(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20221215BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20221215BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2017041141
(22)【出願日】2017-03-03
【審査請求日】2020-02-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 遼介
(72)【発明者】
【氏名】松本 哲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 奈織美
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】清水 稔
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-216549(JP,A)
【文献】特開2008-050259(JP,A)
【文献】特開2016-115621(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105140503(CN,A)
【文献】生田博将,内本喜晴,脇原將孝,リチウムマンガン系スピネル型酸化物の結晶構造制御とリチウム二次電池への応用,日本化学会誌(化学と工業化学),2002年,第3号,P.271-280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62, H01M10/00-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)と、マンガン(Mn)と、ニッケル(Ni)と、元素M(M)とを、物質量比が、Li:Mn:Ni:M=t:2-x-y:x:y(ただし、0.96≦t≦1.25、0.40≦x≦0.60、0≦y≦0.20)となるように含むスピネル型酸化物であり、
前記元素Mが、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、及び亜鉛(Zn)の群から選択される少なくとも1種の元素であり、
空間群がP4
3
32となる結晶構造の相と、空間群がFd-3mとなる結晶構造の相との両方の相を含有し、
各相におけるリチウム席占有率と、各相の含有割合との積の和であるリチウム席占有率が95%以上である非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
体積平均粒径が2μm以上8μm以下の粉末である請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
比表面積が0.30m
2/g以上1.50m
2/g以下の粉末である請求項1または2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高エネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池に対する要求が高まっている。また、ハイブリッド自動車をはじめとする電気自動車用の電源として、高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われている。その中でも、リチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
係るリチウムイオン二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)、リチウム過剰ニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Li2MnO3-LiNiXMnyCozO2)などのリチウム複合酸化物が提案されている。
【0006】
現在検討が進められているリチウムイオン二次電池の正極材料の中でも、特に熱安定性に優れた二次電池を実現できるスピネル型の結晶構造を有する正極材料は、近年特に注目を集め、各種検討がなされている。
【0007】
例えば特許文献1には、酸素欠陥型スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を用いてなることを特徴とする非水系リチウム電池用正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リチウムイオン二次電池については更なる性能向上が求められており、特に平均電圧の向上が求められている。
【0010】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、非水系電解質二次電池とした場合に平均電圧を向上させることができる、非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
リチウム(Li)と、マンガン(Mn)と、ニッケル(Ni)と、元素M(M)とを、物質量比が、Li:Mn:Ni:M=t:2-x-y:x:y(ただし、0.96≦t≦1.25、0.40≦x≦0.60、0≦y≦0.20)となるように含むスピネル型酸化物であり、
前記元素Mが、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、及び亜鉛(Zn)の群から選択される少なくとも1種の元素であり、
空間群がP4
3
32となる結晶構造の相と、空間群がFd-3mとなる結晶構造の相との両方の相を含有し、
各相におけるリチウム席占有率と、各相の含有割合との積の和であるリチウム席占有率が95%以上である非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、非水系電解質二次電池とした場合に平均電圧を向上させることができる、非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例、比較例において作製したコイン型電池の断面構成の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質]
まず、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の一構成例について説明する。
【0015】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウム(Li)と、マンガン(Mn)と、ニッケル(Ni)と、元素M(M)とを、物質量比が、Li:Mn:Ni:M=t:2-x-y:x:y(ただし、0.96≦t≦1.25、0.40≦x≦0.60、0≦y≦0.20)となるように含むスピネル型酸化物とすることができる。
