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  • 特許-ニッケル粉の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ニッケル粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/26 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
B22F9/26 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018133713
(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公開番号】P2020012138
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-02-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佳智
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-074160(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056626(WO,A1)
【文献】特開2017-150002(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150717(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に、下記種結晶添加工程(1)、還元工程(2)、及び固液分離工程(3)に記載される処理を行ない、ニッケル粉を製造する方法において、
前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が分散剤を含有せず、
前記還元工程(2)における還元処理時間を調整することでニッケル粉の還元率を制御することを特徴とするニッケル粉の製造方法。
(記)
(1)前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に、平均粒径が0.1μm以上、5μm以下のニッケル粉を種結晶として前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル重量に対し、1~100%となる量を添加、混合して混合スラリーを形成する種結晶添加工程(1)。
(2)前記混合スラリーを密閉容器内で撹拌しながら、前記混合スラリーに前記密閉容器内の圧力が1.5~3.5MPaの範囲に維持するように水素ガスを供給し、前記密閉容器内の温度が150~185℃の範囲に維持して前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル錯イオンを、前記密閉容器の貯留液量を管理しながら、容器内で生成したニッケル粉を含むスラリーを連続的に抜き出すことで、前記密閉容器内での前記混合スラリーの貯留時間を15~60分間の範囲内で調整して前記貯留時間を還元処理時間として還元を行い、ニッケルを析出させてニッケル粉を含む還元スラリーを産出する還元工程(2)。
(3)前記還元工程(2)で産出したニッケル粉を含む還元スラリーを固液分離、粒径により分別して平均粒径0.1μm以上、5μm以下であるニッケル粉を回収し、回収した前記ニッケル粉の一部のニッケル粉を前記種結晶添加工程(1)の種結晶として使用する固液分離工程(3)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を高温高圧下で水素ガスによって還元し、ニッケルの粉末を回収する際に、分散剤の添加量で還元率を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルやコバルトの粉末は、微細なものは電子部品の材料などとして利用される。また、粒径が大きなものは、合金への添加用として用いたり、あるいは酸に溶解して塩の形態に加工して電池材料として用いたりするなど様々な用途がある。
このような微小なニッケル粉を製造する方法として、溶融させたニッケルをガス又は水中に分散させ微細粉を得るアトマイズ法や、特許文献1に示されるようなニッケルを揮発させ、気相中で還元することでニッケル粉を得るCVD法などの乾式法が知られている。
【0003】
また、湿式プロセスによりニッケル粉を製造する方法として、特許文献2に示されるような、溶液中に還元剤を添加し、ニッケルイオンを還元して粉末を生成する方法や、特許文献3に示されるような、高温で還元雰囲気中にニッケル溶液を噴霧し、熱分解反応によりニッケル粉を得る噴霧熱分解法などがある。
しかし、上述のこれらの方法は、高価な試薬類や多量の熱エネルギーを必要とするため、工業的な生産に対しては経済的とは言い難い課題がある。
【0004】
一方で、「錯化還元法」と呼ばれる方法がある。
この方法は、非特許文献1に示すように、原料のニッケルを硫酸溶液に溶解後、不純物を除去する工程を経て、得た硫酸ニッケル溶液にアンモニアを添加し、ニッケルのアンミン錯体を形成させ、この生成した硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に高温高圧下で水素ガスを供給して錯体溶液中のニッケル錯イオンを還元してニッケル粉を得る方法である。
さらに水素ガスによる還元時に、種結晶と呼ばれる粒子を共存させ、そこに還元剤を供給して種結晶を成長させることで、ほぼ一定のサイズのニッケル粉を効率良く得ることができるなど、工業的に有用な方法である。
【0005】
しかしながら、反応が高温・高圧であることからオートクレーブなどの高圧容器を必要とし、設備的に容易なバッチ式の反応が用いられてきた。
溶液の装入、排出、温度・圧力調整それぞれの工程がシーケンシャルであるため、反応稼動率が低く、単位設備あたりの稼動率が低かった。また、種結晶の添加量の基準がなく、還元率がばらつく原因となるなどの課題があり、一定の範囲でしか商業化されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-505695号公報
