(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】光吸収デバイスおよびその製造方法ならびに光電極
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20221216BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20221216BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20221216BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221216BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
G02B5/20
B82Y20/00
B82Y30/00
B82Y40/00
G02B5/28
(21)【出願番号】P 2019562032
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2018047588
(87)【国際公開番号】W WO2019131640
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2017248071
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三澤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】石 旭
(72)【発明者】
【氏名】上野 貢生
(72)【発明者】
【氏名】押切 友也
(72)【発明者】
【氏名】孫 泉
(72)【発明者】
【氏名】笹木 敬司
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0160364(US,A1)
【文献】国際公開第2014/208144(WO,A1)
【文献】特開2011-173261(JP,A)
【文献】特開2012-023326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0299149(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0175546(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0226317(US,A1)
【文献】特開2016-162890(JP,A)
【文献】特開2014-190911(JP,A)
【文献】Carl Hagglund et al.,Strong Coupling of Plasmon and Nanocavity Modes for Dual-Band, Near-Perfect Absorbers and Ultrathin Photovoltaics,ACS Photonics,2016/3,American Chemical Society,2016年01月29日,pp.456-463
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20、5/28
B82Y 20/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射層と、
前記光反射層上に配置された誘電体層と、
前記誘電体層上に配置された複数の金属ナノ構造体と、
を有し、
前記複数の金属ナノ構造体は、それぞれ、その一部が前記誘電体層内に埋め込まれており、残部が外部に露出して
おり、
前記複数の金属ナノ構造体は、光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させ、
前記光反射層および前記誘電体層は、光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能する、
光吸収デバイス。
【請求項2】
前記ファブリ・ペロー共振器の共振波長は、前記局在表面プラズモン共鳴のピーク波長±当該ピークの半値幅の範囲内である、請求項
1に記載の光吸収デバイス。
【請求項3】
前記誘電体層と接触しているすべての金属ナノ構造体の合計体積に対する、その一部が前記誘電体層内に埋め込まれており、残部が外部に露出している前記金属ナノ構造体の体積の割合は、90%以上である、請求項1
または請求項2に記載の光吸収デバイス。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の光吸収デバイスを含む、光電極。
【請求項5】
光反射層としての金属層を準備する工程と、
前記金属層の表面に第1誘電体層を形成する工程と、
前記第1誘電体層の上に、複数の金属ナノ構造体を形成する工程と、
前記第1誘電体層の上に、前記複数の金属ナノ構造体が完全に埋まらないように原子層堆積法により第2誘電体層を形成する工程と、
を有
し、
前記複数の金属ナノ構造体は、光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させるように形成され、
前記光反射層、前記第1誘電体層および前記第2誘電体層は、光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能するように形成される、
光吸収デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記第2誘電体層を形成する工程では、前記複数の金属ナノ構造体の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理を行うことなく、前記第1誘電体層の上に原子層堆積法により第2誘電体層を形成する、請求項
5に記載の光吸収デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記第1誘電体層を形成する工程では、前記金属層の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理を行った後に、前記表面処理をされた前記金属層の表面に原子層堆積法により第1誘電体層を形成する、請求項
6に記載の光吸収デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収デバイスおよびその製造方法に関する。また、本発明は、前記光吸収デバイスを含む光電極に関する。
【背景技術】
【0002】
光と物質とが相互作用する確率は小さい。したがって、光と物質とを相互作用させるために、様々な試みがなされている。たとえば、バイオセンサーの感度やバイオイメージング像の解像度などを向上させるために、光としてレーザーが用いられている。また、太陽電池や人工光合成などの光エネルギー変換の効率を向上させるために、光を吸収させるための分子や量子ドットなどを高密度に配置したり、光を吸収させるための半導体を厚くしたりすることもなされている。しかしながら、このような手段では、原料コストが増大したり、半導体の種類によっては厚くなることで電荷分離効率が低下してしまったりするという問題がある。
