びに、集電体と電極合剤層との密着性の低下が発生し、その結果、当該非水電解液二次電池の充放電サイクル後におけるレート特性維持率等の電池特性が悪化する恐れがある。
【0054】
電極板(正極板および負極板)における式(1)で表される値を調整する方法としては、例えば、電極板の材料である電極活物質粒子の粒径および/またはアスペクト比を調整する方法、電極板を作製する際に集電体上に電極合剤(正極合剤、負極合剤)を特定の塗工せん断速度にて塗工することによって、電極活物質の粒子の配向性および/または得られる電極合剤層における空隙率を調製する方法、および、電極板の材料である電極活物質、導電剤、結着剤の配合比を調整することによって、得られる電極板(電極合剤層)の組成比を制御する方法などを挙げることができる。
【0055】
上述の方法のうち、具体的には、電極活物質粒子の粒径を1~20μmの範囲とすること、電極活物質粒子のアスペクト比(長径/短径)を1~5の範囲に制御すること、塗工ライン速度を10~200m/secの範囲とすること、電極板の空隙率(電極合剤層の空隙率)を10~50%の範囲に制御すること、電極板組成に占める活物質成分の存在割合を80重量%以上の範囲に制御することが好ましい。上述の製造条件等を好適な範囲とすることによって、電極板における式(1)で表される値を0.00以上、0.50以下の範囲に好適に制御することができる。
【0056】
電極合剤層の空隙率(ε)は、電極合剤層の密度ρ(g/m3)と、電極合剤層を構成する物質(例えば正極活物質、導電剤、結着剤など)の各々の質量組成(wt%)b1、b2、・・・bnと、当該物質の各々の真密度(g/m3)をc1、c2、・・・cnとから下記式に基づいて算出することができる。ここで、上記物質の真密度には、文献値を用いてもよいし、ピクノメーター法を用いて測定された値を用いてもよい。
ε=1-{ρ×(b1/100)/c1+ρ×(b2/100)/c2+・・・ρ×(bn/100)/cn}×100
<多孔質フィルムの製造方法>
多孔質フィルムの製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン等の樹脂に可塑剤を加えてフィルム(膜状)に成形した後、可塑剤を適当な溶媒で除去する方法が挙げられる。
【0057】
具体的には、例えば、超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィンとを含むポリオレフィン樹脂を用いて多孔質フィルムを製造する場合には、製造コストの観点から、以下に示す方法によって当該多孔質フィルムを製造することが好ましい。
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィン5~200重量部と、炭酸カルシウムまたは可塑剤等の孔形成剤100~400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を圧延することにより、圧延シートを成形する工程、
次いで、
(3)工程(2)で得られた圧延シートから孔形成剤を除去する工程、
(4)工程(3)で孔形成剤を除去したシートを延伸する工程、
(5)工程(4)にて延伸されたシートに対して、100℃以上、150℃以下の熱固定温度にて熱固定を行い、多孔質フィルムを得る工程。
或いは、
(3’)工程(2)で得られた圧延シートを延伸する工程、
(4’)工程(3’)にて延伸されたシートから孔形成剤を除去する工程、
(5’)工程(4’)にて得られたシートに対して、100℃以上、150℃以下の熱固定温度にて熱固定を行い、多孔質フィルムを得る工程。
【0058】
ここで、TD方向、MD方向における臨界荷重までの距離は、以下に示す多孔質フィルムの構造因子に強く影響を受けると考えられる。
(i)多孔質フィルムにおけるMDへの樹脂の配向状態
(ii)多孔質フィルムにおけるTDへの樹脂の配向状態
(iii)多孔質フィルムの厚み方向におけるMD方向、TD方向に配向した樹脂の接触状態
従って、式(1)および式(2)の値を制御する方法としては、以下の製造条件を調節することにより、前記(i)~(iii)の構造因子を制御する方法が挙げられる。
(1)圧延ロールの周速[m/min]
(2)延伸温度/延伸倍率の比[℃/倍]
具体的には、圧延ロールの周速、延伸の延伸温度、ならびに延伸倍率が、多孔質フィルムの製造上支障のない範囲において、以下の式(3)の関係を満たすように、圧延ロールの周速と延伸の延伸温度/延伸倍率の比とを調節することで、結果として、式(1)および式(2)の値を0.00以上、0.54以下の範囲に制御することができる。
Y≧-2.3×X+22.2 …(3)
(式(3)中、Xは、圧延ロールの周速を表し、Yは、TDの延伸の延伸温度/延伸倍率の比を表す。)
一方、上述の式(3)の関係から逸脱する範囲に設定した場合、前記多孔質フィルムのMDもしくはTDどちらか一方への樹脂の配向、および/または、MDもしくはTDの、どちらか一方へ配向した樹脂の、多孔質フィルムの厚み方向における連結性が促進され、式(1)で表される多孔質フィルムの異方性が大きくなり、式(1)の値を0.00以上、0.54以下の範囲に制御することができない。例えば、圧延ロールの周速を2.5m/min、延伸温度/延伸倍率の比を16.5℃/倍未満に調節した場合、多孔質フィルムのTDへの樹脂配向および、その厚み方向の連結性が増加することで、TDにおける臨界荷重までの距離が小さくなり、結果として式(1)で表される異方性が0.54以上となる。
【0059】
