(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】電子機能部材及びその製造方法、並びに、生体測定センサ
(51)【国際特許分類】
H01L 23/14 20060101AFI20221215BHJP
A61B 5/257 20210101ALI20221215BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20221215BHJP
D04H 1/545 20120101ALI20221215BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20221215BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20221215BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20221215BHJP
【FI】
H01L23/14 R
A61B5/257
D04H1/4374
D04H1/545
D04H1/728
B32B5/02 Z
B32B7/025
(21)【出願番号】P 2021503666
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009645
(87)【国際公開番号】W WO2020179907
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019041623
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業、研究題目「スーパーバイオイメージャーの設計・試作・評価」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】染谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 明人
(72)【発明者】
【氏名】王 燕
(72)【発明者】
【氏名】李 成薫
(72)【発明者】
【氏名】永井 志歩
(72)【発明者】
【氏名】川島 伊久衞
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/203685(WO,A1)
【文献】特開2008-109073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/14
A61B 5/257
D04H 1/4374
D04H 1/545
D04H 1/728
B32B 5/02
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含んで構成され、浸水すると、一部が水に溶け、一部が残存する繊維網と、
前記繊維網上に形成された導電部材と
を備え、
前記繊維網が、前記樹脂として、互いに水への溶解性が異なる第1樹脂及び第2樹脂を含む
ことを特徴とす
る電子機能部材。
【請求項2】
前記樹脂が、ポリビニルアルコール誘導体である
ことを特徴とする請求項1に記載の電子機能部材。
【請求項3】
前記繊維網が、
前記第1樹脂を含む繊維で構成される第1繊維網と、
前記第2樹脂を含む繊維で構成される第2繊維網と
を積層して構成される
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の電子機能部材。
【請求項4】
前記繊維網が、
前記第1樹脂を含む繊維と、前記第2樹脂を含む繊維と
で構成される
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の電子機能部材。
【請求項5】
前記繊維網が、
前記第1樹脂及び前記第2樹脂を含む繊維
で構成される
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の電子機能部材。
【請求項6】
樹脂を含んで構成され、浸水すると、一部が水に溶け、一部が残存する繊維網と、
前記繊維網上に形成された導電部材と
を備え、
前記繊維網が
、
第1樹脂を含む繊維で構成される第1繊維網と
、
第2樹脂を含む繊維で構成される第2繊維網と
を積層して構成され、
前記第1樹脂が水溶性の樹脂であり、
前記第2樹脂が非水溶性の樹脂である
ことを特徴とす
る電子機能部材。
【請求項7】
前記第1樹脂が、ポリビニルアルコール誘導体であり、
前記第2樹脂が、ポリウレタンである
ことを特徴とする請求項
6に記載の電子機能部材。
【請求項8】
樹脂を含んで構成され、浸水すると、一部が水に溶け、一部が残存する繊維網と、
前記繊維網上に形成された導電部材と
を備え、
前記繊維網が
、
第1樹脂を含む繊維と
、第2樹脂を含む繊維と
で構成され、
前記第1樹脂が水溶性の樹脂であり、
前記第2樹脂が非水溶性の樹脂であり、
前記第2樹脂が、前記第1樹脂の繊維の表面の、全部又は一部を覆うように設けられている
ことを特徴とする電子機能部材。
【請求項9】
前記第1樹脂が、ポリビニルアルコール誘導体であり、
前記第2樹脂が、ポリパラキシレンである
ことを特徴とする請求項
8に記載の電子機能部材。
【請求項10】
前記繊維網における繊維の占有率が20%~90%である
ことを特徴とする請求項1~
9のいずれか一項に記載の電子機能部材。
【請求項11】
前記繊維網における繊維の占有率が30%~70%である
ことを特徴とする請求項1~
10のいずれか一項に記載の電子機能部材。
【請求項12】
1又は複数のナノメッシュ電極と、
測定モジュールと、
