(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】荷電粒子発生装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20221216BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20221216BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20221216BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H01J37/06 Z
H01J37/305 B
H01L21/30 541B
G03F7/20 504
(21)【出願番号】P 2019077792
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】山光 雅也
(72)【発明者】
【氏名】明野 公信
(72)【発明者】
【氏名】篠原 義明
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】実公昭42-003600(JP,Y1)
【文献】特開平07-176284(JP,A)
【文献】特開2009-231102(JP,A)
【文献】特開平05-013029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01J 37/305
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を放出するエミッタに電力を供給する第1端子を有する複数のカソードと、
前記複数のカソードのうち第1カソードの前記第1端子に電気的に接続する第2端子と、
前記複数のカソードを保持し、前記第2端子に接続する前記第1カソードを前記複数のカソードのうち他のカソードへ交換するために回転可能なバレルと、
前記第1端子と前記第2端子との接触部に設けられ、前記第1端子および前記第2端子に電力を供給しているときに少なくとも一部が液状となる金属部と、を備える荷電粒子発生装置。
【請求項2】
前記金属部は、前記第1端子と接触する前記第2端子の接触部、または、前記第2端子と接触する前記第1端子の接触部に設けられる、請求項1に記載の荷電粒子発生装置。
【請求項3】
前記第2端子は、前記第1端子との接触部に凹部または凸部を有し、または、前記第1端子は、前記第2端子との接触部に凹部または凸部を有し、
前記金属部は、前記凹部の内部または凸部間に設けられる、請求項1に記載の荷電粒子発生装置。
【請求項4】
前記第2端子は、前記第1端子との接触部に多孔質体を有し、または、前記第1端子は、前記第2端子との接触部に多孔質体を有し、
前記金属部は、前記多孔質体の表面および内部に設けられる、請求項1に記載の荷電粒子発生装置。
【請求項5】
前記第2端子および前記第1端子の一方または両方は、多孔質体であり、
前記金属部は、前記多孔質体の内部に設けられる、請求項1に記載の荷電粒子発生装置。
【請求項6】
前記金属部の融点は、室温以上であり前記第1端子および前記第2端子に電力を供給しているときにおける前記第1端子および前記第2端子の接点の温度以下である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の荷電粒子発生装置。
【請求項7】
前記金属部は、前記第1端子に電力を供給していないときに固体状態となっている、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の荷電粒子発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、荷電粒子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子銃は、電子源から高熱や高電界により放出された電子を電界により加速させ、電子ビームを発する。高熱による電子の放出は、電流を供給する電流端子と電子銃のフィラメントとを接触させ、フィラメントに電流を流すことにより行われる。電流端子とフィラメントとを強く接触させることにより、電流端子とフィラメントとの間の接触電気抵抗が不安定になることを抑制し、電子ビームの出力を安定させることが知られている。
【0003】
しかし、電流端子とフィラメントとを強く接触させると、電流端子とフィラメントとの間に強い摩擦力が生じることになる。従って、複数のカソードを有する電子銃において使用するカソードを交換する際に、電流端子またはフィラメントの金属が摩耗により発塵してしまう場合がある。この場合、金属の塵によってチャンバ内に異常放電が発生する可能性があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
