(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】フォトクロミック化合物、該フォトクロミック化合物を含む硬化性組成物、及び該硬化性組成物からなるフォトクロミック硬化体
(51)【国際特許分類】
C07D 311/94 20060101AFI20221216BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20221216BHJP
C07D 497/04 20060101ALI20221216BHJP
C08G 65/329 20060101ALI20221216BHJP
C08G 77/38 20060101ALN20221216BHJP
【FI】
C07D311/94 CSP
C09K9/02 B
C07D497/04
C08G65/329
C08G77/38
(21)【出願番号】P 2019077610
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018079468
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真行
(72)【発明者】
【氏名】竹中 潤治
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-237719(JP,A)
【文献】特表2014-510718(JP,A)
【文献】特表2008-535971(JP,A)
【文献】特表2014-506245(JP,A)
【文献】国際公開第2011/025056(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0000890(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インデノナフトピラン部位を有し、
該インデノナフトピラン部位には、
炭素数10~30のアルケニル基と、
ポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基、ポリエステルオリゴマー鎖基、ポリシロキサン鎖基、およびポリエステルポリエーテルオリゴマー鎖基から選ばれる、繰り返し単位を3つ以上有するオリゴマー鎖基Aとを
有するフォトクロミック化合物。
【請求項2】
下記式(1)で示される請求項1に記載のフォトクロミック化合物。
【化1】
前記式(1)で示されるインデノナフトピラン部位を有するクロメン化合物であり、
式中、
R
1、およびR
2は、それぞれ独立に、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアラルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいヘテロアリール基、チオール基、アルコキシアルキルチオ基、ハロアルキルチオ基、又は置換基を有してもよいシクロアルキルチオ基であり、
aは0~4の整数であり、bは0~4の整数であり、
aが2~4である場合には、複数のR
1は互いに同一でも異なってもよく、
bが2~4である場合には、複数のR
2は互いに同一でも異なってもよく、
また、aが2~4であって、隣接するR
1が存在する場合には、隣接する2つのR
1が一緒になってそれらR
1と結合する炭素原子と共に、酸素原子、炭素原子、硫黄原子、又は窒素原子を含んでもよい環を形成してもよく、さらに該環は置換基を有してもよく、
また、bが2~4であって、隣接するR
2が存在する場合には、隣接する2つのR
2が一緒になってそれらR
2と結合する炭素原子と共に、酸素原子、炭素原子、硫黄原子、又は窒素原子を含んでもよい環を形成してもよく、さらに該環は置換基を有してもよく、
R
3、およびR
4は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいヘテロアリール基であり、
R
5、およびR
6は、それぞれ独立に、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記オリゴマー鎖基
A、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル
基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアラルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基であり、
またR
5、およびR
6は2つが一緒になって、それらが結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成してもよく、ただし、これら環は置換基を有してもよい。もしくはそれらが結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族炭化水素環、前記脂肪族炭化水素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環基を形成してもよく、
前記置換基を有してもよい基の置換基は、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、
前記炭素数10~30のアルケニル基、又は前記オリゴマー鎖基
Aであってもよく
、
また、
前記置換基を有してもよい基の置換基は、一分子中に含まれる前記オリゴマー鎖基A 1個あたり、前記炭素数10~30のアルケニル基が1~12個となるように、前記炭素数10~30のアルケニル基または、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であってもよ
く、
R
1
、R
2
、R
5
、R
6
、及び、前記置換基を有してもよい基の置換基の少なくとも1つは、前記オリゴマー鎖基Aであり、
R
1
、R
2
、R
5
、R
6
、及び、前記置換基を有してもよい基の置換基の少なくとも1つは、前記炭素数10~30のアルケニル基である。
【請求項3】
下記式(2)で示される請求項1又は2に記載のフォトクロミック化合物。
【化2】
R
1、R
2、R
5、R
6は前記式(1)におけるものと同義であり、
a’’は0~2の整数であり、b’’は0~3の整数であり、
a’’が2の場合には、複数のR
1は互いに同一でも異なっていてもよく、
b’’が2又は3の場合には、複数のR
2は互いに同一でも異なっていてもよく、
R
100、およびR
101は、それぞれ独立に、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキルチオ基、置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルカルボニル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数3~12のヘテロアリール基、チオール基、炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1~6のハロアルキルチオ基、又は炭素数3~8のシクロアルキルチオ基であり、
また、R
100、およびR
101は、一緒になって下記式(3)
【化3】
[式中、*は、インデノナフトピラン部位の6位又は7位の炭素原子を指し、X、およびYは、一方または両方が硫黄原子、メチレン基、酸素原子、または下記式(4)
【化4】
(式中、
R
9は、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記オリゴマー鎖基A、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6アルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数3~12のヘテロアリール基である。)で示される基であり、
R
7およびR
8は、それぞれ独立に、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記オリゴマー鎖基
A、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルカルボニル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1~6のハロアルキルチオ基、炭素数3~8のシクロアルキルチオ基、又は置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基であり
、
また、R
7およびR
8は、それらが結合する炭素原子と共に、置換基を有してもよい脂肪族環を形成してもよく、cは、1~3の整数である。]で示されるような環を形成してもよく、
R
200は、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルカルボニル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1~6のハロアルキルチオ基、炭素数3~8のシクロアルキルチオ基、又は置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基であり、
R
300、およびR
400は、それぞれ独立に、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキルチオ基、又は置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基であり、
a’は0~5の整数であり、a’が2以上である場合には、R
300は、互いに同一でも異なる基であってもよく
b’は0~5の整数であり、b’が2以上である場合には、R
400は、互いに同一でも異なる基であってもよく、
前記置換基を有してもよい基の置換基は、
前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、又は前記オリゴマー鎖基Aであってもよく、
また、
前記置換基を有してもよい基の置換基は、一分子中に含まれる前記オリゴマー鎖基A 1個あたり、前記炭素数10~30のアルケニル基が1~12個となるように、前記炭素数10~30のアルケニル基または、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であってもよ
く、
R
1
、R
2
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
、R
100
、R
101
、R
200
、R
300
、R
400
、及び、前記置換基を有してもよい基の置換基の少なくとも1つは、前記オリゴマー鎖基Aであり、
R
1
、R
2
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
、R
100
、R
101
、R
200
、R
300
、R
400
、及び、前記置換基を有してもよい基の置換基の少なくとも1つは、前記炭素数10~30のアルケニル基である。
【請求項4】
前記オリゴマー鎖基Aが、下記式(5a)~(5d)
【化5】
{式(5a)~(5d)中、
R
10は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、同一分子内に複数のR
10を含む場合は、R
10は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
nは、前記オリゴマー鎖基Aの繰り返し単位を指すものであり、3~200の整数であり、複数ある繰り返し単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
Lは、2価の結合基であり、下記式(6)
【化6】
(式中、
R
13は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキレン基、環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリーレン基、又は環を形成する原子の数が3~12である置換基を有してもよい複素環基であり、R
14は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキレン基、又は環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリーレン基であり、
R
15は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキレン基、又は環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリーレン基であり、
X
1、およびX
2は、2価の基であり、それぞれ独立に、直結、O、S、アミノ基、置換アミノ基、(チオ)アミド基、又は(チオ)エステル基であり、
dは0~50の整数であり、eは0~50の整数であり、fは0~50の整数であり、
dが2以上の場合、複数あるR
13は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
eが2以上の場合、複数あるeの単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
fが2以上の場合、複数あるfの単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
前記置換基を有してもよい基の置換基は、前記炭素数10~30のアルケニル基または、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であってもよい。)で示される基であり、
複数あるLは互いに同一であっても異なっていてもよく、
破線部は、前記インデノナフトピラン部位との結合を表し、
tは、該オリゴマー鎖基Aの数を指すものであり、1~10の整数であり、
tが1の場合には、R
11は、炭素数10~30のアルケニル基、水素原子、
又は、炭素数1~20のアルキル基であり、
tが2の場合には、R
11は、結合手、又は2価の有機残基であり、
tが3~10の場合には、R
11は、tの数と同じ価数の有機残基であり、
前記式(5d)において、R
12は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、または炭素数6~14のアリール基であり、同一分子内に複数のR
12を含む場合は、R
12は、互いに同一であっても異なっていてもよい。}となる基から選ばれる、あるいはこれら基の組み合わせからなる
請求項1~3の何れか
1項に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項5】
前記インデノナフトピラン部位と結合する結合基Lが、下記式
【化7】
(式中、破線部は、前記インデノナフトピラン部位と結合することを表す。)から選ばれる基である
請求項
4に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項6】
前記R
5、およびR
6は2つが一緒になって、それらが結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成し、ただし、これら環は置換基を有してもよく、
前記置換基は、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、又は炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であってもよい、請求項2~5の何れか
1項に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項7】
インデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に脂肪族炭化水素環を形成する基を有し、該脂肪族炭化水素環を形成する基が、
シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロノナン環、シクロデカン環、シクロウンデカン環、シクロドデカン環、およびスピロジシクロヘキサン環から選ばれる環であって、
該脂肪族炭化水素環を形成する基は、炭素数1~3のアルキル基もしくは炭素数5~7のシクロアルキル基を1~10個置換基として有してもよい、または、
該脂肪族炭化水素環を形成する基は、炭素数5~7のシクロアルキル基が縮環してもよい基である請求項1~6のいずれか
1項に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項8】
前記炭素数10~30のアルケニル基又は前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基と、前記オリゴマー鎖基
Aとが、それぞれ前記インデノナフトピラン部位の異なる置換位置に存在する請求項1~7のいずれか
1項に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項9】
請求項1~8の何れか
1項に記載のフォトクロミック化合物と、重合性化合物とを含んでなるフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項10】
請求項9記載のフォトクロミック硬化性組成物が重合してなるフォトクロミック光学物品。
【請求項11】
請求項1~8の何れか
1項に記載のフォトクロミック化合物が内部に分散した高分子成型体。
【請求項12】
請求項1~8の何れか
1項に記載のフォトクロミック化合物が分散した高分子膜で被覆された光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフォトクロミック化合物、該フォトクロミック化合物を含む新規なフォトクロミック硬化性組成物、及び該硬化性組成物よりなる新規な
硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロメン化合物、フルギド化合物、スピロオキサジン化合物等に代表されるフォトクロミック化合物は、太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻るという特性(フォトクロミック性)を有しており、この特性を活かして、種々の用途、特に光学材料の用途に使用されている。
【0003】
例えば、フォトクロミック化合物の使用によりフォトクロミック性が付与されているフォトクロミック眼鏡レンズは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外では速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能するものであり、近年その需要は増大している。
【0004】
光学材料にフォトクロミック性を付与するためには、一般に、フォトクロミック化合物はプラスチック材料と併用されるが、具体的には、次のような手段が知られている。
(a)化合物にフォトクロミック化合物を溶解させ、それを重合させることにより、直接、レンズ等の光学材料を成形する方法。この方法は、練り込み法と呼ばれている。
(b)レンズ等のプラスチック成形品の表面に、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層を、コ-ティング或いは注型重合により設ける方法。この方法は、積層法と呼ばれている。
(c)2枚の光学シ-トを、フォトクロミック化合物が分散された接着材樹脂により形成された接着層により接合すること。この方法は、バインダ-法と呼ばれている。
【0005】
フォトクロミック性が付与された光学物品などの光学材料については、さらに、次のような特性が求められている。
(I)紫外線を照射する前の可視光領域での着色度(初期着色)が低いこと。
(II)紫外線を照射した時の着色度(発色濃度)が高いこと。
(III)紫外線の照射を止めてから元の状態に戻るまでの速度(退色速度)が速いこと。
(IV)発色~退色の可逆作用の繰り返し耐久性がよいこと。
(V)保存安定性が高いこと。
(VI)各種の形状に成形し易いこと。
【0006】
これまでに種々のフォトクロミック化合物が報告されているが、液体マトリクス中では光応答性が良いフォトクロミック化合物であっても、固体マトリクス中では光応答性が悪く、退色半減期が長くなる傾向がみられることが報告されている。これは、液体マトリクス中に比較し固体マトリクス中では自由空間が圧倒的に小さいため、フォトクロミック化合物の構造変化が制約を受けるためと考えられる。この問題を解決する方法として、ナノカプセル化が可能なフォトクロミック化合物が提案されている。具体的には、近年、ポリアルキレンオキシオリゴマー鎖基やポリシロキサンオリゴマー鎖基のようなオリゴマー鎖基を有するフォトクロミック化合物(以下、高分子フォトクロミック化合物)が開示されている。これらの高分子フォトクロミック化合物は、マトリクス依存性が低く、固体マトリクス中でおいても、優れた光応答性を示すことが報告されている(特許文献1、2参照)。
【0007】
上記の高分子フォトクロミック化合物は、近年注目されている技術ではあるが、高分子フォトクロミック化合物を含有する硬化体は、白濁することも知られている。そして、その解決方法として、(チオ)ウレタン系レンズの場合、イソシアネート化合物と2官能アルコールとの官能基当量比を制御することで、フォトクロミック特性を発現でき、それに加え、レンズの白濁が抑制できることが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2004/041961号
【文献】国際公開第2000/015630号
【文献】国際公開第2017/047745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の通り、高分子フォトクロミック化合物は、各マトリクス中で高いフォトクロミック特性を発現する。しかしながら、その一方で、硬化中に高分子フォトクロミック化合物が凝集することが原因と考えられるが、得られるフォトクロミック硬化体が白濁してしまうことが知られている。
【0010】
一方、オリゴマー鎖基を有さない低分子フォトクロミック化合物は、固体マトリクス中で凝集することなく、透明なフォトクロミック硬化体が得られる。しかしながら、マトリクス依存性が高く、固体マトリクス中では退色速度等が問題になることがあった。
【0011】
また、高分子、および低分子フォトクロミック化合物共に、フォトクロミック硬化体の製造上の観点化から、光学物品の基材となるモノマー組成物に速やかに溶解することが好ましい。
【0012】
以上の通り、近年、マトリクスに依存せずにフォトクロミック特性が発現でき、光学物品の基材となるモノマー組成物への溶解性に優れ、光学基材成形過程(硬化中)で、凝集せずに安定に分散して存在するフォトクロミック化合物の開発が望まれていた。
【0013】
したがって、本発明の目的は、前記効果を有するフォトクロミック化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。そして、固体マトリクス中で優れたフォトクロミック特性を発揮する高分子フォトクロミック化合物において、マトリクス中で高度に分散ができるように、様々な置換基の導入を検討した。その結果、炭素数10~30のアルケニル基を有する高分子フォトクロミック化合物が上記課題の解決に有用であることを見出した。すなわち、高分子フォトクロミック化合物に対し、炭素数10~30のアルケニル基を導入することにより、固体マトリクス中でのフォトクロミック特性を維持すると同時に、モノマー組成物に対して優れた溶解性を示し、硬化中の凝集も抑えられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、第一の本発明は、
インデノナフトピラン部位を有し、
該インデノナフトピラン部位には、
炭素数10~30のアルケニル基と、
ポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基、ポリエステルオリゴマー鎖基、ポリシロキサン鎖基、およびポリエステルポリエーテルオリゴマー鎖基から選ばれる、繰り返し単位を3つ以上有するオリゴマー鎖基Aとを
有するフォトクロミック化合物である。
【0016】
第二の本発明は、第一の本発明のフォトクロミック化合物と重合性化合物とを含んでなるフォトクロミック硬化性組成物である。
【0017】
第三の本発明は、第二の本発明のフォトクロミック硬化性組成物が重合してなるフォトクロミック光学物品である。
【0018】
第四の本発明は、第一の本発明のフォトクロミック化合物が内部に分散した高分子成型体である。
【0019】
第五の本発明は、第一の本発明のフォトクロミック化合物が分散した高分子膜で被覆された光学物品である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフォトクロミック化合物は、高分子マトリックス中で、優れたフォトクロミック特性を示す。また既存のフォトクロミック化合物を使用した場合、硬化体が白濁する等の問題が生じることがあったが、本発明のフォトクロミック化合物を使用した場合、良好なフォトクロミック特性と機械的特性を有し、且つ透明なフォトクロミック硬化体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のフォトクロミック化合物は、インデノナフトピラン部位を有し、該インデノナフトピラン部位が、炭素数10~30のアルケニル基と、ポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基、ポリエステルオリゴマー鎖基、ポリシロキサン鎖基、及びポリエステルポリエーテルオリゴマー鎖基から選ばれる、繰り返し単位を3つ以上有するオリゴマー鎖基Aとを有することを特徴とするフォトクロミック化合物である。
【0022】
本発明のフォトクロミック化合物において、該インデノナフトピラン部位の数は、少なくとも1つ以上であれば特に制限されるものではない。中でも、本発明のフォトクロミック化合物の生産性、フォトクロミック特性、および溶解性等を考慮すると、該インデノナフトピラン部位の数は、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることがさらに好ましく、1~2であることが最も好ましい。
