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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】インク組成物及び画像記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20221216BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20221216BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221216BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C09D11/00
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 110
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019176037
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021054875
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉國 史子
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-111173(JP,A)
【文献】特開2017-222744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、樹脂粒子及び水を含み、
前記樹脂粒子は、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、
前記構造Aと前記構造Bとは、下記式1で表される構造を介して連結しているインク組成物。
【化1】

式1中、*Aは構造Aとの連結部位を示し、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは-O-又は-NH-を表し、Lは炭素数1~40の2価の連結基を表し、Zは-O-又は-NH-を表し、mは1~3の整数を表し、nは1~3の整数を表す。
【請求項2】
前記樹脂粒子は、前記式1で表される構造を1mol%~30mol%含む請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記構造Bは、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造、イオン性基を有するポリウレアに由来する構造、イオン性基を有するポリウレタンウレアに由来する構造又はイオン性基を有するポリエステルに由来する構造である請求項1又は請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記構造Bは、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造である請求項3に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記構造Bは、イオン性基を有する鎖状ポリウレタンに由来する構造である請求項4に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記構造Bは、下記式B1で表される構造単位及び下記式B2で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を有する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化2】


式B1及び式B2中、*T1は連結部位を示し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは水素原子又は置換基を表し、L及びLはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表し、Yはそれぞれ独立に-C(=O)OM、-S(=O)OM又は-OS(=O)OMを表し、Qはそれぞれ独立に-O-又は-C(=O)-を表し、Mは水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを表す。
【請求項7】
前記式B1及び前記式B2中、Yはそれぞれ独立に-C(=O)OMを表す請求項6に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記構造Aは、芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位は、下記式A1~式A5で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位である、請求項8に記載のインク組成物。
【化3】

式A1~式A5中、R11及びR12はそれぞれ独立に、メチル基又は水素原子を表し、R13はそれぞれ独立に、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基を表し、nはそれぞれ独立に0~5の整数であり、L11はそれぞれ独立に単結合、炭素数1~18の環構造を有してもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、炭素数6~18のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、-C(=O)-、又は、これらを2個以上連結して形成される2価の連結基を表す。
【請求項10】
前記式1中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは-O-を表し、Lは炭素数1~20の2価の連結基を表し、Zは-O-を表し、mは1又は2を表し、nは1又は2を表す、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項11】
前記式1は、下記式4で表される請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化4】

式4中、*Aは構造Aとの連結部位を示し、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Rは水素原子又はメチル基を表し、pは0又は1を表す。
【請求項12】
前記樹脂粒子の含有量は、インク組成物の全質量に対し、1質量%~15質量%である、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項13】
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載のインク組成物をインクジェット記録方式で記録媒体上に付与して画像を記録する画像記録工程を含む、画像記録方法。
【請求項14】
前記画像記録工程は、低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体上に、前記インク組成物を直接付与して画像を記録する、請求項13に記載の画像記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インク組成物及び画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インク組成物を用いた画像記録において、耐擦過性と耐ブロッキング性とが要求されている。耐擦過性とは、インク画像を擦っても色移りしない性質をいい、耐ブロッキング性とは、高温環境下で画像記録物を積み重ねて置いたときに、一の画像記録物に形成されているインク画像が、接している他の画像記録物へ色移りしない性質をいう。従来、耐擦過性と耐ブロッキング性とはトレードオフの関係にあり、インク組成物を用いた画像記録において、耐擦過性と耐ブロッキング性とを両立させることは難しかった。
【0003】
耐擦過性を改善したインク組成物として、特許文献1には、ビニル重合体が、親水性基を有するウレタン樹脂によって水性媒体中に分散されたものであるインクジェット印刷インク用バインダーと、顔料又は染料を含有するインクジェット印刷用インクが記載されている。また、耐擦過性を改善したインク組成物として、特許文献2には、色材、有機溶剤、樹脂粒子、アミン化合物、及び水を含有し、樹脂粒子が、ウレタン樹脂粒子、及びアクリル樹脂を含有するコア部とコア部表面に形成された少なくともウレタン樹脂を含有するシェル部とを有するウレタン変性アクリル樹脂粒子を含むインクが記載されている。密着性を改善したインク組成物として、特許文献3には、顔料、エマルジョン樹脂、水溶性化合物、及び水を少なくとも含み、エマルジョン樹脂は外層がウレタン樹脂及び内層がアクリル樹脂からそれぞれ構成されるコア-シェル構造を有するエマルジョン樹脂と他のアクリルエマルジョン樹脂とを含む、インクジェット記録用水性顔料インクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/073563号
【文献】特開2017-101212号公報
【文献】特許第5795156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~特許文献3に記載されているインク組成物はいずれも、コア-シェル型の樹脂粒子、すなわち、コア部とシェル部とが結合していない樹脂粒子を含有している。そのため、耐擦過性又は耐密着性の効果しか得られず、耐擦過性と耐ブロッキング性との両立は実現できていない。
【0006】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の実施形態が解決しようとする課題は、得られるインク画像が耐擦過性及び耐ブロッキング性に優れるインク組成物並びに画像記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的手段は以下の態様を含む。
<1>色材、樹脂粒子及び水を含み、樹脂粒子は、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、構造Aと構造Bとは、下記式1で表される構造を介して連結しているインク組成物。
【0008】
【化1】

式1中、*Aは構造Aとの連結部位を示し、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは-O-又は-NH-を表し、Lは炭素数1~40の2価の連結基を表し、Zは-O-又は-NH-を表し、mは1~3の整数を表し、nは1~3の整数を表す。
<2>樹脂粒子は、式1で表される構造を1mol%~30mol%含む<1>に記載のインク組成物。
<3>構造Bは、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造、イオン性基を有するポリウレアに由来する構造、イオン性基を有するポリウレタンウレアに由来する構造又はイオン性基を有するポリエステルに由来する構造である<1>又は<2>に記載のインク組成物。
<4>構造Bは、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造である<3>に記載のインク組成物。
<5>構造Bは、イオン性基を有する鎖状ポリウレタンに由来する構造である<4>に記載のインク組成物。
<6>構造Bは、下記式B1で表される構造単位及び下記式B2で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載のインク組成物。
【0009】
【化2】

式B1及び式B2中、*T1は連結部位を示し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは水素原子又は置換基を表し、L及びLはそれぞれ独立に単結合又は2価の連結基を表し、Yはそれぞれ独立に-C(=O)OM、-S(=O)OM又は-OS(=O)OMを表し、Qはそれぞれ独立に-O-又は-C(=O)-を表し、Mは水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを表す。
<7>式B1及び式B2中、Yはそれぞれ独立に-C(=O)OMを表す<6>に記載のインク組成物。
<8>構造Aは、芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<9>芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位は、下記式A1~式A5で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位である、<8>に記載のインク組成物。
【0010】
【化3】

式A1~式A5中、R11及びR12はそれぞれ独立に、メチル基又は水素原子を表し、R13はそれぞれ独立に、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基を表し、nはそれぞれ独立に0~5の整数であり、L11はそれぞれ独立に単結合、炭素数1~18の環構造を有してもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、炭素数6~18のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、-C(=O)-、又は、これらを2個以上連結して形成される2価の連結基を表す。
<10>式1中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは-O-を表し、Lは炭素数1~20の2価の連結基を表し、Zは-O-を表し、mは1又は2を表し、nは1又は2を表す、<1>~<9>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<11>式1は、下記式4で表される<1>~<10>のいずれか1つに記載のインク組成物。
【0011】
【化4】

式4中、*Aは構造Aとの連結部位を示し、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Rは水素原子又はメチル基を表し、pは0又は1を表す。
<12>樹脂粒子の含有量は、インク組成物の全質量に対し、1質量%~15質量%である、<1>~<11>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<13><1>~<12>のいずれか1つに記載のインク組成物をインクジェット記録方式で記録媒体上に付与して画像を記録する画像記録工程を含む、画像記録方法。
<14>画像記録工程は、低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体上に、インク組成物を直接付与して画像を記録する、<13>に記載の画像記録方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、得られるインク画像が耐擦過性及び耐ブロッキング性に優れるインク組成物並びに画像記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示のインク組成物、及び、画像記録方法について詳細に説明する。
