(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】変性水素添加物及びその製造方法、樹脂組成物、並びにこれらの各種用途
(51)【国際特許分類】
C08F 8/46 20060101AFI20221214BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20221214BHJP
C08F 8/04 20060101ALI20221214BHJP
C08F 297/04 20060101ALI20221214BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20221214BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C08F8/46
C08F8/42
C08F8/04
C08F297/04
C08L53/02
C08L77/06
(21)【出願番号】P 2020522123
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2019020317
(87)【国際公開番号】W WO2019230527
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018105644
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018218517
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真裕
(72)【発明者】
【氏名】千田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】青木 宜丈
(72)【発明者】
【氏名】大矢 延弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英昭
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199983(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/183570(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136760(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/016494(WO,A1)
【文献】特開2000-094588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(B)とを有するブロック共重合体の変性水素添加物であり、
前記共役ジエン化合物がイソプレンを含有し、前記共役ジエン化合物におけるイソプレンの含有量が20質量%以上であり、
カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基
、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を有し、
前記官能基の含有量が0.1~0.95phrであり、
前記重合体ブロック(B)の水素添加率が85.0モル%以上であり、
前記重合体ブロック(B)のビニル結合量が5~90モル%であり、
下記条件を満たす変性水素添加物。
条件(1):330℃、窒素雰囲気下で30分間放置後の重量変化率が-5.5%以上である。
条件(2):JIS K7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδのピークトップ強度が1.0以上である。
【請求項2】
前記共役ジエン化合物がイソプレン及びブタジエンを含有する、請求項
1に記載の変性水素添加物。
【請求項3】
前記芳香族ビニル化合物がスチレンを含有する、請求項1
又は2に記載の変性水素添加物。
【請求項4】
前記ブロック共重合体における前記重合体ブロック(A)の含有量が70質量%以下である、請求項1~
3のいずれかに記載の変性水素添加物。
【請求項5】
前記重合体ブロック(A)が、前記芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を70モル%超含有する、請求項1~
4のいずれかに記載の変性水素添加物。
【請求項6】
前記重合体ブロック(B)が、前記共役ジエン化合物に由来する構成単位を30モル%以上含有する、請求項1~
5のいずれかに記載の変性水素添加物。
【請求項7】
第三級炭素数が1.0以上である、請求項1~
6のいずれかに記載の変性水素添加物。
【請求項8】
さらに下記条件(3)を満たす、請求項1~
7のいずれかに記載の変性水素添加物。
条件(3):JIS K7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδが0.5以上となる一連の温度領域が存在し、該温度領域の最大幅が13℃以上である。
【請求項9】
さらに下記条件(4)を満たす、請求項1~
8のいずれかに記載の変性水素添加物。
条件(4):JIS K0070(1992年)に準拠して測定したヨウ素価が60未満である。
【請求項10】
モノマーとして少なくとも芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を用い、重合反応を行うことで、該芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(A)と、該共役ジエン化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(B)とを有するブロック共重合体を得る工程を有する、請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物の製造方法。
【請求項11】
前記ブロック共重合体を水素添加して水添ブロック共重合体とした後、溶融状態の該水添ブロック共重合体に、ラジカル開始剤を用いて
、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基
、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を導入する工程をさらに有する、請求項
10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物を含有する樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物である(I)成分と、熱可塑性樹脂である(II)成分とを含有する、請求項
12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、及びポリエステル系樹脂から選ばれる1種又は2種以上である、請求項
13に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂が半芳香族ポリアミドである、請求項
13又は14に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
前記(I)成分と前記(II)成分との含有割合[(I)/(II)]が質量比で1/99~99/1である、請求項
13~
15のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、ペレット。
【請求項18】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、ベール。
【請求項19】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【請求項20】
前記変性水素添加物又は前記樹脂組成物を成形してなる厚さ2mmの成形体を用いてJIS K7391(2008年)に準拠して中央加振法によるダンピング試験を行った場合に、周波数300Hz、温度20℃における損失係数が0.009以上となる、請求項
19に記載の成形体。
【請求項21】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、制振材。
【請求項22】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、遮音材。
【請求項23】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、ダムラバー。
【請求項24】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、靴底材料。
【請求項25】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、床材。
【請求項26】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、接着剤又は粘着剤。
【請求項27】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、積層体。
【請求項28】
請求項1~
9のいずれかに記載の変性水素添加物又は請求項
12~
16のいずれかに記載の樹脂組成物を含有してなる、自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性水素添加物及びその製造方法、該変性水素添加物を含有する樹脂組成物、並びにこれらの各種用途に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックと、共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックとを有するブロック共重合体、特にその水素添加物において、共役ジエン化合物に由来する構造単位がビニル結合単位(例えば1,2-結合単位及び3,4-結合単位)を有するものは制振材として用いられることがあり、JIS K7244-10に準拠して測定されるtanδが制振性の指標となることが一般に知られている。
【0003】
また、制振性の他に、機械的強度、耐熱性、及び耐油性等の各物性にも優れた制振材料を提供することを目的として、上記ブロック共重合体又はその水素添加物と樹脂とを含有する樹脂組成物の開発が行われている。
例えば、制振性能に優れ、耐衝撃性が改良された制振材料を得ることができる樹脂組成物に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。特許文献1では、極性基を有する熱可塑性樹脂と、該極性基と親和性あるいは反応性を有する官能基が特定の割合で付加した変性ブロック共重合体又はその水添物とを含有する樹脂組成物が記載されている。また特許文献2では、極性基を有する熱可塑性樹脂と、ブロック共重合体又はその水添物と、該ブロック共重合体又はその水添物と親和性のある重合体に該極性基と親和性あるいは反応性を有する官能基が結合した変性重合体とを含有する樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-194821号公報
【文献】特開平5-202287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また樹脂組成物は各種用途に適用できるように、優れた制振性を有しつつ、引張特性や曲げ特性等の力学物性、及び成形性にも優れることが望まれている。
上記特許文献1及び2はいずれも、極性基を有する熱可塑性樹脂とブロック共重合体又はその水添物との相溶性を向上させる技術が開示されているが、上記力学物性及び成形性に関する記載はない。また、特許文献1に記載の変性ブロック共重合体の水添物は、十分に優れた熱安定性を有しているとはいい難く、優れた制振性、力学物性、及び成形性を同時に発現することは困難である。
【0006】
そこで本発明は、優れた制振性及び熱安定性を有する変性水素添加物、並びに該変性水素添加物の製造方法を提供する。
また本発明は、優れた制振性を有しつつ、力学物性及び成形性にも優れる樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し、当該課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1]芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(B)とを有するブロック共重合体の変性水素添加物であり、
アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を有し、下記条件を満たす変性水素添加物。
条件(1):330℃、窒素雰囲気下で30分間放置後の重量変化率が-5.5%以上である。
条件(2):JIS K7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδのピークトップ強度が1.0以上である。
[2]モノマーとして少なくとも芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を用い、重合反応を行うことで、該芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(A)と、該共役ジエン化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(B)とを有するブロック共重合体を得る工程を有する、上記変性水素添加物の製造方法。
[3]上記変性水素添加物を含有する樹脂組成物。
[4]上記変性水素添加物又は上記樹脂組成物を用いたペレット、ベール、成形体、制振材、遮音材、ダムラバー、靴底材料、床材、接着剤又は粘着剤、積層体、自動車部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた制振性及び熱安定性を有する変性水素添加物、並びに該変性水素添加物の製造方法を提供することができる。
さらに本発明によれば、上記変性水素添加物を含有することで、優れた制振性を有しつつ、力学物性及び成形性にも優れる樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<<変性水素添加物>>
本発明の変性水素添加物は、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(B)とを有するブロック共重合体の変性水素添加物であり、
アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を有し、下記条件を満たすことを特徴とする。
条件(1):330℃、窒素雰囲気下で30分間放置後の重量変化率が-5.5%以上である。
条件(2):JIS K7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδのピークトップ強度が1.0以上である。
【0011】
本発明の変性水素添加物は、制振材に好適な重合体ブロック(A)及び(B)、並びに上記官能基を有し、上記条件(1)及び(2)を満たすことで、優れた制振性及び熱安定性を発現することできる。
上記重合体ブロック(A)及び(B)はガラス転移温度及びtanδのピークトップ強度の向上に好適に寄与し、またブロック共重合体の水素添加は熱安定性の発現に寄与することができる。好ましくは重合体ブロック(A)及び(B)の構成単位の割合やブロック共重合体の製造方法の各種条件等を最適化することで制振性をさらに向上させることができ、かつより高い水素添加率で水素添加された変性水素添加物とすることができるので優れた熱安定性を得ることが可能となる。
