(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/046 20140101AFI20221216BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20221216BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B23K26/046
B23K26/53
C03B33/09
(21)【出願番号】P 2019546461
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2017036130
(87)【国際公開番号】W WO2019069397
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-09-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 弘司
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 輝
(72)【発明者】
【氏名】若林 理
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-297478(JP,A)
【文献】特開平05-032428(JP,A)
【文献】特開平10-113780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
C03B 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置と、前記パルスレーザ光を透過する転写パターンが形成された転写マスクと、前記パルスレーザ光が前記転写パターンを透過することによって形成され前記転写パターンに応じた形状の転写像を転写する転写光学系とを備えたレーザ加工システムを用いて、前記紫外線に対して透明な透明材料に対してレーザ加工を施すレーザ加工方法は、以下のステップを備える:
A.前記パルスレーザ光の光軸方向において、前記転写光学系によって転写される前記転写像の転写位置と、前記透明材料との相対的な位置決めを行う位置決めステップであって、前記転写位置が、前記光軸方向において前記透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ前記透明材料の内部に進入した位置となるように前記位置決めを行う位置決めステップ
;
B.パルス幅が1ns~100nsの範囲であって、かつ、前記転写位置でのビームの直径が10μm以上150μm以下の前記パルスレーザ光を前記透明材料に照射する照射ステップ
;
C.前記透明材料内部において、前記パルスレーザ光が透過する光路に改質を生じさせ、前記パルスレーザ光を前記透明材料の内部で自己集束させるステップ;及び
D.前記自己集束した前記パルスレーザ光の透過光によって深さ方向にアブレーション加工を進行させ、加工深さが1.5mm以上の高アスペクト比の穴加工を施すステップ。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記透明材料は、合成石英ガラスであって、前記パルスレーザ光の波長は157.6nm~248.7nmである。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光は、ArFレーザ光である。
【請求項4】
請求項
2に記載のレーザ加工方法であって、
前記深さΔZsfの範囲は、0.5mm以上4mm以下である。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の前記転写位置におけるフルーエンスは、3J/cm
2以上15J/cm
2以下である。
【請求項6】
請求項
2に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の照射パルス数は、3,000パルス以上である。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ加工方法であって、
前記照射パルス数は、35,000パルス以下である。
【請求項8】
請求項2に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光は、KrFレーザ光である。
【請求項9】
請求項2に記載のレーザ加工方法であって、
前記レーザ装置は、マスターオシレータと、前記マスターオシレータが出力するパルスレーザ光を増幅する増幅器を備える。
【請求項10】
請求項9に記載のレーザ加工方法であって、
前記マスターオシレータ及び前記増幅器は、封入されたレーザ媒質を励起するための一対の電極を含むレーザチャンバをそれぞれ含む。
【請求項11】
請求項10に記載のレーザ加工方法であって、
前記レーザ装置は、前記マスターオシレータ及び前記増幅器を制御するレーザ制御部を含み、
前記レーザ制御部は、前記マスターオシレータを発振させ、前記マスターオシレータの発振に同期して前記増幅器を制御する。
【請求項12】
紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置と、前記パルスレーザ光を集光する集光 光学系とを備えたレーザ加工システムを用いて、前記紫外線に対して透明な透明材料に対してレーザ加工を施すレーザ加工方法は、以下のステップを備える:
A.前記パルスレーザ光の光軸方向において、前記パルスレーザ光のビームウエスト位置と、前記透明材料との相対的な位置決めを行う位置決めステップであって、前記ビームウエスト位置が、前記光軸方向において前記透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ前記透明材料の内部に進入した位置となるように前記位置決めを行う位置決めステップ
;
B.パルス幅が1ns~100nsの範囲であって、かつ、前記ビームウエスト位置でのビームの直径が10μm以上150μm以下の前記パルスレーザ光を前記透明材料に照射する照射ステップ
;
C.前記透明材料内部において、前記パルスレーザ光が透過する光路に改質を生じさせ、前記パルスレーザ光を前記透明材料の内部で自己集束させるステップ;及び
D.前記自己集束したパルスレーザ光の透過光によって深さ方向にアブレーション加工を進行させ、加工深さが1.5mm以上の高アスペクト比の穴加工を施すステップ。
【請求項13】
請求項
12に記載のレーザ加工方法であって、
前記透明材料は、合成石英ガラスであって、前記パルスレーザ光の波長は157nm~248nmである。
【請求項14】
請求項
13に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光は、ArFレーザ光である。
【請求項15】
請求項
13に記載のレーザ加工方法であって、
前記深さΔZsfの範囲は、0.5mm以上4mm以下である。
【請求項16】
請求項15に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の前記ビームウエスト
位置におけるフルーエンスは、3J/cm
2以上15J/cm
2以下である。
【請求項17】
請求項
13に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の照射パルス数は、3,000パルス以上である。
【請求項18】
請求項
17に記載のレーザ加工方法であって、
前記照射パルス数は、35,000パルス以下である。
【請求項19】
請求項13に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光は、KrFレーザ光である。
【請求項20】
請求項13に記載のレーザ加工方法であって、
前記レーザ装置は、マスターオシレータと、前記マスターオシレータが出力するパルスレーザ光を増幅する増幅器を備える。
【請求項21】
請求項20に記載のレーザ加工方法であって、
前記マスターオシレータ及び前記増幅器は、封入されたレーザ媒質を励起するための一対の電極を含むレーザチャンバをそれぞれ含む。
【請求項22】
請求項21に記載のレーザ加工方法であって、
前記レーザ装置は、前記マスターオシレータ及び前記増幅器を制御するレーザ制御部を含み、
前記レーザ制御部は、前記マスターオシレータを発振させ、前記マスターオシレータの発振に同期して前記増幅器を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工方法及びレーザ加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、半導体露光装置においては解像力の向上が要請されている。半導体露光装置を以下、単に「露光装置」という。このため露光用光源から出力される光の短波長化が進められている。露光用光源には、従来の水銀ランプに代わってガスレーザ装置が用いられている。現在、露光用のガスレーザ装置としては、中心波長約248.4nmの紫外線を出力するKrFエキシマレーザ装置ならびに、中心波長約193.4nmの紫外線を出力するArFエキシマレーザ装置が用いられている。
【0003】
現在の露光技術としては、露光装置側の投影レンズとウエハ間の間隙を液体で満たして、当該間隙の屈折率を変えることによって、露光用光源の見かけの波長を短波長化する液浸露光が実用化されている。ArFエキシマレーザ装置を露光用光源として用いて液浸露光が行われた場合は、ウエハには水中における波長134nmの紫外光が照射される。この技術をArF液浸露光という。ArF液浸露光はArF液浸リソグラフィーとも呼ばれる。
【0004】
KrF、ArFエキシマレーザ装置の自然発振におけるスペクトル線幅は約350~400pmと広いため、露光装置側の投影レンズによってウエハ上に縮小投影されるレーザ光(紫外線光)の色収差が発生して解像力が低下する。そこで色収差が無視できる程度となるまでガスレーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトル線幅を狭帯域化する必要がある。スペクトル線幅はスペクトル幅とも呼ばれる。このためガスレーザ装置のレーザ共振器内には狭帯域化素子を有する狭帯域化部(Line Narrow Module)が設けられ、この狭帯域化部によりスペクトル幅の狭帯域化が実現されている。なお、狭帯域化素子はエタロンやグレーティング等であってもよい。このようにスペクトル幅が狭帯域化されたレーザ装置を狭帯域化レーザ装置という。
【0005】