【0023】
なお、複数のインデノナフトピラン部位を有する場合には、インデノナフトピラン骨格は、同一の構造であっても、異なる構造であってもよい。本発明において、繰り返し単位を3つ以上有するとは、「同じ組成の結合部位が3つ以上存在する」ことを指す。具体的には、繰り返し単位が3つ以上のポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基では、下記式
-(R-O)s-
で示される基であり、式中Rはアルキレン基であり、sは繰り返し単位であり、sが3以上の基である。
【0024】
該オリゴマー鎖基Aにおいて、繰り返し単位が3未満となる場合には、固体マトリクス中で優れたフォトクロミック特性が得られないため、好ましくない。該繰り返し単位の上限は、特に制限されものではなく、目的のフォトクロミック化合物の、フォトクロミック特性に応じて適宜決定すればよい。中でも、本発明のフォトクロミック化合物自体の生産性、フォトクロミック特性等を考慮すると、オリゴマー鎖の繰り返しの数は200未満であることが好ましく、3~170であることがより好ましく、10~150あることがさらに好ましく、15~80であることが最も好ましい。
【0025】
前記オリゴマー鎖基Aの平均分子量が小さい(オリゴマー鎖長が短い)場合、マトリクス依存性低減効果が低下する傾向にある。これはフォトクロミック化合物を包み込んだナノカプセルの形成が困難であったり、ナノカプセルのサイズが小さくなるなど、自由空間の確保が不十分になるためだと推測している。また、平均分子量が大きくなると、単位重量当たりのフォトクロミック化合物の割合が減少し、発色濃度が不十分になる傾向がある。そのため、フォトクロミック化合物の添加量を多くする必要が生じる。該オリゴマー鎖基の平均分子量は、特に制限されるものではないが、上記の事情を勘案すると、平均分子量が、300~30,000であることが好ましく、350~25,000であることがより好ましく、400~20,000であることがさらに好ましく、440~15,000であることが特に好ましい。
【0026】
本発明のフォトクロミック化合物において、該オリゴマー鎖基Aの数は、特に制限されるものではなく、フォトクロミック化合物1分子内に少なくとも1つ存在すればよい。中でも、本発明のフォトクロミック化合物自体の生産性、フォトクロミック特性等を考慮すると、フォトクロミック化合物1分子内に該オリゴマー鎖基Aの数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、インデノナフトピラン部位1つに対して、該オリゴマー鎖基Aの数は、0.25~6であることが好ましく、0.25~3であることがより好ましく、0.5~2であることがさらに好ましい。中でも、本発明のフォトクロミック化合物の生産性、フォトクロミック特性を考慮すると、0.5~1であることが好ましい。インデノナフトピラン部位1つに対して、該オリゴマー鎖基Aの数が0.5となる場合は、該オリゴマー鎖基Aの両末端に、インデノナフトピラン部位が存在する場合である。なお、該オリゴマー鎖基Aが複数存在する場合には、該オリゴマー鎖基Aは、同一の基であっても、異なる基であってもよい。ただし、本発明のフォトクロミック化合物の生産性を考慮すると、同一の基であることが好ましい。そして、フォトクロミック特性を考慮すると、ポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基、ポリシロキサンオリゴマー鎖基であることが最も好ましい。
【0027】
また、本発明のフォトクロミック化合物の生産性、フォトクロミック特性を考慮すると、前記オリゴマー鎖基Aはインデノナフトピラン部位の3位、6位、7位、11位、又は13位に置換していることが好ましい。
【0028】
本発明において、炭素数10~30のアルケニル基、又は炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基の数は、特に制限されるものではなく、フォトクロミック化合物中に、すくなくとも一つ存在すればよく、オリゴマー鎖基の種類や分子量、及び、置換している数により適宜変更することができる。中でも、本発明のフォトクロミック化合物自体の生産性、フォトクロミック特性、およびそれを用いて製造されるフォトクロミック硬化体の白濁を抑制すること等を考慮すると、炭素数10~30のアルケニル基、又は炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基の数は、オリゴマー鎖基1つに対し、1~12であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることがさらに好ましく、1~2であることが最も好ましい。
【0029】
本発明においては、炭素数10~30のアルケニル基、又は炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基の中でも、特に優れた効果を発揮するものは、アルケニル基の部分の炭素数が15~25であることが好ましく、15~20であることがより好ましい。中でも、フォトクロミック化合物の生産性を考慮すると、炭素数が18であるオレイル基であるか、又は炭素数が18であるオレイル基を末端に有する基であることが好ましい。
【0030】
また、前記炭素数10~30のアルケニル基又は炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基は、末端には、オリゴマー鎖基A上に存在していてもよい。また、インデノナフトピラン部位において、オリゴマー鎖基Aとは異なる位置に存在していてもよい。又は、その両方であってもよい。オリゴマー鎖基A上に存在する場合には、該オリゴマー鎖基Aの末端に炭素数10~30のアルケニル基が導入されていることが好ましい。中でも、フォトクロミック特性、本発明のフォトクロミック化合物自体の生産性を考慮すると、オリゴマー鎖基とは異なる位置に存在している方が好ましい。前記炭素数10~30のアルケニル基が存在する位置としては、特に限定されるものではないが、本発明のフォトクロミック化合物自体の生産性を考慮すると、インデノナフトピラン部位の3位、6位、7位、11位、又は13位に置換していることが好ましい。
【0031】
<好適なフォトクロミック化合物>
本発明のフォトクロミック化合物は、該インデノナフトピラン部位が、下記式(1)
【0032】
【0033】
で示される構造となることが好ましい。以下、上記部位を有するフォトクロミック化合物を単に「クロメン化合物」とする場合もある。
【0034】
<a、bについて>
前記式(1)において、aはR1の個数を示す。bはR2の個数を示す。そして、
aは0~4の整数であり、bは0~4の整数であり、
aが2~4である場合には、複数のR1は互いに同一でも異なってもよく、
bが2~4である場合には、複数のR2は互いに同一でも異なってもよい。
【0035】
<a、bが2以上の場合>
また、aが2~4であって、隣接するR1が存在する場合には、隣接する2つのR1が一緒になってそれらR1と結合する炭素原子と共に、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、又は窒素原子を含んでもよい環を形成してもよく、さらに該環は置換基を有してもよい。なお、該環は、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、又は窒素原子の2つ以上の原子を同時に有することもできる。隣接するR1の組み合わせとしては、該クロメン化合物の5位と6位、または6位と7位、7位と8位である。
【0036】
また、bが2~4であって、隣接するR2が存在する場合には、隣接する2つのR2が一緒になってそれらR2と結合する炭素原子と共に、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、又は窒素原子を含んでもよい環を形成してもよく、さらに該環は置換基を有してもよい。なお、該環は、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、又は窒素原子の2つ以上の原子を同時に有することもできる。隣接するR2の組み合わせとしては、該クロメン化合物の9位と10位、または10位と11位、11位と12位である。
【0037】
また、前記オリゴマー鎖基Aは前記式(1)で示されるインデノナフトピラン部位に少なくとも1つ結合している必要がある。つまり、R1、R2、R3、R4、R5、R6の少なくとも1つが前記オリゴマー鎖基A(又は前記オリゴマー鎖基有する基A)となればよい。
【0038】
以下、特定の置換基について順を追って説明する。なお、前記式(1)で示されるインデノナフトピラン部位の好適な数、種類等、および前記オリゴマー鎖基Aの好適な数、種類等は、前記で説明したものと同じである。
【0039】
<R1、およびR2>
<R1、およびR2>は、それぞれ独立に、前記繰り返し単位を3つ以上有するオリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアラルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいヘテロアリール基、チオール基、アルコキシアルキルチオ基、ハロアルキルチオ基、又は置換基を有してもよいシクロアルキルチオ基であることが好ましい。
【0040】
R1、およびR2がなり得る前記アルキル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましい。炭素数1~6の好適なアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
【0041】
前記ハロアルキル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数1~6のハロアルキル基であることが好ましい。炭素数1~6のハロアルキル基としては、フッ素原子、塩素原子もしくは臭素原子で置換されたアルキル基が好ましい。好適なハロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、クロロメチル基、2-クロロエチル基、ブロモメチル基等を挙げることができる。
【0042】
前記シクロアルキル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数3~8シクロアルキル基(環を形成する炭素原子の数が3~8であるシクロアルキル基)であることが好ましい。炭素数3~8のシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。なお、前記シクロアルキル基は、置換基を有してもよいが、前記炭素数の数(炭素数3~8)には、置換基の炭素数は含まれないものとする。
【0043】
前記アルコキシ基としては、特に制限されるものではないが、炭素数1~6のアルコキシ基であることが好ましい。 前記炭素数1~6の好適なアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基等を挙げることができる。
【0044】
前記アミノ基は、一級アミノ基(-NH2)であり、前記置換アミノ基は、1つまたは2つの水素原子が置換された2級または3級アミノ基である。置換アミノ基が有する置換基としては、特に制限されるものではないが、前記オリゴマー鎖基、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数3~7のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数4~14のヘテロアリール基等が挙げられる。好適なアミノ基の例としては、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等を挙げることできる。
【0045】
前記置換基を有してもよい複素環基としては、原子数が3~10である複素環基が好ましい。具体的には、例えば、モルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジノ基、N-メチルピペラジノ基のような脂肪族複素環基、又はインドリニル基のような芳香族複素環基等を挙げることができる。さらに、該複素環基は、当然置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。置換基を有する好適な複素環基としては、例えば2,6-ジメチルモルホリノ基、2,6-ジメチルピペリジノ基および2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ基等が挙げられる
前記ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0046】
前記アルキルチオ基としては、特に制限されるものではないが、炭素数1~6のアルキルチオ基が好ましい。炭素数1~6のアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、s-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基等を挙げることができる。
【0047】
前記置換基を有してもよいアリールチオ基としては、特に制限されるものではないが、炭素数6~10のアリールチオ基が好ましい。炭素数6~10のアリールチオ基としては、フェニルチオ基、1-ナフチルチオ基、2-ナフチルチオ基等を挙げることができる。さらに、該アリールチオキ基は、当然置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、又は炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基が挙げられる。
【0048】
前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基としては、オキシアルケニル基、モノアルキレングリコールオキシアルケニル基、ジアルキレングリコールオキシアルケニル基であることが好ましい(これら3つの基において、末端のアルケニル基は炭素数が10~30である。以下、これら3つの基を単に「末端アルケニル基」とする場合もある)。また、前記アルキレングリコール部分は、エチレングリコール、又はプロピレングリコールであることが好ましい。また、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基としては、前記オリゴマー鎖基Aの末端が前記「末端アルケニル基」となるものであってもよい。なお、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基の中で、好ましい基を一般式で表すと、例えば「-O-(R16O)n-R17」なる式で表すことができる。R16は炭素数1~10のアルキレン基、好ましくは炭素数2~3のアルキレン基である。R17は、炭素数10~30のアルケニル基である。nは0~2の整数である。
【0049】
前記アルキルカルボニル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数2~7のアルキルカルボニル基が好ましい。炭素数2~7のアルキルカルボニル基としては、アセチル基、エチルカルボニル基が挙げられる。
【0050】
前記アルコキシカルボニル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基が好ましい。炭素数2~7のアルコキシカルボニル基としてはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0051】
前記置換基を有してもよいアラルキル基としては、特に制限されるものではないが、炭素数7~11のアラルキル基であることが好ましい。炭素数7~11のアラルキル基としてはベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルメチル基等を挙げることができる。さらに、該アラルキル基は、当然置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0052】
前記置換基を有してもよいアラルコキシ基としては、特に制限されるものではないが、炭素数7~11のアラルコキシ基が好ましい。前記炭素数7~11のアラルコキシ基としては、ベンジロキシ基、ナフチルメトキシ基等を挙げることができる。さらに、該アラルコキシ基は、当然置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0053】
前記置換基を有してもよいアリールオキシ基としては、特に制限されるものではないが、炭素数6~12のアリールオキシ基であることが好ましい。炭素数6~12のアリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等を挙げることができる。さらに、該アリールオキシ基は、当然置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0054】
前記置換基を有してもよいアリール基としては、特に制限されるものではないが、炭素数6~12のアリール基が好ましい。炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等を挙げることができる。さらに、該アリール基は、当然置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0055】
前記置換基を有してもよいヘテロアリール基としては、特に制限されるものではないが、炭素数3~12のヘテロアリール基が好ましい。炭素数3~12のヘテロアリール基は、チエニル基、フリル基、ピロリニル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾピロリニル基等を挙げることができる。さらに、該ヘテロアリール基は、当然置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0056】
前記アルコキシアルキルチオ基としては、特に制限されるものではないが、炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基が好ましい。炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基としては、メトキシメチルチオ基、メトキシエチルチオ基、メトキシn-プロピルチオ基、メトキシn-ブチルチオ基、エトキシエチルチオ基、n-プロポキシプロピルチオ基等を挙げることができる。
【0057】
前記ハロアルキルチオ基としては、特に制限されるものではないが、炭素数1~6のハロアルキルチオ基が好ましい。炭素数1~6のハロアルキルチオ基としては、トリフルオロメチルチオ基、テトラフルオロエチルチオ基、クロロメチルチオ基、2-クロロエチルチオ基、ブロモメチルチオ基等を挙げることができる。
【0058】
前記シクロアルキルチオ基としては、特に制限されるものではないが、炭素数3~8のシクロアルキルチオ基が好ましい。炭素数3~8のシクロアルキルチオ基としては、シクロプロピルチオ基、シクロブチルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等を挙げることができる。なお、なお、前記シクロアルキルチオ基は、置換基を有してもよいが、前記炭素数の数(炭素数3~8)には、置換基の炭素数は含まれないものとする。
【0059】
なお、前記シクロアルキル基、前記アリールチオ基、前記アラルキル基、前記アラルコキシ基、前記アリールオキシ基、前記アリール基、前記ヘテロアリール基、および前記シクロアルキルチオ基は、非置換であってもよい。ただし、置換基を有する場合、環を形成する基における1~8個の水素原子、特に好ましくは1~4個の水素原子が、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、原子数3~8の複素環基、シアノ基、ニトロ基、およびハロゲン原子から選ばれる置換基で置換されることが好ましい。これら置換基の具体例は、前記で説明したのと同じ基が挙げられる。
【0060】
なお、前記アラルキル基、前記アラルコキシ基、前記アリールオキシ基、前記アリール基、および前記ヘテロアリール基で記載した炭素数は、置換基の炭素数を含むものではない。
【0061】
a、bが2以上の場合、R1、およびR2は、それぞれ独立に、互いに隣接する2つが一緒になって、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、又は窒素原子を含んでもよい環基を形成できる。この環基は、特に制限されるものではないが、R1、およびR2が結合する炭素原子を含めて、原子数が5~7である環となることが好ましい。そして、該環は、置換基を有することもできるが、該置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、原子数3~8の複素環基、シアノ基、ニトロ基、およびハロゲン原子から選ばれる置換基が挙げられる。これら置換基の具体例は、前記で説明したのと同じ基が挙げられる。その中でも、後述する式(3)で示される環となることが好ましい。
【0062】
<特に好適なR1、およびR2>
以上のような基の中でも、得られたフォトクロミック化合物の発色色調、発色濃度、得られる硬化体の白濁の有無等を考慮すると、R1、およびR2は、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記置換基を有してもよい複素環基、前記置換基を有してもよいアリール基、前記置換基を有してもよいアリールチオ基が好ましい。隣接するR1同士、又は隣接するR2同士が結合して環を形成する基となることも好ましい。また、前記置換基を有してもよい基の置換基は、前記オリゴマー鎖基Aであっても、前記炭素数10~30のアルケニル基であってもよい。
【0063】
<R3、およびR4>
R3、およびR4は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいヘテロアリール基である。
【0064】
該置換基は、それぞれ独立に、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキルチオ基、置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基、ニトロ基、および炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基から選ばれる置換基が挙げられる。これら具体的な置換基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられる。中でも、前記オリゴマー鎖基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であることが好ましい。
【0065】
前記アリール基、前記ヘテロアリール基の置換基としては、中でも、優れたフォトクロミック特性を発揮するという観点から、前記オリゴマー鎖基、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記アミノ基、前記置換アミノ基、前記複素環基、前記ハロゲン原子、前記アリールチオ基および炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基から選ばれる基であることが好ましい。これら具体的な置換基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられる。
【0066】
<R5、およびR6>
R5、およびR6はそれぞれ独立に、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、前記オリゴマー鎖基A、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアラルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基である。これら置換基は、<R1、およびR2>で既に説明した基と同様の基が挙げられる。
【0067】
またR5、およびR6は2つが一緒になって、それらが結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成してもよく、ただし、これら環は置換基を有してもよい。もしくはそれらが結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族炭化水素環、前記脂肪族炭化水素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環基を形成することができる。なお、当然のことであるが、前記環基において示した炭素数、又は原子数は、環を構成する炭素、又は原子の数を示すものであり、置換基の炭素数、又は原子数を含むものではない。
【0068】
前記脂肪族環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環、シクロヘプタン環、ノルボルナン環、ビシクロノナン環、アダマンタン環、およびスピロジシクロヘキサン環が挙げられる。
【0069】
また、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環としては、例えばフェナントレン環が挙げられる。前記複素環としては、例えばチオフェン環、フラン環、ピリジン環が挙げられる。また、前記複素環に、芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環としては、例えば、フェニルフラン環、ビフェニルチオフェン環が挙げられる。
【0070】
