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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】PZT素子、PZT素子製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20221215BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20221215BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20221215BHJP
   H01L 41/316 20130101ALI20221215BHJP
   H01L 41/319 20130101ALI20221215BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C23C14/08 K
C23C14/34 K
C23C14/06 N
H01L41/316
H01L41/319
H01L41/187
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018135107
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2020012159
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】露木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】木村 勲
(72)【発明者】
【氏名】神保 武人
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/137198(WO,A1)
【文献】特開平09-008239(JP,A)
【文献】特開2011-091234(JP,A)
【文献】特開2014-179503(JP,A)
【文献】特開2006-303426(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194452(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 27/20
H01L 41/00-41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された第一の電極層と、
前記第一の電極層上に配置され、LaNiO3で構成された下地層と、
前記下地層上に配置された添加金属が0.5at%含有されたPZT層と、
前記PZT層上に配置された第二の電極層と、を有し、
前記添加金属にはNiが用いられ、
前記PZT層は、前記第一の電極層上に成長されたPZT結晶であり、
破壊電圧を電界の大きさに換算した電界値が0.4MV/cm以下であり、100℃におけるMTTF(Mean time to failure)の値が1000000時間以上であるPZT素子。
【請求項2】
破壊電圧を電界の大きさに換算した電界値が0.4MV/cm以下であり、100℃におけるMTTF(Mean time to failure)の値が1000000時間以上であるPZT素子の製造方法であって、
第一の電極層と、
前記第一の電極層上に配置され、LaNiO3で構成された下地層と、
前記下地層上に配置されたPZT層と、
前記PZT層上に配置され、前記PZT層と電気的に接続された第二の電極層と、を有するPZT素子を製造するPZT素子製造方法であって、
添加金属であるNiが0.5at%含有されたPZTターゲットをスパッタリングし、前記下地層を485℃以上585℃以下の温度範囲の温度に加熱することで前記下地層の表面上にPZT結晶を成長させ、前記PZT層を形成するPZT層形成工程と、
前記PZT層上に前記第二の電極層を形成する第二の電極層形成工程と、を有するPZT素子製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPZT素子の信頼性に関し、特に、耐久性を向上させたPZT素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電性(piezoelectricity)とは、外部から応力印加されたときに結晶内部に分極や電場が発生し、その逆に電場を印加したときには結晶に歪みあるいは応力が発生する性質をいう。この圧電性を有する誘電体が圧電体と呼ばれており、チタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr・Ti)O3))、メタニオブ酸鉛(PbNb26)、チタン酸ビスマス(Bi4Ti312)等が挙げられる。
【0003】
それらのうち、チタン酸ジルコン酸鉛は通称PZTと呼ばれており、ペロブスカイト型と言われる結晶構造を持つ強誘電体である。PZTは圧電性が良いだけでなく温度特性が非常に安定しているので、圧電体の中の主要な材料として着火素子、超音波素子、アクチュエータ、センサー、セラミックフィルターなどの部品に用いられている。
【0004】
PZT素子は、変位精度が高い、発生力が大きい、応答速度が速いなどの特徴から、半導体露光装置の極微動用ステージや精密位置決めプローブ等、精密位置制御を必要とする圧電アクチュエータに用いられており、長寿命が求められている。
【0005】
