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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20221215BHJP
   C30B 19/04 20060101ALI20221215BHJP
   C30B 19/12 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B19/04
C30B19/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017146203
(22)【出願日】2017-07-28
(65)【公開番号】P2019026499
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-07-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 紀人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 純久
(72)【発明者】
【氏名】須藤 悠介
(72)【発明者】
【氏名】野上 暁
(72)【発明者】
【氏名】北畠 真
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】芦田 晃嗣
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-043398(JP,A)
【文献】特開2008-239365(JP,A)
【文献】特開2017-088444(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119747(WO,A1)
【文献】特開2007-223821(JP,A)
【文献】特許第4284188(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 19/04
C30B 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶系の結晶構造を有する基板の(0001)面又は(000-1)面の一部を除去するか一部を成長させることで、c軸方向に突出するとともにc軸方向で見たときに長尺状となる長尺片を間隔を空けて複数形成するパターン形成工程と、
前記基板に対してc軸に垂直な方向及びc軸方向の結晶成長を行うことで、前記長尺片から成長させた単結晶同士を接続する結晶成長工程と、
を含む処理を行い、
前記基板がSiC基板であり、前記単結晶が単結晶SiCであり、
前記パターン形成工程で形成する前記長尺片には、c軸方向で見たときの長手方向と、前記基板の[11-20]方向と、がなす角の絶対値が、nをゼロ以上の整数として30°+60n°±15°の範囲内であるものが含まれており、
前記パターン形成工程で形成される前記長尺片は、前記基板の[11-20]方向に対してなす角が正の部分と、負の部分とが接続された折曲げ状であることを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の単結晶の製造方法であって、
前記パターン形成工程で形成する前記長尺片には、c軸方向で見たときの長手方向と、前記基板の[11-20]方向と、がなす角の絶対値が、30°+60n°±10°の範囲内であることを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の単結晶の製造方法であって、
隣り合う前記長尺片同士は、前記基板の<11-20>方向の何れかに移動させることで互いに重なる位置に形成されていることを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の単結晶の製造方法であって、
前記パターン形成工程で前記長尺片のパターンを形成するパターン形成領域において、少なくとも1つの前記長尺片は、当該パターン形成領域の一端から他端まで形成されていることを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項5】
請求項1からまでの何れか一項に記載の単結晶の製造方法であって、
前記パターン形成工程では、前記基板にレーザを照射することで複数の前記長尺片を形成することを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項6】
六方晶系の結晶構造を有する基板の(0001)面又は(000-1)面の一部を除去するか一部を成長させることで、c軸方向に突出するとともにc軸方向で見たときに長尺状となる長尺片を間隔を空けて複数形成するパターン形成工程と、
前記基板に対してc軸に垂直な方向及びc軸方向の結晶成長を行うことで、前記長尺片から成長させた単結晶同士を接続する結晶成長工程と、
を含む処理を行い、