【0003】
このような背景のもと、光と物質との相互作用の確率を増大させるための手段として、局在表面プラズモン共鳴を示す金属ナノ構造体や、光を閉じ込める微小共振器、フォトニック結晶などのマイクロ・ナノ構造が注目されている。特に、局在表面プラズモン共鳴を利用したデバイスは、複数の金属ナノ構造体(金属ナノ微粒子)を2次元平面上に配置するだけで光を高効率に捕集することができることから、この十数年間盛んに研究が行われている。近年では、酸化物半導体基板上に複数の金属ナノ構造体を配置すると、単に光を増幅させるだけではなく、金属から半導体への電子注入が促進され、水素の発生やアンモニアの合成などの化学反応にもプラズモンの効果を及ぼしうることが報告されている。
【0004】
しかしながら、複数の金属ナノ構造体を半導体基板の表面に配置するだけでは、光を完全に捕集することはできない。通常、複数の金属ナノ構造体を半導体基板の表面に配置しただけでは、最大でも50%程度の光を吸収させるのが限界である。しかも、この場合は、プラズモン共鳴を示す特定の波長の光しか吸収することはできない。半導体の形状をナノロッド構造、ナノチューブ構造、ハニカム構造などにして3次元化を図り、その中に金属ナノ構造体を担持して光吸収量を増大させることも提案されている。しかしながら、この方法では、見かけ上の光-エネルギー変換効率は増大するものの、プラズモン共鳴に基づく特定の波長の光を有効に利用するだけであり、幅広い波長の光の吸収や内部量子収率の増大は実現できない。
【0005】
幅広い波長の光を吸収できる光吸収デバイスとしては、金薄膜の上に誘電体層を形成し、さらにその上またはその中に複数の金属ナノ構造体を配置した、パーフェクトアブソーバーまたはスーパーアブソーバーと称される光吸収デバイスが報告されている(非特許文献1参照)。この光吸収デバイスでは、金属ナノ構造体の直下に誘電体層を介して位置する金薄膜において、金属ナノ構造体で生じたプラズモンと逆位相のプラズモンがミラーイメージとして形成され、金属ナノ構造体におけるプラズモンと金薄膜におけるプラズモンとの間で「イメージ双極子相互作用」と称される強い近接場相互作用が生じるため、幅広い波長の光を吸収できると考えられている(非特許文献2参照)。この光吸収デバイスでは、光吸収のみに着目しているため、金属ナノ構造体が誘電体層の上に配置されているか、または誘電体層の中に完全に埋め込まれている。また、この光吸収デバイスでは、イメージ双極子相互作用を利用することを想定しているため、誘電体層の厚みを薄くしなければならないと考えられていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Mehdi Keshavarz Hedayati, et al., "Design of a Perfect Black Absorber at Visible Frequencies Using Plasmonic Metamaterials", Advanced Materials, Vol. 23, pp. 5410-5414
【文献】Na Liu, Martin Mesch, et al., "Infrared Perfect Absorber and Its Application As Plasmonic Sensor", Nano Letters, Vol. 10, pp. 2342-2348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、非特許文献1および非特許文献2に記載されている従来の光吸収デバイスは、イメージ双極子相互作用を利用するため、構造上の制約があった。
【0008】
そこで、本発明は、構造上の制約が少なく、かつ幅広い波長範囲において光を効率的に捕集できる光吸収デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記光吸収デバイスを含む光電極を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光吸収デバイスは、光反射層と、前記光反射層上に配置された誘電体層と、前記誘電体層上に配置された複数の金属ナノ構造体と、を有し、前記複数の金属ナノ構造体は、それぞれ、その一部が前記誘電体層内に埋め込まれており、残部が外部に露出している。
【0010】
本発明に係る光電極は、本発明に係る光吸収デバイスを含む。
【0011】
本発明に係る光吸収デバイスの製造方法は、光反射層としての金属層を準備する工程と、前記金属層の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理を行う工程と、前記表面処理をされた前記金属層の表面に原子層堆積法により第1誘電体層を形成する工程と、前記第1誘電体層の上に、複数の金属ナノ構造体を形成する工程と、前記複数の金属ナノ構造体の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理を行うことなく、前記第1誘電体層の上に、前記複数の金属ナノ構造体が完全に埋まらないように原子層堆積法により第2誘電体層を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構造上の制約が少なく、かつ幅広い波長範囲において光を効率的に捕集できる光吸収デバイスおよび光電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る光吸収デバイスの構成の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2A~Dは、本発明に係る光吸収デバイスの製造方法の一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3Aは、実施例1で作製した光吸収デバイスの金ナノ粒子の近傍の断面を示す走査型透過電子顕微鏡像であり、
図3Bは、
図3Aに示す領域におけるエネルギー分散型X線分析像である。
【
図4】
図4は、実施例1で作製した光吸収デバイスおよび比較用の2つの光吸収デバイスを示す写真である。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、実施例1で作製した光吸収デバイスについての酸化チタン薄膜の厚みと吸収スペクトルとの関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、ファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの強結合によるハイブリッド準位の形成を示した模式図である。
【
図7】
図7Aおよび
図7Bは、ファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの強結合により分裂したエネルギーを元の共振器の共振波数に対してプロットした分散カーブを示すグラフである。
【
図8】