【文献】特開2010-242143号公報
【文献】特許4286220号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】“The manufacture and properties of Metal Powder produced by the Gaseous Reduction of Aqueous Solutions”, Powder Metallurgy, No.1/2(1958),p40-52.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液から錯化還元法を用いてニッケル粉を得るに際し、還元反応での還元率を制御して目的のニッケル粉を得る製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の第1の発明は、分散剤を含まない硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に、下記種結晶添加工程(1)、還元工程(2)、及び固液分離工程(3)に記載される処理を行ない、ニッケル粉を製造する方法において、前記還元工程(2)における還元処理時間を調整することでニッケル粉の還元率を制御することを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0010】
(1)前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に、平均粒径が0.1μm以上、5μm以下のニッケル粉を種結晶として前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル重量に対し、1~100%となる量を添加、混合して混合スラリーを形成する種結晶添加工程(1)。
(2)前記混合スラリーを密閉容器内で撹拌しながら、前記混合スラリーに前記密閉容器内の圧力が1.5~3.5MPaの範囲に維持するように水素ガスを供給し、前記密閉容器内の温度が150~185℃の範囲に維持して前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル錯イオンを、前記密閉容器の貯留液量を管理しながら、容器内で生成したニッケル粉を含むスラリーを連続的に抜き出すことで、前記密閉容器内での前記混合スラリーの貯留時間を15~60分間の範囲内で調整して前記貯留時間を還元処理時間として還元を行い、ニッケルを析出させてニッケル粉を含む還元スラリーを産出する還元工程(2)。
(3)前記還元工程(2)で産出したニッケル粉を含む還元スラリーを固液分離、粒径により分別して平均粒径0.1μm以上、5μm以下であるニッケル粉を回収し、回収した前記ニッケル粉の一部のニッケル粉を前記種結晶添加工程(1)の種結晶として使用する固液分離工程(3)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温・高圧に保たれた密閉容器に連続的に錯体溶液、水素ガスなどを装入しながら処理時間を限定した還元処理を行なうことで、高い反応稼動率で80%を超えるニッケル粉の還元率を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る工程フロー図である。
図2】分散剤濃度と還元率の推移に対する積算還元処理時間の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るニッケル粉の製造方法は、高温・高圧に保たれた密閉容器に連続的に錯体溶液、水素ガスなどを装入しながら処理時間を限定した還元処理を行なうことでニッケルを析出させてニッケル粉を生成し、かつ連続的に生成したニッケル粉を排出・回収することで、高い反応稼動率で80%を超えるニッケル粉の還元率を実現するものであり、さらに、種結晶と併せて添加する分散剤の添加量を制御することで還元率をより制御し、効率よくニッケル粉を得ることができる。
以下、本発明に係るニッケル粉の製造方法を、図1に示す工程フローに沿って説明する。
【0014】
[硫酸ニッケルアンミン錯体溶液]
本発明に用いる硫酸ニッケルアンミン錯体溶液は、特に限定はされないが、ニッケルおよびコバルト混合硫化物、ニッケルおよびコバルト混合水酸化物、粗硫酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫化ニッケル、ニッケル粉などから選ばれる一種、又は複数の混合物から成る工業中間物などのニッケル含有物を、その成分に合わせて硫酸あるいはアンモニアにより溶解して得られるニッケル浸出液(ニッケルを含む溶液)を、溶媒抽出法、イオン交換法、中和などの浄液工程を施すことにより溶液中の不純物元素を除去して得られる溶液に、アンモニアを添加し、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液としたもの等が適している。
【0015】
[種結晶添加工程(1)]
上記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液には、種結晶が添加される。
ここで添加される種結晶は、平均粒径0.1μm~5.0μmの粉末が好適であり、還元工程(2)で生成したニッケル粉、又は、そのニッケル粉を分級して得られる篩下のニッケル粉を利用出来る。その平均粒径が0.1μm未満のニッケル粉を本製造方法で作製することは難しく、平均粒径が5.0μmを超えるニッケル粉を使用しても種結晶の表面にニッケルを析出させる効果は変わらない。
なお、本発明において上記のように「A~B」と記載した数値範囲は、「A以上、B以下」であることを示すものである。
【0016】
次いで、この工程では種結晶の分散と自発核を生成させる目的で、分散剤を添加しても良い。分散剤の有無は、分散剤を使用しなかったり、低濃度である場合には、十分な分散効果が得られず不均一に凝集して、得られるニッケル粉の大きさがばらついたりする懸念があるが、一方で短時間の反応でも高い還元率が得られ、高コストな高圧容器での滞留時間が短くて済む点を見出した。
