IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

特許7194821コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法
<>
  • 特許-コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法 図1
  • 特許-コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法 図2
  • 特許-コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法 図3
  • 特許-コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法 図4
  • 特許-コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法 図5
  • 特許-コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法 図6
  • 特許-コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】コレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20221215BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021519343
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017531
(87)【国際公開番号】W WO2020230579
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2019090936
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】篠田 克己
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522601(JP,A)
【文献】国際公開第2018/212348(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0140837(US,A1)
【文献】特開2018-84679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0205182(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0373459(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0143438(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層であって、
前記コレステリック液晶層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、かつ、
走査型電子顕微鏡によって観察される前記コレステリック液晶層の断面において、前記コレステリック液晶相に由来する明部および暗部が、前記コレステリック液晶層の主面に対して、80°以上、傾斜しており、かつ、
前記液晶化合物の少なくとも一部が、前記コレステリック液晶層の主面に対して傾斜していることを特徴とするコレステリック液晶層。
【請求項2】
前記液晶配向パターンにおける、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが180°回転する長さを1周期Λとした際に、前記1周期Λが1μm以下である、請求項1に記載のコレステリック液晶層。
【請求項3】
前記1周期Λが0.6μm以下である、請求項2に記載のコレステリック液晶層。
【請求項4】
前記液晶化合物の傾斜配向を安定化させる傾斜配向剤を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のコレステリック液晶層。
【請求項5】
液晶化合物由来の光学軸の向きを、面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化させる配向パターンを有する配向膜に、液晶化合物、光の照射によって螺旋誘起力が低下するキラル剤、および、前記液晶化合物の傾斜配向を安定化させる傾斜配向剤を含有する液晶組成物を塗布する塗布工程、
前記液晶組成物を加熱することによって、前記液晶化合物をコレステリック液晶相に配向させる加熱工程、
前記液晶組成物に光を照射することによって、前記キラル剤の螺旋誘起力を低下させる第1露光工程、および、
前記液晶組成物に光を照射することによって、前記液晶組成物を硬化する第2露光工程、を行うことを特徴とするコレステリック液晶層の形成方法。
【請求項6】
前記キラル剤が、イソソルビド構造を有する、請求項5に記載のコレステリック液晶層の形成方法。
【請求項7】
前記第1露光工程と第2露光工程とで、異なる波長の光を照射する、請求項5または6に記載のコレステリック液晶層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレステリック液晶層、および、このコレステリック液晶層を好適に形成できるコレステリック液晶層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AR(Augmented Reality(拡張現実))グラスが実用化されている。ARグラスは、スマートグラス、ヘッドマウントディスプレイ(HMD(Head Mounted Display))、および、ARメガネ等とも呼ばれている。
ARグラスでは、一例として、回折素子を用いて、ディスプレイからの光(投影光)を回折(屈折)させて導光板の一方の端部に入射する。これにより、角度を付けて導光板に光を導入して、導光板内で光を全反射して伝播させる。導光板を伝播した光は、導光板の他方の端部において同じく回折素子によって回折されて、導光板から、使用者による観察位置に出射される。
【0003】
ARグラスに利用される、導光板に角度をつけて光を入射させる回折素子の一例として、特許文献1に記載される、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を用いる反射構造体が例示される。
この反射構造体は、各々が所定方向に沿って延びる複数の螺旋状構造体を備えている。また、この反射構造体は、所定方向に交差すると共に、光が入射する第1入射面と、この所定方向に交差すると共に、第1入射面から入射した光を反射する反射面とを有し、第1入射面は、複数の螺旋状構造体のそれぞれの両端部のうちの一方端部を含む。また、複数の螺旋状構造体の各々は、所定方向に沿って連なる複数の構造単位を含み、この複数の構造単位は、螺旋状に旋回して積み重ねられた複数の要素を含む。また、複数の構造単位の各々は、第1端部と第2端部とを有し、所定方向に沿って互いに隣接する構造単位のうち、一方の構造単位の第2端部は、他方の構造単位の第1端部を構成し、かつ、複数の螺旋状構造体に含まれる複数の第1端部に位置する要素の配向方向は揃っている。さらに、反射面は、複数の螺旋状構造体のそれぞれに含まれる少なくとも1つの第1端部を含むものであり、かつ、第1入射面に対して非平行となっている。
【0004】
特許文献1に記載される反射構造体(コレステリック液晶層)は、要するに、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するものである。特許文献1に記載されるコレステリック液晶層は、このような液晶配向パターンを有することにより、第1入射面に対して、非平行な反射面を有する。
一般的なコレステリック液晶層は、入射した光を鏡面反射する。
これに対して、特許文献1に記載される反射構造体は、鏡面反射ではなく、入射した光を、鏡面反射に対して所定の方向に角度を持たせて反射する。例えば、特許文献1に記載されるコレステリック液晶層によれば、法線方向から入射した光を、法線方向に反射するのではなく、法線方向に対して角度を有して反射する。
従って、この光学素子を用いることで、ディスプレイによる画像を回折させて、角度を付けて導光板に光を導入して、導光板内で光を導光できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/066219号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるコレステリック液晶層を用いる反射構造体によれば、コレステリック液晶層によって入射した円偏光を回折して、入射方向に対して、円偏光を傾けて反射できる。また、特許文献1に記載される反射構造体は、コレステリック液晶層を用いるものであるので、特定の波長域の特定の円偏光の光を、選択的に回折して反射できる。
【0007】
ここで、ARグラス等の装置の構成および大きさ等によっては、反射ではなく、透過光を回折させることで角度を付けて導光板に光を導入して、導光板内で光を導光させる方が、好ましい場合も有る。
しかしながら、透過によって、特定の波長域の特定の円偏光の光を選択的に回折させることができる光学素子は、非常に少ない。
【0008】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、特定の波長域の特定の円偏光の光を選択的に回折できる、透過型の液晶回折素子が得られるコレステリック液晶層、および、このコレステリック液晶層を好適に形成できるコレステリック液晶層の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層であって、
コレステリック液晶層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、かつ、
走査型電子顕微鏡によって観察されるコレステリック液晶層の断面において、コレステリック液晶相に由来する明部および暗部が、コレステリック液晶層の主面に対して、80°以上、傾斜していることを特徴とするコレステリック液晶層。
[2] 液晶配向パターンにおける、液晶化合物由来の光学軸の向きが180°回転する長さを1周期Λとした際に、1周期Λが1μm以下である、[1]に記載のコレステリック液晶層。
[3] 1周期Λが0.6μm以下である、[2]に記載のコレステリック液晶層。
[4] 液晶化合物の傾斜配向を安定化させる傾斜配向剤を有する、[1]~[3]のいずれかに記載のコレステリック液晶層。
[5] 液晶化合物由来の光学軸の向きを、面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化させる配向パターンを有する配向膜に、液晶化合物、光の照射によって螺旋誘起力が低下するキラル剤、および、液晶化合物の傾斜配向を安定化させる傾斜配向剤を含有する液晶組成物を塗布する塗布工程、
液晶組成物を加熱することによって、液晶化合物をコレステリック液晶相に配向させる加熱工程、
液晶組成物に光を照射することによって、キラル剤の螺旋誘起力を低下させる第1露光工程、および、
液晶組成物に光を照射することによって、液晶組成物を硬化する第2露光工程、を行うことを特徴とするコレステリック液晶層の形成方法。
[6] キラル剤が、イソソルビド構造を有する、[5]に記載のコレステリック液晶層の形成方法。
[7] 第1露光工程と第2露光工程とで、異なる波長の光を照射する、[5]または[6]に記載のコレステリック液晶層の形成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコレステリック液晶層によれば、特定の波長域の特定の円偏光の光を選択的に回折できる、透過型の液晶回折素子を得られる。また、本発明のコレステリック液晶層の形成方法によれば、このコレステリック液晶層を好適に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のコレステリック液晶層を利用する液晶回折素子の一例を概念的に示す図である。
