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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】衣材用酸化澱粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20221215BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20221215BHJP
   A23L 29/219 20160101ALI20221215BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L29/219
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019532402
(86)(22)【出願日】2018-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2018019771
(87)【国際公開番号】W WO2019021606
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2017146200
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018015564
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】野上 弘文
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅博
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-154610(JP,A)
【文献】特開平07-184598(JP,A)
【文献】特開2012-100613(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054461(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/054460(WO,A1)
【文献】特表2004-517637(JP,A)
【文献】特開2011-254785(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172193(WO,A1)
【文献】特開2013-046605(JP,A)
【文献】特開平01-179658(JP,A)
【文献】特開2003-079334(JP,A)
【文献】特開2003-070437(JP,A)
【文献】特開平08-131109(JP,A)
【文献】特開平11-075749(JP,A)
【文献】特開2013-118819(JP,A)
【文献】CEREAL CHEMISTRY,2007年,84(6),pp.582-586
【文献】Journal of Food Science,2014年,79(5),pp.C810-C815
【文献】日本食品科学工学会誌,1996年,43(6),pp.880-886
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D,A23L
CAplus/FSTA (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料澱粉を含むスラリーを準備する工程と、
前記スラリー中の前記原料澱粉を酸化して酸化澱粉を得る工程と、
を含み、
酸化澱粉を得る前記工程が、
前記スラリーに塩基を添加する前に酸化剤を添加する工程と、
前記スラリーのpHが9.2以上11.7以下である条件下に前記スラリーを所定時間維持することにより、前記原料澱粉を酸化する工程と、
を含み、
酸化剤を添加する前記工程を、原料澱粉を酸化する前記工程の前におこなう、衣材用酸化澱粉の製造方法。
【請求項2】
前記酸化剤が次亜塩素酸塩およびさらし粉からなる群から選択される1種または2種である、請求項1に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
【請求項3】
原料澱粉を酸化する前記工程において、前記スラリーに塩基を添加することにより前記pHを前記条件下に維持する、請求項1または2に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
【請求項4】
前記酸化澱粉に酸化以外の化工処理がなされていない、請求項1乃至3いずれか1項に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
【請求項5】
原料澱粉を酸化する前記工程開始時の前記スラリー中の前記原料澱粉の乾物換算質量に対する有効塩素濃度が、1質量%/g以上3.5質量%/g以下である、請求項2乃至4いずれか1項に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
【請求項6】
前記原料澱粉がタピオカ澱粉である、請求項1乃至5いずれか1項に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
【請求項7】
前記酸化澱粉の乾物換算質量濃度が15質量%であるスラリーをラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyzer:RVA)にて測定して得られる、95℃まで加熱した時の最高粘度に対する25℃まで冷却した時の粘度の比が1.4以上20以下である、請求項1乃至6いずれか1項に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか1項に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法により衣材用酸化澱粉を得る工程と、