なお、元素Mは、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、及び亜鉛(Zn)の群から選択される少なくとも1種の元素とすることができる。
【0016】
そして、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウム席占有率を95%以上とすることができる。
【0017】
以下、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質について具体的に説明する。
(組成)
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)はリチウム(Li)、マンガン(Mn)、及びニッケル(Ni)を含有するスピネル型構造を有する酸化物とすることができる。また、本実施形態の正極活物質は、さらに任意の添加元素である元素Mを含有するスピネル型構造を有する酸化物とすることもできる。
【0018】
元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)から選択される少なくとも1種の元素、すなわち上記元素群から選択された1種以上の元素を含有できる。
【0019】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、上述のリチウム(Li)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、及び元素M(M)について、各々の元素の物質量比(モル比)がLi:Mn:Ni:M=t:2-x-y:x:yとなるように含むことができる。なお、t、x、yは、0.96≦t≦1.25、0.40≦x≦0.60、0≦y≦0.20の関係式を満たす。
【0020】
上記物質量比の式中、リチウムの含有量を示すtの値は、0.96以上1.25以下であることが好ましく、0.98以上1.20以下であることがより好ましく、1.00以上1.20以下であることがさらに好ましい。
【0021】
これは、上記物質量比の式中、tを上記範囲とすることにより、該正極活物質を正極に用いて構成される非水系電解質二次電池(以下、単に「二次電池」とも記載する)の出力特性および容量特性を向上させることができるからである。具体的には、tの値を0.96以上とすることで、二次電池の正極抵抗を抑制し、出力特性を向上させることができる。また、tの値を1.25以下とすることで、初期放電容量を十分に高くすることができる。
【0022】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素である。
【0023】
ニッケルの添加量を示すxの値は、0.40以上0.60以下であることが好ましく、0.40以上0.56以下であることがより好ましく、0.40以上0.53以下であることがさらに好ましい。
【0024】
これは、xの値を0.40以上とすることで、該正極活物質を正極に用いて構成した二次電池において、5V級の電圧における電池容量を十分に高めることができるからである。また、xの値を0.60以下とすることで、より確実にスピネル構造単相からなる正極活物質を得ることができ、好ましいからである。
【0025】
本実施形態の正極活物質は、既述のように、リチウム、マンガン、及びニッケルの金属元素に加えて、所定量の元素(添加元素)Mを含有させることもできる。
【0026】
このような元素Mとしては、既述のようにマグネシウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、クロム、鉄、コバルト、銅、亜鉛から選択される少なくとも1種の元素を用いることができる。
【0027】
元素Mは、正極活物質を用いて構成される二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択することができる。
【0028】
元素Mはそれ自身酸化還元反応に寄与しないものがあるので、元素Mの添加量を示すyの値は0.20以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.10以下であることがさらに好ましい。なお、元素Mは添加しなくても良く、元素Mの添加量を示すyの値の下限値は、例えば0以上とすることができる。
【0029】
従って、本実施形態の正極活物質は、元素Mを含まず、例えばリチウム(Li)と、マンガン(Mn)と、ニッケル(Ni)とを含む材料とすることもできる。
(Li席占有率について)
本発明の発明者らは、二次電池とした場合に、平均電圧を向上することができる正極活物質について、鋭意検討を行った。
【0030】
正極活物質として、既述の組成を有するスピネル型構造を有する酸化物を用いる場合、該正極活物質は、空間群がP4332となる結晶構造の相と、空間群がFd-3mとなる結晶構造の相とのいずれか一方、または両方を含有することになる。
【0031】
空間群がP4332となる結晶構造においては、該結晶構造中、マンガンが4bサイトに、ニッケルが12dサイトにそれぞれ規則配列され、リチウムは8cサイトに配列されている。一方、空間群がFd-3mとなる結晶構造においては、該結晶構造中、マンガンとニッケルとが16dサイトに不規則配列され、リチウムは8aサイトに配列されている。
【0032】
既述の組成を有するスピネル型構造を有する酸化物のうちの、空間群がP4332となる結晶構造の相、及び空間群がFd-3mとなる結晶構造の相、いずれにおいてもマンガンや、ニッケルを配列した遷移金属のサイトの一部にリチウムが配列される場合がある。また、リチウムのサイトの一部にマンガン等の遷移金属が配列される場合がある。すなわちカチオンミキシングが生じる場合がある。このようにカチオンミキシングが生じると、本来リチウムが配列されるサイトにおけるリチウムの占有率である、リチウム席占有率が低下することになる。
【0033】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、リチウム席占有率が95%以上の正極活物質とすることで、該正極活物質を用い、二次電池とした場合の平均電圧を向上させることができる。
【0034】
本発明の発明者らの検討によれば、本来のリチウムサイトであり、四面体配位サイトである、8cサイトや、8aサイトに配列されたリチウムは充放電時に4.7V程度の電圧を発現することができる。一方、本来遷移金属が占める八面体配位サイトである4bサイトや、12dサイト、16dサイトに配列されたリチウムは充放電時に4.0V程度の電圧しか発現できない。このように、本来のリチウムサイトに配列されたリチウムは、二次電池の電圧の向上に寄与しており、リチウム席占有率を高めることで、該正極活物質を用いた二次電池の平均電圧を高めることができると推認している。
