(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】表面処理方法、表面処理剤、及び基板上に領域選択的に製膜する方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20221215BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20221215BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20221215BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20221215BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20221215BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20221215BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20221215BHJP
C07D 233/56 20060101ALN20221215BHJP
C07D 257/04 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/318 B
H01L21/205
H01L21/30 570
C23C16/02
C23C16/04
C23C26/00 A
C07D233/56
C07D257/04 A
(21)【出願番号】P 2018125174
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2017254944
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】関 健司
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-520028(JP,A)
【文献】特開2017-063179(JP,A)
【文献】特開2017-011208(JP,A)
【文献】特開2013-068767(JP,A)
【文献】特開2001-002989(JP,A)
【文献】特開2008-221521(JP,A)
【文献】特表2007-505220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/318
H01L 21/205
H01L 21/027
C23C 16/02
C23C 16/04
C23C 26/00
C07D 233/56
C07D 257/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に対する表面処理方法であって、
前記表面を、シリル化剤(A)、含窒素複素環化合物(B)及び溶剤を含む表面処理剤に曝露することを含み、
前記溶剤の誘電率が、
4以上
10以下であり、
前記表面が、2以上の領域を含み、
2以上の前記領域のうちの隣接する領域に関して、互いに材質が異なり、
前記シリル化剤と2以上の前記領域との反応によって、2以上の前記領域のうちの隣接する領域に関して、水の接触角を互いに異ならせる、表面処理方法。
【請求項2】
前記含窒素複素環化合物(B)が、置換基を有していてもよいイミダゾール、置換基を有していてもよいトリアゾール、及び置換基を有していてもよいテトラゾールからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記シリル化剤(A)が、ケイ素原子に結合する疎水性基を有するアルコキシモノシラン化合物である、請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記アルコキシモノシラン化合物が、トリアルコキシモノシラン化合物である、請求項3に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記アルコキシモノシラン化合物が有する前記疎水性基が、炭素原子数3以上20以下の鎖状脂肪族炭化水素基である、請求項3又は4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記シリル化剤(A)が、ケイ素原子に結合する疎水性基と、ケイ素原子に結合する脱離基とを有する化合物である、請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記表面処理剤への曝露後の前記表面において、2以上の前記領域のうちの隣接する領域に関して水の接触角が20°以上異なる、請求項1~6のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の表面処理方法により前記基板の前記表面を処理することと、
表面処理された前記基板の表面に、原子層成長法により膜を形成することとを含み、
前記膜の材料の堆積量を領域選択的に異ならせる、前記基板表面の領域選択的製膜方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の表面処理方法において用いられる表面処理剤であって、シリル化剤(A)及び含窒素複素環化合物(B)を含む表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体集積回路製造等に用いられる、基板表面を領域選択的に改質し得る表面処理方法、それに用いられる表面処理剤、及び原子層成長法を用いて基板上に領域選択的に製膜する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化、微小化の傾向が高まり、マスクとなる有機パターンやエッチング処理により作製された無機パターンの微細化が進んでおり、原子層レベルの膜厚制御が求められている。
基板上に原子層レベルで薄膜を形成する方法として原子層成長法(ALD(Atomic Layer Deposition)法;以下、単に「ALD法」ともいう。)が知られている。ALD法は、一般的なCVD(Chemical Vapor Deposition)法と比較して高い段差被覆性(ステップカバレッジ)と膜厚制御性を併せ持つことが知られている。
【0003】
ALD法は、形成しようとする膜を構成する元素を主成分とする2種類のガスを基板上に交互に供給し、基板上に原子層単位で薄膜を形成することを複数回繰り返して所望の厚さの膜を形成する薄膜形成技術である。
ALD法では、原料ガスを供給している間に1層あるいは数層の原料ガスの成分だけが基板表面に吸着され、余分な原料ガスは成長に寄与しない、成長の自己制御機能(セルフリミット機能)を利用する。
例えば、基板上にAl2O3膜を形成する場合、TMA(TriMethyl Aluminum)からなる原料ガスとOを含む酸化ガスが用いられる。また、基板上に窒化膜を形成する場合、酸化ガスの代わりに窒化ガスが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Phys.Chem.C 2014,118,10957-10962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ALD法を利用して基板表面の領域選択的に製膜する方法が試みられてきている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
これに伴い、ALD法による基板上の領域選択的な製膜方法に好適に適用し得るように基板表面が領域選択的に改質された基板が求められてきている。
製膜方法において、ALD法を利用することにより、パターニングの原子層レベルの膜厚制御、ステップカバレッジ及び微細化が期待される。
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、複数の領域を有する基板表面の各領域の材質に応じて異なる改質度合で改質(例えば、疎水性の付与等)し得る基板表面の表面処理方法、それに用いられる表面処理剤、及びALD法を用いて基板上に領域選択的に製膜する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、シリル化剤及び含窒素複素環化合物を用いて処理することにより基板表面の材質に応じて改質度合を変化させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明の第1の態様は、基板の表面に対する表面処理方法であって、
上記表面を、シリル化剤(A)及び含窒素複素環化合物(B)を含む表面処理剤に曝露することを含み、
上記表面が、2以上の領域を含み、
2以上の上記領域のうちの隣接する領域に関して、互いに材質が異なり、
上記シリル化剤と2以上の上記領域との反応によって、2以上の上記領域のうちの隣接する領域に関して、水の接触角を互いに異ならせる、表面処理方法である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る表面処理方法において用いられる表面処理剤であって、シリル化剤(A)及び含窒素複素環化合物(B)を含む表面処理剤である。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1の態様に係る表面処理方法により上記基板の上記表面を処理することと、
表面処理された上記基板の表面に、原子層成長法により膜を形成することとを含み、
