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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】熱輸送デバイス及び炉
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/00 20060101AFI20221215BHJP
   F25B 9/00 20060101ALI20221215BHJP
   F27B 17/00 20060101ALI20221215BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
F28D15/00
F25B9/00 Z
F27B17/00 E
F28D20/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022173249
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2022161436の分割
【原出願日】2022-10-06
【審査請求日】2022-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518102425
【氏名又は名称】昭電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 和行
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特許第6807087(JP,B2)
【文献】特開2020-76559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00
F25B 9/00
F27B 17/00
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温熱源と前記高温熱源の外部との間に跨るように配設可能であり、かつ、両端部を実質的に閉塞可能な管路を内部に有する容器を備え、
前記管路の内部は、作動流体を封入可能であり、かつ、第1熱交換器と蓄熱器と第2熱交換器とが前記管路の第1端部から第2端部に向けて順に配設され、
前記第1熱交換器は、前記高温熱源の熱を前記作動流体に移動可能な位置に配設され、
前記蓄熱器は、前記管路の第1熱交換器の周辺と前記管路の第2熱交換器の周辺とを連通する空隙を有し、熱音響の自励振動を生成可能であり、
前記作動流体の圧力を制御可能な圧力制御手段をさらに備え、
前記圧力制御手段は、
熱輸送量を減らす指令に応じて、前記蓄熱器が前記自励振動を弱めるよう前記作動流体の圧力を制御可能な第1圧力制御部と、
熱輸送量を増やす指令に応じて、前記蓄熱器が前記自励振動を強めるよう前記作動流体の圧力を制御可能な第2圧力制御部と、
を有し、
前記第2熱交換器は、前記作動流体の熱を前記高温熱源の外部の熱媒に移動可能である、
熱輸送デバイス。
【請求項2】
前記作動流体は、空気を含み、前記圧力制御手段は、前記熱輸送量を減らす指令に応じて前記圧力を第1圧力未満にする圧力制御が可能であり、前記第1圧力は、0.2MPa以下である、請求項1に記載の熱輸送デバイス。
【請求項3】
前記作動流体は、空気を含み、前記圧力制御手段は、前記熱輸送量を増やす指令に応じて前記圧力を第2圧力以上にする圧力制御が可能であり、前記第2圧力は、0.3MPa以上である、請求項2に記載の熱輸送デバイス。
【請求項4】
請求項1に記載の熱輸送デバイスを備え、前記熱輸送デバイスは、炉の内部と前記炉の外部との間に跨るように配設される、炉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送デバイス及び炉に関する。
【背景技術】
【0002】
炉等の高温熱源から熱を輸送する各種の手段が利用されている。このような手段に求められる機能の1つとして、熱輸送量を調整する機能がある。
【0003】
高温熱源から熱を輸送する手段として、特許文献1は、高温熱源と高温熱源よりも低温の低温熱浴との間に跨るように配設され、閉空間内に気体が封入され、内部に両端部が閉塞された管路が形成された容器と、管路内に配設され、両端部間を連通する細孔が形成されると共に容器の外部から断熱された蓄熱器と、管路内で蓄熱器の高温熱源側端部に隣接して設けられ、高温熱源の熱を蓄熱器に移動させる第1熱交換器と、管路内で蓄熱器の低温熱浴側端部に隣接して設けられ、蓄熱器の熱を低温熱浴に移動させる第2熱交換器と、を備え、蓄熱器は、管路上において、管路の高温熱源側端部から管路長の12.5%~25%の位置に当該蓄熱器の管路延在方向中心が位置し、容器の低温熱浴側端部に容器内部に進退自在に配設され、容器内部に進入することにより熱音響自励波によって管路内に生ずる定在波の波形を変形させる調整手段を有する、熱輸送デバイスを開示している。
【0004】
特許文献1によれば、安全性が高く、かつ低コストで導入及び使用できる熱輸送デバイスを提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6807087号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、作動流体の圧力を常圧より高くすることによって、熱音響を用いた各種装置の性能を向上可能であることが知られている。
【0007】
特許文献1の調整手段は、容器内部に進退自在に配設される。よって、特許文献1は、この調整手段を進退させる駆動源を必要とする。このような駆動源が容器内部に設けられる場合、熱輸送デバイスの内部構造が複雑になり、熱輸送デバイスの保守が困難となることが懸念される。
【0008】
また、このような駆動源が容器外部に設けられる場合、駆動源から調整手段に動力を伝達する伝達手段周囲から作動流体が漏出することが懸念される。特に、作動流体の圧力が常圧より高い場合、このような漏出は、作動流体の圧力を低下させ得る。これにより、熱輸送デバイスの性能が低下し得る。
【0009】
本発明の目的は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立することである。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱輸送を減らす指令に応じて自励振動を弱めるようにする圧力制御が可能であり、熱輸送を増やす指令に応じて自励振動を強めるようにする圧力制御が可能であるような作動流体の圧力制御手段を設けることで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
第1の特徴に係る発明は、高温熱源と高温熱源の外部との間に跨るように配設可能であり、かつ、両端部を実質的に閉塞可能な管路を内部に有する容器を備え、この管路の内部は、作動流体を封入可能であり、かつ、第1熱交換器と蓄熱器と第2熱交換器とが管路の第1端部から第2端部に向けて順に配設され、第1熱交換器は、高温熱源の熱を作動流体に移動可能な位置に配設され、蓄熱器は、管路の第1熱交換器の周辺と管路の第2熱交換器の周辺とを連通する空隙を有し、熱音響の自励振動を生成可能であり、作動流体の圧力を制御可能な圧力制御手段をさらに備え、この圧力制御手段は、熱輸送量を減らす指令に応じて、蓄熱器が自励振動を弱めるよう作動流体の圧力を制御可能な第1圧力制御部と、熱輸送量を増やす指令に応じて、蓄熱器が自励振動を強めるよう作動流体の圧力を制御可能な第2圧力制御部と、を有し、第2熱交換器は、作動流体の熱を高温熱源の外部に移動可能である、熱輸送デバイスを提供する。
【0012】
第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の第1熱交換器側の作動流体は、第1熱交換器が高温熱源から移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より高温となる。
【0013】
また、第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の第2熱交換器側の作動流体は、第2熱交換器が高温熱源の外部の熱媒へ移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より低温となる。
【0014】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器周辺の作動流体は、蓄熱器の管路に沿った向きにおいて温度勾配を有する。これにより、蓄熱器は、この向きに沿った作動流体の温度勾配と作動流体の圧力との関係に応じて熱音響の自励振動を生成可能となる。この自励振動は、管路において第1熱交換器周辺から第2熱交換器周辺への熱輸送を促す。
【0015】
第1の特徴に係る発明によれば、熱輸送量を減らす指令に応じて自励振動を弱めるようにする圧力制御が可能である。これにより、第1の特徴に係る発明は、「(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上」と熱輸送量を減らす調整が可能との意味での「(B)熱輸送量を調整可能とすること」とを両立できる。
【0016】
また、第1の特徴に係る発明によれば、熱輸送量を増やす指令に応じて自励振動を強めるようにする作動流体の圧力制御が可能である。これにより、第1の特徴に係る発明は、「(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上」と熱輸送量を増やす調整が可能との意味での「(B)熱輸送量を調整可能とすること」とを両立できる。
【0017】
上述の通り、第1の特徴に係る発明は、調整手段を進退させる駆動源を容器内部に設ける等して熱輸送デバイスの保守性を低下させるリスクを負うことなく、圧力制御手段によって「(B)熱輸送量を調整可能とすること」を熱輸送量の増加と減少との両方の意味において実現できる。
【0018】
また、第1の特徴に係る発明は、調整手段を進退させる駆動源を容器外部に設ける等して作動流体を漏出させるリスクを負うことなく、圧力制御手段によって「(B)熱輸送量を調整可能とすること」を熱輸送の増加と減少との両方の意味において実現できる。
【0019】
よって、第1の特徴に係る発明は、「(C)熱輸送デバイスの保守性の向上」を目的(A)(B)と両立できる。
【0020】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0021】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、作動流体は、空気を含み、圧力制御手段は、熱輸送量を減らす指令に応じて圧力を第1圧力未満にする圧力制御が可能であり、第1圧力は、0.2MPa以下である、熱輸送デバイスを提供する。
【0022】
調達・管理等が容易な空気を作動流体として利用することにより、熱輸送デバイスの保守性が高められ得る。
【0023】
ところで、常圧付近の空気における自励振動の生成は、比較的弱いことが知られている。このような弱い自励振動が生成される場合は、管路内の熱音響は、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少する。
【0024】
第2の特徴に係る発明によれば、作動流体が空気を含み、熱輸送量を減らす指令に応じて作動流体の圧力を上述の第1圧力未満にする圧力制御を行うため、管路内の熱音響を減少させることができる。
【0025】
これにより、第2の特徴に係る発明は、調達・管理等が容易な空気を作動流体として用いつつ、熱輸送量を減らす制御を行える。
【0026】
したがって、第2の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0027】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、作動流体は、空気を含み、圧力制御手段は、熱輸送量を増やす指令に応じて圧力を第2圧力以上にする圧力制御が可能であり、第2圧力は、0.3MPa以上である、熱輸送デバイスを提供する。
【0028】
本発明者らは、鋭意検討した結果、作動流体が空気であっても、常圧より高い所定の圧力以上であれば、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少することがない充分に強い自励振動を生成できることを見出した。
【0029】
第3の特徴に係る発明によれば、熱輸送量を増やす指令に応じて作動流体の圧力を上述の第2圧力以上にする圧力制御を行うため、作動流体が空気であるにもかかわらず、管路内の熱音響を増大させることができる。
【0030】
これにより、第3の特徴に係る発明は、調達・管理等が容易な空気を作動流体として用いるにもかかわらず、熱輸送量を増やす制御を行える。
【0031】
したがって、第3の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0032】
第4の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明の熱輸送デバイスを備え、前記熱輸送デバイスは、炉の内部と前記炉の外部との間に跨るように配設される、炉を提供する。
【0033】
第4の特徴に係る発明によれば、炉等の高温熱源からの熱輸送に適した構造を有する熱輸送デバイスが炉の内部と外部とを跨るよう配設されて炉が構成されるため、炉において、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量が向上する。また、これにより、熱輸送量が調節可能となり、保守性が向上される。
【0034】
したがって、第4の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、第1実施形態の熱輸送デバイス1を炉Fに取り付けた様子を模式的に示す概略図である。
図2図2は、第1熱交換器12の好ましい態様の一例を示す図である。
図3図3は、図1の第1熱交換器12周辺を拡大した図である。
図4図4は、圧力制御手段15のコントローラが実行する圧力制御処理の好ましい流れの一例を示すメインフローチャートである。
図5図5は、第2実施形態の熱輸送デバイス5を炉Fに取り付けた様子を模式的に示す概略図である。
図6図6は、実施例1から実施例5における蓄熱器の長さと熱輸送量との関係を炉Fの温度ごとに示すグラフである。
図7図7は、実施例3及び実施例7における炉Fの温度と熱輸送量との関係を示すグラフである。
図8図8は、実施例3及び実施例7における炉Fの温度と自励振動の強さ(圧力振幅の大きさ)との関係を示すグラフである。
図9図9は、実施例3及び実施例7における自励振動の強さ(圧力振幅の大きさ)と熱輸送量との関係を示すグラフである。
図10図10は、予備実験で測定された実施例6の熱輸送デバイス1における作動流体の圧力と熱輸送量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下は、本発明を実施するための好適な形態の一例について、図を参照しながら説明するものである。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0038】
<<第1実施形態>>
第1実施形態の熱輸送デバイス1は、高温熱源と該高温熱源の外部との間に跨るように配設可能であり、蓄熱器において生成される熱音響の自励振動によって、該高温熱源からの熱を該高温熱源の外部に輸送可能である。
【0039】
<熱輸送デバイス1>
図1は、第1実施形態の熱輸送デバイス1を炉Fに取り付けた様子を模式的に示す概略図である。本実施形態の熱輸送デバイス1は、両端部を実質的に閉塞可能な管路11Pを内部に有する容器11を備える。
【0040】
〔容器11〕
容器11は、炉F等によって例示される高温熱源と該高温熱源の外部との間に跨るように配設可能である。以下、高温熱源は、単に「炉F等」とも称される。
【0041】
容器11は、容器11の内壁等によって画定され、両端部を実質的に閉塞可能な管路11Pを内部に有する。管路11Pの内部は、作動流体を封入可能であり、かつ、第1熱交換器12と蓄熱器13と第2熱交換器14とが管路11Pの第1端部11E1から第2端部11E2に向けて順に配設されている。
【0042】
[容器11の材質]
容器11の材質は、特に限定されない。容器11の材質として、例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金、コバルト合金、耐熱セラミック等が挙げられる。
【0043】
容器11の材質は、ステンレス鋼を含むことが好ましい。これにより、容器11及び熱輸送デバイス1は、高温においてステンレス鋼に由来する種々の好ましい物理的特性を発揮し得る。該物理的特性に関し、なかでも、ステンレス鋼に由来する高温腐食への耐性は、炉F等からの熱を輸送する熱輸送デバイス1を長期間運用することを可能とし得る。
【0044】
炉F等の温度が550℃以上となり得る場合、容器11のうち炉F等の位置に配設される部分の材質は、ステンレス鋼の中でもオーステナイト系のステンレス鋼を含むことが好ましい。容器11がステンレス鋼の中でも高温での耐食性に優れるオーステナイト系のステンレス鋼を材質として含むことにより、熱輸送デバイス1は、よりいっそう長期間運用可能となり得る。
【0045】
