(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】伸縮性不織布及びその製造方法並びにその伸縮性不織布を用いたマスク及び吸収性物品
(51)【国際特許分類】
D04H 13/00 20060101AFI20221216BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20221216BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20221216BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20221216BHJP
D04H 1/74 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
D04H13/00
A41D13/11 H
A62B18/02 C
D04H1/4374
D04H1/74
(21)【出願番号】P 2020207786
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020044793
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】若杉 慶
(72)【発明者】
【氏名】中村 友亮
(72)【発明者】
【氏名】星加 和彦
(72)【発明者】
【氏名】光野 聡
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104412(WO,A1)
【文献】特開2008-106378(JP,A)
【文献】特開2006-345993(JP,A)
【文献】特開2010-187901(JP,A)
【文献】国際公開第2008/069280(WO,A1)
【文献】特開2019-070221(JP,A)
【文献】特開平11-131354(JP,A)
【文献】特開2013-009759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D06C 3/00-29/00
A41D 13/00-13/12
A62B 18/00-18/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維配向方向である第1方向と、前記第1方向に対して直交する第2方向とを有し、伸長性繊維及び伸縮性部材を含む伸縮性不織布であって、
前記伸縮性不織布の少なくとも一部は、
100%延伸を2回繰り返した時の第2方向の単位幅当たりの収縮力(F
2)に対する第1方向の単位幅当たりの収縮力(F
1)の比率(F
1/F
2)が20以下となり、且つ
前記第1方向の単位幅当たりの収縮力(F
1)が0.90N/mm以下となるように加工されて
いて、
前記伸縮性不織布は、
前記第2方向の中央部が、前記第1方向に沿って延びる複数本の第1方向溝と、前記第2方向に沿って延びる複数本の第2方向溝と、を有し、
前記第2方向における前記中央部の両外側の部分が、前記第1方向に沿って延びる複数本の第1方向溝を有するが、前記第2方向に沿って延びる第2方向溝を有さないことを特徴とする、前記伸縮性不織布。
【請求項2】
前記第2方向の単位幅当たりの収縮力(F
2)に対する前記第1方向の単位幅当たりの収縮力(F
1)の比率(F
1/F
2)が15以下であることを特徴とする、請求項1に記載の伸縮性不織布。
【請求項3】
前記第1方向の単位幅当たりの収縮力(F
1)が0.75N/mm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の伸縮性不織布。
【請求項4】
前記第2方向に対して90°未満の所定角度で傾斜する第3方向において、100%延伸を2回繰り返した時の第3の方向の単位幅当たりの収縮力(F
3)が、前記第1方向の単位幅当たりの収縮力(F
1)と前記第2方向の単位幅当たりの収縮力(F
2)の間の大きさであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の伸縮性不織布。
【請求項5】
前記第1方向及び前記第2方向における歪みが35%未満であり、坪量が90g/m
2以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の伸縮性不織布。
【請求項6】
一定の力で延伸した時の延伸方向と同方向もしくは直交する方向に100%延伸した時の幅が、50%以上収縮しないことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の伸縮性不織布。
【請求項7】
前記伸縮性部材として、伸縮性繊維を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の伸縮性不織布。
【請求項8】
前記伸縮性不織布は、
前記伸長性繊維を含み、互いに積層された第1不織布及び第2不織布と、
前記第1不織布と前記第2不織布との間に位置する、前記伸縮性部材としての前記伸縮性シートと、
を備えることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の伸縮性不織布。
【請求項9】
上下方向及び横方向を有し、マスク本体部と、前記マスク本体部における前記横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部とを有するマスクであって、
前記耳掛け部の一部又は全部が、請求項1~8のいずれか一項に記載の伸縮性不織布によって形成されていることを特徴とする、前記マスク。
【請求項10】
前記一対の耳掛け部の各々は、
前記マスク本体部の前記横方向の端部に、前記上下方向に沿って接合される接合部と、
一方の端部を、前記接合部における前記上下方向の両端部にそれぞれ連接された上側延出部及び下側延出部と、
前記上下方向の上側の端部及び下側の端部を、前記上側延出部及び前記下側延出部の他方の端部に接合された外方側先端部と、
を含み、
前記外方側先端部が前記伸縮性不織布の少なくとも一部であることを特徴とする、請求項9に記載のマスク。
【請求項11】
前記一対の耳掛け部の各々は、
前記マスク本体部の前記横方向の端部に、前記上下方向に沿って接合される接合部と、
一方の端部を、前記接合部における前記上下方向の両端部にそれぞれ連接された上側延出部及び下側延出部と、
前記上下方向の上側の端部及び下側の端部を、前記上側延出部及び前記下側延出部の他方の端部にそれぞれ接合された外方側先端部と、
を含み、
前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方が前記伸縮性不織布の少なくとも一部であることを特徴とする、請求項9又は10に記載のマスク。
【請求項12】
前記上側延出部及び前記下側延出部は、前記伸縮性不織布の少なくとも一部であり、
前記収縮力は、前記上側延出部及び前記下側延出部のいずれか一方が他方のよりも小さいことを特徴とする、請求項11に記載のマスク。
【請求項13】
前記収縮力は、前記上側延出部の方が前記下側延出部よりも小さいことを特徴とする、請求項12に記載のマスク。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載の伸縮性不織布を含むことを特徴とする、吸収性物品。
【請求項15】
伸縮性不織布の製造方法であって、
搬送する不織布の少なくとも一部を、搬送方向及び前記搬送方向と直交する方向の2方向に延伸する工程を
含み、
前記2方向に延伸する工程は、
前記不織布を、前記搬送方向と直交する方向に延伸して、前記不織布における前記搬送方向と直交する方向の中央部及び前記中央部の両外側の部分に、前記搬送方向に沿って延びる複数本の第1方向溝を形成する第1延伸工程と、
前記不織布を、前記搬送方向に延伸して、前記中央部に、前記搬送方向に直交する方向に沿って延びる複数本の第2方向溝を形成し、前記両外側の部分に前記搬送方向に直交する方向に沿って延びる第2方向溝を形成しない第2延伸工程と、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項16】
前記2方向に延伸する工程は、前
記第1延伸工程を実施した後に、前
記第2延伸工程を実施することを特徴とする、請求項1
5に記載の製造方法。
【請求項17】
前記2方向に延伸する工程は、前記
不織布に前記搬送方向への延伸が行われず、前記第2方向溝が形成されない搬送方向非延伸部が前記不織布の前記直交する方向の両端に形成されるように、前記不織布を延伸することを特徴とする、請求
項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記2方向に延伸する工程は、
前記不織布としての第1不織布の少なくとも一部を、前記搬送方向及び前記搬送方向と直交する方向の2方向に延伸する工程と、
前記不織布としての第2不織布の少なくとも一部を、前記搬送方向及び前記搬送方向と直交する方向の2方向に延伸する工程と、
前記第1不織布と伸縮性シートと前記第2不織布とをこの順に積層する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項15~
17のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性不織布及びその製造方法並びにその伸縮性不織布を用いたマスク及び吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は、使い捨てマスク等の衛生用品、フェイスマスク等の美容用品、使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品、ワイパー等の清掃用品などの幅広い分野で使用されている。
【0003】
そして、そのような不織布の中には、ギア延伸などの加工手段によって伸縮性が付与された不織布(すなわち伸縮性不織布)も知られており、例えば特許文献1には、混合された伸長性繊維と伸縮性繊維からなり、互いに4~7mmの間隔を空けて配置された凸状のギア歯を有する一対のギアロールの間を通過させてなる伸縮性不織布が開示されている。この特許文献1に開示された伸縮性不織布は、肌触り(クッション性)に優れ、通気性が高く、かつ、坪量の低い不織布であっても、使用時に高い伸縮範囲を有し、延伸処理時による破断、強度低下を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された伸縮性不織布のように、ギア延伸によって伸縮性が付与された不織布は、延伸方向(すなわち、不織布の搬送方向(MD方向)であり、不織布の構成繊維が配向する方向(繊維配向方向))だけでなく、延伸方向に対して直交する方向(CD方向)や90°未満の所定角度で傾斜する方向においても一定の伸縮性が発現されるものの、MD方向及びCD方向のそれぞれに延伸した場合の収縮力の差が大きいため、不織布の適用対象箇所(例えば、マスクや吸収性物品の着用者の身体、ワイパー等の拭き取り対象面などの所定箇所)の凹凸形状に沿って十分に追従変形することができず、当該不織布を適用した製品の所期の効果が得られにくくなるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、適用対象箇所の凹凸形状に沿って的確に追従変形することができる伸縮性不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様(態様1)は、繊維配向方向である第1方向と、前記第1方向に対して直交する第2方向とを有し、伸長性繊維及び伸縮性部材を含む伸縮性不織布であって、前記伸縮性不織布の少なくとも一部は、100%延伸を2回繰り返した時の第2方向の単位幅当たりの収縮力(F2)に対する第1方向の単位幅当たりの収縮力(F1)の比率(F1/F2)が20以下となり、且つ前記第1方向の単位幅当たりの収縮力(F1)が0.90N/mm以下となるように加工されていることを特徴とする、前記伸縮性不織布である。
【0008】
本態様の伸縮性不織布は、伸長性繊維及び伸縮性部材(伸縮性繊維及び/又は伸縮性シート)を含み、少なくとも一部が第1方向及び第2方向の2方向において延伸時の収縮力の差が小さく、小さい力で伸縮可能である。そのため、当該不織布の適用対象箇所(マスクや吸収性物品の着用者の身体などの所定箇所)の凹凸形状に沿って的確に追従変形することができる(すなわち、優れた形状追従性を発揮することができる)。
なお、本明細書においては、不織布の適用対象箇所の凹凸形状に沿って追従変形しやすい性質を、形状追従性と称することがある。
【0009】
また、本発明の別の態様(態様2)では、上記態様1の伸縮性不織布において、前記第2方向の単位幅当たりの収縮力(F2)に対する前記第1方向の単位幅当たりの収縮力(F1)の比率(F1/F2)が15以下であることを特徴とする。
【0010】
本態様の伸縮性不織布は、第1方向及び第2方向の2方向における延伸時の収縮力の差がより小さいため、上記の優れた形状追従性をより確実に発揮することができる。
【0011】
本発明の更に別の態様(態様3)では、上記態様1又は2の伸縮性不織布において、前記第1方向の単位幅当たりの収縮力(F1)が0.75N/mm以下であることを特徴とする。
【0012】
本態様の伸縮性不織布は、第1方向においてより小さい力で伸縮可能であるため、上記の優れた形状追従性を更に確実に発揮することができる。
【0013】
また、本発明の更に別の態様(態様4)では、上記態様1~3のいずれかの伸縮性不織布において、前記第2方向に対して90°未満の所定角度で傾斜する第3方向において、100%延伸を2回繰り返した時の第3の方向の単位幅当たりの収縮力(F3)が、前記第1方向の単位幅当たりの収縮力(F1)と前記第2方向の単位幅当たりの収縮力(F2)の間の大きさであることを特徴とする。
【0014】
本態様の伸縮性不織布は、第3方向においても小さな力で伸縮可能であるため、上記の優れた形状追従性を更に確実且つ的確に発揮することができる。
【0015】
本発明の更に別の態様(態様5)では、上記態様1~4のいずれかの伸縮性不織布において、前記第1方向及び前記第2方向における歪みが35%未満であり、坪量が90g/m2以下であることを特徴とする。
【0016】
本態様の伸縮性不織布は、第1方向及び第2方向の2方向における歪みが小さく(すなわち、伸長後に元の長さに戻りやすく)、当該2方向の伸縮性を持続的に発揮しやすいため、上記の優れた形状追従性をより長期にわたって発揮することができる。
【0017】
本発明の更に別の態様(態様6)では、上記態様1~5のいずれかの伸縮性不織布において、一定の力で延伸した時の延伸方向と同方向もしくは直交する方向に100%延伸した時の幅が、50%以上収縮しないことを特徴とする。
【0018】
本態様の伸縮性不織布は、一定の力で延伸した時の延伸方向と同方向もしくは直交する方向に100%延伸した時の幅が収縮しにくいため(すなわち、ネックインが生じにくいため)、上記の優れた形状追従性をより安定して発揮することができる。
【0019】
本発明の更に別の態様(態様7)では、上記態様1~6のいずれかの伸縮性不織布において、前記伸縮性部材として、伸縮性繊維を含むことを特徴とする。
【0020】
本態様の伸縮性不織布は、伸縮性部材として、伸縮性繊維を含んでいる。そのため、伸縮性繊維及び伸長性繊維との混合により、伸縮性不織布を薄く丈夫に形成することができる。それにより、上記の優れた形状追従性をより安定して発揮することができる。
【0021】
本発明の更に別の態様(態様8)では、上記態様1~7のいずれかの伸縮性不織布において、前記伸縮性不織布は、前記伸長性繊維を含み、互いに積層された第1不織布及び第2不織布と、前記第1不織布と前記第2不織布との間に位置する、前記伸縮性部材としての前記伸縮性シートと、を備えることを特徴とする。
【0022】
本態様の伸縮性不織布は、第1不織布及び第2不織布との間に、伸縮性部材として、収縮力を調整が容易な伸縮性シートを備えている。そのため、所望の収縮力を有する伸縮性シートを適宜選択したり、伸縮性シートの収縮力を調整したりすることで、伸縮性不織布全体としての比率(F1/F2)や収縮力(F1)を所望の数値範囲に容易に設定することができる。それにより、上記の優れた形状追従性をより安定して発揮することができる。
【0023】
また、本発明の更に別の態様(態様9)は、上下方向及び横方向を有し、マスク本体部と、前記マスク本体部における前記横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部を有するマスクであって、前記耳掛け部の一部又は全部が、上記態様1~8のいずれかの伸縮性不織布によって形成されていることを特徴とする。
【0024】
本態様のマスクは、耳掛け部の少なくとも一部が上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布によって形成されているため、当該耳掛け部を着用者の耳の湾曲した形状に沿って的確に追従変形させることができる。これにより、本態様のマスクは、締め付け感が少なく、着用者の顔面の所定箇所に的確にフィットさせることができる。
【0025】
本発明の更に別の態様(態様10)では、上記態様9のマスクにおいて、前記一対の耳掛け部の各々は、前記マスク本体部の前記横方向の端部に、前記上下方向に沿って接合される接合部と、一方の端部を、前記接合部における前記上下方向の両端部にそれぞれ連接された上側延出部及び下側延出部と、前記上下方向の上側の端部及び下側の端部を、前記上側延出部及び前記下側延出部の他方の端部に連接された外方側先端部と、を含み、前記外方側先端部が前記伸縮性不織布の少なくとも一部であることを特徴とする。
【0026】
本態様のマスクは、耳掛け部の中でも最も曲率半径の大きい変形が求められる外方側先端部が、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布によって形成されている。そのため、当該耳掛け部、特に外方側先端部を、小さな力で、着用者の耳の湾曲した形状に沿ってより的確に追従変形させることができる。これにより、本態様のマスクは、締め付け感がより少なく、着用者の顔面の所定箇所により的確にフィットさせることができる。
【0027】