図2図2は、図1に示すコレステリック液晶層の概略平面図である。
図3図3は、図1にコレステリック液晶層の断面SEM画像を概念的に示す図である。
図4図4は、図1にコレステリック液晶層の作用を説明するための概念図である。
図5図5は、従来のコレステリック液晶層を概念的に示す図である。
図6図6は、配向膜を露光する露光装置の一例の概念図である。
図7図7は、実施例において、回折を確認するための装置を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のコレステリック液晶層、および、コレステリック液晶層の形成方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0013】
本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
【0014】
図1に、本発明のコレステリック液晶層を利用する液晶回折素子の一を概念的に示す。
図1に示す液晶回折素子10は、支持体12と、配向膜14と、コレステリック液晶層16とを有する。
コレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を固定してなるものであり、本発明のコレステリック液晶層である。本発明において、コレステリック液晶層16は、液晶化合物40に由来する光学軸40Aの向きが、面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する(図2参照)。
また、コレステリック液晶層16は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した断面において、コレステリック液晶相に由来する明部および暗部が、主面に対して80°以上、傾斜している(図3参照)。なお、主面とは、シート状物(フィルム、板状物、層)の最大面である。
本発明のコレステリック液晶層16(液晶回折素子10)は、このような構成を有することにより、透過によって、特定の波長域(波長帯域)の特定の円偏光を回折することができる。
【0015】
[支持体]
液晶回折素子10において、支持体12は、配向膜14およびコレステリック液晶層16を支持するものである。
【0016】
支持体12は、配向膜14およびコレステリック液晶層16を支持できるものであれば、各種のシート状物が利用可能である。
なお、支持体12は、対応する光に対する透過率が50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、85%以上であるのがさらに好ましい。
なお、対応する光とは、コレステリック液晶層16が選択的に回折(反射)する所定の波長域の所定の円偏光の光である。ただし、所定の波長域には、斜め入射で生じる対応波長域の短波長化、いわゆるブルーシフト(短波シフト)による変動分も含む。
【0017】
支持体12の厚さには、制限はなく、液晶回折素子10の用途、液晶回折素子10に要求される可撓性または剛性、液晶回折素子10に要求される厚差、および、支持体12の形成材料等に応じて、配向膜14およびコレステリック液晶層を保持できる厚さを、適宜、設定すればよい。
支持体12の厚さは、1~1000μmが好ましく、3~250μmがより好ましく、5~150μmがさらに好ましい。
【0018】
支持体12は単層であっても、多層であってもよい。
単層である場合の支持体12としては、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、および、ポリオレフィン等の樹脂材料からなる支持体12が例示される。多層である場合の支持体12の例としては、前述の単層の支持体のいずれか等を基板として含み、この基板の表面に他の層を設けたもの等が例示される。
【0019】
<配向膜>
液晶回折素子10において、支持体12の表面には配向膜14が形成される。
配向膜14は、コレステリック液晶層16を形成する際に、液晶化合物40を所定の液晶配向パターンに配向するための配向膜14である。
後述するが、本発明のコレステリック液晶層16は、液晶化合物40に由来する光学軸40A(図2参照)の向きが、面内の一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する。従って、配向膜14は、コレステリック液晶層16が、この液晶配向パターンを形成できるように、形成される。
以下の説明では、『光学軸40Aの向きが回転』を単に『光学軸40Aが回転』とも言う。
【0020】
配向膜14は、公知の各種のものが利用可能である。
例えば、ポリマー等の有機化合物からなるラビング処理膜、無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、ならびに、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチル等の有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB(Langmuir-Blodgett:ラングミュア・ブロジェット)膜を累積させた膜、等が例示される。
【0021】
ラビング処理による配向膜14は、ポリマー層の表面を紙または布で一定方向に数回こすることにより形成できる。
配向膜14に使用する材料としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-097377号公報、特開2005-099228号公報、および、特開2005-128503号公報記載の配向膜14等の形成に用いられる材料が好ましい。
【0022】
本発明のコレステリック液晶層16を形成するための配向膜14は、光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜14とした、いわゆる光配向膜が好適に利用される。すなわち、本発明においては、配向膜14として、支持体12上に、光配向材料を塗布して形成した光配向膜が、好適に利用される。
偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向または斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0023】
本発明に利用可能な配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-076839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号公報および特許第4151746号公報に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報および特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号および特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報および特許第4162850号などに記載の光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミドおよび光架橋性ポリエステル、ならびに、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、国際公開第2010/150748号、特開2013-177561号公報および特開2014-012823号公報などに記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物およびクマリン化合物等が、好ましい例として例示される。
中でも、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミド、光架橋性ポリエステル、シンナメート化合物、および、カルコン化合物は、好適に利用される。
【0024】
配向膜14の厚さには制限はなく、配向膜14の形成材料に応じて、必要な配向機能を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。配向膜14の厚さは、0.01~5μmが好ましく、0.05~2μmがより好ましい。
【0025】
配向膜14の形成方法には、制限はなく、配向膜14の形成材料に応じた公知の方法が、各種、利用可能である。一例として、配向膜14を支持体12の表面に塗布して乾燥させた後、配向膜14をレーザー光によって露光して、配向パターンを形成する方法が例示される。
【0026】
図6に、配向膜14を露光して、配向パターン(図2参照)を形成する露光装置の一例を概念的に示す。
図6に示す露光装置60は、レーザー62を備えた光源64と、レーザー62が出射したレーザー光Mの偏光方向を変えるλ/2板65と、レーザー62が出射したレーザー光Mを光線MAおよびMBの2つに分離する偏光ビームスプリッター68と、分離された2つの光線MAおよびMBの光路上にそれぞれ配置されたミラー70Aおよび70Bと、λ/4板72Aおよび72Bと、を備える。
なお、光源64は直線偏光P0を出射する。λ/4板72Aおよび72Bは、互いに平行な光学軸を備えている。λ/4板72Aは、直線偏光P0(光線MA)を右円偏光PRに、λ/4板72Bは直線偏光P0(光線MB)を左円偏光PLに、それぞれ変換する。
【0027】
配向パターンを形成される前の配向膜14を有する支持体12が露光部に配置され、2つの光線MAと光線MBとを配向膜14上において交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜14に照射して露光する。
この際の干渉により、配向膜14に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これにより、配向膜14において、配向状態が周期的に変化する配向パターンが得られる。
露光装置60においては、2つの光線MAおよびMBの交差角αを変化させることにより、配向パターンの周期を調節できる。すなわち、露光装置60においては、交差角αを調節することにより、液晶化合物40に由来する光学軸40Aが一方向に向かって連続的に回転する配向パターンにおいて、光学軸40Aが回転する1方向における、光学軸40Aが180°回転する1周期の長さを調節できる。具体的には、後述する図2に示す矢印X方向における、1周期Λを調節できる。
このような配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する配向膜14上に、コレステリック液晶層を形成することにより、後述するように、液晶化合物40に由来する光学軸40Aが一方向に向かって連続的に回転する液晶配向パターンを有する、コレステリック液晶層を形成できる。
また、λ/4板72Aおよび72Bの光学軸を、それぞれ、90°回転することにより、光学軸40Aの回転方向を逆にすることができる。
【0028】
なお、本発明の光学素子において、配向膜14は、好ましい態様として設けられるものであり、必須の構成要件ではない。
例えば、支持体12をラビング処理する方法、支持体12をレーザー光等で加工する方法等によって、支持体12に配向パターンを形成することにより、コレステリック液晶層が、液晶化合物40に由来する光学軸40Aの向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する構成とすることも、可能である。すなわち、本発明においては、支持体12を配向膜として作用させてもよい。
【0029】
<コレステリック液晶層>
液晶回折素子10において、配向膜14の表面には、コレステリック液晶層16が形成される。
コレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を固定してなるものである。すなわち、コレステリック液晶層16は、コレステリック構造を有する液晶化合物40(液晶材料)からなる層である。
コレステリック液晶層16は、本発明のコレステリック液晶層である。
【0030】