端子間の接触電気抵抗が不安定になることを抑制することができ、かつ、端子同士の摩耗による発塵を抑制することができる荷電粒子発生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態による荷電粒子発生装置は、荷電粒子を放出するエミッタに電力を供給する第1端子を有する複数のカソードと、複数のカソードのうち第1カソードの第1端子に電気的に接続する第2端子と、複数のカソードを保持し、第2端子に接続する第1カソードを複数のカソードのうち他のカソードへ交換するために回転可能なバレルと、第1端子と第2端子との接触部に設けられ第1端子および第2端子に電力を供給しているときに少なくとも一部が液状となる金属部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による電子ビーム描画装置の構成の一例を示す図。
【
図2】第1実施形態による電子銃の構成の一例を示す模式図。
【
図3】第1実施形態によるカソードおよびバレルの構成の一例を示す模式図。
【
図4】第1実施形態によるカソードの構成の一例を示す斜視図。
【
図5】第1実施形態によるコンタクトの構成の一例を示す斜視図。
【
図6】第1実施形態によるカソードの交換時の接続部およびフィラメントの動作例を示す図。
【
図7】第2実施形態によるコンタクトの構成の一例を示す斜視図。
【
図8】第3実施形態によるコンタクトの構成の一例を示す斜視図。
【
図9】第3実施形態によるカソードの交換時の接続部およびフィラメントの動作例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0009】
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による電子ビーム描画装置の構成の一例を示す図である。電子ビーム描画装置は、微細な回路パターンを有するフォトマスクの製造に用いられる。
【0011】
電子ビーム描画装置は、電子銃61と、電子ビーム制御系63と、ステージ65とを備えている。
【0012】
荷電粒子発生装置としての電子銃61は、荷電粒子ビームとして電子ビーム62を放出する。尚、電子銃61の構成については、
図2を参照して、後で詳細に説明する。また、電子銃61は、電子ビーム描画装置に限られず、電子ビームを用いてマスクパターンを検査するマスク検査装置に用いてもよい。荷電粒子ビームは、電子ビームに限定されず、イオンビームであってもよい。
【0013】
電子ビーム制御系63は、基板64の所望の位置に所望のパターンを成形するために、電子銃61から放出された電子ビーム62を成形する。電子ビーム制御系63は、正方形の開口部を有する第1アパーチャ631と、第1アパーチャ631全体に電子ビーム62を照射するための第1のレンズ632とを有している。さらに、第1アパーチャ631の下方には、カギ穴型の開口部を有し、正方形に成形された電子ビーム62をさらに成形するための第2アパーチャ633と、第2アパーチャ633の任意の箇所に電子ビーム62を照射するための第1偏向器634及び第2レンズ635とを有している。さらに、第2アパーチャ633の下方には、正方形または二等辺三角形に成形された電子ビーム62を縮小するための第3、第4レンズ636、637と、これらのレンズ636、637によって縮小された電子ビーム62をステージ65上に載置された基板64の所定の箇所に照射するための第2偏向器638とを有している。
【0014】
図2は、第1実施形態による電子銃61の構成の一例を示す模式図である。
【0015】
電子銃61は、チャンバ11と、導入碍子22と、コンタクト222と、カソード14a、14bと、金属223と、アノード23と、バレル13と、回転機構12とを備えている。
図2に示すように、電子銃61は、複数のカソード14a、14bを備えるタレット電子銃である。
【0016】
チャンバ11は、カソード14a、14bなどの電子銃61の各部を収容し、内部を真空状態に保つ。
【0017】
導入碍子22は、導入配線221を被覆することによって導入配線221を保護し、かつ、その周囲から導入配線221を電気的に絶縁している。導入配線221は、チャンバ11の外部からカソード14aに電力(電流)を供給する配線である。
【0018】
第2端子としてのコンタクト222は、チャンバ11の内部における導入碍子22の先端部に設けられる。コンタクト222は、導入配線221と接続され、カソード14aとも接続されている。これにより、コンタクト222は、カソード14aに電流を供給する。