上記膜の材料の堆積量を領域選択的に異ならせる、上記基板上の領域選択的製膜方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面処理方法は、複数の領域を有する基板表面の各領域の材質に応じて異なる改質度合で改質(例えば、疎水性の付与等)することができ、特に、ALD法を用いた基板表面の領域選択的な製膜に好適に適用し得る基板を提供することができる。
本発明の表面処理剤は、上記表面処理方法を提供することができる。
本発明の基板上の領域選択的製膜方法は、原子層レベルの膜厚制御が可能でステップカバレッジに優れる膜を基板上に領域選択的に製膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Ox基板及びW基板間の水接触角差と、各種溶剤の誘電率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
≪基板の表面に対する表面処理方法≫
第1の態様に係る表面処理方法は、基板の表面に対する表面処理方法であって、
上記表面を、シリル化剤(A)及び含窒素複素環化合物(B)を含む表面処理剤に曝露することを含み、
上記表面が、2以上の領域を含み、
2以上の上記領域のうちの隣接する領域に関して、互いに材質が異なり、
上記シリル化剤と2以上の上記領域との反応によって、2以上の上記領域のうちの隣接する領域に関して、水の接触角を互いに異ならせる。
【0016】
表面処理の対象となる「基板」としては、半導体デバイス作製のために使用される基板が例示され、例えば、ケイ素(Si)基板、窒化ケイ素(SiN)基板、シリコン酸化膜(Ox)基板、タングステン(W)基板、コバルト(Co)基板、窒化チタン(TiN)基板、窒化タンタル(TaN)基板、ゲルマニウム(Ge)基板、シリコンゲルマニウム(SiGe)基板、アルミニウム(Al)基板、ニッケル(Ni)基板、ルテニウム(Ru)基板、銅(Cu)基板等が挙げられる。
「基板の表面」とは、基板自体の表面のほか、基板上に設けられた無機パターン及び有機パターンの表面、並びにパターン化されていない無機層又は有機層の表面が挙げられる。
【0017】
基板上に設けられた無機パターンとしては、フォトレジスト法により基板に存在する無機層の表面にエッチングマスクを作製し、その後、エッチング処理することにより形成されたパターンが例示される。無機層としては、基板自体の他、基板を構成する元素の酸化膜、基板の表面に形成したSiN、Ox、W、Co、TiN、TaN、Ge、SiGe、Al、Ni、Ru、Cu等の無機物の膜ないし層等が例示される。
このような膜や層としては、特に限定されないが、半導体デバイスの作製過程において形成される無機物の膜や層等が例示される。
【0018】
基板上に設けられた有機パターンとしては、フォトレジスト等を用いてフォトリソグラフィー法により基板上に形成された樹脂パターン等が例示される。このような有機パターンは、例えば、基板上にフォトレジストの膜である有機層を形成し、この有機層に対してフォトマスクを通して露光し、現像することによって形成することができる。有機層としては、基板自体の表面の他、基板の表面に設けられた積層膜の表面等に設けられた有機層であってもよい。このような有機層としては、特に限定されないが、半導体デバイスの作成過程において、エッチングマスクを形成するために設けられた有機物の膜を例示することができる。
【0019】
(基板表面が2つの領域を含む態様)
第1の態様に係る表面処理方法は、基板表面が2以上の領域を含み、上記2以上の領域のうちの隣接する領域が、互いに材質が相違する。
【0020】
上記2以上の領域間において、他方の領域よりも水の接触角(好ましくは、疎水性)が大きくなる傾向にある領域としては、Si、SiN、Ox、TiN、TaN、Ge及びSiGeよりなる群から選択される少なくとも1種を含む領域が挙げられる。
上記2以上の領域間において、他方の領域よりも水の接触角(好ましくは、疎水性)が小さくなる傾向にある領域としては、W、Co、Al、Ni、Ru、Cu、TiN及びTaNよりなる群から選択される少なくとも1種を含む領域が挙げられる。
【0021】
例えば、上記2以上の領域のうちの1つの領域を第1の領域とし、それに隣接する領域を第2の領域とする場合、第1の領域と第2の領域とでは材質が相違する。
ここで、第1の領域及び第2の領域は、それぞれ複数の領域に分割されていてもされていなくてもよい。
第1の領域及び第2の領域の例としては、例えば、基板自体の表面を第1の領域とし、基板の表面に形成した無機層の表面を第2の領域とする態様、基板の表面に形成した第1の無機層の表面を第1の領域とし、基板の表面に形成した第2の無機層の表面を第2の領域する態様等が挙げられる。なお、これらの無機層の形成に代えて有機層を形成した態様等も同様に挙げられ得る。
基板自体の表面を第1の領域とし、基板の表面に形成した無機層の表面を第2の領域とする態様としては、基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間において選択的に疎水性向上して水の接触角の差を向上する観点から、Si基板、SiN基板、Ox基板、TiN基板、TaN基板、Ge基板及びSiGe基板よりなる群から選択される少なくとも1種の基板の表面を第1の領域とし、上記基板の表面に形成した、W、Co、Al、Ni、Ru、Cu、TiN及びTaNよりなる群から選択される少なくとも1種を含む無機層の表面を第2の領域とする態様が好ましい。
また、基板の表面に形成した第1の無機層の表面を第1の領域とし、基板の表面に形成した第2の無機層の表面を第2の領域する態様としては、基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間において選択的に疎水性向上して水の接触角の差を向上する観点から、任意の基板(例えば、Si基板)の表面に形成した、SiN、Ox、TiN、TaN、Ge及びSiGeよりなる群から選択される少なくとも1種を含む第1の無機層の表面を第1の領域とし、上記基板の表面に形成した、W、Co、Al、Ni、Ru、Cu、TiN及びTaNよりなる群から選択される少なくとも1種を含む第2の無機層の表面を第2の領域とする態様が好ましい。
【0022】
(基板表面が3以上の領域を含む態様)
上記2以上の領域のうちの1つの領域を第1の領域とし、それに隣接する領域を第2の領域とし、更に第2の領域に隣接する領域を第3の領域とする場合、第1の領域と第2の領域とでは材質が相違し、第2の領域と第3の領域とでは材質が相違する。
ここで、第1の領域と第3の領域とが隣接する場合には、第1の領域と第3の領域とでは材質が相違する。
第1の領域と第3の領域とが隣接しない場合には、第1の領域と第3の領域とでは材質が相違していても相違していなくてもよい。
また、第1の領域、第2の領域及び第3の領域は、それぞれ複数の領域に分割されていてもされていなくてもよい。
第1の領域、第2の領域及び第3の領域の例としては、例えば、基板自体の表面を第1の領域とし、基板の表面に形成した第1の無機層の表面を第2の領域とし、基板の表面に形成した第2の無機層の表面を第3の領域とする態様等が挙げられる。なお、これらの無機層の形成に代えて有機層を形成した態様等も同様に挙げられ得る。また第2の無機層と第3の無機層のいずれか一方のみを有機層に変えて形成したような無機層及び有機層の双方を含むような態様等も同様に挙げられ得る。
基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間において選択的に疎水性向上して水の接触角の差を向上する観点から、任意の基板(例えば、Si基板)自体の表面を第1の領域とし、上記基板の表面に形成した、SiN、Ox、TiN、TaN、Ge及びSiGeよりなる群から選択される少なくとも1種を含む第1の無機層の表面を第2の領域とし、上記基板の表面に形成した、W、Co、Al、Ni、Ru、Cu、TiN及びTaNよりなる群から選択される少なくとも1種を含む第2の無機層の表面を第3の領域とする態様が好ましい。
第4以上の領域が存在する場合についても同様の考え方が適用し得る。
材質が相違する領域数の上限値としては本発明の効果が損なわれない限り特に制限はないが、例えば、7以下又は6以下であり、典型的には5以下である。
【0023】
(曝露)
基板の表面を表面処理剤に曝露させる方法としては、溶剤を含んでいてもよい表面処理剤(典型的には液状の表面処理剤)を、例えば浸漬法、又はスピンコート法、ロールコート法及びドクターブレード法などの塗布法等の手段によって基板の表面に適用(例えば、塗布)して曝露する方法が挙げられる。
曝露温度としては、例えば、10℃以上90℃以下、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは30℃以上70℃以下、更に好ましくは40℃以上60℃以下である。
上記曝露時間としては、基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間における選択的な疎水性向上の観点から、20秒以上が好ましく、1分以上がより好ましく、10分以上が更に好ましい。
上記曝露時間の上限値としては特に制限はないが、例えば、6時間以下等であり、典型的には2時間以下である。
上記曝露後に必要に応じ洗浄(例えば、水、活性剤リンス等による洗浄)及び/又は乾燥(窒素ブロー等による洗浄)を行ってもよい。
