(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】隊列走行システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/17 20200101AFI20221216BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20221216BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20221216BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B60W30/17
G08G1/00 X
G08G1/16 E
G08G1/09 H
(21)【出願番号】P 2018133842
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】515213711
【氏名又は名称】先進モビリティ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】須田 義大
(72)【発明者】
【氏名】籾山 冨士男
(72)【発明者】
【氏名】稲津 隆敏
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝幸
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043753(WO,A1)
【文献】特開2010-166635(JP,A)
【文献】特開2017-206969(JP,A)
【文献】特表2011-507743(JP,A)
【文献】特開2005-35533(JP,A)
【文献】特開2018-54527(JP,A)
【文献】特開2017-30598(JP,A)
【文献】特開2013-154684(JP,A)
【文献】特開2001-287568(JP,A)
【文献】特開2008-204094(JP,A)
【文献】特開2009-113685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60K 31/00-31/18
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両が列を組んで走行する隊列走行システムにおいて、前記複数の車両は後続車ほど減速能力が高くなるように仕様設定がなされ、更に各車両は自重及び道路勾配を検出して余剰牽引力を算出する隊列ECUを備え、
この隊列ECUは、先頭車から後続車へ順次低速ギヤに設定して巡航する手段を備え、この隊列ECUによる制御により車両の中で最も余剰牽引力が低い車両の加速能力を超えない範囲で走行し、また前記車両のうち少なくとも先頭車両以外の車両は前方認識センサ(レーザ又は画像センサ)を備え、前記前方認識センサ(レーザ又は画像センサ)により目標車間距離に対する差異、車間速度、車間加速度、先行車速度及び先行車加速度を検出し、この検出値に基づき前記隊列ECUは先行車との加速度差異の補償と目標車間との差異補償と制御遅れ補償のための加速度の合計加速度で制御することを特徴とする隊列走行システム。
【請求項2】
請求項1に記載の隊列走行システムにおいて、前記車両のうち少なくとも先頭車両以外の車両はリターダ、電子機械式全自動変速機、電子制御ブレーキ、前方認識センサ、前後加速度センサまたは勾配センサ
及び車々間通信装置を備えることを特徴とする隊列走行システム。
【請求項3】
請求項1または2の何れかに記載の隊列走行システムにおいて、前記隊列ECUは、勾配を推定し、自重を推定して、要求加速度に対するエンジントルク制御量であるアクセル開度を求めることを特徴とする隊列走行システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の隊列走行システムにおいて、前記隊列ECUは、エンジンピークトルク点以下のエンジン回転域の加速度を適用する実行手段を備えることを特徴とする隊列走行システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の隊列走行システムにおいて、前記隊列ECUは、ギヤホールドして、トルク中断を避けての走行も可能にする手段を備えることを特徴とする隊列走行システム。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の隊列走行システムにおいて、前記隊列ECUは、先頭車はエンジンブレーキのみを使用、後続車はエンジンブレーキとリターダ1段作動を使用、後々続車はエンジンブレーキと2段リターダ使用に設定して巡航する手段を備えることを特徴とする隊列走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自重や道路勾配などの状態変化に適応する隊列走行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
