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特許7193953有機ELデバイスの製造方法及び有機ELデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】有機ELデバイスの製造方法及び有機ELデバイス
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20221214BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20221214BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20221214BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/12 Z
H05B33/12 B
H05B33/22 Z
H05B33/14 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018157480
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020031187
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 泰広
(72)【発明者】
【氏名】山下 和貴
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082173(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135656(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135580(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0263879(US,A1)
【文献】特開2010-065213(JP,A)
【文献】特開2007-207545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50-51/56
H05B 33/00-33/28
H01L 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と有機発光層と第2の電極とを含む画素を形成する工程を含む有機ELデバイスの製造方法であって、
前記有機ELデバイスは、基板と、前記基板に設けられており前記画素を規定するためのバンクとを備え、
前記画素は、前記バンク内に配置され、
前記画素を形成する工程は、
前記第1の電極上に前記有機発光層を形成する工程と、
前記有機発光層上に前記第2の電極を形成する工程と、
得られた画素を検査する工程と、
を含み、
前記有機発光層は、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有し、かつ、前記短手方向の中心を通り前記長手方向に平行な断面において、長手方向中心の厚みが両端の厚みよりも小さい凹形状を有するように形成され、
前記画素は、電流値が10mA/cmであるときの輝度が3000cd/m以上であり、
前記検査する工程は、前記画素の前記断面における輝度分布曲線の傾きに関する情報を取得し、該情報に基づいて前記画素の良否判定を行う工程を含み、
前記良否判定を行う工程において、
前記長手方向中心の位置を0、前記長手方向における一方端の位置を+100、前記長手方向における他方端の位置を-100とするとき、
絶対値で60以上80以下の位置の輝度分布曲線の傾きに関する情報に基づいて前記画素の良否判定を行う、有機ELデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記画素の良否判定を行う工程において、前記画素が、前記長手方向中心における輝度で規格化したときの前記断面における輝度分布曲線について、
前記長手方向中心の位置を0、前記長手方向における一方端の位置を+100、前記長手方向における他方端の位置を-100とするとき、
60≦X≦80である位置+Xにおける輝度分布曲線の傾きの絶対値と、位置-Xにおける輝度分布曲線の傾きの絶対値との平均値に基づいて前記画素の良否判定を行う、請求項1に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記画素の良否判定を行う工程において、前記画素が、前記長手方向中心における輝度で規格化したときの前記断面における輝度分布曲線について、下記式(1):
SL(70)≦0.010 (1)
[式中、SL(70)は、前記長手方向中心の位置を0、前記長手方向における一方端の位置を+100、前記長手方向における他方端の位置を-100とするとき、位置+70における輝度分布曲線の傾きの絶対値と、位置-70における輝度分布曲線の傾きの絶対値との平均値を表す。]
を満たすか否かに基づいて前記画素の良否判定を行う、請求項1又は2に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記第1の電極上に、塗布法によって有機発光層を形成する、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELデバイスの製造方法及び有機ELデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)デバイスは、有機化合物の電界発光を利用した発光素子を含むデバイスである。有機ELデバイスでは、各画素内に有機発光層が設けられ、画素毎に光が発せられる〔例えば、国際公開第2008/149499号(特許文献1)〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2008/149499号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ELデバイスには、低消費電力及び長寿命化の観点から、外部量子効率(EQE)の向上が求められている。
一方、バンク付きの画素を持つ有機ELデバイスにおいては、端部で発光した場合にリーク(短絡)につながる危険性から各画素に設けられる有機発光層の断面形状を長手方向中心の厚みが両端の厚みよりも小さい凹形状にすることによって、リークの危険性を抑えていた。しかし、このような有機ELデバイスにおいて、EQEについては改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、EQEが良好な有機ELデバイスを提供することにある。
本発明の他の目的は、EQEが良好な有機ELデバイスを生産性良く製造することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示す有機ELデバイスの製造方法及び有機ELデバイスを提供する。
