(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】被加工物の搬送方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20221214BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221214BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H01L21/68 A
H01L21/304 622L
H01L21/78 N
(21)【出願番号】P 2018118694
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-216614(JP,A)
【文献】特開2007-281073(JP,A)
【文献】特開2011-146663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
H01L 21/304
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面が保持テーブルに保持された被加工物を搬送部材に受け渡して搬送する被加工物の搬送方法であって、
該保持テーブルに吸引保持された該被加工物のもう一方の面を該搬送部材に吸着させる搬送部材吸着ステップと、
該保持テーブルに吸引保持された状態の該被加工物のもう一方の面を吸着する該搬送部材の吸着圧力を測定し、該吸着圧力と予め登録したしきい値と比較する吸着圧力測定ステップと、を備え、
該吸着圧力測定ステップにて測定した吸着圧力が該しきい値より高い場合は、該搬送部材の吸着面に異物が付着していないと判断し、該保持テーブルの吸引を停止し、
さらに吸着圧力が上昇すると、該搬送部材の移動が可能となったと判断し、該被加工物を該搬送部材に受け渡す被加工物受け渡しステップを実施し、
該吸着圧力測定ステップにて測定した吸着圧力が該しきい値より低い場合は、該搬送部材の吸着面に異物が付着していると判断し、該搬送部材の吸着を停止し、該被加工物の該搬送部材への受け渡しを中止する受け渡し中止ステップを実施することを特徴とする被加工物の搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持テーブルに保持された被加工物を搬送部材に受け渡して搬送する被加工物の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、被加工物の表面に格子状にストリート(分割予定ライン)が形成され、ストリートによって区画された領域にIC、LSI等のデバイスが形成される。これらの被加工物は、裏面が研削されて所定の厚みへと薄化された後、ストリートに沿って切削装置等によって分割されることで個々の半導体デバイスチップが製造される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体デバイスの製造では、各工程において保持テーブルで被加工物を保持した状態で、切削、研削、洗浄、又は検査等を実施する。そして、各工程が実施された後に、被加工物は保持テーブルから搬送部材に受け渡されて、搬送部材の吸着面で吸着保持された状態で搬送部材によって次工程で用いられる装置の保持テーブルへ搬送されたり、ウェーハカセットへ収納されたりする。
【0005】
被加工物の保持テーブルから搬送部材への受け渡しの際に、搬送部材の吸着面と被加工物の被吸着面との間に加工屑などの異物が存在していた場合、搬送部材が被加工物を吸着保持すると被加工物の被吸着面上の異物が存在している箇所に応力が集中し、被加工物に割れやクラックが発生し製品不良につながる。
【0006】
よって、保持テーブルに保持された被加工物を搬送部材に受け渡して搬送する場合には、搬送部材の吸着面と被加工物の被吸着面との間に加工屑などの異物が存在していたとしても、被加工物に異物を原因とする割れやクラックを発生させないようにするという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、一方の面が保持テーブルに保持された被加工物を搬送部材に受け渡して搬送する被加工物の搬送方法であって、該保持テーブルに吸引保持された該被加工物のもう一方の面を該搬送部材に吸着させる搬送部材吸着ステップと、該保持テーブルに吸引保持された状態の該被加工物のもう一方の面を吸着する該搬送部材の吸着圧力を測定し、該吸着圧力と予め登録したしきい値とを比較する吸着圧力測定ステップと、を備え、該吸着圧力測定ステップにて測定した吸着圧力が該しきい値より高い場合は、該搬送部材の吸着面に異物が付着していないと判断し、該保持テーブルの吸引を停止し、さらに吸着圧力が上昇すると、該搬送部材の移動が可能となったと判断し、該被加工物を該搬送部材に受け