(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】基板処理方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20221216BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2018095727
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2021-02-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】望月 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤里 敏章
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-144655(JP,A)
【文献】特開2008-235309(JP,A)
【文献】特表2016-528723(JP,A)
【文献】特開2017-208469(JP,A)
【文献】特開2008-235311(JP,A)
【文献】特開2010-010397(JP,A)
【文献】特開2011-086712(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0321017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内にあり、冷媒が流通する冷媒流路とヒータを内蔵する基板載置台と、
前記冷媒流路との間で前記冷媒を循環させるチラーと、を有する基板処理装置により基板を処理する基板処理方法であって、
前記基板載置台を第1温度に温調し、
前記基板載置台の上に前記基板を載置して、前記第1温度で前記基板を処理する第1処理工程と、
前記基板載置台の上に前記基板を載置した状態で、前記基板載置台を前記第1温度よりも高い第2温度に温調し、前記第2温度で前記基板を処理する第2処理工程と、を有し、
前記第1処理工程の後、前記基板載置台を前記第1温度から前記第2温度へ温調する際には、前記チラーの予め定められた設定温度を維持する第1流量の前記冷媒を前記チラーから前記冷媒流路に流通させると共に、前記ヒータを稼働させて前記基板載置台を前記第2温度とし、
前記基板載置台が前記第1温度から昇温して前記第2温度となる前に、もしくは、前記基板載置台が前記第1温度から昇温して前記第2温度となった際に、前記冷媒の流量を、前記第1流量から、前記第1流量よりも流量の多い第2流量に変更し、
前記第2処理工程の後、前記基板載置台を前記第2温度から前記第1温度へ温調する際には、前
記第2流量の前記冷媒を前記予め定められた設定温度を維持する前記チラーから前記冷媒流路に流通させると共に、前記ヒータを稼働させ、もしくは前記ヒータの稼働を停止させ
、かつ、前記冷媒の流量を前記第2流量に維持した状態で、前記ヒータによる加熱温度を低下させることにより、もしくは前記ヒータの稼働を停止させることにより、前記基板載置台を前記第2温度から前記第1温度に温調し、
前記基板載置台が前記第1温度に温調された後に、前記冷媒の流量を前記第2流量から前記第1流量に変更する、基板処理方法。
【請求項2】
前記チラーには、前記冷媒を前記冷媒流路に供給する送り流路と、前記冷媒を前記冷媒流路から前記チラーに戻す戻り流路とが流体連通し、前記送り流路と前記戻り流路の間を、前記冷媒流路を介さずに流体連通させるバイパス流路が配設されており、
前記基板載置台を前記第2温度から前記第1温度へ温調する際に、前記バイパス流路に前記冷媒の一部を流通させ、前記冷媒流路を流通する前記冷媒の流量を低減させる、請求項
1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記第1処理工程は、前記処理容器内にケミカルガスを供給して前記基板をケミカルエッチングする、ケミカルエッチング処理を含み、
前記第2処理工程は、前記ケミカルエッチング処理により生成された反応生成物を除去する除去処理を含む、請求項
1又は2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記第1処理工程は、カーボン含有ガスを前記処理容器内に供給し、前記カーボン含有ガスをプラズマ化して前記基板をプラズマエッチングするプラズマエッチング処理を含み、
前記第1処理工程において、前記プラズマエッチング処理と前記ケミカルエッチング処理をシーケンシャルに実行する、請求項
3に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記第2温度は90℃乃至150℃の範囲にあり、前記第2温度と前記第1温度の差分値が20℃乃至100℃の範囲にある、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記基板は溝が形成された絶縁膜を有し、
1つの前記処理容器内において、前記溝の底部に形成されている自然酸化膜であるシリコン含有酸化膜を前記第1処理工程及び前記第2処理工程にて除去する工程を有する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
1つの前記処理容器内において、
前記自然酸化膜を除去する工程と、
前記自然酸化膜を除去した後に金属膜を成膜する工程と、
前記溝の底部のシリコン部分と前記金属膜とを反応させて、前記溝の底部にコンタクトを形成する工程と、を有する、請求項
6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記金属膜を成膜する工程は、CVDまたはALDにより成膜を行う、請求項
7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記溝がトレンチもしくはホールである、請求項
6乃至8のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
基板が収容され、処理ガス供給部を介して処理ガスが供給される処理容器と、