炉F等の温度が900℃以上となり得る場合、容器11のうち炉F等の位置に配設される部分の材質は、ニッケル合金及び/又はコバルト合金を含むことが好ましい。ニッケル合金及びコバルト合金は、耐熱性に優れているとの物理的特性を有する。容器11がニッケル合金及び/又はコバルト合金を材質として含むことにより、熱輸送デバイス1は、よりいっそう長期間運用可能となり得る。
【0046】
炉F等の温度が900℃以上となり得る場合、容器11のうち炉F等の位置に配設される部分の材質は、ニッケル合金の中でもニッケル-クロム合金及び/又はニッケル-鉄-クロム合金を含むことが好ましい。これらの合金は、高温での対酸化性に優れているとの物理的特性を有する。容器11がこれらの合金を材質として含むことにより、熱輸送デバイス1は、よりいっそう長期間運用可能となり得る。
【0047】
ニッケル-クロム合金として、例えば、Haynes 230合金(登録商標)等のニッケル-クロム-タングステン-モリブデン合金、Haynes 214合金(登録商標)等のニッケル-クロム-アルミニウム-鉄合金、Haynes 233合金(登録商標)等のニッケル-コバルト-クロム-モリブデン-アルミニウム合金、等が挙げられる。Haynes 230合金は、MA23合金とも称される。
【0048】
ニッケル-鉄-クロム合金として、例えば、Haynes HR-224合金(登録商標)等のニッケル-鉄-コバルト-アルミニウム合金、等が挙げられる。
【0049】
炉F等の温度が900℃以上となり得る場合、容器11のうち炉F等の位置に配設される部分の材質は、コバルト合金の中でもコバルト-ニッケル合金を含むことが好ましい。コバルト-ニッケル合金は、高温での対酸化性に優れているとの物理的特性を有する。容器11がコバルト-ニッケル合金を材質として含むことにより、熱輸送デバイス1は、よりいっそう長期間運用可能となり得る。
【0050】
コバルト-ニッケル合金として、例えば、Haynes 25合金、Haynes 188合金(登録商標)等のコバルト-ニッケル-クロム-タングステン合金等が挙げられる。
【0051】
[管路11Pの形状]
管路11Pの形状は、特に限定されない。管路11Pの形状として、例えば、略直線的な形状、湾曲部を含む形状等が挙げられる。
【0052】
管路11Pの形状が略直線的な形状であることにより、湾曲部において熱音響の自励振動の位相にバラつきが生じて自励振動が弱まることを低減し得る。管路11Pの形状が湾曲部を含む形状である場合、湾曲部は、熱音響の自励振動の伝達を妨げ得る急な曲げ角度となる部分を含まない形状であることが好ましい。
【0053】
(圧力制御手段等を接続可能であること)
管路11Pの形状は、後述する圧力制御手段15を接続可能な孔及び/又は枝管を有する形状であることが好ましい。これにより、圧力制御手段15を管路11Pに接続し、管路11P内部に封入された作動流体の圧力を制御することが可能となる。
【0054】
管路11Pの形状は、温度測定手段を接続可能な孔及び/又は枝管を有する形状であることが好ましい。これにより、温度測定手段を管路11Pに接続し、管路11P内部に封入された作動流体の温度を測定することが可能となる。
【0055】
(管路11Pの寸法)
管路11Pの長さは、特に限定されない。熱輸送デバイス1を配置するスペース等に応じて、管路11Pの長さは、適宜設定可能である。
【0056】
管路11Pの断面積は、特に限定されない。熱輸送デバイス1を配置するスペース、熱輸送デバイス1に求められる熱輸送量等に応じて、管路11Pの断面積は、適宜設定可能である。
【0057】
管路11Pの断面積が大きいことにより、管路11Pの第1熱交換器12から第2熱交換器14まで熱を輸送する作動流体の体積をよりいっそう増やし得る。これにより、熱輸送デバイス1は、より多くの熱を輸送し得る。管路11Pの断面積が小さいことにより、熱輸送デバイス1は、より狭いスペースに設置可能となる。
【0058】
[作動流体]
(作動流体の種類)
作動流体は、特に限定されない。作動流体として、例えば、空気、湿り空気、不活性ガス、等を含む気体が挙げられる。
【0059】
作動流体は、中でも、空気を含むことが好ましい。漏出時の環境への影響が小さく調達容易な空気を含む作動流体であることにより、熱輸送デバイス1の運用による環境への悪影響と運用に係るコストとを低減し得る。
【0060】
作動流体は、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、等によって例示される不活性ガスを含んでもよい。これにより、管路11P及び管路11P内部に配設された各部材の酸化及び腐食が抑制され得るとともに、蓄熱器13により生成される自励振動が空気を作動流体として用いる場合より強くなることが見込まれ得る。
【0061】
作動流体は、高温熱源の温度と後述する熱媒の温度との間で気相と液相との間を行き来可能な物質を有する空気(湿り空気)を含んでもよい。該物質として、例えば、水、エタノール等が挙げられる。作動流体が湿り空気を含むことにより、蓄熱器13により生成される自励振動が空気を作動流体として用いる場合より強くなることが見込まれ得る。
【0062】
(作動流体の圧力)
作動流体が空気である場合、炉F等からの熱を輸送しない場合における作動流体の圧力の上限は、特に限定されない。該上限は、例えば、0.2MPa以下であることが好ましく、0.15MPa以下であることがよりいっそう好ましく、0.13MPa以下であることがさらにいっそう好ましい。以下、炉F等からの熱を輸送しない場合における作動流体の圧力の上限は、単に「第1圧力」とも称される。
【0063】
常圧付近の空気における自励振動の生成は、比較的弱いことが知られている。このような弱い自励振動が生成される場合は、管路内の熱音響は、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少する。
【0064】
炉F等からの熱を輸送しない場合における作動流体の圧力の下限を上述のように定めることにより、管路内の熱音響を実質的に停止させることができる。
【0065】
作動流体が空気である場合、炉F等からの熱を輸送する場合における作動流体の圧力の下限は、特に限定されない。該下限は、例えば、0.3MPa以上であることが好ましく、0.4MPa以上であることがよりいっそう好ましく、0.5MPa以上であることがさらにいっそう好ましい。以下、炉F等からの熱を輸送する場合における作動流体の圧力の下限は、単に「第2圧力」とも称される。
【0066】
本発明者らは、鋭意検討した結果、作動流体が空気であっても、常圧より高い所定の圧力以上であれば、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少することのない充分に強い自励振動を生成できることを見出した。
【0067】
炉F等からの熱を輸送する場合における作動流体の圧力の下限を上述のように定めることにより、作動流体が空気であるにもかかわらず、管路内の熱音響を増大させることができる。
【0068】
作動流体が空気である場合、炉F等からの熱を輸送する場合における作動流体の圧力の上限は、2MPa以下であることが好ましく、1.5MPa以下であることがよりいっそう好ましく、1MPa以下であることがさらにいっそう好ましい。
【0069】
炉F等からの熱を輸送する場合における作動流体の圧力の上限を上述のように定めることにより、作動流体の漏出がもたらす事故のリスクが軽減され得る。また、炉F等からの熱を輸送する場合における作動流体の圧力の上限を上述のように定めることにより、高すぎる圧力による熱輸送量の低下が防がれ得る。
【0070】
〔第1熱交換器12〕
第1熱交換器12は、炉F等の熱を作動流体に移動可能な位置に配設される。第1熱交換器12は、容器11が炉F等から得た熱を、管路11Pからの輻射、容器11から第1熱交換器12への熱伝導等によって得ることと、受け取った熱を熱伝導等によって作動流体に移動することと、が可能であれば、特に限定されない。
【0071】
第1熱交換器12は、容器11と別体に構成されていてもよく、容器11と実質的に一体に構成されていてもよい。ここで、ある部材が「容器11と実質的に一体に構成されている」とは、熱輸送デバイス1が炉F等からの熱を輸送する場合において、該部材が容器11等と一体に管路11Pを画定することを指す。
【0072】
[第1熱交換器12を配設する位置]
第1熱交換器12を配設する位置は、第1熱交換器12と蓄熱器13と第2熱交換器14とが管路11Pの第1端部11E1から第2端部11E2に向けて順に配設されるような位置であって、炉F等の熱を作動流体に移動可能な位置であれば、特に限定されない。該位置として、例えば、炉F等と炉F等の外部との間に跨るように熱輸送デバイス1を配設した場合において、容器11のうち炉F等の周辺となる部分に対応する管路11Pの位置が挙げられる(図1)。
【0073】
第1熱交換器12を配設する位置は、中でも、蓄熱器13の近傍であることが好ましい。これにより、第1熱交換器12は、蓄熱器13の一端の周辺にある作動流体の温度を該位置が蓄熱器13の近傍でない場合より高め得る。
【0074】
第1熱交換器12の蓄熱器13に近い端部と蓄熱器13の第1熱交換器12に近い端部との間の距離の上限は、管路11Pの長さの1/40以下であることが好ましく、管路11Pの長さの1/70以下であることがよりいっそう好ましく、管路11Pの長さの1/100以下であることがさらにいっそう好ましい。これにより、第1熱交換器12は、蓄熱器13の一端の周辺にある作動流体の温度をよりいっそう高め得る。
【0075】
[第1熱交換器12の寸法]
第1熱交換器12の管路11Pに沿った向きにおける長さは、特に限定されない。該長さの下限は、管路11Pの長さの2/100以上であることが好ましく、管路11Pの長さの3/100以上であることがさらにいっそう好ましい。これにより、第1熱交換器12は、蓄熱器13の一端の周辺にある作動流体の温度をよりいっそう高め得る。
【0076】
第1熱交換器12の管路11Pに沿った向きにおける長さの上限は、管路11Pの長さの30/100以下であることが好ましく、管路11Pの長さの25/100以下であることがさらにいっそう好ましい。これにより、第1熱交換器12が熱音響の自励振動に期待されていない種々の影響を与えることを低減し得る。
【0077】
[プレート式熱交換器]
第1熱交換器12として、例えば、面に沿った方向のいずれかが管路11Pに沿った向きと略一致する略板状の受熱部を複数有するプレート式熱交換器が挙げられる。プレート式熱交換器である第1熱交換器12は、略板状の受熱部(プレート)を略平行に並べて構成される。このとき、プレートの面に沿った方向のいずれかが管路11Pに沿った向きと略一致することが好ましい。これにより、プレートが作動流体を伝播する熱音響の自励振動を遮ることを低減し得る。
【0078】
プレート式熱交換器である第1熱交換器12は、受熱部と容器11との接続部分の断面積を大きくし得る。これにより、容器11から受熱部への熱伝導による熱移動が盛んにおこなわれることが期待される。また、プレート式熱交換器である第1熱交換器12は、受熱部の数に対する受熱部の表面積を大きくし得る。これにより、受熱部から作動流体への熱伝導による熱移動が盛んにおこなわれることが期待される。
【0079】
プレート式熱交換器の材質は、上述の容器11の材質と同様でよい。プレート式熱交換器の材質がもたらす効果は、上述の容器11の材質について記載した効果と同様である。
【0080】
[ピン式熱交換器]
第1熱交換器12として、例えば、長手方向が管路11Pに沿った向きと略一致する棒状の受熱部を複数有するピン式熱交換器が挙げられる。図2は、第1熱交換器12の好ましい態様の一例を示す図である。以下、図2を用いて本実施形態の第1熱交換器12をピン式熱交換器として構成する場合の好ましい態様の一例が説明される。
【0081】
ピン式熱交換器である第1熱交換器12は、土台部に配設され、長手方向が管路11Pに沿った向き(図2の矢印の向き)と略一致する棒状の受熱部12aを複数有する。土台部は、板状の部材として構成されてもよく、管路11Pの第1端部11E1と一体に構成されてもよい。以下、ピン式熱交換器である第1熱交換器12は、単に「ピン式熱交換器」とも称される。
【0082】
炉F等と炉F等の外部との間に跨るように熱輸送デバイス1を配設した場合において、炉F等の熱は、まず、容器11に移動する。続いて、容器11に移動した熱は、輻射及び熱伝導を介して第1熱交換器12に移動する。そして、第1熱交換器12に移動した熱は、熱伝導を介して作動流体に移動する。
【0083】
ところで、温度が互いに異なる2物体間において、熱伝導による熱移動量は、絶対温度それぞれの差に比例する。一方、輻射による熱移動量は、絶対温度の4乗それぞれの差に比例する。したがって、絶対温度が高い高温において、輻射による熱移動量は、熱伝導による熱移動量より大きくなることが見込まれる。
【0084】
しかしながら、プレート式熱交換器を用いて第1熱交換器12を構成する場合、容器内壁との間を他のプレートに遮られたプレートが輻射を十分に受けられないことが懸念される。よって、プレート式熱交換器は、絶対温度が高い炉F等からの熱を輻射によって第1熱交換器12に移動する点において、さらなる改良の余地があり得る。
【0085】
ピン式熱交換器は、長手方向が管路に沿った向きと略一致する棒状の受熱部12aを複数有する。これにより、受熱部12aは、容器11からの輻射を遮ることなく、容器11からの輻射を受熱することができる。これにより、容器11から第1熱交換器12への熱の移動が高められ得る。よって、ピン式熱交換器は、炉F等の熱をよりいっそう作動流体に移動させることができる。
【0086】
炉F等の熱をよりいっそう作動流体に移動させることにより、ピン式熱交換器は、蓄熱器における温度勾配をよりいっそう大きくできる。通常、蓄熱器における温度勾配が大きくなるにつれ、生成される自励振動は、よりいっそう強くなる。よって、ピン式熱交換器は、自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0087】
ピン式熱交換器の材質は、上述の容器11の材質と同様でよい。ピン式熱交換器の材質がもたらす効果は、上述の容器11の材質について記載した効果と同様である。
【0088】
(土台部を管路11Pの第1端部11E1と一体に構成することについて)
図3は、図1の第1熱交換器12周辺を拡大した図である。図3を用いて本実施形態の第1熱交換器12をピン式熱交換器として構成する場合のよりいっそう好ましい態様の一例が説明される。
【0089】
本実施形態の第1熱交換器12をピン式熱交換器として構成する場合、土台部は、管路11Pの第1端部11E1と一体に構成されることが好ましい。
【0090】
本実施形態の熱輸送デバイス1は、作動流体における熱音響の自励振動によって炉F等の熱を輸送する。ところで、自励振動は、作動流体を媒質とする音波としての性質を有する。したがって、管路11P内部に音波を妨げるような構造がある場合、熱音響の自励振動が妨げられ得る。これにより、より強い自励振動が生成されることが阻害され得る。
【0091】
土台部が管路11Pの第1端部11E1と一体に構成されることにより、管路11P内に別体に構成された土台部が音波を妨げることが防がれ得る。よって、土台部が熱音響の自励振動を阻害することがよりいっそう低減され得る。
【0092】
加えて、該構成では、第1端部11E1から蓄熱器13までの距離以下の長さで受熱部12aを構成し得るため、受熱部12aの表面積をより大きくすることができる。これにより、受熱部12aは、より多くの熱を受熱して作動流体に移動させることができる。これにより、熱輸送デバイス1の熱輸送能力がよりいっそう高められ得る。
【0093】
ピン式熱交換器における受熱部12aの長手方向の長さは、特に限定されない。受熱部12aの長手方向の長さとして、例えば、ピン式熱交換器の管路11Pの向きに沿った長さと略一致する長さ、管路11Pに近い位置に配設される受熱部12aをより短くする長さ、等が挙げられる。
【0094】
ピン式熱交換器における受熱部12aの太さは、特に限定されない。受熱部12aの太さの下限は、1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがよりいっそう好ましく、1.8mm以上であることがさらにいっそう好ましい。これにより、受熱部12aが熱音響の自励振動等によって変形することを低減し得る。
【0095】
受熱部12aの太さの上限は、6mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがよりいっそう好ましく、3mm以下であることがさらにいっそう好ましい。これにより、受熱部12aの1本あたりにおける表面積が大きくなる。よって、受熱部12aと作動流体との間の熱伝達による熱の移動がよりいっそう促進され得る。
【0096】
ピン式熱交換器における受熱部12aの配置間隔は、特に限定されない。受熱部12aの配置間隔の下限は、管路11Pに封入された作動流体における熱境界層の厚さ以上であることがよりいっそう好ましい。これにより、受熱部12aが熱音響の自励振動を阻害することがよりいっそう低減され得る。
【0097】
受熱部12aの配置間隔の上限は、受熱部12aの太さの2倍以下であることが好ましく、受熱部12aの太さの3/2倍以下であることがよりいっそう好ましい。これにより、より多くの受熱部12aを土台部に設け、複数の受熱部12a全体から作動流体への熱の移動量が高めることができる。また、これにより、管路11Pの内側からの輻射熱が受熱部12aにおいて受熱されないことが低減され得る。