また本発明の変性水素添加物は、上記官能基を有するため各種樹脂との相容性が良好である。したがって、本発明の変性水素添加物と樹脂とを含有する樹脂組成物は良好に相容化され、該変性水素添加物が有する優れた制振性は樹脂組成物においても保持される。さらに、上記変性水素添加物は熱安定性に優れ、かつ樹脂と良好に相容化することができるため、樹脂組成物は各種成形工程においても表面剥離等の不具合が生じにくくなり成形性に優れる。また、樹脂組成物は、上記相容性及び熱安定性から引張特性及び曲げ特性等の力学物性にも優れた効果を発揮することができる。加えて本発明の変性水素添加物は、側鎖に上記官能基を有することが好ましく、この場合ガラス転移温度が制御され、幅広い温度において優れた制振性を示すことも可能になる。このように本発明の樹脂組成物は、優れた制振性、力学物性、及び成形性を同時に発現することができる。
【0012】
[ブロック共重合体]
ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(B)とを有するものである。以下に、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)について説明する。
【0013】
(重合体ブロック(A))
〈芳香族ビニル化合物〉
ブロック共重合体を構成する重合体ブロック(A)は、制振性及び機械的特性等の観点から、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「芳香族ビニル化合物単位」と称すことがある。)を有する。
重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物単位を70モル%超含有することが好ましい。なかでも制振性及び機械的特性の観点から、重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物単位を、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、よりさらに好ましくは95モル%以上、実質的に100モル%有することが特に好ましい。
【0014】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
なかでも製造コストと物性バランスの観点から、芳香族ビニル化合物として、好ましくはスチレン系化合物、より好ましくはスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びこれらの混合物、さらに好ましくはスチレンを含有する。
【0015】
〈芳香族ビニル化合物以外の単量体〉
また、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(A)は芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「他の不飽和単量体単位」と称すことがある。)を、重合体ブロック(A)中通常30モル%以下の割合で含有することができる。
なかでも機械的特性の観点から、重合体ブロック(A)中の他の不飽和単量体単位の含有量は、好ましくは20モル%未満、さらに好ましくは10モル%未満、よりさらに好ましくは5モル%未満、特に好ましくは0モル%である。
【0016】
該他の不飽和単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、イソブチレン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン等からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。重合体ブロック(A)が該他の不飽和単量体単位を含有する場合の結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
【0017】
またブロック共重合体は、重合体ブロック(A)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体が重合体ブロック(A)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(A)は、同一であっても異なっていてもよい。
なお、本明細書において「重合体ブロックが異なる」とは、重合体ブロックを構成するモノマー単位、重量平均分子量、立体規則性、及び複数のモノマー単位を有する場合には各モノマー単位の比率及び共重合の形態(ランダム、グラジェント、ブロック)のうち少なくとも1つが異なることを意味する。
【0018】
〈重合体ブロック(A)の重量平均分子量〉
重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、ブロック共重合体が有する重合体ブロック(A)のうち、少なくとも1つの重合体ブロック(A)の重量平均分子量が、好ましくは3,000~60,000、より好ましくは4,000~50,000、さらに好ましくは4,000~40,0000、よりさらに好ましくは4,000~30,000である。ブロック共重合体が、上記範囲内の重量平均分子量である重合体ブロック(A)を少なくとも1つ有することにより、機械的強度がより向上し、成形性にも優れやすくなる。
なお本明細書において重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。詳細な測定方法は実施例に記載の方法に従うことができる。ブロック共重合体が有する各重合体ブロック(A)の重量平均分子量は、製造工程において各重合体ブロックの重合が終了する都度、サンプリングした液を測定することで求めることができる。また、例えばA1-B-A2構造を有するトリブロック共重合体の場合は、最初の重合体ブロックA1及び重合体ブロックBの重量平均分子量を上記方法により求め、ブロック共重合体の重量平均分子量からそれらを引き算することにより、2番目の重合体ブロックA2の重量平均分子量を求めることができる。また、他の方法として、A1-B-A2構造を有するトリブロック共重合体の場合は、重合体ブロック(A)の合計の重量平均分子量は、ブロック共重合体の重量平均分子量と1H-NMR測定で確認する重合体ブロック(A)の合計含有量から算出し、GPC測定によって、失活した最初の重合体ブロックA1の重量平均分子量を算出し、これを引き算することによって2番目の重合体ブロックA2の重量平均分子量を求めることもできる。
【0019】
〈重合体ブロック(A)の含有量〉
ブロック共重合体における重合体ブロック(A)の含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、よりさらに好ましくは25質量%以下、よりさらに好ましくは20質量%以下、よりさらに好ましくは15質量%以下である。重合体ブロック(A)の含有量が、70質量%以下であれば、適度な柔軟性を有し、tanδピークトップ強度が低下することなくより制振性に優れた変性水素添加物又はこれを含有する樹脂組成物とすることができる。また、ブロック共重合体における重合体ブロック(A)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上である。重合体ブロック(A)の含有量、1質量%以上であれば、各種用途に好適な機械的特性及び成形性を有する変性水素添加物又はこれを含有する樹脂組成物とすることができる。
なお、ブロック共重合体における重合体ブロック(A)の含有量は、1H-NMR測定により求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0020】
(重合体ブロック(B))
〈共役ジエン化合物〉
ブロック共重合体を構成する重合体ブロック(B)は、制振性及び熱安定性等の観点から、共役ジエン化合物に由来する構造単位(以下、「共役ジエン化合物単位」と称すことがある。)を有する。
重合体ブロック(B)は、共役ジエン化合物単位を30モル%以上含有することが好ましい。なかでも制振性及び熱安定性の観点から、重合体ブロック(B)は、共役ジエン化合物単位を、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは65モル%以上、よりさらに好ましくは80モル%以上、よりさらに好ましくは90モル%以上、実質的に100モル%含有することが特に好ましい。
なお、上記「共役ジエン化合物単位」は、共役ジエン化合物1種に由来する構造単位であっても、共役ジエン化合物2種以上に由来する構造単位であってもよい。
【0021】
本発明において共役ジエン化合物は、優れた制振性及び熱安定性を両立する観点から、好ましくはイソプレン、又は、イソプレン及びブタジエンを含有する。また共役ジエン化合物として、後述するとおりイソプレン及びブタジエン以外の共役ジエン化合物を含有してもよい。一方で、優れた制振性及び熱安定性を発現しやすい観点から、共役ジエン化合物におけるイソプレンの含有量が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、よりさらに好ましくは55質量%以上、よりさらに好ましくは75質量%以上、特に好ましくは100質量%、すなわち共役ジエン化合物としてイソプレンを用いることが特に好ましい。
【0022】
また、共役ジエン化合物がブタジエンとイソプレンの混合物である場合、それらの混合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限はないが、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~65/35である。なお、該混合比率[イソプレン/ブタジエン]をモル比で示すと、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~55/45である。
【0023】
共役ジエン化合物としては、上記イソプレン及びブタジエン以外に、ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、ミルセン等を挙げることができる。共役ジエン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0024】
〈共役ジエン化合物以外の単量体〉
また、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(B)は共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有してもよい。この場合、重合体ブロック(B)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは70モル%未満、より好ましくは50モル%未満、さらに好ましくは35モル%未満、特に好ましくは20モル%未満である。共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量の下限値に特に制限はないが、0モル%であってもよいし、5モル%であってもよいし、10モル%であってもよい。
【0025】
該他の重合性の単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N-ビニルカルバゾール、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエン等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0026】
またブロック共重合体は、重合体ブロック(B)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体が重合体ブロック(B)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(B)は、同一であっても異なっていてもよい。重合体ブロック(B)が、2種以上の構造単位を有している場合は、それらの結合形態はランダム、テーパー、完全交互、一部ブロック状、ブロック、又はそれらの2種以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0027】
〈ビニル結合量〉
本発明の目的及び効果を損なわない限りにおいて、共役ジエン化合物の結合形態に特に制限はない。例えば、重合体ブロック(B)を構成する構成単位が、イソプレン単位、イソプレン及びブタジエンの混合物単位のいずれかである場合、イソプレン及びブタジエンそれぞれの結合形態としては、ブタジエンの場合には1,2-結合、1,4-結合、イソプレンの場合には1,2-結合、3,4-結合、1,4-結合のビニル結合をとることができる。これらの結合形態の1種のみが存在していても、2種以上が存在していてもよい。
【0028】
ブロック共重合体においては、重合体ブロック(B)における3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量(つまりビニル結合量)の合計は、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは55モル%以上、よりさらに好ましくは60モル%以上、よりさらに好ましくは65モル%以上、よりさらに好ましくは70モル%以上、よりさらに好ましくは75モル%以上である。重合体ブロック(B)におけるビニル結合量が5モル%以上であれば制振性の発現に寄与することができ、さらに50モル%以上であれば制振性がより良好となり、ビニル結合量が高くなるにしたがい制振性が向上する傾向がある。
また、重合体ブロック(B)におけるビニル結合量は、95モル%以下であってもよく、92モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよい。
ここで、ビニル結合量は、実施例に記載の方法に従って、1H-NMR測定によって算出される値である。
【0029】
〈重合体ブロック(B)の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位の含有量〉
重合体ブロック(B)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位であって、下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有していてもよい。
【0030】
【0031】
上記式(X)中、R1~R3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR1~R3はそれぞれ同一でも異なってもよい。
重合体ブロック(B)は、脂環式骨格(X)を、好ましくは1モル%以上、より好ましくは1.1モル%以上、更に好ましくは1.4モル%以上、より更に好ましくは1.8モル%以上であり、より更に好ましくは4モル%以上であり、より更に好ましくは10モル%以上であり、特に好ましくは13モル%以上である。また、重合ブロック(B)中の脂環式骨格(X)の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限はないが、生産性の観点から、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であってもよく、20モル%以下であってもよく、18モル%以下であってもよい。
なお、ブロック共重合体又はその水素添加物に含まれる上記脂環式骨格(X)含有量は、ブロック共重合体の13C-NMR測定により、重合体ブロック(B)中の脂環式骨格(X)由来の積分値から求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0032】
〈重合体ブロック(B)の重量平均分子量〉