前記基板がSiC基板であり、前記単結晶が単結晶SiCであり、
前記パターン形成工程で形成する前記長尺片には、c軸方向で見たときの長手方向と、前記基板の[11-20]方向と、がなす角の絶対値が、nをゼロ以上の整数として30°+60n°±15°の範囲内であるものが含まれており、
前記結晶成長工程では、前記SiC基板と、当該SiC基板よりも自由エネルギーが高く、少なくともCを供給するフィード材と、の間にSi融液が存在する状態で加熱することで、前記SiC基板の表面に前記単結晶SiCを成長させる準安定溶媒エピタキシー法を行うことを特徴とする単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、六方晶系の結晶構造を有する基板を用いて単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高品質な半導体デバイスを作製するために、欠陥が少ない単結晶を製造する方法が模索されている。特許文献1から4は、単結晶SiCを製造する技術を開示する。
【0003】
特許文献1の単結晶SiCの製造方法では、初めにSiC基板に複数の凸部を設ける。その後、この凸部にMSE法(準安定溶媒エピタキシー法)による結晶成長を行う。これにより、凸部から径方向に広がるように単結晶SiCが成長するため、凸部よりも表面のサイズが大きい単結晶SiCを製造できる。
【0004】
特許文献2の単結晶SiCの製造方法では、初めに、SiC基板の表面をレーザにより格子状に除去することにより、複数の凸部を形成する。その後、SiC基板にMSE法による結晶成長を行う。このとき、TSDが含まれている凸部は、TSDが含まれていない凸部と比較して、c軸方向の成長速度が速くなるため、c軸方向の高さが高くなる。このc軸方向の高さが高い凸部をレーザにより除去した後に、再びMSE法を行う。これにより、複数の凸部から成長させた単結晶SiCが接続され、表面のサイズが大きな単結晶SiCが製造される。
【0005】
特許文献3の単結晶SiCの製造方法では、初めに、SiC種結晶にマクロステップバンチングを形成することで、第2の種結晶を形成する。次に、この第2の種結晶のTSD上にステップバンチングを形成する。TSD上にステップバンチングを形成してステップフロー成長を行うことでTSDが積層欠陥(基板の表面に貫通しない欠陥)に変換されるため、TSDが少ない単結晶SiCが製造される。
【0006】
特許文献4は、SiC基板に対して結晶成長を行って製造した単結晶SiCから、薄板状の単結晶SiCを切り出す。そして、この薄板状の単結晶SiCに再び結晶成長を行う。以上の処理を繰り返すことにより、TSDが少ない単結晶SiCが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-298722号公報
【文献】特開2017-88444号公報
【文献】特開2014-43369号公報
【文献】特開2003-119097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1から4のうち、特許文献1及び2に記載のMSE法では表面のサイズを広げる方向に結晶を成長させることができるため、TSD(貫通螺旋転位)等の結晶欠陥の伝播が生じにくい。従って、高品質な単結晶SiCを製造できる。しかし、特許文献1の方法では、ある程度以上のサイズの単結晶SiCを製造するためには、長時間掛けて凸部を成長させる必要がある。また、特許文献2の方法では、径方向に成長させた単結晶SiC同士が確実に接続されるとは限られないため、改善が求められていた。
【0009】
また、以上で説明した課題はSiCに限られず、他の六方晶系の物質であっても同様の課題が存在する。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、高品質かつ表面のサイズが大きい単結晶をより確実に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の観点によれば、以下の単結晶の製造方法が提供される。即ち、この単結晶の製造方法は、パターン形成工程と、結晶成長工程と、を含む処理を行う。前記パターン形成工程では、六方晶系の結晶構造を有する基板の(0001)面又は(000-1)面の一部を除去するか一部を成長させることで、c軸方向に突出するとともにc軸方向で見たときに長尺状となる長尺片を間隔を空けて複数形成する。前記結晶成長工程では、前記基板に対してc軸に垂直な方向及びc軸方向の結晶成長を行うことで、前記長尺片から成長させた単結晶同士を接続する。前記基板がSiC基板であり、前記単結晶が単結晶SiCである。前記パターン形成工程で形成する前記長尺片には、c軸方向で見たときの長手方向と、前記基板の[11-20]方向と、がなす角の絶対値が、nをゼロ以上の整数として30°+60n°±15°の範囲内であるものが含まれている。前記パターン形成工程で形成される前記長尺片は、前記基板の[11-20]方向に対してなす角が正の部分と、負の部分とが接続された折曲げ状である。
