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特許7194458ウイルス計測方法、ウイルス計測装置、およびストレス判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ウイルス計測方法、ウイルス計測装置、およびストレス判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20221215BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20221215BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221215BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20221215BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
G01N33/483 E
G01N33/483 F
G01N33/50 X
G01N27/447 331E
A61B5/16 110
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020531370
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2019028356
(87)【国際公開番号】W WO2020017608
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2018135961
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「人間力活性化によるスーパー日本人の育成」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西田 幸二
(72)【発明者】
【氏名】橋田 徳康
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正輝
(72)【発明者】
【氏名】筒井 真楠
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-330263(JP,A)
【文献】特開2017-156168(JP,A)
【文献】特開2009-072313(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170572(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/110540(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/183716(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0155768(US,A1)
【文献】国際公開第2018/081178(WO,A1)
【文献】筒井真楠 他,ナノポアセンサによるインフルエンザ検査,第78回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,2017年08月25日,p.11-361(a-A503-4)
【文献】谷口正輝 他,機械学習と1分子解析技術の融合, 第65回応用物理学会春季 学術講演会 講演予稿集,2018年03月05日,p.100000001-260(19p-D102-3)
【文献】TSUTSUI, Makusu et al.,Identification of Individual Bacterial Cells through the Intermolecular Interactions with Peptide-Functionalized Solid-State Pores,analytical chemistry,2018年01月19日,Vol.90,pp.1511-1515
【文献】TSUTSUI, Makusu et al.,Discriminating single-bacterial shape using low-aspect-ratio pores,SCIENTIFIC REPORTS,2017年12月12日,Vol.7,pp.17371-1~17371-9
【文献】TSUTSUI, Makusu et al.,Particle Trajectory-Dependent Ionic Current Blockade in Low-Aspect-Ratio Pores,ACS NANO,2016年,Vol.10,pp.803-809
【文献】有馬彰秀 他,ナノポア計測によるウイルス識別,第79回応用物理学会秋季 学術講演会 講演予稿集,2018年09月05日,p.11-028(18a-222-6)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
G01N 33/48-33/98
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/34
A61B 5/16-5/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
涙液又は眼内液から選択された被験者の体液を含有する液状検体と、電解液とを、隔壁に設けられ前記体液が含有するヘルペスウイルスと同じ極性で親水性を有する内表面を含む貫通孔部を介して接触させる接触工程と、
前記貫通孔部に対する、前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する電流計測工程と、
前記体液が含有するヘルペスウイルスの種類を前記波形に基づいて判定するウイルス判定工程と、を備え、
前記ウイルス判定工程は、前記波形と予め取得した既知のヘルペスウイルスに対応する波形情報とを対比してヘルペスウイルスの種類を判定するウイルス計測方法。
【請求項2】
前記電流計測工程は、前記体液が含有する微粒子を電気泳動させて前記貫通孔部を通過させる通過工程を含む請求項1に記載のウイルス計測方法。
【請求項3】
前記電流計測工程は、前記体液に含まれるヘルペスウイルスと前記体液に含まれるヘルペスウイルス以外の夾雑物とを電気浸透流により分離する分離工程を含む請求項1又は2に記載のウイルス計測方法。
【請求項4】
前記ウイルス判定工程で判定された前記ヘルペスウイルスの種類に応じて、疾患を特定する請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス計測方法。
【請求項5】
被験者の体液を含有する液状検体を貯留する検体貯留部と、
電解液を貯留する電解液貯留部と、
前記検体貯留部と前記電解液貯留部とに隔てる隔壁部と、
前記隔壁部に設けられ、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とを連通し、前記体液が含有するヘルペスウイルスと同じ極性で親水性を有する内表面を含む貫通孔部と、
前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する計測部と、
前記波形を入力すると、既知のヘルペスウイルス種の波形情報に対応するヘルペスウイルス種を出力するように機械学習を行った学習済モデルが記憶された記憶部と、
前記計測部から取得した前記波形を前記記憶部から読み出した前記学習済モデルに適用して前記体液が含有するヘルペスウイルスの種類を判定するウイルス判定部と、を備えたウイルス計測装置。
【請求項6】
涙液又は眼内液から選択された被験者の体液を含有する液状検体を貯留する検体貯留部と、
電解液を貯留する電解液貯留部と、
前記検体貯留部と前記電解液貯留部とに隔てる隔壁部と、
前記隔壁部に設けられ、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とを連通し、前記体液が含有するヘルペスウイルスと同じ極性で親水性を有する内表面を含む貫通孔部と、
前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する計測部と、
既知のヘルペスウイルス種の波形情報を記憶する記憶部と、
前記体液が含有するヘルペスウイルスの種類を前記波形に基づいて判定するウイルス判定部と、を備え、
前記ウイルス判定部は、前記計測部から取得した前記波形と、前記記憶部から読み出した前記既知のヘルペスウイルス種の波形情報とを対比して、前記体液が含有するヘルペスウイルスの種類を判定するウイルス計測装置。
【請求項7】
前記液状検体にオキシグルタチオンが含まれる請求項6に記載のウイルス計測装置。
【請求項8】
可搬性を有する請求項6又は7に記載のウイルス計測装置。
【請求項9】
涙液又は眼内液から選択された被験者の体液を含有する液状検体を貯留する検体貯留部と、
電解液を貯留する電解液貯留部と、
前記検体貯留部と前記電解液貯留部とに隔てる隔壁部と、
前記隔壁部に設けられ、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とを連通し、前記体液が含有するヘルペスウイルスと同じ極性で親水性を有する内表面を含む貫通孔部と、
前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する計測部と、
前記波形に対応するストレス状態情報を記憶した記憶部と、
前記被験者のストレス状態を判定するストレス判定部と、を備え、
前記ストレス判定部は、前記計測部から取得した前記波形と、前記記憶部から読み出した前記ストレス状態情報とを対比して、前記被験者のストレス状態を判定するストレス判定装置。
【請求項10】
前記ストレス判定部は、前記体液が含有する微粒子が電気泳動により前記貫通孔部を通過した個数を前記波形に基づいてカウントする計数部と、当該個数と前記ストレス状態情報とを対比する対比部とを有し、
前記ストレス状態情報は、前記体液が含有する前記微粒子の個数とストレス強度との関係情報を含む請求項に記載のストレス判定装置。
【請求項11】
前記被験者の生活情報を入力する生活情報入力部と、
前記生活情報に基づいたストレス入力度を判定する生活情報判定部と、
前記生活情報に基づいて前記ストレス状態情報を更新する学習部と、をさらに備え、
前記学習部は、前記ストレス入力度の判定結果と前記ストレス状態の判定結果との一致度を判定する一致度判定部と、当該一致度に基づいて前記関係情報を更新する更新部とを有し、前記更新部による更新を繰り返すことによって前記一致度がより高くなる前記ストレス状態情報を学習する請求項10に記載のストレス判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス計測方法、ウイルス計測装置、ウイルス判定プログラム、ストレス判定方法、およびストレス判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、唾液中のコルチゾルの濃度を測定し、当該濃度により被験者が慢性ストレスを有する可能性の有無を判定する方法が記載されている。コルチゾルの濃度は、液体クロマトグラフ法で測定することが例示されている。
【0003】
特許文献2には、被験者の体液中のヒトヘルペスウイルスの量を測定して日常生活や疾患にともなう疲労度を評価する方法が記載されている。この評価方法では、体液中のヒトヘルペスウイルスのウイルス量が多ければ、被験者が慢性疲労の状態であると評価される。ヒトヘルペスウイルスとしては、ヒトヘルペスウイルス6型、ヒトヘルペスウイルス7型、ヒトサイトメガロウイルスおよびエプシュタイン‐バーウイルスが例示列挙されている。体液としては血液、唾液、脳骨髄液および尿が例示列挙されている。ウイルス量を測定する方法としては、PCR法によりウイルス核酸の量を測定する方法が例示されている。これら特許文献1や特許文献2に記載されるように、被験者の体液の成分の計測により、被験者のストレスや疲労度(以下では、これらを包括して、単にストレスと称する)の評価を行うことができる。
【0004】
特許文献3には、一粒子解析装置および解析方法が記載されている。この一粒子解析装置の測定容器は、絶縁性の隔壁により区画された第1のチャンバーと第2のチャンバーとを備え、当該隔壁は、当該第1のチャンバーと当該第2のチャンバーとを連通する貫通孔を有している。測定容器には、アースに接続されており、第1のチャンバー内に露出する第1の電極と、アースに接続されており、第2のチャンバー内に露出する第2の電極とが設けられている。この第2のチャンバー内に露出する電極とアースとの間には、電流計および電源が介装されている。この一粒子解析装置は、第1のチャンバーに充填された液体に含まれる粒子が貫通孔を通過する時の第1および第2の電極間の検出信号を測定することにより粒子の形状を測定する。
【0005】
特許文献4には、ストレス性疾患に罹患した哺乳動物から採取される尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液からなる試料から検出されるストレス性疾患のバイオマーカーが記載されており、ストレス性疾患の一例として、過敏性腸症候群が挙げられている。
【0006】
特許文献5には、ヘルペスウイルス誘発疾患の処置のための方法および組成物が記載されている。特許文献5には、ヘルペスウイルスが自己免疫性または炎症性の疾患を引き起こす場合があることが記載されている。