また、エキシマレーザ光はパルス幅が1ns~100nsであって、中心波長はそれぞれ、248.4nmと193.4nmと短い。こうした特性を利用して、エキシマレーザ光は、露光用途以外に、高分子材料やガラス材料等の直接加工に用いられることがある。高分子材料は、結合エネルギよりも高いフォトンエネルギをもつエキシマレーザ光によって、高分子材料の結合を切断できる。そのため、非加熱加工が可能となり、加工形状が綺麗になることが知られている。また、ガラスやセラミックス等はエキシマレーザ光に対する吸収率が高いので、可視及び赤外線レーザ光では加工することが難しい材料の加工もできることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-284792号公報
【文献】特開平11-224839号公報
【文献】特許3799060号公報
【文献】特開平3-157917号公報
【文献】特開2000-031574号公報
【概要】
【0007】
本開示の1つの観点に係るレーザ加工方法は、紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置と、パルスレーザ光を透過する転写パターンが形成された転写マスクと、パルスレーザ光が転写パターンを透過することによって形成され転写パターンに応じた形状の転写像を転写する転写光学系とを備えたレーザ加工システムを用いて、紫外線に対して透明な透明材料に対してレーザ加工を施すレーザ加工方法であって、以下のステップを備える:
A.パルスレーザ光の光軸方向において、転写光学系によって転写される転写像の転写位置と、透明材料との相対的な位置決めを行う位置決めステップであって、転写位置が、光軸方向において透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ透明材料の内部に進入した位置となるように位置決めを行う位置決めステップ;及び
B.パルス幅が1ns~100nsの範囲であって、かつ、転写位置でのビームの直径が10μm以上150μm以下のパルスレーザ光を透明材料に照射する照射ステップ。
【0008】
本開示の1つの観点に係るレーザ加工方法は、紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置と、パルスレーザ光を集光する集光光学系とを備えたレーザ加工システムを用いて、紫外線に対して透明な透明材料に対してレーザ加工を施すレーザ加工方法であって、以下のステップを備える:
A.パルスレーザ光の光軸方向において、パルスレーザ光のビームウエスト位置と、透明材料との相対的な位置決めを行う位置決めステップであって、ビームウエスト位置が、光軸方向において透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ透明材料の内部に進入した位置となるように位置決めを行う位置決めステップ;及び
B.パルス幅が1ns~100nsの範囲であって、かつ、ビームウエスト位置でのビームの直径が10μm以上150μm以下のパルスレーザ光を透明材料に照射する照射ステップ。
【0009】
本開示の1つの観点に係るレーザ加工システムは、 紫外線に対して透明な透明材料に対して紫外線のパルスレーザ光を照射してレーザ加工を施すレーザ加工システムであって、以下を備える:
A.パルス幅が1ns~100nsの範囲のパルスレーザ光を出力するレーザ装置;
B.レーザ装置から出力されるパルスレーザ光を透過する転写パターンが形成された転写マスク;
C.パルスレーザ光が転写パターンを透過することによって形成され転写パターンに応じた形状の転写像を透明材料に転写する転写光学系;
D.パルスレーザ光の光軸方向において、転写光学系によって転写される転写像の転写位置と、透明材料との相対的な位置決めを行う位置決め機構;及び
E.転写位置が、光軸方向において透明材料の表面から所定の深さΔZsfだけ透明材料の内部に進入した位置となるように、位置決め機構を制御して位置決めを行う位置決め制御部;
ここで、転写位置でのパルスレーザ光のビームの直径は10μm以上150μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【
図1】
図1は、比較例のレーザ加工システムの構成を概略的に示す。
【
図2】
図2は、比較例のレーザ加工手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、比較例のレーザ加工の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、比較例におけるレーザ加工の加工状態を示す説明図である。
図4Aは、パルスレーザ光の転写位置を被加工物の表面に合わせてパルスレーザ光を照射した状態を示す。
図4Bは、パルスレーザ光の照射による被加工物の加工状態を示す。
【
図5】
図5は、第1実施形態のレーザ加工システムの構成を概略的に示す。
【
図6】
図6は、第1実施形態のレーザ加工手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1実施形態のレーザ加工の加工結果を示す写真である。
【
図8】
図8は、第1実施形態におけるレーザ加工を施した場合の被加工物の状態遷移を示す説明図である。
図8Aは、パルスレーザ光の転写位置を、被加工物の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置に合わせてパルスレーザ光を照射した状態を示す。
図8Bは、パルスレーザ照射直後の被加工物の加工状態を示す。
図8Cは、パルスレーザ光が自己収束している状態を示す。
図8Dは、パルスレーザ光の照射による被加工物の加工状態を示す。
【
図9】
図9は、第1実施形態において、実験により得られた、フルーエンスと加工深さΔZdとの関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、フルーエンスが不足した場合の加工結果の写真である。
【
図11】
図11は、第1実施形態において、実験により得られた、照射時間と加工深さΔZdとの関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、第1実施形態において、実験により得られた、転写位置の深さΔZsfと加工深さΔZdとの関係を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、第2実施形態のレーザ加工システムの構成を概略的に示す。
【
図14】
図14は、第2実施形態のレーザ加工手順を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、第2実施形態のレーザ加工の処理手順を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、第2実施形態のレーザ加工装置の変形例を示す。
【実施形態】
【0011】
<内容>
1.概要
2.比較例に係るレーザ加工システム及びレーザ加工方法
2.1 構成
2.2 動作
2.3 課題
3.第1実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
3.1 構成
3.2 動作
3.3 作用
3.4 好ましい加工条件
4.第2実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
4.1 構成
4.2 動作
4.3 作用
4.4 レーザ加工装置の変形例
5.レーザ装置の変形例
5.1 変形例1
5.2 変形例2
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0013】
1.概要
本開示は、被加工物にレーザ光を照射してレーザ加工を行うレーザ加工システム及びレーザ加工方法に関する。
【0014】
2.比較例に係るレーザ加工システム及びレーザ加工方法
2.1 構成
図1は、比較例に係るレーザ加工システムの構成を概略的に示す。レーザ加工システム2は、レーザ装置3と、レーザ加工装置4とを備えている。レーザ装置3とレーザ加工装置4は光路管5によって接続されている。
【0015】
レーザ装置3は、マスターオシレータ10と、モニタモジュール11と、シャッタ12と、レーザ制御部13とを含んでいる。レーザ装置3は、レーザ媒質として、アルゴン(Ar)及びフッ素(F)を含むArFレーザガスを使用する、ArFエキシマレーザ装置である。レーザ装置3は、中心波長が約193.4nmのArFレーザ光である紫外線のパルスレーザ光を出力する。
【0016】
マスターオシレータ10は、レーザチャンバ21と、一対の電極22a及び22bと、充電器23と、パルスパワーモジュール(PPM)24とを含んでいる。
図1においては、レーザ光の進行方向に略垂直な方向からみたレーザチャンバ21の内部構成が示されている。
【0017】
レーザチャンバ21は、ArFレーザガスが封入されるチャンバである。一対の電極22a及び22bは、レーザ媒質を放電により励起するための電極として、レーザチャンバ21内に配置されている。
【0018】
レーザチャンバ21には開口が形成され、この開口を電気絶縁部28が塞いでいる。電極22aは電気絶縁部28に支持され、電極22bはリターンプレート21dに支持されている。このリターンプレート21dは図示しない配線でレーザチャンバ21の内面と接続されている。電気絶縁部28には、導電部が埋め込まれている。導電部は、パルスパワーモジュール24から供給される高電圧を電極22aに印加する。
【0019】
充電器23は、パルスパワーモジュール24の中の図示しない充電コンデンサに所定の電圧で充電する直流電源装置である。パルスパワーモジュール24は、レーザ制御部13によって制御されるスイッチ24aを含んでいる。スイッチ24aがOFFからONになると、パルスパワーモジュール24は、充電器23に保持されていた電気エネルギからパルス状の高電圧を生成し、この高電圧を一対の電極22a及び22b間に印加する。
【0020】
一対の電極22a及び22b間に高電圧が印加されると、一対の電極22a及び22b間の絶縁が破壊され、放電が起こる。この放電のエネルギにより、レーザチャンバ21内のレーザ媒質が励起されて高エネルギ準位に移行する。励起されたレーザ媒質が、その後低エネルギ準位に移行するとき、そのエネルギ準位差に応じた光を放出する。
【0021】
レーザチャンバ21の両端には、ウインドウ21a及び21bが設けられている。レーザチャンバ21内で発生した光は、ウインドウ21a及び21bを介してレーザチャンバ21の外部に出射する。