前記処理容器内にあって、冷媒が流通する冷媒流路とヒータを内蔵する基板載置台と、
前記冷媒流路との間で前記冷媒を循環させるチラーと、
第1処理の際の第1温度と、前記第1温度よりも高い第2処理の際の第2温度と、の間で前記基板載置台を温調する制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記基板載置台を第1温度に温調し、前記第1温度で前記基板を処理する制御を実行し、
前記基板載置台を前記第2温度に温調し、前記第2温度で前記基板を処理する制御を実行し、
前記基板載置台を前記第1温度から前記第2温度へ温調する際には、前記チラーの予め定められた設定温度を維持する第1流量の前記冷媒を前記チラーから前記冷媒流路に流通させると共に、前記ヒータを稼働させて前記基板載置台を前記第2温度とする処理を実行し、
前記基板載置台が前記第1温度から昇温して前記第2温度となる前に、もしくは、前記基板載置台が前記第1温度から昇温して前記第2温度となった際に、前記冷媒の流量を、前記第1流量から、前記第1流量よりも流量の多い第2流量に変更する制御を実行し、
前記基板載置台を前記第2温度から前記第1温度へ温調する際には、前
記第2流量の前記冷媒を前記予め定められた設定温度を維持する前記チラーから前記冷媒流路に流通させると共に、前記ヒータを稼働させ、もしくは前記ヒータの稼働を停止させ
、かつ、前記冷媒の流量を前記第2流量に維持した状態で、前記ヒータによる加熱温度を低下させることにより、もしくは前記ヒータの稼働を停止させることにより、前記基板載置台を前記第2温度から前記第1温度に温調する制御を実行し、
前記基板載置台が前記第1温度に温調された後に、前記冷媒の流量を前記第2流量から前記第1流量に変更する制御を実行する、基板処理装置。
【請求項11】
前記チラーには、前記冷媒を前記冷媒流路に供給する送り流路と、前記冷媒流路から前記冷媒を前記チラーに戻す戻り流路とが流体連通し、前記送り流路と前記戻り流路の間を、前記冷媒流路を介さずに流体連通させるバイパス流路が配設されており、
前記制御部は、
前記基板載置台を前記第2温度から前記第1温度へ温調する際に、前記バイパス流路に前記冷媒の一部を流通させ、前記冷媒流路を流通する前記冷媒の流量を低減させる処理を実行する、請求項
10に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヒータと冷媒流路を内蔵する基板載置台に基板を載置し、冷媒流路に冷媒を供給することにより基板載置台の温度を降下させ、ヒータを発熱させることにより基板載置台の温度を昇温させる基板載置台の温度制御方法が開示されている。この温度制御方法では、ヒータが発熱する際に冷媒の流れを停止させることにより、速やかな基板の温度上昇を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基板載置台の温度が異なる複数の処理を行うに当たり、基板載置台の昇温時間と降温時間を短縮してスループットの短縮化を図るのに有利な基板処理方法及び基板処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様による基板処理方法は、
処理容器内にあり、冷媒が流通する冷媒流路とヒータを内蔵する基板載置台と、
前記冷媒流路との間で前記冷媒を循環させるチラーと、を有する基板処理装置により基板を処理する基板処理方法であって、
前記基板載置台を第1温度に温調して前記基板を処理する第1処理工程と、
前記基板載置台を前記第1温度よりも高い第2温度に温調して前記基板を処理する第2処理工程と、を有し、
前記基板載置台を前記第1温度から前記第2温度へ温調する際には、前記チラーの設定温度を維持する第1流量の前記冷媒を前記チラーから前記冷媒流路に流通させると共に、前記ヒータを稼働させて前記基板載置台を前記第2温度とし、
前記基板載置台を前記第2温度から前記第1温度へ温調する際には、前記第1流量よりも流量の多い第2流量の前記冷媒を前記チラーから前記冷媒流路に流通させると共に、前記ヒータを稼働させ、もしくは前記ヒータの稼働を停止させて前記基板載置台を前記第1温度とする。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、基板載置台の温度が異なる複数の処理を行うに当たり、基板載置台の昇温時間と降温時間を短縮してスループットの短縮化を図る、基板処理方法及び基板処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る基板処理装置の全体構成の一例を示す断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る基板処理方法の一例のフローチャートである。
【
図3】基板処理方法の一例のフローチャートの各工程を説明する工程断面図である。
【
図4】基板処理方法の一例のプロセスシーケンスの一例を従来例のプロセスシーケンスの一例と共に示す図であり、(a)は冷媒流量の時間変化グラフであり、(b)は静電チャック温度の時間変化グラフである。
【
図5】第1の実施形態を含む基板処理方法のフローチャートである。
【
図6】第1の実施形態を含む基板処理方法のフローチャートの各工程を説明する工程断面図である。
【
図7】第2の実施形態に係る基板処理装置の全体構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態に係る基板処理方法及び基板処理装置について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0009】
[第1の実施形態]
<基板処理装置>
はじめに、本開示の第1の実施形態に係る基板処理装置の一例について、
図1を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態に係る基板処理装置の全体構成の一例を示す断面図である。