コレステリック液晶相は、液晶化合物40が螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有し、液晶化合物40が螺旋状に1回転(360°回転)して積み重ねられた構成を螺旋1ピッチとして、螺旋状に旋回する液晶化合物40が、複数ピッチ、積層された構造を有する。すなわち、螺旋1ピッチとは、図1に示すピッチPである。
螺旋1ピッチとは、言い換えれば、螺旋の巻き数1回分の長さであり、すなわち、コレステリック液晶相を構成する液晶化合物のダイレクター(棒状液晶であれば長軸方向)が360°回転する螺旋軸方向の長さである。
【0031】
ここで、図3に概念的に示すように、コレステリック液晶層は、SEMで観察した断面において、コレステリック液晶相に由来して、明部(明線)と暗部(暗線)との縞模様が観察される。すなわち、コレステリック液晶層の断面では、明部と暗部とを交互に積層した層状構造が観察される。
なお、通常のコレステリック液晶層では、図5に概念的に示すように、明部および暗部は、主面と平行であり、厚さ方向に交互に積層される。これに対して、本発明のコレステリック液晶層16は、図3に示すように、明部および暗部は、主面に対して80°以上、傾斜している。すなわち、本発明のコレステリック液晶層16は、図3における角度θが80°以上である。この点に関しては、後に詳述する。
コレステリック液晶相では、明部と暗部との繰り返し2回分が、螺旋1ピッチに相当する。明部と暗部の繰り返し2回分とは、暗部3つ、および、明部2つ分である。または、明部と暗部の繰り返し2回分とは、明部3つ、および、暗部2つ分である。このことから、コレステリック液晶層すなわち螺旋1ピッチの長さ(ピッチP)は、SEM断面図から測定することができる。
【0032】
<<コレステリック液晶相>>
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。
一般的なコレステリック液晶相では、選択反射の中心波長λ(選択反射中心波長λ)は、コレステリック液晶相における螺旋1ピッチの長さであるピッチP(図1図3および図5参照)に依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、ピッチPを調節することで、選択反射中心波長を調節することができる。
コレステリック液晶相の選択反射中心波長は、ピッチPが長いほど、長波長になる。
【0033】
コレステリック液晶相の螺旋ピッチは、コレステリック液晶層を形成する際に、液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、および、キラル剤の添加濃度に依存する。従って、これらを調節することによって、所望の螺旋ピッチを得ることができる。
なお、ピッチPの調節については富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載される方法を用いることができる。
【0034】
コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶層の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
図1に示すコレステリック液晶層16は、螺旋の捩れ方向が左であるので、選択的な波長帯域において、左円偏光を反射する。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類および/または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0035】
選択反射を示す選択反射波長域(円偏光反射波長域)の半値幅Δλ(nm)は、コレステリック液晶相のΔnと螺旋のピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射波長域(選択的な反射波長域)の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。Δnは、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類およびその混合比率、ならびに、配向固定時の温度により調節できる。
反射波長域の半値幅は、光学積層体の用途に応じて調節される。反射波長域の半値幅は、例えば10~500nmであればよく、好ましくは20~300nmであり、より好ましくは30~100nmである。
【0036】
<<コレステリック液晶層の液晶配向パターン>>
本発明のコレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を形成する液晶化合物40に由来する光学軸40A(図2参照)の向きが、コレステリック液晶層の面内において、一方向に連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
なお、液晶化合物40に由来する光学軸40Aとは、液晶化合物40において屈折率が最も高くなる軸、いわゆる遅相軸である。例えば、液晶化合物40が棒状液晶化合物である場合には、光学軸40Aは、棒形状の長軸方向に沿っている。以下の説明では、液晶化合物40に由来する光学軸40Aを、『液晶化合物40の光学軸40A』または『光学軸40A』ともいう。
【0037】
図2に、コレステリック液晶層16の平面図を概念的に示す。
なお、平面図とは、図1において、コレステリック液晶層16(液晶回折素子10)を上方から見た図であり、すなわち、液晶回折素子10を厚さ方向から見た図である。厚さ方向とは、各層(膜)の積層方向である。
また、図2では、本発明のコレステリック液晶層16における液晶配向パターンを明確に示すために、配向膜14の表面の液晶化合物40のみを示している。なお、配向膜14の表面とは、コレステリック液晶層16の配向膜14との接触部である。
【0038】
図2に示すように、配向膜14の表面において、コレステリック液晶層16を構成する液晶化合物40は、下層の配向膜14に形成された配向パターンに応じて、矢印Xで示す所定の一方向、および、この一方向(矢印X方向)と直交する方向に、二次元的に配列された状態になっている。
以下の説明では、矢印X方向と直交する方向を、便宜的にY方向とする。すなわち、図1図3および後述する図4では、Y方向は、紙面に直交する方向となる。
また、コレステリック液晶層16を形成する液晶化合物40は、配向膜14の表面では、コレステリック液晶層16の面内において、矢印X方向に沿って、光学軸40Aの向きが、連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有する。図示例においては、液晶化合物40の光学軸40Aが、矢印X方向に沿って、反時計回りで連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有する。
【0039】
液晶化合物40の光学軸40Aの向きが矢印X方向(所定の一方向)に連続的に回転しながら変化しているとは、具体的には、矢印X方向に沿って配列されている液晶化合物40の光学軸40Aと、矢印X方向とが成す角度が、矢印X方向の位置によって異なっており、矢印X方向に沿って、光学軸40Aと矢印X方向とが成す角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで、順次、変化していることを意味する。
なお、矢印X方向に互いに隣接する液晶化合物40の光学軸40Aの角度の差は、45°以下が好ましく、15°以下がより好ましく、より小さい角度がさらに好ましい。
【0040】
一方、配向膜14の表面では、コレステリック液晶層16を形成する液晶化合物40は、矢印X方向と直交するY方向、すなわち、光学軸40Aが連続的に回転する一方向と直交するY方向では、光学軸40Aの向きが等しい。
言い換えれば、コレステリック液晶層16を形成する液晶化合物40は、Y方向では、液晶化合物40の光学軸40Aと矢印X方向とが成す角度が等しい。
【0041】
本発明の液晶回折素子10においては、このような液晶化合物40の液晶配向パターンにおいて、面内で光学軸40Aが連続的に回転して変化する矢印X方向において、液晶化合物40の光学軸40Aが180°回転する長さ(距離)を、液晶配向パターンにおける1周期の長さΛとする。すなわち、矢印X方向に対する角度が等しい2つの液晶化合物40の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。
具体的には、図1および図2に示すように、矢印X方向と光学軸40Aの方向とが一致する2つの液晶化合物40の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。以下の説明では、この1周期の長さΛを『1周期Λ』とも言う。
本発明の液晶回折素子10において、コレステリック液晶層の液晶配向パターンは、配向膜14の表面では、この1周期Λを、矢印X方向すなわち光学軸40Aの向きが連続的に回転して変化する一方向に繰り返す。
【0042】
<<コレステリック液晶層の特性>>
面内に液晶配向パターンを有さない通常のコレステリック液晶層は、入射した円偏光を鏡面反射する。
これに対して、面内(配向膜の表面)において、矢印X方向に沿って光学軸40Aが連続的に回転する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層は、鏡面反射に対して、入射した円偏光を、矢印X方向またはX方向とは逆に傾いた方向に反射する。
以下、左円偏光を選択的に反射するコレステリック液晶層を例に、この作用について説明する。
【0043】
矢印X方向に沿って光学軸40Aが連続的に回転する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層に入射した左円偏光は、コレステリック液晶層によって反射される際に、各液晶化合物40の光学軸40Aの向きに応じて絶対位相が変化する。
ここで、このコレステリック液晶層では、液晶化合物40の光学軸40Aが矢印X方向(一方向)に沿って回転しながら変化している。そのため、光学軸40Aの向きによって、入射した左円偏光の絶対位相の変化量が異なる。
さらに、コレステリック液晶層に形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンである。そのため、このコレステリック液晶層に入射した左円偏光には、それぞれの光学軸40Aの向きに対応して、矢印X方向とは逆方向に周期的な絶対位相が与えられる。
また、液晶化合物40の光学軸40Aの矢印X方向に対する向きは、矢印X方向と直交するY方向の液晶化合物40の配列では、均一である。
これにより、矢印X方向に沿って光学軸40Aが連続的に回転する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層では、左円偏光に対して、XY面に対して矢印X方向に上昇するように傾いた等位相面が形成される。等位相面は、螺旋状に旋回する液晶化合物40における光学軸40Aの向きが旋回方向で一致している液晶化合物40を接続するように形成される。
コレステリック液晶層では、この等位相面が反射面のように作用する。そのため、液晶化合物40の光学軸40Aが矢印X方向に沿って反時計回りしている、左円偏光を反射するコレステリック液晶層では、入射した左円偏光を、鏡面反射に対して、矢印X方向とは逆に傾いた方向に反射する。
【0044】
上述のように、コレステリック液晶相では、SEMで観察する断面において、コレステリック液晶相に由来して、明部と暗部との縞模様が観察される。
コレステリック液晶相の明部および暗部は、螺旋状に旋回する液晶化合物40における、光学軸40Aの向きが旋回方向で一致している液晶化合物40を接続するように形成される。すなわち、明部および暗部は、上述した等位相面と一致する。
従って、コレステリック液晶層では、この明部および暗部を反射面として鏡面反射するように、入射した特定の円偏光を反射する。
【0045】
ここで、通常のコレステリック液晶層の明部および暗部は、図5に示すように、主面すなわち形成面である配向膜の表面と平行になる。
【0046】
これに対して、本発明のコレステリック液晶層16は、配向膜14の表面において、矢印X方向に沿って光学軸40Aが連続的に回転する液晶配向パターンを有する。