国立研究開発法人新エネルギー産業技術開発機構(NEDO:New Energy Industrial Technology)のエネルギーITSプロジェクトが2008年から2013年まで推進された。車間距離を短くして隊列走行することにより空気抵抗が改善され燃費が向上することの研究報告、車間距離を短く安定して制御するアルゴリズムの研究報告、車間距離の短縮による車間衝突の危険を補償する制動システムの研究報告、車間距離制御にかかわる車両の前後方向の運動特性を数学式で表現する研究報告などが非特許文献1~5に記載されている。
【0003】
前記非特許文献1には、車間距離を短くして隊列走行することにより空気抵抗が改善され燃費が向上することが記載されている。
【0004】
前記非特許文献2には、ACC(Adaptive Cruise Control system:車間距離制御システム)に車々間通信によって他車の加減速情報を共有することで、ACCよりも車間距離を短くできるシステム(CACC:協調型ACC)を、大型トラックに適用するアルゴリズムとして、車間距離を時間に置換して「車間時間」で制御する制御則が記載されている。
【0005】
前記非特許文献3及び非特許文献4には、車両が複数台で列を組んで走行する隊列走行でのブレーキシステムの信頼性を高めるため、2系ブレーキシステムについて記載されている。この2系ブレーキシステムは「車間時間」の短縮による車間追突の回避を補償するものである。
【0006】
また前記非特許文献5には、車両(大型トラック)の前後運動を表現する車両モデルに関し、ギヤ変速をしない定常走行及びギヤ変速をする準定常走行までのモデルについて記載されている。
【0007】
更に上記の技術の実用化に向けて、内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、次世代公共交通システムの実用化の開発が推進されている。
【0008】
一方で、市販車両の駆動・制動装置の自動化が進展してきており、エンジンと協調制御される機械式自動変速機において、運転者の要求トルクにする制御を行う特許文献1、目標減速度及び車両重量から目標制動力を算出する特許文献2、無人での自動運転にも対応する駐車ブレーキの特許文献3などがある。
【0009】
前記特許文献1には、トラックやバスなどの大型車両に搭載されている機械式自動変速機のギヤを切替えるときにエンジントルクを制御すると記載されている。
【0010】
前記特許文献2には、車両重量の算出式が記載されている。それによって推定された車両重量を目標減速度で除算して目標減速度を算出すると記載されている。
【0011】
また前記特許文献3には、運転者が乗車していない状態でも、始業のため駐車ブレーキを解除し、終業のため駐車ブレーキをかける駐車目的のほか、非常ブレーキとしての任務も担うと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2017-30529号公報
【文献】特開2014-118065号公報
【文献】特許第6184045号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】「隊列走行トラックの高速道路における走行抵抗・燃費低減効果の検討」 山崎穂高ほか,自動車研究32(3) 2013, p.139-143
【文献】「大型トラックの協調型ACCにおける車間距離制御アルゴリズムの開発」大前学ほか,自動車技術論文集,Vol.44, No.6, November 2013, No.20134868, p.1509-1515.
【文献】「隊列走行におけるブレーキシステムの信頼性向上の検討(第1報)」 安芸雅彦ほか、2011年5月自動車技術会学術講演会,No.348-20115307
【文献】「隊列走行におけるブレーキシステムの信頼性向上の検討(第2報)」鈴木儀匡ほか、2011年5月自動車技術会学術講演会,No.349-20115389
【文献】「大型トラックの前後運動の同定とそのモデル手法」籾山冨士男ほか,自動車技術会論文集,Vol.43, No.2, March 2012, No.20124209, p.211-216.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
隊列走行にあっては、常に隊列を構成する車両と車両の間の距離が一定であることが理想であるが、実際には人間が運転する先頭車両は、直線から曲線への進入時には減速傾向、曲線から直線への脱出には増速傾向、登坂路ではシフトダウンを含む減速傾向、降坂路ではエンジンブレーキ、リターダブレーキ、サービスブレーキ更にシフトダウンしてのサービスブレーキ、そして交通流・信号の切り替わりなど周囲の状況に適合するため、増速・減速を繰り返す。