【0022】
マスターオシレータ10は、さらに、リアミラー26と、出力結合ミラー27とを含んでいる。リアミラー26には高反射膜がコートされており、出力結合ミラー27には部分反射膜がコートされている。リアミラー26は、レーザチャンバ21のウインドウ21aから出射された光を高い反射率で反射してレーザチャンバ21に戻す。出力結合ミラー27は、レーザチャンバ21のウインドウ21bから出力される光のうちの一部を透過させて出力し、他の一部を反射させてレーザチャンバ21内に戻す。
【0023】
従って、リアミラー26と出力結合ミラー27とで、光共振器が構成される。レーザチャンバ21は、光共振器の光路上に配置される。レーザチャンバ21から出射した光は、リアミラー26と出力結合ミラー27との間で往復し、電極22aと電極22bとの間のレーザゲイン空間を通過する度に増幅される。増幅された光の一部が、出力結合ミラー27を介して、パルスレーザ光として出力される。
【0024】
モニタモジュール11は、マスターオシレータ10を出射したパルスレーザ光の光路上に配置されている。モニタモジュール11は、例えば、ビームスプリッタ11aと、光センサ11bとを含んでいる。
【0025】
ビームスプリッタ11aは、マスターオシレータ10から出射したパルスレーザ光を高い透過率でシャッタ12に向けて透過させるとともに、パルスレーザ光の一部を光センサ11bの受光面に向けて反射する。光センサ11bは、受光面に入射したパルスレーザ光のパルスエネルギを検出し、検出されたパルスエネルギのデータをレーザ制御部13に出力する。
【0026】
レーザ制御部13は、レーザ加工制御部32との間で各種信号を送受信する。例えば、レーザ制御部13は、レーザ加工制御部32から、発光トリガTr、目標パルスエネルギEtのデータ等を受信する。また、レーザ制御部13は、充電器23に対して充電電圧の設定信号を送信し、かつ、パルスパワーモジュール24に対してスイッチ24aのON又はOFFの指令信号を送信する。
【0027】
レーザ制御部13は、モニタモジュール11からパルスエネルギのデータを受信し、受信したパルスエネルギのデータを参照して充電器23の充電電圧を制御する。充電器23の充電電圧を制御することにより、パルスレーザ光のパルスエネルギが制御される。
【0028】
シャッタ12は、モニタモジュール11のビームスプリッタ11aを透過したパルスレーザ光の光路に配置される。レーザ制御部13は、レーザ発振の開始後、モニタモジュール11から受信するパルスエネルギと目標パルスエネルギEtとの差が許容範囲内となるまでの間は、シャッタ12を閉じるように制御する。レーザ制御部13は、モニタモジュール11から受信するパルスエネルギと目標パルスエネルギEtとの差が許容範囲内となったら、シャッタ12を開くように制御する。レーザ制御部13は、シャッタ12の開閉信号と同期して、パルスレーザ光の発光トリガTrの受け付けが可能となったことを表す信号を、レーザ加工装置4のレーザ加工制御部32に送信する。
【0029】
レーザ加工装置4は、レーザ加工制御部32と、テーブル33と、XYZステージ34と、光学システム36と、筐体37と、フレーム38とを含んでいる。筐体37内には光学システム36が配置される。フレーム38には、筐体37とXYZステージ34が固定される。
【0030】
テーブル33は、被加工物41を支持する。被加工物41は、パルスレーザ光が照射されてレーザ加工が行われる加工対象である。被加工物41は、紫外線のパルスレーザ光に対して透明な透明材料であり、例えば、合成石英ガラスである。レーザ加工は、例えば、被加工物41に穴を空ける穴加工である。XYZステージ34は、テーブル33を支持している。XYZステージ34は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動可能であり、テーブル33の位置を調整することにより、被加工物41の位置を調整可能である。XYZステージ34は、レーザ加工制御部32の制御の下、光学システム36から出射するパルスレーザ光が、所望の加工位置に照射されるように被加工物41の位置を調整する。
【0031】
レーザ加工システム2は、例えば、被加工物41の1つの位置又は複数の位置に穴加工を施す。レーザ加工制御部32には、複数の加工位置に応じた位置データが順次セットされる。各加工位置の位置データは、例えば、XYZステージ34の原点位置を基準とした、各加工位置のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向のそれぞれの位置を規定した座標データである。レーザ加工制御部32は、こうした座標データに基づいてXYZステージ34の移動量を制御して、XYZステージ34上の被加工物41を位置決めする。
【0032】
光学システム36は、例えば、高反射ミラー36a~36cと、ビームホモジナイザ46と、転写マスク47と、転写レンズ48とを備えており、被加工物41の表面に、加工形状に対応する像を転写する。高反射ミラー36a~36c、ビームホモジナイザ46、転写マスク47及び転写レンズ48は、それぞれが図示しないホルダに固定されており、筐体37内において所定の位置に配置されている。
【0033】
高反射ミラー36a~36cは、紫外領域のパルスレーザ光を高い反射率で反射する。高反射ミラー36aは、レーザ装置3から入力されたパルスレーザ光を高反射ミラー36bに向けて反射し、高反射ミラー36bは、パルスレーザ光を、高反射ミラー36cに向けて反射する。高反射ミラー36cは、パルスレーザ光を転写レンズ48に向けて反射する。高反射ミラー36a~36cは、例えば、合成石英やフッ化カルシウムで形成された透明基板の表面に、パルスレーザ光を高反射する反射膜がコートされている。
【0034】
ビームホモジナイザ46及び転写マスク47は、高反射ミラー36b及び36cの間の光路上に配置されている。ビームホモジナイザ46は、フライアイレンズ46aとコンデンサレンズ46bとを備えている。ビームホモジナイザ46は、高反射ミラー36bで反射したパルスレーザ光の光強度分布を均一化して、転写マスク47をケーラ照明するように配置される。
【0035】
転写マスク47は、ビームホモジナイザ46から出射するパルスレーザ光の一部を透過させることで、被加工物41に対する加工形状に対応するパルスレーザ光の像を形成する。転写マスク47は、例えば、パルスレーザ光を遮光する遮光性を有する遮光板に、例えば光を透過する透過孔で構成される転写パターンが形成されたものである。ここで、転写マスク47の転写パターンの形状に応じて形成される、パルスレーザ光の像を転写像と呼ぶ。
【0036】
本例においては、転写マスク47の転写パターンは、円形のピンホールである。こうした転写マスク47を用いて、本例のレーザ加工装置4は、被加工物41に対して、断面が円形の穴を形成する穴加工を施す。また、転写マスク47は、ピンホールの大きさを変更することが可能な可変機構を備えており、被加工物41への加工寸法に応じて、ピンホールの大きさを調節することができる。レーザ加工制御部32は、転写マスク47の可変機構を制御してピンホールの大きさを調節する。
【0037】
転写レンズ48は、入射したパルスレーザ光を集光して、ウインドウ42を介して、集光したパルスレーザ光を被加工物41に向けて出射する。転写レンズ48は、転写マスク47を透過することにより生成されたパルスレーザ光のピンホール形状の転写像を、転写レンズ48の焦点距離に応じた位置に結像させる転写光学系を構成する。ここで、転写レンズ48の作用によって、転写像が結像する結像位置を転写位置と呼ぶ。
【0038】
この転写位置は、Z軸方向において、パルスレーザ光が入射する入射側の表面と一致する位置に設定される。以下、単に、被加工物41の表面という場合は、被加工物41の入射側の表面を意味する。ここで、Z軸方向は、転写レンズ48を出射して被加工物41に入射するパルスレーザ光の光軸方向と平行である。
【0039】
転写レンズ48は、複数枚のレンズの組み合わせによって構成される。転写レンズ48は、転写マスク47に設けられるピンホールの実際の寸法よりも小さな寸法のピンホール形状の転写像を、転写位置に結像させる縮小光学系である。転写レンズ48で構成される転写光学系の倍率Mは、たとえば、M=1/10~1/5である。また、本例では、転写レンズ48を組合せレンズの例で示したが、転写レンズ48の光軸上近傍に1つの小さな円形の転写像を結像させる場合は、転写レンズ48を単レンズで構成してもよい。
【0040】
ウインドウ42は、転写レンズ48と被加工物41との間の光路上に配置されており、筐体37に形成された開口にOリング(図示せず)によってシールされた状態で固定される。
【0041】
アッテネータ52は、筐体37内において、高反射ミラー36aと高反射ミラー36bの間の光路上に配置されている。アッテネータ52は、例えば、2枚の部分反射ミラー52a及び52bと、これらの部分反射ミラーの回転ステージ52c及び52dとを含んでいる。2枚の部分反射ミラー52a及び52bは、パルスレーザ光の入射角度によって、透過率が変化する光学素子である。部分反射ミラー52a及び部分反射ミラー52bは、パルスレーザ光の入射角度が互いに一致し、且つ所望の透過率となるように、回転ステージ52c及び回転ステージ52dによって傾斜角度が調整される。
【0042】
これにより、パルスレーザ光は、所望のパルスエネルギに減光されてアッテネータ52を通過する。アッテネータ52は、レーザ加工制御部32の制御信号に基づいて透過率Tが制御される。レーザ加工制御部32は、目標パルスエネルギEtを通じてレーザ装置3が出力するパルスレーザ光のフルーエンスを制御することに加えて、アッテネータ52の透過率Tを制御して、パルスレーザ光のフルーエンスを制御する。目標パルスエネルギEtを変化させればフルーエンスを変化させることができるが、レーザ装置3のマスターオシレータ10では、パルスエネルギを大きく変化させることは難しい。アッテネータ52を使用することで、マスターオシレータ10の出力が一定でも、フルーエンスを変化させることができる。
【0043】
筐体37の内部には、レーザ加工システム2の稼働中、不活性ガスである窒素(N2)ガスが常時流れている。筐体37には、窒素ガスを筐体37に吸入する吸入ポート37aと、筐体37から窒素ガスを外部に排出する排出ポート37bが設けられている。吸入ポート37a及び排出ポート37bには、図示しない吸気管や排出管を接続できるようになっている。吸入ポート37a及び排出ポート37bは、吸気管や排出管を接続した状態では、筐体37内に外気が混入するのを抑制するようにOリング(図示せず)によってシールされている。吸入ポート37aには、窒素ガス供給源43が接続される。