渡す被加工物受け渡しステップを実施し、該吸着圧力測定ステップにて測定した吸着圧力が該しきい値より低い場合は、該搬送部材の吸着面に異物が付着していると判断し、該搬送部材の吸着を停止し、該被加工物の該搬送部材への受け渡しを中止する受け渡し中止ステップを実施することを特徴とする被加工物の搬送方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る被加工物の搬送方法は、一方の面が保持テーブルに吸引保持された被加工物のもう一方の面を搬送部材に吸着させる搬送部材吸着ステップと、該保持テーブルに吸引保持された状態の被加工物のもう一方の面を吸着する搬送部材の吸着圧力を測定し、吸着圧力と予め登録したしきい値と比較する吸着圧力測定ステップと、を備え、吸着圧力測定ステップにて測定した吸着圧力が該しきい値より高い場合は、搬送部材の吸着面に異物が付着していないと判断し、保持テーブルの吸引を停止し、被加工物を搬送部材に受け渡す被加工物受け渡しステップを実施し、吸着圧力測定ステップにて測定した吸着圧力がしきい値より低い場合は、搬送部材の吸着面に異物が付着していると判断し、搬送部材の吸着を停止し、被加工物の搬送部材への受け渡しを中止する受け渡し中止ステップを実施することで、搬送部材の吸着面と被加工物の被吸着面であるもう一方の面との間に加工屑などの異物が存在していた場合であっても、被加工物に異物を原因とする割れやクラックを発生させないようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】搬送部材の吸着面と被加工物の裏面との間に異物が存在していない場合において、保持テーブルに吸引保持された被加工物の裏面を搬送部材に吸着させている状態を説明する断面図である。
【
図2】搬送部材の吸着面と被加工物との間に異物が存在している場合又は異物が存在していない場合それぞれにおいて、被加工物の搬送方法を実施している最中に圧力計が測定した搬送部材の吸着圧力の時間経過による推移を示すグラフである。
【
図3】搬送部材の吸着面と被加工物の裏面との間に異物が存在していない場合において、保持テーブルの吸引を停止し、被加工物を搬送部材に受け渡している状態を説明する断面図である。
【
図4】搬送部材の吸着面と被加工物の裏面との間に異物が存在している場合において、保持テーブルに吸引保持された被加工物の裏面を搬送部材に吸着させている状態を説明する断面図である。
【
図5】搬送部材の吸着面と被加工物の裏面との間に異物が存在している場合において、搬送部材の吸着を停止し、被加工物の搬送部材への受け渡しを中止している状態を説明する断面図である。
【
図6】従来の被加工物の搬送方法において、搬送部材の吸着面で被加工物の裏面を吸着する状態を説明する断面図である。
【
図7】従来の被加工物の搬送方法において、搬送部材が吸着面で被加工物を吸着保持した後直ぐに、保持テーブルによる被加工物の吸引保持が停止することで、被加工物が異物を吸着面上で覆い囲み搬送部材のみが被加工物を吸着保持した状態を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示す保持テーブル30は、例えば、回転する研削砥石で被加工物Wを研削して薄化する研削装置に備えられている。なお、保持テーブル30は、被加工物Wに対して回転する切削砥石を切込ませて被加工物Wをカットする切削装置、被加工物Wに対してレーザー照射によって被加工物Wに所望の加工を施すレーザー加工装置、研磨パッドで被加工物Wを研磨する研磨装置、被加工物Wに保護テープを貼着するテープマウンタ、又は、被加工物Wに貼着された保護テープを拡張して被加工物Wに外力を加えて分割するエキスパンド装置等に備えられているものであってもよい。
【0011】
被加工物Wは、例えば、母材をシリコンとする円形板状の半導体ウェーハであり、
図1において下方を向いている被加工物Wの一方の面Wa(本実施形態においては、表面Wa)上には、分割予定ラインによって区画された格子状の領域に図示しないデバイスが形成されている。被加工物Wの表面Waは、例えば、図示しない保護テープが貼着されて保護されている。
図1において上方を向いている被加工物Wのもう一方の面Wb(本実施形態においては、裏面Wb)は、例えば、既に研削加工が施された被研削面となっている。なお、被加工物Wは本実施形態に示す例に限定されるものではない。
【0012】
保持テーブル30は、例えば、その外形が円形状であり、ポーラス部材などからなり被加工物Wを吸引保持する保持部300と、保持部300を囲繞して支持する枠体301とを備える。保持部300は、コンプレッサーやエジェクター等の真空発生装置である第1の吸引源39にエア流路390を介して連通する。そして、
図1においては、第1の吸引源39が作動することで、第1の吸引源39が生み出す吸引力が保持部300の露出面である保持面300aに伝達され、保持テーブル30は保持面300a上で被加工物Wの表面Waを吸引保持した状態になっている。