【0098】
〔蓄熱器13〕
図1に戻る。蓄熱器13は、温度勾配に応じて熱音響の自励振動を生成可能な部材である。蓄熱器13の形状は、略柱状である。蓄熱器13は、両底面を連通する空隙を含む。
【0099】
蓄熱器13の形状が略柱状であることにより、蓄熱器13は、管路11P内部に配設することが容易となる。蓄熱器13の形状が略柱状であることにより、蓄熱器13は、平面状の両端部において、熱音響の自励振動を管路11Pに沿った向きに生成可能となる。
【0100】
上述の空隙は、蓄熱器13が熱輸送デバイス1の管路11P内に配設された場合において、管路11Pにおける高温部の周辺と管路11Pにおける低温部の周辺とを連通可能である。ここで、高温部は、第1熱交換器12が炉F等から移動した熱がもたらす高温部である。よって、高温部の周辺は、例えば、第1熱交換器12周辺である。また、ここで、低温部は、第2熱交換器14における熱の移動がもたらす低温部である。よって、低温部の周辺は、例えば、第2熱交換器14周辺である。
【0101】
蓄熱器13が熱輸送デバイス1の管路11P内に配設された場合において管路11Pにおける高温部の周辺と管路11Pにおける低温部の周辺とを連通可能な空隙を含むことにより、蓄熱器13は、管路11P内に配設された場合において、高温部と低温部との温度差によって蓄熱器13の内部に生じた温度勾配に応じて熱音響の自励振動を生成可能である。
【0102】
蓄熱器13は、容器11と別体に構成されていてもよく、容器11と実質的に一体に構成されていてもよい。
【0103】
[空隙の流路半径]
空隙の流路半径r[m]は、蓄熱器13において生成される熱音響の自励振動に関する作動流体の熱境界層の厚さδ[m]について、以下の式(1)の関係を満たしていることが好ましい。より詳細には、(r/δ)が0.1乃至10の範囲であることが好ましい。
【数1】
【0104】
以下は、非特許文献1に基づく上述の関係の説明である。作動流体の熱境界層の厚さδ[m]は、作動流体の熱拡散率をα[m/s]、自励振動の角振動数をω[Hz]とすると、以下の式(2)によって与えられる。
【数2】
【0105】
蓄熱器13の空隙で起こる熱交換は、熱音響による振動の媒体である作動流体の熱緩和時間τ[s]と角振動数ω[Hz]との積で定義される無次元量ωτによって決定される。ここで、熱緩和時間τ[s]は、以下の式(3)によって与えられる。
【数3】
【0106】
ωτの値が1近傍である場合、流路を形成する固体壁と作動流体の間の熱交換は不十分になり、流路断面内の正味の熱交換過程に時間遅れ(位相遅れ)が生じる。これにより、熱音響の自励振動が生成され得る。
【0107】
上述の式(2)と式(3)とを組み合わせて変形すると、以下の式(4)が得られる。よって、式(1)の条件を満たす流路半径r[m]及び熱境界層の厚さδ[m]の関係であれば、蓄熱器13において、熱音響の自励振動が生成され得る。
【数4】
【0108】
[蓄熱器13の管路11Pに沿った長さ]
蓄熱器13の管路11Pに沿った長さの下限は、管路11Pの長さ(管路長)の9%以上であることが好ましく、管路長の13%以上であることがよりいっそう好ましい。
【0109】
本発明者らは、熱音響の自励振動に関する数値計算の結果と実機における測定値とが相違する場合があることを見出した。本発明者らは、鋭意検討した結果、実機における蓄熱器の一部が熱交換器としても機能するとの実機と数値計算との相違が上述の相違を生む可能性があることを見出した。
【0110】
高温の炉に適用する熱輸送デバイス1においては、炉からの熱を作動流体に移動させる手段が常温付近又は常温未満の低温で動作する熱音響装置よりいっそう重要である。蓄熱器13の管路11Pに沿った長さの下限が上述の閾値以上であれば、蓄熱器13のうち熱交換器として機能する部分をより大きくできる。
【0111】
よって、管路11Pに沿った長さの下限が上述の閾値以上である蓄熱器13は、炉からの熱を作動流体に移動させる追加の手段として機能し得る。すなわち、管路11Pに沿った長さの下限が上述の閾値以上である蓄熱器13は、炉F等からの熱をよりいっそう輸送することに寄与し得る。
【0112】
[蓄熱器13の材質]
蓄熱器13の材質は、特に限定されない。蓄熱器13の材質は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料、セラミック等の無機材料、グラファイトシート等の熱伝導異方性材料、等の1以上を含む。
【0113】
蓄熱器13の材質に関し、炉F等の熱を炉F等の外部に輸送する熱輸送デバイス1では、蓄熱器13の耐熱性が求められる。
【0114】
蓄熱器13の材質が無機材料を含む場合、蓄熱器13は、例えば、セラミックハニカム等の無機材料を焼結させて形成された多孔体として構成可能である。これにより、耐熱性及び高温での耐腐食性に優れた蓄熱器13が実現され得る。
【0115】
蓄熱器13の材質に関し、自励振動を用いた熱輸送デバイスでは、蓄熱器内部の温度勾配が大きいほど、生成される熱音響の自励振動が強まる。また、自励振動を用いた熱輸送デバイスでは、蓄熱器と作動流体との間の熱移動が容易であるほど、生成される熱音響の自励振動が強まる。
【0116】
しかしながら、蓄熱器13内部の温度勾配の解消を低減するためには蓄熱器13の熱伝導率を低くすることが有効である一方、蓄熱器13と作動流体との間の熱移動を容易とするためには蓄熱器13の熱伝導率を高くすることが有効である。したがって、これらの条件を両立し、生成される熱音響の自励振動が強めることは、容易ではない。
【0117】
蓄熱器13の材質が金属材質を含む場合、蓄熱器13は、例えば、金属材料を用いて形成された薄板状のメッシュを重ねた金属メッシュ積層体として構成可能である。
【0118】
これにより、蓄熱器13は、メッシュの面に沿った方向において高い熱伝導率を実現できる。すなわち、金属メッシュ積層体として構成された蓄熱器13と作動流体との間の熱移動を容易とすることができる。
【0119】
また、これにより、蓄熱器13は、メッシュを重ねた方向において、メッシュ間の接触面積を減らすことができる。すなわち、金属メッシュ積層体として構成された蓄熱器13は、メッシュを重ねた方向と温度勾配の向きとを略一致させ、蓄熱器13内部の温度勾配の解消を低減できる。
【0120】
よって、金属メッシュ積層体として構成された蓄熱器13は、温度勾配の向きにおける熱伝導率を低く抑えて蓄熱器13における熱伝導が温度勾配を解消することを抑制することと、温度勾配の向きと異なる向きにおける高い熱伝導率の実現により蓄熱器13と作動流体との間の熱移動を容易とすることと、を両立し得る。
【0121】
蓄熱器13の材質は、熱伝導異方性材料を含むことが好ましい。蓄熱器13の材質が熱伝導異方性材料を含むことにより、蓄熱器13を熱伝導異方性材料の熱伝導率が低い向きが管路11Pに沿った向きと略同じであるよう構成できる。
【0122】
ところで、面方向の熱伝導率が厚み方向の100倍以上であるよう構成されたグラファイトシート等の熱伝導異方性材料が知られている。このように、熱伝導異方性材料は、熱伝導率が低い向きと熱伝導率が高い向きとにおいて、熱伝導率が大きく異なるよう構成可能である。
【0123】
上述した熱伝導異方性材料の特性により、熱伝導異方性材料の熱伝導率が低い向きが管路11Pに沿った向きと略同じであるよう構成された蓄熱器13は、温度勾配の向きにおける熱伝導率を金属メッシュ積層体より低く抑えて蓄熱器13における熱伝導が温度勾配を解消することを抑制することと、温度勾配の向きと異なる向きにおける高い熱伝導率の実現により蓄熱器13と作動流体との間の熱移動を容易とすることと、高い耐熱性を有する蓄熱器13の実現と、を両立し得る。
【0124】
熱伝導異方性材料は、特に限定されないものの、上述のグラファイトシートを含むことが好ましい。これにより、熱伝導異方性材料のなかでも面方向の熱伝導率を厚み方向の100倍以上とし得るグラファイトシートの優れた特性が活用され得る。
【0125】
熱伝導異方性材料が板状に形成可能であり、板状に形成された場合において面方向の熱伝導率が厚み方向より高い材料である場合、蓄熱器13は、空隙に対応する孔を設けた熱伝導異方性材料の板状体を積層した熱伝導異方性材料積層体として構成されることが好ましい。このような熱伝導異方性材料積層体として、例えば、グラファイトシート積層体が挙げられる。これにより、熱伝導異方性材料の熱伝導率が低い向きが管路11Pに沿った向きと略同じであり、かつ、積層した薄板それぞれに設けられた孔によって形成される空隙を有する蓄熱器13を得うる。
【0126】
熱伝導異方性材料が膜状に形成可能であり、膜状に形成された場合において面方向に沿ったいずれかの向きにおける熱伝導率が厚み方向より低い場合、蓄熱器13は、熱伝導率が低い向きが管路11Pの向きになるよう熱伝導異方性材料の膜を丸めて構成されることが好ましい。これにより、熱伝導異方性材料の熱伝導率が低い向きが管路11Pに沿った向きと略同じであり、かつ、丸めた膜と膜との間に空隙が形成された蓄熱器13を得うる。
【0127】
[蓄熱器13を配設する位置]
蓄熱器13を配設する位置は、第1熱交換器12と蓄熱器13と第2熱交換器14とが管路11Pの第1端部11E1から第2端部11E2に向けて順に配設されるような位置であって、管路11Pの第1端部11E1から蓄熱器13の中心までの管路11Pに沿った距離を管路11Pの長さで割った比である蓄熱器相対位置が、後述の条件を満たす位置であることが好ましい。
【0128】
熱音響の自励振動をエネルギーとして利用する熱音響エンジンにおいて、蓄熱器相対位置が1/4乃至1/3である場合に、熱音響の自励振動の生成における熱効率が高まることが知られている。しかしながら、熱音響エンジンにおいて自励振動の生成における熱効率が求められることと異なり、熱音響の自励振動を熱輸送に利用する熱輸送デバイスでは、熱輸送を好適に行う自励振動の生成が求められる。
【0129】
本発明者らは、鋭意検討した結果、蓄熱器相対位置が以下の条件を満たす位置である場合に、熱輸送を好適に行う自励振動を生成可能であることを見出した。
【0130】
蓄熱器相対位置の下限は、2/25以上であることが好ましく、4/25以上であることがよりいっそう好ましい。また、蓄熱器相対位置の上限は、9/25以下であることが好ましく、8/25以下であることがよりいっそう好ましい。
【0131】
〔第2熱交換器14〕
第2熱交換器14は、作動流体の熱を炉F等の外部の熱媒に移動可能である。第2熱交換器14及び熱媒は、特に限定されない。
【0132】
第2熱交換器14は、容器11と別体に構成されていてもよく、容器11と実質的に一体に構成されていてもよい。
【0133】
[第2熱交換器14の方式]
第2熱交換器14は、液体を熱媒として利用する気液熱交換器であることが好ましい。これにより、第2熱交換器14は、気体より比熱が大きい液体を用いて、作動流体の熱を炉F等の外部の熱媒に移動し得る。
【0134】
液体である熱媒は、水を主成分とすることが好ましい。水を主成分とする熱媒は、水の高い比熱を熱媒で利用し得ると共に、熱媒が環境に望まぬ影響を与えることを防ぎ得る。また、これにより、熱媒の調達が容易となり得る。
【0135】
気液熱交換器である第2熱交換器14の方式は、特に限定されない。該方式として、例えば、シェルアンドチューブ式気液熱交換器、フィンチューブ式気液熱交換器、扁平管フィンレス式気液熱交換器、コイル式気液熱交換器、等が挙げられる。
【0136】
気液熱交換器である第2熱交換器14の方式は、中でも、熱媒を流すことが可能なシェルの内部を管路11Pの向きに沿って作動流体が通過可能なチューブが通過するよう構成されたシェルアンドチューブ式気液熱交換器であることが好ましい。シェルアンドチューブ式気液熱交換器である第2熱交換器14は、作動流体における圧力損失を低減することと、作動流体の熱を炉F等の外部の熱媒に移動する効率を高めることと、を両立し得る。
【0137】
[第2熱交換器14の寸法]
第2熱交換器14の管路11Pに沿った向きにおける長さは、特に限定されない。該長さの下限は、管路11Pの長さの1/100以上であることが好ましく、管路11Pの長さの2/100以上であることがよりいっそう好ましく、管路11Pの長さの3/100以上であることがさらにいっそう好ましい。これにより、第2熱交換器14は、蓄熱器13の一端の周辺にある作動流体からの熱をよりいっそう移動し得る。
【0138】
該長さの上限は、管路11Pの長さの10/100以下であることが好ましく、管路11Pの長さの8/100以下であることがさらにいっそう好ましい。これにより、第2熱交換器14が熱音響の自励振動に期待されていない種々の影響を与えることを低減し得る。
【0139】
[第2熱交換器14を配設する位置]
第2熱交換器14を配設する位置は、第1熱交換器12と蓄熱器13と第2熱交換器14とが管路11Pの第1端部11E1から第2端部11E2に向けて順に配設されるような位置であって、作動流体の熱を炉F等の外部の熱媒に移動可能な位置であれば、特に限定されない。該位置として、例えば、炉F等と炉F等の外部との間に跨るように熱輸送デバイス1を配設した場合において、容器11のうち炉F等の外部の周辺となる部分に対応する管路11Pの位置が挙げられる(図1)。
【0140】
第2熱交換器14を配設する位置は、中でも、蓄熱器13の近傍であることが好ましい。これにより、第2熱交換器14は、蓄熱器13の一端の周辺にある作動流体の温度を該位置が蓄熱器13の近傍でない場合より低くし得る。
【0141】
第2熱交換器14の蓄熱器13に近い端部と蓄熱器13の第2熱交換器14に近い端部との間の距離の上限は、管路11Pの長さの1/40以下であることが好ましく、管路11Pの長さの1/70以下であることがよりいっそう好ましく、管路11Pの長さの1/100以下であることがさらにいっそう好ましい。これにより、第2熱交換器14は、蓄熱器13の一端の周辺にある作動流体の温度をよりいっそう低くし得る。
【0142】
〔圧力制御手段15〕
熱輸送デバイス1は、管路11P内部に封入された作動流体の圧力を制御可能な圧力制御手段15を備えることが好ましい。圧力制御手段15は、少なくとも、作動流体の圧力を上げることが可能な加圧手段と、作動流体の圧力を下げることが可能な減圧手段と、を含んで構成される。加圧手段及び減圧手段は、共通の1つの弁を介して管路11P内部と接続されていてもよく、加圧手段に対応する弁及び減圧手段に対応する弁を含む複数の弁を介して管路11P内部と接続されていてもよい。
【0143】
[加圧手段]
加圧手段は、特に限定されない。加圧手段として、例えば、管路11Pと接続可能なコンプレッサー等が挙げられる。圧力制御手段15は、加圧手段を含むことにより、熱輸送量を増やす指令に応じて、蓄熱器13が自励振動を強めるよう、作動流体の圧力を上げる制御が可能である。
【0144】
蓄熱器13における熱音響の自励振動の生成は、作動流体の圧力の影響を受けることが知られている。ところで、常圧付近の空気における自励振動の生成は、比較的弱い。このような弱い自励振動が生成される場合は、管路内の熱音響は、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少する。
【0145】
圧力制御手段15が加圧手段を含んで構成されることにより、作動流体の圧力を常圧又は上述の第1圧力以下の圧力から上述の第2圧力以上の圧力に上げることができる。これにより、蓄熱器13は、作動流体が空気であっても、熱音響の自励振動を生成し、又は、強めることができる。この熱音響の自励振動を用いて、熱輸送デバイス1は、炉F等から炉F等の外部へ熱を輸送できる。
【0146】
よって、圧力制御手段15は、加圧手段によって作動流体の圧力を上述の第2圧力以上に上げることにより、「(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上」を実現できる。
【0147】
[減圧手段]
減圧手段は、特に限定されない。減圧手段は、特に限定されない。減圧手段として、例えば、管路11Pと接続可能な排気バルブ等が挙げられる。圧力制御手段15は、減圧手段を含むことにより、熱輸送量を増やす指令に応じて、蓄熱器13が自励振動を弱め、又は、実質的に停止するよう、作動流体の圧力を下げる制御が可能である。
【0148】
圧力制御手段15が減圧手段を含んで構成されることにより、作動流体の圧力を上述の第2圧力以上の圧力から上述の第1圧力以下の圧力に下げることができる。これにより、蓄熱器13は、作動流体が空気である場合に、熱音響の自励振動の生成を弱め、実質的に停止させることができる。熱音響の自励振動が停止するため、熱輸送デバイス1は、炉F等から炉F等の外部への熱輸送を停止できる。
【0149】
[圧力制御手段15の効果]
圧力制御手段15が加圧手段及び減圧手段を含んで構成されることにより、熱輸送デバイス1は、特許文献1のように圧力調整手段を進退させる駆動源を容器11内部に設ける等して熱輸送デバイス1の保守性を低下させるリスクを負うことなく、圧力制御手段15によって「(B)熱輸送量を調整可能とすること」を熱輸送量の増加と減少との両方の意味において実現できる。
【0150】
また、熱輸送デバイス1は、特許文献1のように圧力調整手段を進退させる駆動源を容器外部に設ける等して作動流体を漏出させるリスクを負うことなく、圧力制御手段15によって「(B)熱輸送量を調整可能とすること」を熱輸送の増加と減少との両方の意味において実現できる。
【0151】