前記測定モジュール及び前記ナノメッシュ電極の間に設けられた通気性を有する電極と、
通気部材と
を備えて構成され、
前記ナノメッシュ電極、前記通気性を有する電極及び前記通気部材は、前記測定モジュールに対して同じ側に設けられ、
測定対象物に前記ナノメッシュ電極及び前記通気部材が接触するように取り付けられ、
前記ナノメッシュ電極が、請求項1~
11のいずれか一項に記載の電子機能部材であることを特徴とする生体測定センサ。
【請求項13】
水溶性の第1樹脂を含む繊維で構成される第1繊維網を形成する工程と、
水溶性であり加熱及び圧着後に難水溶性に変化する第2樹脂を含む繊維で構成される第2繊維網を形成する工程と、
前記第2繊維網を、加熱し、及び、圧着することにより、第2樹脂を難水溶性にする工程と、
前記第1繊維網、前記第2繊維網、及び、導電部材を積層する工程と
を備えることを特徴とする電子機能部材の製造方法。
【請求項14】
水溶性であり加熱及び圧着後も水溶性である第1樹脂を含む繊維と、水溶性であり加熱及び圧着後に難水溶性に変化する第2樹脂を含む繊維とで構成される繊維網を形成する工程と、
前記繊維網を、加熱し、及び、圧着する工程と、
前記繊維網上に、導電部材を設ける工程と
を備えることを特徴とする電子機能部材の製造方法。
【請求項15】
水溶性であり加熱及び圧着後も水溶性である第1樹脂、並びに、水溶性であり加熱及び圧着後に難水溶性に変化する第2樹脂を含む繊維で構成される繊維網を形成する工程と、
前記繊維網を、加熱し、及び圧着し、さらに、前記繊維網上に、導電部材を設ける工程と
を備えることを特徴とする電子機能部材の製造方法。
【請求項16】
水溶性の第1樹脂を含む繊維で構成される第1繊維網を形成する工程と、
非水溶性の第2樹脂を含む繊維で構成される第2繊維網を形成する工程と、
前記第1繊維網、前記第2繊維網、及び、導電部材を積層する工程と
を備えることを特徴とする電子機能部材の製造方法。
【請求項17】
水溶性の第1樹脂で構成される繊維の表面に非水溶性の第2樹脂を設けて繊維網を形成する工程と、
前記繊維網上に、導電部材を積層する工程と
を備えることを特徴とする電子機能部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機能部材及びその製造方法、さらに、電子機能部材を用いて構成される生体測定センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルエレクトロニクスは、素材の軟らかさから様々な応用用途を有し、高い注目を集めている。中でも、世界的な社会の高齢化に伴い、ヘルスケア分野への関心が高まっている。例えば、人体の表面や体内への装着により、細胞や組織から直接生体情報を得る手段として注目を集めている。
【0003】
一般に、フレキシブルエレクトロニクスは、フレキシブルな基材上にエレクトロニクスデバイスを形成することで作製されるが、その柔軟性は十分とは言えない。そのため、表面追従性が十分とは言えず、高い精度の情報を得ることや装着時の違和感等を十分に低減することができない。
【0004】
このような問題を解決するために、エレクトロスピニング法で、水溶性のポリビニルアルコール(PVA)からなるナノファイバーの繊維網を形成し、その上に金を蒸着して電極層を形成することで、表面追従性、横方向への伸張性、ガスや水分の透過性、透明性が十分高い電子機能部材が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Akihito Miyamoto et.al.,Nature Nanotechnology 12,907(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術の電子機能部材を皮膚に直接貼り付けて使用する場合、こすれにより電極層が破壊されたり、水にぬれた場合に皮膚からはがれやすかったりするなど、耐久性に改善の余地がある。
【0007】
そこで、この出願に係る発明者らが鋭意検討したところ、繊維網を、互いに水に対する溶解性が異なる2種類の樹脂を含む構成にすることにより、耐久性が改善されることを見出した。
【0008】
この発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、耐久性が改善された電子機能部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、この発明の電子機能部材は、樹脂を含んで構成され、浸水すると、一部が水に溶け、一部が残存する繊維網と、繊維網上に形成された導電部材とを備えて構成される。ここで、樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール誘導体である。
【0010】
この発明の電子機能部材の実施形態によれば、繊維網は、樹脂として、互いに水への溶解性が異なる、第1樹脂及び第2樹脂を含んでいる。好適な実施形態では、繊維網は、第1樹脂を含む繊維で構成される第1繊維網と、第2樹脂を含む繊維で構成される第2繊維網とを積層して構成される。また、他の好適な実施形態では、繊維網が、第1樹脂を含む繊維と、第2樹脂を含む繊維とで構成される。また、さらに他の好適な実施形態では、繊維網が、第1樹脂及び第2樹脂を含む繊維で構成される。
【0011】
また、この発明の電子機能部材では、繊維網における繊維の占有率が好ましくは20%~90%であり、より好ましくは、占有率が30%~70%である。
【0012】