前記衣材用酸化澱粉を配合して衣材を得る工程と、
を含む、フライ食品用衣材の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のフライ食品用衣材の製造方法によりフライ食品用衣材を得る工程と、
前記フライ食品用衣材を加熱調理する工程と、
を含む、フライ食品の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至7いずれか1項に記載の製造方法で製造された衣材用酸化澱粉をフライ食品用衣材として用いる、フライ食品の衣の硬さを維持する方法。
【請求項11】
請求項1乃至7いずれか1項に記載の製造方法で製造された衣材用酸化澱粉をフライ食品用衣材として用いる、フライ食品の衣のサクサク感を維持する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣材用酸化澱粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ食品の衣材に酸化澱粉を用いる技術として、特許文献1~3に記載のものがある。
特許文献1(特開平6-30713号公報)には、次亜塩素酸処理加工澱粉、焙焼デキストリン、酸化澱粉、低粘性酸処理澱粉、エーテル化澱粉またはエステル化澱粉を含む衣材を用いた乾燥天ぷらに関する技術が記載されている。また、同文献には、次亜塩素処理加工澱粉を特定量含む天ぷら粉を用いて得られた乾燥天ぷらを熱湯に浸漬したところ完全に復元して、風味、食感、色調の良い天ぷらとなったことが記載されている。
【0003】
特許文献2(特開平8-131109号公報)には、酸化澱粉およびワキシー澱粉を含有する揚げ物用衣組成物に関する技術が記載されており、かかる組成物を用いた場合には、べとつきがなく、歯もろさおよびソフトさに優れていて、しかも口溶けの良好な、食感に優れた衣を有するテンプラなどの揚げ物をつくることができるとされている。また、同文献には、酸化澱粉の中でも、コーンスターチを次亜塩素酸ナトリウムで処理して得られた酸化澱粉を用いるのが、安定性、白度、入手の容易性などの点から好ましいと記載されている。
【0004】
特許文献3(特開2011-254785号公報)には、小麦粉、カルボキシル基含量が特定の範囲にある酸化澱粉、および、膨潤抑制澱粉を特定の割合で含有する揚げ物用衣材について記載されており、かかる衣材により、サク味に優れ、歯切れがよく、油っぽさが少ない衣を形成できるとされている。また、同文献には、酸化澱粉の調製について、特定量の未加工タピオカに水を加えて特定量の澱粉懸濁液を調製し、これに特定量の次亜塩素酸ナトリウムおよびアルカリ剤を添加してpHをアルカリ性に保った後、所定の時間攪拌を維持し、酸化反応をおこなったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-30713号公報
【文献】特開平8-131109号公報
【文献】特開2011-254785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述した特許文献1および2には、いずれも、衣の好ましい硬さとサクサク感が維持されることについては言及されていない。
また、本発明者らが検討したところ、上述した特許文献3に記載の技術を用いた場合、揚げ物の衣に好ましい硬さとサクサク感を付与し、保管後もそれらの好ましさを維持するという点で改善の余地があることが明らかになった。
【0007】
本発明は、揚げ物の衣に好ましい硬さとサクサク感を付与し、保管後もそれらの好ましさを維持する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
原料澱粉を含むスラリーを準備する工程と、
前記スラリー中の前記原料澱粉を酸化して酸化澱粉を得る工程と、
を含み、
酸化澱粉を得る前記工程が、
前記スラリーに酸化剤を添加する工程と、
前記スラリーのpHが9.2以上11.7以下である条件下に前記スラリーを所定時間維持することにより、前記原料澱粉を酸化する工程と、
を含む、衣材用酸化澱粉の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
前記本発明における衣材用酸化澱粉の製造方法により衣材用酸化澱粉を得る工程と、
前記衣材用酸化澱粉を配合して衣材を得る工程と、
を含む、フライ食品用衣材の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、
前記本発明におけるフライ食品用衣材の製造方法によりフライ食品用衣材を得る工程と、
前記フライ食品用衣材を加熱調理する工程と、
を含む、フライ食品の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、前記本発明における製造方法で製造された衣材用酸化澱粉をフライ食品用衣材として用いる、フライ食品の衣のサクサク感を維持する方法またはフライ食品の衣の硬さを維持する方法が提供される。
