(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】偏光フィルム、円偏光板および表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20221216BHJP
C08F 220/28 20060101ALI20221216BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20221216BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20221216BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
G02B5/30
C08F220/28
G02F1/1335 510
H05B33/02
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2017021519
(22)【出願日】2017-02-08
【審査請求日】2020-01-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】太田 陽介
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】川口 聖司
【審判官】関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-500593(JP,A)
【文献】特表2016-535322(JP,A)
【文献】特開2011-221186(JP,A)
【文献】特開2013-37353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性を示す化合物および非着色性重合性液晶化合物の重合体を含む偏光子と、保護層とが積層された偏光フィルムであって、該保護層は、重合性化合物を含む組成物の硬化膜であり、該組成物中の単官能重合性化合物の含有量が、該組成物に含まれる全重合性化合物に対して、
70質量%以上であり、
前記単官能重合性化合物は(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物を含み、
前記(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物の含有量は、
保護層を構成する全重合性化合物に対して5質量%以上、99質量%以下であ
り、
前記(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物は、少なくとも、式(1):
【化1】
〔式中、nは1~12の整数を表し、
A
1
はOを表し、
X
1
は置換基を有していてもよいメチレン基を表し、nが2以上の整数のとき、該メチレン基の少なくとも一つは酸素原子に置換されていてもよく、上記置換基は同一または異なっていてもよい〕
で表される化合物を含む、偏光フィルム。
【請求項2】
前記組成物の粘度が27℃において120cps以下である、請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項3】
前記偏光子は、非着色性重合性液晶化合物の重合体を、偏光子の全質量に対して80質量%以上含み、
前記非着色性重合性液晶化合物の重合体はスメクチック液晶相を示し、
前記二色性を示す化合物は、前記非着色性重合性液晶化合物の重合体と配向して含まれる、請求項1
または2に記載の偏光フィルム。
【請求項4】
前記二色性を示す化合物はアゾ色素である、請求項1~
3のいずれかに記載の偏光フィルム。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の偏光フィルムと、位相差フィルムとを備える円偏光板。
【請求項6】
前記位相差フィルムは、下記式(X):
Re(450nm)/Re(550nm)<1 (X)
〔式中、Re(λ)は波長λnmの光に対する正面位相差値を表す〕
を満たす、請求項
5に記載の円偏光板。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれかに記載の偏光フィルム、または請求項
5もしくは
6に記載の円偏光板を備える表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムに関し、詳しくは二色性を示す化合物を含む偏光子と保護層とが積層された偏光フィルム、ならびに該偏光フィルムを備える円偏光板および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から偏光フィルムは、液晶表示パネル、エレクトロルミネッセンス(EL)表示パネル等の各種画像表示パネルにおいて、液晶セルやEL表示素子等の画像表示素子に貼合されて用いられている。
【0003】
このような偏光フィルムとして、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素や二色性染料等の二色性を示す化合物を吸着配向させた偏光子の一方または両方の面に、接着層を介して、トリアセチルセルロースフィルム等の保護層を積層した構成を有する偏光フィルムが知られている。また、近年のディスプレイ薄型化の継続的な要求に伴い、ディスプレイの構成要素の1つである偏光フィルムに対してもさらなる薄型化が要望されており、このような要望に対しては、例えば特許文献1および特許文献2のような重合性液晶化合物と二色性を示す化合物とからなる薄型のホストゲスト型偏光子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-510946号公報
【文献】特開2013-37353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載の偏光フィルムを用いることにより、ヨウ素ポリビニルアルコール型偏光フィルムと比較してさらなる薄型化が期待できる。しかしながら、特許文献1に記載のホストゲスト型偏光子を高分子フィルム(保護層)や表示装置と貼り合わせた際に、偏光子が曝される外部環境条件によっては偏光子中から色素が高分子フィルムや粘着剤中に拡散し、異方性を失い偏光性能が経時的に低下するという課題が生じ得る。
【0006】
特許文献2に記載の偏光フィルムにおいては、この課題を解決するために、透明基材上に配向層、偏光層および保護層が形成された偏光フィルムを前面板(ガラス基材)に対して、インセル方式で配置されている。しかし、この保護層は、溶剤乾燥工程が必要であるため、保護層を作製するための組成物中に含まれる溶剤種や構築される保護層種によっては、乾燥工程中に二色性を示す化合物が保護層内へと拡散し、偏光性能が経時的に低下する場合がある。
【0007】
そこで本発明は、偏光フィルムに特有に生じ得る上記課題を解決し、偏光性能の経時的な低下を抑制することができる、好ましくは薄型の偏光フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は該偏光フィルムを含む円偏光板および表示装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]二色性を示す化合物を含む偏光子と、保護層とが積層された偏光フィルムであって、該保護層は、重合性化合物を含む組成物の硬化膜であり、該組成物中の単官能重合性化合物の含有量が、該組成物に含まれる全重合性化合物に対して、60質量%以上である、偏光フィルム。
[2]前記組成物の粘度が27℃において120cps以下である、前記[1]に記載の偏光フィルム。
[3]前記単官能重合性化合物は(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含む、前記[1]または[2]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[4]前記単官能重合性化合物は(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[5]前記(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物は、下記式(1):
【化1】
〔式中、nは1~12の整数を表し、
A
1はOまたはNHを表し、
X
1は置換基を有していてもよいメチレン基を表し、nが2以上の整数のとき、該メチレン基の少なくとも一つは酸素原子に置換されていてもよく、上記置換基は同一または異なっていてもよい〕
で示される、前記[4]に記載の偏光フィルム。
[6]前記偏光子は非着色性重合性液晶化合物の重合体をさらに含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[7]前記偏光子は、非着色性重合性液晶化合物の重合体を、偏光子の全質量に対して80質量%以上含み、
前記非着色性重合性液晶化合物の重合体はスメクチック液晶相を示し、
前記二色性を示す化合物は、前記非着色性重合性液晶化合物の重合体と配向して含まれる、前記[6]に記載の偏光フィルム。
[8]前記二色性を示す化合物はアゾ色素である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の偏光フィルム。
[9]前記[1]~[8]のいずれかに記載の偏光フィルムと、位相差フィルムとを備える円偏光板。
[10]前記位相差フィルムは、下記式(X):
Re(450nm)/Re(550nm)<1 (X)
〔式中、Re(λ)は波長λnmの光に対する正面位相差値を表す〕
を満たす、前記[9]に記載の円偏光板。
[11]前記[1]~[8]のいずれかに記載の偏光フィルム、または前記[9]もしくは[10]に記載の円偏光板を備える表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、偏光性能の経時的な低下を抑制することができる、好ましくは薄型の偏光フィルムを提供することができる。また、該偏光フィルムを含む円偏光板および表示装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の偏光フィルムの一実施態様における構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施態様である偏光フィルムは、二色性を示す化合物を含む偏光子と、保護層とが積層された偏光フィルムである。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0013】
本発明において、偏光フィルムの一実施態様における構成を
図1に基づいて説明する。偏光フィルム(10)は、偏光子(1)の一方の面に保護層(2)が積層された構造を有する。偏光子(1)の他方の面には別の保護層(3)が積層されていてもよい。また、偏光子(1)と保護層(2)および/または偏光子(1)と保護層(3)との間には、配向膜(図示せず)が積層されていてもよい。必要に応じて上記偏光フィルムは、保護層の、偏光フィルムに隣接する側とは反対の側に粘着剤層(図示せず)を有していてもよいが、偏光フィルムの耐熱性向上の観点からは粘着剤層を有さないことが好ましい。粘着剤層は、偏光フィルムと前面板等の他の部材とを接合する機能を有する。
以下、本発明の一実施態様に係る偏光フィルムの各構成要素について詳細に説明する。
【0014】
<偏光子>
本発明における偏光子は、二色性を示す化合物を含む膜であり、配向性の制御が容易となる観点から、好ましくは非着色性重合性液晶化合物の重合体をさらに含む膜である。偏光子が非着色性重合性液晶化合物の重合体をさらに含む場合、配向性の観点から、偏光子は、非着色性重合性液晶化合物の重合体から構成される膜中に二色性を示す化合物が配向した膜であり、非着色性重合性液晶化合物が保護層面内に対して水平方向に配向した状態で硬化した膜であることが好ましい。
【0015】
偏光子の厚みは、非着色性重合性液晶化合物の配向性の観点から、0.5μm~5μmが好ましく、1μm~3.5μmがより好ましい。偏光子の厚みが上記下限値以上であると、垂直配向方向に配向しにくいため配向秩序が向上する傾向がある。偏光子の厚みが上記上限値以下であると、ランダム配向方向に配向しにくいため配向秩序が向上する傾向がある。偏光子の厚みは、例えば干渉膜厚計、レーザー顕微鏡または触針式膜厚計で測定することができる。
【0016】
偏光子の製造方法は特に限定さればいが、例えば、基材、配向膜または保護層の表面に、非着色性重合性液晶化合物および二色性を示す化合物を含む組成物(以下、「偏光子形成用組成物」ともいう)を塗布して塗布膜を形成する工程、および上記非着色性重合性液晶化合物を重合する工程を含む方法によって偏光子を得ることができる。ここで、非着色性重合性液晶化合物は、配向状態で、特に保護層面内に対して水平方向に配向した状態で、重合させることが好ましい。また、上記偏光子形成用組成物が溶剤を含有する場合、必要に応じて塗布膜を乾燥する工程を含んでもよい。乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥法および減圧乾燥法等が挙げられる。