また、この発明の電子機能部材の製造方法によれば、水溶性の第1樹脂を含む繊維で構成される第1繊維網を形成する工程と、水溶性であり加熱及び圧着後に難水溶性に変化する第2樹脂を含む繊維で構成される第2繊維網を形成する工程と、第2繊維網に対して、加熱し、及び、圧着することにより、第2樹脂を難水溶性にする工程と、第1繊維網、第2繊維網、及び導電部材を積層する工程とを備えて構成される。
【0013】
また、この発明の電子機能部材の製造方法の他の実施形態によれば、水溶性であり加熱及び圧着後も水溶性である第1樹脂を含む繊維と、水溶性であり加熱及び圧着後に難水溶性に変化する第2樹脂を含む繊維とで構成される繊維網を形成する工程と、この繊維網を、加熱し、及び、圧着する工程と、繊維網上に、導電部材を設ける工程とを備えて構成される。
【0014】
また、この発明の電子機能部材の製造方法の他の実施形態によれば、水溶性であり加熱及び圧着後も水溶性である第1樹脂、及び、水溶性であり加熱及び圧着後に難水溶性に変化する第2樹脂を含む繊維で構成される繊維網を形成する工程と、繊維網を、加熱及び圧着し、さらに、繊維網上に、導電部材を設ける工程とを備えて構成される。
【発明の効果】
【0015】
この発明の電子機能部材によれば、繊維網を浸水させたときに水に溶ける樹脂と、残存する樹脂を備えて構成することにより、従来の、ポリビニルアルコール(PVA)からなるナノファイバーの繊維網を形成し、その上に金を蒸着して電極層を形成した電子機能部材に比べて、耐久性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1電子機能部材を説明するための模式図である。
【
図2】第1電子機能部材の製造方法を説明するための模式図である。
【
図4】加熱温度による、結晶化度の違いを示す図である。
【
図5】第2電子機能部材を説明するための模式図である。
【
図6】第2電子機能部材の製造方法を説明するための模式図である。
【
図7】第3電子機能部材を説明するための模式図である。
【
図8】第3電子機能部材の製造方法を説明するための模式図である。
【
図11】第4電子機能部材を説明するための模式図である。
【
図12】第5電子機能部材を説明するための模式図である。
【
図14】生体測定センサを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照して、この発明の実施形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0018】
(第1電子機能部材の構成及び製造方法)
図1及び
図2を参照して、この発明の第1実施形態に係る電子機能部材(以下、第1電子機能部材と称する。)を説明する。
図1は、第1電子機能部材を説明するための模式図である。
図1(A)は、模式的な平面図であり、
図1(B)は、
図1(A)のI-I線に沿って切った模式的な断面図であり、
図1(C)は、第1電子機能部材が備える繊維網10の概要を示す模式図である。また、
図2は、第1電子機能部材の製造方法を説明するための模式図である。
【0019】
第1電子機能部材は、樹脂を含んで構成される繊維網10と、繊維網10上に形成された導電部材20とを備えて構成される。繊維網10は、第1樹脂を含む第1繊維網12と、第2樹脂を含む第2繊維網14とが積層されて構成される。ここで、第1樹脂及び第2樹脂は、互いに水への溶解性が異なる。導電部材20は、繊維網10の第2繊維網14上に設けられる。
【0020】
第1繊維網12及び第2繊維網14は、任意好適な従来公知の方法で形成されるが、例えば、エレクトロスピニングデポジション法で、樹脂組成物を噴射して形成される(
図2)。
【0021】
エレクトロスピニングデポジション法では、シリンジ52のニードル54と導電シート60の間に高電圧を印加しながら、シリンジ52中の溶液56を押し出す。このときニードル54と導電シート60の電位差によって、溶液56がシリンジ52から急激に引き出され、導電シート60に向かってスプレーされる。シリンジ52と導電シート60の間に支持体58を挟むことで、スプレーされた溶液56は、支持体58上に樹脂組成物30となり繊維網を生み出す。溶液56は、樹脂組成物30が溶媒に溶解したものであり、その溶媒はニードル54と支持体58の間でほとんど蒸発する。このようにして、それぞれ、第1繊維網12及び第2繊維網14が形成される。支持体58は、繊維網10を支持する機能を果たせば、特に材質等の制限はない。
【0022】
繊維網10における繊維が、シリコーンやポリウレタンのように柔らかい材料であると、簡単に伸びてしまって切れやすい。また、ポリカーボネートのように固い材料であると、皮膚への追随性が悪くなる。このため、繊維網における繊維は、ヤング率が、500MPa~8000MPaの範囲内の繊維であることが好ましく、1000MPa~5000MPaの範囲内の繊維であることがより好ましい。
【0023】
繊維網10における繊維を構成する樹脂として、例えば、ヤング率が2000~4000MPa程度である、ポリビニルアルコール(PVA)誘導体を用いることができる。
【0024】
第1繊維網12は、浸水したときに水に溶ける第1樹脂32で構成される。第1樹脂32は、例えば、以下の式(1)で表される基本構造を持つ水溶性樹脂である。第1繊維網12は、第1樹脂32を含む繊維で構成される。
【0025】
【0026】
ここで、第1樹脂32では、けん化度は75以上[mol%]、粘度が5.0~65.0[mm2/s]の中から選ばれればよく、好ましくはけん化度が86.5~89.0[mol%]で、粘度が15.3~55.7[mm2/s]のPVA誘導体が用いられる。また、けん化度は、{m/(m+n)}×100[mol%]で得られる。なお、粘度は、4%水溶液、20℃の条件で、医薬品添加物規格(JPE)に沿って測定したものである。