[1] 第1の電極と有機発光層と第2の電極とを含む画素を備える有機ELデバイスであって、
前記有機ELデバイスは、基板と、前記基板に設けられており前記画素を規定するためのバンクとを備え、
前記画素は、前記バンク内に配置され、
前記有機発光層は、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有し、かつ、前記短手方向の中心を通り前記長手方向に平行な断面において、長手方向中心の厚みが両端の厚みよりも小さい凹形状を有し、
前記画素は、電流値が10mA/cmであるときの平均輝度が3000cd/m以上であり、
前記画素は、前記断面における最大輝度の値を1とする規格化がなされた前記断面における輝度分布曲線について、下記式(1):
SL(70)≦0.010 (1)
[式中、SL(70)は、前記長手方向中心の位置を0、前記長手方向における一方端の位置を+100、前記長手方向における他方端の位置を-100とするとき、位置+70における輝度分布曲線の傾きの絶対値と、位置-70における輝度分布曲線の傾きの絶対値との平均値を表す。]
を満たす、有機ELデバイス。
[2] 第1の電極と有機発光層と第2の電極とを含む画素を形成する工程を含む有機ELデバイスの製造方法であって、
前記有機ELデバイスは、基板と、前記基板に設けられており前記画素を規定するためのバンクとを備え、
前記画素は、前記バンク内に配置され、
前記画素を形成する工程は、
前記第1の電極上に前記有機発光層を形成する工程と、
前記有機発光層上に前記第2の電極を形成する工程と、
得られた画素を検査する工程と、
を含み、
前記有機発光層は、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有し、かつ、前記短手方向の中心を通り前記長手方向に平行な断面において、長手方向中心の厚みが両端の厚みよりも小さい凹形状を有するように形成され、
前記画素は、電流値が10mA/cmであるときの輝度が3000cd/m以上であり、
前記検査する工程は、前記画素の前記断面における輝度分布曲線の傾きに関する情報を取得し、該情報に基づいて前記画素の良否判定を行う工程を含む、有機ELデバイスの製造方法。
[3] 前記画素の良否判定を行う工程において、前記画素が、前記長手方向中心における輝度で規格化したときの前記断面における輝度分布曲線について、下記式(1):
SL(70)≦0.010 (1)
[式中、SL(70)は、前記長手方向中心の位置を0、前記長手方向における一方端の位置を+100、前記長手方向における他方端の位置を-100とするとき、位置+70における輝度分布曲線の傾きの絶対値と、位置-70における輝度分布曲線の傾きの絶対値との平均値を表す。]
を満たすか否かに基づいて前記画素の良否判定を行う、[2]に記載の有機ELデバイスの製造方法。
[4] 前記第1の電極上に、塗布法によって有機発光層を形成する、[2]又は[3]に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
EQEが良好な有機ELデバイスを提供することができる。
また、EQEが良好な有機ELデバイスを生産性良く製造することのできる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る有機ELデバイスを画素形成面側から見たときの平面図である。
図2図1のII-II線に沿った断面の一部拡大図である。
図3図1の有機ELデバイスが有するバンク付き基板を説明する図である。
図4】画素の輝度分布曲線の一例を示す図である。
図5】有機構造体形成工程を説明するための図である。
図6】有機発光層形成工程を説明するための図である。
図7】実施例、比較例及び参考例における有機発光層を形成する際の塗布膜を真空乾燥させる工程での減圧プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を示しながら本発明について説明する。同一の要素には同一符号を付する。重複する説明は省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0010】
<有機ELデバイス>
図1は、一実施形態に係る有機ELデバイスを画素形成面側から見たときの平面図である。
図1に示される有機ELデバイス1は有機ELディスプレイパネルであり、複数の画素2を有する。それぞれの画素2は、有機EL素子部である。すなわち、有機ELデバイス1は、複数の有機EL素子部が一体的に連結された構成を有する。
本明細書において、「画素」とは、光を発する単位(又は領域)を意味しており、少なくとも第1の電極と有機発光層と第2の電極とを含む。本実施形態において、画素2は、陽極(第1の電極)12、正孔注入層21、正孔輸送層22、有機発光層23及び陰極(第2の電極)30で構成されている。
画素2の発光により画素2は色情報を有する。図1では、画素2を破線で模式的に示している。
【0011】
複数の画素2のそれぞれは、赤色、緑色、及び青色のいずれかの光を出射する。この観点から、有機ELデバイス1は、3種類の画素2、すなわち、赤色の光を出射する赤色画素2R、緑色の光を出射する緑色画素2G及び青色の光を出射する青色画素2Bを有する。以下では、画素2が発光する色を区別して説明する場合には、画素2を、上記のように、赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2Bと称する場合もある。
【0012】
複数の画素2は、二次元配列(又はマトリックス状)に配置されている。二次元配列の互いに直交する二方向をX方向(又は行方向)及びY方向(又は列方向)とも称す。この場合、複数の画素2を構成する3種類の赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2Bは、例えば、以下の(i)、(ii)、(iii)の列を、Y方向にこの順で繰り返し配置することによって、それぞれ整列して配置される。
(i)赤色画素2RがX方向に所定の間隔をあけて配置される列。
(ii)緑色画素2GがX方向に所定の間隔をあけて配置される列。
(iii)青色画素2BがX方向に所定の間隔をあけて配置される列。
【0013】
有機ELデバイス1は、例えば、並列された赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2Bを一つの表示画素単位として、表示画素単位に含まれる赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2Bを制御することでフルカラー表示を行うことができる。
【0014】
各列における画素2の間の間隔、各行における画素2の間の間隔、画素2の配置例及び画素2の数等は、有機ELデバイス1の仕様等に応じて適宜設定される。
【0015】
有機ELデバイス1の構成についてより詳細に説明する。