図1に示す基板処理装置100は、プラズマエッチング処理とケミカルエッチング処理、及びケミカルエッチング処理により生成された反応生成物を除去する除去処理を、1つの処理容器10内でシーケンシャルに実行可能な装置である。さらに、基板処理装置100は、反応生成物を除去する除去処理に続いて、例えばALD(Atomic Layer Deposition)法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法による成膜が実行可能な装置である。
【0010】
図1に示す基板処理装置100は、チャンバーである処理容器10と、処理容器10内に配設されて基板W(以下、基板Wの一例である半導体ウエハを「ウエハ」という)が載置される基板載置台21(以下、「サセプタ」という)と、シャワーヘッド40とを有する。また、基板処理装置100は、シャワーヘッド40に処理ガスを供給する処理ガス供給部60と、処理容器10内から各種の処理ガスを排気し、さらには処理容器10内を真空引きして減圧する排気部50とを有する。また、基板処理装置100は、サセプタ21との間で冷媒を循環させる冷却部80と、各構成部を制御する制御部70とを有する。
【0011】
処理容器10はアルミニウム等の金属により形成され、略円筒状を有する容器本体11を有し、容器本体11には底板11aが設けられている。容器本体11の側壁には、ウエハWを搬出入するための搬出入口13が開設され、搬出入口13はゲートバルブ14により開閉自在となっている。容器本体11の上方には、断面形状が略矩形状で円環状の排気ダクト15が配設されている。排気ダクト15には、内周面に沿ってスリット15aが形成されている。また、排気ダクト15の外壁には排気口15bが形成されている。排気ダクト15の上面には、容器本体11の上方開口を塞ぐ天板16が設けられている。天板16と排気ダクト15との当接界面にはシールリング17が配設され、シールリング17により天板16と排気ダクト15とが気密にシールされている。
【0012】
ウエハWが載置されるサセプタ21は、ウエハWに対応した大きさの円盤状を成し、筒状の支持体27に支持されている。サセプタ21は、窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックス材料や、アルミニウムやニッケル合金等の金属材料にて形成されている。サセプタ21の内部には、ヒータ22と、冷媒が流通する冷媒流路23とが内蔵されている。
【0013】
ヒータ22は、筒状の支持体27の内部に延設する給電線74を介して直流電源76に接続されており、給電線74にはスイッチ75が介在している。プロセス中に制御部70によるオン信号をスイッチ75が受信すると、スイッチ75がオンされて直流電源76からヒータ22に直流電圧が印加され、抵抗体であるヒータ22が発熱されるようになっている。ヒータ22は、例えば、タングステンやモリブデン、もしくはこれらの金属のいずれか一種とアルミナ(Al2O3)やチタン等との化合物とから形成されている。
【0014】
冷媒流路23は、平面視における線形が、渦巻き状の線形、もしくは、複数の直線部と直線部の端部同士を繋ぐ湾曲部とが組み合わされた蛇行状の線形等である。冷媒流路23の両端は、支持体27の内部を延設すると共にチラー81に通じている、送り流路82と戻り流路83に流体連通している。
【0015】
サセプタ21には、筒状の支持体27の内部に延設する給電線77を介してプラズマ生成用の高周波電源79が接続されている。給電線77において高周波電源79の上流側には、インピーダンス整合を行う整合器78が介在している。サセプタ21は下部電極として機能する。一方、以下で説明するシャワーヘッド40は上部電極として機能し、サセプタ21と共に一対の平行平板電極を構成する。
【0016】
図1に実線で示すようにサセプタ21が処理位置にある状態において、シャワーヘッド40とサセプタ21との間には処理空間46が形成される。高周波電源79からサセプタ21に高周波電力が印加されることにより、処理空間46に容量結合プラズマが生成される。また、高周波電源79からサセプタ21に高周波電力が印加されることにより、プラズマ中のイオンがウエハWに引き込まれる。高周波電源79から出力される高周波電力の周波数は、0.1乃至500MHzの範囲内で設定されるのが好ましく、例えば13.56MHzが適用される。
【0017】
サセプタ21の上面には、ウエハWが直接載置される載置面を備えた静電チャック24が搭載されている。静電チャック24は、アルミナ等のセラミックスから形成される絶縁体であり、静電吸着機能を有する電極25を内蔵する。電極25は、筒状の支持体27の内部に延設する給電線71を介して直流電源73に接続されており、給電線71にはスイッチ72が介在している。スイッチ72がオンされると、直流電源73から電極25に直流電圧が印加されることによりクーロン力が発生し、クーロン力によってウエハWが静電チャック24の上面に静電吸着される。静電チャック24の厚みは、例えば3mm乃至4mm程度に設定されている。
【0018】
静電チャック24の上面(ウエハWの載置面)には、熱電対(図示せず)等の温度センサが配設されており、温度センサが静電チャック24の上面及びウエハWの温度を随時モニターしている。このモニター情報は制御部70に随時送信され、モニター情報に基づいてサセプタ21及びウエハWの温調制御が制御部70にて実行される。より具体的には、制御部70により、スイッチ75のオン・オフ制御やヒータ22の温度制御が実行される。さらに、制御部70により、チラー81から冷媒流路23に供給される冷媒の流量が第1流量と第2流量の間の範囲で調整され、流量調整された冷媒が冷媒流路23に循環されることにより、サセプタ21及びウエハWを第1温度と第2温度の間で連続的に温調制御することができる。尚、静電チャック24とウエハWの間には、伝熱ガス供給部から供給流路を介して(いずれも図示せず)、例えばHeガス等の伝熱ガスが供給されるようになっており、温調制御されるサセプタ21の温度を伝熱ガスを介してウエハWに速やかに伝熱し、ウエハWの温調制御が行われる。
【0019】
円盤状のサセプタ21の側面には、静電チャック24の外周領域とサセプタ21の側面を覆う環状のシールド体26が、静電チャック24と僅かな隙間を有して設けられている。シールド体26は、アルミナや石英等のセラミックスから形成されている。シールド体26は、高周波電源79からの高周波電力により処理空間46に生成されたプラズマが、容器本体11内に漏洩しないようにプラズマをシールドする機能を有する。