上述のように、コレステリック液晶層16は、この液晶配向パターンを形成可能な、配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する配向膜14上に形成される。コレステリック液晶層16は、配向膜14の表面では、配向膜14に形成された配向パターンにおける1周期Λの周期構造によって、液晶化合物40の配列が決まる。
一方、コレステリック液晶層16は、厚さ方向では、螺旋1ピッチ(ピッチP)が後述するキラル剤の添加量に応じた長さとなるように、液晶化合物40を螺旋状に捩じる構造を形成する。
【0047】
すなわち、本発明のコレステリック液晶層16では、液晶化合物40が、厚さ方向の螺旋状に捩じろうとする周期と、配向膜14の表面における回転周期との、両者に応じた周期構造を作ろうとする。
そのため、液晶化合物の光学軸が一方向に向かって連続的に回転する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層16では、面方向の周期構造と厚さ方向の周期構造とでバランスを取るために、図1に示すように、液晶化合物40が傾斜し、かつ、液晶化合物の配列が傾くことで、一番、熱的に安定な状態を作ろうとする。
また、その結果、図3に概念的に示すように、コレステリック液晶層16では、コレステリック液晶相に起因する明部および暗部も、主面に対して傾斜する。図示例では、明部および暗部は、矢印X方向に向かって、下方(配向膜14側)から上方(空気界面側)に向かって立ち上がったように傾斜する。
【0048】
本発明のコレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相に起因する明部および暗部が、コレステリック液晶層16の主面に対して、80°以上、傾斜している。すなわち、本発明のコレステリック液晶層16は、明部および暗部と、コレステリック液晶層16の主面とが成す角度θが、80°以上である。
このような明部および暗部の傾斜角を有する、本発明のコレステリック液晶層16の作用を、図4の概念図を例示して説明する。
【0049】
このようなコレステリック液晶層16に、図4に示すように、例えば図中左側下方(配向膜14側)から右側上方に向かうように、選択的な反射波長域の左円偏光L1が入射したとする。
上述のように、選択的な反射波長域の左円偏光L1は、明部および暗部を反射面とするように鏡面反射される。また、コレステリック液晶層16は、明部および暗部と、コレステリック液晶層16の主面とが成す角度θが80°以上である。
そのため、図中左側下方から右側上方に向かうように入射した左円偏光L1は、明部および暗部を反射面とするように鏡面反射されて、図4に示すように、入射側に戻される図中左側上方に進んで、上方(空気界面側)に抜けるように、コレステリック液晶層16を透過する。すなわち、左円偏光L1は、入射面(配向膜14側)に戻されるように反射されるのではなく、入射側に戻される図中左側の上方に向かって上方に抜けるように、コレステリック液晶層16を透過する。
【0050】
逆に、図中右側下方から左側上方に向かうように、選択的な反射波長域の左円偏光L2が入射した場合にも、左円偏光L2は、明部および暗部を反射面とするように鏡面反射されて、入射面に戻されるように反射されるのではなく、入射方向に戻される図中右側に向かって上方に抜けるように、コレステリック液晶層16を透過する。
【0051】
コレステリック液晶相に由来する明部および暗部が大きく傾斜していても、コレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を固定してなるものである。
従って、コレステリック液晶層16は、明部および暗部を反射面とするように、螺旋1ピッチ(ピッチP)に対応する特定の波長域の、液晶化合物40の螺旋の捩じれ方向(螺旋のセンス)に応じた特定の円偏光のみを選択的に反射する。
また、図4に破線で示すように、コレステリック液晶層16は、円偏光以外の光、選択的な波長域以外の円偏光、および、旋回方向が逆の円偏光には、何の光学的な作用も与えることなく透過させる。
そのため、本発明のコレステリック液晶層16によれば、透過によって、特定の波長域の特定の円偏光を選択的に回折することができる。言い換えれば、本発明のコレステリック液晶層によれば、特定の波長域の特定の円偏光を選択的に回折する、透過型の液晶回折素子を得られる。
【0052】
なお、図4においては、コレステリック液晶層16における反射の作用を分かり易くするために、便宜的に、明部と暗部との境界を反射面のように示している。
しかしながら、本発明のコレステリック液晶層16における特定の波長域における特定の所定の円偏光の反射(回折)の作用は、基本的に、公知のコレステリック液晶層と同様である。
【0053】
なお、本発明のコレステリック液晶層16において、明部および暗部と、コレステリック液晶層16の主面とが成す角度θとは、コレステリック液晶層16の主面と、厚さ方向の中央を中心に、厚さ方向の50%の領域の明部および暗部とが成す角度である。
【0054】
本発明のコレステリック液晶層16においては、明部および暗部と、コレステリック液晶層16の主面とが成す角度θが、80°以上である。なお、角度θとは、明部および暗部と、コレステリック液晶層16の主面とが成す挟角側の角度であり、最大90°である。
この角度θが80°未満では、入射方向によっては、コレステリック液晶層によって反射され、入射面側に戻される成分が多くなってしまい、透過型の液晶回折素子として十分な性能を得ることが困難である。
明部および暗部と、コレステリック液晶層16の主面とが成す角度θは、85~90°が好ましい。
【0055】
明部および暗部と、コレステリック液晶層16の主面とが成す角度θは、基本的に、液晶配向パターンにおける1周期Λ(1周期Λの長さ)と、コレステリック液晶相における螺旋1ピッチの長さピッチPとによって、決まる。
具体的には、1周期Λが短いほど、角度θは大きくなる。また、ピッチPが長いほど、角度θは大きくなる。従って、基本的に、1周期Λを短くし、かつ、ピッチPを長くすることで、角度θを80°以上として、上述したように、特定の波長域の特定の円偏光を選択的に回折する、透過型の液晶回折素子を得られる。
【0056】
液晶配向パターンにおける1周期Λには制限はないが、1μm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましく、0.4μm以下がさらに好ましい。
1周期Λを1μm以下とすることにより、明部および暗部と、コレステリック液晶層16の主面とが成す角度θを好適に80°以上にできる、より大きな回折角度が得られる等の点で好ましい。
なお、液晶配向パターンの形成の困難さ等を考慮すると、液晶配向パターンにおける1周期Λは、0.1μm以上であるのが好ましい。
【0057】
コレステリック液晶層16におけるピッチPは、コレステリック液晶層16すなわち液晶回折素子10が回折する光の波長に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明のコレステリック液晶層16では、入射光は、コレステリック液晶相に起因する明部および暗部に対して、斜めに入射する。そのため、コレステリック液晶層16が回折(反射)する光の波長域には、斜め入射で生じる対応波長域の短波長化、いわゆるブルーシフトが生じる。従って、ピッチPは、このブルーシフト分も考慮して設定するのが好ましい。
【0058】
本発明のコレステリック液晶層においては、矢印X方向に向かう液晶化合物40の光学軸40Aの回転方向を逆にすることで、明部および暗部の傾斜方向を逆にできる。すなわち、図1および図2においては、矢印X方向に向かう光学軸40Aの回転方向は反時計回りで、明部および暗部は、矢印X方向に向かって上昇するように傾斜する。
これに対して、矢印X方向に向かう光学軸40Aの回転方向を時計回りとすることで、明部および暗部は、傾斜が逆になり、矢印X方向に向かって降下するように傾斜する。この態様は、言い合えれば、光学軸40Aが反時計回りする矢印X方向を、逆方向にした場合と同様である。
さらに、上述したように、左円偏光を反射するコレステリック液晶層16と右円偏光を反射するコレステリック液晶層とでは、液晶化合物40の螺旋状の旋回方向が逆になる。従って、図示例のように矢印X方向に向かって光学軸40Aが反時計回りに回転する液晶配向パターンを有する場合には、右円偏光を反射するコレステリック液晶層では、明部および暗部の傾斜が逆になり、明部および暗部は、矢印X方向に向かって降下するように傾斜する。
【0059】
<<コレステリック液晶層の形成方法>>
コレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を層状に固定して形成できる。
コレステリック液晶相を固定した構造は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている構造であればよく、典型的には、重合性液晶化合物をコレステリック液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射、加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、外場または外力によって配向形態に変化を生じさせることない状態に変化した構造が好ましい。
なお、コレステリック液晶相を固定した構造においては、コレステリック液晶相の光学的性質が保持されていれば十分であり、コレステリック液晶層において、液晶化合物40は液晶性を示さなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、液晶性を失っていてもよい。
【0060】
コレステリック液晶層16の形成方法には、制限はなく、公知の形成方法が、各種、利用可能である。
特に、以下に示す本発明のコレステリック液晶層の形成方法は、本発明のコレステリック液晶層16を、安定して、好適に形成できるため、好ましく例示される。
【0061】
<<<液晶組成物>>>
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層16の形成に用いる材料は、一例として、液晶化合物、キラル剤および傾斜配向剤を含む液晶組成物が挙げられる。なお、傾斜配向剤とは、液晶化合物の傾斜配向を安定化させる添加剤である。キラル剤は、光の照射によって螺旋誘起力が低下するキラル剤を用いるのが好ましい。また、液晶化合物は重合性液晶化合物であるのが好ましい。
また、コレステリック液晶層の形成に用いる液晶組成物は、さらに界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0062】
--重合性液晶化合物--
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよい。
コレステリック液晶相を形成する棒状の重合性液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類等が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0063】
重合性液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、および、アジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基がより好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。重合性液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~3個である。
重合性液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、米国特許第5622648号明細書、米国特許第5770107号明細書、国際公開第95/022586号、国際公開第95/024455号、国際公開第97/000600号、国際公開第98/023580号、国際公開第98/052905号、特開平1-272551号公報、特開平6-016616号公報、特開平7-110469号公報、特開平11-080081号公報、および、特開2001-328973号公報等に記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0064】