図2は、図1のII-II線に沿った断面の一部拡大図である。図3は、図1の有機ELデバイスが有するバンク付き基板を説明する図面であり、図2からバンク付き基板10以外の構成要素を省略した図面に対応する。
有機ELデバイス1は、バンク付き基板10と、複数の有機EL構造部20と、陰極(第2の電極)30とを備える。有機ELデバイス1は、トップエミッション型のデバイスでもよいし、ボトムエミッション型のデバイスでもよい。以下では断らない限り、ボトムエミッション型、すなわち、バンク付き基板10側から光を取り出す場合について説明する。
図2及び図3に示されるように、バンク付き基板10は、基板11と、複数の陽極(第1の電極)12と、バンク13とを有する。
【0016】
(1)基板
基板11は、可視光(波長400nm~800nmの光)に対して透光性を有する板状の透明部材である。基板11は、陽極12及びバンク13を支持する支持体である。基板11の厚みは、例えば30μm以上1100μm以下である。基板11は、例えばガラス基板又はシリコン基板等のリジッド基板であってもよいし、プラスチック基板又は高分子フィルム等の可撓性基板であってもよい。可撓性基板を用いることで、有機ELデバイス1が可撓性を有し得る。
【0017】
基板11には画素2を駆動させるための回路が予め形成されていてもよい。基板11には、例えばTFT(Thin Film Transistor)やキャパシタ等があらかじめ形成されていてもよい。
【0018】
(2)陽極(第1の電極)
陽極12は、基板11の表面11a上において各画素2に対応する画素領域2a上に設けられている。陽極12の平面視形状(基板11の厚み方向から見た形状)としては、例えば、長方形、正方形等の四角形、他の多角形、及び、四角形や他の多角形において角部に丸味を付けた形状等が挙げられる。陽極12の平面視形状は、円形又は楕円形でもよい。また、陽極12の平面視形状は、四角形や他の多角形において、少なくとも1辺を弧状(例えば円弧状)にした形状でもよい。
【0019】
陽極12は、金属酸化物、金属硫化物及び金属等からなる薄膜を用いることができ、具体的には酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、及び銅等からなる薄膜が用いられる。有機ELデバイス1がバンク付き基板10側から光を出射する場合、光透過性を示す陽極12が用いられる。
【0020】
陽極12の厚みは、光透過性、電気伝導度等を考慮して適宜決定することができる。陽極12の厚みは、例えば10nm以上10μm以下であり、好ましくは20nm以上1μm以下であり、より好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0021】
陽極12は、蒸着法又は塗布法によって形成され得る。蒸着法で形成する場合には、陽極12の材料からなる層を基板11上に形成した後、その層を複数の陽極12のパターンにパターニングすればよい。塗布法で陽極12を形成する際には、陽極12の材料を含む塗布液を、複数の陽極12に対応したパターンで基板11上に塗布した後に、塗布膜を乾燥させることによって形成され得る。あるいは、陽極12となるべき材料からなる塗布膜を基板11に形成し乾燥させた後、陽極12のパターンにパターニングしてもよい。
【0022】
陽極12の形成において塗布法を利用する場合、塗布法としては、インクジェット印刷法が挙げられるが、その他、公知の塗布法、例えば、スリットコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、及びノズルプリント法等を用いてもよい。陽極12の材料を含む塗布液の溶媒は、陽極12の材料を溶解できる溶媒であればよい。
【0023】
一実施形態において、陽極12と基板11との間には、絶縁層等で構成される層が設けられてもよい。絶縁層等の層も基板11の一部とみなすこともできる。
【0024】
(3)バンク
バンク13は、図2及び図3に示されるように、各陽極12の周囲に設けられる。バンク13は、隣り合う陽極12の間に渡っても設けられている。バンク13の一部は、陽極12の周縁部に被さっていてもよい。バンク13は、画素2(画素領域2a)を規定(区画)するための隔壁である。すなわち、バンク13は、基板11の表面11a上において予め設定されている画素領域2aを区画する開口を有するようなパターンで基板11上に設けられている。本実施形態では、図1に示されるように、複数の画素2が二次元配列で配置されているため、格子状のバンク13が基板11に設けられている。
【0025】
バンク13は、例えば、樹脂から構成することができる。バンク13は、例えば、撥液剤を含む感光性樹脂組成物の硬化物である。撥液剤の例としては、フッ素樹脂を含有する撥液剤が挙げられる。バンク13で規定される画素領域2a上には、後述するように、例えば塗布法によって有機発光層23等の有機層が形成される。よって、バンク13は、通常、バンク13で規定される画素領域2a上に塗布法を利用して有機層を形成する際に、その有機層を好適に形成可能な特性(例えば濡れ性)を有するように形成されている。
【0026】
バンク13の形状及びその配置は、画素2の数及び解像度等の有機ELデバイス1の仕様や製造の容易さ等に応じて適宜設定される。例えば、図2及び図3において、バンク13の画素領域2aに望む側面13aは、基板11の表面11aに対して実質的に直交している。しかしながら、側面13aは、表面11aに対して鋭角をなすように傾斜していてもよいし、鈍角をなすように傾斜していてもよい。側面13aと、表面11aとが鋭角である場合、バンク13の形状は順テーパ型として知られており、側面13aと、基板11の表面とが鈍角である場合、バンク13の形状は逆テーパ型として知られている。バンク13の厚み(高さ)は、例えば0.3μm以上5μm以下程度である。
【0027】
バンク付き基板10は、例えば、基板11に予め設定される複数の画素領域2a上に陽極12を形成した後に、バンク13を形成することで製造することができる。
【0028】
バンク13は、例えば、塗布法を利用して形成することができる。具体的には、バンク13の材料を含む塗布液を、陽極12が形成された基板11に塗布してなる塗布膜を乾燥させた後、その塗布膜を所定のパターンにパターニングすることで形成できる。塗布法としては、例えば、スピンコート法、スリットコート法等が挙げられる。バンク13を含む塗布液の溶媒は、バンク13の材料を溶解できる溶媒であればよい。
【0029】
(4)正孔注入層
正孔注入層21は、陽極12から有機発光層23への正孔注入効率を改善する機能を有する有機層である。正孔注入層21の材料は公知の正孔注入材料が用いられ得る。正孔注入材料としては、例えば、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム及び酸化アルミニウム等の酸化物;フェニルアミン化合物;スターバースト型アミン化合物;フタロシアニン化合物;アモルファスカーボン;ポリアニリン;ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体が挙げられる。
