(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】基板ホルダ、めっき装置、及びめっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 17/08 20060101AFI20221214BHJP
C25D 7/12 20060101ALI20221214BHJP
C25D 17/00 20060101ALI20221214BHJP
C25D 17/06 20060101ALI20221214BHJP
C25D 21/00 20060101ALI20221214BHJP
C25D 21/08 20060101ALI20221214BHJP
C25D 21/12 20060101ALI20221214BHJP
H01L 21/288 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C25D17/08 R
C25D7/12
C25D17/00 L
C25D17/06 C
C25D21/00 A
C25D21/08
C25D21/12 C
H01L21/288 E
(21)【出願番号】P 2022106977
(22)【出願日】2022-07-01
【審査請求日】2022-07-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100117640
【氏名又は名称】小野 達己
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直人
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-520898(JP,A)
【文献】特開2005-163080(JP,A)
【文献】特開2012-233224(JP,A)
【文献】特開2018-131663(JP,A)
【文献】特開2019-026863(JP,A)
【文献】特開2020-117763(JP,A)
【文献】特開2020-117764(JP,A)
【文献】特許第7081063(JP,B1)
【文献】米国特許第6755946(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0256146(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0292254(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
C25D 7/12
C25D 17/00 - 17/08
H01L 21/288
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持し、基板をめっき液に接触させてめっきするための基板ホルダであって、
前記基板の表面に形成されたシード層に接触して給電するためのコンタクトと、
前記コンタクトに対して高電位側にバイアスされるか、又は、前記シード層よりも低い自然電位を有する材料を有し前記シード層に直接又は導電体を介して電気的に接続される保護電極と、
前記基板ホルダで前記基板が保持された状態において、前記基板の外周部、前記コンタクト、及び前記保護電極を、前記基板ホルダの外部からシールした状態で収容すると共に、前記保護電極の一部、並びに前記シード層と前記コンタクトとの接触箇所を少なくとも覆う液体を保持する内部空間を有するホルダ本体と、を備える、基板ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極は、不溶解性の電極であり、かつ、前記コンタクトに対して高電位側にバイアスされる、基板ホルダ。
【請求項3】
請求項2に記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極と前記シード層との間には、前記保護電極と前記シード層の自然電位の差より
も大きい電圧が印加される、基板ホルダ。
【請求項4】
請求項2に記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極は、スペーサを介して前記コンタクトに固定される、基板ホルダ。
【請求項5】
請求項1に記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極は、前記シード層よりも低い自然電位を有し前記シード層に直接又は導電体を介して電気的に接続され、溶解性の犠牲電極として機能する、基板ホルダ。
【請求項6】
請求項5に記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極は、前記コンタクトに固定され、前記コンタクトを介して前記シード層に電気的に接続される、基板ホルダ。
【請求項7】
請求項1に記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極は、溶解性の電極であり、かつ、前記コンタクトに対して高電位側にバイアスされる、基板ホルダ。
【請求項8】
請求項7に記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極は、スペーサを介して前記コンタクトに固定される、基板ホルダ。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極は、前記基板ホルダが前記基板を保持した際に前記基板の外周を囲む場所に連続して又は不連続に設けられている、基板ホルダ。
【請求項10】
請求項1から8の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極は、前記基板ホルダが前記基板を保持した際に、前記基板のエッジからの距離が所定の距離以下となるように周状に配置されている、基板ホルダ。
【請求項11】
請求項1から8の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記液体は、1000μS/cm以下の電導度を有する液体である、基板ホルダ。
【請求項12】
請求項1から8の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記液体は、純水、若しくは脱気又は不活性ガス置換された純水である、基板ホルダ。
【請求項13】
請求項1から8の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記保護電極が検出器として機能し、
前記検出器は、前記内部空間に前記液体が導入された状態で、前記コンタクト又は前記コンタクトに電気的に導通された配線と前記電極との間に流れる電流を監視することにより、前記内部空間へのめっき液のリークを検出可能に構成されている、基板ホルダ。
【請求項14】
請求項1から8の何れかに記載の基板ホルダにおいて、
前記基板ホルダは、前記基板を水平方向の姿勢で保持する横型めっきモジュール用、又は、前記基板を鉛直方向の姿勢で保持する縦型めっきモジュール用である、基板ホルダ。
【請求項15】
めっき装置であって、
請求項1から8の何れかに記載の基板ホルダと、
前記基板ホルダの前記内部空間に液体を供給する液体供給モジュールと、
前記基板ホルダに保持された前記基板をめっき液に接触させて前記基板をめっきするめっきモジュールと、
を備えるめっき装置。
【請求項16】
請求項15に記載のめっき装置において、
前記液体供給モジュールは、前記基板ホルダの前記内部空間を洗浄し、前記内部空間内の前記液体を置換する洗浄ノズルを有する、めっき装置。
【請求項17】
請求項15に記載のめっき装置において、
前記基板をプリウェット処理するプリウェットモジュールを更に備え、
前記めっきモジュールは、濡れた状態の前記基板を前記基板ホルダに保持させる、めっき装置。
【請求項18】
基板をめっきするための方法であって、
前記基板の表面に形成されたシード層に接触して給電するためのコンタクトに対して高電位側にバイアスされるか、又は、前記基
板のシード層よりも低い自然電位を有する材料を有し前記シード層に直接又は導電体を介して電気的に接続される保護電極を備える基板ホルダを準備すること、
前記基板の外周部を外部からシールした状態で収容する前記基板ホルダの内部空間に液体を導入し、前記内部空間において、前記液体で、前記保護電極の一部、並びに、前記基板ホルダのコンタクトと前記基板のシード層との接触箇所を少なくとも覆うこと、
前記基板ホルダの前記内部空間に液体が導入された状態で、前記基板ホルダに保持された前記基板をめっきすること、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板ホルダ、めっき装置、及びめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解めっきにおいて、何らかの不具合(基板の凹凸、シールの劣化等)によって、基板ホルダ内へのめっき液のリークが発生すると、ホルダ内部へ侵入しためっき液により、シード層が腐食及び/又は溶解し、導通不良が発生することにより、めっきの均一性が低下する場合がある。
【0003】
米国特許第7727366号明細書(特許文献1)及び米国特許第8168057号明細書(特許文献2)には、基板のシールの片側を流体で加圧し、シールの反対側からの流体の侵入を防止することが記載されている。特開2020-117763号公報(特許文献3)及び特開2020-117765号公報(特許文献4)には、基板の外周部をシールして収容する内部空間に液体を注入し、内部空間へのめっき液の侵入を防止することにより、基板の外周部及び接触部材へのめっきの析出を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第7727366号明細書
【文献】米国特許第8168057号明細書
【文献】特開2020-117763号公報
【文献】特開2020-117765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献に記載の技術のような対策を講じても、基板の凹凸、シールの劣化の程度によっては、めっき液が内部空間に侵入する可能性があるが、上記特許文献には、めっき液が内部空間に侵入した場合における有効な対策は何ら記載されていない。また、基板ホルダのコンタクトと基板のシード層を局所的に液体(純水等)で覆って基板をめっきするウェットコンタクト法では、めっき液が内部空間に侵入しない場合にも、液体中の溶存酸素濃度勾配に起因する局部電池作用により、シード層が腐食するおそれがある。
【0006】
本発明の目的の1つは、基板のシード層の劣化を抑制する技術を提供することにある。
また、本発明の目的の1つは、基板ホルダのシールされた空間にめっき液が侵入した場合にも、めっき膜厚の均一性が低下することを抑制することにある。
また、本発明の目的の1つは、基板ホルダのシールされた空間にめっき液が侵入したことを早期に発見することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によれば、 基板を保持し、基板をめっき液に接触させてめっきするための基板ホルダであって、 前記基板の表面に形成されたシード層に接触して給電するためのコンタクトと、 前記コンタクトに対して高電位側にバイアスされるか、又は、前記シード層よりも低い自然電位を有する材料を有し前記シード層に直接又は導電体を介して電気的に接続される保護電極と、 前記基板ホルダで前記基板が保持された状態において、前記基板の外周部、前記コンタクト、及び前記保護電極を、前記基板ホルダの外部からシールした状態で収容すると共に、前記保護電極の一部、並びに前記シード層と前記コンタクトとの接触箇所を少なくとも覆う液体を保持する内部空間を有するホルダ本体と、を