【0044】
光路管5内も窒素ガスが流れており、光路管5も、レーザ加工装置4の接続部分と、レーザ装置3との接続部分とにおいてOリングでシールされている。
【0045】
2.2 動作
図2及び
図3を参照しながら、レーザ加工システム2の動作を説明する。
図2に示すように、レーザ加工を行う場合には、被加工物41がXYZステージ34のテーブル33にセットされる(S100)。レーザ加工制御部32は、初期の加工位置の位置データをXYZステージ34にセットする(S110)。
【0046】
レーザ加工制御部32は、XYZステージ34を制御して、被加工物41のXY平面の位置を調整する(S120)。S120において、レーザ加工制御部32は、位置データに含まれるXY平面内の座標データに基づいてXYZステージ34の移動量を制御することにより、被加工物41のXY平面内の位置を調整する。これにより、被加工物41のXY平面内の位置が位置決めされる。
【0047】
次に、レーザ加工制御部32は、パルスレーザ光の転写像の転写位置が、被加工物41の表面と一致するように、XYZステージ34を制御して、被加工物41のZ軸方向の位置を調整する(S130)。具体的には、位置データにおいて、被加工物41のZ軸方向の位置は、パルスレーザ光の転写像の転写位置が、被加工物41の表面と一致するように規定されている。転写像の転写位置は、転写マスク47と転写レンズ48間の距離と、転写レンズ48の焦点距離等に応じて決まる。
【0048】
S130において、レーザ加工制御部32は、位置データに基づいてXYZステージ34の移動量を制御することにより、被加工物41のZ軸方向の位置を調整する。これにより、Z軸方向において、転写位置と被加工物41の表面とが一致するように、転写位置と被加工物41との相対的な位置決めが行われる。上述したとおり、Z軸方向は、被加工物41に入射するパルスレーザ光の光軸方向と平行であるので、Z軸方向の位置決めは、パルスレーザ光の光軸方向の位置決めに相当する。
【0049】
被加工物41の位置決めが終了すると、レーザ加工が行われる(S140)。初期の加工位置に対するレーザ加工が終了した場合は、レーザ加工制御部32は、次の加工位置がある場合(S150でN)には、次の加工位置の位置データをXYZステージ34にセットする(S160)。そして、XYZステージ34で、被加工物41を次の加工位置に移動する(S120及びS130)。次の加工位置において、被加工物41に対してレーザ加工が行われる(S140)。次の加工位置が無い場合は、レーザ加工が終了する(S150でY)。こうした手順が、すべての加工位置に対するレーザ加工が終了するまで繰り返される。
【0050】
本例においては、加工位置毎に、XY平面の位置とZ軸方向の位置の両方の調整を行っている。しかし、複数の加工位置間でZ軸方向の位置が同じ場合は、初期の加工位置においてZ軸方向の位置を調整するステップS130を実施した後は、それ以降の加工位置についてはステップS130を省略してもよい。この場合には、例えば、初期の加工位置の位置データをセットするステップS110の後、まずZ軸方向の位置を調整するステップS130を実施する。その後に、ステップS120を実施して、初期の加工位置に関するXY平面の位置を調整して、ステップS140を実施する。そして、次の加工位置についてステップS160を実施した後は、ステップS120のみを実施し、ステップS130を省略して、ステップS140を実施する。
【0051】
レーザ加工は、
図3に示すフローチャートに従って行われる。レーザ加工制御部32は、転写像の転写位置である被加工物41の表面におけるパルスレーザ光が、レーザ加工に必要な所望のフルーエンスFtとなるようにパルスエネルギを制御する。具体的には、レーザ加工制御部32は、目標パルスエネルギEtとアッテネータ52の透過率Tの制御を通じて被加工物41に入射するパルスエネルギを制御する。また、レーザ加工制御部32は、レーザ装置3のレーザ制御部13に対して、目標パルスエネルギEtを送信する。これにより、レーザ制御部13において、目標パルスエネルギEtが設定される(S141)。
【0052】
ここで、フルーエンスFtとは、レーザ加工に必要なフルーエンスであり、パルスレーザ光の転写像の転写位置における、パルスレーザ光のエネルギ密度である。光学システム36の光損失が無視できる場合は、フルーエンスFtは、下記式(1)で定義される。
Ft=M-2(T・Et)/SIL[mJ/cm2]・・・・・・(1)
ここで、M:転写光学系の倍率、T:アッテネータの透過率、Et:レーザ加工に必要なパルスエネルギ、SIL:転写マスク47にケーラ照明されるパルスレーザ光のレーザビームの面積である。
【0053】
転写マスク47に照射されたパルスレーザ光のうち、転写パターンであるピンホールを通過する光のみが被加工物41に照射されて、フルーエンスFtに寄与する。そのため、アッテネータ52を透過したパルスレーザ光のパルスエネルギであるT・EtをSILで割って、転写パターンを通過するパルスレーザ光の単位面積当たりのエネルギ密度が算出される。また、本例のように転写光学系が縮小光学系である場合は、倍率Mの値が小さいほど、すなわち、像を縮小するほど、エネルギ密度であるフルーエンスは増加する。
【0054】
レーザ制御部13は、レーザ加工制御部32から目標パルスエネルギEtを受信すると、シャッタ12を閉じて、充電器23を作動させる。そして、レーザ制御部13は、図示しない内部トリガによってパルスパワーモジュール24のスイッチ24aをONする。これにより、マスターオシレータ10はレーザ発振する。
【0055】
モニタモジュール11は、マスターオシレータ10から出力されるパルスレーザ光をサンプルして、パルスエネルギの実測値であるパルスエネルギEを計測する。レーザ制御部13は、パルスエネルギEと目標パルスエネルギEtとの差ΔEが0に近づくように、充電器23の充電電圧を制御する。具体的には、レーザ制御部13は、差ΔEが許容範囲になるように充電電圧を制御する(S142)。
【0056】
レーザ制御部13は、差ΔEが許容範囲となったか否かを監視する(S142)。レーザ制御部13は、差ΔEが許容範囲となった場合(S142でY)、レーザ加工制御部32に対して、発光トリガTrの受信準備が完了したことを知らせる受信準備完了信号を送信し、かつ、シャッタ12を開ける。これにより、レーザ装置3は、発光トリガTrの受信準備完了状態となる(S143)。
【0057】
レーザ加工制御部32は、受信準備完了信号を受信した場合、パルスレーザ光の転写像の転写位置におけるフルーエンスがレーザ加工に必要なフルーエンスFtとなるようにアッテネータ52の透過率Tを設定する(S144)。本例において、被加工物41のZ軸方向の位置決めにより(
図2のS130参照)、転写位置は、被加工物41の表面の位置と一致しているので、転写位置におけるフルーエンスは、被加工物41の表面におけるパルスレーザ光のフルーエンスと一致する。そのため、こうしたアッテネータ52の透過率Tの設定により、被加工物41の表面の位置におけるパルスレーザ光のフルーエンスが、レーザ加工に必要なフルーエンスFtに調節される。
【0058】
アッテネータ52の透過率Tは、光学システム36の光損失が無い場合、上記式(1)から下記式(2)が求められる。
T=(Ft/Et)SIL・M2・・・・・(2)
上述のとおり、Ft:レーザ加工に必要なフルーエンス、Et:レーザ加工に必要な目標パルスエネルギ、SIL:転写マスク47にケーラ照明されるパルスレーザ光のレーザビームの面積である。
【0059】
レーザ加工制御部32は、アッテネータ52の透過率Tを設定した後、所定の繰り返し周波数fと所定のパルス数Nで規定される発光トリガTrを、レーザ制御部13に送信する(S145)。その結果、発光トリガTrに同期して、モニタモジュール11のビームスプリッタ11aを透過したパルスレーザ光はレーザ装置3から出力されて、レーザ加工装置4に入射する。
【0060】
レーザ加工装置4に入射したパルスレーザ光は、高反射ミラー36aを径由してアッテネータ52において減光される。アッテネータ52を透過したパルスレーザ光は、高反射ミラー36bで反射して、ビームホモジナイザ46に入射する。パルスレーザ光は、ビームホモジナイザ46において光強度が空間的に均一化されて、転写マスク47をケーラ照明する。
【0061】
転写マスク47に照射されたパルスレーザ光のうち、ピンホールを透過したパルスレーザ光が高反射ミラー36cで反射して転写レンズ48に入射する。転写マスク47のピンホールを透過したパルスレーザ光は転写レンズ48に入射する。転写レンズ48によって、転写マスク47のピンホールの縮小された転写像がウインドウ42を介して被加工物41の表面に転写される。転写レンズ48を透過したパルスレーザ光は、この転写像の領域の被加工物41の表面を照射する。こうしたパルスレーザ光のレーザ照射が、レーザ加工に必要な繰り返し周波数f及びパルス数Nで規定される発光トリガTrに従って行われる(S145)。このレーザ照射により、被加工物41に対してピンホール形状の穴を形成するレーザ加工が施される。
【0062】
2.3 課題
このような被加工物41に穴を形成するレーザ加工において、高アスペクト比の穴を形成したいという要望がある。高アスペクト比の穴とは、穴の直径に対して、穴の深さである加工深さが深い細長い穴を意味する。具体的には、高アスペクト比の穴とは、穴の直径が約10μmから約150μmに対して、加工深さが約1.5mm(1500μm)以上ある穴である。ここでは、高アスペクト比を、1500μm/150μm=10以上と定義する。
【0063】
上述した
図1から
図3に示す比較例に係るレーザ加工システム2においては、こうした高アスペクト比の穴加工の精度が低いという課題があった。比較例に係るレーザ加工システム2では、
図4Aに示すように、被加工物41は、被加工物41の表面と、パルスレーザ光PLの転写像の転写位置FPとが一致する状態で位置決めされる。この状態でレーザ照射が行われて、ウインドウ42を透過したパルスレーザ光PLが、被加工物41に照射される。
【0064】
パルスレーザ光PLは、中心波長193.4nmの紫外線であるArFレーザ光であり、被加工物41はArFレーザ光に対して透明な合成石英ガラスであるため、照射直後において、パルスレーザ光PLは被加工物41を透過する。パルスレーザ光PLの照射が継続されると、被加工物41の表面付近に欠陥が生じ、パルスレーザ光PLの吸収が開始される。被加工物41において、パルスレーザ光PLの吸収が開始された部分では、