【0035】
本実施形態の正極活物質は、既述の様に、空間群がP4332となる結晶構造の相、及び空間群がFd-3mとなる結晶構造の相を含むことができる。そして、各結晶構造の相において、リチウム席占有率が95%以上であることが好ましい。
【0036】
本実施形態の正極活物質のリチウムの席占有率の上限は特に限定されないが、例えば100%以下とするとができる。
【0037】
本実施形態の正極活物質のリチウムの席占有率の算出方法は特に限定されないが、中性子回折を用いた結晶構造解析の結果から、空間群がP4332となる結晶構造の相、及び空間群がFd-3mとなる結晶構造の相それぞれについて、リチウム席占有率を算出する。そして、各相の席占有率と、各相の含有割合との積の和を、該正極活物質のリチウム席占有率とすることができる。
【0038】
具体的には、本実施形態の正極活物質について中性子回折を測定し、得られた回折パターンからRietvelt解析等により、結晶構造解析を行うことができる。そして、結晶構造解析の結果を用いて、空間群がP4332となる結晶構造の相、及び空間群がFd-3mとなる結晶構造の相それぞれについて、リチウム席占有率、及び質量分率を算出できる。そして、算出結果を用いて、既述の様にリチウムの席占有率を算出できる。
(比表面積)
本実施形態の正極活物質は、比表面積が0.30m2/g以上1.50m2/g以下の粉末とすることが好ましい。特に本実施形態の正極活物質は、比表面積が0.50m2/g以上1.50m2/g以下の粉末であることがより好ましい。
【0039】
なお、粉末(粒子)の比表面積は窒素吸着を利用したBET法で計測、評価を行うことができる。
【0040】
二次電池の充放電中に正極活物質に起こるリチウムイオンの脱離/挿入は、正極活物質の表面で起こる。このため、本実施形態の正極活物質について、比表面積が0.30m2/g以上の粉末とすることで、特に正極抵抗を抑制できるため好ましい。また、本実施形態の正極活物質を、比表面積が1.50m2/g以下の粉末とすることで、正極活物質と電解液の界面で起こる副反応で分解した電解液が堆積することを抑制し、繰り返し充放電を行った場合でも、正極抵抗の増加を抑制できる。
(粒子構造)
本実施形態の正極活物質はSEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)などの電子顕微鏡で観察した場合に、一次粒子が多数凝集した二次粒子と、単独の一次粒子とから選択された1種以上を含むことが好ましい。
【0041】
上述の一次粒子が多数凝集した二次粒子は、粒径が0.1μm以上2.0μm以下の一次粒子が多数凝集して形成された、粒径が3.0μm以上5.0μm以下の二次粒子であることが好ましい。なお、該二次粒子は、例えば1以上の一次粒子により囲まれた空間、空隙を有していても良い。
【0042】
また、単独で存在する一次粒子は、1.0μm以上7.0μm以下の粒径を有することが好ましい。
(体積平均粒径)
本実施形態の正極活物質は、レーザー光回折散乱式の粒度分布計で計測した場合、体積平均粒径が2μm以上8μm以下の粉末とすることが好ましい。本実施形態の正極活物質は、特に体積平均粒径が3μm以上8μm以下であることがより好ましく、3μm以上6μm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本実施形態の正極活物質の体積平均粒径が上述の範囲にある場合、該正極活物質を正極に用いた二次電池では、容積あたりの電池容量を大きくすることができるとともに、安全性や、出力特性等の優れた電池とすることができ、好ましいからである。
【0044】
以上に説明した本実施形態の正極活物質は、既述の組成を有し、リチウム席占有率を所定の範囲内としている。このため、本実施形態の正極活物質を二次電池とした場合に、平均電圧を高めることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法の一構成例について説明する。なお、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により、既述の正極活物質を製造することができる。このため、正極活物質に関連して既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0045】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)は特に限定されるものではなく、既述の正極活物質を製造できる方法であれば各種製造方法を用いることができる。
【0046】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0047】
各元素の物質量比(モル比)が、「Mn:Ni:M=(2-x-y):x:y」となるように、水溶性の原料を用いてマンガン、ニッケル、及び場合によってはさらに元素Mを含有する混合水溶液を作製し、アルカリ金属水溶液等を含む初期水溶液と共に反応槽で反応させて、正極活物質前駆体(マンガンニッケル複合水酸化物)を得る前駆体晶析工程。
前駆体晶析工程で得た正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを混合し、酸素含有雰囲気下において、800℃以上1000℃以下の温度、及び650℃以上750℃以下の温度で焼成し、リチウムマンガンニッケル複合酸化物を得るリチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程。
【0048】
リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程で得たリチウムマンガンニッケル複合酸化物を水洗し、化学量論比に対して余剰のリチウム化合物を除去する水洗工程。
【0049】
以下に、各工程について説明する。
(前駆体晶析工程)
はじめに、マンガンを含有する金属化合物等、複数の金属化合物を所定の割合で水に溶解させ、混合水溶液を作製する。具体的には例えば、マンガンを含有する金属化合物、ニッケルを含有する金属化合物、及び場合によってはさらに元素Mを含有する金属化合物を水に溶解させ、混合水溶液を作製することができる。この時の各金属の組成比が最終的に得られる正極活物質中のリチウムを除く各金属の組成比と同じになるように混合水溶液を作製することが好ましい。そのため、混合水溶液中における各金属の組成比が、本実施形態の正極活物質中におけるリチウムを除く各金属の組成比と同じ組成比となるように、水に溶解させる金属化合物の割合を調整して、混合水溶液を作製することが好ましい。具体的には各元素の物質量比がMn:Ni:M=(2-x-y):x:yとなるように作製することができる。なお、x、yは既述の正極活物質の場合と同様の範囲であることが好ましく、例えば0.40≦x≦0.60、0≦y≦0.20を満たすことが好ましい。