【0027】
上記性質を有するPVA誘導体として、三菱ケミカル工業株式会社のゴーセノールEGシリーズのEG-18P、22P、30P、40P及び48Pが入手可能である。
【0028】
第2繊維網14は、浸水したときに水に溶けずに残存する、難水溶性の第2樹脂34を含んで構成される。難水溶性である第2樹脂34は、水溶性である第1樹脂32を、加熱及び圧着して得られる。例えば、上記の式(1)で示される基本構造を持ち、けん化度が86.5~89.0[mol%]で、粘度が15.3~34.5[mm2/s]のPVA誘導体を加熱圧着して得られる。このPVA誘導体として、上述のEG-18P、22P及び30Pが用いられる。加熱圧着の条件は、任意好適に設定することができるが、例えば、90~180℃の範囲内の温度で1~5分の間でプレスする条件にすることができる。
【0029】
PVA誘導体の樹脂に加熱圧着を施すと、その加熱温度や加熱時間を変えることで水への溶解性が変化する。例えば180℃で3分間加熱圧着した樹脂で構成される繊維は、120℃で1分間加熱圧着した繊維よりも水に溶けにくくなる。ここで、水溶性の樹脂が難水溶性に変化する点については、非特許文献2(Polymer Vol.39, No.18 pp.4295-4302, 1998)に報告されている。
【0030】
なお、ここでは、加熱圧着装置を用いて、難水溶性の樹脂を得ているが、加熱をする方法はこれに限定されず種々の装置や方法を用いることができる。また、加熱圧着を同時に行わずに、加熱及び圧着をそれぞれ行ってもよい。
【0031】
第1繊維網12と第2繊維網14を積層して任意好適な手段で貼り付けることで繊維網10が得られる。
【0032】
繊維網10は、樹脂として、互いに水への溶解性が異なる、第1樹脂及び第2樹脂を含んでいる。第1樹脂32は、浸水したときに水に溶ける。一方、第2樹脂34は、浸水したときに直ぐには解けない。
【0033】
図3に、樹脂を浸水させたときの水溶性を調べた結果を示す。ここでは、第1樹脂としてEG-48P、及び、第2樹脂としてEG-22Pをともに、180℃で1分間加熱圧着している。
図3に示すように、第1樹脂では、全て水溶し、第2樹脂では、一部が残存していることがわかる。このように、第1樹脂と第2樹脂とで、加熱圧着により溶解度が異なることが明確である。
【0034】
このため、第1電子機能部材を所定時間浸水すると、第1繊維網12を構成する第1樹脂32は、直ちにほぼ全て水溶するのに対し、第2樹脂34は、所定量残存する。この出願に係る発明者らは、この作用により、後述のとおり、耐摩耗性が向上することを見出した。
【0035】
また、第1繊維網12、及び、加熱圧着されていない第2繊維網14はアモルファス状態であるが、第2繊維網14を加熱圧着すると、第2繊維網14は結晶化する。このため、X線回折による構造解析を行うと、結晶化度に応じて、例えばX線回折角や半値幅、強度等が変わる。このように、X線回折により得られる回折プロファイルによっても、水溶性樹脂と難水溶性樹脂とを区別することができる。
【0036】
図4に、加熱温度による、EG-22P、及び、EG-48Pの結晶化度の違いを調べた結果を示す。
図4では、横軸に温度(℃)を取って示し、縦軸に結晶化度(%)を取って示している。結晶化度は、X線回折による構造解析により得られる。EG-22P、及び、EG-48Pの両者ともに、90℃以上の温度で加熱すると、結晶化度が高くなる。特に、90℃及び180℃付近の温度で、EG-22PとEG-48Pとで結晶化度が異なり、いずれの温度でも、EG-22Pの方が結晶化度が高い。したがって、例えば、第1樹脂32としてEG-48Pを用い、第2樹脂34としてEG-22Pを用いると、180℃での加熱により、結晶化度の低いEG-48Pで構成される第1樹脂32は、水溶性を示し、結晶化度の高いEG-22Pで構成される第2樹脂34は、難水溶性を示す。
【0037】
また、水溶性の樹脂や難水溶性の樹脂を水に浸漬した際に溶解する樹脂成分についても、高分子材料を分析する一般的な方法、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で樹脂の分子量を容易に測定することできるため各々の繊維を区別することが可能となる。
【0038】
導電部材20は、例えば、蒸着法、スパッタ法、化学気相蒸着法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等を用いて形成することができる。
図1(A)では、導電部材20が構成する電極として、2本の帯状の構成例を示しているが、用途に応じて、好適な形状にしてもよい。
【0039】
導電部材20が構成する電極の形状は、パターニングを行うことで任意に変更することができる。パターニングの方法としては、マスクを介して成膜することが最も簡便で好ましい。
【0040】
導電部材20を構成する材料は、導電性を有していればよい。例えば、銅、金、アルミニウム、銀、亜鉛等の金属を用いることができる。導電性の観点からは、中でも銅や銀が好ましい。また生体等に用いる場合は、不要な反応を抑制するために、安定的な金を用いることが好ましい。
【0041】
ここで、導電部材が構成する電極の、長さをL、幅をw、厚さをd、比抵抗をρ、抵抗値をR、繊維網における繊維の占有率をCとしたとき、以下の式(2)で定義されるネットワーク率αが0.05以上であるのが好ましく、0.1以上であるのがより好ましい。
【0042】
α=πρL/2wdRC (2)