【0017】
[非着色性重合性液晶化合物]
非着色性重合性液晶化合物とは、着色がなく、重合性基を有し、かつ、液晶性を有する化合物である。重合性基は、重合反応に関与する基を意味し、光重合性基であることが好ましい。ここで、光重合性基とは、後述する光重合開始剤から発生した活性ラジカルや酸等によって重合反応に関与し得る基のことをいう。重合性基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基およびオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。液晶性はサーモトロピック液晶でもリオトロピック液晶でもよい。
【0018】
非着色性重合性液晶化合物は、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック性液晶化合物であってもよいし、スメクチック液晶相を示すサーモトロピック性液晶化合物であってもよい。本発明において非着色性重合性液晶化合物は、配向性に優れ、より高い偏光特性が得られるという観点から、好ましくはスメクチック液晶相を示すサーモトロピック性液晶化合物であり、より好ましくは高次スメクチック液晶相を示すサーモトロピック性液晶化合物である。中でも、スメクチックB相、スメクチックD相、スメクチックE相、スメクチックF相、スメクチックG相、スメクチックH相、スメクチックI相、スメクチックJ相、スメクチックK相またはスメクチックL相を示すサーモトロピック性液晶化合物がより好ましく、スメクチックB相、スメクチックF相、スメクチックH相またはスメクチックI相を示すサーモトロピック性液晶化合物がさらに好ましい。非着色性重合性液晶化合物が形成する液晶相がこれらの高次スメクチック液晶相であると、偏光性能のより高い偏光子を製造することができる。また、このように偏光性能の高い偏光子は、X線回折測定においてブラッグピークが得られることが好ましく、このような偏光子は、ヘキサチック相やクリスタル相といった高次構造由来のブラッグピークが得られるものである。当該ブラッグピークは分子配向の周期構造に由来するピークであり、その周期間隔が3~6Åである膜を得ることができる。さらにより高い偏光特性が得られるという観点から、本発明の一実施態様に係る偏光子においては、非着色性重合性液晶化合物の重合体がスメクチック液晶相、特に高次スメクチック液晶相を示すことが好ましい。
【0019】
このような非着色性重合性液晶化合物としては、具体的には、下記式(A)で表される化合物(以下、化合物(A)ということがある。)等が挙げられる。当該非着色性重合性液晶化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
U1-V1-W1-X1-Y1-X2-Y2-X3-W2-V2-U2 (A)
[式(A)中、
X1、X2およびX3は、互いに独立に、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基または置換基を有していてもよいシクロヘキサン-1,4-ジイル基を表す。ただし、X1、X2およびX3のうち少なくとも1つは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基である。シクロへキサン-1,4-ジイル基を構成する-CH2-は、-O-、-S-または-NR-に置き換わっていてもよい。Rは、炭素数1~6のアルキル基またはフェニル基を表す。
Y1およびY2は、互いに独立に、-CH2CH2-、-CH2O-、-COO-、-OCOO-、単結合、-N=N-、-CRa=CRb-、-C≡C-または-CRa=N-を表す。RaおよびRbは、互いに独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。
U1は、水素原子または重合性基を表す。
U2は、重合性基を表す。
W1およびW2は、互いに独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-または-OCOO-を表す。
V1およびV2は、互いに独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基を構成する-CH2-は、-O-、-S-または-NH-に置き換わっていてもよい。]
【0021】
化合物(A)において、X1、X2およびX3のうち少なくとも1つは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基であることが好ましい。
置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基は、無置換であることが好ましい。置換基を有していてもよいシクロへキサン-1,4-ジイル基は、置換基を有していてもよいトランス-シクロへキサン-1,4-ジイル基であることが好ましく、置換基を有していてもよいトランス-シクロへキサン-1,4-ジイル基は無置換であることが好ましい。
【0022】
置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基または置換基を有していてもよいシクロへキサン-1,4-ジイル基が任意に有する置換基としては、メチル基、エチル基およびブチル基等の炭素数1~4のアルキル基、シアノ基およびハロゲン原子等が挙げられる。
【0023】
Y1は、-CH2CH2-、-COO-または単結合であることが好ましく、Y2は、-CH2CH2-または-CH2O-であることが好ましい。
【0024】
U2は、重合性基である。U1は、水素原子または重合性基であり、好ましくは重合性基である。U1およびU2は、ともに重合性基であることが好ましく、ともに光重合性基であることがより好ましい。光重合性基を有する重合性液晶化合物は、より低温条件下で重合できる点で有利である。
【0025】
U1およびU2で表される重合性基は互いに異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。重合性基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基およびオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0026】
V1およびV2で表されるアルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、テトラデカン-1,14-ジイル基およびイコサン-1,20-ジイル基等が挙げられる。V1およびV2は、好ましくは炭素数2~12のアルカンジイル基であり、より好ましくは炭素数6~12のアルカンジイル基である。
置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルカンジイル基が任意に有する置換基としては、シアノ基およびハロゲン原子等が挙げられるが、該アルカンジイル基は、無置換であることが好ましく、無置換かつ直鎖状のアルカンジイル基であることがより好ましい。
【0027】
W1およびW2は、互いに独立に、好ましくは単結合または-O-である。
【0028】
化合物(A)の具体例としては、式(1-1)~式(1-23)で表される化合物等が挙げられる。化合物(A)が、シクロヘキサン-1,4-ジイル基を有する場合、そのシクロヘキサン-1,4-ジイル基は、トランス体であることが好ましい。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
例示した化合物(A)の中でも、式(1-2)、式(1-3)、式(1-4)、式(1-6)、式(1-7)、式(1-8)、式(1-13)、式(1-14)および式(1-15)でそれぞれ表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0033】
例示した化合物(A)は、単独または組み合わせて、偏光子に用いることができる。また、2種以上の非着色性重合性液晶化合物を組み合わせる場合には、少なくとも1種が化合物(A)であることが好ましく、2種以上が化合物(A)であることがより好ましい。2種以上の非着色性重合性液晶化合物を組み合わせることにより、液晶-結晶相転移温度以下の温度でも一時的に液晶性を保持することができる場合がある。2種類の重合性液晶化合物を組み合わせる場合の混合比としては、通常、1:99~50:50であり、好ましくは5:95~40:60であり、より好ましくは10:90~30:70である。
【0034】
化合物(A)は、例えば、Lub et al. Recl.Trav.Chim.Pays-Bas,115,321-328(1996)、または特許第4719156号等に記載の公知方法で製造される。
【0035】
偏光子形成用組成物における非着色性重合性液晶化合物の含有量は、偏光子形成用組成物の固形分に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上であり、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは94質量%以下で、特に好ましくは90質量%以下ある。非着色性重合性液晶化合物の含有量が上記範囲内であれば、配向性が高くなる傾向がある。ここで、固形分とは、偏光子形成用組成物から溶剤を除いた成分の合計量のことをいう。これにより、得られる偏光子は、該偏光子の全質量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上であり、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは94質量%以下で、特に好ましくは90質量%以下の非着色性重合性液晶化合物の重合体を含む。
【0036】
偏光子形成用組成物は、非着色性重合性液晶化合物および二色性を示す化合物以外の成分として、溶剤、重合開始剤、増感剤、重合禁止剤、レベリング剤および反応性添加剤を含んでもよい。
【0037】
[二色性を示す化合物]
偏光子形成用組成物に含まれる二色性を示す化合物とは、分子の長軸方向における吸光度と、短軸方向における吸光度とが異なる性質(二色性)を示す化合物をいう。本発明の好ましい実施態様において、配向性を容易に制御できるという観点から、二色性を示す化合物は、非着色性重合性液晶化合物の重合体と配向して含まれる。なお、本発明のより好ましい実施態様において、偏光子が上記範囲以上(例えば80質量%以上)の非着色性重合性液晶化合物の重合体を含み、該非着色性重合性液晶化合物の重合体がスメクチック液晶相を示し、二色性を示す化合物が該非着色性重合性液晶化合物の重合体と配向して含まれると、より配向性が高まり、高い偏光特性が得られる。
【0038】
二色性を示す化合物としては、300~700nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有するものが好ましい。このような二色性を示す化合物としては、例えば、アクリジン色素、オキサジン色素、シアニン色素、ナフタレン色素、アゾ色素およびアントラキノン色素等が挙げられるが、中でもアゾ色素が好ましい。アゾ色素としては、モノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素、テトラキスアゾ色素およびスチルベンアゾ色素等が挙げられ、好ましくはビスアゾ色素およびトリスアゾ色素である。二色性を示す化合物は単独でも、2種以上を組み合わせてもよいが、3種以上を組み合わせるのが好ましい。特に、3種以上のアゾ化合物を組み合わせるのがより好ましい。
【0039】
アゾ色素としては、例えば、式(B)で表される化合物(以下、場合により「化合物(B)」という。)が挙げられる。
A1(-N=N-A2)p-N=N-A3 (B)
[式(B)中、
A1およびA3は、互いに独立に、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基または置換基を有していてもよい1価の複素環基を表す。A2は、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、置換基を有していてもよいナフタレン-1,4-ジイル基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表す。pは1~4の整数を表す。pが2以上の整数である場合、複数のA2は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0040】
1価の複素環基としては、キノリン、チアゾール、ベンゾチアゾール、チエノチアゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、オキサゾールおよびベンゾオキサゾール等の複素環化合物から1個の水素原子を除いた基が挙げられる。2価の複素環基としては、上記複素環化合物から2個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0041】