【0050】
用いる金属化合物は水溶性であればよく特に限定されないが、コストの観点から硫酸塩が好ましい。なお元素Mなどで水溶性の好適な原料が見出されない場合には、混合水溶液には加えなくても良い。
【0051】
次に、反応槽に水を入れ、該水にアルカリ金属水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液と、アンモニア供給体、例えばアンモニア水とを適量加えて初期水溶液を調製する。
【0052】
この際、初期水溶液について、pH値が液温25℃基準で11.2以上12.2以下、アンモニア濃度が2g/L以上15g/L以下となるように調製することが好ましい。
【0053】
これは、初期水溶液のpH値を11.2以上とすることで、得られる正極活物質前駆体中への、原料の金属化合物を構成するアニオンに起因する不純物の混入を抑制できるからである。そして、初期水溶液のpH値を12.2以下とすることで、得られる正極活物質前駆体が微粒子化することを確実に防ぐことができる。
【0054】
また、初期水溶液のアンモニア濃度を2g/L以上とすることで、得られる正極活物質前駆体の球形性を特に高めることができ、好ましい。一方、初期水溶液のアンモニア濃度を15g/L以下とすることで、アンモニア錯体を形成するニッケルの溶解度が過度に上がることを抑制し、目的とする組成の正極活物質前駆体を得ることができるため、好ましい。
【0055】
反応槽内の雰囲気は非酸化性雰囲気(酸素濃度:1容量%以下)にすることが好ましい。反応槽内の雰囲気を非酸化性雰囲気、特に酸素濃度を1容量%以下とすることで、マンガンが酸化することを抑制し、例えば酸化マンガンが微粒子として析出することを抑制でき、好ましい。具体的には例えば窒素雰囲気等の不活性雰囲気とすることが好ましい。
【0056】
反応槽の温度は40℃以上60℃以下とすることが好ましく、40℃以上55℃以下とすることがより好ましい。
【0057】
反応槽は反応熱や撹拌のエネルギーにより、自然に温度が上がるため、設定温度を40℃以上とすることで、冷却に余分なエネルギーを消費することが無いため好ましい。ただし、60℃を超えるとアンモニアの蒸発量が多くなり、目標のアンモニア濃度を維持しにくくなるので、既述のように60℃以下に設定することが好ましい。
【0058】
なお、前駆体晶析工程の間、反応槽内の温度は上記範囲にあることが好ましい。また、初期水溶液や、以下の反応水溶液についても同じ温度範囲内に維持することが好ましい。
【0059】
初期水溶液の調製、及び反応槽内の条件を設定した後、混合水溶液を反応槽に一定速度で滴下し、反応水溶液とすることができる。
【0060】
この際、混合水溶液の滴下にあわせて、アンモニア供給体、例えばアンモニア水、およびアルカリ金属水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液も一定速度で滴下し、反応水溶液のpH値が液温25℃基準で11.2以上12.2以下に、反応水溶液のアンモニア濃度が2g/L以上15g/L以下に維持されるように制御することが好ましい。
【0061】
以上のようにして、正極活物質前駆体(マンガンニッケル複合水酸化物粒子)を晶析させることができる。
【0062】
その後、反応槽に設けられたオーバーフローより回収された正極活物質前駆体粒子を含むスラリーをろ過し、乾燥することで、粉末状の正極活物質前駆体粒子、すなわちマンガンニッケル複合水酸化物粒子が得られる。
(リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程)
リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程では、例えば以下のリチウム混合物調製ステップ、第1焼成ステップ、第2焼成ステップを実施できる。
【0063】
まず、前駆体晶析工程で得られた正極活物質前駆体粒子に、該粒子に含まれる金属の原子数の総和に対して、リチウムの含有量が55原子%以上60原子%以下となるようにリチウム化合物を加えて混合することにより、リチウム混合物を調製するリチウム混合物調製ステップを実施できる。
【0064】
これは、正極活物質前駆体粒子に含まれる金属の原子数の総和に対する、リチウムの含有量、すなわちリチウム混合物のリチウムを除いた金属原子の総和に対するリチウムの含有量を55原子%以上とすることでリチウム席占有率を高めることができるからである。そして、このようにリチウム席占有率を高めることで、得られた正極活物質を用いて作製した二次電池の平均電圧を高めることができる。
【0065】
既述のように本発明の発明者らの検討によれば、本来のリチウムサイトであり、四面体配位サイトである、8cサイトや、8aサイトに配列されたリチウムは充放電時に4.7V程度の電圧を発現することができる。一方、本来遷移金属が占める八面体配位サイトである4bサイトや、12dサイト、16dサイトに配列されたリチウムは充放電時に4.0V程度の電圧しか発現できない。このように、本来のリチウムサイトに配列されたリチウムは、二次電池の電圧の向上に寄与しており、リチウムサイトの席占有率を高めることで、該正極活物質を用いた二次電池の平均電圧を高めることができると推認している。このため、リチウム席占有率を十分に高めることができるように、正極活物質前駆体粒子に含まれる金属の原子数の総和に対する、リチウムの含有量は、55原子%以上であることが好ましい。
【0066】
また、正極活物質前駆体粒子に含まれる金属の原子数に対する、リチウムの含有量を60原子%以下とすることで、層状岩塩型化合物などの異相の生成を抑制することができ、好ましいからである。
【0067】
この際、加えるリチウム化合物としては、特に限定されないが、例えば水酸化リチウム、硝酸リチウム、及び炭酸リチウムから選択された1種以上を用いることができる。なお、リチウム化合物は、上記リチウム化合物群から選択された2種以上の混合物を用いることもできる。特に、リチウム化合物としては、大気雰囲気下で安定な炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0068】