【0030】
正孔注入層21の厚みは、用いる材料によって最適値が異なり、求められる特性及び層の形成し易さ等を勘案して適宜決定される。正孔注入層21の厚みは、例えば1nm以上1μm以下であり、好ましくは2nm以上500nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下である。
【0031】
正孔注入層21は、必要に応じて、画素2の種類毎、すなわち、赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2B毎にその材料又は厚みを異ならせて設けられる。正孔注入層21の形成工程の簡易さの観点から、同じ材料、同じ厚みで全ての正孔注入層21を形成してもよい。
【0032】
(5)正孔輸送層
正孔輸送層22は、陽極12、正孔注入層21又は陽極12により近い正孔輸送層22から有機発光層23への正孔注入を改善する機能を有する層である。正孔輸送層22の材料には、公知の正孔輸送入材料が用いられ得る。正孔輸送層22の材料としては、例えば、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン若しくはその誘導体、ピラゾリン若しくはその誘導体、アリールアミン若しくはその誘導体、スチルベン若しくはその誘導体、トリフェニルジアミン若しくはその誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、及びポリ(2,5-チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等が挙げられる。また、特開2012-144722号公報に開示されている正孔輸層材料も挙げることができる。
【0033】
正孔輸送層22の厚みは、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定される。正孔輸送層22の厚みは、例えば1nm以上1μm以下であり、好ましくは2nm以上500nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下である。
【0034】
正孔輸送層22は、必要に応じて、画素2の種類毎、すなわち、赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2B毎にその材料又は厚みを異ならせて設けられる。正孔輸送層22の形成工程の簡易さの観点から、同じ材料、同じ厚みで全ての正孔注入層21を形成してもよい。
【0035】
(6)有機発光層
有機発光層23は、正孔輸送層22上に設けられる。有機発光層23は、所定の波長の光を発光する機能を有する有機層である。有機発光層23は、通常、主として蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、あるいは、該有機物とこれを補助するドーパントとから形成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。
有機発光層23に含まれる有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよい。有機発光層23を構成する発光材料としては、例えば、下記の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料が挙げられる。
【0036】
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン若しくはその誘導体、テトラフェニルブタジエン若しくはその誘導体、トリフェニルアミン若しくはその誘導体、オキサジアゾール若しくはその誘導体、ピラゾロキノリン若しくはその誘導体、ジスチリルベンゼン若しくはその誘導体、ジスチリルアリーレン若しくはその誘導体、ピロール若しくはその誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン若しくはその誘導体、ペリレン若しくはその誘導体、オリゴチオフェン若しくはその誘導体、オキサジアゾールダイマー若しくはその誘導体、ピラゾリンダイマー若しくはその誘導体、キナクリドン若しくはその誘導体、クマリン若しくはその誘導体等が挙げられる。
【0037】
金属錯体系の発光材料としては、例えば、Tb、Eu、Dy等の希土類金属、又はAl、Zn、Be、Pt、Ir等を中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を配位子に有する金属錯体が挙げられる。金属錯体としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体等が挙げられる。
【0038】
高分子系の発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリパラフェニレン若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、ポリアセチレン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、上記色素材料、金属錯体材料を高分子化した材料等が挙げられる。
【0039】
上記発光材料のうち、赤色に発光する材料(以下、「赤色発光材料」ともいう。)としては、例えば、クマリン若しくはその誘導体、チオフェン環化合物、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が挙げられる。赤色発光材料としては、特開2011-105701号公報に開示されている材料も挙げられる。
【0040】
緑色に発光する材料(以下、「緑色発光材料」ともいう。)としては、例えば、キナクリドン若しくはその誘導体、クマリン若しくはその誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が挙げられる。緑色発光材料としては、特開2012-036388号公報に開示されている材料も挙げられる。
【0041】
青色に発光する材料(以下、「青色発光材料」ともいう。)としては、例えば、ジスチリルアリーレン若しくはその誘導体、オキサジアゾール若しくはその誘導体、及びそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリパラフェニレン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が挙げられる。青色発光材料としては、特開2012-144722号公報に開示されている材料も挙げられる。
【0042】