【0012】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明によれば、前記本発明における製造方法により得られる衣材用酸化澱粉、衣材およびフライ食品が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、前記本発明における製造方法により得られる衣材用酸化澱粉の衣材またはフライ食品の製造のための使用が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、前記本発明におけるフライ食品用衣材の製造方法によりフライ食品用衣材を得る工程と、前記フライ食品用衣材で種物を被覆する工程と、前記フライ食品用衣材で被覆された前記種物を加熱処理する工程と、を含む、フライ食品の製造方法ならびに前記製造方法により得られるフライ食品が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、揚げ物の衣に好ましい硬さとサクサク感を付与し、保管後もそれらの好ましさを維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、具体例を挙げて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本実施形態において、衣材用酸化澱粉の製造方法は、以下の工程1および工程2を含む。
(工程1)原料澱粉を含むスラリーを準備する工程
(工程2)上記スラリー中の原料澱粉を酸化して酸化澱粉を得る工程
そして、工程2すなわち酸化澱粉を得る工程が、以下の工程2-1および工程2-2を含む。
(工程2-1)上記スラリーに酸化剤を添加する工程
(工程2-2)上記スラリーのpHが9.2以上11.7以下である条件下にスラリーを所定時間維持することにより、原料澱粉を酸化する工程
【0018】
本実施形態においては、工程2-2において、工程1で得られたスラリーのpHが特定の条件の範囲となるよう制御し、かかる条件下に所定時間スラリーを維持する。さらに具体的には、工程2-2において、前述した特許文献3に記載の条件に比べて高pHの条件となるように制御するとともに、かかる条件を所定時間維持する。かかる工程を含む製造方法とすることにより、揚げ物の衣材として用いる際に、優れた衣の食感およびその保存安定性を与える酸化澱粉を得ることができる。
以下、各工程についてさらに具体的に説明する。
【0019】
(工程1)
工程1においては、原料澱粉のスラリーを準備する。スラリーは、具体的には原料澱粉および水を含む。
原料澱粉の由来となる植物の具体例として、とうもろこし、もちとうもろこし、米、もち米、小麦、甘藷、馬鈴薯、もち馬鈴薯、タピオカ、サゴヤシ等が挙げられる。
また、原料澱粉は、好ましくはコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、もち米澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシー馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉ならびにこれらのアセチル化澱粉およびヒドロキシプロピル化澱粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはタピオカ澱粉ならびにこれらのアセチル化澱粉およびヒドロキシプロピル化澱粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、さらに好ましくはタピオカ澱粉である。
また、揚げ物の調製時の硬さおよびサクサク感を向上する観点、およびこれらの好ましさを維持する観点から、原料澱粉は、好ましくは未化工の澱粉であり、より好ましくは未化工のタピオカ澱粉である。
【0020】
スラリー中の原料澱粉の乾物換算質量濃度は、工程2における酸化反応の効率を高める観点から、スラリー全体に対してたとえば20質量%以上であり、好ましくは30質量%以上である。
また、工程2における酸化反応の安定性を高める観点から、スラリー中の原料澱粉の乾物換算質量濃度は、スラリー全体に対してたとえば50質量%以下であり、好ましくは45質量%以下である。
【0021】
ここで、スラリー中の原料澱粉の乾物換算質量濃度は、澱粉質量から澱粉中の水分濃度(質量%)より算出される水分質量を引いた乾物質量を、上記澱粉質量とスラリー作製時に加えた水の質量とを足した全質量で割った後、100倍して求めることができる。
【0022】
(工程2)
工程2は、酸化澱粉を得る工程であり、前述した工程2-1および工程2-2を含む。工程2-1は、工程2中に1回おこなわれても2回以上に分けておこなわれてもよく、2回目以降の工程2-1が、工程2-2中におこなわれてもよいが、工程2-1は、工程2中に1回おこなわれることが好ましい。
また、工程2-1が工程2-2の前におこなわれることがさらに好ましい。
【0023】
工程2-1に用いる酸化剤としては、次亜塩素酸塩、さらし粉等の水溶液中で有効塩素をもつ塩素系酸化剤;過酸化水素;過マンガン酸塩などが挙げられるが、酸化反応を安定的に進行させる観点から、好ましくは次亜塩素酸塩およびさらし粉からなる群から選択される1種または2種であり、より好ましくは次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸塩であり、さらに好ましくは、次亜塩素酸ナトリウムである。なお、酸化剤は次亜塩素酸塩を1種含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0024】
工程2-1に用いる酸化剤の濃度は、たとえば、塩素系酸化剤を用いる場合、有効塩素濃度で4質量%以上18質量%以下の水溶液を用いることができる。
ここで、上記有効塩素濃度とは、水溶液中で次亜塩素酸や次亜塩素酸イオン等の酸化力のある塩素化合物である有効塩素の濃度を指し、たとえば、第五版食品添加物公定書解説書(廣川書店、1987年)のD-383~D-384に記載の方法で測定することができる。