また、上記以外の重合性液晶化合物としては、特開昭57-165480号公報に開示されているようなコレステリック相を有する環式オルガノポリシロキサン化合物等を用いることができる。さらに、前述の高分子液晶化合物としては、液晶を呈するメソゲン基を主鎖、側鎖、あるいは主鎖および側鎖の両方の位置に導入した高分子、コレステリル基を側鎖に導入した高分子コレステリック液晶、特開平9-133810号公報に開示されているような液晶性高分子、および、特開平11-293252号公報に開示されているような液晶性高分子等を用いることができる。
【0065】
--円盤状液晶化合物--
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報、および、特開2010-244038号公報等に記載のものを好ましく用いることができる。
【0066】
また、液晶組成物中の重合性液晶化合物の添加量は、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、75~99.9質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましく、85~90質量%がさらに好ましい。
【0067】
--キラル剤(光学活性化合物)--
キラル剤(カイラル剤)はコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル剤は、化合物によって誘起する螺旋の捩れ方向または螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
キラル剤としては、特に制限はなく、公知の化合物(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(twisted nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用キラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)、イソソルビド(イソソルビド構造を有するキラル剤)、および、イソマンニド誘導体等を用いることができる。
本発明のコレステリック液晶層の形成方法では、キラル剤は、光の照射によって、戻り異性化、二量化、ならびに、異性化および二量化等を生じて、螺旋誘起力(HTP:Helical Twisting Power)が低下するキラル剤が用いられる。
【0068】
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。キラル剤と液晶化合物とが、いずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であるのが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であるのが好ましく、不飽和重合性基であるのがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であるのがさらに好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0069】
キラル剤が光異性化基を有する場合には、塗布、配向後に活性光線等のフォトマスク照射によって、発光波長に対応した所望の反射波長のパターンを形成することができるので好ましい。光異性化基としては、フォトクロッミック性を示す化合物の異性化部位、アゾ基、アゾキシ基、または、シンナモイル基が好ましい。具体的な化合物として、特開2002-080478号公報、特開2002-080851号公報、特開2002-179668号公報、特開2002-179669号公報、特開2002-179670号公報、特開2002-179681号公報、特開2002-179682号公報、特開2002-338575号公報、特開2002-338668号公報、特開2003-313189号公報、および、特開2003-313292号公報等に記載の化合物を用いることができる。
【0070】
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、液晶化合物の含有モル量に対して0.01~200モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましい。
【0071】
--傾斜配向剤--
本発明のコレステリック液晶層の形成方法においては、コレステリック液晶層を形成する液晶組成物は、傾斜配向剤(垂直配向剤)を含有する。
傾斜配向剤とは、配向膜側あるいは空気界面側の少なくとも一方の界面にプレチルト角を有する領域を発現させることにより、液晶化合物の傾斜配向を安定化させるための添加物である。言い換えると、傾斜配向剤とは、液晶層の主面に対して、液晶化合物を傾斜して配向する場合に、液晶の傾斜配向を安定化させる効果を有する添加剤である。なお、この傾斜配向には、液晶層の主面に対して90°で配向する場合も含む。
【0072】
傾斜配向剤には制限はなく、上述した作用効果を発現する化合物が、各種、利用可能である。特に、液晶組成物を配向膜に塗布した際に、空気界面側にプレチルト角を持たせることができる、空気界面配向剤が好ましい。
好ましい傾斜配向剤(空気界面配向剤)として、以下に示す極性基を有するフッ素ポリマー(Y)が例示される。
【0073】
(フッ素系ポリマー(Y))
フッ素系ポリマー(Y)は、極性基を有するフッ素系のポリマーである。
ここで、極性基とは、ヘテロ原子を少なくとも1原子以上有する基をいい、具体的には、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、アンモニウム基、シアノ基等が挙げられる。中でも、水酸基、カルボキシ基が好ましい。
【0074】
本発明において、フッ素系ポリマー(Y)は、下記式(C)で表される構成単位を有するフッ素系ポリマーであるのが好ましい。
【0075】
【化1】
【0076】
(式(C)中、Mpはポリマー主鎖の一部を構成する3価の基を表し、L″は単結合または2価の連結基を表し、Yは極性基を表す。)
【0077】
式(C)中、Mpは、Mpは、3価の基であり、ポリマーの主鎖の一部を構成する。
Mpは、例えば、炭素数2~20(置換基の炭素数は含まない。以下、Mp中のものについて同様。)の置換もしくは無置換の長鎖もしくは分岐のアルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、および、ヘキシレン基等)、炭素数3~10の置換もしくは無置換の環状アルキレン基(例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、および、シクロヘキシレン基等)、置換もしくは無置換のビニレン基、置換もしくは無置換の環状ビニレン基、置換もしくは無置換のフェニレン基、酸素原子を含む基(例えば、エーテル基、アセタール基、エステル基、または、カルボネート基等を含む基)、窒素原子を含む基(例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、ウレタン基、ウレイド基、イミド基、イミダゾール基、オキサゾール基、ピロール基、アニリド基、または、マレインイミド基等を含む基)、硫黄原子を含む基(例えば、スルフィド基、スルホン基、または、チオフェン基等を含む基)、リン原子を含む基(例えば、ホスフィン基、または、リン酸エステル基等を含む基)、珪素原子を含む基(例えば、シロキサン基等を含む基)の基、または、これらの基を二つ以上連結して形成される基、であって、これらの基に含まれる水素原子の1つが-L-X基によって置換されている基が好適に挙げられる。
これらのうち、置換もしくは無置換のエチレン基、置換もしくは無置換のメチルエチレン基、置換もしくは無置換のシクロヘキシレン基、置換もしくは無置換のビニレン基、であって、これらの基に含まれる水素原子の1つが-L-X基によって置換されている基であるのが好ましく、なかでも、置換もしくは無置換のエチレン基、置換もしくは無置換のメチルエチレン基、置換もしくは無置換のビニレン基、であって、これらの基に含まれる水素原子の1つが-L-X基によって置換されている基であるのがより好ましく、置換もしくは無置換のエチレン基、置換もしくは無置換のメチルエチレン基、であって、これらの基に含まれる水素原子の1つが-L-X基によって置換されている基であるのがさらに好ましく、具体的には、後述する、Mp-1およびMp-2であるのが好ましい。
なお、上記Lは、単結合または2価の連結基を表す。Lで表される2価の連結基は特に制限されないが、例えば、後述するL″で表される2価の連結基として例示される基が挙げられる。
Xは、置換または無置換の縮合環官能基を表す。Xで表される置換または無置換の縮合環官能基の環数については特に制限はないが、2~5個の環が縮合した基であるのが好ましい。環を構成している原子が炭素原子のみである炭化水素系の芳香族縮合環のみならず、ヘテロ原子を環構成原子とするヘテロ環が縮合した芳香族縮合環であってもよい。
また、Xとしては、例えば、炭素数5~30の置換もしくは無置換のインデニル基、炭素数6~30の置換もしくは無置換のナフチル基、炭素数12~30の置換もしくは無置換のフルオレニル基、アントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、または、フェナントレニル基が好ましい。
【0078】
以下に、Mpの好ましい具体例を示すが、Mpはこれに限定されるものではない。また、Mp中の*で表される部位はLと連結する部位を表す。
【0079】
【化2】
【0080】
また、L″(単結合または2価の連結基)のうち、2価の連結基としては、*-L1-L3-(*は主鎖との連結位置を表す。)で表される2価の連結基であって、L1が、*-COO-、*-CONH-、*-OCO-、または、*-NHCO-を表し、かつ、L3が、炭素数2~20のアルキレン基、炭素数2~20のポリオキシアルキレン基、-C(=O)-、-OC(=O)O-、アリール基、または、これらの基が組み合わされた2価の連結基を表す、2価の連結基であるのが好ましい。
これらのうち、L″は、単結合;L1が、*-COO-で表され、L3が、アルキレン基、-OC(=O)O-およびアリール基が組み合わされた2価の連結基;L1が、*-COO-で表され、L3が、炭素数2~20のポリオキシアルキレン基で表される2価の連結基;であるのが好ましい。
【0081】
また、式(C)中のYで表される極性基としては、上述した通り、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、アンモニウム基、および、シアノ基等が挙げられる。極性基は、これらのうち、水酸基、カルボキシ基、および、シアノ基のいずれかであるのが好ましい。
【0082】
また、フッ素系ポリマー(Y)は、上記式(C)で表される構成単位とともに、例えば、フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位を有しているのが好ましく、具体的には、下記式(B)で表される構成単位を有しているのがより好ましい。
【0083】
【化3】
【0084】
式(B)中、Mpはポリマー主鎖の一部を構成する3価の基を表し、L′は単結合または2価の連結基を表し、Rfは少なくとも1つのフッ素原子を含有する置換基を表す。)
【0085】
式(B)中、Mpは、上記式(C)中のMpと同義であり、好ましい範囲も同義である。
また、L′(単結合または2価の連結基)のうち、2価の連結基としては、好ましくは、-O-、-NRa11-(但し、Ra11は水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基または炭素数6~20のアリール基を表す)、-S-、-C(=O)-、-S(=O)2-、および、炭素数1~20の置換または無置換のアルキレン基、ならびに、これらを2個以上連結して形成される基から選択される2価の連結基である。