備える、基板ホルダが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係るめっき装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係るめっき装置の全体構成を示す平面図である。
【
図3】一実施形態に係るめっき装置のめっきモジュールの構成を説明するための模式図である。
【
図4】一実施形態に係る基板ホルダの一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図5】めっき装置の制御方法の流れを説明する説明図である。
【
図6】めっき装置の制御方法の流れを説明する説明図である。
【
図7】一例に係る保護電極を有する基板ホルダの一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図8】一例に係る保護電極を有する基板ホルダの第2保持部材の平面図である。
【
図9】他の例に係る保護電極を有する基板ホルダの一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図10】他の例に係る保護電極を有する基板ホルダの第2保持部材の平面図である。
【
図11】保護電極によるシード層の腐食防止の原理を説明する説明図である。
【
図12】通電試験モデルの構成を示す模式図である。
【
図14】通電試験モデルの一部を拡大した写真である。
【
図15】保護電極を設けた場合の通電試験の結果を示す写真である。
【
図16】保護電極を設けなかった場合の通電試験の結果を示す写真である。
【
図17】第2実施形態に係るめっき装置のめっきモジュールの構成を説明するための模式図である。
【
図18】縦型めっきモジュールの基板ホルダの内部空間において、不溶解性又は溶解性の保護電極をコンタクトに対して高電位側にバイアスした構成を示す
【
図19】縦型めっきモジュールの基板ホルダの内部空間において、溶解性の保護電極をコンタクトに接続した構成を示す。
【
図20】溶存酸素濃度によるシード層の溶解を説明する説明図である。
【
図21】シャント電流によるシード層の溶解を説明する説明図である。
【
図22】シャント電流を説明する等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るめっき装置1000及びめっき方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面は、物の特徴の理解を容易にするために模式的に図示されており、各構成要素の寸法比率等は実際のものと同じであるとは限らない。また、いくつかの図面には、参考用として、X-Y-Zの直交座標が図示されている。この直交座標のうち、Z方向は上方に相当し、-Z方向は下方(重力が作用する方向)に相当する。
【0010】
本明細書において「基板」には、半導体基板、ガラス基板、液晶基板、プリント回路基板だけでなく、磁気記録媒体、磁気記録センサ、ミラー、光学素子、微小機械素子、あるいは部分的に製作された集積回路、その他任意の被処理対象物を含む。基板は、多角形、円形を含む任意の形状のものを含む。また、本明細書において「前面」、「後面」、「上面」、「下面」、「フロント」、「バック」、「上」、「下」、「左」、「右」等の表現を用いる場合があるが、これらは、説明の都合上、例示の図面の紙面上における位置、方向を示すものであり、装置使用時等の実際の配置では異なる場合がある。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のめっき装置1000の全体構成を示す斜視図である。
図2は、本実施形態のめっき装置1000の全体構成を示す平面図である。
図1及び
図2に示すよう
に、めっき装置1000は、ロードポート100、搬送ロボット110、アライナ120、プリウェットモジュール200、プリソークモジュール300、めっきモジュール400、洗浄モジュール500、スピンリンスドライヤ600、搬送装置700、及び、制御モジュール800を備える。
【0012】
ロードポート100は、めっき装置1000に図示していないFOUPなどのカセットに収容されたウェハ(基板)を搬入したり、めっき装置1000からカセットに基板を搬出するためのモジュールである。本実施形態では4台のロードポート100が水平方向に並べて配置されているが、ロードポート100の数及び配置は任意である。搬送ロボット110は、基板を搬送するためのロボットであり、ロードポート100、アライナ120、及び搬送装置700の間で基板を受け渡すように構成される。搬送ロボット110及び搬送装置700は、搬送ロボット110と搬送装置700との間で基板を受け渡す際には、仮置き台(図示せず)を介して基板の受け渡しを行うことができる。
【0013】
アライナ120は、基板のオリエンテーションフラットやノッチなどの位置を所定の方向に合わせるためのモジュールである。本実施形態では2台のアライナ120が水平方向に並べて配置されているが、アライナ120の数及び配置は任意である。プリウェットモジュール200は、めっき処理前の基板の被めっき面を純水または脱気水などの処理液で濡らすことで、基板表面に形成されたパターン内部の空気を処理液に置換する。プリウェットモジュール200は、めっき時にパターン内部の処理液をめっき液に置換することでパターン内部にめっき液を供給しやすくするプリウェット処理を施すように構成される。本実施形態では2台のプリウェットモジュール200が上下方向に並べて配置されているが、プリウェットモジュール200の数及び配置は任意である。
【0014】
プリソークモジュール300は、例えばめっき処理前の基板の被めっき面に形成したシード層表面等に存在する電気抵抗の大きい酸化膜を硫酸や塩酸等の処理液でエッチング除去してめっき下地表面を洗浄または活性化するプリソーク処理を施すように構成される。本実施形態では2台のプリソークモジュール300が上下方向に並べて配置されているが、プリソークモジュール300の数及び配置は任意である。めっきモジュール400は、基板にめっき処理を施す。本実施形態では、上下方向に3台かつ水平方向に4台並べて配置された12台のめっきモジュール400のセットが2つあり、合計24台のめっきモジュール400が設けられているが、めっきモジュール400の数及び配置は任意である。
【0015】
洗浄モジュール500は、めっき処理後の基板に残るめっき液等を除去するために基板に洗浄処理を施すように構成される。本実施形態では2台の洗浄モジュール500が上下方向に並べて配置されているが、洗浄モジュール500の数及び配置は任意である。スピンリンスドライヤ600は、洗浄処理後の基板を高速回転させて乾燥させるためのモジュールである。本実施形態では2台のスピンリンスドライヤ600が上下方向に並べて配置されているが、スピンリンスドライヤ600の数及び配置は任意である。搬送装置700は、めっき装置1000内の複数のモジュール間で基板を搬送するための装置である。制御モジュール800は、めっき装置1000の複数のモジュールを制御するように構成され、例えばオペレータとの間の入出力インターフェースを備える一般的なコンピュータまたは専用コンピュータから構成することができる。
【0016】
めっき装置1000による一連のめっき処理の一例を説明する。まず、ロードポート100にカセットに収容された基板が搬入される。続いて、搬送ロボット110は、ロードポート100のカセットから基板を取り出し、アライナ120に基板を搬送する。アライナ120は、基板のオリエンテーションフラットやノッチなどの位置を所定の方向に合わせる。搬送ロボット110は、アライナ120で方向を合わせた基板を搬送装置700へ受け渡す。
【0017】
搬送装置700は、搬送ロボット110から受け取った基板をプリウェットモジュール200へ搬送する。プリウェットモジュール200は、基板にプリウェット処理を施す。搬送装置700は、プリウェット処理が施された基板をプリソークモジュール300へ搬送する。プリソークモジュール300は、基板にプリソーク処理を施す。搬送装置700は、プリソーク処理が施された基板をめっきモジュール400へ搬送する。めっきモジュール400は、基板にめっき処理を施す。
【0018】
搬送装置700は、めっき処理が施された基板を洗浄モジュール500へ搬送する。洗浄モジュール500は、基板に洗浄処理を施す。搬送装置700は、洗浄処理が施された基板をスピンリンスドライヤ600へ搬送する。スピンリンスドライヤ600は、基板に乾燥処理を施す。搬送装置700は、乾燥処理が施された基板を搬送ロボット110へ受け渡す。搬送ロボット110は、搬送装置700から受け取った基板をロードポート100のカセットへ搬送する。最後に、ロードポート100から基板を収容したカセットが搬出される。
【0019】
なお、
図1や
図2で説明しためっき装置1000の構成は、一例に過ぎず、めっき装置1000の構成は、
図1や
図2の構成に限定されるものではない。
【0020】
(めっきモジュールの構成)
続いて、めっきモジュール400について説明する。なお、本実施形態に係るめっき装置1000が有する複数のめっきモジュール400は同様の構成を有しているので、1つのめっきモジュール400について説明する。
【0021】
図3は、本実施形態に係るめっき装置1000のめっきモジュール400の構成を説明するための模式図である。本実施形態に係るめっき装置1000及びめっきモジュール400は、フェースダウン式、カップ式、又は横型と称されるタイプのめっき装置及びめっきモジュールである。本実施形態に係るめっき装置1000のめっきモジュール400は、主として、めっき槽10と、めっきヘッドとも称される基板ホルダ30と、回転機構40と、傾斜機構45と、昇降機構46と、を備えている。但し、傾斜機構45は省略されてもよい。
【0022】
本実施形態に係るめっき槽10は、上方に開口を有する有底の容器によって構成されている。めっき槽10は、底壁と、この底壁の外周縁から上方に延在する外周壁とを有しており、この外周壁の上部が開口している。めっき槽10の内部には、めっき液Psが貯留されている。本実施形態では、めっき槽10は、円筒形状を有している。
【0023】
めっき液Psとしては、めっき皮膜を構成する金属元素のイオンを含む溶液であればよく、その具体例は特に限定されるものではない。本実施形態においては、めっき処理の一例として、銅めっき処理を用いており、めっき液Psの一例として、硫酸銅溶液を用いている。また、本実施形態において、めっき液Psには所定の添加剤が含まれている。但し、この構成に限定されるものではなく、めっき液Psは添加剤を含んでいない構成とすることもできる。
【0024】
めっき槽10の内部には、アノード16が配置されている。アノード16の具体的な種類は特に限定されるものではなく、溶解アノードや不溶解アノードを用いることができる。本実施形態においては、アノード16として不溶解アノードを用いている。この不溶解アノードの具体的な種類は特に限定されるものではなく、白金や酸化イリジウム等を用いることができる。
【0025】
めっき槽10の外側には、有底の容器によって構成されるオーバーフロー槽20が設けられている。オーバーフロー槽20は、めっき槽10の上端を超えためっき液Psを一時的に貯留する。一例では、オーバーフロー槽20のめっき液Psは、オーバーフロー槽20用の排出口(図示せず)から排出されて、リザーバータンク(図示せず)に一時的に貯留された後に、再び、めっき槽10に戻される。
【0026】
