(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】βグルカン含有組成物
(51)【国際特許分類】
C12P 19/14 20060101AFI20221215BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20221215BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C12P19/14 A
A23L33/21
C08B37/00 Q
(21)【出願番号】P 2019536453
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2018027355
(87)【国際公開番号】W WO2019035315
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2017157107
(32)【優先日】2017-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久下 高生
(72)【発明者】
【氏名】小池 誠治
(72)【発明者】
【氏名】助川 公哉
(72)【発明者】
【氏名】古川 友大
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-307150(JP,A)
【文献】特開2009-091255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
A23L
C08B 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-1,3-1,4-グルカンを15~50質量%含有し、
GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、全ピークの総面積に対する標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の面積の割合が30~70%であり、単糖類の領域及び二糖類の領域の合計面積の割合が10~50%であり、且つ単糖類の領域の面積よりも二糖類の領域の面積が大であ
り、
大麦類の全粒粉又は大麦類の穀粒を外周部より搗精した胚乳部分にセルラーゼを作用させることによって得られたものであり、
大麦類のβ-1,3-1,4-グルカン含量が10質量%以上である、βグルカン含有組成物。
【請求項2】
上記β-1,3-1,4-グルカンの
100質量%が
大麦類抽出物由来である、請求項1記載のβグルカン含有組成物。
【請求項3】
GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、全ピークの総面積に対する標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000未満の領域の割合が10~60%である、請求項1又は2記載のβグルカン含有組成物。
【請求項4】
GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、全ピークの総面積に対する標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量200000超の領域の割合が30%未満である、請求項1~3の何れか1項に記載のβグルカン含有組成物。
【請求項5】
二糖類の領域の面積/単糖類の領域の面積が1.1~5である、請求項1~4の何れか1項に記載のβグルカン含有組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のβグルカン含有組成物を
0.5~20質量%含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅広い飲食品へ利用可能なβグルカン含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
βグルカンは、近年その優れた生体調節機能や生理活性機能、例えば、整腸作用、血糖値上昇抑制作用、コレステロール低下作用、血糖値低下作用、免疫調節作用、生活習慣病予防及び改善作用等が解析され、その利用が注目されている食物繊維である。なかでも、β-1,3-1,4-グルカンは植物に多く含まれているために利用しやすく、また機能が高いことから注目されている。
【0003】
