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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】抗原組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20221215BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20221215BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61P37/04
A61K39/395 U
A61K39/00 H
C12N15/62 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019535645
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029395
(87)【国際公開番号】W WO2019031446
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2017152123
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】黒田 裕
(72)【発明者】
【氏名】上岡 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】ラフマン ナフスーン
(72)【発明者】
【氏名】イスラム モニール モハマド
(72)【発明者】
【氏名】三浦 史帆
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0046035(US,A1)
【文献】特許第5273438(JP,B2)
【文献】特開2006-188507(JP,A)
【文献】Abstracts of the general meeting of the American Society for Microbiology,2013年,Vol.113,p.1440
【文献】生物物理,2008年,Vol.48, No.3,p.185-189
【文献】FEBS Letters,2016年,Vol.590,p.3501-3509
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications,2016年,Vol.471,p.163-168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 19/00
A61P 37/04
A61K 39/395
A61K 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原ペプチド、該抗原ペプチドの末端に結合した2個のGlyまたはSerで構成されるスペーサー・ペプチド及び該スペーサー・ペプチドに結合した4~6個のアミノ酸で構成されるタグ・ペプチドから成るタグ化ポリペプチドを含む、前記抗原ペプチドに対する抗体を生産するための抗原組成物であって、但し、前記スペーサー・ペプチド及びタグ・ペプチドが抗原ペプチドのC末端側に存在する場合、該スペーサー・ペプチド-タグ・ペプチドは、-(Gly)-(Ala)、-(Ser)-(Ile)または-(Gly)-(Ile-Asn)-Ileのいずれかであり、及び前記スペーサー・ペプチド及びタグ・ペプチドが抗原ペプチドのN末端側に存在する場合、該スペーサー・ペプチド-タグ・ペプチドは-(Gly)-(Ile)であり、且つ前記抗原ペプチドはBPTIである、前記抗原組成物。
【請求項2】
生理学的に許容される担体を含むワクチンの形態である、請求項1記載の抗原組成物。
【請求項3】
更にアジュバントを含む、請求項1または2に記載の抗原組成物。
【請求項4】
ヒト以外の動物を免疫する方法であって、免疫有効量の請求項1~のいずれか一項に記載の抗原組成物を該動物に投与することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の免疫ないし動物に抗体を産生させるための組成物及び方法に関する。特に、特定のアミノ酸配列によりタグ化されたポリペプチドを抗原として使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
抗体産生は、抗原刺激の結果、免疫反応によって動物の生体内で誘導される。したがって、ある種の抗原性ポリペプチド(ないしタンパク質)は、それに対する抗体産生を誘導することによって、ウイルスや細菌による感染症の予防のみならず、癌の予防や治療等にも使用されるワクチンとして利用されている。また、ある種の抗原性ポリペプチドは、非ヒト動物において抗血清やモノクローナル抗体を産生させるために利用されている。
【0003】
しかしながら、全ての抗原性ポリペプチドが生体内で十分な抗体産生を誘導するわけではないこともわかっている。例えば、アミノ酸が数十~百数十個程度の残基の比較的小さなポリペプチドの中には免疫原性が一般的に弱いものが多いことが知られている。したがって、そのような免疫原性の弱いポリペプチドを用いて動物を免疫する場合、その免疫原性を増強するためにアジュバントがしばしば同時に投与される。
【0004】
しかしながら、他方で、そのような目的で、動物実験で汎用されている完全フロイント・アジュバント(Complete Freund’s adjuvant)及びフロイント・アジュバント(Freund’s adjuvant)は、その潜在的な副作用のためにヒトへの使用が制限されている。したがって、アジュバントを用いずに免疫原性の弱いポリペプチドの免疫原性を増強して十分な抗体産生を誘導することが望まれている。
【0005】