ネットワーク率αが小さい場合、上下に交差する繊維同士が融着する箇所が少なくなる。この結果、こすれなど、電極の厚さ方向に直交する方向に力が加わると、上下に交差する繊維がずれて、断線しやすくなると考えられる。なお、ネットワーク率については、上記の式(2)によって求めることができる。また、走査型プローブ顕微鏡により、上下に交差したファイバー上の導電部材が導通しているかどうかを確認することができる。
【0043】
繊維網10における繊維の占有率Cは、20%~90%であることが好ましく、さらに占有率Cが30%~70%であることが好ましい。繊維網10は、ナノ繊維が形成されている部分と空隙からなる部分とを有する。そのため、「繊維網における繊維の占有率C」とは、平面視した際にナノ繊維が形成されている部分の比率を意味する。この占有率は、繊維網の表面を1mm×1mmの大きさで任意の10点撮影した後、各写真におけるナノ繊維が形成されている部分の面積を求め、それらの平均値として求めることができる。繊維網10における繊維の占有率Cが高すぎると、ガス及び水分の透過性が低下する。一方で、導電部材20の占有率と、繊維網10における繊維の占有率Cとは正の相関があるので、繊維網10における繊維の占有率Cが低すぎると、導電部材20が疎になり十分な導電性を確保することが難しくなる。
【0044】
繊維網10を構成する繊維は、その直径が100nm~10μmであることが好ましい。また中でも、皮膚に貼り付けて使用する場合などは、200nm~2μmである、いわゆるナノファイバーであることが好ましい。当該範囲であれば十分に強度を有し、かつガス及び水分の透過性の高い電子機能部材を得ることができる。ナノ繊維の直径は、例えば、任意の10点の樹脂組成物の断面を走査型電子顕微鏡で測定し、それらの直径の平均値として求めることができる。
【0045】
ここでは、繊維網を構成する繊維がナノファイバーである繊維網をナノメッシュと称し、繊維網がナノメッシュである電子機能部材をナノメッシュ電極と称することもある。
【0046】
(第1電子機能部材の使用方法及び特性)
電子機能部材を、第1繊維網12が接触するように、皮膚などの貼り付け対象物上に載置し、水を付与する。これにより、主に第1繊維網12が溶解し、その結果、電子機能部材が皮膚に貼り付く。
【0047】
貼り付け対象物として、人口皮膚に貼り付けた状態で、電子機能部材の導電部材20を表面側から繰り返しこすり、断線するまでの回数を測定した。この測定方法について説明する。
【0048】
先ず、1mm厚のスライドガラス状にEVA(Ethylene-Vinyl Acetate)スポンジシートを両面テープで固定する。EVAスポンジシート上に、100μm厚の人工皮膚(Beaulax社製)を貼り付けた基体を準備する。その後、基体上に、4mm×30mmのナノメッシュ電極を水で貼り付けて評価用のサンプルを作成する。ここで、ナノメッシュ電極は、2.5mm間隔で3本形成した。
【0049】
次に、摩擦摩耗試験機(株式会社レスカ製FPR2200)を用いて、摩擦摩耗試験を行う。摩擦摩耗試験は、一定の加重で測定用圧子を押し付けて摺動させる試験方法である。ここでは、測定用圧子を5mmφのポリウレタンボールを用い、加重負荷を50gとした。評価用のサンプルを、摩擦摩耗試験機の直線往復摺動ユニットに固定して、20mm/秒で摺動させて、ナノメッシュ電極の断線までの回数を計測した。
【0050】
断線したか否かの判定は、市販のテスターを用いて、ナノメッシュ電極の長手方向の電気抵抗を測定し、抵抗値が1000Ω以上を断線と判断した。
【0051】
測定結果を、以下の表に示す。表には、第1電子機能部材の実施例と従来の電子機能部材の比較例を示している。ここでは、繊維網を構成する樹脂として、上記の式(1)で示される基本構造を持ち、けん化度が86.5~89.0[mol%]であり、粘度が異なるPVA誘導体を用いた例を示している。また、各繊維網を構成する樹脂を、粘度[mm2/s]で区別している。
【0052】
【0053】
実施例における第2繊維網の加熱圧着は180℃で1~5分の間で実施し、比較例における加熱圧着有の場合、180℃で5分間プレスしている。
【0054】
各実施例では、断線までの回数は1000回以上となる。なお、ここでは、断線しない場合でも1000回で終了しているので、1000回とは、1000回以上を意味する。これに対し、従来の構成の比較例では、50~300回である。
【0055】
ここで、比較例1~5は、繊維網が水溶性樹脂のみで構成されている場合であり、比較例6~7は、繊維網が難水溶性樹脂のみで構成されている場合である。
【0056】
このように、繊維網を、水溶性樹脂及び難水溶性樹脂の双方を含む場合、水溶性樹脂のみで構成する場合、及び、難水溶性樹脂のみで構成する場合のいずれの場合よりも耐摩耗性が向上することがわかる。
【0057】
また、本発明の繊維網を水で皮膚へ貼り付けるときでも電極が容易に壊れることがなく装着することが可能となり、従来品(例えば比較例1~5)に比べ、水への耐性も改善された。
【0058】
(第2電子機能部材)
図5を参照して、この発明の第2実施形態に係る電子機能部材(以下、第2電子機能部材と称する。)を説明する。
図5(A)は、第2電子機能部材を説明するための模式図であり、
図5(B)は、第2電子機能部材が備える繊維網の概要を示す模式図である。
図5(A)は、
図1(A)のI-I線と同様の線に沿って切った模式的な断面図である。
【0059】
第2電子機能部材では、繊維網110は、水溶性であり加熱圧着後に水への溶解性が異なる第1樹脂と第2樹脂を含んで構成される。第1樹脂32は、例えば、EG-40P又はEG-48Pであり、第2樹脂34は、EG-18P~30Pである。
【0060】