図4Bに示すように、アブレーション加工が開始される。
【0065】
比較例に係るレーザ加工システム2では、
図4Aに示すように、パルスレーザ光PLの転写像の転写位置FPと被加工物41の表面とが一致するため、被加工物41の表面においてはフルーエンスFtが最大となる。そのため、
図4Bに示すように、フルーエンスFtが高い被加工物41の表面付近においてはアブレーション加工が進む。
【0066】
しかしながら、フルーエンスFtが15J/cm2以下の領域においては、転写位置で集光したパルスレーザ光は転写位置を通過すると発散するため、フルーエンスFtも被加工物41の表面から深くなるほど減少する。そのため、比較例のレーザ加工システム2の加工方法では、Z軸方向と平行な深さ方向の穴Hの加工深さはせいぜい1mm程度にとどまっていた。また、1mm以上の加工深さが確保できた場合でも、加工精度が不十分であった。具体的には、穴Hの深い部分における加工直径が表面近くの加工直径と比較して著しく小さく、穴Hの深い部分における加工直径が要求される加工直径を満たさない先細形状の穴となってしまうなどである。このように、紫外線のパルスレーザ光を用いて、紫外線に対して透明な被加工物41に対してレーザ加工を施すレーザ加工方法においては、高アスペクト比の穴加工を精度よく行うことができないという課題があった。
【0067】
3.第1実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
3.1 構成
図5は、第1実施形態に係るレーザ加工システム2Aの構成を概略的に示す。第1実施形態のレーザ加工システム2Aは、
図1を参照しながら説明した比較例のレーザ加工システム2のレーザ加工装置4に代えて、レーザ加工装置4Aを備えている。第1実施形態の以下の説明においては、比較例のレーザ加工システム2との相違点を中心に説明し、同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
第1実施形態のレーザ加工装置4Aは、比較例のレーザ加工装置4と異なり、レーザ加工制御部32の代わりにレーザ加工制御部32Aを備えている。レーザ加工装置4Aのその他の構成については、比較例のレーザ加工装置4と同様である。
【0069】
レーザ加工制御部32Aにおいて、比較例のレーザ加工制御部32と異なる点は、Z軸方向におけるパルスレーザ光の転写位置と被加工物41との位置決め制御である。レーザ加工制御部32Aは、被加工物41のZ軸方向の位置について、パルスレーザ光の転写位置FPと被加工物41の表面が一致する位置ではなく、パルスレーザ光の転写位置FPを被加工物41の表面から所定の深さΔZsfだけ内部に進入した位置に合わせる。その他の点については、レーザ加工制御部32Aと同様である。
【0070】
上述したとおり、Z軸方向の位置決めは、パルスレーザ光の光軸方向の位置決めに相当する。したがって、レーザ加工制御部32Aは、位置決め機構であるXYZステージ34を制御することにより、パルスレーザ光の光軸方向において、転写位置と被加工物41との相対的な位置決めを行う位置決め制御部に相当する。
【0071】
レーザ加工システム2Aは、被加工物41に対して、加工直径が10μm以上150μm以下の高アスペクト比の穴を加工する。そのため、レーザ加工装置4Aは、転写位置におけるビームの直径が10μm以上150μm以下のパルスレーザ光を被加工物41に対して照射する。転写位置におけるパルスレーザ光のビームの直径は、転写位置においては転写像の直径と一致する。レーザ加工装置4Aにおいては、転写像の直径が10μm以上150μm以下となるように、転写マスク47の転写パターンの大きさや、転写レンズ48の倍率Mが設定されている。
【0072】
3.2 動作
図6を参照しながら、レーザ加工システム2Aの動作を説明する。第1実施形態の
図6のフローチャートと、比較例における
図2のフローチャートと異なる点は、ステップS130がステップS130Aに変更されている点であり、その他の点は同様である。レーザ加工制御部32Aは、比較例と同様にS100からS120の処理を実行した後、S130Aを実行する。
【0073】
S130Aにおいて、レーザ加工制御部32Aは、パルスレーザ光の転写像の転写位置が、被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置となるように、XYZステージ34を制御して、被加工物41のZ軸方向の位置を調整する(S130A)。具体的には、位置データにおいて、被加工物41のZ軸方向の位置は、パルスレーザ光の転写像の転写位置が、被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置となるように規定されている。上述したとおり、転写像の転写位置は、転写マスク47と転写レンズ48間の距離と、転写レンズ48の焦点距離等に応じて決まる。
【0074】
S130Aにおいて、レーザ加工制御部32Aは、位置データに基づいてXYZステージ34の移動量を制御することにより、被加工物41のZ軸方向の位置を調整する。これにより、Z軸方向と平行なパルスレーザ光の光軸方向において、転写像の転写位置が被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置となるように、転写位置と被加工物41との相対的な位置決めが行われる。
【0075】
被加工物41の位置決めが終了すると、レーザ加工が行われる(S140)。S140からS160までの処理は、
図2に示した比較例のレーザ加工システム2の処理と同様である。また、S140の処理内容についても、
図3に示した比較例の処理と同様である。
【0076】
本例においても、比較例で補足したとおり、複数の加工位置間でZ軸方向の位置が同じ場合は、初期の加工位置においてZ軸方向の位置を調整するステップS130Aを実施した後は、それ以降の加工位置についてはステップS130Aを省略してもよい。この場合には、例えば、初期の加工位置の位置データをセットするステップS110の後、まずZ軸方向の位置を調整するステップS130Aを実施する。その後に、ステップS120を実施して、初期の加工位置に関するXY平面の位置を調整して、ステップS140を実施する。そして、次の加工位置についてステップS160を実施した後は、ステップS120のみを実施し、ステップS130Aを省略して、ステップS140を実施する。
【0077】
3.3 作用
図7は、第1実施形態のレーザ加工システム2Aを用いて、上述のレーザ加工方法の手順で、被加工物41に対してレーザ加工を施した場合の加工結果を示す写真である。被加工物41は可視光に対しても透明な合成石英ガラスであるため、
図7の写真は、被加工物41の穴Hの加工完了後の状態をY軸方向から撮影したものである。
図7の写真から、Z軸方向に細長い高アスペクト比の穴Hが形成されていることがわかる。
【0078】
図7に示す加工結果を得るための穴Hの加工条件は、次のとおりである。まず、被加工物41は、約6mm厚の合成石英ガラスである。パルスレーザ光は、上述のとおり、中心波長が約193.4nmの紫外線であるArFレーザ光である。繰り返し周波数fは1kHz、パルスレーザ光の照射時間は5secであり、照射パルス数は、1kHz×5sec=5,000パルスである。転写位置におけるピンホール形状の転写像の直径は100μm、被加工物41の表面からの転写位置の深さΔZsfは1mm、フルーエンスFtは11.7J/cm
2である。こうした加工条件で、加工深さΔZdが約1.7mmで、被加工物41の表面、中間位置、最深部のそれぞれの直径が、110μm、53μm、45μmの高アスペクト比の穴加工が実現できた。
【0079】
また、同様の加工条件で、照射パルス時間を10秒~15秒に増やした場合、すなわち、照射パルス数を10,000~15,000に増やした場合、後述する
図11のグラフにも示すとおり、上記とほぼ同様の直径で、加工深さが3mm~4mmの高アスペクト比の穴加工が可能であることを実験により確認している。
【0080】
図8は、第1実施形態のレーザ加工システム2A及びレーザ加工方法を用いて、被加工物41に対してレーザ加工を施した場合の被加工物41の状態遷移を示す説明図である。第1実施形態に係るレーザ加工システム2Aでは、
図8Aに示すように、パルスレーザ光PLの転写像の転写位置FPが、被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置となるように位置決めされる。この状態でレーザ照射が行われて、ウインドウ42を透過したパルスレーザ光PLは、被加工物41に照射される。
【0081】
パルスレーザ光PLは、中心波長が約193.4nmのArFレーザであり、被加工物41はArFレーザに対して透明な合成石英ガラスであるため、
図8Aに示すように、照射直後において、パルスレーザ光PLは被加工物41を透過する。パルスレーザ光PLの照射が継続されると、
図8Bに示すように、被加工物41の表面付近に欠陥DFが生じ、パルスレーザ光PLの吸収が開始される。
【0082】
パルスレーザ光の照射が継続されると、パルスレーザ光PLの吸収を開始する被加工物41の表面付近では、パルスレーザ光の吸収率が増加して、
図8Cに示すように、アブレーション加工が開始される。アブレーション加工が開始された後も、パルスレーザ光の一部は吸収されずに、被加工物41内部を透過する。このパルスレーザ光の透過光は、アブレーション加工が開始された後、ある時点から、
図8Cに示すように、被加工物41の内部において発散することなく、自己収束して、Z軸方向と平行な深さ方向に進行する。そして、自己収束したパルスレーザ光は、深さ方向にアブレーション加工を進行させる。これにより、
図8Dに示すように、穴Hの直径が約10μmから約150μmに対して、加工深さΔZdが1.5mm以上の高アスペクト比の穴Hの加工が施される。
【0083】
このような高アスペクト比の穴Hが形成されるという加工結果から考えると、
図8Cに示したとおり、被加工物41の内部においてパルスレーザ光が何らかの理由で自己収束していると考えられる。自己収束の理由としては、
図8Cに示すとおり、被加工物41の内部においてパルスレーザ光が透過する光路に改質が生じて、深さ方向に細長く延びる改質層RFが生成されることが原因と考えられる。
【0084】