本発明者らは、先に、ポリペプチドの末端に1~20個の親水性アミノ酸から成るタグを付与することにより当該ポリペプチドの溶解度を向上させ得ることを見出している(特許文献1)。また、本発明者らは、生体分子の末端に任意のアミノ酸配列から成るペプチドが付加されたペプチド付加生体分子の溶解度を熱力学的理論に基づき計算する方法及び当該計算方法を用いて所望の溶解度とするペプチドタグを設計する方法、並びにそのような方法を利用して封入体(大腸菌の組換細胞等内に蓄積する不活性型凝集)形成を防止する方法を見出している(特許文献2)。しかしながら、いずれの先行文献も、ポリペプチドの末端に特定のアミノ酸から成るタグが付加されたタグ化ポリペプチドが、当該ポリペプチドの免疫原性を増強し得ることについて、開示も示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-188507号公報
【文献】特許第5273438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、抗原ペプチドの免疫原性を増強するための方法及びその方法を利用した抗原組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、末端が様々にタグ化されたポリペプチドの様々な性質に関して研究を行ってきたなかで、驚くべきことに、特定のアミノ酸から成るタグが付加されたタグ化ポリペプチドが当該ポリペプチドの免疫原性を増強し得ること(つまり、タグ化前のポリペプチドに対する免疫応答を向上さること、タグ化前のポリペプチドに対する抗血清及び抗体を生成させること、或いはタグ化前のポリペプチドの免疫原性を向上させることなどを含む。)を見出した。したがって、本発明の第1の局面は、
(1)抗原ペプチド、該抗原ペプチドの末端に結合した0~2個のアミノ酸で構成されるスペーサー・ペプチド及び該スペーサー・ペプチドに結合した3~12個のアミノ酸で構成されるタグ・ペプチドから成り、該タグ・ペプチドはIle、Val、Lys、Arg、Asn、Asp、Ser、Leu、Ala、His、Proまたはそれらの組合せから構成されることを特徴とするタグ化ポリペプチドを含む、前記抗原ペプチドに対する抗体を生産するための抗原組成物である。
【0009】
本発明のタグ・ペプチドがIle、Lys、Arg、Asn、Asp、Ala、HisまたはProにより構成された場合、本発明のタグ化ポリペプチドの免疫原性が特に増強されることが見出された。したがって、本発明の好適な一態様は、
(2)前記タグ・ペプチドを構成するアミノ酸がIle、Lys、Arg、Asn、Asp、Ala、HisまたはProである、上記(1)の抗原組成物である。
【0010】
また、タグ・ペプチドが4~6個のアミノ酸である場合でも、タグ化ポリペプチドの免疫原性が有意に増強され得る。したがって、本発明の別の好適な一態様は、
(3)前記タグ・ペプチドが4~6個のアミノ酸で構成される、上記(1)又は(2)の抗原組成物である。
【0011】
更に、本発明のタグ化ポリペプチドは、抗原ペプチドとタグ・ペプチドの間にスペーサーとして機能するアミノ酸、例えばGly又はSerを2個程度有してもよく、そのような場合にも前記抗原ペプチドに対して特異的な抗体が産生されることが見出された。したがって、本発明の別の好適な一態様は、
(4)前記スペーサー・ペプチドを構成するアミノ酸がGlyまたはSerである、上記(1)~(3)のいずれかの抗原組成物、及び
(5)前記スペーサー・ペプチドが2個のアミノ酸で構成される、上記(1)~(4)のいずれかの抗原組成物である。
【0012】
また、本発明の特定の一態様ではタグ・ペプチドが抗原ペプチドのC末端に結合されてよい。すなわち、
(6)前記抗原ペプチドのC末端にスペーサー・ペプチドが結合する、上記(1)~(5)のいずれかの抗原組成物である。
【0013】
本発明のタグ化ポリペプチドは様々な抗原ペプチドに対して適用可能であり、例えばデング熱ウイルスDEN3-ED3タンパク質のように免疫原性が弱い抗原ペプチドに対しても好適に適用できる。したがって、本発明の1つの態様は、
(7)前記抗原ペプチドがデング熱ウイルスDEN3-ED3タンパク質である、上記(1)~(6)のいずれかの組成物である。
【0014】
以上の説明から明らかなように、本発明のタグ化ポリペプチドはワクチンとして用いることができる。したがって、本発明の好適な一態様は、
(8)薬学上許容される担体を含むワクチンの形態である、上記(1)~(7)のいずれかの抗原組成物である。
【0015】
本発明のタグ化ポリペプチドは、それ自体で増強された免疫原性を示し得るので、必ずしもアジュバントと共に投与される必要はない。しかしながら、アジュバントと共に使用した場合にはさらに顕著な免疫原性の増強を達成し得ることが示された。そのような態様もまた効率的な免疫の誘導にとって有利であり得る。したがって、本発明の別の態様は、
(9)更にアジュバントを含む、上記(1)~(8)のいずれかの抗原組成物である。
【0016】
また、本発明では、免疫が必要とされる動物(例えばヒトやウマ、ウシ、ブタ、イヌ、マーモセット、ヒツジ、ウサギ、ラマ、ラクダ、マウス又はラット等)に対して本発明の抗原組成物の免疫有効量を投与することを包含する、動物の免疫方法が提供される。したがって、本発明の別の局面は、
(10)動物を免疫する方法であって、免疫有効量の上記(1)~(9)のいずれかの抗原組成物を該動物に投与することを含む、前記方法である。
【0017】
また、本発明は、上記(1)~(7)の抗原組成物との関連で記載したタグ化ポリペプチドを動物の免疫のために使用することを意図する。したがって、本発明のもう1つの局面は、
(11)動物を免疫するための、上記(1)~(7)のいずれかのタグ化ポリペプチドである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のタグ化ポリペプチドを動物に対して投与することにより、所望の抗体をより多量に産生させ得るので、当該動物を効率的に免疫することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、C末端にSCPタグを付加したBPTIのX-線結晶構造を示す(Islam M.M,et al,2015 Crystal Growth and Design 15(6);Islam M.M et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,105:15334-39(2008)参照。)。