【0015】
その変化の後続車への伝播は増速時には車間距離は伸長し、減速時には短縮する傾向になる。速度制限車速で先頭車が走り続けたのでは、後続車に一度生じた遅れは回復できないし、速度制限車速より低い車速域での走行でも積載重量違いによる後続各車の速度制御能力の不揃いのため車間伸長・車間短縮が生じるので、先頭車は、隊列を構成する各車両の速度制御能力を踏まえ最も速度制御能力が低い車両の能力域で走行する様にする必要がある(課題1)。
【0016】
そのためには、隊列を編成する各車両は自車の余裕牽引力(即ち発生可能加速度)を常に把握していて、先行車から求められる加速度を生じるアクセル開度の算出式を持つ必要があり、その算出式の変数である車両重量、道路勾配、空気抵抗、ころがり抵抗を検出する手段を備える必要がある(課題2)。
【0017】
また、隊列編成する各車両には電子機械式自動変速機(以下、AMT、Automated Mechanical Transmissionの略)が搭載されているが、このAMTはギヤ変速の際にエンジンから駆動輪への駆動トルクの伝達が切れる「トルク中断(Torque Break)」があり、その間の駆動力制御が中断するので、それを踏まえての速度制御が必要である(課題3)。
しかしながら、非特許文献1は、車間距離を短くして隊列走行することにより空気抵抗が改善され燃費が向上するとして車間短縮の効果を示しながらも車間短縮のための方策までは言及していない。
【0018】
非特許文献2の車間維持の制御則は「目標加速度+車間時間+車速」として示されているものの、異なる物理量の和では、そのまま設計諸元として用いることができないし、隊列を構成する車両の積載量が異なる状況下や道路勾配が変動する状況下、及びギヤ変速を必要とする条件下に適応させる課題を残している。
【0019】
非特許文献3、4には車間追突回避のため後続車ほど最大減速度を高く設定するとあるものの、商用車ブレーキ法規UN-R13による規程減速度(MFDD:5.0m/S2以上)を下限とし路面摩擦係数で決まる減速度を上限として、その間で後続車ほど高くなる最大減速度をABSの作動を保証して実現する課題を残している。ここにMFDDとは、Mean Fully Developed Deceleration の略でありABS作動での平均減速度を意味する。
【0020】
非特許文献5は、モデルと実車との同定に留まり、隊列走行システムへの適用までは言及していない。自動変速機のギヤ変速に伴い生じる速度変動の指摘に留まり、それを抑制して隊列走行システムへ適用する策までは言及していない。
【0021】
特許文献1は、ギヤの切り替え時の時間を短縮しながらドライバビリティを向上させるためにエンジントルクを制御するに留まり隊列走行システムへの適用までは言及していない。
【0022】
特許文献2は、エンジントルク、車両加速度ほかをパラメータとする車両重量計算式を示しながらも、エンジントルクから駆動力に至る伝達効率、車両加速度に関係する道路勾配・空気抵抗・転がり抵抗の影響因子に関する記載が見当たらない。
【0023】
前記特許文献3には、「シフトレバーが駐車位置か、駐車ブレーキがかかっているか、サービスブレーキがかかっているか、エンジンを始動したか、発進ギヤに入れたか、サービスブレーキは解除されたか、駐車ブレーキは解除されたか、発進したかに至る始動工程」、及び「サービスブレーキがかかっているか、ギヤは中立になっているか、駐車ブレーキがかかっているか、エンジンは止まったか、サービスブレーキは解除されたかに至る駐車工程」の駐車始動の作動制御流れが示されている。この「始動工程」と「駐車工程」の流れの中間に来る「走行工程」で前記した課題が問題になる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するため、本発明に係る隊列走行システムは、隊列を組む複数の車両は後続車ほど減速能力が高くなる仕様設定がなされ、更に各車両は自重及び道路勾配を検出して余剰牽引力を算出する隊列ECUを備え、この隊列ECUによる制御により車両の中で最も余剰牽引力が低い車両の加速能力を超えない範囲で走行する構成とした。
【0025】
前記列を組んで走行する複数台の車両のうち少なくとも先頭車両以外の車両はリターダ(補助ブレーキ)、電子機械式全自動変速機、電子制御ブレーキ、前方認識センサ、前後加速度センサ(勾配センサでもよい)及び車々間通信装置を備えることが考えられる。
本発明のシステムでは、目的的に特定ギヤに保持して巡航することも可能である。また、リターダとしてはエンジンリターダまたはミッションリターダのどちらでもよい。
【0026】