加えて、延伸温度が、90℃以上、120℃以下であることが好ましく、100℃以上、110℃以下であることがより好ましい。さらに加えて、延伸倍率が、600%以上、800%以下であることが好ましく、620%以上、700%以下であることがより好ましい。
【0060】
さらに、熱固定後の延伸フィルムを冷却後、再度、延伸・熱固定操作を繰り返し行うことによっても、式(1)、式(2)を充足する多孔質フィルムを製造することができる。具体的には、MD方向、TD方向に、さらに追加延伸を行う方法が挙げられ、当該追加延伸の方向としてはMD方向が好ましい。
【0061】
加えて、必要に応じて、多孔質フィルムの組成、熱固定温度等の他の条件を適宜組み合わせることにより、式(1)、式(2)を充足する多孔質フィルムを製造することもできる。
【0062】
[多孔質層]
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、多孔質フィルム上に積層された接着層や耐熱層、保護層等の公知の多孔質層を含み得る。すなわち、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、多孔質フィルム(基材)上に公知の多孔質層を積層されてなる非水電解液二次電池用セパレータを含み得る。
【0063】
前記多孔質層は、通常、樹脂を含んでなる樹脂層であり、フィラー(微粒子)を含んでいてもよい。前記多孔質層は、好ましくは、多孔質フィルムの片面または両面に積層される耐熱層または接着層である。前記多孔質層を構成する樹脂は、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の電解液に不溶であり、また、当該非水電解液二次電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、非水電解液二次電池としたときの、多孔質フィルムにおける正極板と対向する面に積層され、より好ましくは、正極板と接する面に積層される。
【0064】
前記多孔質層に含まれる樹脂は、特に限定されないが、具体的には、例えば、ポリオレフィン;含フッ素樹脂;前記含フッ素樹脂の中でもガラス転移温度が23℃以下である含フッ素ゴム;芳香族ポリアミド;全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂);融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー等が挙げられる。前記多孔質層に含まれる樹脂は、1種類でもよく、2種類以上の樹脂の混合物でもよい。
【0065】
前記多孔質層に含まれ得るフィラーは、一般にフィラーとして使用され得る有機微粒子または無機微粒子であり得る。従って、前記樹脂は、フィラー(微粒子)同士、並びにフィラーと多孔質フィルムとを結着させるバインダー樹脂としての機能を有することとなる。また、前記フィラーは、絶縁性微粒子が好ましい。
【0066】
前記フィラーは、粒子径や比表面積が互いに異なる2種類以上のフィラーを組み合わせて用いてもよい。
【0067】
多孔質層に含まれるフィラーの含有量は、多孔質層の1~99体積%であることが好ましく、5~95体積%であることがより好ましい。微粒子の含有量を前記範囲とすることにより、微粒子同士の接触によって形成される空隙が、樹脂等によって閉塞されることが少なくなり、充分なイオン透過性を得ることができると共に、単位面積当たりの目付を適切な値にすることができる。
【0068】
本発明の一実施形態における多孔質層の膜厚は、非水電解液二次電池用セパレータである積層体の膜厚を考慮して適宜決定すればよいものの、多孔質フィルムを基材として用い、多孔質フィルムの片面または両面に多孔質層を積層して積層体を形成する場合においては、0.5~15μm(一層当たり)であることが好ましく、2~10μm(一層当たり)であることがより好ましい。
【0069】
多孔質層の膜厚が1μm未満であると、積層体を非水電解液二次電池用セパレータとして用いたときに、電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができない。一方、多孔質層の膜厚が両面の合計で30μmを超えると、リチウムイオンの透過抵抗が増加するので、サイクルを繰り返すと正極板が劣化し、レート特性やサイクル特性が低下する。
【0070】
[多孔質層および非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法]
上述の多孔質層および積層セパレータの製造方法は、特に限定されないが、例えば、例えば、後述する塗工液を前記多孔質フィルムの表面に塗布し、乾燥させることによって多孔質層を析出させる方法が挙げられる。
【0071】
前記塗工液は、通常、前記多孔質層に含まれる樹脂を溶媒に溶解させると共に、本発明における多孔質層に含まれるフィラーを分散させることにより調製され得る。
【0072】
前記溶媒(分散媒)は、多孔質フィルムに悪影響を及ぼさず、前記樹脂を均一かつ安定に溶解し、前記フィラーを均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。
【0073】
前記塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)やフィラーの量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。
【0074】