図2図2は、タグ化しないBPTI変異体(「19A」)及び5個のIleから成るタグ・ペプチド及び2個のGlyから成るスペーサーを付加したBPTI(C5I)の免疫抗原性を示す。上段のパネルは、ELISAによる免疫マウス血清中の抗19A抗体(IgG及びIgM)の測定値(吸光度:OD492nm)を示している(図中、a1及びa2の添え字は、2頭の各マウスの結果を示す。また、「Cntrl」はバッファーのみを投与したマウスの血清である。)。下段のパネルは、ELISA測定から求めた線形フィッテイング(Linear Fitting)及びポリノミナルフィッテイング(Polynominal Fitting)による力価値を示している。
図3図3は、8種類のタグ化BPTIに対する免疫応答性のタグ配列の依存性を示す。免疫増強剤(Freund incomplete adjuvant、1回目はFreund complete adjuvant)を使用し、6週目に収集した血清中の抗19A抗体(IgG及びIgM)のELISAによる測定値(吸光度:OD492nm)を示している。上段のパネルに2倍希釈系列で希釈した血清を使用したときのELISA希釈依存性を示し、下段のパネルに3倍希釈系列で希釈したときのELISA希釈依存性を示す。図中、「19A」はタグ化しないBPTI変異体を投与したマウスであり、「Control」はバッファーのみを投与したマウスである。また、a又はbの添え字はマウスの個体を示す。
図4図4は、8種類のタグ化BPTIに対する免疫応答性のタグ配列の依存性(2頭のマウスの平均)を示す。上段のパネルに力価値(Titer)を示す。図中、白抜きのバー(19A)はプレートを19A(タグなし)でコートしたときの値を示し、黒塗りのバー(C5T)は、5個のThrから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを付加した19Aでプレートをコートしたときの値である。下段のパネルは、300倍に希釈した血清中のELISAによる抗19A抗体(IgG)の測定値(吸光度:OD492nm)を示している。図中、「19A」はタグ化しないBPTI変異体を投与したマウスである。
図5図5は、免疫増強剤(Freund incomplete adjuvant、1回目はFreund complete adjuvant)と共に、或いは単独で19A又はC5I(5個のIleから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを付加した19A)を投与した時の免疫マウス血清中の抗19A抗体(IgG及びIgM)のELISAによる測定値(吸光度:OD450nm)を示す。
図6図6は、4種類のタグ化DEN3-ED3に対する免疫応答性のタグ配列の依存性(2頭のマウスの平均)を示す。上段のパネルは、タグ化DEN3-ED3を、0.3mg/mL(PBS中)の用量で1~5回投与し、各投与後(Dose1~5)の抗DEN3-ED3抗体の生成(ELISAによる492nmでの測定値)を比較している。免疫増強剤(アドジュバント)は使用していない。ControlはPBSのみで免疫したマウス、「D3Ed3」はタグ化しないDEN3-ED3により免疫したマウスである。「D3C3I」は3個のIleから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを付加したタグ化DEN3-ED3である。同様に、「D3C4I」は4個のIleから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを、「D3C5D」は5個のAspから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを、「D3C5K」は5個のLysから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを付加したタグ化DEN3-ED3である。下段のパネルは、4回目の投与後の力価値を示している。図中、小文字の添え字はマウスの個体を示す。
図7図7は、アジュバントを使用した場合の3種類のタグ化DEN3-ED3に対する免疫応答性のタグ配列の依存性(2頭のマウスの平均)を示す。アジュバントとしては、1回目の抗原投与の際にはFreund complete adjuvantを、2回目~4回目の投与の際にはFreund incomplete adjuvantを用いた。各投与後(Dose1~4)の抗DEN3-ED3抗体の力価値を比較している。投与は、0.3mg/mLの抗原を含む溶液100μLにアジュバント100μLの合計200μLをマウスに投与することにより行った。ControlはPBSのみで免疫したマウス、「D3Ed3」はタグ化しないDEN3-ED3により免疫したマウスである。「D3C4I」は4個のIleから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを、「D3C5D」は5個のAspから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを、「D3C5K」は5個のLysから成るタグ・ペプチドと2個のGlyから成るスペーサーを付加したタグ化DEN3-ED3である。
図8図8は、7種類のタグ化BPTIに対する免疫応答性のタグ配列及びスペーサーの依存性を示す。免疫増強剤(Freund incomplete adjuvant、1回目はFreund complete adjuvant)を使用し、6週目に心臓から血清を収集した。図は、血清の3倍希釈系列中の抗19A抗体(IgG及びIgM)のELISAによる測定値(吸光度:OD492nm)を示している。