めっき槽10の内部におけるアノード16よりも上方には、多孔質の抵抗体17が配置されている。具体的には、抵抗体17は、複数の孔(細孔)を有する多孔質の板部材によって構成されている。抵抗体17よりも下方側のめっき液Psは、抵抗体17を通過して、抵抗体17よりも上方側に流動することができる。この抵抗体17は、アノード16と基板Wfとの間に形成される電場の均一化を図るために設けられている部材である。このような抵抗体17がめっき槽10に配置されることで、基板Wfに形成されるめっき皮膜(めっき層)の膜厚の均一化を容易に図ることができる。なお、抵抗体17は本実施形態において必須の構成ではなく、本実施形態は抵抗体17を備えていない構成とすることもできる。
【0027】
基板ホルダ30は、カソードとしての基板Wfを保持する部材である。具体的には、基板ホルダ30は、アノード16よりも上方(本実施形態では、さらに抵抗体17よりも上方)に配置されている。基板ホルダ30は、基板Wfの下面Wfaがアノード16や抵抗体17に対向するように基板Wfを保持している。なお、基板Wfの下面Wfaは、被めっき面に相当する。
【0028】
本実施形態に係る基板ホルダ30は、第1保持部材31と、第2保持部材32と、コンタクト50と、シール部材55と、を備えている。第1保持部材31及び第2保持部材32を合わせてホルダ本体と称する場合がある。基板ホルダ30は、第1保持部材31及び第2保持部材32によって基板Wfを挟持するように、基板Wfを保持している。第1保持部材31は、基板Wfの上面を保持している。第2保持部材32は、基板Wfの下面Wfaの外周部を保持し、基板Wfの被めっき面を露出する開口を有している。具体的には、本実施形態に係る第2保持部材32は、シール部材55を介して、基板Wfの下面Wfaの外周部を保持している。基板ホルダ30が基板Wfを保持する際、シール部材55が基板Wfに密着し、コンタクト50及び基板Wfのコンタクト領域(基板外周部のコンタクト50と接触する領域)をめっき液から保護するシール空間(内部空間)33が形成される。
【0029】
基板ホルダ30は、回転機構40の回転軸41に接続されている。回転機構40は、基板ホルダ30を回転させるための機構である。回転機構40としては、モータ等の公知の機構を用いることができる。傾斜機構45は、回転機構40及び基板ホルダ30を傾斜させるための機構である。傾斜機構45としては、ピストン・シリンダ等の公知の傾斜機構を用いることができる。昇降機構46は、上下方向に延在する支軸47によって支持されている。昇降機構46は、基板ホルダ30、回転機構40、及び、傾斜機構45を上下方向に昇降させるための機構である。昇降機構46としては、直動式のアクチュエータ等の公知の昇降機構を用いることができる。
【0030】
基板ホルダ30のコンタクト50は、基板ホルダ30内の配線(バスバー等)を介して、直流電源90の負極に接続されており、アノード16は、配線を介して直流電源90の正極に接続されている。直流電源90により、基板Wfとアノード16との間に、めっき液Psを介して、めっき電流として直流電流又はパルス電流が流される。直流電源90は、定電流駆動される電源である。
【0031】
めっき処理を実行する際には、回転機構40が基板ホルダ30を回転させるとともに、
昇降機構46が基板ホルダ30を下方に移動させて、基板Wfをめっき槽10のめっき液Psに浸漬させる。また、このように、基板Wfをめっき液Psに浸漬させる際、傾斜機構45は必要に応じて基板ホルダ30を傾斜させてもよい。次いで、直流電源90によって、アノード16と基板Wfとの間にめっき液Psを介して電気を流す。これにより、基板Wfの下面Wfaに、めっき皮膜が形成される。
【0032】
めっきモジュール400の動作は、制御モジュール800によって制御される。制御モジュール800は、マイクロコンピュータを備えており、このマイクロコンピュータは、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)801や、非一時的な記憶媒体としての記憶部802、等を備えている。制御モジュール800は、記憶部802に記憶されたプログラムの指令に基づいてCPU801が動作することで、めっきモジュール400の被制御部を制御する。プログラムは、例えば、搬送ロボット、搬送装置の搬送制御、各処理モジュールにおける処理の制御、めっきモジュールにおけるめっき処理の制御、洗浄処理の制御を実行するプログラム、各種機器の異常を検出するプログラムを含む。記憶媒体は、不揮発性及び/又は揮発性の記憶媒体を含むことが可能である。記憶媒体としては、例えば、コンピュータで読み取り可能なROM、RAM、フラッシュメモリなどのメモリや、ハードディスク、CD-ROM、DVD-ROMやフレキシブルディスクなどのディスク状記憶媒体などの公知のものが使用され得る。制御モジュール800は、めっき装置及びその他の関連装置を統括制御する図示しない上位コントローラと通信可能に構成され、上位コントローラが有するデータベースとの間でデータのやり取りをすることができる。制御モジュール800の一部又は全部の機能は、ASIC等のハードウェアで構成することができる。制御モジュール800の一部又は全部の機能は、PLC、シーケンサ等で構成してもよい。制御モジュール800の一部又は全部は、めっき装置の筐体の内部及び/又は外部に配置することができる。制御モジュール800の一部又は全部は、有線及び/又は無線によりめっき装置の各部と通信可能に接続される。
【0033】
(基板ホルダ)
図4は、基板ホルダ30の一部(
図3のA1部分)を拡大して模式的に示す断面図である。
図3及び
図4を参照して、本実施形態に係る基板ホルダ30には、基板Wfの下面Wfaの外周部のコンタクト領域に接触して基板Wfに電気を給電するコンタクト50が配置されている。具体的には、本実施形態に係るコンタクト50は、基板ホルダ30の第2保持部材32に配置されている。本実施形態に係るコンタクト50は、基板ホルダ30の周方向(具体的には第2保持部材32の周方向)に、複数配置されている。各コンタクト50は、複数(例えば4つ)のフィンガーと称される板状電極を備えている。複数のコンタクト50は、基板ホルダ30の周方向に、均等に配置されている。なお、複数のコンタクト50の数は特に限定されるものではないが、本実施形態では、一例として、12個である。複数のコンタクト50は、直流電源90(
図3)と電気的に接続されており、直流電源90から供給された電気を基板Wf(より詳細には、基板Wfの下面Waに形成されたシード層Sd)に給電する。
【0034】
本実施形態に係るめっきモジュール400は、
図3及び
図4に示すように、めっき槽10のめっき液Psがコンタクト50に接触することを抑制するためのシール部材55を備えている。シール部材55は、基板側に向かって突出するように設けられたリップ部55Aを有し、リップ部55Aが、基板Wfの下面Wfaに接触する。具体的には、本実施形態に係るシール部材55のリップ部55Aは、コンタクト50よりも内側(基板ホルダ30の径方向で内側)に配置されており、基板ホルダ30に基板Wfが保持された際に、基板ホルダ30の第2保持部材32と基板Wfの下面Wfaとの間に挟持される。この例では、リップ部55Aは、シール部材55の径方向内側の端部付近に設けられている。シール部材55は、例えば、基板Wfの外周部に沿うようにリング形状を有している。めっき
モジュール400がこのようなシール部材55を備えることで、基板Wfがめっき液Psに浸漬された場合に、めっき液Psがコンタクト50に接触することが効果的に抑制される。
【0035】
図4に示すように、基板ホルダ30の第2保持部材32は、外周壁32Aと、外周壁32Aの下端付近で径方向内側に突出する基板受部32Bとを備えている。シール部材55は、基板受け部32に設けられている。第2保持部材32は、シール部材55を保持する部材であるため、シールリングホルダ(SRH)とも称される。なお、第2保持部材32は、複数の部材を組み立てた構成としてもよい。例えば、外周壁32と基板受け部32Bとが別体で設けられ、互いに結合されてもよい。リップ部55Aは、基板Wfに接触して、
図3に示すように、基板ホルダ30内にシール空間(内部空間)33を形成し、コンタクト50と基板Wf(後述するコンタクト領域のシード層Sd)との接触箇所をめっき液Psから遮蔽/保護する。
【0036】
本実施形態では、
図4に示すように、コンタクト50の基板Wfと接触する接触部分(この例では先端部)を、液体60で覆った状態で、基板Wfにめっき処理を実施することを特徴とする。液体60は、純水、脱気水、その他の液体(プリウェット、プリソーク、洗浄等の処理に使用される液体)とすることができる。具体的には、めっき処理後に、コンタクト50を装置から外すことなく純水をかけることができる洗浄ノズル71(
図6参照)と、洗浄排液を受ける液受トレー72とを設け、液受トレー72、及び/又は洗浄排液を排出する洗浄配管73内に、洗浄排液の電気伝導度(電導度)を測定する電導度計74を配置し、コンタクト50の洗浄度を洗浄排液の電導度から測定する。電導度が実験等で決めた所定の閾値を下回った時に洗浄ノズル71からの洗浄液の供給を止める。これにより、コンタクト50と基板Wf(シード層Sd)の接触箇所を、所定の閾値未満に電導度が管理された液体60で覆うことができる。液体60の電導度は、内部空間33内の導電部材間に液体60を介して電流が流れない電気的絶縁性能に対応するものとする。但し、後述する保護電極を用いる場合には、シード層、コンタクト等の導電部材と保護電極との間で防食電流が流れることを許容する程度の電導度であってもよい。
図4に示すように、基板Wfをシールリングホルダに設置していない場合であっても、常にコンタクト50の先端が液体60で覆われていることが好ましい。これによって、コンタクトを繰り返し使用することでシード層Sd由来の金属がコンタクト先端へ付着した場合であっても、後述する保護電極によってコンタクト先端が保護電極に対して常に低電位側にバイアスされることで、コンタクト先端に付着した金属が酸化されるのを抑制でき、コンタクト抵抗を長期間にわたって安定化させることができる。
【0037】
めっき処理時には、コンタクト50と基板Wfとの接触箇所が、所定の閾値未満の電導度の液体60(例えば、純水)で覆われた状態で、コンタクト50と基板Wfとの間に電流を流す。本実施形態では、基板受部32Bに、コンタクト50の基板Wfと接触する接触部分を被覆するための液体60を保持することができる。また、本実施形態では、シール部材55(
図4の例ではリップ部55A)が液体60が径方向内方に垂れるのを抑制又は防止する役割を果たす。また、基板受部32Bの外周側では、外周壁32Aが液体60の移動を規制する役割を果たす。従って、基板ホルダ30の基板受部32B、シール部材55、及び外周壁32Aが液体60を保持する容器部/貯留部を構成するということもできる(但し、液体60が外周壁32Aに接触しなくてもよい)。即ち、基板ホルダ30は、内部空間33において液体60を保持する容器部/貯留部を有する。
【0038】
出願人による実験において、本実施形態の構成では、洗浄ノズル71からの純水供給は13mL以上とし、その間に少なくとも基板ホルダ30を1周回転させ、コンタクト50に均一に純水が供給されるようにした。13mLの液量は、コンタクト50の1フィンガーの基板Wf(シード層Sd)との接触箇所が完全に濡れるために必要な純水の液量をコ
ンタクト12個分(基板Wf1周分)足し合わせた値であり、言い換えれば、基板ホルダ30の全てのコンタクト50の基板Wfとの接触箇所が完全に濡れるために必要な純水の液量である。出願人による実験により、液体(被覆液)60の電導度を50μS/cm以下とすると、基板Wfのシード層Sdへのダメージがないことが分かった(国際特許出願番号第2021/038404号参照)。即ち、コンタクト50の洗浄後、コンタクト50に付着した液体(例えば、純水)を振り切ることなく、電導度が所定の閾値以下で管理された洗浄液をそのまま次の基板処理用のコンタクト・基板接触箇所の被覆液(被覆水)として使用することを特徴とする。これにより、コンタクトを乾燥させる手間を省くことができ、かつコンタクト50及び基板Wfが中途半端に濡れた状態でめっき処理されることを防止することができる。