前記脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、前記複素環、又は前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環は、置換基を有してもよい。該環(縮合多環)に置換する置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、およびハロゲン原子から選ばれる置換基が挙げられる。なお、これら置換基は、<R1、およびR2>で既に説明した基と同様の基が挙げられる。
【0071】
該環らの置換基の中でも、本発明のクロメン化合物が特に優れた効果を発揮するものとしては、炭素数1~6のアルキル基、シクロアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基が特に好ましい。これら具体的な置換基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられる。
【0072】
<特に好適なR5およびR6>
R5、およびR6はそれぞれ独立に、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアラルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基である。これら具体的な置換基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられる。
【0073】
また、R5、およびR6は2つが一緒になって、それらが結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族環若しくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成してもよく、ただし、これら環は置換基を有してもよい。もしくはそれらが結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に、環員炭素数が3~20である脂肪族炭化水素環、前記脂肪族炭化水素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環員原子数が3~20である複素環、又は前記複素環に芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環基を形成してもよい。
【0074】
本発明において、R5およびR6の好適な置換基としては、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、R5およびR6が結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に環を形成している場合が挙げられる。これら具体的な置換基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられる。
【0075】
これらの中でも、優れたフォトクロミック特性を発揮でき、フォトクロミック化合物の耐久性が高いといった観点から、それらが結合するインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子と共に環を形成していることが好ましい。中でも、特に退色速度が速くなるという観点から、前記脂肪族環または前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成していることがさらに好ましく、とりわけ特にサーモクロミズムによる初期着色を低減する観点から、前記脂肪族環を形成していることが特に好ましい。
【0076】
R5およびR6が形成する脂肪族環基として好適なものは、環を構成する炭素数が6~16よりなる無置換の脂肪族炭化水素環基またはアルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アラルキル基、アリール基およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有している脂肪族炭化水素環基である。これら具体的な置換基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられる。
【0077】
また、脂肪族炭化水素環基のうち、特に好適なものとして、脂肪族炭化水素環に炭素数1~6のアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基)が置換した環基、又は該脂肪族炭化水素環に炭素数3~8のシクロアルキル基が結合、または縮環した環基であることが好ましい。
【0078】
これらの中でも、優れた退色速度および、高い発色濃度が得られるという観点から脂肪族炭化水素環基としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環、シクロノナン環、シクロデカン環、シクロウンデカン環、シクロドデカン環、およびスピロジシクロヘキサン環から選ばれる環(特に好ましくはシクロヘキサン環)であって、
該環は、炭素数1~3のアルキル基もしくは炭素数5~7のシクロアルキル基を1~10個置換基として有してもよい、または、
該環は、炭素数5~7のシクロアルキル基が縮環してもよい環となることが好ましい。
【0079】
特に好適な脂肪族炭化水素環基を具体的に例示すると、下記式
【0080】
【0081】
で示される環となることが好ましい。なお、前記式中、点線の結合手を有する炭素原子がインデノナフトピラン部位の13位の炭素原子である。
【0082】
以上、クロメン化合物に置換するそれぞれの位置の置換基について説明したが、前記の通り、前記置換基を有してもよい基の置換基は、分子内に少なくとも1つの前記オリゴマー鎖基Aを有するために、前記オリゴマー鎖基Aであってもよい。また、前記置換基を有してもよい基の置換基は、一分子中に含まれる前記オリゴマー鎖基A1個あたり、前記炭素数10~30のアルケニル基が1~12個となるように、前記炭素数10~30のアルケニル基であってもよい。なお、この炭素数10~30のアルケニル基の数は、置換基の末端が炭素数10~30のアルケニル基になっているものを数に含む。
次に、好適なオリゴマー鎖基Aについて説明する。
【0083】
<オリゴマー鎖基A>
本発明のクロメン化合物は、前記式(1)で示されるインデノナフトピラン部位が少なくとも前記オリゴマー鎖基Aを有するものであればよく、R1、R2、R3、R4、R5、R6の少なくとも1つが該オリゴマー鎖基A(又はオリゴマー鎖基を有する基)となることができる。
【0084】
前記オリゴマー鎖基Aは、繰り返し単位を3つ以上有するものであれば、特に制限されるものではない。中でも、繰り返し単位を3つ以上有するポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖、ポリシロキサンオリゴマー鎖を有する基であることが好ましい。オリゴマー鎖基Aの繰り返し単位の数は、前記の通り、3~200であることが好ましく、さらには3~170であることが好ましく、15~80であることが最も好ましい。さらに、該オリゴマー鎖基Aの平均分子量は、300~30,000であることが好ましく、350~25,000であることより好ましく、400~20,000であることがさらに好ましく、440~15,000であることが特に好ましい。
【0085】
本発明においては、中でも、インデノナフトピラン部位 1モルに対する、オリゴマー鎖基の平均分子量が非常に重要となる。すなわち、特に硬いマトリックス中(樹脂中)において、優れた効果を発揮するためには、インデノナフトピラン部位 1モルに対して、オリゴマー鎖基の平均分子量が350~10000となることが好ましく、440~5000となることがさらに好ましい。オリゴマー鎖基(A)の平均分子量は、フォトクロミック化合物を合成する際に用いる原料の種類により調整することができる。なおここでいう平均分子量は、数平均分子量を意味する。なお、該数平均分子量は、本発明のフォトクロミック化合物を合成する際の原料化合物から確認できる。また、フォトクロミック化合物合成後には、1H-NMRによる測定により、該数平均分子量を求めることもできる。
【0086】
以上のようなオリゴマー鎖基Aの中でも、優れたフォトクロミック特性、マトリックスへの依存性を小さくするためには、下記で詳述する式(5a)~(5d)で示される基とすることが好ましい。分子内に、これら基を必ず1つ有し、かつ炭素数10~30のアルケニル基を有するクロメン化合物が特に優れた効果を発揮する。
【0087】
<好適なオリゴマー鎖基A>
本発明において、用いられるオリゴマー鎖基Aは、繰り返し単位を3つ以上有し、ポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基、ポリエステルオリゴマー鎖基、ポリシロキサン鎖基、およびポリエステルポリエーテルオリゴマー鎖基から選ばれるオリゴマー鎖基であれば特に制限されるものではないが、特に好ましいオリゴマー鎖基Aとしては、下記式(5a)~(5d)
【0088】
【0089】
が挙げられる。
【0090】
前記式(5a)~(5c)においてR10は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、同一分子内に複数のR10を含む場合は、R10は、互いに同一であっても異なっていてもよい。製造上の観点から、R10は、エチレン基、プロピレン基、又はブチレン基が好ましく、プロピレン基が特に好ましい。nは、前記オリゴマー鎖基の繰り返し単位を指すものであり、3~200の整数である。高分子フォトクロミック化合物の生産性、フォトクロミック特性等を考慮すると、nは3~170とすることが好ましく、特に15~80とすることが好ましい。
【0091】
前記式(5a)~(5d)において、破線部は、前記インデノナフトピラン部位との結合を表し、tは、該オリゴマー鎖基Aの数を指すものであり、1~10の整数である。
【0092】
tが1の場合には、R11は、炭素数10~30のアルケニル基、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であり、
tが2の場合には、R11は、結合手、又は2価の有機残基であり、
tが3~10の場合には、R11は、tの数と同じ価数の有機残基である。
【0093】
なお、ここで説明する、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基とは、当然のことながら、前記「末端アルケニル基」であると同じものであることが好ましい。
【0094】
前記式(5d)において、R12は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、または炭素数6~14のアリール基であり、同一分子内に複数のR12を含む場合は、R12は、互いに同一であっても異なっていてもよい。製造上の観点から、好ましいR12としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はフェニル基が挙げられる。
【0095】
前記式(5a)~(5d)において、Lは、2価の結合基であり、下記式(6)
【0096】
【0097】
で示される基である。
【0098】
前記式(6)において、R13は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキレン基、環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリーレン基、又は環を形成する原子の数が3~12である置換基を有してもよい複素環基である。
【0099】
R14は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキレン基、又は環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリーレン基である。
【0100】
R15は、2価の基であり、炭素数が1~20の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキレン基、環を形成する炭素数が3~12の置換基を有してもよいシクロアルキレン基、又は環を形成する炭素数が6~12の置換基を有してもよいアリーレン基である。X1、およびX2は、2価の基であり、それぞれ独立に、直結、酸素原子、硫黄原子、アミノ基、置換アミノ基、(チオ)アミド基、又は(チオ)エステル基である。
【0101】
前記置換基を有してもよい基の置換基は、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であってもよい。
【0102】
dは0~50の整数であり、eは0~50の整数であり、fは0~50の整数である。
【0103】
dが2以上の場合、複数あるR13は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
eが2以上の場合、複数あるeの単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
fが2以上の場合、複数あるfの単位の2価の基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0104】
また、複数あるLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0105】
Lのうち、特に好ましいものを例示すると、下記式
【0106】
【0107】
で示される2価の基が挙げられる。
【0108】
前記式(5a)~(5d)で示されるオリゴマー鎖基において、tは、オリゴマー鎖基の数と一致する。tが1である場合、すなわち、該オリゴマー鎖基が1つである場合、R11の炭素数1~20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基が好ましい。また、tが1である場合には、該オリゴマー鎖の末端が炭素数10~30のアルケニル基、または前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基になることが好ましい。
【0109】
tが2である場合、R11は、結合手であってもよい。すなわち、R11が結合手になる場合には、実質オリゴマー鎖が2倍の長さとなり、その両末端にインデノナフトピラン部位を有することとなる。
【0110】
tが3~10である場合、R11は、tの数に価数の応じた有機残基となるが、このとき、tは3~6であることが好ましい。好ましい有機残基(R11)を例示すると、下記式
【0111】
【0112】
で示される何れかの多価の有機残基が挙げられる。該多価の有機残基において、破線部はLとの結合を示すものである。
以上が好適なオリゴマー鎖基Aである。
【0113】
<好適なオリゴマー鎖基Aの置換位置>
本発明の高分子フォトクロミック化合物は、分子内に少なくとも1つの前記オリゴマー鎖基Aを有さなければならない。そのため、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6で説明した基において、置換基を有してもよい基が有する置換基は、前記オリゴマー鎖基Aであってもよい。中でも、前記オリゴマー鎖基Aは、インデノナフトピラン部位の3位(R3、およびR4)、6位(R1)、7位(R1)、11位(R2)、又は13位(R5、およびR6)に置換していることが、本発明の効果、クロメン化合物自体の生産性を向上できるために好ましい。
【0114】
なお、前記オリゴマー鎖基は該位置に直接結合していてもよいし、該位置に結合している基が有する置換基として、オリゴマー鎖基Aが導入されてもよい。
【0115】
<好適な炭素数10~30のアルケニル基の置換位置>
本発明のフォトクロミック化合物は、分子内に少なくとも1つの前記炭素数10~30のアルケニル基を有さなければならない。前記炭素数10~30のアルケニル基はオリゴマー鎖基Aに直接置換していてもよいし(オリゴマー鎖基の末端が炭素数10~30のアルケニル基となる)、オリゴマー鎖基Aとは異なるインデノナフトピラン部位の置換位置に置換してもよいし、その両方であってもよい。中でも、本発明の効果、クロメン化合物自体の生産性を考慮すると、インデノナフトピランの3位(R3、およびR4)、6位(R1)、7位(R1)、11位(R2)、又は13位(R5、およびR6)に置換していることが好ましい。
【0116】
なお、前記炭素数10~30のアルケニル基は該位置に直接結合していてもよいし、該位置に結合している基が有する置換基として、炭素数10~30のアルケニル基が導入されてもよい。また、前記置換基を有してもよい基の置換基は、一分子中に含まれる前記オリゴマー鎖基A1個あたり、前記炭素数10~30のアルケニル基が1~12個となるように、前記炭素数10~30のアルケニル基または炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であってもよい。
【0117】
<特に好適なクロメン化合物>
本発明において、好適なクロメン化合物としては、下記式(2)で示されるクロメン化合物が挙げられる。ただし、このクロメン化合物も、分子内に少なくとも1つの前記オリゴマー鎖基A及び前記炭素数10~30のアルケニル基を有するものでなくてはならない。
【0118】
【0119】
式中、
R1、R2、R5、およびR6は前記式(1)におけるものと同義である。
【0120】
a’’は0~2の整数であり、a’’が2の場合は、複数のR1は互いに同一でも異なっていてもよく、b’’は0~3の整数であり、b’’が2または3の場合は、複数のR2は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0121】
<R100、およびR101>
R100、およびR101は、前記<R1、およびR2>で説明した基の中でも、以下の基であることが好ましい。具体的には、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキルチオ基、置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルカルボニル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数3~12のヘテロアリール基、チオール基、炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1~6のハロアルキルチオ基、又は炭素数3~8のシクロアルキルチオ基である。これら具体的な基は、前記<R1、およびR2>で説明した基と同じ基が挙げられる。
【0122】
また、R100、およびR101は、一緒になって下記式(3)
【0123】
【0124】
で示されるような環を形成してもよく、式中、cは1~3の整数である。なお、式中、*は、インデノナフトピラン部位の6位又は7位の炭素原子を指す。
【0125】
<X、およびY>
式中、X、およびYは、一方または両方が硫黄原子、メチレン基、酸素原子、または下記式(4)
【0126】
【0127】
で示される基である。前記式において、R9は、前記オリゴマー鎖基、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6アルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数3~12のヘテロアリール基である。これら具体的な基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられ、好ましい基も同じである。
【0128】
<R7、およびR8>
R7およびR8は、それぞれ独立に、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルカルボニル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1~6のハロアルキルチオ基、炭素数3~8のシクロアルキルチオ基、又は置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基であることが好ましい。これら具体的な基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられ、好ましい基も同じである。
【0129】
また、R7およびR8は、それらが結合する炭素原子と共に、置換基を有してもよい脂肪族環を形成してもよい。脂肪族環を具体的に例示すると、シクロペンタン環、シクロヘキサン環などが挙げられる。また、該脂肪族環が有する置換基は、特に制限されるものではないが、環を形成する基における1~8個の水素原子、特に好ましくは1~4個の水素原子が、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、原子数3~8の複素環基、シアノ基、ニトロ基、およびハロゲン原子から選ばれる置換基により置換されることが好ましい。これら置換基の具体例は、前記<R1、およびR2>で説明したのと同じ基が挙げられる。
【0130】
<特に好適なR100、およびR101>
以上のような基の中でも、得られたフォトクロミック化合物の発色色調、発色濃度等を考慮すると、R100、およびR101は、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記複素環基、前記アリール基、前記アリールチオ基が好ましい。これら具体的な置換基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられる。また、前記式(3)で示される環となってもよい。なお、前記置換基を有してもよい基の置換基は、オリゴマー鎖基Aであっても、炭素数10~30のアルケニル基であってもよい。
【0131】
<R200>
R200は、前記<R1、およびR2>で説明した基の中でも、以下の基であることが好ましい。具体的には、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルカルボニル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~11のアラルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、炭素数2~9のアルコキシアルキルチオ基、炭素数1~6のハロアルキルチオ基、炭素数3~8のシクロアルキルチオ基、又は置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基である。これら基の具体例は、前記<R1、およびR2>で説明したのと同じ基が挙げられる。好ましい基も同じである。
【0132】
<特に好適なR200>
以上のような基の中でも、得られたフォトクロミック化合物の発色色調、発色濃度等を考慮すると、R200は、前記オリゴマー鎖基A、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、水素原子、前記アルコキシ基、前記複素環基、前記アリール基が好ましい。これら具体的な基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられ、好ましい基も同じである。前記置換基を有してもよい基の置換基は、前記オリゴマー鎖基Aであっても、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であってもよい。
【0133】
<R300および、R400>
R300、およびR400は、それぞれ独立に、前記オリゴマー鎖基、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基、ヒドロキシル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、置換基を有してもよい複素環基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキルチオ基、又は置換基を有してもよい炭素数6~10のアリールチオ基であることが好ましい。これら具体的な基は、前記<R1、およびR2>で例示した具体的な基が挙げられ、好ましい基も同じである。
【0134】
a’はR300の個数を示し、0~5の整数であり、a’が2以上である場合には、R300は、互いに同一でも異なる基であってもよい。
【0135】
b’はR400の個数を示し、0~5の整数であり、b’が2以上である場合には、R400は、互いに同一でも異なる基であってもよい。
【0136】
<特に好適なR300および、R400>
以上のような基の中でも、得られたフォトクロミック化合物の発色色調、発色濃度、得られる硬化体の白濁の有無等を考慮すると、R300および、R400は、前記オリゴマー鎖基、前記炭素数10~30のアルケニル基、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記置換アミノ基、前記複素環基が好ましい。前記置換基を有してもよい基の置換基は、前記オリゴマー鎖基Aであっても、前記炭素数10~30のアルケニル基、又は前記炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基であってもよい。
【0137】
<好適なオリゴマー鎖基Aの好適な置換位置>
前記オリゴマー鎖基Aはインデノナフトピランの3位(R300、又はR400)、6位(R100)、7位(R101)、11位(R200)、又は13位(R5、又はR6)にあることが、本発明の効果、クロメン化合物自体の生産性を向上できるため好ましい。また、3位(R300、又はR400)に存在する場合には、R300を有するフェニル基、又はR400を有するフェニル基は、パラ位に前記オリゴマー鎖基Aを有するフェニル基、又は「パラ位に前記末端アルキニル基」を有するフェニル基となることが好ましい。
【0138】
<炭素数10~30のアルケニル基の好適な置換位置>