リチウム混合物を調製する際、例えば前駆体晶析工程で、元素Mなどについて水溶性の好適な原料を見出せなかった場合には、元素Mを含む化合物を、目的とした組成比と同じになるように正極活物質前駆体や、リチウム化合物に加えて混合してもよい。加える元素Mを含む化合物としては特に限定されず、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸化物、もしくはその混合物等を用いることができる。
【0069】
次に得られたリチウム混合物を、空気雰囲気等の酸素含有雰囲気中で焼成する第1焼成ステップを実施できる。
【0070】
第1焼成ステップの焼成条件は特に限定されないが、例えば800℃以上1000℃以下の温度で、5時間以上36時間以下焼成することが好ましい。これは、焼成温度を800℃以上1000℃以下とすることで、得られる正極活物質の比表面積を特に好適な範囲とすることができ好ましいからである。
【0071】
また、焼成時間を5時間以上とすることで、焼成容器内の温度を特に均一にすることができ、均一な特性の正極活物質を得られるため好ましい。ただし焼成時間が36時間を超えても36時間以下の場合と大きな変化がないため、エネルギー効率の観点から焼成時間は36時間以下とすることが好ましい。
【0072】
なお、酸素含有雰囲気とは、酸素を含有する雰囲気であればよく、例えば上述のように空気雰囲気や、空気通流下とすることができる。
【0073】
焼成後は室温まで冷却することができる。
【0074】
次に、第1焼成ステップで得られた焼成物を空気雰囲気等の酸素含有雰囲気中で再焼成する第2焼成ステップを実施できる。第2焼成ステップを実施することで、第1焼成ステップで生じた酸素欠陥を修復することができる。
【0075】
第2焼成ステップの焼成条件は特に限定されないが、第1焼成ステップで得られたリチウムニッケル複合酸化物粒子を、650℃以上750℃以下の温度で、12時間以上72時間以下焼成することが好ましい。これは、焼成温度を650℃以上750℃以下とすることで、新たな酸素欠陥が生じるのを防ぎつつ、第1焼成ステップで生じた酸素欠陥を修復することができるからである。
【0076】
また、焼成時間を12時間以上とすることで、酸素欠陥をより確実に修復することができる。ただし、焼成時間を72時間よりも長くしても、72時間以下の場合と酸素欠陥の修復の程度に大きな違いを生じないことから、焼成時間は72時間以下であることが好ましい。
【0077】
第2焼成ステップにおいても、焼成後は室温まで冷却することができる。
【0078】
なお、第1焼成ステップの後や、第2焼成ステップの後で、得られた焼成物に軽度の焼結が見られる場合には、第1焼成ステップや、第2焼成ステップの後に解砕処理を加えてもよい。
(水洗工程)
水洗工程では、リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程で得たリチウムマンガンニッケル複合酸化物を水洗し、化学量論比に対して余剰のリチウム化合物を除去することができる。
【0079】
具体的には、水洗工程ではまず、リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程で得られたリチウムマンガンニッケル複合酸化物を、その重量の1倍以上3倍以下のイオン交換水に分散させスラリーを作製することができる。
【0080】
これは、リチウムマンガンニッケル複合酸化物に対して、イオン交換水の重量を1倍以上とすることで、スラリーに十分な流動性を与え、撹拌に適した状態とすることができるからである。また、リチウムマンガンニッケル複合酸化物に対して、イオン交換水の重量を3倍よりも多くしても、洗浄の効果に大きな差異はなく、洗浄装置の容積が不必要に大きくなる恐れがあるため、上述のように、リチウムマンガンニッケル複合酸化物に対するイオン交換水の量は3倍以下とすることが好ましい。
【0081】
そして、得られたスラリーを、撹拌した後、ろ過により固液分離することができる。
【0082】
この際のスラリーの撹拌時間は特に限定されないが、例えば0.1分以上30分以下とすることが好ましい。これは撹拌時間を0.1分以上とすることで、リチウムマンガンニッケル複合酸化物に含まれる余剰のリチウムを液相に十分に溶出させることができるからである。一方、撹拌時間を30分以下とすることで、余剰のリチウム以外の、例えば結晶中のリチウムが液相に溶出することを防ぎ、水洗後に得られる正極活物質を用いて二次電池とした場合に電池性能が低下することを抑制できるからである。
【0083】
上述のように、スラリーを撹拌し、固液分離した後、十分に脱水した固相を乾燥機で乾燥することができる。なお、固液分離を行う際、分離した固体成分に付着したろ液を洗浄するため、例えばさらにイオン交換水を通水し、洗浄することもできる。
【0084】
乾燥の程度は特に限定されないが、例えば得られる乾燥物、すなわち正極活物質の水分率が0.2wt%以下になるまで乾燥させることが好ましい。これは、乾燥後の正極活物質の水分率を0.2wt%以下とすることで、得られた正極活物質を用いて二次電池を作製した場合に、電解質を加水分解することをより確実に防ぐことができ、好ましいからである。
【0085】
乾燥機の温度条件は特に限定されないが、水分を効率よく除去できるように、例えば100℃以上150℃以下とすることができる。
【0086】
以上のようにして得られた正極活物質の結晶構造をXRDで測定すると、スピネル型の結晶構造であることが確認できる。
【0087】
また、既述のように、得られた正極活物質におけるリチウム席占有率については中性子回折を行い、得られた回折パターンから結晶構造解析を行うことで算出することができる。
[非水系電解質二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池の一構成例について説明する。
【0088】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の正極活物質を正極材料として用いた正極を有することができる。
【0089】
まず、本実施形態の非水系電解質二次電池の構造の構成例を説明する。
【0090】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、正極材料に既述の正極活物質を用いたこと以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質的に同様の構造を備えることができる。
【0091】
具体的には、本実施形態の非水系電解質二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解質およびセパレータを備えた構造を有することができる。
【0092】