これら第1樹脂32からなる繊維と、第2樹脂34からなる繊維を含む繊維網110を加熱圧着すると、第2樹脂34の水への溶解性が変化し、第2樹脂34の方が第1樹脂32より水に溶けにくくなる。
【0061】
例えば、第1樹脂32としてEG-48Pを用い、第2樹脂34としてEG-22Pを用いると、加熱圧着により、第1樹脂32は、水溶性を示すが、第2樹脂34は、難水溶性を示す。
【0062】
図6を参照して、第2電子機能部材の製造方法を説明する。第2電子機能部材は、エレクトロスピニングデポジション法において、2つのノズルを用いて製造される。
【0063】
第1のシリンジ152中の第1の溶液156が、第1のニードル154から支持体58上にスプレーされる。一方、第2のシリンジ153中の第2の溶液157が、第2のニードル155から支持体58上にスプレーされる。第1の溶液156は、第1樹脂32が溶媒に溶解したものである。また、第2の溶液157は、第2樹脂34が溶媒に溶解したものである。第1のニードル154からは、第1樹脂32からなる繊維が形成され、第2のニードル155から、第2樹脂34からなる繊維が形成される。
【0064】
2つのシリンジにそれぞれ異なる樹脂が溶解した溶液を充填し、同時に、2つのニードルから溶液をスプレーすることを除いて、第1電子機能部材の製造方法と同様なので説明を省略する。
【0065】
この結果、水溶性であり加熱及び圧着後も水溶性である第1樹脂32を含む繊維と、水溶性であり加熱圧着後に難水溶性に変化する第2樹脂34を含む繊維とで構成される繊維網110を加熱し、及び、圧着することにより、繊維網110が、互いに水への溶解性が異なる、第1樹脂32及び第2樹脂34を含む第2電子機能部材が得られる。
【0066】
第1樹脂32からなる繊維と第2樹脂34からなる繊維とが混在して繊維網110が構成された第2電子機能部材は、皮膚への貼り付けの際、電極が水で容易に壊れることを抑制することができた。さらに、人口皮膚に貼り付けて5分間水に浸漬しても剥がれることはなく水耐性が大きく改善するとともに耐摩耗性試験でも500回まで断線しなかった。
【0067】
(第3電子機能部材)
図7を参照して、この発明の第3実施形態に係る電子機能部材(以下、第3電子機能部材と称する。)を説明する。
図7(A)は、第3電子機能部材を説明するための模式図であり、
図7(B)は、第3電子機能部材が備える繊維網の概要を示す模式図である。
図7(A)は、
図1(A)のI-I線と同様の線に沿って切った模式的な断面図である。
【0068】
第3電子機能部材は、第2電子機能部材と同様に、水溶性であり加熱圧着後に水への溶解性が互いに異なる第1樹脂32と第2樹脂34を含んで構成される繊維網210と、繊維網210上に形成された導電部材20とを備えて構成される。第3電子機能部材は、水溶性が異なる樹脂である第1樹脂32及び第2樹脂34の双方を含む繊維を備えて構成される。第1樹脂32及び第2樹脂34として、例えば、上述した第2電子機能部材と同様の樹脂を用いることができる。
【0069】
第3電子機能部材も第2電子機能部材と同様に、皮膚への貼り付けの際、電極が水で容易に壊れることが改善され、例えば、人口皮膚に貼り付けて水に5分間浸漬しても壊れることはなく水耐性が大きく改善した。また耐摩耗性試験でも少なくとも1000回では断線することなく耐久性が大きく改善した。
【0070】
図8を参照して、第3電子機能部材の製造方法を説明する。第3電子機能部材では、溶液として、第1樹脂32及び第2樹脂34の双方が溶媒に溶解した溶液256を用いる。この結果、ニードル54からは、第1樹脂32及び第2樹脂34の双方を含む繊維が形成される。異なる2種類の樹脂が溶解した溶液を用いることを除いて、第1電子機能部材の製造方法と同様なので説明を省略する。
【0071】
上述した、第2電子機能部材及び第3電子機能部材では、繊維網の構成として、異なる2種類の樹脂を用いて、一方の樹脂が加熱及び圧着により、難水溶性に変化する例を示しているが、これに限定されない。本発明の目的を達成できればよく、2種類の樹脂以外の他の樹脂が含まれていてもよい。
【0072】
また、1種類の樹脂を用いて繊維網を構成してもよい。1種類の水溶性の樹脂を用いて繊維網を構成する場合であっても、分子同士が化学的あるいは物理的な結合力や凝集力により部分的に難水溶性になる場合がある。この場合も、結果的に、一部が水に溶け、一部が残存する繊維網になる。
【0073】
1種類の樹脂を用いた場合の耐摩耗性を、以下の表2に示す。測定は、上述した第1電子機能部材での、摩擦摩耗試験と同様に行った。
【0074】
【0075】
表2では、繊維網を構成する樹脂として、粘度が異なるPVA誘導体を用いた例を示している。実施例10~12は、それぞれ、平均粘度が50mPa・sのPVA誘導体A、平均粘度が20mPa・sのPVA誘導体B、及び、平均粘度が15mPa・sのPVA誘導体Cを用いた場合を示している。なお、表1では、粘度としていわゆる動粘度で区別しているが、表2では、粘度として粘性率で区別している。なお、ここでの、粘度も、4%水溶液、20℃の条件で、医薬品添加物規格(JPE)に沿って測定したものである。
【0076】
PVA誘導体Aは、粘度が高い、難水溶性の樹脂である。この場合、耐摩耗性が悪い。
【0077】
PVA誘導体Cは、粘度が低い、水溶性の樹脂である。この場合、人工皮膚への貼り付けの際の状況に応じて、耐摩耗性が良かったり悪かったりする。
【0078】
PVA誘導体Bは、粘度が、PVA誘導体AとPVA誘導体Cの間であり、水溶性の性質を示しつつも、PVA誘導体Cよりも水に溶けにくい。このため、浸水させたとき、一部が溶け、一部が残存する。この結果、耐摩耗性が優れている。