【0019】
カソード14aは、金属223を介してコンタクト222と電気的に接続している。カソード14aは、電流が供給されると、
図2における下方に電子を放出する。尚、カソード14aの構成および金属223については、
図3などを参照して、後で詳細に説明する。
【0020】
アノード23は、カソード14aに対向して設けられる。アノード23は、カソード14から放出された電子が通過する開口部24を有する。カソード14aおよびバレル13には、図示しない配線から-50kVの加速電圧が印加される。一方、アノード23はグラウンドに接続される。カソード14aとアノード23との間に発生する電界により、カソード14aから放出された電子が加速される。加速された電子は、アノード23の開口部24を通過して、射出される。
【0021】
バレル13は、側部に複数のカソード14を保持する円筒形の回転体である。バレル13は、バレル13の中心軸Bを回転軸として回転可能である。複数のカソード14の内の1つのカソード14aが、電子ビーム62の放出に用いられる。バレル13は、回転機構12と接続されている。これにより、そのカソード14aが劣化したときに、ユーザは、チャンバ11の外部から中心軸Bを回転軸としてバレル13を回転させ、チャンバ11内を真空に保ちながらコンタクト222と接続するカソード14aを、他のカソード14bに交換することができる。すなわち、ユーザは、バレル13を回転させることで、コンタクト222と接続する(第1)カソード14aを、(第1)カソード14aとは異なる(第2)カソード14bに交換することができる。尚、特に断りがない限り、カソードの交換とは、バレル13の回転により、チャンバ11の内部でコンタクト222と接続するカソードを変更することを意味する。
【0022】
1つのカソード14aを使用し続けると、電子ビーム62の出力の低下や不安定化などの寿命の問題が発生する。これは、エミッタ17の合金の蒸発などによりエミッタ17に劣化や異常が生じるためである。電子ビーム62の出力が低下しても、
図3に示すフィラメント18とウェネルト15との間にバイアス電圧を変化させることにより、電子ビーム62の出力が略一定になるように調整することができる。この補正によっても電子ビーム62の出力を略一定にすることが困難になると、カソード14aは寿命に達したと判断される。寿命は、例えば、3か月である。寿命に達したカソード14aは、複数のカソード14の内の未使用のカソード14bに交換され得る。従って、バレル13を回転させるだけでチャンバ11内の真空を維持しつつ、カソード14aを簡単に交換することができる。これにより、カソード14aの交換のためにチャンバ11内の真空状態を開放させる必要は無く、長期間にわたって電子ビーム描画装置を稼働し続けることができる。即ち、電子ビーム描画装置のダウンタイムを減少させることができる。尚、バレル13の全てのカソード14が劣化し、バレル13または電子銃全体を交換する際には、チャンバ11は開放される。
【0023】
図3は、第1実施形態によるカソード14およびバレル13の構成の一例を示す模式図である。
図3は、
図2におけるカソード14およびバレル13をA-A線で切断した断面図でもある。
【0024】
カソード14は、フィラメント18と、碍子19と、エミッタ17と、ウェネルト15とを備えている。複数のカソード14a、14b、14c、14dは、円筒形のバレル13の周に亘って略等間隔に設けられている。尚、
図3において、4つのカソード14a、14b、14c、14dがバレル13に設けられている。しかし、カソードの数はこれに限られない。カソードの数は、複数であればよく、例えば、8つであってもよい。
【0025】
図3に示すように、フィラメント18およびコンタクト222は、互いに接触して電気的に接続されている。第1端子としてのフィラメント18は、碍子19に被覆され、エミッタ17と接続している。フィラメント18は、コンタクト222から供給された電流を電子源としてのエミッタ17に供給する。エミッタ17に電流が供給されると、エミッタ17が加熱され、エミッタ17から熱電子が放出される。ウェネルト15は、エミッタ17から放出される電子が通過する開口部16を有し、エミッタ17から放出される電子を収束させる。
【0026】
図1の電子銃61が電子ビーム62を放出している間、電子ビーム62の出力は安定していることが好ましい。電子ビーム62の出力は、コンタクト222とフィラメント18との間の接触電気抵抗に依存する。これは、電子ビーム62の放出時に接触電気抵抗が変化すると、フィラメント18全体としての電気抵抗およびエミッタ17の温度が変化し、エミッタ17から放出される熱電子の数が変化するためである。従って、電子ビーム62の出力を安定させるために、コンタクト222とフィラメント18との間の接触電気抵抗が不安定になることを抑制させる必要がある。