図9図9は、免疫増強剤(Freund incomplete adjuvant、1回目はFreund complete adjuvant)と共に、或いは単独で19A又はssC5I(5個のIleから成るタグ・ペプチドと2個のSerから成るスペーサーを付加した19A)を投与した時の免疫マウス血清中の抗19A抗体(IgG及びIgM)のELISAによる測定値(吸光度:OD492nm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<タグ化ポリペプチド>
本発明では、それに対する特異的抗体を産生させるべきポリペプチド(つまり、「抗原ペプチド」)の免疫原性を増強させるために、特定のアミノ酸配列を有するタグによって当該抗原ペプチドが修飾される。以下に、当該本発明のタグ化ポリペプチドの構造を説明する。なお、本明細書において、特段の断りのない場合には、アミノ酸配列はN末端からC末端に向けて記載される。
【0021】
1.抗原ペプチド
本発明において、それに対する免疫原性を増強させるべき抗原ペプチドについては特に制限がない。後述のように、本発明のタグ化により、その由来もアミノ酸配列も異なる抗原ペプチド(つまり、牛膵臓トリプシン阻害タンパク質やデング熱ウイルスDEN3-ED3タンパク質)の抗原性を増強させ得ることが示されている。
【0022】
したがって、本発明の抗原ペプチドは、細菌、真菌及びウイルス等の抗原性ポリペプチド;腫瘍細胞及び免疫細胞等の細胞表面に存在する抗原性ポリペプチド;ペプチドホルモン、サイトカイン及び増殖因子並びにそれらの受容体タンパク質;及び上記のいずれかの断片であってよいがそれらに限定されない。
【0023】
例えば、本発明の抗原ペプチドとして、デング熱ウイルスDEN3-ED3、ヒト肝炎ウイルスやインフルエンザウイルスのgag及びpol、BAGE、CASP8、CEA、Her2/neu、MAGE-1、MAGE-3、MAGE-A4、MART1、MUC1、NY-ESO-1、p53、PSA、PRAME、TRP1、TRP2、ras、SART-1、IFN-α、IL-6、IL-12.IL-17及びIL-23等並びにVHH抗体や抗scFvなどの抗体断片は興味深い対象である。
【0024】
特に、本発明のタグ化は、比較的分子量が小さくて抗原性が弱いと考えられるような抗原ペプチド(例えば、牛膵臓トリプシン阻害タンパク質等)に対して好適に用いることができる。
【0025】
2.タグ・ペプチド
上記抗原ペプチドの末端に結合される本発明のタグ・ペプチドは、少なくとも3個のアミノ酸で構成される。更に、本発明のタグ・ペプチドは、Ile、Val、Lys、Arg、Asn、Asp、Ser、Leu、Ala、His、Proまたはそれらの組合せから成ることを特徴とする。後述のように、それらのアミノ酸を選択した場合にタグ化されたポリペプチドの免疫原性が増強されることが示されている。また、当該アミノ酸がIle、Lys、Arg、Asn、Asp、Ala、HisまたはProある場合に、特に顕著な免疫原性の増強が見出されている。
【0026】
上記のアミノ酸の個数は3個以上であれば本発明の免疫原性増強を達成し得るが、あまりに長いタグを使用することは経済的でないかもしれない。したがって、当該アミノ酸の個数としては3~12個、好ましくは3~9個、より好ましくは4~9個、特に好ましくは4~6個程度であり得る。
【0027】
本発明のタグ・ペプチドは、全体として、Ile、Val、Lys、Arg、Asn、Asp、Ser、Leu、Ala、His、Proまたはそれらの組合せから構成されていればよい。したがって、本発明のタグ・ペプチドの好適な例は、-(Val)1~6-(Ile)3~6、-(Ile)1~6-(Val)3~6、-(Ile)3~6-(Arg)2~6、-(Ile)3~6-(Asn)2~6、-(Leu)3~6-(Arg)2~6、-(Lue)3~6-(Asn)2~6、-(Ile)3~6-(Val)1~3-(Ile)3~6、-(Asn)1~6-(Asp)3~6、-(Asp)1~6-(Asn)3~6、-(Asp)3~6-(Arg)2~6、-(Asn)3~6-(Arg)3~6、-(Asp)3~6-(Asn)1~3-(Asp)3~6、-(Asn)3~6-(Asp)1~3-(Asn)3~6、-(Lys)1~6-(Arg)3~6、-(Arg)1~6-(Lys)3~6、-(Lys)3~6-(Lys)3~6、-(Arg)3~6-(Arg)3~6、-(Arg)3~6-(Lys)1~3-(Arg)3~6、又は-(Lys)3~6-(Arg)1~3-(Lys)3~6等を含み得る。また、本発明のタグ・ペプチドの別の好適な態様として、Ileと他の上記のアミノ酸の組合せ、例えば、-(Ile-Arg)-Ileまたは-(Ile-Asn)-Ile等を挙げることができる。
【0028】
なお、上記の本発明のタグ・ペプチドの例は、抗原ペプチドのC末端側に結合するものとして記載したが、本発明のタグ・ペプチドは抗原ペプチドのN末端側に結合させてもよく、その場合には、例えば、(Ile)4~6-、(Val)4~6-、(Lys)4~6-、(Arg)4~6-、(Asp)4~6-、(Asn)4~6-、(Ser)4~6-、(Leu)4~6-、(Ala)4~6-、(His)4~6-又は(Pro)4~6-であり得る。
【0029】
3.スペーサー・ペプチド
本発明のタグ化ポリペプチドにおいて、必ずしも必須ではないが、上記ポリペプチドとタグ・ペプチドを、スペーサー・ペプチドを介して結合させることも好適である。理論に拘束されるわけではないが、ある種のポリペプチドのN末端又はC末端近傍のアミノ酸配列とタグ・ペプチドのアミノ酸配列の組合せよっては、当該末端をタグ化することによりポリペプチドの立体構造が多少変化することも想定される。また、そのような場合には、当該立体構造の変化等によって、所望される元のポリペプチドに対する特異性が十分でない抗体が産生されることも想定される。しかるに、そのような場合にスペーサー・ペプチドを用いることは有利であり得る。後述のように、異なる抗原ペプチド(牛膵臓トリプシン阻害タンパク質及びデング熱ウイルスDEN3-ED3タンパク質)に対して、スペーサー・ペプチド(好ましくは2個のGlyまたはSer)を介在させて様々なタグ・ペプチドを結合させた場合でも、元の抗原ペプチドに対して特異的な抗体ないし抗血清が得られることが示されている。