工程2-1に用いる酸化剤が塩素系酸化剤であるとき、工程2-2開始時のスラリー中の原料澱粉の乾物換算質量に対する有効塩素濃度は、酸化反応の効率を高める観点から、好ましくは1質量%/g以上であり、より好ましくは1.2質量%/g以上、さらに好ましくは1.4質量%/g以上、さらにより好ましくは1.6質量%/g以上である。
また、酸化反応の安定性を高める観点から、上記原料澱粉の乾物換算質量に対する有効塩素濃度は、好ましくは3.5質量%/g以下であり、より好ましくは3.0質量%/g以下、さらに好ましくは2.6質量%/g以下、さらにより好ましくは2.3質量%/g以下である。
ここで、上記原料澱粉の乾物換算質量に対する有効塩素濃度とは、原料澱粉の乾物換算質量1gに対する酸化剤の有効塩素濃度のことを指し、酸化反応が進行するにつれ低下する。
【0025】
工程2-2における酸化条件は、pHについて以下の条件を満たすものである。
すなわち、スラリーのpHは、フライ食品の衣材として用いた際に、衣の好ましい硬さとサクサク感を維持する観点から、9.2以上であり、好ましくは9.4以上である。
また、原料澱粉の過度の酸化およびスラリーの糊化を抑制する観点から、スラリーのpHは、11.7以下であり、好ましくは11.5以下、より好ましくは11.0以下、さらに好ましくは10.5以下である。
ここで、スラリーのpHを維持するとは、酸化反応中のスラリーpHを設定値±0.2の範囲内に収めることをいう。
【0026】
また、工程2-2においては、スラリーに塩基を添加することによりpHを前述した条件下に維持することが好ましい。このとき、スラリーへの塩基の添加は、連続的におこなわれてもよいし、断続的におこなわれてもよい。
塩基の具体例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等が挙げられる。pHを前述した条件に安定的に維持する観点から、塩基は好ましくはアルカリ金属の水酸化物である。
【0027】
工程2-2における反応温度は、酸化反応の効率を高める観点から、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。
また、酸化澱粉の製造安定性を高める観点から、工程2-2における反応温度は、好ましくは60℃以下であり、より50℃以下、さらに好ましくは45℃以下である。
【0028】
工程2-2は、たとえば酸化反応終了まで、さらに具体的にはスラリー中の有効塩素がなくなるまでとすることができる。スラリー中の有効塩素がなくなったことは、スラリーの一部を抽出してこれを飽和ヨウ化カリウム溶液に添加した際に紫色を呈しなくなることでも確認できる。
また、工程2-2における所定時間は、前述の酸化反応終了までの時間とすることができるが、酸化澱粉の収率を高める観点から、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上である。また、酸化澱粉の製造効率を高める観点から、工程2-2における所定時間は、好ましくは500分以下、より好ましくは300分以下である。
【0029】
以上の工程1および2により、スラリー中に酸化澱粉が生成する。
また、工程2の後、酸化澱粉をエステル化またはエーテル化する工程(工程3)をさらに含んでもよい。
工程3で酸化澱粉におこなうエステル化の具体例として、アセチル化、リン酸化等が挙げられ、エーテル化の具体例として、ヒドロキシプロピル化等が挙げられる。
揚げ物の調製時の硬さおよびサクサク感を向上する観点、およびこれらの好ましさを維持する観点から、本実施形態で得られる酸化澱粉には、他の化工処理がなされていないことが好ましい。
【0030】
また、工程2または工程3の後、スラリーに酸を添加することによりpHを7.0以下とする工程(工程4)をさらに含んでもよい。これにより、酸化反応を停止することができる。
工程4における酸の具体例として、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸等の有機酸等が挙げられる。酸化反応を確実に停止する観点から、酸は好ましくは無機酸であり、より好ましくは塩酸であり、さらに好ましくは1質量%以上5質量%以下の濃度の塩酸である。
また、工程4においては、酸化反応を確実に停止する観点から、pHを7.0以下とすることが好ましく、6.5以下とすることがより好ましい。
また、工程4におけるpHの下限値は、酸化澱粉の分解を抑制する観点から、好ましくは3.5以上であり、より好ましくは4.5以上である。
【0031】
工程2乃至4の後、スラリー中の酸化澱粉を分離する工程、酸化澱粉を洗浄する工程、酸化澱粉を脱水する工程、酸化澱粉を乾燥する工程、酸化澱粉を粉砕する工程、酸化澱粉を篩う工程からなる群から選択される1または2以上の工程をさらにおこなってもよい。
このうち、酸化澱粉を乾燥する工程においては、たとえば脱水後の酸化澱粉を30℃以上150℃以下の温度で乾燥させてもよい。
なお、酸化澱粉を乾燥する工程の後に、酸化澱粉を粉砕する上記工程、および粉砕した酸化澱粉を篩う上記工程をおこなうことが好ましい。
【0032】
本実施形態において得られる酸化澱粉は、衣材の原料として好適に用いることができる。本実施形態における酸化澱粉を衣材として用いることにより、揚げ物の衣に好ましい硬さとサクサク感を付与することができるとともに、保管後においても、それらの好ましさを維持することができる。さらに、本実施形態により、調製直後の食感、具体的には、硬さ、サクサク感、ドライ感および飲み込みやすさのバランスに優れる揚げ物を得ることができるとともに、保管後、好ましくは10~30℃保管後におけるこれらの食感の劣化を効果的に抑制することも可能となる。