このように、電子制御ブレーキにエンジンブレーキ効果及び/またはリミッションターダブレーキ効果を組み合わせることによって減速時の車間距離短縮方向を伸張方向にする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、隊列走行を行っている時に、先頭車両の増速時には車間距離は伸長し、減速時には短縮するが、この伸長または短縮の幅を少なくすることができ、安定した隊列走行を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】車間距離・車間速度・車間加速度の検出と制御量の説明図である。
【
図3】多段ギヤの電子機械式全自動変速機の変速点の説明図である。
【
図4】動力性能を加速度で表現する数学モデルの説明図である。
【
図5】加速度で表現する数学モデルによる車速演算の流れの説明図である。
【
図6】双曲線定数を指標とする加速性能曲線の説明図である。
【
図7】双曲線定数を指標として自重を推定しアクセル開度を求める計算図表の説明図である。
【
図8】加速度計と車輪速から求める道路勾配推定の説明図である。
【
図10】隊列走行システムの前後運動にかかわるシステム構成概念の説明図である。
【
図11】トルクピーク点より高いエンジン回転でシフトアップの場合の速度上昇曲線の説明図である。
【
図12】トルクピーク点より低いエンジン回転でシフトアップの場合の速度上昇曲線の説明図である。
【
図13】ギヤ比とリターダの組合せによる減速度増強効果の説明図である。
【
図14】主ブレーキ減速度へのリターダ併用効果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を
図1~15に基づいて説明する。
隊列を構成する複数の車両のうち、先頭車両以外の車両は前方を認識するセンサ(レーザ又は画像センサ)を備えている。尚、先頭車両に前方認識センサを設けてもよい。このようにすれば先頭車両と後続車両とを入れ替えることができる。
図1は車間距離・車間加速度・先行車両の速度と加速度の検出と制御量を示している。前記したように、レーザ又は画像センサによって先行車との車間距離の目標に対する車間距離差異を把握する。その車間距離差異を微分して車間速度を得て、その車間速度を微分して車間加速度を得る。
【0030】
車間速度に自車速度を加えると先行車速度が分かり、それを微分して先行車加速度が分かる。自車速度を微分して自車加速度が分かる。この様にして得られる物理量を用いて制御量を構成する。
【0031】
制御量としては、制御する自車の先行車との加速度差異を補償するための加速度(A)、目標車間との差異を補償するための加速度(B)、加速度および車速の差異の検出遅れを補償するための加速度(C)が必要になる。この三つの加速度の和を制御量とする。これに伴って車速は先行車に揃う。具体的には、(A)+(B)+(C)の加速度に対応するアクセル%を制御量とする。アクセル%に対応する加速度は
図6により算出される。
【0032】
各車両は、隊列走行(自動運転)ECU(Electric Control Unit)、エンジンECU、自動変速機ECU、電子制御ブレーキECU及び車両制御ECUなどの各種制御ユニットを搭載している。
【0033】
動力性能曲線の一般的表現の説明を
図2に示す。余裕牽引力は自重・勾配に影響される。ここでは、4段変速機の例を示すが、実際は12段乃至16段の多段自動変速を用いる。
図2aのエンジントルク特性は
図2bのギヤ比を介して
図2cの走行性能線図になる。
【0034】
図2cにおいて、G1,G2,G3,G4が各段ギヤによる駆動トルクであり、D
θ0、D
θ1、D
θ2は道路勾配の0%、θ1%、θ2%に対応する車速依存の走行抵抗である。各段ギヤによる駆動トルクと走行抵抗の差が余剰牽引力である。積載して自重が増加すると、その自重増加に比例してG1,G2,G3,G4が低くなり余剰牽引力が減少する。例えば、2速ギヤの場合、P2-D
θ0が平地での余剰引力でありP2-D
θ2が勾配θ2での余裕牽引力である。
【0035】
大型トラックで主流である多段AMTの変速点の説明図を非特許文献5から引用して
図3に示す。アクセル100%で加速した場合の変速点を○印、75%加速の場合を△印、50%加速の場合を□印、25%の場合を菱形で示している。
加速の場合と減速の場合の変速ポイントは異なる。△印のアクセル75%の加速時変速点は、車速3km/h、エンジン回転700rpmで1速から2速にシフトアップし、13km/h、1700rpmで4速へスキップシフトアップし、23km/h、1800rpmで6速へスキップシフトアップし、31km/h、1600rpmで8速へスキップシフトアップし、40km/h、1250rpmで10速へスキップシフトアップし、53km/h、1150rpmで11速へ、67km/hで12速へシフトアップしている。
【0036】