A1およびA3におけるフェニル基、ナフチル基および1価の複素環基、ならびにA2におけるp-フェニレン基、ナフタレン-1,4-ジイル基および2価の複素環基が任意に有する置換基としては、炭素数1~4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基およびブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基;トリフルオロメチル基等の炭素数1~4のフッ化アルキル基;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン原子;アミノ基、ジエチルアミノ基およびピロリジノ基等の置換または無置換アミノ基(置換アミノ基とは、炭素数1~6のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基、または2つの置換アルキル基が互いに結合して炭素数2~8のアルカンジイル基を形成しているアミノ基を意味する。無置換アミノ基は、-NH2である。)が挙げられる。なお、炭素数1~6のアルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、ブチル基およびヘキシル基等が挙げられる。
【0042】
化合物(B)のなかでも、以下の式(2-1)~式(2-6)でそれぞれ表される化合物が好ましい。
【0043】
【0044】
[式(2-1)~(2-6)中、
B1~B20は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、置換または無置換のアミノ基(置換アミノ基および無置換アミノ基の定義は上記のとおり)、塩素原子またはトリフルオロメチル基を表す。
n1~n4は、互いに独立に0~3の整数を表す。
n1が2以上である場合、複数のB2は互いに同一でも異なっていてもよく、
n2が2以上である場合、複数のB6は互いに同一でも異なっていてもよく、
n3が2以上である場合、複数のB9は互いに同一でも異なっていてもよく、
n4が2以上である場合、複数のB14は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0045】
上記アントラキノン色素としては、式(2-7)で表される化合物が好ましい。
【0046】
【0047】
[式(2-7)中、
R1~R8は、互いに独立に、水素原子、-Rx、-NH2、-NHRx、-NRx
2、-SRxまたはハロゲン原子を表す。
Rxは、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表す。]
【0048】
上記オキサジン色素としては、式(2-8)で表される化合物が好ましい。
【0049】
【0050】
[式(2-8)中、
R9~R15は、互いに独立に、水素原子、-Rx、-NH2、-NHRx、-NRx
2、-SRxまたはハロゲン原子を表す。
Rxは、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表す。]
【0051】
上記アクリジン色素としては、式(2-9)で表される化合物が好ましい。
【0052】
【0053】
[式(2-9)中、
R16~R23は、互いに独立に、水素原子、-Rx、-NH2、-NHRx、-NRx
2、-SRxまたはハロゲン原子を表す。
Rxは、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表す。]
【0054】
式(2-7)、式(2-8)および式(2-9)における、Rxで表される炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等が挙げられ、炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基およびナフチル基等が挙げられる。
【0055】
上記シアニン色素としては、式(2-10)で表される化合物および式(2-11)で表される化合物が好ましい。
【0056】
【0057】
[式(2-10)中、
D
1およびD
2は、互いに独立に、式(2-10a)~式(2-10d)のいずれかで表される基を表す。
【化10】
n5は1~3の整数を表す。]
【0058】
【0059】
[式(2-11)中、
D
3およびD
4は、互いに独立に、式(2-11a)~式(2-11h)のいずれかで表される基を表す。
【化12】
n6は1~3の整数を表す。]
【0060】
偏光子形成用組成物における二色性を示す化合物の含有量は、非着色性重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、0.1~30質量部が好ましく、0.1~20質量部がより好ましく、0.1~12質量部がさらに好ましい。二色性を示す化合物の含有量が上記範囲内であれば、非着色性重合性液晶化合物の配向を乱すことなく、非着色性重合性液晶化合物を重合させることができる。二色性を示す化合物の含有量が多すぎると、非着色性重合性液晶化合物の配向を阻害するおそれがある。そのため、非着色性重合性液晶化合物が、液晶状態を保持できる範囲で、二色性を示す化合物の含有量を定めることもできる。なお、得られる偏光子における二色性を示す化合物の含有量は、上記と同様の観点から、非着色性重合性液晶化合物の重合体100質量部に対して、0.1~30質量部が好ましく、0.1~20質量部がより好ましく、0.1~12質量部がさらに好ましい。
【0061】
二色性を示す化合物は、重合性基を有し、上記列挙した色素を骨格とする単量体の重合物であってもよい。二色性を示す化合物が、重合性基を有し、上記色素を骨格とする単量体の重合物である場合には、二色性を示す化合物が保護層に移行することをさらに抑制することができる。ただし、二色性を示す化合物が重合体であると、配向性が低くなる傾向にあるため、偏光性能が低下する傾向がある。そのため、本発明の好ましい態様においては、二色性を示す化合物は重合性基を有さず、その分子量は、例えば1000以下である。本発明によれば、二色性を示す化合物が重合せずとも、二色性を示す化合物の保護層への移行が抑制されるため、優れた偏光性能を有する偏光フィルムを得ることができる。
【0062】
[溶剤]
偏光子形成用組成物は溶剤を含有してよい。溶剤としては、非着色性重合性液晶化合物を完全に溶解し得るものが好ましく、また、非着色性重合性液晶化合物の重合反応に不活性な溶剤であることが好ましい。
【0063】
溶剤としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトンまたはプロピレングリコールメチルエーテルアセテートおよび乳酸エチル等のエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトンおよびイソホロン等のケトン溶剤;ペンタン、ヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素溶剤;トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素溶剤、アセトニトリル等のニトリル溶剤;テトラヒドロフランおよびジメトキシエタン等のエーテル溶剤;クロロホルムおよびクロロベンゼン等の塩素含有溶剤;等が挙げられる。これら溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
溶剤の含有量は、上記偏光子形成用組成物の総量に対して50~98質量%が好ましい。換言すると、偏光子形成用組成物における固形分の含有量は、2~50質量%が好ましい。該固形分の含有量が50質量%以下であると、偏光子形成用組成物の粘度が低くなることから、偏光子の厚みが略均一になることで、当該偏光子にムラが生じにくくなる傾向がある。また、かかる固形分の含有量は、製造しようとする偏光子の厚みを考慮して定めることができる。
【0065】
[重合開始剤]
偏光子形成用組成物は重合開始剤を含有してよい。重合開始剤は、非着色性重合性液晶化合物等の重合反応を開始し得る化合物である。重合開始剤としては、光の作用により活性ラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。
【0066】
重合開始剤としては、例えばベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、トリアジン化合物、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩等が挙げられる。
【0067】
ベンゾイン化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
【0068】
ベンゾフェノン化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンおよび2,4,6-トリメチルベンゾフェノン等が挙げられる。
【0069】
アルキルフェノン化合物としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1,2-ジフェニル-2,2-ジメトキシエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパン-1-オンのオリゴマー等が挙げられる。
【0070】
アシルホスフィンオキサイド化合物としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドおよびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0071】
トリアジン化合物としては、例えば、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシナフチル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシスチリル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(フラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジンおよび2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0072】
重合開始剤として市販のものを用いることができる。市販の重合開始剤としては、イルガキュア(Irgacure)(登録商標)907、184、651、819、250、および369(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製);セイクオール(登録商標)BZ、Z、およびBEE(精工化学株式会社製);カヤキュアー(kayacure)(登録商標)BP100、およびUVI-6992(ダウ・ケミカル株式会社製);アデカオプトマーSP-152、およびSP-170(株式会社ADEKA製);TAZ-A、およびTAZ-PP(日本シイベルヘグナー株式会社製);並びに、TAZ-104(株式会社三和ケミカル製);等が挙げられる。
【0073】
偏光子形成用組成物中の重合開始剤の含有量は、非着色性重合性液晶化合物の種類およびその量に応じて適宜調節できるが、非着色性重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、通常0.1~30質量部、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.5~8質量部である。重合開始剤の含有量が上記範囲内であると、非着色性重合性液晶化合物の配向を乱すことなく重合を行うことができる。
【0074】
[増感剤]
偏光子形成用組成物は増感剤を含有してもよい。増感剤としては、光増感剤が好ましい。該増感剤としては、例えば、キサントンおよびチオキサントン等のキサントン化合物(例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等);アントラセンおよびアルコキシ基含有アントラセン(例えば、ジブトキシアントラセン等)等のアントラセン化合物;フェノチアジンおよびルブレン等が挙げられる。
【0075】
偏光子形成用組成物が増感剤を含有する場合、偏光子形成用組成物に含有される重合性液晶化合物の重合反応をより促進することができる。かかる増感剤の使用量は、非着色性重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、0.1~30質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、0.5~8質量部がさらに好ましい。
【0076】
[重合禁止剤]
重合反応を安定的に進行させる観点から、偏光子形成用組成物は重合禁止剤を含有してもよい。重合禁止剤により、非着色性重合性液晶化合物の重合反応の進行度合いをコントロールすることができる。
【0077】