また、出願人による別の実験では、後述するシード層腐食防止用の保護電極を設ける場合には、液体60の電導度を1000μS/cm以下の範囲で上昇させても、基板Wfのシード層Sdへのダメージがないことが分かった。従って、後述する保護電極を設けることにより、被覆液の電導度の管理を大幅に緩めることができる。また、めっき前のデスカム処理等の影響により、シード層表面が厚い酸化膜で覆われているような、ある特定の基板を使用した場合には、電導度が50μS/cm以下であっても通常よりも腐食が進行する場合があることがわかった。これは、コンタクト50をシード層Sdに接触させる際、コンタクトを一定以上の力で押し付けることで、シード層表面の酸化膜及びシード層の一部を削り取り、金属表面を露出させることでコンタクト抵抗を小さくしているが、シード層表面が厚い酸化膜で覆われている場合、金属表面が露出したコンタクト近傍のみに腐食部位が集中することで、通常よりも腐食が進行すると考えられる。このような場合であっても、後述する保護電極を設けることにより、腐食を効果的に抑制することができる。
後述する保護電極を用いる場合には、液体60の電導度の範囲が大幅に緩和されるので、電導度計等を用いた液体60の電導度の管理を省略してもよい。
【0039】
また、本実施形態では、プリウェット処理等の前処理で濡らした基板Wfのコンタクト領域(コンタクト50と接触する領域)をめっき終了まで乾燥させない。これにより、以下の不都合を抑制又は防止することができる。前処理で濡らした基板のコンタクト領域を乾燥させると、周囲のパターン開口内まで水が抜け、めっき中にパターン開口内に気泡が残ってこの部分がめっきされない異常が発生する虞があり、また、中途半端に乾燥した基板のコンタクト領域のシード層表面が酸化し導通不良が発生する虞がある。また、基板のシード層とコンタクトの接触箇所が中途半端に濡れていると、溶存酸素に起因する局部電池作用及び/又はシャント電流(コンタクト50と基板Wfのシード層Sdとの接触箇所以外でコンタクト50とシード層Sdの間に液体を介して流れる分流)によりシード層Sdが溶解し、給電ばらつきを生じ、めっき膜厚の面内均一性を低下させる虞がある。
【0040】
(シード層腐食の原理)
図20は、溶存酸素に起因する局部電池効果によるシード層の溶解を説明する説明図である。空気で満たされたシール空間33(
図3)において液体Qにめっき液が混入する場合を考える。このとき、同図に示すように、空気中の酸素O
2が液体Qに溶け込み、シード層SdのCuがO
2に電子を渡し、O
2がOH
-となると共に、CuがCu
2+となって液体Qに溶け出す局部電池の作用が発生し、シード層Sdが溶解する。この反応により、シード層SdからCuが溶け出してシード層Sdが薄くなってシード層Sdの電気抵抗が増加し、給電ばらつきを生じる可能性がある。この現象は、気液界面がシード層Sdから近いことに起因する。また、局部電池作用によるシード層Sdの腐食によりシード層Sdの抵抗値が高くなると、後述するシャント電流によるシード層Sdの溶解も発生し易くなり、シード層Sdの溶解が更に進むことになる。
【0041】
図21は、シャント電流によるシード層の溶解を説明する説明図である。
図22は、シャント電流を説明する等価回路図である。図中、I
totalは、コンタクトに流れる電
流の総和であり、I
cwはシード層とコンタクトの接触箇所を介して流れる電流であり、I
shuntはシャント電流である。R
contactは、コンタクト50とシード層Sdとの間の接触抵抗であり、R
waferはシード層Sdの電気抵抗であり、R
dissolutionはシャント電流経路のシード層側の溶解箇所における電気抵抗であり、R
depositionはシャント電流経路のコンタクト側の析出箇所における電気抵抗であり、R
electrolyteはめっき液の電気抵抗を示す。
【0042】
シール空間33内でコンタクト50とシード層Sdとの接触箇所が電導度の高い液体Q(例えば、めっき液又はめっき液が混入した液体)で覆われる場合、シード層Sdの電気抵抗Rwafer、及び/又はコンタクト50とシード層Sdとの間の接触抵抗Rcontactが高いと、液体Q中のイオン電導と、シード層Sd表面及びコンタクト50の表面での酸化還元反応により、シード層Sdから液体Qを介してコンタクト50に流れるシャント電流Ishunt(接触箇所を通る電流Icwの分流)が発生する。シャント電流Ishuntは、シード層Sdの表面で、CuがCu2+となり液体Q中に溶けだし、液体Q中のCu2+がコンタクト50の表面でCuとなることにより流れる。従って、シャント電流が発生すると、シード層SdのCuが溶解してシード層Sdが薄くなってシード層Sdの電気抵抗が増加し、給電ばらつきが生じる可能性がある。このシャント電流は、上述した局部電池作用により局部的にシード層Sdの抵抗値が増大した場合にも発生する。
【0043】
前述したように、50μS/cm以下の電導度の液体でコンタクト-シード層間の接触箇所を覆うことで、局部電池作用及び/又はシャント電流によるシード層の腐食(溶解)を効果的に抑制することができる。また、保護電極(後述)を用いることで、コンタクト-シード層間の接触箇所を覆う被覆液体の電導度を1000μS/cmまで増加させても、局部電池作用及び/又はシャント電流によるシード層の腐食(溶解)を効果的に抑制することができる。
【0044】
図5、
図6は、めっき装置の制御方法の流れを説明する説明図である。これらの図を参照しつつ、本実施形態に係るめっき装置の制御方法を説明する。
【0045】
ステップS11では、プリウェットモジュール200において、被めっき面にシード層Sdが設けられた基板Wfにプリウェット処理を実施する。プリウェット処理では、めっき処理前の基板の被めっき面を純水または脱気水などの処理液Lp1で濡らすことで、基板表面に形成されたレジストパターンRp内部の空気を処理液Lp1に置換する。プリウェット処理後の基板Wfは処理液Lp1で濡れており、基板Wfの表面のレジストパターンRpの開口内は処理液Lp1で満たされる(
図5)。
【0046】
ステップS12では、プリソークモジュール300において、基板Wfにプリソーク処理を実施する。なお、プリソーク処理は、省略される場合もある。プリソーク処理では、例えばめっき処理前の基板Wfの被めっき面に形成したシード層Sd表面等に存在する電気抵抗の大きい酸化膜を硫酸や塩酸等の処理液Lp2でエッチング除去してめっき下地表面を洗浄または活性化する。なお、プリソーク処理後に、基板Wfを純水又は脱気水などの処理液Lp3で洗浄してもよい。プリソーク処理後の基板Wfは処理液Lp2(又はLp3)で濡れており、基板Wfの表面のレジストパターンRpの開口内は処理液Lp2(又はLp3)で満たされる(
図5)。以下の説明では、処理液Lp1、Lp2、Lp3を総称して、処理液Lpと称する場合がある。
【0047】
ステップS13では、めっきモジュール400に搬送された基板Wfを、めっきヘッドとも称される基板ホルダ30に取り付ける。このとき、
図5に示すように、基板Wfは処理液Lp(Lp1、Lp2、又はLp3)で濡れている。基板ホルダ30のコンタクト5
0の接触部51は、後述するステップS15及び/又はS17の洗浄処理で供給された液体60の被覆液で覆われているものとする。なお、コンタクト50の接触部51とは、コンタクト50が基板Wfのシード層Sdに接触する部分(この例ではコンタクト50の先端部)を示す。
【0048】
ステップS14では、基板ホルダ30に保持された基板Wfをめっき槽10内のめっき液Psに浸漬させ、基板Wfにめっき処理を施す。なお、
図5のステップS14では、基板WfのレジストパターンRpは省略している。このとき、基板ホルダ30のコンタクト50と基板Wfとの接触箇所、並びに、保護電極(後述)の一部が、液体60で被覆される。
【0049】
ステップS15では、めっき処理後に基板ホルダ30をめっき槽10のめっき液Psの液面上方に上昇させ、洗浄液ノズル61から供給される洗浄液により基板Wfの被めっき面を洗浄液で洗浄する(
図6)。このとき、基板ホルダ30及び/又は洗浄液ノズル61を回転させ、洗浄液が基板Wfに均一にかかるようにしてもよい。この洗浄処理により、基板Wfに付着しているめっき液を回収し、適宜再利用することができる、及び/又は基板Wfの被めっき面を濡らすことにより被めっき面が乾燥するのを防止することができる。洗浄液は、例えば、純水、脱気水、その他の液体(プリウェット、プリソーク、洗浄等の処理に使用される液体)とすることができる。洗浄に使用された後の洗浄液は、基板Wfの下方に配置された液受トレー62に回収され、排液配管63を介して排出される。液受トレー62及び/又は排液配管63に電導度計64を設け、回収された洗浄液(純水)の電導度を測定するようにしてもよい。また、回収された洗浄液を濃度調整した後又は濃度調整せずに、めっき槽10に戻して再利用するようにしてもよい。洗浄ノズル61及び液受トレー62は、例えば、基板ホルダ30が上昇されたときに、基板ホルダ30の下方に移動し、及び、洗浄処理後に基板ホルダ30の下方から退避できる構成とすることができる。
【0050】
ステップS16では、基板ホルダ30から基板Wfを取り外す。取り外した基板Wffは、洗浄モジュール500、スピンリンスドライヤ600に順に搬送され、洗浄処理及び乾燥処理を施された後、ロードポート100のカセットに搬送される(ステップS18)。
【0051】
ステップS17では、基板Wfを取り外した後の基板ホルダ30のコンタクト50及びシール部材55を洗浄ノズル71から供給される所定量の洗浄液60により洗浄する。このとき、基板ホルダ30を少なくとも1周回転させ、コンタクト50に均一に純水が供給されるようにする。なお、コンタクト50に少なくとも1回純水が供給されれば、洗浄ノズル71を回転させてもよいし、基板ホルダ30及び洗浄ノズル71の両方を回転させてもよい。本実施形態では、基板Wf側と基板ホルダ30側との両方を濡らしておくことで、コンタクト50と基板シードSdとの接点部分を十分な量の水で被覆することを担保できる。洗浄液60は、例えば純水、脱気水、その他の液体(プリウェット、プリソーク、洗浄等の処理に使用される液体)とすることができる。洗浄に使用された後の洗浄液60は、基板Wfの下方に配置された液受トレー72に回収され、排液配管73を介して排出される。液受トレー72及び/又は排液配管73には電導度計74が設けられており、回収された洗浄液(純水)の電導度が電導度計74により測定される。電導度計74で測定された電導度は、制御モジュール800に提供される。制御モジュール800は、測定された洗浄液の電導度が閾値未満か否かを判別する。制御モジュール800は、洗浄液の電導度が閾値以上であると判定する場合には、洗浄処理を継続する。一方、制御モジュール800は、洗浄液の電導度が閾値未満であると判定する場合には、ステップS13に戻り、次の基板Wfがめっきモジュール400に搬入されるのを待機し、次の基板Wfを基板ホルダ30に取り付ける。
【0052】
以上の処理を繰り返し、複数枚の基板Wfに順次めっき処理を施す。なお、最初の基板Wfをめっき処理する際、又は、前にめっき処理された基板Wfがめっきモジュール400から取り出された時点から一定時間経過している場合には、基板ホルダ30のコンタクト50の接触部51が乾燥している又は中途半端に乾燥している可能性がある。また、洗浄完了時から時間が経過していると、基板ホルダ上の洗浄液に大気中の二酸化炭素が徐々に溶解し電気伝導度が増大し、閾値を超えるおそれもある。このような場合には、基板Wfをめっき処理する前に、ステップS17の処理を実施して基板ホルダ30のコンタクト50の接触部51を液体60で覆い、その後、ステップS13で基板ホルダ30に濡れた基板Wfを取り付けるようにする。