【0020】
サセプタ21を支持する支持体27は、サセプタ21の底面中央から容器本体11の底板11aに開設されている開口11bを介して容器本体11の下方に延び、支持体27の下端は支持板28に接続されている。支持板28は、昇降機29によって案内体(図示せず)に沿って昇降自在に構成されている。また、容器本体11の底板11aと支持板28との間には、支持板28を包囲すると共に処理容器10内の雰囲気を外気から遮断し、サセプタ21の昇降動作にともなって伸縮するベローズ30が配設されている。
【0021】
容器本体11の底板11aの近傍には、昇降板31が配設され、昇降板31の上面には、上方に突出する3本(2本のみ図示)のウエハ支持ピン32が設けられている。容器本体11の底板11aの下方に配設されている昇降機33により昇降板31が昇降自在に支持されており、昇降板31の昇降に応じてウエハ支持ピン32が昇降自在となっている。サセプタ21が二点鎖線で示す搬送位置にあるとき、ウエハ支持ピン32が昇降すると、サセプタ21に設けられている貫通孔21aを介して、ウエハ支持ピン32がサセプタ21の上面に対して突没自在となっている。このようにウエハ支持ピン32を昇降させることにより、ウエハ搬送部(図示せず)とサセプタ21との間においてウエハWの受け渡しが行われる。
【0022】
シャワーヘッド40は、サセプタ21と略同一の直径を有し、天板16に固定されている本体部41と、本体部41の下方に接続されてサセプタ21に対向するシャワープレート42とを有する。本体部41とシャワープレート42との間にはガス拡散空間43が形成されており、ガス拡散空間43には、本体部41及び天板16の中央を貫通するガス導入孔45が開設されている。本体部41とシャワープレート42は共に例えばアルミニウム等の金属から形成されており、金属製の本体の表面にイットリア(Y2O3)等からなる溶射被膜が形成されてもよい。シャワープレート42の周縁部には、下方に突出する環状突起部44が形成されており、環状突起部44とサセプタ21のシールド体26の上面とが近接することにより、環状隙間44bが形成される。シャワープレート42において、環状突起部44の内側の平坦面には、ガス吐出孔44aが形成されている。ガス導入孔45を介してガス拡散空間43に供給された処理ガスは、複数のガス吐出孔44aを介して処理空間46にシャワー状に供給される。
【0023】
本体部41には、インピーダンス整合を行う整合器48が介在する給電線47を介して、プラズマ生成用の高周波電源49が接続されており、シャワーヘッド40は上部電極として機能する。高周波電源49から本体部41に高周波電力が印加されることにより、プラズマ中のイオンがウエハWに提供される。高周波電源49から出力される高周波電力の周波数は、0.1乃至500MHzの範囲内で設定されるのが好ましく、高周波電源79と同じ周波数に設定されてもよいし、異なる周波数に設定されてもよい。尚、プロセス中において、高周波電源49、79から共に高周波電力を印加してもよいし、高周波電源49、79のいずれか一方から高周波電力を印加してもよい。
【0024】
処理ガス供給部60は、基板処理装置100内において連続的に行われる複数の処理に適用される複数の処理ガスを個別的に供給する複数の処理ガス供給源61と、複数の処理ガス供給源61からの各処理ガスを供給するための複数の処理ガス供給配管62とを有する。尚、
図1には、1つの処理ガス供給源61及び処理ガス供給配管62のみを抽出して示している。各処理ガス供給配管には、開閉バルブと、マスフローコントローラのような流量制御器とが設けられており(いずれも図示せず)、開閉バルブとマスフローコントローラにより、処理ガス種の切り替えや処理ガスの流量制御が実行される。処理ガス供給配管62を介して供給される処理ガスは、ガス導入孔45を介してシャワーヘッド40に供給される。
【0025】
排気部50は、処理容器10の内部を排気する。排気部50は、排気ダクト15の排気口15bに接続されている排気配管52と、排気配管52に接続されている排気機構51とを有し、排気機構51は、ターボ分子ポンプやドライポンプ、圧力制御バルブ、開閉バルブ等を有する(いずれも図示せず)。排気処理に際しては、容器本体11内のガスがスリット15aを介して排気ダクト15に至り、排気ダクト15から排気部50の排気機構51により排気配管52を介して排気される。処理容器10内が高圧に設定される処理の際には、例えばドライポンプのみで排気を行う。一方、処理容器10内が低圧に設定される処理の際には、ドライポンプとターボ分子ポンプとを併用して排気する。処理容器10内には圧力センサ(図示せず)が設置されており、圧力センサの検出値に基づいて圧力制御バルブの開度が制御されることにより、処理容器10内の圧力制御が行われる。
【0026】
冷却部80は、チラー81と、チラー81に流体連通する送り流路82及び戻り流路83とを有する。送り流路82と戻り流路83は共に筒状の支持体27の内部をサセプタ21側に延設し、サセプタ21に内蔵されている例えば渦巻き状の冷媒流路23の両端に流体連通している。チラー81は、冷媒温度を制御する本体部と、冷媒を圧送するポンプとを有する(いずれも図示せず)。ポンプから圧送される冷媒の流量は、制御部70によりプロセス中に可変に制御される。ここで、冷媒として、ガルデン(登録商標)やフロリナート(登録商標)等が適用される。
【0027】
基板処理装置100では、処理容器10内において、サセプタ21を第1温度に設定して処理を行う第1処理と、サセプタ21を第1温度よりも高い第2温度に設定して処理を行う第2処理とがシーケンシャルに実行される。第1温度と第2温度はプロセスによって様々な温度に設定でき、一例として、相対的に高い第2温度を90℃乃至150℃の範囲とし、第2温度と第1温度の差分値を20℃乃至100℃の範囲に設定することができる。
【0028】