【0030】
したがって、本発明のタグ化ポリペプチドは、抗原ペプチドとタグ・ペプチドの間のスペーサーとして2個程度のアミノ酸、好ましくはGlyまたはSerを有することが好ましい。
【0031】
<タグ化ポリペプチドの製造>
本発明のタグ化ポリペプチドは、当業者に公知の方法により製造することができる。好ましくは、目的のタグ化ポリペプチドをコードするcDNAを組込んだ発現ベクターにより適切な宿主細胞を形質転換し、当該形質転換細胞の生育に適した条件下で該細胞を生育させることにより本発明のタグ化ポリペプチドを製造することができる。そのような方法は、分子生物学のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、F. Ausubelら、Publ.Wiley Interscience、New York、1997、またはSambrookら、「分子クローニング:実験室マニュアル」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989、等に記載されている。
【0032】
例えば、本発明のタグ化ポリペプチドをコードするcDNAを組込んだ発現ベクターを製造するためには、タグ化前の抗原ペプチドのcDNAが組込まれた発現プラスミドを鋳型として用いることができる。そして、例えば部位特異的変異法により目的とするタグ・ペプチドのアミノ酸配列(又はスペーサー・ペプチド及びタグ・ペプチドのアミノ酸配列)をコードするヌクレオチド配列を、前記抗原ペプチドのORFの5’末端又は3’末端側に対して付加すればよい。そのような方法を実施するためのキットはStratagene社(米国)等から市販されている。また、所望により、上記のようにして作製した本発明のタグ化ポリペプチドをコードするcDNAを別の発現ベクター内にクローニングしてもよい。
【0033】
つまり、本発明に用いることのできる発現ベクターは、用いる宿主細胞の種類に応じて、プラスミド、ウイルス、ファージ、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、コスミド、又は線状もしくは環状のDNA等から成るベクターであってよい。例えば、大腸菌のpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11又はpBdCI;桿菌のpUB110、pC194又はpBD214;コリネバクテリウム属のpSA77又はpAJ667等である。動物宿主細胞のための好適なベクターとしては、pCDM8及びpMT2PC、並びにアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等が挙げられる。
【0034】
上記の発現ベクターを宿主細胞に導入する手法としては、共沈、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクション等の慣用のトランスフェクション法が用い得る。宿主細胞としては、大腸菌等の細菌やCHO細胞等の動物細胞が好適であり得る。
【0035】
上記のようにして本発明のベクターにより形質転換された宿主細胞を、その細胞の至適培養条件下でインキュベーとすることにより、本発明のタグ化ポリペプチドを生産することができる。その後、培養物から、遠心分離、塩析、等電点沈殿、透析及び各種のクロマトグラフィーを組み合わせることで、本発明のタグ化ポリペプチドを精製することができる。たとえば、本発明のタグ化ポリペプチドの末端にHisタグを付加しておき、それをアフィニティ・クロマトグラフィーにより精製してもよい。
【0036】
また、本発明のタグ化ポリペプチドは化学的に合成することも可能である。例えば、カルボキシル基と必要に応じて側鎖を保護したアミノ酸及びアミノ基と必要に応じて側鎖を保護したアミノ酸とを用意し、それらをカルボジイミド等の試薬により縮合させた後で、アミノ基の保護基を外して次の保護化アミノ酸を反応させることで、本発明のタグ化ポリペプチドを合成することができる。
【0037】
<抗原組成物>
本発明のタグ化ポリペプチドは、1種又は2種以上の本発明のタグ化ポリペプチドを含む抗原組成物として経口的又は非経口的に(例えば、筋肉内、腹腔内又は皮下注射として)動物に投与することが有利である。通常、そのような組成物は生理学的に許容可能な少なくとも1つの担体(賦形剤)を含む。また、本発明の組成物は生理学的に許容可能な塩及び/又は補助剤を更に含んでよい。
【0038】
本発明の抗原組成物中におけるタグ化ポリペプチドの濃度は約0.1~99重量%であり、例えば、使用時に0.3mg/mL~1mg/mLとして調製されるものであり得る。また、当該組成物に用いることのできる生理学的に許容可能な担体は、例えば生理食塩水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油及びゼラチン等の当業者によく知られている水性又は油性媒体或いはエマルジョンであってよい。
【0039】
本発明の組成物に添加され得る生理学的に許容可能な塩としては、酢酸、乳酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、安息香酸、サリチル酸及びメタンスルホン酸等の有機酸の酸付加塩や、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸の酸付加塩が挙げられる。したがって、本発明の組成物は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液として構成されてよい。更に、本発明の組成物は、補助剤として、等張化剤(ショ糖等の糖類)、安定化剤(各種アミノ酸やポリソルベート等の界面活性剤)、pH調整剤(各種緩衝塩)、防腐剤、乳化剤や分散剤を含んでもよい。
