(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】植物栽培容器、植物栽培施設、及び植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 9/02 20180101AFI20221216BHJP
A01G 7/02 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
A01G9/02 101F
A01G7/02
(21)【出願番号】P 2019071745
(22)【出願日】2019-04-04
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】奥島 里美
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅久
(72)【発明者】
【氏名】森山 英樹
(72)【発明者】
【氏名】土屋 遼太
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118847(JP,A)
【文献】特開2013-27315(JP,A)
【文献】特開2000-232823(JP,A)
【文献】特開2017-192306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00 - 9/02
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地上に配置又は培地に植えつけられた植物繁殖体と、少なくとも1栽培サイクル分の水とを密閉容器内に格納してなる、
植物栽培容器であって、
上記少なくとも1栽培サイクル分の水は、100mL以上、500mL以下の水であり、
上記植物繁殖体は、野菜、キノコ、花卉等の繁殖素材であって、種子、球根、塊茎、幼苗、胞子、菌糸、又は、カルスであり、
上記培地は、土壌、スポンジ、ヤシガラ、ハイドロボール、バーミキュライト、又は、ロックウールである、植物栽培容器。
【請求項2】
上記水は養液である、請求項1に記載の植物栽培容器。
【請求項3】
二酸化炭素の供給源を備えている、請求項1又は2に記載の植物栽培容器。
【請求項4】
二酸化炭素は、酵母による発酵で供給される、請求項3に記載の植物栽培容器。
【請求項5】
上記植物繁殖体は
、上記水と分離した形態で、上記密閉容器内に格納されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の植物栽培容器。
【請求項6】
上記植物繁殖体は、野菜の種子である、請求項5に記載の植物栽培容器。
【請求項7】
上記密閉容器は、水、及び/又は、肥料を外部から導入する開口を持たない、請求項1から6のいずれか1項に記載の植物栽培容器。
【請求項8】
湿度感知部を備えている、請求項1から7のいずれか1項に記載の植物栽培容器。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の植物栽培容器を複数個と、植物栽培容器を冷却する冷却装置とを中に備えている、植物栽培施設。
【請求項10】
植物を栽培する植物栽培方法であって、
上記植物は密閉容器内に格納して栽培され、
人為的な冷却によって、上記密閉容器内の湿度を下げる工程を含
み、
上記密閉容器の外面の一部を冷却することによって上記工程を行う、
植物栽培方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1項に記載の植物栽培容器、又は、請求項9に記載の植物栽培施設を用いて実施される、請求項1
0に記載の植物栽培方法。
【請求項12】
前記密閉容器内の湿度に応じて、前記密閉容器に対する冷却を行う、請求項10又は11に記載の植物栽培方法。
【請求項13】
植物繁殖体と、少なくとも1栽培サイクル分の水とを密閉容器内に格納してなり、
上記少なくとも1栽培サイクル分の水は、100mL以上、500mL以下の水であり、
上記植物繁殖体は、種子、球根、塊茎、幼苗、胞子、菌糸、カルスであり、当該植物繁殖体は上記水と分離した形態で、上記密閉容器内に格納されている、植物栽培容器。
【請求項14】
植物繁殖体と、少なくとも1栽培サイクル分の水とを密閉容器内に格納してなり、
上記少なくとも1栽培サイクル分の水は、100mL以上、500mL以下の水であり、