なお、保持テーブル30は本実施形態に示す例に限定されるものではなく、保持面に吸引溝が形成された保持テーブルや、複数の支持ピンにより保持面が形成されるピンチャックテーブルであってもよい。
【0013】
例えば、エア流路390には、圧縮エアを供給可能なエア源38が接続されている。エア源38は、保持テーブル30により吸引保持されている被加工物Wを、保持面300aから離脱させる際に用いられる。即ち、エア源38からエア流路390に供給されたエアは、エア流路390を通り保持部300に到り、保持面300aから上方に向かって噴出する。このエアの噴出圧力で被加工物Wを保持面300aから押し上げ、保持面300aと被加工物Wとの間に残存する真空吸着力(第1の吸引源39による吸引を止めた後に残る真空吸着力)を排除し、被加工物Wを保持テーブル30から確実に離脱可能とする。なお、エア流路390には、例えば図示しない切換弁が配設されており、切換弁の切り換え動作により、エア流路390と第1の吸引源39とが繋がった状態とエア流路390とエア源38とが繋がった状態とを切り換え可能となっている
【0014】
図1に示す搬送部材4は、例えば、搬送パッド40を支持するアーム部41と、アーム部41の下面側に配設され被加工物Wを吸着保持する搬送パッド40と、を備えている。
搬送パッド40は、例えば、その外形が円形状であり、ポーラス部材などからなり被加工物Wを吸着する吸着部400と、吸着部400を囲繞して支持する枠体401とを備える。吸着部400は、コンプレッサーやエジェクター等の真空発生装置である第2の吸引源49に吸引路490を介して連通する。そして、第2の吸引源49が作動することで、第2の吸引源49が生み出す吸引力が吸着部400の露出面である平坦な吸着面400aに伝達され、搬送部材4は吸着面400aで保持テーブル30に吸引保持された被加工物Wの裏面Wbを吸着できる。吸着面400aの径は、例えば、被加工物Wの径よりも小さく設定されている。
【0015】
例えば、吸引路490上には、吸引路490内に流れるエアの圧力、即ち、被加工物Wの裏面Wbを吸着する搬送部材4の吸着圧力を測定する圧力計48が配設されている。圧力計48は、CPU及び記憶素子等から構成される圧力判断部47に電気的に接続されており、搬送部材4が稼動している最中において吸引路490内の圧力についての測定情報を圧力判断部47に逐次送ることができる。
圧力判断部47には、予め、保持テーブル30に吸引保持された状態の被加工物Wの裏面Wbを吸着する搬送部材4の吸着圧力についてのしきい値(例えば、-50MPaとする)が設定されている。なお、圧力判断部47の役割を、しきい値を記憶している作業者が圧力計48の目盛を監視することで果たしてもよい。
【0016】
アーム部41は、図示しない移動手段によって水平方向及び鉛直方向(Z軸方向)に移動可能となっている。アーム部41と搬送パッド40の枠体401とは固定ボルト43によって繋がれており、本実施形態に示す例においては、アーム部41と搬送パッド40の枠体401との間にはスプリング44が配設されている。スプリング44は、被加工物Wを吸着保持するために被加工物Wに搬送パッド40を接触させる際に収縮し、これに伴いアーム部41が固定ボルト43に対して相対的に僅かに下降することで、搬送パッド40の重量が被加工物Wに多くかかることを防ぎ、被加工物Wが搬送パッド40から受ける押圧力によって破損することを防ぐ。なお、搬送部材4は、スプリング44を備えない構成としてもよい。
【0017】
以下に、
図1に示すように、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間に異物が存在していない場合において、表面Waが保持テーブル30に保持された被加工物Wを搬送部材4に受け渡して搬送する本発明に係る被加工物Wの搬送方法の各ステップについて説明する。なお、本発明に係る被加工物Wの搬送方法は、装置から装置間への被加工物の搬送、又は、1つの装置内における保持テーブル30(例えば、保持テーブル30が加工テーブルである場合)から図示しない洗浄テーブルへの搬送、若しくは保持テーブル30(例えば、保持テーブル30が洗浄テーブルである場合)からのウェーハカセットへの搬送を行う際に実施される。
【0018】
(1)搬送部材吸着ステップ
まず、表面Waが保持テーブル30に吸引保持された被加工物Wの裏面Wbを搬送部材4に吸着させる。即ち、図示しない移動手段により、搬送部材4が水平方向に移動して、搬送パッド40の中心が被加工物Wの中心と略合致するように搬送パッド40が被加工物Wの上方に位置付けられる。また、第2の吸引源49が作動することで、第2の吸引源49が生み出す吸引力が搬送パッド40の吸着面400aに伝達される。また、圧力計48による搬送部材4の吸着圧力の測定が開始され、測定情報が逐次圧力判断部47に送信される。