一方、シフトダウンは、エンジン回転665rpmまで下がると1段ずつシフトダウンする設定になっている。ここで記憶すべきことは、50~60km/h以上で走行する高速道路においては、9速、10速、11速、12速にギヤホールドして走行できることである。先頭車が12速(或いは11速)、後続車が11速(或いは10速)、後々続車が10速(或いは9速)にギヤホールドして、トルク中断を避けての走行も選択肢として用意する。
【0037】
動力性能を加速度で表現する数学モデルの説明図を
図4に示す。エンジントルクT
Eに変速ギヤ比i
mn・終変速比i
fが乗じて駆動輪で回転トルクが駆動力になり車両前後運動が生じる。車両前後運動にかかわる車両質量m
eqを駆動軸まわりに等価慣性モーメントI
eqに変換して式(1)の回転運動の式を導出し、式(2)により回転加速度ω’を前後加速度αに置換し、式(3)により走行抵抗R
γ、R
d、R
θ車両の前後加速度α
γ、α
d、α
θで捉えると、以下の式(4)の前後運動の式になる。ここに、R
γはころがり抵抗、R
dは空気抵抗、R
θは勾配抵抗である。以下の式(2)に含まれるm
eqが積載量に依存する。m
eqが変化し、ギヤ比i
mnが変化すると式(4)のαが変化する。このαが余剰牽引力相当の加速度になる。ここに、式(5)はエンジンの正味出力の加速度相当値になる。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
加速度で表現する数学モデルによる車速演算の流れを
図5に示す。要求加速度からアクセル開度(%)が入力される。アクセル開度がAMT、エンジン、エンジンリターダに入る。AMTはアクセル開度と車速を受けてギヤを選択する。車速とギヤからエンジン回転n
eが決まる。
エンジンではエンジン回転とアクセル開度からエンジン出力としての加速度を算出する。エンジン加速度を算出する式は、ピークトルク点以下のエンジン回転域ではy
1=c、ピークトルク以上のエンジン回転域ではy
2=ax+bの直線の式が用意されアクセル開度に応じた加速度値を出力する。この加速度から空気抵抗、ころがり抵抗、勾配抵抗の減速度を引算して積分して速度を求める。
【0044】
一方、減速については「ブレーキペダルストロークに相当するブレーキ%に比例して作動する主ブレーキ」と「アクセルが離されるとエンジンブレーキに重畳して作用するリターダ」との組合せによって後続車ほど減速度を高くして「後続車ほど車車間距離が狭くなる傾向」を抑制する。この点、後記
図13にて詳述する。
リターダの利きは、非作動・1段作動・2段作動と選択できる。エンジンリターダによる減速度はエンジン回転に比例しトランスミッションリターダは車速比例するから、エンジンリターダの利きはギヤ位置と車速に依存しトランスミッションリターダはギヤ位置には依存せず車速に依存する。
【0045】
要求減速度からブレーキ%が入力される。この条件下ではアクセル開度はゼロであるからリターダも作動強度選択「ゼロ・1段・2段」に応じて作動する。主ブレーキはブレーキ%に比例した減速度を生じる。この減速度は積載増に依存して減少するので電子制御ブレーキ(EBS:Electronic Brake System)がころがり抵抗成分も含めて減少補正をした減速度を発生させる。このEBSによる減速度にミッションリターダ、エンジンリターダによる減速度が重畳する。
【0046】
余剰牽引力に影響する車両重量変化を検出する手段を備える必要がある。重量変化を検出するためには道路勾配を検出する手段を備える必要がある。余剰牽引力は速度と駆動力との双曲線を描くことを
図2に示した。更に、駆動力は加速度で表現できることを
図4に示した。
図2の速度と駆動力の関係に代わり、速度と加速度の関係にして表現できる。
【0047】
図6は、水平路にてアクセルを100%踏込んだ時の各ギヤ毎の発生加速度と、アクセルを放して惰行走行したときの発生減速度の車速変化を、空積載と12t積載について実測したものである。車速をX軸にとり、Y軸に加速度をとる。X軸より上にギヤ毎の加速度、X軸より下に惰行減速度を示している。加速度と減速度の和をYとし、車速をXとすると、Y=aXの双曲線を描き、双曲線定数aは、積載変化、アクセル開度(%)変化の指標になる。
【0048】
双曲線定数を指標として自重を推定しアクセル開度を求める計算図表を
図7に示す。車両総重量をX軸、アクセル開度(%)をY軸、双曲線定数をZ軸にとる。X-Z座標上の線Ap-Bが車両総重量の増加に伴う双曲線定数の変化を示し、AO点が空車・アクセル開度100%での双曲線定数である。Y-Z座標上の線A-Cがアクセル開度の減少に伴う双曲線定数の変化を示す。線A-Cは車両総重量の増加に伴い線Ax-Cx更に、線B-Dへと変化する。線CDと線EFの間はアクセル開度の遊び代である。
【0049】
XYZ軸上の任意の点Zxyにおける車両総重量の求め方、双曲線定数の求め方、更に双曲線定数から発生加速度を求めるための計算方法を以下に示す。
【0050】