重合体ブロック(B)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、水素添加前のブロック共重合体が有する重合体ブロック(B)の合計の重量平均分子量が、好ましくは15,000~800,000、より好ましくは20,000~700,000、さらに好ましくは30,000~600,000、よりさらに好ましくは30,000~500,000、よりさらに好ましくは30,000~400,000である。重合体ブロック(B)の合計の重量平均分子量が、上記範囲内であればより優れた制振性を発現しやすくなる。
【0033】
〈重合体ブロック(B)の含有量〉
ブロック共重合体における重合体ブロック(B)の含有量は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは94質量%以下である。重合体ブロック(B)の含有量が、99質量%以下であれば、制振性を有しつつ、各種用途に好適な機械的特性、力学物性、及び成形性を有する変性水素添加物又はこれを含有する樹脂組成物とすることが容易となる。また、ブロック共重合体における重合体ブロック(B)の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、よりさらに好ましくは75質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上である。重合体ブロック(B)の含有量が、30質量%以上であれば、制振性により優れた変性水素添加物又はこれを含有する樹脂組成物とすることができる。
【0034】
(重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合様式)
ブロック共重合体は、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とが結合している限りは、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれでもよい。なかでも、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合形式は直鎖状であることが好ましく、その例としては重合体ブロック(A)をAで、また重合体ブロック(B)をBで表したときに、A-Bで示されるジブロック共重合体、A-B-A又はB-A-Bで示されるトリブロック共重合体、A-B-A-Bで示されるテトラブロック共重合体、A-B-A-B-A又はB-A-B-A-Bで示されるペンタブロック共重合体、(A-B)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)等を挙げることができる。中でも、直鎖状のトリブロック共重合体、又はジブロック共重合体が好ましく、A-B-A型のトリブロック共重合体が、柔軟性、製造の容易性等の観点から好ましく用いられる。
【0035】
ここで、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤等を介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来、厳密にはY-X-Y(Xはカップリング残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックYと区別する必要がある場合を除き、全体としてYと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはA-B-X-B-A(Xはカップリング剤残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はA-B-Aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
【0036】
(重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)の含有量)
ブロック共重合体において、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記重合ブロック(A)及び(B)以外の他の単量体で構成される重合ブロックを含有していてもよいが、前記重合体ブロック(A)及び前記重合体ブロック(B)の合計含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。ブロック共重合体において、重合体ブロック(A)及び前記重合体ブロック(B)の合計含有量が、90質量%以上であれば、制振性及び成形性に優れ、各種用途に好適に用いることのできる変性水素添加物及びこれを含有する樹脂組成物とすることができる。
【0037】
(ブロック共重合体の重合平均分子量)
ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15,000~800,000、より好ましくは50,000~700,000、さらに好ましくは70,000~600,000、特に好ましくは70,000~500,000、最も好ましくは70,000~400,000である。ブロック共重合体の重量平均分子量が15,000以上であれば、熱安定性がより高くなり、800,000以下であれば、優れた成形性を得られやすくなる。
なお、ブロック共重合体を水素添加した水添ブロック共重合体の重量平均分子量は、上記ブロック共重合体の好ましい範囲と同様である。
【0038】
[官能基]
本発明の変性水素添加物は、例えば上記ブロック共重合体を水素添加した水添ブロック共重合体に、アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を有する化合物を反応させて官能基を導入し、水添ブロック共重合体を変性することで製造することができる。当該官能基は、好ましくはアルコキシシリル基及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基である。なお、変性水素添加物の製造方法は、具体的には後述のとおりである。
水添ブロック共重合体に上記官能基を導入することにより、本発明の変性水素添加物を含む樹脂組成物は成形性及び力学物性に優れさせることができる。特に、本発明の変性水素添加物と熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物、とりわけ該熱可塑性樹脂が上記官能基と親和性又は反応性を有する極性基を有する極性樹脂である場合に、樹脂組成物を成形する際にデラミネーションが生じるおそれが極めて低くなる。また、本発明の変性水素添加物は、側鎖に上記官能基を有することが好ましく、これにより主鎖と側鎖との分子運動性の差が大きくなり、ガラス転移温度が制御されて幅広い温度において優れた制振性を示し得ると考えられ、制振性を有しつつ、優れた成形性及び力学物性を発現することができる。
【0039】
変性水素添加物における上記官能基の含有量は、好ましくは0.1phr以上、より好ましくは0.15phr以上、さらに好ましくは0.2phr以上、よりさらに好ましくは0.25phr以上である。また、変性水素添加物における上記官能基の含有量は、好ましくは5.0phr以下、より好ましくは4.0phr以下、さらに好ましくは3.0phr以下、よりさらに好ましくは2.0phr以下、よりさらに好ましくは0.95phr以下である。変性水素添加物における上記官能基の含有量が、上記範囲内であれば本発明の変性水素添加物を含む樹脂組成物の成形性を容易に優れさせることができ、また制振性及び力学物性がより優れたものとなる。なお、当該官能基の含有量(phr)は、本発明の変性水素添加物100質量部に対する官能基の質量部を意味し、例えば本発明の変性水素添加物100質量部に対する当該官能基の導入に使用された変性剤の質量部として求めることができる。
変性水素添加物における上記官能基の含有量は、滴定や1H-NMR測定により算出することができ、また変性水素添加物の仕込み量に対する後述の変性剤の仕込み量の割合からも算出することができる。
【0040】
[条件]
(条件(1))
本発明の変性水素添加物は、熱安定性の観点から、次の条件(1)を満たすことを特徴とする。
条件(1):330℃、窒素雰囲気下で30分間放置後の重量変化率が-5.5%以上である。
上記条件(1)の重量変化率が-5.5%未満であると、熱安定性に劣り、本発明において所望する成形性及び力学物性を発現することができない。より優れた熱安定性、成形性、及び力学物性を得る観点から、上記条件(1)の重量変化率は、好ましくは-5.3%以上、より好ましくは-5.0%以上である。また、該重量変化率の上限値に特に制限はないが、0%であってもよいし、-0.2%であってもよい。
【0041】
また本発明の水素添加物は、熱安定性の観点から、さらに次の条件(1-1)を満たすことが好ましい。
条件(1-1):330℃、窒素雰囲気下で60分間放置後の重量変化率が-11.0%以上である。
上記(1-1)の重量変化率が-11.0%以上であれば、変性水素添加物及びこれを含む樹脂組成物の熱安定性がさらに優れたもとなり、成形性及び力学物性にもより優れることができる。上記条件(1-1)の重量変化率は、より好ましくは-10.5%以上、さらに好ましくは-10.0%以上である。また、該重量変化率の上限値に特に制限はないが、-0.5%であってもよいし、-1.0%であってもよい。
【0042】
条件(1)及び条件(1-1)の重量変化率は、水素添加率を調整することにより満たすことができる。例えば、ブロック共重合体に用いるモノマーの選択や含有割合、及びブロック共重合体の製造方法における重合方法、重合開始剤及び共触媒等の選択・添加量等の製造条件等を最適化することで、より高い水素添加率を実現することが可能である。
条件(1)及び条件(1-1)の重量変化率は、実施例に記載の方法に従って、測定される値である。
【0043】
(条件(2))
本発明の変性水素添加物は、次の条件(2)を満たすことを特徴とする。
条件(2):JIS K7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδのピークトップ強度が1.0以上である。
上記tanδ(損失正接)は、動的粘弾測定における周波数1Hzにおける損失弾性率/貯蔵弾性率の比であり、tanδのピークトップ強度は、制振性、及びその他の物性に大きく寄与する。ここで、tanδのピークトップ強度とは、tanδのピークが最大となるときのtanδの値のことである。
【0044】
本発明においてtanδのピークトップ強度の測定は、変性水素添加物を温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧することで、厚み1.0mmの単層シートを作製し、該単層シートを円板形状に切り出した試験片を用いて行うことができる。測定条件は、上記条件(2)に記載のとおりである。
なお、本発明においてtanδの測定装置に特に制限はないが、回転式レオメータ「ARES-G2」(TAインスツルメント社製)等を使用し、直径8mmの平面プレートに上記試験片を挟んで試験することができる。より詳細には実施例に記載のとおりである。
【0045】
本発明の変性水素添加物は、上記測定により、tanδのピークトップ強度が1.0以上となり、より高いものでは1.5以上、さらには1.9以上となるものもある。また、該tanδのピークトップ強度の上限値に特に制限はないが、3.0であってもよいし、2.5であってもよいし、2.3であってもよい。tanδのピークトップ強度が高い程、その温度における制振性等の物性に優れることを示し、1.0未満であると本発明において所望される充分な制振性を得ることができない。
条件(2)のピークトップ強度は、ブロック共重合体に用いるモノマーの選択や含有割合を最適化したり、ビニル結合量を好適に調整したりする等の方法によりコントロールすることが可能である。
【0046】
(条件(3))
本発明の変性水素添加物は、幅広い温度において優れた制振性を示すという観点から、さらに次の条件(3)を満たすことが好ましい。
条件(3):JIS K7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδが0.5以上となる一連の温度領域が存在し、該温度領域の最大幅が13℃以上である。
ここで、「tanδが0.5以上となる一連の温度領域」とは、tanδが0.5以上となる連続する温度範囲を指し、つまりは当該温度範囲においてtanδは常に0.5以上である。
tanδを測定する際の試験片については、前記条件(2)における説明と同様に説明される。
上記条件(3)における温度領域の最大幅は、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは25℃以上、よりさらに好ましくは30℃以上である。該最大幅の上限値に特に制限はないが、40℃であってもよいし、37℃であってもよいし、35℃であってもよい。
【0047】
特に制限されるわけではないが、本発明の変性水素添加物は、幅広い温度において優れた制振性を示すという観点から、さらに次の条件(3-1)を満たすことが好ましい。
条件(3-1):JIS K7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδが1.0以上となる一連の温度領域が存在し、該温度領域の最大幅が5.5℃以上である。
tanδの値が高いほど制振性に優れ、条件(3-1)を満たすことで広い温度領域において制振性がより高くなる。
ここで、前記「tanδが1.0以上となる一連の温度領域」とは、tanδが1.0以上となる連続する温度範囲を指し、つまりは当該温度範囲においてtanδは常に1.0以上である。
tanδを測定する際の試験片については、前記条件(3)における説明と同様に説明される。
上記条件(3-1)における温度領域の最大幅は、好ましくは6.0℃以上、より好ましくは8.0℃以上、さらに好ましくは9.0℃以上、よりさらに好ましくは14.0℃以上、よりさらに好ましくは16.0℃以上である。該最大幅の上限値に特に制限はないが、25℃であってもよいし、20℃であってもよい。
【0048】
また、特に制限されるわけではないが、本発明の変性水素添加物は、幅広い温度において優れた制振性を示すという観点から、さらに次の条件(3-2)を満たすことが好ましい。
条件(3-2):JIS K7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδが1.5以上となる一連の温度領域が存在し、該温度領域の最大幅が3.0℃以上である。
tanδの値が高いほど制振性に優れ、条件(3-2)を満たすことで広い温度領域において制振性がよりさらに高くなる。
ここで、前記「tanδが1.5以上となる一連の温度領域」とは、tanδが1.5以上となる連続する温度範囲を指し、つまりは当該温度範囲においてtanδは常に1.5以上である。
tanδを測定する際の試験片については、前記条件(3)における説明と同様に説明される。
上記条件(3-2)における温度領域の最大幅は、好ましくは3.3℃以上、より好ましくは4.0℃以上、さらに好ましくは5.0℃以上、よりさらに好ましくは8.0℃以上である。該最大幅の上限値に特に制限はないが、15℃であってもよいし、13℃であってもよい。
【0049】
上記条件(3)、条件(3-1)、及び条件(3-2)は、ブロック共重合体に用いるモノマーの選択や含有割合を最適化したり、ビニル結合量、水素添加率及び前述の官能基含有量等の各種要件を好適に調整したりする等の方法により満たすことが可能である。
【0050】
(条件(4))
本発明の変性水素添加物は、熱安定性、力学物性、及び成形性の観点から、さらに次の条件(4)を満たすことが好ましい。
条件(4):JIS K0070(1992年)に準拠して測定したヨウ素価が60未満である。