ドーパント材料としては、例えば、ペリレン若しくはその誘導体、クマリン若しくはその誘導体、ルブレン若しくはその誘導体、キナクリドン若しくはその誘導体、スクアリウム若しくはその誘導体、ポルフィリン若しくはその誘導体、スチリル色素、テトラセン若しくはその誘導体、ピラゾロン若しくはその誘導体、デカシクレン若しくはその誘導体、フェノキサゾン若しくはその誘導体等が挙げられる。
【0043】
有機発光層23は、画素2の種類、すなわち、赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2Bに応じて設けられる。赤色画素2Rに対応する凹部14の正孔輸送層22上には、赤色を発光する有機発光層23が設けられ、緑色画素2Gに対応する凹部14の正孔輸送層22上には、緑色を発光する有機発光層23が設けられ、青色画素2Bに対応する凹部14の正孔輸送層22上には、青色を発光する有機発光層23が設けられる。以下、赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2Bに含まれる有機発光層23を赤色発光層23R、緑色発光層23G及び青色発光層23Bとも称する場合がある。
【0044】
図2に示されるように、複数の有機EL構造部20は、バンク付き基板10において、バンク13と陽極12とで形成される凹部14(図2及び図3参照)内に設けられる。本実施形態において、有機EL構造部20は、正孔注入層21、正孔輸送層22及び有機発光層23を有する。
すなわち、各画素2は、バンク13内(バンク13によって規定される凹部14内)に配置される。
【0045】
少なくとも1つの画素2において、好ましくはすべての画素2において、有機発光層23は、図1に示されるように、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有する。本明細書において、平面視とは、層の厚み方向から見ることを意味する。本実施形態において、有機EL構造部20を構成する各層は、平面視において同一形状である。
長手方向と短手方向とを有する形状としては、長方形、長方形の角部に丸味を付けた形状、長方形における少なくとも1辺を弧状(例えば円弧状)にした形状、楕円形等が挙げられる。
【0046】
少なくとも1つの画素2において、好ましくはすべての画素2において、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有する有機発光層23は、短手方向の中心を通り長手方向に平行な断面において、長手方向中心の厚みが両端の厚みよりも小さい凹形状を有する(図2参照)。このような凹形状を付与することによって、リークや局所発光を生じやすい有機発光層23の外周部への電流注入量を減らして画素の輝度特定低下を抑えることができる。
上記凹形状を有する有機発光層23における長手方向両端の厚みと中心の厚みとの差は、例えば1nm以上20nm以下であり、輝度向上及びEQE向上の観点から、好ましくは1nm以上10nm以下であり、より好ましくは1nm以上5nm以下である。
有機発光層の平均的な厚みは、例えば1nm以上2μm以下であり、好ましくは5nm以上500nm以下であり、より好ましくは10nm以上100nm以下である。
【0047】
有機発光層23が凹形状を有していることは、例えば光学顕微鏡を用いて断面を観察することによって確認することができる。
バンク13内に塗布法によって有機発光層23を形成すると、表面張力の影響によって、通常、有機発光層23は凹形状を有することとなる。
【0048】
(7)陰極(第2の電極)
陰極30は、有機発光層23上に設けられる。陰極30の材料としては、仕事関数が小さく、有機発光層23への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料が好ましい。また、本実施形態で説明しているように、有機ELデバイス1が陽極12側から光を取り出す場合には、有機発光層23から放射される光を陰極30で陽極12側に反射するために、陰極30の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。陰極30には、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及び周期表の13族金属等を用いることができる。また、陰極30として、導電性金属酸化物又は導電性有機物等からなる透明導電性陰極を用いることもできる。
【0049】
陰極30の厚みは、電気伝導度、耐久性を考慮して適宜設定される。陰極30の厚みは、例えば10nm以上10μm以下であり、好ましくは20nm以上1μm以下であり、より好ましくは50nm以上500nm以下である。
有機発光層23と陰極30との間に、電子注入層、電子輸送層等の他の層を1又は2以上設けてもよい。
電子注入層は、陰極から有機発光層への電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子注入層には公知の電子注入材料を用いることができる。このように電子注入層を設ける場合には、電子注入層と有機発光層との間に、電子輸送層が設けられてもよい。電子輸送層は、陰極、電子注入層又は陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。電子輸送層には公知の電子輸送材料を用いることができる。
【0050】
本実施形態では、陰極30は複数の画素2が設けられる表示領域の全面に形成される。すなわち、陰極30は、有機発光層23上だけでなく、バンク13上にも形成され、複数の画素2に共通の陰極として設けられる。
【0051】
図1及び図2では図示を省略しているが、有機ELデバイス1の陰極30上には、通常、封止基板が設けられる。その他、有機ELデバイス1は、例えば、有機ELパネルディスプレイパネルが備える公知の他の要素を備え得る。
【0052】
(8)画素の輝度特性及び輝度分布特性
有機ELデバイス1において、複数の画素2のうち少なくとも1つは、下記〔A〕及び〔B〕を充足する。以下、下記〔A〕及び〔B〕を充足する画素を「特定画素」とも称する。
〔A〕電流値が10mA/cmであるときの平均輝度が3000cd/m以上である。
〔B〕有機発光層23の短手方向の中心を通り長手方向に平行な断面における最大輝度の値を1とする規格化がなされた該断面における輝度分布曲線について、下記式(1):
SL(70)≦0.010 (1)
を満たす。
【0053】
本発明は、上記〔A〕を満たすような輝度効率(単位:cd/A)の高い特定画素を含む有機ELデバイスにおいて、EQE向上効果を有意に向上させる。ここでいう輝度効率は、輝度(単位:cd/m)の値を、電流値(単位:mA/cm)で除したものである。
上記平均輝度とは、有機発光層23の短手方向の中心を通り長手方向に平行な断面における有機発光層23の長手方向にわたる輝度の平均値を意味する。
電流値が10mA/cmであるときの平均輝度は、好ましくは4000cd/m以上であり、より好ましくは5000cd/m以上である。