【0014】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する概念である。また、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念である。
【0017】
[インク組成物]
本開示のインク組成物は、色材、樹脂粒子及び水を含み、樹脂粒子は、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、構造Aと構造Bとは、下記式1で表される構造を介して連結している。式1中、*Aは構造Aとの連結部位を示し、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは-O-又は-NH-を表し、Lは炭素数1~40の2価の連結基を表し、Zは-O-又は-NH-を表し、mは1~3の整数を表し、nは1~3の整数を表す。
【0018】
【化5】
【0019】
従来、樹脂粒子を含むインク組成物が知られている。例えば、特許文献1に記載されている樹脂粒子は、ビニル重合体が、親水性基を有するウレタン樹脂によって水性媒体中に分散されたものである。特許文献2に記載されている樹脂粒子は、アクリル樹脂を含有するコア部とコア部表面に形成された少なくともウレタン樹脂を含有するシェル部とを有するウレタン変性アクリル樹脂粒子である。特許文献3に記載されている樹脂粒子は、外層がウレタン樹脂、内層がアクリル樹脂からそれぞれ構成されるコア-シェル構造を有するエマルジョン樹脂である。これらの樹脂粒子はいずれもコアシェル構造を有しており、コア部とシェル部とは化学結合していない。そのため、耐擦過性又は耐密着性の効果しか得られず、耐擦過性と耐ブロッキング性との両立は実現できていない。
【0020】
本開示のインク組成物に含まれる樹脂粒子は、構造Aと構造Bとが式1で表される構造を介して連結しているため、構造Aと構造Bとの界面が強固である。また、樹脂粒子は、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、構造Aと構造Bとが式1で表される構造を介して連結しているため、構造Aと構造Bそれぞれのポリマーが有する特性を発現させることができる。すなわち、耐擦過性と耐ブロッキング性とを両立させることができる。
【0021】
以下、本開示のインク組成物に含まれる各成分について説明する。
【0022】
(樹脂粒子)
本開示のインク組成物は、樹脂粒子を含む。
本開示のインク組成物において、樹脂粒子は、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、構造Aと構造Bとは、下記式1で表される構造を介して連結している。式1中、*Aは構造Aとの連結部位を示し、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは-O-又は-NH-を表し、Lは炭素数1~40の2価の連結基を表し、Zは-O-又は-NH-を表し、mは1~3の整数を表し、nは1~3の整数を表す。
【0023】
【化6】
【0024】
<構造A>
構造Aは、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造である。
【0025】
ビニルモノマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステル、クロトン酸エステル、ビニルエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸ジエステル、イタコン酸ジエステル、(メタ)アクリルアミド系モノマー、スチレン系モノマー、ビニルエーテル、ビニルケトン、オレフィン、マレイミド化合物、N-ビニル化合物及び(メタ)アクリロニトリルが好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アセトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体のモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート;
フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;
シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等の単環式(メタ)アクリレート;
イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等の2環式(メタ)アクリレート;
アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の3環式(メタ)アクリレート;
ジエチレングリコールモノエチルエーテルジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、シリコーンジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
クロトン酸エステルとしては、例えば、クロトン酸ブチル及びクロトン酸ヘキシルが挙げられる。
【0028】
ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、酢酸イソプロペニル及び安息香酸ビニルが挙げられる。
【0029】
マレイン酸ジエステルとしては、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、及びマレイン酸ジブチルが挙げられる。
【0030】
フマル酸ジエステルとしては、例えば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル及びフマル酸ジブチルが挙げられる。
【0031】
イタコン酸ジエステルとしては、例えば、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル及びイタコン酸ジブチルが挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチルアクリル(メタ)アミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等の脂肪族(メタ)アクリルアミド;
N-シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド等の脂環式(メタ)アクリルアミド
N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-ニトロフェニルアクリルアミド、N-エチル-N-フェニルアクリルアミド、N-ベンジル(メタ)アクリルアミド等の芳香族(メタ)アクリルアミド;
N-(2-メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、ビニル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアリル(メタ)アクリルアミド及びN-アリル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0033】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヒドロキシスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン及びビニル安息香酸メチルが挙げられる。
【0034】
ビニルエーテルとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル等の脂肪族ビニルエーテル;
フェニルビニルエーテル等の芳香族ビニルエーテル;
シクロヘキシルビニルエーテル等の脂環式ビニルエーテル;
2-クロロエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル及びフェニルビニルエーテルが挙げられる。
【0035】
ビニルケトンとしては、例えば、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン等の脂肪族ビニルケトン;
フェニルビニルケトン等の芳香族ビニルケトンが挙げられる。
【0036】
オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン及びイソプレンが挙げられる。
【0037】
マレイミド化合物としては、例えば、マレイミド、ブチルマレイミド等の脂肪族マレイミド;
シクロヘキシルマレイミド等の脂環式マレイミド
フェニルマレイミド等の芳香族マレイミドが挙げられる。
【0038】
N-ビニル化合物としては、例えば、N-ビニルピロリドン及びN-ビニルカプロラクタムが挙げられる。
【0039】
上記ビニルモノマーは、単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
構造Aは、耐ブロッキング性を向上させる観点から、芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造であることが好ましい。芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーはそれぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよく、芳香族ビニルモノマーと脂環式ビニルモノマーとを組み合わせてもよい。
【0041】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、芳香族(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリルアミド、スチレン系モノマー、芳香族ビニルエーテル、芳香族ビニルケトン及び芳香族マレイミドが挙げられる。また、脂環式ビニルモノマーとしては、例えば、脂環式(メタ)アクリルアミド、脂環式ビニルエーテル及び脂環式マレイミドが挙げられる。
【0042】
具体的には、芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位は下記式A1~式A5で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位であることがより好ましい。
【0043】
【化7】
【0044】
式A1~式A5中、*Pは、連結部位を示す。式A1~式A5で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位は、式1で表される構造と直接連結しているか、又は、構造Aに含まれる他のモノマーに由来する構成単位と連結していることが好ましい。
【0045】
式A1~式A5中、R11及びR12はそれぞれ独立に、メチル基又は水素原子を表す。R11は水素原子が好ましく、R12はメチル基が好ましい。
【0046】
13はそれぞれ独立に、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基を表す。R13は炭素数が1~6のアルキル基が好ましく、炭素数が1~4のアルキル基がより好ましい。
【0047】
nはそれぞれ独立に、0~5の整数である。nは0~3の整数が好ましく、0~2の整数がより好ましく、0または1がさらに好ましく、0が最も好ましい。
【0048】
11はそれぞれ独立に、単結合、炭素数1~18の環構造を有してもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、炭素数6~18のアリーレン基、-O-、-NH-、-S-、-C(=O)-、又は、これらを2個以上連結して形成される2価の連結基を表す。L11がアルキレン基であるとき、炭素数は1~12が好ましく、1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1または2が特に好ましく、1が最も好ましい。また、L11は、-O-、*-O-アルキレン基(*で式中のカルボニル基の炭素原子と結合する。)又は-O-アルキレン基-O-が好ましい。R13におけるアルキル基は無置換アルキル基及び置換アルキル基のいずれでもよいが、置換アルキル基としては、例えば、ハロゲン原子(好ましくは塩素原子)を置換基として有するアルキル基が挙げられる。
【0049】
式A1で表される構成単位としては、例えば、スチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン及びクロロメチルスチレンに由来する構成単位が挙げられる。
【0050】
式A2で表される構成単位としては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート及び2-フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0051】
式A3で表される構成単位としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0052】
式A4で表される構成単位としては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0053】
式A5で表される構成単位としては、例えば、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0054】
構造A中、芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーに由来する構成単位の合計含有量は、耐ブロッキング性を向上させる観点から、構造Aの全量に対して、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーに由来する構成単位の合計含有量の上限値は特に限定されない。同様に、構造A中、式A1~式A5で表される構成単位からなる群より選択される構成単位の合計含有量は、耐ブロッキング性を向上させる観点から、構造Aの全量に対して、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。式A1~式A5で表される構成単位からなる群より選択される構成単位の合計含有量の上限値は特に限定されない。構造Aは、芳香族ビニルモノマー及び脂環式ビニルモノマーに由来する構成単位のみを含むポリマーに由来する構造であってもよい。
【0055】
<構造B>
構造Bは、イオン性基を有するポリマーに由来する構造である。耐擦過性を向上させる観点から、構造Bは、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造、イオン性基を有するポリウレアに由来する構造、イオン性基を有するポリウレタンウレアに由来する構造又はイオン性基を有するポリエステルに由来する構造であることが好ましい。中でも、耐擦過性をより向上させる観点から、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造、イオン性基を有するポリウレタンウレアに由来する構造又はイオン性基を有するポリエステルに由来する構造であることが好ましく、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造又はイオン性基を有するポリウレタンウレアに由来する構造であることがより好ましく、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造であることがさらに好ましい。ポリウレタンは、ウレタン結合を有するため、基材との密着性が高く、耐擦過性に優れる。