一方で、β-1,3-1,4-グルカンは水溶性の食物繊維に分類されてはいるものの、分子量が大きかったり、穀物の澱粉と強く結合していたりする等、水溶性が低いため、飲食品や医薬品へ広く適用することができないという問題があった。そのため、これらのβ-1,3-1,4-グルカンを飲食品や医薬品に適用する場合は、β-1,3-1,4-グルカンの水溶性を向上させるために、熱水や温水で抽出してβグルカンを低分子量とする方法や、酵素処理によりβグルカンを低分子化する方法等が行われていた(例えば特許文献1~3参照)。
【0004】
低分子化によってβ-1,3-1,4-グルカンに一定の溶解性改善は見られるものの、それと同時に大麦由来の特有の雑味が強くなり、また過剰な甘味や異味・雑味が生じる傾向がある。そのため、β-1,3-1,4-グルカン濃度が比較的低く、更に大麦由来の雑味や甘味を生かすことができるような用途に限られてしまうのが現状であった。
【0005】
このように、様々な機能性を有するβ-1,3-1,4-グルカンを多く含み且つ幅広い飲食品へ利用することのできるβグルカン含有組成物が求められているものの、依然として多くの課題が残されていたのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-032723号公報
【文献】特開2002-306124号公報
【文献】特開2005-307150号公報
【発明の概要】
【0007】
よって本発明の課題は、β-1,3-1,4-グルカンを多く含みながらも、大麦由来の特有の雑味が抑えられ、また甘味や異味・雑味の少ない、幅広い飲食品へ利用可能なβグルカン含有組成物を提供することにある。
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく種々検討した結果、β-1,3-1,4-グルカンを15~50質量%含有し、特定の組成を有するβグルカン含有組成物を調製した場合に、上記課題を解決できることを知見した。
【0009】
すなわち、本発明は β-1,3-1,4-グルカンを15~50質量%含有し、GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、全ピークの総面積に対する標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の面積の割合が30~70%であり、単糖類の領域及び二糖類の領域の合計面積の割合が10~50%であり、且つ単糖類の領域の面積よりも二糖類の領域の面積が大である、βグルカン含有組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、βグルカン含有組成物をGPC測定することによって得られるクロマトグラムにおける分子量領域の割合のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のβグルカン含有組成物は、β-1,3-1,4-グルカンを15~50質量%含有するものである。本発明のβグルカン含有組成物における好ましいβ-1,3-1,4-グルカンの含量は、18~48質量%、より好ましくは20~45質量%、更に好ましくは23~43質量%、最も好ましくは25~40質量%である。β-1,3-1,4-グルカンの含量が15質量%よりも少ないと、甘味が生じるほか、雑味が強く感じられてしまう場合があり、50質量%を超えると雑味が強くなるほか、水に対する溶解性が大きく劣ったものとなってしまう。
上記β-1,3-1,4-グルカンは、1-3-β-D-グルコピラノース結合及び1-4-β-D-グルコピラノース結合を有するグルコース重合体を意味する。
【0012】
上記β-1,3-1,4-グルカンの由来としては主に穀物が挙げられる。穀物のなかでも、イネ科植物が好ましい。イネ科植物の例としては、米類、小麦類、トウモロコシ類、モロコシ類、ヒエ類、アワ類、キビ類、大麦類、オーツ麦類(カラス麦類)及びライ麦類等の穀類を挙げることができる。本発明のβグルカン含有組成物においては、特にイネ科植物から抽出によって得られた水溶性β-1,3-1,4-グルカンを用いることが好ましい。なお、穀物以外には、穀物以外の単子葉類植物等からもβ-1,3-1,4-グルカンを得ることができる。また、抽出以外に、分級等の方法によってもβ-1,3-1,4-グルカンを得ることができる。
本発明においては、上記β-1,3-1,4-グルカンの50質量%以上、特に50~100質量%がイネ科植物抽出物由来であることが、本発明の効果をより引き出すことができる点で好ましい。
【0013】