【0027】
そこで、本実施形態では、
図2を参照して説明したように、コンタクト222およびフィラメント18は、金属223を介して電気的に接続されている。金属部としての金属223は、コンタクト222とフィラメント18との間に設けられる。金属223は、コンタクト222およびフィラメント18に電力が供給されているときに熱によって液体状態(液体金属)となっている。コンタクト222およびフィラメント18は固体である。従って、コンタクト222およびフィラメント18は、線接触や点接触で接触するので、コンタクト222とフィラメント18との接触面積は小さい。従って、金属223が設けられていない場合、接触電気抵抗は、大きくかつ不安定な値になる。しかし、金属223が設けられていれば、液体状態となっている金属223は流動性があるため、コンタクト222とフィラメント18との間の接触面積を大きくすることができる。これにより、コンタクト222とフィラメント18との間の接触電気抵抗を減少させ、接触電気抵抗が不安定になることを抑制することができる。
【0028】
次に、
図4および
図5を参照して、コンタクト222とフィラメント18との接続について説明する。
【0029】
図4は、第1実施形態によるカソード14aの構成の一例を示す斜視図である。
図4に示すように、2本のフィラメント18が碍子19から突出している。フィラメント18は、例えば、円柱形状である。フィラメント18の直径は、例えば、1mmであり、2本のフィラメント18の間の距離は、例えば、4mmである。フィラメント18の材料には、例えば、コバールなどの鉄、コバルトおよびニッケルを含む合金が用いられる。尚、フィラメント18の形状は、平坦な板状であってもよい。
【0030】
図5は、第1実施形態によるコンタクト222の構成の一例を示す斜視図である。
図5の2つのコンタクト222は、
図3の2本のフィラメント18のそれぞれに接続する。コンタクト222は、板バネ224と接続部225とを有し、導入配線221と電気的に接続されている。
【0031】
押付部としての板バネ224の一端は、
図5に示す板状部材226の奥の面において、板状部材226に固定されている。板状部材226は、
図2に示す導入碍子22に対して固定された部材である。板バネ224の他端は、接続部225と接続している。板バネ224は、導電性材料であり、或る程度可撓性のある材料であることが好ましい。板バネ224には、例えば、ニッケルめっきされたベリリウム銅が用いられる。フィラメント18が接続部225と接触すると、板バネ224は、弾性力により接続部225をフィラメント18に押し付ける押圧力を加える。これにより、コンタクト222とフィラメント18との間の接触電気抵抗を安定させることができる。
【0032】
接続部225は、フィラメント18と接触し、フィラメント18に電流を供給する。接続部225におけるフィラメント18との接触面Sは、フィラメント18に向けて山型に突出している。これにより、接続部225とフィラメント18とを接触させつつ、フィラメント18が板バネ224を変形させながら移動しやすくすることができる(
図6を参照)。また、接続部225におけるフィラメント18との接触部には、金属223が設けられている(塗布されている)。金属223が設けられた接触部にフィラメント18が接触することにより、接続部225とフィラメント18とが電気的に接続される。接続部225の材料にも、板バネ224と同様に、例えば、ニッケルめっきされたベリリウム銅が用いられる。
【0033】
コンタクト222およびフィラメント18に電力が供給されているとき、金属223は液体金属となっている。このとき金属223は流動性があるため、接続部225から垂れてしまう可能性がある。従って、金属223は、液体状態において粘性が高いことが好ましい。また、接続部225に塗布される金属223の量は、金属223の垂れやカソード14の交換時の金属223の飛散が発生しづらくなるよう調整される。
【0034】