つまりコンパクトな設備で操業できることで、コスト的に有利であることを見出したことにより、分散剤を使用しない、或いは添加しても0.5g/L未満の範囲に調整することで、望みのニッケル粉の製造が可能となってくる。
又、ここで用いる分散剤としては、ポリアクリル酸塩であれば特に限定されないが、工業的に安価に入手できるものとしてポリアクリル酸ナトリウム(PAA)が好適である。
【0017】
なお、分散剤の濃度が0.5g/L以上では、反応初期の還元率が低下し、十分な還元率を得るためには、耐圧耐熱容器の密閉容器内での滞留時間を延ばすなどの処理が必要となり、分散剤量を制限するメリットがなくなる。
【0018】
[還元工程(2)]
次に、上記で種結晶を添加した混合スラリーを、耐圧耐熱容器の密閉容器である反応槽内に供給し、その反応槽内に水素ガスを吹き込んで、混合スラリー中のニッケル錯イオンを還元処理し、一部は添加した種結晶上にニッケルとして析出させ、一部は自発核を生成し微細なニッケル粉が生成され、それらのニッケル粉を含む還元スラリーを産出する。反応後のスラリーは抜き出されてニッケル粉が回収される。
この反応槽内での還元処理に供される時間は、反応槽内での混合スラリーの貯留時間を還元処理時間とし、その還元処理時間を60分間の範囲内、望ましくは15分間以上、60分間以下の範囲で調整して行なわれる。60分間を超えても還元率の更なる向上は望めず、15分間未満では反応が不十分に終わり、還元率の向上が期待できない場合が生じる恐れがあるためである。
その時間経過後に、反応槽内からニッケル粉を含む還元スラリーを排出する。
【0019】
このときの反応温度は、150~185℃の範囲が好ましい。その反応温度が、150℃未満では還元率が低下し、185℃を超えても反応への影響はなく、むしろ熱エネルギー等のロスが増加するので適さない。
さらに、反応時の圧力は1.5~3.5MPaが好ましい。圧力が、1.5MPa未満では反応効率が低下し、3.5MPaを超えても反応への影響はなく、水素ガスのロスが増加する。
【0020】
このような諸条件による処理によって、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液からニッケルを還元、回収できる。さらに本発明では上述したように分散剤を用いないか、ごく低濃度でしか使用しないので、種結晶の添加量を調整することにより、系内の総表面積を変化させ、還元時の反応速度を制御することが可能となり、密閉容器の大きさと滞留時間が変化した場合においても必要な反応速度に調節することで十分な還元反応を進行させることができる。
【0021】
[固液分離工程(3)]
還元工程(2)で生成したニッケル粉と溶液を分離してニッケル粉を回収する。
固液分離には工業的に用いられている遠心分離機やフィルター濾過機、真空濾過器などを用いることができる。回収したニッケル粉の一部は種結晶として、上記種結晶添加工程(1)で繰り返し利用することができる。また、ニッケル粉を粒径により分別し、小さな粒径のものを種結晶に用いると効果的である。
具体的な分級方法として、例えば篩い分けして分別する方法や、遠心力を用いて細かい粒子を分別回収する方法や、溶液中の沈降速度の差を利用して大きい粒子を沈め、沈んでいない小さな粒子を回収する方法などを用いることができる。
【0022】
以上のようにして製造したニッケル粉は、例えば積層セラミックコンデンサーの内部構成物質であるニッケルペースト用途として用いることができる他、電池材料やめっきのニッケル原料として利用することができる。
【実施例
【0023】
以下、本発明をより詳細に実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0024】
内容積が90Lの加圧可能な密閉容器(オートクレーブ)に、硫酸アンモニウム(硫安)205g/L、種結晶ニッケル粉105g/Lの組成の混合スラリー90Lを張り込み、温度185℃に保ち、水素ガスを吹込み圧力3.5MPaとした。この密閉容器に硫酸ニッケルアンミン錯体溶液(Ni濃度83g/L)と硫安120g/Lの組成である始液を1L/分、さらに硫安120g/Lの組成でニッケル粉を150g/Lの濃度で含んだ混合スラリーを0.5L/分の流量で連続的に加圧容器に添加した。なお、水素ガスは容器の内部圧力が3.5MPaに保持するよう吹き込んでいる。
実施例1では分散剤のポリアクリル酸は添加しなかった。
【0025】
内容積が90Lで給液が毎分1.5Lなので、給液後のスラリーの密閉容器内での滞留時間は60分となり、この時間が還元処理時間に相当する。
さらに、この密閉容器の貯留液量を90L±5Lの範囲で管理しながら、容器内で生成したニッケル粉を含むスラリーを連続的に抜き出した。密閉容器から排出されたスラリーは固液分離してニッケル粉を回収し、さらに75μmの目開きの振動篩を用いて篩別し、篩下のニッケル粉は上記の種結晶として加圧容器に繰り返した。なお最初のみ種結晶には平均粒径1.0μmの外販のニッケル粉を用いた。
この運転を24時間継続した。
【0026】
還元率の測定は、一定時間毎に回収された上記の篩下及び篩上のニッケル粉を看量し、吹き込んだ水素ガスの量から算出される理論析出量に対する割合を還元率とした。
その結果、分散剤を使わないことで、反応開始の初期から80~90%程度の高い還元率が得られていた。
【0027】
(比較例1)
前記実施例1と同じ内容積90Lの密閉容器に、実施例1と同じ成分組成で、さらにポリアクリル酸を0.5g/Lの濃度で含む始液を張り込み、上記実施例1と同じ温度に保つと共に、水素ガスを吹込み、同じ圧力に維持した。
この加圧容器に実施例1と同じ成分組成の始液を1L/分、さらに濃度1.5g/Lのポリアクリル酸を含み、硫安120g/Lの濃度で、ニッケル粉を150g/Lの濃度で含んだスラリー150g/Lのニッケル粉スラリーを、0.5L/分の流量で連続的に密閉容器に添加した。水素ガスは加圧容器の圧力が3.5MPaに保持するよう吹き込んでいる。
つまり密閉容器内でのポリアクリル酸濃度は0.5g/Lとなる。
そして実施例1と同じく密閉容器の液量を90L±5Lの範囲で管理しながら、ニッケル粉スラリーを連続的に抜き出し、運転を24時間継続した。
【0028】
その結果、図2に示すように反応時間が短い、つまり滞留時間が短い間は、還元率が本発明の実施例に比べて低いことが分かる。
図1
図2