図2に示す二点鎖線で示すグラフG1は、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間に異物が存在していない場合において、本発明に係る被加工物の搬送方法を実施している最中に圧力計48が測定した搬送部材4の吸着圧力の時間経過による推移を示すグラフである。そして搬送部材吸着ステップ開始時(0秒時)において、圧力計48が測定した搬送部材4の吸着圧力は約-2MPaと低い(弱い)値になっている。なお、吸着圧力は-(負)の値で示され、-(負)の値が高いほど強い力となる。
【0019】
さらに、
図1に示す搬送パッド40の吸着面400aが被加工物Wの裏面Wbに接触する高さ位置まで搬送パッド40が-Z方向へと降下した後、該高さ位置で降下が停止する。そして、第2の吸引源49により生み出され吸着面400aに伝達されている吸引力により、搬送部材4は吸着面400aで被加工物Wの裏面Wbを吸着する。
【0020】
(2)吸着圧力測定ステップ
搬送部材4が吸着面400aで被加工物Wの裏面Wbを吸着し、かつ保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持が継続してなされた状態で、搬送部材4の吸着圧力を測定する圧力計48の測定値(例えば、搬送部材吸着ステップ開始から約5秒経過時における測定値)が、
図2に示すグラフG1のようにしきい値(-50MPa)より高い値(例えば、約-60MPa)まで急激に上昇する。これは、保持テーブル30により被加工物Wが下方に引き寄せられているものの、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間に異物が存在していないことで、吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間でバキュームリークは発生していないためである。そして、圧力計48から送られてくる測定値としきい値とを逐次比較し続けている圧力判断部47が、保持テーブル30に被加工物Wが吸引保持されている状態で搬送部材4の吸着圧力がしきい値より高くなったと判断する。
【0021】
(3)被加工物受け渡しステップ
吸着圧力と予め登録したしきい値と比較する圧力判断部47は、上記のように吸着圧力がしきい値より高くなったと判断すると、搬送部材4の吸着面400aに異物が付着していないとさらに判断する。そして圧力判断部47が該判断をすると、保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持を停止させる制御が行われる。即ち、第1の吸引源39が停止する、又は、エア流路390に配設された図示しない切換弁がエア流路390を第1の吸引源39と連通しない状態に切り換える。さらに、
図3に示すように、エア源38が圧縮エアをエア流路390に供給して、保持面300aから噴出したエアによって保持面300aと被加工物Wとの間に残存する真空吸着力が排除され、被加工物Wが搬送部材4の吸着面400aのみで吸着保持され、被加工物Wの搬送部材4への受け渡しがなされた状態になる。
【0022】
図3に示すように、保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持が解除されると、圧力計48が測定する受け渡された被加工物Wの裏面Wbを吸着している搬送部材4の吸着圧力値(例えば、搬送部材吸着ステップ開始から約30秒経過時における測定値)が、
図2に示すグラフG1のように、例えば、約-95MPaまで急激に上昇する。これは、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間に異物が存在していないことで、吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間でバキュームリークが発生しておらず、かつ、保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持が解除されたこと(被加工物Wを下方に引き寄せる力が解除されたこと)による。
そして、圧力計48から圧力判断部47に送られてくる測定値が上記のようにさらに上昇したことで、圧力判断部47は、被加工物Wの搬送部材4への受け渡しが完了し、搬送部材4のみが被加工物Wを吸着保持しており、搬送部材4の移動が可能となったと判断する。該判断が圧力判断部47によって行われる理由は、保持テーブル30からの被加工物Wの離脱が完全に行われていない状態で、被加工物Wを吸着保持する搬送部材4の移動が行われると、被加工物Wの破損事故が起きる場合があるためである。
そして、搬送パッド40を上昇させて、さらに水平方向に移動させる制御が実施される。
【0023】