湿度感知部を備えている、植物栽培容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培容器、植物栽培施設、及び植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーで販売されているカイワレ大根のように、容器中に格納された状態で販売されている野菜は、通常、別の場所で栽培したものを容器中に格納して封止するか、容器中で栽培した後に封止している。これとは異なり、容器中に封止した状態で野菜等の植物を栽培する技術が特許文献1~3に記載されている。特許文献1~3に記載された技術では、消費者が容器を開封するまで、植物が人の手で扱われることがないため、非常に衛生的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-534463号公報(2015年12月3日公開)
【文献】特開2010-29115号公報(2010年2月12日公開)
【文献】特開平10-56886号公報(1998年3月3日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された技術では、外部から液体を供給する構成であるため、液体の供給に伴って容器内に菌が侵入する虞がある。また、特許文献3に記載された技術では、密閉容器内の水分や湿度のような栽培環境を制御できないため、栽培できる植物が湿地にて生育している日陰を好む植物に限られる。
【0005】
また、特許文献3に記載された技術のように、栽培環境の湿度が制御できない場合、過湿状態が継続して植物の成長が鈍化する虞がある。その結果、効率的な生産が妨げられるという問題もある。過湿状態を解消するためには、通常、栽培環境に通気性を持たせて、過剰な水蒸気を排除することが考えられるが、植物の生育に必要な水まで取り除かれて、不足する水を供給する必要があり、密封状態での栽培が困難である。
【0006】
本発明の一態様は、上記課題を解決するために成されたものであり、密閉容器内の植物を、その植物に適した栽培環境で栽培する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、例えば、以下に示す態様に係る発明を提供する。
1)植物繁殖体と、少なくとも1栽培サイクル分の水とを密閉容器内に格納してなる、植物栽培容器。
2)上記水は養液である、1)に記載の植物栽培容器。
3)二酸化炭素の供給源を備えている、1)又は2)に記載の植物栽培容器。
4)二酸化炭素は、酵母による発酵で供給される、3)に記載の植物栽培容器。
5)植物繁殖体は、種子、球根、塊茎、幼苗、胞子、菌糸、カルスであり、当該植物繁殖体は上記水と分離した形態で、上記密閉容器内に格納されている、1)から4)のいずれかに記載の植物栽培容器。
6)上記植物繁殖体は、野菜の種子である、5)に記載の植物栽培容器。
7)上記密閉容器は、水、及び/又は、肥料を外部から導入する開口を持たない、1)から6)のいずれかに記載の植物栽培容器。
8)湿度感知部を備えている、1)から7)のいずれかに記載の植物栽培容器。
9)1)から8)のいずれかに記載の植物栽培容器を複数個と、植物栽培容器を冷却する冷却装置とを中に備えている、植物栽培施設。
10)植物を栽培する植物栽培方法であって、上記植物は密閉容器内に格納して栽培され、人為的な冷却によって、上記密閉容器内の湿度を下げる工程を含む、植物栽培方法。
11)上記密閉容器の外面の一部を冷却することによって上記工程を行う、10)に記載の植物を栽培する方法。
12)1)から8)のいずれか1に記載の植物栽培容器、又は、9)に記載の植物栽培施設を用いて実施される、10)又は11)に記載の植物栽培方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、密閉容器内の植物に外部から液体を供給することなく、植物を栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る植物栽培容器の概要を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る植物栽培容器の他の例の概要を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る植物栽培施設の概要を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る植物栽培容器を用いて、種子を栽培した結果を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る植物栽培容器を用いて種子を栽培したときの飽差の結果を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る植物栽培容器を用いて他の種子を栽培したときの飽差の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔植物栽培容器〕
本発明の一実施形態に係る植物栽培容器について、