本発明の更に別の態様(態様11)では、上記態様9又は10のマスクにおいて、前記一対の耳掛け部の各々は、前記マスク本体部の前記横方向の端部に、前記上下方向に沿って接合される接合部と、一方の端部を、前記接合部における前記上下方向の両端部にそれぞれ連接された上側延出部及び下側延出部と、前記上下方向の上側の端部及び下側の端部を、前記上側延出部及び前記下側延出部の他方の端部にそれぞれ接合された外方側先端部と、を含み、前記上側延出部及び前記下側延出部の少なくとも一方が前記伸縮性不織布の少なくとも一部であることを特徴とする。
【0028】
本態様のマスクは、上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方が上記の伸縮性不織布の少なくとも一部である。そのため、当該耳掛け部が着用者の耳の湾曲した形状に沿って変形するとき、上側延出部及び下側延出部の少なくとも一方を、小さな力で伸縮させることで、外方側先端部による耳への締め付け感を少なくすることができる。これにより、本態様のマスクは、締め付け感がより少なく、着用者の顔面の所定箇所に的確にフィットさせることができる。
【0029】
本発明の更に別の態様(態様12)では、上記態様11のマスクにおいて、前記上側延出部及び前記下側延出部は、前記伸縮性不織布の少なくとも一部であり、収縮力は、前記上側延出部及び前記下側延出部のいずれか一方が他方のよりも小さいことを特徴とする。
【0030】
本態様のマスクでは、伸縮性不織布で形成された上側延出部及び下側延出部のいずれか一方が他方よりも、収縮力が小さいものである。そのため、当該耳掛け部が着用者の耳の湾曲した形状に沿って変形するとき、上側延出部及び下側延出部のうちの、相対的に小さな力で伸縮する延出部で、外方側先端部による耳への締め付け感を少なくすることができ、かつ、相対的に強い力で伸縮する延出部で、安定的な装着を確保することができる。これにより、本態様のマスクは、締め付け感がより少なく、着用者の顔面の所定箇所により的確にフィットさせることができる。
【0031】
本発明の更に別の態様(態様13)では、上記態様12のマスクにおいて、収縮力は、前記上側延出部の方が前記下側延出部よりも小さいことを特徴とする。
【0032】
マスクでは、耳掛け部における耳の上側に位置する部分が耳を強く引っ張ると、着用者は耳に痛みを感じやすくなる。そこで、本態様のマスクでは、上側延出部の収縮力を下側延出部の収縮力よりも小さくしている。そのため、当該耳掛け部が着用者の耳の湾曲した形状に沿って変形するとき、相対的に小さい力で伸縮する上側延出部で、外方側先端部による耳への締め付け感を少なくできると共に痛みも低減でき、かつ、相対的に強い力で伸縮する下側延出部で、安定的な装着を確保することができる。これにより、本態様のマスクは、締め付け感や痛みがより少なく、着用者の顔面の所定箇所により的確にフィットさせることができる。
【0033】
また、本発明の更に別の態様(態様14)は、上記態様1~8のいずれかの伸縮性不織布を含むことを特徴とする、吸収性物品である。
【0034】
本態様の吸収性物品は、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布を含むものであるため、当該伸縮性不織布を適用した吸収性物品の所定部位を、着用者の身体の所定箇所の形状に沿って的確に追従変形させることができる。これにより、本態様の吸収性物品は、締め付け感が少なく、着用者の身体の所定箇所に的確にフィットさせることができる。
【0035】
また、本発明の更に別の態様(態様15)は、伸縮性不織布の製造方法であって、
搬送する不織布の少なくとも一部を、搬送方向及び前記搬送方向と直交する方向の2方向に延伸する工程を含むことを特徴とする、前記製造方法である。
【0036】
本態様の製造方法によれば、少なくとも一部が搬送方向(すなわち、繊維配向方向である第1方向)及び搬送方向と直交する方向(すなわち、第1方向と直交する第2方向)の2方向において延伸時の収縮力の差が小さく、小さな力で伸縮可能な伸縮性不織布(すなわち、優れた形状追従性を有する伸縮性不織布)を製造することができる。
【0037】
本発明の更に別の態様(態様16)では、上記態様15の製造方法において、前記2方向に延伸する工程が、前記搬送方向に延伸する部分と、前記直交する方向に延伸する部分とが重なるように、前記不織布を延伸することを特徴とする。
【0038】
本態様の製造方法は、搬送方向及び該搬送方向と直交する方向の2方向だけでなく、これら2方向の間の方向においても、不織布が一定程度延伸されるため(すなわち、伸縮性を発現するため)、より優れた形状追従性を有する伸縮性不織布を製造することができる。
【0039】
本発明の更に別の態様(態様17)では、上記態様15又は16の製造方法において、前記2方向に延伸する工程は、前記不織布を前記直交する方向に延伸した後に、前記搬送方向に延伸することを特徴とする。
【0040】
本態様の製造方法は、上記直交する方向の延伸を先に行うことで、当該延伸後の不織布が搬送時の影響(すなわち、搬送方向に掛かる張力の影響)を受けにくく、次の搬送方向の延伸を的確に行うことができるため、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布をより精度よく製造することができる。
【0041】
本発明の更に別の態様(態様18)では、上記態様17の製造方法において、前記2方向に延伸する工程は、前記不織布を前記搬送方向に延伸する時に、前記不織布に前記搬送方向への延伸が行われない搬送方向非延伸部を形成するように、前記不織布を延伸することを特徴とする。
【0042】
本態様の製造方法は、不織布を搬送方向に延伸する際に形成される搬送方向非延伸部が、不織布の搬送時に掛かる張力を受けることで、延伸された部分にはこのような張力が掛かりにくくなるため、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布を、更に精度よく製造することができる。
【0043】
本発明の更に別の態様(態様19)では、上記態様18の製造方法において、前記2方向に延伸する工程は、前記搬送方向非延伸部が前記不織布の前記直交する方向の両端に形成されるように、前記不織布を延伸することを特徴とする。
【0044】
本態様の製造方法は、不織布の搬送方向と直交する方向の両端に形成される搬送方向非延伸部が、不織布の搬送時に掛かる張力をより確実に受けることで、当該搬送方向非延伸部に挟まれる延伸された部分には、このような張力がより一層掛かりにくくなるため、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布を更に精度よく、安定して製造することができる。
【0045】
本発明の更に別の態様(態様20)では、上記態様15~19のいずれか一項に製造方法において、前記2方向に延伸する工程は、前記不織布としての第1不織布の少なくとも一部を、前記搬送方向及び前記搬送方向と直交する方向の2方向に延伸する工程と、前記不織布としての第2不織布の少なくとも一部を、前記搬送方向及び前記搬送方向と直交する方向の2方向に延伸する工程と、延伸された前記第1不織布と伸縮性シートと延伸された前記第2不織布とをこの順に積層する工程と、を含むことを特徴とする。
【0046】
本態様の製造方法によれば、伸縮性シートの収縮力を調整することで、伸縮性不織布全体としての比率(F1/F2)や収縮力(F1)を所望の数値範囲に容易に設定でき、上記の優れた形状追従性をより安定して発揮することが可能な伸縮性不織布を製造することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、適用対象箇所の凹凸形状に沿って的確に追従変形することができる伸縮性不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る伸縮性不織布1の部分斜視図である。
【
図2】
図2は、伸縮性不織布1を使い捨てマスク2に適用した実施形態の使用状態での平面図である。
【
図3】
図3は、伸縮性不織布1を使い捨てマスク2に適用した実施形態の未使用状態での平面図である。
【
図4】
図4は、伸縮性不織布1の製造方法における、搬送する不織布を2方向に延伸する工程を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、伸縮性不織布1の製造方法の変形例における、搬送する不織布の一部を2方向に延伸する工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の伸縮性不織布の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0050】
[伸縮性不織布]
【0051】
図1は、本発明の一実施形態に係る伸縮性不織布1の部分斜視図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る伸縮性不織布1は、第1方向D
1と、該第1方向D
1に対して直交する第2方向D
2とを有する、全体的にシート状の構造を有している。本実施形態では、第1方向D
1を繊維配向方向とする。
【0052】
なお、繊維配向方向は、不織布を製造する際の搬送方向(いわゆるMD方向)に相当する方向であり、不織布の構成繊維の配向を拡大観察手段(例えば、マイクロスコープや走査型電子顕微鏡等)を用いて拡大観察することにより確認することができる。