よって、加圧手段及び減圧手段を含んで構成された圧力制御手段15を備える熱輸送デバイス1は、「(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上」と、「(B)熱輸送量を調整可能とすること」と、を両立できる。
【0152】
[コントローラ]
圧力制御手段15は、加圧手段及び減圧手段を制御可能なコントローラを含んで構成されることが好ましい。該コントローラは、ソフトウェア構成要素として、熱輸送の熱輸送量を減らす指令に応じて蓄熱器13が自励振動を弱めるよう作動流体の圧力を制御可能な第1圧力制御部と、熱輸送の熱輸送量を増やす指令に応じて蓄熱器13が自励振動を強めるよう作動流体の圧力を制御可能な第2圧力制御部と、を有する。
【0153】
これにより、圧力制御手段15は、熱輸送量を減らす指令に応じて自励振動を弱めるようにする圧力制御と、熱輸送量を増やす指令に応じて自励振動を強めるようにする作動流体の圧力制御と、を実行可能となる。
【0154】
コントローラのハードウェア構成は、特に限定されない。コントローラのハードウェア構成として、例えば、電子回路、集積回路、各種プロセッサ、各種端末、各種サーバ、等が挙げられる。
【0155】
コントローラがプログラムによって動作するプロセッサ、端末、サーバ等である場合、該コントローラは、適宜の記憶装置に格納された後述の圧力制御処理を実行可能なプログラムを該記憶装置から読みだして実行可能である。
【0156】
圧力制御手段15は、管路11Pに封入された作動流体の圧力を取得可能な圧力センサを含んで構成されることが好ましい。これにより、熱輸送デバイス1の利用者は、作動流体の圧力を参照しながら作動流体の加圧及び/又は減圧を行える。
【0157】
圧力センサは、上述のコントローラに取得した圧力を提供可能であることが好ましい。これにより、コントローラは、圧力センサが取得した圧力を参照して作動流体の圧力を制御できる。
【0158】
圧力制御手段15は、炉F等の温度を取得可能な温度センサを含んで構成されることが好ましい。これにより、コントローラは、炉F等の温度の時間変化が所望の変化となるよう作動流体の圧力を制御できる。
【0159】
圧力制御手段15は、熱輸送デバイス1の熱輸送量を取得可能であることが好ましい。これにより、コントローラは、熱輸送量が所望の量となるよう作動流体の圧力を制御できる。
【0160】
[圧力制御処理の流れ]
図4は、圧力制御手段15のコントローラが実行する圧力制御処理の好ましい流れの一例を示すメインフローチャートである。以下、図4を参照して、圧力制御手段15のコントローラが実行する圧力制御処理の好ましい流れの一例を説明する。
【0161】
コントローラは、まず、ステップS1からステップS3までの第1圧力制御ステップを実行する。
【0162】
(ステップS1:熱輸送量を減らす指令を受信したか判別)
コントローラは、第1圧力制御部を実行し、熱輸送量を減らす指令を受信したか判別する処理を行う(ステップS1、第1指令受信ステップ)。受信したと判別した場合、コントローラは、処理をステップS2へ移す。受信したと判別しなかった場合、コントローラは、処理をステップS4へ移す。
【0163】
必須の態様ではないが、圧力制御処理は、ステップS2の第1圧力判別ステップを含むことが好ましい。これにより、圧力制御処理は、作動流体の圧力を第1圧力以下とすることをよりいっそう確実に実現できる。
【0164】
(ステップS2:作動流体の圧力が第1圧力を上回るか判別)
コントローラは、圧力センサと協働して第1圧力制御部を実行し、作動流体の圧力が第1圧力を上回るか判別する処理を行う(ステップS2、第1圧力判別ステップ)。受信したと判別した場合、コントローラは、処理をステップS3へ移す。受信したと判別しなかった場合、コントローラは、処理をステップS4へ移す。
【0165】
(ステップS3:作動流体の圧力を下げる)
コントローラは、減圧手段と協働して第1圧力制御部を実行し、作動流体の圧力を下げる処理を行う(ステップS3、減圧ステップ)。コントローラは、処理をステップS2へ移す。
【0166】
(ステップS4:熱輸送量を増やす指令を受信したか判別)
コントローラは、第2圧力制御部を実行し、熱輸送量を増やす指令を受信したか判別する処理を行う(ステップS4、第2指令受信ステップ)。受信したと判別した場合、コントローラは、処理をステップS5へ移す。受信したと判別しなかった場合、コントローラは、処理をステップS6へ移す。
【0167】
必須の態様ではないが、圧力制御処理は、ステップS5の第2圧力判別ステップを含むことが好ましい。これにより、圧力制御処理は、作動流体の圧力を第2圧力以上とすることをよりいっそう確実に実現できる。
【0168】
(ステップS5:作動流体の圧力が第2圧力を下回るか判別)
コントローラは、圧力センサと協働して第2圧力制御部を実行し、作動流体の圧力が第2圧力を下回るか判別する処理を行う(ステップS5、第2圧力判別ステップ)。受信したと判別した場合、コントローラは、処理をステップS6へ移す。受信したと判別しなかった場合、コントローラは、処理をステップS1へ移し、ステップS1からステップS6の処理を繰り返す。
【0169】
(ステップS6:作動流体の圧力を上げる)
コントローラは、加圧手段と協働して第2圧力制御部を実行し、作動流体の圧力を上げる処理を行う(ステップS6、加圧ステップ)。コントローラは、処理をステップS5へ移す。
【0170】
(炉F等の温度変化を所望の変化にする制御)
圧力制御手段15が温度センサを含んで構成される場合、コントローラは、炉F等に設けられた温度センサによって測定される温度に関する所望の変化を受信する処理と、炉F等の温度が所望の変化における温度より低い場合に熱輸送量を減らす指令を行う処理と、炉F等の温度が所望の変化における温度より高い場合に熱輸送量を増やす指令を行う処理と、をさらに実行可能であることが好ましい。これにより、圧力制御手段15は、炉F等の温度変化を利用者が所望する変化にする制御を実現できる。
【0171】
(熱輸送量を所望の範囲にする制御)
圧力制御手段15が熱輸送デバイス1の熱輸送量を取得可能である場合、コントローラは、熱輸送量に関する所望の範囲を受信する処理と、取得した熱輸送量が所望の範囲を上回る場合に熱輸送量を減らす指令を行う処理と、取得した熱輸送量が所望の範囲を下回る場合に熱輸送量を増やす指令を行う処理と、をさらに実行可能であることが好ましい。これにより、圧力制御手段15は、熱輸送量を利用者が所望する範囲にする制御を実現できる。
【0172】
(圧力制御処理の効果)
常圧付近の空気における自励振動の生成は、比較的弱いことが知られている。このような弱い自励振動が生成される場合は、管路内の熱音響は、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少する。
【0173】
よって、作動流体が空気を含む場合、圧力制御手段15は、熱輸送量を減らす指令に応じて作動流体の圧力を上述の第1圧力未満にする圧力制御処理を行うため、管路11P内の熱音響を減少させることができる。
【0174】
本発明者らは、鋭意検討した結果、作動流体が空気であっても、常圧より高い所定の圧力以上であれば、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少することがない充分に強い自励振動を生成できることを見出した。
【0175】
圧力制御手段15は、熱輸送量を増やす指令に応じて作動流体の圧力を上述の第2圧力以上にする圧力制御処理を行うため、作動流体が空気であるにもかかわらず、管路11P内の熱音響を増大させることができる。
【0176】
よって、上述の圧力制御処理を実行可能であることにより、圧力制御手段15は、熱輸送量を減らす指令に応じて蓄熱器13が自励振動を弱めるようにする圧力制御が可能である。また、上述の圧力制御処理を実行可能であることにより、圧力制御手段15は、熱輸送量を増やす指令に応じて蓄熱器13が自励振動を強めるようにする圧力制御が可能である。
【0177】
これにより、圧力制御手段15は、「(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上」と「(B)熱輸送量を調整可能とすること」とを両立できる。
【0178】
上述の圧力制御手段15は、特許文献1のように圧力調整手段を進退させる駆動源を容器11内部に設ける等して熱輸送デバイス1の保守性を低下させるリスクを負うことなく、圧力制御手段15による「(B)熱輸送量を調整可能とすること」を熱輸送量の増加と減少との両方の意味において実現できる。
【0179】
また、上述の圧力制御手段15は、特許文献1のように圧力調整手段を進退させる駆動源を容器11外部に設ける等して作動流体を漏出させるリスクを負うことなく、圧力制御手段15による「(B)熱輸送量を調整可能とすること」を熱輸送の増加と減少との両方の意味において実現できる。
【0180】
したがって、上述の圧力制御処理を実行可能である圧力制御手段15は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイス1において、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0181】
〔高温熱源〕
高温熱源は、特に限定されない。高温熱源として、例えば、炉F等によって例示される各種加熱炉、排気管等を通して排出される高温の排ガス、太陽熱を受熱可能な部材、等が挙げられる。
【0182】
高温熱源は、600℃以上となり得ることが好ましい。これにより、熱輸送デバイス1は、加圧された空気を作動流体として用いる場合であっても、高温熱源から高温熱源の外部へと熱を輸送し得る。
【0183】
高温熱源は、800℃以上となり得ることが好ましい。これにより、熱輸送デバイス1は、加圧された空気を作動流体として用いる場合であって、該空気の圧力が1MPa以下と比較的低い場合であっても、高温熱源から高温熱源の外部へと熱を輸送し得る。
【0184】
<<第2実施形態>>
第1実施形態の熱輸送デバイス1が高温熱源と該高温熱源の外部との間に跨るように配設可能に構成され、容器の一端にのみ蓄熱器を配設するのに対し、第2実施形態の熱輸送デバイス5は、高温熱源から高温熱源の外部を経て高温熱源に至るよう配設可能に構成され、容器の両端に温度勾配のある蓄熱器及び蓄熱器それぞれに対応する熱交換器群をそれぞれ設けたものである。
【0185】
<熱輸送デバイス5>
図5は、第2実施形態の熱輸送デバイス5を炉Fに取り付けた様子を模式的に示す概略図である。本実施形態の熱輸送デバイス5は、両端部を実質的に閉塞可能な管路51Pを内部に有する容器51を備える。
【0186】
〔容器51〕
第1実施形態の容器11と異なり、容器51は、炉F等によって例示される高温熱源から高温熱源の外部を経て高温熱源に至るよう配設可能である。
【0187】
第1実施形態の容器11と異なり、容器51は、容器51の内壁等によって画定され、両端部を実質的に閉塞可能な管路51Pを内部に有する。管路51Pの内部は、作動流体を封入可能であり、かつ、第1熱交換器52と第1蓄熱器53と第2熱交換器54と第3熱交換器55と第2蓄熱器56と第4熱交換器57とが管路51Pの第1端部51E1から第2端部51E2に向けて順に配設されている。
【0188】
[容器51の材質]
容器51の材質は、特に限定されず、第1実施形態の容器11の材質と同様でよい。
【0189】
[管路51Pの形状]
管路51Pの形状は、特に限定されない。管路51Pの形状として、例えば、略直線的な形状、湾曲部を含む形状等が挙げられる。
【0190】
管路51Pの形状が略直線的な形状であることにより、湾曲部において熱音響の自励振動の位相にバラつきが生じて自励振動が弱まることを低減し得る。
【0191】
管路51Pの形状は、湾曲部を含む形状であることが好ましい。これにより、略直方体状の炉F等によって例示される、熱輸送デバイス5を取り付け可能な凹部及び穴等を有しない炉Fに熱輸送デバイス5を取り付けることが容易となり得る。
【0192】
管路51Pの形状が湾曲部を含む形状である場合、湾曲部の数は、3以下であることが好ましく、2以下であることがよりいっそう好ましく、1以下であることがさらにいっそう好ましい。これにより、湾曲部を設けることによって熱輸送デバイス5の配置を容易とすることと、湾曲部における自励振動の減衰を可能な限り低減することと、が両立され得る。
【0193】
管路51Pの形状が湾曲部を含む形状である場合、湾曲部の曲率半径の下限は、管路51Pの長さの1/4以上であることが好ましく、管路51Pの長さの1/3以上であることがよりいっそう好ましく、管路51Pの長さの1/2以上であることがさらにいっそう好ましい。これにより、湾曲部を設けることによって熱輸送デバイス5の配置を容易とすることと、湾曲部における自励振動の減衰を可能な限り低減することと、が両立され得る。
【0194】
圧力制御手段等を接続可能であること、長さ、断面積等については、管路51Pは、第1実施形態の管路11Pと同様でよい。
【0195】
[作動流体]
熱輸送デバイス5の作動流体は、第1実施形態の熱輸送デバイス1の作動流体と同様でよい。
【0196】
〔第1熱交換器52〕
第1熱交換器52は、第1実施形態の第1熱交換器12と同様でよい。第1熱交換器52を配設する位置は、第1熱交換器52と第1蓄熱器53と第2熱交換器54と第3熱交換器55と第2蓄熱器56と第4熱交換器57とが管路51Pの第1端部51E1から第2端部51E2に向けて順に配設されるような位置であって、炉F等の熱を作動流体に移動可能な位置であれば、特に限定されない。
【0197】
[ピン式熱交換器の土台部を管路51Pの端部と一体に構成することについて]
第1熱交換器52は、ピン式熱交換器として構成する場合、第1実施形態の第1熱交換器12と同様に、土台部を管路51Pの第1端部51E1と一体に構成することが可能である。これにより、土台部を管路の端部と一体に構成した第1実施形態の第1熱交換器12と同様の効果が得られうる。
【0198】
〔第1蓄熱器53〕
第1蓄熱器53は、蓄熱器13と同様でよい。第1蓄熱器53は、管路51Pの第1熱交換器52周辺と管路51Pの第2熱交換器54周辺とを連通する空隙を有する。これにより、第1蓄熱器53は、内部に生じた温度勾配に応じて熱音響の自励振動を生成可能である。
【0199】
[第1蓄熱器53を配設する位置]
第1蓄熱器53を配設する位置は、第1熱交換器52と第1蓄熱器53と第2熱交換器54と第3熱交換器55と第2蓄熱器56と第4熱交換器57とが管路51Pの第1端部51E1から第2端部51E2に向けて順に配設されるような位置であって、管路51Pの第1端部51E1から第1蓄熱器53の中心までの管路51Pに沿った距離(第1距離)を管路51Pの長さで割った比である第1蓄熱器相対位置が、以下の条件を満たす位置であることが好ましい。
【0200】
第1蓄熱器相対位置の下限は、1/12以上であることが好ましく、1/10以上であることがよりいっそう好ましく、1/8以上であることがさらにいっそう好ましい。また、第1蓄熱器相対位置の上限は、10/24以下であることが好ましく、8/24以下であることがよりいっそう好ましく、7/24以下であることがさらにいっそう好ましい。すなわち、本実施形態の熱輸送デバイス5では、第1蓄熱器53を配設可能な範囲が、第1実施形態の蓄熱器13より広い。
【0201】
〔第2熱交換器54〕
第2熱交換器54は、第1実施形態の第2熱交換器14と同様でよい。第2熱交換器54を配設する位置は、第1熱交換器52と第1蓄熱器53と第2熱交換器54と第3熱交換器55と第2蓄熱器56と第4熱交換器57とが管路51Pの第1端部51E1から第2端部51E2に向けて順に配設されるような位置であって、作動流体の熱を炉F等の外部の熱媒に移動可能な位置であれば、特に限定されない。
【0202】
本実施形態の熱輸送デバイス5は、以下の第3熱交換器55、第2蓄熱器56、第4熱交換器57、を管路51P内部に配設する点において、第1実施形態の熱輸送デバイス1と異なる。
【0203】
〔第3熱交換器55〕
第3熱交換器55は、第1実施形態の第2熱交換器14と同様でよい。第3熱交換器55を配設する位置は、第1熱交換器52と第1蓄熱器53と第2熱交換器54と第3熱交換器55と第2蓄熱器56と第4熱交換器57とが管路51Pの第1端部51E1から第2端部51E2に向けて順に配設されるような位置であって、作動流体の熱を炉F等の外部の熱媒に移動可能な位置であれば、特に限定されない。
【0204】
[第3熱交換器55を配設する位置]
第3熱交換器55を配設する位置は、作動流体の熱を炉F等の外部の熱媒に移動可能な位置であれば、特に限定されない。該位置として、例えば、炉F等と炉F等の外部との間に跨るように熱輸送デバイス5を配設した場合において、容器11のうち炉F等の外部の周辺となる部分に対応する管路51Pの位置が挙げられる(図5)。
【0205】
第3熱交換器55を配設する位置は、中でも、第2蓄熱器56の近傍であることが好ましい。これにより、第3熱交換器55は、第2蓄熱器56の一端の周辺にある作動流体の温度を該位置が第2蓄熱器56の近傍でない場合より低くし得る。
【0206】
第3熱交換器55の第2蓄熱器56に近い端部と第2蓄熱器56の第3熱交換器55に近い端部との間の距離の上限は、管路51Pの長さの1/40以下であることが好ましく、管路51Pの長さの1/70以下であることがよりいっそう好ましく、管路51Pの長さの1/100以下であることがさらにいっそう好ましい。これにより、第3熱交換器55は、第2蓄熱器56の一端の周辺にある作動流体の温度をよりいっそう低くし得る。