図1及び2を参照して説明する。本発明の一実施形態に係る植物栽培容器10は、植物繁殖体1と、少なくとも1栽培サイクル分の水とを密閉容器2内に格納してなる。
図1は、本発明の一実施形態に係る植物栽培容器の概要を示す図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る植物栽培容器の他の例の概要を示す図である。
【0011】
植物栽培容器10は、密閉容器2内において植物繁殖体1を生育させるので、外部からの菌等の汚染物質の侵入を抑え、減菌、滅菌、又は無菌の環境下で植物繁殖体1を生育させることが可能であり、植物繁殖体1及び成長した植物体が病気に罹患するのを防ぐことができる。また、植物栽培容器10は、密閉容器2内に植物繁殖体1が格納されているので、例えば日光により温められた密閉容器2の一部を外部から冷却することで、密閉容器2内の温度及び湿度を調整することができる。その結果、植物栽培容器10を用いれば、過湿状態が継続することによる植物体の成長の鈍化を防ぎ、植物の効率的な生産を実現することができる。
【0012】
(植物繁殖体)
本発明の一実施形態において、植物繁殖体1は、植物の繁殖素材を意図しており、例えば、植物の種子、球根、塊茎、幼苗、胞子、菌糸、カルス等であってもよい。なお、植物繁殖体1の上述した形態は、植物栽培容器10の製造者が植物栽培容器10を出荷する時点における形態であることが意図される。植物栽培容器10が、その最終消費者(一般消費者、レストラン等)の元に届いた時点では、植物繁殖体1が生長してその形態が変化している場合もある。
【0013】
植物繁殖体1は、野菜、キノコ、花卉等の繁殖素材であってもよい。植物繁殖体1は、野菜の種子であってもよい。植物繁殖体1は、バジル、コリアンダーのようなハーブ、レタス、ホウレン草のような葉物野菜、ラディッシュ、ニンジン等の根菜等の繁殖素材であってもよい。また、植物繁殖体1は、発芽までの期間が比較的短いアブラナ科の植物の種子であることが好ましい。
【0014】
密閉容器2内に格納する植物繁殖体1の個数は、間引きや摘花等の作業が不要な個数であれば好ましく、例えば、1個以上、10個以下であることが好ましい。密閉容器2に格納する植物繁殖体1は、その生長した植物体が密閉容器2内に収まる大きさのものであることが好ましい。
【0015】
植物繁殖体1は、培地3上に配置又は培地3に植え付けられた状態で密閉容器2内に格納されていてもよい。培地3として、例えば、土壌、スポンジ、ヤシガラ、ハイドロボール、バーミキュライト、ロックウール等を用いることができる。
【0016】
本発明の一実施形態において、培地3は、上下が開口した筒状体に収容され、植物繁殖体1が植え付けられる上側とは反対側の下側に位置する開口は、不織布、メッシュ等により塞がれていることが好ましい。筒状体の下側が不織布、メッシュ等により塞がれていることによって、蒸散及び給水を可能にしつつ、培地の漏れを防ぐことができる。
【0017】
植物繁殖体1及び培地3は、減菌、滅菌、又は無菌状態であることが好ましい。植物繁殖体1及び培地3は、密閉容器2に格納する前又後に、除菌処理が施されていることが好ましい。
【0018】
(密閉容器)
密閉容器2は、気体及び液体を透過させない材料又は透過させにくい材料により形成されている。密閉容器2は、植物繁殖体1及び水を内部に格納するための開口を有しており、内部に植物繁殖体1及び水を格納した後に当該開口を封止したものであり得る。密閉容器2は、内部に植物繁殖体1及び水を格納した後に、完全密閉されたものであることが好ましい。ここで、完全密閉とは、意図的に注入又は排出させない限り、気体及び液体の出入りがない状態を意味する。
【0019】
密閉容器2は、光を透過する材料であって、気体及び液体を透過させない材料又は透過させにくい材料により形成されている。密閉容器2を形成する材料は、軽量で剛性のある樹脂であることが好ましい。密閉容器2を形成する材料として、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、生分解性プラスチック等が挙げられる。また、密閉容器2は、封止した状態で内部が視認しやすいように透明であることが好ましい。密閉容器2は、袋状であってもボックス状であってもよい。
【0020】
密閉容器2は、後述する二酸化炭素の供給源からの二酸化炭素の供給を受け付ける供給口が設けられていてもよい。密閉容器2に設けられた二酸化炭素の供給口にはバルブが設けられており、二酸化炭素を供給しないときには供給口が完全に閉塞するようになっていてもよい。また、二酸化炭素の供給源4が密閉容器2内に設けられた形態であってもよい。