より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解質を含浸させることができる。そして、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉した構造を有することができる。
【0093】
なお、本実施形態の非水系電解質二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、またその外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0094】
各部材の構成例について以下に説明する。
(正極)
まず正極について説明する。
【0095】
正極は、シート状の部材であり、例えば、既述の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、例えばアルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成できる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0096】
上述の正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成することができる。そして、正極合材は、粉末状になっている既述の正極活物質と、導電材と、結着剤とを混合して形成できる。
【0097】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0098】
結着剤は、正極活物質をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合材に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種以上を用いることができる。
【0099】
なお、正極合材には活性炭などを添加することもできる。正極合材に活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0100】
溶剤は、結着剤を溶解して正極活物質、導電材、および活性炭等を結着剤中に分散させる働きを有する。溶剤は特に限定されないが、例えばN-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0101】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は特に限定されるものではなく、例えば一般の非水系電解質二次電池の正極の場合と同様にすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
(負極)
銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。
【0102】
負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
【0103】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にすることができる。
【0104】
負極活物質としては例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0105】
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種以上を用いることができる。
【0106】
係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有している。
【0107】
セパレータの材料としては、例えばポリエチレンや、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
(非水系電解質)
非水系電解質は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0108】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0109】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0110】
なお、非水系電解質は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【0111】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の正極活物質を正極材料として用いた正極を備えている。このため、優れた電池特性を有する非水系電解質二次電池とすることができる。
【0112】
既述の正極活物質を用いた本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述のように平均電圧を高くすることができる。このため、高い作動電位を有しながらも、高容量で、出力特性に優れるものである。
【0113】
具体的には、本実施形態の正極活物質を正極に用いて、2032型コイン型電池を構成し、電流密度を0.1mA/cm2として、カットオフ電圧5.0Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電した場合に、初期放電容量が125mAh/g以上であることが好ましく、130mAh/g以上であることがより好ましい。また、この2032型コイン型電池の平均電圧を4.65V以上とすることが好ましく、4.69V以上とすることがより好ましい。
【0114】
本実施形態の非水系電解質二次電池の用途は特に限定されるものではなく、各種電源を要求される用途に用いることができる。ただし、上記特性を有するため、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に特に好適に用いることができる。また、本実施形態の非水系電解質二次電池は小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源としても好適に用いることができる。
【0115】
なお、本実施形態の非水系電解質二次電池は、純粋に電気エネルギーのみで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用する、いわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることもできる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
以下の手順により正極活物質を作製し、評価を行った。
(正極活物質の作製方法)