【0054】
電流値が10mA/cmであるときの平均輝度(平均輝度効率)は、主に、有機発光層23に含まれる発光材料の種類に依存する。したがって、複数の画素2が有する有機発光層23の少なくとも1つに用いる発光材料として、例えば上で例示した発光材料の中から、電流値が10mA/cmであるときの平均輝度が上記範囲になるものを選んで用いる。
【0055】
上記〔B〕について説明すると、画素の輝度分布曲線の一例を示す図4を参照して、SL(70)は、有機発光層(画素)の長手方向中心の位置を0、長手方向における一方端の位置を+100、長手方向における他方端の位置を-100とするとき、位置+70における輝度分布曲線の傾きの絶対値と、位置-70における輝度分布曲線の傾きの絶対値との平均値を表す。
ここでいう輝度分布曲線とは、有機発光層(画素)の長手方向における位置(横軸)と、その位置における輝度(縦軸)との関係を示す曲線グラフをいい、縦軸の輝度は、有機発光層23の長手方向中心における最大輝度の値を1とする規格化がなされている(図4参照)。
【0056】
位置+70における輝度分布曲線の傾きとは、該輝度分布曲線の座標を(位置,この位置における輝度)とするとき、5つの座標点(+68.4,この位置における輝度)、(+69.2,この位置における輝度)、(+70.0,この位置における輝度)、(+70.8,この位置における輝度)及び(+71.6,この位置における輝度)を用いて線形近似を行って得られる直線の傾きを意味する。
同様に、位置-70における輝度分布曲線の傾きとは、5つの座標点(-71.6,この位置における輝度)、(-70.8,この位置における輝度)、(-70.0,この位置における輝度)、(-69.2,この位置における輝度)及び(-68.4,この位置における輝度)を用いて線形近似を行って得られる直線の傾きを意味する。
【0057】
〔A〕及び〔B〕を充足する特定画素及びそれを含む有機ELデバイスは、〔A〕を充足するが〔B〕を充足しない画素及びそれを含む有機ELデバイスに比べて、より高いEQEを示すことができる。これは、画素の中でも、EQEがより低い発光を生じる領域部分の割合が減少し、EQEがより高い発光を生じる領域部分の割合が増加するためであると推測される。
【0058】
SL(70)は、EQE向上効果の観点から、好ましくは0.008以下であり、より好ましくは0.005以下であり、さらに好ましくは0.003以下であり、特に好ましくは0.002以下である。
SL(70)は、0の近傍が望ましい。
【0059】
EQE向上効果をより顕著に得るためには、特定画素は、〔A〕及び〔B〕を充足し、かつ、下記〔C〕を充足することが好ましい。
〔C〕横軸を画素に供給する電流量(単位:mA/cm)とし、縦軸を平均輝度(単位:cd/m)とする、電流量と平均輝度との関係を示すグラフにおいて、電流量の増加に従って、その電流値における平均輝度の値をその電流値で除した値(すなわち、上記グラフにおけるその電流値での傾きであり、その電流値での上記平均輝度効率を意味する。)が次第に低下する。
上記低下の程度が大きいほど、EQE向上効果が大きくなる傾向にある。
【0060】
なお、本発明者らの検討により、上記輝度分布曲線の傾きを求める位置が、例えば絶対値で80を超える場合のように有機発光層の端部である(位置が絶対値で100である)か、又は端部に近い場合には、外乱等の要因もあり、上記輝度分布曲線の傾きとEQEとの間に関係性が認められないことが明らかとなっている。
上記輝度分布曲線の傾きを求める位置が、例えば絶対値で60より小さい場合にも、上記輝度分布曲線の傾きとEQEとの間に関係性が認められないことが明らかとなっている。
これに対して、上記輝度分布曲線の傾きを求める位置が、例えば絶対値で60以上80以下である場合には上記関係性を認めることができ、とりわけ絶対値で70である場合にはその関係性がより明確であり、SL(70)が0.010以下であるときと、そうでないときとで、EQEに有意な差が認められることが明らかとなった。
【0061】
本発明において、有機ELデバイスが複数の画素を有する場合、少なくとも1つの画素が特定画素であれば、その画素においてEQE向上効果を得ることができる。ただし、有機ELデバイスとしてのEQE向上効果の観点から、有機ELデバイスは、2以上の特定画素を有することが好ましく、できるだけ多くの特定画素を有することがより好ましい。
有機ELデバイスとしてのEQE向上効果の観点及び有機ELデバイスの生産性向上のから、有機ELデバイスは、すべての赤色画素2Rが特定画素であるか、すべての緑色画素2Gが特定画素であるか、又は、すべての青色画素2Bが特定画素であることが好ましい。特に緑色画素2Gではその視感度曲線の特性上、輝度が上昇しやすいため、特定画素であることが好ましく、次いで赤色画素2R、青色画素2Bの順で特定画素であることがより好ましい。さらに、すべての赤色画素2R、すべての緑色画素2G及びすべての青色画素2Bからなる群より選択される2種以上の画素が特定画素であることが特に好ましい。
【0062】
以上の説明では、バンク付き基板が有する第1の電極が陽極であり、第2の電極が陰極であったが、第1の電極が陰極で、第2の電極が陽極でもよい。また、以上の説明では、有機ELデバイスは、赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2Bの3種類の画素を有していたが、色の種類は、特に限定されず、全ての画素が同じ色を出射してもよい。
以上の説明では、有機発光層とバンク付き基板が有する電極との間に、正孔注入層及び正孔輸送層が形成されていたが、それらは形成されなくてもよい。例えば、バンク付き基板が有する電極に隣接して有機発光層が形成されてもよい。あるいは、正孔輸送層が形成されておらず、正孔注入層に隣接して有機発光層が形成されていてもよい。
有機ELデバイスの例としては、有機ディスプレイパネルに限定されず、有機発光装置であればよい。
【0063】
<有機ELデバイスの製造方法>
次に、有機ELデバイス1の製造方法について説明する。ここでは、バンク付き基板10を準備した後の有機ELデバイス1の製造方法について説明する。
有機ELデバイス1の製造方法は画素を形成する工程を含み、画素を形成する工程は、下記の工程を含む。
陽極(第1の電極)12上に有機発光層23を形成する工程(有機発光層形成工程)S101、
有機発光層23上に陰極(第2の電極)30を形成する工程(陰極形成工程)S102、及び
得られた画素を検査する工程S103。
【0064】
有機ELデバイス1の製造においてはまず、バンク付き基板10を準備した後、工程S101の前に、陽極(第1の電極)12上に有機構造体40を形成する工程(有機構造体形成工程)S100を実施する。有機構造体形成工程S10では、図5に示されるように、画素領域2aに設けられた、換言すれば、凹部14に設けられた陽極12上に正孔注入層21と正孔輸送層22とをこの順に塗布法によって形成して正孔注入層21と正孔輸送層22の積層体である有機構造体40を作製する。有機構造体40は、画素の一部である。