【0079】
なお、PVA誘導体Aでは、初期抵抗値が110Ω以上であり、上記式(2)で得られるネットワーク率αが0.05未満であり、PVA誘導体Bでは、初期抵抗値が34~45Ωであり、ネットワーク率が0.1以上となっている。
【0080】
図9及び
図10を参照して、第3電子機能部材の密着性評価について説明する。
図9(A)及び(B)は、密着性評価の結果を示す図である。
【0081】
図9(A)は、横軸にエレクトロスピニング装置でのスピニング時間(分)を取って示し、縦軸に規格化した剥離試験で残った面積を取って示している。
図9(A)では、加熱なしのEG-22Pの単層品を白抜きの四角、130℃で加熱したEG-22Pの単層品を白抜きの三角、加熱なしのEG-22P及びEG-48Pの混合品を黒塗りの四角、180℃で加熱したEG-22P及びEG-48Pの混合品を黒丸で、それぞれ示している。なお、縦軸は、スピニング時間20分の場合の、180℃で加熱したEG-22P及びEG-48Pの混合品の剥離後の面積で規格化している。
【0082】
図9(B)は、横軸にエレクトロスピニング装置でのスピニング時間(分)を取って示し、縦軸にナノメッシュ層の厚さ(μm)を取って示している。なお、
図9(B)では、ナノメッシュ層の厚さについては、レーザ顕微鏡で厚さを測定した結果を黒丸で示し、ナノメッシュ層の断面から計測した厚さを白抜きの三角で示している。
【0083】
図10は、密着性評価の結果を示す写真である。
図10(A)~(D)は、それぞれ、加熱なしの単層品、加熱なしの混合品、加熱ありの単層品、加熱ありの混合品を示している。また、図中、(1)及び(6)、(2)及び(7)、(3)及び(8)、(4)及び(9)、並びに、(5)及び(10)は、それぞれ、20分、30分、40分、50分及び60分のスピニング時間に対応する。
【0084】
ここでは、4種類のナノメッシュを人工皮膚に水で貼り付けた後、JIS規格のテープを用いて剥離試験を行った。
【0085】
密着性評価の結果、加熱なしの単層品では、スピニング時間が20分の場合、また、加熱なしの混合品、加熱ありの単層品、及び、加熱ありの混合品では、スピニング時間が20分から30分の場合に、密着性が高い。すなわち、ナノメッシュ層の厚さが薄いほうが、密着性が高いことが示されている。
【0086】
また、4種類のナノメッシュの中で、加熱ありの混合品の密着性が高いことが示されているが、特に、スピニング時間が20分の、加熱ありの混合品において、密着性が最も高い。
【0087】
(第4電子機能部材)
図11を参照して、この発明の第4実施形態に係る電子機能部材(以下、第4電子機能部材と称する。)を説明する。
図11は、第4電子機能部材を説明するための模式図である。
図11(A)は、模式的な平面図であり、
図11(B)は、
図11(A)のI-I線に沿って切った模式的な断面図であり、
図11(C)は、第4電子機能部材が備える繊維網を示す模式図である。
【0088】
第4電子機能部材は、繊維網410と繊維網410上に形成された導電部材420とを備えて構成される。繊維網410は、第1繊維網412と第2繊維網414が積層されて構成される。導電部材420は、繊維網410の第2繊維網414上に設けられる。
【0089】
第1繊維網412及び第2繊維網414は、任意好適な従来公知の方法で形成されるが、例えば、第1電子機能部材と同様に、エレクトロスピニングデポジション法で、樹脂組成物を噴射して形成される。
【0090】
第1繊維網412は、浸水したときに水に溶ける第1樹脂432で構成される。第1樹脂432は、例えば、上記式(1)で表される基本構造を持つ水溶性樹脂である。第1樹脂432として、三菱ケミカル株式会社のゴーセノールEGシリーズのEG-22Pが入手可能である。
【0091】
第2繊維網414は、浸水したときに水に溶けずに残存する、非水溶性の第2樹脂434を含んで構成される。非水溶性である第2樹脂434として、例えば、ポリウレタンが用いられる。
【0092】
第1繊維網412と第2繊維網414を積層して任意好適な手段で貼り付けることで繊維網410が得られる。また、他の例として、エレクトロスピニング法による第1繊維網412の形成に続いて、エレクトロスピニング法による第2繊維網414の形成を行うことで、繊維網410が得られる。
【0093】
第2繊維網414を構成する第2樹脂434は水に浸漬しても溶けないため、所定時間浸水すると、第1繊維網412を構成する第1樹脂432は、全て又は一部が水溶するのに対し、第2樹脂434は、ほぼ全て残存する。
【0094】
導電部材420は、例えば、蒸着法、スパッタ法、化学気相蒸着法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等を用いて形成することができる。
図11(A)では、導電部材20が構成する電極として、2本の帯状の構成例を示しているが、用途に応じて、好適な形状にしてもよい。
【0095】
導電部材420が構成する電極の形状は、パターニングを行うことで任意に変更することができる。パターニングの方法としては、マスクを介して成膜することが最も簡便で好ましい。
【0096】
導電部材420を構成する材料は、導電性を有していればよい。例えば、銅、金、アルミニウム、銀、亜鉛等の金属を用いることができる。導電性の観点からは、中でも銅や銀が好ましい。また生体等に用いる場合は、不要な反応を抑制するために、安定的な金を用いることが好ましい。
【0097】
(第5電子機能部材)
図12を参照して、この発明の第5実施形態に係る電子機能部材(以下、第5電子機能部材と称する。)を説明する。
図12は、第5電子機能部材を説明するための模式図である。