【0013】
これにより、上記の角度の長尺片を形成することで、結晶成長工程で長尺片同士を接続することができる。また、長尺片が形成されていない部分にTSDが存在していた場合であっても、当該結晶欠陥は成長させる単結晶には伝播しないので、高品質の単結晶を製造できる。また、折曲げがない長尺片と異なり、基板の一側の端部から他側の端部までで、なす角の絶対値が同じ形状の長尺片を形成できる。
【0014】
前記の単結晶の製造方法においては、前記パターン形成工程で形成する前記長尺片には、c軸方向で見たときの長手方向と、前記基板の[11-20]方向と、がなす角の絶対値が、30°+60n°±10°の範囲内であるものが含まれていることが好ましい。
【0015】
これにより、上記の角度の長尺片を形成することで、結晶成長工程で長尺片同士を更に確実に接続することができる。
【0016】
前記の単結晶の製造方法においては、隣り合う前記長尺片同士は、前記基板の<11-20>方向の何れかに移動させることで互いに重なる位置に形成されていることが好ましい。
【0017】
これにより、結晶成長工程で隣り合う長尺片同士を更に確実に接続することができる。
【0018】
前記の単結晶の製造方法においては、前記パターン形成工程で前記長尺片のパターンを形成するパターン形成領域において、少なくとも1つの前記長尺片は、当該パターン形成領域の一端から他端まで形成されていることが好ましい。また、前記パターン形成領域は前記基板の一部であっても良いし、前記基板の全面であっても良い。
【0019】
これにより、<11-20>方向以外の方向での単結晶の接続が不要となるため、表面のサイズが大きい単結晶をより確実に製造できる。
【0022】
前記の単結晶の製造方法においては、前記パターン形成工程では、前記基板にレーザを照射することで複数の前記長尺片を形成することが好ましい。
【0023】
これにより、一部のみに結晶成長を行って長尺片を形成する方法と比較して、簡単かつ短時間で長尺片を形成することができる。
【0026】
前記の単結晶の製造方法においては、前記結晶成長工程では、前記SiC基板と、当該SiC基板よりも自由エネルギーが高く、少なくともCを供給するフィード材と、の間にSi融液が存在する状態で加熱することで、前記SiC基板の表面に前記単結晶SiCを成長させる準安定溶媒エピタキシー法を行うことが好ましい。
【0027】
これにより、準安定溶媒エピタキシー法はc軸に垂直な方向の成長速度が速いため、長尺片から成長した単結晶SiCを短時間で接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の単結晶SiCの製造方法等で用いる高温真空炉の概要を説明する図。
図2】単結晶SiCの製造工程(パターン形成工程及びダメージ除去工程)を示す模式図。
図3】単結晶SiCの製造工程(結晶成長工程)を示す模式図。
図4】SiC基板に形成されるパターン及びなす角θを説明する平面図(c軸方向で見た図)。
図5】MSE法による結晶成長工程を示す模式図。
図6】結晶成長前のSiC基板のTSDの分布と、結晶成長後のSiC基板のTSDの分布と、を示す図。
図7】なす角θと単結晶の成長状態及び接続状態を示す顕微鏡写真。
図8】なす角θと単結晶の成長状態及び接続状態を示す模式図。
図9】{1-100}ファセット面の形成により成長が停止した別の例を示す図。
図10】六方晶系の結晶構造の(0001)面における方向(結晶方位)を示す図。
図11】SiC基板に形成される他のパターンを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、図1を参照して、本実施形態の単結晶SiCの製造方法等で用いる高温真空炉10について説明する。
【0030】
図1に示すように、高温真空炉10は、本加熱室21と、予備加熱室22と、を備えている。本加熱室21は、少なくとも表面が単結晶SiC(例えば、4H-SiC又は6H-SiC)で構成される単結晶SiC基板(以下、SiC基板40)を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室22は、SiC基板40を本加熱室21で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0031】
本加熱室21には、真空形成用バルブ23と、不活性ガス注入用バルブ24と、真空計25と、が接続されている。真空形成用バルブ23は、本加熱室21の真空度を調整することができる。不活性ガス注入用バルブ24は、本加熱室21内の不活性ガスの圧力を調整することができる。本実施形態において、不活性ガスとは、例えばAr等の第18族元素(希ガス元素)のガス、即ち、固体のSiCに対して反応性が乏しいガスであり、窒素ガスを除くガスである。真空計25は、本加熱室21内の真空度を測定することができる。