第1処理と第2処理を一連のプロセスとして1つのウエハWに対して実行し、処理済みのウエハWを処理容器10からアンロードし、未処理のウエハWを処理容器10にロードして同様に第1処理と第2処理を行う基板処理方法が適用できる。このように、1つの処理容器10内において、サセプタ21の温度が異なる複数の処理をシーケンシャルに行う基板処理方法によれば、各処理を異なる処理容器にて行う方法に比べて処理設備の簡素化と処理設備の占めるスペースの狭小化、さらには装置製造に要するコストの低減を図ることができる。その一方で、複数の異なる温度の処理を1つの処理容器10にて行う場合、サセプタ21の温度の切り替えに要する時間がプロセスの律速となり易く、このようにサセプタ21の温度の切り替えに要する時間が長くなることに起因してプロセス時間が長くなる恐れがある。サセプタ21の温度の切り替えに要する時間を短縮化し、スループットの短縮化を図るために、プロセス中において、チラー81の温度は予め定められた設定温度に維持されるようになっている。具体的には、チラー81に対して設定温度の維持を保証する冷媒の流量を予め求めておき、このように求められた流量以上の冷媒が冷却部80と冷媒流路23との間を循環するような制御が実行される。
【0029】
制御部70は、基板処理装置100の各構成部、例えば、サセプタ21に内蔵されるヒータ22やチラー81、高周波電源49,79、処理ガス供給部60、排気部50等の動作を制御する。制御部70は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を有する。CPUは、RAM等の記憶領域に格納されたレシピ(プロセスレシピ)に従い、所定の処理を実行する。レシピには、プロセス条件に対する基板処理装置100の制御情報が設定されている。制御情報には、例えば、ガス流量や処理容器10内の圧力、処理容器10内の温度や静電チャック24の載置面の温度、プロセス時間等が含まれる。例えば、以下で詳説するように、サセプタ21を第1温度から第2温度に連続制御する処理がレシピに含まれる。また、所定時間のプラズマエッチング処理、ケミカルエッチング処理、及び反応生成物の除去処理のシーケンシャルな処理がレシピに含まれる。
【0030】
制御部70による制御フローの一例を挙げると以下の通りである。まず、サセプタ21を第1温度から第2温度へ温調する際には、チラー81の設定温度を維持する第1流量の冷媒をチラー81から冷媒流路23に流通させると共に、ヒータ22を稼働させてサセプタ21を第2温度とする処理を実行する。一方、サセプタ21を第2温度から第1温度へ温調する際には、第1流量よりも流量の多い第2流量の冷媒をチラー81から冷媒流路23に流通させると共に、ヒータ22を稼働させ、もしくはヒータ22の稼働を停止させてサセプタ21を第1温度とする処理を実行する。
【0031】
尚、レシピ及び制御部70が適用するプログラムは、例えば、ハードディスクやコンパクトディスク、光磁気ディスク等に記憶されてもよい。また、レシピ等は、CD-ROM、DVD、メモリカード等の可搬性のコンピュータによる読み取りが可能な記憶媒体に収容された状態で制御部70にセットされ、読み出される形態であってもよい。制御部70はその他、コマンドの入力操作等を行うキーボードやマウス等の入力装置、基板処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等の表示装置、及びプリンタ等の出力装置といったユーザーインターフェイスを有している。
【0032】
<基板処理方法>
次に、
図1に示す基板処理装置100を適用してウエハWを処理する、基板処理方法の一例を
図2乃至
図4を参照して説明する。
図2は、第1の実施形態に係る基板処理方法の一例のフローチャートであり、
図3は、基板処理方法の一例のフローチャートの各工程を説明する工程断面図である。また、
図4は、基板処理方法の一例のプロセスシーケンスの一例を従来例のプロセスシーケンスの一例と共に示す図であり、
図4(a)は冷媒流量の時間変化グラフであり、
図4(b)は静電チャック温度の時間変化グラフである。尚、
図4(a)、(b)は、時間軸を揃えて示されている。
【0033】
図4(a)における冷媒流量の時間変化グラフは、冷媒流量が実際に変化するグラフである。制御部70によるチラー81に対する冷媒の流量切り替えは、例えばPID(Proportional Integral Differential)制御にて行われる。このPID制御において制御部70からチラー81に指令信号が送信されるタイミングは多様であるが、例えば、
図4(a)において、時刻t2で流量増加の指令信号を送信し、時刻t9で流量低減の指令信号を送信するタイミングが挙げられる。
【0034】
静電チャック24の温度は、静電チャック24が内蔵するヒータ22の温度をダイレクトに反映することから、
図4(b)に示す静電チャック温度の時間変化グラフは、そのまま静電チャック24内に内蔵されたヒータ温度の時間変化グラフを示しているとしてよい。さらに、静電チャック24の温度は、そのまま静電チャック24に載置されているウエハWの温度であるとしてよい。尚、
図4では、実線で示されている実施例のグラフと、点線で示されている比較例(従来例)のグラフを併記しているが、以下のプロセスの説明では実線で示す実施例のグラフを参照する。
【0035】
図2に示す基板処理方法は、サセプタ21を第1温度に温調してウエハWを処理する第1処理工程と、サセプタ21を第1温度よりも高い第2温度に温調してウエハWを処理する第2処理工程とを有する。
図2において、第1温度のサセプタ21にウエハWを載置する工程(工程1)、第1温度で自然酸化膜をプラズマエッチング処理する工程(工程2)、及び第1温度で自然酸化膜をケミカルエッチング処理する工程(工程3)が第1処理工程となる。次に、サセプタ21を第1温度から第2温度に温調する工程(工程4)を経て、第2温度で反応生成物を除去処理する工程(工程5)が第2処理工程となる。第2処理工程の後、サセプタ21を第2温度から第1温度に温調する工程(工程6)を経て1つのウエハWに対する一連のプロセスが終了する。
図1に示す基板処理装置100は、この一連のプロセスを1つの処理容器10内で行い、これを複数のウエハWに対して順次行う装置である。