密閉容器2は、光合成により生じた酸素ガスを排気する排気部(図示せず)を備えていてもよい。特に、植物繁殖体1が大きな植物体に生長する場合には、過剰な酸素ガスが生じるため、密閉容器2が排気部を備えていることが好ましい。排気部として、例えば、逆止弁付きの排気専用コックを設けてもよく、これにより密閉容器2内の酸素ガスを排気しつつ、密閉容器2内への外気の流入を防ぐことができる。
【0021】
これに限定されないが、密閉容器2は、好ましい一形態においては、水、及び/又は、肥料を外部から導入する開口を持っていない。したがって、密閉容器2には、植物繁殖体1及び水を内部に格納して開口を封止した後は、水、及び/又は、肥料を外部から導入しない。このように、密閉容器2は、水、及び/又は、肥料を外部から導入する開口を持っていないため、菌等の汚染物質が内部に侵入するのを防ぐことができる。
【0022】
密閉容器2は、減菌、滅菌、又は無菌状態であることが好ましい。密閉容器2は、植物繁殖体1及び水を格納する前又は後前に、除菌処理が施されていることが好ましい。密閉容器2を用いることで、減菌、滅菌、又は無菌の環境下で植物繁殖体1を生育させることができる。
【0023】
また、密閉容器2には、あらかじめフィルタ等を通して汚染物質が取り除かれた空気を注入してから封止されているか、又は、密閉容器2に植物繁殖体1及び水を格納し、封止する作業の全てをクリーンルーム内において行うことが好ましい。密閉容器2内には、あらかじめ汚染物質が取り除かれた二酸化炭素が注入されていてもよい。
【0024】
密閉容器2は、1個の植物繁殖体1が生長した植物体を収容可能な大きさであればよいが、また、2個以上、10個以下の植物繁殖体1が生長した植物体を収容可能な大きさであってもよい。したがって、密閉容器2の内容積は、1000cm3以上、125000cm3以下であり得、3000cm3以上、30000cm3以下であることが好ましい。
【0025】
(水)
密閉容器2に格納される1栽培サイクル分の水とは、植物繁殖体1の栽培を開始してから、発芽するまで、本葉が生長するまで、花芽が形成されるまで、開花するまで、又は、結実するまで、のいずれかを1栽培サイクルとして、その1栽培サイクル中に必要とされる分の水が意図される。植物繁殖体1が野菜の繁殖素材である場合には、栽培を開始してから最初に収穫されるまでに必要とされる分の水が、密閉容器2に格納されていてもよい。
【0026】
植物繁殖体1が野菜の繁殖素材である場合、1栽培サイクル分の水は、100mL以上、500mL以下であることが好ましい。例えば、植物繁殖体1がホウレンソウの種子である場合、100gのホウレンソウを栽培するための1栽培サイクル分の水は、少なくとも100gであり得る。1栽培サイクル分の水は、150mL以上、200mL以上、又は250mL以上であり得、500mL以下、450mL以下、又は400mL以下で有り得る。
【0027】
密閉容器2に格納される水は養液であってもよい。養液は、植物繁殖体1を生長させるための養分を含む液体であり、養分の例として、チッ素、鉄分、リン等が挙げられる。また、密閉容器2に格納される水は、緩衝液であってもよい。水は、後述する培地3中に包含された状態で植物栽培容器10内に格納されてもよいし、植物繁殖体1の一部(例えば、根)が接触可能な他の容器内に包含された状態で密閉容器2内に格納されてもよい。
【0028】
密閉容器2内に格納される水は、減菌、滅菌、又は無菌状態であることが好ましい。密閉容器2内に格納される水は、格納する前又は後に、除菌されていることが好ましい。
【0029】
密閉容器2に格納される水は、袋に封入され、植物繁殖体1と分離した形態で密閉容器2内に格納されていてもよい。この場合、植物繁殖体1の栽培開始時に密閉容器2の外部から当該袋を破ることで、水を植物繁殖体1に供給するようになっていてもよい。
【0030】
(二酸化炭素の供給源)
植物栽培容器10は、二酸化炭素の供給源4を備えていてもよい。二酸化炭素の供給源4は、密閉容器2の内部に設けられた内付けでもよいし、密閉容器2の外部に取り付けられた外付けでもよい。
【0031】
二酸化炭素の供給源4が内付けである場合、二酸化炭素の供給源4は、減菌、滅菌、又は無菌状態であることが好ましい。二酸化炭素の供給源4は、密閉容器2に格納する前又は後に、除菌されていることが好ましい。
【0032】
二酸化炭素の供給源4が外付けである場合、二酸化炭素の供給源4は、パイプ5を介して密閉容器2に設けられた供給口に連結される。二酸化炭素の供給源4に連結されたパイプ5には、二酸化炭素の逆流を防止する逆流防止弁6が設けられていることが好ましい。また、二酸化炭素の供給源4が外付けである場合、植物栽培容器10の出荷前に密閉容器2から二酸化炭素の供給源4を切り離し、植物栽培容器10のみを出荷してもよい。
【0033】