【0056】
なお、本開示において、ポリウレタンとは、分子内にウレタン結合を有し、ウレア結合を有しないポリマーのことを意味し、ポリウレタンウレアとは、分子内にウレタン結合及びウレア結合を有するポリマーのことを意味し、ポリウレアとは、分子内にウレア結合を有し、ウレア結合を有しないポリマーのことを意味する。
【0057】
ポリマーにイオン性基を導入する方法としては、例えば、原料としてイオン性基を有する化合物を用いてポリマーを作製する方法が挙げられる。イオン性基を有するポリウレタンは、例えば、ポリイソシアネート、ポリオール、イオン性基を有する化合物等を反応させることにより製造することができる。また、イオン性基を有するポリウレアは、例えば、ポリイソシアネート、ポリアミン、イオン性基を有する化合物等を反応させることにより製造することができる。また、イオン性基を有するポリウレタンウレアは、例えば、ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミン、イオン性基を有する化合物等を反応させることにより製造することができる。また、イオン性基を有するポリエステルは、ポリカルボン酸、ポリオール、イオン性基を有する化合物等を反応させることにより製造することができる。なお、ポリイソシアネート、ポリオール又はポリアミンはイオン性基を有していてもよく、イオン性基を有していなくてもよい。ポリイソシアネート、ポリオール又はポリアミンがイオン性基を有している場合には、イオン性基を有する化合物を用いなくても、ポリマーにイオン性基を導入することができる。
【0058】
イオン性基は、アニオン性を有する官能基又はカチオン性を有する官能基のいずれであってもよいが、分散安定性の観点から、アニオン性を有する官能基、すなわちアニオン性基であることが好ましい。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、硫酸基、ホスホン酸基及びリン酸基が挙げられる。中でも、分散安定性の観点から、カルボキシ基及びスルホ基が好ましい。なお、イオン性基は、中和していてもよく、中和していなくてもよい。
【0059】
イオン性基を有する化合物としては、ポリマーを構成する他の原料との反応性の観点から、イオン性基を有するポリアミン、イオン性基を有するポリオール又はイオン性基を有するジエステルであることが好ましい。イオン性基を有するポリオールとしては、例えば、1個以上のカルボキシ基と2個以上の水酸基とを有する化合物、及び、1個以上のスルホ基と2個以上の水酸基とを有する化合物が挙げられる。
【0060】
具体的には、構造Bは、イオン性基を有する構造単位として、下記式B1で表される構造単位及び下記式B2で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を有することが好ましい。
【0061】
【化8】
【0062】
式B1及び式B2中、*T1は連結部位を示し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Rはメチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0063】
は水素原子又は置換基を表す。Rは水素原子であることが好ましい。Rが置換基である場合、置換基は、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基であることが好ましい。
【0064】
及びLはそれぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表す。L及びLは単結合であることが好ましい。L及びLが2価の連結基である場合、2価の連結基は、炭素数1~10のアルキレン基であることが好ましい。
【0065】
Yはそれぞれ独立に、-C(=O)OM、-S(=O)OM又は-OS(=O)OMを表す。分散安定性の観点から、Yはそれぞれ独立に-C(=O)OMであることが好ましい。
【0066】
Qはそれぞれ独立に、-O-又は-C(=O)-を表す。Qはいずれも-C(=O)-であることが好ましい。
【0067】
Mは水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを表す。Mは水素原子又はアルカリ金属イオンであることが好ましく、水素原子又はナトリウムイオンであることがより好ましい。
【0068】
式B1又は式B2で表される構造単位を有するポリマーを得るために用いられるイオン性基を有する化合物としては、例えば、式B1又は式B2における*T1が水素に置き換えられたジオールが挙げられる。また、式B2においてQが-O-である構造を有するポリマーを得るために用いられるイオン性基を有する化合物としては、式B2における*が水素に置き換えられたジオールが挙げられる。式B2においてQが-C(=O)-である構造を有するポリマーを得るために用いられるイオン性基を有する化合物としては、式B2における*T1がOH又はOCHに置き換えられたジオール又はジエステルが挙げられる。
【0069】
式B1における*T1が水素に置き換えられたジオールとしては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、及び3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸が挙げられる。式B2においてQが-O-であり、*T1が水素に置き換えられたジオールとしては、例えば、3,5-ジヒドロキシ安息香酸が挙げられる。式B2においてQが-C(=O)-であり、*T1がOH又はOCHに置き換えられたジオール又はジエステルとしては、例えば、5-スルホイソフタル酸ナトリウム及び5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムが挙げられる。
【0070】
-イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造-
以下、構造Bが、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造である場合について説明する。
【0071】
構造Bは、イオン性基を有する構造単位として、上記式B1で表される構造単位及び上記式B2で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を含むことが好ましい。特に、構造Bは、式B1で表される構造単位、及び、式B2で表され、Qが-O-である構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を含むことがより好ましい。また、構造Bは、式B1で表される構造単位を含むことがさらに好ましい。式B1及び式B2における好ましい態様は、上記のとおりである。
【0072】
また、構造Bは、さらに、下記式B3で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0073】
構造Bが下記式B3で表される構造単位を含む場合、下記式B3で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0074】
【化9】
【0075】
式B3中、L21は、炭化水素基を表し、*T2は連結部位を示す。
【0076】
式B3で表される構造単位は、式B1で表される構造単位と連結していることが好ましい。また、式B2においてQが-O-であるとき、式B3で表される構造単位は、式B2で表される構造単位と連結していることが好ましい。
【0077】
すなわち、式B3における末端C=Oの炭素原子は、式B1における末端の酸素原子と結合し、ウレタン結合を形成していることが好ましい。また、式B2においてQが-O-であるとき、式B3における末端C=Oの炭素原子は、式B2における末端の酸素原子と結合し、ウレタン結合を形成していることが好ましい。
【0078】
また、式B3で表される構造単位は、構造Bにおいて末端に位置し、式1で表される構造と連結していることが好ましい。すなわち、式B3における末端C=Oの炭素原子は、式1における末端のZと結合していることが好ましい。
【0079】
21で表される炭化水素基としては、例えば、鎖状炭化水素基、及び、環状炭化水素基が挙げられる。中でも、樹脂粒子の外壁となる部分の柔軟性を高め、耐擦過性をより向上させる観点から、L21は鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【0080】
鎖状炭化水素基としては、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、直鎖アルケニレン基、分岐アルケニレン基、直鎖アルキニレン基、分岐アルキニレン基等が挙げられる。中でも、直鎖アルキレン基又は分岐アルキレン基が好ましく、直鎖アルキレン基がより好ましい。
【0081】
炭化水素基の炭素数は、耐擦過性をより向上させる観点から、1~20であることが好ましく、より好ましくは3~10であり、さらに好ましくは4~8である。
【0082】
式B3において、L21は、炭素数1~20の鎖状炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは3~10の直鎖アルキレン基である。
【0083】
式B3で表される構造単位を形成するための化合物は、式B3における2つの「-NH(C=O)-*T2」の部位がそれぞれ、イソシアネート基(-NCO基)に置き換えられた構造を有するジイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0084】
式B3で表される構造単位を形成するためのジイソシアネート化合物としては、例えば、メチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジプロピルエーテルジイソシアネート、2,2-ジメチルペンタンジイソシアネート、3-メトキシヘキサンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルペンタンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、3-ブトキシヘキサンジイソシアネート、1,4-ブチレングリコールジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジヘキシルジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、パラキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;
m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジメチルベンゼンジイソシアネート、エチルベンゼンジイソシアネート、イソプロピルベンゼンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4-ナフタレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネート、2,7-ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;
水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。
【0085】
また、構造Bは、さらに、下記式B4で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0086】
構造Bが下記式B4で表される構造単位を含む場合、下記式B4で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0087】
【化10】
【0088】
式B4中、L22は、炭素数1~20の炭化水素基、又は、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、ポリカプロラクトン鎖、ポリカーボネート鎖、ポリブタジエン鎖、ポリイソプレン鎖、若しくはポリオレフィン鎖からなる重量平均分子量300以上のポリマー鎖を表し、*T3は、連結部位を示す。
【0089】
式B4で表される構造単位は、式B3で表される構造単位と連結していることが好ましい。すなわち、式B4における末端の酸素原子は、式B3における末端C=Oの炭素原子と結合し、ウレタン結合を形成していることが好ましい。
【0090】
22で表される炭化水素基は、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでもよい。酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含む炭化水素基とは、炭化水素基中の少なくとも1つの炭素原子が、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子で置き換えられた構造を有する有機基を意味する。
【0091】
炭化水素基の炭素数は、耐擦過性をより向上させる観点から、1~20であり、好ましくは5~15であり、より好ましくは8~10である。
【0092】
22で表される炭化水素基としては、例えば、鎖状炭化水素基、及び、環状炭化水素基が挙げられる。中でも、樹脂粒子の外壁となる部分の柔軟性を高め、耐擦過性をより向上させる観点から、L22は鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【0093】
鎖状炭化水素基としては、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、直鎖アルケニレン基、分岐アルケニレン基、直鎖アルキニレン基、分岐アルキニレン基等が挙げられる。中でも、直鎖アルキレン基又は分岐アルキレン基が好ましく、分岐アルキレン基がより好ましい。
【0094】
で表されるポリマー鎖の重量平均分子量は、300以上であり、400~50000であることが好ましく、400~10000であることがより好ましく、400~5000であることがさらに好ましい。
【0095】
ポリマー鎖は、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、ポリカプロラクトン鎖、ポリカーボネート鎖、ポリブタジエン鎖、ポリイソプレン鎖、又はポリオレフィン鎖からなる。
【0096】
ポリエーテル鎖としては、ポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリブチレングリコール鎖等が挙げられる。ポリエーテル鎖は、ポリエチレングリコール鎖又はポリプロピレングリコール鎖であることが好ましい。
【0097】
式B4において、L22は、炭素数1~20の鎖状炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは炭素数5~15の分岐アルキレン基である。
【0098】
式B4で表される構造を形成するための化合物は、式B4における*T3が水素原子に置き換えられた構造を有する化合物であることが好ましく、具体的にはポリオールであることがより好ましい。
【0099】
式B4で表され、L22がポリマー鎖である構造を形成するための化合物は、ポリマーポリオールであることが好ましい。