【0036】
第2処理工程におけるサセプタ21の第2温度は90℃乃至150℃の範囲に設定され、第2温度と第1処理工程における第1温度の差分値は20℃乃至100℃の範囲に設定される。例えば、表面に所定パターンのトレンチ(溝の一例であり、溝の他の例としてホールがある)を有する絶縁膜が形成されたウエハW(シリコンウエハ)において、トレンチ底部のシリコン部分にコンタクトメタルを成膜してコンタクトを形成する成膜工程がある。この成膜工程に際して、シリコン部分の表面には自然酸化膜であるシリコン含有酸化膜が形成され得る。そこで、第1処理工程と第2処理工程をシーケンシャルに行うことにより、自然酸化膜であるシリコン酸化膜を除去する処理を行う基板処理方法を取り上げて以下説明する。ここでは、一例として、第1処理工程の際のサセプタ21の温度を30℃(第1温度の一例)に設定し、第2処理工程の際のサセプタ21の温度を90℃(第2温度の一例)に設定することとする。すなわち、
図4(b)において、静電チャックの温度が30℃の範囲は第1処理工程であり、静電チャックの温度が90℃の範囲は第2処理工程である。
【0037】
図2に示すように、工程1において第1温度に温調されているサセプタ21にウエハWを載置する。工程1では、
図4に示すように、チラー81から冷媒流路23に10L/分(第1流量の一例)の冷媒を供給し、ヒータ22を30℃程度の低温にて制御することにより、サセプタ21が第1温度に温調される。処理容器10内にウエハWをロードし、第1温度に温調されたサセプタ21(に載置されている静電チャック24)にウエハWが載置される。ここで、
図3(a)に示すように、ウエハWは、シリコン基体200に絶縁膜210が形成され、絶縁膜210に所定パターンのトレンチ220が形成されている。トレンチ220の底部のシリコン部分には、自然酸化膜(シリコン含有酸化膜)230が形成されている。絶縁膜210は主としてSiO
2膜にて形成されるが、一部がSiN膜であってもよい。
【0038】
このようなウエハWとしては、例えばフィンFETを形成するウエハWが挙げられる。フィンFETを形成するウエハWでは、トレンチ220の底部に、シリコン部分として、Siフィンの先端に形成されたSiもしくはSiGeからなる多角形のエピタキシャル成長部を有し、このエピタキシャル成長部がソース及びドレインを形成する。そして、このエピタキシャル成長部の表面に自然酸化膜230が形成され得る。
【0039】
次に、
図3(b)に示すように、工程2において、ウエハWを第1温度に維持した状態で、カーボン含有ガスのプラズマによるイオン性の異方性エッチングにより、トレンチ220の底部の自然酸化膜230の一部をプラズマエッチング処理する。この工程は、イオンの直進性を利用した異方性エッチングであり、処理ガス供給部60からシャワーヘッド40を経てカーボン含有ガスを処理容器10の処理空間46に供給しつつ、高周波電源79からサセプタ21に高周波電力を印加し、処理空間46内にプラズマを生成することにより行われる。カーボン含有ガスとしては、四フッ化メタン(CF
4)ガスや八フッ化シクロブタン(C
4F
8)ガス等のフッ化炭素系(CxFy系)ガスを適用できる。また、CH
2F
2(ジフルオロメタン)ガス等のフッ素化炭化水素系(CxHyFz系)ガスを適用することもできる。また、これらのガスに加えて、Ar(アルゴン)ガスのような希ガス、N
2(窒素)ガスのような不活性ガスが含まれてもよい。
【0040】
上記するようなガスを適用することにより、異方性エッチングの際に、トレンチ220の側壁にはカーボン系の保護膜240が成膜されるため、側壁のエッチング進行を抑制しつつ、自然酸化膜をエッチングすることができる。この工程により、CDロスを抑制しつつ、トレンチ220の底部の自然酸化膜230の多くを除去することができる。
【0041】
この処理は、イオンの直進性を確保するべく、処理容器10内の圧力を極力低圧に設定するのがよく、排気部50を構成するターボ分子ポンプやドライポンプを併用して、所定の低圧雰囲気下にて処理を行う。また、この処理はプラズマ処理であることから低温雰囲気でよく、第1温度である30℃が維持されるようにヒータ22の制御と第1流量の冷媒の循環が行われる。
【0042】
次に、冷媒流路23に第1流量の冷媒を流通させた状態を維持しつつ、ウエハWを第1温度に維持した状態で、
図3(c)に示すように、例えば、三フッ化窒素(NF
3)ガスとアンモニア(NH
3)ガス等のプラズマにより、トレンチ220の側壁からカーボン系の保護膜240の除去処理を行う。この工程は、処理ガス供給部60からシャワーヘッド40を経て、例えばH
2(水素)ガスを処理容器10内の処理空間46に供給しつつ、高周波電源79からサセプタ21に高周波電力を印加し、処理空間46内にプラズマを生成することにより行われる。
【0043】
この工程も、プラズマによる除去処理であることから、処理圧力はある程度低い方が好ましいが、トレンチ220の側壁から保護膜240の残渣を除去するべく、
図3(b)よりもイオンの直進性を弱くして処理を行うのが好ましい。従って、
図3(b)よりも処理容器10内の圧力を高く設定して処理を行う。
【0044】
以上、工程2により、トレンチ220の底部の自然酸化膜230の多くは除去されるが、例えばフィンFETのトレンチ底部のように複雑な形状を有するエピタキシャル成長部表面の自然酸化膜は、この異方性エッチングのみでは完全に除去できない場合がある。
【0045】
そこで、工程3として、
図3(d)に示すように、ウエハWを第1温度に維持した状態で、自然酸化膜230の残部をケミカルエッチング処理にて除去する。ケミカルエッチングは、プラズマレスであって反応性ガスによるドライエッチングであり、等方性エッチングであることから、複雑な形状を有するエピタキシャル成長部表面の自然酸化膜230を除去することができる。本例では、ケミカルエッチングとして、ケミカルガスとしてアンモニア(NH
3)ガスとフッ化水素(HF)ガスを適用したCOR(Chemical Oxide Removal)処理を行う。
【0046】
COR処理に際しては、高周波電力を印加しない状態で、処理ガス供給部60からシャワーヘッド40を経てNH