【0032】
本加熱室21の内部には、ヒータ26が備えられている。また、本加熱室21の側壁及び天井には図略の熱反射金属板が固定されており、この熱反射金属板は、ヒータ26の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。これにより、SiC基板40を強力かつ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ26としては、例えば、抵抗加熱式のヒータ又は高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0033】
高温真空炉10は、坩堝(収容容器)30に収容されたSiC基板40に対して加熱を行う。収容容器30は、適宜の支持台等に載せられており、この支持台が動くことで、少なくとも予備加熱室から本加熱室まで移動可能に構成されている。収容容器30は、互いに嵌合可能な上容器31と下容器32とを備えている。SiC基板40は、収容容器30の下容器32に載置されている支持台33に支持される。
【0034】
収容容器30は、SiC基板40が収容される内部空間の壁面(上面、側面、底面)を構成する部分において、外部側から内部空間側の順に、タンタル層(Ta)、タンタルカーバイド層(TaC及びTa2C)、及びタンタルシリサイド層(TaSi2又はTa5Si3等)から構成されている。
【0035】
このタンタルシリサイド層は、加熱を行うことで、収容容器30の内部空間にSiを供給する。また、収容容器30にはタンタル層及びタンタルカーバイド層が含まれるため、周囲のC蒸気を取り込むことができる。これにより、加熱時に内部空間内を高純度のSi雰囲気とすることができる。なお、タンタルシリサイド層を設けることに代えて、固体のSi等のSi源を内部空間に配置しても良い。この場合、加熱時に固体のSiが昇華することで、内部空間内を高純度のSi蒸気圧下とすることができる。
【0036】
SiC基板40を加熱する際には、初めに、図1の鎖線で示すように収容容器30を高温真空炉10の予備加熱室22に配置して、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1800℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ収容容器30を移動させる。その後、圧力等を調整しつつSiC基板40を加熱する。なお、予備加熱を省略しても良い。
【0037】
次に、本実施形態で行われる単結晶SiC42の製造工程について図2及び図3を参照して説明する。図2及び図3は、単結晶SiC42の製造工程を示す模式図である。
【0038】
SiC基板40には、図2及び図3に示すように、TSD(TSD :threading screw dislocation、貫通螺旋転位)が生じている。TSDとは、結晶の変位方向(バーガースベクトル)と転位線が平行な結晶欠陥である。TSDは、結晶成長時に単結晶SiC42に伝播することで、単結晶SiC42の品質を低下させる。以下の説明では、SiC基板40に生じているTSDを説明する場合は、符号51を付して説明する。なお、SiC基板40には実際には多数のTSDが形成されているが、図を簡単にするため、図2及び図3には、TSD51が1つだけ示されている。
【0039】
本実施形態で用いるSiC基板40は、オフ角を有していないオン基板であるが、オフ角を有していても良い。また、SiC基板40の結晶多形は4H-SiCであるが、他の結晶多形(6H-SiC等)であっても良い。SiC基板40の主面(処理を行う面)はSi面(0001)面であるが、C面(000-1)面であっても良い。また、SiC基板40はパターン形成工程の前においては凸部等が形成されておらず、表面が平坦である。
【0040】
初めに、図2(a)及び図2(b)に示すように、SiC基板40に対してパターン形成工程を行う。パターン形成工程とは、SiC基板40の表面に複数の長尺片41で構成されるパターンを形成する処理である。本実施形態では、SiC基板40にレーザを照射してSiC基板40の一部(長尺片41を形成しない部分)を除去することで、パターンを形成する。
【0041】
以下、本実施形態で形成されるパターンについて説明する。このパターンを構成する長尺片41は、SiC基板40の表面からc軸方向(本実施形態では[0001]方向)に突出している。本実施形態では、SiC基板40の表面と長尺片41の側面とが直交しているが、異なる角度をなしていても良い。また、長尺片41のc軸方向の長さ(高さ)は、全ての長尺片41で同じであることが好ましいが、僅かに異なっていても良い。
【0042】