前記炭素数10~30のアルケニル基はインデノナフトピランの3位(R300、又はR400)、6位(R100)、7位(R101)、11位(R200)、又は13位(R5、又はR6)にあることが、本発明の効果、クロメン化合物自体の生産性を向上できるため好ましい。また、3位(R300、又はR400)に存在する場合には、R300を有するフェニル基、又はR400を有するフェニル基は、パラ位に「前記末端アルケニル基」を有するフェニル基、または前記炭素数10~30のアルケニル基を有するフェニル基となることが好ましい。本発明の効果、クロメン化合物自体の生産性をさらに向上できるといった観点から、前記炭素数10~30のアルケニル基、又は前記末端アルケニル基と、及び前記オリゴマー鎖基Aとは、それぞれ前記インデノナフトピラン部位の異なる置換位置に置換することが特に好ましい。
【0139】
<特に好適なクロメン化合物の具体例>
本発明において特に好適なクロメン化合物を具体的にいくつか例示すると、次のような化合物を上げることができる。
式中、炭素数10~30のアルケニル基の1種であるC18H35はオレイル基を表わす。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
上記式におけるnは3~200であることが好ましく、3~170であることがより好ましく、15~80であることが更に好ましい。上記式におけるmは0~2であることが好ましい。
【0144】
<本発明のフォトクロミック化合物の製造方法>
本発明のフォトクロミック化合物は、如何なる合成法によって製造してもよい。下記にクロメン化合物の製造方法の代表的な例について説明するが、本発明のフォトクロミック化合物は、この方法により製造されたものに限定されるわけではない。尚、以下の説明において、各式中の符号は、特記しないかぎり、前述した式で説明したとおりの意味を示す。
【0145】
クロメン化合物の製造は下記式(7)
【0146】
【0147】
で示されるナフトール化合物と、下記式(8)
【0148】
【0149】
で示されるプロパルギルアルコール化合物を、酸触媒存在下で反応させることでクロメン化合物を好適に製造できる。ナフトール化合物とプロパルギルアルコール化合物との反応比率は、好ましくは1:10~10:1(モル比)の範囲から選択される。また、酸触媒としては、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酸性アルミナ等が用いられる。酸触媒はナフトール化合物とプロパルギルアルコール化合物との総和100重量部当り、好ましくは0.1~10重量部の範囲で用いられる。反応温度は、0~200℃が好ましい。溶媒は、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等が好適に使用される。かかる反応により得られた生成物の精製方法は特に限定されない。例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーや再結晶により、生成物の精製を行うことができる。
【0150】
下記に、ポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基A(例えば、前記式(5a)で示されるオリゴマー鎖基A)を導入したクロメン化合物の製造例を以下に例示する。まず、前記式(7)で示されるナフトール化合物にポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基を置換させる方法を以下に例示する。
【0151】
まず、下記式(9)
【0152】
【0153】
で表されるポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを下記式(10)
【0154】
【0155】
で表される化合物に変換する。前記式(10)において、Yはトシル基やハロゲン原子など脱離性の高い置換基である。
【0156】
トシル基に変換する方法としては、トリエチルアミンのような3級アミンなどの塩基性触媒存在下、p-トルエンスルホニルクロリドと反応させる方法を好適に取りうる。ヨウ素原子や、臭素原子、塩素原子への変換方法としては、アッペル反応等を利用できる。具体的にはトリフェニルホスフィン存在下、四ハロゲン化炭素、ヨウ素、ヨウ化メチル、ヘキサハロゲニルアセトンやトリホスゲンなどと反応させることが好適である。
【0157】
続いて、ヒドロキシル基を有するベンゾフェノン化合物と前記式(10)で示される化合物とを、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒中で、炭酸カリウムなどの塩基存在下反応させることにより、下記式(11)
【0158】
【0159】
で表されるベンゾフェノン化合物を得ることができる。前記式(11)中、Rはポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基である。
【0160】
続いて、前記式(11)のベンゾフェノン化合物を公知の方法を用いて、下記式(12)
【0161】
【0162】
で示されるカルボン酸へと誘導する。前記式(12)中Bnはベンジル基である。
【0163】
公知の方法を具体的に例示すると、Stobbe反応、環化反応、アルカリ又は、酸を用いたエステルの加水分解反応、水酸基、及びカルボン酸のベンジル保護、アルカリ、又は酸を用いたベンジルエステルの加水分解反応である。前記式(12)で示されるカルボン酸を、Curtius転位、Hofmann転位、Lossen転位等の方法によりアミンに誘導する。続いて得られたアミンから公知の方法によりジアゾニウム塩を調製し、このジアゾニウム塩を、Sandmeyer反応等によりブロマイドに変換する。得られたブロマイドをマグネシウムやリチウム等と反応させて有機金属化合物を調製する。この有機金属化合物を、下記式(13)
【0164】
【0165】
で示されるケトンと、-80~70℃、10分~4時間、有機溶媒中で反応させ、アルコール化合物を得る。得られたアルコール化合物をFriedel-Crafts反応に付す。すなわち中性~酸性条件下、10~120℃で10分~2時間反応させ、アルコール部分を求核置換反応によってスピロ化することにより、下記式(14)
【0166】
【0167】
で示されるナフトール化合物を合成することができる。かかる反応において、前記有機金属化合物と前記式(13)で示されるケトンとの反応比率は、好ましくは、1:10~10:1(モル比)の範囲から選択される。反応温度は、-80~70℃が好ましい。溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等が好ましく使用される。また、前記Friedel-Crafts反応は、例えば酢酸、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酸性アルミナ等の酸触媒を用いて行うことが好ましい。この反応に際しては、例えばテトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等の非プロトン性有機溶媒が使用される。
【0168】
前記式(14)で示されるナフトール化合物と、前記式(8)で示されるプロパルギルアルコールとを反応させることにより、ポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基がインデノ位またはナフト位に(R1またはR2)に置換された本発明のフォトクロミック化合物を得ることができる。
【0169】
また、前記式(8)で表されるプロパルギルアルコールにポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基を導入する方法としては、前記式(11)で表されるようなポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基を有するベンゾフェノン化合物から下記式(15)
【0170】
【0171】
で示されるプロパルギルアルコールを合成した後、国際公開第WO2001/60881号、国際公開第WO2005/028465号等の特許に記載の反応方法に基づいて合成した前記式(7)のナフトール化合物と、反応させることにより、ポリアルキレンオキシドオリゴマー鎖基がR3およびR4に置換された本発明のフォトクロミック化合物を得ることができる。
【0172】
また、上述した合成の初期段階オリゴマー鎖を導入した方法(例えばナフトール化合物やベンゾフェノン化合物にオリゴマー鎖を導入する。)以外にも、最終段階でオリゴマー鎖を導入することにより、本発明のフォトクロミック化合物を製造することもできる。具体的には、オリゴマー鎖を導入したい位置に、ヒドロキシル基や、1級または2級アミノ基、チオール基等の反応性官能基有するクロメン化合物を製造する。その後、該官能基と反応可能な置換基(この基は、前記2価の結合基Lを形成する基であることが好ましい。)を有するオリゴマー鎖基を反応させることで、本発明のフォトクロミック化合物を製造できる。
【0173】
例えば、カルボキシル基を有するポリアルキレンオキシドオリゴマーとの、エステル化反応を行うことにより前記Lを形成することができる。具体的には、硫酸、塩酸等の鉱酸、芳香族スルホン酸等の有機酸、あるいはフッ化ホウ素エーテル等のルイス酸存在下にトルエン等の溶媒中、必要に応じて加熱しながら撹拌し、生成する水を除去しつつ反応させることができる。なお、前記エステル化反応において、共沸、無水硫酸マグネシウム、若しくはモレキュラーシーブス等の乾燥剤により水を除去することができる。
【0174】
また、カルボン酸ハライドを有するポリアルキレンオキシドオリゴマーとエステル化反応を行うことにより前記Lを形成することもできる。具体的には、ピリジン、ジメチルアニリン等の塩基の存在下、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒中、必要に応じて加熱しながら撹拌し、生成するハロゲン化水素を除去する方法等を採用することができる。
【0175】
カルボキシル基やカルボン酸ハライドを有するポリアルキレンオキシドオリゴマーは公知の方法により合成すればよい。具体的には、前記式(9)のポリアルキレンオキシドオリゴマーモノアルキルエーテルとコハク酸無水物などの環状酸無水物とを塩基または酸触媒存在下、反応させることにより、カルボキシル基を有するポリアルキレンオキシドオリゴマーモノアルキルエーテルを得ることができる。また、前記式(10)のハロゲン原子を有するポリアルキレンオキシドオリゴマーモノアルキルエーテルをマグネシウムやリチウム等と反応させて有機金属化合物を調製した後、二酸化炭素と反応させることによっても、カルボキシル基を有するポリアルキレンオキシドオリゴマーモノエーテルを得ることができる。得られたカルボキシル基を有するポリアルキレンオキシドオリゴマーモノエーテルを塩化チオニルや、塩化オキサリルと反応させることにより、カルボン酸ハライドを有するポリアルキレンオキシドオリゴマーモノエーテルを得ることができる。
【0176】
以上、ポリアルキレングリコール鎖基をインデノナフトピラン部位に導入して、本発明のフォトクロミック化合物を製造する方法を説明したが、他のオリゴマー鎖基を導入する場合にも、同様の方法を採用できる。具体的には、ポリアルキレンオリゴマー鎖(基)を有する化合物の代わりに、ポリエステルオリゴマー鎖(基)、又はポリエステルポリエーテルオリゴマー鎖(基)を有する化合物を使用して、同様の操作を行えばよい。また、炭素数10~30のアルケニル基(例えば、オレイル基)を有するアルコール化合物を用いることで、炭素数10~30のアルケニル基を末端に有する基(末端アルケニル基)も同様の方法でインデノナフトピラン部位に導入することが可能である。
【0177】
<フォトクロミック化合物の同定>
本発明のフォトクロミック化合物は、一般に常温常圧での固体又は粘稠な液体として存在し、次の手段で確認できる。具体的には、薄層クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどの分離操作により、該高分子フォトクロミック化合物以外に、原料化合物、および着色分などの副生成物が無いことを確認できる。
【0178】
得られたフォトクロミック化合物を、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)で測定することにより、δ:5.0~9.0ppm付近にアロマティックなプロトン、およびアルケンのプロトンに基づくピーク、δ:1.0~4.0ppm付近にアルキル基およびアルキレン基のプロトンに基づくピークを観測できる。また、それぞれのスペクトル強度を相対的に比較することにより、それぞれの結合基のプロトンの個数を知ることができる。なお、フォトクロミック硬化性組成物、および該硬化性組成物からなる硬化体から、該クロメン化合物を抽出して前記と同様の方法で確認することもできる。
【0179】
本発明のフォトクロミック化合物は、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の一般の有機溶媒によく溶ける。このような溶媒に前記式(1)で示される本発明のフォトクロミック化合物を溶かしたとき、一般に溶液はほぼ無色透明であり、太陽光、あるいは紫外線を照射すると速やかに発色し、光を遮断すると速やかに元の無色にもどる良好なフォトクロミック作用を呈する。
【0180】
<本発明のフォトクロミック化合物の使用方法>
本発明のフォトクロミック化合物は、フォトクロミック材(フォトクロミック光学物品)として広範囲に利用でき、例えば、銀塩感光材に代る各種の記憶材料、複写材料、印刷用感光体、陰極線管用記憶材料、レーザー用感光材料、ホログラフィー用感光材料などの種々の記憶材料として利用できる。その他、本発明のフォトクロミック化合物を用いたフォトクロミック材は、フォトクロミックレンズ材料、光学フィルター材料、ディスプレイ材料、光量計、装飾などのフォトクロミック光学物品としても利用できる。該フォトクロミック光学物品は、例えば、後述するように、フォトクロミック化合物と重合性化合物とを含むフォトクロミック硬化性組成物を重合して製造することができるし、また、プラスチックレンズなどの基材の表面を、フォトクロミック化合物が分散した高分子膜で被膜するなどして、光学物品としてもよい。
【0181】
本発明のフォトクロミック化合物は、高分子固体マトリックス中でも優れたフォトクロミック特性を示すため、高分子固体マトリックス中に分散させて使用することができるし、またフォトクロミック化合物が内部に分散した高分子成型体とすることもできる。分散方法としてはそれ自体公知の手法を用いることができる。例えば、本発明のフォトクロミック化合物と熱可塑性樹脂を溶融状態にて混練し、該フォトクロミック化合物を樹脂中に分散させる方法、あるいは重合性化合物に本発明の高分子フォトクロミック化合物を溶解させた後、重合触媒を加え、熱または光にて重合させて該フォトクロミック化合物を樹脂中に分散させる方法、あるいは高分子固体マトリックス表面に、本発明の高分子フォトクロミック化合物を染色することにより、該フォトクロミック化合物を樹脂中に分散させる方法等を挙げることができる。
【0182】
高分子固体マトリックスを例示すると、光学的に好ましくは、例えばポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリ(Cl-Cl2)アルキルメタクリレート類、ポリオキシ(アルキレンメタクリレート)、ポリ(アルコキシル化フェノールメタクリレート)、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ((メタ)アクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ((メタ)アクリル酸)、熱可塑性ポリカーボネート類、ポリエステル類、ポリウレタン類、ポリチオウレタン類、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)を挙げることができる。
【0183】
例えば、フォトクロミックレンズに使用する場合には、均一な調光性能が得られる方法であれば特に制限がなく、例えば本発明のフォトクロミック材を均一に分散してなるポリマーフィルムをレンズ中にサンドウイッチする方法、あるいは、本発明のフォトクロミック化合物を重合性化合物中に分散させ、所定の手法により重合する方法、あるいは、この化合物を例えばシリコーンオイル中に溶解して150~200℃で10~60分かけてレンズ表面に含浸させ、さらにその表面を硬化性物質で被覆し、フォトクロミックレンズにする方法などが挙げられる。さらに、上記ポリマーフィルムをレンズ表面に塗布し、その表面を硬化性物質で被覆し、フォトクロミックレンズにする方法なども用いられる。更に本発明のフォトクロミック化合物を含有する重合硬化性組成物からなるコーティング剤をレンズ基材の表面に塗布し、塗膜を硬化させてもよい。このとき、レンズ基材には予めアルカリ性溶液による表面処理、あるいはプラズマ処理等の表面処理を施してもよく、更に、これら表面処理と併せてまたはこれら表面処理を行なわずに、基材とコート膜との密着性を向上させるためにプライマーを施用することもできる。
【0184】
<フォトクロミック硬化性組成物>
本発明において、重合性化合物に、本発明のフォトクロミック化合物を配合することにより、フォトクロミック硬化性組成物として使用することができる。本発明のフォトクロミック化合物は、単独で用いてもかまわないが、目的に応じて、例えば、フォトクロミックレンズとして要求される様々な色調を得るために、他のフォトクロミック化合物と組み合わせて用いることもできる。組み合わせるフォトクロミック化合物は、公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく用いることができる。例えば、フルギド化合物、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等が挙げられる。中でも、発退色時の色調を均一に保ち、フォトクロミック化合物の劣化に伴う発色時の色ずれを抑制する、さらに、初期着色を抑制する観点からは、クロメン化合物が特に好ましい。また、マトリックス依存性の違いによる発退色時の色調の色ずれを抑制するという観点からは、他のフォトクロミック化合物も、オリゴマー鎖を有するフォトクロミック化合物であることが好ましい。さらに、オリゴマー鎖を有するフォトクロミック化合物を使用する場合、硬化体の白濁を抑制するという観点から、オリゴマー鎖を有するフォトクロミック化合物には、炭素数10~30のアルケニル基を少なくとも1つ有するフォトクロミック化合物であることが好ましい。特に好ましくは、本発明のフォトクロミック化合物を複数種使用し、色調を調整することである。
【0185】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物において、フォトクロミック化合物の配合量は、特に制限されるものではなく、フォトクロミック化合物の発色強度、得られるフォトクロミック硬化体の厚さを勘案し、適宜選択すればよい。具体的には、重合性化合物100質量部に対し、本発明のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック化合物を0.001~10質量部とするのが好ましい。
【0186】
本発明において、フォトクロミック硬化体の発色強度は、硬化体の厚みに依存するため、厚みを勘案することが特に重要である。下記に詳述する。例えば本発明のフォトクロミック硬化性組成物を用いて、100μm以下の薄膜を成形する場合、重合性化合物100質量部に対して、本発明の高分子フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック化合物を0.001~10質量部用いて色調を調整することが好ましい。また厚み1mm以上のフォトクロミック硬化体を作製する場合、重合性化合物100質量部に対して、本発明の高分子フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック化合物を0.001~1質量部用いて、色調を調整することが好ましい。
【0187】
<重合性化合物>
本発明において、重合性化合物は公知の物を制限なく利用することができ、(メタ)アクリレート化合物のようなラジカル重合性化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物のようなカチオン重合性化合物、イソシアネート化合物とアルコール化合物のような重合性化合物が挙げられる。
【0188】
<イソ(チオ)シアネート化合物>
イソ(チオ)シアネート化合物と活性水素を有する化合物を含む組成物を好適に利用できる。なお、イソ(チオ)シアネート化合物とは、イソシアネート基、又はイソチオシアネート基を有する化合物を指し、イソシアネート基、およびイソチオシアネート基の両方を有する化合物であってもよい。
【0189】
イソ(チオ)シアネート化合物は公知の物を特に制限なく利用することができるが、イソ(チオ)シアネート基を、一分子中に少なくとも2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート基を有するポリイソシアネート基を含むことが好ましく、m-キシレンジイソシアネートや4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香環を有するポリイソ(チオ)シアネート化合物や、ノルボルナンジイソシアネートやジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート等の脂肪族ポリイソ(チオ)シアネート化合物を含むことが特に好ましい。
【0190】
<活性水素を有する化合物>
活性水素を有する化合物は特に制限されることなく使用することができるが、水酸基及び/またはチオール基を有する化合物であることが好ましい。特に活性水素を一分子中に2個以上有する多官能化合物を含むことが好ましい。活性水素を有する化合物として、具体的に例示すると、ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)や4-メルカプトメチル-3、6-ジチア-オクタンジチオール等の多官能チオール化合物、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多官能アルコールを挙げることができ、これらを含む組成物とすることが好ましい。
【0191】
<好適な重合性化合物の組み合わせ>
前記イソ(チオ)シアネート化合物、および前記活性水素を有する化合物の中でも、以下の組み合わせとすることにより、得られるフォトクロミック硬化体の白濁がより少なく、かつ、フォトクロミック特性もより発揮できる、フォトクロミック硬化性組成物とすることができる。
【0192】
具体的には、
前記重合性化合物が、
(A)分子中にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物(以下、単に「(A)成分」とする場合もある)と、
(B)活性水素を1分子中に2個以上有する多官能化合物(以下、単に「(B)成分」とする場合もある)と、
(C)活性水素を1分子中に1個有する単官能化合物(以下、単に「(C)成分」とする場合もある)と、を含んでなり、
前記フォトクロミック化合物におけるオリゴマー鎖基A 1モル当たり、前記(C)成分を1~2000モル含む、フォトクロミック硬化性組成物とすることが好ましい。
【0193】
<(A)ポリイソ(チオ)シアネート化合物>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物を構成する(A)ポリイソ(チオ)シアネート化合物は、分子内に2個以上のイソ(チオ)シアネート基を有する化合物である。本発明において、イソ(チオ)シアネート基とは、イソシアネート基、又はイソチオシアネート基を指す。そして、分子中にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するとは、イソシアネート基を分子内に2個以上有するか、イソチオシアネート基を分子内に2個以上有するか、又は、分子内のイソシアネート基とイソチオシアネート基との合計数が2個以上となることを指す。
【0194】
(A)成分において、イソ(チオ)シアネート基の数は、2個以上であれば特に制限されるものではない。中でも、重合を制御し易いう点で、2~6個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましく、2個であることがさらに好ましい。
【0195】
該ポリイソ(チオ)シアネート化合物の内、ポリイソシアネート化合物(分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物)としては、脂肪族イソシアネート化合物、脂環族イソシアネート化合物、芳香族イソシアネート化合物、含硫黄脂肪族イソシアネート化合物、脂肪族スルフィド系イソシアネート化合物、芳香族スルフィド系イソシアネート化合物、脂肪族スルホン系イソシアネート化合物、芳香族スルホン系イソシアネート化合物、スルホン酸エステル系イソシアネート化合物、芳香族スルホン酸アミド系イソシアネート化合物、含硫黄複素環イソシアネート化合物等が挙げられる。
<好適な(A)ポリイソシアネート化合物>
以上のような該(A)ポリイソシアネート化合物の中でも、透明性・機械強度に優れた光学物品を形成するのに好適な化合物、特に、フォトクロミック化合物を含む光学物品を製造するのに適している化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
【0196】
該(A)ポリイソシアネート化合物の好ましい例としては、下記式(I)~(VIII)で示される化合物である。
【0197】
<アルキレン鎖を有するポリイソシアネート化合物>
下記式(I)
【0198】
【0199】
(式中、
R100は、炭素数1~10のアルキレン基であり、前記アルキレン基の鎖中のメチレン基の一部が硫黄原子に置換された基であってもよい。)で示される化合物を使用することが好ましい。
【0200】
R100は、炭素数1~10のアルキレン基であり、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、又はヘプタメチレン基、オクタメチレン基の直鎖状の基、又は、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基の水素原子の一部がメチル基に置換された分岐鎖状の基が好ましい。また、メチレン基の一部が硫黄原子で置換されたアルキレン基は、―CH2CH2SCH2CH2SCH2CH2-基が好ましい。