上記イネ科植物から水溶性β-1,3-1,4-グルカンを抽出する方法に特に制限はない。例えば、抽出原料となるイネ科植物に、抽出溶媒を添加し抽出することができる。また、固液分離された場合の抽出液そのもの、抽出液より公知の方法で抽出された水溶性βグルカンを濃縮した液体や固体状のもの、又は抽出液より公知の方法で精製し純度を上げた液体や固体状のもの等、何れの製造方法で得たものでも、何れの形態のものでも、又は何れの純度のものでも使用可能である。もちろん水溶性β-1,3-1,4-グルカン以外の抽出された成分が混合しているものを使用することもできる。
【0014】
抽出には、植物全体を原料に用いることができるが、βグルカンの含量の比較的高い種子を用いることが好ましい。種子としては全体を粉砕したもの(全粒粉)をはじめ、穀類の精製工程で得られる糠、フスマ、麦芽、胚芽又は胚乳部分の何れを用いてもよい。好ましくは、大麦類やオーツ麦類の全粒粉や穀粒を外周部より搗精した胚乳部分やその際発生する糠、米糠、小麦やトウモロコシ類のフスマや胚芽等を用い、更に好ましくは大麦類やオーツ麦類の全粒粉や穀粒を外周部より搗精した胚乳部分やその際発生する糠を用いる。
【0015】
β-1,3-1,4-グルカンのイネ科植物からの抽出方法について更に詳しく説明する。イネ科植物中のβ-1,3-1,4-グルカンは、水溶性高分子として水に溶解することができることから、例えば、イネ科植物の穀類粉末に、水、温水、熱水若しくは塩溶液、更には酸若しくはアルカリ性の水溶液、又は有機溶媒等を用いて、対粉末2~100倍量(質量基準)の溶媒にて任意の時間及び任意の温度で抽出することができる。更に抽出液を固液分離してβ-1,3-1,4-グルカンを得ることができる。これらのなかでもでも、水、温水又は熱水で抽出された水溶性β-1,3-1,4-グルカンが好ましく、温度4℃以上80℃以下の温水で抽出された水溶性β-1,3-1,4-グルカンがより好ましい。更に抽出時に抽出促進剤等を加えることもできる。
【0016】
具体的には、例えば、大麦又はオーツ麦から高分子量のβ-1,3-1,4-グルカンを得る方法として、多ろう質大麦を原料とし、水抽出により製造する方法(例えば特公平4-11197号公報等参照)、大麦又はオーツ麦を原料として、アルカリ抽出、中和又はアルコール沈殿により、重量平均分子量10万~100万の水溶性βグルカンを得る方法(例えば特公平6-83652号公報等参照)、搗精歩留まり82%以下の大麦糠類を原料として、80~90℃の熱水にて水溶性βグルカンを抽出する方法(例えば特開平11-225706号公報等参照)等が挙げられる。
【0017】
また、得られたβ-1,3-1,4-グルカンを更に公知の方法で低分子化することもできる。上記のβ-1,3-1,4-グルカンを低分子化する方法としては、公知である多糖類の加水分解反応の何れもが利用可能である。例えば、水溶性多糖類は、酸存在下に加圧加熱により加水分解することが知られており、これを利用して低分子化することができる。また、酵素による加水分解反応を利用した低分子化も有効であり、このような酵素としては、1,3-βグルカナーゼ等を用いることができる。更にまた、WO98/13056号公報又は特開2002-97203号公報等に記載の方法により、低分子化された水溶性βグルカンを、原料穀物から直接抽出することにより得ることもできる。また、特開2002-105103号公報に記載の抽出促進剤等を使用してもよい。
【0018】
本発明のβグルカン含有組成物におけるβ-1,3-1,4-グルカン含量は、McCleary法(酵素法)によって測定することができる。例えば、β-1,3-1,4-グルカン含量測定キット(型番K-BGLU、メガザイム社製)を用いて測定することができる。先ず、500μm(30メッシュ)のふるいにかけた測定サンプルについて、赤外線水分計(型番FD-230、Kett社製)を用いて予め水分含量を測定し、無水物質量W(mg)を算出する。これとは別に、この測定サンプル10mgを17mlチューブに取り、50%(v/v)エタノール溶液を200μl加え、分散させる。次に4mlの20mMリン酸緩衝液(pH6.5)を加え、よく混合した後、煮沸した湯浴中にて1分間加温する。よく混合し、更に2分間、湯浴中で加熱する。遠心分離にて上清を得て、50℃に冷却後、5分間放置してから、各チューブにリケナーゼ酵素溶液(キットに付属するバイアルを20mlの20mMリン酸緩衝液で希釈、残量は凍結保存)の200μl(10U)を加え、50℃にて1時間反応させる。チューブに200mM酢酸緩衝液(pH4.0)を5ml加えて、静かに混合する。室温に5分間放置し、遠心分離にて上清を得る。上清100μlを3本のチューブに取り、1本には100μlの50mM酢酸緩衝液(pH4.0)を、他の2本には100μl(0.2U)のβグルコシターゼ溶液(キットに付属するバイアルを20mlの50mM酢酸緩衝液で希釈、残量は凍結保存)を加え、50℃にて10分間反応させる。3mlのグルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ溶液を加えて、50℃にて20分間反応させ、各サンプルの510nmにおける吸光度(EA)を測定する。これとは別に、グルコース100μgを含む3mlのグルコースオキシダーゼ/ペルオキシダーゼ溶液の吸光度(EG)を測定する。これらの測定結果から、次式によりβ-1,3-1,4-グルカン含量は求められる。