【0007】
非特許文献1には、アンケート(問診)方式によりストレスの評価を行う気分不安障害調査票が記載されている。気分不安障害調査票は、いわゆるK6質問票として知られている。K6質問票は、うつ病や不安障害などの精神疾患(いわゆる、メンタルヘルスの状態)をスクリーニングすることを目的として提案され、一般住民を対象とした調査で心理的ストレスを含む何らかの精神的な問題の程度を表す指標として広く利用されている。精神的な問題の有無や程度を区分するカットオフ値は、陰性が0から4点、軽度が5から8点、中等度が9から12点、重度が12から24点の4区分とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-275248号
【文献】国際公開第2006/006634号
【文献】国際公開第2013/137209号
【文献】特開2012-047735号
【文献】特表2018-517757号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Kessler RC, Andrews G, COLPE LJ, et al. Short screening scales to monitor population prevalances and trends in non-specific psychological distress, Psychological Medicine 2002;32(6):959-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および特許文献2に記載されるようなストレスの判定方法は、たとえばコルチゾルやヘルペスウイルスを、いわゆるストレスマーカとして利用している。これらストレスマーカの計測には、液体クロマトグラフ法やPCR法などの、手間と時間がかかる計測方法を用いることを要する。また、これら計測方法には、検出限界の問題もある。たとえば感度が高いと言われるPCR法でも、1マイクロリットルあたり40個以上のウイルスが存在しなければ検出不能であるため不便である。また、重症化した状態(ウイルスが増加した状態)になるまで検出できず、疾患(強度のストレス状態やストレス性疾患)の早期診断、早期治療が十分行えない問題があった。
【0011】
非特許文献1に記載されるアンケート方式によるストレス評価の方法は、被験者の自己申告と感性に左右されるため結果にバラつきが出てしまう。そのため、適切な疾患の診断ができない場合があった。たとえば自分では気づかないストレス状態が評価結果に反映されない問題がある。そこで、簡易で迅速かつ正確なストレスの判定方法の提供が望まれる。
【0012】
また、特許文献4に記載されるように、ストレスと疾患とは直接的な関連性がある。一般に、過度なストレスが疾患の原因となることが知られている。また、疾患そのものが身体や精神へのストレスとなることが一般に知られている。また、特許文献5に記載されるように、ヘルペスウイルスにより、種々の疾患が引き起こされることがある。そこで、ウイルスの種類の判定やウイルスの個数の計測(カウント)により、病的なストレス状態、ストレス性の疾患、および、これらと相関や関連性のある各種の疾患を特定ないし特定する方法の提供が望まれる。
【0013】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、ストレス、ストレス状態、ストレス性の疾患、およびこれらと相関や関連性のある各種の疾患の簡易で迅速な判定ないし特定を可能とする、ウイルス計測方法、ウイルス計測方法を実現するウイルス計測装置、ウイルス判定プログラム、ストレス判定方法、およびストレス判定方法を実現するストレス判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係るウイルス計測方法の特徴構成は、
被験者の体液を含有する液状検体と、電解液とを、隔壁に設けた貫通孔部を介して接触させる接触工程と、
前記貫通孔部に対する、前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する電流計測工程と、
前記体液が含有するウイルスの種類を前記波形に基づいて判定するウイルス判定工程と、を備え、
前記ウイルス判定工程は、前記波形と予め取得した既知のウイルスに対応する波形情報とを対比してウイルスの種類を10分以内に判定する点にある。
【0015】
体液にウイルスが含有されている場合、上記構成によれば、液状検体と電解液とに電圧が印加されると、貫通孔部を流れるイオン電流の波形に変化が生ずる。上記構成によれば、このイオン電流の波形の変化と既知のウイルスに対応する波形情報とに基づいて、被験者(患者)の体液に含まれるウイルスの種類を10分以内に判定する。
【0016】
上記構成によれば、少なくとも一つ(一個)のウイルスに対応するイオン電流の波形に基づいてウイルスの種類を判定できるため、PCR法に比べて高速かつ高い感度で正確にウイルスの種類を判定できる。
【0017】
判定されるウイルスの種類の概念としては、ウイルス種、すなわち、ヘルペスウイルスとインフルエンザウイルスとの差異の様な「種別」や単純ヘルペスウイルス1型とヒトヘルペスウイルス6型との差異の様な「型」に加えて、同じ種類や型のウイルスにおける「活性(状態)」の違いを含む。活性との概念には、いわゆるウイルスの生死状態、例えば、感染性のある状態(バイアブル(viable)やインフェクシャスウイルス(infectious virus)などと称される)や、不活性化した/感染性を失った状態(ノンバイアブル(non-viable)、インバイアブル(inviable)、もしくはノンインフェクシャス(non-infectious)などと称される)を含む。
【0018】
ウイルスの種類を判定することで、医師が被験者の疾患を特定するための情報を得ることができる。また、ウイルスの種類を判定することで、ウイルスの種類ごとに、ウイルスの個数をカウントするなどして、医師が被験者の疾患の状態を把握するための情報を得ることができる。
【0019】
また、ウイルスの種類の判定を10分以内に行うことで、医師による疾患特定の迅速化を補助することができる。疾患特定の迅速化の実現により、医師は、被験者の疾患の重症化を予防できるし、被験者の負担(例えば、待ち時間)を軽減できる。また、医師が行う治療効果を高め、早期治癒を実現できる。
【0020】
上記構成では、既知のウイルスに対応する波形情報が予め取得されている。したがって上記構成によれば、新たに取得した波形と予め取得されている波形情報とを対比することで、被験者の体液が含有するウイルスの種類を判定可能である。たとえば、新たに取得した波形と、予め取得されている既知のウイルスの波形情報とを対比して、これらが一致すれば、当該既知のウイルスと同じ種類のウイルスが存在すると判定する。新たに取得した波形と、予め取得されている既知のウイルスの波形情報とを対比して、これらが不一致であれば、当該既知のウイルスと同じウイルスの種類ではないと判定する。なお、既知のウイルスに対応する波形情報として、複数の既知のウイルスに対応する波形情報を取得しておくことが可能である。
【0021】
本発明に係るウイルス計測方法の更なる特徴構成は、前記電流計測工程は、前記体液が含有する微粒子を電気泳動させて前記貫通孔部を通過させる通過工程を含む点にある。
【0022】
上記構成によれば、体液が含有する微粒子、すなわち液状検体が含有する微粒子は、電気泳動により移動して貫通孔部を通過する。微粒子が貫通孔部を通過する際、一つのウイルスごとに対応するイオン電流の波形に変化が生ずる。この微粒子が貫通孔部を通過する際のイオン電流の波形(波形の変化)と既知のウイルスに対応する波形情報とに基づいて、被験者の体液に含まれるウイルスの種類を10分以内に判定する。
【0023】
上記構成によれば、微粒子が貫通孔部を通過した際に取得した波形と予め取得されている波形情報とを対比することで、被験者の体液が含有するウイルスの種類を判定可能である。たとえば、新たに取得した波形と、予め取得されている既知のウイルスの波形情報とを対比して、これらが一致すれば、新たに取得した波形に対応する微粒子は、当該既知のウイルスと同じウイルスの種類であると判定する。新たに取得した波形と、予め取得されている既知のウイルスの波形情報とを対比して、これらが不一致であれば、新たに取得した波形に対応する微粒子は、当該既知のウイルスと同じウイルスの種類ではないと判定する。
【0024】
本発明に係るウイルス計測方法の更なる特徴構成は、前記既知のウイルスがヘルペスウイルスである点にある。
【0025】
上記構成によれば、新たに取得した波形に対応する微粒子がヘルペスウイルスであるか否かを判定可能である。
【0026】
本発明に係るウイルス計測方法の更なる特徴構成は、前記体液が、涙液又は眼内液から選択される点にある。
【0027】
上記構成によれば、涙液や眼内液に漏出したウイルスの種類を特定し、特定されたウイルスの種類を、当該ウイルスに起因する疾患を診断するための情報として提供できる。当該情報は、特に眼疾患、ストレス状態やストレス性の疾患を診断するための情報として特に有用なものとなる。なお、涙液は、容易かつ非侵襲に採取可能な体液である。そのため、体液として涙液を採取する場合、検体採取時の被験者の負担を軽減できる。なお、眼内液とは、眼球を満たす液である。眼内液との概念には、少なくとも眼房を満たす液と、硝子体(硝子体液)とを含む。
【0028】
本発明に係るウイルス計測方法の更なる特徴構成は、前記電流計測工程は、前記体液に含まれるウイルスと前記体液に含まれるウイルス以外の夾雑物とを電気浸透流により分離する分離工程を含む点にある。
【0029】
例えば、体液が含有する微粒子を電気泳動により移動させる際に、移動距離を長くする(移動経路となる流路を長く確保する)などすれば、特に負の表面電荷の大きいウイルスと、負の表面電荷の小さい微粒子とを分離可能である。このような、体液に含まれるウイルスと体液に含まれるウイルス以外の夾雑物とを電気浸透流により分離する構成によれば、体液中に含まれる微粒子の中でも、特に負の表面電荷の大きいウイルスが選択的に貫通孔部を通過する。一方、その他の負の表面電荷の小さい微粒子は、貫通孔部に生じる流れであって、微粒子の移動方向とは逆向きの流れである電気浸透流により貫通孔部の通過を阻害される。
【0030】
本発明に係るウイルス計測方法の更なる特徴構成は、前記ウイルス判定工程で判定されたウイルスの種類に応じて、疾患を特定する点にある。
【0031】
上記構成によれば、判定されたウイルスの種類から推定される疾患を一つもしくは複数特定する。疾患の特定により、医師が行う疾患の診断や治療を補助できる。
【0032】
上記目的を達成するための本発明に係るウイルス計測装置の特徴構成は、被験者の体液を含有する液状検体を貯留する検体貯留部と、電解液を貯留する電解液貯留部と、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とに隔てる隔壁部と、前記隔壁部に設けられ、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とを連通する貫通孔部と、前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する計測部と、前記波形を入力すると、既知のウイルス種の波形情報に対応するウイルス種を出力するように機械学習を行った学習済モデルが記憶された記憶部と、前記計測部から取得した前記波形を前記記憶部から読み出した前記学習済モデルに適用して前記体液が含有するウイルスの種類を判定するウイルス判定部と、を備えた点にある。
【0033】
上記構成によれば、上述のウイルス計測方法を実現できる。すなわち、検体貯留部に貯留した液状検体と、電解液貯留部に貯留した電解液とに電圧を印加すると、隔壁部の貫通孔部を介してイオン電流が流れる。このイオン電流を計測部が計測することで、被験者の体液が含有する微粒子(ウイルス)に対応するイオン電流の波形を取得可能である。波形が取得された場合、さらにウイルス判定部が、計測部により取得された波形を学習済モデルに適用し、体液が含有するウイルスの種類を正確に判定する。なお、この学習済モデルは、ウイルスに対応する波形情報の一例である。また、学習済モデルへの波形の適用とは、波形と波形情報との対比の一例である。
【0034】
ウイルスの種類が判定することで、医師が被験者の疾患を特定するための情報を得ることができる。また、ウイルスの種類を判定することで、ウイルスの種類ごとに、ウイルスの個数をカウントするなどして、医師が被験者の疾患の状態を把握するための情報を得ることができる。
【0035】
上記構成によれば、学習済モデルの機械学習を強化しておくことで、出力されるウイルス種の確からしさを高めることができる。そのため、ウイルス判定部による判定速度を容易に高速化可能である。たとえば、ウイルスの種類の判定を10分以内とするような高速化も可能である。これにより、医師による疾患特定の迅速化を補助することができる。疾患特定の迅速化の実現により、疾患の重症化を予防し、医師が行う治療効果を高め、早期治癒を実現できる。
【0036】