上記重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、アルコキシ基含有ハイドロキノン、アルコキシ基含有カテコール(例えば、ブチルカテコール等)、ピロガロール、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル等のラジカル捕捉剤;チオフェノール類;β-ナフチルアミン類およびβ-ナフトール類等が挙げられる。
【0078】
偏光子形成用組成物が重合禁止剤を含有する場合、重合禁止剤の含有量は、非着色性重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは0.5~8質量部である。重合禁止剤の含有量が、上記範囲内であると、非着色性重合性液晶化合物の配向を乱すことなく重合を行うことができる。
【0079】
[レベリング剤]
偏光子形成用組成物は、レベリング剤を含有してもよい。レベリング剤とは、偏光子形成用組成物の流動性を調整し、偏光子形成用組成物を塗布して得られる膜をより平坦にする機能を有するものであり、例えば、界面活性剤を挙げることができる。好ましいレベリング剤としては、“BYK-361N”(BYK-Chemie社製)等のポリアクリレート化合物を主成分とするレベリング剤、およびサーフロン(登録商標)“S-381”(AGCセイミケミカル株式会社製)、“メガフェイス F-556”、“メガフェイス F-554”(DIC株式会社製)等のフッ素原子含有化合物を主成分とするレベリング剤が挙げられる。
【0080】
偏光子形成用組成物がレベリング剤を含有する場合、非着色性重合性液晶化合物の含有量100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.3~5質量部、さらに好ましくは0.4~3質量部である。レベリング剤の含有量が上記範囲内であると、非着色性重合性液晶化合物を水平方向に配向(水平配向)させることが容易であり、かつ得られる偏光子がより平滑となる傾向がある。非着色性重合性液晶化合物に対するレベリング剤の含有量が上記範囲を超えると、得られる偏光子にムラが生じやすい傾向がある。なお、偏光子形成用組成物は、レベリング剤を2種以上含有していてもよい。
【0081】
[反応性添加剤]
偏光子形成用組成物は、反応性添加剤を含んでもよい。反応性添加剤としては、その分子内に炭素-炭素不飽和結合と活性水素反応性基とを有するものが好ましい。なお、ここでいう「活性水素反応性基」とは、カルボキシ基(-COOH)、水酸基(-OH)、アミノ基(-NH2)等の活性水素を有する基に対して反応性を有する基を意味し、グリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、無水マレイン酸基等がその代表例である。反応性添加剤が有する、炭素-炭素不飽和結合および活性水素反応性基の個数は、通常、それぞれ1~20個であり、好ましくはそれぞれ1~10個である。
【0082】
反応性添加剤において、活性水素反応性基が少なくとも2つ存在することが好ましく、この場合、複数存在する活性水素反応性基は同一でも、異なるものであってもよい。
【0083】
反応性添加剤が有する炭素-炭素不飽和結合とは、炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合、またはそれらの組み合わせであってよいが、炭素-炭素二重結合であることが好ましい。中でも、反応性添加剤としては、ビニル基および/または(メタ)アクリル基として炭素-炭素不飽和結合を含むことが好ましい。さらに、活性水素反応性基が、エポキシ基、グリシジル基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種である反応性添加剤が好ましく、アクリル基とイソシアネート基とを有する反応性添加剤がより好ましい。
【0084】
反応性添加剤の具体例としては、メタクリロキシグリシジルエーテルやアクリロキシグリシジルエーテル等の、(メタ)アクリル基とエポキシ基とを有する化合物;オキセタンアクリレートやオキセタンメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とオキセタン基とを有する化合物;ラクトンアクリレートやラクトンメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とラクトン基とを有する化合物;ビニルオキサゾリンやイソプロペニルオキサゾリン等の、ビニル基とオキサゾリン基とを有する化合物;イソシアナトメチルアクリレート、イソシアナトメチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレートおよび2-イソシアナトエチルメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とイソシアネート基とを有する化合物のオリゴマー等が挙げられる。また、メタクリル酸無水物、アクリル酸無水物、無水マレイン酸およびビニル無水マレイン酸等の、ビニル基やビニレン基と酸無水物とを有する化合物等が挙げられる。中でも、メタクリロキシグリシジルエーテル、アクリロキシグリシジルエーテル、イソシアナトメチルアクリレート、イソシアナトメチルメタクリレート、ビニルオキサゾリン、2-イソシアナトエチルアクリレート、2-イソシアナトエチルメタクリレートおよび上記のオリゴマーが好ましく、イソシアナトメチルアクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレートおよび上記のオリゴマーが特に好ましい。
【0085】
具体的には、下記式(Y)で表される化合物が好ましい。
【0086】
【0087】
[式(Y)中、
nは1~10までの整数を表わし、R1’は、炭素数2~20の2価の脂肪族または脂環式炭化水素基、または炭素数5~20の2価の芳香族炭化水素基を表わす。各繰返し単位にある2つのR2’は、一方が-NH-であり、他方が>N-C(=O)-R3’で示される基である。R3’は、水酸基または炭素-炭素不飽和結合を有する基を表す。
式(Y)中のR3’のうち、少なくとも1つのR3’は炭素-炭素不飽和結合を有する基である。]
【0088】
上記式(Y)で表される反応性添加剤の中でも、下記式(YY)で表される化合物(以下、化合物(YY)という場合がある。)が特に好ましい(なお、nは上記と同じ意味である)。
【0089】
【0090】
化合物(YY)には、市販品をそのまま又は必要に応じて精製して用いることができる。市販品としては、例えば、Laromer(登録商標)LR-9000(BASF社製)が挙げられる。
【0091】
偏光子形成用組成物が反応性添加剤を含有する場合、反応性添加剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部である。
【0092】
<配向膜>
本発明において配向膜は、高分子化合物からなる膜であり、非着色性重合性液晶化合物を所望の方向に液晶配向させる、配向規制力を有するものである。
【0093】
配向膜は、非着色性重合性液晶化合物の液晶配向を容易にする。水平配向、垂直配向、ハイブリッド配向、傾斜配向等の液晶配向の状態は、配向膜および非着色性重合性液晶化合物の性質によって変化し、その組み合わせは任意に選択することができる。例えば、配向膜が配向規制力として水平配向を発現させる材料であれば、非着色性重合性液晶化合物は水平配向またはハイブリッド配向を形成することができ、垂直配向を発現させる材料であれば、非着色性重合性液晶化合物は垂直配向または傾斜配向を形成することができる。水平、垂直等の表現は、偏光子平面を基準とした場合の、配向した非着色性重合性液晶化合物の長軸の方向を表す。例えば、垂直配向とは偏光子平面に対して垂直な方向に、配向した重合性液晶化合物の長軸を有することである。ここでいう垂直とは、偏光子平面に対して90°±20°のことを意味する。
【0094】
配向規制力は、配向膜が配向性ポリマーから形成されている場合は、表面状態やラビング条件によって任意に調整することが可能であり、光配向性ポリマーから形成されている場合は、偏光照射条件等によって任意に調整することが可能である。また、非着色性重合性液晶化合物の、表面張力や液晶性等の物性を選択することにより、液晶配向を制御することもできる。
【0095】
基材または保護層と偏光子との間に形成される配向膜としては、配向膜上に偏光子を形成する際に使用される溶剤に不溶であり、また、溶剤の除去や液晶の配向のための加熱処理における耐熱性を有するものが好ましい。配向膜としては、配向性ポリマーからなる配向膜、光配向膜およびグルブ(groove)配向膜等が挙げられ、好ましくは光配向膜である。
【0096】
配向膜の厚みは、通常10nm~500nmの範囲であり、好ましくは10nm~200nmの範囲であり、より好ましくは30~100nmである。
【0097】
配向性ポリマーとしては、分子内にアミド結合を有するポリアミドやゼラチン類、分子内にイミド結合を有するポリイミドおよびその加水分解物であるポリアミック酸、ポリビニルアルコール、アルキル変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾール、ポリエチレンイミン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびポリアクリル酸エステル類等が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。これらの配向性ポリマーは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
配向膜が配向性ポリマーからなる場合、配向膜は、通常、配向性ポリマーおよび溶剤を含む組成物(以下、「配向性ポリマー組成物」ともいう。)を基材または保護層に塗布し、溶剤を除去する工程、または、配向性ポリマー組成物を基材または保護層に塗布し、溶剤を除去し、ラビングする工程(ラビング法)によって得られる。
【0099】
上記溶剤としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブおよびプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートおよび乳酸エチル等のエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;ペンタン、ヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素溶剤;トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素溶剤、アセトニトリル等のニトリル溶剤;テトラヒドロフランおよびジメトキシエタン等のエーテル溶剤;クロロホルムおよびクロロベンゼン等の塩素置換炭化水素溶剤;等が挙げられる。これら溶剤は、単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
配向性ポリマー組成物中の配向性ポリマーの濃度は、配向性ポリマーが、溶剤に完溶できる範囲であればよいが、溶液に対して固形分換算で0.1~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0101】
配向性ポリマー組成物として、市販の配向膜材料をそのまま使用してもよい。市販の配向膜材料としては、サンエバー(登録商標)(日産化学工業株式会社製)またはオプトマー(登録商標)(JSR株式会社製)等が挙げられる。
【0102】
配向性ポリマー組成物を基材または保護層に塗布する方法としては、スピンコート法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法およびアプリケータ法等の塗布方法や、フレキソ法等の印刷法等の公知の方法が挙げられる。本発明の一実施態様に係る偏光フィルムを、Roll-to-Roll形式の連続的製造方法により製造する場合、当該塗布方法には通常、グラビアコーティング法、ダイコーティング法またはフレキソ法等の印刷法が採用される。
【0103】
配向性ポリマー組成物に含まれる溶剤を除去することにより、配向性ポリマーの乾燥被膜が形成される。溶剤の除去方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥法および減圧乾燥法等が挙げられる。
【0104】
ラビングする方法としては、ラビング布が巻きつけられ、回転しているラビングロールに、配向性ポリマー組成物を基材または保護層に塗布しアニールすることで、基材または保護層表面に形成された配向性ポリマーの膜を、接触させる方法が挙げられる。
【0105】
光配向膜は、通常、光反応性基を有するポリマーまたはモノマーおよび溶剤を含む組成物(以下、「光配向膜形成用組成物」ともいう)を基材または保護層に塗布し、偏光(好ましくは、偏光UV)を照射することで得られる。光配向膜は、照射する偏光の偏光方向を選択することにより、配向規制力の方向を任意に制御できる点でより好ましい。
【0106】