【0065】
具体的には、凹部14の陽極12上に、正孔注入材料を含む塗布液を滴下して塗布膜を形成した後、塗布膜を乾燥させることによって、正孔注入層21を形成する。
【0066】
塗布法としては、例えば、インクジェット印刷法が挙げられる。ただし、凹部14内に層を形成可能な塗布法であれば他の公知の塗布法、例えば、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、及びノズルプリント法を用いてもよく、好ましくは、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、及びノズルプリント法を用いてもよい。
【0067】
塗布液に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解できれば限定されないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩化物溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル溶媒等が挙げられる。
【0068】
塗布膜の乾燥方法は、塗布膜を乾燥できれば限定されないが、真空乾燥及び加熱乾燥等が挙げられる。
【0069】
次に、正孔輸送材料を含む塗布液を凹部14内の正孔注入層21上に滴下して塗布膜を形成した後、塗布膜を乾燥させることによって、正孔輸送層22を形成する。溶媒及び乾燥方法の例は、正孔注入層21の場合と同様であり得る。
【0070】
有機構造体形成工程S100を実施した後に、有機発光層形成工程S101を実施する。有機発光層形成工程S101では、図6に示されるように、有機構造体40上に、好ましくは塗布法によって有機発光層23を形成する。
具体的には、有機発光層23となるべき発光材料を含む塗布液をバンク13内、すなわち、凹部14内の正孔輸送層22上に滴下して塗布膜を形成した後、塗布膜を乾燥させることによって、有機発光層23を形成する。
赤色画素2R、緑色画素2G及び青色画素2Bに対応する凹部14には、それぞれ、赤色用発光材料、緑色発光材料、及び青色発光材料を含む塗布液を用いて、赤色発光層23R、緑色発光層23G及び青色発光層23Bを形成する。
【0071】
塗布法としては、インクジェット印刷法が例示されるが、正孔注入層21について例示したその他の公知の塗布法も利用し得る。塗布液に用いられる溶媒は、発光材料を溶解できれば限定されず、正孔注入層21の形成の際に例示した溶媒と同様であり得る。
【0072】
塗布膜の乾燥方法は、正孔注入層21の場合と同様に、塗布膜を乾燥できれば限定されないが、真空乾燥及び加熱乾燥等が挙げられる。
【0073】
有機発光層形成工程S101により、凹部14内において陽極12上には、有機構造体40と有機発光層23とからなる有機EL構造体20が形成される。
【0074】
上述のように、少なくとも1つの画素2において、好ましくはすべての画素2において、有機発光層23は、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有する。本実施形態に係る有機ELデバイス1において、有機EL構造部20を構成する各層は、平面視において同一形状である。
また上述のように、少なくとも1つの画素2において、好ましくはすべての画素2において、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有する有機発光層23は、短手方向の中心を通り長手方向に平行な断面において、長手方向中心の厚みが両端の厚みよりも小さい凹形状を有する(図6参照)。
バンク13内に塗布法によって有機発光層23を形成すると、表面張力の影響によって、通常、有機発光層23は凹形状を有することとなる。
【0075】
有機発光層形成工程S101では、複数の画素2のうち少なくとも1つが上記〔A〕を満たすように有機発光層23が形成される。上記〔A〕を満たすように、例えば上で例示した発光材料の中から、電流値が10mA/cmであるときの平均輝度が上記範囲になる発光材料を選んで有機発光層23を形成する。〔A〕の詳細については上述の記載が引用される。
【0076】
有機発光層23を形成した後、陰極(第2の電極)30を形成する工程(陰極形成工程)S102を実施する。陰極30の形成方法としては、例えば、陽極12の場合と同様の蒸着法及び塗布法が挙げられる。この工程では、複数の凹部14に形成された有機発光層23上に渡って陰極30を形成する。これにより、バンク13内に画素2が形成された図1及び図2に示される有機ELデバイス1が得られる。
【0077】
陰極形成工程S102の後、得られた画素を検査する工程(検査工程)S103を実施する。検査工程S103は、画素に含まれる有機発光層23の短手方向の中心を通り長手方向に平行な断面における輝度分布曲線の傾きに関する情報を取得し、該情報に基づいて該画素の良否判定を行う工程を含む。輝度分布曲線については上述の記載が引用される。
画素の輝度分布曲線を測定し、該曲線から得られる情報に基づいて画素の良否判定を行う方法によれば、有機発光層23そのものの形状(例えば厚みや厚み分布等)を測定し、その測定結果に基づいて画素の良否判定を行う方法に比べて簡便にかつ容易に良否判定を行えるため、有機ELデバイス1の生産性を向上させることができる。
【0078】
輝度分布曲線の傾きに関する情報は、好ましくは、絶対値で60以上80以下の位置での輝度分布曲線の傾きに関する情報であり、より好ましくは、絶対値で70の位置での輝度分布曲線の傾きに関する情報、すなわち、SL(70)である。輝度分布曲線の傾きに関する情報として、絶対値で60以上80以下の位置での輝度分布曲線の傾きに関する情報、とりわけSL(70)を選択することにより、簡便に画素の良否判定を行えるとともに、上記式(1)を満たすか否かを良否判定基準とすることにより、EQEが良好な有機ELデバイスを精度良く生産することができる。
SL(70)、その範囲及び好ましい範囲、並びに式(1)については上述の記載が引用される。
【0079】
上記〔B〕を満たすように画素を形成する方法としては、有機発光層23の形成において、塗布膜を真空乾燥させる工程における減圧プロファイル(乾燥炉内の気体を排気しながら減圧する操作における排気時間と乾燥炉内の真空度との関係)及び/又は乾燥温度を調整することが挙げられる。例えば、一例として、減圧にする速度を比較的大きくしたり、乾燥温度を低めに設定したりすることは、〔B〕を充足する画素を形成するうえで有利となる。
上記〔A〕を満たす画素について行う検査工程S103において、例えば、上記式(1)を満たすか否かを良否判定基準とし、SL(70)が0.010を超える場合、上記〔B〕を満たすようにするために、有機発光層23の形成について上記調整を行う工程を実施することが好ましい。