上記目的を達成するための本発明に係るウイルス計測装置の特徴構成は、涙液又は眼内液から選択された被験者の体液を含有する液状検体を貯留する検体貯留部と、電解液を貯留する電解液貯留部と、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とに隔てる隔壁部と、前記隔壁部に設けられ、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とを連通する親水性を有する貫通孔部と、前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する計測部と、既知のウイルス種の波形情報を記憶する記憶部と、前記体液が含有するウイルスの種類を前記波形に基づいて判定するウイルス判定部と、を備え、前記ウイルス判定部は、前記計測部から取得した前記波形と、前記記憶部から読み出した前記既知のウイルス種の波形情報とを対比して、前記体液が含有するウイルスの種類を判定する点にある。
【0037】
上記構成によれば、涙液又は眼内液から選択された被験者の体液を含有する液状検体を用いる場合に、上述のウイルス計測方法を実現できる。すなわち、貫通孔部が親水性を有するため、貫通孔部は速やかに液状検体で満たされてオン電流を通電可能となる。そして、検体貯留部に貯留した液状検体と、電解液貯留部に貯留した電解液とに電圧を印加すると、隔壁部の貫通孔部を介してイオン電流が流れる。このイオン電流を計測部が計測することで、被験者の体液が含有する微粒子(ウイルス)に対応するイオン電流の波形を取得可能である。この波形と、記憶部に記憶された既知のウイルスの波形情報とをウイルス判定部が対比することで、被験者の体液が含有するウイルスの種類を正確に判定できる。
【0038】
上記構成によれば、ウイルスが貫通孔部を通過する毎(ウイルス一つ毎)にイオン電流の波形に変化が出るから、PCR法に比べて高速かつ高い感度でウイルスの種類を判定できる。
【0039】
ウイルス判定部は、たとえば、新たに取得した波形と、予め取得されている既知のウイルスの波形情報とを対比して、これらが一致すれば、新たに取得した波形に対応する微粒子は、当該既知のウイルスと同じウイルスの種類であると判定する。ウイルス判定部は、新たに取得した波形と、予め取得されている既知のウイルスの波形とを対比して、これらが不一致であれば、新たに取得した波形に対応する微粒子は、当該既知のウイルスと同じウイルスの種類(ウイルス種)ではないと判定する。なお、既知のウイルスに対応する波形情報として、複数の既知のウイルスに対応する波形情報を記憶部に記憶しておくことが可能である。
【0040】
本発明に係るウイルス計測装置の更なる特徴構成は、前記液状検体にオキシグルタチオンが含まれる点にある。
【0041】
上記構成によれば、被験者の体液が含有するウイルスの活性が向上し、もしくはウイルスの活性低下が防止される。その結果、被験者の体液が含有するウイルスの種類を判定する精度が向上する。
【0042】
本発明に係るウイルス計測装置の更なる特徴構成は、前記ウイルス判定部は10分以内に前記ウイルスの種類を判定し、可搬性を有する点にある。
【0043】
上記構成によれば、ウイルス計測装置が可搬性を有する。これにより、医師は、必要時に必要な場所へウイルス計測装置を自由に持ち運ぶことができる。したがって、被験者たる患者が発生した際に、患者にとって検査の負担が少ない場所でウイルスの種類を判定して医師が行う疾患の診断や治療を補助できる。
【0044】
上記構成によれば、ウイルスの種類の判定を10分以内に行うことで、医師による疾患特定の迅速化を補助することができる。疾患特定の迅速化の実現により、疾患の重症化を予防し、医師が行う治療効果を高め、早期治癒を実現できる。
【0045】
上記目的を達成するための本発明に係る被験者の体液に含まれるウイルスの種類を判定する処理をコンピュータに実行させるためのウイルス判定プログラムの特徴構成は、前記体液を含有する液状検体と電解液とに電圧を印加して取得されたイオン電流の波形を受信する受信処理と、前記受信処理で受信した前記波形に基づいて、前記体液が含有するウイルスの種類を判定するウイルス判定処理と、前記ウイルス判定処理における判定結果を送信する送信処理と、を備え、前記ウイルス判定処理は、前記波形を入力すると、既知のウイルス種の波形情報に対応するウイルス種を出力するように機械学習を行った学習済モデルに基づいて、ウイルスの種類を判定する点にある。
【0046】
上記構成によれば、コンピュータ(以下、単にCPUと記載する)としてのウイルス計測装置に、被験者の体液に含まれるウイルスの種類を判定する処理を実行させることができる。すなわち、上記構成によれば、CPUに、イオン電流の波形の受信処理、体液が含有するウイルスの種類を受信した波形に基づいて判定するウイルス判定処理、および、当該判定結果を送信する送信処理を実行させることができる。
【0047】
上記構成によれば、CPUにウイルス判定処理を実行させるにあたり、CPUに、受信した波形を学習済モデルに適用して体液が含有するウイルスの種類を判定する処理を実行させる。これにより、機械学習の学習結果に基づいたウイルスの種類の判定を実現できる。
【0048】
上記目的を達成するための本発明に係るストレス判定方法の特徴構成は、被験者の体液を含有する液状検体と、電解液とを、隔壁に設けた貫通孔部を介して接触させる接触工程と、前記貫通孔部に対する、前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する電流計測工程と、前記波形と、所定のストレス状態情報とを対比して前記被験者のストレス状態を判定するストレス判定工程と、を備える点にある。
【0049】
被験者の体液には、被験者のストレスの状態に応じて種々の物質が漏出する。以下では、被験者のストレスの状態に応じて漏出する物質をストレスマーカと称する。なお、体液とは、たとえば涙液や唾液のような、人の身体から外部に自然に浸出したり排出されたりする液体のことを言う。上記構成によれば、このストレスマーカの漏出状態をイオン電流の波形(以下では単に波形と記載する場合がある)として取得可能である。すなわち、液状検体と電解液と所定の電圧を印加することで、所定のストレスマーカを、液状検体から電解液に向けて移動させる。ストレスマーカが貫通孔部を通過する際には、液状検体と電解液との間を流れるイオン電流が変化する。これにより、ストレスマーカの漏出状態に対応する波形を取得できる。このように取得された波形は、被験者のストレスの大きさに対応する。波形の取得は、たとえばPCR法や液体クロマトグラフ法などのような分析方法にくらべて、極めて簡易かつ迅速に行える。
【0050】
ストレス状態情報とは、所定のイオン電流の波形と、人のストレスの状態(たとえば、ストレスが蓄積しているという状態)との関係を関連づける情報である。なお、ストレスの状態とはたとえば、人の職業や職掌、職責、労働時間や労働時間帯などの労働環境から客観的に把握されるストレススコアのような指標である。したがって上記構成によれば、波形と所定のストレス状態情報とを対比することで、被験者のストレス状態を判定できる。この判定は、自己申告のように感性に左右されないため正確である。
【0051】
本発明に係るストレス判定方法の更なる特徴構成は、前記電流計測工程は、前記体液が含有する微粒子を電気泳動させて前記貫通孔部を通過させる通過工程を含み、前記ストレス判定工程は、前記微粒子が前記貫通孔部を通過した個数を前記波形に基づいてカウントする計数工程と、当該微粒子の個数と前記ストレス状態情報とを対比する対比工程とを含み、前記ストレス状態情報は、前記体液が含有する前記微粒子の個数とストレス強度との関係情報を含む点にある。
【0052】
上記構成によれば、体液に含まれる微粒子(たとえば、ヘルペスウイルス)を電気泳動により移動させて貫通孔部を通過させることができる。この通過の際、波形に変化が生ずるため、当該波形の変化に基づいて、被験者の体液に含まれる微粒子の個数をカウント可能である。
【0053】
また上記構成によれば、ストレス状態情報として、ストレス強度と、人の体液に含有される微粒子の個数との関係情報(たとえば、検量線)をあらかじめ取得しておけば、被験者の体液に含まれる微粒子の個数に基づいて、被験者のストレス強度を判定可能である。
【0054】
本発明に係るストレス判定方法の更なる特徴構成は、前記微粒子がヘルペスウイルスである点にある。
【0055】
成人の多くはヘルペスウイルスに羅漢している。人のストレスが増大すると、当該ストレスの増大に伴う免疫系の状態変化により、体液にヘルペスウイルスが漏出する。そこで、上記構成によれば、被験者の体液中のヘルペスウイルスの個数を直接計測することで、簡易かつ迅速に被験者のストレス状態を判定可能である。また、自己申告のように感性に左右されないため正確である。
【0056】
本発明に係るストレス判定方法の更なる特徴構成は、前記体液が涙液である点にある。
【0057】
涙液は、容易かつ非侵襲に採取可能な体液である。そのため、被験者の負担を軽減できる。たとえば、涙をピペットなどにより直接採取することもできるし、眼を洗浄して涙を含有する洗浄液として採取することも可能である。
【0058】
また、涙液中の微粒子は被験者のストレス状態に良く対応するため、検出感度が向上する。たとえばヘルペスウイルスは、たとえば三叉神経節などの身体の神経節に潜伏感染する。三叉神経とは、脳神経の一つであり、人の眼を支配する眼神経は、この三叉神経に含まれる。そのため、三叉神経節に潜むヘルペスウイルスは、眼の涙腺から浸出する涙液に漏出しやすい。また、被験者のストレス強度が高くなると、涙液により多くのヘルペスウイルスが漏出する。そこで、上記構成によれば、体液として涙液を用いることで、簡易で迅速にストレスを判定できる。
【0059】
上記目的を達成するための本発明に係るストレス判定装置の特徴構成は、被験者の体液を含有する液状検体を貯留する検体貯留部と、電解液を貯留する電解液貯留部と、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とに隔てる隔壁部と、前記隔壁部に設けられ、前記検体貯留部と前記電解液貯留部とを連通する貫通孔部と、前記液状検体と前記電解液とに電圧を印加して前記貫通孔部を流れるイオン電流の波形を取得する計測部と、前記波形に対応するストレス状態情報を記憶した記憶部と、前記被験者のストレス状態を判定するストレス判定部と、を備え、前記ストレス判定部は、前記計測部から取得した前記波形と、前記記憶部から読み出した前記ストレス状態情報とを対比して、前記被験者のストレス状態を判定する点にある。
【0060】
上記構成によれば、上述のストレス判定方法を実現できる。すなわち、検体貯留部に貯留した液状検体と、電解液貯留部に貯留した電解液とに電圧を印加すると、隔壁部の貫通孔部を介してイオン電流が流れる。このイオン電流を計測部が計測することで、ストレスマーカの漏出状態をイオン電流の波形として取得可能である。この波形と、ストレス状態情報とを対比することで、被験者のストレス状態を判定できる。
【0061】
本発明に係るストレス判定装置の更なる特徴構成は、前記ストレス判定部は、前記体液が含有する微粒子が電気泳動により前記貫通孔部を通過した個数を前記波形に基づいてカウントする計数部と、当該個数と前記ストレス状態情報とを対比する対比部とを有し、前記ストレス状態情報は、前記体液が含有する前記微粒子の個数とストレス強度との関係情報を含む点にある。
【0062】
検体貯留部に貯留した液状検体と、電解液貯留部に貯留した電解液とに電圧を印加すると、体液に含まれる微粒子は電気泳動により移動する。この電気泳動により移動した微粒子が貫通孔部を通過する際にはイオン電流の波形に変化が生ずる。計数部は、このイオン電流の波形の変化に基づいて貫通孔部を通過した微粒子の個数をカウントする。そして、対比部は、計数部がカウントした個数とストレス状態情報とを対比する。ここで、ストレス状態情報は体液が含有する微粒子の個数とストレス強度との関係情報を含むから、ストレス判定部は、対比部の対比により被験者のストレス状態を判定できる。
【0063】
本発明に係るストレス判定装置の更なる特徴構成は、前記被験者の生活情報を入力する生活情報入力部と、前記生活情報に基づいたストレス入力度を判定する生活情報判定部と、前記生活情報に基づいて前記ストレス状態情報を更新する学習部と、をさらに備え、前記学習部は、前記ストレス入力度の判定結果と前記ストレス状態の判定結果との一致度を判定する一致度判定部と、当該一致度に基づいて前記関係情報を更新する更新部とを有し、前記更新部による更新を繰り返すことによって前記一致度がより高くなる前記ストレス状態情報を学習する点にある。
【0064】
上記構成によれば、学習部の一致度判定部は、たとえば労働環境等の生活情報に基づくストレス入力度の判定結果と、イオン電流の波形に基づくストレス状態の判定結果との一致度を判定する。さらに、学習部の更新部は、当該一致度に基づいて関係情報を更新する。学習部は、この更新部による関係情報の更新を繰り返すことで、ストレス入力度の判定結果に対するストレス状態の判定結果の一致度が高くなるようにストレス状態情報を学習する。これにより、波形とストレス状態情報に基づいたストレス判定部の判定精度が向上していくストレス判定装置を提供可能となる。
【発明の効果】
【0065】
簡易で迅速かつ正確なウイルス計測方法、ウイルス計測装置、ウイルス判定プログラム、ストレス判定方法、およびストレス判定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】は、第一実施形態の判定装置の概略構成図である。
図2】は、ピークが存在しない場合の波形図である。
図3】は、ピークが存在する場合の波形図である。
図4】は、ピークの一例を示す波形図である。
図5】は、ピークの形状の説明図である。