【0100】
ポリマーポリオールは、具体的には、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、又はポリオレフィンポリオールである。
【0101】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、及びエチレンオキシドとブチレンオキシドとの共重合体が挙げられる。
【0102】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートポリオール、ポリブチレンアジペートポリオール、ポリエチレンブチレンアジペートポリオール、ポリへキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートポリオール、ポリブチレンサクシネートポリオール、ポリエチレンセバケートポリオール、ポリブチレンセバケートポリオール、及びポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ポリオールが挙げられる。
【0103】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、直鎖状脂肪族ポリカーボネートポリオール、分岐鎖状脂肪族ポリカーボネートポリオール、主鎖に脂環式構造を有するポリカーボネートポリオール、及び、主鎖に芳香環を有するポリカーボネートポリオールが挙げられる。
【0104】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の炭素数2~9の脂肪族ジオール;
1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン等の炭素数6~12の脂環式ジオール;
トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコールが挙げられる。
【0105】
構造Bは、式B1で表される構造単位、式B3で表される構造単位及び式B4で表される構造単位を含むことが好ましい。構造Bは、樹脂粒子の外壁となる部分の柔軟性を高め、耐擦過性をより向上させる観点から、イオン性基を有する鎖状ポリウレタンに由来する構造であることが好ましい。すなわち、イオン性基を有するポリウレタンは、脂肪族ポリイソシアネート、脂肪族ジオール、及び、イオン性基を有する脂肪族ジオールを反応させることにより製造されることが好ましい。
【0106】
-イオン性基を有するポリウレアに由来する構造-
以下、構造Bが、イオン性基を有するポリウレアに由来する構造である場合について説明する。
【0107】
構造Bは、イオン性基を有する構造単位として、下記式B5で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0108】
構造Bが下記式B5で表される構造単位を含む場合、下記式B5で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0109】
【化11】
【0110】
式B5中、L23は、炭化水素基を表し、*T4は連結部位を示す。
【0111】
23で表される炭化水素基は、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでもよい。
【0112】
23で表される炭化水素基としては、例えば、鎖状炭化水素基、及び、環状炭化水素基が挙げられる。中でも、樹脂粒子の外壁となる部分の柔軟性を高め、耐擦過性をより向上させる観点から、L23は鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【0113】
鎖状炭化水素基としては、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、直鎖アルケニレン基、分岐アルケニレン基、直鎖アルキニレン基、分岐アルキニレン基等が挙げられる。中でも、直鎖アルキレン基又は分岐アルキレン基が好ましく、直鎖アルキレン基がより好ましい。
【0114】
炭化水素基の炭素数は、耐擦過性をより向上させる観点から、1~20であることが好ましく、より好ましくは3~10である。
【0115】
式B5で表される構造単位を形成するための化合物は、式B5における*T4が水素原子に置き換えられた構造単位を有する化合物であることが好ましい。
【0116】
式B5で表される構造単位を形成するための化合物としては、例えば、リシン、ヒドロキシリシン、オルニチン及びアルギニンが挙げられる。
【0117】
また、構造Bは、さらに、下記式B3で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0118】
構造Bが下記式B3で表される構造単位を含む場合、下記式B3で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0119】
【化12】
【0120】
式B3中、L21は、炭化水素基を表し、*T2は連結部位を示す。
【0121】
式B3で表される構造単位は、式B5で表される構造単位と連結していることが好ましい。すなわち、式B3における末端C=Oの炭素原子が、式B5における末端の窒素原子と結合し、ウレア結合を形成していることが好ましい。
【0122】
また、式B3で表される構造単位は、構造Bにおいて末端に位置し、式1で表される構造と連結していることが好ましい。すなわち、式B3における末端C=Oの炭素原子は、式1における末端のZと結合していることが好ましい。
【0123】
式B3における好ましい態様は、上記のとおりである。
【0124】
また、構造Bは、さらに、下記式B6で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0125】
構造Bが下記式B6で表される構造単位を含む場合、下記式B6で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0126】
【化13】
【0127】
式B6中、L24は、炭化水素基を表し、*T5は、連結部位を示す。
【0128】
式B6で表される構造単位は、式B3で表される構造単位と連結していることが好ましい。すなわち、式B6における末端の窒素原子は、式B3における末端C=Oの炭素原子と結合し、ウレア結合を形成していることが好ましい。
【0129】
24で表される炭化水素基は、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでもよい。
【0130】
24で表される炭化水素基としては、例えば、鎖状炭化水素基、及び、環状炭化水素基が挙げられる。中でも、樹脂粒子の外壁となる部分の柔軟性を高め、耐擦過性をより向上させる観点から、L24は鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【0131】
鎖状炭化水素基としては、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、直鎖アルケニレン基、分岐アルケニレン基、直鎖アルキニレン基、分岐アルキニレン基等が挙げられる。中でも、直鎖アルキレン基又は分岐アルキレン基が好ましく、鎖状アルキレン基がより好ましい。
【0132】
式B6で表される構造を形成するための化合物は、式B6における*T5が水素原子に置き換えられた構造を有する化合物であることが好ましく、具体的にはポリアミンであることが好ましい。
【0133】
ポリマーポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレン重合体両末端ジアミン、ポリオキシプロピレン重合体両末端ジアミン、及び、ポリオキシエチレン/オキシプロピレン共重合体両末端ジアミンが挙げられる。
【0134】
低分子量ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、プトレシン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、フェニルジアミン、ナフタレンジアミン、キシレンジアミン及びイソホロンジアミンが挙げられる。
【0135】
構造Bは、式B3で表される構造単位、式B5で表される構造単位及び式B6で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0136】
-イオン性基を有するポリウレタンウレアに由来する構造-
以下、構造Bが、イオン性基を有するポリウレタンウレアに由来する構造である場合について説明する。
【0137】
構造Bは、イオン性基を有する構造単位として、上記式B1で表される構造単位及び上記式B2で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を含むことが好ましい。特に、構造Bは、式B1で表される構造単位、及び、式B2で表され、Qが-O-である構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を含むことがより好ましい。また、構造Bは、式B1で表される構造単位を含むことがさらに好ましい。式B1及び式B2における好ましい態様は、上記のとおりである。
【0138】
また、構造Bは、さらに、下記式B3で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0139】
構造Bが下記式B3で表される構造単位を含む場合、下記式B3で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0140】
【化14】
【0141】
式B3中、L21は、炭化水素基を表し、*T2は連結部位を示す。
【0142】
式B3で表される構造単位は、式B1で表される構造単位と連結していることが好ましい。また、式B2においてQが-O-であるとき、式B3で表される構造単位は、式B2で表される構造単位と連結していることが好ましい。
【0143】
すなわち、式B3における末端C=Oの炭素原子は、式B1における末端の酸素原子と結合し、ウレタン結合を形成していることが好ましい。また、式B2においてQが-O-であるとき、式B3における末端C=Oの炭素原子は、式B2における末端の酸素原子と結合し、ウレタン結合を形成していることが好ましい。
【0144】
また、式B3で表される構造単位は、構造Bにおいて末端に位置し、式1で表される構造と連結していることが好ましい。すなわち、式B3における末端C=Oの炭素原子は、式1における末端のZと結合していることが好ましい。
【0145】
式B3における好ましい態様は、上記のとおりである。
【0146】
また、構造Bは、さらに、下記式B4で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0147】
構造Bが下記式B4で表される構造単位を含む場合、下記式B4で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0148】
【化15】
【0149】
式B4中、L22は、炭素数1~20の炭化水素基、又は、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、ポリカプロラクトン鎖、ポリカーボネート鎖、ポリブタジエン鎖、ポリイソプレン鎖、若しくはポリオレフィン鎖からなる重量平均分子量300以上のポリマー鎖を表し、*T3は、連結部位を示す。
【0150】
式B4で表される構造単位は、式B3で表される構造単位と連結していることが好ましい。すなわち、式B4における末端の酸素原子は、式B3における末端C=Oの炭素原子と結合し、ウレタン結合を形成していることが好ましい。
【0151】
式B4における好ましい態様は、上記のとおりである。
【0152】
また、構造Bは、さらに、下記式B6で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0153】
構造Bが下記式B6で表される構造単位を含む場合、下記式B6で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0154】
【化16】
【0155】
式B6中、L24は、炭化水素基を表し、*T5は、連結部位を示す。
【0156】
式B6で表される構造単位は、式B3で表される構造単位と連結していることが好ましい。すなわち、式B6における末端の窒素原子は、式B3における末端C=Oの炭素原子と結合し、ウレア結合を形成していることが好ましい。
【0157】
式B6における好ましい態様は、上記のとおりである。
【0158】
構造Bは、式B1で表される構造単位、式B3で表される構造単位及び式B6で表される構造単位を含むか、又は、式B1で表される構造単位、式B3で表される構造単位、式B4で表される構造単位及び式B6で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0159】
-イオン性基を有するポリエステルに由来する構造-
以下、構造Bが、イオン性基を有するポリエステルに由来する構造である場合について説明する。
【0160】
構造Bは、イオン性基を有する構造単位として、上記式B1で表される構造単位及び上記式B2で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を含むことが好ましい。特に、構造Bは、式B2で表され、Qが-C=O-である構造単位を含むことがより好ましい。式B1及び式B2における好ましい態様は、上記のとおりである。
【0161】
また、構造Bは、さらに、下記式B7で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0162】
構造Bが下記式B7で表される構造単位を含む場合、下記式B7で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0163】
【化17】
【0164】
式B7中、L25は、炭化水素基を表し、*T6は、連結部位を示す。
【0165】
式B7で表される構造単位は、式B1で表される構造単位と連結していることが好ましい。すなわち、式B7における末端C=Oの炭素原子は、式B1における末端の酸素原子と結合し、エステル結合を形成していることが好ましい。また、式B7で表される構造単位は、式B2で表され、Qが-O-である構造単位と連結していることが好ましい。すなわち、式B7における末端C=Oの炭素原子は、式B2における末端の酸素原子と結合し、エステル結合を形成していることが好ましい。
【0166】
また、式B7で表される構造単位は、式1で表される構造と連結していることが好ましい。すなわち、式B7における末端C=Oの炭素原子は、式1における末端のZと結合していることが好ましい。
【0167】
25で表される炭化水素基は、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでもよい。
【0168】
25で表される炭化水素基としては、例えば、鎖状炭化水素基、及び、環状炭化水素基が挙げられる。中でも、L25は環状炭化水素基であることが好ましい。
【0169】
環状炭化水素基としては、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。中でも、芳香族炭化水素基がより好ましい。
【0170】