β-1,3-1,4-グルカン含量(%,w/w)=(EA)×(F/W)×8.46式中、F及びWは次の通りである。
F=(100)/(グルコース100μgの吸光度EG)
W=無水物質量(mg)
【0019】
本発明のβグルカン含有組成物は、β-1,3-1,4-グルカンに加え、単糖類及び二糖類を含有する。また、本発明のβグルカン含有組成物は、β-1,3-1,4-グルカン以外の成分(以下、他の成分ともいう)を含有する場合がある。しかしながら、本明細書においては、単糖類、二糖類及び他の成分の種類や含量については特定していない。その理由は下記の通りである。
穀物等からβ-1,3-1,4-グルカンを抽出する際にβ-1,3-1,4-グルカンを単離することは困難であり、抽出されたβ-1,3-1,4-グルカンには、単糖類、二糖類、及び、他の成分が含まれる。穀物等に含まれる単糖類、二糖類、及び、他の成分は抽出に使用する穀物によって種類及びその含有割合が異なる。また、抽出方法によっても、β-1,3-1,4-グルカンに含まれる単糖類、二糖類、及び、他の成分の種類及びその含有割合が異なる。そうすると、抽出したβ-1,3-1,4-グルカンに含まれる単糖類、二糖類、及び、他の成分の種類及びその割合を特定することは困難であり、且つ非現実的である。そして、単糖類、二糖類、及び、他の成分の種類及びその含有割合に関わらず、β-1,3-1,4-グルカンを15~50質量%含有し、GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の割合が30~70%であり、単糖類の領域及び二糖類の領域が合計で10~50%であり、且つ単糖類の領域よりも二糖類の領域が大であるβグルカン含有組成物によれば本発明の前記課題を解決することができる。そのため、本明細書においては、βグルカン含有組成物における単糖類、二糖類、及び、他の成分やその含量は特定していない。上記他の成分としては、例えばアミロース、アミロペクチン、アラビノキシラン、キシログルカン等が挙げられる。
【0020】
本発明のβグルカン含有組成物は、GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、全ピークの総面積に対する標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の面積の割合が30~70%であり、単糖類の領域及び二糖類の領域の合計面積の割合が10~50%であり、且つ単糖類よりも二糖類の領域が大である必要がある。
【0021】
本発明のβグルカン含有組成物は、標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の面積の割合が、30~70%、好ましくは35~67%、より好ましくは40~65%である。標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の面積の割合が30%よりも小さかったり、70%よりも大きいと、本発明の効果が不十分となり、特にβグルカン含有組成物が甘味や雑味が強いものとなってしまう。
【0022】
また、本発明のβグルカン含有組成物は、GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、全ピークの総面積に対する単糖類の領域及び二糖類の領域の合計面積の割合が10~50%、好ましくは12~40%、更に好ましくは14~30%、最も好ましくは16~25%である。単糖類の領域及び二糖類の領域の合計面積の割合が10%未満であると、βグルカン含有組成物は溶解性・分散性が劣ったものになり、用途が極めて限定されたものとなってしまうほか、雑味の強いものとなる場合がある。また、単糖類の領域及び二糖類の領域の合計面積の割合が50%超であると、βグルカン含有組成物の甘味が強くなりすぎ、その用途が限定されてしまう。
【0023】