図6】は、隔壁および貫通孔の構造とウイルスの電気泳動についての説明図である。
図7】は、職掌、通過個数、およびストレス評価の関係を示す図である。
図8】は、K6質問票の様式を示す図である。
図9】は、第二実施形態の判定装置の概略構成図である。
図10】は、ストレス入力度と微粒子の通過個数との関係を示す図である。
図11】は、ウイルス種ごとのピークの形状の一例を示す図である。
図12】は、第三実施形態の計測装置の概略構成図である。
図13】は、ピークの形状の例示である。
図14】は、ピークの形状の例示である。
図15】は、ピークの形状の例示である。
図16】は、HSV角膜ヘルペスの患者の検体から取得した波形の一例である。
図17】は、CMV角膜内皮炎の患者の検体から取得した波形の一例である。
図18】は、第四実施形態の計測装置の概略構成図である。
図19】は、ウイルス判定プログラムにより判定装置が実行する動作フローである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係るストレス判定方法、当該判定方法を実現するストレス判定装置、並びに、ウイルス計測方法、ウイルス計測装置、およびウイルス判定プログラムについて説明する。
【0068】
〔第一実施形態〕
〔検体について〕
本実施形態では、被験者の体液として涙液を用いる場合を例示して説明する。涙液は、被験者の結膜嚢(眼球と下まぶたとの境目の袋状の部分)をリン酸緩衝生理食塩水(以下、単に生理食塩水と記載する)で洗浄し、涙液を含む洗浄液として採取したものを用いる。以下ではこの洗浄液を検体L1と称する。すなわち検体L1は、涙液を含む生理食塩水である。検体L1は、電解質溶液であり、食塩(塩化ナトリウム)によりイオン電流が導通可能である。なお、結膜嚢には通常7マイクロリットルの涙液が常在している。本実施形態では、30マイクロリットルの生理食塩水を用いて結膜嚢を洗浄している。
【0069】
被験者の涙液には、被験者のストレス状態に応じてヘルペスウイルスが漏出することが知られている。ヘルペスウイルスは、粒子径(直径)がおよそ200ナノメートル前後の微粒子である。たとえば、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1(HHV1とも略される))の粒子径は、およそ150~180ナノメートルである。水痘/帯状疱疹ウイルス(VZV(HHV3とも略される))の粒子径は、およそ180~200ナノメートルである。ヒトサイトメガロウイルス(HCMV(HHV5とも略される))の粒子径は、およそ150~200ナノメートルである。ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)の粒子径は、およそ200ナノメートルである。
【0070】
ヘルペスウイルスは、微粒子の中心にあるウイルス核酸とこれを取り囲むたんぱく質であるカプシドとで構成されたヌクレオカプシドの外側に、脂質二重膜で形成されるエンベロープを有する。ヘルペスウイルスのエンベロープの表面には、スパイクと呼ばれる糖タンパク質が突出している。この糖タンパク質には負電荷を帯びた側鎖を有するアミノ酸が含まれている。そのため、体液や生理食塩水中において、ヘルペスウイルスの粒子の表面電位は負である。
【0071】
本実施形態では、以下、ヘルペスウイルスとして少なくとも単純ヘルペスウイルス1型を含む場合を例示して説明する。また以下では、涙液に漏出したヘルペスウイルスを被験者のストレスマーカとして利用する場合を例示して説明する。以下では、ヘルペスウイルスを、単にウイルスと記載する場合がある。
【0072】
〔ストレス判定装置について〕
図1には、本実施形態に係るストレス判定方法を実現し、ストレス判定装置として使用される判定装置100の構成を図示している。判定装置100は、被験者の体液を含有する液状の検体L1(液状検体の一例)の検査チップとしての検査基板1と、検査基板1からイオン電流の波形の情報を取得する計測部7と、検査基板1から取得した情報をもとにして被験者のストレス状態を判定するコンピュータなどの制御部10と、電源部71とを備える。計測部7などは、データバスやコンピューターネットワーク(ローカルネットワークやインターネット網)などの双方向通信可能なネットワークNを介して制御部10と接続されている。
【0073】
検査基板1は、石英ガラスやポリジメチルシロキサンなどの絶縁体で形成された板状の基板である。検査基板1は、検体L1を貯留する検体貯留部2、電解液L2を貯留する電解液貯留部3、貫通孔6(貫通孔部の一例)が形成された隔壁5(隔壁部の一例)、第一電極72、および第一電極72と対になる第二電極73を有する。検査基板1は、検体L1の検査チップとして使用する。なお、電解液L2としては、生理食塩水などの電解質溶液を用いている。電解液L2は、食塩(塩化ナトリウム)によりイオン電流が導通可能である。
【0074】
検体貯留部2は、検体L1を貯留する容器となる部分である。たとえば、検査基板1の一方の片面に凹部として設ける。検体貯留部2は、円形の凹部であり、検体L1の主要な貯留容器である第一円形凹部20と、第一円形凹部20から隔壁5の貫通孔6に連通する流路である第一流路21とを有する。第一流路21は、隔壁5の一方の面に接続されている。第一流路21における第一円形凹部20と隔壁5との間には第一電極72が設けられている。検体貯留部2には、検体L1が満たされる。検体貯留部2に検体L1が気泡なく満たされると、第一電極72が検体L1と導通する。検体貯留部2の接液面は、親水性を有するように表面処理が施されていることが好ましい。表面処理としては、たとえば、プラズマ処理、紫外線照射もしくは化学修飾等を用いることができる。
【0075】
電解液貯留部3は、電解液L2を貯留する容器となる部分である。たとえば、検査基板1の他方の片面に凹部として設ける。電解液貯留部3は、円形の凹部であり、電解液L2の主要な貯留容器である第二円形凹部30と、第二円形凹部30から隔壁5の貫通孔6に連通する流路である第二流路31とを有する。第二流路31は、隔壁5における第一流路21が接続される面の他方の面に接続されている。第二流路31における第二円形凹部30と隔壁5との間には第二電極73が設けられている。電解液貯留部3には、電解液L2が満たされる。電解液貯留部3に電解液L2が気泡なく満たされると、第二電極73が電解液L2と導通する。また、検体L1と電解液L2とが、貫通孔6を介して物理的に接続する。検体L1と電解液L2とが物理的に接続すると、検体L1と電解液L2との間に導通可能になる。
【0076】
第一電極72は直流電源である電源部71の一端と電気的に接続されている。第一電極72は、電源部71から所定の直流の電圧(たとえば、0.1ボルト)を印加されている。本実施形態において第一電極72は負極である。第一電極72として、たとえば銀の表面を塩化銀で覆った銀/塩化銀電極を用いることができる。以下では、電源部71から第一電極72に印加される電圧を、単に印加電圧と記載する場合がある。
【0077】
電源部71の他端は、グランドGに接続されている。電源部71は、ネットワークNを介して制御部10と通信可能に接続されている。電源部71は制御部10の指示に応じて所定の電圧を印加する。
【0078】
第二電極73は、第一電極72と反対極性の電極である。第二電極73は、本実施形態では正極である。第二電極73は、計測部7の電流計70と電気的に接続されている。第一電極72から印加した電圧により、第一電極72と第二電極73との間には直流の電位差が生じる。第一電極72の場合と同様に、第二電極73として、銀/塩化銀電極を用いることができる。以下では、第一電極72と第二電極73との間に生じた直流の電位差を、単に電位差と記載する。この電位差による電界に沿い、検体L1のウイルスは第二電極73に向けて移動(電気泳動)する。第一電極72から印加した電圧により、第一電極72と第二電極73との間にはイオン電流が流れる。このイオン電流は、貫通孔6を通過して流れる。
【0079】
計測部7は、電流計70と、電流計70が取得した電流値の波形情報をネットワークNを介して制御部10に送信するインタフェース(図示せず)を有する計測ユニットである。電流計70は、第二電極73とグランドGとの間を流れる電流を計測する計測器である。第一電極72と第二電極73との間を流れたイオン電流は、第二電極73から電流計70を介してグランドGに放電される。計測部7は、電流計70が取得したイオン電流の電流値の情報に基づいて、イオン電流の波形情報を取得し、当該波形情報を制御部10に送信する。以下では、イオン電流の波形情報を単に波形と称し、検体貯留部2に検体L1を貯留して取得した波形を、特に検体の波形と称する場合がある。図2図3には、第一電極72から所定の電圧を印加した際の、時間t(秒)の経過に伴うイオン電流の電流値の変化の波形の一例を示している。
【0080】
図6に示すように、隔壁5は窒化ケイ素(Si)などの絶縁体の無機酸化物固体で形成された薄い板状(薄膜状)の基板50と、基板50が張り付けられたシリコン(Si)などの半導体の固体で形成された補強板51と、基板50に形成された貫通孔6とを有する。基板50は、第一流路21に接する側に配置されている。基板50の厚みは、たとえば50ナノメートルである。補強板51の厚みは、たとえば500マイクロメートルである。隔壁5は、たとえば補強板51の表面を窒化ケイ素で被覆して基板50を形成することで得られる。
【0081】
貫通孔6は、固体である基板50を貫通する微小な細孔(固体ポア)である。本実施形態では、貫通孔6の直径は、ウイルスの直径よりも大きい直径であり、たとえば直径300ナノメートルの円形穴(いわゆる、ナノポア)である。なお、貫通孔6の直径は、基板50の厚さよりも大きく形成される。貫通孔6は、アスペクト比(穴の直径に対する基板50の深さの比)でみた場合、アスペクト比が1未満の低アスペクト比のナノポアである。
【0082】
貫通孔6の内表面6aは、ウイルスと同じ極性の負の表面電荷を有するように表面処理が施されている。また、内表面6aは親水性を有するように表面処理が施されている。たとえば、検出対象のウイルスの表面に存在する糖鎖で分子修飾した表面処理剤で内表面6aを形成することができる。内表面6aが負の表面電荷を有することにより、内表面6aの表面近傍には、検体L1および電解液L2のナトリウムイオン(陽イオン)が引き寄せられて、電気二重層が形成される。なお、内表面6aを親水性とするための表面処理としては、分子修飾のような化学修飾に加えて、プラズマ処理や紫外線照射処理等を用いることができる。
【0083】
なお、補強板51における貫通孔6に対応する部分には、貫通孔6の開孔部分を遮らず、貫通孔6の径よりも大きな径の窓穴61が形成されている。窓穴61により、貫通孔6は隔壁5を貫通する。
【0084】
貫通孔6を形成する方法について説明する。貫通孔6は、補強板51の一部を水酸化カリウム水溶液などによるシリコンの異方性エッチングをするなどして窓穴61を開口させ、窓穴61に対応する基板50の部分を窒化ケイ素メンブレンとした後、当該部分に電子線描画法などでマイクロポアを描画し、反応性イオンエッチング法などで描画した部分を掘削することで形成可能である。
【0085】
イオン電流の波形およびウイルスの電気泳動について包括的に説明を加える。図6に示すように、第一電極72に電圧を印加すると、電位差により、検体L1のウイルスVは、電気泳動により第二電極73に向けて移動する。この移動により、ウイルスVは、貫通孔6を通過する。
【0086】
また、第一電極72に電圧を印加した電位差により、内表面6aの電気二重層の内側近傍に電気浸透流EFが生ずる。内表面6aがウイルスと同じ極性の負の表面電荷を有することにより、電気浸透流EFの流れ方向は、ウイルスVの移動方向と逆方向になる。この電気浸透流EFにより、ウイルスVよりも負の表面電荷が小さい夾雑物微粒子P(たとえばタンパク質などの微粒子)は、ウイルスVの移動方向への移動を阻害される。そのため、夾雑物微粒子Pは貫通孔6を通過できない。これにより、夾雑物微粒子PとウイルスVとが分離され、ウイルスVが選択的に貫通孔6を通過する(分離工程の一例)。
【0087】
また、第一電極72に電圧を印加すると、第一電極72と第二電極73との間にイオン電流が流れる。このイオン電流の電流値は、検体L1および電解液L2の電解質(塩化ナトリウム)の濃度と、貫通孔6の孔中に存在する電解液(検体L1もしくは電解液L2およびこれらの混合液)における貫通孔6の孔の軸心方向に交差する断面の断面積とに依存する。そのため、貫通孔6内にウイルスなどの微粒子が侵入すると、貫通孔6の孔中の電解液を排斥するため、貫通孔6を流れるイオン電流は低下する。つまり、貫通孔6をウイルスが一つ通過する毎に、第一電極72と第二電極73との間を流れるイオン電流の波形には、電流値が低下する一つのスパイク状の波形であるピークPkが生じる(図3参照)。したがって、単位時間当たりに検出したピークPkの個数をカウントすれば、貫通孔6を通過した単位時間当たりのウイルスの個数(以下では貫通孔6を通過したウイルスの個数を単に通過個数と記載する場合がある)を測定することができる。図3の場合は、200秒間計測して検出したピークPkが18個であり、通過個数が18個であると測定される。なお、検体L1にウイルスなどの微粒子が存在しない場合にはイオン電流の波形にピークPkは生じない(図2参照)。判定装置100はこのように、ウイルスを1個単位で鋭敏に検出できる。
【0088】