【0053】
本実施形態では、
図6に示すように、基板受部32Bに、コンタクト50の基板Wfと接触する接触部分を被覆するための液体60を保持することができる。また、本実施形態では、シール部材55(リップ部55A)が、液体60が径方向内方に垂れるのを抑制又は防止する役割を果たす。また、基板受部32Bの外周側では、外周壁32Aが液体60の移動を規制する役割を果たす。従って、基板ホルダ30の基板受部32B、シール部材55、及び外周壁32Aが液体60を保持する容器部/貯留部を構成するということもできる(但し、液体60が外周壁23Aに接触しなくてもよい)。即ち、シール空間(内部空間)33は、液体60を保持する容器部/貯留部を備える。言い換えれば、ホルダ本体(第1保持部材31、第2保持部材32)は、液体60を保持する容器部/貯留部、又は、シール空間(内部空間)33を備える。
【0054】
(保護電極)
基板ホルダ30のシール空間33内で、少なくともコンタクト50とシード層Sdとの接触箇所を液体に浸した状態で、基板Wfのめっきを実施する(ウェットコンタクト法)では、前述したように、液体(例えば、純水)の電導度を50μS/cm以下に管理すれば、局部電池作用及びシャント電流を抑制して、シード層Sdの腐食を抑制又は防止できることが、実験により分かっている。本実施形態の構成では、更に、後述する保護電極(防食電極とも称す)を設けることにより、コンタクト50を覆う液体の電導度を1000μS/cm以下の範囲まで拡張しても、基板Wfのシード層Sdの腐食を抑制又は防止できることが分かった。即ち、ウェットコンタクト法において、シード層Sdの近傍に保護電極238A、238B(
図7、
図9)を液体に浸して配置することにより、液体の電導度がより高い場合(めっき液がシール空間に少量侵入した場合を含む)にも、シード層Sdの腐食を効果的に抑制することができる。
【0055】
(外部電源型)
図7は、一例に係る保護電極238Aを有する基板ホルダ30の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
図8は、一例に係る保護電極238Aを有する基板ホルダ30の第2保持部材32の平面図である。この例では、保護電極238Aをシード層Sdに対して高電位側にバイアスすることで、保護電極238Aをアノード、シード層Sdをカソードとして機能させて、シード層Sdの腐食を抑制する。同図では、コンタクト50は、基板ホルダ30内に配置されたバスバー49を介して給電される構成で示す。
【0056】
本実施形態では、保護電極238Aは、コンタクト50との間に絶縁用のスペーサ239を介して配置される。スペーサ239は、保護電極238Aとコンタクト50との間を電気的に絶縁するための構成である。保護電極238Aとコンタクト50との間の電気的絶縁が確保できるように両者を離間して配置すれば、スペーサ239を省略してもよいし、その他任意の手段で両者の電気的絶縁を確保してもよい。なお、基板ホルダ30の内部空間33という制限されたスペースで保護電極238Aとコンタクト50との間の電気的絶縁が確保するために、スペーサ239による分離は有効である。
【0057】
(外部電源型、不溶解性の保護電極)
保護電極238Aは、例えば、シード層Sdの材料よりも自然電位(標準電極電位)が貴な(高い)材料から形成される又はそのような材料でコーティングされた不溶解性の電極である。シード層Sdの材料よりも自然電位が貴な材料とは、液体60中にシード層Sd及び保護電極238Aが浸された状態で、シード層Sdよりもアノードになり難い(カソードになり易い)材料であることを意味する。また、保護電極238Aの材料は、高電位側にバイアスされたときに、電極反応により酸素が発生する際の酸素過電圧が大きすぎず、材料成分が溶出したり腐食したりすることのない、安定な材料であることが好ましい。保護電極238Aの材料は、酸素発生用の不溶解性電極として一般的に用いられる材料が使用でき、例えば、Pt、Pt/Ti、Pt/SUS、IrO2/Tiとすることができる。
【0058】
保護電極238Aは、シード層Sdの腐食抑制の観点から、腐食の可能性が高い基板Wfの外周部(エッジ部)のシード層Sd(コンタクト領域)の近傍に配置されることが好ましく、
図8に示すように、実質的に基板Wfのエッジ全周に対向する位置に設けられる。保護電極238Aと基板Wfのエッジとの間の距離は、例えば、10mm以下であることが好ましい。同図では、保護電極238Aは、基板Wfのエッジ全周(基板ホルダ30の全周)に亘って連続して形成されているが、コンタクト50の各ブロックに対応するように、分割されて設けられてもよい。なお、基板Wfの外周部(エッジ部)とは、例えば、基板Wfが基板ホルダ30で保持された際に、シール空間33内に配置される基板の部分である。
【0059】
保護電極238Aは、
図7に示すように、その少なくとも一部が液体60に接触又は浸漬されるように配置されている。また、保護電極238Aは、直流電源236の正極に接続され、コンタクト50(シード層Sd)は、バスバー49を介して直流電源236の負極に接続される。これにより、保護電極238Aをシード層Sdに対して高電位側にバイアスし、保護電極238Aをアノード、シード層Sdをカソードとして機能させることで、シード層SdにおいてCuの酸化反応を抑制し、シード層Sdの腐食(溶解)を抑制する。直流電源236は、定電圧駆動または定電流駆動されるバイアス用の電源であり、2V程度の電圧を保護電極238Aとシード層Sdとの間に印加できればよい。一例では、直流電源236は、1.5Vの乾電池を使用することができる。直流電源として、電解めっき装置等に一般的に用いられる安定化電源を用いることもできる。安定化電源に予め上限電圧値及び上限電流値を設定しておき、上限電流値以下では定電圧駆動をし、上限電流値に達した際に定電流駆動に切り替えることができる。これによって、めっき液のリーク等により、液体60の電導度が急激に上昇した際に、必要以上の電流が流れるのを防止することができる。シード層Sdに対する保護電極238Aの電圧は、シード層Sdと保護電極238Aの自然電位の差より十分大きい電圧であることが好ましい。例えば、硫酸銅めっき液(銅 50g/L、硫酸 100g/L、塩素 50mg/L)の0.1%希釈液(電導度 約1000μS/cm)中の銅と白金の自然電位の差は、約0.5Vであることから、シード層Sdの材質が銅であり、保護電極238Aの材質が白金である場合、0.5Vよりも十分大きい電圧を印加するのが好ましい。
【0060】
図11は、保護電極によるシード層の腐食防止の原理を説明する説明図である。不溶解性の保護電極238Aによる腐食防止のメカニズムは、以下の通りである。液体60中において、保護電極238Aの近傍では、2H
2O→O
2+4H
++4e(水の分解)の酸化反応が発生する。一方、液体60中において、シード層Sdの近傍では、O
2+4H
++4e→2H
2O(水の生成)、2H
++2e→H
2(水素の生成)、Cu
2++2e→Cu(液体60中にめっき液が混入した場合)の還元反応が生じる。このようにして、保護電極238Aによりシード層Sdの腐食が抑制又は防止される。
【0061】
即ち、液体60に溶存酸素濃度の勾配(
図20)が生じたとしても、保護電極238Aをアノード、シード層Sdをカソードとして機能させることで、シード層SdにおいてCuの酸化反応を抑制し、局部電池作用によるシード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0062】
また、内部空間33へのめっき液のリークにより液体60中にめっき液が混入したとしても、保護電極238Aをアノード、シード層Sdをカソードとして機能させることで、シード層SdにおいてCuの酸化反応を抑制し、局部電池作用(
図20)及びシャント電流(
図21)に起因するシード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。また、シード層Sd表面に酸化膜が存在する場合、十分に大きい電圧(例えば4V以上)を保護電極238A-コンタクト50間に印加することにより、酸化膜を金属へ還元することもできる。これにより、シード層表面が厚い酸化膜(例えば厚さ50nm)で覆われた特定の基板を用いた場合であっても、コンタクト抵抗を安定化できるとともに、コンタクト近傍にシード層の腐食が集中するのを防ぐことができるため、シード層の腐食を更に効果的に抑制できる。例えば、このような基板を用いる場合に、めっき前、あるいはめっき開始初期に大きい電圧を印加してシード層表面の酸化膜を還元し、その後、シード層の腐食を防止するのに十分な電圧に下げてめっき処理することもできる。また、シード層表面の酸化膜と同様に、コンタクト先端に酸化膜が存在する場合でも金属へ還元することができる。例えば、長期間の使用によりコンタクト先端にシード層由来の金属が付着し、酸化した場合に有効である。この操作は基板Wfが存在しない場合であっても実行できるため、めっき処理をしていないアイドリング時等に実施することができる。コンタクト先端の酸化膜を還元することで、酸化膜形成によって大きくなったコンタクト抵抗を改善させることができる。
【0063】
(外部電源型、溶解性の保護電極)
保護電極238Aの材料として、シード層Sdの材料と自然電位(標準電極電位)が同程度の材料を使用してもよい。この場合、直流電源236により保護電極238Aをシード層Sdに対して高電位側にバイアスすることにより、保護電極238Aをシード層Sdより優先して溶解させ、保護電極238Aを犠牲電極(溶解性の電極)として機能させる。保護電極238Aの材料は、例えば、シード層Sdと同じ材料とすることができる。保護電極238Aの材料は、めっき金属と同じ材料の導電体を用いることができ、例えば、溶解性アノードと同様に、含リン銅からなる電極を用いることができる。なお、保護電極238Aの材料として、シード層Sdよりも卑な(低い)自然電位を有する材料を使用してもよい。この場合、保護電極238Aがより溶解し易くなり、犠牲電極としての機能が向上すると考えられる。
【0064】
溶解性の保護電極238Aによる腐食防止のメカニズムは、以下の通りである。
図11に示すように、液体60中において、溶解性の保護電極238Aの近傍では、M→M
n++ne(例えば、Cu→Cu
n++ne)の酸化反応が発生する。一方、液体60中において、シード層Sdの近傍では、O
2+4H
++4e→2H
2O(水の生成)、2H
++2e→H
2(水素の生成)、Cu
2++2e→Cuの還元反応が生じる。このようにして、溶解性の保護電極238Aがシード層SdのCuに優先して溶解し、シード層Sdの腐食が抑制又は防止される。
【0065】
即ち、液体60に溶存酸素濃度の勾配(
図20)が生じたとしても、溶解性の保護電極238Aがシード層Sdに優先して溶解することにより、局部電池作用によるシード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止
し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0066】
また、内部空間33へのめっき液のリークにより液体60中にめっき液が混入したとしても、溶解性の保護電極238Aがシード層Sdに優先して溶解することにより、局部電池作用(
図20)及びシャント電流(
図21)に起因するシード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0067】
(リーク検知)