前記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記樹脂およびフィラー以外の成分として、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0075】
塗工液の多孔質フィルムへの塗布方法、つまり、必要に応じて親水化処理が施された多孔質フィルムの表面への多孔質層の形成方法は、必要な目付や塗工面積を実現し得る方法であればよく、特に制限されるものではない。
【0076】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。前記乾燥には、通常の乾燥装置を用いることができる。
【0077】
[非水電解液]
本発明における非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であり、特に限定されないが、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、Li2B10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4等が挙げられる。前記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。前記リチウム塩のうち、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、およびLiC(CF3SO2)3からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩がより好ましい。
【0078】
本発明における非水電解液を構成する有機溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトン等の含硫黄化合物;並びに、前記有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒;等が挙げられる。前記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
前記有機溶媒のうち、カーボネート類がより好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または、環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、作動温度範囲が広く、かつ、負極活物質として天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合においても難分解性を示すことから、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒がさらに好ましい。
【0080】
[非水電解液二次電池の製造方法]
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法としては、例えば、前記正極板、上述の多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータ、および負極板をこの順で配置して非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を製造することができる。本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体等の角柱型等のどのような形状であってもよい。尚、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。
【0081】
[実施形態2:非水電解液二次電池用部材]
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用部材は、正極板と、ポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータと、負極板と、がこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材であって、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度が、26.0gf/g/m2以上であり、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.54以下の範囲にあり、前記正極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にあり、かつ、前記負極板の下記式(1)で表される値が、0.00以上、0.50以下の範囲にある。
|1-T/M| …(1)
(式(1)中、Tは、TDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表し、Mは、MDにおける0.1Nの一定荷重下でのスクラッチ試験における、臨界荷重までの距離を表す。)
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用部材を構成する正極板、負極板およびポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータは、上述の本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池を構成する正極板、負極板およびポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータとそれぞれ同一である。