【0040】
本発明のタグ化ポリペプチドは優れた免疫原性を示すので、アジュバントを使用することは必ずしも必須ではない。しかしながら、後述のとおり、本発明のタグ化ポリペプチドをアジュバントと同時に投与することでその免疫原性が更に増強されることが示されている。したがって、本発明の組成物にアジュバントを添加することも好適な態様である。そのようなアジュバントは当業者に知られたいずれのものであってもよく、例えば、アルミニウム塩等の塩類、パラフィン、ラノリン及びフロイント等の油性アジュバント及び結核菌の死菌を含む完全フロイント・アジュバント(Complete Freund’s adjuvant)であり得る。結核菌の死菌を含まない不完全フロイント・アジュバント(Freund’s incomplete adjuvant)が好適である。
【0041】
<抗原組成物の使用>
上記のような本発明の抗原組成物は、ヒト患者のためのワクチンとして用いることができる。当該ワクチンとして患者に投与される本発明のタグ化ポリペプチドの量は、患者の年齢、体重、性別、全般的な健康状態等の考慮事項に関連して選択される。一般的には、0.01μg/kg体重~100mg/kg体重が単回又は複数回用量に分割して投与される。好ましい投与量の範囲は1日当たり20μg~5.0mgであり得る。
【0042】
また、本発明の抗原組成物は、ヒト以外の動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ニワトリ、ウサギ、ラット及びマウス等)のためのワクチンとして用いることもできる。更には、それらの動物によりヒト患者治療用の抗血清(ないしポリクローナル抗体)を産生させるために使用することもできる。本発明の抗原組成物はそれらの動物に対しても上記ワクチンに準じた方法で投与してよい。
【0043】
更に、本発明の抗原組成物を投与することで実験動物の免疫特異的応答が増強するので、本発明の抗原組成物により免疫した実験動物から特異性が高いモノクローナル抗体を生産する脾臓細胞を効率的に取得し得ることが予想される。そのような実験動物に対する本発明の抗原組成物の投与も前記に準じて実施可能である。例えば、マウスに対して1回当たり10~50μg、好ましくは20μg程度の投与量で数週間にわたり複数回投与することができる。
【0044】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0045】
[方法]
1.タグ化ポリペプチドの調製
以下に、牛膵臓トリプシン阻害タンパク質(以下、「BPTI」と略す。)を抗原ペプチドとして用いた場合の本発明のタグ化ポリペプチドの調製方法を記載する。
【0046】
すべてのタグ化BPTIを、“Kato,A.,Maki,K.,Ebina,T.,Kuwajima,K.,Soda,K.,and Kuroda,Y.;Mutational analysis of protein solubility enhancement using short peptide tags,Biopolymers,85,12-18(2007)”及び“Kuroda,Y.,and Kim,P.S.;Folding of bovine pancreatic trypsin inhibitor(BPTI) variants in which almost half the residues are alanine,J.Mol.Biol.,298,493-501(2000)”に記載されたpMMHaベクター中に構築した。
【0047】
2つのGly残基(スペーサーとして)及びタグ・ペプチドをコードするDNA配列を、抗原ペプチドのテンプレート(BPTI-19A:58残基中19個のアラニンを含む(Islam,MM.,Sohya,S.,Noguchi,K.,Yohda,M., and Kuroda,Y.,“Crystal structure of an extensively simplified variant of bovine pancreatic trypsin inhibitor in which over one-third of the residues are alanines”,P.Natl.Acad.Sci.USA,105,15334-15339(2008)参照。)のC末端に対応する配列に対してQuikChange site directed mutagenesis(商品名:Stratagene社、米国)を用いて付加し、その配列を増幅した。プラスミド配列をDNA配列決定(PRISM 3130x1 Genetic Analyzer(商品名:ABI社、米国))により確認した。
【0048】
タグ化BPTIは、BPTI-19AのC末端に付加されたアミノ酸の数及び種類に従って命名された。例えば、C5Aは、BPTI-19AのC末端に2つのGlyスペーサーの後に付加された5つのアラニンから成るタグを表す。すべてのタグ化BPTIを、大腸菌JM109(DE3)pLysS細胞株内で、110rpmで13~14時間振盪しながら37℃で発現させた。但し、C5Eは大腸菌BL21(DE3)pLysS内で、90rpmで10時間振盪(それ以外は上記と同じ条件)して発現させた。
【0049】