不溶解性及び溶解性の保護電極238Aの何れにおいても、直流電源236A内又は直流電源236Aからの配線上に電流検出器237を設けてよい。この状態で、制御モジュール800が、保護電極238Aと、コンタクト50(又はバスバー49)との間に流れる電流又はそれらの間の電気抵抗をモニタする。保護電極238Aとコンタクト50(又はバスバー49)との間に流れる電流は、内部空間33内の液体60を流れる電流に相当する。保護電極238Aとコンタクト50(バスバー49)との間の電気抵抗は、内部空間33内の液体60の電気抵抗に相当する。
【0068】
保護電極238Aへの直流電圧の印加、及び電流(電気抵抗)の検出は、制御モジュール800により制御される。制御モジュール800は、電流検出器237を介して保護電極238Aに流れる電流(内部空間33の液体60に流れる電流)を取得し、この電流に基づいて内部空間33へのめっき液のリークを検出する。これに代えて又は加えて、制御モジュール800は、保護電極238Aに流れる電流を取得し、保護電極238Aとコンタクト50(バスバー49)との間の電圧と、検出した電流とから、液体60の電気抵抗値を算出し、電気抵抗値に基づいてリークを検出する。
【0069】
内部空間33へのめっき液のリークが発生していない場合、内部空間33内の液体60の電気抵抗が極めて高いので、保護電極238Aとコンタクト50(バスバー49)との間に電流は流れない、又は、保護電極238Aからコンタクト50(バスバー49)へ水の分解・生成反応、水素の生成反応に伴う防食電流が流れるが、めっき液リーク時に流れる電流と比較すると非常に小さい。一方、リークが発生すると、液体60にめっき液が混入して液体60の電気抵抗が下がり、保護電極238Aとコンタクト50(バスバー49)との間に電流が流れる(又は電流が増加する)。このようにして、保護電極238Aにより、内部空間33内へのめっき液のリークを検出することができる。
【0070】
この構成では、保護電極238Aとコンタクト50(バスバー49)との間の電流(電気抵抗)をモニタすることで、内部空間33へのめっき液のリークの有無を早期に検出することができる。従って、めっき液のリークが発生したとしても、保護電極238Aによってめっき液のリークを早期に検出し、基板ホルダ30の異常及びシールの交換時期を早期に検知することが可能である。また、万一、シード層Sdが腐食し得る量のめっき液のリークが発生しても、上述の通り保護電極238AによりCuの溶解が抑制されるので、シード層の腐食が抑制又は防止される。よって、めっき液のリークを早期に検出し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。保護電極238Aをコンタクト50の各ブロックに対応するように複数に分割して配置し、それぞれを個別の直流電源236および電流検出器237に接続し、直流電圧の印加とめっき液のリーク検出をおこなうこともできる。これによって、めっき液のリークが発生した際の発生箇所をある程度特定可能であるとともに、各ブロックに流れる防食電流を個別に制御することで、めっき液のリークが発生した場合でも、より効果的にシード層Sdの腐食を抑制することができる。
【0071】
なお、
図7では、保護電極238Aとコンタクト50(バスバー49)との間に直流電
源236による直流電圧を印加して、電流検出器237によって直流電流を検出する構成としているが、直流電源236に代えて交流電源を使用し、電流検出器で保護電極238Aとコンタクト50(バスバー49)と間の交流電流又はインピーダンスをモニタして、リークを検出するようにしてもよい。
【0072】
なお、電流検出器237(リーク検出)を省略して、保護電極238Aをシード層の腐食防止用の電極としてのみ使用してもよい。
【0073】
(直接接続型、溶解性の保護電極)
図9は、他の例に係る保護電極238Bを有する基板ホルダ30の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
図10は、他の例に係る保護電極238Bを有する基板ホルダ30の第2保持部材32の平面図である。この例では、保護電極238Bとして、シード層Sdの材料よりも、アノードになり易い材料(卑な(低い)自然電位を有する材料)の電極を犠牲電極として使用する。この例では、保護電極238Bとシード層Sdの自然電位の差を利用して、保護電極238Aをアノード、シード層Sdをカソードとして機能させることで、シード層SdにおいてCuの酸化反応を抑制し、シード層の腐食(溶解)を抑制する。同図では、コンタクト50は、基板ホルダ30内に配置されたバスバー49を介して給電される構成で示す。
【0074】
図9に示すように、保護電極238Bは、コンタクト50に固定されることで電気的に接続され、コンタクト50を介してシード層Sdに電気的に接続される。保護電極238Bは、シード層Sdの材料よりも自然電位(標準電極電位)が卑な材料から形成される溶解性の電極である。シード層Sdの材料よりも自然電位が卑な材料とは、シード層Sdの材料よりも自然電位が低い材料であり、でシード層Sdよりもアノードになり易い材料であることを意味する。シード層SdがCuである場合には、保護電極238Bの材料は、例えば、Al,Zn,Fe等から選択することができる。これらの中でも、硫酸銅めっき液(銅 50g/L、硫酸 100g/L、塩素 50mg/L)の0.1%希釈液(電導度 約1000μS/cm)中の自然電位はZnが最も低く(Cuに対して約-1.1V)、シード層の腐食抑制効果が高い。なお、保護電極238Bは、コンタクト50以外の導電体を介してシード層Sdに電気的に接続されてもよく、コンタクト50以外の導電体を介してコンタクト50に電気的に接続されてもよい。また、基板ホルダ30で基板Wfを保持した際に、保護電極238Bが直接シード層Sdに接触して電気的に接続される構成としてもよい。本実施形態のように、保護電極238Bを直接コンタクト50に固定する場合には、保護電極238Bをシール空間33内に設置するための構成を簡易にすることができる。
【0075】
保護電極238Bは、シード層Sdの腐食抑制の観点から、腐食の可能性が高い基板Wfの外周部(エッジ部)のシード層Sd(コンタクト領域)の近傍に配置されることが好ましく、
図10に示すように、実質的に基板Wfのエッジ全周に対向する位置に設けられる。保護電極238Bと基板Wfのエッジとの間の距離は、例えば、10mm以下であることが好ましい。同図では、保護電極238Bは、コンタクト50の各ブロックに対応するように分割して設けられているが、基板Wfのエッジ全周(基板ホルダ30の全周)に亘って連続して設けてもよい。
【0076】
保護電極238Bは、
図9に示すように、その少なくとも一部が液体60(純水等)に接触又は浸漬されるように配置されている。保護電極238Bは、シード層よりも卑な自然電位を有し、かつ、コンタクト50を介してシード層Sdに電気的に接続されているため、シード層Sdよりも優先して溶解する犠牲電極として機能し、シード層Sdが腐食することを抑制する腐食防止用の電極(防食電極)として機能する。
【0077】
シード層Sdより卑な自然電位を有する保護電極238Bによる腐食防止のメカニズムは、
図11において、直流電源236を省略して、保護電極238Aをコンタクト50に短絡させた場合に相当する。
図11に示すように、液体60中において、保護電極238Bの近傍では、M→M
n++ne(例えば、Al→Al
3++3e)の酸化反応が発生し、保護電極238Bの材料Mが液体60中に溶解する。一方、液体60中において、シード層近傍では、O
2+4H
++4e→2H
2O(水の生成)、2H+2e→H
2(水素の生成)、Cu
2++2e→Cu(液体60中にめっき液が混入した場合)の還元反応が生じる。このように、保護電極238Bがシード層Sdに優先して溶解することにより、シード層Sdの腐食が抑制又は防止される。
【0078】
即ち、液体60に溶存酸素濃度の勾配(
図20)が生じたとしても、溶解性の保護電極238Bがシード層Sdに優先して溶解することにより、局部電池作用によるシード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0079】
また、内部空間33へのめっき液のリークにより液体60中にめっき液が混入したとしても、溶解性の保護電極238Bがシード層Sdに優先して溶解することにより、局部電池作用(
図20)及びシャント電流(
図21)に起因するシード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0080】
この例に係る保護電極238Bによれば、保護電極238Bをバイアスするための外部電源が不要であるため、めっきモジュールの構造を簡略化することができる。なお、保護電極238Bの表面は、アノードバッグや隔膜等で覆うことが好ましい。これによって、保護電極238Bが腐食する際に表面に生成した酸化物や水酸化物が電極表面から脱落し、基板ホルダ30内が汚染されるのを防ぐことができる。
【0081】
(通電試験モデル)
図12は、保護電極の効果を試験するための通電試験モデルの模式図を示す。
図13は、通電試験モデルの構成を示す写真であり、
図14は、通電試験モデルの一部を拡大した写真である。この通電試験モデルでは、
図12に示すように、不溶解性の保護電極238Aを使用し、直流電源236によって保護電極238Aをコンタクト50(シード層Sd)に対して高電位側にバイアスする。なお、通電試験では、保護電極238Aとして、Ptのワイヤ(直径0.4mm)を使用した。また、直流電源90によってコンタクト50とシード層Sdのコンタクト50から離れた部分との間に、めっき電流に対応する電流を流して通電試験を実施する。即ち、基板Wfのシード層Sdとアノード16(
図3)との間にめっき電流を流す代わりに、シード層Sdのコンタクト50との接続部と、コンタクト50から離れた部分との間に、めっき電流に模した電流を流すことにより、めっき処理をモデル化した通電試験を実施するものである。また、基板Wfは、レジストパターン等のパターンが形成されていないブランケットウエハ(Blanket Wafer)を使用した。コンタクト50とシード層Sdの接触部、及び、保護電極238Aの一部を液体60で被覆して通電試験を実施した。
【0082】
実際の通電試験モデルの写真を
図13及び
図14に示す。これらの図に示すように、基板Wfとしてのブランケットウエハが、治具901によって上下から挟まれて固定されており、基板Wfの一端がコンタクト50に接触されている。コンタクト50は、治具902により保持されている。基板Wfの他端と、コンタクト50とは、それぞれ、直流電源90の正極及び負極に接続されている。また、
図14に示すように、コンタクト50の下方には、Ptワイヤからなる保護電極238Aが配置され、Ptワイヤの一端は、L字型に折り曲げられ、コンタクト50の隙間から上方に引き出されている。
図13に示すよう
に、保護電極238Aの引き出された部分と、コンタクト50とは、それぞれ、直流電源236の正極及び負極に接続されている。治具901と治具902との間の隙間903が液体60(この例では、純水)で満たされる。
【0083】
また、比較として、
図12から
図14に示す通電試験モデルの構成で、保護電極238Aを省略した構成でも、通電試験を実施した。
図15は、保護電極を設けた場合の通電試験の結果を示す写真であり、
図16は、保護電極を設けなかった場合の通電試験の結果を示す写真である。これらの図から分かるように、保護電極を設けない場合には、シード層Sdに腐食が生じるが(
図16)、保護電極238Aを設けることにより、シード層Sdの腐食を抑制できる(
図15)ことが分かる。
【0084】
(第2実施形態)