PZTの信頼性については下記文献に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“AC and DC Electrical Stress Reliability of Piezoelectric Lead Zirconate Titanate (PZT) Thin Films”,The International Journal of Microcircuits and Electronic Packaging, Volume 23, Number I, First Quarter 2000 (ISSN 1063-1674)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来では、PZT素子の破壊電圧を求め、破壊電圧が大きなPZT素子を長寿命であると判断していたが、PZT層に高温下で電圧を印加する加速試験を行ったところ、破壊電圧の大きさとMTTF(Mean Time to Failure)の値との間には相関性が認められない、ということが分かった。
【0008】
特に、破壊電圧が大きいPZT素子でも、高温で測定したMTTFを100℃の低温に換算したときに、MTTFは100時間程度の値となり、短時間で故障が発生する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記従来技術の課題を解決するために創作されたものであり、基板と、前記基板上に配置された第一の電極層と、前記第一の電極層上に配置された下地層と、前記下地層上に配置された添加金属が0.1at%以上5at%以下の範囲で含有されたPZT層と、前記PZT層上に配置された第二の電極層とを有し、前記添加金属にはNiが用いられ、前記PZT層は、PZTターゲットのスパッタリングによって前記第一の電極層の表面上に成長されたPZT結晶であるPZT素子である。
本発明は、前記下地層はLaNiO3で構成されたPZT素子である。
本発明は、前記PZT結晶は、前記下地層が485℃以上585℃以下の温度範囲の温度で成長されたPZT素子である。
本発明は、第一の電極層と、前記第一の電極層上に配置された下地層と、前記下地層上に配置されたPZT層と、前記PZT層上に配置され、前記PZT層と電気的に接続された第二の電極層と、を有するPZT素子を製造するPZT素子製造方法であって、添加金属であるNiが0.1at%以上5at%以下の範囲で含有されたPZTターゲットをスパッタリングし、前記下地層の表面上にPZT結晶を成長させ、前記PZT層を形成するPZT層形成工程と、前記PZT層上に前記第二の電極層を形成する第二の電極層形成工程と、を有するPZT素子製造方法である。
本発明は、前記PZT層形成工程では、前記下地層を485℃以上585℃以下の温度範囲の温度に加熱するPZT素子製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
Niの添加により結晶欠陥が少なくなりMTTFが長いPZT素子が得られる。
LaNiO3の下地層上にスパッタリング法によってPZT層を形成すると、600℃よりも低温でPZT結晶を成長させることができるので結晶欠陥を更に減少させたPZT層が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)~(c):PZT素子の製造工程を説明するための図
図2】PZT層を形成するためのスパッタリング装置の一例
図3】破壊電圧とMTTFとの間に相関関係がないことを説明するためのグラフ
図4】加速試験の結果から実使用温度のMTTFを求めるためのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
<PZT素子製造工程>
図1(a)の符号21はPZT層を形成するシリコン等のセラミックスの基板であり、基板21の表面には、第一の電極層22が形成され、第一の電極層22の表面には下地層23が形成されている。
【0013】
第一の電極層22は白金等の金属薄膜であり、下地層23は電気導電性を有し、PZTと格子定数が近い結晶であり、ここでは下地層23にはLaNiO3の薄膜が用いられている。
【0014】
図2のスパッタリング装置10の真空槽11の内部に搬入し、台32上に基板21を配置する。台32上の基板21の表面には下地層23が露出されており、下地層23と対面する場所には、バッキングプレート36に取り付けられたスパッタリングターゲット37が配置されている。
【0015】
スパッタリングターゲット37は、PZTと、PZTに0.1at%以上5.0at%以下の範囲で添加された添加金属とから構成されており、本発明では、添加金属にはNiが用いられている。
【0016】
真空槽11の内部を真空排気装置35によって真空排気し、ガス導入装置33によって真空槽11の内部にスパッタリングガスを導入する。
【0017】
基板21を485℃以上585℃以下の温度範囲の温度に昇温させ、その温度を維持しながらスパッタ電源34によってバッキングプレート36に電圧を印加させ、スパッタリングガスのプラズマを発生させてスパッタリングターゲット37をスパッタリングする。
【0018】
スパッタリングにより、スパッタリングターゲット37からPZTを構成する原子と、PZTに添加された添加金属とがスパッタリング粒子となってスパッタリングターゲット37から飛び出し、基板21上に到着して下地層23に付着し、図1(b)に示す様に、添加金属が含有されたPZT薄膜から成るPZT層24が成長する。
【0019】
ここではスパッタリング中には基板21を加熱し、基板21に485℃の温度を維持させながらPZT層を成長させた。
【0020】