また、長尺片41は、c軸方向で見たときに(即ち図4等の平面図)において、長尺状である。長尺状とは、細長い形状であり、言い換えれば「長手方向」という概念が存在する形状である。本実施形態では、折曲げ状の長尺片41が形成されている。具体的には、図4に示すように、1つの長尺片41は、[11-20]方向に対してなす角が+θの部分と、[11-20]方向に対してなす角が-θの部分と、が接続された構成である。なお、なす角の求め方は、[11-20]方向を基準として、c軸方向で見て反時計回りを正とし、時計回りを負として求める。なす角θの好ましい範囲は後述する。
【0043】
本実施形態では、上記の形状の長尺片41が[11-20]方向に所定の間隔で並べて配置されている。言い換えれば、ある長尺片41を[11-20]方向に移動させることで、隣の長尺片41と重なる。長尺片41が形成される間隔は同じであることが好ましいが異なっていても良い。1つの長尺片41は、SiC基板40の一端から他端まで([1-100]方向の一端から他端まで)形成されている。言い換えれば、長尺片41は、[11-20]方向のみに並べて配置されており、別の方向([1-100]方向等)には並べて配置されていない。なお、長尺片41のパターンの別の例については後述する。
【0044】
本実施形態ではSiC基板40にレーザを照射することで長尺片41のパターンを形成するが、長尺片41のパターンを形成可能であれば他の方法を用いることもできる。例えば、長尺片41のパターン以外の箇所に開口が形成されているマスクを、SiC基板40の表面に載置し、エッチング(フッ素プラズマ等を用いたドライエッチング、又は、KOHエッチング等のウェットエッチング等)を行う。これにより、長尺片41のパターンを形成することができる。あるいは、SiC基板40の除去ではなく、SiC基板40の一部を成長させることで、長尺片41のパターンを形成することもできる。具体的には、長尺片41のパターンを形成する箇所に開口が形成されているマスクを、SiC基板40の表面に載置し、結晶成長(溶液成長又は気相成長等)を行う。これにより、長尺片41のパターンを形成することができる。
【0045】
次に、図2(b)及び図2(c)に示すように、SiC基板40にダメージ除去工程を行う。ダメージ除去工程とは、パターン形成工程でSiC基板40の表面に生じたダメージを除去する工程である。本実施形態では、Si蒸気圧エッチングにより、ダメージ除去工程を行う。
【0046】
ここで、Si蒸気圧エッチングについて詳細に説明する。Si蒸気圧エッチングは、SiC基板40を収容容器30に収容し、上述したSi源が収容容器30内に存在する状態で(かつSi及び不活性ガス以外の元素を積極的に供給しない状態で)、1500℃以上2200℃以下、望ましくは1600℃以上2000℃以下の温度範囲で高温真空炉10を用いて加熱を行う。これにより、収容容器30内が高純度のSi蒸気圧下となり、この状態でSiC基板40が加熱される。これにより、SiC基板40の外周面の表面がエッチングされるとともに当該表面が平坦化されていく。このSi蒸気圧エッチングの際には、以下に示す反応が行われる。簡単に説明すると、SiC基板40がSi蒸気圧下で加熱されることで、SiC基板40のSiCが熱分解ならびにSiとの化学反応によってSi2C又はSiC2等になって昇華するとともに、Si雰囲気下のSiがSiC基板40の外周面の表面でCと結合して自己組織化が起こり平坦化される。
(1) SiC(s) → Si(v)I + C(s)I
(2) 2SiC(s) → Si(v)II + SiC2(v)
(3) SiC(s) + Si(v)I+II → Si2C(v)
【0047】
Si蒸気圧エッチングを行うことにより、パターン形成工程で生じたダメージを除去することができる。また、SiC基板40の作製時に生じた加工ダメージ(例えば切出し及び研磨等の際に生じた加工ダメージ)についても除去できる。なお、本実施形態では、Si蒸気圧エッチングを用いてダメージ除去工程を行うが、他の方法(例えば、水素エッチング等のドライエッチング、又は、KOHエッチング等のウェットエッチング等)により、パターン形成工程で生じたダメージを除去しても良い。
【0048】
次に、図3(d)から図3(f)に示すように、SiC基板40に結晶成長工程を行う。結晶成長工程では、SiC基板40に対してc軸に垂直な方向(水平方向、基板厚み方向に垂直な方向、面積を広げる方向)及びc軸方向(基板厚み方向)の結晶成長を行うことで、長尺片41から成長した単結晶SiC42同士を接続する。本実施形態では、溶液成長法の1つであるMSE法(準安定溶媒エピタキシー法)を用いて単結晶SiC(エピタキシャル層)を成長させる。
【0049】
なお、本実施形態では、MSE法を用いて結晶成長工程を行うが、他の方法(例えば、CVD法等の気相成長法、温度勾配を設けることにより溶液中のC等を移動させる溶液成長法等)を用いても良い。CVD法を用いる場合は、SiC基板40にオフ角を形成する必要がある。
【0050】