以下に、
図4に示すように、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間に異物Mが存在している場合において、表面Waが保持テーブル30に保持された被加工物Wを搬送部材4に受け渡して搬送する本発明に係る被加工物Wの搬送方法の各ステップについて説明する。なお、異物Mとは、先に施された加工時に洗浄しきれず被加工物Wの裏面Wbに付着している加工屑、又は、搬送部材4の吸着面400aに付着しているテープ屑等であり、本実施形態においては、例えば、約150μm程度の大きさを備えている。
【0024】
(1)搬送部材吸着ステップ
まず、保持テーブル30に表面Waが吸引保持された被加工物Wの裏面Wbを搬送部材4に吸着させる。即ち、搬送部材4が水平方向に移動して、搬送パッド40の中心が被加工物Wの中心と略合致するように搬送パッド40が被加工物Wの上方に位置付けられる。また、第2の吸引源49が作動することで、吸引力が搬送パッド40の吸着面400aに伝達される。また、圧力計48による搬送部材4の吸着圧力の測定が開始され、測定情報が逐次圧力判断部47に送信される。
図2に示す一点鎖線で示すグラフG2は、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間に異物Mが存在している場合において、本発明に係る被加工物の搬送方法を実施している最中に圧力計48が測定した搬送部材4の吸着圧力の時間経過による推移を示すグラフである。そして搬送部材吸着ステップ開始時(0秒時)において、圧力計48が測定した搬送部材4の吸着圧力は約-2MPaと低い(弱い)値になっている。
【0025】
さらに、搬送パッド40の吸着面400aが被加工物Wの裏面Wbに接触する高さ位置まで搬送パッド40が-Z方向へと降下した後、該高さ位置で降下が停止する。この状態において、搬送パッド40の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとにより異物Mが挟まれた状態になる。そして、第2の吸引源49により生み出され吸着面400aに伝達されている吸引力により、搬送部材4は吸着面400aで被加工物Wの裏面Wbを異物Mを挟んだ状態で吸着する。
【0026】
(2)吸着圧力測定ステップ
搬送部材4が吸着面400aで被加工物Wの裏面Wbを吸着し、かつ保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持が継続してなされた状態で、搬送部材4の吸着圧力を測定する圧力計48の測定値(例えば、搬送部材吸着ステップ開始から約5秒経過時における測定値)が、
図2に示すグラフG2のように急激に上昇する。しかし、該測定値は、例えば、しきい値-50MPaより低い約-40MPaでしかない。これは、保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持がなされているため、搬送部材4の吸着面400aに被加工物Wが十分に馴染まず、かつ、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間に異物Mが存在していることで、吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間でバキュームリークが発生しているためである。そして、圧力計48から送られてくる測定値としきい値とを逐次比較し続けている圧力判断部47が、保持テーブル30に被加工物Wが吸引保持されている状態で搬送部材4の吸着圧力がしきい値より低くなったと判断する。
【0027】
(3)受け渡し中止ステップ
吸着圧力と予め登録したしきい値と比較する圧力判断部47は、上記のように吸着圧力がしきい値より低くなったと判断すると、搬送部材4の吸着面400aに異物Mが付着しているとさらに判断する。その結果、搬送部材4による被加工物Wの吸着保持を停止させる制御が行われる。即ち、
図5に示すように、第2の吸引源49が停止することで搬送部材4の吸着圧力が無くなり、被加工物Wが保持テーブル30の保持面300aのみで吸引保持され、被加工物Wの搬送部材4への受け渡しが中止される。
したがって、圧力計48が測定する被加工物Wの裏面Wbを吸着していない搬送部材4の吸着圧力値(例えば、搬送部材吸着ステップ開始から約30秒経過時における測定値)が、
図2に示すグラフG2のように、例えば、約-2MPaまで急激に下降する。
例えば、被加工物Wの搬送部材4への受け渡しが中止された後、作業者等によって搬送部材4の吸着面400aが洗浄されて異物Mが取り除かれる、又は、被加工物Wが保持テーブル30から洗浄装置等に搬送されて裏面Wbの洗浄がなされて異物Mが除去される。
【0028】
ここで、従来の被加工物の搬送方法における被加工物Wの搬送部材4への受け渡しについて、