【0201】
前記式(I)で示される化合物を具体的に例示すると、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,4,4,-トリメチルヘキサンメチレンジイソシアネート、1,2-ビス(2-イソシアナトエチルチオ)エタン等が挙げられる。これら化合物は、単独で使用することもできるし、2種類以上の化合物を使用することもできる。
【0202】
<フェニル基、又はシクロヘキサン基(環)を有するポリイソシアネート化合物>
下記式(II)、下記式(III)
【0203】
【0204】
【0205】
(式中、
R101は、それぞれ、炭素数1~4のアルキル基、又は水素原子であり、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
R102は炭素数1~4のアルキル基であり、複数の基が存在する場合には、同一の基であっても、異なる基であってよく、
a100は整数で2又は3であり、b100は整数で0~4であり、c100は整数で0~4である。)で示される化合物を使用することが好ましい。前記式(II)で示される化合物と前記式(III)で示される化合物の違いは、フェニル基を有する化合物(前記式(II)で示される化合物)とシクロヘキサン基(環)を有する化合物(前記式(III)で示される化合物)である。
【0206】
R101において、炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、 R101は、水素原子、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。R102において、炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、 R102は、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。
【0207】
前記式(II)、又は前記式(III)で示される化合物を具体的に例示すれば、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート(o-,m-,p-)、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート等が挙げられる。これら化合物は、単独で使用することもできるし、2種類以上の化合物を使用することもできる。
【0208】
<2つのフェニル基、又は2つのシクロヘキサン基(環)を有するポリイソシアネート化合物>
下記式(IV)、下記式(V)
【0209】
【0210】
【0211】
(式中、
R103は、それぞれ、炭素数1~4のアルキル基、又は水素原子であり、同一の基であっても、異なる基であってもよく、d100は整数で0~4である。)で示される化合物を使用することが好ましい。前記式(IV)で示される化合物と前記式(V)で示される化合物の違いは、フェニル基を2個有する化合物(前記式(IV)で示される化合物)とシクロヘキサン基(環)を2個有する化合物(前記式(V)で示される化合物)との違いである。
【0212】
R103において、炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、R103は、水素原子、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。
【0213】
前記式(IV)、又は前記式(V)で示される化合物を具体的に例示すれば、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート等が挙げられる。これら化合物は、単独で使用することもできるし、2種類以上の化合物を使用することもできる。
【0214】
<ノルボルナン環を有するポリイソシアネート化合物>
下記式(VI)
【0215】
【0216】
(式中、
R104は、それぞれ、炭素数1~4のアルキル基、又は水素原子であり、同一の基であっても、異なる基であってよく、e100は整数で0~4である。)で示される化合物である。
【0217】
R104において、炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、R104は、水素原子、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。
【0218】
前記式(VI)で示される化合物を具体的に例示すれば、ノルボルナンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアネートメチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアネートメチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタンが挙げられる。これら化合物は、単独で使用することもできるし、2種類以上の化合物を使用することもできる。
【0219】
<チオフェン環または含硫黄複素環を有するポリイソシアネート化合物>
下記式(VII)、下記式(VIII)
【0220】
【0221】
【0222】
(式中、
R105は、それぞれ、炭素数1~4のアルキル基、又は水素原子であり、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
R106は、メチレン基、又は硫黄原子であり、R107は炭素数1~6のアルキレン基、又は前記炭素数1~6のアルキレン基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基であり、f100は整数で0~2である。)で示される化合物を使用することが好ましい。
前記式(VII)、又は前記式(VIII)で示される化合物を具体的に例示すれば、2,5-ビス(イソシアナトメチル)チオフェン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-1,4-ジチアン、3,4-ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、4,5-ビス(イソシアナトメチル)-1,3-ジチオラン等が挙げられる。これら化合物は、単独で使用することもできるし、2種類以上の化合物を使用することもできる。
【0223】
さらに、上記ポリイソシアネートのハロゲン置換体、アルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体や、多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ダイマー化あるいはトリマー化反応生成物なども使用できる。
【0224】
<好適な(A)ポリイソ(チオ)シアネート化合物(分子内に2個以上のイソチオシアネート基を有する化合物)
また、ポリイソチオシアネート化合物としては、前記式(I)~(VIII)で示されるポリイソシアネート化合物において、イソシアネート基がイソチオシアネート基に代わっている化合物が挙げられる。より具体的には、脂肪族イソチオシアネート化合物、脂環族イソチオシアネート化合物、芳香族イソチオシアネート化合物、含複素環イソチオシアネート化合物、含硫黄脂肪族イソチオシアネート化合物、含硫黄芳香族イソチオシアネート化合物、含硫黄複素環イソチオシアネート化合物等が挙げられる。
【0225】
アルキレン鎖を有するポリイソシアネート化合物のとしては、ヘキサメチレンジイソチアシネート、1,2-ジイソチオシアネートエタン、1,3-ジイソチオシアネートプロパン、1,4-ジイソチオシアネートブタン、1,6-ジイソチオシアネートヘキサン、2,4,4,-トリメチルヘキサンメチレンジイソチアシネート、チオビス(3-イソチオシアネートプロパン)、チオビス(2-イソチオシアネートエタン)、ジチオビス(2-イソチオシアネートエタン)などが好適に挙げられる。
【0226】
フェニル基、又はシクロヘキサン基(環)を有するポリイソシアネート化合物としては、p-フェニレンジイソプロピリデンジイソチオシアネート、1,2-ジイソチオシアネートベンゼン、1,3-ジイソチオシアネートベンゼン、1,4-ジイソチオシアネートベンゼン、2,4-ジイソチオシアネートトルエン、イソホロンジイソチオシアネート、キシレンジイソチオシアネート(o-,m-,p-)、2,4-トリレンジイソチオシアネート、2,6-トリレンジイソチオシアネート、シクロヘキサンジイソチオシアネートなどが好適に挙げられる。
【0227】
2つのフェニル基、又は2つのシクロヘキサン基(環)を有するポリイソシアネート化合物としては、1,1’-メチレンビス(4-イソチオシアネートベンゼン)、1,1’-メチレンビス(4-イソチオシアネート2-メチルベンゼン)、1,1’-メチレンビス(4-イソチオシアネート3-メチルベンゼン)などが好適に挙げられる。
【0228】
ノルボルナン環を有するポリイソシアネート化合物としては、2,4-ビス(イソチオシアナトメチル)ノルボルナン、2,5-ビス(イソチオシアナトメチル)ノルボルナン、2,6-ビス(イソチオシアナトメチル)ノルボルナン、3,5-ビス(イソチオシアナトメチル)ノルボルナン、ノルボルナンジイソチアネートなどが好適に挙げられる。
【0229】
チオフェン環または含硫黄複素環を有するポリイソシアネート化合物としては、チオフェン-2,5-ジイソチオシアネート、1,4-ジチアン-2,5-ジイソチオシアネート、2,5-ビス(イソチオシアナトメチル)-1,4-ジチアン、4,5-ビス(イソチオシアナトメチル)-1,3-ジチオランなどが好適に挙げられる。
【0230】
<(A)成分;イソシアネート基、およびイソチオシアネート基を有する、ポリイソシアネート化合物>
本発明において、(A)成分として、イソシアネート基、およびイソチオシアネート基の両方の基を有する化合物としては、以下の化合物が挙げられる。例えば、前記の具体的に例示したポリイソシアネート化合物において、少なくとも1つのイソシアネート基がイソチオシアネート基となっている化合物である。また、前記の具体的に例示したポリイソチオシアネート化合物において、少なくとも1つのイソチオシアネート基がイソシアネート基となっている化合物である。
【0231】
<(A)成分の好ましい例>
上記(A)成分のポリイソ(チオ)シアネート化合物の好ましい例として、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアネートメチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアネートメチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、1,2-ビス(2-イソシアナ-トエチルチオ)エタン、キシレンジイソシアネート(o-,m-,p-)、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、および、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートを挙げることができ、単独で使用することもでき、またそれらの混合物として使用してもよい。
次に、(B)活性水素を1分子中に2個以上有する多官能化合物について説明する。
【0232】
<(B)活性水素を1分子中に2個以上有する多官能化合物>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物を構成する活性水素を1分子中に2個以上有する多官能化合物は、化合物中に水酸基(OH基)、又はチオール基(SH基)を2個以上有する化合物であることが好ましい。水酸基、又はチオール基を有する化合物を使用することにより、重合を制御し易くなる。
【0233】
該多官能化合物の内、水酸基、又はチオール基を2個以上有する化合物を単に「(B)ポリ(チ)オール化合物」とする場合もある。なお、(B)ポリ(チ)オール化合物において、分子内に2個以上の活性水素(活性水素含有基)を有する化合物とは、水酸基を分子内に2個以上有するか、チオール基を分子内に2個以上有するか、又は、分子内の水酸基とチオール基との合計数が2個以上となる化合物を指す。なお、(B)成分において、活性水素(活性水素含有基)の数は、2個以上であれば特に制限されるものではない。中でも、重合を制御し易いう点で、2~6個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましく、2個であることがさらに好ましい。
【0234】
具体的な(B)ポリ(チ)オール化合物は、脂肪族ポリ(チ)オール化合物、芳香族ポリ(チ)オール化合物等が挙げられる。より詳細には、下記の化合物を上げることができる。
【0235】
<(B)成分;ポリ(チ)オール化合物の好適な多官能化合物>
以上のような該(B)ポリ(チ)オール化合物の中でも、透明性・機械強度に優れた光学物品を形成するのに好適な化合物、特に、フォトクロミック化合物を含む光学物品を製造するために適している化合物としては、以下の化合物が挙げられる。具体的には、下記式(IX)~(XI)、(XIII)~(XV)、および(XVII)~(XXII)で示される化合物が挙げられる。
【0236】
((B)成分;アルキレン鎖等を有するポリ(チ)オール化合物)
下記式(IX)
【0237】
【0238】
(式中、
B100は、炭素数2~30のアルキレン基、又はアルケニル基であり、
R108は、それぞれ、水酸基、又はSH基であり、同一の基であっても、異なる基であってもよい。)で示される化合物を使用することが好ましい。
【0239】
B100は、炭素数2~30のアルキレン基、又はアルケニル基であり、直鎖状、又は分岐鎖状の何れであってもよい。好ましくは、炭素数2~15の直鎖状のアルキレン基である。前記式(IX)で示される化合物を具体的に例示すれば、ポリエチレンポリオール(炭素数2~15)、1,10-デカンジチオール、1,8-オクタンジチオールが挙げられる。
【0240】
<(B)成分;2つ以上のエーテル結合、又はエステル結合を有する多官能化合物>
下記式(X)、又は下記式(XI)
【0241】
【0242】
【0243】
{式中、
D100は、炭素数2~15のアルキレン基、又はアルケニル基であり、
R109は、それぞれ、水素原子、又は下記式(XII)
【0244】
【0245】
(式中、
R110は、炭素数1~6のアルキレン基である。)
で示される基であり、同一の基であっても、異なる基であってよく、
l100は平均値で1~100の整数である。}で示される化合物を使用することが好ましい。
【0246】
D100は、炭素数2~15のアルキレン基、又はアルケニル基であり、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。好ましくは、炭素数2~6の直鎖状のアルキレン基である。R110は、炭素数1~6のアルキレン基であり、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、R110は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基であることが特に好ましい。
【0247】
前記式(X)で示される化合物、又は前記式(XI)で示される化合物を具体的に例示すると、ポリエチレングリコール(l=1~100)、ポリカプロラクトンポリオール(l=1~100)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ブタンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,6-ヘキサンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。
【0248】
<(B)成分;好適なカーボネートポリオール化合物(多官能化合物)>
下記式(XIII)
【0249】
【0250】
(式中、
E100、およびE100’は、それぞれ、炭素数2~15のアルキレン基であり、同一の基であっても、異なる基であってよく、
g100は平均値で1~20の数である。)で示される化合物を使用することが好ましい。
【0251】
E100、およびE100’は、炭素数2~15のアルキレン基であり、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、E100、およびE100’は、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、ドデカメチレン基、ペンタデカメチレン基、1-メチルトリエチレン基、1-エチルトリエチレン基、1-イソプロピルトリエチレン基であることが特に好ましい。前記式(XIII)で示される化合物を具体的に例示すれば、ポリカーボネートポリオール(E100、E100’がペンタメチレン基、ヘキサメチレン基であり、g100=4~10)等が挙げられる。
【0252】
<(B)成分;多官能ポリオール化合物(多官能化合物)>
下記式(XIV)
【0253】
【0254】
(式中、
R111は、炭素数1~6のアルキル基であり、複数存在する場合には、同一又は異なっていてもよく、
R112は、水素原子、又は前記式(XII)と同一であり、同一又は異なっていてもよく
R113は、それぞれ、水素原子、メチル基、エチル基、又は水素原子であり、同一又は異なっていてもよく、
o100は0~2であり、q100は2~4であり、o100+q100は4であり、p100は0~10であり、r100は1~6である。)で示される化合物を使用することが好ましい。
【0255】
R111は、炭素数2~15のアルキル基であり、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、R111は、メチル基、エチル基、トリメチル基、プロピル基であることが特に好ましい。
【0256】
前記式(XIV)で示される化合物を具体的に例示すれば、トリメチロールプロパントリポリオキシエチレンエーテル (日本乳化剤株式会社製TMP-30)、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。
【0257】
<(B)成分;エーテル結合を有するポリオール化合物(多官能化合物)>
下記式(XV)
【0258】
【0259】
{式中、
F100は、それぞれ、1~6のアルキル基、又は、下記式(XVI)
【0260】
【0261】
(式中、
R114は、水素原子、又は、前記式(XII)と同義の基であり、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
R115は、それぞれ、メチル基、エチル基、又は水素原子であり、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
s100は0~10であり、t100は1~6である。)であり、
ただし、基F100の内、少なくとも2つ以上が前記式(XVI)で示される基である。}で示される化合物を使用することが好ましい。
【0262】
F100は、少なくとも2つが前記式(XVI)で示される基である。そして、それ以外の基としては、1~6のアルキル基が挙げられ、鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、F100は、メチル基、エチル基、トリメチル基、プロピル基であることが特に好ましい。また、F100は、2つ以上が前記式(XVI)で示される基であれば、それぞれ、同一の基であっても、異なる基であってもよい。前記式(XV)で示される化合物を具体的に例示すれば、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリト-ルヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。
【0263】
<(B)成分;水酸基を2つ有するポリオール化合物(多官能化合物)>
下記式(XVII)
【0264】
【0265】
(式中、
R116は、炭素数1~30のアルキル基、又はアルケニル基である。)で示される化合物を使用することが好ましい。
【0266】
R116は、炭素数1~30のアルキル基、又は炭素数1~30のアルケニル基であり、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。上記式(XVII)は、脂肪酸とグリセリンの縮合反応から得ることができるため、R116は具体的には、脂肪酸のアルキル、及びアルケニル基部位が挙げられる。脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
【0267】
前記式(XVII)で示される化合物を具体的に例示すれば、モノオレイン酸グリセリル(東京化成工業株式会社製モノオレイン)、モノエライジン、モノリノール酸グリセリル、モノベヘン酸グリセリル等が挙げられる。
【0268】
<(B)成分;多官能ポリチオール化合物(多官能化合物)>
下記式(XVIII)
【0269】
【0270】
(式中、
R117は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は前記炭素数1~6のアルキル基のメチレン基の一部が-S-結合となる基あり、R117が複数存在する場合には、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
R118は、炭素数1~10のアルキレン基であり、前記炭素数1~10のアルキレン基の鎖中のメチレン基の一部が-S-結合となる基、又は、前記炭素数1~10のアルキレン基の水素原子の一部がSH基で置換された基であり、R118が複数存在する場合には、同一の基であっても、異なる基であってもよく、
u100は2~4の整数であり、v100は0~2の整数である。)で示される化合物を使用することが好ましい。
【0271】
R117において、炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよく、中でも、 R117は、水素原子、メチル基、エチル基であることが好ましい。また、炭素数1~6のアルキル基の鎖中のメチレン基の一部が-S-結合となる具体的な基としては、-CH2SCH3等が挙げられる。
【0272】
R118において、炭素数1~10のアルキレン基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、R118は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基が特に好ましい。また、炭素数1~10のアルキレン基の鎖中のメチレン基の一部が-S-結合となる具体的な基としては、-CH2S-、-CH2CH2S-、-CH2CH2CH2S-等が挙げられる。さらに、前記炭素数1~6のアルキル基の水素原子の一部がSH基で置換された基とは、-CH2SCH(SCH2SH)-のような基が挙げられる。
【0273】
前記式(XVIII)で示される化合物を具体的に例示すれば、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン、2,2-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ブタンジチオール、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、1,1,1,1-テトラキス(メルカプトメチル)メタン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン等が挙げられる。
【0274】
<(B)成分;環状のポリチオール化合物(多官能化合物)>
下記式(XIX)
【0275】
【0276】
(式中、
R119は、メチレン基、又は硫黄原子であり、3つのR119の少なくとも2つは硫黄原子であり、
R120は炭素数1~6のアルキレン基、又は前記炭素数1~6のアルキレン基の鎖中のメチレン基の一部が-S-結合となる基である。)で示される化合物を使用することが好ましい。
【0277】
R120において、炭素数1~6のアルキレン基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、R120は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基であることが好ましい。また、前記炭素数1~6のアルキレン基の鎖中のメチレン基の一部が-S-結合となる基は、具体的には、-CH2S-、-CH2CH2S-、等が挙げられる。前記式(XIX)で示される化合物を具体的に例示すれば、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン等が挙げられる。
【0278】
<(B)成分;フェニル基含有ポリチオール化合物(多官能化合物)>
下記式(XX)
【0279】
【0280】
(式中、
R121は、炭素数1~6のアルキレン基であり、又は前記炭素数1~6のアルキレン基の鎖中のメチレン基の一部が-S-結合となる基であり、w100は2~3である。)で示される化合物を使用することができる。
【0281】
R121において、炭素数1~6のアルキレン基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。中でも、 R121は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基であることが好ましい。また、前記炭素数1~6のアルキレン基の鎖中のメチレン基の一部が-S-結合となる基は、具体的には、-CH2CH2CH2SCH2-、-CH2CH2SCH2-、-CH2SCH2-等が挙げられる。前記式(XX)で示される化合物を具体的に例示すれば、1,4-ビス(メルカプトプロピルチオメチル)ベンゼンが挙げられる。
【0282】
<(B)成分;トリアジン環を有するポリ(チ)オール化合物(多官能化合物)>
下記式(XXI)
【0283】
【0284】
{式中、
R122は、それぞれ、炭素数1~6のアルキル基、又は下記式(XXII)