電子銃61が電子ビーム62を放出する際、高電圧が印加されるエミッタ17の温度は、例えば、約1800Kになり、接続部225およびフィラメント18の接点は、例えば、約380K(約100℃)になる。このとき、金属223は、液体状態となっており、コンタクト222とフィラメント18との間の電気抵抗を低下させる。一方、金属223は、フィラメント18に電流を供給していない間は固体になっていることが好ましい。従って、金属223の融点は、室温(雰囲気温度)以上でありコンタクト222およびフィラメント18に電力を供給しているときにおけるコンタクト222およびフィラメント18の接点の温度以下であることが好ましい。例えば、上記例の場合、金属223の融点は、室温以上であり約100℃以下であることが好ましい。尚、室温は、例えば、約20℃~約30℃である。この場合、電子ビーム62の放出時に金属223は液体であるため、電子ビーム62の出力は安定する。電子ビーム62を止めるためにエミッタ17への電流の供給を止めると、接続部225およびフィラメント18の接点の温度が低下する。この接点の温度が室温付近まで低下すると、金属223は固体になる。このように、金属223は、フィラメント18およびコンタクト222に電力を供給している使用時に液体金属となっており、フィラメント18およびコンタクト222に電力を供給していない不使用時に固体金属となっている。これにより、金属223が液体である期間を短くし、金属223の垂れを抑制することができる。また、電子ビーム62の停止直後であれば、金属223は液体であるため、バレル13を回転させてカソード14を交換することができる。カソード14の交換時に金属223が固体になっている場合、フィラメント18へ電流を流して金属223を溶かせばよい。尚、金属223は、垂れない程度に粘性が高い場合には、電力供給していない不使用時においても液体状態であってもよい。
【0035】
また、コンタクト222から分離された使用済みのカソード14のフィラメント18に金属223が付着している場合がある。しかし、電子ビーム62の放出時であっても、使用済みのカソード14はコンタクト222と接触していないので、バレル13の熱伝導による使用済みのカソード14の温度上昇はわずかである。従って、使用済みのカソード14のフィラメント18に付着した金属223は固体状態を維持し、金属223の垂れは抑制される。
【0036】
金属223は、例えば、ガリウム、インジウム、スズ、ビスマス等の軟金属の少なくとも1種類を含む金属または合金である。金属223の融点は、金属の種類によって異なる。例えば、ガリウムの融点は29.8℃であり、インジウムの融点は156.6℃である。しかし、合金にすることにより、金属223の融点が変化する。従って、所望の融点となるように、合金の組成を調整すればよい。
【0037】
次に、
図6を参照して、カソードの交換時における動作について説明する。
【0038】
図6(A)~
図6(E)は、第1実施形態によるカソードの交換時の接続部225およびフィラメント18の動作例を示す図である。
図6は、接続部225およびフィラメント18を上方または下方から見た図である。
図6(A)~
図6(E)は、バレル13の回転により、2本のフィラメント18が
図6の左から右へ移動する様子を示す。
図6(A)および
図6(B)は、未使用のカソードへの交換時における接続部225および未使用のカソードのフィラメント18_1、18_2の位置を示す。
図6(C)は、電子ビーム62の放出時における接続部225およびフィラメント18_1、18_2の位置を示す。
図6(D)および
図6(E)は、寿命に達したカソードから別のカソードへの交換時における接続部225およびフィラメント18_1、18_2の位置を示す。
【0039】
尚、バレル13を回転させてカソードを交換するときに、最初に接続部225に接触するフィラメント18を第1フィラメント18_1とし、その次に接続部225に接触するフィラメント18を第2フィラメント18_2とする。また、最初にフィラメント18に接触する接続部225を第1接続部225_1とし、その次にフィラメント18に接触する接続部225を第2接続部225_2とする。
【0040】
まず、
図6(A)に示すように、第1フィラメント18_1が第1接続部225_1に接触する。
【0041】
次に、
図6(B)に示すように、第1フィラメント18_1のX方向への移動により、第1フィラメント18_1が第1接続部225_1を第1フィラメント18_1の移動方向に対して略垂直方向(-Y方向)へ押し、
図5の板バネ224が撓む。これにより、
図6(B)の下方(-Y方向)に向かって第1接続部225_1の位置がずれ、第1フィラメント18_1がX方向へさらに移動することができる。
【0042】
その後、同様に、第2フィラメント18_2も移動し、第2フィラメント18_2が第1接続部225_1を-Y方向へ押し、板バネ224が撓む。これにより、-Y方向に向かって第1接続部225_1の位置がずれ、第2フィラメント18_2もX方向へ移動することができる。
【0043】
フィラメント18_1、18_2がともに第1接続部225_1をX方向に越えると、フィラメント18_1、18_2は、