【0082】
本発明の非水電解液二次電池用部材の製造方法としては、例えば、前記正極板、上述の非水電解液二次電池用セパレータ、および負極板をこの順で配置する方法が挙げられる。
【0083】
本発明の非水電解液二次電池用部材は、前記式(1)で表される値が0.00以上、0.50以下の範囲である正極板、多孔質フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度が、26.0gf/g/m2以上であり、かつ、前記式(1)で表される値が0.00以上、0.54以下の範囲である多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータ、および前記式(1)で表される値が0.00以上、0.50以下の範囲である負極板がこの順からなる。従って、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材は、当該非水電解液二次電池用部材を組み込んだ非水電解液二次電池の充放電サイクル後におけるレート特性維持率をより向上させ、初期レート特性等の電池特性をより向上させる。
【0084】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0086】
[測定]
以下の実施例および比較例において、非水電解液二次電池用セパレータ、正極板および負極板の物性値、並びに、非水電解液二次電池用セパレータにおける、臨界荷重値、および臨界荷重までの距離のTD/MD比(T/M)、並びに、非水電解液二次電池のサイクル特性を、以下の方法にて測定した。
【0087】
(膜厚の測定)
以下の実施例および比較例における、非水電解液二次電池用セパレータの膜厚、並びに、正極板および負極板の厚さを、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機(VL-50)を用いて測定した。
【0088】
(多孔質フィルムの重量目付)
以下に示す実施例および比較例にて製造されたポリオレフィン多孔質フィルムから、一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W(g)を測定した。そして、次式
重量目付(g/m2)=W/(0.08×0.08)
に従い、ポリオレフィン多孔質フィルムの重量目付を算出した。
【0089】
(正極活物質および負極活物質の平均粒径)
以下の実施例および比較例における、正極板の作製に使用した正極活物質および負極板の作製に使用した負極活物質の体積基準の粒度分布、および平均粒径(D50)を、レーザー回折式粒度分布計(島津製作所製、商品名:SALD2200)を用いて測定した。
【0090】
(正極合剤層の空隙率の測定)
下記実施例における正極板が備える正極合剤層の空隙率を下記の方法を用いて測定した。
【0091】
正極合剤(LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2/導電剤/PVDF(重量比92/5/3))が、正極集電体(アルミニウム箔)の片面に積層された正極板を14.5cm2(4.5cm×3cm+1cm×1cm)の大きさに切り出した。切り出された正極板の質量は0.215g、厚さ58μmであった。前記正極集電体を同サイズに切り出したところ、その質量は0.078g、厚さ20μmであった。
【0092】
正極合剤層密度ρは、(0.215-0.078)/{(58-20)/10000×14.5}=2.5g/cm3と算出された。
【0093】
正極合剤を構成する材料の真密度はそれぞれ、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2は4.68g/cm3であり、導電剤は1.8g/cm3であり、PVDFは1.8g/cm3であった。
【0094】
これらの値を用いて下記式に基づいて算出した正極合剤層の空隙率°εは、40%であった。
°ε=[1-{2.5×(92/100)/4.68+2.5×(5/100)/1.8+2.5×(3/100)/1.8}]×100=40%
(負極合剤層の空隙率の測定)
下記実施例における負極板が備える負極合剤層の空隙率を下記の方法を用いて測定した。
【0095】
負極合剤(黒鉛/スチレン-1,3-ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1))が、負極集電体(銅箔)の片面に積層された負極板を18.5cm2(5cm×3.5cm+1cm×1cm)の大きさに切り出した。切り出された負極板の質量は0.266g、厚さ48μmであった。前記負極集電体を同サイズに切り出したところ、その質量は0.162g、厚さ10μmであった。
【0096】
負極合剤層密度ρは、(0.266-0.162)/{(48-10)/10000×18.5}=1.49g/cm3と算出した。
【0097】
負極合剤を構成する材料の真密度はそれぞれ、黒鉛は2.2g/cm3であり、スチレン-1,3-ブタジエン共重合体は1g/cm3であり、カルボキシメチルセルロースナトリウムは1.6g/cm3であった。
【0098】
これらの値を用いて下記式に基づいて算出した負極合剤層空隙率°εは、31%であった。
°ε=[1-{1.49×(98/100)/2.2+1.49×(1/100)/1+1.49×(1/100)/1.6}]×100=31%
(スクラッチ試験)
臨界荷重値、および臨界荷重までの距離のTD/MD比(T/M)を以下に示すスクラッチ試験にて測定した(