図8Aは、金ナノ粒子の埋め込み深さと吸収スペクトルとの関係を示すグラフであり、
図8Bは、金ナノ粒子の埋め込み深さと光電極の光電変換効率との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9Aは、本発明に係る光吸収デバイスおよび比較例に係る光吸収デバイスの吸収スペクトルを示すグラフであり、
図9Bは、本発明に係る光電極および比較例に係る光電極の作用スペクトルを示すグラフである。
【
図10】
図10Aは、可視光水分解装置の構成を示す模式図であり、
図10Bは、光の照射時間と酸素の発生量および水素の発生量との関係を示すグラフであり、
図10Cは、照射する光の波長と水素の発生量との関係、および光電極の吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図11】
図11Aは、本発明に係る光吸収デバイス(光電極)および比較例に係る光吸収デバイス(光電極)の吸収スペクトルを示すグラフであり、
図11Bは、本発明に係る光吸収デバイス(光電極)の光電変換特性を示すグラフである。
【
図12】
図12Aは、実施例3で作製した光吸収デバイスの上面を示す走査型透過電子顕微鏡像であり、
図12Bは、実施例3で作製した光吸収デバイスの凹部の側面の断面を示す走査型透過電子顕微鏡像であり、
図12Cは、本発明に係る光吸収デバイスおよび比較例に係る光吸収デバイスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図13】
図13Aは、金ナノチェイン構造体を示す走査型透過電子顕微鏡像であり、
図13Bは、金ナノチェイン構造体の反射スペクトルおよびファブリ・ペロー共振器の吸収スペクトルを示すグラフであり、
図13Cは、光吸収デバイスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図14】
図14は、クリスタルバイオレット分子の表面増強ラマン散乱スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(光吸収デバイスの構成)
図1は、本発明の一実施の形態に係る光吸収デバイス100の構成を示す断面模式図である。
図1に示されるように、光吸収デバイス100は、支持基板110、光反射層120、誘電体層130、および複数の金属ナノ構造体140を有する。以下、各構成要素について説明する。
【0016】
支持基板110は、光反射層120および誘電体層130を支持する。支持基板110は、光吸収デバイス100の機能の観点からは必須の構成要素ではないが、光吸収デバイス100の構造を維持する観点からは、光吸収デバイス100は支持基板110を有することが好ましい。支持基板110の材料および形状は、特に限定されない。光吸収デバイス100の構造を維持する観点からは、支持基板110は、ある程度の機械的強度を有することが好ましい。支持基板110の例には、ガラス板、セラミックス板、金属板および樹脂板が含まれる。
【0017】
光反射層120は、支持基板110上に配置されており、光吸収デバイス100に吸収させたい波長の光を反射させる。光反射層120の構成は、上記機能を発揮できれば特に限定されず、光吸収デバイス100に吸収させたい光の波長に応じて適宜選択すればよい。たとえば、光反射層120は、金属からなる層(金属薄膜)や、誘電体多層膜などである。また、金属板に、光反射層120と支持基板110の両方の機能を担わせてもよい。光反射層120が金属からなる場合、金属の種類は、特に限定されない。光反射層120を構成する金属の例には、金、銀、銅、チタンおよびアルミニウムが含まれる。光反射層120の厚みも、上記機能を発揮できれば特に限定されず、例えば10~10000nmの範囲内である。なお、金属板が、光反射層120と支持基板110の両方の機能を担う場合は、金属板(光反射層120)は、当然10000nm以上の厚みを有している。また、光吸収デバイス100を光電極として利用する場合は、金属板または金属層を光反射層120とし、外部からの配線を光反射層120に接続すればよい。
【0018】
誘電体層130は、光反射層120上に配置されている誘電体からなる層(誘電体薄膜)である。この後説明するように、本実施の形態に係る光吸収デバイス100では、光反射層120および誘電体層130は、光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能する。したがって、誘電体層130の表面および裏面は、互いに平行であることが好ましい。誘電体層130を構成する誘電体の種類は、ファブリ・ペロー共振器として機能することができれば、特に限定されない。ファブリ・ペロー共振器として機能する観点からは、誘電体の屈折率は高いことが好ましい。具体的には、ファブリ・ペロー共振器の共振波長における屈折率は、1.4以上であることが好ましく、より効率的な光閉じ込めのためには2.0以上であることがより好ましい。誘電体層130を構成する誘電体の例には、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、窒化ガリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化ニッケルが含まれる。誘電体層130の厚みも、光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能させることができれば、特に限定されない。たとえば、誘電体層130の厚みは、20~1000nm程度である。誘電体層130の厚みを調整することで、ファブリ・ペロー共振器の共振波長を変更することができる。本実施の形態に係る光吸収デバイス100は、イメージ双極子相互作用を利用しないため、誘電体層130の厚みは、20nm以上であってもよく、50nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。
【0019】
複数の金属ナノ構造体140は、光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させる。複数の金属ナノ構造体140は、その一部が誘電体層130内に埋め込まれるように誘電体層130の表面に配置されている。各金属ナノ構造体140の誘電体層130内に埋め込まれていない部分は、外部に露出している。したがって、誘電体層130上に他の物質(固体、液体または気体)が存在する場合、複数の金属ナノ構造体140は、当該物質に接触することとなる。金属ナノ構造体140の形状、大きさおよび間隔は、光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させることができれば特に限定されない。金属ナノ構造体140の形状、大きさまたは間隔を調整することで、局在表面プラズモン共鳴の共鳴波長を可視域から近赤外域まで変更することができる。したがって、金属ナノ構造体140の形状、大きさおよび間隔は、吸収効率を高めたい光の波長において局在表面プラズモン共鳴が生じるように適宜選択されうる。