図5に示す接続部225_1、225_2の表面Sの山型部分の傾斜と接続部225_1、225_2の押圧力とによって、
図6(C)に示すように接続部225_1、225_2の表面Sの山型部分の間に嵌まる。板バネ224の弾性力により、フィラメント18_1、18_2は、接続部225_1、225_2から+Y方向に押圧力を受ける。上記のように、エミッタ17に電流が供給されると、接続部225とフィラメント18とは、液体状態の金属223を介して低抵抗で電気的に接続される。これにより、エミッタ17から電子が放出される。このように、電力を供給する接続部225とフィラメント18との間の金属223は、熱で溶融して液体金属となり、接続部225とフィラメント18との間を低抵抗で電気的に接続することができる。
【0044】
フィラメント18_1、18_2に接続されたエミッタ17が劣化すると、カソード14が交換される。このとき、
図6(D)に示すように、第1フィラメント18_1のX方向への移動により、第1フィラメント18_1が第2接続部225_2を-Y方向へ押し、
図5の板バネ224が撓む。これにより、-Y方向に向かって第2接続部225_2の位置がずれ、第1フィラメント18_1がX方向へさらに移動することができる。
【0045】
同様に、第2フィラメント18_2も移動し、第2フィラメント18_2が第2接続部225_2を-Y方向へ押し、板バネ224が撓む。これにより、-Y方向に向かって第2接続部225_2の位置がずれ、第2フィラメント18_2もX方向へ移動する。
【0046】
フィラメント18_1、18_2がともに第2接続部225_2をX方向に越えると、フィラメント18_1、18_2は、
図6(E)に示すように、接続部225_1、225_2から離脱する。
【0047】
このように、接続部225の表面Sが山型であるので、フィラメント18は、接続部225から受ける摩擦が小さく、接続部225に容易に嵌まり、あるいは、離脱することができる。
【0048】
以上のように、第1実施形態によれば、バレル13に設けられた複数のカソード14のうち、電子ビームの生成に用いられるカソード14aのフィラメント18は、液体状態の金属223を介して接続部225に電気的に接続する。金属223は、コンタクト222およびフィラメント18に電力が供給されているときは液体金属となっているので、フィラメント18と接続部225との接触面積を大きくする。従って、金属223によりコンタクト222とフィラメント18との間の接触電気抵抗を減少させ、接触電気抵抗が不安定になることを抑制することができる。
【0049】
もし、金属223を用いない場合、接続部225とフィラメント18とは、固体状態で接触するため、それらの接触面積は小さくなり、接触抵抗は不安定になる。接触電気抵抗を低下させ安定させるために板バネ224の弾性力を強くしたり(剛性を高くしたり)、フィラメント18両側からフィラメント18を接続部225で挟むと、カソード14の交換時に接続部225とフィラメント18とが強い力で擦れる。従って、接続部225またはフィラメント18の金属が摩耗して発塵する可能性がある。この金属の塵がチャンバ11の内面や導入碍子22などに付着すると、チャンバ11内で異常放電が発生する可能性がある。
【0050】
これに対して、第1実施形態による電子銃61は、液体状態の金属223により低く安定した接触電気抵抗が得られるため、強い力で接続部225とフィラメント18とを接触させる必要がない。従って、板バネ224の弾性力(押圧力)を弱くすることができ、カソード14の交換時におけるコンタクト222またはフィラメント18の金属の摩耗による発塵を抑制することができる。従って、第1実施形態による電子銃61は、金属223により端子間の接触電気抵抗が不安定になることを抑制することができ、かつ、カソード14の交換時における端子同士の摩耗による発塵を抑制することができる。この結果、電子ビーム62の出力を安定させ、チャンバ11内の異常放電の発生を抑制することができる。
【0051】
尚、第1実施形態では、接続部225におけるフィラメント18との接触部に金属223が塗布されている。しかし、フィラメント18における接続部225との接触部に金属223が塗布されていてもよく、接続部225およびフィラメント18の両方に金属223が塗布されていてもよい。
【0052】
また、金属223は、例えば、流動性のあるペースト状の金属や、金属を含む導電性ペーストであってもよい。
【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態によれば、接続部225の表面が凹部または凸部を有する点で、第1実施形態とは異なる。
【0054】