線Ap-Bの式は、式(6)、(7)で表される。
【0051】
【0052】
【0053】
線A-Cの式は、式(8)、(9)で表される。
【0054】
【0055】
【0056】
線Ay-Byの式は、式(10)、(11)で表される。
【0057】
【0058】
【0059】
線Ax-Cxの式は、式(12)、(13)で表される。
【0060】
【0061】
【0062】
線G-Hの式は、式(14)、(15)で表される。
【0063】
【0064】
【0065】
任意のアクセルでの自重推定は、式(10)と(12)を連立させてXLについて解く。
式(10)をXLの式に変換して(式16)とする。
【0066】
【0067】
式(12)をKxyzの式に変換して(式17)とする。
【0068】
【0069】
式(17)を式(16)に代入して(式18)とする。
【0070】
【0071】
式(8)を式(18)に代入し車両総重量XLについて分解する。
【0072】
【0073】
かくして、式(19)のZxyに現在の“車速×加速度”を代入し、現在のアクセル開度(%)を代入することにより、自重(車両総重量)XLが分かる。
次に、要求加速度に応じるアクセル開度の計算法を示す。
式(18)をアクセル開度%(y)の式に変換する。
【0074】
【0075】
式(20)のZyに式(8)、ZXOに式(14)を代入して(式21)を得る。
【0076】
【0077】
式(21)をアクセル開度yについて整理して(式22)を得る。
【0078】
【0079】
式(22)を更に整理して(式23)とする。
【0080】
【0081】
式(23)をアクセル開度yについて分解して式(24)を得る。
【0082】
【0083】
かくして、アクセル開度(%)yは、式(24)のX1に予め求めた車両総重量(自重)を代入し、Zxyに“車速(m/s2)×加速度(m/s2)”を代入して求められる。
【0084】
アクセル開度100%におけるAxから現在のアクセル開度y%におけるZxyを差し引いた値“Ax-Zxy”が余剰牽引力に相当する余剰加速度になる。尚、この加速度は”実測値+惰行減速度+勾配抵抗“相当の加速度である。
【0085】
要求加速度には、現在走行中の道路勾配による加速度成分を加減して答えることが求められる。加速度計と車輪速から求める道路勾配の説明図を
図7に示す。車載する加速度計による前後加速度には車輪回転の加速度成分と道路勾配成分とが重畳する。車体前後加速度は水平路で静止しているならゼロで、勾配θで静止しているなら重力の加速度(9.81)にSinθを乗じた値の式(25)になる。走行中は走行加速度が重畳して式(26)になる。式(26)から道路勾配は式(27)により求めることができる。ここにrは車輪の回転半径、ωは車輪回転角速度、ω’は車輪の回転角加速度である。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
ここで、
図1、
図6、
図7、
図8が連係する加速制御の流れを
図9に示して理解の助けとする。
図9は、(A)自車の状態制御、(B)隊列の維持制御、及び(C)先行車の運転制御の三つの点線枠で構成される。
【0090】
(A)では、アクセル%、加速度計、車輪速のセンサから、勾配を推定し、自車加速度を求め、惰行減速度を算出してこれらの和に車速を乗じて、それと現在のアクセル%を自重推定の実験式に代入して自重を推定する。
(B)では、
図1の下段の内容の構成を変えて示している。レーザ又は画像センサから先行車との車間距離、車間速度、車間加速度を検出して、車間を保ち先行車に追随する制御量(加速度)を求める。それを(A)送り勾配加速度と惰行減速度に加えて、速度に乗じて、要求加速度アクセル開度式に代入してアクセル開度を求めて、アクセルを制御する。
(C)では、(A)からの後続車車速(=車輪速)と、(B)からの車間速度を加算して先行車車速とする。この先行車車速には後続車遅延回復速度を含む規制速度尊守の規制がかかる。その速度を微分して得られる先行車加速度が後続車の余剰加速度(
図7の“Ax-Zxy”)を越えない様に、先行車は運転制御される。
【0091】
隊列走行システムの前後運動にかかわるシステム構成概念を
図10に示す。左方を前とする車両側面である。左からエンジンリターダを装備する電子制御ディーゼルエンジン、AMT、トランスミッションリターダ、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ、EBS、駐車ブレーキ、後車軸を概念的に示している。
【0092】
ここにエンジンリターダとは、エンジンブレーキの利きを高める装置である。通常のエンジンブレーキが燃料を供給しないことによって減速する。それに対してエンジンリターダは圧縮工程による圧縮空気を抜いてしまうことで減速を強める。それを実施する気筒数によってリターダ効果を変えることができる。