以下、MSE法について図5を参照して説明する。図4は、MSE法による結晶成長工程を示す模式図である。図5に示すように、本実施形態では、収容容器30にSiC基板40を収容する。収容容器30の内部には、SiC基板40に加え、Siプレート61と、フィード材62と、が配置されている。これらは、支持台33によって支持されている。
【0051】
SiC基板40は、液相エピタキシャル成長の基板(シード側)として使用される。SiC基板40の一側(上側)には、Siプレート61が配置されている。Siプレート61は、Si製の板状の部材である。Siの融点は約1400℃であるので、上記の高温真空炉10で加熱を行うことでSiプレート61は溶融する。Siプレート61の一側(上側)には、フィード材62が配置されている。フィード材62は、例えば多結晶3C-SiC製であり、SiC基板40より自由エネルギーの高い基板である。
【0052】
SiC基板40、Siプレート61、及びフィード材62を上記のように配置して加熱すると、SiC基板40とフィード材62の間に配置されていたSiプレート61が溶融し、シリコン融液が炭素を移動させるための溶媒として働く。なお、加熱温度は、例えば1500℃以上2300℃以下であることが好ましい。この加熱により、SiC基板40とフィード材62の自由エネルギーの差に基づいて、Si融液に濃度勾配が発生し、この濃度勾配が駆動力となって、フィード材62からSi融液へSiとCが溶出する。Si融液に取り込まれたCは、Si融液のSiと結合し、SiC基板40に単結晶SiCとして析出する。以上により、SiC基板40の表面に単結晶SiC42を成長させることができる。また、MSE法では、SiC基板40にオフ角が形成されていない場合であっても、結晶成長を行うことができる。
【0053】
MSE法では、c軸に垂直な方向及びc軸方向に結晶成長が行われる。従って、図3(e)に示すように長尺片41が形成されたSiC基板40にMSE法を行って結晶成長させることで、SiC基板40の長尺片41に単結晶SiC42が析出する。この単結晶SiC42がc軸に垂直な方向(特にa軸方向)に成長することで、図3(f)に示すように、隣接する長尺片41から成長した単結晶SiC42同士が接続される。以上により、表面のサイズが大きい単結晶SiC42を製造することができる。
【0054】
ここで、長尺片41が形成されていない部分では、フィード材62までの距離が長くなるため、成長速度が遅い又は結晶が成長しない。従って、長尺片41が形成されていない部分のTSD51は単結晶SiC42には伝播しない。従って、TSD密度が低い単結晶SiC42を製造することができる。
【0055】
上記のようにして作製された単結晶SiC42は、SiCインゴットを作製するための種結晶として用いることができる。あるいは、単結晶SiC42付きのSiC基板40を、半導体デバイスを作製するためのSiCウエハとして用いることもできる。
【0056】
以下、本実施形態の方法で単結晶SiC42を製造することでTSD密度が低くなっていることを確かめた実験について図6を参照して説明する。図6(a)及び図6(b)は、SiC基板40にTSD51が生じている部分を可視化する処理を行った後に、SiC基板40の表面を顕微鏡で撮像した写真である。図6(a)及び図6(b)では、TSD51が生じている箇所が黒丸となるように処理されている。図6(a)には結晶成長前のSiC基板40のTSD51の分布が示されており、図6(b)には結晶成長後のSiC基板40のTSD51の分布が示されている。図6(a)及び図6(b)に示すように、結晶成長を行うことでTSD51の数が大幅に減少していることが確認できる。
【0057】
次に、結晶成長工程において隣接する単結晶SiC42が接続されるための条件を確かめる実験について図7及び図8を参照して説明する。この実験では、複数のSiC基板40を用意し、それぞれのSiC基板40に上記のなす角θが異なる長尺片41を形成し、それぞれのSiC基板40についてMSE法による結晶成長を行った。なお、長尺片41の形成は、キーエンス製のレーザ装置(MD-T1000)を用いて行った。また、レーザの媒質はNd:YVO4、レーザの波長は532nmとした。
【0058】
また、図7に示す顕微鏡写真は、SiC等の六方晶系の結晶構造の以下の特徴を利用してSEMで撮影した。即ち、単結晶SiCの積層配向(SiとCからなる分子層が積み重なる方向)は半周期毎に<1-100>方向又はその反対方向へと折り返す構成である。そして、単結晶SiCの表面の積層配向と、入射電子線の角度と、が近い場合は強い二次電子線が発生し、単結晶SiCの表面の積層配向と、入射電子線の角度と、が遠い場合は弱い二次電子線が発生する。
【0059】
図7及び図8は、この実験の結果を示す図である。図7には、上記のなす角θが異なるSiC基板40毎に、結晶成長工程前の顕微鏡写真と、結晶成長後の顕微鏡写真と、が記載されている。図8には、結晶成長後の模式図が示されている。なお、図8(c)では、成長の様子が同様の角(θ=±75°,±80°,±85°)については、同じ図で記載しているため、θの大きさと模式図の角度に若干の違いが存在する。