スパッタリング中の基板21の温度は、485℃よりも低温であっても465℃以上の温度であれば、耐久性が高いPZT層を形成することができるが、PZT層の圧電特性は悪化することが分かっており、従って、スパッタリングの際の基板温度は485℃以上が望ましい。
【0021】
他方、基板温度が700℃以下であればスパッタリング法によってPZT層を形成することができるが、585℃よりも高温になると耐久性が悪化するので585℃以下が望ましい。
【0022】
なお、スパッタリング法以外の成膜方法では、基板温度が600℃以下では、圧電特性のよいPZT層は成長されていない。
【0023】
スパッタリング法によって形成されるPZT層24の組成はスパッタリングターゲット37と同じであり、本発明のPZT層24は、添加金属であるNiが0.1at%以上5.0at%以下の範囲で含有されている。
【0024】
PZT層24が所定膜厚に形成された後、基板21は別のスパッタリング装置に移動され、図1(c)のように、PZT層24の表面に第二の電極層25が形成され、PZT素子5が得られる。
【0025】
PZT素子5は、第一、第二の電極層22、25の間に電圧が印加されると、電圧の極性と大きさに応じた長さだけ伸縮し、目的物を所望距離精密に移動させることができる。
【0026】
<ワイブル分布>
ワイブル分布において、形状母数(shape parameter)mと尺度母数(scale parameter)βとを用いると、分布関数F(t)は、故障時間tの関数の下記(1)式で表わされる。
【0027】
【数1】
【0028】
(1)式は、次の(2)式に書きかえられる。
【0029】
【数2】
【0030】
(2)式の左辺の値は、故障個数と故障時間tとから求める累積故障率の対数値であり、右辺のlntの値との直線性から、形状母数mの値と尺度母数βの値とが求められる。
【0031】
MTTF(mean time to failure)は、形状母数mと尺度母数βとガンマ関数Γ(・)とを用いた下記(3)式から求めることができる。
【0032】
【数3】
【0033】
<MTTFの測定>
Niを添加する条件やNiを添加しない条件等、種々の条件で作成したPZT素子のサンプルを所定の高温雰囲気に置き、第一、第二の電極層22、25の間に実使用と同じ測定電圧を印加し、上限値以上の電流が流れるまでの故障時間tを測定する加速試験を行った。
【0034】
ここでは、各PZT素子のPZT層の厚さは2μmであり、測定電圧は40Vであるから、PZT層は0.2MV/cmの電界中に置かれたことになる。
【0035】
加速試験とは別に、同条件で作成した別のPZT素子の第一、第二の電極層間に低電圧を印加した後、印加する電圧を増大させ、所定の大きさ以上の電流(1μA/cm2)が流れた時の電圧を破壊電圧BVとして測定する破壊試験を行った。
【0036】
加速試験と破壊試験とから、同一条件で形成されるPZT素子の故障時間tと破壊電圧BVとが決定される。故障時間tと故障個数とから上記(1)~(3)式により、MTTFを求めることができる。
【0037】
図3のグラフの横軸は破壊電圧BVを電界の大きさ(=破壊電圧/2μm)に換算した電界値(MV/cm)であり、縦軸はMTTFの値である。
【0038】
図3のグラフ中の符号A、B、a~dは、特定の条件のPZT素子の破壊電圧BVの値とMTTFの値との組みあわせから成る測定結果によって特定されるプロットを示している。
【0039】
プロットAは、PZT層24にNiを0.5at%含有させたときのPZT素子5の測定結果であり、プロットBは、PZT層24にNiとLaを0.5at%含有させたときのPZT素子5の測定結果である。プロットA、Bは本発明のPZT素子の測定結果である。
【0040】
他方、プロットaは、Caを含有させたときのPZT素子の測定結果であり、プロットbは添加物を含有させず、本発明と同程度の温度でスパッタリングを行ってPZT層を作成したときのPZT素子の測定結果である。プロットcは添加物を含有させず、600℃以上の高温でスパッタリングを行ったときのPZT素子の測定結果である。プロットdは、Pbの含有率が小さいターゲットを用いてPZT層が作成されたPZT素子の測定結果である。
【0041】
破壊電圧BVが大きなPZT素子はMTTFの値が大きいことが予想されていたが、図3のプロットから、破壊電圧BVの大きさとMTTFの値の大きさとの間には相関関係が見られないことが分かる。
【0042】
それに対し、本発明の測定結果を示すプロットA、Bは、低温成膜によって結晶性が高く、Niが結晶欠陥を充填していることから、破壊電圧BVが小さくても、MTTFの値が大きくなっていることが分かる。
【0043】
本発明のPZT素子5と、Niを添加しないPZT素子との加速試験を複数温度で行い、故障時間tを測定し、MTTFを求めた。
【0044】
図4のグラフの横軸は加速試験の温度であり、縦軸は、求めたMTTFの値である。
【0045】
本発明のPZT素子5の測定結果15と、Niを添加しないPZT素子の測定結果16とは、それぞれ測定した温度範囲中では直線L1、L2上に配置されており、低温側に直線L1、L2を延長すると、実使用温度である100℃におけるMTTFの値は、本発明のPZT素子5では1000000時間以上、Niを添加しないPZT素子では100時間程度であることが読み取れる。本発明のPZT素子5の寿命が長いことが分かる。
【0046】
なお、Niを添加しないPZT素子を形成したときのスパッタリング中の基板の温度は本発明と同じ485℃である。
【符号の説明】
【0047】
5……PZT素子
21……基板
22……第一の電極層
23……下地層(LaNiO3層)
24……PZT層
25……第二の電極層
図1
図2
図3
図4