式B7で表される構造を形成するための化合物は、式B7における*T6がOHに置き換えられた構造を有する化合物であることが好ましく、具体的にはジカルボン酸であることが好ましい。
【0171】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0172】
また、構造Bは、さらに、下記式B4で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0173】
構造Bが下記式B4で表される構造単位を含む場合、下記式B4で表される構造単位は1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0174】
【化18】
【0175】
式B4中、L22は、炭素数1~20の炭化水素基、又は、ポリエーテル鎖、ポリエステル鎖、ポリカプロラクトン鎖、ポリカーボネート鎖、ポリブタジエン鎖、ポリイソプレン鎖、若しくはポリオレフィン鎖からなる重量平均分子量300以上のポリマー鎖を表し、*T3は、連結部位を示す。
【0176】
式B4で表される構造単位は、式B7で表される構造単位と連結していることが好ましい。すなわち、式B4における末端の酸素原子は、式B7における末端C=Oの炭素原子と結合し、エステル結合を形成していることが好ましい。
【0177】
式B4における好ましい態様は、上記のとおりである。
【0178】
構造Bは、式B2で表される構造単位、式B4で表される構造単位及び式B7で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0179】
<式1で表される構造>
樹脂粒子において、構造Aと構造Bとは、下記式1で表される構造を介して連結している。式1中、*Aは構造Aとの連結部位を示し、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは-O-又は-NH-を表し、Lは炭素数1~40の2価の連結基を表し、Zは-O-又は-NH-を表し、mは1~3の整数を表し、nは1~3の整数を表す。Z及びXは、Lを構成するいずれかの原子と結合していればよい。nが2又は3である場合、Zは互いに同じあっても異なっていてもよい。例えば、nが2である場合、Lと結合するZのうち一方が-O-で他方が-NH-であってもよい。
【0180】
【化19】
【0181】
樹脂粒子に式1で表される構造を導入する方法について、樹脂粒子の製造方法の一例と共に説明する。
【0182】
まず、構造Bを形成するための原料と、下記式5で表されるモノマーとを混合する。例えば、構造Bとして、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造を形成するための原料は、ポリイソシアネート、ポリオール、イオン性基を有する化合物等である。構造Bを形成するための原料と、式5で表されるモノマーとを反応させると、下記式6で表される構造及び構造Bとを有する化合物が得られる。式5及び式6中、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは-O-又は-NH-を表し、Lは炭素数1~40の2価の連結基を表し、Zは-O-又は-NH-を表し、mは1~3の整数を表し、nは1~3の整数を表す。また、式6中、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Z及びXは、Lを構成するいずれかの原子と結合していればよい。nが2又は3である場合、Zは互いに同じあっても異なっていてもよい。例えば、nが2である場合、Lと結合するZのうち一方が-O-で他方が-NH-であってもよい。
【0183】
【化20】
【0184】
【化21】
【0185】
次に、式6で表される構造及び構造Bを有する化合物と、構造Aを形成するための原料となるビニルモノマー等とを混合する。重合反応を行うと、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、構造Aと構造Bとが式1で表される構造を介して連結している樹脂粒子が得られる。
【0186】
式5で表され、Zが-O-であり、nが1又は2であるモノマーとしては、例えば、以下の化合物が挙げられる。なお、化合物(a-3)、(a-10)及び(a-12)におけるnは、1~90から選ばれる整数のいずれであってもよい。
【0187】
【化22】
【0188】
式5で表され、Zが-O-であり、nが3であるモノマーとしては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0189】
【化23】
【0190】
式5で表され、Zの少なくとも1つが-NH-であるモノマーとしては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0191】
【化24】
【0192】
式5で表されるモノマーとしては、上市されている市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社製)、4-ヒドロキシブチルアクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート(以上、日本化成社製)、ポリエチレングリコールモノアクリレート(製品名「ブレンマー(登録商標)AE-90U(n=2)、AE-200(n=4.5)、AE-400(n=10))、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(製品名「ブレンマー(登録商標)AP-150(n=3)、AP-400(n=6)、AP-550(n=9)、AP-800(n=13)(以上、日油社製)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学社製)、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(製品名「ブレンマー(登録商標)PE-90(n=2)、PE-200(n=4.5)、PE-350(n=8)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(PP-1000(n=4~6)、PP-500(n=9)、PP-800(n=13)(以上、日油社製))、ペンタエリスリトールトリアクリレート(トリエステル55%)(製品名「A-TMM-3L」、新中村化学工業社製)及びジペンタエリスリトールペンタアクリレート(製品名「SR-399E」、サートマー社製)が挙げられる。
【0193】
耐擦過性及び耐ブロッキング性を向上させる観点から、式1中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは-O-を表し、Lは炭素数1~20の2価の連結基を表し、Zは-O-を表し、nは1又は2を表すことが好ましい。
【0194】
さらに、式1は、耐擦過性及び耐ブロッキング性を向上させる観点から、下記式4で表されることが好ましい。式4中、*Aは構造Aとの連結部位を示し、*Bは構造Bとの連結部位を示す。Rは水素原子又はメチル基を表し、pは0又は1を表す。
【0195】
【化25】
【0196】
すなわち、式5で表されるモノマーは、グリセリンモノ(メタ)アクリレート又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0197】
本開示において、樹脂粒子は、式1で表される構造を1mol%~30mol%含むことが好ましい。式1で表される構造が上記含有量で存在すると、構造Aと構造Bとの距離が適当であり、耐擦過性と耐ブロッキング性とを両立させることができる。
【0198】
インク組成物中の樹脂粒子の含有量は、インク組成物の全質量に対し、1質量%~15質量%であることが好ましく、3質量%~10質量%がより好ましい。樹脂粒子の含有量が1質量%以上であると、耐擦過性と耐ブロッキング性とを両立させる効果が高い。樹脂粒子の含有量が15質量%以下であると、吐出安定性が良い。
【0199】
<樹脂粒子の物性>
本開示の樹脂粒子は、構造Bがイオン性基を有するポリマーに由来する構造であるため、インク組成物中において、構造Aが樹脂粒子の内部に位置し、構造Bが樹脂粒子の表面に位置する形態を有している。構造Aは、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造であるため、硬く、耐ブロッキング性を向上させる効果が高い。一方、構造Bは、例えば、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造である場合、柔らかく、耐擦過性を向上させる効果が高い。インク組成物を記録媒体上に付与すると、インク組成物に含まれる水、溶剤等が記録媒体に吸収されると共に、蒸発することで、インク組成物に含まれる色材が記録媒体上に固着する。このとき、インク組成物に含まれる樹脂粒子が色材を覆うようにして固着していく。本開示では、構造Aと構造Bとが式1で表される構造を介して連結しているため、樹脂粒子における構造Aが色材を覆うことで耐ブロッキング性が向上し、樹脂粒子における構造Bがさらに色材を覆うことで耐擦過性が向上し、2つの特性を両立できたと考えられる。従来のインク組成物のように、コアシェル型の樹脂粒子を含む場合には、インク組成物を記録媒体上に付与すると、コア部とシェル部とが連結していないため、記録媒体上でコア部が露出する。アクリル樹脂で構成されるコア部は耐擦過性の機能を有しないため、シェル部が耐擦過性の機能を有していたとしても、耐擦過性が低下すると考えられる。また、記録媒体上でコア部が露出することにより、コア部が耐ブロッキング性の機能を有していたとしても、その機能を発揮することができなかった。したがって、耐擦過性と耐ブロッキング性とを両立させることができなかった。
【0200】
樹脂粒子の平均粒径は、インク組成物の吐出性の観点から1nm~400nmであることが好ましく、5nm~300nmであることがより好ましく、20nm~200nmであることがさらに好ましく、20nm~100nmであることがさらに好ましく、20nm~50nmであることがさらに好ましい。なお、平均粒径は、ナノトラック粒度分布測定装置(製品名「UPA-EX150」、日機装社製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0201】
樹脂粒子の重量平均分子量は、5,000~2,000,000が好ましく、より好ましくは7,000~150,0000、さらに好ましくは8,000~1,200,000である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される。GPCとして、HLC-8220GPC(東ソー社製)を用い、カラムとして、TSKgeL Super HZM-H、TSKgeL Super HZ4000及びTSKgeL Super HZ2000(東ソー社製、4.6mmID×15cm)の3本を用い、溶離液としてN-メチルピロリドンを用いて測定する。重量平均分子量(Mw)はポリスチレン換算により算出する。
【0202】
<樹脂粒子の調製方法>
本開示で用いる樹脂粒子は、例えば、以下の方法で調製することができる。
まず、構造Bを形成するための原料と、上記式5で表されるモノマーとを混合する。これにより、上記式6で表される構造及び構造Bを有する化合物が得られる。
【0203】
次に、式6で表される構造及び構造Bを有する化合物と、構造Aを形成するための原料とを混合する。このとき、式6で表される構造及び構造Bを有する化合物と、構造Aを形成するための原料との混合比率は、質量基準で30:70~70~30であることが好ましく、より好ましくは40:60~60:40である。混合比率を上記範囲にすることで、構造Aと構造Bとの質量比率を同程度にすることができ、構造Aの有する特性と、構造Bの有する特性とを発揮させる効果が高い。すなわち、耐擦過性と耐ブロッキング性とを両立させる効果が高い。
【0204】
次に、乳化重合を行う。乳化重合を行うと、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、構造Aと構造Bとが式1で表される構造を介して連結している樹脂粒子が得られる。乳化重合法は、水性媒体(例えば、水)中にモノマー、重合開始剤、乳化剤、及び、必要に応じて連鎖移動剤を加えて調製した乳化物を重合させることで樹脂粒子を調製する方法である。乳化重合法を本開示で用いる樹脂粒子の調製に適用する場合、ビニルモノマーは、乳化剤としても機能する。したがって、ビニルモノマー以外に乳化剤を別途添加する必要はないが、吐出性、凝集性等を低下させない範囲であれば、既知の乳化剤を別途添加してもよい。
【0205】
重合開始剤は、特に限定されず、無機過硫酸塩(例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等)、アゾ系開始剤(例えば、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等)、有機過酸化物(例えば、ペルオキシピバル酸-t-ブチル、t-ブチルヒドロペルオキシド、二こはく酸ペルオキシド等)、又はそれらの塩を用いることができる。重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、アゾ系開始剤又は有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0206】
重合開始剤の使用量としては、モノマー全量に対して、通常0.01質量%~5質量%であり、好ましくは0.2質量%~2質量%である。
【0207】
(色材)
本開示のインク組成物は、色材を含む。色材は、染料及び顔料のいずれであってもよいが、耐熱性、耐光性、耐水性等の耐久性の観点からは、顔料であることが好ましい。
【0208】
顔料の種類は、特に限定されず、通常の有機顔料又は無機顔料を用いることができる。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、及びアニリンブラックが挙げられる。
【0209】
アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及びキレートアゾ顔料が挙げられる。
【0210】
多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、及びキノフタロン顔料が挙げられる。
【0211】
染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、及び酸性染料型キレートが挙げられる。
【0212】
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、及びカーボンブラックが挙げられる。
【0213】
顔料の具体例としては、特開2007-100071号公報の段落番号0142~0145に記載の顔料が挙げられる。
【0214】
顔料の体積平均粒径は、10nm~200nmが好ましく、10nm~150nmがより好ましく、10nm~100nmがさらに好ましい。体積平均粒径が200nm以下であると、色再現性が良好になり、インクジェット記録方式を用いて付与する場合には打滴特性が良好になる。また、体積平均粒径が10nm以上であることで、耐光性が良好になる。インク組成物中の顔料の体積平均粒径は、公知の方法で測定することができる。具体的には、遠心沈降光透過法、X線透過法、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法により測定することができる。