図7は、第2実施形態によるコンタクト222の構成の一例を示す斜視図である。
【0055】
フィラメント18と接触する接続部225の表面には複数の凹部または凸部が設けられている。金属223は、凹部または凸部の内部に保持されるため、接続部225とフィラメント18との接触を妨げることはない。尚、凹部の形状は、
図7に示す円形に限られず、例えば、楕円、多角形、線状など他の形状であってもよい。凸部の形状も任意でよい。凹部の深さおよび形状、あるいは、凸部の高さおよび形状は、例えば、液体状態の金属223の粘性や濡れ性を考慮して、液体状態の金属223が凹部内または凸部間に保持されるように設定される。凹部または凸部の数は、フィラメント18の形状や接触電気抵抗の安定性により変更されてもよい。また、凸部の高さや形状によっては、接続部225とフィラメント18との接触が妨げられる場合がある。この場合、接続部225の接触部は、凸部よりも凹部を有する方が好ましい。
【0056】
第2実施形態による電子銃61のその他の構成は、第1実施形態による電子銃61の対応する構成と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0057】
第2実施形態による電子銃61は、第1実施形態による電子銃61と同様の効果を得ることができる。
【0058】
尚、第2実施形態では、接続部225がフィラメント18との接触部に凹部または凸部を有する。しかし、フィラメント18が接続部225との接触部に凹部または凸部を有してもよく、接続部225およびフィラメント18の両方が凹部または凸部を有してもよい。
【0059】
(変形例)
第2実施形態の変形例は、接続部225が表面に多孔質体を有する点で、第2実施形態とは異なる。
【0060】
接続部225は、フィラメント18との接触部に多孔質体を有する。多孔質体は、例えば、マグネシウムの粉末の焼結体であり、拡散接合によって接続部225に接着される。金属223は、液体状態のときに多孔質体に含浸されている。含浸によって金属223が多孔質体の表面および内部に保持されるため、第2実施形態による凹部または凸部よりも金属223の垂れを抑制することができる。
【0061】
尚、多孔質体の材料は、フィラメント18やコンタクト222と同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。多孔質体は、例えば、金属であるが、樹脂などの絶縁体であってもよい。多孔質体は、例えば、焼結、放電加工、3Dプリンタなどにより作製される。
【0062】
変形例による電子銃61は、第1実施形態および第2実施形態による電子銃61と同様の効果を得ることができる。
【0063】
尚、変形例では、接続部225がフィラメント18との接触部に多孔質体を有する。しかし、フィラメント18が接続部225との接触部に多孔質体を有してもよく、接続部225およびフィラメント18の両方が多孔質体を有してもよい。
【0064】
また、コンタクト222自体が多孔質体であってもよい。この場合、コンタクト222が多孔質体で作製される。尚、この場合も、フィラメント18自体が多孔質体であってもよく、コンタクト222およびフィラメント18の両方が多孔質体であってもよい。
【0065】
(第3実施形態)
第3実施形態によれば、互いに対向する複数のコンタクト222が2対設けられており、互いに対向する複数のコンタクト222がフィラメント18を両側から挟むように構成されている。
【0066】
図8は、第3実施形態によるコンタクト222の構成の一例を示す斜視図である。
【0067】
コンタクト222は、互いに対向する第1コンタクト227と、第2コンタクト228とを有する。第3端子としての第1コンタクト227および第4端子としての第2コンタクト228のそれぞれの構成は、第1実施形態によるコンタクト222の構成と同じでよい。
図8に示すように、第2コンタクト228の板バネ224は、板状部材226の手前の面で板状部材226に固定されている。フィラメント18は、第1コンタクト227と第2コンタクト228との間に挟まれることにより、第1コンタクト227および第2コンタクト228と電気的に接続される。
【0068】
金属223は、第1実施形態によるコンタクト222と同様に、第1コンタクト227および第2コンタクト228の接続部225におけるフィラメント18との接触部に設けられる。尚、金属223は、第1コンタクト227および第2コンタクト228の一方に設けられてもよい。
【0069】
第3実施形態による電子銃61のその他の構成は、第1実施形態による電子銃61の対応する構成と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0070】