衣の好ましい硬さとサクサク感を維持する観点からは、酸化澱粉の乾物換算質量濃度が15質量%のスラリーをラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyzer:RVA)にて95℃まで加熱した時の最高粘度は好ましくは900cP以下、より好ましくは700cP以下であるとともに、加熱の後、RVAにて25℃まで冷却した時の粘度は好ましくは6000cP以下、より好ましくは5000cP以下である。
また、95℃まで加熱した時の最高粘度の下限値は好ましくは50cP以上であり、加熱の後、RVAにて25℃まで冷却した時の粘度の下限値は好ましくは100cP以上である。
【0033】
また、衣の好ましい硬さとサクサク感を維持する観点から、15質量%のスラリーをRVAにて95℃まで加熱した時の最高粘度(粘度A)に対する25℃に冷却した時の粘度(粘度B)の比(粘度B/粘度A)は、好ましくは1.4以上、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.8以上である。同様の観点から、上記(粘度B/粘度A)は、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、さらにより好ましくは8以下である。
【0034】
ここで、95℃まで加熱した時の最高粘度と25℃まで冷却した時の粘度の測定方法は、以下の通りである。
(95℃まで加熱した時の最高粘度と25℃まで冷却した時の粘度の測定方法)
1.専用のアルミニウム容器に酸化澱粉と水とを混合し、酸化澱粉の乾物換算質量濃度が15質量%のスラリーを調製する。上記アルミニウム容器に専用のパドルを入れ、ラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyzer:RVA)にセットする。
2.160rpmでの撹拌下で粘度を測定しながら、40℃で1分間維持し、その後、40℃から95℃まで6℃/分の速度で加熱する。
3.95℃を5分間維持した後、25℃まで4.5℃/分で冷却する。
4.95℃まで加熱した時の最高粘度である粘度A(cP)および25℃まで冷却した時の粘度B(cP)を読み取り、各粘度を測定する。
【0035】
次に、本実施形態における酸化澱粉を用いる衣材およびフライ食品について説明する。
まず、本実施形態における衣材は、フライ食品に用いられ、本実施形態における製造方法により得られる酸化澱粉を含む。
また、本実施形態において、フライ食品用衣材の製造方法は、たとえば、前述した製造方法により酸化澱粉を得る工程と、衣材用酸化澱粉を配合して衣材を得る工程と、を含む。
【0036】
衣材中の本実施形態において得られる酸化澱粉の配合量は、たとえば衣材中の固形分全体を100質量%としたときに、揚げ物の調製時の硬さおよびサクサク感を向上する観点、およびこれらの好ましさを維持する観点から、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%、さらにより好ましくは12質量%以上である。また、衣材中の本実施形態において得られる酸化澱粉の衣材中の固形分全体に対する配合量を、たとえば15質量%以上、または、20質量%としてもよい。
また、同様の観点から、衣材中の本実施形態において得られる酸化澱粉の配合量は、衣材中の固形分全体を100質量%としたときに、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0037】
衣材は、本実施形態の方法により得られる酸化澱粉以外の酸化澱粉(以下、「他の酸化澱粉」とも呼ぶ。)をさらに含んでもよい。
他の酸化澱粉における前述した粘度の比(粘度B/粘度A)は、制限はなく、たとえば0超1.4未満である。
衣材が他の酸化澱粉をさらに含むとき、衣材中の他の酸化澱粉の含有量は、本実施形態の方法により得られる酸化澱粉1質量部に対して、衣の好ましい硬さとサクサク感を維持する観点から、好ましくは0質量部超である。また、衣の好ましい硬さとサクサク感を維持する観点から、衣材中の他の酸化澱粉の含有量は、本実施形態の方法により得られる酸化澱粉1質量部に対して、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは3質量部以下である。
また、衣材が他の酸化澱粉をさらに含むとき、衣材中の酸化澱粉の総含有量は、衣材中の固形分全体を100質量%としたときに、衣の好ましい硬さとサクサク感を維持する観点から、好ましくは3質量%超であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、さらにより好ましくは12質量%以上である。また、衣の好ましい硬さとサクサク感を維持する観点から、衣材中の酸化澱粉の総含有量は、衣材中の固形分全体を100質量%としたときに、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0038】
また、衣材は、酸化澱粉以外の固形成分を含んでもよく、その具体例として、未加工澱粉、エステル化澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、アルファ化澱粉等の酸化澱粉以外の澱粉;薄力粉等の小麦粉、米粉等の穀粉;全卵粉等の乾燥卵;ベーキングパウダー等の膨化剤が挙げられる。
【0039】
衣材の具体的な形態として、打ち粉等の粉状のものが挙げられる。
また、酸化澱粉を含む固形分に水;卵液等の液状の食材;醤油等の液体調味料等の液体成分を配合してバッターとして用いることもできる。
バッター中の上記液体成分の含有量は、衣材の固形分100質量部に対して好ましくは90質量部以上、より好ましくは100質量部以上であり、また、好ましくは450質量部以下、より好ましくは300質量部以下、さらに好ましくは200質量部以下である。
【0040】
次に、フライ食品について説明する。