図1を参照)。以下に記載する以外の測定条件等は、JIS R
3255と同様の条件等にして、測定を行った。また、測定装置は、マイクロスクラッチ試験装置(CSEM Instruments社製)を使用した。
(1)実施例、比較例における多孔質フィルム、正極板および負極板(測定対象3と称する)を20mm×60mmに裁断した。30mm×70mmのガラス製プレパラート(基板2)の表面全面に、水で5倍希釈したアラビックヤマト水性液状糊(ヤマト株式会社製)を、目付が1.5g/m
2程度となるように塗布した。当該裁断した測定対象3と、基板2とを、塗布された水性液状糊を用いて貼り合わせた後、25℃の温度下にて一昼夜乾燥させることにより、試験用サンプルを作製した。なお、貼り合せるときは、測定対象3とガラス製プレパラート(基板2)との間に気泡が入らない様に注意した。なお、測定対象3が電極板(正極板または負極板)である場合には、当該電極板の合剤層(正極合剤層または負極合剤層)が、後述するダイヤモンド圧子1と接触する上面となるように、前記試験用サンプルを作製した。
(2)工程(1)にて作製された試験用サンプルを、マイクロスクラッチ試験装置(CSEM Instruments社製)に設置した。当該試験装置におけるダイヤモンド圧子1(頂角120°、先端半径0.2mmの円錐状)を、当該試験用サンプル上に、0.1Nの大きさの垂直荷重をかけたままの状態にて、当該試験装置におけるテーブルを、測定対象3のTDに向けて、5mm/minの速さにて、10mmの距離を移動させ、その間の、前記ダイヤモンド圧子1と当該試験用サンプルとの間に発生する応力(摩擦力)を測定した。
(3)工程(2)にて測定された応力の変位と、前記テーブルの移動距離との関係を示す曲線グラフを作成し、当該曲線グラフから、TDにおける、臨界荷重値および、臨界荷重に至るまでの距離を算出した。
(4)前記テーブルの移動方向をMDに変更して、上述の工程(1)~(3)を繰り返して行い、MDにおける、臨界荷重値および、臨界荷重に至るまでの距離を算出した。
【0099】
(サイクル試験)
(A)初期充放電
実施例、比較例にて製造された、充放電サイクルを経ていない新たな非水電解液二次電池に対して、25℃で、電圧範囲;4.1~2.7V、電流値;0.2Cを1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を行った。より詳細には、電圧範囲;2.7~4.1Vにて、充電電流値0.2Cおよび終止電流条件0.02Cの条件下でのCC-CV充電と、放電電流値0.2CのCC放電とを1サイクルとして、前記初期充放電を実施した。ここで、1Cとは、1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を意味する。また、CC-CV充電とは、設定した一定の電流で充電し、所定の電圧に到達後、電流を絞りながら、その電圧を維持する充電方法である。またCC放電とは設定した一定の電流で所定の電圧まで放電する方法である。「1C」、「CC-CV充電」および「CC放電」は、以下においても同様の意味を示す。
【0100】
(B)レート特性維持率(%)
続いて、55℃にて、以下の式(4)に従い、初期電池特性維持率を算出した。
初期電池特性維持率(%)=(20C放電容量/0.2C放電容量)×100 …(4)
それに続いて、55℃にて、充電電流値;1C、放電電流値;10Cの定電流で充放電を行うことを1サイクルとして、100サイクルの充放電を行った。
【0101】
より詳細には、55℃にて、電圧範囲;2.7~4.2Vにて、充電電流値1Cおよび終止電流条件0.02Cの条件下でのCC-CV充電と、放電電流値10CのCC放電とを1サイクルとして、前記100サイクルの充放電を実施した。
【0102】
その後、以下の式(5)に従い、100サイクル後のレート特性維持率を算出した。
100サイクル後のレート特性維持率(%)=(100サイクル目の20C放電容量/100サイクル目の0.2C放電容量)×100 …(5)
より詳細には、前記100サイクルの充放電を行った後の非水電解液二次電池に対して、55℃にて、電圧範囲;2.7~4.2Vにて、充電電流値1Cおよび終止電流条件0.02Cの条件下でのCC-CV充電と、CC放電とを1サイクルとする充放電を実施した。ここで、前記CC放電は、放電電流値を0.2C、1C、5C、10C、20Cの順に、3サイクル毎に変化させて実施した。すなわち、放電電流値を0.2C、1C、5C、10C、20Cの順に変化させて、各レートにつき3サイクルの充放電を実施した。
【0103】
前記充放電における放電電流値が0.2Cと20Cである場合における、それぞれ3サイクル目の放電容量を測定し、それぞれ、式(5)における「100サイクル目の0.2C放電容量」と「100サイクル目の20C放電容量」とした。得られた「100サイクル目の0.2C放電容量」と「100サイクル目の20C放電容量」の値を用いて、式(5)に従い、100サイクル後のレート特性維持率を算出した。
【0104】
(C)ハイレート放電容量(mAh/g)
前記初期充放電を行った非水電解液二次電池に対して、55℃にて、電圧範囲;2.7~4.2Vにて、充電電流値1Cおよび終止電流条件0.02Cの条件下でのCC-CV充電と、CC放電とを1サイクルとする充放電を実施した。ここで、前記CC放電は、放電電流値を0.2C、1C、2Cの順に、3サイクル毎に変化させて実施した。すなわち、放電電流値を0.2C、1C、2Cの順に変化させて、各レートにつき3サイクルの充放電を実施した。