たとえば、金属ナノ構造体140の形状は、略球状、ロッド状、ディスク状および錐体状が含まれる。また、金属ナノ構造体140の最大長さは、5~1000nm程度である。金属ナノ構造体140の間隔は、3~1000nm程度である。前述のとおり、複数の金属ナノ構造体140は、その表面の一部が外部に露出している。たとえば、複数の金属ナノ構造体140は、それぞれ、その表面積の0.1~99.9%が外部に露出している。各金属ナノ構造体140における露出表面積の割合は、金属ナノ構造体140から誘電体層130を構成する誘電体への電子移動を効率的に行う観点からは90%以下であることが好ましく、ファブリ・ペロー共振器と局在表面プラズモンとの間で効果的な結合を形成させる観点からは60%以下であることがより好ましい。また、各金属ナノ構造体140における露出表面積の割合は、誘電体層130上に存在する他の物質(固体、液体または気体)との相互作用を効率的に行う観点からは10%以上であることが好ましく、当該他の物質と電荷の授受を行わせる観点からは30%以上であることがより好ましい。
【0020】
本実施の形態に係る光吸収デバイス100では、複数の金属ナノ構造体が誘電体層中に完全に埋め込まれている従来の光吸収デバイスおよび複数の金属ナノ構造体が誘電体層の表面上に配置されている従来の光吸収デバイスのいずれとも異なり、複数の金属ナノ構造体140は、それぞれ、その一部が誘電体層130内に埋め込まれており、残部が外部に露出している。本実施の形態に係る光吸収デバイス100において、誘電体層130中に完全に埋め込まれている金属ナノ構造体140、または誘電体層130中にまったく埋め込まれることなく誘電体層130上に配置されている金属ナノ構造体140が存在してもよいが、少なくとも誘電体層130に接触しているすべての金属ナノ構造体140のうちの90%以上の金属ナノ構造体140は、その一部が誘電体層130内に埋め込まれており、残部が外部に露出している金属ナノ構造体140であることが好ましい。また、誘電体層130と接触しているすべての金属ナノ構造体140の合計体積に対する、その一部が誘電体層130内に埋め込まれており、残部が外部に露出している金属ナノ構造体140の体積の割合は、90%以上であることが好ましい。
【0021】
前述のとおり、本実施の形態に係る光吸収デバイス100では、複数の金属ナノ構造体140は、光を照射されたときに局在表面プラズモン共鳴を発生させ、かつ光反射層120および誘電体層130は、光を照射されたときにファブリ・ペロー共振器として機能する。また、本実施の形態に係る光吸収デバイス100は、ファブリ・ペロー共振器の共振波長が局在表面プラズモン共鳴のピーク波長±当該ピークの半値幅の範囲内となるように構成されている。このようにファブリ・ペロー共振器の共振波長が局在表面プラズモン共鳴のピーク波長±当該ピークの半値幅の範囲内となる場合、局在表面プラズモンとファブリ・ペロー共振器との間で強結合が生じ、光吸収デバイス100は、幅広い波長域の光を捕集することができるようになる(実施例参照)。強結合の度合いを高める観点からは、局在表面プラズモン共鳴の共鳴波長とファブリ・ペロー共振器の共振波長とが一致することが好ましい。
【0022】
(光吸収デバイスの製造方法)
本実施の形態に係る光吸収デバイス100の製造方法は、特に限定されない。たとえば、以下の手順により、光吸収デバイス100を製造することができる(
図2A~D参照)。
【0023】
まず、光反射層120としての金属層を準備する(
図2A)。
図2Aに示される例では、支持基板110上に光反射層120としての金属層を形成している。金属層の形成方法は、特に限定されない。金属層の形成方法の例には、スパッタリング、真空蒸着、電気還元およびイオンプレーティングが含まれる。また、光反射層120(および支持基板110)として、金属板を準備してもよい。
【0024】
次に、金属層(光反射層120)の表面に第1誘電体層130aを形成する(
図2B)。第1誘電体層130aは、誘電体層130の一部となる層である。第1誘電体層130aの形成方法は、特に限定されない。第1誘電体層130aの形成方法の例には、原子層堆積法、パルスレーザー堆積法、スパッタリング、ソルボサーマル法、スプレー熱分解法および分子線エピタキシー法が含まれる。なお、原子層堆積法により第1誘電体層130aを形成する場合は、金属層(光反射層120)の表面に第1誘電体層130aを緻密に形成するために、前処理を行うことが好ましい。前処理の例には、金属層(光反射層120)の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理、および金属層(光反射層120)の表面に別の層(例えばチタン薄膜)を形成する処理が含まれる。たとえば、金属層(光反射層120)への結合部位として一方の末端にSまたはNを含む官能基(例えばチオール基)を有し、他方の末端にヒドロキシル基を有する化合物(例えば2-メルカプトエタノール)を用いて表面処理をすればよい。
【0025】
次に、第1誘電体層130aの上に、複数の金属ナノ構造体140を形成する(
図2C)。この時点では、複数の金属ナノ構造体140は、第1誘電体層130a内に埋まっている必要はない。金属ナノ構造体140の形成方法は、特に限定されない。たとえば、第1誘電体層130aの上に金属層を形成した後、この金属層をアニールして粒子化することで、複数の金属ナノ構造体140を同時に形成することができる。また、フォトリソグラフィーを利用して複数の金属ナノ構造体140を形成してもよい。
【0026】
最後に、第1誘電体層130aの上に第2誘電体層130bを形成して、誘電体層130を形成する(
図2D)。このとき、複数の金属ナノ構造体140が誘電体層130内に完全に埋まらないように、複数の金属ナノ構造体140の間に第2誘電体層130bを形成する。具体的には、本工程では、ヒドロキシル基を付加する表面処理を行うことなく、原子層堆積法により第2誘電体層130bを形成する。これにより、複数の金属ナノ構造体140の上に第2誘電体層130bが形成されることを抑制することができ、その結果として複数の金属ナノ構造体140が誘電体層130内に完全に埋まることを抑制することができる。なお、第1誘電体層130aを構成する誘電体と、第2誘電体層130bを構成する誘電体とは、同一であってもよいし、同一でなくてもよい。
【0027】
以上の手順により、光吸収デバイス100を製造することができる。なお、本実施の形態に係る光吸収デバイス100は、他の方法でも製造することができる。たとえば、光吸収デバイス100は、複数の金属ナノ構造体140を第2誘電体層130b内に完全に埋め込んだ後に、反応性ドライエッチングにより第2誘電体層130bのみを選択的にエッチングすることでも製造されうる。この場合は、第2誘電体層130bは、原子層堆積法以外の方法(例えば、パルスレーザー堆積法、スパッタリング、ソルボサーマル法、スプレー熱分解法および分子線エピタキシー法)によっても形成されうる。
【0028】