本実施形態におけるフライ食品は、フライ食品用衣材を含むものであり、種物を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
たとえば、フライ食品には、揚げ玉のように種物を含まず、衣材のみを単独で調理した食品も含まれる。
また、本実施形態において、フライ食品の製造方法は、たとえば、前述した製造方法によりフライ食品用衣材を得る工程と、フライ食品用衣材加熱調理する工程と、を含む。
また、フライ食品が種物を含むとき、本実施形態におけるフライ食品用衣材とは、たとえば、食品中の種物を被覆する衣の材料、すなわち食品用被覆材として用いられ、さらに具体的には種物の表面に付着させる材料として用いられる。
フライ食品が種物を含むとき、フライ食品用衣材は、種物の一部を被覆していてもよいし、種物全体を被覆していてもよい。また、フライ食品用衣材は、種物の一部に付着していてもよいし、種物全体に付着していてもよい。
【0041】
本実施形態におけるフライ食品の種物として、たとえばエビ等の海産物;鶏肉等の肉類;イモ類等の野菜類;ドーナツ、カステラ、饅頭等の菓子類などが挙げられる。
フライ食品の調理形態の具体例としては、種物に衣材を被覆した後、100℃~200℃の食用油中で油ちょうされた食品、薄く油をひいたフライパンや鉄板上で加熱された食品が挙げられる。また、本実施形態のフライ食品の製造方法は、たとえばフライ食品用衣材を加熱調理する工程を含む。
フライ食品として、たとえば天ぷら、から揚げ、竜田揚げなどが挙げられ、とんかつのようにパン粉やブレッダーをまぶしたものでもよい。また、本実施形態におけるフライ食品には、衣材で被覆をした後に、オーブン等で乾熱調理、マイクロ波加熱調理または過熱水蒸気調理されたフライ様食品も含まれる。フライ様食品では、油脂を含む衣材で種物の被覆をすることや衣材に油脂をまぶすことがさらに好ましい。
本実施形態における製造方法で得られたフライ食品は、加熱調理後のフライ食品の衣に好ましい硬さとサクサク感が付与し、保管後もそれらの好ましさを維持することができる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 原料澱粉を含むスラリーを準備する工程と、
前記スラリー中の前記原料澱粉を酸化して酸化澱粉を得る工程と、
を含み、
酸化澱粉を得る前記工程が、
前記スラリーに酸化剤を添加する工程と、
前記スラリーのpHが9.2以上11.7以下である条件下に前記スラリーを所定時間維持することにより、前記原料澱粉を酸化する工程と、
を含む、衣材用酸化澱粉の製造方法。
2. 前記酸化剤が次亜塩素酸塩およびさらし粉からなる群から選択される1種または2種である、1.に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
3. 原料澱粉を酸化する前記工程において、前記スラリーに塩基を添加することにより前記pHを前記条件下に維持する、1.または2.に記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
4. 酸化剤を添加する前記工程が、原料澱粉を酸化する前記工程の前におこなわれる、1.乃至3.いずれか1つに記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
5. 原料澱粉を酸化する前記工程開始時の前記スラリー中の前記原料澱粉の乾物換算質量に対する有効塩素濃度が、1質量%/g以上3.5質量%/g以下である、2.乃至4.いずれか1つに記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
6. 前記原料澱粉がタピオカ澱粉である、1.乃至5.いずれか1つに記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
7. 前記酸化澱粉の乾物換算質量濃度が15質量%であるスラリーをラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyzer:RVA)にて測定して得られる、95℃まで加熱した時の最高粘度に対する25℃まで冷却した時の粘度の比が1.4以上20以下である、1.乃至6.いずれか1つに記載の衣材用酸化澱粉の製造方法。
8. 1.乃至7.いずれか1つに記載の衣材用酸化澱粉の製造方法により衣材用酸化澱粉を得る工程と、
前記衣材用酸化澱粉を配合して衣材を得る工程と、
を含む、フライ食品用衣材の製造方法。
9. 8.に記載のフライ食品用衣材の製造方法によりフライ食品用衣材を得る工程と、
前記フライ食品用衣材を加熱調理する工程と、
を含む、フライ食品の製造方法。
10. 1.乃至7.いずれか1つに記載の製造方法で製造された衣材用酸化澱粉をフライ食品用衣材として用いる、フライ食品の衣の硬さを維持する方法。
11. 1.乃至7.いずれか1つに記載の製造方法で製造された衣材用酸化澱粉をフライ食品用衣材として用いる、フライ食品の衣のサクサク感を維持する方法。

【実施例
【0042】
はじめに、以下の例で用いた原料を示す。
タピオカ澱粉(水分13.5質量%、Siam Starch(1966) Co., Ltd.製)
コーンスターチ:コーンスターチY(株式会社J-オイルミルズ製)
全卵粉:乾燥全卵No.1(キューピータマゴ株式会社製)
ベーキングパウダー:Fアップ(大宮糧食工業株式会社製)
他の酸化澱粉:ジェルコールSP-2(株式会社J-オイルミルズ製、粘度B:203cP、粘度A:1554cP、(粘度B/粘度A)=0.13)
【0043】
なお、タピオカ澱粉および後述する酸化澱粉の水分は以下の方法で測定した。
(水分の測定方法)
澱粉を水分計(電磁水分計:型番MX50、研精工業株式会社製)を用いて、130℃で加熱乾燥させて水分を測定した。