二酸化炭素の供給源4は、酵母の発酵により生じた二酸化炭素を供給するものであってもよい。したがって、二酸化炭素の供給源4は、酵母と、酵母を格納する容器を備えており、さらに、酵母を培養するための培地を備えていてもよい。二酸化炭素の供給源4が備える酵母は、アルコール発酵して二酸化炭素を生成する出芽酵母であれば、その種類は限定されないが、例えば、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)である。酵母を培養するための培地は、酵母に糖を供給する物であればよく、例えば、砂糖寒天培地である。
【0034】
(湿度感知部)
植物栽培容器10は、湿度感知部を備えていてもよい。湿度感知部101は、公知の湿度計により計測された湿度を記録又は管理するものであってもよいし、湿度と温度との両方を計測する温湿度計を備えていてもよい。湿度感知部101は、密閉容器2に外付け又は内付けの何れであってもよく、また、植物栽培容器10の出荷時に密閉容器2から切り離されてもよい。湿度感知部101は、センサ102のみが密閉容器2内に設けられていてもよい。
【0035】
湿度感知部101又はセンサ102が密閉容器2内に設けられている場合、湿度感知部101及びセンサ102は、減菌、滅菌、又は無菌状態であることが好ましい。湿度感知部101及びセンサ102は、密閉容器2に格納する前又は後に、除菌されていることが好ましい。
【0036】
また、植物栽培容器10は、温度感知部、汚染物質感知部等の他の感知部を、外付け又は内付けで備えていてもよい。
【0037】
(植物栽培容器10を用いた栽培方法)
植物栽培容器10を用いた栽培方法について、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、植物栽培容器10は、日光又は人工光が照射される環境下におかれ、継続的に二酸化炭素が供給される。したがって、日中や人工光の照射中は、植物栽培容器10が温められて、密閉容器2内の温度が上昇する。植物栽培容器10を用いた栽培方法においては、このように温められた植物栽培容器10の一部を冷却装置7により人為的に冷却する。これにより、密閉容器2内の温度を下げると共に、湿度を下げる。
【0038】
密閉容器2の冷却は、密閉容器2の外面の一部を冷却することによって行われる。冷却装置7の例として、例えば、送風により冷却するACファン、ペルチェ素子、冷媒等が挙げられる。なお、複数の植物栽培容器10を用いて一度に栽培する場合には、密閉容器2を配列させ、冷却装置7からの冷風を密閉容器2の列に沿った方向に流すことで、複数の密閉容器2を一度に部分冷却してもよい。
【0039】
密閉容器2を冷却することにより、密閉容器2内を結露させて湿度を調整し、植物繁殖体1が成長した植物体からの蒸散を促進させることができる。また、密閉容器2を(特に部分的に)冷却することにより、密閉容器2内の過湿状態を解消することができる。また、密閉容器2の一部を冷却するので、密閉容器2内の温度が過度に低下せず、温度及び湿度の両方をコントロールすることができる。さらに、結露により密閉容器2内に生じた水は、植物繁殖体1(又は、成長した植物体)又は培地3に戻り、植物繁殖体1(又は、成長した植物体)の生育に利用される。
【0040】
従来の栽培方法では、栽培環境に通気性を持たせて過湿状態を解消し、その結果不足する水を外部から供給していた。一方、本発明の一実施形態に係る植物栽培容器10によれば、密閉容器2を冷却するのみで温度及び湿度の両方を調整することができるので、過湿状態を解消しつつ、温度を下げ過ぎない。その結果、本発明の一実施形態に係る植物栽培容器10によれば、過湿状態が継続することによる植物繁殖体の成長の鈍化を防ぎ、植物の効率的な生産を実現することができる。また、外部から密閉容器2内に水を供給する必要がないので、水の供給に伴って密閉容器2内に汚染物質が侵入することを防ぎ、栽培中に植物繁殖体1又は成長した植物体が罹患するのを防ぐことができる。
【0041】
植物栽培容器10を用いた栽培方法においては、植物繁殖体1の生育に必要なものを最初に密閉容器2に入れておけば、植物繁殖体1から成長した植物体を収穫するまで密封したままでよい。したがって、例えば、植物栽培容器10をレストラン内に載置して植物繁殖体1を栽培するような場合にも、衛生的である。
【0042】
また、植物栽培容器10を用いた栽培方法においては、植物栽培容器10への光の照射及び冷却のみを管理すればよいので、栽培作業の省力化を実現できると共に、栽培施設に係る費用を抑えることができる。
【0043】