【0105】
このとき、放電電流が2Cである場合における3サイクル目の放電容量を測定し、当該放電容量を正極活物質の質量で除すことでハイレート放電容量(単位:mAh/g)を算出した。
【0106】
(単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度の測定)
ハンディー圧縮試験機(カトーテック株式会社製、型番;KES-G5)を用いて、多孔質フィルムを12mmΦのワッシャで固定し、ピンを200mm/minで突き刺したときの最大応力(gf)を該フィルムの単位面積当たりの目付に対する突き刺し強度(単位:gf/g/m2)とした。ピンは、ピン径1mmΦ、先端0.5Rのものを使用した。
【0107】
[実施例1]
<非水電解液二次電池用セパレータの製造>
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)を72重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)29重量%の割合となるように両者を混合した後、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、更に全体積に占める割合が37体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合し、混合物Aを得た。その後、混合物Aを、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物Aを得た。ポリオレフィン樹脂組成物Aを、周速4.0m/minのロールにて圧延し、圧延シートAを作製した。続いて、圧延シートAを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることにより、圧延シートAから炭酸カルシウムを除去し、続いて100℃にて7.0倍に延伸し(延伸温度/倍率比=14.3)、さらに123℃で熱固定を行い、多孔質フィルムAを得た。得られた多孔質フィルムAの単位面積当たりの重量目付は5.4g/m2であった。多孔質フィルムAを非水電解液二次電池用セパレータAとした。
【0108】
<非水電解液二次電池の作製>
(正極板)
正極合剤(体積基準の平均粒径(D50)が4.5μmであるLiNi0.5Mn0.3Co0.2O2/導電剤/PVDF(重量比:92/5/3))が、正極集電体(アルミニウム箔)の片面に積層された正極板を得た。得られた正極板の正極合剤層の空隙率は40%であった。
【0109】
前記正極板を、正極活物質層が積層された部分の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が積層されていない部分が残るように、切り取り正極板1とした。
【0110】
(負極板)
負極合剤(体積基準の平均粒径(D50)が15μmである黒鉛/スチレン-1,3-ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1))が、負極集電体(銅箔)の片面に積層された負極板を得た。得られた負極板の負極合剤層の空隙率は31%であった。
【0111】
前記負極板を、負極活物質層が積層された部分の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が積層されていない部分が残るように、切り取り負極板1とした。
【0112】
(非水電解液二次電池の作製)
ラミネートパウチ内で、前記正極板、多孔質フィルムA(電解液二次電池用セパレータA)、および負極板をこの順で積層(配置)することにより、非水電解液二次電池用部材1を得た。このとき、正極板の正極合剤層における主面の全部が、負極板の負極合剤層における主面の範囲に含まれる(主面に重なる)ように、正極板および負極板を配置した。
【0113】
続いて、前記非水電解液二次電池用部材を、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に非水電解液を0.25mL入れた。前記非水電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートを3:5:2(体積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lとなるように溶解して調製した。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水電解液二次電池Aを作製した。
【0114】
[実施例2]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)の使用量を70重量%とし、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)の使用量を30重量%とし、平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)の使用量を、全体積に占める割合が36体積%となるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリオレフィン樹脂組成物2を調製した。続いて、ポリオレフィン樹脂組成物2を、周速3.0m/minのロールにて圧延し、圧延シートBを作製した。その後、延伸温度を105℃とし、延伸倍率を6.2倍とし(延伸温度/倍率比=16.9)、120℃にて熱固定を行った以外は、実施例1と同様にして、圧延シートBに対して、炭酸カルシウムの除去、延伸および熱固定を行い、多孔質フィルムBを得た。得られた多孔質フィルムBの単位面積当たりの目付は6.9g/m2であった。多孔質フィルムBを非水電解液二次電池用セパレータBとした。