【0044】
(実施例1~7、比較例1~6)
本例においては、酸化澱粉の製造および評価をおこなった。表1に、酸化澱粉の製造条件、得られた酸化澱粉を用いて調製した衣材の種類、ならびに、得られた衣材を用いて調製した天ぷらの調製直後および調製後から20℃で4時間保存した調製4時間後の評価結果を示す。
また、表2に、酸化澱粉を用いて調製した衣材の配合を示す。
【0045】
(実施例1)
(酸化澱粉の製造方法)
セパラブルフラスコにタピオカ澱粉150gと蒸留水190gを加えて分散し、乾物換算質量濃度が38.2質量%のスラリーを調製した。
得られたスラリーの温度を37℃にした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度14.3%)18.2mLを一度に投入し、表1に記載の有効塩素濃度とした。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を投入後、3質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、設定したpH(表1)にした。
その後、適時水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、反応終了までpHを設定値±0.03以内に維持し、酸化澱粉を得た。
反応終了は、スラリーを少量サンプリングして飽和ヨウ化カリウム水溶液に滴下し、紫色を呈しなくなった時点とした。
反応終了を確認後、スラリーに3質量%塩酸を添加してpH6まで中和した後、スラリー中の酸化澱粉を洗浄脱水した。
その後、40℃で1晩乾燥し、粉砕して60メッシュの篩(目開き250μm)で篩ったものを本例の酸化澱粉として用いた。
【0046】
(酸化澱粉の粘度の測定方法)
1.専用のアルミニウム容器に水分測定済の酸化澱粉と水とを混合し、酸化澱粉の乾物換算質量濃度が15質量%のスラリーを調製した。上記アルミニウム容器に専用のパドルを入れ、ラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyzer:RVA:型番RVA-4、ペルテン社製)にセットした。
2.160rpmでの撹拌下で粘度を測定しながら、40℃で1分間維持し、その後、40℃から95℃まで6℃/分の速度で加熱した。
3.95℃を5分間維持した後、25℃まで4.5℃/分で冷却した。
4.95℃まで加熱した時の最高粘度である粘度A(cP)および25℃まで冷却した時の粘度B(cP)を読み取り、各粘度を測定した。
【0047】
(衣材の調製方法)
表2に示す衣材のうち、衣材1のレシピに基づき原材料を同表の配合量にて混合し、酸化澱粉を含む打ち粉およびバッターを調製した。
【0048】
(天ぷらの調製方法)
1.サツマイモを厚さ0.8~1.0cmに輪切りして、水にさらした。
2.上記1.のサツマイモを水から取り出し、皮を切り落とした。
3.上記2.のサツマイモの水気をよく切って、揚げ種とした。
4.揚げ種に、前述の方法で得られた打ち粉をまぶし、さらに前述の方法で得られたバッターを付けた後、175℃のキャノーラ油で3分30秒揚げた。
5.キャノーラ油から取り出して油切りをして、天ぷらを得た。
【0049】
(天ぷらの評価方法)
得られた天ぷらの調製直後(1時間以内)および天ぷら調製後に20℃で4時間放置後に、4名の専門パネラーが食感評価をおこなった。以下の評価項目および評価基準にて評価をおこない、各項目について4人の平均点が2点超であるものを合格とした。
(硬さ)
5点:衣がとても硬い
4点:衣が硬い
3点:衣が少し硬い
2点:衣があまり硬くない
1点:衣が硬くない
(サクサク感)
5点:衣にとてもサクサク感がある
4点:衣にサクサク感がある
3点:衣に少しサクサク感がある
2点:衣にサクサク感が少ない
1点:衣にサクサク感が無い
(ドライ感)
5点:とてもカラッとしている
4点:カラッとしている
3点:少しカラッとしている
2点:少しベチャついている
1点:ベチャついている
(飲み込みやすさ)
5点:衣の歯切れがとても良く、とても飲み込みやすい
4点:衣の歯切れが良く、飲み込みやすい
3点:衣の歯切れがやや良く、やや飲み込みやすい
2点:衣に少しヒキが有り、少し飲み込みにくい
1点:衣にヒキがあり、飲み込みにくい
【0050】
(実施例2~5、比較例1~4)
スラリーのpHを表1に記載のとおりそれぞれ設定して反応させた以外は、実施例1と同じ条件および方法で酸化澱粉を製造した。
ここで、比較例4については、酸化処理中にスラリーが糊化したため、スラリーを脱水できず、酸化澱粉のサンプルを得られなかった。
【0051】
(実施例6)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度14.3%)9.1mLを一度に投入し、表1に記載の澱粉乾物換算質量に対する有効塩素濃度とした以外は、実施例2と同じ条件および方法で酸化澱粉を製造した。
【0052】
(比較例5)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度14.3%)31.9mLを一度に投入し、表1に記載の澱粉乾物換算質量に対する有効塩素濃度とした以外は、比較例2と同じ条件および方法で酸化澱粉を製造した。
【0053】
(実施例7)
実施例2の条件で次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度14.3%)での酸化反応を終了した後、3質量%塩酸でスラリーをpH8に調製した。
その後、無水酢酸2.2mLを15分かけて滴下し、酸化澱粉をアセチル化した。反応中は3質量%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.8~8.5に維持した。