図4には、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のウイルス粒子が貫通孔6を通過した場合のピークPkを図示している。図5には、図4のピークPkを拡大して図示している。ピークPkは、図5に示すように、所定のパルス波高Ipと所定のパルス波幅tdとを有する。パルス波高Ipとは、ピークPkにおける、ピークスタートないしピークエンドと、ピークトップとの差である。パルス波幅tdは、ピークPkにおける、ピークスタートからピークエンドまでの経過時間である。パルス波高Ipやパルス波幅tdのようなピークPkの形状は、ウイルスの種類(ウイルス種やウイルスの状態(活性)、すなわち、ウイルスの粒子径やエンベロープの表面の糖タンパク質の種類など)に応じて異なる。
【0089】
ここで、本実施形態のウイルスの種類の概念としては、ウイルス種、すなわち、ヘルペスウイルスとインフルエンザウイルスとの差異の様な「種別」や単純ヘルペスウイルス1型とヒトヘルペスウイルス6型との差異の様な「型」に加えて、同じ種類や型のウイルスにおける「活性(状態)」の違いを含む。活性との概念には、いわゆるウイルスの生死状態、例えば、活性のある/感染性のある状態(バイアブル(viable)やインフェクシャスウイルス(infectious virus)などと称される)や、不活性化した/感染性を失った状態(ノンバイアブル(non-viable)、インバイアブル(inviable)、もしくはノンインフェクシャス(non-infectious)などと称される)。以下では、活性のある/感染性のある状態のウイルスを、単に、「活性のあるウイルス」などと記載する。また、不活性化した/感染性を失った状態のウイルスを、単に、「不活性なウイルス」などと記載する。なお、活性のあるウイルスと不活性なウイルスとは、粒子表面の状態が異なるなどの理由により、表面電位が異なる(例えばヘルペスウイルスは、エンベロープが破壊されると活性を失う)。そのため、活性のあるウイルスと不活性なウイルスとは、それぞれ異なるピークPkを生じる。
【0090】
制御部10は、判定装置100の全体を制御する機能部である。本実施形態の制御部10は、中央演算装置と一時メモリとを少なくとも含むコンピュータ(本実施形態ではパーソナルコンピュータ、以下では単にCPUと記載する)によりソフトウェア的に実現されている。制御部10は、CPUに接続されたキーボードやマウスなどの情報入力を行う入力インタフェースである入力部91(生活情報入力部の一例)から情報の入力を受け付け、内部処理した各種の情報を、モニタやスピーカ、ないしプリンタなどの情報出力を行う出力インタフェースである出力部92から出力する。制御部10を実現するソフトウェア(プログラム)や、入力部91から入力された情報、出力部92から出力されることを予定された情報、および、制御部10が内部処理を行うためのストレス状態情報などの各種の情報は、記憶装置もしくは記憶媒体である記憶部8に記憶されている。入力部91、出力部92および記憶部8はネットワークNを介してそれぞれ通信可能に接続されている。なお、記憶部8としては、例えば、ハードディクスなどの磁気記憶媒体、CDやDVDといった光学ディスク、SSD、USBメモリ、およびメモリカードなどのフラッシュメモリ、クラウドサーバやレンタルサーバなどが例示されるが、特にこれらに限定されない。
【0091】
図1に示すように、制御部10は、ソフトウェアで実現される、判定部11(ストレス判定部の一例)を有する。判定部11は、計測部7から取得した波形と、記憶部8から読み出したストレス状態情報とを対比して、被験者のストレス状態を判定する機能部である。判定部11は、検体L1が含有するウイルスが電気泳動により貫通孔6を通過した単位時間当たりの個数(通過個数)を波形に基づいてカウントする計数部12と、通過個数とストレス状態情報とを対比する対比部13とを有する。
【0092】
ストレス状態情報には、所定条件下で取得した検体の波形と、人(たとえば被験者)のストレスの状態(たとえばストレスの種類や強度)との関係情報(以下では、単に関係情報と記載する)が含まれる。本実施形態では、ストレス状態情報として少なくとも、所定の測定条件下であらかじめ取得した検体の波形のピークPkの個数とストレスの強度との関係情報を含んでいる。なお、所定の測定条件としてはたとえば、印加電圧の値、測定時間(電圧を印加してカウントを継続する時間)、検体L1や電解液L2の電解質濃度、検査基板1の構造などが規定されている。以下では、所定の測定条件が満たされている前提で説明を進める。
【0093】
表1には、関係情報の一例を示している。この関係情報は、単位時間としての5分間当たりの通過個数の範囲と、これに対応するストレス強度のレベル(S1からS5)、およびストレス強度のレベルのそれぞれに対応する職掌の情報を含んでいる。この職掌としては、病院の病棟で勤務する看護師(日勤後)、看護師(夜勤後)、病棟看護師長、病棟クラーク、病棟薬剤師を対応させる場合を例示している。具体的には、レベルS1からレベルS5まで順に、看護師(日勤後)レベル(弱ストレス)、看護師(夜勤後)レベル(やや弱ストレス)、病棟看護師長レベル(中ストレス)、病棟クラークレベル(やや強ストレス)、病棟薬剤師レベル(強ストレス)の5種のレベル対応させている。なお、ストレス強度のレベルは、レベルS1からレベルS5の順に大きい。また、これら職掌に求められる責務(特に精神的なストレスの原因)および労務時間(特に肉体的なストレスの原因)は共に、看護師(日勤後)から、看護師(夜勤後)、病棟看護師長、病棟クラーク、病棟薬剤師、の順に大きい。なお、このような関係情報は、あらかじめ複数の被験者の通過個数とストレスの強度とを取得して構築すればよい。
【0094】
【表1】
【0095】
表1の関係情報について例示を交えて説明する。通過個数が17の場合は、ストレス強度のレベルはレベルS4が対応する。また、職掌として病棟クラークが対応する。通過個数が11の場合は、ストレス強度のレベルはレベルS3が対応する。また、職掌としては病棟看護師長が対応する。
【0096】
計数部12は、第一電極72に電圧を印加している状態において所定期間内(たとえば5分程度の短時間)に取得した波形中におけるピークPkの本数を計測し、当該本数を通過個数とみなして通過個数をカウントする。なお、計数部12は、ピークPkにおける、パルス波高Ipが所定の値未満(たとえば、0.05ナノアンペア未満)であれば、当該ピークを計測対象から除外する。
【0097】
対比部13は、計数部12がカウントした通過個数と、記憶部8から読み出したストレス状態情報とを対比して、当該通過個数に対応するストレス強度のレベルを判定する。たとえば、計数部12がカウントした通過個数が17の場合、対比部13はストレス強度のレベルをレベルS4であると判定する。通過個数が11の場合、対比部13はストレス強度のレベルをレベルS3であると判定する。このようにして、判定部11は、被験者のストレスを判定する。
【0098】
〔ストレス判定の一連の流れ〕
ストレス判定の一連の流れを説明する。測定者などが、検体貯留部2に検体L1を貯留する。また、電解液貯留部3に電解液L2を貯留する。そして、貫通孔6を介して検体L1と電解液L2とを接触させて通電可能な状態にする(接触工程)。
【0099】
検体L1と電解液L2とを通電可能な状態とした後、測定者などが入力部91を介して制御部10に測定条件(たとえば計測時間や印加電圧)と測定開始の指示とを入力すると、制御部10が電源部71に、当該測定条件に対応する条件での電圧の印加を指令する。当該指示により、電源部71は第一電極72に所定の条件で電圧を印加する。
【0100】
第一電極72に所定の電圧が印加されると、検体L1のウイルスは電気泳動により第二電極73に向けて移動する。この移動の際、ウイルスが貫通孔6を通過すると、イオン電流の波形にピークPkが生ずる(電流計測工程、通過工程)。このピークPkの個数を計数部12が通過個数としてカウントする(判定工程、計数工程)。
【0101】
対比部13は、当該通過個数と関係情報とに基づいて、対応するストレス強度を判定する(ストレス判定工程、対比工程)。制御部10は、当該判定結果を判定部11から取得して、出力部92に出力(たとえばモニタに表示)させる。なおこの出力の際、制御部10は、判定部11から取得した判定結果と関係情報とに基づいて、直感的にストレス状態を把握できる用語に読み替えて出力部92から出力させる。たとえば判定結果がレベルS1の場合は、出力部92から、「弱ストレス」と表示される。この読み替えにより、使用者はストレスのレベルを直観的に把握可能となる。
【0102】
〔実施例1〕
図7には、病院の病棟における職掌ごとの被験者の検体L1を計測した通過個数(縦軸)を示している。通過個数は、5分間計測した値を示している。職掌は、看護師(日勤後)、看護師(夜勤後)、病棟看護師長、病棟クラーク、病棟薬剤師の5種を例示している。図7にはそれぞれの職掌を、看護師(日勤後)から病棟薬剤師まで同じ順に、黒で塗りつぶした丸印、白抜きの丸印、黒で塗りつぶした四角印、白抜の四角印、黒で塗りつぶした三角印のプロットで表示している。以下では、本実施形態に係るストレス判定方法および判定装置100による、これらプロットに対応する被験者のストレス判定について説明する。
【0103】
判定部11は、通過個数と表1の関係情報とに基づいて、各プロットに対応する被験者のストレス強度を判定する。図7の場合は、全ての看護師(日勤後)、看護師(夜勤後)、病棟看護師長、病棟クラーク、病棟薬剤師の順に、これら被験者のストレス強度のレベルを、レベルS1、レベルS2、レベルS3、レベルS4、レベルS5と判定する。
【0104】
制御部10は、判定部11からこれら判定結果を取得すると、このレベルS1などの判定結果を直感的にストレス状態を把握できる用語に読み替えて出力部92に出力させる。図7の例では、看護師(日勤後)、看護師(夜勤後)、病棟看護師長、病棟クラーク、病棟薬剤師のそれぞれのプロットの判定結果は、順に、「弱ストレス」、「やや弱ストレス」、「中ストレス」、「やや強ストレス」、「強ストレス」と読み替えて出力部92などから出力される。
【0105】
本実施例の場合は、この判定結果と、被験者の職掌とが一致している。つまり、本実施形態に係るストレスの判定方法による判定結果と、これら被験者の職掌に求められる責務および労務時間の大きさとが一致している。このように、本実施形態に係るストレスの判定方法によれば、被験者の職掌に求められる責務および労務時間と相関性の高い評価が可能である。
【0106】
〔比較例〕
図7には、通過個数に加えて、病院の病棟における職掌ごとの被験者のアンケート方式によるストレス評価の点数(横軸)を示している。アンケート方式によるストレス評価は、非特許文献1に記載された気分不安障害調査票に対応するK6質問票(図8参照)を利用した。ストレス評価の点数(以下では単に点数と記載する)は、その値が大きいほど大きなストレスを受けているという自己申告がされていると解される。
【0107】
K6質問票に基づけば、ストレス評価の点数が大きいほど大きなストレスを受けていることになる。しかし、図7の例では、被験者の職掌に求められる責務および労務時間とストレス評価の点数との間には着目すべき相関性は得られなかった。たとえば看護師(日勤後)に着目すると、同等の責務および労務時間であるにもかかわらず、被験者ごとのストレス評価の点数には大きな開きが生じている。
【0108】
このように、本実施形態にかかる判定装置100によれば、従来のアンケート方式に比べて、被験者の職掌に求められる責務や労務時間などのストレスの外部要因の種類や大きさに対して相関性の高い評価を簡易で迅速に行える。
【0109】
〔第二実施形態〕
第一実施形態に係る判定装置100は、制御部10は、判定部11を有していた。これに加えて、第二実施形態の判定装置100は、図9に示すように、制御部10が、ソフトウェアで実現される生活情報判定部15と学習部16とをさらに有する点で異なる。また、第一実施形態に係る判定装置100は、ストレス状態情報を表1の関係情報の態様で有していた。これに加えて、第二実施形態の判定装置100は、ストレス状態情報を、表2に示す第一関係情報と、図10に示すような、関数などを含む態様の第二関係情報とを記憶部8に記憶して有する点で異なる。他は同じである。以下では、第一実施形態と同様である場合は説明を省略する。
【0110】
【表2】
【0111】
〔実施例2〕
図10に示す第二関係情報は、過去に入力された被験者のストレス入力度(縦軸)と通過個数(横軸)との交点(黒で塗りつぶされた丸印のプロット)と、当該プロットを最小二乗法による所定の回帰式(図10の場合は一次関数)で近似した関数F、および、関数Fの値に対応するストレスの強度の範囲情報(レベルS1からレベルS5)を含む。ストレス入力度については後述する。表3には、図10のプロットの生値を示している。なお、第二関係情報は、最小二乗法による回帰式に限定されず、教師データを用いて誤差を小さくする学習方法で構築すれば良い。
【0112】
【表3】
【0113】
本実施形態のストレス入力度とは、被験者の生活情報から想定されるストレスの外部要因であって、被験者が受けているストレスの大きさをクラス分けしたものである。本実施形態では、看護師(日勤後)、看護師(夜勤後)、病棟看護師長、病棟クラーク、病棟薬剤師の5種の職掌をストレスの外部要因とみなし、ストレス入力度(C1からC5)に分類している。また、本実施形態の生活情報とは、たとえば被験者の職掌、業務の種類や業務上の役割、労働時間帯や労働時間など、ストレスの原因となる要因のことをいう。たとえばより多くの患者を担当する看護師の責務はより重く、ストレスが大きい。同様に、夜勤労働者の身体的負担は、日勤労働者に比べて大きい。この場合、生活情報は職掌であり、ストレス入力度は、職掌から想定される、外部からうけるストレスの大きさである。