まず、正極活物質であるリチウムマンガンニッケル複合酸化物の作製方法、条件について説明する。
(a)前駆体晶析工程
はじめに、反応槽(5L)内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。また、反応槽内は、窒素雰囲気(酸素濃度:1容量%以下)とした。前駆体晶析工程が終了するまで、反応槽内は槽内温度が40℃、槽内雰囲気は、酸素濃度が1容量%以下の窒素雰囲気となるように保持しており、以下の初期水溶液や、反応水溶液についても40℃に保持している。
【0117】
この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を加えて、初期水溶液を調製した。初期水溶液は、pH値が液温25℃基準で11.5に、アンモニア濃度が5g/Lとなるように上記水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニア水を添加し、調製した。
【0118】
また、硫酸マンガン、硫酸ニッケルを、マンガンとニッケルのモル比が、Mn:Ni=1.50:0.50となるように純水に溶解して、2.0mol/Lの混合水溶液を調製した。
【0119】
反応槽内に調製した初期水溶液を撹拌しながら、該初期水溶液に上述の混合水溶液を一定速度で滴下し、反応水溶液とした。
【0120】
混合水溶液を滴下する際、あわせて25質量%アンモニア水、及び25質量%水酸化ナトリウム水溶液も一定速度で滴下し、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.5に、アンモニア濃度が5g/Lに維持されるように制御した。
【0121】
以上のように初期水溶液に混合水溶液を滴下することで、正極活物質の前駆体となる、マンガンニッケル複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)を晶析させた。
【0122】
その後、反応槽に設けられたオーバーフローより回収された複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過し、得られた晶析物をイオン交換水で洗浄し水溶性の不純物を除去した。洗浄を行った後の晶析物を乾燥することで、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。
(b)リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程
前駆体晶析工程で得られた複合水酸化物粒子に、該複合水酸化物粒子に含まれるマンガン、ニッケルの原子数の総和に対して、リチウムの含有量が60原子%となるように秤量した炭酸リチウムを加え、混合することにより、リチウム混合物を得た(リチウム混合物調製ステップ)。なお、混合する際には、ターブラーシェーカーミキサ(株式会社ダルトン製、T2F)を用いた。
【0123】
雰囲気焼成炉(株式会社シリコニット製、BM-50100M)を用いて、得られたリチウム混合物を、空気流通中、900℃で、12時間焼成した後、室温まで冷却し、リチウムマンガンニッケル複合酸化物を得た(第1焼成ステップ)。
【0124】
なお、得られたリチウムマンガンニッケル複合酸化物には軽度の焼結が見られたため、ハンマーミル(IKAジャパン株式会社製、MF10)を用いて解砕した。 次いで、第1焼成ステップで得られたリチウムマンガンニッケル複合酸化物を、雰囲気焼成炉(株式会社シリコニット製、BM-50100M)を用いて、空気雰囲気下、700℃で、12時間焼成した後、室温まで冷却し、リチウムマンガンニッケル複合酸化物を得た(第2焼成ステップ)。
(c)水洗工程
リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程で得られたリチウムマンガンニッケル複合酸化物100gを、300gのイオン交換水に分散させスラリーを作製した。そして得られたスラリーを10分間撹拌した。
【0125】
上述のようにスラリーを作製し、撹拌を行った後、該スラリーについてブフナーロートによる真空ろ過により固液分離を行った。固液分離後のブフナーロート上に堆積した固体層に30gのイオン交換水を通液し、残留したろ液を除去した後、乾燥させた。
【0126】
乾燥は、120℃に加熱された乾燥機内に上述のろ過により得られた固相を入れ、得られる乾燥物、すなわち正極活物質の水分率が0.2wt%以下になるまで実施した。
(正極活物質の評価方法)
上述の手順により得られた正極活物質の粉末について、評価を行った。評価方法について以下に説明する。
(a)組成、水分率の評価
得られた正極活物質について、ICP発光分光分析器(VARIAN社製、725ES)を用いて組成の評価を行った。その結果、得られた正極活物質は、Li、Mn、Niのモル比が、Li:Mn:Ni=1.00:1.50:0.50で表され、正極活物質であるリチウムマンガンニッケル複合酸化物に含まれるマンガン、ニッケルの原子数の総和に対して、リチウムの含有量は50原子%であることを確認した。
【0127】
また、正極活物質の水分率をカールフィッシャー水分率計により測定したところ、0.13wt%であることが確認できた。
(b)結晶構造
J-PARC施設内のiMATERIAを用いた中性子回折測定を行い、得られた正極活物質について、中性子回折パターンを得た。中性子線回折装置は、J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)大強度陽子加速器施設)内のBL20に設置された茨城県材料構造解析装置(iMATERIA)を用いた。
【0128】
得られた中性子回折パターンを基に、J-PARCから配布されている解析ソフトZ-CODEを用い、リートベルト解析を用いた結晶構造解析(パターンフィッティング)を行った。このとき、計算モデルとして空間群がP4332となる結晶構造の相と、空間群がFd-3mとなる結晶構造の相との2相が存在すると仮定して解析を行った。
【0129】
上記解析の結果、得られた正極活物質は空間群がP4332となる結晶構造の相を50wt%、空間群がFd-3mとなる結晶構造の相を50wt%含むことが確認できた。そして、空間群がP4332となる結晶構造の相のリチウムサイトである8cサイトにおけるリチウム席占有率は99.5%であった。また、空間群がFd-3mとなる結晶構造の相のリチウムサイトである8aサイトにおけるリチウム席占有率は98.6%であった。各層の分率とあわせて算出すると、全体のリチウム席占有率は99.05%であることが確認できた。
(c)比表面積、体積平均粒径