【0093】
トランスミッションリターダは、ミッションの出力軸回転を減速するもので、電磁誘導の法則で減速する方式と流体効果で減速する方式がある。エンジン、変速機、ブレーキそれぞれに制御コンピュータ(ECU)を備え、ここに自動運転/隊列走行制御コンピュータ(以下、隊列-ECU)が車内LANで通信する。ここは、LANによらず直接通信でも良い。
【0094】
駐車ブレーキは、車両が人の手を借りずに駐車を解除して任務を果たし終えて駐車する一連の行動の始業と終業の際、或いは、中継地での停止・発車、或いは、事故等の不測の場合の緊急停止、の自動駐車解除・自動駐車作動にかかわり隊列走行システムの前後運動にかかわるシステム構成に含まれる。
【0095】
隊列-ECUは、本発明とは別に備える前方センサによって車線と隊列先行車両(以下、先行車両)の位置と姿勢を認識して追随走行する。隊列先頭車両から目標車間距離、要求加速度を隊列-ECUが受けて、
図1の(A)、(B)、(C)の制御量を決める。この要求加速度は追従車両に搭載する前方センサによって検出される先行車両の加速度を用いても良い。
【0096】
前後加速度センサから前後加速度を受け、LAN乃至EBS-ECUから車輪回転を受けて、先出の
図7の方法により道路勾配を求め勾配抵抗α
γを算出し、車速を受けて空気抵抗α
dを算出し、エンジン回転、車速、アクセル開度、路面勾配を受けて先出の
図6の方法により積載重量を求める。先出の
図1の制御量(加速度)を算出し、これに対応するアクセル開度を式(24)により算出する。
【0097】
ギヤ変速に伴うトルク中断の影響を抑制して速度制御性を向上する方策を
図11及び
図12により示す。ギヤ変速のシフトポイント(エンジン回転数)をピークトルク点に設定して、ピークトルク点より低いエンジン回転域で走行することによってトルク中断が縮小され速度制御が円滑になる。ピークトルク点より高いエンジン回転でシフトアップの場合の速度上昇曲線を
図11に示し、ピークトルク点より低いエンジン回転でシフトアップの場合の速度上昇曲線を
図10に示す。
【0098】
図11、
図12とも左側に車速に対するエンジン回転を軸として原点から引いたギヤ比の線、ピークトルク点n
p、ギヤシフトする下側のエンジン回転n
1と上側のエンジン回転n
2とするギヤ変速に対応するエンジン回転変化を示している。右側に時間軸に対する車速変化を示している。
【0099】
シフトアップの工程は次の様になる。即ち、クラッチを切り、現在のギヤを抜いて、エンジン回転をシフトアップギヤ相当のエンジン回転まで引き下げて(回転同期と云う)上段ギヤに入れて、クラッチを接続する。各ギヤ段のギヤ比は等比級数で並んでいるので高エンジン回転域でのギヤの段差は巾広く、低エンジン回転域でのギヤの段差は狭くなる。
【0100】
そのため、ピークトルク点より高いエンジン回転域では右下がりトルク(y2=ax+b)且つ相対的に長い同期時間のため車速の変動巾が大きく山状になる。ピークトルク点より低いエンジン回転ではトルクが高く一定(y1=c)且つ相対的に短い同期時間のため車速の変動巾が小さく直線的になり、低段ギヤほど加速度が高くなる。
【0101】
この傾向を利用して、ピークトルク点より低いエンジン回転域で高いトルクで素早く変速して加速度の変動を抑制して車間制御の安定を期する。車速50km/h以上の高速隊列巡航域では例えば先頭車が12速、後続車が11速、後々続車が10速にギヤを固定し、50km/h以下の低中速隊列巡航域では例えば先頭車が11速、後続車が10速、後々続車が9速に固定して、後続車ほど低段ギヤで走行することにより車速上昇が後続車ほど優れる様にしても良い。
【0102】
ギヤ比とリターダの組合せによって後続車ほど減速度を高くする方法を、実車実験データをもとに
図13aに示す。ギヤ中立にて惰行走行すると0.165m/s
2の減速度が生じる。ギヤを12速ギヤにして惰行走行すると0.215m/s
2の減速度、11速ギヤでは0.23m/s
2の減速度、更に10速ギヤでは0.298m/s
2とギヤを低速側にするほど減速度が高くなる。これがエンジンブレーキ効果である。
【0103】
エンジンブレーキ状態にリターダを1段作用させると12速で0.378m/s2、11速で0.48m/s2、10速で0.529m/s2と減速度が高まる。リターダを2段に作用させると12速で0.706m/s2、11速で0.781m/s2、10速で0.95m/s2と減速度が更に高まる。この傾向を利用して、例えば、3台隊列の場合、先頭車は12速で巡行し、後続車は11速プラス1段リターダで巡行し、後々続車は10速プラス2段リターダで巡行すると先頭車と後続車の減速度差は0.265m/s2、後続車と後々続車との減速度差は0.47m/s2になる。
【0104】