図12(A)は、模式的な平面図であり、
図12(B)及び(C)は、第5電子機能部材が備える繊維の断面を示す模式図である。
【0098】
第5電子機能部材は、繊維網510と繊維網510上に形成された導電部材520とを備えて構成される。繊維網510は、水溶性の第1樹脂532と、非水溶性の第2樹脂534で構成される。第1樹脂532は、第4電子機能部材と同様に、例えば、上記式(1)で表される基本構造を持つ水溶性樹脂である。また、第2樹脂534として、例えば、ポリパラキシレンが用いられる。
【0099】
繊維網510を構成する繊維は、第1樹脂532と、第1樹脂532で構成される繊維の表面の全部又は一部を覆う第2樹脂534を備えて構成される。繊維網510の最下層に位置する繊維は、その下部に第1樹脂532が露出している(
図12(C)参照)。繊維網510の、最下層以外に位置する繊維は、第1樹脂532の全面を、第2樹脂534が覆っている(
図12(B)参照)。
【0100】
導電部材520については、第4電子機能部材と同様に構成できるので、重複する説明を省略する。
【0101】
(耐水性試験)
図13を参照して、第4電子機能部材及び第5電子機能部材の耐水性試験について説明する。
図13は、第4電子機能部材及び第5電子機能部材の耐水性試験の結果を示す写真である。
【0102】
人間の前腕内側の皮膚上に、第4電子機能部材及び第5電子機能部材として、ナノメッシュ電極を水蒸気を暴露して貼り付けた。また、比較例として、非水溶性の樹脂を用いずに、水溶性樹脂のみで繊維網を形成し、その上に導電部材を形成した電子機能部材も水蒸気を暴露して人間の前腕内側の皮膚上に貼り付けた。
【0103】
図13(A)及び
図13(B)では、左から、比較例、第4電子機能部材及び第5電子機能部材を示している。第4機能部材は、EG-22Pの第1繊維網上に、ポリウレタン(PU)の第2繊維網を設け、第2繊維網上に金(Au)の導電層を備えている。また、第5電子機能部材は、EG-22Pの繊維の表面に、ポリパラキシレン(パリレン)を設け、ポリパラキシレンの表面に、金(Au)の導電層を備えている。一方、比較例では、EG-22Pの繊維網上に、金(Au)の導電層を備えている。
【0104】
図13(A)は、貼付け5時間後を示し、
図13(B)は、貼付け54時間後を示している。貼付け5時間後までは入浴せず、その後、貼付け54時間後までに3回入浴した。
【0105】
比較例では、入浴を3回行った貼付け54時間後には、ほとんど残存していない。一方第4電子機能部材及び第5電子機能部材では、入浴を3回行った貼付け54時間後においても、皮膚にしっかり張り付いていることが確認された。
【0106】
このように、第4電子機能部材及び第5電子機能部材は、比較例として示している従来構成に比べて、耐水性が向上していることが示された。
【0107】
(使用例)
ナノ繊維の繊維網(ナノメッシュとも称する。)で構成される第1~第5電子機能部材(以下、ナノメッシュ電極とも称する。)は、ガスや水分の透過性に優れる。このため、ナノメッシュ電極を長時間、生体表面に取り付けておくことができる。
【0108】
ここで、心電や皮膚抵抗の測定など、生体信号の測定を行う場合には、測定モジュールも生体表面に取り付ける構成が取られる。この場合、測定モジュール自体が通気性に乏しいことが多く、ガスや水分の透過性に優れるというナノメッシュ電極の特徴が生かされないことがある。
【0109】
そこで、この出願に係る発明者らが検討したところ、測定モジュール自体が通気性に乏しい場合であっても、全体として通気性に優れる生体測定センサに想到した。
【0110】
図14を参照して、生体測定センサについて説明する。
図14は、生体測定センサの構成例を説明するための模式図である。
【0111】
生体測定センサは、1又は複数のナノメッシュ電極910と、測定モジュール920と、測定モジュール920と各ナノメッシュ電極910との間に設けられた通気性を有する電極912と、通気部材930とを備えて構成される。ナノメッシュ電極910、通気性を有する電極912及び通気部材930は、測定モジュール920に対して同じ側に設けられている。
【0112】
通気性を有する電極912として、例えば、導電性があり多孔性の構造及び弾力性を有するスポンジ電極や、導電糸を編んで通気性及び弾力性を持たせた構造の電極などがある。また、通気部材930として、非導電性の樹脂材料からなる、多孔性の構造及び弾力性を有するスポンジなどが用いられる。
【0113】
測定対象物である生体950には、ナノメッシュ電極910及び通気部材930が接するように取り付けられる。また、測定モジュール920と生体950の間には、ナノメッシュ電極910及び通気性を有する電極912、又は、通気部材930が配置される。このように、測定モジュール920と生体950の間には、通気性を有する部材が配置されるので、測定モジュール920自体が通気性が乏しい場合であっても、生体測定センサ全体として、通気性に優れる。したがって、長時間生体表面に取り付けておいても、皮膚表面の通気性を損なうことに伴う皮膚炎症を起こす可能性を低くすることができ、取り付けられた測定対象者のかゆみやかぶれを低減することができる。
【符号の説明】
【0114】
10、110、210、410、510 繊維網
12、412 第1繊維網
14、414 第2繊維網
20、420、520 導電部材
30 樹脂組成物
32、432、532 第1樹脂
34、434、534 第2樹脂
52、152、153 シリンジ
54、154、155 ニードル
56、156、157、256 溶液
58 支持体
60 導電シート