【0053】
伸縮性不織布1は、ポリオレフィン繊維等の伸長性繊維と、エラストマー部材等の伸縮性部材とを含む伸縮性不織布であり、少なくとも一部が、100%延伸を2回繰り返した時の第2方向D2の単位幅当たりの収縮力(F2)に対する第1方向D1の単位幅当たりの収縮力(F1)の比率(F1/F2)が20以下となり、且つ第1方向D1の単位幅当たりの収縮力(F1)が0.90N/mm以下となるように加工されている伸縮性不織布である。エラストマー部材としては、例えば、エラストマー繊維等の伸縮性繊維、及び、
エラストマーシート等の伸縮性シート、の少なくとも一方が挙げられる。なお、伸縮性部材(エラストマー部材)が伸縮性繊維の場合には、伸縮性不織布1において、伸縮性繊維と伸長性繊維とは混合(例えば、交絡)されている。
【0054】
伸縮性不織布1が伸長性繊維と伸縮性繊維とを含む場合、伸縮性不織布1は、第1方向D
1及び第2方向D
2の各々にギア延伸加工が行われることにより上記のような2方向の伸縮性が付与されている。このような各方向におけるギア延伸加工によって、伸縮性不織布1の両面には、
図1に示すような第1方向D
1に沿って延びる複数本の第1方向溝11と、第2方向D
2に沿って延びる複数本の第2方向溝12とが形成されている。
なお、本発明の伸縮性不織布においては、このような伸縮性を付与する手段は特に限定されないが、上記の伸縮性をより精度よく、より効率的に付与できる等の点から、本実施形態の伸縮性不織布1のように2方向にギア延伸加工を行う手段を採用することが好ましい。但し、1方向のみのギア延伸加工であっても、ギア延伸加工条件次第で上記の2方向の伸縮性が発現されるような場合は、1方向のみのギア延伸加工を行う手段を採用してもよい。伸縮性不織布の具体的な製造方法については後述する。
【0055】
このように、伸縮性不織布1は、伸縮性部材として、伸縮性繊維を含んでもよい。その場合、伸縮性繊維及び伸長性繊維との混合により、伸縮性不織布を薄く丈夫に形成することができる。それにより、優れた形状追従性をより安定して発揮することができる。
【0056】
伸縮性不織布1が伸長性繊維と伸縮性シートとを含む場合、伸縮性不織布1は、伸長性繊維を含み、互いに積層された第1不織布及び第2不織布と、第1不織布と第2不織布との間に位置する伸縮性シートと、を備えている。第1不織布及び第2不織布は、第1方向D1及び第2方向D2の各々にギア延伸加工が行われること等の方法により上記のような2方向の伸縮性が付与されている。伸縮性シートは、少なくとも第1方向D1及び第2方向D2の伸縮性を有している。第1不織布と第2不織布と伸縮性シートとは、互いに接着、圧着及び融着の少なくとも一つ方法で結合されている。
【0057】
このように、伸縮性不織布1は、第1不織布及び第2不織布との間に、伸縮性部材として、収縮力を調整が容易な伸縮性シートを備えていてもよい。その場合、例えば、所望の収縮力を有する伸縮性シートを適宜選択したり、伸縮性シートの収縮力を調整したりすることで、伸縮性不織布1全体としての比率(F1/F2)や収縮力(F1)を所望の数値範囲に容易に設定することができる。それにより、優れた形状追従性をより安定して発揮することができる。
【0058】
ここで、100%延伸を2回繰り返した時の第1方向D1及び第2方向D2の単位幅当たりの収縮力(F1及びF2)は、伸縮性不織布又はその一部を測定対象の試験片として、該試験片を第1方向D1及び第2方向D2のそれぞれの方向へ元の長さ(D0mm)に対して100%延伸する(すなわち、D0mm延伸する)工程を2回繰り返した後、該試験片が収縮する(すなわち、延伸後に長さが戻る)時の応力(N)を該試験片の幅(すなわち、延伸方向と直交する方向の長さ)で除した応力値(N/mm)を意味する。
かかる応力値は、具体的には次のようにして測定することができる。
【0059】
<単位幅当たりの収縮力の測定方法>
(1)室温20℃、湿度60%の環境下で、測定対象の伸縮性不織布から所定サイズ(例えば、長さ100mm×幅40mm)の試験片を切り出す。
なお、伸縮性不織布から所定サイズの試験片を切り出す際は、試験片の測定対象方向(すなわち、第1方向や第2方向等)が引張試験機による延伸方向に対応するように切り出す。
(2)切り出した試験片を引張試験機(島津製作所製オートグラフAG-50-NXplus H)に所定のチャック間距離(例えば、50mm)で取り付ける。
(3)引張試験機に取り付けた試験片を、所定の引張速度100mm/分で元の長さに対して100%延伸する(すなわち、元の長さ(チャック間距離)と同じ長さ延伸する)工程を2回繰り返した後(なお、100%延伸してから元の長さに戻るまでのインターバル時間は0秒とする。)、該試験片が元の長さに戻る時の力(単位:N)を収縮力として測定する。
なお、試験片の元の長さは、試験片を引張試験機に取り付けた時のチャック間距離と同義である。
(4)測定した収縮力を試験片の幅(例えば、40mm)で除することにより、単位幅当たりの収縮力(N/mm)を得ることができる。
なお、後述する100%延伸を2回繰り返した時の第3方向D3の単位幅当たりの収縮力(F3)についても同様であり、この場合は、試験片の測定対象方向(すなわち、第3方向)が引張試験機による延伸方向に対応するように、伸縮性不織布から所定サイズの試験片を切り出せばよい。また、測定値のばらつきを考慮して、予め設定された個数(例えば、10個)の試験片による平均値を最終的な収縮率としてもよい。
【0060】
上述のとおり伸縮性不織布1は、少なくとも一部が第1方向D1及び第2方向D2の2方向において延伸時の収縮力の差が小さく、低応力で伸縮可能であるため、当該伸縮性不織布1の適用対象箇所(例えば、マスクや吸収性物品の着用者の身体などの所定箇所)の凹凸形状に沿って的確に追従変形することができる(すなわち、優れた形状追従性を発揮することができる)。
なお、上述の第1方向及び第2方向の伸縮性は、ギア延伸加工時の条件(例えば、ギア深さ、ギアピッチ等)を適宜調整することで得ることができる。
【0061】
また、伸縮性不織布1は、構成繊維として伸長性繊維及び伸縮性繊維を含む。これらの繊維は、繊維の最大強度における伸び(最大伸度)よりも小さい伸びで塑性変形を起こす繊維を含み、伸長性繊維は非弾性的に伸長可能な繊維であり、伸縮性繊維は弾性的に伸縮可能な繊維である。伸縮性シートは弾性的に伸縮可能なシートである。
【0062】
伸縮性不織布1の構成繊維として用い得る伸長性繊維は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン系樹脂からなるポリオレフィン繊維やこれらのポリオレフィン系樹脂を複数種類組み合わせてなる芯鞘型の複合繊維などが挙げられる。なお、これらの繊維は単独で用いても、二種類以上の繊維を併用してもよい。
【0063】
また、伸縮性不織布1の構成繊維として用い得る伸縮性繊維は、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系エラストマー繊維、ポリスチレン系エラストマー繊維、ポリオレフィン系エラストマー繊維、ポリアミド系エラストマー繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ゴム系エラストマー繊維等のエラストマー繊維などが挙げられる。なお、これらのエラストマー繊維は単独で用いても、二種類以上の繊維を併用してもよい。
【0064】
伸縮性不織布1の伸長性繊維と伸縮性繊維の混合割合(質量比)は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されず、例えば、80:20~25:75が挙げられ、好ましくは60:40~40:60である。伸長性繊維の割合が80質量%以下であると、伸縮性不織布の歪みをより小さく抑えることができ、また、伸縮性繊維の割合が75質量%以下であると、べたつき等の不快な触感がより生じにくくなるという利点がある。
【0065】
伸縮性不織布1の構成シートとして用いる伸縮性シートは、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、シート状スチレン系ゴム、シート状オレフィン系ゴム、シート状ウレタン系ゴムなどのエラストマーシート、それらと不織布や紙等とを複合した複合エラストマーシートなどが挙げられる。
【0066】
なお、伸縮性不織布1は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、かかる伸縮性不織布が適用される製品(例えば、後述するマスクや吸収性物品等)の要求特性等に応じて、伸長性繊維及び伸縮性繊維以外の任意の繊維やシートを含んでいてもよい。
【0067】
また、上述の実施形態の伸縮性不織布1では、少なくとも一部において、100%延伸を2回繰り返した時の第2方向D2の単位幅当たりの収縮力(F2)に対する第1方向D1の単位幅当たりの収縮力(F1)の比率(F1/F2)が20以下となっているが、かかる比率(F1/F2)は15以下であることが好ましい。このような伸縮性不織布は、第1方向及び第2方向の2方向における延伸時の収縮力の差がより小さいため、上記の優れた形状追従性をより確実に発揮することができる。なお、F1/F2の下限としては、例えば、1/2が挙げられる。