例えば、無機パターン又は有機パターンを備える基板表面の洗浄液による洗浄処理としては、従来、無機パターン又は有機パターンの洗浄処理に使用されてきた洗浄液をそのまま採用することができ、無機パターンについてはSPM(硫酸・過酸化水素水)、APM(アンモニア・過酸化水素水)等が挙げられ、有機パターンについては水、活性剤リンス等が挙げられる。
また、乾燥後の処理基板に対して、必要に応じて、100℃以上300℃以下の加熱処理を追加で行ってもよい。
【0024】
上記曝露により基板表面の各領域の材質に応じて領域選択的にシリル化することができる。
表面処理剤に曝露した後の基板表面の水に対する接触角は、例えば、5°以上140°以下とすることができる。
基板表面の材質、シリル化剤(A)及び含窒素複素環化合物(B)の種類及び使用量、並びに曝露条件等を制御することにより、水に対する接触角は50°以上とすることができ、60°以上が好ましく、70°以上がより好ましく、90°以上が更に好ましく、100°以上が特に好ましく、101°以上が最も好ましい。
上記接触角の上限値としては特に制限はないが、例えば、140°以下、典型的には130°以下である。
【0025】
第1の態様に係る表面処理方法は、基板表面における2以上の隣接する領域間において材質が異なることにより、上記曝露により、上記2以上の隣接する領域間において選択的な疎水性向上が可能であり、水の接触角を互いに異ならせることができる。
上記2以上の隣接する領域間における水の接触角の差としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、例えば、10°以上が挙げられ、上記2以上の隣接する領域間における選択的な疎水性向上の観点から、上記水の接触角差は20°以上が好ましく、30°以上がより好ましく、40°以上が更に好ましい。
上記接触角差の上限値としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、例えば、80°以下又は70°以下であり、典型的には60°以下である。
【0026】
<表面処理剤>
続いて、第1の態様に係る表面処理方法において用いられる表面処理剤について説明する。
本態様において表面処理剤は、シリル化剤(A)及び含窒素複素環化合物(B)を含む。
以下、各成分について説明する。
【0027】
[シリル化剤(A)]
シリル化剤(A)は、基板の表面をシリル化し、基板の表面の疎水性を大きくするための成分である。
シリル化剤(A)としては、特に限定されず、従来公知のあらゆるシリル化剤を用いることができる。このようなシリル化剤としては、例えば、ケイ素原子に結合する疎水性基を有するアルコキシモノシラン化合物、ケイ素原子に結合する疎水性基と、ケイ素原子に結合する脱離基とを有する化合物(より詳細には例えば、後述する一般式(2)で表される化合物等)を用いることができる。
【0028】
(ケイ素原子に結合する疎水性基を有するアルコキシモノシラン化合物)
ケイ素原子に結合する疎水性基を有するアルコキシモノシラン化合物は、ケイ素原子を1つ有し、上記ケイ素原子に結合する少なくとも1つの疎水性基を有し、かつ上記ケイ素原子に結合する少なくとも1つのアルコキシ基を有する化合物を意味する。
シリル化剤(A)として、ケイ素原子に結合する疎水性基を有するアルコキシモノシラン化合物を用いることにより、疎水性基を有するアルコキシモノシラン化合物を基板の表面に結合させることができる。アルコキシモノシラン化合物が基板に結合することにより、基板表面にアルコキシモノシラン化合物に由来する単分子膜が形成され得る。かかる単分子膜は、基板の面方向にシロキサン結合のネットワークが形成されている自己組織化単分子膜(self-assembled monolayer;SAM)であることが好ましい。単分子膜、及び自己組織化単分子膜については詳細に後述する。
【0029】
上記アルコキシモノシラン化合物が有する上記疎水性基としては、基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間における選択的な疎水性向上の観点から、炭素原子数3以上20以下の鎖状脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数6以上18以下の鎖状脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、炭素原子数7以上12以下の鎖状脂肪族炭化水素基であることが更に好ましく、炭素原子数8以上11以下の鎖状脂肪族炭化水素基であることが特に好ましく、炭素原子数8以上10以下の鎖状脂肪族炭化水素基であることが最も好ましい。
上記鎖状脂肪族炭化水素基は、水素原子の一部又は全部がハロゲン原子(フッ素原子等)により置換されていてもよく、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい直鎖状の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0030】
上記アルコキシモノシラン化合物が有するアルコキシ基は、一般式RO-(Rはアルキル基を示す。)で表され、該Rで表されるアルキル基としては、好ましくは直鎖又は分岐のアルキル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基である。また、該Rで表されるアルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、特に加水分解、縮合時の制御の観点から、好ましくは1以上10以下、より好ましくは1以上5以下、更に好ましくは1又は2である。アルコキシモノシラン化合物が有するアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、及びt-ブトキシ基等が挙げられる。
【0031】
上記アルコキシモノシラン化合物としては、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
R1
nSiX4-n ・・・(1)
(上記一般式中、R1は、各々独立に1価の有機基であり、R1のうちの少なくとも1つは、水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい、炭素原子数3以上20以下の鎖状脂肪族炭化水素基であり、Xはアルコキシ基であり、nは1以上3以下の整数である。)
R1に係る1価の有機基としては、アルキル基、芳香族炭化水素基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0032】
以下、R1が、水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい、炭素原子数3以上20以下の鎖状脂肪族炭化水素基以外の有機基である場合について説明する。
上記アルキル基としては、炭素原子数1以上20以下(好ましくは炭素原子数1以上8以下)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基がより好ましい。
上記芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、アンスリル基、及びフェナンスレニル基が好ましく、フェニル基、及びナフチル基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。
上記モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基に含まれるアルキル基は、鎖中に窒素原子、酸素原子又はカルボニル基を含んでいてもよく、直鎖アルキル基であっても分岐鎖アルキル基であってもよい。モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基に含まれるアルキル基の炭素原子数は特に限定されず、1以上20以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上6以下が特に好ましい。
【0033】
次に、R1が水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい、炭素原子数3以上20以下の鎖状脂肪族炭化水素基である場合について説明する。
かかる鎖状脂肪族炭化水素基の炭素原子数は、前述の通り、炭素原子数6以上18以下がより好ましく、7以上12以下が更に好ましく、8以上11以下が特に好ましく、8以上10以下が最も好ましい。
かかる鎖状脂肪族炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよく、直鎖状が好ましい。
上記の、水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい、鎖状脂肪族炭化水素基の好適な例としては、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、及びn-オクタデシル基等の直鎖アルキル基と、これらの直鎖アルキル基上の水素原子がフッ素置換されたフッ素化直鎖アルキル基とが挙げられる。
【0034】
Xとしては、炭素原子数1以上5以下のアルコキシ基が好ましい。Xの具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
これらの中では、特に加水分解、縮合時の制御の観点から、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基又はブトキシ基が好ましい。