【0060】
図7及び図8に示すように、なす角θの絶対値が55°,60°である場合、長尺片41からの単結晶SiC42の[11-20]方向の成長が不均一となる。また、[11-20]の反対方向へは、一度{1-100}ファセット面が生じると、結晶成長の速度が低下し、殆ど結晶成長が見られない。そのため、単結晶SiC42同士は完全には接続されず、一部において隙間が生じる。この隙間は、ある程度時間を掛けて単結晶SiC42を成長させた場合であっても埋まらない。
【0061】
これに対し、なす角θの絶対値が75°,80°,85°,90°である場合、長尺片41からの単結晶SiC42の[11-20]方向及びその反対方向へ均一な成長が生じる。また、{1-100}ファセット面が発生せずに、隣り合う長尺片41から成長した単結晶SiC42は隙間無く接続される。従って、なす角θの絶対値が75°以上90°以下(好ましくは80°以上90°以下)である場合、単結晶SiC42同士をより確実に接続することができる。
【0062】
図9は、{1-100}ファセット面の形成により成長が停止した別の例を示す図である。図9(a)には、成長前及び成長後の模式図が示され、図9(b)には、成長後の顕微鏡写真が示されている。図9に示す長尺片41のパターンは、なす角θが90°であるが、隣り合う長尺片41同士は、[11-20]方向に移動させても重ならない。この場合、図9の成長の過程において、長尺片41の短辺側に{1-100}ファセット面が形成されることがある。この場合、このファセット面で成長が停止し、長尺片41の短辺側の隙間は、ある程度時間を掛けて単結晶SiC42を成長させた場合であっても埋まらない。このように、長尺片41から成長した単結晶SiC42同士を接続するためには、{1-100}ファセット面が形成されることを防止する必要がある。また、{1-100}ファセット面が形成された場合、仮に単結晶SiC42が接続された場合であっても結晶欠陥が発生する可能性が高い。
【0063】
ここで、SiCのような六方晶系の結晶構造は、(0001)面又は(000-1)面において(即ちc軸方向で見たときに)、6回対称である。従って、c軸方向を回転軸として結晶を60°回転させた場合でも殆ど同じ性質を有する。図10には、六方晶系の結晶構造の(0001)面における方向(結晶方位)が示されている。六方晶系の結晶構造は6回対称であるため、[11-20]方向に等価な方向(即ち<11-20>方向)が合計6つ存在し、[1-100]方向に等価な方向(即ち<1-100>方向)も合計6つ存在する(詳細は図10を参照)
【0064】
上述した{1-100}ファセット面は、長尺片の長手方向が<11-20>方向において発生する。そのため、<11-20>方向から離れた<1-100>方向に近いほど、{1-100}ファセット面が発生しにくいと考えられる。ここで、図7及び図8で示した実験によれば、[-1100]方向に対する差異角が15°以下であることが好ましく、10°以下であることが更に好ましいことが確かめられた。
【0065】
以上により、<1-100>方向との差異角が15°以下であることが好ましく、10°以下であることが更に好ましいことが分かる。この条件を上記のなす角θを用いて言い換えれば、nをゼロ以上の整数とした場合において、θ=30°+60n°±15°の範囲内であることが好ましい(即ち、30°+60n-15°≦θ≦30°+60n+15°)。また、θ=30°+60n°±10°の範囲内であることが更に好ましい(即ち、30°+60n-10°≦θ≦30°+60n+10°)。また、図10には、更に好ましい角度範囲の6つの例を破線で示している。
【0066】
また、上記実施形態では、折れ線状の長尺片41を形成するが、図11(a)に示すように、直線状の長尺片41を形成しても良い。また、折れ線状の長尺片41を形成する場合において、折れ曲がりの回数は2回以上であっても良い。
【0067】
また、上記実施形態では、SiC基板40の一端から他端まで([1-100]方向の根元側の端部から先側の端部まで)1つの長尺片41が形成されているが、図11(b)に示すように、[1-100]方向において分割された長尺片41を形成しても良い。
【0068】
また、上記実施形態では、SiC基板40の端部まで長尺片41が形成されているが、図11(c)に示すように、SiC基板40の端部を避けた位置に長尺片41を形成しても良い。この場合、長尺片41が形成される領域をパターン形成領域と称する。また、図11(c)に示す例では、パターン形成領域の一端から他端まで1つの長尺片41が形成されている。
【0069】
また、上記実施形態では、全て同じ形状の長尺片41が形成されているが、少なくとも1つの形状(例えば、長尺片41の長さ及びなす角θ等)が異なっていても良い。
【0070】