【0068】
また、上述の実施形態の伸縮性不織布1では、第1方向D1の単位幅当たりの収縮力(F1)が0.90N/mm以下となっているが、かかる第1方向の単位幅当たりの収縮力(F1)は0.75N/mm以下であることが好ましい。このような伸縮性不織布は、第1方向においてより低応力で伸縮可能であるため、上記の優れた形状追従性を更に確実に発揮することができる。なお、F1の下限としては、例えば、0.02N/mmが挙げられる。
【0069】
さらに、伸縮性不織布は、上述の第2方向の単位幅当たりの収縮力(F2)が0.25N/mm以下であることが好ましく、0.20N/mm以下であることがより好ましい。このような伸縮性不織布は、第2方向においても低応力で伸縮可能であるため、上記の優れた形状追従性をより確実且つ的確に発揮することができる。
【0070】
また、伸縮性不織布は、第2方向に対して90°未満の所定角度(例えば、30°、60°等)で傾斜する第3方向において、100%延伸を2回繰り返した時の第3の方向の単位幅当たりの収縮力(F3)が第1方向の単位幅当たりの収縮力(F1)と第2方向の単位幅当たりの収縮力(F2)の間の大きさであることが好ましい。このような伸縮性不織布は、第3方向においても低応力で伸縮可能であるため、上記の優れた形状追従性を更に確実且つ的確に発揮することができる。
なお、このような第3方向の伸縮性は、上述の第1方向及び第2方向の伸縮性を調整することで得ることができる。
【0071】
本発明において、伸縮性不織布の坪量は、当該伸縮性不織布が適用される製品の要求特性等に応じた任意の坪量を採用することができ、例えば、90g/m2以下の坪量が挙げられ、好ましくは15g/m2~90g/m2の範囲内の坪量であり、更に好ましくは20g/m2~85g/m2の範囲内の坪量である。伸縮性不織布の坪量が90g/m2以下であると、上述の形状追従性がより得られやすくなり、15g/m2以上であると、伸縮性不織布の使用時に破断等が生じにくくなる。なお、坪量は、JIS L 1906の5.2に従って測定することができる。
【0072】
また、伸縮性不織布は、第1方向及び第2方向における歪みが35%未満であり、坪量が90g/m2以下であることが好ましく、さらに、第1方向及び第2方向における歪みは、25%未満であることがより好ましい。このような伸縮性不織布は、第1方向及び第2方向の2方向における歪みが小さく(すなわち、伸長後に元の長さに戻りやすく)、当該2方向の伸縮性を持続的に発揮しやすいため、上記の優れた形状追従性をより長期にわたって発揮することができる。
【0073】
ここで、第1方向及び第2方向における歪みは、伸縮性不織布又はその一部を測定対象の試験片として、該試験片を第1方向及び第2方向のそれぞれの方向へ元の長さ(D0mm)に対して100%延伸する(すなわち、D0mm延伸する)工程を2回繰り返した後に、試験片が収縮する長さ(DRmm)の元の長さ(D0mm)に対する割合(%)を意味する。
かかる歪み(%)は、具体的には次のようにして測定することができる。
【0074】
<歪みの測定方法>
(1)上述の100%延伸を2回繰り返した時の第1方向D1及び第2方向D2の単位幅当たりの収縮力(F1及びF2)の測定と同様にして試験片を延伸した後、試験片が収縮した後の応力が0Nになった時の試験片の長さ(DSmm)を計測する。
(2)この収縮後の試験片の長さDSmmから試験片の元の長さD0mmを差し引くことにより試験片が収縮する長さDRmmを求める。
なお、試験片の元の長さは、試験片を引張試験機に取り付けた時のチャック間距離と同義である。
(3)さらに、この試験片が収縮する長さDRmmを元の長さD0mmで除して、100を乗ずることにより、試験片の歪み(%)を得ることができる。
したがって、例えば、長さが50mmの試験片を長さが100mmになるまで延伸した後に、試験片が収縮して長さが65mmになった場合は、(65mm-50mm)/50mm×100=30%により、30%の歪みとなる。なお、測定値のばらつきを考慮して、予め設定された個数(例えば、10個)の試験片による平均値を最終的な歪みとしてもよい。
【0075】
また、伸縮不織布は、一定の力で延伸した時の延伸方向と同方向もしくは直交する方向に100%延伸した時の幅が、50%以上収縮しないことが好ましく、40%以上収縮しないことがより好ましい。このような伸縮性不織布は、一定の力で延伸した時の延伸方向と同方向もしくは直交する方向に100%延伸した時の幅が収縮しにくいため(すなわち、ネックイン(幅入り)が生じにくいため)、上記の優れた形状追従性をより安定して発揮することができる。
【0076】
なお、このような伸縮性不織布を100%延伸した時の幅(すなわち、延伸方向と直交する方向の長さ)は、幅入り度(%)によって評価することができる。幅入り度は、不織布の試験片を引張試験機で延伸した時の幅(すなわち、延伸方向に直交する方向の長さ)を、引張試験機で延伸する前の幅で除して100を乗じた割合(%)、すなわち幅の収縮率(%)を意味する。
かかる幅入り度(%)は、具体的には次のようにして測定することができる。
【0077】
<幅入り度の測定方法>
(1)上述の第1方向D1及び第2方向D2の単位幅当たりの収縮力(F1及びF2)の測定と同様にして試験片を延伸し(なお、100%延伸は1回のみとする。)、その時の試験片の幅(mm)、すなわち延伸方向(引張試験機の引張方向)に直交する方向の試験片の長さ(mm)を測定する。
(2)測定した試験片の幅(mm)を、試験片の元の幅(mm)から差し引くことにより、幅の収縮量(mm)を得る。
(3)さらに、この幅の収縮量(mm)を、試験片の元の幅(mm)で除して100を乗ずることにより、試験片の幅の収縮率(%)、すなわち幅入り度(%)を得ることができる。
なお、測定値のばらつきを考慮して、予め設定された個数(例えば、10個)の試験片による平均値を最終的な幅入り度としてもよい。また、上述の「一定の力で延伸した時の延伸方向と同方向もしくは直交する方向に100%延伸した時の幅が、50%以上収縮しない」とは、この幅入り度が50%以上であることと同義である。
【0078】
本発明において、伸縮性不織布の第1方向、第2方向及び厚さ方向の各種寸法や外形形状等は、かかる伸縮性不織布が適用される製品に応じた任意の寸法や外形形状等を採用することができる。
【0079】
また、本発明の伸縮性不織布が適用される製品は特に制限されず、例えば、使い捨てマスク等の衛生用品、フェイスマスク等の美容用品、使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品、ワイパー等の清掃用品などの不織布を用いた任意の製品に適用することができる。
【0080】
以下、本発明の伸縮性不織布を使い捨てマスクに適用した実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0081】
[マスク]
本発明の伸縮性不織布を適用した使い捨てマスクは、上下方向及び横方向を有し、マスク本体部と、マスク本体部における横方向の両端部に接合された一対の耳掛け部とを有する。
図2は、上述の伸縮性不織布1を使い捨てマスク2に適用した実施形態の平面図である。
図2に示すように、本実施形態の使い捨てマスク2は、着用時に着用者の鼻及び口元を覆うマスク本体部3と、該マスク本体部3の横方向D
Hの両側に連接し、着用時に着用者の耳に掛かる一対の耳掛け部4とによって構成されている。耳掛け部4には、耳を入れる耳掛け孔が形成されている。
【0082】
使い捨てマスク2において、マスク本体部3は、複数枚の不織布が積層されてなる不織布積層体によって形成されており、さらに、マスク本体部3の上側端部に配置された、着用者の鼻上部の形状に適合するように変形可能なノーズフィット部と、上述の不織布積層体が上下方向に折り畳まれてなる複数の襞部と、を備えている。
【0083】
一対の耳掛け部4の各々は、接合部43と、上側延出部42U及び下側延出部42Lと、外方側先端部41と、を含んでいる。接合部43は、マスク本体部3の横方向DHの端部に、上下方向DVに沿って接合されている。上側延出部42U及び下側延出部42Lは、一方の端部を、接合部43における上下方向DVの上側及び下側の端部にそれぞれ連接されている。外方側先端部41は、上下方向DVの上側の端部及び下側の端部を、上側延出部42U及び下側延出部42Lの他方の端部に連接されている。
【0084】
本実施形態では、接合部43は、上下方向DVに沿って、マスク本体部3の上下方向DVの上端から下端まで、略長方形状に延設されている。上側延出部42U及び下側延出部42Lは、横方向DHに沿って延設され、略長方形状に形成されている。外方側先端部41は、上下方向DVに沿って延設され、略長方形状に形成されている。したがって、上側延出部42U及び下側延出部42Lは、横方向DHにおいては、それぞれ接合部43の上側及び下側から横方向DHに沿って延出する、最大の面積の長方形の範囲の部分とすることができる。外方側先端部41は、耳掛け部4における上側延出部42Uと下側延出部42Lとの間の残りの部分とすることができる。なお、上側延出部42U及び下側延出部42Lの上下方向DVの幅は同じであるが、異なっていてもよい。また、上側延出部42U及び下側延出部42Lは、接合部43に対して直角に延出しているが、例えば90度±30度の範囲で帯状に延出していてもよい。