上記ヨウ素価が60未満であれば、変性水素添加物が優れた熱安定性を示しつつ、該変性水素添加物を含む樹脂組成物の力学物性及び成形性に優れさせることが容易になる傾向にある。熱安定性、力学物性、及び成形性をさらに向上させる観点から、上記ヨウ素価は好ましくは57以下、より好ましくは54以下、さらに好ましくは51以下である。該ヨウ素価の下限値に特に制限はないが、1.0であってもよいし、2.0であってもよい。
条件(4)のヨウ素価は、重合体ブロック(B)に用いるモノマーの選択や含有割合、及びブロック共重合体の製造方法における重合方法、重合開始剤及び共触媒等の選択・添加量等の製造条件等を最適化することで満たすことが可能である。
【0051】
[その他]
(水素添加率)
本発明の変性水素添加物は、重合体ブロック(B)の水素添加率が78.0モル%以上であることが好ましい。つまり、重合体ブロック(B)が有する炭素-炭素二重結合の78.0モル%以上が水素添加されていることが好ましい。
重合体ブロック(B)の水素添加率が高いと、前述の条件(1)を満足するうえで好適であり、また幅広い温度における制振性、熱安定性に優れさせることが容易となる。さらに、変性水素添加物を含む樹脂組成物は、成形性及び力学物性にもより優れるものとすることができる。同様の観点から、重合体ブロック(B)の水素添加率は、好ましくは80.0モル%以上、より好ましくは83.0モル%以上、さらに好ましくは85.0モル%以上、よりさらに好ましくは90.0モル%以上である。水素添加率の上限値に特に制限はないが、上限値は99.5モル%であってもよく、98.5モル%であってもよい。
【0052】
また、変性前の水添ブロック共重合体における、重合体ブロック(B)の水素添加率は、熱安定性の観点から、好ましくは85モル%以上、より好ましくは87モル%以上、さらに好ましくは89モル%以上である。水素添加率の上限値に特に制限はないが、上限値は99モル%であってもよく、98モル%であってもよい。
なお、上記の水素添加率は、重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物由来の構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量を、1H-NMR測定によって求めることができる値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定される値である。
【0053】
(tanδのピークトップ温度)
本発明の変性水素添加物は、幅広い温度において優れた制振性を示す観点から、前述の条件(2)におけるtanδのピークトップ強度を示す際の温度、すなわちtanδのピークトップ温度は、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、特に制限されるわけではない。tanδのピークトップ温度は、ピークトップ強度と同様に制振性、及びその他の物性に大きく寄与するものであり、好ましくは-60℃以上、より好ましくは-55℃以上である。またtanδのピークトップ温度は、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下である。
tanδのピークトップ温度が-60℃以上120℃以下であれば、実使用環境下において充分な制振性を得ることができる。また、tanδのピークトップ温度は、制振性の他に各種用途に求められる物性に応じて適宜特定することができる。
【0054】
(第三級炭素数)
本発明の変性水素添加物は、制振性の観点から、第三級炭素数が1.0以上含まれていることが好ましい。上記第三炭素数が1.0以上含まれていることにより、制振性に優れる傾向にある。
上記第三級炭素数は、変性水素添加物の重合体ブロック(B)における、構成単位1つあたりの第三級炭素の平均個数を意味し、本発明の変性水素添加物における重合体ブロック(B)に含まれる第三級炭素のモル数を、当該重合体ブロック(B)を構成する構成単位のモル数で除すことにより求めることができ、例えば、ビニル結合単位に存在する第三級炭素数と該ビニル結合単位の含有量により算出することができる。
例えば、変性水素添加物が、前述の共役ジエン化合物としてイソプレン及び/又はブタジエンを用い、後述する変性剤として無水マレイン酸を用いた酸無水物由来の基を有する変性水素添加物である場合、第三級炭素は該酸無水物由来の基と水添ブロック共重合体由来の主鎖に存在する。具体的には次の化学式で表すことができる。
【0055】
【0056】
上記化学式で表されるように、第三級炭素数(楕円で囲んだ炭素)は、変性後のイソプレン構造単位における1,4-結合で1つ、3,4-結合で2つ存在し、また変性後のブタジエン構造単位における1,4-結合で0、1,2-結合で1つ存在する。
また、イソプレン構造単位における1,4-結合単位及び3,4-結合単位の含有量(モル%)、並びに、ブタジエン構造単位における1,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量(モル%)は、前述のビニル結合量の測定方法と同様に1H-NMR測定により算出することができる。
上記第三級炭素数は、より詳細には実施例に記載の方法に従って求められる。
【0057】
(変性水素添加物の重量平均分子量)
変性水素添加物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15,000~800,000、より好ましくは50,000~700,000、さらに好ましくは70,000~600,000、特に好ましくは70,000~500,000、最も好ましくは70,000~400,000である。変性水素添加物の重量平均分子量が15,000以上であれば、熱安定性がより向上し、800,000以下であれば、成形性もさらに良好なものとなり得る。
【0058】
<<変性水素添加物の製造方法>>
本発明の変性水素添加物は、少なくとも芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物をモノマーとして用い、これらを重合してブロック共重合体とし、該ブロック共重合体を水素化する前又は水素化した後に、変性剤を用いて変性反応する工程を経て、変性水素添加物を製造することができる。
【0059】
[ブロック共重合体]
本発明の変性水素添加物の製造方法において、モノマーとして少なくとも芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を用い、重合反応を行うことで、該芳香族ビニル化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(A)と、該共役ジエン化合物に由来する構成単位を含有する重合体ブロック(B)とを有するブロック共重合体を得る工程を有する。
なお、上記芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)は、本発明の変性水素添加物の説明において前述したものと同義である。
【0060】
上記重合反応は、例えば、溶液重合法、乳化重合法、又は固相重合法等により製造することができる。中でも溶液重合法が好ましく、例えば、アニオン重合、カチオン重合等のイオン重合法、ラジカル重合法等の公知の方法を適用できる。中でも、アニオン重合法が好ましい。アニオン重合法では、溶媒、アニオン重合開始剤、及び必要に応じてルイス塩基の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を逐次添加して、ブロック共重合体を得、必要に応じてカップリング剤を添加して反応させればよい。
【0061】
アニオン重合の重合開始剤として使用し得る有機リチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム等が挙げられる。また、重合開始剤として使用し得るジリチウム化合物としては、例えばナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼン等が挙げられる。
前記カップリング剤としては、例えばジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジブロモベンゼン、安息香酸フェニル等が挙げられる。
これらの重合開始剤及びカップリング剤の使用量は、水添ブロック共重合体の所望とする重量平均分子量により適宜決定される。通常は、アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物等の開始剤は、重合に用いる芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物等の単量体の合計100質量部あたり0.01~0.2質量部の割合で用いられるのが好ましく、カップリング剤を使用する場合は、前記単量体の合計100質量部あたり0.001~0.8質量部の割合で用いられるのが好ましい。
【0062】
溶媒としては、アニオン重合反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ペンタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。また、重合反応は、通常0~100℃、好ましくは10~70℃の温度で、0.5~50時間、好ましくは1~30時間行う。
【0063】
また、共役ジエン化合物の重合の際に共触媒としてルイス塩基を添加する方法により、3,4-結合及び1,2-結合の含有量(ビニル結合量)を高めることができる。
用いることのできるルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N-メチルモルホリン等のアミン類;ナトリウムt-ブチレート、ナトリムt-アミレート又はナトリウムイソペンチレート等の脂肪族アルコールのナトリウム又はカリウム塩、あるいは、ジアルキルナトリウムシクロヘキサノレート、例えば、ナトリウムメントレートのような脂環式アルコールのナトリウム又はカリウム塩等の金属塩;等が挙げられる。上記ルイス塩基の中でも、制振性と熱安定性の観点から、テトラヒドロフラン及びDTHFPを用いることが好ましい。また、高いビニル結合量とすることができ、過剰量の水添触媒を用いずとも高い水素添加率を達成しやすく、より優れた制振性と熱安定性の両立を実現し得ることからDTHFPを用いることがより好ましい。
これらのルイス塩基は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
ルイス塩基の添加量は、前記重合体ブロック(B)が、特にイソプレン及び/又はブタジエンに由来する構造単位を含む場合には、重合体ブロック(B)を構成するイソプレン単位及び/又はブタジエン単位のビニル結合量をどの程度に制御するかにより決定される。そのため、ルイス塩基の添加量に厳密な意味での制限はないが、重合開始剤として用いられるアルキルリチウム化合物又はジリチウム化合物に含有されるリチウム1グラム原子あたり、通常0.1~1,000モル、好ましくは1~100モルの範囲内で用いるのが好ましい。
上記した方法により重合を行なった後、アルコール類、カルボン酸類、水等の活性水素化合物を添加して重合反応を停止させることにより、ブロック共重合体を得ることができる。
【0065】
[水添ブロック共重合体]
上記工程で得られたブロック共重合体を水素添加することにより、水添ブロック共重合体を得ることができる。なお、ブロック共重合体を後述の方法で変性した後に水素添加してもよい。
ブロック共重合体を水素添加する場合、不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水素添加反応(水添反応)を行う。水添反応により、ブロック共重合体における重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物由来の炭素-炭素二重結合が水素添加され、ブロック共重合体の水素添加物とすることができる。
水添反応は、水素圧力を0.1~20MPa程度、好ましくは0.5~15MPa、より好ましくは0.5~5MPa、反応温度を20~250℃程度、好ましくは50~180℃、より好ましくは70~180℃、反応時間を通常0.1~100時間、好ましくは1~50時間として実施することができる。
水添触媒としては、例えば、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Ni等の金属をカーボン、アルミナ、珪藻土等の単体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物等との組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒等が挙げられる。中でも、芳香族環の核水添を抑制しやすい観点から、好ましくはチーグラー系触媒、より好ましくは遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物との組み合わせからなるチーグラー系触媒であり、さらに好ましくはニッケル化合物とアルキルアルミニウム化合物との組み合わせからなるチーグラー系触媒(Al/Ni系チーグラー触媒)である。
このようにして得られた水素ブロック共重合体は、重合反応液をメタノール等に注ぐことにより凝固させた後、加熱又は減圧乾燥させるか、重合反応液をスチームと共に熱水中に注ぎ、溶媒を共沸させて除去するいわゆるスチームストリッピングを施した後、加熱又は減圧乾燥することにより取得することができる。
【0066】
[変性水素添加物]
本発明の変性水素添加物は、前記ブロック共重合体を上記水素添加する前又は後に前述の官能基を導入して製造することができるが、ラジカル反応による変性の場合は、反応制御の観点から、ブロック共重合体を水素添加して水添ブロック共重合体とした後、特定の官能基を導入して製造することが好ましい。
【0067】
また、水添ブロック共重合体に前述の官能基を導入して変性する反応(以下、「変性反応」と称すことがある)は、公知の方法で行うことができる。
上記変性反応は、例えば、水添ブロック共重合体を有機溶媒に溶解し、そこへ前述の官能基を付加することができる各種変性剤を添加し、50~300℃程度、0.5~10時間程度で反応させることにより行うことができる。
また上記変性反応は、例えば、水添ブロック共重合体を、溶媒を用いずに押出機等を使用して溶融状態にし、各種変性剤を添加することにより行うことができる。この場合、変性反応の温度は、通常水添ブロック共重合体の融点以上から400℃以下であり、好ましくは90~350℃、より好ましくは100~300℃であり、反応時間は通常0.5~10分程度である。
また、溶融状態で上記変性反応を行う際にラジカル開始剤を添加することが好ましく、副反応を抑制する観点等から老化防止剤を添加してもよい。
【0068】
本発明の変性水素添加物の製造方法において、上記変性反応は、作業性や、制振性及び熱安定性が優れやすくなる観点から、後者の溶融状態で変性する方法により行うことが好ましい。
すなわち、本発明の変性水素添加物の製造方法の好ましい態様は、上記ブロック共重合体を水素添加して水添ブロック共重合体とした後、溶融状態の該水添ブロック共重合体に、ラジカル開始剤を用いて、アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を導入する工程をさらに有することである。
【0069】