得られた正極活物質の粉末の比表面積を、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、マックソーブ)を用いて測定した。その結果、正極活物質の粉末の比表面積が0.96m2/gであることを確認した。
【0130】
また、正極活物質の粉末について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて体積基準平均粒径を求めたところ、6.4μmであることを確認した。なお、表1では体積平均粒径(体積基準平均粒径)を単に平均粒径として示している。
【0131】
得られた正極活物質の評価の1つとして、調製した正極活物質を用いて、非水系電解質二次電池である、
図1に示す2032型コイン型電池10を作製し、評価を行った。以下に非水系電解質二次電池の作製方法について説明する。
(二次電池の作製方法)
コイン型電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
【0132】
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0133】
電極12は、正極121、セパレータ122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
【0134】
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が非接触の状態、すなわち電気的に絶縁状態を維持するように相対的な移動を規制し、固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0135】
このコイン型電池10を、以下のようにして作製した。まず、得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、直径10mmで10mg程度の重量になるまで薄膜化して、正極121を作製し、これを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0136】
この正極121、負極123、セパレータ122および電解液とを用いて、コイン型電池10を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0137】
なお、負極123には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれたリチウム箔を用いた。また、セパレータ122には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合比が体積基準で3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0138】
[電池評価]
得られたコイン型電池10の性能の評価方法について説明する。
【0139】
初期放電容量は、コイン型電池10を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧5.0Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0140】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、電池評価を行ったところ、初期放電容量は140mAh/gであった。また、平均電圧は4.69Vであった。
[実施例2]
リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程の、リチウム混合物調製ステップにおける複合水酸化物前駆体と炭酸リチウムとの混合を、マンガン、ニッケルの原子数の総和に対して、リチウムの含有量が55原子%となるように調整した点以外は実施例1と同様の手順で正極活物質を調製し、評価を行った。また、実施例1と同様に、得られた正極活物質を用いて二次電池を作製し、評価を行った。評価結果を表に示す。
[実施例3~実施例5]
前駆体晶析工程において、混合水溶液を調製する際に、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、と元素Mの硫酸塩とを、マンガンとニッケルと元素Mのモル比が、Mn:Ni:M=1.50:0.45:0.05となるように純水に溶解して、2.0mol/Lの混合水溶液を調製した。そして、係る混合水溶液を用いた点以外は、実施例1と同様にして正極活物質を調製し、評価を行った。また、実施例1と同様に、得られた正極活物質を用いて二次電池を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
なお、元素Mとして、実施例3ではコバルト(Co)を、実施例4では鉄(Fe)を、実施例5ではチタン(Ti)をそれぞれ用いた。
[比較例1]
リチウムマンガンニッケル複合酸化物生成工程の、リチウム混合物調製ステップにおける複合水酸化物前駆体と炭酸リチウムとの混合を、マンガン、ニッケルの原子数の総和に対して、リチウムの含有量が50原子%となるように調整した点、及び水洗工程を実施しなかった点以外は実施例1と同様の手順で正極活物質を調製し、評価を行った。また、実施例1と同様に、得られた正極活物質を用いて二次電池を作製し、評価を行った。評価結果を表に示す。
[比較例2~4]
前駆体晶析工程において、混合水溶液を調製する際に、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、と元素Mの硫酸塩とを、マンガンとニッケルと元素Mのモル比が、Mn:Ni:M=1.50:0.45:0.05となるように純水に溶解して、2.0mol/Lの混合水溶液を調製した。そして、係る混合水溶液を用いた点以外は、比較例1と同様にして正極活物質を調製し、評価を行った。また、実施例1と同様に、得られた正極活物質を用いて二次電池を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
なお、元素Mとして、比較例3ではコバルト(Co)を、比較例4では鉄(Fe)を、比較例5ではチタン(Ti)をそれぞれ用いた。
【0141】
【表1】
表1に示した結果によると、Li席占有率が95%以上である実施例1~実施例5の正極活物質については、該正極活物質を用いて作製した二次電池の平均電圧が4.66V以上と高くなることが確認できた。
【0142】
一方リチウム席占有率が95%未満である比較例1~比較例5の正極活物質については、水洗工程を実施しないことで、Li/Meを実施例1~実施例5と同じ50at%としたものの、該正極活物質を用いて作製した二次電池の平均電圧は、実施例1~実施例5よりも低くなることが確認できた。これは、比較例1~比較例5の正極活物質ではリチウム席占有率が低かったためと考えられる。