図13bにギヤのみによる減速度増強効果、及びリターダのみによる減速度増強効果を示す。先頭車はエンジンブレーキのみ使用し、後続車はエンジンブレーキと1段リターダを使用して、後々続車はエンジンブレーキと2段リターダを使用して走行することにより減速時の車間距離減少傾向が改善され車間追突に対する安全余裕が得られる。それに、上記の様に後続車ほど低段ギヤを使用する様にして車間追突に対する安全余裕を一層確実にすることを実施しても良い。
【0105】
主ブレーキ減速度へのリターダ併用効果を
図14に示す。これは、ギヤを11速に固定しての実験解析結果である。ブレーキペダルストローク(%)に対する発生減速度をリターダOFF、リターダ1段作動、リターダ2段作動の3種類の減速度を示している。リターダ併用によってブレーキストローク(%)が低い域での減速度が高くなること、即ち制動遅れが縮小されている。アクセルストロークゼロでリターダが作動するのでブレーキストローク開始までの時間遅れが改善される効果と解釈できる。この効果から隊列減速の際の制動遅れが改善され車間追突に対する安全余裕が増すことになる。
【0106】
隊列編成の制御流れ説明図を
図15に示す。エンジンを動かし、走行開始して、単独走行して、隊列参入し隊列離脱して、単独走行して、駐車してエンジン停止する工程を示している。特許第6184045に始動工程と駐車工程の説明がある。その始動工程と駐車工程の間に当発明による走行工程が入る。隊列の編成は、隊列編成をしてから、走行開始して、停車して後、隊列を解く場合と、走行中に隊列を組み、離れる場合が考えられる。
図15は、その後者の場合について述べる。
【0107】
走行工程について、工程1、2、・・・15、16の工程番号に沿って説明する。単独走行を開始する。勾配推定(工程1)、自重推定(工程2)、余剰加速度推定(工程3)を繰返し、更新しながら走行する。勾配推定は
図8、式27により算出し、自重推定は
図7、式19により算出しながら走行する。ID確認を経て隊列参入する。勾配推定(工程6)、自重推定(工程7)、余剰加速度推定(工程8)を繰返し、更新しつつ、それを隊列内で共有しながら走行する。隊列内における自車の序列(先頭、後続、後々続)を認識して、序列減速度設定(工程9、即ち、
図13a或いは、13bのギヤのみ、或いはリターダのみを選択して、後続ほど減速能力を高くする)をして、車間距離(工程10)を
図1、
図9により調整しつつ走行する。工程11、12を経て、隊列を離れ単独走行に戻り、単独での任務を遂行して駐車工程へ移行する。
【0108】
以上述べた様に、本発明はエンジンリターダを装備するエンジンと自動変速機とミッションリターダと電子制御ブレーキに前方認識装置、前後加速度センサ、車々間通信装置を備えて、道路勾配を推定し、自重を推定し、自車の余剰牽引力を算出し、隊列序列に応じた減速度設定を各車実施して、隊列内で共有して隊列編成する車両中最も低い加減速能力を超えない様に隊列走行するシステムである。
【0109】
また本発明は、目標加速度・目標車間距離を受けて、自車に装備する前方を認識するセンサによって目標車間距離に対する差異、車間速度、車間加速度、先行車速度、先行車加速度を検出して先行車との加速度差異の補償と目標車間との差異補償と遅れ補償のための加速度で制御する制御則を備えた手段としての隊列ECUを有する隊列走行システムである。
【0110】
また本発明は、現在の車速、現在の勾配、現在のアクセル開度から現在の車両重量(自重)を推定して、余剰牽引力(余剰加速度)を求める手段としてのアルゴリズム備えた隊列ECUを有する隊列走行システムである。隊列を編成する各車両の余剰牽引力(余剰加速度)を隊列として共有することによって、余剰牽引力(余剰加速度)が最も低い車両の加速能力を超さない範囲での走行が可能になる。
【0111】
また本発明は、ギヤ変速点をエンジンピークトルク点に設定することによってギヤ変速に伴うトルク中断による加速度変動を低く抑える手段としての隊列ECUを有する隊列走行システムである。
【0112】
また、本発明は、先頭車が12速(或いは11速)、後続車が11速(或いは10速)、後々続車が10速(或いは9速)にギヤホールドして、トルク中断を避けての走行の手段としての隊列ECUを有する隊列走行システムである。
【0113】
また本発明は、後続車ほど加速に優れ減速に優れる設定をすることによって加速時に増加し減速時に減少する車間変化傾向を抑制するシステムである。後続車ほど加速に優れる設定とは、巡航ギヤを先頭車12速(又は11速)、後続車11速(又は10速)、後々続車10速(又は9速)と順次低速ギヤに設定することであり、後続車ほど減速に優れる設定とは後続車ほど順次低速ギヤに設定するとともに先頭車は「エンジンブレーキのみ」を使用、後続車は「エンジンブレーキとリターダ1段作動」を使用、後々続車は「エンジンブレーキと2段リターダ使用」に設定して巡航する手段としての隊列ECUを有する隊列走行システムである。