上記官能基を付加することができる変性剤としては、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、ビニルベンジルジエチルアミン、ビニルベンジルジメチルアミン、1-グリシジル-4-(2-ピリジル)ピペラジン、1-グリシジル-4-フェニルピペラジン、1-グリシジル-4-メチルピペラジン、1-グリシジル-4-メチルホモピペラジン、1-グリシジルヘキサメチレンイミン、及びテトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられ、また変性剤として、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水2,3-ジメチルマレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物も用いることができる。さらに、特開2011-132298号公報に記載の変性剤から、上記官能基を付加することができる変性剤を採用してもよい。上記変性剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
変性剤の添加量は、前述した変性水素添加物における上記官能基の含有量に応じて、所望する上記官能基の含有量となるように適宜決定すればよいが、水添ブロック共重合体又はブロック共重合体100質量部に対し、変性剤は通常0.01~10質量部程度、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.01~3質量部であり、さらに好ましくは0.05~2質量部である。
【0071】
ラジカル開始剤としては、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、及びハイドロパーオキサイド類等の有機パーオキサイド又は有機パーエステルを用いられ、またアゾビスイソブチロニトリル、及びジメチルアゾイソブチレート等のアゾ化合物等も用いることができる。上記ラジカル開始剤のなかでも、好ましくは有機パーオキサイドであり、より好ましくはジアルキルパーオキサイド類である。
ラジカル開始剤の添加量は、水添ブロック共重合体と変性剤との組み合わせにより適宜決定すればよいが、水添ブロック共重合体100質量部に対しラジカル開始剤は、通常0.01~10質量部程度、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.01~3質量部であり、さらに好ましくは0.05~2質量部である。
【0072】
<<樹脂組成物>>
また本発明は、前述の変性水素添加物を含有する樹脂組成物を提供する。樹脂組成物は、変性水素添加物を含有することにより優れた制振性を発現することができ、また他の樹脂材料との相容性が良好であることから成形性及び力学物性にも優れる。
上記他の樹脂材料としては、特に制限はなく熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂等の樹脂が挙げられ、相容性及び成形性の観点から熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)であることが好ましい。
【0073】
[熱可塑性樹脂]
本発明の樹脂組成物は、前述の変性水素添加物である(I)成分と、熱可塑性樹脂である(II)成分とを含有することが好ましい。
また熱可塑性樹脂は、本発明の目的及び効果を損なわない限りにおいて特に制限はない。一方で前述の変性水素添加物は、アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基といった極性の高い官能基を有していることから、変性水素添加物とのより高い相容性を実現しやすく、より優れた成形性及び力学物性を発現できる観点から、熱可塑性樹脂は極性樹脂であることが好ましい。
【0074】
熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びポリエステル系樹脂等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂のなかでも、力学物性及び耐溶剤性の観点から、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、及びポリエステル系樹脂を用いることがより好ましい。上記熱可塑性樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
(ポリアミド系樹脂)
ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド及び透明ポリアミド(非晶性または微結晶性ポリアミド)等が挙げられる。これらポリアミド系樹脂は、各種用途によって求められる性能に応じ適宜選択することができるが、高耐熱性や低吸水性等の特性も付与でき、変性水素添加物との相容性、成形性等の観点から、好ましくは半芳香族ポリアミドである。
【0076】
本発明において半芳香族ポリアミドとは、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、脂肪族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミド、又は、脂肪族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミドをいう。ここで「主成分とする」とは、全単位中の50~100モル%、好ましくは60~100モル%を構成することをいう。
なかでも半芳香族ポリアミドは、テレフタル酸単位若しくはナフタレンジカルボン酸単位及び脂肪族ジアミン単位を有するものが好ましい。また、半芳香族ポリアミドは、上記テレフタル酸単位若しくはナフタレンジカルボン酸単位以外に、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、及び芳香族ジカルボン酸等に由来するジカルボン酸単位をさらに有していてもよい。
【0077】
また、上記脂肪族ジアミン単位は、直鎖状脂肪族ジアミン、分岐鎖状脂肪族ジアミン、及び脂環式ジアミンに由来するジアミン単位のいずれであってもよく、好ましくは脂環式ジアミンに由来するジアミン単位である。
脂環式ジアミンのなかでも、樹脂組成物の制振性、力学物性、及び成形性、さらに低吸水性及び耐熱性等をも期待できる観点から、1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、及び1,12-ドデカンジアミン等の炭素数4~18の脂肪族ジアミンであることがより好ましく、炭素数9の脂肪族ジアミンであることがさらに好ましく、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び1,9-ノナンジアミンであることがよりさらに好ましい。これら脂環式ジアミンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
半芳香族ポリアミドとしては、上記テレフタル酸単位若しくはナフタレンジカルボン酸単位及び脂肪族ジアミン単位を有するもの以外にも、イソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、及びポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド66/6I/6)等が挙げられる。
【0079】
脂肪族ポリアミドは、例えば、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリヘキサメチレンアジバミド(ポリアミド66)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリラウリルラクタム(ポリアミド12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)等が挙げられる。
全芳香族ポリアミドは、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等の芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとから合成されるものが挙げられる。
上記ポリアミド系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
透明ポリアミドの具体例としては、ポリカプロラクタム(PA6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(PA7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(PA9)、ポリウンデカンアミド(PA11)、ポリラウリンラクタム(PA12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(PA26)、ポリテトラメチレンアジパミド(PA46)、ポリヘキサメチレンジアジパミド(PA66)、ポリヘキサミエチレンセバカミド(PA610)、ポリへキサメチレンデカミド(PA612)、ポリオクタメチレンアジパミド(PA86)、ポリデカメチレンアジパミド(PA106)、ポリデカメチレンセバカミド(PA1010)、ポリデカメチレンドデカミド(PA1212)、メタキシレンジアミン?6ナイロン(MXD6)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(PA6I)、ポリメタキシリレンイソフタラミド(PAMXDI)、ビス?(4?アミノ?3?メチル?シクロヘキシル)メタン(MACM)と1,10?デカンジカルボン酸との縮合で得られる単独重合体(PAMACM10)、MACMとセバシン酸との縮合で得られる単独重合体(PAMACM12)、ビス?(4?アミノ?シクロヘキシル)?メタン)(別名:4,4’?ジアミノジシクロヘキシルメタン)と1,10?デカンジカルボン酸との縮合で得られる単独重合体(PACM12)などのポリアミド単独重合体;カプロラクタム/ラウリンラクタム共重合体(PA6/12)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(PA6/66)、ラウリンラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(PA12/610)、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/へキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(PA66/610)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(PA6/66/610)、PA6I/6T、PAMXDI/6I、PAMXDI/MXDT/6I/6T、PAMXDI/12I、PAMACM12、PAMACMI/12、PAMACMI/MACMT/12、PA6I/MACMI/12、PA6I/6T/MACMI/MACMT、PA6I/6T/MACMI/MACMT/12、PAMACM6/11、PAMACMI/MACM12、PACMT/PACM10/610(ACMはビス?(4?アミノ?シクロヘキシル)?メタン)(4,4′?ジアミノジシクロヘキシルメタン)の略)、PACMT/PACM10/614、PACMT/PACM14/614、PACMT/618、PACMT/12、PACMT/MACM14/12、PACMT/MACM14/614、PACMT/IPD14/614(IPDはイソホロンジアミンの略)、炭素数4~12の脂肪族アルキレンジアミンと2,6?ナフタレンジカルボン酸との縮合物からなるポリアミド単位と炭素数4~12の脂肪族アルキレンジアミンとイソフタル酸との縮合物からなるポリアミド単位を有する共重合体などのポリアミド共重合体が挙げられる。
【0081】
これら透明ポリアミドの中でも、制振性、機械的強度、耐熱性、耐油性、熱安定性、成形性などの点からは、PA6、PA610、PA612、PA11、PA12、およびPACM12が好ましい。
【0082】
上記透明ポリアミドとしては市販品を用いることもできる。市販品としては、トロガミド(Trogamid)CX7323、トロガミドT、トロガミドCX9701(商品名、以上、ダイセル・デグサ社)、グリルアミドTR?90、グリルアミドTR?155、グリボリーG21、グリルアミドTR?55LX、グリロンTR?27(以上、エムスケミー・ジャパン社)、クリスタミドMS1100、クリスタミドMS1700(以上、アルケマ社)、シーラー3030E、シーラーPA?V2031、イソアミドPA?7030(以上、デュポン社)などが挙げられる。
【0083】
(ポリフェニレンサルファイド系樹脂)
ポリフェニレンサルファイド系樹脂としては、本発明の効果を損なわなければ特に制限されず、例えばフェニレン基と硫黄原子が交互に結合した単位を主とするポリマーが挙げられる。上記フェニレン基としては、p-フェニレン基、m-フェニレン基、置換基(アルキル基、アルコキシル基、及びカルボキシ基等)を有する置換フェニレン基、及びp,p’-ビフェニレン基等を挙げることができる。
また、ポリフェニレンサルファイド系樹脂としては、酸化架橋型及び直鎖型が挙げられる。
上記ポリフェニレンサルファイド系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
(ポリフェニレンエーテル系樹脂)
ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジメトキシ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジクロロメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジブロモメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジフェニル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジトリル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジベンジル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,5-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル等が挙げられる。
上記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
(スチレン系樹脂)
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリt-ブチルスチレン等のポリアルキルスチレン;ポリクロロスチレン、ポリブロモスチレン、ポリフルオロスチレン、ポリフルオロスチレン等のポリハロゲン化スチレン;ポリクロロメチルスチレン等のポリハロゲン置換アルキルスチレン;ポリメトキシスチレン、ポリエトキシスチレン等のポリアルコキシスチレン;ポリカルボキシメチルスチレン等のポリカルボキシアルキルスチレン;ポリビニルベンジルプロピルエーテル等のポリアルキルエーテルスチレン;ポリトリメチルシリルスチレン等のポリアルキルシリルスチレン;ポリ(ビニルベンジルジメトキシホスファイド)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等が挙げられる。
上記スチレン系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルから誘導される構造単位から主としてなるものが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。アクリル系樹脂は、これらの(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上から誘導される構造単位を有していてもよい。