第3実施形態によるフィラメント18は、第1コンタクト227および第2コンタクト228に対して多くの接点を有する。従って、第3実施形態による電子銃61は、第1実施形態による電子銃61と比較して、接触電気抵抗が不安定になることをさらに抑制することができる。また、第3実施形態による板バネ224の弾性力は、第1実施形態における板バネ224の弾性力よりも弱くすることができる。従って、金属の摩耗による発塵をさらに抑制することができる。
【0071】
図9(A)~
図9(E)は、第3実施形態によるカソード14の交換時の接続部225およびフィラメント18の動作例を示す図である。尚、
図6と重複する内容についての詳細な説明は省略する。
【0072】
まず、
図9(A)に示すように、第1フィラメント18_1が第1コンタクト227および第2コンタクト228の第1接続部225_1に接触する。
【0073】
次に、
図9(B)に示すように、第1フィラメント18_1のX方向への移動により、第1フィラメント18_1が第1コンタクト227および第2コンタクト228の第1接続部225_1を-Y方向および+Y方向のそれぞれへ押し、
図8の板バネ224が撓む。これにより、-Y方向に向かって第1コンタクト227の第1接続部225_1の位置がずれ、+Y方向に向かって第2コンタクト228の第1接続部225_1の位置がずれ、第1フィラメント18_1がX方向へさらに移動することができる。
【0074】
その後、同様に、第2フィラメント18_2も移動し、第2フィラメント18_2が第1コンタクト227および第2コンタクト228の第1接続部225_1を-Y方向および+Y方向のそれぞれへ押し、板バネ224が撓む。これにより、-Y方向に向かって第1コンタクト227の第1接続部225_1の位置がずれ、+Y方向に向かって第2コンタクト228の第1接続部225_1の位置がずれ、第2フィラメント18_2もX方向へ移動することができる。
【0075】
フィラメント18_1、18_2がともに第1接続部225_1をX方向に越えると、フィラメント18_1、18_2は、接続部225_1、225_2の表面Sの山型部分の傾斜と接続部225_1、225_2の押圧力とによって、
図9(C)に示すように第1コンタクト227および第2コンタクト228の接続部225_1、225_2の表面Sの山型部分の間に嵌まる。また、フィラメント18_1は、互いに対向する接続部225_2に挟まれ、フィラメント18_2は、互いに対向する接続部225_1に挟まれる。板バネ224の弾性力により、フィラメント18_1、18_2は、第1コンタクト227の接続部225_1、225_2から+Y方向に押圧力を受け、第2コンタクト228の接続部225_1、225_2から-Y方向に押圧力を受ける。
【0076】
フィラメント18_1、18_2に接続されたエミッタ17が劣化すると、カソード14が交換される。このとき、
図9(D)に示すように、第1フィラメント18_1のX方向への移動により、第1フィラメント18_1が第1コンタクト227および第2コンタクト228の第2接続部225_2を-Y方向および+Y方向のそれぞれへ押し、
図5の板バネ224が撓む。これにより、-Y方向に向かって第1コンタクト227の第2接続部225_2の位置がずれ、+Y方向に向かって第2コンタクト228の第2接続部225_2の位置がずれ、第1フィラメント18_1がX方向へさらに移動することができる。
【0077】
同様に、第2フィラメント18_2も移動し、第2フィラメント18_2が第1コンタクト227および第2コンタクト228の第2接続部225_2を-Y方向および+Y方向のそれぞれへ押し、板バネ224が撓む。これにより、-Y方向に向かって第1コンタクト227の第2接続部225_2の位置がずれ、+Y方向に向かって第2コンタクト228の第2接続部225_2の位置がずれ、第2フィラメント18_2もX方向へ移動する。
【0078】
フィラメント18_1、18_2がともに第2接続部225_2をX方向に越えると、フィラメント18_1、18_2は、
図9(E)に示すように、第1コンタクト227および第2コンタクト228の接続部225_1、225_2から離脱する。
【0079】
また、第3実施形態による電子銃61は、第2実施形態または変形例と組み合わせてもよい。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0081】
13 バレル、14 カソード、17 エミッタ、18 フィラメント、61 電子銃、62 電子ビーム、222 コンタクト、223 金属、224 板バネ、225 接続部、227 第1コンタクト、228 第2コンタクト