【0115】
多孔質フィルムAの代わりに多孔質フィルムBを使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池Bを作製した。
【0116】
[実施例3]
実施例1で得た多孔質フィルムAを5cm×5cmに切り取った後、当該切りとった多孔質フィルムAを
図3に示すように15cm×15cm枠のSUS製冶具にテープ固定し、恒温槽を設置した島津株式会社製小型卓上試験機(EZ-L)にて、85℃でMD方向の長さが1.5倍になるように追加延伸を行うことにより、多孔質フィルムCを得た。なお、
図3は、多孔質フィルムを固定した小型卓上試験機を、縦方向を多孔質フィルムのMD方向とし、横方向を多孔質フィルムのTD方向となるように観測してなる、模式図である。以下、実施例4、5においても同様の方法にて、小型卓上試験機に多孔質フィルムを固定し、追加延伸を行った。
【0117】
多孔質フィルムCを非水電解液二次電池用セパレータCとした。
【0118】
多孔質フィルムAの代わりに多孔質フィルムCを使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池Cを作製した。
【0119】
[実施例4]
実施例1で得た多孔質フィルムAを5cm×5cmに切り取った後、当該切りとった多孔質フィルムAを
図3に示すように15cm×15cm枠のSUS製冶具にテープ固定し、恒温槽を設置した島津株式会社製小型卓上試験機(EZ-L)にて、85℃でMD方向の長さが1.2倍になるように追加延伸を行うことにより、多孔質フィルムDを得た。
【0120】
多孔質フィルムDを非水電解液二次電池用セパレータDとした。
【0121】
多孔質フィルムAの代わりに多孔質フィルムDを使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池Dを作製した。
【0122】
[比較例1]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2024、ティコナ社製)を68重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)を32重量%の割合となるように両者を混合した後、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に占める割合が38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合し、混合物Eを得た。その後、混合物Eを、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物Eを得た。続いて、ポリオレフィン樹脂組成物Eを、周速2.5m/minのロールにて圧延し、圧延シートEを作製した。その後、圧延シートEを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて、100℃にて6.2倍に延伸し(延伸温度/倍率比=16.1)、さらに126℃にて熱固定を行い、多孔質フィルムEを得た。得られた多孔質フィルムEの単位面積当たりの目付は6.4g/m2であった。多孔質フィルムEを非水電解液二次電池用セパレータEとした。
【0123】
多孔質フィルムAの代わりに多孔質フィルムEを使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池Eを作製した。
【0124】
[実施例5]
比較例1で得た多孔質フィルムEを5cm×5cmに切り取った後、当該切りとった多孔質フィルムEを
図3に示すように15cm×15cm枠のSUS製冶具にテープ固定し、恒温槽を設置した島津株式会社製小型卓上試験機(EZ-L)にて、85℃でMD方向の長さが1.5倍になるように追加延伸を行うことにより、多孔質フィルムFを得た。
【0125】
多孔質フィルムFを非水電解液二次電池用セパレータFとした。
【0126】
多孔質フィルムAの代わりに多孔質フィルムFを使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池Fを作製した。
【0127】
[比較例2]
市販のポリオレフィンセパレータ(単位面積当たりの目付:13.9g/m2)を多孔質フィルムG(非水電解液二次電池用セパレータG)とした。
【0128】
多孔質フィルムAの代わりに多孔質フィルムGを使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、非水電解液二次電池Gを作製した。
【0129】
[実施例6]
(正極板)
正極合剤を体積基準の平均粒径(D50)が5μmであるLiCoO2/導電剤/PVDF(重量比:97/1.8/1.2)に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極板2を得た。得られた正極板2の正極活物質層の空隙率は20%であった。
【0130】
(負極板)
負極合剤を体積基準の平均粒径(D50)が20μmである人造黒鉛/スチレン-1,
3-ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)に変更した以外は、実施例1と同様にして、負極板2を得た。得られた負極板2の負極活物質層の空隙率は35%であった。