【0207】
〔第2蓄熱器56〕
第2蓄熱器56は、第1実施形態の蓄熱器13と同様でよい。第2蓄熱器56は、管路51Pの第4熱交換器57周辺と管路51Pの第3熱交換器55周辺とを連通する空隙を有する。これにより、第2蓄熱器56は、内部に生じた温度勾配に応じて熱音響の自励振動を生成可能である。
【0208】
[第2蓄熱器56を配設する位置]
第2蓄熱器56を配設する位置は、第1熱交換器52と第1蓄熱器53と第2熱交換器54と第3熱交換器55と第2蓄熱器56と第4熱交換器57とが管路51Pの第1端部51E1から第2端部51E2に向けて順に配設されるような位置であって、管路51Pの第2端部51E2から第2蓄熱器56の中心までの管路51Pに沿った距離(第2距離)を管路51Pの長さで割った比である第2蓄熱器相対位置が、上述の第1蓄熱器相対位置と同様の条件を満たす位置であることが好ましい。
【0209】
本実施形態の熱輸送デバイス5では、第1熱交換器52、第1蓄熱器53、第2熱交換器54による高温熱源から熱媒への熱の移動に加えて、第4熱交換器57、第2蓄熱器56、第3熱交換器55もが、高温熱源から熱媒へと熱を移動させる。よって、本実施形態の熱輸送デバイス5は、より多くの熱を高温熱源から熱媒へと移動させることが可能である。
【0210】
そのため、本実施形態の熱輸送デバイス5は、第1距離及び第2距離を管路51Pの長さで割った比である第1蓄熱器相対位置及び第2蓄熱器相対位置が上述の広い範囲で、熱音響の自励振動を生成し得る。これにより、高温熱源の熱を作動流体に移動可能な第1熱交換器52及び第4熱交換器57の配置における自由度が高められ得る。
【0211】
また、これにより、本実施形態の熱輸送デバイス5は、作動流体の熱を熱媒に移動可能な第2熱交換器54及び第3熱交換器55の配置における自由度を高め得る。よって、本実施形態の熱輸送デバイス5は、加熱炉等の高温熱源の形状に合わせて構成可能となり、より大きな熱輸送量を実現可能であるよう高温熱源に配設可能となる。
【0212】
〔第4熱交換器57〕
第4熱交換器57は、第1実施形態の第1熱交換器12と同様でよい。
【0213】
[第4熱交換器57を配設する位置]
第4熱交換器57を配設する位置は、第1熱交換器52と第1蓄熱器53と第2熱交換器54と第3熱交換器55と第2蓄熱器56と第4熱交換器57とが管路51Pの第1端部51E1から第2端部51E2に向けて順に配設されるような位置であって、炉F等の熱を作動流体に移動可能な位置であれば、特に限定されない。該位置として、例えば、炉F等と炉F等の外部との間に跨るように熱輸送デバイス5を配設した場合において、容器51のうち炉F等の周辺となる部分に対応する管路51Pの位置が挙げられる(図5)。
【0214】
第4熱交換器57を配設する位置は、中でも、第2蓄熱器56の近傍であることが好ましい。これにより、第4熱交換器57は、第2蓄熱器56の一端の周辺にある作動流体の温度を該位置が第2蓄熱器56の近傍でない場合より高め得る。
【0215】
第4熱交換器57の第2蓄熱器56に近い端部と第2蓄熱器56の第4熱交換器57に近い端部との間の距離の上限は、管路51Pの長さの1/40以下であることが好ましく、管路51Pの長さの1/70以下であることがよりいっそう好ましく、管路51Pの長さの1/100以下であることがさらにいっそう好ましい。これにより、第4熱交換器57は、第2蓄熱器56の一端の周辺にある作動流体の温度をよりいっそう高め得る。
【0216】
[ピン式熱交換器の土台部を管路51Pの端部と一体に構成することについて]
第4熱交換器57は、ピン式熱交換器として構成する場合、第1実施形態の第1熱交換器12と同様に、土台部を管路51Pの第2端部51E2と一体に構成することが可能である。これにより、土台部を管路の端部と一体に構成した第1実施形態の第1熱交換器12と同様の効果が得られうる。
【0217】
〔第1蓄熱器53と第2蓄熱器56とを一対に構成することについて]
第1蓄熱器53と第2蓄熱器56とは、管路51Pの向きにおける長さが略同じであり、かつ、空隙の構成が略同じであり、第1蓄熱器53が配設される位置と第2蓄熱器56が配設される位置とが管路51Pの中央に対して略対称であることが好ましい。以下、上述の構成は、一対に構成された蓄熱器とも称される。
【0218】
第1蓄熱器53と第2蓄熱器56とが長さ・空隙において略同じ構成を有することにより、熱輸送デバイス5の保守性を向上し得る。
【0219】
ところで、長さ・空隙が略同じである一対の蓄熱器は、蓄熱器周辺における作動流体の温度勾配と作動流体の圧力との関係が同じである場合、自励振動の生成を同じように行うものと考えられる。
【0220】
第1蓄熱器53が配設される位置と第2蓄熱器56が配設される位置とが管路51Pの中央に対して略対称であることにより、第1蓄熱器53と第2蓄熱器56とは、同じように自励振動を生成することが見込まれる。
【0221】
したがって、一対に構成された蓄熱器を有する熱輸送デバイス5において、第1蓄熱器53と第2蓄熱器56とは、よりいっそう協調して動作し得る。よって、一対に構成された蓄熱器を有する熱輸送デバイス5では、よりいっそう小さな温度勾配及び/又は圧力でよりいっそう強い自励振動を生成することが見込まれ得る。
【0222】
〔圧力制御手段58〕
熱輸送デバイス5は、第1実施形態と同様に、管路51P内部に封入された作動流体の圧力を制御可能な圧力制御手段58を備えることが好ましい。圧力制御手段58は、第1実施形態の圧力制御手段15と同様でよい。
【0223】
〔高温熱源〕
高温熱源は、特に限定されず、第1実施形態の高温熱源と同様でよい。
【0224】
〔熱輸送デバイス5の効果〕
熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、蓄熱器は、管路の高温側端部に近い位置に配置されることが好ましい。これは、熱音響の自励振動によって管路内部に生じる定常波について、蓄熱器周辺における該定常波の位相が蓄熱器における自励振動の生成及び熱輸送量に影響を及ぼすためである。
【0225】
特許文献1は、このような配置の一例として、管路上において、管路の高温熱源側端部から管路長の12.5%~25%の位置に当該蓄熱器の管路延在方向中心が位置する配置を開示している。
【0226】
管路の高温側端部に近い位置に蓄熱器が配置されることが好ましい一方、蓄熱器に温度勾配を設ける観点から、蓄熱器の少なくとも一端は、高温熱源周辺にないことが好ましい。しかしながら、管路の高温側端部に近い位置であって、少なくとも一端が高温熱源周辺でない位置に蓄熱器を配設するよう熱輸送デバイスを配設した場合、容器の大部分が高温熱源周辺でなくなる。すなわち、容器の大部分が高温熱源から作動流体への熱の移動に寄与しなくなる。
【0227】
本実施形態の熱輸送デバイス5によれば、容器51の第1熱交換器52周辺だけでなく、容器51の第4熱交換器57周辺もが高温熱源周辺となる。これにより、熱輸送デバイス5の第1熱交換器52及び第4熱交換器57は、より多くの熱を高温熱源から作動流体へと移動させ得る。
【0228】
そして、本実施形態の熱輸送デバイス5によれば、第1熱交換器52、第1蓄熱器53、第2熱交換器54による熱媒への熱の移動に加えて、第4熱交換器57、第2蓄熱器56、第3熱交換器55もが、この熱を熱媒へと移動させる。
【0229】
第1実施形態の熱輸送デバイス1では、第1蓄熱器13のみが高温側端部(第1端部11E1)に近い位置で熱音響の自励振動を生成する。それに対し、本実施形態の熱輸送デバイス5によれば、第1蓄熱器53及び第2蓄熱器56の両方が高温側端部(第1端部51E1、第2端部51E2)に近い位置に配置される。これにより、本実施形態の熱輸送デバイス5では、第1蓄熱器53及び第2蓄熱器56の両方が熱音響の自励振動を生成し、熱輸送に寄与できる。
【0230】
よって、本実施形態の熱輸送デバイス5によれば、管路51Pの高温側端部(第1端部51E1、第2端部51E2)に近い位置であって、少なくとも一端が高温熱源周辺でない位置に蓄熱器(第1蓄熱器53、第2蓄熱器56)を配設するよう熱輸送デバイス5を配設することと、容器51のより多くの部分を高温熱源の周辺に配設して熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えることと、を両立し、より多くの熱を高温熱源から熱媒へと移動させることが可能である。
【0231】
したがって、本実施形態の熱輸送デバイス5は、以下の目的を両立できる。
(A)熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上すること。
(B)熱輸送デバイス5の高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えること。
【0232】
<付記(本発明のまとめ)>
〔第1の構成〕 蓄熱器及び熱輸送デバイス
[背景技術]
炉等の高温熱源から熱を輸送する各種の手段が利用されている。
【0233】
高温熱源から熱を輸送する手段として、特許第6807087号は、高温熱源と高温熱源よりも低温の低温熱浴との間に跨るように配設され、閉空間内に気体が封入され、内部に両端部が閉塞された管路が形成された容器と、管路内に配設され、両端部間を連通する細孔が形成されると共に容器の外部から断熱された蓄熱器と、管路内で蓄熱器の高温熱源側端部に隣接して設けられ、高温熱源の熱を蓄熱器に移動させる第1熱交換器と、管路内で蓄熱器の低温熱浴側端部に隣接して設けられ、蓄熱器の熱を低温熱浴に移動させる第2熱交換器と、を備え、蓄熱器は、管路上において、管路の高温熱源側端部から管路長の12.5%~25%の位置に当該蓄熱器の管路延在方向中心が位置する、熱輸送デバイスを開示している。
【0234】
特許第6807087号によれば、安全性が高く、かつ低コストで導入及び使用できる熱輸送デバイスを提供できる。
【0235】
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
ところで、特許第6807087号のような熱音響の自励振動を用いる熱輸送デバイスにおいて、熱輸送量を向上する要望がある。熱音響の自励振動を用いた装置では、蓄熱器の材質等が熱音響の自励振動の生成に影響を与えることが知られている。
【0236】
特許第6807087号は、蓄熱器が両端部間を連通する細孔が形成されると共に容器の外部から断熱され、管路内の所定の位置に配設されることを示すにとどまり、蓄熱器の形状及び材質等を具体的に示していない。
【0237】
高温熱源からの熱輸送に適した形状に蓄熱器の形状等を改良可能であれば、熱輸送デバイスのさらなる性能向上が見込まれ得る。
【0238】
本発明の目的は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することである。
【0239】
[課題を解決するための手段]
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、蓄熱器の管路に沿った長さが所定の長さ以上となるよう蓄熱器を構成すること等によって、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0240】
第1の特徴に係る発明は、蓄熱器であって、前記蓄熱器の形状は、略柱状であり、前記蓄熱器は、両底面を連通する空隙を含み、前記空隙は、前記蓄熱器が炉の熱を前記炉の外部に輸送する熱輸送デバイスの管路内に配設された場合において、前記管路における高温部の周辺と前記管路における低温部の周辺とを連通可能であり、前記蓄熱器は、前記管路内に配設された場合において、前記高温部と前記低温部との温度差によって前記蓄熱器の内部に生じた温度勾配に応じて熱音響の自励振動を生成可能であり、かつ、前記管路に沿った長さが管路長の9%以上である、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイス用の蓄熱器を提供する。
【0241】
第1の特徴に係る発明の空隙は、炉の熱を当該炉の外部に輸送する熱輸送デバイスの管路内に配設された場合において該管路における高温部の周辺と該管路における低温部の周辺とを連通可能である。よって、第1の特徴に係る発明の蓄熱器では、炉が高温となったときに内部に温度勾配が生じる。この温度勾配により、該蓄熱器は、炉の熱を外部に輸送可能な熱音響の自励振動を生成可能である。
【0242】
ところで、本発明者らは、熱音響の自励振動に関する数値計算の結果と実機における測定値とが大きく相違する場合があることを見出した。本発明者らは、鋭意検討した結果、実機における蓄熱器の一部が熱交換器としても機能するという、実機と数値計算との相違が上述の相違を生む可能性があることを見出した。
【0243】
高温の炉に適用する熱輸送デバイスにおいては、炉からの熱を作動流体に移動させる手段が常温付近又は常温未満の低温で動作する熱音響装置よりいっそう重要である。第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の管路に沿った長さが管路長の9%以上であるため、蓄熱器のうち熱交換器として機能する部分をより大きくできる。
【0244】
これにより、第1の特徴に係る発明の蓄熱器は、炉からの熱を作動流体に移動させる追加の手段として機能し得る。よって、第1の特徴に係る発明の蓄熱器は、炉からの熱をよりいっそう輸送することに寄与し得る。
【0245】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0246】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、蓄熱器の材質が熱伝導率に異方性がある熱伝導異方性材料を含み、蓄熱器は、熱伝導異方性材料の熱伝導率が低い向きが管路に沿った向きと略同じであるよう構成される、蓄熱器を提供する。
【0247】
自励振動を用いた熱輸送デバイスでは、蓄熱器内部の温度勾配が大きいほど、生成される熱音響の自励振動が強まる。また、自励振動を用いた熱輸送デバイスでは、蓄熱器と作動流体との間の熱移動が容易であるほど、生成される熱音響の自励振動が強まる。
【0248】
しかしながら、蓄熱器内部の温度勾配の解消を低減するためには蓄熱器の熱伝導率を低くすることが有効である一方、蓄熱器と作動流体との間の熱移動を容易とするためには蓄熱器の熱伝導率を高くすることが有効である。
【0249】
したがって、これらの条件を両立し、生成される熱音響の自励振動が強めることは、容易ではない。加えて、炉の熱を前記炉の外部に輸送する熱輸送デバイスでは、蓄熱器の耐熱性も重要である。
【0250】
ところで、面方向の熱伝導率が厚み方向の100倍以上であるよう構成されたグラファイトシート等の熱伝導異方性材料が知られている。このように、熱伝導異方性材料は、熱伝導率が低い向きと熱伝導率が高い向きとにおいて、熱伝導率が大きく異なるよう構成可能である。
【0251】
第2の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の材質が熱伝導異方性材料を含み、蓄熱器は、熱伝導異方性材料の熱伝導率が低い向きが管路に沿った向きと略同じであるよう構成される。
【0252】
第2の特徴に係る発明は、上述した熱伝導異方性材料の特性により、温度勾配の向きにおける熱伝導率を低く抑えて蓄熱器における熱伝導が温度勾配を解消することを抑制することと、温度勾配の向きと異なる向きにおける高い熱伝導率の実現により蓄熱器と作動流体との間の熱移動を容易とすることと、高い耐熱性を有する蓄熱器の実現と、を両立し得る。
【0253】
したがって、第2の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0254】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る蓄熱器と、高温熱源と前記高温熱源の外部との間に跨るように配設可能であり、かつ、両端部を実質的に閉塞可能な管路を内部に有する容器と、を備え、前記管路の内部は、作動流体を封入可能であり、かつ、第1熱交換器と前記蓄熱器と第2熱交換器とが前記管路の第1端部から第2端部に向けて順に配設され、前記第1熱交換器は、前記高温熱源の熱を前記作動流体に移動可能な位置に配設され、前記蓄熱器は、前記空隙が前記管路の前記第1熱交換器周辺と前記管路の前記第2熱交換器周辺とを連通するよう配設され、前記第2熱交換器は、前記作動流体の熱を前記高温熱源の外部の熱媒に移動可能である、熱輸送デバイスを提供する。
【0255】
第3の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の第1熱交換器側の作動流体は、第1熱交換器が高温熱源から移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より高温となる。また、蓄熱器の第2熱交換器側の作動流体は、第2熱交換器が高温熱源の外部の熱媒へ移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より低温となる。
【0256】
したがって、第3の特徴に係る発明によれば、蓄熱器周辺の作動流体は、蓄熱器の管路に沿った向きにおいて温度勾配を有する。これにより、蓄熱器は、この向きに沿った作動流体の温度勾配と作動流体の圧力との関係に応じて熱音響の自励振動を生成可能となる。