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る光吸収デバイス100では、複数の金属ナノ構造体140を部分的に誘電体層130に埋め込むことで、ファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの強結合を誘起し、分裂したスペクトルから幅広い波長に応答する光捕集構造を実現している。また、本実施の形態に係る光吸収デバイス100では、従来の光吸収デバイスのようにイメージ双極子相互作用を利用しないため、誘電体層の厚みにも特段の制限がない。したがって、本実施の形態に係る光吸収デバイス100は、構造上の制約が少なく、幅広い波長範囲において光を効率的に捕集することができる。
【0029】
また、本実施の形態に係る光吸収デバイス100は、光反射層120としての金属層を電極として利用することで、光電極としても機能することができる。本実施の形態に係る光吸収デバイス100(光電極)は、複数の金属ナノ構造体140が外部に露出しているため、捕集した光を利用して他の物質との相互作用を促進させることもできる。たとえば、誘電体層130および複数の金属ナノ構造体140の上に水が存在する場合は、本実施の形態に係る光吸収デバイス100(光電極)は、水の酸化反応を促進させることができる。また、誘電体層130および複数の金属ナノ構造体140の上に正孔輸送材料が存在する場合は、本実施の形態に係る光吸収デバイス100(光電極)は、光電変換を促進させることができる。したがって、本実施の形態に係る光吸収デバイス100(光電極)は、例えば、プラズモン太陽電池や光触媒系(水分解、アンモニア合成、二酸化炭素固定、有機物酸化還元反応など)などに適用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0031】
[実施例1]
1.光吸収デバイスの作製
支持基板としてのガラス板上に、スパッタリングにより厚み100nmの金薄膜(光反射層)を形成した。金薄膜を形成したガラス板を、2-メルカプトエタノールのエタノール溶液(50mg/mL)に24時間浸漬して、金薄膜の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理を行った。表面処理をした金薄膜の上に、原子層堆積装置を用いて所定の厚みの酸化チタン(TiO2)薄膜(第1誘電体層)を形成した。酸化チタン薄膜の上に真空蒸着により厚み3nmの金薄膜を形成し、300℃で2時間アニールすることによりこの金薄膜を粒子化して、略球形状の複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を形成した。金ナノ粒子の平均粒径は、12nmであった。最後に、再度原子層堆積装置を用いて所定の厚みの酸化チタン薄膜(第2誘電体層)を形成した。このとき、2-メルカプトエタノールを用いた表面処理を行わずに酸化チタン薄膜を形成することで、複数の金ナノ粒子の上に酸化チタン薄膜を形成させずに、複数の金ナノ粒子の間に所定の厚みの酸化チタン薄膜を形成した。これにより、実質的にすべての金ナノ粒子は、部分的に酸化チタン薄膜内に埋まった状態(部分的に外部に露出している状態)となった。なお、酸化チタン薄膜の厚み(第1誘電体層および第2誘電体層の合計厚み)は、19nm、21nm、23nm、25nm、28nm、30nm、32nm、35nm、44nm、136nm、160nm、168nm、178nm、192nmまたは211nmであった。また、金ナノ粒子の埋まっている部分の深さは、約0nm、約3.5nm、約7nmまたは約14nmであった。
【0032】
図3Aは、作製した光吸収デバイス(金ナノ粒子の埋まっている部分の深さ:約7nm)の金ナノ粒子の近傍の断面を示す走査型透過電子顕微鏡像であり、
図3Bは、
図3Aに示す領域におけるエネルギー分散型X線分析像である。
図3Bは、グレースケールに変換されているが、破線で囲まれている領域は赤色(Auを示す)で示されており、破線の外の下半分の領域は緑色(Tiを示す)で示されており、破線の外の上半分の領域は黒色で示されている。これらの画像から、金ナノ粒子の一部が酸化チタン薄膜に埋め込まれていること、および金ナノ粒子の残部は酸化チタン薄膜に覆われていないことがわかる。
【0033】
図4は、作製した光吸収デバイスおよび比較用の2つの光吸収デバイスを示す写真である。この写真において、本発明に係る光吸収デバイス(金ナノ粒子の埋まっている部分の深さ:約7nm)を下段に示す。上段に示す比較用の第1の光吸収デバイスは、ガラス基板上に酸化チタン薄膜(誘電体層)を形成し、さらにその上に複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を形成したものである。比較用の第1の光吸収デバイスでは、金薄膜(光反射層)は形成されておらず、複数の金ナノ粒子は酸化チタン薄膜に埋め込まれていない。中段に示す比較用の第2の光吸収デバイスは、ガラス基板上に金薄膜(光反射層)および酸化チタン薄膜(誘電体層)を順次形成したものである。比較用の第2の光吸収デバイスでは、複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)は形成されていない。これら3つの光吸収デバイスは、本発明者らが所属する研究所のロゴマークおよび英語名が印刷された紙の上に置かれている。
【0034】
図4の写真に示されるように、比較用の第1の光吸収デバイス(上段)は、可視光を透過させた。また、比較用の第2の光吸収デバイス(中段)は、金薄膜(光反射層)があるため可視光を透過させずに反射させた。比較用の第2の光吸収デバイスは、オレンジ色に見えた。これは、可視域のうちの一部の波長の光は、金薄膜により吸収されているものの、それ以外の波長の光は、吸収されていないことを示している。一方、本発明に係る光吸収デバイス(下段)は、黒色に見えた。これは、可視域の幅広い波長の光が、吸収されていることを示している。
【0035】
2.光吸収デバイスの評価
作製した各光吸収デバイスについて吸収スペクトルを測定した。
図5Aおよび
図5Bは、酸化チタン薄膜の厚みと吸収スペクトルとの関係を示すグラフである。これらのグラフは、金ナノ粒子が酸化チタン薄膜に約7nm埋まっている光吸収デバイスについての吸収スペクトルを示している。
図5Aは、酸化チタン薄膜の厚みが19~44nmの光吸収デバイスの吸収スペクトルを示している。横軸は、光の波長である。縦軸は、透過スペクトルの値(T)および反射スペクトルの値(R)から算出した吸収スペクトルの値(対数スケール)である。
図5Bは、酸化チタン薄膜の厚みが136~211nmの光吸収デバイスの吸収スペクトルを示している。横軸は、光の波長である。縦軸は、透過スペクトルの値(T)および反射スペクトルの値(R)から算出した吸収スペクトルの値(実スケール)である。
【0036】
これらのグラフから、酸化チタン薄膜の厚みが28nmの光吸収デバイスおよび168nmの光吸収デバイスにおいて、吸収スペクトルが2つのピークに分裂していることがわかる。