【0131】
(非水電解液二次電池の作製)
正極板として正極板2を用いたこと、および負極板として負極板2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池Hを作製した。
【0132】
[実施例7]
(正極板)
正極合剤を体積基準の平均粒径(D50)が10μmであるLiNi0.33Mn0.33Co0.33O2/導電剤/PVDF(重量比:100/5/3)に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極板3を得た。得られた正極板3の正極活物質層の空隙率は34%であった。
【0133】
(非水電解液二次電池の作製)
正極板として正極板3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池Iを作製した。
【0134】
[実施例8]
(非水電解液二次電池の作製)
負極板として負極板2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池Jを作製した。
【0135】
[比較例3]
(正極板)
正極合剤を体積基準の平均粒径(D50)が8μmであるLiMn2O4/導電剤/PVDF(重量比:100/5/3)に変更した以外は、実施例1と同様にして、正極板4を得た。得られた正極板4の正極合剤層の空隙率は51%であった。
【0136】
(非水電解液二次電池の作製)
正極板として前記正極板4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池Kを作製した。
【0137】
[比較例4]
(負極板)
負極合剤を体積基準の平均粒径(D50)が34μmである人造球晶黒鉛/導電剤/PVDF(重量比85/15/7.5)に変更した以外は、実施例1と同様にして、負極板3を得た。得られた負極板3の負極合剤層の空隙率は34%であった。
【0138】
(非水電解液二次電池の作製)
負極板として負極板3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池Lを作製した。
【0139】
実施例1~2、および比較例1における圧延ロールの周速、延伸温度、延伸倍率、および延伸温度/延伸倍率の割合を以下の表1に示す。
【0140】
【0141】
[測定結果]
ここで、実施例1~8および比較例1~4にて使用した正極板1~4および負極板1~3を用いて、上述のスクラッチ試験を行い、TD、MDにおける「臨界荷重」、「臨界荷重までの距離」を測定した。その結果を表2に示す。
【0142】
【0143】
また、実施例1~8および比較例1~4にて使用した非水電解液二次電池用セパレータA~Gを用いて、上述のスクラッチ試験を行い、TD、MDにおける「臨界荷重」、「臨界荷重までの距離」を測定した。その結果を表3に示す。
【0144】
【0145】
さらに、実施例1~5および比較例1、2にて得られた非水電解液二次電池A~Gのサイクル特性を示す100サイクル後のレート特性維持率を測定した。また、実施例1、2、6~8および比較例3、4にて得られた非水電解液二次電池A、B、H~Lの初期レート特性を示すハイレート放電容量を上述の方法で測定した。その結果を表4に示す。
【0146】
【0147】
[結論]
表2~4に示されるように、「|1-T/M|」の値が0.54を超える、すなわち「T/M」の値が0.46未満であり、スクラッチ試験における臨界荷重までの距離の異方性が大きい、比較例1、2にて製造された非水二次電池用セパレータE、Gを含む非水電解液二次電池E、Gは、100サイクル後のレート特性(電池特性維持率)が、38%、20%と顕著に低いことが確認された。
【0148】
これに対し、「|1-T/M|」の値が0.00~0.54、すなわち「T/M」の値が0.45~1.00であり、スクラッチ試験における臨界荷重までの距離の異方性が小さい、実施例1~5にて製造された非水電解液二次電池用セパレータA~D、Fを含み、並びに、正極板および負極板の双方における「1-T/M」の値が、0.00~0.50である非水二次電池A~D、Fは、100サイクル後のレート特性(電池特性維持率)が44%以上であり、サイクル特性などの電池特性により優れることが確認された。
【0149】
また、「|1-T/M|」の値が0.50を超える、すなわち「T/M」の値が0.50未満であり、スクラッチ試験における臨界荷重までの距離の異方性が大きい、比較例3にて製造された正極板4または比較例4にて製造された負極板3を備える、非水電解液二次電池K、Lは、ハイレート放電容量が27mAh/g、116mAh/gであり、「|1-T/M|」の値が0.00~0.50、すなわち「T/M」の値が0.50~1.00であり、スクラッチ試験における臨界荷重までの距離の異方性が小さい、正極板および負極板を備える非水電解液二次電池A、BおよびH~Jのハイレート放電容量よりも低くなることが確認された。すなわち、実施例1、2、6~8にて製造された非水電解液二次電池A、BおよびH~Jは、初期レート特性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、パーソナルコンピュータ、携帯電話および携帯情報端末などに用いる電池、並びに、車載用電池として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0151】
1 ダイヤモンド圧子
2 基板(ガラス製プレパラート)
3 測定対象(多孔質フィルム、正極板または負極板)