2個以上連結して形成される2価の連結基としては、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、-C(=O)O(CH2maO-(但し、maは1~20の整数を表す)等が挙げられる。
【0086】
さらに、式(B)中のMpが、上述したMp-1またはMp-2を表す場合には、L′は、-O-、-NRa11-(Ra11は、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基を表す。)、-S-、-C(=O)-、-S(=O)2-、炭素数1~20の置換または無置換のアルキレン基、および、これらの2個以上を連結して形成される基から選択される2価の連結基であることが好ましく、-O-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-、および、これらの1以上とアルキレン基との組み合わせからなる基から選択される2価の連結基がより好ましい。
【0087】
Rfは、少なくとも一つのフッ素原子が置換した炭素数1~30の脂肪族炭化水素基(例えば、トリフルオロエチル基、パーフルオロヘキシルエチル基、パーフルオロヘキシルプロピル基、パーフルオロブチルエチル基、および、パーフルオロオクチルエチル基)等が好ましい例として挙げられる。また、Rfは、末端に、CF3基またはCF2H基を有することが好ましく、CF3基を有することがより好ましい。
【0088】
Rfとしてより好ましくは、末端にCF3基を有するアルキル基または末端にCF2H基を有するアルキル基である。末端にCF3基を有するアルキル基は、アルキル基に含まれる水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルキル基である。末端にCF3基を有するアルキル基中の水素原子の50%以上がフッ素原子で置換されているアルキル基が好ましく、60%以上が置換されているアルキル基がより好ましく、70%以上が置換されているアルキル基がさらに好ましい。残りの水素原子は、さらに後述の置換基群Dとして例示された置換基によって置換されていてもよい。
末端にCF2H基を有するアルキル基は、アルキル基に含まれる水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたアルキル基である。末端にCF2H基を有するアルキル基中の水素原子の50%以上がフッ素原子で置換されているのが好ましく、60%以上が置換されているのがより好ましく、70%以上が置換されているのがさらに好ましい。残りの水素原子は、さらに後述の置換基群Dとして例示された置換基によって置換されていてもよい。
【0089】
置換基群D
アルキル基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~12、さらに好ましくは炭素数1~8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、および、シクロヘキシル基等が挙げられる)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~12、さらに好ましくは炭素数2~8のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、2-ブテニル基、および、3-ペンテニル基等が挙げられる)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~12、さらに好ましくは炭素数2~8のアルキニル基であり、例えば、プロパルギル基、および、3-ペンチニル基等が挙げられる)、置換もしくは無置換のアミノ基(好ましくは炭素数0~20、より好ましくは炭素数0~10、さらに好ましくは炭素数0~6のアミノ基であり、例えば、無置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、および、ジエチルアミノ基等が挙げられる)、
【0090】
アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~12、さらに好ましくは炭素数1~8のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、および、ブトキシ基等が挙げられる)、アシル基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~16、さらに好ましくは炭素数1~12アシル基であり、例えば、アセチル基、ホルミル基、および、ピバロイル基等が挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~16、さらに好ましくは炭素数2~12のアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、および、エトキシカルボニル基等が挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~16、さらに好ましくは炭素数2~10のアシルオキシ基であり、例えば、アセトキシ基等が挙げられる)、
【0091】
アシルアミノ基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~16、さらに好ましくは炭素数2~10のアシルアミノ基であり、例えば、アセチルアミノ基等が挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~16、さらに好ましくは炭素数2~12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えば、メトキシカルボニルアミノ基等が挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~16、さらに好ましくは炭素数1~12のスルホニルアミノ基であり、例えば、メタンスルホニルアミノ基、および、エタンスルホニルアミノ基等が挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20、より好ましくは炭素数0~16、さらに好ましくは炭素数0~12のスルファモイル基であり、例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、および、ジメチルスルファモイル基等が挙げられる)、
【0092】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~16、さらに好ましくは炭素数1~12のアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、および、エチルチオ基等が挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~16、さらに好ましくは炭素数1~12のスルホニル基であり、例えば、メシル基、および、トシル基等が挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~16、さらに好ましくは炭素数1~12のスルフィニル基であり、例えば、メタンスルフィニル基、および、エタンスルフィニル基等が挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~16、さらに好ましくは炭素数1~12のウレイド基であり、例えば、無置換のウレイド基、および、メチルウレイド基等が挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~16、さらに好ましくは炭素数1~12のリン酸アミド基であり、例えば、ジエチルリン酸アミド基挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基(好ましくは炭素数3~40、より好ましくは炭素数3~30、さらに好ましくは炭素数3~24のシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基等が挙げられる)が含まれる。これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。また、置換基が二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0093】
末端にCF3基を有するアルキル基又は末端にCF2H基を有するアルキル基の例を以下に示す。
R1:n-C817
R2:n-C613
R3:n-C49
R4:n-C817-(CH22
R5:n-C613-(CH23
R6:n-C49-(CH22
R7:H-(CF28
R8:H-(CF26
R9:H-(CF24
R10:H-(CF28-(CH22
R11:H-(CF26-(CH23
R12:H-(CF24-(CH22
R13:n-C715-(CH22
R14:n-C613-(CH23
R15:n-C49-(CH22
【0094】
以下に、フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0095】
【化4】
【0096】
【化5】
【0097】
フッ素系ポリマー(Y)は、上記式(C)で表される構造を含有する構成単位、および、上記式(B)で表される、フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される構成単位の他、これらの構成単位を形成するモノマーと共重合可能なモノマーより誘導される構成単位を含有してもよい。
共重合可能なモノマーとしては、本発明の趣旨を逸脱しない限り、特に制限はない。好ましいモノマーとしては、例えば、炭化水素系ポリマー、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカルボナート、ポリアミド、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリウレタン、および、ポリウレイドを構成するモノマーで等が、溶媒への溶解度を向上させたり、ポリマーの凝集を防止する観点で好ましく用いることができる。炭化水素系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリマレインイミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、および、ポリアクリルアニリド等が例示される。
さらに、主鎖構造が、上記式(C)で表される基が構成するものと、同一となる構成単位が好ましい。
【0098】
以下に共重合可能な構成単位の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。特に、C-2、C-3、C-10、C-11、C-12、および、C-19が好ましく、C-11およびC-19がさらに好ましい。
【0099】
【化6】
【0100】
【化7】
【0101】
フッ素系ポリマー(Y)における、上記式(C)で表される構成単位の含有率としては、フッ素系ポリマー(Y)の全構成単位に対して、45質量%以下であるのが好ましく、1~20質量%であるのがより好ましく、2~10質量%であるのがさらに好ましい。
また、フッ素系ポリマー(Y)における、フルオロ脂肪族基含有モノマーより誘導される繰り返し単位(好ましくは上記式(B)で表される構成単位)の含有率は、フッ素系ポリマー(Y)の全構成単位に対して、55質量%以上が好ましく、80~99質量%がより好ましく、90~98質量%がさらに好ましい。上記2種以外の構成単位の含有率としては、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0102】
また、フッ素系ポリマー(Y)は、各構成単位が不規則的に導入されたランダム共重合体であっても、規則的に導入されたブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体である場合の各構成単位は、如何なる導入順序で合成されたものであってもよく、同一の構成成分を2度以上用いてもよい。