図6、7を用いて以下に説明する。従来の被加工物の搬送方法における被加工物Wの搬送部材4への受け渡しでは、
図6に示すように、搬送パッド40の吸着面400aが被加工物Wの裏面Wbに接触する高さ位置まで搬送パッド40が-Z方向へと降下した後、該高さ位置で停止する。そして、第2の吸引源49により生み出され吸着面400aに伝達されている吸引力により、搬送部材4は吸着面400aで被加工物Wの裏面Wbを吸着する。また、搬送部材4が吸着面400aで被加工物Wを吸着保持した後直ぐに、保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持を停止させる制御が行われる。即ち、第1の吸引源39が停止し、さらに、
図7に示すように、エア源38が圧縮エアをエア流路390に供給して、保持面300aから噴出したエアによって保持面300aと被加工物Wとの間に残存する真空吸着力が排除され、被加工物Wが搬送部材4の吸着面400aのみで吸着保持され、被加工物Wの搬送部材4への受け渡しがなされた状態になる。
【0029】
その結果、搬送部材4は、吸着面400aに被加工物Wが十分に馴染んだ状態、即ち、被加工物Wが異物Mを吸着面400a上で覆い囲み込んだ状態で、被加工物Wを吸着面400aで吸着保持する。そして、保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持が解除された状態で、圧力計48が吸着面400aで被加工物Wの裏面Wbを吸着している搬送部材4の吸着圧力を測定すると、圧力計48の測定値が例えば、約-95MPaまで急激に上昇する。これは、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間に異物Mが存在していても、被加工物Wが異物Mを吸着面400a上で覆い囲み込んだ状態となっているため、吸着面400aと被加工物Wの裏面Wbとの間でバキュームリークが発生していないことによる。その結果、搬送部材4のみが被加工物Wを吸着保持していると判断され、搬送パッド40を上昇させて、さらに水平方向に移動させる制御がなされる。
このように、搬送部材4による被加工物Wの搬送は可能となるが、保持テーブル30による被加工物Wの吸引保持が解除されることで、被加工物Wが異物Mを吸着面400a上で覆い囲み込んだ状態となるため、被加工物Wの該異物Mが存在している箇所は変形による負荷が掛かり割れてしまい、該箇所からクラックが周囲に伸長してしまう。
【0030】
一方、先に説明したように、本発明に係る被加工物の搬送方法は、一方の面Wa(本実施形態においては、表面Wa)が保持テーブル30に吸引保持された被加工物Wのもう一方の面Wb(本実施形態においては、裏面Wb)を搬送部材4に吸着させる搬送部材吸着ステップと、該保持テーブル30に吸引保持された状態の被加工物Wの裏面Wbを吸着する搬送部材4の吸着圧力を測定し、吸着圧力と予め登録したしきい値と比較する吸着圧力測定ステップと、を備え、吸着圧力測定ステップにて測定した吸着圧力が該しきい値より高い場合は、搬送部材4の吸着面400aに異物が付着していないと判断し、保持テーブル30の吸引を停止し、被加工物Wを搬送部材4に受け渡す被加工物W受け渡しステップを実施し、吸着圧力測定ステップにて測定した吸着圧力がしきい値より低い場合は、搬送部材4の吸着面400aに異物Mが付着していると判断し、搬送部材4の吸着を停止し、被加工物Wの搬送部材4への受け渡しを中止する受け渡し中止ステップを実施することで、搬送部材4の吸着面400aと被加工物Wの被吸着面である裏面Wbとの間に加工屑などの異物Mが存在していた場合であっても、被加工物Wを搬送部材4の吸着面400aに無理に馴染ませて吸着させることが無いようにして、被加工物Wに異物Mを原因とする割れやクラックを発生させないようにすることが可能となる。
【0031】
なお、本発明に係る被加工物の搬送方法は上記の例に限定されるものではなく、また、添付図面に図示されている保持テーブル30及び搬送部材4等の構成についても、これに限定されず、本発明の効果を発揮できる範囲内で適宜変更可能である。
例えば、保持テーブル30に吸引保持された被加工物Wの一方の面が裏面Wbとなっており、保持テーブル30上で上方に露出している被加工物Wのもう一方の面(この場合は、表面Wa)を搬送部材4に吸着させる際に、本発明に係る被加工物の搬送方法を実施してもよい。
【符号の説明】
【0032】
W:被加工物 Wa:被加工物の一方の面(表面) Wb:被加工物のもう一方の面(裏面)
30:保持テーブル 300:保持部 300a:保持面 301:枠体
39:第1の吸引源 390:エア流路 38:エア源
4:搬送部材 40:搬送パッド 400:吸着部 400a:吸着面 401:枠体 41:アーム部 43:固定ボルト 44:スプリング
49:第2の吸引源 490:吸引路
48:圧力計 47:圧力判断部
M:異物