光反応性基とは、光を照射することにより液晶配向能を生じる基をいう。具体的には、光を照射することで生じる分子の配向誘起または異性化反応、二量化反応、光架橋反応、または光分解反応のような、液晶配向能の起源となる光反応を生じるものである。当該光反応性基の中でも、二量化反応または光架橋反応を起こすものが、配向性に優れる点で好ましい。以上のような反応を生じうる光反応性基としては、不飽和結合、特に二重結合を有するものが好ましく、炭素-炭素二重結合(C=C結合)、炭素-窒素二重結合(C=N結合)、窒素-窒素二重結合(N=N結合)、および炭素-酸素二重結合(C=O結合)からなる群より選ばれる少なくとも一つを有する基がより好ましい。
【0107】
C=C結合を有する光反応性基としては例えば、ビニル基、ポリエン基、スチルベン基、スチルバゾ-ル基、スチルバゾリウム基、カルコン基およびシンナモイル基等が挙げられる。C=N結合を有する光反応性基としては、芳香族シッフ塩基および芳香族ヒドラゾン等の構造を有する基が挙げられる。N=N結合を有する光反応性基としては、アゾベンゼン基、アゾナフタレン基、芳香族複素環アゾ基、ビスアゾ基およびホルマザン基等や、アゾキシベンゼンを基本構造とするものが挙げられる。C=O結合を有する光反応性基としては、ベンゾフェノン基、クマリン基、アントラキノン基およびマレイミド基等が挙げられる。これらの基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリルオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、水酸基、スルホン酸基およびハロゲン化アルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0108】
光配向膜形成用組成物の溶剤としては、光反応性基を有するポリマーおよびモノマーを溶解するものが好ましく、該溶剤としては、例えば、上記の配向性ポリマー組成物の溶剤として挙げられた溶剤等が挙げられる。
【0109】
光配向膜形成用組成物に対する、光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの含有量は、当該光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの種類や製造しようとする光配向膜の厚みによって適宜調節できるが、0.2質量%以上とすることが好ましく、0.3~10質量%の範囲が特に好ましい。また、光配向膜の特性が著しく損なわれない範囲で、ポリビニルアルコールやポリイミド等の高分子材料や光増感剤が含まれていてもよい。
【0110】
光配向膜形成用組成物を基材または保護層に塗布する方法としては、配向性ポリマー組成物を基材または保護層に塗布する方法と同様の方法が挙げられる。塗布された光配向膜形成用組成物から、溶剤を除去する方法としては、例えば、配向性ポリマー組成物から溶剤を除去する方法と同じ方法が挙げられる。
【0111】
偏光を照射するには、基材または保護層等の上に塗布された光配向膜形成用組成物から、溶剤を除去したものに直接、偏光を照射する形式でも、基材または保護層側から偏光を照射し、偏光を透過させて照射する形式でもよい。また、当該偏光は、実質的に平行光であることが特に好ましい。照射する偏光の波長は、光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの光反応性基が、光エネルギーを吸収し得る波長領域のものがよい。具体的には、波長250~400nmの範囲のUV(紫外光)が特に好ましい。当該偏光照射に用いる光源としては、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、KrF、ArF等の紫外光レーザー等が挙げられ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプがより好ましい。これらのランプは、波長313nmの紫外光の発光強度が大きいため好ましい。上記光源からの光を、適当な偏光子を通過して照射することにより、偏光を照射することができる。かかる偏光子としては、偏光フィルターやグラントムソン、グランテーラー等の偏光プリズムやワイヤーグリッドタイプの偏光子を用いることができる。
【0112】
なお、ラビングまたは偏光照射を行う時に、マスキングを行えば、液晶配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を形成することもできる。
【0113】
グルブ(groove)配向膜は、膜表面に凹凸パターンまたは複数のグルブ(溝)を有する膜である。等間隔に並んだ複数の直線状のグルブを有する膜に液晶分子を置いた場合、その溝に沿った方向に液晶分子が配向する。
【0114】
グルブ配向膜を得る方法としては、感光性ポリイミド膜表面にパターン形状のスリットを有する露光用マスクを介して露光後、現像およびリンス処理を行って凹凸パターンを形成する方法、表面に溝を有する板状の原盤に、硬化前のUV硬化性樹脂の層を形成し、樹脂層を基材または保護層へ移してから硬化する方法、および、基材または保護層上に形成した硬化前のUV硬化性樹脂の膜に、複数の溝を有するロール状の原盤を押し当てて凹凸を形成し、その後硬化する方法等が挙げられる。具体的には、特開平6-34976号公報および、特開2011-242743号公報記載の方法等が挙げられる。
【0115】
配向乱れの小さな配向を得るためには、グルブ配向膜の凸部の幅は0.05μm~5μmであることが好ましく、凹部の幅は0.1μm~5μmであることが好ましく、凹凸の段差の深さは2μm以下であることが好ましく、0.01μm~1μmであることがより好ましい。
【0116】
<保護層>
本発明の一実施態様に係る偏光フィルムにおいて、保護層は、重合性化合物を含む組成物(以下、「保護層形成用組成物」ともいう)の硬化膜であり、偏光子の一方の側または両方の側に積層されている。保護層形成用組成物の硬化膜とは、該保護層形成用組成物を塗布して塗布膜を得た後、該塗布膜に含まれる重合性化合物を重合することによって得られる膜であり、すなわち該保護層形成用組成物の硬化膜は該重合性化合物の重合体を含んでなる膜である。保護層は、例えば、偏光子の収縮および膨張防止、温度、湿度、紫外線等による偏光フィルムの劣化防止に寄与することができ、偏光フィルムが保護層を有することにより、本発明の一実施態様に係る偏光フィルムは安定した偏光性能を発揮することができる。本発明の好適な実施態様において、薄型の偏光フィルムを得る観点からは、保護層が偏光子の一方の側に積層されていることが好ましい。
【0117】
本発明の一実施態様において、保護層形成用組成物は重合性化合物として単官能重合性化合物(以下、「重合性化合物(a)」ともいう)を含む。すなわち、保護層は、重合性化合物(a)を含む保護層形成用組成物の硬化膜である。本発明において、保護層形成用組成物の硬化膜である保護層は、保護層形成用組成物を基材または偏光子上に塗布して得られる塗布膜を硬化(重合)させて得られる層であり、保護層形成用組成物の硬化膜は、重合性化合物(a)に由来する構成単位を含む重合体を含んでなる。本発明においては、保護層形成用組成物を基材または偏光子上に塗布して得られる塗布膜を乾燥する必要がない。上記保護層が、保護層形成用組成物を基材または偏光子上に塗布して得られる塗布膜を乾燥することなく重合させて得られる層であると(すなわち、保護層形成用組成物中の溶剤の含有量が後述する範囲内であると)、得られる偏光フィルムが高い偏光性能を示すことができる。保護層を作製する際に乾燥工程(加熱工程)を行うと、偏光子に含まれる二色性を示す化合物の配向が乱れることがあるが、本発明においては、乾燥工程を行う必要がなく、配向の乱れが抑制されることが起因していると考えられる。
【0118】
保護層形成用組成物中の重合性化合物(a)の含有量は、該保護層形成用組成物に含まれる全重合性化合物に対して、60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、特に好ましくは88質量%以上である。保護層形成用組成物に含まれる重合性化合物(a)の含有量が上記下限値以上であると、保護層形成用組成物が溶剤を含まない場合であっても保護層形成用組成物の流動性が良好であるため、乾燥工程を行う必要がなく、乾燥工程に伴う偏光子の偏光性能の低下を抑制することができ、また工程性に優れ、さらに薄型の偏光フィルムを得ることができる。なお、保護層形成用組成物中の重合性化合物(a)の含有量の上限値は、該保護層形成用組成物に含まれる全重合性化合物に対して、好ましくは100質量%以下である。
【0119】
重合性化合物(a)の分子量は、好ましくは300以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは210以下である。保護層形成用組成物に含まれる重合性化合物(a)の分子量が上記上限値以下であると、保護層形成用組成物の流動性がさらに良好であるため、保護層形成用組成物を基材または偏光子上に均一に、かつ薄く塗布することができ、厚みがさらに均一かつ薄型の保護層を得ることができる。保護層形成用組成物に含まれる重合性化合物(a)の分子量の下限値は、通常80以上である。なお、保護層形成用組成物に含まれる重合性化合物(a)が複数種存在する場合には、保護層形成用組成物に含まれる全ての種類の重合性化合物(a)の分子量が上記範囲内であることが好ましい。
【0120】
本発明の一実施態様において、上記重合性化合物(a)は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、およびエポキシ基を有する化合物、ビニル基を有する化合物等が挙げられる。本発明においては、高い重合性を有し、良好な保護性能を得る観点から、重合性化合物(a)が(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含むことが好ましい。なお、重合性化合物(a)が(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含む場合、上記保護層は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に由来する構成単位を含む重合体(例えば、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に由来する構成単位からなる重合体)から構成される。
【0121】
単官能の(メタ)アクリロイル基を有する化合物として、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレートおよびtert-ブチル(メタ)アクリレートなどの炭素数1~16のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレートおよびイソボルニル(メタ)アクリレートなどの炭素数4~16のシクロアルキル(メタ)アクリレート;炭素数2~14のβ-カルボキシアルキル(メタ)アクリレート;炭素数2~14のアルキル化フェニル(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;炭素数4~16の(ジ)アルキル(メタ)アクリルアミド;炭素数2~14のβ-カルボキシアルキル(メタ)アクリルアミド;炭素数2~14のアルキル化フェニル(メタ)アクリルアミド;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリルアミド;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0122】
本発明のさらに好ましい実施態様において、さらに良好な保護性能を得る観点から、重合性化合物(a)は(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物を含むことが好ましい。なお、重合性化合物(a)が(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物を含む場合、上記保護層は、(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物に由来する構成単位を含む重合体(例えば、(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物に由来する構成単位からなる重合体)から構成され、好ましくは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に由来する構成単位ならびに(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物に由来する構成単位を含む重合体(例えば、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に由来する構成単位ならびに(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物に由来する構成単位からなる重合体)から構成される。
【0123】