【0257】
この自励振動は、管路において第1熱交換器周辺から第2熱交換器周辺への熱輸送を促す。生成される自励振動が強ければ強いほど、この熱輸送が促される。第3の特徴に係る発明によれば、蓄熱器が第1又は第2の特徴に係る蓄熱器であるため、熱交換器として機能する部分を大きくする等の熱輸送デバイスに応じた改良を施されていない蓄熱器を用いる場合より強い熱音響の自励振動が生成され得る。
【0258】
よって、第3の特徴に係る発明によれば、生成されたよりいっそう強い熱音響の自励振動により、高温熱源側端部から低温熱浴側端部への熱輸送がよりいっそう促される。
【0259】
したがって、第3の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0260】
第4の特徴に係る発明は、第3の特徴に係る発明の熱輸送デバイスを備え、前記熱輸送デバイスは、前記炉の内部と前記炉の外部との間に跨るように配設される、炉を提供する。
【0261】
第4の特徴に係る発明によれば、炉等の高温熱源からの熱輸送に適した構造を有する熱輸送デバイスが炉の内部と外部とを跨るよう配設されて炉が構成されるため、炉において、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量が向上する。
【0262】
したがって、第4の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0263】
[発明の効果]
本発明によると、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0264】
〔第2の構成〕 熱輸送デバイス
[背景技術]
炉等の高温熱源から熱を輸送する各種の手段が利用されている。このような手段に求められる機能の1つとして、熱輸送量を調整する機能がある。
【0265】
高温熱源から熱を輸送する手段として、特許文献1は、高温熱源と高温熱源よりも低温の低温熱浴との間に跨るように配設され、閉空間内に気体が封入され、内部に両端部が閉塞された管路が形成された容器と、管路内に配設され、両端部間を連通する細孔が形成されると共に容器の外部から断熱された蓄熱器と、管路内で蓄熱器の高温熱源側端部に隣接して設けられ、高温熱源の熱を蓄熱器に移動させる第1熱交換器と、管路内で蓄熱器の低温熱浴側端部に隣接して設けられ、蓄熱器の熱を低温熱浴に移動させる第2熱交換器と、を備え、蓄熱器は、管路上において、管路の高温熱源側端部から管路長の12.5%~25%の位置に当該蓄熱器の管路延在方向中心が位置し、容器の低温熱浴側端部に容器内部に進退自在に配設され、容器内部に進入することにより熱音響自励波によって管路内に生ずる定在波の波形を変形させる調整手段を有する、熱輸送デバイスを開示している。
【0266】
特許第6807087号によれば、安全性が高く、かつ低コストで導入及び使用でき、熱輸送量を調整可能な熱輸送デバイスを提供できる。
【0267】
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
ところで、作動流体の圧力を常圧より高くすることによって、熱音響を用いた各種装置の性能を向上可能であることが知られている。
【0268】
特許第6807087号の調整手段は、容器内部に進退自在に配設される。よって、特許文献1は、この調整手段を進退させる駆動源を必要とする。このような駆動源が容器内部に設けられる場合、熱輸送デバイスの内部構造が複雑になり、熱輸送デバイスの保守が困難となることが懸念される。
【0269】
また、このような駆動源が容器外部に設けられる場合、駆動源から調整手段に動力を伝達する伝達手段周囲から作動流体が漏出することが懸念される。特に、作動流体の圧力が常圧より高い場合、このような漏出は、作動流体の圧力を低下させ得る。これにより、熱輸送デバイスの性能が低下し得る。
【0270】
本発明の目的は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立することである。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0271】
[課題を解決するための手段]
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱輸送を減らす指令に応じて自励振動を弱めるようにする圧力制御が可能であり、熱輸送を増やす指令に応じて自励振動を強めるようにする圧力制御が可能であるような作動流体の圧力制御手段を設けることで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0272】
第1の特徴に係る発明は、高温熱源と高温熱源の外部との間に跨るように配設可能であり、かつ、両端部を実質的に閉塞可能な管路を内部に有する容器を備え、この管路の内部は、作動流体を封入可能であり、かつ、第1熱交換器と蓄熱器と第2熱交換器とが管路の第1端部から第2端部に向けて順に配設され、第1熱交換器は、高温熱源の熱を作動流体に移動可能な位置に配設され、蓄熱器は、管路の第1熱交換器の周辺と管路の第2熱交換器の周辺とを連通する空隙を有し、熱音響の自励振動を生成可能であり、作動流体の圧力を制御可能な圧力制御手段をさらに備え、この圧力制御手段は、熱輸送量を減らす指令に応じて、蓄熱器が自励振動を弱めるよう作動流体の圧力を制御可能な第1圧力制御部と、熱輸送量を増やす指令に応じて、蓄熱器が自励振動を強めるよう作動流体の圧力を制御可能な第2圧力制御部と、を有し、第2熱交換器は、作動流体の熱を高温熱源の外部に移動可能である、熱輸送デバイスを提供する。
【0273】
第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の第1熱交換器側の作動流体は、第1熱交換器が高温熱源から移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より高温となる。
【0274】
また、第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の第2熱交換器側の作動流体は、第2熱交換器が高温熱源の外部の熱媒へ移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より低温となる。
【0275】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器周辺の作動流体は、蓄熱器の管路に沿った向きにおいて温度勾配を有する。これにより、蓄熱器は、この向きに沿った作動流体の温度勾配と作動流体の圧力との関係に応じて熱音響の自励振動を生成可能となる。この自励振動は、管路において第1熱交換器周辺から第2熱交換器周辺への熱輸送を促す。
【0276】
第1の特徴に係る発明によれば、熱輸送量を減らす指令に応じて自励振動を弱めるようにする圧力制御が可能である。これにより、第1の特徴に係る発明は、「(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上」と熱輸送量を減らす調整が可能との意味での「(B)熱輸送量を調整可能とすること」とを両立できる。
【0277】
また、第1の特徴に係る発明によれば、熱輸送量を増やす指令に応じて自励振動を強めるようにする作動流体の圧力制御が可能である。これにより、第1の特徴に係る発明は、「(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上」と熱輸送量を増やす調整が可能との意味での「(B)熱輸送量を調整可能とすること」とを両立できる。
【0278】
上述の通り、第1の特徴に係る発明は、調整手段を進退させる駆動源を容器内部に設ける等して熱輸送デバイスの保守性を低下させるリスクを負うことなく、圧力制御手段によって「(B)熱輸送量を調整可能とすること」を熱輸送量の増加と減少との両方の意味において実現できる。
【0279】
また、第1の特徴に係る発明は、調整手段を進退させる駆動源を容器外部に設ける等して作動流体を漏出させるリスクを負うことなく、圧力制御手段によって「(B)熱輸送量を調整可能とすること」を熱輸送の増加と減少との両方の意味において実現できる。
【0280】
よって、第1の特徴に係る発明は、「(C)熱輸送デバイスの保守性の向上」を目的(A)(B)と両立できる。
【0281】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0282】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、作動流体は、空気を含み、圧力制御手段は、熱輸送量を減らす指令に応じて圧力を第1圧力未満にする圧力制御が可能であり、第1圧力は、0.2MPa以下である、熱輸送デバイスを提供する。
【0283】
調達・管理等が容易な空気を作動流体として利用することにより、熱輸送デバイスの保守性が高められ得る。
【0284】
ところで、常圧付近の空気における自励振動の生成は、比較的弱いことが知られている。このような弱い自励振動が生成される場合は、管路内の熱音響は、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少する。
【0285】
第2の特徴に係る発明によれば、作動流体が空気を含み、熱輸送量を減らす指令に応じて作動流体の圧力を上述の第1圧力未満にする圧力制御を行うため、管路内の熱音響を減少させることができる。
【0286】
これにより、第2の特徴に係る発明は、調達・管理等が容易な空気を作動流体として用いつつ、熱輸送量を減らす制御を行える。
【0287】
したがって、第2の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0288】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、作動流体は、空気を含み、圧力制御手段は、熱輸送量を増やす指令に応じて圧力を第2圧力以上にする圧力制御が可能であり、第2圧力は、0.3MPa以上である、熱輸送デバイスを提供する。
【0289】
本発明者らは、鋭意検討した結果、作動流体が空気であっても、常圧より高い所定の圧力以上であれば、空気の粘性等がもたらす抵抗によって減少することがない充分に強い自励振動を生成できることを見出した。
【0290】
第3の特徴に係る発明によれば、熱輸送量を増やす指令に応じて作動流体の圧力を上述の第2圧力以上にする圧力制御を行うため、作動流体が空気であるにもかかわらず、管路内の熱音響を増大させることができる。
【0291】
これにより、第3の特徴に係る発明は、調達・管理等が容易な空気を作動流体として用いるにもかかわらず、熱輸送量を増やす制御を行える。
【0292】
したがって、第3の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0293】
第4の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明の熱輸送デバイスを備え、前記熱輸送デバイスは、炉の内部と前記炉の外部との間に跨るように配設される、炉を提供する。
【0294】
第4の特徴に係る発明によれば、炉等の高温熱源からの熱輸送に適した構造を有する熱輸送デバイスが炉の内部と外部とを跨るよう配設されて炉が構成されるため、炉において、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量が向上する。また、これにより、熱輸送量が調節可能となり、保守性が向上される。
【0295】
したがって、第4の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0296】
[発明の効果]
本発明によると、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立できる。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【0297】
〔第3の構成〕 熱輸送デバイス
[背景技術]
炉等の高温熱源から熱を輸送する各種の手段が利用されている。
【0298】
高温熱源から熱を輸送する手段として、特許第6807087号は、高温熱源と高温熱源よりも低温の低温熱浴との間に跨るように配設され、閉空間内に気体が封入され、内部に両端部が閉塞された管路が形成された容器と、管路内に配設され、両端部間を連通する細孔が形成されると共に容器の外部から断熱された蓄熱器と、管路内で蓄熱器の高温熱源側端部に隣接して設けられ、高温熱源の熱を蓄熱器に移動させる第1熱交換器と、管路内で蓄熱器の低温熱浴側端部に隣接して設けられ、蓄熱器の熱を低温熱浴に移動させる第2熱交換器と、を備え、蓄熱器は、管路上において、管路の高温熱源側端部から管路長の12.5%~25%の位置に当該蓄熱器の管路延在方向中心が位置する、熱輸送デバイスを開示している。
【0299】
特許第6807087号によれば、安全性が高く、かつ低コストで導入及び使用できる熱輸送デバイスを提供できる。
【0300】
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
ところで、特許文献1のような熱輸送デバイスにおいて、熱輸送量を向上する要望がある。一般に、熱交換器の形状は、熱の移動に影響を与えることが知られている。
【0301】
しかしながら、特許第6807087号は、第1熱交換器が高温熱源の熱を蓄熱器に移動させることを示すにとどまり、第1熱交換器の形状を具体的に示していない。
【0302】
自励振動を用いた熱輸送に適した形状に第1熱交換器を構成可能であれば、さらなる性能向上が見込まれ得る。
【0303】
本発明の目的は、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することである。
【0304】
[課題を解決するための手段]
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高温熱源の熱を作動流体に移動させる熱交換器に棒状の受熱部を複数設けることで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0305】
第1の特徴に係る発明は、高温熱源と前記高温熱源の外部との間に跨るように配設可能であり、かつ、両端部を実質的に閉塞可能な管路を内部に有する容器を備え、管路の内部は、作動流体を封入可能であり、かつ、第1熱交換器と蓄熱器と第2熱交換器とが管路の第1端部から第2端部に向けて順に配設され、第1熱交換器は、高温熱源の熱を作動流体に移動可能な位置に配設され、かつ、長手方向が管路に沿った向きと略一致する棒状の受熱部を複数有し、蓄熱器は、管路の第1熱交換器の周辺と管路の第2熱交換器の周辺とを連通する空隙を有し、熱音響の自励振動を生成可能であり、第2熱交換器は、作動流体の熱を高温熱源の外部の熱媒に移動可能である、熱輸送デバイスを提供する。
【0306】
第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の第1熱交換器側の作動流体は、第1熱交換器が高温熱源から移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より高温となる。また、蓄熱器の第2熱交換器側の作動流体は、第2熱交換器が高温熱源の外部の熱媒へ移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より低温となる。
【0307】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器周辺の作動流体は、蓄熱器の管路に沿った向きにおいて温度勾配を有する。これにより、蓄熱器は、この向きに沿った作動流体の温度勾配と作動流体の圧力との関係に応じて熱音響の自励振動を生成可能となる。
【0308】
この自励振動は、管路において第1熱交換器周辺から第2熱交換器周辺への熱輸送を促す。このとき、高温熱源の熱は、まず、容器に移動する。続いて、容器に移動した熱は、輻射及び熱伝導を介して第1熱交換器に移動する。そして、第1熱交換器に移動した熱は、熱伝導を介して作動流体に移動する。
【0309】
温度が互いに異なる2物体間において、熱伝導による熱移動量は、絶対温度それぞれの差に比例する。一方、輻射による熱移動量は、絶対温度の4乗それぞれの差に比例する。したがって、絶対温度が高い高温において、輻射による熱移動量は、熱伝導による熱移動量より大きくなることが見込まれる。
【0310】
気体へ熱を移動させる熱交換器として、プレートを略平行に並べたプレート式熱交換器が知られている。プレート式熱交換器を用いて第1熱交換器を構成する場合、容器内壁との間を他のプレートに遮られたプレートが輻射を十分に受けられないことが懸念される。よって、プレート式熱交換器は、高温熱源からの熱を輻射によって熱交換器に移動する点において、さらなる改良の余地があり得る。
【0311】
第1の特徴に係る発明は、長手方向が管路に沿った向きと略一致する棒状の受熱部を複数有する。これにより、受熱部は、容器からの輻射を遮ることなく、容器からの輻射を受熱することができる。これにより、容器から第1熱交換器への熱の移動が高められ得る。よって、第1の特徴に係る発明によれば、第1熱交換器は、高温熱源の熱をよりいっそう作動流体に移動させることができる。
【0312】