また、本発明のβグルカン含有組成物は、GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、単糖類の領域の面積よりも二糖類の領域の面積が大であることが必要である。好ましくは「二糖類の領域の面積/単糖類の領域の面積」が1.1~5、より好ましくは1.3~3、更に好ましくは1.5~2.5である。単糖類の領域の面積よりも二糖類の領域の面積が大きくないと、βグルカン含有組成物が溶解性が乏しいものとなったり、甘味や雑味が強いものとなり用途が大きく限定されてしまう。
なお、単糖類及び二糖類のピークはグルコース等の単糖類標準品やマルトース等の二糖類標準品と比較することで容易に分析することができる。具体的には、後述する方法で分析することができる。
【0024】
本発明のβグルカン含有組成物は、GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、全ピークの総面積に対する標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000未満の領域の割合が10~60%であることが好ましく、15~50%であることがより好ましく、20~45%であることが更に好ましく、20~40%が最も好ましい。
【0025】
本発明のβグルカン含有組成物は、GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、全ピークの総面積に対する標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量200000超の領域の割合が30%未満が好ましく、25%未満がより好ましく、20%未満が更に好ましく、15%未満が最も好ましい。200000を超える領域の割合は30%未満であると、溶解性が一層良好となる。
【0026】
GPC測定により得られたクロマトグラムにおいて、標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の割合及び単糖類の領域及び二糖類の領域の合計割合が上述の範囲となり、且つ単糖類の領域と二糖類の領域との関係が上述の関係を満たすβグルカン含有組成物は、例えば、上述した抽出方法によって、穀物からβ-1,3-1,4-グルカンを抽出するときに、抽出条件を適切に設定することによって得ることができる。例えば、大麦の粉砕物を水に分散させた後、大麦の粉砕物に糖質分解酵素を作用させることによって、上記βグルカン含有組成物を得ることができる。大麦の粉砕物はβ-1,3-1,4-グルカンの含量が高めてあると効率よく上記βグルカン含有組成物を製造できるため、分級により予め大麦の粉砕物のβ-1,3-1,4-グルカン含量を高めたり、β-1,3-1,4-グルカン含量の高い大麦粉砕物を用いることがより好ましい。糖質分解酵素は大麦に含まれる成分を低分子化できるものであれば適宜用いることができる。糖質分解酵素はアミラーゼ、セルラーゼ、又はアミラーゼ及びセルラーゼを含んでいることが好ましい。なお、酵素の添加量はその活性によって適宜設定することができる。大麦の粉砕物に糖質分解酵素を作用させて得られた反応液から固形分を除去し、水溶液を粉末化することで、本発明のβグルカン含有組成物を得ることができる。
【0027】
なお、GPCにおける各分子量領域は、上記したGPC測定により得られたクロマトグラムから、全体の領域の面積に対する標準β-1,3-1,4-グルカン換算分子量1000~200000の領域の面積割合、標準β-1,3-1,4-グルカン換算分子量1000以下の領域の面積割合として算出するものとする。上記標準β-1,3-1,4-グルカン換算分子量1000~200000の領域とは、標準β-1,3-1,4-グルカン換算分子量1000と標準β-1,3-1,4-グルカン換算分子量200000に挟まれた領域をいうものとし、標準β-1,3-1,4-グルカン換算分子量1000以下の領域とは、標準β-1,3-1,4-グルカン換算分子量1000と0で挟まれた領域をいうものとする。
【0028】
なお、上記クロマトグラムにおける割合は、β-1,3-1,4-グルカンのみの数値ではなく、β-1,3-1,4-グルカン以外の成分をあわせた本発明のβグルカン含有組成物としての値である。
【0029】
本明細書中、上記GPC測定、重量平均分子量及び数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準β-1,3-1,4-グルカン(メガサイム社製)換算の分子量であり、具体的には、以下の装置及びカラムで測定した値を採用する。
【0030】
・装置 EcoSEC HLC8320GPC(東ソー株式会社)
・カラム TSK GEL G6000PWXL(東ソー)-Shodex Sugar SB-802(昭和電工)
GPCの条件としては、例えば、下記の条件を採用することができる。
・溶離液 Milli-Q水によるイソクラチック溶出