本発明の一実施態様において、(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物の含有量は、該保護層形成用組成物に含まれる全重合性化合物に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。保護層形成用組成物中の(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物の含有量が上記下限値以上であると、水酸基による溶解抑制効果に起因して、保護層の偏光性能の経時的な低下を抑制することができる。保護層形成用組成物中の(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物の含有量が上記上限値以下であると、水酸基による水素結合形成が減少し、粘度を低下させることができる。
【0124】
(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物は、好ましくは下記式(1):
【化15】
〔式中、
nは1~12の整数を表し、
A
1はOまたはNHを表し、
X
1は置換基を有していてもよいメチレン基を表し、nが2以上の整数のとき、該メチレン基の少なくとも一つは酸素原子に置換されていてもよく、上記置換基は同一または異なっていてもよい〕
で表される化合物である。(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物が上記式(1)で表される化合物であると、より良好な保護性能を得ることができる。これは、保護層への二色性を示す化合物の溶解・拡散に際して、保護層中の(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物の重合体の分子末端の水酸基による溶解抑制効果が、より発揮することに起因すると推定される。
【0125】
上記式(1)において、nは、通常1~12の整数、好ましくは2~10の整数、好ましくは3~8の整数、好ましくは4~6の整数を表す。nが下限値以上であると、重合体主鎖の影響を分子末端である水酸基が受けにくく、水酸基の溶解抑制効果を発揮し易く、また、nが上限値以下であると、X1部分が凝集し難いため水酸基の溶解抑制効果を発揮しやすい。主鎖のnが上記範囲内であると、保護層への二色性を示す化合物の溶解・拡散に際して、保護層中の(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物の重合体の分子末端の水酸基による溶解抑制効果が、より発揮しやすい。
【0126】
上記式(1)において、A1は通常OまたはNHを表し、好ましくはOを表す。
【0127】
上記式(1)において、X1は置換基を有していてもよいメチレン基を表す。nが2以上の整数のとき、該メチレン基の少なくとも一つは酸素原子に置換されていてもよく、上記置換基は同一または異なっていてもよい。前記置換基としては、例えば炭素数2~10(例えば炭素数2~5)の、脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、または炭素数5~20(例えば5~11)の芳香族炭化水素基が挙げられる。メチレン基の少なくとも一つが酸素原子に置換されているX1としては、例えば、-(CH2CH2O)m-CH2CH2-、-(CH2CH(CH3)O)m-CH2CH(CH3)-〔式中、mは1~3の整数〕等が挙げられる。
【0128】
本発明の一実施態様において、上記式(1)で表される化合物の含有量は、該保護層形成用組成物に含まれる全重合性化合物に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。保護層形成用組成物中の上記式(1)で表される化合物の含有量が上記下限値以上であると、水酸基による溶解抑制効果に起因して、保護層の偏光性能の経時的な低下を抑制することができ、さらに、保護層形成用組成物の流動性が特に良好であるため、乾燥工程に伴う偏光子の偏光性能の低下をさらに抑制することができる。保護層形成用組成物中の上記式(1)で表される化合物の含有量が上記上限値以下であると、水酸基による水素結合形成が減少し、粘度を低下させることができる。
【0129】
(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物としては、例えば炭素数4~16のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、炭素数4~16のヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレート、炭素数2~14のヒドロキシアルキル化フェニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ならびに炭素数4~16のヒドロキシ(ジ)アルキル(メタ)アクリルアミド、炭素数2~14のヒドロキシアルキル化フェニル(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコール(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。より好ましくは、炭素数4~6のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよび炭素数4~16のヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレートであり、さらに好ましくは、炭素数4~6のヒドロキシアルキルアクリレートおよび炭素数4~16のヒドロキシシクロアルキルアクリレートである。
【0130】
本発明の好適な実施態様において、保護層形成用組成物は重合性化合物として、重合性化合物(a)に加えて2官能以上の重合性化合物(以下、「重合性化合物(b)」ともいう)を含んでもよく、すなわち、保護層である保護層形成用組成物の硬化膜は、重合性化合物(a)に由来する構成単位および重合性化合物(b)に由来する構成単位から構成される重合体を含むものであってもよい。
【0131】
本発明の一実施態様において、上記重合性化合物(b)としては、重合性化合物(a)と同様に、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、およびビニル基を有する化合物等が挙げられる。本発明においては、高い重合性を有し、良好な保護性能を得る観点から、重合性化合物(b)が(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましい。
【0132】
2官能の重合性化合物として、例えば、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAのビス(アクリロイロキシエチル)エーテル、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートおよび3-メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ならびにメチレンビスアクリルアミドなどが挙げられる。
【0133】
3官能以上の重合性化合物としては、例えば、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート;
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;
トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;
カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、およびカプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物などが挙げられる。なお、ここに示した多官能アクリレートの具体例において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。また、カプロラクトン変性とは、(メタ)アクリレート化合物のアルコール由来部位と(メタ)アクリロイルオキシ基との間に、カプロラクトンの開環体、または、開環重合体が導入されていることを意味する。
【0134】
本発明において、表面硬度が高い保護層を得ることができる観点から、保護層形成用組成物が、2官能以上、特に3官能以上の重合性化合物(b)を含むことが好ましく、保護層形成用組成物が6官能の重合性化合物(b)を含むことがより好ましい。なお、保護層形成用組成物は1種または2種以上の重合性化合物(b)を含んでもよい。保護層形成用組成物が重合性化合物(b)を含む場合、上記保護層に含まれる重合性化合物の重合体は架橋され、保護層の表面硬度が高くなるだけでなく、偏光フィルムが晒される外部環境への依存性を少なくすることができる。
【0135】
保護層形成用組成物が重合性化合物(b)を含む場合、保護層形成用組成物に含まれる重合性化合物(b)の含有量は、該保護層形成用組成物に含まれる全重合性化合物に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。保護層形成用組成物に含まれる重合性化合物(b)の含有量が上記上限値以下であると、保護層形成用組成物が溶剤を含まない場合であっても保護層形成用組成物の流動性が良好であるため、乾燥工程を行う必要がなく、乾燥工程に伴う偏光子の偏光性能の低下を抑制することができ、また、薄型の偏光フィルムを得ることができる。保護層形成用組成物に含まれる重合性化合物(b)の含有量が上記下限値以上であると、表面硬度が高い保護層を得ることができる。
なお、保護層を調製するための組成物は、従来、2官能以上、特に3官能以上(さらに特には6官能以上)の重合性化合物を多く含有しており、その結果、二色性を示す化合物の移行抑制に起因し得る保護層の表面硬度を高くすることができる。一方で、2官能以上、特に3官能以上(さらに特には6官能以上)の重合性化合物は嵩高い構造を有するため、均一で薄型の保護層を得るためには保護層中の溶剤の含有量が上げて流動性を向上させる必要がある。しかしながら、この添加される溶剤によって二色性を示す化合物の移行が誘起される。本発明の好適な実施態様においては、上記特定の保護層形成用組成物を用いることにより、二色性を示す化合物の移行を抑制し、かつ均一で薄型の保護層を得ることができる。
【0136】
本発明において、保護層中の重合性化合物(a)に由来する構成単位の含有量は、該保護層を構成する重合体に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは85質量%以上、とりわけ好ましくは88質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。保護層中の重合性化合物(a)に由来する構成単位の含有量は上記下限値以上であると、保護層形成用組成物の流動性が良好であるため、乾燥工程を行う必要がなく、乾燥工程に伴う偏光子の偏光性能の低下を抑制することができ、また工程性に優れ、さらに薄型の偏光フィルムを得ることができる。
【0137】
保護層形成用組成物は、多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーまたはオリゴマーを含有してもよい。多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーまたはオリゴマーとしては、例えば、脂肪族、脂環式または芳香族のウレタンアクリレートポリマーまたはオリゴマー等が挙げられる。
【0138】
保護層形成用組成物中の、多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーまたはオリゴマーの含有量は、保護層形成用組成物の固形分に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。上記ポリマーまたはオリゴマーの含有量が上記上限値以下であると、保護層形成用組成物の流動性が良好であり、均一で薄型の保護層を得ることができる。上記ポリマーまたはオリゴマーの含有量が上記下限値以上であると、得られる偏光フィルムの偏光性能の経時的な低下をさらに抑制できる。なお、固形分とは、保護層形成用組成物から溶剤を除いた全成分を意味する。
【0139】
保護層形成用組成物は、溶剤を含み得る。保護層形成用組成物中の溶剤の含有量は、保護層形成用組成物全量に対して、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0質量%である。保護層形成用組成物中の溶剤の含有量が上記上限値以下であると、本発明の一実施態様に係る偏光フィルムを作製する際に乾燥工程を行わずとも、保護層中の溶剤の含有量を低く抑えることができるため、乾燥工程に起因する偏光フィルムの偏光性能の低下を生じさせず、さらに経時的な偏光フィルムの偏光性能の低下を抑制することができる。なお、保護層形成用組成物の溶剤の含有量は特に好ましくは0質量%(好ましくは5質量%以下)であるが、本発明においては、保護層形成用組成物の流動性が良好であるため、保護層形成用組成物に溶剤が含まれない(または保護層形成用組成物中の溶剤の含有量が非常に少ない)にも関わらず、均一で薄型の塗布膜を得ることができる。保護層形成用組成物中の溶剤の含有量の下限値は、保護層形成用組成物全量に対して、通常0質量%以上である。