高温熱源の熱をよりいっそう作動流体に移動させることにより、第1の特徴に係る発明は、蓄熱器における温度勾配をよりいっそう大きくできる。通常、蓄熱器における温度勾配が大きくなるにつれ、生成される自励振動は、よりいっそう強くなる。よって、第1の特徴に係る発明は、自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0313】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0314】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記受熱部の少なくとも一部は、前記第1端部に配設される、熱輸送デバイスを提供する。
【0315】
管路の内側にプレートを配設するプレート式熱交換器は、プレートを配設するための追加の構造を要することなく、管路内部に配設され得る。一方、本発明における棒状の受熱部は、受熱部を配設するための土台を要し得る。
【0316】
本発明の熱輸送デバイスは、作動流体における熱音響の自励振動によって熱を輸送する。ところで、自励振動は、作動流体を媒質とする音波としての性質を有する。したがって、管路内部に音波を妨げるような構造がある場合、熱音響の自励振動が妨げられ得る。これにより、より強力な自励振動が生成されることが阻害され得る。したがって、上述の土台は、より強力な自励振動が生成されることを妨げ得る。
【0317】
第2の特徴に係る発明によれば、受熱部が第1端部に配設されるため、管路内に別体に構成された土台が音波を妨げることが防がれ得る。よって、土台が熱音響の自励振動を阻害することがよりいっそう低減され得る。
【0318】
ところで、熱音響デバイスのうち、形状が直管状である熱音響デバイスは、定在波型熱音響デバイスとも称される。従来技術の定在波型熱音響デバイスでは、高温側熱交換器は、例えば、プレート式熱交換器等として構成され、管路の内部のうち、管路の高温側端部から離れた蓄熱器の近傍に配される。このような構成は、熱交換器の表面積を大きくする点において、さらなる改良の余地がある。
【0319】
第2の特徴に係る発明によれば、受熱部が第1端部に配設されるため、管路の高温側端部から離れた蓄熱器の近傍に高温側熱交換器を配する構成より、受熱部の面積を大きくできる。これにより、熱輸送デバイスの熱輸送能力がよりいっそう高められ得る。
【0320】
したがって、第2の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0321】
第3の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、複数の前記受熱部の間隔が前記作動流体における熱境界層の厚さ以上である、熱輸送デバイスを提供する。
【0322】
受熱部の間隔が作動流体における熱境界層の厚さ未満である場合、受熱部が熱音響の自励振動を阻害し得る。
【0323】
第3の特徴に係る発明によれば、複数の受熱部の間隔が作動流体における熱境界層の厚さ以上であるため、受熱部が熱音響の自励振動を阻害することがよりいっそう低減され得る。
【0324】
したがって、第3の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0325】
第4の特徴に係る発明は、第1から第3の特徴のいずれかに係る発明の熱輸送デバイスを備え、前記熱輸送デバイスは、炉の内部と前記炉の外部との間に跨るように配設される、炉を提供する。
【0326】
第4の特徴に係る発明によれば、炉等の高温熱源からの熱輸送に適した構造を有する熱輸送デバイスが炉の内部と外部とを跨るよう配設されて炉が構成されるため、炉において、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量が向上する。
【0327】
したがって、第4の特徴に係る発明によれば、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0328】
[発明の効果]
本発明によると、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上することができる。
【0329】
〔第4の構成〕 熱輸送デバイス
[背景技術]
炉等の高温熱源から熱を輸送する各種の手段が利用されている。
【0330】
高温熱源から熱を輸送する手段として、特許第6807087号は、高温熱源と高温熱源よりも低温の低温熱浴との間に跨るように配設され、閉空間内に気体が封入され、内部に両端部が閉塞された管路が形成された容器と、管路内に配設され、両端部間を連通する細孔が形成されると共に容器の外部から断熱された蓄熱器と、管路内で蓄熱器の高温熱源側端部に隣接して設けられ、高温熱源の熱を蓄熱器に移動させる第1熱交換器と、管路内で蓄熱器の低温熱浴側端部に隣接して設けられ、蓄熱器の熱を低温熱浴に移動させる第2熱交換器と、を備え、蓄熱器は、管路上において、管路の高温熱源側端部から管路長の12.5%~25%の位置に当該蓄熱器の管路延在方向中心が位置する、熱輸送デバイスを開示している。
【0331】
特許第6807087号によれば、安全性が高く、かつ低コストで導入及び使用できる熱輸送デバイスを提供できる。
【0332】
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
ところで、特許第6807087号のような熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、熱輸送量を向上する要望がある。
【0333】
特許第6807087号は、高温熱源側端部に隣接する第1熱交換器のみを用いて高温熱源の熱を熱輸送デバイスの蓄熱器に移動している。
【0334】
自励振動を用いた熱輸送が可能な形状に容器を構成することと、高温熱源の熱をより効率的に熱輸送デバイスに移動させることと、を両立可能であれば、さらなる性能向上が見込まれ得る。
【0335】
本発明の目的は、以下の目的を両立することである。
(A)熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上すること。
(B)熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えること。
【0336】
[課題を解決するための手段]
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高温熱源から高温熱源の外部を経て高温熱源に至るよう配設可能に熱輸送デバイスを構成し、その両端に温度勾配のある蓄熱器を設けることで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0337】
第1の特徴に係る発明は、高温熱源から高温熱源の外部を経て高温熱源に至るよう配設可能であり、かつ、両端部を実質的に閉塞可能な管路を内部に有する容器を備え、管路の内部は、作動流体を封入可能であり、かつ、第1熱交換器と第1蓄熱器と第2熱交換器と第3熱交換器と第2蓄熱器と第4熱交換器とが管路の第1端部から第2端部に向けて順に配設され、第1熱交換器と第4熱交換器とは、高温熱源の熱を作動流体に移動可能な位置に配設され、第1蓄熱器は、管路の第1熱交換器の周辺と管路の第2熱交換器の周辺とを連通する空隙を有し、内部に生じた温度勾配に応じて熱音響の自励振動を生成可能であり、第2蓄熱器は、管路の第4熱交換器の周辺と管路の第3熱交換器の周辺とを連通する空隙を有し、内部に生じた温度勾配に応じて熱音響の自励振動を生成可能であり、第2熱交換器と第3熱交換器とは、作動流体の熱を高温熱源の外部の熱媒に移動可能である、熱輸送デバイスを提供する。
【0338】
第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器の第1熱交換器側の作動流体は、第1熱交換器が高温熱源から移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より高温となる。また、蓄熱器の第2熱交換器側の作動流体は、第2熱交換器が高温熱源の外部の熱媒へ移動した熱のため蓄熱器内部の作動流体より低温となる。
【0339】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、蓄熱器周辺の作動流体は、蓄熱器の管路に沿った向きにおいて温度勾配を有する。これにより、蓄熱器は、この向きに沿った作動流体の温度勾配と作動流体の圧力との関係に応じて熱音響の自励振動を生成可能となる。第4熱交換器、第2蓄熱器、第3熱交換器についても、第1熱交換器、第1蓄熱器、第2熱交換器と同様である。
【0340】
第2蓄熱器は、この向きに沿った作動流体の温度勾配と作動流体の圧力との関係に応じて熱音響の自励振動を生成可能となる。この自励振動は、管路において第1熱交換器の周辺から第2熱交換器の周辺への熱輸送及び第4熱交換器の周辺から第3熱交換器の周辺への熱移動を促す。
【0341】
ところで、熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、蓄熱器は、管路の高温側端部に近い位置に配置されることが好ましい。特許文献1は、このような配置の一例として、管路上において、管路の高温熱源側端部から管路長の12.5%~25%の位置に当該蓄熱器の管路延在方向中心が位置する配置を開示している。
【0342】
蓄熱器に温度勾配を設ける観点から、蓄熱器の少なくとも一端は、高温熱源の周辺にないことが好ましい。しかしながら、管路の高温側端部に近い位置であって、少なくとも一端が高温熱源の周辺でない位置に蓄熱器を配設するよう熱輸送デバイスを配設した場合、容器の大部分が高温熱源の周辺でなくなる。すなわち、容器の大部分が高温熱源から作動流体への熱の移動に寄与しなくなる。
【0343】
第1の特徴に係る発明によれば、容器の第1熱交換器の周辺だけでなく、容器の第4熱交換器の周辺もが高温熱源の周辺となる。これにより、熱輸送デバイスの第1熱交換器及び第4熱交換器は、より多くの熱を高温熱源から作動流体へと移動させ得る。
【0344】
そして、第1の特徴に係る発明によれば、第1熱交換器、第1蓄熱器、第2熱交換器による熱媒への熱の移動に加えて、第4熱交換器、第2蓄熱器、第3熱交換器もが、この熱を熱媒へと移動させる。
【0345】
よって、第1の特徴に係る発明によれば、管路の高温側端部に近い位置であって、少なくとも一端が高温熱源の周辺でない位置に蓄熱器を配設するよう熱輸送デバイスを配設することと、容器のより多くの部分を高温熱源の周辺に配設して熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えることと、を両立し、より多くの熱を高温熱源から熱媒へと移動させることが可能である。
【0346】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、以下の目的を両立できる。
(A)熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上すること。
(B)熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えること。
【0347】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、第1蓄熱器と第2蓄熱器とは、管路の向きにおける長さが略同じであり、かつ、空隙の構成が略同じであり、第1蓄熱器が配設される位置と第2蓄熱器が配設される位置とが管路の中央に対して略対称である、熱輸送デバイスを提供する。
【0348】
第2の特徴に係る発明によれば、蓄熱器が長さ・空隙において略同じ構成を有する。これにより、熱輸送デバイスの保守性を向上し得る。
【0349】
ところで、長さ・空隙が略同じである一対の蓄熱器は、蓄熱器の内部における作動流体の温度勾配と作動流体の圧力との関係が同じである場合、自励振動の生成を同じように行うものと考えられる。
【0350】
第2の特徴に係る発明によれば、第1蓄熱器が配設される位置と第2蓄熱器が配設される位置とは、管路の中央に対して略対称である。これにより、第1蓄熱器と第2蓄熱器とは、同じように自励振動を生成することが見込まれる。
【0351】
したがって、第2の特徴に係る発明において、第1蓄熱器と第2蓄熱器とは、よりいっそう協調して動作し得る。よって、第2の特徴に係る発明によれば、よりいっそう小さな温度勾配及び/又は圧力でよりいっそう強い自励振動を生成することを見込み得る。
【0352】
したがって、第2の特徴に係る発明によれば、以下の目的を両立できる。
(A)熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上すること。
(B)熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えること。
【0353】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、第1端部から第1蓄熱器の第1端部に近い一端までの向きに沿った距離(第1距離)及び第2端部から第2蓄熱器の第2端部に近い一端までの向きに沿った距離(第2距離)が管路の長さの1/12乃至5/12である、熱輸送デバイスを提供する。
【0354】
第3の特徴に係る発明によれば、第1熱交換器、第1蓄熱器、第2熱交換器による高温熱源から熱媒への熱の移動に加えて、第4熱交換器、第2蓄熱器、第3熱交換器もが、高温熱源から熱媒へと熱を移動させる。よって、第3の特徴に係る発明は、より多くの熱を高温熱源から熱媒へと移動させることが可能である。
【0355】
そのため、第3の特徴に係る発明は、第1距離及び第2距離が管路の長さの1/12乃至5/12との広い範囲で、熱音響の自励振動を生成し得る。これにより、高温熱源の熱を作動流体に移動可能な第1熱交換器及び第4熱交換器の配置における自由度を高め得る。
【0356】
また、これにより、第3の特徴に係る発明は、作動流体の熱を熱媒に移動可能な第2熱交換器及び第3熱交換器の配置における自由度を高め得る。よって、第3の特徴に係る発明は、加熱炉等の高温熱源の形状に合わせて熱輸送デバイスを構成可能となり、より大きな熱輸送量を実現可能であるよう高温熱源に配設可能となる。
【0357】
したがって、第3の特徴に係る発明によれば、以下の目的を両立できる。
(A)熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上すること。
(B)熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えること。
【0358】
第4の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明の熱輸送デバイスを備え、前記熱輸送デバイスは、炉の内部から前記炉の外部を経て前記炉の内部に至るよう配設される、炉を提供する。
【0359】
第4の特徴に係る発明によれば、炉等の高温熱源からの熱輸送に適した構造を有する熱輸送デバイスが炉の内部から外部を経て再び内部に至るよう配設されて炉が構成されるため、炉において、熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量が向上する。また、これにより、熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えられる。
【0360】
したがって、第4の特徴に係る発明によれば、以下の目的を両立できる。
(A)熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上すること。
(B)熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えること。
【0361】
[発明の効果]
本発明によると、以下の目的を両立できる。
(A)熱音響の自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量を向上すること。
(B)熱輸送デバイスの高温熱源の周辺以外の部分における大きさを抑えること。
【実施例
【0362】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0363】
<第1実施形態の熱輸送デバイス1>
上述の第1実施形態にしたがって実施例1から実施例8の熱輸送デバイス1が用意された。
【0364】
〔実施例1〕長さ0.133mの蓄熱器を用いる構成
内径0.062mの管路が内部に形成された全長0.45m、外径0.065mの丸管(高温熱源側丸管)がHaynes 230合金(登録商標)を用いて作成された。該丸管の一端は、該合金で閉塞された。
【0365】
ピン式熱交換器が長さ0.086mで棒状受熱部の数が20となるよう構成された。これらの棒状受熱部のそれぞれは、長さ0.76m、直径0.002mの棒状であり、直径0.060mの円盤2枚を重ねた土台部に0.002mから0.003mの間隔で配設された。
【0366】
これにより、円盤状土台部と管路との間に隙間が形成された。管路の向きから見たときのこの隙間の割合は、約0.063であった。これにより、該丸管の閉塞された端部周辺の空間とピン式熱交換器が配設された空間との間を作動流体が移動可能となった。
【0367】