タグ化BPTIを等電点沈殿により精製し、続いて“Khan AM.,Islam MM.,Kuroda Y.,“Analysis of protein aggregation kinetics using short amino acid peptide tags”,Biochim Biophys Acta.Proteins and Proteomics,1834(10),2107-2115(2013)及びMM. Islam,AM. Khan,Y. Kuroda,“Analysis of amino acid contributions to protein solubility using short peptide tags fused to a simplified BPTI variant”,Biochim Biophys Acta.Proteins and Proteomics,1824(10),1144-1150(2012)”に記載された逆相HPLCで精製した。タンパク質同定はMALDI質量分析法(AB SCIEX TOF/TOFTM(商標) 5800)により確認し、使用するまで凍結乾燥粉末として-30℃で保存した。サンプルは、凍結乾燥粉末をMQ水に溶解し、最終タンパク質濃度を緩衝液中で調整することによって調製した。測定の直前にサンプルを25℃で20分間20000gで遠心分離した。
【0050】
2.免疫原性の測定
(1)動物の免疫
市販のBALB/cAJclマウスに対して、上記のようにして調製したタグ化BPTI溶液を、それぞれを約20μgのタグ化BPTI用量で6週間(週1回;計6回)皮下投与した。陰性対照には緩衝液のみを投与した。また、アジュバントを使用した実験では、タグ化BPTI溶液に対して結核菌の死菌を含まない不完全フロイント・アジュバント(Sigma Aldrich社から入手)を1:1 ratio(100uLのアドジュバントと100uLの蛋白質液の計200uLをそれぞれのマウスに注射)の濃度で添加した。6週目にマウスの尾及び心臓から血液を採取した。採取した血液から、「初心者のための動物実験手技(1) マウス・ラット (KS医学・薬学専門書)」(鈴木 潔(著))に記載の方法に準じて抗血清を調製した。
【0051】
(2)特異抗体の測定
ELISA法を用いて抗血清中のBPTIに特異的な抗体の量を測定した。具体的に、プレート(IWAKI社製)にタグ化していない抗原ペプチド(BPTI-19A)の溶液(2.5μg/PBS(137mM塩化ナトリウム、2.68mM塩化カリウム、1.8mMリン酸二水素カリウム、10mMリン酸緩衝液pH7.4))を添加し、約25℃で約12時間超インキュベートすることにより、プレート表面を抗原ペプチドでコートした。PBSを用いてプレート洗浄し、1%BSA(PBS)を添加した。プレートを37℃で45分間インキュベートしたのち、添加液を除去した。次に、上記(1)で得た抗血清を、PBSで適切な倍率に希釈したのち、抗原ペプチドでコートしたプレートに添加した。プレートを37℃で120分間インキュベートしたのち、抗血清希釈液を除去した。プレートをPBS-Tween20(PBSに0.05%V/VになるようTween20(WAKO社))で3回洗浄し、次いでPBSで2回洗浄したのち、市販の抗マウスIgG抗体及び抗マウスIgM抗体(Invitrogen社製、カタログ番号62-6520及び62-6820)を用いて、製造元の指示に従ってELISAを実施した。
【0052】
測定に際しては、抗血清の希釈系列を試料として用いた。各希釈率でのELISAの吸光度を縦軸に、また希釈率を横軸にして濃度依存曲線を作成した。
【0053】
(3)力価の計算
上記のように作成した濃度依存曲線を線形及び/又は多項式回帰に基づいて解析し、それぞれの回帰式を得た。それらの回帰式から外挿した、ELISAの吸光度が0となる希釈率を当該タグ化BPTIの力価とした。
【0054】
なお、同一の希釈率での比較が可能な場合には、ELISAの吸光度どうしを直接比較した。
【0055】
[実施例1] IleタグによるBPTIの免疫原性の増強
上記の手順にしがたって、BPTI-19AのC末端にスペーサー・ペプチドとして2つのGlyを結合させ、そのC末端にタグ・ペプチドとして5つの連続したIleを結合させたIleタグ化BPTI(C5I)を調製した(図1)。当該タグ化BPTIにより上記の手順に従って免疫したマウスから抗血清を取得した。そして、当該抗血清のBPTI特異的抗体量を上記のELISA法により測定した。この実験では、アジュバントを使用しなかった。
【0056】
陰性対照としてタグ化BPTIを調製する際に使用した緩衝液(Phosphate Buffered Salt)のみを投与したマウスからの抗血清を試料とした。比較例としてタグ化していないBPTI-19A(19A)を投与したマウスからの抗血清を試料とした。いずれの試料についても2匹のマウスを用いて実験を行った。
【0057】
ELISA測定による濃度依存曲線を図2の上段のパネルに示した。図は、タグ化していないBPTI-19A(19A)及びIleタグ化BPTI(C5I)の場合は300倍希釈から656100倍の抗血清についての結果を示している。また、線形回帰(Linear fitting)及び多項式回帰(Polynominal fitting)に基づいた回帰式から外挿した力価を図2の下段のパネルに示した。図2から明らかなように、本発明のIleタグ化BPTI(C5I)を用いることにより、アジュバントを使用しなくてもBPTIの免疫原性は顕著に増強した。
【0058】
[実施例2] アジュバントの効果
アジュバントを併用することによりさらに免疫原性が増強されるかどうかを調べるために、マウスを免疫する際の溶液にアジュバント(Freund incomplete adjuvant、ただし1回目の免疫の際はFreund complete adjuvant)を添加したこと以外は実施例1と同様にして実験した。比較例としてタグ化していないBPTI-19Aを前記アジュバントと共に投与したマウスからの抗血清を試料とした。
【0059】
ELISA測定によるそれらの試料の吸光度(OD450nm)を図5に示した。図5から、Ileタグを付加することによりBPTI-19Aをアジュバントと共に用いた場合よりも免疫原性が増強されることがわかった。また、Ileタグ化BPTIの免疫原性がアジュバントとの併用によりさらに増強されることが示された。
【0060】
[実施例3A] その他のタグによるBPTIの免疫原性の増強
様々なアミノ酸により構成されたタグ・ペプチドを有するBPTI-19Aを調製し、それらの力価を実施例1と同様して測定した。この実験ではアジュバントを併用した。また、いずれの試料についても2匹のマウスを用いて実験を行った。