図17は、第2実施形態に係るめっき装置のめっきモジュールの構成を説明するための模式図である。本実施形態のめっきモジュールは、基板を鉛直方向の姿勢でめっきする縦型(ディップ式、パネル式とも称す)のめっきモジュールである。同図に示すように、めっきモジュール400は、内部にめっき液を保持するめっき槽10と、めっき槽10内で基板ホルダ30に対向して配置されたアノード16と、を備えている。アノード16は、アノードホルダ60に保持されてめっき槽10内に配置されている。基板ホルダ30は、ウェハなどの基板Wfを着脱自在に保持し、かつ基板Wfをめっき槽10内のめっき液Psに浸漬させるように構成されている。アノード16はアノードホルダ60を介して直流電源90の正極に接続され、基板Wfは基板ホルダ30を介して直流電源90の負極に接続される。アノード16と基板Wfとの間に電圧を印加すると、電流は基板Wfに流れ、めっき液の存在下で基板Wfの表面に金属膜が形成される。基板Wfは、円形、四角形以外の多角形その他任意の形状であってよい。
【0085】
めっきモジュール400は、めっき槽10に隣接するオーバーフロー槽20を更に備えている。めっき槽10内のめっき液はめっき槽10の側壁を越流してオーバーフロー槽20内に流入するようになっている。めっき液Psは、めっき槽10の側壁をオーバーフローしてオーバーフロー槽20に流入し、さらにオーバーフロー槽20から循環ライン58aを通ってめっき槽10に戻される。循環ライン58aには、例えば、循環ポンプ58b、恒温ユニット58c、及びフィルタ58dが取り付けられている。めっきモジュール400は、基板Wf上の電位分布を調整する開口14aを有する調整板(レギュレーションプレート)14と、基板Wfのめっき中に十分な金属イオンが基板Wfの表面に均一に供給されるようにめっき液Psを攪拌するパドル15とをさらに備えている。なお、上述した構成は一例であり、めっきモジュール400等の構成は、他の構成を採用することが可能である。
【0086】
縦型めっきモジュールでは、基板ホルダ30に保持された基板Wfが、プリウェットモジュール200、プリソークモジュール300で処理された後に、めっきモジュール400に搬入される。基板ホルダ30は、
図18に示すように、フロントプレート210及びバックプレート220を備え、フロントプレート210及びバックプレート220により基板Wfを挟んで保持するものである。基板ホルダ30のフロントプレート210とバックプレート220との間には、内側シール215,225及び外側シール216で密閉されるシール空間(内部空間)33が形成される。
【0087】
図18に示すように、バックプレート220には、基板ホルダ30の内部空間33と基板ホルダ30の外部とを連絡する導入通路231及び排出通路232が設けられている。
図18では、導入通路231及び排出通路232を便宜上、1つの構成で示しているが、互いに別個の構成である。導入通路231及び排出通路232には、それぞれ、各通路の導通及び遮断を制御するためのバルブ231A及びバルブ232Aが設けられている。バ
ルブ231A及びバルブ232Aは、制御モジュール800により制御される。基板ホルダ30の内部空間33への液体の導入は、例えば、めっき処理に先立つプリウェット処理おいて、基板Wfを保持した基板ホルダ30をプリウェッモジュール200の処理槽内の液体(処理液、例えば、純水)に浸漬し、導入通路231のバルブ231Aを開放して、導入通路231を介して純水を基板ホルダ30の内部空間33に導入し、内部空間33を純水で満たすことで実施することができる。また、基板Wfを保持した基板ホルダ30を処理槽内の液体に浸漬し、バルブ231A、バルブ232Aを開放し、内部空間33に純水を導入しながら、内部空間33から空気及び純水を排出して、内部空間33を純水で満たすようにしてもよい。内部空間33は、空気が残らないように完全に純水で満たされることが好ましいが、後述する作用効果をどの程度所望するかに応じて若干の空気又は気泡が残存することが許容される場合がある。なお、プリウェットモジュールにおいて基板ホルダの内部空間に純水を導入する例を説明したが、他のモジュールで基板ホルダの内部空間に純水を導入してもよいし、基板ホルダの内部空間に純水等の液体を導入するための別のモジュールを設けてもよい。
【0088】
(外部電源型、不溶解性の保護電極)
図18は、縦型めっきモジュール400の基板ホルダ30の内部空間33において、不溶解性の保護電極235Aをコンタクト50(シード層Sd)に対して高電位側にバイアスした構成を示す。内部空間33内は、上述したように、例えば、プリウェッモジュール200等の処理液からなる液体(例えば、純水)で満たされているものとする。この構成は、
図7及び
図8の実施形態で不溶解性の保護電極238Aを用いた例を縦型めっきモジュールに適用したものに相当する。この構成によれば、
図7及び
図8を参照して説明したと同様に、保護電極238Aをアノード、シード層Sdをカソードとして機能させることで、シード層SdにおいてCuの酸化反応を抑制し、シード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0089】
(外部電源型、溶解性の保護電極)
図18に示す実施形態においても、
図7及び
図8の実施形態と同様に、保護電極235Aの材料として、シード層Sdの材料と自然電位(標準電極電位)が同程度の材料、又は、シード層Sdの材料より低い自然電位(標準電極電位)を有する材料を使用してもよい。この場合、直流電源236Aにより保護電極235Aをシード層Sdに対して高電位側にバイアスすることにより、保護電極235Aをシード層Sdより優先して溶解させ、保護電極235Aを犠牲電極(溶解性の電極)として機能させる。保護電極235Aの材料は、例えば、シード層Sdと同じ材料(めっき金属と同じ材料)とすることができる。この構成によれば、
図7及び
図8を参照して説明したと同様に、溶解性の保護電極235Aがシード層Sdに優先して溶解することにより、シード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0090】
図18に示す実施形態においても、
図7及び
図8の実施形態で説明したと同様に、電流検出器237Aによって、保護電極235Aと、コンタクト50(バスバー49)間に液体60を介して流れる電流又はそれらの間の電気抵抗をモニタして、めっき液Psの内部空間33へのリークを検出してもよい。なお、
図18の例において、保護電極235Aによるリーク検出を行わず、保護電極235Aをシード層Sdの腐食防止用の電極としてのみ使用してもよい。なお、
図18では、保護電極235Aとコンタクト50(バスバー49)との間に直流電源(DC電源)236Aによる直流電圧を印加して、電流検出器237Aによって直流電流を検出する構成としているが、直流電源236Aに代えて交流電源(AC電源)を使用し、電流検出器で保護電極235Aとコンタクト50(バスバー49)と間の交流電流又はインピーダンスをモニタして、リークを検出するようにしてもよい
。
【0091】
(直接接続型、溶解性の保護電極)
図19は、縦型めっきモジュールの基板ホルダの内部空間において、溶解性の保護電極235Bをコンタクト50に接続した構成、つまり、保護電極235Bをコンタクト50に固定しコンタクト50を介してシード層Sdに電気的に接続した構成を示す。なお、保護電極235Bをコンタクト50以外の導電体を介してシード層Sdに電気的に接続しても良く、コンタクト50以外の導電体を介してコンタクト50に電気的に接続してもよい。また、基板ホルダ30で基板Wfを保持した際に、保護電極235Bが直接シード層Sdに接触して電気的に接続される構成としてもよい。この構成は、
図9及び
図10の実施形態を縦型めっきモジュールに適用したものに相当する。この構成によれば、
図9及び
図10を参照して説明したと同様に、溶解性の保護電極235Bがシード層Sdに優先して溶解することにより、シード層Sdの腐食を抑制又は防止することができる。よって、シード層Sdの腐食を抑制又は防止し、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0092】
なお、
図18及び
図19では、基板Wfの両面がめっき液に露出される片面めっき用の基板ホルダ30の構成を示すが、片面めっき用の基板ホルダに限定されず、両面めっき用の基板ホルダであってもよく、基板Wfの片面のみが露出される片面めっき用の基板ホルダであってもよい。
【0093】
上記施形態によれば、基板ホルダ30の内部空間33が液体(例えば、純水)で満たされているため、内部空間33が空洞の場合と比較して、内部空間33の内部と外部との間の圧力差が低減され、内部空間33へのめっき液のリークを抑制又は防止することができる。これにより、めっき液のリークによるめっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0094】
上記実施形態によれば、めっき液のリークが発生しても、内部空間33内が液体(例えば、純水)で満たされている為、めっき液の内部空間33内への侵入は、拡散した分に限られ、ごく少量に抑制されるので、溶存酸素濃度に起因する局部電池作用及び/又はシャント電流によるシード層Sdの溶解(腐食)を抑制することができる。また、内部空間33に侵入しためっき液が液体(例えば、純水)で希釈されるために、シード層Sdの腐食を更に抑制することができる。これにより、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0095】
また、上記実施形態によれば、内部空間33内が液体(例えば、純水)で満たされ酸素濃度が低いため、溶存酸素に起因する局部電池作用によるシード層Sdの溶解を抑制することができる。これにより、めっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0096】
また、上記実施形態によれば、万一、腐食し得る量のめっき液のリークが発生しても、保護電極235A、235Bによりシード層Sdの溶解を抑制又は防止することができる。これにより、めっき液のリークによるめっき膜厚の均一性の低下を抑制ないし防止することができる。
【0097】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、基板上のパターンとしてレジストパターンを例に挙げたが、パターンは、配線を形成するためのビア又はトレンチのパターン、あるいは、バンプ、再配線、電極パッドを形成するためのレジスト又は絶縁膜のパターン、その他めっき膜の形状を定義する任意のパターンとすることができる。
(2)基板ホルダの内部空間に導入する液体は、基板ホルダの内部空間に露出する構成部品を腐食させない液体であれば、水以外の液体であってもよい。液体は、例えば、金属塩を含んでいない液体(金属塩の濃度が所定濃度(例えば5g/L)未満の液体)を用いることができる。このような液体は、例えば、水道水、天然水、純水を含む。純水は、例えば、脱イオン水(DIW)、蒸留水、精製水、又はRO水を含む。
(3)基板ホルダの構成は、上述した例に限定されず、コンタクトがシールされた内部空間を有する基板ホルダであれば、任意の構成の基板ホルダに上記実施形態を適用することができる。
【0098】
上述した実施形態から少なくとも以下の形態が把握される。
[1]一形態によれば、基板を保持し、基板をめっき液に接触させてめっきするための基板ホルダであって、 前記基板の表面に形成されたシード層に接触して給電するためのコンタクトと、 前記コンタクトに対して高電位側にバイアスされるか、又は、前記シード層よりも低い自然電位を有する材料を有し前記コンタクトに前記シード層に直接又は導電体を介して電気的に接続される保護電極と、 前記基板ホルダで前記基板が保持された状態において、前記基板の外周部、前記コンタクト、及び前記保護電極を、前記基板ホルダの外部からシールした状態で収容すると共に、前記保護電極の一部、並びに前記シード層と前記コンタクトとの接触箇所を少なくとも覆う液体を保持する内部空間を有するホルダ本体と、を備える、基板ホルダが提供される。