・流速 0.5ml/min
・測定温度 60℃(カラム、インレット、RI)
・検出 RIによる検出(45℃)
・分析時間 60分
・試料濃度 1mg/ml
・サンプル注入量 50μl
・GPC解析ソフト(HLC8320GPC、EcoSECデータ解析Ver.1.07、東ソー株式会社)
【0031】
標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の面積は、具体的には下記の手順で測定することができる。
先ず、β-1,3-1,4-グルカンの分子量と溶出時間との関係を示す検量線を作成する。具体的には、β-1,3-1,4-グルカン(「β-Glucan MW Standards」、Megazyme社、分子量35000~650000)、ラミナリオリゴ糖[2~5](Megazyme社)及びグルコース(和光純薬社)を用いて検量線を作成する。「β-Glucan MW Standards」はβ-1,3-1,4-グルカンの標準物質として使用されるものである。ラミナリオリゴ糖[2~5]及びグルコースは、分子量35000未満の領域の補正物質として使用されるものである。そして、得られた検量線のデータをGPC解析ソフトに入力する。
次いで、上記装置及びカラムを用いて、βグルカン含有組成物のクロマトグラムを作成する。クロマトグラムでは、例えば、
図1に示す通り、縦軸に検出強度(mV)をとり、横軸に溶出時間をとる。次いで、GPC解析ソフトを用いて、クロマトグラムの全ピークの総面積を算出する。クロマトグラムの全ピークの総面積は、クロマトグラムに現れた全てのピークのピーク面積の総和である。また、
図1に示す通り、得られたクロマトグラムにおける、分子量200000のβ-1,3-1,4-グルカンの溶出時間T
1及び分子量1000のβ-1,3-1,4-グルカンの溶出時間T
2間の領域Xの面積をGPC解析ソフトを用いて算出し、標準β-1,3-1,4-グルカン換算の分子量1000~200000領域の面積Xとする。そして、得られた面積Xを全ピークの総面積で除して得られた値に100を掛けることにより、クロマトグラムの全ピークの総面積に対する領域Xの面積の割合を算出する。上記の面積の算出は、クロマトグラムにおけるベースラインを、溶離液のみの状態を基準として、時間軸に平行に引くことによって設定し、そのベースラインを基準に算出する。
【0032】
また、単糖類の領域の面積及び多糖類の領域の面積は下記の通り算出する。
単糖類標準品を用いて、GPC分析における単糖類の溶出時間を特定する。そのデータを、βグルカン含有組成物のクロマトグラムの作成に先立ち、その時間をGPC解析ソフトに入力する。次いで、βグルカン含有組成物のクロマトグラムを上述の通り作成する。次いで、GPC解析ソフトを用いて、得られたクロマトグラムにおける単糖類が溶出した時間の領域の面積を上記と同様に算出し、単糖類の領域の面積とする。二糖類についても同様にして、二糖類の領域の面積を算出する。そして、得られた単糖類の領域の面積及び二糖類の領域の面積の合計値を全ピークの総面積で除して得られた値に100を掛けることにより、クロマトグラムの全ピークの総面積に対する、単糖類の領域及び二糖類の領域の総面積の割合を算出する。
単糖類のピークの特定するために用いられる単糖類標準品としては、例えば、グルコース(和光純薬社)を用いることができる。二糖類のピークの特定するために用いられる二糖類標準品としては、例えば、マルトース(和光純薬社)、セロビオース(Megazyme社)、ラミナリビオース(Megazyme社)を用いることができる。
【0033】
次に、本発明の飲食品について説明する。
本発明の飲食品は、上記本発明のβグルカン含有組成物を含有するものである。本発明の飲食品における本発明のβグルカン含有組成物の含量は飲食品の種類によって適宜決めることができ、特に制限されるものではない。具体的には、本発明の飲食品は本発明のβグルカン含有組成物を、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1~15質量%、更に好ましくは1.5~10質量%含有する。
【0034】
上記本発明のβグルカン含有組成物を含有させる飲食品としては特に制限されるものではなく、全ての飲食品に配合することができる。飲食品としては、例えば、油脂食品、穀類食品、菓子類、蓄肉加工品、水産加工品、乳製品、飲料、調味料・ソース類、スープ類、長期保存食品、粉末食品、薬用食品、離乳食等の育児用食品、流動食等の病人食、老人食、ダイエット食、サプリメント、電子レンジ加熱食品、電子レンジ調理食品、その他、ジャム、ピーナッツバター、ふりかけ等が挙げられる。