【0215】
また、顔料の粒径分布は、特に限定されず、広い粒径分布及び単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を、2種以上混合して用いてもよい。
【0216】
顔料は、分散剤によって水性媒体中に分散させた顔料分散液とし、顔料分散液をインク組成物に含有させてもよい。
【0217】
分散剤としては、ポリマー分散剤及び低分子の界面活性剤型分散剤のいずれであってもよい。また、ポリマー分散剤としては、水溶性ポリマー分散剤及び水不溶性ポリマー分散剤のいずれであってもよい。
【0218】
低分子の界面活性剤型分散剤については、例えば、特開2011-178029号公報の段落0047~0052に記載された公知の低分子の界面活性剤型分散剤を用いることができる。
【0219】
ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、例えば、親水性高分子化合物が挙げられる。天然の親水性高分子化合物としては、例えば、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子;アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子;ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子;キサンタンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
【0220】
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレ等の海藻系高分子等が挙げられる。
【0221】
さらに、合成系の親水性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子;非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂;水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、及び水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂が挙げられる。
【0222】
中でも、(メタ)アクリル酸のホモポリマー、及び(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの共重合体のように、カルボキシ基が導入された親水性高分子化合物が好ましい。
【0223】
水不溶性ポリマー分散剤は、水不溶性のポリマーであって、顔料を分散可能であれば特に限定されず、従来公知の水不溶性ポリマー分散剤を用いることができる。水不溶性ポリマー分散剤は、疎水性モノマー由来の構成単位と親水性モノマー由来の構成単位の両方を含む構造であることが好ましい。
【0224】
水不溶性ポリマー分散剤として、具体的には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0225】
水不溶性ポリマー分散剤は、顔料の分散安定性の観点から、カルボキシ基を含むビニルポリマーであることが好ましい。さらに、疎水性モノマーに由来する構成単位として芳香族基含有モノマーに由来する構成単位と、親水性モノマーに由来する構成単位としてカルボキシ基を含むモノマーに由来する構成単位とを有するビニルポリマーであることがより好ましい。
【0226】
また、ポリマー分散剤は、経時安定性の観点から、水溶性ポリマーを架橋剤で架橋した架橋ポリマーであることが好ましい。水溶性ポリマーは、分子内に架橋剤と反応し得る官能基を有している。このような官能基としては、特に限定されないが、カルボキシ基、イソシアナート基及びエポキシ基が挙げられる。中でも、分散安定性の観点から、カルボキシ基であることが好ましい。したがって、水溶性ポリマーは、カルボキシ基含有モノマーと、他のモノマーとの共重合体であることがより好ましい。
【0227】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチルアクリレート、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びクロトン酸が挙げられる。中でも、架橋性及び分散安定性の観点から、(メタ)アクリル酸及びβ-カルボキシエチルアクリレートが好ましい。カルボキシ基含有モノマーと共重合させる他のモノマーは、分散安定性の観点から、芳香族基含有ビニルモノマーであることが好ましい。芳香族基含有ビニルモノマーとしては、例えば、芳香族(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリルアミド、スチレン系モノマー、芳香族ビニルエーテル、芳香族ビニルケトン及び芳香族マレイミドが挙げられる。中でも、分散安定性の観点から、芳香族(メタ)アクリレート又はスチレン系モノマーであることが好ましい。芳香族(メタ)アクリレート及びスチレン系モノマーとしては、具体的には上述したものが挙げられる。
【0228】
架橋剤は、2つ以上の反応性基を有する化合物である。架橋剤は、カルボキシ基との反応性に優れる点で、2官能以上のエポキシ化合物であることが好ましい。2官能以上のエポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-へキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0229】
顔料が架橋ポリマーで分散された顔料分散液は、顔料を水溶性ポリマーを用いて分散した後、水溶性ポリマー同士を架橋剤で架橋することにより調製することができる。例えば、以下の方法によって調製することができる。
【0230】
まず、顔料及び水溶性ポリマーを、水又は極性溶媒の水溶液中で分散処理を行い、顔料が水溶性ポリマーで分散された顔料分散液を得る。このとき、顔料表面は、水溶性ポリマーで被覆されていると考えられる。
次に、顔料分散液に架橋剤を加えて加熱して、水溶性ポリマー同士を架橋剤で架橋する。架橋ポリマーが生成し、顔料が架橋ポリマーで分散された顔料分散液を得る。このとき、顔料表面は、架橋ポリマーで被覆されていると考えられる。
最後に、未反応の架橋剤等を除去するために、精製処理を行う。
【0231】
顔料が架橋ポリマーで分散された顔料分散液は、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、Projet Yellow APD1000、Projet Magenta APD1000、Projet Cyan APD1000及びProjet Black APD1000(いずれもFUJIFILM Imaging Colorants社製)が挙げられる。
【0232】
また、ポリマー分散剤の重量平均分子量は、顔料の分散安定性の観点から、3,000~200,000が好ましく、より好ましくは5,000~100,000、さらに好ましくは5,000~80,000、特に好ましくは10,000~60,000である。なお、ポリマー分散剤の重量平均分子量は、樹脂粒子の重量平均分子量と同様の方法で測定することができる。
【0233】
インク組成物中の色材の含有量は、画像濃度及び保存安定性の観点から、インク組成物の全質量に対し、1質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~10質量%がより好ましい。
【0234】
(水)
本開示のインク組成物は、水を含有する。水は、イオン交換水、蒸留水等のイオン性不純物を含まない水であることが好ましい。インク組成物中の水の含有量は、特に限定されないが、インク組成物の全質量に対し、10質量%~95質量%であることが好ましく、より好ましくは30質量%~80質量%であり、さらに好ましくは50質量%~70質量%である。
【0235】
(有機溶剤)
本開示のインク組成物は、有機溶剤を含むことが好ましい。インク組成物に有機溶剤を含有させることで、乾燥防止、湿潤又は浸透促進の効果を得ることができる。有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0236】
有機溶剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、及び1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール);
エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1~4のアルキルアルコール;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテルが挙げられる。
【0237】
インク組成物中における有機溶剤の含有量は、インク組成物の全質量に対し、1質量%~60質量%であることが好ましく、より好ましくは5質量%~40質量%であり、さらに好ましくは7質量%~30質量%である。
【0238】
(界面活性剤)
本開示のインク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を含有させることにより、インク組成物の表面張力を調整することができる。
【0239】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を用いることができる。界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0240】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム及びt-オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩が挙げられる。
【0241】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、アセチレンジオールのエチレンオキサイド付加物等のアセチレンジオール誘導体、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t-オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール及びノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノールが挙げられる。
【0242】
中でも、インク組成物の保存安定性の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレンジオール誘導体がより好ましい。
【0243】
インク組成物中の界面活性剤の含有量は、インク組成物の全質量に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%~10質量%であり、さらに好ましくは0.2質量%~3質量%である。
【0244】
(他の成分)
本開示のインク組成物は、必要に応じて、乾燥防止剤(膨潤剤)、着色防止剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、粘土調整剤、pH調製剤、キレート剤等の添加剤を含有してもよい。
【0245】
(インク組成物の物性)
本開示において、インク組成物の粘度は特に限定されないが、インクジェット記録方式で吐出する場合には、吐出安定性の観点から30mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mPa・s~20mPa・s、さらに好ましくは1mPa・s~15mPa・sである。なお、インク組成物の粘度は回転式粘度計、例えば、東機産業社製の製品名「VISCOMETER TV-22」を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0246】
本開示において、インク組成物の表面張力は特に限定されないが、例えば、25mN/m以上であることが好ましく、より好ましくは25mN/m~60mN/mであり、さらに好ましくは25mN/m~45mN/mである。インク組成物の表面張力は、例えば、インク組成物に含有させる界面活性剤の種類及び含有量によって調整することができる。なお、インク組成物の表面張力は表面張力計、例えば、協和界面科学株式会社製の製品名「全自動表面張力計CBVP-Z」を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0247】
本開示において、インク組成物のpHは特に限定されないが、保存安定性の観点から、25℃におけるpHが6~11であることが好ましい。後述のインクセットとする場合は、前処理液との接触によってインク組成物が迅速に凝集することが好ましいため、25℃におけるpHが7~10であることがより好ましく、7~9であることがさらに好ましい。
【0248】
[インクセット]
本開示のインク組成物は、インク組成物を凝集させる前処理液と組み合わせてインクセットとしてもよい。すなわち、本開示のインクセットは、インク組成物と、前処理液とを含む。
【0249】
(前処理液)
前処理液は、本開示のインク組成物と接触することでインク組成物に含まれる色材を凝集させる成分(以下、「凝集成分」ともいう。)を含有する。凝集成分としては、例えば、酸性化合物、多価金属塩及びカチオン性ポリマーが挙げられ、中でも、酸性化合物であることが好ましい。前処理液は、凝集成分の他に、必要に応じて他の成分を含んでもよい。
【0250】
-酸性化合物-
酸性化合物は、記録媒体上においてインク組成物と接触することにより、インク組成物に含まれる色材を凝集させることができるものである。例えば、酸性化合物を含む前処理液を記録媒体に付与した後、記録媒体にインク組成物を付与することにより、インク組成物に含まれる色材を凝集させることができ、色材を記録媒体上に固定化することができる。
【0251】
酸性化合物としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、シュウ酸及び安息香酸が挙げられる。
【0252】
揮発抑制と溶媒への溶解性の両立という観点から、酸性化合物は分子量35以上1000以下の酸が好ましく、分子量50以上500以下の酸がさらに好ましく、分子量50以上200以下の酸が特に好ましい。また、インク画像の滲み防止の観点から、酸性化合物はpKa(in HO、25℃)-10以上7以下の酸が好ましく、pKa1以上7以下の酸がより好ましく、pKa1以上5以下の酸が特に好ましい。前処理液には、酸性化合物を、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0253】
pKaはAdvanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(1994-2014 ACD/Labs)による計算値、又は文献値(例えば、J.Phys.Chem.A 2011,115,6641-6645)に記載の値を用いることができる。
【0254】
中でも、記録媒体上に色材を固定化する観点から、3価以下の酸性化合物が好ましく、2価又は3価の酸性化合物が特に好ましい。
【0255】