【0114】
図9に示す、生活情報判定部15は、入力部91などから入力された被験者の生活情報に基づいてストレス入力度を判定する機能部である。生活情報判定部15は、表2に示す第一関係情報を記憶部8から読み出して参照し、ストレス入力度を判定する。たとえば、生活情報として、被験者の職掌が病棟クラークである場合、生活情報判定部15は、ストレス入力度をレベルS4であると判定する。
【0115】
判定部11の対比部13は、計数部12がカウントした通過個数を、記憶部8から読み出したストレス状態情報における関数F(図10参照)に代入して当該通過個数に対応するストレス強度のレベルを判定する。たとえば、計数部12がカウントした通過個数が21の場合、当該関数の値は約4.2である。この値は、レベルS4の範囲に含まれるため、対比部13はストレス強度のレベルをレベルS4であると判定する。同様に、通過個数が6の場合、対比部13はストレス強度のレベルをレベルS2であると判定する。このようにして、判定部11は、被験者のストレスを判定する。
【0116】
学習部16は、ストレス入力度の判定結果とストレス状態の判定結果との一致度がより高くなるようなストレス状態情報を学習する機能部である。学習部16は、ストレス入力度の判定結果とストレス状態の判定結果との一致度を判定する一致度判定部17と、当該一致度に基づいて第二関係情報を更新する更新部18とを有する。学習部16は、更新部18による更新を繰り返すことによってストレス状態の判定結果との一致度がより高くなるストレス状態情報を学習する。
【0117】
一致度判定部17は、生活情報判定部15が判定したストレス入力度の判定結果と、判定部11が判定したストレス状態の判定結果との一致度を判定する機能部である。たとえば、ストレス入力度の判定結果とストレス状態の判定結果とが同じであれば一致と判定する。そうでなければ不一致と判定する。
【0118】
更新部18は、一致度判定部17が判定した一致度に基づいて第二関係情報を更新する機能部である。更新部18は、一致度判定部17が一致と判定した場合、第二関係情報を更新する。この更新の際、更新部18は、判定された被験者の通過個数とストレス入力度を第二関係情報に追加して、関数Fを更新する。この更新により、以後のストレス判定において、一致度判定部17が一致と判定する確率が向上する。すなわち、以後のストレス判定において、ストレス状態の判定結果とストレス入力度の判定結果との一致度がより高くなる。
【0119】
更新部18は、一致度判定部17が不一致と判定した場合においても、第二関係情報を更新する。この更新内容は、一致度判定部17が一致と判定した場合に対して重み付けをするのが好ましい。たとえば、第二関係情報を最小二乗法で近似する際に、一致データに対して不一致データの重みを小さくしても良い。この更新により、以後のストレス判定において、一致度判定部17が一致と判定する確率が向上する。すなわち、以後のストレス判定において、ストレス状態の判定結果とストレス入力度の判定結果との一致度がより高くなる。
【0120】
更新部18は、第二関係情報を更新した後、判定部11へ、新たな関数Fに基づいた第二の判定を行う旨の指令をする。制御部10は、当該第二の判定結果を判定部11から取得して、出力部92に出力させる。この第二の判定結果は、データ数が増えるほど統計的により確かな値になる。
【0121】
更新部18は、ストレス判定が実行されるごとに上記の更新を繰り返す。これにより判定装置100における、ストレス状態の判定結果とストレス入力度の判定結果との一致度が、ストレス判定が実行されるごと向上し、現実のストレス状態を反映したストレス判定を実現可能となる。
【0122】
〔第三実施形態〕
第一実施形態に係る判定装置100の判定部11は、医師が行う疾患の診断や治療を補助すべく、判定部11が検体L1に含有されているウイルスの種類を判定(特定)し、また、判定されたウイルスの種類に基づいて被験者の疾患を特定するために用いることができる。すなわち、第三実施形態の判定装置100は、ウイルス計測装置として利用される。以下では、主に第一実施形態と相違する構成、動作、および作用効果について説明する。図12には、第三実施形態に係る判定装置100の構成を図示している。
【0123】
判定部11は、計数部12および対比部13(ウイルス判定部の一例)に加えて、疾患判定部14を有する。
【0124】
第一実施形態において対比部13は、計数部12がカウントした通過個数と、記憶部8から読み出したストレス状態情報とを対比して、当該通過個数に対応するストレス強度のレベルを判定していた。これに代えて、第三実施形態の対比部13は、後述するように、計数部12が送出したトリガーに対応するピークPkと、後述する波形情報とに基づいて、ピークPkを生じたウイルスの種類を判定する。
【0125】
第一実施形態において計数部12は、第一電極72に電圧を印加している状態において所定期間内に取得した波形中におけるピークPkの本数を計測し、当該本数を通過個数とみなして通過個数をカウントしていた。これに代えて、第三実施形態の計数部12は、第一電極72に電圧を印加している状態において所定期間内に取得した波形中におけるピークPkの存在を判定し通過個数をカウントすると共に、ピークPkの存在を特定した場合に、後述するように、対比部13に対してウイルスの種類を判定すべき旨の指令(以下、トリガーと記載する)を送出し、さらに対比部13が判定したウイルスの種類と個数をカウントする。対比部13は、後述するように、遅くとも10分以内にウイルスの種類の判定を完了する。対比部13の判定結果は、出力部92に出力させる。
【0126】
疾患判定部14は、対比部13により判定されたウイルスの種類、種類ごとのウイルスの個数、および、後述する疾患情報に基づいて、被験者の疾患を判定する。疾患の判定についての詳細は後述する。疾患判定部14の判定結果は、出力部92に出力させる。本実施形態における疾患の判定およびその概念には、疾患の名称(病名)の判定のみならず、治療方針(例えば、投薬の処方)の決定に必要な情報(例えば、ウイルスの活性に関する情報)の判定も含まれる。
【0127】
記憶部8には、ストレス状態情報に代えて、もしくはストレス状態情報に加えて、既知のウイルスに対応するピークPk(図5など参照)の波形情報と、既知のウイルスに対応する疾患情報とが記憶されている。
【0128】
波形情報は、既知のウイルスに対応するピークPkの形状に関する情報を含むデータベースである。波形情報は、計測部7から取得された波形の個々のピークPkとの対比により、計測部7から取得された波形の個々のピークPkが、どの種のウイルスであるかを判定可能な情報を含む。
【0129】
図13図15には、ピークPkの形状(波形)を例示している。図13の波形は、全体として一つ(一個)のピークPkであるが、その中に分離して観察可能な複数(例えば2つ)の子ピークPkaを有する(ピーク割れをした)場合の例示である。なお、図13には、波高やパルス波幅の異なる二つの子ピークPkaを示しているが、子ピークPkaの波高やパルス波幅がほぼ等しい場合もある。図14の波形は、ブロードな形状のピークPkであり、特にテーリングの場合の例示である。ブロードな形状のピークPkの他の例としては、図示は省略するが、リーディングの場合もある。図15の波形は、ピークPkの一部にショルダーピークPkbを有する場合を例示している。ショルダーピークPkbは、複数生じる場合もある。
【0130】
本実施形態の波形情報は、例えばディープラーニング技術などの機械学習によりあらかじめ学習して構築された学習モデル(学習済モデルの一例、以下、単に学習済モデルと記載する)である。本実施形態の波形情報は、種別や型、活性の異なる複数種の既知のウイルスをあらかじめ用意し、これら既知のウイルスが貫通孔6を通過する際のピークPkを教師データとして繰り返し取得してチューニング(強化)し、ある種類のウイルス(たとえば、活性のある単純ヘルペスウイルス1型)によるピークPkを入力した場合に、十分高い確率(たとえば、99%以上の確率)でそのウイルスの種類を判定することが可能なものである。換言すれば、学習済モデルを用いる場合、対比部13は、1パルス取得すれば十分高い確率でウイルスの種類を判定することができる。
【0131】
波形情報を学習により構築する際には、ピークPkの特徴量に着目して学習することができる。特徴量としては例えば、上述のパルス波高Ip、パルス波幅td、テーリング、リーディングもしくはショルダーピークPkbなどを用いてもよいし、子ピークPkaの数やそれぞれの子ピークPkaの波高やパルス波幅を用いてもよい。また、波形情報を学習により構築する際に、ピークPkの形状を畳み込みやプーリングにより特徴を抽出して学習に用いてもよい。
【0132】
疾患情報は、ウイルスの種類やカウントされた個数から疾患を特定するための情報を含むデータベースである。疾患情報には、ウイルスの種類と種類ごとの通過個数とに基づいて疾患を特定可能な情報が含まれる。例えば表4には、疾患情報として特にウイルスに活性がある場合におけるウイルス種や型ごとの通過個数に基づいて疾患が特定される情報が含まれている場合を例示している。
【0133】
たとえば、表4では、活性のある単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の通過個数が閾値α(例えば、30個)以上であれば、疾患判定部14は、抗ウイルス薬の投与が有効なHSV角膜ヘルペスであると判定する。単純ヘルペスウイルス1型は、健常者であってもストレス状態によっては体液からカウント(検出)されることがあるため、通過個数が閾値α未満であればウイルス性の疾患であるとは判定しなくてもよい。
【0134】
また、表4では、活性のある水痘/帯状疱疹ウイルス(VZV)の通過個数が閾値β(たとえば、1個)以上であれば、疾患判定部14は、抗ウイルス薬の投与が有効なVZVぶどう膜炎を判定する。また、活性のあるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の通過個数が閾値ζ(たとえば、1個)以上であれば、疾患判定部14は、抗ウイルス薬の投与が有効なCMV角膜内皮炎を判定する。これらウイルスは、健常者であれば体液からカウントされることはないため、ウイルスが一つ(一個)でも検出された場合は疾患が特定される。
【0135】
【表4】
【0136】
本実施形態において、被験者の体液に含まれるウイルスの種類を判定する処理は、これを実現するウイルス判定プログラム(以下、単にプログラムと記載する場合がある)を制御部10(CPU)に実行させることで実現する。このプログラムは、制御部10に、計測部7から波形情報を取得させ(受信処理の一例)、制御部10の判定部11に取得した波形情報を学習済モデルへ適用させ(ウイルス判定処理の一例)、さらに、制御部10に判定結果を出力部92などへ送信(送信処理の一例)させる。このプログラムは、例えば記憶部8に記憶することができる。プログラムを記憶部8に記憶する場合には、記憶部8を一時的でない記憶媒体(たとえば、磁気記憶媒体、光学ディスク、並びにフラッシュメモリなど)に記憶するとよい。
【0137】
〔ウイルス計測および疾患の判定の流れ〕
ウイルス計測の流れを説明する。以下では、記憶部8に表4のような疾患情報が含まれている場合を例示して説明する。測定者などが、検体貯留部2に検体L1を貯留する。また、電解液貯留部3に電解液L2を貯留する。そして、貫通孔6を介して検体L1と電解液L2とを接触させて通電可能な状態にする(接触工程)。
【0138】
検体L1と電解液L2とを通電可能な状態とした後、測定者などが入力部91を介して制御部10に測定時間(電圧を印加してカウントを継続する時間)などの測定条件と測定開始の指示とを入力すると、制御部10が電源部71に、当該測定条件に対応する条件での電圧の印加を指令する。当該指示により、電源部71は第一電極72に所定の条件で電圧を印加する。
【0139】
本実施形態における測定時間のプリセットは5分間である。上述のごとく、学習済モデルを用いる場合、対比部13は、1パルス取得すれば十分高い確率でウイルスの種類を判定することができるが、検体L1のウイルスの含有量(ウイルスの個数濃度)が少ない場合は、少なくとも一つのウイルスがカウント(検出)されるまで電圧の印加等を継続する必要がある。測定時間は、例えば1分以上10分以下、好ましくは1分以上5分以下に設定されていれば、迅速かつ正確なウイルスの判定が可能である。
【0140】
通常、電圧の印加を所定時間以上継続してもウイルスがカウントされない場合、被験者は健康である。そこで、本実施形態では健康か否かを判定するために必要十分な測定時間の目安として5分間の測定時間をプリセットしている。健康であるか否かの判定精度をさらに高めるためには、10分を上限として測定時間を設定してもよい。10分以上の測定時間を設定することも可能であるが、医師の診断が遅れたり、患者の待ち時間が長くなってしまったりする点には注意を要する。
【0141】
測定時間があまりに短く設定されると、ウイルスの含有量が少ない場合に、ウイルスが存在しないと誤判定(健康であると誤判定)されるおそれが生じる。そこで、少なくとも10秒以上の測定時間を確保するとよい。