【0285】
【0286】
(式中、
R123、およびR124は、炭素数1~6のアルキレン基であり、
R125は、酸素原子、又は硫黄原子である)
で示される基であり、ただし、前記R122の少なくとも2つは前記式(XXII)で示される基であり、前記R122は、同一の基であっても、異なる基であってもよい。}で示される化合物を使用することが好ましい。
【0287】
R123、およびR124において、炭素数1~6のアルキレン基は、直鎖状、又は分岐鎖状の基であってもよい。 中でも、R123、およびR124は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基であることが好ましい。前記式(XXI)で示される化合物を具体的に例示すれば、トリス-{(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル}-イソシアヌレ-トが挙げられる。
【0288】
<(B)成分;シルセスキオキサン構造を有する化合物(多官能化合物)>
(B)成分として、シルセスキオキサン構造を有する化合物を用いることが可能である。シルセスキオキサン重合性化合物は、ケージ状、ハシゴ状、ランダム状といった種々の分子構造を取るものであり、下記式(XXIII)で示される化合物である。
【0289】
【0290】
式中、複数個あるR500は、互いに同一もしくは異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、及び少なくとも1分子中には2つ以上の水酸基、及び/またはチオール基を含む有機基であり、重合度n100は3~100の整数である。
【0291】
<(B)成分の好ましい例>
本発明において、上記(B)成分は特に制限なく用いることができ、単独で使用することもでき、複数組み合わせて使用することもできる。得られるフォトクロミック硬化体のフォトクロミック特性を考慮すると、上記(B)成分のポリ(チ)オール化合物の好ましい例としては、ポリエチレンポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカ-ボネートポリオール、トリメチロ-ルプロパン、ペンタエリスリト-ル、トリメチロ-ルプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリト-ルヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコ-ルビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ブタンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,6-ヘキサンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン、2,2-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ブタンジチオール、1,4-ビス(メルカプトプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、1,1,1,1-テトラキス(メルカプトメチル)メタン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-メルカプトメタノ-ル、トリス-{(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル}-イソシアヌレ-トであることが好ましい。
次に、(C)活性水素を1分子中に1個有する単官能化合物について説明する。
【0292】
<(C)活性水素を1分子中に1個有する単官能化合物>
本発明において、(C)成分は、活性水素を1分子中に1個有する単官能化合物とは、化合物中に1つの水酸基(OH基)、又は1つのチオール基(SH基)を有する化合物であることが好ましい。水酸基、又はチオール基を有する化合物を使用することにより、重合が制御し易くなる。以下、水酸基、又はチオール基の活性水素含有基を1つ分子内に有する化合物を単に(C)モノ(チ)オール化合物とする場合もある。本発明においては、この(C)成分を特定量使用することが特徴の1つである。
【0293】
本発明の方法で得られるフォトクロミック硬化体は、例えば、前記(A)ポリイソ(チオ)シアネート化合物と(B)ポリ(チ)オール化合物とを反応させて得られるため、(チオ)ウレタン結合を有する網目状構造の剛直な硬化体となる。本発明に用いるフォトクロミック化合物は、上記したようにオリゴマー鎖基を有している。オリゴマー鎖基Aを有していることにより、フォトクロミック硬化体中においても、フォトクロミック化合物は優れたフォトクロミック特性を発現するが、用いるオリゴマー鎖基Aの種類や分子量によっては、ポリマーマトリックスとの相溶性が悪い場合があり、得られたフォトクロミック硬化体が白濁することがあった。
【0294】
本発明では、上記(C)成分を用いることにより、オリゴマー鎖基Aを有するフォトクロミック化合物とポリマーマトリックスとの相溶性が向上するものと考えられ、得られるフォトクロミック硬化体が白濁することを抑制できると考えられる。さらに、上記(C)成分の添加量を調節することにより、得られる硬化体の力学特性を容易にコントロールすることができる。また、(B)ポリ(チ)オール化合物しか含まないフォトクロミック硬化性組成物と、(C)モノ(チ)オール化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物とを比較すると、後者の組成物は、水素結合を少なくすることができる。そのため、フォトクロミック硬化性組成物の粘度を減少させることができ、注型の際のハンドリング性能、成型性を向上できたと考えられる。
【0295】
本発明では、上記したように、オリゴマー鎖基Aを有するフォトクロミック化合物に炭素数10~30のアルケニル基に導入することにより、該フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を硬化させたフォトクロミック硬化体の白濁が抑制される。さらに、フォトクロミック硬化性組成物に、上記(C)成分を含有させることで、フォトクロミック硬化体の白濁がより効果的に抑制される。
【0296】
<(C)成分;モノ(チ)オール化合物(単官能化合物)>
本発明において、(C)モノオール化合物の内、モノオール化合物(水酸基を1つ有する化合物)としては、直鎖または枝分かれを有する飽和または、不飽和アルキルアルコールなどが挙げられる。
【0297】
具体的には、モノオール化合物として、下記の化合物を例示することができる。
【0298】
ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル化合物、ポリオキシプロピレン化合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル化合物を好適に利用でき、該アルキル基は、炭素数が1~50の炭化水素基である。化合物の入手のしやすさから、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ラウリル基、セチル基、ステアリル基、オレイユ基、ミリスチル基、オクチルドデシル基、デシル基、イソデシル基、ベへニル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、イソデシル基、トリデシル基、イソステアリル基、コレステリル基であることが好ましい。
【0299】
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ノニルフェニルエーテル、ドデシルフェニルエーテル鎖ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールFエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル化合物が挙げられる。
【0300】
ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンモノミリステート、ポリオキシエチレンモノイソステアレートなどのポリオキシエチレンモノアルキルエステル化合物が挙げられる。
【0301】
ポリオキシプロピレンモノラウレート、ポリオキシプロピレンモノオレエート、ポリオキシプロピレンモノイソステアレート等のポリオキシプロピレンモノアルキルエステル化合物が挙げられる。
【0302】
ジオレイン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル等のグリセロールのビスエステル化合物が挙げられる。
【0303】
<(C)成分;モノ(チ)オール化合物(単官能化合物)>
本発明において、(C)モノ(チ)オール化合物の内、モノチオール化合物(チオール基を1つ有する化合物)としては、チオグリコール酸3-メトキシブチル、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、オクタン酸2-メルカプトエチル、3-メルカプトプロピオン酸-3-メトキシブチル、3-メルカプトプロピオン酸エチル、3-メルカプトプロピオン酸-2-オクチル、3-メルカプトプロピオン酸n-オクチル、3-メルカプトプロピオン酸メチル、3-メルカプトプロピオン酸トリデシル、3-メルカプトプロピオン酸ステアリル、炭素数5~30の直鎖状、または枝分かれ状構造を有する飽和、不飽和アルキルチオールなどが挙げられる。
【0304】
<(C)成分;好適な化合物(単官能化合物)>
本発明においては、少量の添加で、得られるフォトクロミック硬化体の白濁を抑制できるという観点から、炭素数3~50のアルキル基が置換したポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテルが好ましく、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルが最も好ましい。
【0305】
<(A)成分、(B)成分、および(C)成分の配合割合>
本発明において、前記A)成分、(B)成分、および(C)成分を含むフォトクロミック硬化性組成物を使用した場合には、得られるフォトクロミック硬化体は、(チオ)ウレタン系樹脂がベースを形成する。そのため、得られるフォトクロミック硬化体のフォトクロミック性、耐久性、および力学特性は、前記(A)、(B)、及び(C)成分の配合量によって適宜調整できる。前記(A)成分におけるイソ(チオ)シアネート基の総モル数をn1とし、前記(B)成分における活性水素の総モル数をn2とし、前記(C)成分における活性水素の総モル数をn3とした時、得られるフォトクロミック硬化体のフォトクロミック性、耐久性、および力学特性を向上するためには、
n1:(n2+n3)=0.9~1.5:1とすることが好ましく、n1:(n2+n3)=0.95~1.3:1とすることがより好ましく、n1:(n2+n3)=1.0~1.15:1とすることがさらに好ましい。
【0306】
また、この時、n2:n3=1~300:1とすることが好ましく、n2:n3=3~200:1とすることがより好ましく、n2:n3=5~150:1とすることがさらに好ましい。
【0307】
さらに、フォトクロミック硬化体製造時の成型性を向上させるためには、低粘度のフォトクロミック硬化性組成物を硬化することが効果的である。そのため、高分子量の(C)成分を単独で用いることもできるが、高分子量の(C)成分と、低粘度で低分子量の(C)成分を併用し、成形性を向上させることもできる。
【0308】
<(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を使用したフォトクロミック硬化性組成物の好適な配合割合>
本発明において、フォトクロミック硬化体の白濁をより一層抑制する観点から、前記フォトクロミック化合物、及び前記(C)成分の配合割合は、以下のような配合割合とすることが好ましい。
【0309】
具体的には、前記フォトクロミック化合物におけるオリゴマー鎖基1モル当たり、前記(C)成分を1~2000モルの範囲とすることが好ましい。前記(C)成分の配合量が前記範囲を満足することにより、優れた特性を発揮するだけでなく、前記で示した範囲の(A)成分、(B)成分、および(C)成分のモル比を容易に調整することができる。その結果、機械特性等を向上させることがきる。前記(C)成分が1モル未満の場合には、白濁抑制効果が低減する傾向にある。一方、2000モルを超える場合には、得られる硬化体の機械的特性が低下する傾向にある。白濁抑制効果、および得られる硬化体の機械的特性等を考慮すると、10~1500モルの範囲で配合することがさらに好ましく、50~1300モルの範囲で配合することが最も好ましい。
【0310】
<(A)成分、(B)成分、および(C)成分を含むフォトクロミック硬化性組成物の準備>
本発明においては、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分、およびフォトクロミック化合物を混合することにより、フォトクロミック硬化性組成物を準備することができる。ただし、(A)成分、並びに、(B)成分、および(C)成分は、比較的反応(重合)が速く進むため、混合する順序は、以下のようにすることもできる。
【0311】
例えば、前記フォトクロミック硬化性組成物は、(A)成分とフォトクロミック化合物の予混合物1と、(B)成分と(C)成分の予混合物2の混合物との組み合わせからなることもできる。そして、これら予混合物同士を混合すればよい。
【0312】
また、前記フォトクロミック硬化性組成物は、(B)成分と(C)成分とフォトクロミック化合物の予混合物3と(A)成分の混合物との組み合わせからなることもできる。そして、これら予混合物同士を混合すればよい。
【0313】
<重合性化合物として、<イソ(チオ)シアネート化合物>、及び <活性水素を有する化合物を使用した場合のフォトクロミック硬化性組成物;その他の配合成分>
本発明において、フォトクロミック硬化性組成物には、それ自体公知の各種配合剤、例えば、(E)樹脂改質剤、(F)重合硬化促進剤、(G)内部離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、赤外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料等の各種安定剤、添加剤、溶剤、レベリング剤、さらには、t-ドデシルメルカプタン等のチオール類を重合調整剤として、必要に応じて配合することができる。これら配合成分は、前記フォトクロミック硬化性組成物を製造する際に同時に配合することができる。また、反応に悪影響を及ぼさない様に、それぞれの性能に応じて、例えば、前記予混合物1、前記予混合物2、又は前記予混合物3に配合することもできる。
【0314】
<(E)樹脂改質剤>
本発明において、得られる硬化体の屈折率の向上や、硬度調整を目的として、樹脂改質剤を添加することが出来る。例えば、エピスルフィド系化合物、チエタニル系化合物、ポリアミン化合物、エポキシ化合物、(メタ)アクリレート化合物を含むオレフィン化合物等が挙げられる。以下に具体例を説明する。
【0315】
<(E)樹脂改質剤;エピスルフィド系化合物>
本発明において、エピスルフィド系化合物は、1分子内に2個以上のエピスルフィド基を有する化合物であり、エピスルフィド基は、開環重合が進行するため、硬化体を製造することができる。該化合物は、フォトクロミック硬化体の高屈折率化を目的に添加することができる。該化合物の具体例としては、以下のものを例示することができる。
【0316】
ビス(1,2-エピチオエチル)スルフィド、ビス(1,2-エピチオエチル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)メタン、ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メタン、ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)エタン、ビス(6,7-エピチオ-3,4-ジチアヘプチル)スルフィド、ビス(6,7-エピチオ-3,4-ジチアヘプチル)ジスルフィド、1,4-ジチアン-2,5-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)ベンゼン、1,6-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)-2-(2,3-エピチオプロピルジチオエチルチオ)-4-チアヘキサン、1,2,3-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオ)プロパン、1,1,1,1-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)メタン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)-2-チアプロパン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)-2,3-ジチアブタン、1,1,1-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メタン、1,1,1-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)メタン、1,1,2,2-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)エタン、1,1,3,3-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオ)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)プロパン、2-[1,1-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メチル]-1,3-ジチエタン、2-[1,1-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)メチル]-1,3-ジチエタン。
【0317】
<(E)樹脂改質剤;チエタニル系化合物>
本発明において、チエタニル系化合物は、1分子内に2個以上のチエタニル基を有するチエタン化合物であり、開環重合により硬化する。これらの化合物は、フォトクロミック硬化体の高屈折率化を目的に添加することができる。チエタニル系化合物の一部は、複数のチエタニル基と共にエピスルフィド基を有するものであり、これは、上記のエピスルフィド系化合物の項に挙げられている。その他のチエタニル系化合物には、分子内に金属原子を有している含金属チエタン化合物と、金属を含んでいない非金属系チエタン化合物とがある。このようなチエタニル系化合物の具体例としては、以下のものを例示することができる。
【0318】
非金属系チエタン化合物;ビス(3-チエタニル)ジスルフィド、ビス(3-チエタニル)スルフィド、ビス(3-チエタニル)トリスルフィド、ビス(3-チエタニル)テトラスルフィド、1,4-ビス(3-チエタニル)-1,3,4-トリチアブタン、1,5-ビス(3-チエタニル)-1,2,4,5-テトラチアペンタン、1,6-ビス(3-チエタニル)-1,3,4,6-テトラチアヘキサン、1,6-ビス(3-チエタニル)-1,3,5,6-テトラチアヘキサン、1,7-ビス(3-チエタニル)-1,2,4,5,7-ペンタチアヘプタン、1,7-ビス(3-チエタニルチオ)-1,2,4,6,7-ペンタチアヘプタン、1,1-ビス(3-チエタニルチオ)メタン、1,2-ビス(3-チエタニルチオ)エタン、1,2,3-トリス(3-チエタニルチオ)プロパン、1,8-ビス(3-チエタニルチオ)-4-(3-チエタニルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-4,8-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-4,7-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-5,7-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、2,5-ビス(3-チエタニルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[[2-(3-チエタニルチオ)エチル]チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(3-チエタニルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、ビスチエタニルスルフィド、ビス(チエタニルチオ)メタン、3-[<(チエタニルチオ)メチルチオ>メチルチオ]チエタン、ビスチエタニルジスルフィド、ビスチエタニルトリスルフィド、ビスチエタニルテトラスルフィド、ビスチエタニルペンタスルフィド、1,4-ビス(3-チエタニルジチオ)-2,3-ジチアブタン、1,1,1-トリス(3-チエタニルジチオ)メタン、1,1,1-トリス(3-チエタニルジチオメチルチオ)メタン、1,1,2,2-テトラキス(3-チエタニルジチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3-チエタニルジチオメチルチオ)エタン。
【0319】
<(E)樹脂改質剤;含金属チエタン化合物>
このチエタン化合物は、分子内に、金属原子として、Sn原子、Si原子、Ge原子、Pb原子等の14族の元素;Zr原子、Ti原子等の4族の元素;Al原子等の13族の元素;またはZn原子等の12族の元素;などを含んでいるものであり、例えば、特に好適に使用されるのは、以下の化合物である。
【0320】
アルキルチオ(チエタニルチオ)スズとしては、メチルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、プロピルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオトリス(チエタニルチオ)スズ等が挙げられる。
【0321】
ビス(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズとしては、ビス(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(エチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(イソプロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ等が挙げられる。
【0322】
アルキルチオ(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズとしては、エチルチオ(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、メチルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオ(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオ(イソプロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ等が挙げられる。
【0323】
ビス(チエタニルチオ)環状ジチオスズ化合物としては、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンネタン、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンノラン、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンニナン、ビス(チエタニルチオ)トリチアスタンノカン等が挙げられる。
【0324】
アルキル(チエタニルチオ)スズ化合物としては、メチルトリス(チエタニルチオ)スズ、ジメチルビス(チエタニルチオ)スズ、ブチルトリス(チエタニルチオ)スズ、テトラキス(チエタニルチオ)スズ、テトラキス(チエタニルチオ)ゲルマニウム、トリス(チエタニルチオ)ビスマス等が挙げられる。
【0325】
<(E)樹脂改質剤;ポリアミン化合物>
本発明において、ポリアミン化合物は、一分子中にNH2基を2つ以上有している化合物であり、ポリイソシアネートとの反応でウレア結合を形成し、ポリイソチオシアネートとの反応でチオウレア結合を形成する。これらのポリアミン化合物は、硬化体の硬度調整の為に添加することができる。その具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。
【0326】
エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、プトレシン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノ-ル、ジエチレントリアミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、メラミン、1,3,5-ベンゼントリアミン。
【0327】
<(E)樹脂改質剤;エポキシ系化合物>
本発明において、エポキシ系化合物は、分子内にエポキシ基を有するものであり、エポキシ基が開環重合することにより硬化する。該化合物は、屈折率の調整やレンズ硬度の調整を目的に添加することができる。このようなエポキシ系化合物は、脂肪族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物、及び芳香族エポキシ化合物に分類され、その具体例としては、以下のものを例示することができる。
【0328】
脂肪族エポキシ化合物としては、エチレンオキシド、2-エチルオキシラン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2,2’-メチレンビスオキシラン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0329】