【0035】
具体的には、限定されるものではないが、例えば、以下のような食品を例示することができる。
【0036】
油脂食品としては、マーガリン、ショートニング、マヨネーズ、クリーム、サラダオイル、揚油、ホイップクリーム、起泡性乳化脂、ドレッシング、ファットスプレッド、カスタードクリーム、ディップクリーム等が挙げられる。
【0037】
穀類食品としては、小麦粉を主成分とした食品、米類を主成分とした食品、米加工品、小麦加工品、トウモロコシ加工品、大豆加工品等が挙げられ、例えば、食パン、菓子パン、パイ・デニッシュ等のベーカリー製品、ホットケーキ、ドーナッツ、ピザ、天ぷら等、更にそれらのプレミックス、ビスケット、クッキー、スナック等の菓子類、生麺、乾麺、即席麺、カップ麺、うどん、蕎麦、中華麺、ビーフン、パスタ類等の麺類、炊飯米、餅、無菌米飯、レトルト炊飯米、上新粉、餅粉、団子、せんべい、あられ等の米製品が挙げられる。
【0038】
菓子類としては、上記穀類食品としての菓子類のほか、チョコレート、キャンディー・ドロップ、飴、チューインガム、焼き菓子、ケーキ、饅頭等の洋菓子又は和菓子等が挙げられる。
【0039】
畜肉加工品としては、ハム・ソーセージ、ハンバーグ等が挙げられる。
水産加工品としては、ちくわ、かまぼこ、さつま揚げ、魚肉ソーセージ等が挙げられる。
乳製品としては、バター、チーズ、アイスクリーム、ヨーグルト等が挙げられる。
【0040】
飲料としては、ビール、日本酒、ウイスキー、ブランデー、洋酒、焼酎、蒸留酒、発泡酒、ワイン、果実酒等のアルコール飲料、コーヒー、紅茶、日本茶、ウーロン茶、中国茶、ココア、炭酸飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンク、コーヒードリンク、炭酸飲料、乳酸菌飲料、果汁・果実飲料等の飲料が挙げられる。
調味料・ソース類としては、スパイス、タレ、焼肉のタレ、ドレッシング、ソース、味噌、醤油、カレー、ハヤシ等のルーが挙げられる。
スープ類としては、コーンスープ、ポテトスープ、パンプキンスープ等が挙げられる。
【0041】
長期保存食品としては、水産物、畜肉、果実、野菜、キノコ、コーンビーフ、ジャム、トマト等の缶詰又は瓶詰め、冷凍食品等が挙げられ、また、カレー、シチュー、ミートソース、マーボ豆腐、食肉野菜混合煮、スープ、米飯等のレトルト食品が挙げられる。
粉末食品としては、飲料、スープ、味噌汁等の粉末インスタント食品等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0043】
〔比較例1〕
<βグルカン含有組成物の調製>
比較例1のβグルカン含有組成物Aの調製
大麦(β-1,3-1,4-グルカン含量:10%)の粉砕物1000gを5リットルの水で60℃・3時間撹拌した。遠心分離した後、上澄み液を-20℃で凍結させ、続いて溶液を融解させ、溶液中のβグルカンを含有する固形分を濾過し乾燥した。収量は26gであった。これを比較例1のβグルカン含有組成物Aとした。
比較例1のβグルカン含有組成物Aにける「β-1,3-1,4-グルカンの含量」は、β-1,3-1,4-グルカン含量測定キット(型番K-BGLU)(メガザイム社製)を用いてMcCleary法(酵素法)を利用して測定した。また、分子量領域の割合(「分子量1000~200000の領域の割合」、「分子量1000未満の領域の割合」、「分子量200000超の領域の割合」及び二糖類、単糖類の割合)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準β-1,3-1,4-グルカン(メガサイム社製)換算の分子量、及び割合であり、具体的には、以下の装置及びカラムで測定した値を採用した。結果を〔表1〕に示す。(以下、実施例1及び2並びに比較例2及び3のβグルカン含有組成物B~Eについても同じ)
【0044】
・装置 EcoSEC HLC8320GPC(東ソー株式会社)
・カラム TSK GEL G6000PWXL(東ソー)-Shodex Sugar SB-802(昭和電工)
GPCの条件としては、例えば、下記の条件を採用することができる。
・溶離液 Milli-Q水によるイソクラチック溶出
・流速 0.5ml/min
・測定温度 60℃(カラム、インレット、RI)
・検出 RIによる検出(45℃)
・分析時間 60分
・試料濃度 1mg/ml
・サンプル注入量 50μl
・GPC解析ソフト(HLC8320GPC、EcoSECデータ解析 Ver.1.07、東ソー株式会社)
【0045】
〔実施例1〕
実施例1のβグルカン含有組成物Bの調製