3ガスとHFガスを処理容器10内の処理空間46に供給する。NH
3ガスとHFガスの他に、希釈ガスとしてArガスのような希ガスやN
2ガスのような不活性ガスを加えてもよい。COR処理のようなケミカルエッチングは、等方性エッチングであることから、トレンチ220の側壁も僅かにエッチングされ得るが、
図3(c)に示すようにトレンチ220の底部に僅かに残っている自然酸化膜230を除去するのみであることから短時間の処理でよく、トレンチ220のCDロスは殆ど生じない。
【0047】
COR処理の際には、トレンチ220の側壁と底部、及び絶縁膜210の表面に、NH3ガスとHFガスとの反応により、主としてフルオロケイ酸アンモニウム[(NH4)2SiF6;AFS]からなる反応生成物250が形成される。
【0048】
そこで、
図2に示すように、工程4において、サセプタ21の温度を第1温度である30℃から第2温度である90℃に温調し、工程5において、第2温度にて反応生成物であるAFSを昇華させて除去するPHT(Post Heat Treatment)処理を行う。
【0049】
ここで、
図4に示すように、サセプタ21を第1温度から第2温度に温調する工程4に要する時間Δt1(昇温開始時刻t1と第2温度に到達した時刻t2との時間間隔)を可及的に短くするための制御を実行する。具体的には、制御部70により、チラー81の設定温度を
図4に示す20℃(設定温度の一例)に維持する第1流量(10L/分)の冷媒をチラー81から冷媒流路23に流通させる制御が実行される。さらに、制御部70により、ヒータ22をΔt1の間に30℃から90℃に昇温させる制御が実行される。このように、第1流量の冷媒をチラー81から冷媒流路23に流通させつつ、ヒータ22をΔt1の間に30℃から90℃に昇温させる制御が制御部70にて実行されることにより、チラー81を設定温度に維持させながら、速やかにサセプタ21を昇温させることができる。尚、仮にサセプタ21の昇温に起因してチラー81の温度が設定温度よりも高くなると、戻り流路83を介して戻ってきた冷媒に対するチラー81の冷却性能が低下する。チラー81の冷却性能が低下することにより、サセプタ21を第2温度から第1温度に降温させる工程6に要する時間Δ3(
図4(b)参照)が長くなり、プロセス時間の短縮化を十分に図り難くなる。
【0050】
工程5においてPHT処理を行うことにより、
図3(e)に示すように、トレンチ220の側壁と底部、及び絶縁膜210の表面からAFSが除去され、さらにトレンチ220の底部から自然酸化膜が除去されたウエハWが得られる。
【0051】
工程5においてPHT処理を行い、トレンチ220の底部から自然酸化膜が除去されたウエハWが得られたら、次の処理対象であるウエハWに対して同様の処理を行うべく、
図2に示すように、工程6において、サセプタ21を第2温度から第1温度に温調する。
図4(b)に示すように、工程6では、サセプタ21が時刻t4で降温を開始し、時刻t5で第1温度に到達し、時刻t4からt5までの時間間隔はΔt3である。
【0052】
図4(a)に示す例では、冷媒の流量を第1流量から第2流量に増加させる制御は、サセプタ21が第2温度に昇温した時刻t2に開始される。そして、
図4(a)、(b)に示すように、第2処理工程である工程5の途中時刻t3において、冷媒の流量は第2流量である20L/分に増加される。このように、サセプタ21が第2温度に温調されている間に冷媒の流量を第2流量に増加させておくことにより、工程6においてサセプタ21を速やかに第1温度に降温させることができる(図中のΔt3で降温)。この制御に対して、例えば、工程5が終了する時刻t4の時点で冷媒の流量を第2流量に増加させる制御を開始した場合は、サセプタ21の温度を第1温度に降温させるまでの時間はΔt3よりも長くなる。
【0053】
一方、
図4に示す例では、工程6を経てサセプタ21が第1温度に降温した後の時刻t9において、冷媒の流量を第2流量から第1流量に低減させる制御を実行する。このように、工程6の後に速やかに冷媒の流量を第1流量に低下させておくことにより、次の処理対象であるウエハWが処理容器10内にロードされる前に、もしくはロードされた短時間後に、サセプタ21の温度を第1処理工程に好適な第1温度に温調することができる。
【0054】
工程6では、冷媒流路23に対して20L/分の第2流量の冷媒が継続して提供される。このような冷媒の提供に合わせて、ヒータ22を第2温度である90℃から第1温度である30℃に降温制御する。この制御により、工程6の終了時刻t5においてサセプタ21の温度が第1温度に温調される。ここで、工程6では、図示するようなヒータ22の温調制御の他にも、ヒータ22の稼働を停止するオフ制御が実行されてもよい。
【0055】
図4(a)に示す例では、冷媒流量が第1流量である10L/分に到達する時刻t10は、
図4(b)に示す一連のプロセスが終了する時刻t6よりも遅い時刻となっており、次の処理対象のウエハWがロードされた後に冷媒流量が第1流量に安定することになる。図示例の他にも、一連のプロセスが終了する時刻t6において冷媒流量が第1流量に安定するように制御されてもよい(t6=t10となる制御)。
【0056】
実施形態に係る基板処理方法では、第2温度を90℃乃至150℃の範囲に設定するのが好ましく、第2温度と第1温度の差分値が20℃乃至100℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0057】
第2温度が90℃以上に設定されていることにより、工程5における昇華プロセスを実現できる。一方、第2温度が150℃以下に設定されていることにより、所定定格のチラー81を適用した場合でも、チラー81の温度を20℃程度の設定温度に維持することができる。
【0058】
さらに、第2温度が90℃乃至150℃の範囲に設定されることを前提として、第2温度と第1温度の差分値が20℃乃至100℃の範囲に設定されることにより、冷媒流量の調整とヒータ加熱による調整により、可及的に短時間の昇温時間Δt1と降温時間Δt3を実現することができる。そして、昇温時間Δt1と降温時間Δt3を可及的に短時間にすることにより、