1つの仮説としては、この改質層RFは、パルスレーザ光の透過により他の部分と比較して屈折率が増大しており、それによって自己収束が生じていることが考えられる。もう1つの仮説としては、あたかも光ファイバ内を伝播する光のように、改質層RFと未改質部分との境界となる穴Hの内壁面においてパルスレーザ光がフレネル反射を繰り返して深さ方向に進行することによって自己収束が生じていることが考えられる。
【0085】
こうした自己収束の理由はともかく、上述した加工条件で、被加工物41にレーザ加工を行ったところ、高アスペクト比の穴加工を精度よく行うことが確認できた。
【0086】
3.4 好ましい加工条件
紫外線のパルスレーザ光を使用する場合は、パルス幅が半値全幅で、1ns~100nsのナノ秒オーダのパルスレーザ光を使用することが望まれる。というのも、パルス幅はレーザ装置3の性能によって決まるが、現時点においては、紫外線のパルスレーザ光として、パルス幅がピコ秒オーダで高いパルスエネルギのパルスレーザ光を出力できるレーザ装置3を製造することが難しいためである。本例のように、ナノ秒オーダの紫外線のパルスレーザ光を使用することで、現時点において容易に入手可能なレーザ装置3を使用することができる。
【0087】
好ましいパルス幅としては、半値全幅で1ns~100nsであり、さらに好ましくは、10ns~20nsである。レーザ装置3としては、こうしたパルス幅のパルスレーザ光を出力するレーザ装置3を使用することが好ましい。
【0088】
こうしたナノ秒オーダの紫外線のパルスレーザ光を使用して、合成石英ガラスなどの紫外線に対して透明な透明材料である被加工物41に対して、高アスペクト比の穴を形成するレーザ加工を施す場合に適した加工条件は、以下のとおりである。
【0089】
図9に示すグラフは、転写位置におけるフルーエンスFtと、加工深さΔZdとの関係を示すグラフである。プロット点が菱形で、かつ、実線で示されている曲線は、転写位置の深さΔZsfが1mmの場合のグラフであり、プロット点が四角形で、かつ、破線で示されている曲線は、転写位置の深さΔZsfが2mmの場合のグラフである。どちらのグラフも、フルーエンスFtを上げるほど加工深さΔZdが増加している。
【0090】
また、
図9のグラフにおいては、フルーエンスFtが3J/cm
2未満のデータは示されていないが、転写位置のフルーエンスFtが3J/cm
2未満であると加工深さΔZdが浅く、高アスペクト比の穴加工ができにくいことを確認している。これは、フルーエンスFtが3J/cm
2に満たないと、エネルギが小さすぎてアブレーション加工が生じにくく、加工が不完全になってしまうためと考えられる。
【0091】
図10は、フルーエンスFtを2J/cm
2に設定して、被加工物41に対してレーザ加工を施した加工結果を示す写真である。
図7と同様に撮影方向はY軸方向である。加工条件は、フルーエンスFtを除いて、
図7の加工結果と同じ加工条件である。
図10において、横方向に延びる白い破線は、被加工物41の表面の位置を示す。
図10に示すように、フルーエンスFtが2J/cm
2では、被加工物41の表面において僅かに穴が形成されるが、深さ方向に加工が進んでおらず、穴加工が不完全な様子が確認できる。
【0092】
図11に示すグラフは、照射時間と、加工深さΔZdとの関係を示すグラフである。プロット点が菱形で、かつ、実線で示されている曲線は、フルーエンスFtが9.3J/cm
2で、かつ、転写位置の深さΔZsfが1mmの場合のグラフである。プロット点が四角形で、かつ、破線で示されている曲線は、フルーエンスFtが4.7J/cm
2で、かつ、転写位置の深さΔZsfが2mmの場合のグラフである。
【0093】
繰り返し周波数fはどちらのグラフも1kHzである。
図11の横軸の照射時間は単位が秒(sec)であるので、繰り返し周波数f×照射時間(秒)=照射パルス数となり、例えば、照射時間が5秒の場合は、照射パルス数は5,000である。
【0094】
図11において、加工深さΔZdが飽和する飽和点について実線と破線のグラフを比較すると、フルーエンスFtが相対的に低い破線のグラフの飽和点が約10secであるのに対して、フルーエンスFtが相対的に高い実線のグラフの飽和点は約30secである。
図11のグラフからは、フルーエンスFtが高い方が、照射時間に対して飽和が遅くなり、加工深さΔZdを深くすることが確認できる。
【0095】
また、
図11において、照射時間が約3秒、すなわち、繰り返し周波数fが1kHzであることを前提とすると、照射パルス数が約3,000までは、実線及び破線のどちらのグラフも重なっている。そのため、この範囲では、加工深さΔZdは、フルーエンスFtに依存していないことがわかる。このことから、照射パルス数が約3,000までの範囲では、パルスレーザ光の自己収束が開始されていないと考えられる。そのため、照射パルス数は3,000パルス以上あることが好ましい。照射パルス数の上限としては、加工深さΔZdの飽和点に到達する照射パルス数である35,000であることが好ましい。なお、
図11では、繰返し周波数fが1kHzでの結果を示しているが、繰返し周波数fが100Hzの場合においても、照射パルス数で比較すると加工深さΔZdが飽和する飽和点は略同じとなる。そのため、照射パルス数と加工深さΔZdの関係に対しては、繰返し周波数fの依存は少ない。
【0096】
図12は、転写位置の深さΔZsfと加工深さΔZdの関係を示すグラフである。
図11において、プロット点が菱形で、かつ、実線で示されている曲線は、
図11に示す実線のグラフと同様に、フルーエンスFtが9.3J/cm
2の場合のグラフであり、プロット点が四角形で、かつ、破線で示されている曲線は、
図11に示す破線のグラフと同様に、フルーエンスFtが4.7J/cm
2の場合のグラフである。どちらのグラフも、繰り返し周波数fは1kHzで、照射時間は10秒である。
【0097】
図12において、フルーエンスFtが相対的に低い破線のグラフでは、転写位置の深さΔZsfが約2.5mmまでは、転写位置の深さΔZsfが深いほど、加工深さΔZdも増加している。これは、約2.5mmまでは、フルーエンスFtが最大となる転写位置が被加工物41の表面から深くなるため、被加工物41の深い部分におけるパルスレーザ光のエネルギが大きくなり深さ方向に加工が進むためと考えられる。
【0098】
一方、約2.5mmを超えると、転写位置の深さΔZsfが深くなっても、加工深さΔZdは単調に低下する傾向になり、深さΔZsfが4mmを超えると、加工深さΔZdが1mmを大きく割り込む。これは、深さΔZsfが約2.5mmを超えると、被加工物41の表面付近のフルーエンスFtが不足して、表面付近のアブレーション加工が進まず、その結果、深さ方向にもアブレーション加工が進行しなくなるためと考えられる。
【0099】
また、
図12において、フルーエンスFtが相対的に高い実線のグラフでは、転写位置の深さΔZsfが約0.5mmから約3.5mmの間では、加工深さΔZdが2mm以上となっている。この範囲においては、フルーエンスFtが最大となる転写位置が被加工物41の表面から深くなるため、被加工物41の深い部分におけるパルスレーザ光のエネルギが大きくなり深さ方向にアブレーション加工が進むためと考えられる。
【0100】
一方、転写位置の深さΔZsfが約3.5mmを超えると、転写位置の深さΔZsfが単調に低下する傾向になり、深さΔZsfが4mmを超えると、加工深さΔZdが1mmに近づく。
【0101】
また、転写位置の深さΔZsfが0mmから約0.5mm近辺までの範囲では、加工深さΔZdについては、2mm以上の深さが確保できている。しかし、この範囲では、加工深さΔZdが確保できても、表面付近の加工直径に対して深い部分の加工直径が著しく細い先細形状の穴になってしまう場合が多く、加工精度が悪い。以上より、転写位置の深さΔZsfの好ましい範囲としては、0.5mm以上4mm以下の範囲であることが好ましい。
【0102】
また、
図12の実線と破線のグラフのそれぞれの加工深さΔZdのピーク値を比較すると、フルーエンスFtが相対的に低い破線のグラフの方が、転写位置の深さΔZsfが深いところにピーク値がある。換言すれば、フルーエンスFtが相対的に高い実線のグラフでは、フルーエンスFtが相対的に低い破線のグラフと比較して、加工深さΔZdがピーク値を示す転写位置の深さΔZsfが被加工物41の表面付近にシフトしている。
【0103】
また、
図9において示したように被加工物41に対するレーザ加工に必要なフルーエンスFtの下限値は3J/cm
2である。こうした
図9及び
図12に示す実験結果を考慮すると、転写位置の深さΔZsfの範囲として0.5mm以上4mm以下の範囲が特に好ましいのは、フルーエンスFtが3J/cm
2から15J/cm
2までの範囲においてであると考えられる。
【0104】
3.5 その他
本例のように、ビームホモジナイザ46を用いると、パルスレーザ光の光強度が空間的に均一化されて転写マスク47に照射される。そのため、転写マスク47においてパルスレーザ光が照射される範囲内であれば、転写マスク47内のどの位置に転写パターンが形成されていても、転写パターンによって形成されるパルスレーザ光の転写像のフルーエンスは安定する。
【0105】
また、転写マスク47としては、例えば複数のピンホールが形成されたものなど、複数の転写パターンが形成されたものを使用してもよい。このような転写マスク47を使用すれば複数の穴を同時に加工することが可能となる。この場合の転写レンズ48としては、少なくとも加工側がテレセントリックな転写光学系を使用することが好ましい。というのも、テレセントリックな光学系であれば、複数の転写パターンを透過するそれぞれのパルスレーザ光の光軸が平行になるため、被加工物41に照射されるそれぞれのパルスレーザ光が被加工物41の表面に対して垂直に入射する。その結果、被加工物41の表面に対して中心軸が略垂直な複数の穴を形成することができる。
【0106】
また、本例では、XYZステージ34を制御して被加工物41を移動させることにより、パルスレーザ光の転写位置と被加工物41との相対的な位置決めを行っている。このように被加工物41を移動する代わりに、転写マスク47をパルスレーザ光の光軸方向に移動させることによって相対的な位置決めを行ってもよい。すなわち、転写マスク47をパルスレーザ光の光軸方向に移動させることは、転写レンズ48が転写する転写像の物体側の位置を、転写レンズ48に対して変化させることに他ならないので、転写像の転写位置も光軸方向に変化する。これにより、パルスレーザ光の転写位置と被加工物41との相対的な位置決めが可能となる。なお、この場合、転写レンズ48に対して転写マスク47を光軸方向に移動させると、転写像の大きさも変化する。このような、転写マスク47の移動に起因する転写像の直径の変化が抑制されるように、転写マスク47のピンホールの直径を変化させてもよい。