大麦(β-1,3-1,4-グルカン含量:20%)の粉砕物1000gを9リットルの水に分散させ、セルラーゼ(セルクラスト1.5L、ノボザイム社)を35ユニット添加した後、60℃で3時間反応させた。反応液を遠心分離し、上清を凍結乾燥して粉末を302g得た。得られた粉末を実施例1のβグルカン含有組成物Bとした。
【0046】
〔実施例2〕
実施例2のβグルカン含有組成物Cの調製
大麦(β-1,3-1,4-グルカン含量:10%)の粉砕物1000gを9リットルの水に分散させ、セルラーゼ(セルクラスト1.5L、ノボザイム社)を35ユニット添加した後、60℃で3時間反応させた。反応液を遠心分離し、上清を凍結乾燥して粉末を185g得た。得られた粉末を実施例2のβグルカン含有組成物Cとした。
【0047】
〔比較例2〕
比較例2のβグルカン含有組成物Dの調製
大麦(β-1,3-1,4-グルカン含量:4%)の粉砕物1000gを9リットルの水に分散させ、α-アミラーゼ(αアミラーゼ60、エイチビイアイ社)を50,000U/gを0.1g添加した後、60℃で3時間反応させた。反応液を遠心分離し、上清を凍結乾燥して粉末を261g得た。得られた粉末を比較例2のβグルカン含有組成物Dとした。
【0048】
〔比較例3〕
比較例3のβグルカン含有組成物Eの調製
大麦(β-1,3-1,4-グルカン含量:20%)の粉砕物1000gを9リットルの水に分散させ、α-アミラーゼ(Fungamyl800L、ノボザイム社)を54,000ユニット添加した後、60℃で7時間反応させた。反応液を遠心分離し、上清を凍結乾燥して粉末を398g得た。得られた粉末を比較例3のβグルカン含有組成物Eとした。
【0049】
【0050】
<βグルカン含有組成物の評価>
溶解性評価
水100gに対して、実施例1及び2並びに比較例1~3のβグルカン含有組成物A~Eの何れかを0.5gを添加し、室温(25℃)で撹拌し、未溶解物の有無を下記基準で判断し、分散容易性について評価した。結果を[表2]に示す。
A:10分以内に均一に溶解した
B:15分以内に均一に溶解した
C:20分以内に均一に溶解した
D:不溶物が残った
【0051】
【0052】
呈味評価
水100gに対して、実施例1及び2並びに比較例1~3のβグルカン含有組成物A~Eの何れか3gを添加し、60℃で10分間保持して、均一に溶解させ、水溶液A~Eを得た。(ローマ字は、使用したβグルカン含有組成物に対応。)
続いて、10人の専門パネラーに対し、上記水溶液A~Eを舐めさせ、その呈味について、下記パネラー評価基準により4段階評価させ、その合計点数について
合計点が18点以上のものをA+、14~17点のものをA、11~13点のものをB、6~10点のものをC、5点以下のものをDとして結果を[表3]に記載した。
【0053】
<評価基準>
・雑味
2点:雑味を感じない
1点:大麦由来の雑味をわずかに感じる
0点:大麦由来の雑味を強く感じる
・甘味
2点:甘味を感じない
1点:わずかに甘味を感じる
0点:強い甘味を感じる
【0054】
【0055】
飲食品の製造例
〔実施例3及び比較例4〕
実施例1のβグルカン含有組成物B又は比較例3のβグルカン含有組成物Eの何れか10gを水200gに溶解させ、150gの米を家庭用電子炊飯器を用いて炊飯し、実施例3及び比較例4のβグルカン含有炊飯米B及びEを得た。また、150gの米に水200gを加え、同様に炊飯しβグルカンを含有しない炊飯米を得た。
比較例3のβグルカン含有組成物Eを使用した比較例4のβグルカン含有炊飯米Eはやや甘味と雑味が感じられたのに対し、実施例1のβグルカン含有組成物Bを使用した実施例3のβグルカン含有炊飯米B及びβグルカンを含有しない炊飯米は同等であった。
【0056】
[実施例4]
鍋に水200g、実施例1のβグルカン含有組成物Bを10g、だしの素を1g入れて混ぜ、中火にかけ、煮立ったら、1.5cm角の豆腐75g、乾燥カットわかめ1gを加えてひと煮立ちさせた。その後、味噌12gを煮汁で溶きのばしながら加え、小口切りしたねぎ5gを加えてサッと煮て、実施例1のβグルカン含有組成物Bを含有する飲食品である実施例4の味噌汁Bを得た。
一方、実施例1のβグルカン含有組成物Bを入れない以外は上記と同様にして通常の味噌汁を得た。
得られた本発明の味噌汁Bと通常の味噌汁を比較試食したところ、味噌汁Bに甘味や雑味は感じられず、両者はほぼ同等の味質であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、β-1,3-1,4-グルカンを多く含みながらも水溶性が良好であり、大麦由来の特有の雑味が抑えられ、また甘味や異味・雑味の少ない、幅広い飲食品へ利用可能なβグルカン含有組成物を得ることができる。