前処理液が酸性化合物を含む水溶液である場合、前処理液のpH(25℃)は、0.1~6.8であることが好ましく、0.1~6.0であることがより好ましく、0.1~5.0であることがさらに好ましい。
【0256】
前処理液が凝集成分として酸性化合物を含む場合、前処理液中の酸性化合物の含有量は、前処理液の全質量に対し、40質量%以下であることが好ましく、15質量%~40質量%がより好ましく、15質量%~35質量%がさらに好ましく、20質量%~30質量%が特に好ましい。前処理液中の酸性化合物の含有量を15質量%~40質量%とすることで色材をより効率的に固定化することができる。
【0257】
前処理液が凝集成分として酸性化合物を含む場合、前処理液の記録媒体への付与量は、インク組成物に含まれる色材を凝集させることができれば特に限定されないが、色材の固定化しやすさの観点から、酸性化合物の付与量が0.5g/m~4.0g/mとなるように前処理液を付与することが好ましく、0.9g/m~3.75g/mとなるように前処理液を付与することが好ましい。
【0258】
-多価金属塩-
前処理液は、凝集成分として1種又は2種以上の多価金属塩を含む形態であってもよい。凝集成分として多価金属塩を含有させることで、高速凝集性を向上させることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)の塩、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)の塩、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)の塩、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸塩、酢酸塩、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好ましい。中でも、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸)のカルシウム塩又はマグネシウム塩;硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩;塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩であることが好ましい。
【0259】
前処理液が凝集成分として多価金属塩を含む場合、前処理液中の多価金属塩の含有量は、凝集効果の観点から、前処理液の全質量に対し、1質量%~10質量%であることが好ましく、より好ましくは1.5質量%~7質量%であり、さらに好ましくは2質量%~6質量%の範囲である。
【0260】
-カチオン性ポリマー-
また、前処理液は、凝集成分として1種又は2種以上のカチオン性ポリマーを含む形態であってもよい。カチオン性ポリマーは、第一級~第三級アミノ基、又は第四級アンモニウム塩基を有するカチオン性モノマーの単独重合体、カチオン性モノマーと非カチオン性モノマーとの共重合体又は縮重合体であることが好ましい。カチオン性ポリマーとしては、水溶性ポリマー又は水分散性ラテックス粒子のいずれの形態で用いてもよい。
カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルピリジン塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリビニルイミダゾール、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、ポリグアニド、ポリアリルアミン及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0261】
カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、前処理液の粘度の観点から、小さい方が好ましい。前処理液をインクジェット記録方式で記録媒体に付与する場合には、1,000~500,000が好ましく、1,500~200,000がより好ましく、さらに好ましくは2,000~100,000である。重量平均分子量が1000以上であると凝集速度の観点で有利である。重量平均分子量が500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。ただし、前処理液をインクジェット記録方式以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0262】
前処理液が凝集成分としてカチオン性ポリマーを含む場合、前処理液中のカチオン性ポリマーの含有量は、凝集効果の観点から、前処理液の全質量に対し、1質量%~50質量%であることが好ましく、より好ましくは2質量%~30質量%であり、さらに好ましくは2質量%~20質量%の範囲である。
【0263】
[画像記録方法]
本開示の画像記録方法は、インク組成物をインクジェット記録方式で記録媒体上に付与して画像を記録する画像記録工程を含む。インク組成物としては、上記のものを用いることができる。
【0264】
<記録媒体>
本開示の画像記録方法に用いる記録媒体は、特に限定されないが、低吸水性記録媒体又は非吸水性記録媒体であることが好ましい。
【0265】
低吸水性又は非吸水性は、記録媒体による水の吸収度合を示すものである。本開示において、「非吸水性記録媒体」とは、水の吸収係数Kaが0.05mL/m・ms1/2未満の記録媒体を意味する。「低吸水性記録媒体」とは、水の吸収係数Kaが0.05mL/m・ms1/2~0.5mL/m・ms1/2の記録媒体を意味する。
【0266】
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機社製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0267】
記録媒体は、紙媒体であることが好ましい。すなわち、記録媒体は、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。
【0268】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙社製の「OKプリンス上質」、日本製紙社製の「しらおい」、日本製紙社製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A);日本製紙社製の「シルバーダイヤ」等の上質コート紙;王子製紙社製の「OKエバーライトコート」、日本製紙社製の「オーロラS」等の微塗工紙;王子製紙社製の「OKコートL」、日本製紙社製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3);王子製紙社製の「OKトップコート+」及び日本製紙社製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2);王子製紙社製の「OK金藤+」、三菱製紙社製の「特菱アート」等のアート紙(A1)が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0269】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙(コート紙)が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙、中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。特に、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙が好ましい。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙又は微塗工紙がより好ましい。
【0270】
<画像記録工程>
画像記録工程では、インク組成物をインクジェット記録方式で記録媒体上に付与して画像を記録する。
【0271】
インクジェット記録方式は、通常公知の方式を用いることができ、例えば、静電誘引力を利用してインク組成物を吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインク組成物に照射して放射圧を利用してインク組成物を吐出させる音響インクジェット方式、及びインク組成物を加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式が挙げられる。
【0272】
一般に、インクジェット記録装置による画像記録方式には、短尺のシリアルヘッドを用いて画像記録を行うシャトルスキャン方式(「シリアルヘッド方式」ともいう)と、記録媒体の幅方向の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いて画像記録を行うシングルパス方式(「ラインヘッド方式」ともいう)とがある。シャトルスキャン方式では、シリアルヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら画像記録を行う。これに対して、シングルパス方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行うことができる。そのため、シングルパス方式では、シャトルスキャン方式と異なり、シリアルヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、シングルパス方式では、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要となり、記録媒体のみが移動するので、シャトルスキャン方式と比較して記録速度を上げることができる。
【0273】
インクジェットヘッドから吐出されるインク組成物の打滴量は、画質担保の観点から、1pL(ピコリットル)~10pLであることが好ましく、より好ましくは1.5pL~6pLである。なお、打滴量とは、インクジェット記録方式により1個のノズルから1回に吐出されるインクの体積を意味する。
【0274】
本開示では、記録媒体上にインク組成物を直接付与してもよく、記録媒体上にあらかじめ前処理液を付与した後にインク組成物を付与してもよいが、工程の簡便さから前者であることが好ましい。前処理液としては、上記のものを用いることができる。
【0275】
前処理液の付与は、塗布法、浸漬法、インクジェット記録方式等の公知の方法を適用して行うことができる。塗布法は、例えば、バーコーター、エクストルージョンコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター又はリバースロールコーターを用いて行われる。本開示では、精密な画像を記録することが可能であるという観点から、インクジェット記録方式で付与することが好ましい。
【0276】
前処理液を付与する領域は、記録媒体全体であっても、インク組成物が付与される領域のみであってもよい。
【0277】
本開示の画像記録方法は、記録媒体上に付与されたインク組成物を乾燥させる工程をさらに有していてもよい。乾燥方法は特に限定されず、乾燥装置、乾燥温度、乾燥時間等を適宜選択することができる。
【実施例
【0278】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、「%」は、「質量%」を意味する。
【0279】
[樹脂粒子の作製]
<樹脂粒子(P-1)>
グリセリンモノメタクリレート、ジメチロールプロピオン酸、ヘキサメチレンジイソシアネート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールの質量比率が22:9:53:16となるように、各成分を混合した。具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、酢酸エチル176.3g、グリセリンモノメタクリレート(製品名「ブレンマーGLM」、日油株式会社製)57.7g、ジメチロールプロピオン酸24.4g、ヘキサメチレンジイソシアネート141.0g、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール41.4g、tert-ブチル-p-ヒドロキノン7.0mgを入れ、窒素気流下で70℃まで昇温した。無機ビスマス触媒(製品名「ネオスタンU-600」、日東化成株式会社製)0.04gを加え、5時間撹拌した。得られた反応物に2-プロパノール185g及び酢酸エチル256gを加え、さらに3時間撹拌した。これにより、下記式6で表される構造及び構造Bを有し、式6において、Rはメチル基、Xは-O-、Lは-CH-CH-CH-、Zは-O-、mは1、nは2を表し、構造Bは、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造である、固形分濃度30質量%のポリウレタン(B-1)溶液を得た。
【0280】
【化26】
【0281】
次に、ポリウレタン(B-1)と、イソボルニルメタクリレート及びベンジルメタクリレートとの質量比率が50:50であり、イソボルニルメタクリレートとベンジルメタクリレートとの質量比率が50:50となるように、各成分を混合した。具体的には、ポリウレタン(B-1)溶液(固形分濃度30質量%)163g、イソボルニルメタクリレート25.0g、ベンジルメタクリレート25.0g、酢酸エチル85.6g、ドデカンチオール0.1g、1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液123g及び水243gを混合し、高速ホモジナイザーを用い、18000rpmで10分間撹拌し、乳化した。得られた溶液を撹拌しながら、50℃に加熱することで酢酸エチル及び2-プロパノールを除去し、モノマー含有ポリウレタン粒子(MB-1)溶液を得た。
【0282】
モノマー含有ポリウレタン粒子(MB-1)溶液を500mL三口フラスコに入れ、窒素気流下で80℃まで昇温した。過硫酸アンモニウム0.33g、炭酸水素ナトリウム0.25g及び水20gからなる混合溶液を加え、3時間撹拌した。得られた反応混合物を網目50μmのメッシュでろ過した。これにより、構造Aと構造Bとを有し、構造Aと構造Bとは、下記式1で表される構造を介して連結しており、式1において、Rはメチル基、Xは-O-、Lは-CH-CH-CH-、Zは-O-、mは1、nは2を表し、構造Aは、イソボルニルメタクリレートに由来する構成単位とベンジルメタクリレートに由来する構成単位とを有し、構造Bは、イオン性基を有するポリウレタンに由来する構造を有しており、イオン性基を有する構造単位としてジメチロールプロピオン酸に由来する構造単位と、その他の構造単位としてヘキサメチレンジイソシアネート及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールに由来する構造単位を有する、樹脂粒子(P-1)の水分散液を得た。得られた樹脂粒子(P-1)の水分散液は、固形分濃度が22質量%、体積平均粒径が60nmであった。なお、体積平均粒径は、粒子径分布測定装置(製品名「マイクロトラックUPA EX-150」、日機装社製)で測定した。
【0283】
【化27】
【0284】
以下、樹脂粒子(P-1)の作製におけるモノマーの種類と量を変更して、樹脂粒子(P-2)~(P-11)及び(CP-1)を作製した。
【0285】
<樹脂粒子(P-2)~(P-8)及び(CP-1)>