また、上記アルコキシモノシラン化合物が、トリアルコキシモノシラン化合物であることが好ましい。
【0035】
上記に例示したアルコキシモノシラン化合物は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
このようなアルコキシモノシラン化合物の具体例としては、プロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリメトキシシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン等が挙げられ、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリメトキシシラン又はn-オクタデシルトリメトキシシランが好ましく、n-オクチルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリメトキシシラン又はn-オクタデシルトリメトキシシランがより好ましい。
【0036】
上述したアルコキシモノシラン化合物を用いることにより、基板表面に単分子膜を形成し得る。基板表面に、疎水性基を有するアルコキシモノシラン化合物に由来する単分子膜が形成されると、基板表面が高度に疎水性が向上し得、その結果、基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間における疎水性向上の選択性が向上し得る。
特に高度な疎水性向上の観点からは、単分子膜において、基板の面方向にシロキサン結合のネットワークが形成されていることが好ましい。かかる単分子膜は、所謂自己組織化単分子膜である。自己組織化単分子膜においては、アルコキシモノシラン化合物に由来する残基が密に含まれ、当該残基同士がシロキサン結合により結合しているため、単分子膜が基板表面に強固に結合し得る。その結果、特に高度な疎水性向上が発現し得る。
かかる自己組織化単分子膜は、前述の通り、トリアルコキシモノシラン化合物及び/又はジアルコキシモノシラン化合物をシリル化剤(A)として用いることにより形成できる。
【0037】
上記単分子膜が形成されていることは、例えば、膜厚変化、接触角変化、X線光電子分光(XPS)により確認することができる。
なお、上記疎水性の単分子膜の膜厚としては、例えば、20nm以下とすることができ、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、更に好ましくは3nm以下とすることができる。下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、0.1nm以上であり、典型的には0.5nm以上である。
【0038】
(一般式(2)で表される化合物)
本態様において用いられるシリル化剤の一例として以下の一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化1】
(上記一般式(2)中、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子、含窒素基又は有機基を表し、R
4、R
5及びR
6に含まれる炭素原子の合計の個数は1個以上である。LGは脱離基を表す。)
【0040】
この一般式(2)で表される化合物は、その構造中に含まれる脱離基を脱離させながら、基板の表面にある官能基(典型的には-OH基、-NH2基等)と反応し、化学的結合を生成し得る。
この脱離基としては、例えば、一般式(2)におけるケイ素原子に結合する窒素原子を有する含窒素基やハロゲン基、一般式(2)におけるケイ素原子に結合する酸素原子を有するアシルオキシ基やスルホキシ基若しくはそれらの誘導体、水素原子、アジド基が例示される。
【0041】
上記一般式(2)で表される置換基を有する化合物として、より具体的には、下記一般式(3)~(6)で表される化合物を用いることができる。
【0042】
【化2】
(上記一般式(3)中、R
4、R
5及びR
6は、上記一般式(2)と同様であり、R
7及びR
8は、それぞれ独立に水素原子、飽和若しくは不飽和アルキル基、飽和若しくは不飽和シクロアルキル基、アセチル基、又は飽和若しくは不飽和ヘテロシクロアルキル基を表す。R
7及びR
8は、互いに結合して窒素原子を含む環構造を形成してもよく、当該環構造を構成する環構成原子は、窒素原子以外のヘテロ原子を含んでいても良い。)
【0043】
【化3】
(上記一般式(4)中、R
4、R
5及びR
6は、上記一般式(2)と同様であり、R
9は、水素原子、メチル基、トリメチルシリル基、又はジメチルシリル基を表し、R
10、R
11及びR
12は、それぞれ独立に水素原子又は有機基を表し、R
10、R
11及びR
12に含まれる炭素原子の合計の個数は1個以上である。)
【0044】
【化4】
(上記一般式(5)中、R
4、R
5及びR
6は、上記一般式(2)と同様であり、Xは、O、CHR
14、CHOR
14、CR
14R
14、又はNR
15を表し、R
13及びR
14はそれぞれ独立に水素原子、飽和若しくは不飽和アルキル基、飽和若しくは不飽和シクロアルキル基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシロキシ基、アルコキシ基、フェニル基、フェニルエチル基、又はアセチル基を表し、R
15は、水素原子、アルキル基、又はトリアルキルシリル基を表す。)
【0045】
【化5】
(上記一般式(6)中、R
4、R
5及びR
6は、上記一般式(2)と同様であり、R
9は、上記一般式(4)と同様であり、R
16は、水素原子、飽和若しくは不飽和アルキル基、又はトリアルキルシリルアミノ基を表す。)
【0046】
なお、一般式(3)~(6)におけるアルキル基及びシクロアルキル基は、当該アルキル基及びシクロアルキル基を構成する炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい。
【0047】
上記一般式(3)で表される化合物としては、N,N-ジメチルアミノトリメチルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルシラン、N,N-ジメチルアミノモノメチルシラン、N,N-ジエチルアミノトリメチルシラン、t-ブチルアミノトリメチルシラン、アリルアミノトリメチルシラン、トリメチルシリルアセタミド、N,N-ジメチルアミノジメチルビニルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルプロピルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルオクチルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルフェニルエチルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルフェニルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチル-t-ブチルシラン、N,N-ジメチルアミノトリエチルシラン、トリメチルシラナミン、モノメチルシリルイミダゾール、ジメチルシリルイミダゾール、トリメチルシリルイミダゾール、モノメチルシリルトリアゾール、ジメチルシリルトリアゾール、トリメチルシリルトリアゾール、N-(トリメチルシリル)ジメチルアミン、トリメチルシリルモルフォリン等が挙げられる。
【0048】
上記一般式(4)で表される化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、N-メチルヘキサメチルジシラザン、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ジメチルジシラザン、1,2-ジ-N-オクチルテトラメチルジシラザン、1,2-ジビニルテトラメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、トリス(ジメチルシリル)アミン、トリス(トリメチルシリル)アミン、ペンタメチルエチルジシラザン、ペンタメチルビニルジシラザン、ペンタメチルプロピルジシラザン、ペンタメチルフェニルエチルジシラザン、ペンタメチル-t-ブチルジシラザン、ペンタメチルフェニルジシラザン、トリメチルトリエチルジシラザン等が挙げられる。
【0049】
上記一般式(5)で表されるシリル化剤としては、トリメチルシリルアセテート、ジメチルシリルアセテート、モノメチルシリルアセテート、トリメチルシリルプロピオネート、トリメチルシリルブチレート、トリメチルシリルオキシ-3-ペンテン-2-オン等が挙げられる。
【0050】
上記一般式(6)で表されるシリル化剤としては、ビス(トリメチルシリル)尿素、N-トリメチルシリルアセトアミド、N-メチル-N-トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド等が挙げられる。
【0051】
上述した各種化合物の中でも、入手容易性や取扱い性の高さ等の観点から一般式(3)で表される化合物及び一般式(4)で表される化合物がとりわけ好ましく用いられる。
【0052】
また、上記一般式(4)で表される化合物の中でも、R4及び/又はR10として水素原子を有する化合物も好ましい一例である。