上記アクリル系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」又は「メタクリル」を意味する。
【0087】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂としては、脂肪族ポリカーボネート及び芳香族ポリカーボネートのいずれでもよい。例えば、ビスフェノールA、ヒドロキノン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン等の2価のフェノール類と、ホスゲン、ハロゲンホルメート、カーボネートエステル等のカーボネート前駆体とから製造されるポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
上記ポリカーボネート系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
(ポリエステル系樹脂)
ポリエステル系樹脂は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びポリカプロラクトン等の生分解性ポリマーや、脂肪族ジカルボン酸、及び芳香族ジカルボン酸等のカルボン酸成分と、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、及び芳香族ジオール等のジオール成分とから形成される脂肪族ポリエステル及び芳香族ポリエステルのいずれでもよい。
上記脂肪族ポリエステルとしては、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体等が挙げられる。
上記芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ジメチルイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、スルホイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等が挙げられる。
上記ポリエステル系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
(ポリアセタール系樹脂)
ポリアセタール系樹脂としては、オキシメチレン基単位を主とするポリマーであれば特に制限はなく、例えばポリオキシメチレンホモポリマー及びポリオキシメチレンコポリマーのいずれであってもよい。
ポリアセタール系樹脂が、ポリオキシメチレンコポリマーである場合、オキシメチレン基単位以外の構成単位としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、及びオキシテトラメチレン基等のオキシアルキレン基が挙げられる。また、ポリオキシメチレンコポリマーは、ランダム、ブロック、及びグラフト等の形態のいずれであってもよい。
上記ポリアセタール系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
(ポリビニルアルコール系樹脂)
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などが挙げられる。
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
((I)成分と(II)成分との含有割合)
また、本発明の樹脂組成物は、前記(I)成分と前記(II)成分との含有割合[(I)/(II)]が質量比で、好ましくは1/99~99/1、より好ましくは5/95~90/10、さらに好ましくは10/90~90/10である。(I)成分及び(II)成分の含有割合は、制振性、力学物性、及び成形性等の観点から調整すればよい。(I)成分の含有割合増やすことにより、制振性がより向上する傾向にある。
【0092】
(各種添加剤)
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、(I)成分及び(II)成分以外にさらに各種添加剤を含有するものであってもよい。かかる添加剤としては、タルク、クレー、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラス中空球、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、ドーソナイト、ポリリン酸アンモニウム、カルシウムアルミネート、ハイドロタルサイト、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、活性炭、炭素中空球、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素、雲母等の無機フィラー;木粉、でんぷん等の有機フィラー等が挙げられる。
上記添加剤としては、さらに加工助剤、補強材、可塑剤、連通気泡剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、防菌剤、防かび剤、分散剤、着色剤、発泡助剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、液体潤滑剤、及び固体潤滑剤等が挙げられる。
上記添加剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
樹脂組成物における上記添加剤の含有量に制限はなく、当該添加剤の種類や樹脂組成物の用途などに応じて適宜調整することができる。樹脂組成物が上記添加剤を含有する場合、上記添加剤の含有量は樹脂組成物の全量100質量%に対して、例えば50質量%以下、45質量%以下、30質量%以下であってもよく、また0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上であってもよい。
(I)成分及び(II)成分の合計含有量は、樹脂組成物の全量100質量%に対して、例えば50質量%以上、55質量%以上、70質量%以上であってもよく、また99.99質量%以下、99.9質量%以下、99質量%以下であってもよい。
【0093】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の調製方法に特に制限はなく、公知の手段を利用して調製することができる。例えば、上記(I)成分及び(II)成分、必要に応じて各種添加剤をヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダー等の混合機を用いて混合することによって製造するか、又はその後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等の混練機を用いて80~350℃程度で溶融混練することにより、本発明の樹脂組成物を調製することができる。
また、各成分[少なくとも(I)成分及び(II)成分]が可溶な溶媒に各成分を溶解させて混合し、溶媒を除去することによって樹脂組成物を調製することもできる
上記樹脂組成物は、ベール、クラム、及びペレット等のいずれの形状にすることができる。また、上記樹脂組成物は、溶融混練成形機により、又は、樹脂組成物のベール、クラム、あるいはペレット等を原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により各種成形品とすることができる。
【0094】
[制振性]
本発明の樹脂組成物は、幅広い温度領域で良好な制振性を示すことができる。
本発明の樹脂組成物が発現する幅広い温度領域で良好な制振性は、前述の変性水素添加物に用いるモノマーの選択や含有割合、ビニル結合量及び水素添加率のバランス、変性水素添加物の製造方法、さらにその他の本発明の変性水素添加物の各構成要素等を好適に制御することで、また樹脂組成物に用いる変性水素添加物と樹脂との組み合わせ、及びその含有割合等により達成することができる。
【0095】
例えば、本発明の樹脂組成物を用いて長さ200mm、幅10mm、厚さ2mmに成形した試験片について、JIS K7391(2008年)に準拠した中央加振法によるダンピング試験を行い、損失係数を測定することにより、上記制振性を次のように評価することができる。
周波数300Hz、温度20℃における上記損失係数は、好ましくは0.008以上である。さらに上記損失係数を、0.009以上、0.020以上、0.030以上とすることも可能である。
周波数300Hz、温度40℃における上記損失係数は、好ましくは0.008以上である。さらに上記損失係数を、0.009以上、0.020以上、0.030以上とすることも可能である。
周波数300Hz、温度60℃における上記損失係数は、好ましくは0.008以上である。さらに上記損失係数を、0.009以上、0.020以上、0.026以上とすることも可能である。
周波数300Hz、温度80℃における上記損失係数は、好ましくは0.008以上である。さらに上記損失係数を、0.009以上、0.015以上、0.023以上とすることも可能である。
周波数300Hz、温度100℃における上記損失係数は、好ましくは0.008以上である。さらに上記損失係数を、0.009以上、0.014以上とすることも可能である。
【0096】
周波数1500Hz、温度20℃における上記損失係数は、好ましくは0.010以上である。さらに上記損失係数を、0.020以上、0.030以上とすることも可能である。
周波数1500Hz、温度40℃における上記損失係数は、好ましくは0.010以上である。さらに上記損失係数を、0.020以上、0.030以上とすることも可能である。
周波数1500Hz、温度60℃における上記損失係数は、好ましくは0.008以上である。さらに上記損失係数を、0.020以上、0.030以上とすることも可能である。
周波数1500Hz、温度80℃における上記損失係数は、好ましくは0.008以上である。さらに上記損失係数を、0.020以上、0.027以上とすることも可能である。
周波数1500Hz、温度100℃における上記損失係数は、好ましくは0.008以上である。さらに上記損失係数を、0.015以上、0.019以上とすることも可能である。
なお、本発明の樹脂組成物の制振性の発現は、上記実施形態に限定されるものではない。また、上記損失係数は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定される値である。
【0097】
[力学物性]
(引張特性)
本発明の樹脂組成物は、前述の変性水素添加物が熱安定性に優れ、かつ変性水素添加物と樹脂の相容性が良好であることから、引張り強さ(MPa)、引張破壊ひずみ(%)、引張弾性率(GPa)等の引張特性に優れる。
例えば、本発明の樹脂組成物からなるISO多目的試験片(A形)を用い、JIS K7161-1(2014年)(ISO 527-1:2012)に準じて測定される各引張り試験により、上記樹脂組成物は次のような性状を示すことが可能である。
なお、上記規格に準じて測定される引張特性の好ましい数値範囲を次に示すが、変性水素添加物とブレンドする他の樹脂材料等やその用途に応じて好適な範囲を特定することができる。また、下記各引張特性は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定される値である。
【0098】
(1)引張り強さ(MPa)
本発明の樹脂組成物は、上記規格に準じて測定される引張り強さが、好ましくは50MPa以上、より好ましくは55MPa以上であり、さらに60MPa以上、65MPa以上、70MPa以上を示すことも可能である。引張り強さの上限については特に制限はなく、数値が高いほど好ましい。
(2)引張破壊ひずみ(%)
本発明の樹脂組成物は、上記規格に準じて測定される引張破壊ひずみが、好ましくは2.0%以上、より好ましくは2.5%以上であり、さらに5.0%以上、8.0%以上、10.0%以上を示すことも可能である。引張破壊ひずみの上限については特に制限はなく、用途に応じ適宜特定することができる。
(3)引張弾性率(GPa)
本発明の樹脂組成物は、上記規格に準じて測定される引張弾性率が、好ましくは2.0GPa以上である。引張弾性率の上限については特に制限はなく、用途に応じ適宜特定することができる。
【0099】
(曲げ特性)
本発明の樹脂組成物は、前述の引張特性と同様に、変性水素添加物が熱安定性に優れ、かつ変性水素添加物と樹脂の相容性が良好であることから、曲げ強さ(MPa)、曲げ弾性率(GPa)等の曲げ特性に優れる。
例えば、本発明の樹脂組成物からなるISO多目的試験片(A形)を用い、JIS K7171(2016年)(ISO 178:2010)に準じて測定される各曲げ試験により、上記樹脂組成物は次のような性状を示すことが可能である。
なお、上記規格に準じて測定される曲げ特性の好ましい数値範囲を次に示すが、変性水素添加物とブレンドする他の樹脂材料等やその用途に応じて好適な範囲を特定することができる。また下記各曲げ特性は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定される値である。
【0100】
(1)曲げ強さ(MPa)
本発明の樹脂組成物は、上記規格に準じて測定される曲げ強さが、好ましくは90MPa以上であり、より好ましくは96MPa以上である。曲げ強さの上限については特に制限はなく、用途に応じ適宜特定することができる。
(2)曲げ弾性率(GPa)
本発明の樹脂組成物は、上記規格に準じて測定される曲げ弾性率が、好ましくは2.1GPa以上である。曲げ弾性率の上限については特に制限はなく、用途に応じ適宜特定することができる。
【0101】
<<各種用途>>
本発明の変性水素添加物は制振性及び熱安定性に優れ、本発明の樹脂組成物は制振性、力学物性及び成形性に優れる。さらに本発明の変性水素添加物及び樹脂組成物は、粘接着性等の物性も発現し得ることから、上記特性が要求される各種用途に用いることができる。そのため、本発明は、前述の変性水素添加物又は樹脂組成物を用いたペレット、ベール、制振材、遮音材、ダムラバー、靴底材料、床材、接着剤又は粘着剤、積層体、自動車部品、フィルム、及びシート等の成形体等も提供することができる。
上記自動車部品として、例えばトルクロッド、及びシリンダヘッドカバー等の構造部品;各種ギア、スライドドアローラー、及びクラッチ周辺部品等の駆動系部品;燃料配管、クイックコネクター、及びポンプモジュール等の燃料系部品;に用いることができる。
なお、本発明の変性水素添加物を各種用途に使用する際、変性水素添加物は単独で使用してもよく、前述の樹脂組成物において例示した各種添加剤を混合した組成物としても使用することができる。
【0102】
上記積層体の構成としては、例えば本発明の変性水素添加物又は樹脂組成物を含有してなるX層と、該X層の少なくとも一方の面に積層されたY層とを有する構成にすることができる。
X層の厚みは、各種用途に応じて適宜選択すればよく、本発明の効果が損なわれない範囲であれば特に制限はない。優れた制振性を発現しやすい観点から、X層の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上、よりさらに好ましくは70μm以上である。またX層の厚みは、好ましくは800μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは400μm以下、よりさらに好ましくは350μm以下、よりさらに好ましくは150μm以下である。
【0103】
上記Y層としては、各種用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば、ガラス層、本発明の変性水素添加物以外の熱可塑性樹脂を含有してなる層(接着補助層又はスキン層等)等が挙げられる。本発明の変性水素添加物以外の熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0104】