なお、夜間や光の照射を行わない時に、植物栽培容器10内の温度が下がり過ぎた場合には、ヒーター等により植物栽培容器10を加温して温度を上げてもよい。夜間や光の照射を行わない時に、植物栽培容器10内の湿度が100%近くまで上がっても、植物栽培容器10内は滅菌状態が維持されているので、過湿による病害のリスクは低い。
【0044】
植物栽培容器10を用いた栽培方法においては、密閉容器2内の飽差が、植物体の生育に適した飽差になるように、冷却装置7により密閉容器2を冷却する。植物栽培容器10を用いた栽培方法において、密閉容器2内の飽差を、3g/m3以上、6g/m3以下にすることが好ましい。
【0045】
冷却装置7による冷却を、湿度感知部101が計測した湿度に応じて行ってもよい。すなわち、湿度感知部101が計測した温度及び湿度から算出された飽差が、あらかじめ定められた数値範囲外である場合に、冷却装置7を駆動させて冷却を開始し、湿度感知部101が計測した温度及び湿度から算出された飽差が、あらかじめ定められた数値範囲内となった場合に、冷却装置7を停止させて冷却を終了させるように、冷却装置7を制御してもよい。
【0046】
日光又は人工光が照射され始めるとすぐに、密閉容器2内の温度が上昇し始め、また、日光又は人工光の照射を停止させるとすぐに、密閉容器2内の温度が下がり始めるので、日光又は人工光の照射と冷却装置7による冷却は同時に開始し(ON)、同時に終了する(OFF)ように制御してもよい。また、日光又は人工光の照射を停止させた時に、植物栽培容器10内の温度が下がり過ぎた場合には、ヒーター等により植物栽培容器10を加温して温度を上げてもよい。
【0047】
植物栽培容器10を用いた栽培方法における栽培期間は、植物繁殖体1がバジル、コリアンダーのようなハーブの種子である場合、15日間以上、50日間以下、植物繁殖体1がレタス、ホウレン草のような葉物野菜の種子である場合、25日間以上、50日間以下、植物繁殖体1がラディッシュ、ニンジン等の根菜の種子である場合、50日間以上、70日間以下であってもよい。
【0048】
植物栽培容器10を用いた栽培方法において、人工光を照射して栽培する場合、植物栽培容器10を植物栽培施設100内に載置し、植物栽培施設100内に設けられた発光部103により人工光を照射してもよい。発光部103は、例えば、蛍光灯であり得る。発光部103を備えた植物栽培施設100内において、植物栽培容器10を用いて栽培することによって、光の照射、並びに、温度及び湿度の管理をより正確に行うことができる。
【0049】
〔植物栽培施設〕
本発明の一実施形態に係る植物栽培施設について、
図3を参照して説明する。本発明の一実施形態に係る植物栽培施設100は、本発明の一実施形態に係る植物栽培容器10を複数個と、植物栽培容器を冷却する冷却装置7とを中に備えている。
図3は、本発明の一実施形態に係る植物栽培施設の概要を示す図である。
【0050】
植物栽培施設100は、複数の植物栽培容器10を備えているので、複数の植物繁殖体1を栽培することができる。したがって、同時に大量の植物繁殖体1の栽培が可能である。また、植物栽培容器10の外部から冷却装置7を用いて冷却するのみで、植物繁殖体1の生育に適した湿度にすることができるのみならず、外部から水を供給しなくても生育に必要な水分を確保することができる。また外部から密閉容器2内に水を供給する必要がないので、水の供給に伴って密閉容器2内に汚染物質が侵入することを防ぎ、栽培中に植物繁殖体1が罹患するのを防ぐことができる。植物栽培施設100の例としては、例えば、ガラス温室、又は、ビニルハウス等が挙げられる。
【0051】
植物栽培施設100は、植物栽培容器10に人工光を照射する発光部をさらに備えていてもよい。なお、植物栽培容器10は、密閉容器2により外部からの菌等の汚染物質の侵入を抑えた栽培が可能であるため、植物栽培施設100内は、クリーンルームである必要はない。
【0052】
〔植物栽培方法〕
本発明の一実施形態に係る植物栽培方法は、植物を栽培する植物栽培方法であって、上記植物は密閉容器内に格納して栽培され、人為的な冷却によって、上記密閉容器内の湿度を下げる工程を含む。また、本発明の一実施形態に係る植物栽培方法は、上記密閉容器の外面の一部を冷却することによって上記工程を行ってもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係る植物栽培方法は、上述した植物栽培容器、又は、上述した植物栽培施設を用いて実施される植物栽培方法である。したがって、本発明の一実施形態に係る植物栽培方法の説明は、上述した植物栽培容器の説明、上述した植物栽培容器を用いた栽培方法の説明、及び植物栽培施設の説明に準じる。
【0053】
〔流通の形態〕
特に限定されないが、例えば以下のような流通の形態が考えられる。