【0140】
本発明によれば、乾燥工程を行うことなく保護層が作製することができ、さらに保護層形成用組成物中の溶剤の含有量を上記の通りに非常に少なくすることができるため、偏光フィルムの製造工程における偏光フィルムの偏光性能の低下を抑えることができ、さらに偏光フィルムの経時的な偏光性能の低下も抑えることができる。
【0141】
また、保護層形成用組成物は必要に応じて硬化性組成物に一般的に用いられる添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、例えば、上述した重合開始剤、増感剤、重合禁止剤、レベリング剤および反応性添加剤、ならびにイオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、重合促進剤(ポリオール等)、増感助剤、光安定剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、シランカップリング剤、色素、帯電防止剤、および紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0142】
保護層形成用組成物中の重合開始剤の含有量は、重合性化合物の種類およびその量に応じて適宜調節できるが、開始剤効率の観点から、重合性化合物の含有量100質量部に対して、通常0.1~40質量部、好ましくは0.2~30質量部、より好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは0.5~8質量部である。
【0143】
保護層形成用組成物がレベリング剤を含有する場合、保護層形成用組成物中のレベリング剤の含有量は、得られる保護層を平滑とする観点から、重合性化合物の含有量100質量部に対して、好ましくは0~6質量部、より好ましくは0.01~5質量部、さらに好ましくは0.05~5質量部、特に好ましくは0.08~3質量部である。レベリング剤が2種以上含有されていてもよい。
【0144】
保護層形成用組成物の粘度は、27℃において、好ましくは120cps以下、より好ましくは80cps以下、さらに好ましくは50cps以下である。保護層形成用組成物の27℃における粘度が上記上限値以下であると、保護層形成用組成物の流動性がさらに良好であるため、保護層形成用組成物を基材または偏光子上に均一に、かつ薄く塗布することができ、厚みがさらに均一かつ薄型の保護層を得ることができ、さらに偏光フィルムの製造工程においてポンプ効率に優れる。なお、保護層形成用組成物の粘度の下限値は、通常5cps以上である。粘度は、JIS K7367に従って測定することができる。好適な実施態様においては、保護層形成用組成物中の溶剤の含有量が上記範囲内である場合の保護層形成用組成物の粘度が上記上限値以下である。
【0145】
保護層形成用組成物の固形分量は、該保護層形成用組成物の全質量に対して、好ましくは95質量%以上、より好ましくは100質量%である。上記組成物の固形分量が上記下限値以上であると、乾燥工程を経ずとも、保護層形成用組成物を基材または偏光子上に均一かつ薄く塗布することができ、厚みがさらに均一かつ薄型の保護層を得ることができるため、偏光性能および耐熱性に優れる偏光フィルムを得ることができる。
【0146】
保護層の厚みは特に制限されるものではないが、一般には10μm以下であり、0.15~5μmであることが好ましく、0.5~4μmであることがより好ましく、1.0~3μmであることがさらに好ましい。
【0147】
偏光子に接着されない保護層の面は表面処理層を有していてもよく、例えばハードコート層や反射防止層、スティッキング防止層や、アンチグレア層または拡散層等の光学層を有していてもよい。
【0148】
ハードコート層は、偏光フィルム表面の傷つき防止などを目的とするものであり、例えばアクリル系、シリコーン系等の紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化膜を保護層の表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止層は偏光フィルム表面での外光の反射防止を目的とするものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止層は隣接層との密着防止を目的とするものである。
【0149】
また、アンチグレア層は偏光フィルムの表面で外光が反射して、偏光フィルム透過光の視認を阻害することの防止等を目的とするものであり、例えば、サンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの方式により、保護層の表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。上記表面微細凹凸構造の形成のために含有される微粒子としては、例えば平均粒径が0.5~50μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる導電性を有し得る無機系微粒子、架橋または未架橋のポリマー等からなる系微粒子などの透明微粒子が挙げられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の含有量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100質量部に対して、通常2~50質量部であり、5~25質量部が好ましい。アンチグレア層は、偏光フィルム透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
【0150】
なお、上記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、保護層そのものに設けて一体化させることができるほか、別途光学層として保護層とは別体のものとして設けることもできる。
【0151】
本発明の一実施態様において上記偏光フィルムは耐熱性に優れる。ここでいう耐熱性とは、偏光フィルムが有する偏光性能が高温条件下において経時的に変化しにくいことを意味し、例えば150℃dry、大気雰囲気下において1時間保持した後の視感度補正偏光度Pyの変化率(偏光度変化率)は、該保持前の視感度補正偏光度Pyに基づいて、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下であり、同条件において1時間保持した後の視感度補正単体透過率Tyの変化率(単体透過率変化率)は、該保持前の視感度単体透過率Tyに基づいて、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。偏光フィルムを用いて表示装置を作製する方法において、偏光フィルムに熱が加わる工程を行うことがある。この工程により、偏光フィルムの偏光性能が劣化することがあるが、本発明の一実施態様に係る偏光フィルムは耐熱性に優れるため、表示装置の作製する過程において偏光性能の劣化を生じ難く、画像表示機能に優れた表示装置を得ることができる。なお、偏光度変化率および単体透過率変化率の下限値はそれぞれ、通常0%以上である。
【0152】
本明細書における視感度補正透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)は、以下のように測定することができる。
波長380nm~780nmの範囲で透過軸方向の透過率(T1)及び吸収軸方向の透過率(T2)を、分光光度計(島津製作所株式会社製 UV-3150)に偏光素子付フォルダーをセットした装置を用いてダブルビーム法で測定する。該フォルダーは、リファレンス側は光量を50%カットするメッシュを設置する。下記式(2)を用いて、各波長における透過率を算出し、さらにJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行い視感度補正偏光度(Ty)を算出する。下記式(3)を用いて、各波長における偏光度を算出し、さらにJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行い視感度補正偏光度(Py)を算出する。
単体透過率(%)=(T1+T2)/2 (2)
偏光度(%)={(T1-T2)/(T1+T2)}×100 (3)
【0153】
上記偏光フィルムは、例えば
・上記二色性を示す化合物を含む偏光子上に、重合性化合物を含む上記保護層形成用組成物を塗布して塗布膜を形成する塗布工程、および
・該重合性化合物を重合させて保護層を形成する重合工程
を含む方法によって製造することができる。なお、重合性化合物が重合することによって塗布膜が硬化する。
【0154】
重合工程においては、加熱や活性エネルギー線照射によって重合性化合物を重合させることができる。本発明の好ましい実施態様においては、得られる偏光フィルムの偏光性能および耐熱性を高める観点から、活性エネルギー線照射によって重合性化合物を重合させる。活性エネルギー線としては、紫外線および電子線等が挙げられる。
【0155】
本発明においては、偏光フィルムを乾燥する乾燥工程を行う必要がない。保護層を調製する際に乾燥工程(加熱工程)を行うと、偏光子に含まれる二色性を示す化合物の配向が乱れることがあるが、本発明によれば、乾燥工程を行う必要がないため、配向の乱れを抑制することができる。その結果、溶剤の含有量の低い保護層を有する薄型の偏光フィルムを製造することができ、得られる偏光フィルムは、偏光性能および耐熱性に優れる。なお、加熱を行ってもよいが、例えば40℃以下の温度で加熱を行うことが好ましい。
【0156】
また、上記偏光フィルムは別の方法によっても製造することができ、例えば
・基材上に重合性化合物を含む上記保護層形成用組成物を塗布して塗布膜を形成する塗布工程、
・該重合性化合物を重合させて保護層を形成する重合工程、および
・該保護層上に偏光子を形成する偏光子形成工程
を含む方法によって製造することもできる。保護層上に配向膜を形成した後、偏光子を形成してもよい。なお、保護層を形成した後に、基材を取り除いてもよい。また、偏光子形成工程の後、偏光子上に重合性化合物を含む上記保護層形成用組成物を塗布して塗布膜を形成する塗布工程、および該重合性化合物を重合させて保護層を形成する重合工程を行うことによって、偏光子の両面に保護層が配置された偏光フィルムを製造することもできる。基材に代えて表示装置本体等の被着体を用いるもできる。
【0157】
本発明において、基材としては、ガラス基材およびプラスチック基材が挙げられ、好ましくはプラスチック基材である。Roll-to-Roll加工が可能であり、生産性が高いという点でガラス基材よりもプラスチック基材の方が好ましい。プラスチック基材を構成するプラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン系ポリマー等のポリオレフィン;環状オレフィン系樹脂;ポリビニルアルコール;ポリエチレンテレフタレート;ポリメタクリル酸エステル;ポリアクリル酸エステル;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロースおよびセルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル;ポリエチレンナフタレート;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリフェニレンスルフィドおよびポリフェニレンオキシド;等のプラスチックが挙げられる。
【0158】
市販のセルロースエステル基材としては、“フジタックフィルム”(富士写真フイルム株式会社製);“KC8UX2M”、“KC8UY”および“KC4UY”(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が挙げられる。
【0159】
市販の環状オレフィン系樹脂としては、“Topas”(登録商標)(Ticona社(独)製)、“アートン”(登録商標)(JSR株式会社製)、“ゼオノア(ZEONOR)”(登録商標)、“ゼオネックス(ZEONEX)”(登録商標)(以上、日本ゼオン株式会社製)および“アペル”(登録商標)(三井化学株式会社製)が挙げられる。このような環状オレフィン系樹脂を、溶剤キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜して、基材とすることができる。市販されている環状オレフィン系樹脂基材を用いることもできる。市販の環状オレフィン系樹脂基材としては、“エスシーナ”(登録商標)、“SCA40”(登録商標)(以上、積水化学工業株式会社製)、“ゼオノアフィルム”(登録商標)(オプテス株式会社製)および“アートンフィルム”(登録商標)(JSR株式会社製)が挙げられる。
【0160】