【0142】
第一電極72に所定の電圧が印加されると、検体L1のウイルスは電気泳動により第二電極73に向けて移動する。この移動の際、ウイルスが貫通孔6を通過すると、イオン電流の波形にピークPkが生ずる(電流計測工程、通過工程)。図16には、HSV角膜ヘルペスの患者の検体L1から取得した波形の一例を示している。図17には、CMV角膜内皮炎の患者の検体L1から取得した波形の一例を示している。図16図17にはそれぞれ、複数のピークPkが生じている。
【0143】
計数部12は、波形中のピークPkの発生を特定し、特定したピークPkの個数を通過個数としてカウントすると共に、一つのピークPk毎に一つのトリガーを対比部13へ送出する。
【0144】
対比部13は、トリガーを受信すると、当該トリガーに対応するピークPkを、記憶部8から読み出した学習済モデルに適用してピークPkを生じたウイルスの種類を判定する(ウイルス判定工程)。対比部13はウイルスの種類を判定すると、ウイルスの種類を含む情報を計数部12に送出する。ウイルスの種類を含む情報を受信した計数部12は、ウイルスの種類ごとにその個数をカウントする。
【0145】
疾患判定部14は、対比部13により判定されたウイルスの種類、計数部12により種類ごとにカウントされたウイルスの個数、および、表4に示すような情報を含む疾患情報に基づいて、疾患を特定する。疾患判定部14は、ウイルスの種類を判定され、かつ、種類ごとのウイルスの個数がカウントされれば即座(たとえば、同時)に疾患を特定可能である。
【0146】
たとえば、HSV角膜ヘルペスが19個、水痘/帯状疱疹ウイルス(VZV)の15個、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)が0個であれば、疾患として、抗ウイルス薬の投与が有効なVZVぶどう膜炎を判定する。
【0147】
たとえば、HSV角膜ヘルペスが32個、水痘/帯状疱疹ウイルス(VZV)の0個、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)が0個であれば、疾患として、抗ウイルス薬の投与が有効なHSV角膜ヘルペスとVZVぶどう膜炎とを判定する。
【0148】
たとえば、HSV角膜ヘルペスが21個、水痘/帯状疱疹ウイルス(VZV)の0個、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)が0個であれば、疾患を特定しない。なお、この場合は、第一実施形態のごとく、疾患の特定に変えて、強ストレスである旨を特定してもよい。
【0149】
〔第四実施形態〕
第四実施形態は、図18に示すように、ウイルス計測装置として利用される判定装置100を、端末CLと、判定サーバSVと、クラウドサーバである記憶部8とで構成する場合を示している。判定サーバSVと端末CLとは、インターネット網W(ネットワークN)を介して双方向通信可能に接続されている。図18には、判定サーバSVに、複数(図18では2台の)の端末CLが双方向通信可能に接続されている場合を示している。以下では、第三実施形態と異なる点を説明する。
【0150】
判定サーバSVは、制御部10を有している。図18では、判定サーバSVは、ネットワークNを介して記憶部8に記憶された各種の情報(学習済モデルや、ウイルス判定プログラムを含む)にアクセス可能である場合を例示しているが、判定サーバSVが記憶部8を有してもよい。
【0151】
端末CLは、検査基板1と、それぞれ内部バスD(ネットワークN)で双方向通信可能に接続された端末側制御部10a、計測部7、電源部71、入力部91、および出力部92とを有する。
【0152】
端末側制御部10aは制御部10(判定サーバSV)とインターネット網Wを介して通信する。端末側制御部10aは、入力部91からの指示などの入力に加えて、制御部10の指令に基づいて検査基板1、計測部7、電源部71、入力部91、および出力部92の動作を制御する。
【0153】
本実施形態において、被験者の体液に含まれるウイルスの種類を判定する処理は、これを実現するウイルス判定プログラムを判定サーバSV(制御部10)に実行させることで実現する。このプログラムは、制御部10に、端末CLから波形情報を取得させ(受信処理の一例)、判定サーバSVの判定部11に、取得した波形情報を学習済モデルへ適用させ(ウイルス判定処理の一例)、さらに、判定サーバSVに、判定部11の判定結果を、波形情報を取得した端末CLに向けて送信させる(送信処理の一例)。
【0154】
なお、端末CLでは、判定サーバSV(制御部10)に波形情報を送信し、判定サーバSVから判定結果を受信して出力部92などに出力させる端末プログラムが実行される。
【0155】
図19には、このプログラムの動作フローの一例を示している。以下では、判定装置100については図18を参照し、判定装置100の動作フローについては図19を参照して説明する。
【0156】
入力部91からの測定開始の指示入力などに基づいて、端末CLにおいて波形情報が取得されて、波形情報が判定サーバSVに送信されると(#01)、判定サーバSV(制御部10)が波形情報を受信する(#11)。
【0157】
判定部11の対比部13は、受信された波形情報を学習済モデルに入力し(#12)、ウイルスの種類が所定の確率以上(例えば99%以上)で特定された場合(#13,Yes)、制御部10は、特定されたウイルスの種類を判定結果として端末CLへ送信する(#14)。端末CLでは、端末側制御部10aが判定サーバSVから送信された判定結果を受信およびこれを出力部92から出力(#02)してから終了する。出力された判定結果は医師などが閲覧する。
【0158】
判定結果を端末CLへ送信(#14)後、判定サーバSVの初期設定で学習済モデルの更新が許可されていれば(#15,Yes)、受信された波形情報に基づいて学習済モデルを更新(#16)して終了する。判定サーバSVの初期設定で学習済モデルの更新が許可されていなければ(#16,Nо)そのまま終了する。なお、ステップ#15,#16は省略してもよい。
【0159】
ウイルスの種類が所定の確率以上で判定されなかった場合(#13,Nо)であって、かつ、ピークPkが検出されなかった場合(#17,Nо)、制御部10は、ウイルスが検出されなかったという判定結果を端末CLへ送信する(#14)。
【0160】
ウイルスの種類が所定の確率以上で判定されなかった場合(#13,Nо)であって、かつ、ピークPkが検出された場合(#17,Yes)は、今後の症例蓄積などの目的で、波形情報を記憶して(#18)終了する。なお、ステップ#18は省略してもよい。
【0161】
このように、判定装置100は、クライアントサーバ形式、乃至クラウドサーバ形式のようなネットワークコンピューティングによっても実現できる。
【0162】
〔実施形態の変形例〕
〔変形例1〕
上記実施形態では、被験者の体液として涙液を用いる場合、被験者の結膜嚢をリン酸緩衝生理食塩水(生理食塩水)で洗浄し、涙液を含む洗浄液として採取したものを用いる場合を説明した。この場合、被験者の結膜嚢を洗浄する生理食塩水には、食塩(塩化ナトリウム)やリン酸水素ナトリウムのような緩衝剤(pH調節剤)以外の添加物を含んでも良い。
【0163】
この場合の添加物としてはたとえば、L-システイン、ホモシステイン、グルタチオン、オキシグルタチオン、システインパースルフィド、グルタチオンパースルフィド、ホモシステインパースルフィド、ブドウ糖、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムなどが例示される。
【0164】
生理食塩水の添加物としてオキシグルタチオンを含む場合、生理食塩水は、液性(水素イオン指数)がPh7.1~8.1程度、浸透圧比が1.0~1.1程度となるよう調製されるとよい。例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、および塩化カリウムや、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムなどを配合することで、液性や浸透圧比を調製できる。
【0165】
生理食塩水の添加物として特にオキシグルタチオンを含む場合、ウイルスのウイルス種の判定精度が向上するため好ましい。生理食塩水にオキシグルタチオンを含むことで、ウイルスの活性が向上し、もしくはウイルスの活性低下が防止され検体の保存性が向上し、ウイルスのウイルス種に依存したピークPkの形状がより顕著に検出可能となるためである。
【0166】
ウイルスのウイルス種の判定精度が向上した一例を説明する。まず、体液としてCMV虹彩炎の患者の眼球から前房水(房水の一例)を採取する。
【0167】
次に、採取した前房水をそのまま4℃で2時間保存した検体(検体A)、当該前房水をリン酸緩衝生理食塩水により2倍に希釈後4℃で2時間保存した検体(検体B)、および、当該前房水をオキシグルタチオンを有効成分として配合した市販の眼灌流液(製品名:ビーエスエスプラス500眼灌流液0.0184%、製造会社:日本アルコン)により2倍に希釈後4℃で2時間保存した検体(検体C)を準備した。検体Cについては、本実施形態における検体L1にオキシグルタチオンが含有されている場合と等価である。
【0168】
さらに、判定装置100で検体A,B,Cのウイルスを計測した。同じ患者から採取した前房水を含有する検体A,B,Cから検出されたヒトサイトメガロウイルスの検出個数(計測時間:5分間)はそれぞれ、ゼロ個、7個、12個であった。
【0169】
上記の検体A,B,Cからのヒトサイトメガロウイルスの検出結果より、検体L1にオキシグルタチオンが含まれる場合に、ウイルスの検出精度が向上してウイルス種の判定精度が向上することが分かる。
【0170】
〔変形例2〕
上記実施形態では、電解液L2として生理食塩水などの電解質溶液を用いる場合を例示して説明した。しかし、電解液L2には、食塩(塩化ナトリウム)以外にも添加物を含んで良い。
【0171】
この場合の添加物としてはたとえば、L-システイン、ホモシステイン、グルタチオン、オキシグルタチオン、システインパースルフィド、グルタチオンパースルフィド、ホモシステインパースルフィド、ブドウ糖、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、およびその他のpH調節剤などが例示される。pH調節剤としては、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、および乳酸などが例示される。
【0172】
電解液L2の添加物としてオキシグルタチオンを含む場合、電解液L2は、液性(水素イオン指数)がPh7.1~8.1程度、浸透圧比が1.0~1.1程度となるよう調製されるとよい。例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、および塩化カリウムや、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムなどを配合することで、液性や浸透圧比を調製できる。
【0173】
電解液L2の添加物として特にオキシグルタチオンを含む場合、ウイルスのウイルス種の判定精度が向上するため好ましい。電解液L2にオキシグルタチオンを含むことで、ウイルスの活性が向上し、もしくはウイルスの活性低下が防止され検体の保存性が向上し、ウイルスのウイルス種に依存したピークPkの形状がより顕著に検出可能となるためである。
【0174】
〔実施例〕
〔症例ごとの臨床診断、判定、もしくは検出結果〕
以下では、第三実施形態で示した判定装置100によるウイルスの種類の判定結果と、医師による臨床診断結果およびリアルタイムPCR法(以下、単にPCR法と記載する)によるウイルスの種類の判定結果とを比較して説明する。
【0175】
表4には、症例1~9について、臨床診断結果、検体の種類、判定装置100による判定結果、PCR法による検出結果を示している。判定装置100で判定した検体と、PCR法に供した検体とは同じである。この症例1~9の臨床診断においては、医師は、判定装置100による判定結果もPCR法による検出結果も利用していない。
【0176】
判定装置100に供した検体は、被験者から採取後、オキシグルタチオンを有効成分として配合した市販の眼灌流液(製品名:ビーエスエスプラス500眼灌流液0.0184%、製造会社:日本アルコン)により2倍に希釈して用いた。判定装置100の測定時間の設定は5分間とし、活性のあるウイルスのウイルス種を出力(検出)させた。PCR法の測定時間は約3時間とし、ウイルス種を検出した。なお、PCR法では、ウイルスの活性の有無は判定できない。
【0177】
【表5】
【0178】
症例1、および症例3~6について、判定装置100では、臨床診断結果に対応したウイルスが検出されたが、PCR法ではウイルスが検出されず陰性と判定された。症例2、7、8について、判定装置100でもPCR法でも、臨床診断に対応したウイルスが検出された。以上より、判定装置100は、臨床診断と相関性が高く、また、PCR法よりも判定もしくは検出の感度が高いと考えられる。
【0179】
症例9については、臨床診断ではHCMVへの感染により発症するCMV虹彩炎と診断され、PCR法でもHCMVを検出した。しかし、判定装置100では、活性のあるウイルスは検出されなかった。症例9については臨床診断結果で抗ウイルス薬の効果が認められなかったことから、症例9において検体が採取された時点では、検体中(被験者の体内)には活性のあるウイルスが存在しなかったものと考えられる。また、症例9では、涙液に不活性なウイルスが漏出し、これがPCR法で検出されたものと考えられる。