このような化合物を用いた場合、化合物が基板に展開された後に、分子間でのネットワークを形成しやすくなると考えられる。
このような寄与もあり、いったん基板上で結合した後は、加熱しても除去されづらくなる傾向がある。これにより、後に示すような、表面処理された基板を原子層成長法等の高温プロセスに付した場合であっても、安定的にシリル化部位が保たれる。
【0053】
また、上記一般式(3)で表される化合物の中でも、R
5として含窒素基を有し、ケイ素原子に対し2つの窒素原子が結合した、以下の一般式(3-a)で表されるシラザン化合物を用いることも好ましい。
このような化合物を用いた場合、化合物中に含まれる2つの窒素原子のそれぞれが、基板上の官能基に対して化学的結合を形成しうる。すなわち、1のケイ素原子の結合手の2つが基板に結合をすることが可能となり、基板間でより堅固な結合が形成できる。
更に、このように堅固な結合の形成が可能となることにより、いったん基板上で結合した後は、加熱しても除去されづらくなる傾向がある。これにより、後に示すような、表面処理された基板を原子層成長法等の高温プロセスに付した場合であっても、安定的にシリル化部位が保たれる。
また、以下定義するように、一般式(3-a)中のR
4及びR
6は、一般式(3)のR
5と同様に含窒素基であってもよく、用途に応じて、シリル化剤と基板との相互作用を増強してもよい。
【化6】
(上記一般式(3-a)中、R
4及びR
6は、それぞれ独立に水素原子、含窒素基又は有機基を表し、R
4及びR
6に含まれる炭素原子の合計の個数は1個以上である。R
7、R
8、R
17、R
18はそれぞれ水素原子、飽和若しくは不飽和アルキル基、飽和若しくは不飽和シクロアルキル基、アセチル基、又は飽和若しくは不飽和ヘテロシクロアルキル基を表す。R
7及びR
8又はR
17及びR
18は互いに結合して窒素原子を含む環構造を形成してもよく、当該環構造を構成する環構成原子は、窒素原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい。)
【0054】
また、ケイ素原子に結合している置換基に注目すれば、その置換基に含まれる炭素原子数の大きな、所謂バルキーな(嵩高な)置換基がケイ素原子に結合しているシリル化剤を使用することが好ましい。表面処理剤がそのようなシリル化剤を含有することにより、その表面処理剤により処理を受けた基板表面の疎水性を大きくすることができる。これにより、基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間における疎水性向上の選択性が向上し得る。
【0055】
このため、上記一般式(2)中、R4、R5及びR6に含まれる炭素原子の合計の個数が3個以上であることが好ましい。中でも、シリル化反応において十分な反応性を得るという観点から、上記一般式(2)中、R4、R5及びR6は、いずれか1つが炭素原子数2個以上の有機基(以下、この段落において、「特定有機基」と呼ぶ。)であり、残りの2つがそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であることがより好ましい。特定有機基としては、分枝及び/又は置換基を有してもよい炭素原子数2以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよいビニル基、置換基を有していてもよいアリール基等が例示される。特定有機基の炭素原子数は、2以上12以下がより好ましく、2以上10以下が更に好ましく、2以上8以下が特に好ましい。
【0056】
このような観点からは、上記例示した一般式(2)で表される置換基を有するシリル化剤の中でも、N,N-ジメチルアミノジメチルビニルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルプロピルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルオクチルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルフェニルエチルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチルフェニルシラン、N,N-ジメチルアミノジメチル-t-ブチルシラン、N,N-ジメチルアミノトリエチルシラン、N,N-ジメチルアミノトリメチルシラン等が好ましく例示される。
【0057】
(環状シラザン化合物)
環状シラザン化合物としては、2,2,5,5-テトラメチル-2,5-ジシラ-1-アザシクロペンタン、2,2,6,6-テトラメチル-2,6-ジシラ-1-アザシクロヘキサン等の環状ジシラザン化合物;2,2,4,4,6,6-ヘキサメチルシクロトリシラザン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリビニルシクロトリシラザン等の環状トリシラザン化合物;2,2,4,4,6,6,8,8-オクタメチルシクロテトラシラザン等の環状テトラシラザン化合物;等が挙げられる。
このような環状シラザン化合物の中でも、1のケイ素原子に対して、2以上の含窒素基が結合した部分構造を有する化合物を好適に用いることできる。この場合、前述の一般式(3-a)と同様に、シリル化剤と基板間でより堅固な結合が形成することができ、いったん基板上で結合した後は、加熱しても除去されづらくなる傾向がある。これにより、後に示すような、表面処理された基板を原子層成長法等の高温プロセスに付した場合であっても、安定的にシリル化部位が保たれる結果を与える。
【0058】
(その他のシリル化剤)
上述の化合物以外でも、以下の一般式(7)、(8)又は(9)で表される化合物をシリル化剤として用いることができる。
【0059】
【化7】
(上記一般式(7)中、R
19及びR
20は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、トリアルキルシリル基を表し、R
19及びR
20の少なくとも1つは、トリアルキルシリル基を表し、またR
21は水素原子の一部又は全部がフッ素原子により置換されていてもよい、炭素原子数1以上10以下の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0060】
【化8】
(上記一般式(8)中、R
22はトリアルキルシリル基を表し、R
23及びR
24は、それぞれ独立に水素原子又は有機基を表す。)
【0061】
【化9】
(上記一般式(9)中、R
4、R
5及びR
6は、上記一般式(2)と同様であり、R
25は、単結合又は有機基を表し、R
26は、存在しないか、存在する場合、-SiR
27R
28R
29を表す。R
27、R
28及びR
29は、それぞれ独立に水素原子、含窒素基又は有機基を表す。)
【0062】
上記式(7)で表される化合物としては、ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、トリメチルシリルメチルアセトアミド、ビストリメチルシリルアセトアミド等が挙げられ、上記式(8)で表される化合物としては、2-トリメチルシロキシペンタ-2-エン-4-オン等が挙げられる。上記式(9)で表される化合物としては、1,2-ビス(ジメチルクロロシリル)エタン、t-ブチルジメチルクロロシラン等が挙げられる。
【0063】
上記に例示したシリル化剤は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0064】
上記表面処理剤におけるシリル化剤(A)の含有量としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、上記表面処理剤の全量に対して0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.5質量%以上が特に好ましく、1.0質量%以上が最も好ましい。
上記表面処理剤におけるシリル化剤(A)の含有量の上限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、30質量%以下、15質量%以下、10質量%以下であり、典型的には8質量%以下である。
【0065】
[含窒素複素環化合物(B)]
表面処理剤は、含窒素複素環化合物(B)を含む。
表面処理剤が含窒素複素環化合物(B)を含むことにより、シリル化剤によるシリル化反応、上記アルコキシモノシラン化合物の加水分解ないし縮合、基板表面への結合を促進することができ、基板表面に存在する水酸基から水素を引き抜くことにより当該基板表面を活性化することができ、その結果、基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間において疎水性が選択的に向上し得る。
【0066】
含窒素複素環化合物(B)は、環構造中に窒素原子を含む化合物であれば特に限定されないが、基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間における疎水性向上の選択性の観点から、窒素原子を2個以上5個以下含むことが好ましく、2個以上4個以下含むことがより好ましく、2個又は3個含むことが更に好ましい。
含窒素複素環化合物(B)は、環中に、酸素原子、硫黄原子等の窒素原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい。含窒素複素環化合物(B)は、典型的にはケイ素原子をその構造中に含まない化合物を採用することができる。