脂環族エポキシ化合物としては、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス-2,2-ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0330】
芳香族エポキシ化合物としては、レゾールシンジグリシジルエーテル、ビスフェノ-ルAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0331】
また、上記以外にも、エポキシ基と共に、分子内に硫黄原子を有するエポキシ系化合物も使用することができる。このような含硫黄原子エポキシ系化合物は、特に屈折率の向上に寄与するものであり、鎖状脂肪族系及び環状脂肪族系のものがあり、その具体例は、次のとおりである。
【0332】
鎖状脂肪族系含硫黄原子エポキシ系化合物としては、ビス(2,3-エポキシプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エポキシプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)エタン、1,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルプロパン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルブタン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ペンタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルペンタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-3-チアペンタン、1,6-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ヘキサン、1,6-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルヘキサン、3,8-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-3,6-ジチアオクタン、1,2,3-トリス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、2,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)プロパン、2,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-1-(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタンなどが挙げられる。
【0333】
環状脂肪族系含硫黄原子エポキシ系化合物としては、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)シクロヘキサン、2,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[<2-(2,3-エポキシプロピルチオ)エチル>チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアンなどが挙げられる。
【0334】
<(E)樹脂改質剤;ラジカル重合性官能基を有する化合物>
ラジカル重合性基を有する化合物は、ラジカル重合により硬化することができるため、レンズ硬度の調整に使用することができる。ラジカル重合性基としては、アクリレート基、及びメタクリレート基を有する化合物{以下(メタ)アクリレート化合物}、アリル化合物、ビニル化合物が挙げられる。
【0335】
(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレ-ト、テトラエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールビスグリシジル(メタ)アクリレ-ト、ビスフェノ-ルAジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、ビスフェノ-ルFジ(メタ)アクリレート、1,1-ビス(4-(メタ)アクロキシエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-(メタ)アクロキシジエトキシフェニル)メタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリト-ルテトラ(メタ)アクリレート、メチルチオ(メタ)アクリレート、フェニルチオ(メタ)アクリレート、ベンジルチオ(メタ)アクリレート、キシリレンジチオールジ(メタ)アクリレート、メルカプトエチルスルフィドジ(メタ)アクリレート、2官能ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0336】
アリル化合物としては、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレ-ト、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカ-ボネート、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、メタクリロイルオキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールアリルエーテル、メタクリロイルオキシポリエチレングリコールアリルエーテル、などが挙げられる。
【0337】
ビニル化合物としては、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー、スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ジビニルベンゼン、3,9-ジビニルスピロビ(m-ジオキサン)などが挙げられる。
【0338】
<(F)重合硬化促進剤>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物においては、上記の化合物の種類に応じて、その重合硬化を速やかに促進させるために、各種の重合硬化促進剤を使用することができる。本発明では水酸基、及びチオール基とイソシアネート基、及びイソチアシアネート基との反応が進行するため、ウレタン或いはウレア用反応触媒が重合硬化促進剤として好適に使用できる。本発明のフォトクロミック硬化性組成物が、エピスルフィド系化合物、チエタニル系化合物、エポキシ系化合物を含んでいる場合、後述するエポキシ硬化剤やカチオン重合触媒が重合硬化促進剤として使用できる。(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有する化合物を使用している場合、後述するラジカル重合開始剤を重合硬化促進剤として使用できる。
【0339】
<(F)重合硬化促進剤;ウレタン或いはウレア用反応触媒>
本発明においては、ポリイソ(チア)シアネートと、ポリオール又はポリチオールを反応させ、ポリ(チオ)ウレタン結合を有するフォトクロミック硬化体を製造することができる。本反応は無触媒条件下で反応を進行させることもできるが、触媒を使用することにより、反応速度を向上させることができる。触媒として、無機塩基、3級アミンやホスフィン等の有機塩基、4級アンモニウム塩類、4級ホスホニウム塩類、ルイス酸類を挙げることが出来る。
【0340】
3級アミン類としては、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N-ジメチルオクチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、4,4’-トリメチレンビス(1-メチルピペリジン)、1,8-ジアザビシクロ-(5,4,0)-7-ウンデセンなどが挙げられる。
【0341】
ホスフィン類としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン等が挙げられる。
【0342】
4級アンモニウム塩類としては、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0343】
4級ホスホニウム塩類としては、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0344】
ルイス酸としては、トリフェニルアルミニウム、ジメチルスズジクロライド、ジメチルスズビス(イソオクチルチオグリコレート)、ジブチルスズジクロライド、ジブチルチンジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズマレエートポリマー、ジブチルスズジリシノレート、ジブチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジブチルスズビス(イソオクチルチオグリコレート)、ジオクチルスズジクロライド、ジオクチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエートポリマー、ジオクチルスズビス(ブチルマレエート)、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジリシノレート、ジオクチルスズジオレエート、ジオクチルスズジ(6-ヒドロキシ)カプロエート、ジオクチルスズビス(イソオクチルチオグリコレート)、ジドデシルスズジリシノレート、各種金属塩、例えば、オレイン酸銅、アセチルアセトナート銅、ナフテン酸鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、オクタン酸カリウム、チタン酸2-エチルヘキシルが挙げられる。使用するルイス酸によっては、触媒活性が高いために、硬化反応を制御できず、フォトクロミック硬化体の機械的特性を損なう場合がある。その場合、触媒活性を抑えるために、上記アミンを併用することができる。
【0345】
<(F)重合硬化促進剤;エポキシ硬化剤>
エポキシ硬化剤としては、アミン化合物及びその塩、4級アンモニウム塩、有機ホスフィン化合物、金属カルボン酸塩、アセチルアセトンキレ-ト化合物を挙げることが出来る。この具体例としては、以下のものを例示することができる。
【0346】
アミン化合物及びその塩としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7-トリメチルアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2-(ジメチルアミノメチル)フェノールなどが挙げられる。4級アンモニウム塩としてはテトラメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。有機ホスフィン化合物としては、テトラ-n-ブチルホスホニウムベンゾトリアゾレート、テトラ-n-ブチルホスホニウム-0,0-ジエチルホスホロジチオエートなどが挙げられる。金属カルボン酸塩としては、クロム(III)トリカルボキシレート、オクチル酸スズなどが挙げられる。アセチルアセトンキレ-ト化合物としては、クロムアセチルアセトナートなどが挙げられる。
【0347】
<(F)重合硬化促進剤;カチオン重合触媒>
カチオン重合触媒としてはルイス酸系触媒、熱硬化性カチオン重合触媒、紫外線硬化性カチオン重合触媒などが挙げられる。これらの具体例は、以下のものを例示することができる。ルイス酸系触媒としては、BF3・アミン錯体、PF5、BF3、AsF5、SbF5などが挙げられる。 熱硬化性カチオン重合触媒としては、ホスホニウム塩や、ベンジルアンモニウム塩、ベンジルピリジニウム塩、等の4級アンモニウム塩、スルホニウム塩、ベンジルスルホニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどが挙げられる。紫外線硬化性カチオン重合触媒としては、ジアリールヨードニウムヘキサフロオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモン酸ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムなどが挙げられる。
【0348】
<(F)重合硬化促進剤;ラジカル重合開始剤>
ラジカル重合開始剤として、熱重合開始剤を好適に使用することができ、その具体例は以下のとおりである。ジアシルパーオキサイドとしては、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイドなどが挙げられる。パーオキシエステルとしては、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシベンゾエートなどが挙げられる。パーカーボネートとしては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-s-ブチルパーオキシジカーボネートなどが挙げられる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。
【0349】
上記の重合硬化促進剤(F)は、単独でも、2種以上を併用することもできるが、その使用量は、所謂触媒量でよく、例えば、上記(A)、(B)、及び(C)の合計100質量部に対して、0.001~10質量部、特に0.01~5質量部の範囲の少量でよい。
【0350】
<(G)内部離型剤>
本発明において、内部離型剤は、離型性に効果を示すものであれば制限なく使用することができるが、樹脂の透明性などの物性を損なわないものであることが好ましい。フォトクロミック化合物との相溶性を考慮すると、界面活性剤を好適に使用することができる。その中でも、リン化合物の界面活性剤が好ましく、さらに(チオ)リン酸エステル系、(チオ)ホスホン酸エステル系、(チオ)ホスフィン酸エステル系界面活性剤が好ましい。ここでいう内部離型剤は、前述の各種触媒のうち離型効果を示すものを含み、例えば4級アンモニウム塩類および4級ホスホニウム塩類をも含むことがある。これら内部離型剤は、フォトクロミック硬化性組成物との相溶性、重合条件、経済性、取り扱いの容易さを考慮し、適宜選択することができる。(チオ)リン酸エステル系、(チオ)ホスホン酸エステル系、(チオ)ホスフィン酸エステル系、および、亜リン酸エステル系の内部離型剤の具体例は、下記のとおりである。
【0351】
リン酸モノ-n-ブチル、リン酸モノ-2-エチルヘキシル、リン酸モノ-n-オクチル、リン酸モノ-n-ブチル、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェ-ト、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)、リン酸ジ-n-オクチル、リン酸ジ-n-ブチル、ジチオリン酸O,O-ジメチル、ジチオリン酸O,O-ジエチル、ジチオリン酸O,O-ビス(2-エチルヘキシル)、チオリン酸O,O-ジメチル、チオリン酸O,O-ジエチル、チオリン酸O,O-ビス(2-エチルヘキシル)、チオメトン、ジスルホトン、ジチオリン酸O,O-ジエチルS-メチル、ジプロピルホスフィン酸等があり、製品としては、SC有機化学株式会社から販売されているChelex H-8、Chelex H-12、Chelex H-18D、Phoslex A-8、Phoslex A-10、Phoslex A-12、Phoslex A-13、Phoslex A-18、Phoslex DT-8、Chelex TDP、Chelex H-OL、城北化学工業株式会社から販売されているJP-506H、JP-512、JP-524R、JP-312L、JP-333E、JP-318-Oなどが挙げられる。
【0352】
上記の各種内部離型剤(G)は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできるが、その使用量は少量でよく、通常(A)、(B)、及び(C)の合計100質量部に対して0.001質量部~10質量部用いれば十分である。
【0353】
<フォトクロミック硬化性組成物;重合性化合物がラジカル重合性化合物である場合>
ラジカル重合性化合物を重合性化合物として使用する場合には、
ラジカル重合性化合物は、多官能ラジカル重合性化合物と単官能ラジカル重合性化合物に分類することができ、それぞれ単独で用いることもでき、複数組み合わせて使用することもできる。ラジカル重合性基としては、不飽和二重結合を有する基、すなわち、ビニル基(スチリル基、(メタ)アクリル基、アリル基等を含む)が挙げられる。
【0354】
多官能ラジカル重合性化合物とは、ラジカル重合性基を分子内に2つ以上の有する化合物を指す。この多官能ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性基が2~10個の第一多官能ラジカル重合性化合物と、ラジカル重合性基が10個を超える第二多官能ラジカル重合性化合物とに分けることができる。
【0355】
第一ラジカル重合性化合物は、特に制限されるものではないが、ラジカル重合性基の数が2~6個であることがより好まし。具体的には、第一多官能ラジカル重合性化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールビスグリシジル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等の多官能(メタ)アクリル酸エステル化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、トリメチロールプロパントリアリルカーボネート等の多官能アリル化合物;1,2-ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2-アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4-ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多官能チオ(メタ)アクリル酸エステル化合物;ジビニルベンゼン等のビニル化合物を挙げることができる。
【0356】
第二多官能ラジカル重合性化合物としては、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物、ラジカル重合性基を有するポリロタキサン化合物等の比較的分子量の大きな化合物が挙げられる。
【0357】
単官能ラジカル重合性化合物とは、ラジカル重合性基を分子内に1つ以上の有する化合物を指す。単官能ラジカル重合性化合物としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、ビスフェノールA-モノグリシジルエーテル-メタクリレート、4-グリシジルオキシメタクリレート、3-(グリシジル-2-オキシエトキシ)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-(グリシジルオキシ-1-イソプロピルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-グリシジルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸およびチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α-メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン等のビニル化合物が挙げられる。
【0358】
ラジカル重合性化合物は、それ単独で使用することもできるし、複数種類の混合物を使用することもできる。この場合、ラジカル重合性化合物の合計100質量部当たり、多官能ラジカル重合性化合物を80~100質量部、単官能ラジカル重合性化合物を0~20質量部とすることが好ましく、多官能ラジカル重合性化合物を90~100質量部、単官能ラジカル重合性化合物を0~10質量部とすることがより好ましい。また、ラジカル重合性化合物の合計100質量部当たり、第一多官能ラジカル重合性化合物を80~100質量、第二ラジカル重合性化合物0~20質量部、および単官能ラジカル重合性化合物を0~20質量部とすることが好ましく、第一多官能ラジカル重合性化合物を85~100質量、第二多官能ラジカル重合性化合物を0~10質量部、および単官能ラジカル重合性化合物を0~10質量部とすることがさらに好ましい。
【0359】
<フォトクロミック硬化性組成物に配合する、好適な安定剤の組み合わせ>
<紫外線安定剤>
本発明において、フォトクロミック硬化体の耐久性を向上させるために、紫外線安定剤を用いることができる。紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが知られており、フォトクロミック硬化性組成物との相溶性などを勘案し、適宜選択して用いることができる。得られるフォトクロミック硬化体のフォトクロミック特性及び、耐久性の観点から、特に好適な紫外線安定剤は、下記の通りである。
【0360】
ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、株式会社ADEKAから販売されているアデカスタブLA-52、LA-57、LA-62、LA-63、LA-67、LA-77、LA-82、LA-87、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、BASFから販売されているIRGANOX1010、IRGANOX1035、IRGANOX1075、IRGANOX1098、IRGANOX1135、IRGANOX1141、IRGANOX1222、IRGANOX1330、IRGANOX1425、IRGANOX1520、IRGANOX259、IRGANOX3114、IRGANOX3790、IRGANOX5057、IRGANOX565等を好適に使用できる。
【0361】
紫外線安定剤の使用量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、通常、フォトクロミック硬化性組成物100質量部に対して、0.001質量部~10質量部、特に0.01質量部~1質量部の範囲である。特にヒンダードアミン光安定剤を用いる場合、フォトクロミック化合物の種類によって耐久性の向上効果に差が出ることがあり、調整した発色色調の色ズレが発生することがある。色ズレを抑制する観点から、フォトクロミック化合物1モル当り、ヒンダードアミン光安定剤の使用量を0.5~30モル、より好ましくは1~20モル、さらに好ましくは2~15モルとするのがよい。
【実施例】
【0362】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。先ず、本発明で使用した測定装置、および各成分の製造方法等について説明する。
【0363】
実施例1~5(本発明のフォトクロミック化合物の合成)
<実施例1>
第1工程
数平均分子量357のポリエチレングリコールモノオレイルエーテル(36.7g、100mmol)、およびトルエンスルホニルクロリド(21.0g、110mmol)をピリジン(400mL)に溶解させ、攪拌を行った。そこへ1,4‐ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(2.2g、20mmol)を滴下し、室温で12時間撹拌した。反応終了後、反応液を氷水に加え、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。抽出した有機層を10%塩酸で洗浄を行い、続いて溶媒留去を行うことで、下記式(16)
【0364】
【0365】
で示される化合物を得た。
【0366】
第2工程
4-ヒドロキシ安息香酸(6.2g、45mmol)、炭酸カリウム(18.7g、135mmol)を、DMF(450mL)に溶解させた。攪拌しながら加熱し、液温を80℃とした。その後前記式(16)の化合物(48.6g、95mmol)を1時間かけて滴下した。滴下後、液温80℃で3時間攪拌した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、トルエン、水を加えた後、分液を行い、有機層を回収し、溶媒を留去した。溶媒留去後に得られた残渣に対して、エタノール(500mL)、水酸化ナトリウム(4.5g、112.5mmol)を加え、3時間還流を行った。室温まで冷却後、反応溶液に水を加え、氷冷下、10%塩酸を用いてpH5付近まで調整した。次いでジクロロメタンを用いて分液を行った。溶媒留去後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)で精製を行い、下記式(17)
【0367】
【0368】
で示される化合物を得た。
【0369】
第3工程
前記式(17)の化合物(17.1g、36mmol)をジクロロメタン(360mL)に溶解させ、氷冷を行った。その後塩化オキサリル(18.3g、144mmol)を加えた後、DMF(2滴)を添加し、攪拌を行った。5時間反応させた後に、溶媒留去を行い、下記式(18)
【0370】
【0371】
で示される化合物を得た。
【0372】
第4工程
前記式(18)の生成物をジクロロメタン(300mL)に溶解させた後、酢酸2-フェノキシエチル(7.21g、40mmol)を添加し、水冷下で、撹拌を行った。そこへテトラクロロスズ(1Mジクロロメタン溶液、54mL)を1時間かけてゆっくり滴下し、滴下後に5時間反応を行った。反応後、反応溶液を氷水中へゆっくり注ぎ、有機層を分液した。分液後、有機溶媒の留去を行い、得られた残渣に、エタノール(300mL),水酸化ナトリウム(2.4g、60mmol)を加え、3時間還流を行った。反応溶液を室温まで冷却した後、水を加えた。氷冷下で、10%塩酸を用いて、反応溶液のpHを5付近まで調整した。その後ジクロロメタンを用いて、分液を行い、得られた有機層の溶媒留去を行った。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム-酢酸エチル混合溶媒)で精製を行い、下記式(19)