図5Bに示される各スペクトルについてスペクトル分離を試みたところ、
図5Bにおいて細い線で示されるように2つのスペクトルに分離できることがわかった。これら2つの光吸収デバイス(平均粒径12nmの金ナノ粒子が酸化チタン薄膜に7nm程度埋め込まれている)では、金ナノ粒子のプラズモン共鳴波長である650nmに、金薄膜、酸化チタン薄膜および金ナノ粒子により構成されるファブリ・ペロー共振器の1/4nまたは3/4n(nは酸化チタンの屈折率)に対応する共振波長が一致している(共振器からの光の染み出しがあるため、実際の膜厚はより薄くなる)。このことは、ファブリ・ペロー共振器の共振波長と金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴波長とが重なり、電磁場相互作用により2つの振動子の位相が一定の関係を有してエネルギーをやり取りしている状態が形成されていることを示唆している。この状態は、位相が互いに同じ向きで揃って振動している状態(結合性)と、位相が互いに逆向きに振動している状態(反結合性)との2つの状態をとりうる。これは、共有結合において分子軌道が結合性と反結合性の2つの準位に分裂してハイブリッド状態を形成するのと類似しており、ファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの間で強結合と称される現象が生じていることが初めて観測されたことになる。このように、1/4nまたは3/4nに対応するファブリ・ペロー共振器が部分的に埋め込まれた金ナノ粒子の局在表面プラズモンと強結合を示すことにより、
図6の模式図に示されるようにハイブリッド準位が形成される(
図6において、P
+は上枝ポラリトンであり、P
-は下枝ポラリトンである)。その結果、
図5Aおよび
図5Bに示されるように、酸化チタン薄膜の厚みが28nmの光吸収デバイスおよび168nmの光吸収デバイスにおいて、吸収スペクトルが2つのピークに分裂して、幅広い波長の光を捕集することができるようになったと考えられる。
【0037】
図7Aは、1/4nに対応するファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの強結合により分裂したエネルギーを元の共振器の共振波数に対してプロットした分散カーブを示すグラフであり、
図7Bは、3/4nに対応するファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの強結合により分裂したエネルギーを元の共振器の共振波数数に対してプロットした分散カーブを示すグラフである。これらのグラフから、1/4nに対応するファブリ・ペロー共振器および3/4nに対応するファブリ・ペロー共振器のいずれにおいても、分裂したピークのエネルギーを元のファブリ・ペロー共振器の共振波数に対してプロットした分散曲線は、強結合に特有の反交差な振る舞いを示し、結合振動子モデルによりフィッティングできることがわかる。このことは、本発明に係る光吸収デバイスが強結合を示すことを支持する。
【0038】
図8Aは、金ナノ粒子の埋め込み深さと吸収スペクトルとの関係を示すグラフであり、
図8Bは、金ナノ粒子の埋め込み深さと光電極の光電変換効率との関係を示すグラフである。これらのグラフは、酸化チタン薄膜の厚みが28nmの光吸収デバイス(光電極)についての吸収スペクトルおよび光電変換効率を示している。光電極の光電変換効率(外部量子収率)は、光吸収デバイス(金薄膜を電極として利用)を電解質水溶液(0.1mol/dm
3 KOH水溶液)に浸漬した状態で3電極式の光電気化学測定を行うことで測定した。
図8Aにおいて、横軸は光の波長であり、縦軸は透過スペクトルの値(T)および反射スペクトルの値(R)から算出した吸収スペクトルの値(実スケール)である。
図8Bにおいて、横軸は光の波長であり、縦軸は光電極の光電変換効率(外部量子収率)である。
【0039】
図8Aのグラフから、金ナノ粒子の埋め込み深さが大きくなるにつれて、幅広い波長域の光を吸収できることがわかる。これは、金ナノ粒子が酸化チタン薄膜に部分的に埋め込まれることにより、強結合が誘起されるためと考えられる。この結果から、可視域の幅広い波長域の光に応答する光吸収デバイスを構築するためには、金ナノ粒子を酸化チタン薄膜に部分的に埋め込むことが好ましいことがわかる。
【0040】
また、
図8Bに示される光電極の光電変換効率(外部量子収率)の作用スペクトルは、
図8Aに示される吸収スペクトルとほぼ一致していた。すなわち、金ナノ粒子の埋め込み深さが大きくなるにつれて、幅広い波長域の光を吸収して水を電子源とした光電変換が行われることがわかった。このように、本発明に係る光吸収デバイスおよび光電極は、金ナノ粒子を埋め込まない従来の光吸収デバイスおよび光電極とは、光吸収効率および応答波長領域が完全に異なっていた。
【0041】
一方で、
図8Aおよび
図8Bのグラフから、金ナノ粒子を約14nm埋め込んだ光電極では、幅広い波長域の光を吸収できる(強結合のエネルギーが高い)にもかかわらず、光電変換効率が顕著に減少していることがわかる。すなわち、金ナノ粒子を約7nm埋め込んだ光電極の光電変換効率は、金ナノ粒子を約14nm埋め込んだ光電極の光電変換効率よりも高かった。これは、平均粒径が12nmの金ナノ粒子を酸化チタン薄膜内に約14nm埋め込むと、金ナノ粒子の大部分が酸化チタン薄膜内に埋め込まれてしまい、水の酸化反応が誘起される三相界面(金ナノ粒子/酸化チタン薄膜/水)の面積が減少したためと考えられる。このことは、金ナノ構造体が誘電体層内に完全に埋め込まれた従来の光吸収デバイスでは、三相界面が存在できないため、プラズモン誘起光電変換や人工光合成などには適用できないことを意味する。
【0042】
さらに、
図8Aおよび
図8Bのグラフから、金ナノ粒子の埋め込み深さが変化しても吸収効率は大きく変化しないにもかかわらず、金ナノ粒子の埋め込み深さが大きくなるにつれて電流値は大きくなることがわかる。これは、本発明に係る光電極では、外部量子収率だけではなく、内部量子収率(吸収された光子数に対して発生した電子数または分子数)も増大していることを示唆している。
【0043】
図9Aは、本発明に係る光吸収デバイスおよび比較例に係る光吸収デバイスの吸収スペクトルを示すグラフであり、
図9Bは、本発明に係る光電極および比較例に係る光電極の作用スペクトルを示すグラフである。本発明に係る光吸収デバイス(光電極)としては、金ナノ粒子が酸化チタン薄膜に約7nm埋まっている光吸収デバイスを使用した。比較例に係る光吸収デバイス(光電極)としては、酸化チタン薄膜の上に複数の金ナノ粒子を形成した従来の光吸収デバイス(前述の比較用の第1の光吸収デバイス)を使用した。
図9Aにおいて、横軸は光の波長であり、縦軸は透過スペクトルの値(T)および反射スペクトルの値(R)から算出した吸収スペクトルの値(実スケール)である。
図9Bにおいて、横軸は光の波長であり、縦軸は光電極の光電変換効率(外部量子収率)である。
【0044】