含窒素複素環化合物(B)は、表面疎水化の観点から、芳香性を有する含窒素複素環を含む化合物であることが好ましい。
【0067】
含窒素複素環化合物(B)は、2以上の複数の環が単結合、又は2価以上の多価の連結基により結合した化合物でもよい。この場合、連結基により結合される2以上の複数の環は、少なくとも1つの含窒素複素環を含んでいればよい。
多価の連結基の中では、環同士の立体障害が小さい点から2価の連結基が好ましい。2価の連結基の具体例としては、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基、-CO-、-CS-、-O-、-S-、-NH-、-N=N-、-CO-O-、-CO-NH-、-CO-S-、-CS-O-、-CS-S-、-CO-NH-CO-、-NH-CO-NH-、-SO-、及び-SO2-等が挙げられる。
2以上の複数の環が多価の連結基により結合した化合物に含まれる環の数は、均一な表面処理剤を調製しやすい点から、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2が最も好ましい。なお、例えばナフタレン環のような縮合環については、環の数を2とする。
【0068】
含窒素複素環化合物(B)は、2以上の複数の環が縮合した含窒素複素環化合物であってもよい。この場合、縮合環を構成する環のうちの少なくとも1つの環が含窒素複素環であればよい。
2以上の複数の環が縮合した含窒素複素環化合物に含まれる環の数は、均一な表面処理剤を調製しやすい点から、4以下が好ましく、3以下が好ましく、2が最も好ましい。
【0069】
表面疎水化の観点から、含窒素複素環化合物(B)は、含窒素5員環、又は含窒素5員環骨格を含む縮合多環を含むことが好ましい。
【0070】
含窒素複素環化合物(B)に含まれる含窒素複素環としては、置換基を有してもよいイミダゾール、置換基を有してもよいトリアゾール、置換基を有してもよいテトラゾール、置換基を有してもよいベンゾトリアゾール又は置換基を有してもよいピラゾールが好ましく、置換基を有してもよいイミダゾール、置換基を有してもよいトリアゾール、及び置換基を有してもよいテトラゾールからなる群より選択される1種以上がより好ましい。
【0071】
上記置換基としては、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数3以上8以下のシクロアルキルオキシ基、炭素原子数6以上20以下のアリール基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、炭素原子数1以上6以下のハロゲン化アルキル基、炭素原子数2以上7以下の脂肪族アシル基、炭素原子数2以上7以下のハロゲン化脂肪族アシル基、炭素原子数7以上20以下のアリールカルボニル基、炭素原子数2以上7以下のカルボキシアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1以上6以下のアルキルチオ基、アミノ基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を含むモノアルキルアミノ基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を含むジアルキルアミノ基、ニトロ基、及びシアノ基等が挙げられる。
含窒素複素環化合物(B)が、複素環上に複数の置換基を有してもよい。置換基の数が複数である場合、複数の置換基は、同一であっても異なっていてもよい。
これらの置換基が、脂肪族炭化水素環や芳香族炭化水素環等を含む場合、これらの環は更に、含窒素複素環化合物(B)が有してもよい置換基と同様の置換基を有していてもよい。
【0072】
複素環化合物の特に好適な具体例としては、下式の化合物が挙げられる。
【0073】
【0074】
上記表面処理剤における含窒素複素環化合物(B)の含有量としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、上記表面処理剤の全量に対して0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.5質量%以上が特に好ましく、1.0質量%以上が最も好ましい。
上記表面処理剤における上記含窒素複素環化合物(B)の含有量の上限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、30質量%以下、15質量%以下、10質量%以下であり、典型的には5質量%以下である。
【0075】
[溶剤]
表面処理剤が溶剤を含有することにより、浸漬法、スピンコート法等による基板の表面処理が容易性の観点から、表面処理剤は、溶剤を含有することが好ましい。
【0076】
溶剤の具体例としては、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;
ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;
N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド類;
N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシメチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン等のラクタム類;
1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジイソプロピル-2-イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;
ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、メチルエチルジグリコール、ジエチルグリコール、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル等のジアルキルグリコールエーテル類;
メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、イソペンタノール、2-メチルブタノ-ル、sec-ペンタノール、tert-ペンタノール、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、n-へキサノール、2-メチルペンタノール、sec-へキサノール、2-エチルブタノール、sec-へプタノール、3-へプタノール、n-オクタノール、2-エチルへキサノール、sec-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6-ジメチル-4-へプタノール、n-デカノール、sec-ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec-テトラデシルアルコール、sec-へプタデシルアルコール、フエノール、シクロへキサノール、メチルシクロへキサノール、3,3,5-トリメチルシクロへキサノール、べンジルアルコール、フェニルメチルカルビノール、ジアセトンアルコール、クレゾール等のモノアルコール系溶媒;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等の他のエーテル類;
メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン等のケトン類;
2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル等の乳酸アルキルエステル類;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸n-ペンチル、酢酸n-ヘキシル、酢酸n-ヘプチル、酢酸n-オクチル、ぎ酸n-ペンチル、酢酸i-ペンチル、プロピオン酸n-ブチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸i-プロピル、酪酸n-ブチル、n-オクタン酸メチル、デカン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n-プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸エチル、アジピン酸ジメチル、プロピレングリコールジアセテート等の他のエステル類;
β-プロピロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-ペンチロラクトン等のラクトン類;
n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、メチルオクタン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族炭化水素類;
ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類;
p-メンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、テルピネン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン等のテルペン類;等が挙げられる。これらの溶剤は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0077】