また上記積層体は、X層及びY層の1層ずつから構成される積層体であってもよいし、1層のX層と2層以上のY層から構成される積層体であってもよいし、2層以上のX層と1層のY層から構成される積層体であってもよいし、2層以上のX層と2層以上のY層から構成される積層体であってもよい。
本発明の積層体の構成としては、X層を「X」、Y層を「Y」で表すと、特に制限されるわけではないが、Y/X/Y、Y/X、Y/X/Y/X/Y等が挙げられる。
複数のY層は同一材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。そこで、異なる材料である場合に、異なる材料からなるY層を、「Y1」、「Y2」、「Y3」・・・の順で表すと、本発明の積層体の構成としては、特に制限されるわけではないが、Y1/X/Y1、Y2/Y1/X/Y1/Y2、Y1/X/Y2、X/Y1/Y2、Y1/X/Y2/Y3、Y1/X/Y2/X/Y3等が挙げられる。中でも、Y1/X/Y1、Y2/Y1/X/Y1/Y2、Y1/X/Y2の構成の積層体が好ましく、Y1/X/Y1、Y2/Y1/X/Y1/Y2の構成の積層体がより好ましい。
【0105】
上記積層体は、制振材又は遮音材用途、例えば自動車の制振材又は遮音材用途に用いてもよい。上記積層体が自動車の制振材又は遮音材用途である場合、本発明の変性水素添加物及び樹脂組成物以外に用いられる添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、遮熱材料、アンチブロッキング剤、顔料、染料、軟化剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これら添加剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また本発明の積層体の製造方法に特に制限はなく、例えば、真空ラミネータを用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、ニップロールを用いる方法等が挙げられる。
【0106】
本発明の変性水素添加物及び樹脂組成物の上記用途以外のその他の用途として、ウェザーストリップ、フロアマット、ダッシュインシュレーター、ルーフライニング、ドアパネル、エンジンヘッドカバー、ドアホールシール、フェンダーライナー等が挙げられ、これら用途にも有用である。
また、自動車部品としてはさらに、例えば、サーモスタットハウジング、ラジエータータンク、ラジエーターホース、ウォーターアウトレット、ウォーターポンプハウジング、リアジョイント等の冷却部品;インタークーラータンク、インタークーラーケース、ターボダクトパイプ、EGRクーラーケース、レゾネーター、スロットルボディ、インテークマニホールド、テールパイプ等の吸排気系部品;燃料デリバリーパイプ、ガソリンタンク、キャニスター、オイルストレーナー、ロックナット、シール材等の燃料系部品;マウントブラケット等の構造部品;エアブレーキチューブ等のブレーキ系統部品;エンジンルーム内のワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、センサー、ABSボビン、コンビネーションスイッチ、車載スイッチ等の車載電装部品;スライドドアダンパー、ドラミラーステイ、ドアミラーブラケット、インナーミラーステイ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、エアクリーナーのインレートパイプ、ドアチェッカー、プラチェーン、エンブレム、クリップ、ブレーカーカバー、カップホルダー、エアバック、フェンダー、スポイラー、ラジエーターサポート、ラジエーターグリル、ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、バックドア、フューエルセンダーモジュール等の内外装部品等が挙げられる
また、家電分野におけるテレビ、ブルーレイレコーダーやHDDレコーダー等の各種レコーダー類、プロジェクター、ゲーム機、デジタルカメラ、ホームビデオ、アンテナ、スピーカー、電子辞書、ICレコーダー、FAX、コピー機、電話機、ドアホン、炊飯器、電子レンジ、オーブンレンジ、冷蔵庫、食器洗い機、食器乾燥機、IHクッキングヒーター、ホットプレート、掃除機、洗濯機、充電器、ミシン、アイロン、乾燥機、電動自転車、空気清浄機、浄水器、電動歯ブラシ、照明器具、エアコン、エアコンの室外機、除湿機、加湿機等の各種電気製品における、接着剤又は粘着剤、シール材、パッキン、Oリング、ベルト、防音材等に利用可能である。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
<変性水素添加物>
[各物性の測定方法]
後述の実施例及び比較例で得られた変性水素添加物等について、次の測定方法にしたがって各物性を評価した。
【0109】
(重合体ブロック(A)の含有量)
変性水素添加物をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、スチレンに由来するピーク面積と、イソプレン及び/又はブタジエン由来のピーク面積との比から重合体ブロック(A)の含有量を算出した。
【0110】
(重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)、水添ブロック共重合体、及び変性水素添加物の重量平均分子量)
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により、水添ブロック共重合体及び変性水素添加物のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
また、重合体ブロック(A)及び(B)の重量平均分量(Mw)は、製造工程において各重合体ブロックの重合が終了する都度、サンプリングした液を下記条件のGPC測定により測定することで求めた。
〈GPC測定装置及び測定条件〉
・装置 :GPC装置「HLC-8020」(東ソー株式会社製)
・分離カラム :東ソ-株式会社製の「TSKgel G4000HX」2本を直列に連結した。
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.7mL/min
・サンプル濃度:5mg/10mL
・カラム温度 :40℃
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0111】
(重合体ブロック(B)における水素添加率)
変性前の水添ブロック共重合体を、CDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、イソプレン又はブタジエンの残存オレフィン由来のピーク面積と、エチレン、プロピレン及びブチレン由来のピーク面積との比から水素添加率を算出した。
【0112】
(重合体ブロック(B)におけるビニル結合量)
水添前のブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。イソプレン及び/又はブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積に対する、イソプレン構造単位における3,4-結合単位及び1,2-結合単位並びにブタジエン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比から、ビニル結合量(3,4-結合単位と1,2-結合単位の含有量の合計)を算出した。
【0113】
重合体ブロック(B)中の脂環式骨格(X)の含有量
水添前のブロック共重合体600mg及びCr(acac)3 40mgをCDCl34mlに溶解して10mmNMRチューブを用いて定量13C-NMR測定(パルスプログラム:zgig、Inverse gated 1H decoupling法) [装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、下記の方法にて重合体ブロック(B)中の脂環式骨格X、X1、及びX2それぞれの含有量を算出した。
なお、表3中、X、X1、及びX2は次の脂環式骨格を示す。
X:以下(i)~(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
X1:以下(i),(iv)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
X2:以下(ii),(iii),(v),(iv)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
(i) :R1=水素原子、R2=水素原子、R3=水素原子;(1,2Bd+Bd)
(ii) :R1=水素原子、R2=メチル基、R3=水素原子;(1,2Bd+1,2Ip)
(iii) :R1=水素原子、R2=水素原子、R3=メチル基;(1,2Bd+3,4Ip)
(iv) :R1=メチル基、R2=水素原子、R3=水素原子;(1,2Ip+Bd)
(v) :R1=メチル基、R2=メチル基、R3=水素原子;(1,2Ip+1,2Ip)
(vi) :R1=メチル基、R2=水素原子、R3=メチル基;(1,2Ip+3,4Ip)
【0114】
〔算出方法〕
各ピークと由来する構造を表1-1に示す。それぞれのピークの積分値をa~gとすると、各構造の積分値は表1-2のようになり、X,X1,X2の含有量はそれぞれ、(a+g-c)/(a+b+c-d+e/2+2f), (g-c)/(a+b+c-d+e/2+2f), a/(a+b+c-d+e/2+2f)で算出できる。
【0115】
【0116】
(変性量)
〈無水マレイン酸〉
変性水素添加物5gをトルエン180mlに溶解した後、エタノール20mlを加え、0.1モル/L水酸化カリウム溶液で滴定し、下記計算式を用い変性量を算出した。
無水マレイン酸変性量(phr)=滴定量×5.611/サンプル量×98×100/56.11×1000
〈ビニルトリメトキシシラン〉
変性水素添加物をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。スチレン構造単位の全ピーク面積に対する、トリメトキシシリル基に対応するピーク面積の比から、変性量を算出した。
【0117】
(変性後ヨウ素価)
変性水素添加物をJIS K0070(1992年)に準拠してヨウ素価を測定した。
(変性後水素添加率)
変性水素添加物を、CDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、イソプレン又はブタジエンの残存オレフィン由来のピーク面積と、エチレン、プロピレン及びブチレン由来のピーク面積との比から水素添加率を算出した。
【0118】
(重量変化率)
変性水素添加物をシクロヘキサンに溶解し、得られたポリマー溶液をアセトン/メタノールで再沈殿することで、変性水素添加物に残存する変性剤(無水マレイン酸又はビニルトリメトキシシラン)を除去し、これを60℃で、4時間真空乾燥することで、残存変性剤を除去した変性水素添加物を調整し、これを以下の重量変化率の測定に用いた。
残存変性剤を除去した上記変性水素添加物を、10mg秤量し、(i)330℃、窒素の雰囲気に30分放置し、又は(ii)330℃、窒素の雰囲気に60分放置した。
上記(i)又は(ii)の条件で放置した重量を測定(試験後の重量)し、試験前後の重量変化率を次式より算出した。
重量変化率(%)=(試験後の重量-試験前の重量)/試験前の重量×100
【0119】
(tanδ:ピークトップ温度、ピークトップ強度、及び温度領域の最大幅)
変性水素添加物を、プレス成形装置「NF-50T」(株式会社神藤金属工業所製)により、温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧することで、厚み1.0mmのシートを作製し、該シートを直径8mmの円板形状に切り出したものを試験片とした。
測定装置として、JIS K7244-10(2005年)に基づいて、ゆがみ制御型動的粘弾性装置である回転式レオメータ「ARES-G2」(TAインスツルメント社製)を使用し、直径8mmの平面プレートに前記試験片を挟み、歪み量0.1%、周波数1Hzで振動を与え、-70℃から120℃まで3℃/分で昇温して試験した。
上記試験によって、該最大ピーク強度が得られた温度(ピークトップ温度)、tanδの最大ピーク強度(ピークトップ強度)、tanδが0.5以上となる一連の温度領域の最大幅、tanδが1.0以上となる一連の温度領域の最大幅、及びtanδが1.5以上となる一連の温度領域の最大幅を求めた。
【0120】
(第三級炭素数)
変性水素添加物における第三級炭素数の合計を、次の方法に基づき算出した。
変性水素添加物における、前記ビニル結合量の測定方法と同様に1H-NMR測定により、イソプレン構造単位における1,4-結合単位及び3,4-結合単位の含有量(モル%)、並びに、ブタジエン構造単位における1,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量(モル%)を算出した。これら各結合単位の含有量(モル%)に、次の結合単位に存在する第三級炭素数を乗じ、100で除して算出した。
なお、上記第三級炭素数は、変性剤として無水マレイン酸を用いた場合、イソプレン構造単位における1,4-結合で1つ、3,4-結合で2つ存在し、またブタジエン構造単位における1,4-結合で0、1,2-結合で1つ存在する。また、上記第三級炭素数は、変性剤としてビニルトリメトキシシランを用いた場合、イソプレン構造単位における1,4-結合で0、3,4-結合で1つ存在し、またブタジエン構造単位における1,4-結合及び1,2-結合では0である。
具体例として、実施例1(Y-1)、実施例2(Y-2)、比較例3(Y-9)の算出方法を以下に示す。
・実施例1(Y-1)
第三級炭素数=[イソプレン1,4-結合の含有量(モル%)×1+イソプレン3,4-結合の含有量(モル%)×2]/100=[18(モル%)×1+82(モル%)×2]/100=1.82
・実施例2(Y-2)
第三級炭素数={[イソプレン1,4-結合の含有量(モル%)×1+イソプレン3,4-結合の含有量(モル%)×2]×0.5+[ブタジエン1,4-結合の含有量(モル%)×0+ブタジエン1,2-結合の含有量(モル%)×1]×0.5}/100={[7(モル%)×1+93(モル%)×2]×0.5+[30(モル%)×0+70(モル%)×1]×0.5}/100=1.32
・比較例3(Y-9)
第三級炭素数=[ブタジエン1,4-結合の含有量(モル%)×0+ブタジエン1,2-結合の含有量(モル%)×1]/100=[60(モル%)×0+40(モル%)×2]/100=0.40
【0121】
[変性水素添加物の製造]
〔実施例1〕
(1)水添ブロック共重合体
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、モレキュラーシーブスA4にて乾燥したシクロヘキサン(溶媒)50kg、アニオン重合開始剤として濃度10質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液0.09kg(sec-ブチルリチウムの実質的な添加量:90g)を仕込んだ。
耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン(1)1.0kgを加えて30分間重合させた後、40℃に降温し、ルイス塩基として2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)0.033kgを加えてから、イソプレン14.7kgを5時間かけて加え、1時間重合させた。その後、50℃に昇温し、スチレン(2)1.0kgを加えて30分間重合させ、メタノールを投入して反応を停止し、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンのトリブロック共重合体を含む反応液を得た。
該反応液を50℃に昇温後、水素圧力1MPaまで加圧し、それからオクチル酸ニッケル及びトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系触媒(水素添加触媒)を水素雰囲気下で添加し、反応熱によって80℃まで昇温して水素の吸収が無くなるまで反応させた。該反応液を放冷及び放圧させた後、水洗により上記チーグラー系触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンのトリブロック共重合体の水添ブロック共重合体を得た。
(2)変性水素添加物
Coperion社製二軸押出機「ZSK26mc」(26mmφ、L/D=56)を下記押出条件にて使用し、上記で得られた水添ブロック共重合体10kgを配合して溶融状態とし、ラジカル開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B-40、日本油脂株式会社製)を0.01kg、変性剤として無水マレイン酸0.1kgを配合して、変性反応を行い、変性水素添加物(以下、「Y-1」と称することがある)を得た。
得られた変性水素添加物について、前記物性評価の結果を表2に示す。
〈押出条件〉
・二軸押出機温度設定:樹脂フィード口40℃、シリンダー部入口150℃、アダプター210℃、ダイ210℃
・スクリュー回転数:300rpm
【0122】
〔実施例2~6、23〕及び〔比較例1~3〕
各成分及びそれらの使用量等を表1-3に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、変性水素添加物(Y-2~Y-10)を得た。得られた変性水素添加物について、前記物性評価の結果を表2に示す。
なお、比較例1(Y-7)は、未水添のブロック共重合体であり、変性反応時に反応制御できずにブロック共重合体がゲル化し、変性不可となった。
【0123】
【0124】
【0125】
なお、表2中、*1及び*2は次を意味する。
*1:変性不可のため測定せず。なお、表3においても同義。
*2:tanδが特定した値を満たさなかったため測定せず。
【0126】
表2に示すtanδの評価結果から、実施例の変性水素添加物は、tanδのピークトップ強度が1.0以上となって制振性に優れ、かつ幅広い温度領域でその優れた制振性を示すことができるといえる。さらに、実施例の変性水素添加物は重量変化率が-5.5%以上であって、その変化割合が小さいことから熱安定性に優れることがわかる。
一方、比較例1において、前述の変性方法ではブロック共重合体がゲル化してしまい、また比較例2及び3では制振性又は熱安定性のいずれか一方が劣る結果となった。比較例2は、前述の特許文献1の実施例と同等の組成であり、制振性には優れるものの、高水素添加率とはならず十分に優れた熱安定性が得られなかった。
【0127】
<樹脂組成物>
[各物性の測定方法]
後述の実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、次の測定方法にしたがって各物性を評価した。
(損失係数)
樹脂組成物を、射出成形機「UH1000」(日精樹脂工業株式会社製)によりシリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出圧力80MPaで射出成形し、長さ200mm、幅10mm、厚み2mmの試験片を作製した。
次に、機械インピーダンス装置(マスキャンセルアンプMA-5500;チャンネルデータステーションDS-2100、株式会社小野測器製)にサンプルをセットし、JIS K7391(2008年)に準拠して中央加振法によるダンピング試験を行い、半値幅法により損失係数を算出した。
具体的には、上記装置の加振器(poweramplifier/model371-A)のインピーダンスヘッドに内蔵された加振力検出器の先端部に、サンプルの中央部の鋼板側を固定した。そして、周波数0~8000Hzで、サンプルの中央部に振動を与えることにより、中央加振法による、測定用サンプルのダンピング試験を行い、上記中央部における加振力と加速度波形を表す加速度信号とを検出した。各サンプルについて、温度0℃、20℃、40℃、60℃、80℃、100℃で測定を行なった。
得られた加振力と、加速度信号を積分して得られた速度信号に基づいて、加振点(振動を加えた積層体の中央部)の機械インピーダンスを求めた。横軸を周波数、縦軸を上記機械インピーダンスとして得られるインピーダンス曲線を作成し、低周波数側から数えて二つ目のピーク(2nd mode)の半値全幅と、四つ目のピーク(4nd mode)の半値全幅から、測定用サンプルである積層体の、それぞれの温度での損失係数を求めた。
【0128】
(引張特性)
樹脂組成物を、射出成形機「SE100DU-C250」(住友重機械工業株式会社製)によりシリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出圧力80MPaで射出成形し、ISO多目的試験片(A形)を作製した。
上記試験片を用い、JIS K7161-1(2014年)(ISO 527-1:2012)に準じて、引張り強さ(MPa)、引張破壊ひずみ(%)、引張弾性率(GPa)を測定した。
【0129】
(曲げ特性)
樹脂組成物を、射出成形機「SE100DU-C250」(住友重機械工業株式会社製)によりシリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出圧力80MPaで射出成形し、ISO多目的試験片(A形)を作製し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmに切削した。
上記試験片を用い、JIS K7171(2016年)(ISO 178:2010)に準じて、曲げ強さ(MPa)、曲げ弾性率(GPa)を測定した。
【0130】
(射出成形性)
樹脂組成物を、射出成形機「UH1000」(日精樹脂工業株式会社製)によりシリンダー温度320℃、金型温度140℃、射出圧力80MPaで射出成形し、長さ110mm、幅110mm、厚み2mmの試験片を作製した。
得られた試験片を目視で観察し、成形性を次の基準で評価した。
〈評価基準〉
○:試験片の表面状態が平滑である。
×:試験片の表面に剥離(デラミネーション)が生じている。
【0131】
[樹脂組成物の製造]
〔実施例7~12〕及び〔比較例4~6〕
二軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM-26SS」)を用い、シリンダー温度320℃、スクリュー回転数150rpmの条件下で、表3に示す配合にしたがい、前記実施例及び比較例で得られた変性水素添加物(Y-1~Y-9)及び下記樹脂を供給して溶融混練し、樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物について、前記物性評価の結果を表3に示す。
〈樹脂〉
・半芳香族ポリアミド
〔テレフタル酸単位と、1,9-ノナンジアミン単位及び2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(1,9-ノナンジアミン単位:2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位=80:20(モル比))とからなる、融点:300℃〕
【0132】
【0133】
表3から、実施例の樹脂組成物は、20℃~100℃の幅広い温度において良好な制振性を示すことができ、かつ引張特性及び曲げ特性の評価結果も良好である。また、実施例の樹脂組成物は、射出成形体の表面が平滑で成形性に優れることから、制振性、力学物性、及び成形性のいずれにおいても優れているといえる。これは、本発明の変性水素添加物が有する制振性及び熱安定性が、樹脂組成物においても保たれていると考えられ、変性水素添加物と樹脂とが良好に相容化されていることがわかる。
一方、比較例5の樹脂組成物は、優れた熱安定性を有さない変性水素添加物を用いていることから、十分な引張特性及び曲げ特性を示すことができず、射出成形性にも劣るものとなった。また、比較例6は用いた変性水素添加物が制振性に劣るため、樹脂組成物においても制振性に劣る結果となった。
【0134】
〔実施例13〕及び〔比較例7〕
表4に示す配合にしたがい、変性水素添加物及び下記樹脂を用いて、実施例7と同様の方法で二軸押出温度250℃、射出成形温度250℃、金型温度80℃にて樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物について、前記物性評価(損失係数及び引張特性)の結果を表4に示す。
〈樹脂〉
・ポリアミド6
〔商品名「UBEナイロン(登録商標)1013B」、宇部興産株式会社製〕
【0135】
【0136】
表4から、実施例の樹脂組成物は、0℃~100℃の幅広い温度において良好な制振性を示すことができ、かつ引張特性の評価結果も良好である。また、本発明の変性水素添加物は熱安定性にも優れるものであり、加えて変性水素添加物と樹脂とが良好に相容化すると考えられる。したがって、表4に示す実施例の樹脂組成物は、曲げ特性及び成形性にも優れ、すなわち制振性、力学物性、及び成形性のいずれにおいても優れることが推測できる。
【0137】
〔実施例14,15〕及び〔比較例8〕
表5に示す配合にしたがい、変性水素添加物及び下記樹脂を用いて、実施例7と同様の方法で二軸押出し温度250℃、射出成形温度250℃、金型温度40℃にて樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物について、前記物性評価(損失係数)の結果を表5に示す。
〈樹脂〉
・ポリブチレンテレフタレート
〔商品名「トレコン(登録商標)1401X31」、東レ株式会社製〕
【0138】
【0139】
表5から、実施例の樹脂組成物は、0℃~100℃の幅広い温度(特に20℃~80℃)において良好な制振性を示すことができる。また、本発明の変性水素添加物は熱安定性にも優れるものであり、加えて変性水素添加物と樹脂とが良好に相容化すると考えられる。したがって、表5に示す実施例の樹脂組成物は、引張特性、曲げ特性及び成形性にも優れ、すなわち制振性、力学物性、及び成形性のいずれにおいても優れることが推測できる。
【0140】
〔実施例16,17〕及び〔比較例9〕
表6に示す配合にしたがい、変性水素添加物及び下記樹脂を用いて、実施例7と同様の方法で二軸押出し温度280℃、射出成形温度280℃、金型温度70℃にて樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物について、前記物性評価(損失係数)の結果を表6に示す。
〈樹脂〉
・ポリカーボネート
〔商品名「ユーピロン(登録商標)S3000R」、三菱エンジニアプラスチック株式会社製〕
【0141】
【0142】
表6から、実施例の樹脂組成物は、0℃~100℃の幅広い温度(特に実施例16は0℃~40℃、実施例17は0℃)において良好な制振性を示すことができる。また、本発明の変性水素添加物は熱安定性にも優れるものであり、加えて変性水素添加物と樹脂とが良好に相容化すると考えられる。したがって、表6に示す実施例の樹脂組成物は、引張特性、曲げ特性及び成形性にも優れ、すなわち制振性、力学物性、及び成形性のいずれにおいても優れることが推測できる。
【0143】
〔実施例18〕及び〔比較例10〕
表7に示す配合にしたがい、変性水素添加物及び下記樹脂を用いて、実施例7と同様の方法で二軸押出し温度320℃、射出成形温度320℃、金型温度140℃にて樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物について、前記物性評価(損失係数、引張特性及び曲げ特性)の結果を表7に示す。
〈樹脂〉
・ポリフェニレンサルファイド
〔商品名「トレリナ(登録商標)A900」、東レ株式会社製〕
【0144】
【0145】
表7から、実施例の樹脂組成物は、0℃~100℃の幅広い温度(特に0℃~80℃)において良好な制振性を示すことができ、かつ引張特性及び曲げ特性の評価結果も良好である。また、本発明の変性水素添加物は熱安定性にも優れるものであり、加えて変性水素添加物と樹脂とが良好に相容化すると考えられる。したがって、表7に示す実施例の樹脂組成物は成形性にも優れ、すなわち制振性、力学物性、及び成形性のいずれにおいても優れることが推測できる。
【0146】
〔実施例19〕及び〔比較例11〕
表8に示す配合にしたがい、変性水素添加物及び下記樹脂を用いて、実施例7と同様の方法で二軸押出し温度200℃、射出成形温度200℃、金型温度60℃にて樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物について、前記物性評価(損失係数)の結果を表8に示す。
〈樹脂〉
・ポリアセタール
〔商品名「ジュラコン(登録商標)M90-44」、ポリプラスチック株式会社製〕
【0147】
【0148】
表8から、実施例の樹脂組成物は、0℃~100℃の幅広い温度(特に20℃~100℃)において良好な制振性を示すことができる。また、本発明の変性水素添加物は熱安定性にも優れるものであり、加えて変性水素添加物と樹脂とが良好に相容化すると考えられる。したがって、表8に示す実施例の樹脂組成物は、引張特性、曲げ特性及び成形性にも優れ、すなわち制振性、力学物性、及び成形性のいずれにおいても優れることが推測できる。
【0149】
〔実施例20~22〕及び〔比較例12〕
表9に示す配合にしたがい、変性水素添加物、下記樹脂及び添加剤を用いて、実施例7と同様の方法で二軸押出し温度320℃、射出成形温度320℃、金型温度140℃にて樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物について、前記物性評価(損失係数、引張特性及び曲げ特性)の結果を表9に示す。
〈樹脂〉
・半芳香族ポリアミド
〔テレフタル酸単位と、1,9-ノナンジアミン単位及び2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(1,9-ノナンジアミン単位:2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位=80:20(モル比))とからなる、融点:300℃〕
〈添加剤〉
・ガラス繊維
〔商品名「T-251H」、日本電気硝子株式会社〕
【0150】
【0151】
表9から、実施例の樹脂組成物は、ガラス繊維を含有することにより引張特性及び曲げ特性がさらに向上しつつ、制振性がそれほど低下せずに維持されることが分かる。特に、実施例20の樹脂組成物は20℃~80℃の幅広い温度において良好な制振性を示しており、良好な制振性と力学物性とが両立されていることが分かる。また、本発明の変性水素添加物は熱安定性にも優れるものであり、加えて変性水素添加物と樹脂とが良好に相容化すると考えられる。したがって、表9に示す実施例の樹脂組成物は成形性にも優れ、すなわち制振性、力学物性、及び成形性のいずれにおいても優れることが推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の変性水素添加物又は樹脂組成物は、ペレット、ベール、制振材、遮音材、ダムラバー、靴底材料、床材、接着剤又は粘着剤、積層体、フィルム、及びシート等の成形体、各種自動車部品等に好適に用いることができる。