まず、ポリウレタン(B-1)溶液を調製した方法と同様の方法で、ポリウレタン(B-2)~(B-8)及び(CB-1)溶液を調製した。表1に、式6で表される構造と、構造Bにおけるイオン性基を有する構造単位及びその他の構造単位とを記載した。イオン性基を有する構造単位は、イオン性基を有する化合物に由来する構造単位であり、その他の構造単位は、ポリイソシアネート及びポリオールに由来する構造単位である。なお、ポリウレタン(CB-1)溶液を調製する際に、不飽和二重結合を有する化合物を加えていないため、ポリウレタン(CB-1)は、式6で表される構造を有していない。表1中、式6で表される構造の欄に「-」と記載した。また、表1中の数字は、質量比率を示す。
【0286】
【表1】
【0287】
次に、樹脂粒子(P-1)の水分散液を調製した方法と同様の方法で、構造Aと構造Bとを有し、構造Aと構造Bとが式1で表される構造を介して連結している樹脂粒子(P-2)~(P-8)の水分散液、及び構造Aと構造Bとを有する(CP-1)の水分散液を調製した。表2に、樹脂粒子の水分散液を調製する際に用いた式6で表される構造及び構造Bを有する化合物(ポリウレタン)の種類と、ビニルモノマーの種類とを記載した。また、ポリウレタンとビニルモノマーとの質量比率を記載した。
表5及び表6に、構造A、構造B及び式1で表される構造について具体的に記載した。樹脂粒子(CP-1)は、式1で表される構造を有していない。表6中、式1で表される構造の欄に「-」と記載した。
【0288】
【表2】
【0289】
<樹脂粒子(P-9)>
グリセリンモノメタクリレート、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム、イソフタル酸ジメチル、ジエチレングリコールの質量比率が21:17:47:15になるように、各成分を混合した。具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム20.0g、イソフタル酸ジメチル55.1g、ジエチレングリコール17.9g、グリセリンモノメタクリレート(製品名「ブレンマーGLM」、日油株式会社製)24.9g及びオルトチタン酸テトラエチル100μLを入れ、窒素気流下、180℃で3時間撹拌した。生成したメタノールを留去した。次に、2Torr(1Torr=(101325/760)Pa)以下の減圧下、180℃で3時間撹拌した。得られた反応物に、2-プロパノール83g及び酢酸エチル193gを加え、3時間撹拌した。これにより、式6で表される構造及び構造Bを有する化合物である。式6において、Rはメチル基、Xは-O-、Lは-CH-CH-CH-、Zは-O-、mは1、nは2を表し、構造Bは、イオン性基を有するポリエステルに由来する構造である、固形分濃度30質量%のポリエステル(B-9)溶液を得た。
【0290】
次に、ポリエステル(B-9)溶液を用いて、樹脂粒子(P-1)の水分散液を調製した方法と同様の方法で、構造Aと構造Bとを有し、構造Aと構造Bとが式1で表される構造を介して連結している樹脂粒子(P-9)の水分散液を調製した。表4に、樹脂粒子の水分散液を調製する際に用いた式6で表される構造及び構造Bを有する化合物(ポリエステル)の種類と、ビニルモノマーの種類とを記載した。また、ポリエステルとビニルモノマーとの質量比率を記載した。
表6に、構造A、構造B及び式1で表される構造について具体的に記載した。
【0291】
<樹脂粒子(P-10)及び樹脂(P-11)>
ポリウレタン(B-1)溶液を調製した方法と同様の方法で、ポリウレタンウレア(B-10)溶液及びポリウレタンウレア(B-11)溶液を調製した。表3に、式6で表される構造と、構造Bにおけるイオン性基を有する構造単位及びその他の構造単位とを記載した。
ポリウレタンウレア(B-10)において、イオン性基を有する構造単位は、イオン性基を有する化合物に由来する構造単位であり、その他の構造単位は、ポリイソシアネート及びポリアミンに由来する構造単位である。
ポリウレタンウレア(B-11)において、イオン性基を有する構造単位は、イオン性基を有する化合物に由来する構造単位であり、その他の構造単位は、ポリイソシアネート、ポリオール及びポリアミンに由来する構造単位である。
【0292】
次に、ポリウレタンウレア(B-10)溶液及びポリウレタンウレア(B-11)溶液を用いて、樹脂粒子(P-1)の水分散液を調製した方法と同様の方法で、構造Aと構造Bとを有し、構造Aと構造Bとが式1で表される構造を介して連結している樹脂粒子(P-10)及び(P-11)の水分散液を調製した。表4に、樹脂粒子の水分散液を調製する際に用いた式6で表される構造及び構造Bを有する化合物(ポリウレタンウレア)の種類と、ビニルモノマーの種類とを記載した。また、ポリウレタンウレアとビニルモノマーとの質量比率を記載した。
表6に、構造A、構造B及び式1で表される構造について具体的に記載した。
【0293】
【表3】
【0294】
【表4】
【0295】
【表5】
【0296】
【表6】
【0297】
[インク組成物の調製]
実施例1~実施例12及び比較例1として、表5及び表6に示す樹脂粒子を用いて、インク組成物を調製した。具体的な調製方法は、以下のとおりである。
下記の含有量になるように各成分を混合した。プラスチック製のディスポーザブルシリンジに詰め、孔径が1μmのフィルターで濾過し、顔料濃度が5質量%であるマゼンタインクを調製した。
・下記の方法で調製したマゼンタ顔料分散液(顔料濃度15質量%)
・・・顔料濃度が5質量%になる量
・ポリエチレングリコール(分子量200) ・・・3質量%
・プロピレングリコール ・・・5質量%
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル ・・・2質量%
・ポリオキシプロピレングリセリルエーテル(製品名「サンニックスGP-250」、三洋化成工業社製) ・・・3質量%
・作製した樹脂粒子の水分散液(固形分濃度22質量%) ・・・27質量%
・界面活性剤(製品名「オルフィンE1010」、日信化学工業社製) ・・・0.3質量%
・界面活性剤(製品名「オルフィンE1020」、日信化学工業社製) ・・・1.0質量%
・イオン交換水 ・・・インク組成物の全量を100質量%とした場合の残分(質量%)
【0298】
[マゼンタ顔料分散液の調製]
メタクリル酸172部と、ベンジルメタクリレート828部と、イソプロパノール375部とを混合することにより、モノマー供給組成物を調製した。また、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)22.05部と、イソプロパノール187.5部とを混合することにより、開始剤供給組成物を調製した。
【0299】
次に、イソプロパノール187.5部を窒素雰囲気下、80℃まで加温し、そこに、上記モノマー供給組成物及び上記開始剤供給組成物の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、得られた溶液をさらに80℃で4時間保時した後、25℃まで冷却した。
冷却後、溶媒を減圧除去することにより、重量平均分子量が約30,000であり、かつ、酸価が112mgKOH/gである水溶性ポリマー分散剤を得た。
【0300】
得られた水溶性ポリマー分散剤150部に含まれるメタクリル酸量の0.8当量を、水酸化カリウム水溶液を用いて中和した後、水溶性ポリマー分散剤の濃度が25質量%となるようにイオン交換水を加えて調整し、水溶性ポリマー水分散液を得た。
【0301】
水溶性ポリマー水分散液124部と、ピグメントレッド122(マゼンタ顔料)48部と、水75部と、ジプロピレングリコール30部とを混合し、ビーズミル(ビーズ径0.1mmφ、ジルコニアビーズ)で所望の体積平均粒径となるまで分散し、顔料濃度が15質量%となるようにイオン交換水を加えて調整し、ポリマー被覆マゼンタ顔料粒子の分散液(未架橋分散液)を得た。
【0302】
未架橋分散液136部に、架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(製品名「Denacol EX-321」、ナガセケムテックス社製)1.3部と、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:4質量%)14.3部とを添加し、50℃にて6時間半反応させた後、25℃に冷却し、架橋分散液を得た。次に、得られた架橋分散液にイオン交換水を加え、限外ろ過器(製品名「攪拌型ウルトラホルダーUHP-62K、ADVANTEC社製)及び限外ろ過フィルター(製品名「ウルトラフィルターQ0500 076E」、ADVANTEC社製、分画分子量5万)を用いて限外ろ過を行った。架橋分散液中のジプロピレングリコールの濃度が0.1質量%以下となるように精製した後、顔料濃度が15質量%となるまで濃縮することにより、マゼンタ顔料分散液を得た。マゼンタ顔料分散液に含まれる顔料は、上記水溶性ポリマー分散剤が架橋剤により架橋された架橋ポリマーで表面が被覆されているポリマー被覆顔料(カプセル化顔料)である。
【0303】
[前処理液の調製]
実施例12で用いる前処理液を調製した。具体的な調製方法は、以下のとおりである。
下記の含有量になるように各成分を混合し、前処理液を得た。得られた前処理液は、粘度が4.5mPa・s(25℃)、表面張力が41.0mN/m(25℃)、pHが0.1(25℃)であった。
なお、粘度は、粘度計(製品名「VISCOMETER TV-22」、TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて測定した。表面張力は、表面張力計(製品名「Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z)、協和界面科学社製)を用いて測定した。pHは、pHメーター(製品名「WM-50EG」、東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル ・・・4.8質量%
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル ・・・4.8質量%
・マロン酸 ・・16.0質量%
・リンゴ酸 ・・・7.8質量%
・プロパントリカルボン酸 ・・・3.5質量%
・リン酸の85質量%水溶液 ・・・15.0質量%
・エマルジョン型シリコーン消泡剤(製品名「TSA-739」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、有効成分15質量%)
・・・シリコーンオイルの含有量として0.07質量%
・イオン交換水 ・・・前処理液の全量を100質量%とした場合の残分(質量%)
【0304】
次に、調製した前処理液及びマゼンタインクを用いて、耐擦過性及び耐ブロッキング性の評価を行った。評価方法は以下のとおりである。表7に、評価結果を示す。
【0305】
[評価]
<耐擦過性>
インクジェット記録装置として、20インチ(1インチ=2.54cm)幅のピエゾフルラインヘッドを搭載した装置を準備した。記録媒体としてコート紙(商品名「OKトップコート+」、王子製紙社製)を用いた。インクタンクにマゼンタインクを充填した。吐出条件は、打滴量を2.4pLとし、吐出周波数を30kHzとし、解像度を1200dpi×1200dpiとした。記録媒体上にマゼンタインクを吐出し、記録デューティ100%のベタ画像を記録し、画像サンプルを得た。なお、実施例12では、記録媒体上にマゼンタインクを吐出する前に、あらかじめ記録媒体上に前処理液を塗布した。具体的には、記録媒体を500mm/秒で稼動するステージ上に固定し、前処理液をワイヤーバーコーターで約1.7g/mとなるように塗布し、塗布した直後に50℃で2秒間乾燥させた。乾燥後、記録媒体上にマゼンタインクを吐出し、記録デューティ100%のベタ画像を記録し、画像サンプルを得た。
得られた画像サンプルを、25℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した。その後、画像サンプルの画像記録面に、2×10N/mの荷重を加え、コート紙(商品名「OKトップコート+」、王子製紙社製)を用いて50回擦過した。擦過後の画像記録面の状態を目視で観察し、耐擦過性を評価した。評価基準は以下のとおりである。本評価において、「AA」、「A」及び「B」が合格レベルである。
AA:擦過後の画像記録面に擦過痕が確認できず、コート紙にも画像の転写が認められなかった。
A:擦過後の画像記録面に擦過痕が確認できないが、コート紙に接触面積の5%未満の面積率で画像の転写が認められた。
B:擦過後の画像記録面に擦過痕がわずかに確認できた。
C:擦過後の画像記録面に擦過痕が確認でき、記録媒体の白地(表面)が見えていた。
【0306】
<耐ブロッキング性>
耐擦過性の評価と同様の方法で記録デューティ100%のベタ画像を記録した直後に、60℃の温風で2秒間乾燥させ、画像サンプルを得た。
得られた画像サンプルを裁断し、3cm四方のサイズの画像サンプルを2枚用意した。次に、2枚の画像サンプルを、画像記録面同士が向かい合うように、4つの角を合わせて重ねた。2枚の画像サンプルを重ねた状態で、80℃のホットプレート上に載置した。2枚の画像サンプルの上に、2.0cm×2.0cm×0.3cmの平板のゴム版を、2.0cm×2.0cmの面が画像サンプルと接するように置いた。さらに、ゴム版の上に、2.0cm×2.0cm×0.3cmの平板のプラスチック版を、2.0cm×2.0cmの面がプラスチック版と接するように置いた。プラスチック版の上に500gの分銅を載せて1時間静置した後、重ね合わせた2枚の画像サンプルを剥がし、耐ブロッキング性を評価した。評価基準は以下のとおりである。本評価において、「AA」、「A」及び「B」が合格レベルである。
AA:自然に剥がれたか、又は、剥がすときに抵抗があったが、画像サンプルの色移りは認められなかった。
A:画像記録面の面積の5%未満の範囲に画像サンプルの色移りが認められたが、実用上問題のないレベルであった。
B:画像記録面の面積の5%以上10%未満の範囲に画像サンプルの色移りが認められたが、実用上問題のないレベルであった。
C:画像記録面の面積の10%以上の範囲に画像サンプルの色移りが認められ、実用上問題になるレベルであった。
【0307】
【表7】
【0308】
表7に示すように、実施例1~実施例12のインク組成物は、色材、樹脂粒子及び水を含み、樹脂粒子は、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、構造Aと構造Bとは、式1で表される構造を介して連結しているため、得られるインク画像は、耐擦過性及び耐ブロッキング性に優れる。特に、実施例1のインク組成物では、樹脂粒子が、イオン性基を有する鎖状ポリウレタンに由来する構造Bを含むため、耐擦過性及び耐ブロッキング性がより優れる。
【0309】
一方、比較例1のインク組成物に含まれる樹脂粒子は、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとが連結していない。よって、得られるインク画像は耐擦過性及び耐ブロッキング性に劣る。
【0310】
以上より、本開示のインク組成物は、色材、樹脂粒子及び水を含み、樹脂粒子は、ビニルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーに由来する構造Aと、イオン性基を有するポリマーに由来する構造Bとを含み、構造Aと構造Bとは、式1で表される構造を介して連結しているため、得られるインク画像は耐擦過性及び耐ブロッキング性に優れる。