植物繁殖体1の状態のまま、もしくは植物繁殖体1が成長を開始した初期段階で、植物栽培容器10が、製造者から、1)植物栽培施設100や、2)例えば、ホームセンタ、種苗店等の小売又は卸売業者等へ納品される。植物繁殖体1が収穫間近な又は収穫可能な植物体となった段階で、植物栽培容器10が、植物栽培施設100から、1)最終消費者、2)飲食店、3)生鮮食料品を取扱う小売又は卸売業者等へ納品される。
【0054】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0055】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0056】
スイートバジル(タキイ種苗)及びコリアンダー(タキイ種苗)の種子を購入し、それぞれ別の植物栽培容器内で植物繁殖体として栽培した。密閉容器として、ナイロンポリ袋(福助工業No.25)を用いた。種子をハイドロボール(園芸用発泡煉土 ハイドロカルチャー 中玉、有限会社タカムラ)上に置いて、培養液であるEC1(大塚肥料製)200mLをハイドロボールに供給した。
【0057】
ナイロンポリ袋外に設けた二酸化炭素の供給源から、砂糖寒天(砂糖:スプーン印上白糖 三井製糖株式会社、寒天:かんてんぱぱ かんてんクック 伊那食品工業株式会社)でイースト菌(スーパーカメリヤドライイースト、株式会社日清製粉)を培養することで発生する二酸化炭素をナイロンポリ袋内に供給した。ナイロンポリ袋内に設けた温湿度センサ(サーモレコーダー、RS-12、エスペックミック)によりナイロンポリ袋内の飽差を計測した。
【0058】
培養液が供給されたハイドロボール上の種子をナイロンポリ袋内に格納し、その開口を封止した。封止したナイロンポリ袋の1つを、幅45cm×奥行50cm×高さ45cmの恒温庫(Yamato Incubator IS400)内に入れ、蛍光灯(TOSHIBA 白色FL 10w)4灯で、8時~18時まで光を照射した。密閉容器内の光量は、400μmol・m-2・s-1であった。
【0059】
ナイロンポリ袋の外部からの冷却を、ACファン(MU1225S,1.6m
3/min)により恒温庫外空気(0℃)を恒温庫内に送風することで行った。恒温庫内の設定温度を27℃としたが、ACファンにより送風のために恒温庫の扉は常時半開きにした。二酸化炭素の供給、光の照射、及び冷却の様子を、
図4中(d)に例示した。
【0060】
図4中(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係る植物栽培容器を用いて、種子を栽培した結果を示す図である。
図4中(a)に示すように、ナイロンポリ袋内でバジルの種子の栽培を開始したところ、
図4中(b)に示すように、栽培開始から1週間では大きな変化はないが、
図4中(c)に示すように、栽培開始から2週間で発芽が確認された。ナイロンポリ袋内に外部から水などを供給しなくても、種子が発芽することが分かった。スイートバジルは播種から21日後、コリアンダーは播種14日後に、草丈が約5~8cmにまで生長した。なお、レタス(タキイ種苗)の種子についても、スイートバジル及びコリアンダーと同様に栽培したところ、播種から10日後に本葉展開することまで確認できた。
【0061】
図5に、本発明の一実施形態に係る植物栽培容器を用いて種子を栽培したときの飽差の結果を示す。
図5に示すように、バジルの種子を載置したナイロンポリ袋内の温度は、25~27℃に達するまで上昇するが、同時にACファンにより冷却されるので、11時~18時におけるナイロンポリ袋内の飽差は3g/m
3以上、4g/m
3以下の範囲とすることができた。ナイロンポリ袋を外部から冷却するのみで、ナイロンポリ袋内の飽差を適切に保持できることが分かった。
【0062】
図6に、本発明の一実施形態に係る植物栽培容器を用いて他の種子を栽培したときの飽差の結果を示す。ナイロンポリ袋内でコリアンダーの種子を栽培した場合、
図6に示すように、照明及び送風をOFFにして人工光の照射及び冷却を行わない場合には、飽差が適正範囲外であるが、照明及び送風をONにして人工光の照射及び冷却を行った場合には、飽差が適正範囲内に維持される。そして、このような飽差の変動は、ナイロンポリ袋内の温度及び湿度の変化に連動していた。ナイロンポリ袋を外部から冷却するのみで、他の種子を用いた場合でも、ナイロンポリ袋内の飽差を適切に保持できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、農業分野、食品分野等に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 植物繁殖体
2 密閉容器
4 二酸化炭素の供給源
7 冷却装置
10 植物栽培容器
100 植物栽培施設
101 湿度感知部