【0085】
ここで、別の実施形態として、接合部43、上側延出部42U及び下側延出部42Lの形状が、湾曲しているなど、略長方形状の部分を有さない場合があり得る。その場合、以下のように各部を定めることが可能である。接合部43は、耳掛け部4における横方向DHのマスク本体部3と接合された側の端縁を一方の長辺とした上下方向DVに平行に延びる長方形の形状の領域とする。したがって、接合部43(長方形)の長辺の長さはマスク本体部3の上下方向DVの長さと概ね同じである。接合部43(長方形)の短辺の長さは、長方形が横方向DHに平行に取り得る最大の長さとする。上側延出部42U及び下側延出部42Lは、耳掛け孔における横方向DHの最も外方側先端部41側に接する上下方向DVの接線を考えたとき、耳掛け部4における接合部43から横方向DHに延出する部分のうちの当該接線よりも、接合部43側の部分である。外方側先端部41は、当該接線よりも、接合部43と反対側の部分である。
【0086】
なお、上側延出部42U、下側延出部42L及び外方側先端部41における上記の収縮力等の測定方法については、上側延出部42U、下側延出部42L及び外方側先端部41における最大の面積の長方形の部分を試験片として切り出して行うことができる。その際、上側延出部42Uの収縮力と下側延出部42Lの収縮力とを比較する場合には、測定した収縮力を試験片の幅で除さずに比較する。
【0087】
そして、耳掛け部4は、1枚の伸縮性不織布によって形成されている。この伸縮性不織布は、耳掛け部4の外方側先端部41に対応する領域において、使い捨てマスク2の上下方向DV及び横方向DHに対応する2方向にギア延伸加工が施されて、該2方向に伸縮可能な伸縮性不織布1が形成されている一方、耳掛け部4の外方側先端部41とマスク本体部3の間に対応する領域、すなわち上側延出部42U及び下側延出部42Lにおいては、使い捨てマスク2の横方向DHに対応する一方向のみにギア延伸加工が施されて、該一方向のみに伸縮可能な伸縮性不織布が形成されている。
すなわち、耳掛け部4の外方側先端部41は、上述の伸縮性不織布1によって形成され、当該伸縮性不織布1は、上述の第1方向D1及び第2方向D2が使い捨てマスク2の上下方向DV及び横方向DHに対応するように形成されている。なお、伸縮性不織布1は、その一部が該2方向に伸縮可能である場合を含むから、この場合でも、耳掛け部4の全体が伸縮性不織布1で形成され、2方向に伸縮可能である一部が外方側先端部41であってもよい。
【0088】
ここで、耳掛け部4の外方側先端部41は、
図2に示すような展開状態の使い捨てマスク2の耳掛け部4において、マスク本体部3に対して相対的に遠位側に位置する端部を意味し、使い捨てマスク2の着用時には、主に着用者の耳の裏側に位置する部分である。
【0089】
図3は、伸縮性不織布1を使い捨てマスク2に適用した実施形態の未使用状態での平面図である。
図3(a)は、一対の耳掛け部4が、マスク本体部3の非着用面3a(顔面に接触しない側)に配置された例を示している。
図3(b)は、一対の耳掛け部4が、マスク本体部3の着用面3b(顔面に接触する側)に配置された例を示している。
【0090】
なお、上述の使い捨てマスク2においては、耳掛け部4の一部(すなわち、外方側先端部41)のみが2方向に伸縮可能な伸縮性不織布1によって形成されているが、耳掛け部4の全部が2方向に伸縮可能な伸縮性不織布1によって形成されていてもよい。耳掛け部4の一部又は全部が2方向に伸縮可能な伸縮性不織布1によって形成されていると、耳掛け部4の少なくとも一部が上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布1によって形成されることになるため、当該耳掛け部4を着用者の耳の湾曲した形状に沿って的確に追従変形させることができる。これにより、このような耳掛け部を備えたマスクは、締め付け感が少なく、着用者の顔面の所定箇所に的確にフィットさせることができる。
【0091】
さらに、上述のとおり、使い捨てマスク2においては、耳掛け部4の外方側先端部41が2方向に伸縮可能な伸縮性不織布1によって形成されている。かかる使い捨てマスク2は、耳掛け部4の中でも最も曲率半径の大きい変形が求められる外方側先端部41が、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布1によって形成されているため、上記の締め付け感が少なく、着用者の顔面の所定箇所に的確にフィットさせることができるという効果を、より確実に発揮することができる。
【0092】
また、別の実施形態における使い捨てマスク2では、耳掛け部4を形成する伸縮性不織布は、上側延出部42U及び下側延出部42Lの少なくとも一方に対応する領域において、上下方向DV及び横方向DHに対応する2方向にギア延伸加工が施されて、該2方向に伸縮可能な伸縮性不織布1が形成されてもよい。その場合、外方側先端部41において、横方向DHに対応する一方向のみにギア延伸加工が施されて、該一方向のみに伸縮可能な伸縮性不織布が形成されてもよい。ただし、この場合、伸縮性不織布1の第1方向D1及び第2方向D2がそれぞれ使い捨てマスク2の横方向DH及び上下方向DVに対応するようにすることが好ましい。
【0093】
このようなマスクは、上側延出部42U及び下側延出部42Lの少なくとも一方が伸縮性不織布1の少なくとも一部であり、したがって、2方向に伸縮可能である。そのため、当該耳掛け部4が着用者の耳の湾曲した形状に沿って変形するとき、上側延出部42U及び下側延出部42Lの少なくとも一方を、小さな力で伸縮させることで、外方側先端部41による耳への締め付け感を少なくすることができる。これにより、このマスクは、締め付け感がより少なく、着用者の顔面の所定箇所に的確にフィットさせることができる。
【0094】
更に、上側延出部42U及び下側延出部42Lの両方が、伸縮性不織布の少なくとも一部であり、したがって、2方向に伸縮可能であってもよい。そして、収縮力(例えば、横方向DHの収縮力)は、上側延出部42U及び下側延出部42Lのいずれか一方が他方のよりも小さくてもよい。その場合、当該耳掛け部4が着用者の耳の湾曲した形状に沿って変形するとき、上側延出部42U及び下側延出部42Lのうちの、相対的に小さな力で伸縮する延出部で、外方側先端部41による耳への締め付け感を少なくすることができ、かつ、相対的に強い力で伸縮する延出部で、安定的な装着を確保することができる。この場合の収縮力は、各延出部全体の収縮力である。
【0095】
上側延出部42Uの収縮力及び下側延出部42Lの収縮力は、上側延出部42U及び下側延出部42Lを測定対象の試験片とし、該試験片を、耳掛け部2が耳に掛けられたときに上側延出部42U及び下側延出部42Lが伸長する長さ、すなわち着用時伸長長さだけ延伸した時の力(N)とする。ただし、上側延出部42U及び下側延出部42Lの着用時伸長長さは、マスク1を、試験用に設定した所定の人頭のマネキンに装着して予め測定する。測定値のばらつきを考慮して、予め設定された個数(例えば、10個)のマスク1による平均値を最終的な着用時伸長長さとしてもよい。なお、上側延出部42U及び下側延出部42Lの元の長さを100%とすると、伸長後の長さ(元の長さ+着用時伸長長さ)は、115~150%程度になる。また、試験用に設定した所定の人頭のマネキンとしては、例えば、特定の人間の頭部の形状を示すデータや、複数の人間の頭部の平均的な形状を示すデータに基づいて3Dプリンタ等で形成された人頭のマネキンや、JIS T8151の試験用人頭のマネキンなどが挙げられる。具体的な測定方法は、下記のとおりである。
【0096】
<収縮力の測定方法>
(1)室温20℃、湿度60%の環境下で、測定対象の耳掛け部2から上側延出部42U及び下側延出部42Lの試験片を長方形(面積最大)に切り出す。したがって、試験片の幅及び長さは、試験片ごとに相違し得る。
(2)切り出した試験片を引張試験機(島津製作所製オートグラフAG-50-NXplus H)に取り付ける。そのとき、上側延出部42U及び下側延出部42Lの横方向Hの両端に対応する試験片の両端をチャックでつかむ。つかみ代のチャック間方向の長さはすべて同じとする(例示:5mm)。したがって、チャック間距離は試験片ごとに相違し得る。
(3)引張試験機に取り付けた試験片を、所定の引張速度100mm/分で、着用時伸長長さだけ延伸し、その延伸したときに元の長さに戻ろうとする力(単位:N)を収縮力として測定する。ただし、測定値のばらつきを考慮して、予め設定された個数(例えば、10個)の試験片による平均値を最終的な収縮力としてもよい。
【0097】
この場合、収縮力(例えば、横方向DHの収縮力)は、上側延出部42Uの方が下側延出部42Lよりも小さいことが好ましい。特に、マスクでは、耳掛け部4における耳の上側に位置する部分が耳を強く引っ張ると、着用者は耳に痛みを感じやすくなる。したがって、収縮力は、上側延出部42Uの方が下側延出部42Lよりも小さいことが好ましい。そのため、当該耳掛け部4が着用者の耳の湾曲した形状に沿って変形するとき、相対的に小さな力で伸縮する上側延出部42Uで、外方側先端部41による耳への締め付け感を少なくできると共に痛みも低減でき、かつ、相対的に強い力で伸縮する下側延出部42Lで、安定的な装着を確保することができる。