図9Aのグラフから、本発明に係る光吸収デバイスの吸収効率は、比較例に係る光吸収デバイスの吸収効率よりも顕著に大きいことがわかる。波長400nm~900nmの範囲で積分すると、本発明に係る光吸収デバイスは、比較例に係る光吸収デバイスよりも吸収したフォトンの数が9倍多かった。
【0045】
また、
図9Bのグラフから、本発明に係る光電極の外部量子収率は、比較例に係る光電極の外部量子収率よりも顕著に大きいことがわかる。吸収極大の波長で比較すると、本発明に係る光電極は、比較例に係る光電極よりも8倍外部量子収率が大きかった。また、波長400nm~900nmの範囲で積分すると、本発明に係る光電極は、比較例に係る光電極よりも11倍外部量子収率が大きかった。
【0046】
3.可視光水分解装置の作製および評価
作製した光吸収デバイス(光電極)を陽極とし、白金電極を陰極として、可視光水分解装置を作製した。光吸収デバイス(光電極)としては、平均粒径が約12nmの金ナノ粒子が厚み28nmの酸化チタン薄膜に約7nm埋まっている光吸収デバイス(光電極)を使用した。
図10Aは、可視光水分解装置の構成を示す模式図である。電解質溶液としては、0.1mol/dm
3 KOH水溶液を使用した。波長400nm以上のキセノン光(550mW/cm
2)を陽極(光電極)に照射したときに、陽極で発生した酸素および陰極で発生した水素の量を測定した。
【0047】
図10Bは、光の照射時間と酸素の発生量および水素の発生量との関係を示すグラフである。このグラフから、酸素および水素の発生量は、光の照射時間に対して直線的な応答を示すことがわかる。また、酸素および水素の発生量の比は1:2であり、化学量論的に可視光水分解が進行していることもわかる。
【0048】
図10Cは、照射する光の波長と水素の発生量との関係、および光電極の吸収スペクトルを示すグラフである。この測定では、光学フィルターを用いて光電極に照射する光の波長域を制限した。このグラフから、波長域ごとの水素発生量は、光電極の吸収スペクトルとよく一致していることがわかる。
【0049】
[実施例2]
1.光吸収デバイス(光電極)の作製
支持基板としてのガラス板上に、スパッタリングにより厚み50nmの金薄膜(光反射層)を形成した後、厚み2nmのチタン薄膜を形成した。その後、原子層堆積装置を用いて厚み25nmの酸化チタン(TiO2)薄膜(第1誘電体層)を形成した。酸化チタン薄膜の上に真空蒸着により厚み3nmの金薄膜を形成し、300℃で2時間アニールすることによりこの金薄膜を粒子化して、略球形状の複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を形成した。金ナノ粒子の平均粒径は、12nmであった。その後、パルスレーザー堆積法を用いて厚み5nmの酸化ニッケル薄膜(第2誘電体層)を形成した。このとき、複数の金ナノ粒子の上に酸化ニッケル薄膜を形成させずに、複数の金ナノ粒子の間に酸化ニッケル薄膜を形成した。これにより、実質的にすべての金ナノ粒子は、部分的に酸化ニッケル薄膜内に埋まった状態(部分的に外部に露出している状態)となった。その後、パルスレーザー堆積法によって厚み39nmの酸化ニッケル膜(正孔輸送材料層)を形成した後、スパッタリングにより厚み4nmの金薄膜(陰極)を形成した。
【0050】
2.光吸収デバイス(光電極)の評価
図11Aは、作製した本発明に係る光吸収デバイス(光電極)および比較例に係る光吸収デバイス(光電極)の吸収スペクトルを示すグラフである。比較例に係る光吸収デバイスとしては、金薄膜(光反射層)を省略した比較用の第3の光吸収デバイス(
図11Aにおいて「比較例1」と表記)、および複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を省略した比較用の第4の光吸収デバイス(
図11Aにおいて「比較例2」と表記)を使用した。
図11Aにおいて、横軸は光の波長であり、縦軸は透過スペクトルの値(T)および反射スペクトルの値(R)から算出した吸収スペクトルの値(対数スケール)である。このグラフから、作製した本発明に係る光吸収デバイス(光電極)の吸収スペクトルが、2つのピークに分裂していることがわかる。したがって、この光吸収デバイス(光電極)においても、実施例1で作製した光吸収デバイスと同様に、ファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの間で強結合が生じることで、吸収スペクトルが2つのピークに分裂し、幅広い波長の光を捕集することができるようになったと考えられる。
【0051】
図11Bは、作製した本発明に係る光吸収デバイス(光電極)の光電変換特性(電流-電圧特性)を示すグラフである。光吸収デバイス(光電極)の光電変換特性は、ガラス板側の金薄膜(光反射層)を陽極、もう一方の金薄膜を陰極とし、陰極側から光電極に光を照射しながら光電気測定を行うことで測定した。光源としては、疑似太陽光を照射可能なソーラーシュミレーターを用い、450nm以下の波長の光をフィルターで遮断した。
図11Bにおいて、横軸は電圧であり、縦軸は電流密度である。このグラフから、本発明に係る光吸収デバイス(光電極)は、450nmよりも長い波長の光を照射したときに光電変換デバイスとして機能できることがわかる。
図11Aの吸収スペクトルから、本発明に係る光吸収デバイス(光電極)は、可視光を吸収して発電できることがわかる。
【0052】
これらの結果から、本発明に係る光吸収デバイス(光電極)を用いることで、全固体光電変換デバイスを構築できることがわかる。すなわち、本発明に係る光吸収デバイス(光電極)は、高吸収太陽電池に応用することができる。
【0053】
[実施例3]
1.光吸収デバイスの作製
支持基板として、100μmの間隔でマトリックス状に配置された複数の貫通孔を有するガラス板を用意した。各貫通孔の形状は、一辺が100μmの正方形を底面とする四角柱である。このガラス板上に、真空蒸着装置により厚み50nmの金薄膜(光反射層)を形成した。金薄膜を形成したガラス板を、2-メルカプトエタノールのエタノール溶液(50mg/mL)に24時間浸漬して、金薄膜の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理を行った。表面処理をした金薄膜の上に、原子層堆積装置を用いて厚み28nmの酸化チタン(TiO2)薄膜(第1誘電体層)を形成した。酸化チタン薄膜の上に真空蒸着により厚み3nmの金薄膜を形成し、300℃で2時間アニールすることによりこの金薄膜を粒子化して、略球形状の複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を形成した。金ナノ粒子の平均粒径は、13nmであった。最後に、再度原子層堆積装置を用いて厚み7nmの酸化チタン薄膜(第2誘電体層)を形成した。このとき、複数の金ナノ粒子の上に酸化チタン薄膜を形成させずに、複数の金ナノ粒子の間に所定の厚みの酸化チタン薄膜を形成した。これにより、実質的にすべての金ナノ粒子は、部分的に酸化チタン薄膜内に埋まった状態(部分的に外部に露出している状態)となった。
【0054】