また、上記式(C)で表される構成単位、上記式(B)で表される構成単位等は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。上記式(C)の構成単位を2種以上含む場合には、Yが同一極性基であるのが好ましい。2種類以上の場合、上記含有率は、合計含有率である。
【0103】
さらに、フッ素系ポリマー(Y)の分子量範囲は、重量平均分子量(Mw)で、10000~35000が好ましく、15000~30000がより好ましい。
ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて、ポリスチレン(PS)換算の値として測定可能である。
【0104】
コレステリック液晶層を形成する液晶組成物においては、上述したフッ素系ポリマー(Y)を含む傾斜配向剤(空気界面配合剤)の含有量は、液晶組成物の全固形分に対して0.2~10質量%が好ましく、0.2~5質量%がより好ましく、0.2~3質量%がさらに好ましい。
【0105】
--その他の成分--
本発明の液晶組成物には、上述した液晶化合物、キラル剤および傾斜配向剤以外の成分が含まれていてもよい。
《重合開始剤》
液晶組成物には、重合開始剤が含まれていてもよい。紫外線照射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。
光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、米国特許第2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、米国特許第2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、ならびに、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
液晶組成物中の光重合開始剤の含有量は、液晶化合物の含有量に対して0.1~20質量%が好ましく、0.5~12質量%がより好ましい。
【0106】
また、液晶組成物には、塗工膜の均一性、膜の強度の点から、重合性モノマーが含まれていてもよい。
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性またはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の円盤状液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002-296423号公報明細書中の段落番号[0018]~[0020]記載のものが挙げられる。
重合性モノマーの添加量は、液晶化合物100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。
【0107】
《界面活性剤》
コレステリック液晶層を形成する際に用いる液晶組成物は、塗工膜の均一性、膜の強度の点から、界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤は、安定的にまたは迅速にプレーナー配向のコレステリック液晶相とするために寄与する配向制御剤として機能できる化合物が好ましい。界面活性剤としては、例えば、シリコ-ン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤が好ましく例示される。
【0108】
界面活性剤の具体例としては、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物、特開2012-203237号公報の段落[0031]~[0034]に記載の化合物、特開2005-099248号公報の段落[0092]および[0093]中に例示されている化合物、特開2002-129162号公報の段落[0076]~[0078]および段落[0082]~[0085]中に例示されている化合物、ならびに、特開2007-272185号公報の段落[0018]~[0043]等に記載のフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、等が挙げられる。
なお、界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
フッ素系界面活性剤として、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載の化合物が好ましい。
【0109】
液晶組成物中における、界面活性剤の添加量は、液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%がさらに好ましい。
【0110】
《溶媒》
液晶組成物は、コレステリック液晶層を形成する際には、液体として用いられるのが好ましい。これに対応して、液晶組成物は溶媒を含んでいてもよい。
溶媒には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有機溶媒が好ましい。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N-ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、および、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン)が含まれる。中でも、アルキルハライドおよびケトンが好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0111】
《オニウム塩》
コレステリック液晶層を形成する液晶組成物は、配向膜上に塗布した際に、配向膜側でプレチルト角を有する領域を設けるため、オニウム塩の少なくとも一種を含有することが好ましい。オニウム塩は配向膜界面側において棒状液晶化合物の分子に一定のプレチルト角を付与させるのに寄与する。オニウム塩の例には、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩が含まれる。好ましくは、4級オニウム塩であり、特に好ましくは第4級アンモニウム塩である。
【0112】
第4級アンモニウム塩は、一般に、第3級アミン、あるいは、含窒素複素環を、アルキル化(メンシュトキン反応)、アルケニル化、アルキニル化、あるいは、アリール化して得られる。第3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N,N-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、および、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等が例示される。含窒素複素環としては、ピリジン環、ピコリン環、2,2’-ビピリジル環、4,4’-ビピリジル環、1,10-フェナントロリン環、キノリン環、オキサゾール環、チアゾール環、N-メチルイミダゾール環、ピラジン環、および、テトラゾール環等が例示される。
コレステリック液晶層を形成する液晶組成物中のオニウム塩の含有量は、その種類によって好ましい含有量が変動する。通常は、併用される棒状液晶化合物の含有量に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.05~7質量%がより好ましく、0.05~5質量%がさらに好ましい。オニウム塩は二種類以上用いてもよいが、かかる場合は、使用する全種類のオニウム塩の含有量の合計が前述の範囲であるのが好ましい。
【0113】
《架橋剤》
液晶組成物は、硬化後の膜強度向上、耐久性向上のため、任意に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、紫外線、熱、および、湿気等で硬化するものが好適に使用できる。
架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレートおよびエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]および4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネートおよびビウレット型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ならびに、ビニルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物等が挙げられる。また、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いることができ、膜強度および耐久性向上に加えて生産性を向上させることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋剤の含有量は、液晶組成物の固形分質量に対して、3~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲内であれば、架橋密度向上の効果が得られやすく、コレステリック液晶相の安定性がより向上する。
【0114】
《その他の添加剤》
コレステリック液晶層を形成する液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学的性能等を低下させない範囲で添加することができる。
【0115】
<<<コレステリック液晶層の形成>>>
コレステリック液晶層16を形成する際には、コレステリック液晶層の形成面に液晶組成物を塗布して、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態に配向した後、液晶化合物を硬化して、コレステリック液晶層とするのが好ましい。
コレステリック液晶層の形成は、以下に示す、本発明の形成方法で行うのが好ましい。
すなわち、上述した液晶配向パターンに応じた、光学軸40Aの向きを、面内の少なくとも一方向に沿って回転させる配向パターンを有する配向膜14を用意する。ここで、液晶配向パターンにおける1周期Λは、1μm以下であるのが好ましいので、配向膜14も、これに応じた配向パターンとするのが好ましい。
この配向膜14に、上述した液晶化合物、光の照射によってHTP(螺旋誘起力)が低下するキラル剤、および、傾斜配向剤を含む液晶組成物を塗布する(塗布工程)。
液晶組成物の塗布は、インクジェットおよびスクロール印刷等の印刷法、ならびに、スピンコート、バーコートおよびスプレー塗布等のシート状物に液体を一様に塗布できる公知の方法が全て利用可能である。また、液晶組成物の塗膜厚には、制限はなく、形成するコレステリック液晶層16の膜厚に応じて、適宜、設定すればよい。
【0116】
液晶組成物の塗膜を形成したら、次いで、液晶組成物を加熱処理する加熱工程を行う。加熱工程によって、液晶化合物40を上述した配向状態とする。
加熱処理の温度には、制限はなく、液晶化合物40等に応じて、液晶化合物40をコレステリック液晶相に配向できる温度を、適宜、設定すればよい。加熱処理の温度は、25~140℃が好ましく,50~120℃がより好ましく、60~100℃がさらに好ましい。
また、加熱処理時間にも、制限はないが、10~600秒が好ましく、15~300秒がより好ましく、30~200秒がさらに好ましい。
【0117】
加熱工程を終了したら、キラル剤のHTPを低下させるための第1露光工程を行い、その後、液晶組成物を硬化するための第2露光工程を行う。
本発明のコレステリック液晶層の形成方法では、光の照射によってHTPが低下するキラル剤、および、上述した傾斜配向剤を含有する液晶組成物を用い、かつ、液晶化合物をコレステリック液晶相に配向した後、キラル剤のHTPを低下させる第1露光工程を行った後に、液晶組成物を硬化するための第2露光工程を行う。
本発明の形成方法では、これにより、明部および暗部と主面とがなす角度θが80°以上である本発明のコレステリック液晶層を、安定して形成することができる。
【0118】