【0373】
【0374】
で示される化合物を得た。
【0375】
第5工程
前記式(19)の化合物(12.0g、20mmol)とイミダゾール(5.1g、75mmol)をDMF(200mL)に溶解させ、氷冷を行った。そこへt-ブチルジメチルクロロシラン(4.5g、30mmol)のDMF溶液(50mL)を30分かけて滴下し、滴下終了後、2時間撹拌を行った反応後、反応溶液を氷水中に加え、トルエンを用いて分液を行った。得られた有機層の溶媒留去を行うことで、下記式(20)
【0376】
【0377】
で示される化合物を得た。
【0378】
第6工程
前記式(20)の化合物に、DMF(200mL)を加え、氷冷下で撹拌した。ナトリウムアセチリドのキシレン懸濁液を滴下した。滴下後、室温まで昇温し、1.5時間反応を行った後、反応溶液を氷水中へ加えた。そこへ10%塩化アンモニウム水溶液、トルエンを加え、分液を行った。得られた有機層の溶媒留去をおこない、下記式(21)
【0379】
【0380】
で示される化合物を得た。
【0381】
第7工程
下記式(22)
【0382】
【0383】
で示される化合物(1.6g、3.0mmol)、前記式(21)の生成物(2.6g、3.5mmol)をトルエン(30ml)に溶解させた。さらにp-トルエンスルホン酸ピリジニウムを(0.08g、0.3mmol)加えて攪拌し、1時間還流を行った。その後、反応溶液を室温まで冷却し、水を加えた後、分液を行った。有機層の溶媒を留去し、得られた残渣を、THF(30mL)を加えて、溶解させた。氷冷後、得られた反応溶液に対して、テトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液(1mM、3.5mL)を滴下した。室温まで昇温後、2時間反応を行った。反応終了後、氷水中へ加え、分液を行った。得られた有機層を10%食塩水で洗浄を行い、有機溶媒の留去を行った。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム-酢酸エチル混合溶媒)で精製を行い、下記式(23)
【0384】
【0385】
で示されるクロメン化合物前駆体を得た。
【0386】
第8工程
ポリプロピレングリモノブチルエーテル(数平均分子量3500、35g、10mmol)、コハク酸無水物(2.0g、20mmol)、トリエチルアミン(2.5g、25mmol)、ジクロロメタン(50mL)を加え、室温で12時間反応させた。反応終了後、氷冷下、10%塩酸を用いて、反応溶液のpHを5に調整した後、分液を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、溶媒留去を行った。得られた残渣にジクロロメタン(50mL)を加え、氷冷を行い、反応溶液に塩化オキサリル(5.1g、40mmol)を加え、さらにDMF(2滴)を添加し、撹拌を行った。5時間反応させたのち、溶媒を留去し、下記式(24)
【0387】
【0388】
で示される化合物を得た。
【0389】
第9工程
前記式(23)の化合物(2.5g、2.2mmol)をジクロロメタン(25mL)に溶解させた。撹拌溶解後、トリエチルアミン(2.4g、2.2mmol)を加え、氷冷を行った。そこへ、前記式(24)の化合物(8.3g、2.3mmol)のジクロロメタン溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、室温まで昇温し、12時間撹拌を行った。その後氷冷しながら、10%塩酸を用いて、反応溶液のpHを5に調整した。その後得られた反応溶液の分液を行い、有機溶媒の留去を行った。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム-酢酸エチル混合溶媒)で精製することで、下記式(25)
【0390】
【0391】
で示されるクロメン化合物(本発明のフォトクロミック化合物)を得た。収率は85%であった。
【0392】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、1.0~3.0ppm付近にシクロヘキサン環、ブチル基、コハク酸部位、プロピレンオキシ部位、オレイル基のプロトンに基づく約240Hのピーク、δ3.0~5.2ppm付近にメトキシ基、エチレングリコール部位、ブトキシ基、オレイル基、プロピレンオキシ部位に基づく約205Hのピーク、δ5.2~9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づく21Hのピークを示し、前記式(25)と一致する構造であると確認した。
【0393】
<実施例2>
第1工程
実施例1の第8工程で用いたポリプロピレングリモノブチルエーテル(数平均分子量3500)の代わりに、ポリプロピレングリコール(数平均分子量2500)を用いたこと以外は、実施例1の第8工程と同様に反応を行い、下記式(26)
【0394】
【0395】
で示される化合物を得た。
【0396】
第2工程
実施例1第7工程において、前記式(22)のナフトール化合物の代わりに下記式(27)
【0397】
【0398】
で示されるナフトール化合物を用いたこと以外は同様に行い、下記式(28)
【0399】
【0400】
で示されるクロメン前駆体を得た。
【0401】
第3工程
実施例1の第9工程において、前記式(23)のクロメン化合物前駆体の代わりに前記式(28)のクロメン前駆体を用い、前記式(24)の代わりに、前記式(26)の化合物用いたこと以外は同様に行い、下記式(29)
【0402】
【0403】
で示されるクロメン化合物(本発明のフォトクロミック化合物)を得た。収率は80%であった。
【0404】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、1.0~3.0ppm付近にシクロヘキサン環、メチル基、コハク酸部位、プロピレンオキシ部位、オレイル基のプロトンに基づく約247Hのピーク、δ3.0~5.2ppm付近にエチレングリコール部位、オレイル基、プロピレンオキシ部位に基づく約157Hのピーク、δ5.2~9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づく36Hのピークを示し、前記式(29)と一致する構造であると確認した。
【0405】
<実施例3>
第1工程
4,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(1.0g、4.5mmol)、炭酸カリウム(1.9g、13.5mmol)、DMF(45mL)を加え、撹拌し、内温が80℃になるまで加熱した。加熱後、前記式(16)の化合物(4.6g、9.1mmol)を1時間かけて滴下した。滴下後、液温80℃で4時間反応を行った。反応後、反応溶液を室温まで冷却し、水を加え、トルエンを用いて分液を行った。有機溶媒を留去後に、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム-酢酸エチル混合溶媒)で精製し、下記式(30)
【0406】
【0407】
で示される化合物を得た。
【0408】
第2工程
実施例1の第6工程で用いた前記式(20)で示される化合物の代わりに、前記式(30)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1の第6工程と同様の操作を行い、下記式(31)
【0409】
【0410】
で示される化合物を得た。
【0411】
第3工程
下記式(32)
【0412】
【0413】
で示される化合物(0.9g、3.0mmol)、前記式(31)の化合物(3.2g、3.5mol)をメチルイソブチルケトン(50ml)に溶解させた。さらにp-トルエンスルホン酸(0.06g、0.3mmol)を加えて、1時間還流を行った。反応後、室温まで冷却し、水を加え、トルエンを用いて、分液を行った。得られた有機層から、有機溶媒を留去し、粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム-酢酸エチル混合溶媒)で精製を行い、下記式(33)
【0414】
【0415】
で示される化合物を得た。
【0416】
第4工程
前記式(33)の化合物(2.4g、2.0mmol)をTHF(24mL)に溶解させ、-78℃に冷却した。そこへメチルリチウム(1.0M、2.4mL)をゆっくり滴下した。その後-10℃まで、ゆっくり昇温を行った。水を加えた後、反応溶液を室温まで昇温した。トルエンを用いて抽出した後、得られた有機層を10%食塩水で洗浄し、有機溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム-酢酸エチル混合溶媒)で精製し、下記式(34)
【0417】
【0418】
で示される化合物を得た。
【0419】
第5工程
実施例1の第8工程で用いたポリプロピレングリモノブチルエーテル(数平均分子量3500)の代わりに、下記式(35)
【0420】
【0421】
で示されるヒドロキシ基末端を有するポリジメチルシロキサン(数平均分子量1000)を用いたこと以外は、実施例1の第8工程と同様に行い、下記式(36)
【0422】
【0423】
で示される化合物を得た。
【0424】
第6工程
実施例2の第3工程で用いた前記式(28)で示される化合物の代わりに前記式(34)で示される化合物を、前記式(26)で示される化合物の代わりに前記式(36)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例2の第3工程と同様の操作を行い、下記式(37)
【0425】
【0426】
で示されるクロメン化合物(本発明のフォトクロミック化合物)を得た。収率は65%であった。
【0427】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、0~3.0ppm付近にジメチルシロキサン、メチル基、コハク酸部位、プロポキシ基、オレイル基のプロトンに基づく約236Hのピーク、δ3.0~5.2ppm付近にエチレングリコール部位、オレイル基、メトキシ基、プロポキシ基に基づく約64Hのピーク、δ5.2~9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づく40Hのピークを示し、前記式(37)と一致する構造であると確認した。
【0428】
<実施例4>
第1工程
ポリプロピレングリコール(数平均分子量2500、50.0g、20mmol)、イミダゾール(5.1g、75mmol)をDMF(200mL)に溶解させ、氷冷を行った。t-ブチルジメチルクロロシラン(2.9g、19.5mmol)のDMF(50mL)溶液を1時間かけて滴下した。滴下後2時間撹拌した後、反応溶液を氷水中に加えた。酢酸エチルを用いて分液を行い、得られた有機層の溶媒留去を行った。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:アセトン-酢酸エチル混合溶媒)で精製し、下記式(38)
【0429】
【0430】
で示される化合物を得た。
【0431】
第2工程
流動パラフィンに分散された水素化ナトリウム(0.8g、33.3mmol)をヘプタン中で撹拌した後、ヘプタンをデカンテーションで除いた。そこに、DMF(20mL)を加え、前記式(38)の化合物(46.2g、17.5mmol)をゆっくり滴下した。室温で1時間撹拌した後、前記式(16)で示される化合物(9.2g、18.0mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。反応溶液を氷水中に加え、酢酸エチルを用いて分液を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、溶媒留去を行った。得られた残渣に、THF(300mL)を加え、撹拌、溶解させた。氷冷後、テトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液(1M、25mL)を滴下した。室温まで昇温後、2時間反応を行った。その後、反応溶液を氷水中へ加え、酢酸エチルで分液を行った。有機層を10%食塩水で洗浄し、溶媒の留去を行った。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:アセトン-酢酸エチル混合溶媒)で精製し、下記式(39)
【0432】
【0433】
で示される化合物を得た。
【0434】
第3工程
実施例1の第8工程で用いたポリプロピレングリモノブチルエーテル(数平均分子量3500)の代わりに、前記式(39)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1の第8工程と同様の操作を行い、下記式(40)
【0435】
【0436】
で示される化合物を得た。
【0437】
第4工程
実施例1の第9工程で用いた前記式(23)示される化合物の代わりに下記式(41)
【0438】
【0439】
で示される化合物を用い、前記式(24)で示される化合物の代わりに前記式(40)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1の第9工程と同様の操作を行い、下記式(42)
【0440】
【0441】
で示されるクロメン化合物(本発明のフォトクロミック化合物)を得た。収率は80%であった。
【0442】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、1.0~3.0ppm付近にシクロヘキサン環部位、メチル基、コハク酸部位、ポリプロピレングリコール部位、オレイル基のプロトンに基づく約188Hのピーク、δ3.0~5.2ppm付近にエチレングリコール部位、オレイル基、メトキシ基、ポリプロピレングリコール部位、モルホリノ基に基づく約154Hのピーク、δ5.2~9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づく21Hのピークを示し、前記式(42)と一致する構造であると確認した。
【0443】
<実施例5>
第1工程
4,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(1.0g、4.5mmol)、炭酸カリウム(0.6g、4.5mmol)、DMF(45mL)を加え、撹拌し、内温が80℃になるまで加熱した。加熱後、前記式(16)の生成物(2.2g、4.4mmol)を2時間かけて滴下した。滴下後内温80℃で4時間反応を行った。反応後、室温まで冷却し、トルエン、水を加え、分液を行った。溶媒濃縮後、クロロホルム-酢酸エチル混合溶媒でシリカゲル上でのクロマトグラフィーを行うことで精製し、下記式(43)
【0444】
【0445】
で示される化合物を得た。
【0446】
第2工程
実施例1第1工程において、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテルの代わりに、数平均分子量1100の下記式(44)
【0447】
【0448】
で示される化合物を用いたこと以外は同様の操作を行い、下記式(45)
【0449】
【0450】
トシル基を置換させ、式(45)で示される化合物を得た。
【0451】
第3工程
前記式(43)の化合物(2.2g、3.9mmol)、炭酸カリウム(1.2g、9.0mmol)、DMF(40mL)を加え、撹拌し、内温が80℃になるまで加熱した。加熱後、前記式(45)で示される化合物(7.3g、5.9mmol)を1時間かけて滴下した。滴下後内温80℃で4時間反応を行った。反応後、室温まで冷却し、トルエン、水を加え、分液を行った。溶媒濃縮後、クロロホルム-酢酸エチル混合溶媒でシリカゲル上でのクロマトグラフィーを行うことで精製し、下記式(46)
【0452】
【0453】
で示される化合物を得た。
【0454】
第4工程
実施例1第6工程において、前記式(20)の代わりに、第1工程で得られた前記式(46)の化合物を用いたこと以外は同様の操作を行い、下記式(47)
【0455】
【0456】
で示される化合物を得た。
【0457】
第5工程
実施例3第3工程において、前記式(32)で示されるナフトール化合物の代わりに下記式(48)
【0458】
【0459】
で示されるナフトール化合物を用い、前記式(31)で示される化合物の代わりに前記式(47)で示される化合物を用いたこと以外は同様の操作を行い、下記式(49)
【0460】
【0461】
で示されるクロメン化合物(本発明のフォトクロミック化合物)を収率67%で得た。
【0462】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、0~3.0ppm付近にジメチルシロキサン、イソプロピル基、ブチル基、オレイル基のプロトンに基づく約168Hのピーク、δ3.0~5.2ppm付近にエチレングリコール部位、オレイル基、プロポキシ基に基づく約16Hのピーク、δ5.2~9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づく18Hのピークを示し、前記式(49)と一致する構造であると確認した。
【0463】
実施例6~10(フォトクロミック硬化体(成型体)の作製、評価)
実施例5~8において、上記の各クロメン化合物のフォトクロミック特性の評価方法等は、以下のとおりに行った。下記処方により、各成分を混合してフォトクロミック硬化性組成物を調整した。各配合量を以下に示す。表1にフォトクロミック特性の結果を示した。
【0464】
(重合性化合物の配合組成)
<A成分>
m-キシレンジイソシアネート;48.0質量部。
<B成分>
ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-メルカプトプロピオネート);25.5質量部。
4-メルカプトメチル-3、6-ジチア-オクタンジチオール;25.5質量部。
<その他成分>
ジメチルジクロロスズ;0.1質量部。
JP-506H(城北化学工業株式会社製);0.1質量部。
フォトクロミック硬化性組成物は、上記A成分、B成分、及びその他成分を混合した配合組成物100質量部に対し、クロメン化合物(フォトクロミック化合物)をインデノナフトピラン部位が48μmolとなるように添加し、調整した。このようにして得られたフォトクロミック硬化性組成物を用い、練り込み法にてフォトクロミック硬化体(高分子成型体)を得た。重合方法は以下の通りである。
【0465】
(重合方法)
ガラスモールドと、エチレン-酢酸ビニル共重合体製のガスケットを用いて、厚さ2mmの鋳型を作製した。続いて十分に脱泡した前記フォトクロミック硬化性組成物を、鋳型に注型した。次いで、20℃から120℃まで徐々に昇温しながら、重合反応を進行させ、フォトクロミック硬化性組成物の硬化を行った。20時間かけて硬化させた後、フォトクロミック硬化体を鋳型から取り外した。
【0466】
(フォトクロミック硬化体の評価方法)
得られたフォトクロミック硬化体に関して、(1)フォトクロミック特性、(2)L-スケールロックウエル硬度、(3)透明性の評価を行った。評価方法は下記の通りである。
【0467】
(1)フォトクロミック特性
(株)浜松ホトニクス製のキセノンランプL-2480(300W)SHL-100を用いて、エアマスフィルター2.0(株式会社光洋社製)を介して、フォトクロミック硬化体に光照射を行い、フォトクロミック硬化体を発色させた、各種フォトクロミック特性を評価した。照射時の条件は下記の通りである。
照射温度;23±0.1℃
発光強度:300~500nmの範囲で50,000lux
照射時間;120秒
フォトクロミック硬化体のフォトクロミック特性として、最大吸収波長、発色濃度、退色速度を評価した。測定は、株式会社大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD1000)を使用した。
・最大吸収波長(λmax):
発色後のフォトクロミック硬化体の、可視光領域における最大吸収波長である。該最大吸収波長は発色時の色調に関係する。
・発色濃度{ε(120)-ε(0)}:
前記最大吸収波長における、120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と光照射前の吸光度ε(0)との差で、発色濃度を評価した。この値が高いほどフォトクロミック性が優れている。
・退色速度〔t1/2(sec.)〕:
フォトクロミック硬化体に、120秒間光を照射し、光の照射を止めた後に、前記最大吸収波長における吸光度が{ε(120)-ε(0)}の半分まで低下するのに要する時間で、退色速度を評価した。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れている。
・残存率(A200/A0×100):
得られたフォトクロミック硬化体をスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により200時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A0)および試験後の発色濃度(A200)を測定し、その比(A200/A0)を残存率とし、発色の耐久性の指標とした。残存率が高いほど発色の耐久性が高いといえる。
【0468】
(2)Lスケ-ルロックウエル硬度(HL)
フォトクロミック硬化体(2mm厚)を23℃のデシケーター内で1日保管した後、明石ロックウエル硬度計(形式:AR-10)を用いて、前記硬化体のLスケ-ルロックウエル硬度を測定した。
【0469】
(3)フォトクロミック硬化体の透明性
フォトクロミック硬化体を、直行ニコル下で、白濁の評価を目視にて行った。
1:製品として問題ないレベルで、白濁がない、あるいはほとんど見えない。
2:製品として問題ないレベルであるが若干白濁のあるもの。
3:製品として問題ないレベルであるが2よりは白濁が強いもの。
4:白濁があり、製品として使用できないもの。
【0470】
比較例1~2
比較のために、下記式(A)及び(B)で示される化合物を用い、実施例5~8と同様にしてフォトクロミック硬化体を得、その特性を評価した。
【0471】
【0472】
【0473】
表1で明らかな通り、本発明のフォトクロミック化合物は、従来のフォトクロミック化合物と比較すると、高硬度マトリックス中でのフォトクロミック特性が優れている。すなわち、本発明のフォトクロミック化合物は、オリゴマー鎖を有することにより、高硬度マトリックス中でのフォトクロミック特性が優れていることを示した。且つフォトクロミック化合物に、オレイル基を導入することにより、従来は解決が困難であった硬化体の白濁を抑制できることを示した。
【0474】
<実施例11>
第1工程
実施例第1工程から第5工程において数平均分子量357のポリエチレングリコールモノオレイルエーテルの代わりに、シス-4-デセン-1-オールを用いたこと以外は、同様に行い、下記式(50)
【0475】
【0476】
で示される化合物を得た。
【0477】
第2工程
実施例1第7工程において前記式(22)の代わりに下記式(51)
【0478】
【0479】
で示されるナフトール化合物を用い、下記式(52)
【0480】
【0481】
で示されるクロメン前駆体を得た。
【0482】
第3工程
実施例1第8工程から第9工程においてポリプロピレングリモノブチルエーテル(数平均分子量3500)の代わりに、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテル(数平均分子量3300)を用いた以外は同様の操作を行い、下記式(53)
【0483】
【0484】
で示されるクロメン化合物(本発明のフォトクロミック化合物)を得た。収率は65%であった。
【0485】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、1.0~3.0ppm付近にシクロヘキサン環、ブチル基、コハク酸部位、ポリオキシプロピレン部位、シス-4-デセン部位のプロトンに基づく約145Hのピーク、δ3.0~5.2ppm付近にエチレングリコール部位、ブトキシ基、シス-4-デセン部位、ポリオキシプロピレン部位、ポリオキシエチレン部位に基づく約225Hのピーク、δ5.2~9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づく20Hのピークを示し、前記式(53)と一致する構造であると確認した。
【0486】
実施例12~14
下記処方により各成分を混合して、フォトクロミック硬化性組成物を調整した。各配合量を表2に示す。
【0487】
【0488】
尚、フォトクロミック硬化性組成物は、上記配合組成物100質量部に対し、クロメン化合物(フォトクロミック化合物)をインデノナフトピラン部位が48μmolとなるように添加して調製した。なお上記配合組成物100質量部とは、A成分、B成分、C成分、その他成分の合計量100質量部を意味する。
【0489】
表2において用いた化合物の略語を以下に明記する。
ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5(2,6)-ジイル)ビスメチレンジイソシアネート;NBDI。
m-キシレンジイソシアネート;XDI。
ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-メルカプトプロピオネート);PEMP。
ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-メルカプトプロピオネート); MTODT。
ジペンタエリスリト-ルヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート);DPMP。
ポリエチレングリコールモノオレイユエーテル(エチレングリコールの繰り返し数約2、Mn=357);PGME2。
ポリエチレングリコールモノオレイユエーテル(エチレングリコールの繰り返し数約10、Mn=709);PGME10。
【0490】
フォトクロミック硬化性組成物を実施例6と同様の方法で重合して、フォトクロミック硬化体を得た。得られたフォトクロミック硬化体を実施例6と同様の方法で評価した。
結果を表3に示す。
【0491】