【0180】
症例9のように、臨床的には特定の症状ないし病名(本症例では、CMV虹彩炎)を診断できる場合、被験者の体内に活性のあるウイルスが存在しないと診断することや、活性のあるウイルスが被験者の体内に存在する場合に有効な治療(例えば、抗ウイルス薬の投与)を治療の選択肢から除外する判断をすることは、被験者の健康回復に責任のある医師にとって困難である。しかし、判定装置100の判定結果によれば、医師は被験者の体内に活性のあるウイルスが存在しないとの情報を得て、より適切な診断や治療方法の選択を行える。
【0181】
このように症例1~9によれば、判定装置100による活性のあるウイルスの検出結果に基づいて、医師はより適切な診断を下すことができると考えられる。
【0182】
以上のようにして簡易で迅速かつ正確な、ウイルス計測方法、ウイルス計測方法を実現するウイルス計測装置、ウイルス判定プログラム、ストレス判定方法、およびストレス判定方法を実現するストレス判定装置を実現する判定装置を提供できる。
【0183】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、微粒子として単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)を例示して説明したが、微粒子は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に限られない。微粒子としては、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)や、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)などの他の異なる種のヘルペスウイルスを用いてもよいし、ヘルペスウイルスのようなエンベロープを有さないアデノウイルスなどのヘルペス以外のウイルス(ウイルス種)であってもよい。
【0184】
図11には、HSV-1、HCMV、およびHHV-6の三種の異なるウイルス種のピークPkのパルス波高Ipとパルス波幅tdを示している。図11に示すように、ウイルス種ごとのピークの形状が異なるが、ウイルス種が異なる場合にも、ピークPkの検出は可能である。したがって、ウイルス種が異なる場合にも、通過個数を波形に基づいてカウントできる。
【0185】
(2)上記実施形態では、判定部11は、通過個数を波形に基づいてカウントする計数部12と、通過個数とストレス状態情報とを対比する対比部13とを有し、通過個数とストレス状態情報とに基づいて被験者のストレス状態を判定する場合を説明したがこれに限られない。
【0186】
たとえば、判定部11が計数部12などにより、さらにパルス波高Ipやパルス波幅tdなどのピークPkの形状を計測して個々のピークPkごとに対応するウイルス種を判定してもよい。そして、通過個数と、当該通過個数中におけるウイルス種の分布を取得し、これらとストレス状態情報とを対比して、被験者のストレス状態を判定することもできる。また、ウイルス種の判定を行わず、通過個数と、当該通過個数中におけるパルス波高Ipやパルス波幅tdなどのピークPkの形状の分布に係る情報とを取得し、これらとストレス状態情報とを対比して、被験者のストレス状態を判定することも可能である。
【0187】
このように、ウイルス種の分布を取得したりピークPkの形状の分布に係る情報を取得したりして被験者のストレス状態を判定する場合、ストレス状態情報には、ストレス状態情報として少なくとも、所定の測定条件下であらかじめ取得した検体の、ウイルス種ごとの個数とストレスの強度との関係情報、もしくは、波形のピークPkの個数と、ピークPkの形状の分布に係る情報と、ストレスの強度との関係情報とを含む。
【0188】
このようにウイルス種の分布を取得したり、ピークPkの形状の分布に係る情報を取得したりして被験者のストレス状態を判定する場合に関係情報に含むことができるストレス強度のレベル情報について説明する。たとえば、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)の分布量がより多い場合に、短期的なストレスではなく無く長期的なストレスをより強く受けている、というストレス強度のレベル情報を含むことができる。判定部11はこのような関係情報に基づいて、HHV-6の分布量がより多い場合に長期的なストレスをより強く受けていると判定し、HHV-6の分布量がより少ない場合に、短期的なストレスをより強く受けていると判定することが可能である。
【0189】
(3)上記実施形態では、体液が涙液である場合を説明したが、体液は涙液に限られない。たとえば、眼内液、例えば眼房水(単に(房水)とも言う)や硝子体液、唾液や汗、尿などのその他の体液を用いてもよい。
【0190】
(4)上記実施形態では、ストレス強度のレベルに対応して直感的にストレス状態を把握できる用語に読み替えて表示する場合を例示したが、当該表示はこの態様に限られない。たとえば、ストレス強度のレベルに対応する職掌の表示に読み替えて表示してもよい。当該表示は、判定装置100を使用して判定する使用者や判定装置100で判定される被験者が、責務や労務時間などのストレスの外部要因の種類や大きさを容易に把握できるものであればよい。本実施形態の場合にはたとえば、病院などで勤務する看護師などの職掌を対応させる場合が挙げられる。
【0191】
(5)上記実施形態では、ストレス入力度を分類するストレスの外部要因として病院などで勤務する看護師などの職掌を例示したが、ストレスの外部要因はこれに限られない。たとえば、通勤時間、労働時間、労働時間帯などを採用してもよいし、これらの要因を加算して用いてもよい。
【0192】
(6)上記実施形態では、貫通孔6の内表面6aは、ウイルスと同じ極性の負の表面電荷を有するように表面処理が施されている例示したが、表面修飾は必須ではなく、表面修飾しない場合もある。
【0193】
(7)上記実施形態では、疾患情報は、ウイルスの種類と種類ごとの通過個数とに基づいて疾患判定部14が疾患を特定可能な情報が含まれる場合を説明した。しかし、疾患情報はこれに限られずその他の情報も含むことができる。たとえば、疾患情報として、ウイルスの種類の組み合わせとウイルスの種類ごとの量(個数)とに対応して、疾患判定部14が疾患を一つ、もしくは可能性の高い疾患を複数種、判定可能な情報が含まれてもよい。また、ウイルスの種類の組み合わせとウイルスの種類ごとの量(個数)とに対応して複数種の疾患を特定する場合は、疾患判定部14が、妥当する可能性に序列(たとえば、確率)をつけて疾患を特定可能な情報が含まれてもよい。
【0194】
(8)上記第一~第三実施形態では、判定装置100は、検査チップとしての検査基板1と、検査基板1から波形を取得する計測部7と、検査基板1から取得した情報をもとにして被験者のストレス状態を判定するCPUなどの制御部10と、電源部71とを備え、計測部7などは、ネットワークNを介して制御部10と接続されている場合を説明した。しかし、判定装置100の構成態様はこの場合に限られない。
【0195】
判定装置100は、例えば、判定装置本体(図示せず)として、制御部10、計測部7、およびネットワークNを一体のユニットとして、可搬性の良い物とすることができる。また、検査基板1を、当該判定装置本体に接続ないし設置と接続解除ないし取り外しとを任意に可能な検査チップとして、可搬性の良い物とすることができる。
【0196】
この場合、さらに、検査基板1を判定装置本体に取り付け取り外し自在なのとすることで、患者の近くで体液を採取して検査基板1に貯留し、当該体液を貯留した検査基板1のみを容易に移動(輸送)可能として利便性を向上させることができる。また、判定装置100に対して複数の検査基板1を準備し、それぞれを患者毎の専用品としたり、使い捨て可能なものにしたりするなどして、クロスコンタミネーション防止を実現できる。
【0197】
(9)上記第四実施形態では、端末CLは、検査基板1と、それぞれ内部バスD(ネットワークN)で双方向通信可能に接続された端末側制御部10a、計測部7、電源部71、入力部91、および出力部92とを有する場合を説明した。しかし、端末CLの構成態様はこの場合に限られない。
【0198】
端末CLは、例えば、判定装置本体(図示せず)として、端末側制御部10a、計測部7、電源部71、および内部バスDを一体のユニットとして、可搬性の良い物とすることができる。また、検査基板1を、当該判定装置本体に接続ないし設置と接続解除ないし取り外しとを任意に可能な検査チップとして、可搬性の良い物とすることができる。
【0199】
この場合、さらに、検査基板1を判定装置本体に取り付け取り外し自在なのとすることで、患者の近くで体液を採取して検査基板1に貯留し、当該体液を貯留した検査基板1のみを容易に移動(輸送)可能として利便性を向上させることができる。また、判定装置100に対して複数の検査基板1を準備し、それぞれを患者毎の専用品としたり、使い捨て可能なものにしたりするなどして、クロスコンタミネーションを防止して判定精度を向上させることができる。
【0200】
(10)上記実施形態では、ウイルス(特にヘルペスウイルス)として、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1(HHV1))、水痘/帯状疱疹ウイルス(VZV(HHV3))、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV(HHV5))、およびヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)を例示して説明したが、判定装置100が判定可能なウイルスはこれらに限られない。判定装置100は、少なくともヒトヘルペスウイルスHHV1~8を含む、各種のヘルペスウイルスの種類を判定可能である。また、判定装置100は、ヘルペスウイルス以外のウイルス、例えば、アデノウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパピローマウイルス、風疹ウイルス、その他の臨床的に重要なウイルスについても種類を判定できる。
【0201】
(11)上記第三実施形態では、学習済モデル(波形情報)として、ある種類のウイルス(たとえば、活性のある単純ヘルペスウイルス1型)によるピークPkを入力した場合に、そのウイルスの種類を判定することが可能なものを例示した。しかし、学習済モデルに学習させることができるウイルスの種類は、活性のあるウイルスに限られず、不活性なウイルスも含まれる。学習済モデルに活性のあるウイルスのピークPkと不活性なウイルスのピークPkとを含めて学習させることで、対比部13はウイルスの種類としての活性の有無を容易に判定できる。これにより疾患判定部14は、ウイルスの活性の有無を考慮して疾患を特定できる。
【0202】
(12)上記第三実施形態におけるウイルス計測の流れの説明では、記憶部8に表4のような、疾患情報として特にウイルスに活性がある場合におけるウイルス種や型ごとの通過個数に基づいて疾患が特定される情報が含まれており、疾患判定部14が抗ウイルス薬の投与が有効な疾患であることを判定する場合を例示して説明した。しかし、記憶部8に記憶する疾患情報として、ウイルス種や型、および活性の有無を区別して疾患が特定される情報が含まれていてもよい。この場合、疾患判定部14は、同じ疾患(例えば、VZVぶどう膜炎)であっても、抗ウイルス薬の投与が有効な疾患と、抗ウイルス薬の投与が有効ではない疾患とを区別した判定が可能である。
【0203】
例えば、活性のあるウイルスと不活性のウイルスとがカウントされた場合であって、特に活性のあるウイルスの方がより多くカウントされた場合、疾患判定部14は、抗ウイルス薬の投与が有効な疾患を判定する。
【0204】
例えば、不活性のウイルスのみがカウントされた場合、もしくは、活性のあるウイルスと不活性のウイルスとがカウントされたが、カウントされたウイルスの通過個数全体の内の大部分(例えば8割)が不活性のウイルスである場合、疾患判定部14は、抗ウイルス薬の投与が有効ではない疾患を判定する。抗ウイルス薬の投与が有効ではない疾患とはたとえば、臨床的にはウイルスに起因する疾患と診断されるが、既に患者の体内の免疫作用によって治癒過程にある(ウイルスの排除が完了しつつある)状態であり、もはや抗ウイルス薬を投与しても患者の治療やクオリティオブライフ(QOL)の改善には寄与しないものをいう。
【0205】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明は、簡易で迅速かつ正確なウイルス計測方法、ウイルス計測装置、ウイルス判定プログラム、ストレス判定方法、およびストレス判定装置に適用できる。
【符号の説明】
【0207】
2 :検体貯留部
3 :電解液貯留部
5 :隔壁
6 :貫通孔(貫通孔部)
7 :計測部
8 :記憶部
10 :制御部
10a :端末側制御部
11 :判定部(ストレス判定部)
12 :計数部
13 :対比部(ウイルス判定部)
14 :疾患判定部
15 :生活情報判定部
16 :学習部
17 :一致度判定部
18 :更新部
70 :電流計
91 :入力部
100 :判定装置(ストレス判定装置、ウイルス計測装置)
L1 :検体
L2 :電解液
V :ウイルス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19