【0107】
また、本例のように、転写光学系を用いてピンホール形状の転写像を被加工物41に転写する場合には、後述する第2実施形態のようにパルスレーザ光を単に集光して被加工物41に照射する場合と比較して、ビームの直径の変化が抑制されるというメリットがある。レーザ装置3が出力するパルスレーザ光のビームは、レーザ装置3の光共振器などの状態でモードが変化してビームの直径が変化する。これに対して、転写光学系を用いる場合は、パルスレーザ光のビームをそのまま被加工物41に照射するのではなく、転写マスク47でパルスレーザ光のピンホール形状の転写像を形成して、形成した転写像を被加工物41に転写する。そのため、パルスレーザ光のモード変化に起因するビームの直径の変化が抑制される。
【0108】
また、本例では、レーザ装置3として、レーザ媒質としてArFレーザガスを使用し、中心波長約193.4nmのパルスレーザ光を出力するArFエキシマレーザ装置を例に説明したが、他のレーザ装置でもよい。レーザ装置3としては、レーザ媒質としてKrFレーザガスを使用し、中心波長が約248.4nmのパルスレーザ光を出力するKrFエキシマレーザ装置を使用してもよい。被加工物41として合成石英ガラスを使用する場合には、パルスレーザ光の中心波長の範囲は、F2レーザの中心波長である約157.6nmからKrFレーザの中心波長である248.4mnの範囲であることが好ましい。
【0109】
被加工物41として合成石英ガラスを例にしたが、合成石英ガラスに限定されるものではなく、被加工物41としては、紫外線のパルスレーザ光に対して透明な透明材料であればよい。たとえば、紫外線のパルスレーザ光に対して透明な透明材料としては、MgF2結晶、CaF2結晶、サファイヤ等がある。
【0110】
4.第2実施形態のレーザ加工システム及びレーザ加工方法
4.1 構成
図13は、第2実施形態のレーザ加工システム2Bを示す。
図13に示すように、第2実施形態のレーザ加工システム2Bは、レーザ装置3と、レーザ加工装置4Bとを備えている。レーザ装置3は、第1実施形態と同様である。レーザ加工装置4Bは、第1実施形態のレーザ加工装置4Aの光学システム36に変えて、光学システム61を備えている。光学システム61は、第1実施形態の光学システム36のように転写マスク47や転写レンズ48を備えておらず、レーザ装置3が出力するガウシアン分布を持つパルスレーザ光のビームをそのまま集光して被加工物41に照射する集光光学系を備えた光学システムである。
【0111】
レーザ加工制御部32Bは、第1実施形態のレーザ加工制御部32Aのようにパルスレーザ光の転写位置と被加工物41との相対的な位置決めを行う代わりに、パルスレーザ光のビームウエスト位置と被加工物41との相対的な位置決めを行う。レーザ加工システム2Bのそれ以外の構成は、第1実施形態のレーザ加工システム2Aと同様であるので、以下、相違点を中心に説明する。
【0112】
光学システム61は、高反射ミラー36aから36cと、アッテネータ52と、集光レンズ62とを備えている。高反射ミラー36aから36c及びアッテネータ52は、第1実施形態の光学システム36と同様である。高反射ミラー36cは、パルスレーザ光を集光レンズ62に向けて反射する。
【0113】
集光レンズ62は、入射したパルスレーザ光を、ウインドウ42を介して被加工物41に集光するように配置される。
【0114】
また、第2実施形態のレーザ加工システム2Bも、第1実施形態のレーザ加工システム2Aと同様に、被加工物41に対して、加工直径が10μm以上150μm以下の高アスペクト比の穴を加工する。そのため、レーザ加工システム2Bも、ビームウエスト位置におけるビームの直径が10μm以上150μm以下のパルスレーザ光を被加工物41に照射する。ビームウエスト位置におけるパルスレーザ光のビームの直径は、パルスレーザ光のビームウエスト位置における、後述する集光径Dと一致する。
【0115】
レーザ加工システム2Bの場合は、レーザ加工システム2Aと異なり、ガウシアン分布のパルスレーザ光を、転写像に変換することなく被加工物41に照射する。そのため、パルスレーザ光のビームの直径は、レーザ装置3の仕様によって決まる。
【0116】
4.2 動作
図14及び
図15を参照しながら、レーザ加工システム2Bの動作を説明する。第2実施形態の
図14のフローチャートと、第1実施形態の
図6のフローチャートと異なる点は、ステップS130AがステップS130Bに変更されている点と、ステップS140がS140Bに変更されている点であり、その他の点は同様である。レーザ加工制御部32Bは、S100からS120を実行した後、S130Bを実行する。
【0117】
S130Bにおいて、レーザ加工制御部32Bは、パルスレーザ光のビームウエスト位置が、被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置となるように、XYZステージ34を制御して、被加工物41のZ軸方向の位置を調整する(S130B)。具体的には、位置データにおいて、被加工物41のZ軸方向の位置は、パルスレーザ光のビームウエスト位置が、被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置となるように規定されている。
【0118】
S130Bにおいて、レーザ加工制御部32Bは、位置データに基づいてXYZステージ34の移動量を制御することにより、被加工物41のZ軸方向の位置を調整する。これにより、Z軸方向と平行なパルスレーザ光の光軸方向において、ビームウエスト位置が被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置となるように、被加工物41とビームウエスト位置との相対的な位置決めが行われる。
【0119】
被加工物41の位置決めが終了すると、レーザ加工が行われる(S140B)。S140Bのレーザ加工後のS150からS160までの処理は、第1実施形態と同様に、
図2に示した比較例に係るレーザ加工システム2の処理と同様である。
【0120】
図15は、レーザ加工を行うS140Bのフローチャートである。S140Bの処理は、基本的には、
図3の比較例に係るフローチャートと同様であるが、S144の代わりにS144Bの処理が実行される。第2実施形態においては、パルスレーザ光のビームウエスト位置と被加工物41の相対的な位置決めを行う。そのため、S144Bにおけるアッテネータ52の透過率Tは、パルスレーザ光のビームウエストにおけるフルーエンスがFtとなるように設定される。
【0121】
ここで、第2実施形態におけるフルーエンスFtとは、レーザ加工に必要なフルーエンスであり、パルスレーザ光のビームウエスト位置における、パルスレーザ光のエネルギ密度である。光学システム36の光損失が無視できる場合は、フルーエンスFtは、下記式(3)で定義される。
Ft=Et・T/S[mJ/cm2]・・・・・・(3)
ここで、Sは照射面積であり、パルスレーザ光のビームウエスト位置における集光直径をDとすると、S=π(D/2)2[cm2]となる。集光直径Dは、1/e2全幅であり、1/e2全幅は、光強度がピーク値に対して1/e2の値となる位置における直径である。Tは、アッテネータ52の透過率である。
したがって、第2実施形態のアッテネータ52の透過率Tは、光学システム36の光損失が無いとした場合、上記式(3)から、下記式(4)に基づいて求められる。
T=π(D/2)2(Ft/Et)・・・・・(4)
【0122】
第2実施形態において、パルスレーザ光の波長、パルス幅、フルーエンスFtの範囲、ΔZsfの範囲、照射パルス数などの加工条件は、第1実施形態と同様である。
【0123】
4.3 作用
第2実施形態の場合も、ビームウエスト位置は、第1実施形態の転写位置と同様に、照射するパルスレーザ光のフルーエンスが最も高くなる位置である。そのため、ビームウエスト位置を、被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置とすることで、第1実施形態と同様に、高アスペクト比の穴加工を精度よく行うことが可能となる。
【0124】
4.4 レーザ加工装置の変形例
図16に示すレーザ加工装置4Cは、
図13に示す第2実施形態のレーザ加工装置4Bの変形例である。レーザ加工装置4Cは、レーザ加工装置4Bの光学システム61に代えて、光学システム71を備えている。また、レーザ加工制御部32Bに代えて、レーザ加工制御部32Cを備えている。それ以外の構成は同様である。以下、相違点を中心に説明する。
【0125】
光学システム71は、光学システム61に波面調節器72を追加したものである。波面調節器72は、凹レンズ72a、凸レンズ72b及び1軸ステージ72cを備えている。1軸ステージ72cは、凹レンズ72aを保持し、凹レンズ72aを光軸方向に移動して、凹レンズ72aと凸レンズ72bとの間隔を調節する。凹レンズ72a及び凸レンズ72bは、高反射ミラー36cと集光レンズ62の間のパルスレーザ光の光路上に配置されている。高反射ミラー36cで反射したパルスレーザ光は、凹レンズ72a及び凸レンズ72bを介して集光レンズ62に入射する。
【0126】
凹レンズ72aと凸レンズ72bの間隔を調節することにより、被加工物41に照射されるパルスレーザ光のビームウエスト位置を変更することができる。
【0127】
レーザ加工制御部32Cは、XYZステージ34を制御して、被加工物41のXY平面の位置を調整する。一方、Z軸方向における、パルスレーザ光のビームウエスト位置と被加工物41との相対的な位置については、XYZステージ34で被加工物41を移動する代わりに、波面調節器72の1軸ステージ72cを制御してビームウエストのZ軸方向の位置を調整する。具体的には、レーザ加工制御部32Cは、1軸ステージ72cを制御して、凹レンズ72aと凸レンズ72bの間隔を調節することにより、パルスレーザ光の波面を変更することができる。このパルスレーザ光の波面を制御することによって、パルスレーザ光のビームウエスト位置が、被加工物41の表面から深さΔZsfだけ内部に進入した位置となるようにビームウエスト位置を調整する。
【0128】
5.レーザ装置の変形例
上記各実施形態において、レーザ装置は種々の変形が可能である。例えば、レーザ装置として、
図17や
図18に示すレーザ装置を使用してもよい。
【0129】