本発明の別の実施態様においては、上記偏光フィルムと位相差フィルムとを備える楕円偏光板および円偏光板が提供される。本発明の一実施態様においては、上記偏光フィルムに位相差フィルムが積層される場合、位相差フィルムの遅相軸(光軸)と偏光フィルムの吸収軸とを実質的に45°となるように積層することが好ましい。位相差フィルムの遅相軸(光軸)と偏光フィルムの吸収軸とを実質的に45°となるように積層することによって、円偏光板としての機能を得ることができる。また、位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とを実質的に一致または直交となるように積層することもできる。位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とを実質的に一致または直交させることにより、光学補償フィルムとして機能させることもできる。なお、実質的に45°とは通常45±5°の範囲であり、実質的に一致または直交とは通常0±5°の範囲または90±5°の範囲である。
【0161】
楕円偏光板および円偏光板は、例えば、偏光フィルムの一方の面に粘着剤を塗布し、この粘着剤を介して、偏光フィルムを位相差フィルム上に貼合する工程を含む方法により、楕円偏光板または円偏光板を製造することができる。
【0162】
なお、位相差フィルムとは、光学異方性を示す光学フィルムであり、直線偏光を円偏光や楕円偏光に変換したり、逆に円偏光または楕円偏光を直線偏光に変換したりするために用いられるフィルムである。位相差フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリメタクリレート、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン(ノルボルネンやテトラシクロドデセンまたはそれらの誘導体の重合体)、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニリデンフルオライド/ポリメチルメタクリレート、液晶ポリエステル、アセチルセルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリ塩化ビニルなどのポリマーからなるポリマーフィルムを1.01~6倍程度に延伸することにより得られる延伸フィルムなどが挙げられる。中でも、ポリカーボネートフィルムやポリシクロオレフィンフィルムを一軸延伸または二軸延伸したポリマーフィルムが好ましい。本発明の一実施態様においては、上記化合物(I)と上記ポリマーを含有するポリマー組成物をフィルム化し、得られたフィルムを一軸延伸または二軸延伸することによって、位相差フィルムを得ることができる。また、液晶化合物の塗布・配向によって光学異方性を発現させたフィルムも位相差フィルムとして用いることができる。
【0163】
上記位相差フィルムは、下記式(X):
Re(450nm)/Re(550nm)<1 (X)
を満たすことが好ましい。かかる場合には、該位相差フィルムは逆波長分散性を有するため、該位相差フィルムを備えた表示装置での黒表示時の着色を低減させることができる。Re(450nm)/Re(550nm)の値は適宜選択することができる。なお、Re(λ)は波長λnmの光に対する正面位相差値を表す。
【0164】
本発明の別の実施態様において、上記偏光フィルム、楕円偏光板または円偏光板を備える表示装置を提供することもできる。表示装置とは、表示素子を有する装置であり、発光源として発光素子または発光装置を含む。表示装置としては、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、タッチパネル表示装置、電子放出表示装置(例えば電場放出表示装置(FED)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インクや電気泳動素子を用いた表示装置、プラズマ表示装置、投射型表示装置(例えばグレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置)および圧電セラミックディスプレイ等が挙げられる。液晶表示装置は、透過型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置、直視型液晶表示装置および投写型液晶表示装置等のいずれをも含む。これらの表示装置は、2次元画像を表示する表示装置であってもよいし、3次元画像を表示する立体表示装置であってもよい。特に上記偏光フィルム、楕円偏光板および円偏光板は、液晶表示装置、およびエレクトロルミネッセンス(EL)表示装置に有効に用いることができる。本発明の別の実施態様に係る表示装置は、偏光性能および耐熱性に優れる偏光フィルムを有するため、画像表示機能に優れ、さらに経時的にも安定して該機能を発揮することができる。
【実施例】
【0165】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」および「質量部」を表す。
【0166】
〔偏光子形成用組成物の製造〕
下記の成分を混合し、80℃で1時間攪拌することで、偏光子形成用組成物を得た。二色性を示す化合物には、特開2015-165302号公報の実施例に記載のアゾ色素を用いた。
【0167】
(非着色性重合性液晶化合物)
【化16】
【化17】
【0168】
(二色性を示す化合物)
【化18】
【化19】
【化20】
【0169】
(他の成分)
・重合開始剤;2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(イルガキュア369;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 6部
・レベリング剤;ポリアクリレート化合物(BYK-361N;BYK-Chemie社製) 0.5部
・溶剤;o-キシレン 350部
【0170】
〔相転移温度の測定〕
ガラス基材上に、ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型、和光純薬工業株式会社製)の2質量%水溶液(配向性ポリマー組成物)をスピンコート法により塗布し、乾燥後、厚み100nmの膜を形成した。続いて、得られた膜の表面にラビング処理を施すことにより配向膜を形成した。ラビング処理は、半自動ラビング装置(商品名:LQ-008型、常陽工学株式会社製)を用いて、布(商品名:YA-20-RW、吉川化工株式会社製)によって、押し込み量0.15mm、回転数500rpm、16.7mm/sの条件で行った。
【0171】
このようにして作製した配向膜上に偏光子形成用組成物をスピンコート法により塗布し、120℃のホットプレート上で1分間加熱乾燥した後、速やかに室温まで冷却して、前記配向膜上に乾燥被膜を形成した。この乾燥被膜をホットプレート上で再び120℃まで昇温後、降温時において、偏光顕微鏡で観察をすることで相転移温度を測定した。その結果、115℃でネマチック液晶相に相転移し、105℃でスメクチックA相に相転移し、74℃でスメクチックB相へ相転移したことを確認した。
【0172】
〔保護層形成用組成物(塗工液(1)~(14))の製造〕
表1に示したとおり各成分を記載の質量比率にて混合し、常温で1時間攪拌することで、保護層形成用組成物として塗工液(1)~塗工液(14)をそれぞれ得た。得られた塗工液(1)~塗工液(14)の粘度を、JIS K7367に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0173】
【0174】
表1において、
A1はイソボルニルアクリレート、
A2は4-ヒドロキシブチルアクリレート、
A3は1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、
A4はジメチルアクリルアミド、
A5はジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、
B1は日本合成化学工業社製 UV-5650B、
B2は日本合成化学工業社製 UV-3000B、
C1は3,4-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、
C2は2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、
D1はBASF社製 IRGACURE907、
D2はサンアプロ社製 CPI-100P、
E1はDIC社製 メガフェイス F-554、
である。
【0175】
[実施例1]偏光子の製造および評価
1.偏光子の形成
上記で得られた配向膜上に、前記偏光子形成用組成物をスピンコート法により塗布し、120℃のホットプレート上で1分間加熱乾燥した後、速やかに室温(降温時にスメクチック液晶相を示す温度)以下まで冷却して、前記配向膜上に第1乾燥被膜を形成した。かかる第1乾燥被膜において、含まれる非着色性重合性液晶化合物の液晶状態は、スメクチックB相であった。
次いで、UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用い、紫外線を、露光量2400mJ/cm2(365nm基準)で第1乾燥被膜に照射することにより、該第1乾燥被膜に含まれる非着色性重合性液晶化合物を、前記非着色性重合性液晶化合物の液晶状態を保持したまま重合させ、該第1乾燥被膜から偏光子を形成し、積層体1を得た。この際の偏光子の厚みをレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製 OLS3000)により測定したところ、1.8μmであった。
【0176】
2.X線回折測定
得られた積層体1の偏光子に対して、X線回折装置X’Pert PRO MPD(スペクトリス株式会社製)を用いてX線回折測定を行った。ターゲットとしてCuを用いてX線管電流40mA、X線管電圧45kVの条件で発生したX線を固定発散スリット1/2°を介してラビング方向(予め、偏光子下にある配向膜のラビング方向を求めておく。)から入射させ、走査範囲2θ=4.0~40.0°の範囲で2θ=0.01671°ステップで走査して測定を行った結果、2θ=20.22°付近にピーク半価幅(FWHM)=約0.187°のシャープな回折ピーク(ブラッグピーク)が得られた。また、ラビング垂直方向からの入射でも同等な結果を得た。ピーク位置から求めた秩序周期(d)は約4.39Åであり、高次スメクチック液晶相を反映した構造を形成していることがわかった。
【0177】
3.保護層形成による偏光フィルムの製造
積層体1の偏光子上に、保護層形成用組成物として前記塗工液(1)をスピンコート法により塗布し、UV照射装置(SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、紫外線を、露光量400mJ/cm2(365nm基準)で照射することにより、該偏光子上に保護層を形成することで偏光フィルム(1)を製造した。この際の保護層をレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製 OLS3000)により測定したところ、2.8μmであった。
【0178】
4.偏光フィルムの耐熱試験
得られた偏光フィルム(1)の視感度補正偏光度Py、および視感度補正単体透過率Tyを分光光度計(株式会社島津製作所製 UV-3150)により測定した。次いで偏光フィルム(1)を150℃dryのオーブンに投入し、1時間経過後に改めて視感度補正偏光度Py、視感度補正単体透過率Tyを測定して耐熱試験前後における変化率を算出した。結果を表2に示す。
【0179】
[実施例2~12]
塗工液(1)に代えて塗工液(2)~(12)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様に偏光フィルム(2)~(12)をそれぞれ製造した。偏光フィルム(2)~(12)の耐久試験を実施した。結果を表2に記す。なお、偏光フィルム(2)~(12)の保護層は、それぞれ2.8μmであった。
【0180】
[比較例1および2]
塗工液(1)に代えて塗工液(13)または塗工液(14)を用いた以外は、実施例1と同様に偏光フィルム(13)および(14)をそれぞれ製造した。偏光フィルム(13)および(14)の耐久試験を実施した。結果を表2に記す。なお、偏光フィルム(13)および(14)の保護層は、それぞれ2.8μmであった。
【0181】
塗工液(1)~(14)における、全重合性化合物に基づく、単官能重合性化合物の含有量(重合性化合物(a)含有量)、メタクリロイル基および水酸基を有する化合物の含有量(水酸基含有化合物含有量)、および式(1)で表される化合物の含有量(化合物(1)含有量)を算出した。その結果を表2に示す。
【0182】
【0183】
実施例1~12においては、偏光度Pyおよび単体透過率Tyの変化率が小さく、偏光性能の経時的な変化を抑えることができた。一方、比較例1および2においては、偏光度Pyおよび単体透過率Tyの変化率が大きい結果となった。
【符号の説明】
【0184】
1: 偏光子
2: 保護層
3: 保護層
10:偏光フィルム