以上に説明したように、本実施形態の単結晶SiC42の製造方法では、パターン形成工程と、結晶成長工程と、を含む処理を行う。パターン形成工程では、六方晶系の結晶構造を有するSiC基板40の(0001)面又は(000-1)面の一部を除去するか一部を成長させることで、c軸方向に突出するとともにc軸方向で見たときに長尺状となる長尺片41を間隔を空けて複数形成する。結晶成長工程では、SiC基板40に対してc軸に垂直な方向及びc軸方向の結晶成長を行うことで、長尺片41から成長させた単結晶SiC42同士を接続する。パターン形成工程で形成する長尺片41には、c軸方向で見たときの長手方向と、SiC基板40の[11-20]方向と、がなす角の絶対値が、nをゼロ以上の整数として30°+60n°±15°の範囲内であるものが含まれている。
【0071】
これにより、上記の角度の長尺片41を形成することで、結晶成長工程で長尺片41同士を接続することができる。また、長尺片41が形成されていない部分にTSD51が存在していた場合であっても、当該結晶欠陥は成長させる単結晶SiC42には伝播しないので、高品質の単結晶SiC42を製造できる。また、本実施形態のようにパターン形成工程で結晶成長を行わない場合は、1回の結晶成長で単結晶SiC42を製造可能であるため、簡単な工程で高品質かつ表面のサイズが大きい単結晶SiC42を製造できる。
【0072】
また、本実施形態の単結晶SiC42の製造方法において、パターン形成工程で形成する長尺片41には、c軸方向で見たときの長手方向と、SiC基板40の[11-20]方向と、がなす角の絶対値が、30°+60n°±10°の範囲内であるものが含まれている。
【0073】
これにより、上記の角度の長尺片41を形成することで、結晶成長工程で長尺片41同士を更に確実に接続することができる。
【0074】
また、本実施形態の単結晶SiC42の製造方法において、隣り合う長尺片41同士は、SiC基板40の<11-20>方向の何れかに移動させることで互いに重なる位置に形成されている。
【0075】
これにより、結晶成長工程で隣り合う長尺片41同士を更に確実に接続することができる。
【0076】
また、本実施形態の単結晶SiC42の製造方法において、パターン形成工程で長尺片41のパターンを形成するパターン形成領域において、少なくとも1つの長尺片41は、当該パターン形成領域の一端から他端まで形成されている。
【0077】
これにより、<11-20>方向以外の方向での単結晶SiC42の接続が不要となるため、表面のサイズが大きい単結晶SiC42をより確実に製造できる。
【0078】
また、本実施形態の単結晶SiC42の製造方法において、パターン形成工程で形成される長尺片41は、SiC基板40の[11-20]方向に対してなす角が正の部分と、負の部分とが接続された折曲げ状である。
【0079】
これにより、折曲げがない長尺片41と異なり、SiC基板40の一側の端部から他側の端部まで同じ形状の長尺片41を形成できる。
【0080】
また、本実施形態の単結晶SiC42の製造方法において、パターン形成工程では、SiC基板40にレーザを照射することで複数の長尺片41を形成する。
【0081】
これにより、一部のみに結晶成長を行って長尺片41を形成する方法と比較して、簡単かつ短時間で長尺片41を形成することができる。
【0082】
また、本実施形態の単結晶SiC42の製造方法において、結晶成長工程では、SiC基板40と、当該SiC基板40よりも自由エネルギーが高く、少なくともCを供給するフィード材62と、の間にSi融液が存在する状態で加熱することで、SiC基板40の表面に単結晶SiC42を成長させる準安定溶媒エピタキシー法を行う。
【0083】
これにより、準安定溶媒エピタキシー法はc軸に垂直な方向の成長速度が速いため、長尺片41から成長した単結晶SiC42を短時間で接続することができる。
【0084】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0085】
図2及び3等で説明した製造工程は一例であり、工程の順序を入れ替えたり、一部の工程を省略したり、他の工程を追加したりすることができる。例えば、ダメージ除去工程は省略することができる。
【0086】
上記で説明した温度条件及び圧力条件等は一例であり、適宜変更することができる。また、上述した高温真空炉10以外の加熱装置(例えば内部空間が複数存在する高温真空炉)を用いたり、SiC基板として多結晶基板を用いたり、収容容器30と異なる形状又は素材の容器を用いたりしても良い。
【0087】
本実施形態では、SiC基板に本発明を適用する例を説明したが、同様の六方晶系の基板である、サファイア基板及び窒化アルミニウム基板等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
10 高温真空炉
40 SiC基板
41 長尺片
42 単結晶SiC
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11