図4に示す一連のプロセスに要する時刻t6までのプロセス時間T0、すなわちスループットを可及的に短縮化することができる。
【0059】
ここで、あらためて
図4を参照して、実施形態に係る基板処理方法(実施例)と従来の基板処理方法(比較例)における、冷媒流量制御方法とサセプタ21(の上の静電チャック24)の温調制御方法の違い、及び実施例による効果について説明する。
【0060】
図4に示す実施例及び比較例のプロセスシーケンスは、既に説明している一連のプロセス、すなわち、プラズマによる自然酸化膜除去処理、COR処理及びPHT処理をシーケンシャルに実行する際のプロセスシーケンスである。比較例に係る従来の基板処理方法では、
図4(a)の点線に示すように、チラー81から冷媒流路23に供給される冷媒の流量が第2流量の一定値に設定されている。そのため、実施例と同様のヒータ出力にてヒータ22を昇温させても、
図4(b)に示すようにサセプタ21の昇温勾配は実施例と比べて低くならざるを得ない。実施例における工程4に要する時間がΔt1であるのに対して、比較例における工程4に要する時間はΔt2となる。本発明者等による検証によれば、Δt1はΔt2の1/2程度に短縮化されることが確認されている。
【0061】
また、
図4(a)の点線に示すように、チラー81から冷媒流路23に供給される冷媒の流量が第1流量の一定値に設定された場合、実施例と同様のヒータ出力にてヒータ22を降温させても、
図4(b)に示すようにサセプタ21の降温勾配は実施例と比べて低くならざるを得ない。実施例における工程6に要する時間がΔt3であるのに対して、比較例における工程4に要する時間はΔt4となるため、スループットに影響する。本発明者等による検証によれば、Δt3はΔt4の1/6程度に短縮化されることが確認されている。
【0062】
このように、比較例に対して、実施例に係る基板処理方法によれば、サセプタ21を第1温度から第2温度へ温調する時間、及び、第2温度から第1温度へ温調する時間、の双方において、温調時間を大幅に短縮することが可能になる。その結果、実施例におけるプロセス時間T0は、比較例におけるプロセス時間T1の1/2程度まで短縮化できることが確認されている。
【0063】
実施形態に係る基板処理装置100、及び基板処理装置100を適用した基板処理方法によれば、プロセス中に冷媒の流量とヒータの出力を変化させることにより、1つの処理容器10内でサセプタ21の温度が異なる複数の処理をシーケンシャルに行うことが可能になる。さらに、このようにサセプタ21の温度が異なる複数の処理を1つの処理容器10にて行いながらも、スループットの短縮化を図ることが可能になる。
【0064】
<第1の実施形態を含む基板処理方法>
次に、第1の実施形態を含む基板処理方法として、コンタクト形成方法について、
図5及び
図6を参照して説明する。ここで、
図5は、第1の実施形態を含む基板処理方法のフローチャートであり、
図6は、第1の実施形態を含む基板処理方法のフローチャートの各工程を説明する工程断面図である。
【0065】
本実施形態のコンタクト形成方法は、まず、第1の実施形態に係る基板処理方法により、
図6(a)に示すように、トレンチ220の底部のシリコンを含む自然酸化膜の除去を行う(
図5の工程7)。その後、
図6(b)に示すように、CVDまたはALDによりコンタクトメタルである金属膜260を成膜する(
図5の工程8)。金属膜260としては、Ti膜やTa膜等を用いることができる。
【0066】
工程8において金属膜260を形成すると、
図6(c)に示すように、金属膜260はトレンチ220の底部においてシリコン(シリコン部分)と反応し、自己整合的に金属シリケート(例えばTiSi)からなるコンタクト270が形成される。
【0067】
[第2の実施形態]
<基板処理装置及び基板処理方法>
次に、第2の実施形態に係る基板処理方法と基板処理装置について、
図7を参照して説明する。
図7は、第2の実施形態に係る基板処理装置の全体構成の一例を示す断面図である。
【0068】
第2の実施形態に係る基板処理装置100Aは、冷却部80Aにおいて、送り流路82と戻り流路83の間を、冷媒流路23を介さずに流体連通させるバイパス流路84が配設されている。バイパス流路84には、開閉弁85と流量制御弁86が介在する。
【0069】
チラー81から冷媒流路23に供給する冷媒流量を例えば20L/分の一定値に設定しておき、第2流量の冷媒を冷媒流路23に供給する際には、開閉弁85を閉制御し、バイパス流路84に冷媒が流通しないようにする。一方、第1流量の冷媒を冷媒流路23に供給する際には、開閉弁85を開制御し、さらに流量制御弁86の開度を調整することにより、バイパス流路84に10L/分の冷媒が流れるように制御することにより、冷媒流路23に第1流量の冷媒を供給することができる。尚、冷媒流量を第2流量から第1流量に低減する際に、チラー81にて能動的に冷媒流量を低減させつつ、さらにバイパス流路84に冷媒の一部を逃がす制御を行ってもよい。
【0070】
このように、チラー81(を構成するポンプ)に対して供給する冷媒流量を制御する代わりに、チラー81から供給される冷媒流量を一定とし、バイパス流路84に逃がす冷媒の流量を制御することにより、チラー81の内部構成を簡素化することができる。
【0071】
基板処理装置100Aを適用する基板処理方法では、サセプタ21を第2温度から第1温度へ温調する際に、バイパス流路84に冷媒の一部を流通させ、冷媒流路23を流通する冷媒の流量を低減させる制御が制御部70にて実行される。
【0072】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本開示はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0073】
10 処理容器
11 容器本体
21 サセプタ
22 ヒータ
23 冷媒流路
40 シャワーヘッド
50 排気部
60 処理ガス供給部
70 制御部
80,80A 冷却部
81 チラー
82 送り流路
83 戻り流路
84 バイパス流路
100,100A 基板処理装置
W 基板(ウエハ)