「前記保護電極の一部、並びに前記シード層と前記コンタクトとの接触箇所を少なくとも覆う液体」とは、前記保護電極の全体が前記液体により覆われること、前記内部空間内に配置される前記シード層の全体が前記液体により覆われること、前記コンタクト全体が前記液体により覆われること、及び/又は、前記内部空間全体が前記液体で満たされることを含む。
【0099】
この形態によれば、保護電極近傍の液体又は保護電極の材料がシード層の材料に優先して酸化し、シード層の材料が液体中に溶解することを抑制することができるため、シード層の腐食(劣化)を抑制又は防止することができる。コンタクト等を覆う液体中の溶存酸素濃度勾配によるシード層表面の局部電池の作用を抑制することができ、シード層の腐食を抑制又は防止することができる。また、基板ホルダの内部空間にめっき液が侵入した場合にも、局部電池効果及び/又はシャント電流によるシード層の腐食を抑制又は防止することができる。保護電極によりシード層の劣化を抑制できるので、めっき膜厚の均一性が低下することを抑制又は防止できる。
【0100】
[2]一形態によれば、 前記保護電極は、不溶解性の電極であり、かつ、前記コンタクトに対して高電位側にバイアスされる。
【0101】
この形態によれば、定期的な保護電極の交換を不要とすることができる、又は、保護電極の交換の頻度を少なくできるので、保護電極のメンテナンスが容易である。また、保護電極から溶解した電極材料(金属)がめっき液に持ち込まれてめっき液を汚染する可能性を低減できる。また、保護電極から溶解した電極材料の酸化物がコンタクトやシールに析出してこれらを汚染する可能性を低減できる。
【0102】
[3]一形態によれば、 前記保護電極と前記シード層との間には、前記保護電極と前記シード層の自然電位の差よりも十分大きい電圧が印加される。
【0103】
この形態によれば、保護電極及びシード層をそれぞれアノード、カソードとして確実に機能させることができ、シード層の溶解を確実に抑制又は防止することができる。
【0104】
[4]一実施形態によれば、 前記保護電極は、スペーサを介して前記コンタクトに固
定される。
【0105】
この形態によれば、基板ホルダ中の狭いシール空間内で保護電極を容易且つ適切に設置することができる。
【0106】
[5]一形態によれば、 前記保護電極は、前記シード層よりも低い自然電位を有し前記シード層に直接又は導電体を介して電気的に接続され、溶解性の犠牲電極として機能する。
【0107】
この形態によれば、保護電極をバイアスするための外部電源が不要であり、基板ホルダ及び/又はめっきモジュールの構成を簡略化することができる。
【0108】
[6]一形態によれば、 前記保護電極は、前記コンタクトに固定され、前記コンタクトを介して前記シード層に電気的に接続される。
【0109】
この形態によれば、保護電極をコンタクトに直接固定することで、保護電極をコンタクトを介してシード層に電気的に接続するため、保護電極を接続するための構成を簡易にすることができる。
【0110】
[7]一形態によれば、 前記保護電極は、溶解性の電極であり、かつ、前記コンタクトに対して高電位側にバイアスされる。
【0111】
この形態では、保護電極の材料としてシード層の材料と同じ材料を使用すれば、保護電極をシード層のための犠牲電極として機能させることができる。この場合、保護電極から溶解した金属がめっき液に持ち込まれたとしても、めっき液を汚染する可能性を低減できる。
【0112】
[8]一実施形態によれば、 前記保護電極は、スペーサを介して前記コンタクトに固定される。
【0113】
この形態によれば、基板ホルダ中の制限された狭いシール空間内で保護電極を容易且つ適切に設置することができる。
【0114】
[9]一形態によれば、 前記保護電極は、前記基板ホルダが前記基板を保持した際に前記基板の外周を囲む場所に連続して又は不連続に設けられている。
【0115】
この形態によれば、腐食の可能性が高い基板の外周部(エッジ部)の全周にわたって保護電極を近傍に配置することができ、シード層の腐食を効果的に抑制することができる。
【0116】
[10]一形態によれば、 前記保護電極は、前記基板ホルダが前記基板を保持した際に、前記基板のエッジからの距離が所定の距離以下となるように周状に配置されている。
【0117】
この形態によれば、基板のエッジの近傍に保護電極を配置するので、腐食の可能性が高い基板の外周部(エッジ部)のシード層を効果的に腐食から保護することができる。
【0118】
[11]一形態によれば、 前記液体は、1000μS/cm以下の電導度を有する液体である。
【0119】
この形態によれば、コンタクト等を覆う液体の電導度を1000μS/cmまで許容することができる。基板ホルダのコンタクトを液体で覆った状態で基板をめっきするウェッ
トコンタクト法では、保護電極を用いない場合、液体の電導度を50μS/cm以下に管理する必要があることが分かっている。一方、保護電極を使用する場合には、保護電極によってシード層の腐食を抑制することができるので、コンタクト等を覆う液体の電導度の管理を大幅に緩和することができる。
【0120】
[12]一形態によれば、前記液体は、純水、若しくは脱気又は不活性ガス置換された純水である。
【0121】
この形態によれば、コンタクト等を覆う液体として、めっき装置で一般的に使用されるDIW等の純水を使用することができ、別途、コンタクト等を覆う液体を準備する必要がない。
【0122】
[13]一形態によれば、 前記保護電極が検出器として機能し、 前記検出器は、前記内部空間に前記液体が導入された状態で、前記コンタクト又は前記コンタクトに電気的に導通された配線と前記電極との間に流れる電流を監視することにより、前記内部空間へのめっき液のリークを検出可能に構成されている。「前記コンタクトに電気的に導通された配線」は、例えば、バスバーである。
【0123】
この形態によれば、保護電極とコンタクト等の間に流れる電流を監視することによりめっき液のリークの有無を検知することができるので、別途、リーク検知用の電極を設ける必要がない。
【0124】
[14]一形態によれば、 前記基板ホルダは、前記基板を水平方向の姿勢で保持する横型めっきモジュール用、又は、前記基板を鉛直方向の姿勢で保持する縦型めっきモジュール用である。
【0125】
この形態によれば、横型及び縦型めっきモジュール用の基板ホルダに上記構成を適用して、上述した作用効果を奏することができる。
【0126】
[15]一形態によれば、めっき装置であって、 形態1から14の何れかの基板ホルダと、 前記基板ホルダの前記内部空間に液体を供給する液体供給モジュールと、 前記基板ホルダに保持された前記基板をめっき液に接触させて前記基板をめっきするめっきモジュールと、を備えるめっき装置が提供される。液体供給モジュールは、洗浄ノズル、液体を使用する処理モジュール(例えば、プリウェットモジュール)等で構成することができる。
【0127】
この形態によれば、めっき装置内の液体供給モジュールによって基板ホルダの内部空間に自動的に液体を供給することができる。
【0128】
[16]一形態によれば、 前記液体供給モジュールは、前記基板ホルダの前記内部空間を洗浄し、前記内部空間内の前記液体を置換する洗浄ノズルを有する。
【0129】
この形態によれば、各基板のめっきに先立ち、基板ホルダの内部空間を洗浄することにより、内部空間に液体を保持させることができる。これにより、基板ホルダの内部空間内のコンタクト等を常にクリーンな液体で被覆して基板めっきを実施することができる。
【0130】
[17]一形態によれば、 前記基板をプリウェット処理するプリウェットモジュールを更に備え、 前記めっきモジュールは、濡れた状態の前記基板を前記基板ホルダに保持させる。
【0131】
この形態によれば、プリウェット処理後の基板をウェットな状態のままめっきモジュールに搬入して基板ホルダに保持させることができ、基板エッジの乾燥工程が不要である。
【0132】
[18]一形態によれば、基板をめっきするための方法であって、 前記基板の表面に形成されたシード層に接触して給電するためのコンタクトに対して高電位側にバイアスされるか、又は、前記基板のシード層よりも低い自然電位を有する材料を有し前記シード層に直接又は導電体を介して電気的に接続される保護電極を備える基板ホルダを準備すること、 前記基板の外周部を外部からシールした状態で収容する前記基板ホルダの内部空間に液体を導入し、前記内部空間において、前記液体で、前記保護電極の一部、並びに、前記基板ホルダのコンタクトと前記基板のシード層との接触箇所を少なくとも覆うこと、 前記基板ホルダの前記内部空間に液体が導入された状態で、前記基板ホルダに保持された前記基板をめっきすること、を含む、方法が提供される。
【0133】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、実施形態および変形例の任意の組み合わせが可能であり、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【0134】
米国特許第7727366号明細書(特許文献1)、米国特許第8168057号明細書(特許文献2)、特開2020-117763号公報(特許文献3)、特開2020-117765号公報(特許文献4)の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書を含む全ての開示は、参照により全体として本願に組み込まれる。
国際特許出願番号2021/038404、国際特許出願番号2021/000460の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書を含む全ての開示は、参照により全体として本願に組み込まれる。
【符号の説明】
【0135】
10 めっき槽
20 オーバーフロー槽
14 調整板
15 パドル
16 アノード
17 抵抗体
30 基板ホルダ
31 第1保持部材
32 第2保持部材
33 シール空間(内部空間)
40 回転機構
41 回転軸
45 傾斜機構
46 昇降機構
47 支軸
49 バスバー
50 コンタクト
55 シール部材
55A リップ部
60 洗浄液(純水)
90 直流電源
215、225 内側シール
216 外側シール
100 ロードポート
110 搬送ロボット
120 アライナ
200 プリウェットモジュール
210 フロントプレート
220 バックプレート
231 導入通路
231A バルブ
232 排出通路
232A バルブ
235A、235B 保護電極
236A 直流電源
238A、238B 保護電極
300 プリソークモジュール
400 めっきモジュール
500 洗浄モジュール
600 スピンリンスドライヤ
700 搬送装置
800 制御モジュール
801 CPU
802 記憶部
1000 めっき装置
Wf 基板
Sd シード層
Ps めっき液
Rp レジスト
【要約】 (修正有)
【課題】基板ホルダのシールされた空間にめっき液が侵入したことを早期に発見し、めっき膜厚の均一性が低下することを抑制する基板ホルダ、めっき装置およびめっき方法を提供する。
【解決手段】基板Wfを保持し、基板をめっき液に接触させてめっきするための基板ホルダ30であって、前記基板の表面に形成されたシード層Sdに接触して給電するためのコンタクト50と、前記コンタクトに対して高電位側にバイアスされるか、又は、前記シード層よりも低い自然電位を有する材料を有し前記シード層に直接又は導電体を介して電気的に接続される保護電極238Aと、基板ホルダで基板が保持された状態において、基板の外周部、コンタクト、及び保護電極を、基板ホルダの外部からシールした状態で収容すると共に、保護電極の一部、並びにシード層とコンタクトとの接触箇所を少なくとも覆う液体を保持する内部空間を有するホルダ本体と、を備える、基板ホルダ。
【選択図】
図7