滴下終了後、3質量%塩酸でpH6まで中和した後、スラリー中の酸化アセチル化タピオカ澱粉を洗浄脱水した。
脱水後、40℃で1晩乾燥し、粉砕して60メッシュの篩(目開き250μm)で篩ったものを本例の酸化澱粉として用いた。
【0054】
(比較例6)
本例においては、前述した特許文献3の実施例に記載の方法に従って酸化澱粉を製造した。
セパラブルフラスコにタピオカ澱粉150gと蒸留水190gを加えて分散し、乾物換算質量濃度が38.2質量%のスラリーを調製した。
得られたスラリーの温度を37℃にした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度14.3%)18.2mLを2分毎に30回(0.61mL/回)に分けて投入した。次亜塩素酸ナトリウム水溶液を投入中にスラリーのpHが7.5以上を保てるように3質量%水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下した。30回目の次亜塩素酸ナトリウム水溶液投入終了時点のスラリーのpHが最も高くなり、そのpHは8.5であった。
その後、3質量%水酸化ナトリウム水溶液で適時滴下することで、次亜塩素酸ナトリウム水溶液投入終了時点のpHを維持し、さらに90分間反応させた。
90分後にスラリーを少量サンプリングして飽和ヨウ化カリウム水溶液に滴下し、紫色を呈さないことを確認して、実施例1に記載と同じ方法で中和以降の工程に進み、酸化澱粉を得た。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1に示すように、各実施例においては、スラリーのpHについて特定の条件を維持しながら酸化反応をおこなったため、得られた酸化澱粉を用いて調製した天ぷらは、衣の硬さ、サクサク感、ドライ感および飲み込みやすさといった食感に優れていた。そして、天ぷら調製4時間後でもこれらの食感が維持されていた。
一方、比較例1~3、5および6においては、酸化反応におけるスラリーのpHが低すぎたため、天ぷら調製4時間後の食感が各実施例に比べて劣っていた。
また、比較例4においては、酸化反応におけるスラリーのpHが高すぎたため、前述のとおり、酸化澱粉調製中にスラリーが糊化してしまい、酸化澱粉を得ることができなかった。
【0058】
(実施例8および9)
実施例1で得られた酸化澱粉を用いて、表2の衣材2および衣材3のレシピに基づき原材料を同表の配合量にて混合し、酸化澱粉を含む打ち粉およびバッターを調製した。
得られた打ち粉およびバッターを用いて実施例1に記載の方法に準じて天ぷらを調製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3より、衣材の配合が異なる実施例8および9においても、調製直後および保管後の食感に優れた天ぷらが得られた。
【0061】
(実施例10~13)
本例では、実施例2で得られた酸化澱粉を用いて、表4に記載のバッター組成に基づき原材料を混合し、酸化澱粉を含むバッターを調製した。
冷凍ドーナツ生地(タマゴドーナツ、オーランドフーズ製)を、凍ったまま180℃に加熱した油(FryUp201、株式会社J-オイルミルズ製)にて2分油ちょうし、ひっくり返してさらに1分油ちょうし、ドーナツを作製した。
油ちょうしたドーナツの粗熱を取った後、先に調製した酸化澱粉を含むバッターをドーナツに付け、180℃に加熱した油で片面75秒ずつ油ちょうし、衣付きドーナツを作製した。
また、実施例13のみ、冷凍ドーナツ生地に凍ったまま直接酸化澱粉を含むバッターを付け、180℃で2分油ちょうし、ひっくり返してさらに1分油ちょうし、衣付きドーナツを作製した。
得られた各衣付きドーナツを、21℃で4時間置いた。
【0062】
【表4】
【0063】
実施例10~12で得られた衣付きドーナツは、調製直後も保管後も、硬さがあり、サクサクとした食感に優れていた。また、実施例13の衣付きドーナツは、衣はやや薄かったが、調製直後も保管後もサクサクとした食感に優れていた。
【0064】
(実施例14、比較例7~8)
本例では、実施例2で得られた酸化澱粉および比較例1で得られた酸化澱粉を用いて、表5に記載の組成に基づき原材料を混合し揚げ玉用バッターを調製した。
調製した揚げ玉用バッターを、175℃に加熱した油(スーパーキャノーラ油、株式会社J-オイルミルズ製)にて、実施例14は2分30秒、それ以外は3分油ちょうし、揚げ玉を作製した。
油ちょうした揚げ玉を20℃で4時間置いた後、目開き8.0mmの篩に入れて、篩下画分を回収した。回収した篩下画分を目開き5.6mmの篩に入れて、篩上画分を回収し、整粒揚げ玉を得た。
【0065】
揚げ玉のサクサク感の指標として、整粒揚げ玉1粒の圧縮試験を下記条件にておこなった。測定回数は各例8回とし、測定開始から測定終了するまでの極大値の出現回数(ピーク数)の平均値と標準偏差値を算出した。ピーク数が多いほどサクサク感に優れることを示す。結果を表5に示す。
<測定条件>
測定機器:TA.XT.plus Texture Analyzer(ステイブルマイクロシステムズ社製)
プランジャー:φ20mm円盤型
測定速度:0.5mm/秒
測定モード:50%圧縮
【0066】
【表5】
【0067】
実施例14で得られた揚げ玉は、ピーク数が多かった。また、食した結果、非常にサクサクしていた。
一方、比較例7および比較例8は、ピーク数が少なかった。また、食した結果、あまりサクサクしていなかった。
【0068】
この出願は、2017年7月28日に出願された日本出願特願2017-146200号および2018年1月31日に出願された日本出願特願2018-015564号を基礎とする優先権を主張し、それらの開示のすべてをここに取り込む。