【0061】
結果を表1に示した。表中、力価は線形回帰に基づいた回帰式から外挿した力価である。また、各試料における力価の増強を、タグ化していないBPTI-19A(19A)を投与したマウス抗血清に対する力価との比として示している。
【0062】
【表1】
【0063】
また、本発明のタグ化BPTIで免疫した代表的なマウス血清希釈液のELISA値の濃度依存曲線を図3に示した。さらに、マウスから得た血清の力価及び300倍希釈した血清を用いたELISAの平均値(2頭のマウス)を、プレートを19Aでコートした場合とC5Tでコートした場合のそれぞれについて、図4に示した。つまり、ここで生成された血清は、BPTIそのものを認識しており、ペプチド・タグが認識されているのではないことが示された。さらに、表1並びに図3及び図4から明らかなように、本発明のタグ化BPTIを用いることによりBPTIの免疫原性は顕著に増強した。
【0064】
[実施例3B] その他のタグ及びスペーサーによる免疫原性の増強
更に、他のアミノ酸により構成されたタグ・ペプチドまたは他のスペーサーを有するBPTI-19A、及びN末端にタグ・ペプチド及びスペーサーを有するBPTI-19Aを調製し、実施例1と同様にしてそれらの力価を測定した。いずれの試料についても2匹以上(殆どの変異体は3個以上)のマウスを用いて実験を行った。また、採血は心臓から行った。
【0065】
結果を表2に示した。表中、力価は線形回帰に基づいた回帰式から外挿した力価である。また、各試料における力価の増強を、タグ化していないBPTI-19A(19A)を投与したマウス抗血清に対する力価との比として示している。
【0066】
【表2】
【0067】
また、上記の本発明のタグ化BPTIで免疫したマウス血清希釈液のELISA値の濃度依存曲線を図8に示した。これらの結果は、タグ・ペプチドがAla、HisまたはProで構成されている場合や、2種以上のアミノ酸の組合せで構成されている場合でも、免疫原性が顕著に増強することを示している。また、スペーサーがSerで構成されている場合でも、依然として最も高い免疫原性の増強を示していることから、表1の結果と合わせて、本発明のスペーサーを任意のアミノ酸で構成し得ることを示唆している。さらに、本発明のタグ・ペプチドをN末端側に結合させた場合でも、免疫原性の増強が見られた。
【0068】
[実施例3C] アジュバントの効果
本発明のタグ・ペプチドとしてIleを用い、スペーサーとしてSerを用いたもの(ssC5I)についても、アジュバントを併用した場合と使用しなかった場合についても比較した。アジュバントの併用は、実施例2と同様にして行った。
【0069】
図9に示されるように、スペーサーとしてSerを用いた場合、アジュバントなしでも免疫原性の増強は十分なものであったが、アジュバントの併用により、更に顕著な免疫原性の増強が見られた。
【0070】
[実施例4] タグ化によるデング熱ウイルスDEN3-ED3タンパク質の免疫原性の増強
本発明のタグ化により異なる抗原ペプチドの免疫原性も増強させ得ることを調べるため、デング熱ウイルスDEN3-ED3タンパク質(以下、「DEN3-ED3」と略す。)を本発明に従ってタグ化した。
【0071】
上記BPTIに関して説明した方法に準じて各種のタグ化DEN3-ED3を調製した。すなわち、タグ化DEN3-ED3は、RM. Kulkarni,N.Numoto,N.Ito,Y.Kuroda,“Modeling and experimental assessment of a buried Leu-Ile mutation in Dengue envelope protein domain III”,Biochemical and Biophysical research Communications,471(1):163-8(2016 Jan)に記載されたpET-15ベクター中に構築して得た。得られた各種タグ化DEN3-ED3を用いて、マウスへの抗原投与回数ごとに血清を測定すること及びプレートをタグ化前のDEN3-ED3でコートした以外は、上記の実施例1に準じて実験を実施した。タグ化DEN3-ED3の命名法は、上記タグ化BPTIに準じた(たとえば、「C3I」は3個のIleから成るタグをC末端に付加したDEN3-ED3を表す。)。対照のマウス(D3Ed3)には、タグ化していないDEN3-ED3を投与した。抗原を4回投与した後に得られた結果を表3に示した。表3中、力価は線形回帰に基づいた回帰式から外挿した力価である。また、各試料における力価の増強を、対照(D3Ed3)マウスの抗血清に対する力価との比として示している。
【0072】
【表3】
また、抗原投与回数ごとの血清の測定値及び抗原を4回投与後の力価を図6に示した。上記の表3及び図6から、本発明のタグ化によりデング熱ウイルスDEN3-ED3タンパク質の免疫原性も増強させ得ることが示されると共に、本発明のタグ化による免疫原性の増強方法が様々な抗原ペプチドに対して応用し得ることが示された。さらに、これらの実験からも、本発明のタグ化タンパク質を使用して生成した血清が抗原タンパク質を認識していることが示された。
【0073】
さらに、アジュバントを使用した場合の抗原(DEN3-ED3)を4回投与後の力価を図7に示した。アジュバントとしては、1回目の抗原投与の際にはFreund complete adjuvantを、2回目~4回目の投与の際にはFreund incomplete adjuvantを用いた。投与は、0.3mg/mL相当の抗原を含む溶液100μLにアジュバント100μLの合計200μLをマウスに投与することにより行った。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のタグ化ポリペプチドはワクチンとして利用でき、また抗血清やモノクローナル抗体の製造等にも用い得るので、医薬品や試薬品製造に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9