上述のように、明部および暗部と主面とがなす角度θは、液晶配向パターンにおける1周期Λが短いほど、また、コレステリック液晶相における螺旋1ピッチの長さであるピッチPが長いほど、大きくなる。
従って、明部および暗部と主面とがなす角度θを80°以上とするためには、コレステリック液晶相におけるピッチPが長いほど、有利である。本発明の形成方法では、光の照射によってHTPが低下するキラル剤を用い、このような2段階の露光を行うことで、第1露光工程においてピッチPを伸長して、明部および暗部と主面とがなす角度θを好適に80°以上にできる。
【0119】
ここで、上述のように、明部および暗部と主面とがなす角度θは、基本的に、液晶配向パターンにおける1周期Λ、および、コレステリック液晶相におけるピッチPによって、決まる。従って、角度θが80°以上のコレステリック液晶層を形成するためには、1周期Λを短くし、かつ、ピッチPを長くすればよい。
ところが、角度θが80°以上のコレステリック液晶層は、液晶化合物40の傾斜配向が不安定であり、明部および暗部の傾斜が1周期ΛおよびピッチPに応じたものにならない場合も多い。加えて角度θが80°以上のコレステリック液晶層は、明部同士および/または暗部同士の結合、明部および/または暗部の途中での切断、明部および/または暗部の枝分かれ、ならびに、急激な屈曲等の明部および暗部の乱れ等が生じて、適正なコレステリック液晶層が得られない場合も多い。
これに対して、本発明のコレステリック液晶層の形成方法では、液晶組成物が傾斜配向剤を含有する。これにより、特に空気界面側において、液晶化合物40のチルト角を向上すると共に、液晶化合物40の傾斜配向を安定化して、明部および暗部と主面とがなす角度θが80°以上の適正なコレステリック液晶層16を、安定して形成できる。
【0120】
すなわち、本発明のコレステリック液晶層の形成方法では、光の照射によってHTPが低下するキラル剤および傾斜配向剤を含有する液晶組成物を用い、第1露光工程においてピッチPを伸長して、第2露光工程において液晶組成物の硬化を行う、2段階の露光を行う。本発明のコレステリック液晶層の形成方法は、このような構成を有することにより、明部および暗部と主面とがなす角度θを80°以上である、本発明のコレステリック液晶層を安定して形成にできる。
【0121】
露光に用いる光には、制限はないが、紫外線を用いるのが好ましい。照射する紫外線の波長は250~430nmが好ましい。なお、第1露光工程と第2露光工程とは、異なる波長の光を用いるのが好ましい。すなわち、第1露光工程では、液晶組成物を硬化しない波長の光を用いるのが好ましい。
照射エネルギーは、合計で2mJ/cm2~50J/cm2が好ましく、5~1500mJ/cm2がより好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下または窒素雰囲気下で露光を実施してもよい。
【0122】
本発明の形成方法によって形成するコレステリック液晶層16の膜厚には、制限はなく、コレステリック液晶層16の選択反射中心波長、コレステリック液晶層16に要求される回折効率(反射率)等に応じて、適宜、設定すればよい。
本発明の形成方法によって形成するコレステリック液晶層16の膜厚は、1.0μm以上が好ましく、2.0μm以上がより好ましい。本発明の形成方法によって形成するコレステリック液晶層16の膜厚の上限は、6μm程度である。
【0123】
上述した液晶回折素子10は、本発明のコレステリック液晶層16を1層のみ有するものであるが、本発明は、これに制限はされない。すなわち、本発明のコレステリック液晶層を用いる液晶回折素子は、2層以上のコレステリック液晶層を有してもよい。
例えば、本発明のコレステリック液晶層を用いる液晶回折素子は、赤色光を選択的に回折するコレステリック液晶層および緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層を有する、2層のコレステリック液晶層を有するものでもよい。また、本発明のコレステリック液晶層を用いる液晶回折素子は、赤色光を選択的に回折するコレステリック液晶層、緑色光を選択的に回折するコレステリック液晶層、および、緑色光を選択的に回折するコレステリック液晶層を有する、3層のコレステリック液晶層を有するものでもよい。
本発明のコレステリック液晶層を用いる液晶回折素子が、複数層のコレステリック液晶層を有する場合には、全てのコレステリック液晶層が本発明のコレステリック液晶層16であるのが好ましいが、液晶配向パターンのみを有する本発明のコレステリック液晶層16以外の通常のコレステリック液晶層を含むものでもよい。
【0124】
以上、本発明のコレステリック液晶層およびコレステリック液晶層の形成方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例
【0125】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0126】
[実施例1]
(配向膜の形成)
支持体としてガラス基材を用意した。
支持体上に、下記の配向膜形成用塗布液を、スピンコータを用いて、2500rpmにて30秒間塗布した(塗布工程)。この配向膜形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を60℃のホットプレート上で60秒間乾燥し(乾燥工程)、配向膜を形成した。
【0127】
配向膜形成用塗布液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
下記光配向用素材 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0128】
-光配向用素材-
【化8】
【0129】
(配向膜の露光(露光工程))
図7に示す露光装置を用いて配向膜を露光して、配向パターンを有する配向膜を形成した。
露光装置において、レーザーとして波長(325nm)のレーザー光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を300mJ/cm2とした。なお、2つのレーザー光の干渉により形成される配向パターンの1周期Λ(光学軸が180°回転する長さ)が、0.25μmとなるように、2つの光の交差角(交差角α)を82.4°に調節した。
【0130】
(コレステリック液晶層の形成)
コレステリック液晶層を形成する液晶組成物として、下記の液晶組成物を調製した。
液晶組成物
―――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤I-2 3.00質量部
傾斜配向剤T-2 0.20質量部
キラル剤Ch-1 3.00質量部
キラル剤Ch-2 1.00質量部
メチルエチルケトン(溶媒) 321.60質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0131】
液晶化合物L-1
【化9】
【0132】
重合開始剤I-2
【化10】
【0133】
傾斜配向剤T-1
【化11】
【0134】
キラル剤Ch-1
【化12】
【0135】
キラル剤Ch-2
【化13】
【0136】
<螺旋誘起力(HTP)の測定>
キラル剤Ch-2をMerck社製のZLI-1132中に溶解し、Grandgean-Cano法により、くさび形セルを用いて、キラル剤Ch-2の初期のHTPを求めた。Merck社製のZLI-1132は、キラル剤のHTPを測定するときのホスト液晶として用いている。
また、同様のキラル剤Ch-2のHTPの測定を、超高圧水銀ランプを用いて光反応を起こさせて行った。反応(HTPの変化)が定常状態になった時の値を、光反応後のキラル剤Ch-2のHTPとした。これらの値は「キラル剤/ZLI-1132のモル比」をベースにして計算した。
その結果、キラル剤Ch-2の初期のHTPは54μm-1、光反応後のHTPは8μm-1であった。
【0137】
配向膜上に、上記の液晶組成物を、スピンコータを用いて、800rpmで10秒間塗布した(塗布工程)。
液晶組成物の塗膜をホットプレート上で80℃にて3分間(180sec)加熱した(加熱工程)。
【0138】
次いで、高圧水銀灯を用いて、300nmのロングバスフィルタ、および、350nmのショートパスフィルタを介して、大気雰囲気下において、80℃で液晶組成物の露光を行った(第1露光工程)。第1露光工程は、波長315nmで測定される光の照射量が5mJ/cm2となるように行った。
その後、80℃にて、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を300mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより(第2露光工程)、液晶組成物LC-1を硬化して液晶化合物の配向を固定化し、コレステリック液晶層を形成した。
これにより、支持体、配向膜およびコレステリック液晶層を有する液晶回折素子を作製した。
【0139】
コレステリック液晶層は、図2に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。
液晶回折素子を光学軸の回転方向に沿う方向切削し、断面をSEMで観察した。SEM画像を解析することで、コレステリック液晶層の膜厚d、液晶配向パターンにおける1周期Λ、螺旋1ピッチの長さピッチP、および、主面に対する明部および暗部の傾き(傾斜角θ)を測定した。
【0140】
[実施例2~4、比較例1~2]
配光膜の露光時における交差角α(1周期Λ)、液晶組成物におけるキラル剤CH-1の添加量および傾斜配向剤の有無、液晶組成物の塗布におけるスピンコートの回転数、第1露光工程における光照射量、ならびに、第1露光工程の実施の有無を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に液晶回折素子を作製した。
作製した液晶回折素子について、実施例1と同様の測定を行った。
【0141】
[回折の確認]
作製した液晶回折素子の回折を、図7に概念的に示す装置を用いて、以下の方法で確認した。
白色LEDランプより、コリメート用レンズを通して平行光化した光を、回転機構が付いたサンプルホルダー(回転ステージ)上のサンプルに照射し、サンプルに対する光の入射角を変化させながら透過光をスクリーンに投影して透過側の回折光の有無を確認した。その結果、実施例1~4は透過光の中に回折光が見られることを確認した。これに対して、比較例1~2は、透過光の中に回折光は見られなかった。
さらに、投影される回折光の光路上に円偏光板を設置したところ、右円偏光板を設置した場合は投影される回折光強度は変化しなかったが、左円偏光板を設置した場合は回折光が投影されず、回折光が円偏光であることが確認できた。
さらに実施例1~4については、変角分光光度計を用いて、配向膜露光プロセスにおける交差角方向にサンプル設置角度を傾斜させ、傾斜角-80~80°の範囲で透過スペクトルを測定し、最も透過率の低い波長を回折波長とした。
結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
表1に示されるように、本発明のコレステリック液晶層によれば、特定の波長域の特定の円偏光のみを、透過によって選択的に回折できる。
なお、比較例1では、コレステリック液晶層の表面付近で、周期性構造を有していなかった。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0143】
ARグラスの導光板に光を入射および出射させる回折素子等、各種の光学的な用途に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0144】
10 液晶回折素子
12 支持体
14 配向膜
16 コレステリック液晶層
40 液晶化合物
40A 光学軸
60 露光装置
62 レーザー
64 光源
65 λ/2板
68 偏光ビームスプリッター
70A,70B ミラー
72A,72B λ/4板
R 右円偏光
M レーザー光
MA,MB 光線
O 直線偏光
R 右円偏光
L 左円偏光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7