【0098】
なお、本発明の2方向に伸縮可能な伸縮性不織布は、特に美容用品のフェイスマスク等に適用する場合等においては、マスクの耳掛け部だけでなく、着用者の顔面を覆うマスク本体部に適用してもよく、さらに、耳掛け部及びマスク本体部のいずれか一方のみに適用してもよい。
【0099】
また、本発明の2方向に伸縮可能な伸縮性不織布は、上述のマスクのほかに、使い捨ておむつ等の吸収性物品にも好適に用いることができる。このような優れた形状追従性を有する伸縮性不織布を含む吸収性物品は、当該伸縮性不織布を適用した吸収性物品の所定部位を、着用者の身体の所定箇所の形状に沿って的確に追従変形させることができるので、締め付け感が少なく、着用者の身体の所定箇所に的確にフィットさせることができる。
【0100】
なお、吸収性物品において、本発明の伸縮性不織布が適用される箇所は特に限定されず、伸縮性が求められる任意の箇所(例えば、各種ギャザー部材や使い捨ておむつ本体のシャーシ等)に適用することができる。
【0101】
次に、本発明の伸縮性不織布の製造方法について、上述の伸縮性不織布1の製造方法を例に用いて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、
図4は、伸縮性不織布1の製造方法における、搬送する不織布を2方向に延伸する工程を示す斜視図である。
【0102】
[製造方法]
伸縮性不織布1の製造方法は、不織布の少なくとも一部に上述の2方向の伸縮性を付与する工程、すなわち不織布の少なくとも一部に対して、上述の第1方向D1及び第2方向D2の各々に対応する不織布の搬送方向(すなわち、MD方向)及び該搬送方向と直交する方向(すなわち、CD方向)の2方向に延伸する工程を含む。
【0103】
具体的には、不織布原反ロールから加工前の不織布10を搬送方向D
Mに連続的に繰り出す繰出し工程と、繰り出された不織布10を搬送しながら加熱する加熱工程と、加熱された不織布10を
図4に示すように上下一対のギアロール(上側のギアロール61及び下側のギアロール62)を備えた1次ギア延伸加工装置6によって搬送方向と直交する方向D
Cに延伸する1次ギア延伸工程と、搬送方向と直交する方向D
Cに延伸されて第1方向溝11が形成された1次延伸不織布10aを、
図4に示すように上下一対のギアロール(上側のギアロール71及び下側のギアロール72)を備えた2次ギア延伸加工装置7によって搬送方向D
Mに延伸する2次ギア延伸工程と、搬送方向D
Mに延伸されて第2方向溝12が形成された2次延伸不織布10b(すなわち、伸縮性不織布1の連続シート)を冷却する冷却工程と、冷却された伸縮性不織布1の連続シートをロール状に巻き取る巻取り工程と、を有する。
【0104】
なお、伸縮性不織布1の製造方法は、上述の2方向に延伸する工程を含むものであれば、このような製造方法に限定されず、例えば、各ギア延伸工程の前に予備延伸する工程、1次ギア延伸工程と2次ギア延伸工程の間に不織布の張力を調整する工程、巻取り工程を経ずに伸縮性不織布1の連続シートを搬送しながら所定の製品形状に切断する切断工程などの任意の工程を有していてもよい。
【0105】
また、上述の伸縮性不織布1の製造方法においては、1次ギア延伸工程及び2次ギア延伸工程によって不織布10を上述の2方向に延伸しているが、これらの工程は、
図4に示す1次ギア延伸加工装置6及び2次ギア延伸加工装置7を備えたギア延伸加工装置5によって行われる。
【0106】
1次ギア延伸加工装置6は、
図4に示すように、加工対象である不織布10の上側に位置するギアロール61と、下側に位置するギアロール62と、を備えている。上側のギアロール61は、外周面において搬送方向D
Mへ延び且つ搬送方向と直交する方向D
Cに並ぶ複数のギア歯61Pを備えており、同様に下側のギアロール62も、外周面において搬送方向D
Mへ延び且つ搬送方向と直交する方向D
Cに並ぶ複数のギア歯62Pを備えている。上側のギアロール61と下側のギアロール62は、上側のギア歯61Pと下側のギア歯62Pが互いに噛み合うように配置されている。
【0107】
また、2次ギア延伸加工装置7は、
図4に示すように、加工対象である1次延伸不織布10aの上側に位置するギアロール71と、下側に位置するギアロール72と、を備えている。上側のギアロール71は、外周面において搬送方向と直交する方向D
Cへ延び且つ搬送方向D
Mに並ぶ複数のギア歯71Pを備えており、同様に下側のギアロール72も、外周面において搬送方向と直交する方向D
Cへ延び且つ搬送方向D
Mに並ぶ複数のギア歯72Pを備えている。上側のギアロール71と下側のギアロール72は、上側のギア歯71Pと下側のギア歯72Pが互いに噛み合うように配置されている。
【0108】
なお、上述の伸縮性不織布1の製造方法においては、
図4に示すギア延伸加工装置5を用いて、不織布10の全体を搬送方向D
M及び搬送方向と直交する方向D
Cの2方向に延伸しているが、不織布10の一部を上述の2方向に延伸してもよい。例えば、
図4に示す1次延伸不織布10aは、搬送方向と直交する方向D
Cの両端が延伸されていなくてもよい(すなわち、1次延伸不織布10aは、搬送方向と直交する方向D
Cの両端に非延伸部を有していてもよい)。
このように、本発明の伸縮性不織布の製造方法は、搬送する不織布の少なくとも一部を、搬送方向及び前記搬送方向と直交する方向の2方向に延伸する工程を含むものであり、かかる製造方法によれば、不織布の少なくとも一部が搬送方向(すなわち、繊維配向方向である第1方向)及び搬送方向と直交する方向(すなわち、第1方向と直交する第2方向)の2方向において延伸時の収縮力の差が小さく、低応力で伸縮可能な伸縮性不織布(すなわち、優れた形状追従性を有する伸縮性不織布)を製造することができる。
【0109】
また、上述の伸縮性不織布1の製造方法においては、
図4に示すように、2方向に延伸する工程が、搬送方向D
Mに延伸する部分と、搬送方向と直交する方向D
Cに延伸する部分とが重なるように、不織布10を延伸している。かかる製造方法では、搬送方向D
M及び該搬送方向と直交する方向D
Cの2方向だけでなく、これら2方向の間の方向においても、不織布が一定程度延伸されるため(すなわち、伸縮性を発現するため)、より優れた形状追従性を有する伸縮性不織布1を製造することができる。
【0110】
さらに、上述の伸縮性不織布1の製造方法においては、
図4に示すように、2方向に延伸する工程が、不織布10を搬送方向と直交する方向D
Cに延伸した後に、搬送方向D
Mに延伸している。かかる製造方法では、搬送方向と直交する方向D
Cの延伸を先に行うことで、当該延伸後の1次延伸不織布10aが搬送時の影響(すなわち、搬送方向D
Mに掛かる張力の影響)を受けにくく、次の搬送方向D
Mの延伸を的確に行うことができるため、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布1をより精度よく製造することができる。
【0111】
また、本発明においては、上述のとおり、不織布の一部のみを搬送方向D
M及び搬送方向と直交する方向D
Cの2方向に延伸してもよい。
以下、伸縮性不織布1の製造方法の変形例として、上述の2方向に延伸する工程が不織布の一部のみを搬送方向D
M及び搬送方向と直交する方向D
Cの2方向に延伸する工程である製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
ここで、
図5は、伸縮性不織布1の製造方法の変形例における、搬送する不織布の一部を2方向に延伸する工程を示す斜視図である。
【0112】
この伸縮性不織布1の製造方法の変形例では、
図5に示す1次ギア延伸加工装置6及び2次ギア延伸加工装置7’を備えたギア延伸加工装置51を用いて、加工前の不織布10の一部を2方向に延伸する工程を行っていること以外は、上述の
図3に示す製造方法と同様である。
すなわち、この変形例の製造方法は、不織布原反ロールから加工前の不織布10を搬送方向D
Mに連続的に繰り出す繰出し工程と、繰り出された不織布10を搬送しながら加熱する加熱工程と、加熱された不織布10を
図5に示すように上下一対のギアロール(上側のギアロール61及び下側のギアロール62)を備えた1次ギア延伸加工装置6によって搬送方向と直交する方向D
Cに延伸する1次ギア延伸工程と、搬送方向と直交する方向D
Cに延伸されて第1方向溝11が形成された1次延伸不織布10aの搬送方向と直交する方向D
Cの中央部を含む一部分を、
図5に示すように上下一対のギアロール(上側のギアロール73及び下側のギアロール74)を備えた2次ギア延伸加工装置7’によって搬送方向D
Mに延伸する2次ギア延伸工程と、搬送方向D
Mに延伸されて第2方向溝12が搬送方向と直交する方向D
Cの中央部に形成された2次延伸不織布10c(すなわち、伸縮性不織布1の連続シート)を冷却する冷却工程と、冷却された伸縮性不織布1の連続シートをロール状に巻き取る巻取り工程と、を有する。
【0113】