【0080】
本発明に係る製造方法によって得られる有機ELデバイスは、EQE向上の観点から、特定画素、すなわち、上記〔A〕及び〔B〕を満たす画素を少なくとも1つ含む。ただし、有機ELデバイスとしてのEQE向上効果の観点から、有機ELデバイスは、2以上の特定画素を有することが好ましく、できるだけ多くの特定画素を有することがより好ましい。
有機ELデバイスとしてのEQE向上効果の観点及び有機ELデバイスの生産性向上のから、有機ELデバイスは、すべての赤色画素2Rが特定画素であるか、すべての緑色画素2Gが特定画素であるか、又は、すべての青色画素2Bが特定画素であることが好ましい。特に緑色画素2Gではその視感度曲線の特性上、輝度が上昇しやすいため、特定画素であることが好ましく、次いで赤色画素2R、青色画素2Bの順で特定画素であることがより好ましい。さらに、すべての赤色画素2R、すべての緑色画素2G及びすべての青色画素2Bからなる群より選択される2種以上の画素が特定画素であることが特に好ましい。
【実施例
【0081】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
バンク付き基板10の複数の凹部14に、陽極12側から正孔注入層21、正孔輸送層22及び有機発光層23を形成し、有機発光層23上に陰極30を形成して複数の画素を作製した。これにより有機ELデバイスを得た。正孔注入層21、正孔輸送層22及び有機発光層23は、インクジェット印刷法により各層に対応する塗布液を用いて塗布膜を形成し、真空乾燥させることで形成した。各凹部14内の有機発光層23として緑色発光層23Gを使用した。画素を構成する有機EL構造部20は、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有する。
非接触3次元表面形状測定装置(Zygo社製)を用いて確認したところ、有機発光層23は、短手方向の中心を通り長手方向に平行な断面において、長手方向中心の厚みが両端の厚みよりも小さい凹形状を有していた。以下の実施例2、比較例1及び2、並びに参考例1及び2においても同様であった。
【0083】
形成された複数の画素2において、正孔注入層21、正孔輸送層22及び有機発光層23には、同じ正孔注入材料、正孔輸送材料及び緑色発光材料を使用した。有機発光層23を形成する際に行った真空乾燥において、真空チャンバ内の温度は25℃であった。また、この真空乾燥での真空チャンバ内の減圧プロファイルは図7に示されるとおりとした。
【0084】
<実施例2>
有機発光層23を形成する際に行った真空乾燥での乾燥温度を35℃としたこと以外は実施例1と同様にして有機ELデバイス1を作製した。陽極12、正孔注入層21、正孔輸送層22、有機発光層23及び陰極30の材料はそれぞれ、実施例1と実施例2とで同じである。
【0085】
<比較例1>
有機発光層23を形成する際に行った真空乾燥での真空チャンバ内の減圧プロファイルを図7に示されるとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして有機ELデバイス1を作製した。陽極12、正孔注入層21、正孔輸送層22、有機発光層23及び陰極30の材料はそれぞれ、実施例1と比較例1とで同じである。
【0086】
<比較例2>
有機発光層23を形成する際に行った真空乾燥での真空チャンバ内の減圧プロファイルを図7に示されるとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして有機ELデバイス1を作製した。陽極12、正孔注入層21、正孔輸送層22、有機発光層23及び陰極30の材料はそれぞれ、実施例1と比較例2とで同じである。
【0087】
<参考例1>
バンク付き基板10の複数の凹部14に、陽極12側から正孔注入層21、正孔輸送層22及び有機発光層23を形成し、有機発光層23上に陰極30を形成して複数の画素を作製した。これにより有機ELデバイスを得た。正孔注入層21、正孔輸送層22及び有機発光層23は、インクジェット印刷法により各層に対応する塗布液を用いて塗布膜を形成し、真空乾燥させることで形成した。各凹部14内の有機発光層23として青色発光層23Bを使用した。画素を構成する有機EL構造部20は、平面視において長手方向と短手方向とを有する形状を有する。
【0088】
形成された複数の画素2において、正孔注入層21、正孔輸送層22及び有機発光層23には、同じ正孔注入材料、正孔輸送材料及び青色発光材料を使用した。有機発光層23を形成する際に行った真空乾燥において、真空チャンバ内の温度は35℃であった。また、この真空乾燥での真空チャンバ内の減圧プロファイルは図7に示されるとおりとした。
【0089】
<参考例2>
有機発光層23を形成する際に行った真空乾燥での乾燥温度を55℃としたこと以外は参考例1と同様にして有機ELデバイス1を作製した。陽極12、正孔注入層21、正孔輸送層22、有機発光層23及び陰極30の材料はそれぞれ、参考例1と参考例2とで同じである。
【0090】
[測定・評価]
(1)電流値が10mA/cmであるときの平均輝度
Radiant Vision Systems社製の2次元色彩輝度計を用い、複数の画素のうちの1つについて、印加した電流[単位:mA]及び発光面積[単位:cm]から求められる電流値が10mA/cmとなるときの平均輝度[単位:cd/m]を求めた。結果を表1に示す。平均輝度は、有機発光層23の短手方向の中心を通り長手方向に平行な断面について求めた。
【0091】
(2)輝度分布曲線及びSL(70)
上記(1)の測定を行った画素について、Radiant Vision Systems社製の2次元色彩輝度計を用いて画素内の輝度分布を取得し、輝度分布曲線を求めた。輝度分布曲線は、平均輝度は、有機発光層23の短手方向の中心を通り長手方向に平行な断面について求めた。
また、得られた輝度分布曲線から、上述の定義に従って、SL(70)を求めた。結果を表1に示す。
【0092】
(3)EQE
上記(1)の測定を行った画素について、Radiant Vision Systems社製の2次元色彩輝度計を用い、電圧[単位:V]、電流[単位:mA]及び発光スペクトルからEQEを求めた。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【符号の説明】
【0094】
1 有機ELデバイス、2 画素、2a 画素領域、2R 赤色画素、2G 緑色画素、2B 青色画素、10 バンク付き基板、11 基板、11a 基板の表面、12 陽極(第1の電極)、13 バンク、13a バンクの側面、14 凹部、20 有機EL構造部、21 正孔注入層、22 正孔輸送層、23 有機発光層、30 陰極(第2の電極)、40 有機構造体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7