上記溶剤の中でも、シリル化剤(A)及び含窒素複素環化合物(B)を溶解でき、かつ、基板の表面(有機パターン、無機パターン等)に対するダメージの少ない溶剤であることが好ましい。
溶剤としては、シリル化剤(A)及び含窒素複素環化合物(B)の両方を溶解させ、かつ基板表面における材質が異なる2以上の隣接する領域間における疎水性向上の選択性の観点から、誘電率1以上25以下の溶剤であることが好ましく、誘電率2以上20以下の溶剤であることがより好ましく、誘電率3以上15以下の溶剤であることが更に好ましく、誘電率4以上10以下の溶剤であることが特に好ましく、誘電率5以上8以下の溶剤であることが最も好ましい。
【0078】
上記誘電率を満たす溶剤としては、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール又はメチルエチルケトンが好ましく、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、酢酸エチル又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートがより好ましい。
【0079】
≪基板上への領域選択的製膜方法≫
次に、第1の態様に係る表面処理方法を用いた基板上への領域選択的製膜方法について説明する。
本態様において、基板上への領域選択的製膜方法は、
上記第1の態様に係る表面処理方法により上記基板の上記表面を処理することと、
表面処理された上記基板の表面に、ALD法により膜を形成することとを含み、
上記膜の材料の堆積量を領域選択的に異ならせる。
【0080】
上記第1の態様に係る方法による表面処理の結果、上記2以上の領域間における水の接触角(好ましくは、疎水性)が相違することになり、本態様においては、上記2以上の領域間において上記膜を形成する材料の堆積量を基板表面の領域選択的に相違させることができる。
具体的には、上記2以上の領域間における水の接触角(好ましくは、疎水性)が、他方の領域よりも大きくなった領域には、ALD法による膜形成材料が、基板表面上の上記領域に吸着(好ましくは化学吸着)し難くなり、上記2以上の領域間において膜形成材料の堆積量に差異が生じる結果、基板上の領域選択的に膜形成材料の堆積量が相違することが好ましい。
上記化学吸着としては、水酸基との化学吸着等が挙げられる。
【0081】
上記2以上の領域間において、他方の領域よりも水の接触角(好ましくは、疎水性)が大きくなる傾向にある領域としては、Si、SiN、Ox、TiN、TaN、Ge及びSiGeよりなる群から選択される少なくとも1種を含む領域が挙げられる。
上記2以上の領域間において、他方の領域よりも水の接触角(好ましくは、疎水性)が小さくなる傾向にある領域としては、W、Co、Al、Ni、Ru、Cu、TiN及びTaNよりなる群から選択される少なくとも1種を含む領域が挙げられる。
【0082】
(ALD法による膜形成)
ALD法による膜形成方法としては特に制限はないが、少なくとも2つの気相反応物質(以下単に「前駆体ガス」という。)を用いた吸着(好ましくは化学吸着)による薄膜形成方法であることが好ましい。
具体的には、下記工程(a)及び(b)を含み、所望の膜厚が得られるまで下記工程(a)及び(b)を少なくとも1回(1サイクル)繰り返す方法等が挙げられる。
(a)上記第1の態様に係る方法による表面処理された基板を、第1前駆体ガスのパルスに曝露する工程、及び
(b)上記工程(a)に次いで、基板を第2前駆体ガスのパルスに曝露する工程。
【0083】
上記工程(a)の後上記工程(b)の前に、プラズマ処理工程、第1前駆体ガス及びその反応物をキャリアガス、第2前駆体ガス等により除去ないし排気(パージ)する工程等を含んでいてもいなくてもよい。
上記工程(b)の後、プラズマ処理工程、第2前駆体ガス及びその反応物をキャリアガス等により除去ないしパージする工程等を含んでいてもいなくてもよい。
キャリアガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが挙げられる。
【0084】
各サイクル毎の各パルス及び形成される各層は自己制御的であることが好ましく、形成される各層が単原子層であることがより好ましい。
上記単原子層の膜厚としては、例えば、5nm以下とすることができ、好ましくは3nm以下とすることができ、より好ましくは1nm以下とすることができ、更に好ましくは0.5nm以下とすることができる。
【0085】
第1前駆体ガスとしては、有機金属、金属ハロゲン化物、金属酸化ハロゲン化物等が挙げられ、具体的には、タンタルペンタエトキシド、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン、ペコッパーヘキサフルオロアセチルアセトネートビニルトリメチルシラン、Zn(C2H5)2、Zn(C2H5)2、Zn(CH3)2、TMA(トリメチルアルミニウム)、TaCl5、WF6、WOCl4、CuCl、ZrCl4、AlCl3、TiCl4、SiCl4、HfCl4等が挙げられる。
【0086】
第2前駆体ガスとしては、第1前駆体を分解させることができる前駆体ガス又は第1前駆体の配位子を除去できる前駆体ガスが挙げられ、具体的には、H2O、H2O2、O2、O3、NH3、H2S、H2Se、PH3、AsH3、C2H4、又はSi2H6等が挙げられる。
【0087】
工程(a)における曝露温度としては特に制限はないが、例えば、100℃以上800℃以下であり、好ましくは150℃以上650℃以下であり、より好ましくは200℃以上500℃以下であり、更に好ましくは225℃以上375℃以下である。
【0088】
工程(b)における曝露温度としては特に制限はないが、工程(a)における曝露温度と実質的に等しいか又はそれ以上の温度が挙げられる。
【0089】
ALD法により形成される膜としては特に制限はないが、純元素を含む膜(例えば、Si、Cu、Ta、W)、酸化物を含む膜(例えば、SiO2、GeO2、HfO2、ZrO2、Ta2O5、TiO2、Al2O3、ZnO、SnO2、Sb2O5、B2O3、In2O3、WO3)、窒化物を含む膜(例えば、Si3N4、TiN、AlN、BN、GaN、NbN)、炭化物を含む膜(例えば、SiC)、硫化物を含む膜(例えば、CdS、ZnS、MnS、WS2、PbS)、セレン化物を含む膜(例えば、CdSe、ZnSe)、リン化物を含む膜(GaP、InP)、砒化物を含む膜(例えば、GaAs、InAs)、又はそれらの混合物等が挙げられる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
〔実施例1~4及び比較例1〕
(表面処理剤の調製)
溶剤3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート(MMBA)に、シリル化剤(A)であるn-オクチルトリメトキシシランを7.8質量%、下記表1に記載の含窒素複素環化合物(B)(以下、単に「化合物(B)」ともいう。)を1.0質量%で均一に混合して実施例1~4及び比較例1の表面処理剤を調製した。
【0092】
(表面処理)
得られた実施例1~4及び比較例1の表面処理剤を用いて、以下の方法にしたがって、窒化ケイ素基板(SiN)、シリコン熱酸化膜基板(Ox)及びタングステン基板(W)の表面処理を行った。
具体的には、各基板を濃度0.5質量%のHF水溶液に25℃で1分間浸漬させて前処理を行った。上記前処理後、基板をイオン交換蒸留水で1分間洗浄した。水洗後の基板を窒素気流により乾燥させた。
乾燥後の各基板を上記各表面処理剤に60℃10分間浸漬させて、基板の表面処理を行った。表面処理後の基板を、イソプロパノールで1分間洗浄した後、イオン交換蒸留水による洗浄を1分間行った。洗浄された基板を、窒素気流により乾燥させて、表面処理された基板を得た。
【0093】
(水の接触角の測定)
上記HF前処理後の各基板、上記表面処理後の各基板について水の接触角を測定した。
水の接触角の測定は、Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用い、表面処理された基板の表面に純水液滴(2.0μL)を滴下して、滴下2秒後における接触角として測定した。結果を下記表1に示す。なお、表1における接触角差(°)は、前者の基板の処理後の水の接触角から、後者の基板の処理後の水の接触角の値を減じた値である。
【0094】
【0095】
上記表1に示した結果から明らかなように、化合物(B)を含有しない比較例1よりも、シリル化剤(A)とともに化合物(B)を含有する実施例1、2の表面処理剤を用いた方が、W基板と、SiN又はOx基板との水接触角差が大きいことがわかる。
シリル化剤(A)とともに化合物(B)を含有する実施例1、2の表面処理剤を用いた方が、ALD法を用いた基板表面の領域選択的な製膜に好適に適用し得るといえる。
【0096】
〔実施例3~7〕
(表面処理剤の調製)
溶剤3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテートに、下記表2に記載の各シリル化剤(A)を7.8質量%と、化合物(B)としてイミダゾールを1.0質量%で均一に混合して実施例3~7の表面処理剤を調製した。
【0097】
(表面処理)
得られた実施例3~7の表面処理剤を用いて、実施例1、2及び比較例1と同様に、HF水溶液による前処理後、SiN基板、Ox基板、W基板、及び窒化チタン基板(TiN)の表面処理を行い、上記HF前処理後の各基板、上記表面処理後の各基板について水の接触角を測定した。