この変形例の製造方法においては、1次ギア延伸工程後の1次延伸不織布10aを2次ギア延伸工程で搬送方向D
Mに延伸する時に、不織布に搬送方向D
Mへの延伸が行われない搬送方向非延伸部13を形成するように、上記不織布を延伸している。
なお、搬送方向非延伸部13は、
図5に示すように不織布の搬送方向と直交する方向D
Cの両端に形成される。
【0114】
また、この変形例の製造方法においても、例えば、各ギア延伸工程の前に予備延伸する工程、1次ギア延伸工程と2次ギア延伸工程の間に不織布の張力を調整する工程、巻取り工程を経ずに伸縮性不織布1の連続シートを搬送しながら所定の製品形状に切断する切断工程などの任意の工程を有していてもよい。
【0115】
そして、この変形例の製造方法では、上述のとおり、1次ギア延伸工程及び2次ギア延伸工程が、
図5に示す1次ギア延伸加工装置6及び2次ギア延伸加工装置7’を備えたギア延伸加工装置51によって行われる。
【0116】
1次ギア延伸加工装置6は、
図4に示すものと同様であるが、2次ギア延伸加工装置7’は、
図5に示すように、加工対象である1次延伸不織布10aの上側に位置するギアロール73と、下側に位置するギアロール74と、を備えている。上側のギアロール73は、外周面において搬送方向と直交する方向D
Cへ延び且つ搬送方向D
Mに並ぶ複数のギア歯73Pと、該ギア歯73Pに対して搬送方向と直交する方向D
Cの両端に隣接する平坦部73Fと、を備えており、同様に下側のギアロール74も、外周面において搬送方向と直交する方向D
Cへ延び且つ搬送方向D
Mに並ぶ複数のギア歯74Pと、該ギア歯74Pに対して搬送方向と直交する方向D
Cの両端に隣接する平坦部74Fと、を備えている。上側のギアロール73と下側のギアロール74は、上側のギア歯73Pと下側のギア歯74Pが互いに噛み合うように配置されている。
【0117】
このように2次ギア延伸加工装置7’が、上側のギアロール73の平坦部73Fと、下側のギアロール74の平坦部74Fとを備えていることによって、1次ギア延伸工程後の1次延伸不織布10aを2次ギア延伸工程で搬送方向DMに延伸する時に、搬送方向DMへの延伸が行われない搬送方向非延伸部13を、不織布の搬送方向と直交する方向DCの両端に形成することができる。
【0118】
このように、上述の2方向に延伸する工程が、1次延伸不織布10aを搬送方向DMに延伸する時に、不織布に搬送方向DMへの延伸が行われない搬送方向非延伸部13を形成するように上記不織布を延伸するものであると、1次延伸不織布10aを搬送方向DMに延伸する際に形成される搬送方向非延伸部13が、2次延伸不織布10cの搬送時に掛かる張力を受けることで、延伸された部分にはこのような張力が掛かりにくくなるため、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布を、更に精度よく製造することができる。
【0119】
なお、上述の搬送方向非延伸部13のような非延伸部は、1次延伸工程で形成してもよく、1次延伸工程及び2次延伸工程の両工程で形成してもよい。例えば、
図5に示す1次延伸不織布10aは、搬送方向と直交する方向D
Cの両端が延伸されていなくてもよい(すなわち、1次延伸不織布10aは、搬送方向と直交する方向D
Cの両端に非延伸部を有していてもよい)。
【0120】
また、この変形例の製造方法では、上述の2方向に延伸する工程において、搬送方向非延伸部13が不織布の搬送方向と直交する方向DCの両端に形成されるように上記不織布を延伸している。このように延伸することにより、不織布の搬送方向と直交する方向DCの両端に形成される搬送方向非延伸部13が、不織布の搬送時に掛かる張力をより確実に受けることで、当該搬送方向非延伸部13に挟まれる延伸された部分には、このような張力がより一層掛かりにくくなるため、上記の優れた形状追従性を有する伸縮性不織布1を更に精度よく、安定して製造することができる。
【0121】
なお、上述の搬送方向非延伸部13のような非延伸部は、不織布の搬送方向と直交する方向DCの両端に限定されず、不織布の搬送方向と直交する方向DCの一方の端部のみに形成されていても、不織布の搬送方向と直交する方向DCの中央部に形成されていてもよい。
【0122】
また、伸縮性不織布1が伸長性繊維と伸縮性シートとを含む場合、伸縮性不織布1の製造方法は、2方向に延伸する工程が以下の第1~第3の工程を含んでいる。第1の工程は、
図4及び
図5に示すように、不織布としての第1不織布(不織布10)の少なくとも一部を、搬送方向D
M及び搬送方向D
Mと直交する方向D
Cの2方向に延伸する工程である。それにより、2次延伸不織布10b(又は10c)が形成される。第2の工程は、
図4及び
図5に示すように、不織布としての第2不織布(他の不織布10)の少なくとも一部を、搬送方向D
M及び搬送方向D
Mと直交する方向D
Cの2方向に延伸する工程である。それにより、他の2次延伸不織布10b(又は10c)が形成される。第1の工程と第2の工程とは同時に行われてもよい。第3の工程は、延伸された第1不織布(2次延伸不織布10b(又は10c))と伸縮性シートと延伸された前記第2不織布(他の2次延伸不織布10b(又は10c))とをこの順に積層する工程である。それにより、2次延伸不織布10b(又は10c)と伸縮性シートと他の2次延伸不織布10b(又は10c)との積層体、すなわち、伸縮性不織布1の連続シートが形成される。ただし、第3の工程は、例えば、延伸された2次延伸不織布10b(又は10c)の伸縮性シート側の面及び他の2次延伸不織布10b(又は10c)の伸縮性シート側の面にそれぞれ接着剤を塗布し、2次延伸不織布10b(又は10c)、伸縮性シート及び他の2次延伸不織布10b(又は10c)をこの順に重ね合わせ、一対のロールの間に挟み込み、互いに接合させる。その後、伸縮性不織布1の連続シートは、冷却工程で冷却され、巻取り工程でロール状に巻き取られる。
【0123】
このような製造方法によれば、伸縮性シートの収縮力を調整することで、伸縮性不織布1全体としての比率(F1/F2)や収縮力(F1)を所望の数値範囲に容易に設定でき、上記の優れた形状追従性をより安定して発揮することが可能な伸縮性不織布を製造することができる。
【0124】
なお、上記のように製造された伸縮性不織布1を用いたマスクの製造方法としては、特に制限されることはないが、例えば、特許5762804号公報のマスクの製造方法を用いることができる。
【0125】
本発明は、上述した実施形態や後述する実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。なお、本明細書において、「第1」、「第2」等の序数は、当該序数が付された事項を区別するためのものであり、各事項の順序や優先度、重要度等を意味するものではない。
【実施例】
【0126】
以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0127】
実施例1
伸長性繊維であるポリプロピレン繊維と、伸縮性繊維であるポリウレタン繊維とからなり、坪量が80g/m2、ポリウレタン繊維の混率が50%となる、延伸加工前の不織布を作製した。
次に、この不織布に、下記の表1に示すギア延伸加工条件でMD方向(第1方向に対応)及びCD方向(第2方向に対応)にギア延伸加工を行うことにより伸縮性不織布を作製した。
【0128】
実施例2~9
ギア延伸加工条件を、それぞれ下記の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~9の伸縮性不織布を作製した。
【0129】
比較例1~5
上記の延伸加工前の不織布を比較例1の不織布とし、さらに、ギア延伸加工条件をそれぞれ下記の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2~5の伸縮性不織布を作製した。
【0130】
作製した実施例1~9及び比較例1~5の伸縮性不織布について、上述の<単位幅当たりの収縮力の測定方法>、<歪みの測定方法>及び<幅入り度の測定方法>に従って、それぞれの各種方向における、単位幅当たりの収縮力(N/mm)、歪み及び幅入り度(%)を測定した。これらの測定結果は、以下の表1に纏めて示す。
なお、これらの測定にあたっては、各種測定対象方向が長さ方向に対応するように長さ100mm×幅40mmのサイズの試験片を切り出した後、50mmのチャック間距離で引張試験機(島津製作所製オートグラフAG-50-NXplus H)に取り付けて実施した。
【0131】
【0132】
表1に示すように、実施例1~9の伸縮性不織布は、いずれも第1方向及び第2方向の2方向において延伸時の収縮力の差が小さく、低応力で伸縮可能であり、優れた形状追従性を発揮し得ることが分かった。
【符号の説明】
【0133】
1 伸縮性不織布
11 第1方向溝
12 第2方向溝
2 使い捨てマスク
3 マスク本体部
4 耳掛け部
41 外方側先端部
5 ギア延伸加工装置
6 1次ギア延伸加工装置
7 2次ギア延伸加工装置
10 加工前の不織布
10a 1次ギア延伸加工不織布
10b 2次ギア延伸加工不織布
13 搬送方向非延伸部
D1 第1方向
D2 第2方向
DM 搬送方向(MD方向)
DC 搬送方向と直交する方向(CD方向)