図12Aは、作製した光吸収デバイスの上面を示す走査型透過電子顕微鏡像であり、
図12Bは、作製した光吸収デバイスの貫通孔の側面の断面を示す走査型透過電子顕微鏡像である。これらの画像から、金ナノ粒子が、光吸収デバイスの上面だけでなく貫通孔内にも均一に散らばっていることがわかる。
【0055】
2.光吸収デバイスの評価
図12Cは、作製した本発明に係る光吸収デバイスおよび比較例に係る光吸収デバイスの吸収スペクトルを示すグラフである。比較例に係る光吸収デバイスとしては、金薄膜(光反射層)を省略した比較用の第5の光吸収デバイス(
図12Cにおいて「比較例1」と表記)、および複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を省略した比較用の第6の光吸収デバイス(
図12Cにおいて「比較例2」と表記)を使用した。
図12Cにおいて、横軸は光の波長であり、縦軸は透過スペクトルの値(T)および反射スペクトルの値(R)から算出した吸収スペクトルの値(対数スケール)である。このグラフから、作製した本発明に係る光吸収デバイスの吸収スペクトルが、2つのピークに分裂していることがわかる。したがって、この光吸収デバイスにおいても、実施例1で作製した光吸収デバイスと同様に、ファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの間で強結合が生じることで、吸収スペクトルが2つのピークに分裂し、幅広い波長の光を捕集することができるようになったと考えられる。
【0056】
また、この光吸収デバイスは、多数の貫通孔を有しているため、反応表面積が大きく、また貫通孔を介して物質を移動させることができる。さらに、この光吸収デバイスでは、ファブリ・ペロー共振器が有する角度依存性が低減している。すなわち、本発明に係る光吸収デバイスは、高効率光化学反応デバイスに応用することができる。
【0057】
[参考例1]
1.光吸収デバイスの作製
支持基板としてのガラス板上に、スパッタリングにより厚み50nmの金薄膜(光反射層)を形成した後、厚み2nmのチタン薄膜を形成した。その後、原子層堆積装置を用いて厚み25nmの酸化チタン(TiO
2)薄膜(第1誘電体層)を形成した。酸化チタン薄膜の上に電子線リソグラフィー-リフトオフ法により所定形状の厚み30nmの金ナノ構造体(金属ナノ構造体)を形成した。金ナノ構造体は、四角柱状の金ナノ粒子が底面の対角線方向に連なったチェイン構造をしているため、以下「金ナノチェイン構造体」ともいう。金ナノチェイン構造体の長辺方向(対角線方向)の長さは、0.52μm、0.75μm、1.45μmまたは2.38μmであった。
図13Aは、長辺方向の長さが1.22μmの金ナノチェイン構造体を示す走査型透過電子顕微鏡像である。
【0058】
2.光吸収デバイスの評価
図13Bの上のグラフは、酸化チタン薄膜の上に形成された金ナノチェイン構造体の反射スペクトルを示すグラフである。このグラフでは、金ナノチェイン構造体なし、長さ0.52μmの金ナノチェイン構造体、長さ0.75μmの金ナノチェイン構造体、長さ1.45μmの金ナノチェイン構造体および長さ2.38μmの金ナノチェイン構造体の反射スペクトルを示している。このグラフにおいて、横軸は光の波数であり、縦軸はプラズモン共鳴を示す反射率(実スケール)である。このグラフから、金ナノチェイン構造体のプラズモン共鳴バンドが赤外領域に観測されること、および金ナノチェイン構造体の長さが長いほどプラズモン共鳴バンドの波数が小さくなることがわかる。
【0059】
図13Bの下のグラフは、金薄膜および厚み450nmの酸化チタン薄膜を有するファブリ・ペロー共振器の吸収スペクトルを示すグラフである。また、
図13Cは、作製した光吸収デバイスの吸収スペクトルを示すグラフである。
図13Cのグラフ中の各数字は、金ナノチェイン構造体の長さを示している。これらのグラフにおいて、横軸は光の波数であり、縦軸は透過スペクトルの値(T)および反射スペクトルの値(R)から算出した吸収スペクトルの値(実スケール)である。
図13Bの2つのグラフおよび
図13Cのグラフから、この光吸収デバイスは、赤外波長域においてもプラズモン共鳴バンドとファブリ・ペロー共振モードとが重なると、スペクトルの変調と強い吸収を示すことがわかる。
【0060】
なお、この参考例で作製した光吸収デバイスでは、金ナノ構造体が第2誘電体層に埋め込まれていないが、本発明に係る光吸収デバイスのように金ナノ構造体を第2誘電体層に部分的に埋め込むことで、ファブリ・ペロー共振器とプラズモンとの強結合の強度がさらに強くなる。
【0061】
[実施例4]
1.光吸収デバイスの作製
支持基板としてのガラス板上に、スパッタリングにより厚み100nmの金薄膜(光反射層)を形成した。金薄膜を形成したガラス板を、2-メルカプトエタノールのエタノール溶液(50mg/mL)に24時間浸漬して、金薄膜の表面にヒドロキシル基を付加する表面処理を行った。表面処理をした金薄膜の上に、原子層堆積装置を用いて厚み30nmの酸化チタン(TiO2)薄膜(第1誘電体層)を形成した。酸化チタン薄膜の上に真空蒸着により厚み3nmの金薄膜を形成し、300℃で2時間アニールすることによりこの金薄膜を粒子化して、略球形状の複数の金ナノ粒子(金属ナノ構造体)を形成した。金ナノ粒子の平均粒径は、12nmであった。最後に、再度原子層堆積装置を用いて厚み7nmの酸化チタン薄膜(第2誘電体層)を形成した。このとき、2-メルカプトエタノールを用いた表面処理を行わずに酸化チタン薄膜を形成することで、複数の金ナノ粒子の上に酸化チタン薄膜を形成させずに、複数の金ナノ粒子の間に所定の厚みの酸化チタン薄膜を形成した。これにより、実質的にすべての金ナノ粒子は、部分的に酸化チタン薄膜内に埋まった状態(部分的に外部に露出している状態)となった。
【0062】
2.光吸収デバイスの評価
作製した光吸収デバイスについて顕微ラマン測定装置を用いて表面増強ラマン散乱スペクトルを測定した。波長532nmの励起光を水浸対物レンズ(倍率63倍、開口数0.9)を用いて、0.1mMクリスタルバイオレット水溶液中の金ナノ微粒子に集光照射し、クリスタルバイオレット分子の表面増強ラマン散乱スペクトルを得た。
図14は、クリスタルバイオレット分子の表面増強ラマン散乱スペクトルを示すグラフである。このグラフから、300cm
-1~2000cm
-1の幅広いラマンシフト領域でスペクトルの測定が可能であることがわかる。すなわち、本発明に係る光吸収デバイスは、励起波長と散乱波長の両方の波長においてプラズモン増強の寄与を必要とする表面増強ラマン散乱測定においても有用であることがわかる。
【0063】
本出願は、2017年12月25日出願の特願2017-248071に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る光吸収デバイスおよび光電極は、例えば、太陽電池や人工光合成などの様々な光エネルギー変換系において利用されうる。
【符号の説明】
【0065】
100 光吸収デバイス
110 支持基板
120 光反射層
130 誘電体層
140 金属ナノ構造体