長さ0.133mの蓄熱器が、セラミックハニカム(日本碍子株式会社製)を用いて構成された。該セラミックハニカムにおいて、多数の孔が、両底面を連通し、孔それぞれの流路半径が0.005m、蓄熱器の空隙率が0.81となるよう形成された。該蓄熱器は、その一底面が上述の管路の閉塞されていない端部と略同じ位置となるよう上述の管路に配設された。また、該ピン式熱交換器は、その一端が蓄熱器の別の底面と接するよう、上述の管路に配設された。
【0368】
上述の管路に上述のピン式熱交換器及び上述の蓄熱器が配設されたことにより、長さ0.450m、内径0.062mの管路内部に第1熱交換器12に相当するピン式熱交換器と、蓄熱器13に相当する上述蓄熱器と、が配設された高温熱源側丸管が得られた。
【0369】
長さ0.070m、空隙率0.38のシェルアンドチューブ式気液熱交換器がオーステナイト系ステンレスであるSUS304を用いて構成された。該気液熱交換器は、高温熱源側丸管の閉塞されていない端部と連結された。これにより、長さ0.520m、内径0.062mの管路に、第1熱交換器12に相当するピン式熱交換器と、蓄熱器13に相当する上述の蓄熱器と、第2熱交換器14に相当する上述の気液熱交換器と、が配設された配設済丸管が得られた。
【0370】
内径0.06mの管路が内部に形成された全長1.220m、外径0.065mの丸管(外部側丸管)がHaynes 230合金を用いて作成された。該丸管の一端は、該合金で閉塞された。この閉塞部には、市販のコンプレッサーを接続可能な排気弁が設けられた。そして、該外部側丸管は、上述の配設済丸管と接続され、実施形態1の熱輸送デバイス1の容器11を構成した。
【0371】
上述の一連の手順により、実施例1の熱輸送デバイス1が得られた。実施例1の熱輸送デバイス1は、長さ1.740m、外径0.065mの容器11を備える。実施例1の熱輸送デバイス1の容器11は、内径0.062mの管路11Pが内部に形成されている。この管路11Pには、第1熱交換器12に相当するピン式熱交換器と、蓄熱器13に相当する上述の蓄熱器と、第2熱交換器14に相当する上述の気液熱交換器と、が順に配設されている。また、実施例1の熱輸送デバイス1において、蓄熱器相対位置は、約0.220であった。
【0372】
〔実施例2〕実施例1の蓄熱器を長さ0.172mの蓄熱器に置き換えた構成
実施例1の蓄熱器を長さ0.172mの蓄熱器に置き換えた実施例2の熱輸送デバイス1が構成された。実施例2の熱輸送デバイス1において、蓄熱器相対位置は、約0.209であった。
【0373】
〔実施例3〕実施例1の蓄熱器を長さ0.208mの蓄熱器に置き換えた構成
実施例1の蓄熱器を長さ0.208mの蓄熱器に置き換えた実施例3の熱輸送デバイス1が構成された。実施例3の熱輸送デバイス1において、蓄熱器相対位置は、約0.199であった。
【0374】
〔実施例4〕実施例1の蓄熱器を長さ0.250mの蓄熱器に置き換えた構成
実施例1の蓄熱器を長さ0.250mの蓄熱器に置き換えた実施例3の熱輸送デバイス1が構成された。実施例4の熱輸送デバイス1において、蓄熱器相対位置は、約0.187であった。
【0375】
〔実施例5〕実施例1の蓄熱器を長さ0.369mの蓄熱器に置き換えた構成
実施例1の蓄熱器を長さ0.369mの蓄熱器に置き換えた実施例5の熱輸送デバイス1が構成された。実施例5の熱輸送デバイス1において、蓄熱器相対位置は、約0.153であった。
【0376】
〔実施例6〕実施例3のピン式熱交換器を受熱部の数が40のピン式熱交換器に置き換えた構成
実施例3のピン式熱交換器を寸法そのままで棒状受熱部の数が40のピン式熱交換器に置き換えた実施例6の熱輸送デバイス1が構成された。これらの棒状受熱部のそれぞれは、長さ0.76m、直径0.002mの棒状であり、直径0.060mの円盤2枚を重ねた土台部に0.001mから0.002mの間隔で配設された。
【0377】
〔実施例7〕実施例3の高温熱源側丸管を長さ0.300mの丸管に置き換えた構成
実施例3の高温熱源側丸管を長さ0.300mのHaynes 230合金製丸管に置き換えた実施例7の熱輸送デバイス1が構成された。実施例7の熱輸送デバイス1の全長は、1.590mであった。蓄熱器相対位置は、約0.123であった。
【0378】
〔実施例8〕実施例7のピン式熱交換器を長さ0.050mのプレート式熱交換器に置き換えた構成
実施例7のピン式熱交換器を長さ0.050mでプレート数12枚のプレート式熱交換器に置き換えた実施例8の熱輸送デバイス1が構成された。
【0379】
<評価実験>
実施例1から実施例8の熱輸送デバイス1を評価すべく、以下の熱輸送量測定実験及び圧力制御実験が行われた。
【0380】
〔熱輸送量測定実験〕
熱輸送量測定実験は、実施例1から実施例8の熱輸送デバイス1を650℃乃至900℃の高温熱源とその外部とに跨るように配設し、作動流体の圧力が0.7MPaのときの熱輸送量及び自励振動の強さ(圧力振幅の大きさ)を測定する実験である。
【0381】
熱輸送量測定実験では、熱輸送デバイス1が高温熱源側丸管部分のうち該高温熱源側丸管部分の長さから0.168mを引いた部分が該電気炉の炉内部分となるよう配設された。高温熱源側丸管部分の残りの部分は、該電気炉の外周に設けられた断熱材等の位置に配設された。熱輸送デバイス1の管路内部には、作動流体である空気が封入された。
【0382】
熱輸送デバイス1の気液熱交換器は、市販のチラーと接続され、熱媒として10℃に冷却された水道水を連続的に供給された。熱輸送デバイス1は、排気弁を介して市販のコンプレッサーと接続された。これにより、第1実施形態の圧力制御手段15が構成された。そして、熱輸送量を増やす指令に応じて、コンプレッサーは、管路内部に封入された空気の圧力を0.7MPaまで加圧した。
【0383】
該電気炉は、650℃乃至900℃の範囲で50℃刻みに定めた目標温度まで炉内部分が加熱された。これにより、蓄熱器において、熱音響の自励振動が生成された。熱音響の自励振動が生成されている場合における、気液熱交換器を通過した熱媒の流量と気液熱交換器を通過する前後での熱媒の温度変化との積に水の比熱を乗じて、熱輸送デバイス1による熱輸送量が測定された。
【0384】
〔圧力制御実験〕
熱輸送量測定実験と同様に高温熱源とその外部とに跨るように配設された実施例6の熱輸送デバイス1について、圧力制御による熱輸送の制御を行う圧力制御実験が行われた。圧力制御実験は、以下に示す、予備実験、加圧実験、及び減圧実験を含む。
【0385】
[予備実験]
予備実験は、実施例7の熱輸送デバイス1を850℃の高温熱源とその外部とに跨るように配設し、作動流体の圧力が0MPaGから0.6MPaGの場合における熱輸送量を測定する実験である。
【0386】
[加圧実験]
加圧実験は、実施例7の熱輸送デバイス1を950℃の高温熱源とその外部とに跨るように配設し、熱輸送量を増やす指令に応じて管路内部に封入された空気の圧力を0MPaGから0.6MPaGに加圧する実験である。
【0387】
[減圧実験]
減圧実験は、実施例7の熱輸送デバイス1を950℃の高温熱源とその外部とに跨るように配設し、熱輸送量を減らす指令に応じて管路内部に封入された空気の圧力を0.6MPaGから0MPaGに減圧する実験である。
【0388】
<結果と考察>
表1は、熱輸送量測定実験において、実施例1から実施例8の熱輸送デバイス1で測定された熱輸送量を示すものである。
【表1】
【0389】
図6は、実施例1から実施例5における蓄熱器の長さと熱輸送量との関係を炉Fの温度ごとに示すグラフである。図6では、実施例1-5に対応するデータ群それぞれを破線で囲って示している。蓄熱器の長さがそれぞれ異なる実施例1から実施例5を蓄熱器の長さの昇順に並べると、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5の順となる。
【0390】
800℃以上の高温では、蓄熱器の長さが0.133mである実施例1から蓄熱器の長さが0.172mである実施例2にかけて熱輸送量の上昇が始まる。一方、700℃以下の温度では、0.133mである実施例1から蓄熱器の長さが0.172mである実施例2にかけての熱輸送量上昇は、みられない。0.133mは、実施例1の管路の長さ1.740mの約7.6%に相当する。0.172mは、実施例2の管路の長さ1.740mの約9.9%に相当する。よって、7.6%と9.9%とのほぼ中間に相当する管路長の9%又はその周辺に、高温熱源(炉F)が700℃以下から800℃以上の高温に変化する場合において、蓄熱器のうち熱交換器として機能する部分が大きくなる閾値がある可能性が見出され得る。
【0391】
また、800℃以上の高温では、蓄熱器の長さが0.208mである実施例3から蓄熱器の長さが0.250mである実施例4にかけて、熱輸送量は、大きく上昇する。0.208mは、実施例3の管路の長さ1.740mの約11.9%に相当する。0.172mは、実施例4の管路の長さ1.740mの約14.3%に相当する。よって、11.9%と14.3%のほぼ中間に相当する管路長の13%又はその周辺に、蓄熱器のうち熱交換器として機能する部分が大きくなる閾値がある可能性が見出され得る。
【0392】
一方、蓄熱器の長さが0.250mである実施例4から蓄熱器の長さが0.369mである実施例5にかけて、蓄熱器のうち熱交換器として機能する部分が実施例4より大きくなるにもかかわらず、熱輸送量は、温度によらず減少する。これは、実施例5において、蓄熱器相対位置(約0.153)が2/25(0.08)以上との条件を満たすものの、4/25(0.16)以上との条件を満たさなくなるためであると考えられる。
【0393】
実施例3と実施例6とは、ピン式熱交換器の棒状受熱部の数、及び、棒状受熱部の間隔が異なる。実施例6の熱輸送量は、実施例3より少ない。実施例3では、棒状受熱部の間隔が0.002mから0.003mの間隔と実施例6より広いため、棒状受熱部が他の棒状受熱部への輻射を遮ることがよりいっそう低減され、熱輸送量が実施例6より大きくなったものと考えられる。
【0394】
実施例3と実施例7とは、管路の長さ及び蓄熱器相対位置が異なる。実施例7の熱輸送量は、実施例3より少ない。実施例3の蓄熱器相対位置は、約0.199であり、2/25(0.08)以上及び4/25(0.16)以上との条件を全て満たす。一方、実施例7の蓄熱器相対位置は、約0.123であり、2/25(0.08)以上との条件を満たすものの、4/25(0.16)以上との条件を満たさないためであると考えられる。
【0395】
実施例7と実施例8とは、第1熱交換器12に相当する部材が異なる。実施例8の熱輸送量は、実施例7より少ない。実施例7では、第1熱交換器12に相当する部材がピン式熱交換器であるため、棒状受熱部が輻射を遮ることが低減される。これにより、実施例7の受熱部は、プレート式熱交換器の受熱部より輻射による受熱を好適に行うことができ、熱輸送量が実施例8より大きくなったものと考えられる。
【0396】
図7は、実施例3及び実施例7における炉Fの温度と熱輸送量との関係を示すグラフである。黒丸は、実施例3を示す。白抜き三角は、実施例7を示す。実施例3及び実施例7のいずれにおいても、炉Fの温度が高くなるにつれ、熱輸送量が増大する。800℃未満の温度では、実施例7と実施例3とは、熱輸送量がほぼ同じであるが、800℃より高い温度では、実施例3が熱輸送量において実施例7に勝る。上述の蓄熱器相対位置の相違により、本発明が課題とする高温での熱輸送量において、実施例3が優れた能力を示したものと考えられる。
【0397】
図8は、実施例3及び実施例7における炉Fの温度と自励振動の強さ(圧力振幅の大きさ)との関係を示すグラフである。黒丸は、実施例3を示す。白抜き三角は、実施例7を示す。実施例3の圧力振幅は、実施例7の圧力振幅より小さい。実施例3及び実施例7の圧力振幅は、温度が高くなるにつれ大きくなる。実施例3の圧力振幅は、特に、800℃近傍から温度上昇に対する増大量が大きくなる。
【0398】
図9は、実施例3及び実施例7における自励振動の強さ(圧力振幅の大きさ)と熱輸送量との関係を示すグラフである。黒丸は、実施例3を示す。白抜き三角は、実施例7を示す。実施例3は、圧力振幅に対する熱輸送量が実施例7より大きい。上述の蓄熱器相対位置の相違により、実施例3は、より小さな圧力振幅でより大きな熱輸送量を実現できているものと考えられる。
【0399】
図10は、予備実験で測定された実施例7の熱輸送デバイス1における作動流体の圧力と熱輸送量との関係を示すグラフである。
【0400】
図10に示した作動流体の圧力と熱輸送量との関係から、実施例7の熱輸送デバイス1における熱輸送量は、作動流体である封入された空気の圧力が0.1MPaG(約0.2MPaに相当)と0.2MPaG(約0.3MPaに相当)との間において大きく上昇する。
【0401】
封入された空気の圧力が約0.2MPa以下の場合における熱輸送量の低さは、熱音響の自励振動の生成が停止又は生成量が小さい状態にあるためと考えられる。よって、封入された空気の圧力を0.2MPa以下にする制御は、熱輸送量を減らす制御として利用可能であると考えられる。
【0402】
封入された空気の圧力が約0.3MPa以上の場合における熱輸送量の高さは、熱音響の自励振動の生成が活発に行われているためと考えられる。よって、封入された空気の圧力を0.3MPa以上にする制御は、熱輸送量を増やす制御として利用可能であると考えられる。
【0403】
また、図10では、封入された空気の圧力が約0.2MPaから約0.4MPaまで増えるにつれて、熱輸送量は、圧力に応じて上昇している。したがって、封入された空気の圧力の増減させることにより、熱輸送デバイス1の熱輸送量が所望の範囲となるようにする制御が可能であるものと考えられる。
【0404】
実施例7の熱輸送デバイス1における熱輸送量は、作動流体である封入された空気の圧力が0.2MPaG(約0.3MPaに相当)から0.6MPaG(約0.7MPaに相当)までの間において、圧力が増えるにつれてよりいっそう上昇する。したがって、封入された空気の圧力を0.4MPa以上にする制御、封入された空気の圧力を0.5MPa以上にする制御は、熱輸送量を増やす制御としてよりいっそう有効であるものと考えられる。
【0405】
加圧実験では、約40秒間かけて封入された空気の圧力を0.1MPaから0.7MPaまで加圧した。加圧実験では、加圧前に100W程度だった熱輸送量が、加圧完了から約80秒で500W以上まで上昇した。
【0406】
加圧実験により、本実施形態の熱輸送デバイス1が熱輸送量を増やす指令に応じて作動流体の圧力を上げることにより、蓄熱器13が熱音響の自励振動を生成するよう制御可能であることが確認された。
【0407】
減圧実験では、約45秒間かけて封入された空気の圧力を0.7MPaから0.1MPaまで減圧した。減圧実験では、減圧前に500W以上だった熱輸送量が、減圧完了から約30秒で約100Wまで減少した。
【0408】
減圧実験により、本実施形態の熱輸送デバイス1が熱輸送量を減らす指令に応じて作動流体の圧力を下げることにより、蓄熱器13が熱音響の自励振動を生成しないよう制御可能であることが確認された。
【0409】
これらの制御は、圧力調整手段を進退させる駆動源を容器内部に設ける等して熱輸送デバイスの保守性を低下させるリスクを負うことなく、また、調整手段を進退させる駆動源を容器外部に設ける等して作動流体を漏出させるリスクを負うことなく、熱輸送量を調節可能である。
【0410】
なお、本発明の思想の範疇において、当業者であれば各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0411】
<参考文献>
〔非特許文献〕
[非特許文献1]「熱音響現象を使った新しい音響デバイス」,琵琶 哲志,JSME TED News letter 41 2-6,2003
【符号の説明】
【0412】
1 熱輸送デバイス
11 容器
11P 管路
11E1 第1端部
11E2 第2端部
12 第1熱交換器
12a 受熱部
13 蓄熱器
13A 蓄熱器第1底面
13B 蓄熱器第2底面
13C 空隙
14 第2熱交換器
15 圧力制御手段
5 熱輸送デバイス
51 管路
51E1 第1端部
51E2 第2端部
52 第1熱交換器
53 第1蓄熱器
53A 第1蓄熱器第1底面
53B 第1蓄熱器第2底面
54 第2熱交換器
55 第3熱交換器
56 第2蓄熱器
56A 第2蓄熱器第1底面
56B 第2蓄熱器第2底面
57 第4熱交換器
58 圧力制御手段
F 炉

【要約】
【課題】熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイスにおいて、以下の目的を両立すること。
(A)自励振動を用いた熱輸送における熱輸送量の向上。
(B)熱輸送量を調整可能とすること。
(C)熱輸送デバイスの保守性の向上。
【解決手段】本発明における熱音響の自励振動を用いた熱輸送デバイス1は、高温熱源(例えば、炉F)の内部と外部との間に跨るように配設可能であり、かつ、両端部(第1端部11E1、第2端部11E2)を実質的に閉塞可能な管路11Pを内部に有する容器11を備え、管路11Pの内部は、作動流体を封入可能であり、作動流体の圧力を制御可能な圧力制御手段15をさらに備え、圧力制御手段15は、熱輸送量を減らす指令に応じて、蓄熱器13が自励振動を弱めるよう作動流体の圧力を制御可能な第1圧力制御部と、熱輸送量を増やす指令に応じて、蓄熱器13が自励振動を強めるよう作動流体の圧力を制御可能な第2圧力制御部と、を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10