5.1 変形例1
図17に示す変形例1のレーザ装置3Dは、第1実施形態のレーザ装置3に、増幅器80を追加したものであり、それ以外はほぼ同様である。増幅器80は、マスターオシレータ10とモニタモジュール11の間のパルスレーザ光の光路上に配置されている。増幅器80は、マスターオシレータ10から出力されたパルスレーザ光のエネルギを増幅する増幅器である。
【0130】
増幅器80は、基本的な構成は、マスターオシレータ10と同様であり、マスターオシレータ10と同様に、レーザチャンバ21、充電器23、及びパルスパワーモジュール(PPM)24を備えている。
【0131】
レーザ制御部13Dは、レーザ加工制御部32Aから受信した目標パルスエネルギEtのデータを受信すると、充電器23の充電電圧を制御してパルスエネルギを制御する。
【0132】
レーザ制御部13Dは、レーザ加工制御部32Aから発光トリガTrを受信すると、マスターオシレータ10をレーザ発振させる。加えて、マスターオシレータ10に同期して増幅器80が作動するように制御する。レーザ制御部13Dは、マスターオシレータ10が出力するパルスレーザ光が、増幅器80のレーザチャンバ21内の放電空間に入射したときに放電が生じるように、増幅器80のパルスパワーモジュール24のスイッチ24aをオンする。その結果、増幅器80に入射したパルスレーザ光は、増幅器80において増幅発振する。
【0133】
増幅器80で増幅されて出力されたパルスレーザ光は、モニタモジュール11においてパルスエネルギが計測される。レーザ制御部13Dは、計測されたパルスエネルギの実測値がそれぞれ目標パルスエネルギEtに近づくように、増幅器80とマスターオシレータ10のそれぞれの充電器23の充電電圧を制御する。
【0134】
シャッタ12が開くと、モニタモジュール11のビームスプリッタ11aを透過したパルスレーザ光は、
図5に示したレーザ加工装置4Aに入射する。
【0135】
レーザ装置3Dのように、増幅器80を設けることで、パルスレーザ光のパルスエネルギを高くすることができる。
【0136】
5.2 変形例2
レーザ加工システムにおいて、
図18に示す変形例2のレーザ装置3Eを用いてもよい。レーザ装置3Eは、マスターオシレータ83と、増幅器84とを備えている。また、レーザ装置3Eは、モニタモジュール11の代わりにモニタモジュール11Eを備えている。
【0137】
モニタモジュール11Eは、第1実施形態のモニタモジュール11の構成に加えて、波長モニタ11cとビームスプリッタ11dが追加されている。
【0138】
モニタモジュール11Eにおいて、ビームスプリッタ11dは、ビームスプリッタ11aの反射光路上であって、光センサ11bとの間に配置される。ビームスプリッタ11dは、ビームスプリッタ11aが反射する反射光の一部を反射して、残りを透過する。ビームスプリッタ11dを透過した透過光は、光センサ11bに入射し、ビームスプリッタ11dを反射した反射光は波長モニタ11cに入射する。
【0139】
波長モニタ11cは、周知のエタロン分光器である。エタロン分光器は、例えば、拡散板と、エアギャップエタロンと、集光レンズと、ラインセンサとで構成される。エタロン分光器は、拡散板、エアギャップエタロンによって入射するレーザ光の干渉縞を発生させ、発生した干渉縞を集光レンズでラインセンサの受光面に結像させる。そして、ラインセンサに結像した干渉縞を計測することによって、レーザ光の波長λを計測する。
【0140】
マスターオシレータ83は、固体レーザ装置であり、シード光を出力する半導体レーザ86と、シード光を増幅するチタンサファイヤ増幅器87と、波長変換システム88とを備えている。
【0141】
半導体レーザ86は、シード光として、波長が773.6nmで連続発振するレーザ光である、CW(Continuous Wave)レーザ光を出力する分布帰還型の半導体レーザである。半導体レーザ86の温度設定を変更することによって、発振波長を変化させることができる。
【0142】
チタンサファイヤ増幅器87は、チタンサファイヤ結晶(図示せず)と、ポンピング用パルスレーザ装置(図示せず)とを含む。チタンサファイヤ結晶は、シード光の光路上に配置される。ポンピング用パルスレーザ装置は、YLFレーザの第2高調波光を出力するレーザ装置である。
【0143】
波長変換システム88は、第4高調波光を発生させる波長変換システムであって、LBO(LiB3O5)結晶と、KBBF(KBe2BO3F2)結晶とを含んでいる。各結晶は、図示しない回転ステージ上に配置されており、各結晶に対するシード光の入射角度を変更できるように構成されている。
【0144】
増幅器84は、
図17に示した増幅器80と同様に、1対の電極22a及び22b、レーザ媒質としてArFレーザガスを含むレーザチャンバ21と、パルスパワーモジュール24と、充電器23とを含んでいる。また、増幅器84は、増幅器80と異なり、出力結合ミラー81及びリアミラー82の代わりに、凸面ミラー91と、凹面ミラー92とを備えている。
【0145】
凸面ミラー91と凹面ミラー92は、マスターオシレータ83から出力されたパルスレーザ光が、凸面ミラー91及び凹面ミラー92で反射することにより、レーザチャンバ21の放電空間内を3パスしてビームが拡大するように配置されている。
【0146】
レーザ制御部13Eは、レーザ加工制御部32Aから目標波長λtと目標パルスエネルギEtを受信すると、マスターオシレータ83の固体レーザ制御部89に目標波長λtを送信する。また、レーザ制御部13Eは、目標パルスエネルギとなるように、増幅器84の充電器23の充電電圧を設定する。
【0147】
固体レーザ制御部89は、レーザ制御部13Eから目標波長λtを受信すると、波長変換システム88から出力されるシード光の波長が、目標波長λtとなるように、半導体レーザ86の発振波長λa1を変更する。ここで、発振波長λa1は、目標波長λtの4倍、すなわち、λa1=4λtに設定される。目標波長λtが193.4nmであるので、λa1は、193.4×4=773.6nmとなる。ここで、ArFレーザガスをレーザ媒質とする増幅器84の増幅可能な波長範囲は、193.2nm~193.6nmであるので、必要に応じて、目標波長λtをこの波長範囲で変更してもよい。
【0148】
波長変換システム88において、LBO結晶とKBBF結晶の波長変換効率が最大となるように、固体レーザ制御部89は、図示しない回転ステージを制御して、各結晶に対するレーザ光の入射角度を設定する。
【0149】
固体レーザ制御部89は、レーザ制御部13Eから発光トリガTrが入力されると、チタンサファイヤ増幅器87のポンピング用パルスレーザ装置にトリガ信号を送信する。チタンサファイヤ増幅器87において、ポンピング用パルスレーザ装置はトリガ信号に基づいて、入力されたシード光であるCWレーザ光をパルスレーザ光に変換して出力する。チタンサファイヤ増幅器87から出力されたパルスレーザ光は、波長変換システム88に入力される。波長変換システム88は、λa1のパルスレーザ光を第4高調波である目標波長λtのパルスレーザ光に波長変換して出力する。
【0150】
また、レーザ制御部13Eは、レーザ加工制御部32Aから発光トリガTrを受信すると、マスターオシレータ83から出力されたパルスレーザ光が増幅器84のレーザチャンバ21の放電空間に入射した時に放電するように、パルスパワーモジュール24のスイッチ24aをオンする。
【0151】
その結果、マスターオシレータ83から増幅器84に入射したパルスレーザ光は、レーザチャンバ21において、凸面ミラー91及び凹面ミラー92の作用によって放電空間内を3パスして増幅される。また3パスすることによってパルスレーザ光のビームの直径が拡大される。
【0152】
増幅されたパルスレーザ光は、モニタモジュール11Eによってサンプルされ、パルスエネルギと波長の実測値が計測される。レーザ制御部13Eは、計測されたパルスエネルギと目標パルスエネルギEtとの差が0に近づくように、充電器23の充電電圧を制御する。さらに、レーザ制御部13Eは、計測された波長と目標波長λtとの差が0に近づくように、半導体レーザの発振波長λa1を制御する。モニタモジュール11Eのビームスプリッタ11aを透過したパルスレーザ光は、シャッタ12が開くと、レーザ加工装置に入射する。
【0153】
マスターオシレータ83が固体レーザ装置の場合は、
図13または
図16に示すレーザ加工装置4Bまたはレーザ加工装置4Cの光源として適用するのが好ましい。出力されるパルスレーザ光のビームがシングル横モードのガウシアンビームに近いために、ビームウエスト位置におけるビームの直径を回折限界近くまで小さくすることができる。
【0154】
本例において、増幅器84として、マルチパス増幅器の例を示したが、これに限定されることなく、例えば、ファブリペロ型の共振器や、リング型の共振器を備えた増幅器であってもよい。
【0155】
また、本例において、マスターオシレータ83として固体レーザ装置を用い、固体レーザ装置と、レーザ媒質としてArFレーザガスを使用する増幅器84とを組み合わせて、レーザ装置3Eを構成した。
【0156】
増幅器84がKrFレーザガスをレーザ媒質とする増幅器の場合は、増幅可能な波長範囲は248.1nm~248.7nmである。この場合のレーザ装置としては、マスターオシレータ83が、上記増幅可能な波長範囲で波長を変化させることができる波長可変の固体レーザ装置を用いてもよいし、スペクトル線幅を狭帯域化する狭帯域化KrFエキシマレーザ装置であってもよい。さらに、増幅器84がF2レーザガスをレーザ媒質とする増幅器の場合は、増幅可能な波長は157.6nmである。この場合のレーザ装置は、例えば、マスターオシレータ83がこの波長域で発振する固体レーザ装置が用いられる。以上のように、紫外線のパルスレーザ光を増幅する増幅器の観点から、紫外線のパルスレーザ光の波長は、157.6nm~248.7nmの範囲が好ましい。
【0157】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図したものである。従って、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の各実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
【0158】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される修飾句「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。