水の接触角の測定は上記と同様に行った。結果を下記表2に示す。なお、表2における接触角差(°)は、前者の基板の処理後の水の接触角から、後者の基板の処理後の水の接触角の値を減じた値である。
【0098】
【0099】
上記表2に示した結果から明らかなように、シリル化剤による表面処理前(HF前処理後)の、SiN基板、Ox基板、W基板及びTiN基板は、各基板間の水接触角差が小さいことが分かる。
一方、各種シリル化剤(A)及びイミダゾールを含む実施例3~7の表面処理剤で表面処理後は、例えば、表2の接触角差欄に示す基板間において、水接触角差が大きいことが分かる。
この結果から、シリル化剤(A)及び化合物(B)を含有する表面処理剤を用いた複数の異なる領域を含む基板が、ALD法を用いた基板表面の領域選択的な製膜に好適に適用し得るといえる。
特に、直鎖状アルキル基の炭素原子数が8、11である実施例5、6の表面処理剤を用いた場合に、W基板と、SiN基板、Ox基板又はTiN基板との水接触角差が特に大きい傾向にあるといえる。
【0100】
〔実施例8〕
(表面処理剤の調製)
下記各種溶剤に、シリル化剤(A)としてn-オクチルトリメトキシシランを7.8質量%と、化合物(B)としてイミダゾールを1.0質量%で均一に混合して表面処理剤を調製した。
イソプロピルアルコール(IPA)
メチルエチルケトン(MEK)
酢酸エチル
3-メチル-3-メトキシブタノール(MMB)
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(MDG)
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート(MMBA)
【0101】
(表面処理)
得られた表面処理剤を用いて、実施例1、2及び比較例1と同様に、HF水溶液による前処理後、Ox基板及びW基板の表面処理を行い、上記表面処理後の各基板について水の接触角を測定した。
水の接触角の測定は上記と同様に行った。その後、Ox基板及びW基板間の水接触角差と、各溶剤の誘電率との関係を
図1に纏めた。
【0102】
図1に示したOx基板とW基板との間の水接触角差及び各種溶剤の誘電率の関係から、誘電率1以上25以下の溶剤であると、当該水接触角差が大きくなる傾向にあることがわかる。
具体的には、材質が異なる基板表面間の疎水性向上の選択性の観点から、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、酢酸エチル又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが特に好ましいことが分かる。
【0103】
〔実施例9及び10並びに比較例2及び3〕
(表面処理剤の調製)
溶剤3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテートに、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を5.0質量%で均一に混合して比較例2の表面処理剤を調製した。
化合物(B)としてイミダゾールを3.5質量%で更に混合すること以外は比較例2と同様にして実施例9の表面処理剤を調製した。
HMDS5.0質量%の代わりにn-オクチルトリメトキシシラン5.0質量%を均一に混合すること以外は比較例2と同様にして比較例3の表面処理剤を調製した。
化合物(B)としてイミダゾールを3.5質量%で更に混合すること以外は比較例3と同様にして実施例10の表面処理剤を調製した。
【0104】
(表面処理)
得られた実施例9及び10並びに比較例2及び3の表面処理剤を用いて、実施例1、2及び比較例1と同様に、HF水溶液による前処理後、Si基板、SiN基板、Ox基板、W基板、コバルト基板(Co)、窒化チタン基板(TiN)及び窒化タンタル基板(TaN)の表面処理を行い、上記HF前処理後の各基板、上記表面処理後の各基板について水の接触角を測定した。
水の接触角の測定は上記と同様に行った。結果を下記表3及び4に示す。また、下表4及び6に、材質の異なる基板間の水の接触角の差を示す。なお、表4及び表6における接触角差(°)は、前者の基板の処理後の水の接触角から、後者の基板の処理後の水の接触角の値を減じた値である。
【0105】
【0106】
【0107】
上記表3に示した結果から明らかなように、イミダゾールを含まない比較例2の表面処理剤で表面処理した場合よりも、イミダゾールを含む実施例9の表面処理剤で表面処理した場合の方が、例えば、表4の接触角差欄に示す基板間において、水接触角差が大きいことが分かる。
シリル化剤(A)とともに化合物(B)を含有する実施例9の表面処理剤を用いた方が、ALD法を用いた基板表面の領域選択的な製膜に好適に適用し得るといえる。
【0108】
【0109】
【0110】
上記表5に示した結果から明らかなように、イミダゾールを含まない比較例3の表面処理剤で表面処理した場合よりも、イミダゾールを含む実施例10の表面処理剤で表面処理した場合の方が、例えば、表6の接触角差欄に示す基板間において水接触角差が大きいことが分かる。
シリル化剤(A)とともに化合物(B)を含有する実施例10の表面処理剤を用いた方が、ALD法を用いた基板表面の領域選択的な製膜に好適に適用し得るといえる。
【0111】
なお、イミダゾールの含有量を0.5質量%、1質量%、3質量%にそれぞれ変更すること以外は実施例10の表面処理剤と同様の表面処理剤を用いてSi基板、SiN基板、Ox基板、W基板、Co基板、TiN基板及びTaN基板を表面処理した結果、表5及び6に示した結果と同様の結果が得られた。
【0112】
〔実施例11〕
(表面処理剤の調製)
溶剤3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテートに、従来のシリル化剤HMDSを5.0質量%と、イミダゾールを3.5質量%で均一に混合して実施例4の表面処理剤を調製した。
【0113】
(表面処理)
得られた実施例11の表面処理剤を用いて、以下の方法にしたがって、Si基板、SiN基板、Ox基板、W基板の表面処理を行った。
具体的には、各基板を濃度0.5質量%のHF水溶液に25℃で1分間浸漬させて前処理を行った。上記前処理後、基板をイオン交換蒸留水で1分間洗浄した。水洗後の基板を窒素気流により乾燥させた。
乾燥後の各基板を上記各表面処理剤に下記表5に示した時間25℃にて浸漬させて、基板の表面処理を行い、各基板について各浸漬時間の水接触角を測定した。水の接触角の測定は上記と同様に行った。結果を下記表7に示す。
【0114】
【0115】
上記表7に示した結果から明らかなように、浸漬時間に係らず、W基板の水接触角と、Si、SiN又はOx基板の水接触角との差が大きいことがわかる。
【0116】
〔実施例12~14〕
(表面処理剤)
溶剤3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート91.5gに、HMDSを5.0質量%と、イミダゾールを3.5質量%で均一に混合して実施例12の表面処理剤を調製した。
HMDS5.0質量%の代わりにテトラメチルジシラザン(TMDS)5.0質量%で均一に混合すること以外は実施例12と同様にして実施例13の表面処理剤を調製した。
HMDS5.0質量%の代わりにビス(ジメチルアミン)ジメチルシラン(BDMADMS)5.0質量%で均一に混合すること以外は実施例12と同様にして実施例14の表面処理剤を調製した。
【0117】
(表面処理)
得られた実施例12~14の表面処理剤を用いて、以下の方法にしたがって、SiN基板、Ox基板、Co基板及びTiN基板の表面処理を行った。
具体的には、各基板を濃度0.5質量%のHF水溶液に25℃で1分間浸漬させて前処理を行った。上記前処理後、基板をイオン交換蒸留水で1分間洗浄した。水洗後の基板を窒素気流により乾燥させた。
乾燥後の各基板を上記各表面処理剤に60℃10分間浸漬させて、基板の表面処理を行った。表面処理後の基板を、イソプロパノールで1分間洗浄した後、イオン交換蒸留水による洗浄を1分間行った。洗浄された基板を、窒素気流により乾燥させて、表面処理された基板を得た。水の接触角の測定は上記と同様に行った。結果を下記表8に示す。
【0118】
【0119】
上記表8に示した結果から明らかなように、各種シリル化剤(A)及びイミダゾールを含む実施例12~14の表面処理剤で表面処理後は、SiN又はOx基板との水接触角差が大きいことがわかる。一方、Co又はTiN基板との水接触角差が小さくなっていることから実施例12~14が選択性を有していることが分かる。
【0120】
(耐熱性評価)
得られた実施例12~実施例14の表面処理剤を用いて、以下の方法にしたがって、SiN基板及びOx基板上での耐熱性評価を行った。
具体的には、上記各表面処理剤に時間1分及び温度25℃にて浸漬させて、SiN基板とOx基板の表面処理を行った。その後、窒素雰囲気下、ホットプレートで300℃ベークし、各基板について各ベーク時間経過時における水接触角を測定した。結果を表9に示す。
【0121】
【0122】
上記表9に示した結果から明らかなように、TMDSやBDMADMSを用いた場合は加熱時においても水接触が高い水準で維持される。このことから、これらのシリル化剤を用いた場合は、表面処理された基板を原子層成長法等の高温プロセスに付した場合であっても、安定的にシリル化部位が保持されると考えられ、工業プロセスにおいても好適に使用できると期待される。