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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】フォトクロミック硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20221216BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20221216BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20221216BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20221216BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C08F290/06
C09K9/02 B
G02C7/10
G02C7/00
C08F2/44 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020507911
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019011988
(87)【国際公開番号】W WO2019182085
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2018056089
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(72)【発明者】
【氏名】大原 礼子
(72)【発明者】
【氏名】竹中 潤治
(72)【発明者】
【氏名】百田 潤二
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/042328(WO,A1)
【文献】特開2007-291359(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005391(WO,A1)
【文献】特開2012-242718(JP,A)
【文献】国際公開第2009/075388(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030257(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08F 290/00 - 290/14
C09K 9/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に少なくとも一つのオキセタニル基を有するラジカル重合性単量体、
(B)フォトクロミック化合物、および
(C)上記(A)成分以外のラジカル重合性単量体
を含有してなり、
(C)成分100質量部に対する(A)成分の量が0.1~5質量部、および
(C)成分100質量部に対する(B)成分の量が0.001~10質量部
であり、上記(C)成分が、
(C1)一分子中に2つの(メタ)アクリレート基を有する2官能(メタ)アクリレートモノマー、および
(C2)一分子中に3つ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマー
を含み、
上記(C1)成分が、下記式(1)で示される(C1-1)成分を含み、および
上記(C2)成分が、下記式(2)で示される(C2-1)成分を含むことを特徴とするフォトクロミック硬化性組成物。
(C1-1)成分:下記式(1)で示されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマー;
【化1】
(式中、
及びR は、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、
a及びbは、それぞれ、0以上の整数であり、かつ、a+bは2以上の整数である。)。
(C2-1)成分:下記式(2)で示される多官能(メタ)アクリレートモノマー;
【化2】
(式中、
は、水素原子、またはメチル基であり、
は、水素原子、または炭素数1~2のアルキル基であり、
は、炭素原子、炭素数1~10の3~6価の炭化水素基、または鎖中に酸素原子を含む炭素数1~10の3~6価の有機基であり、
cは、平均値で0~3の数であり、
dは、3~6の整数である。)。
【請求項2】
請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られる硬化体。
【請求項3】
請求項に記載の硬化体が光学基材上に積層されたフォトクロミック積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフォトクロミック硬化性組成物に関する。さらには、フォトクロミック作用の優れた新規なフォトクロミック硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムとは、ある化合物に太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻る可逆作用のことであり、様々な用途に応用されている。このような性質を持つフォトクロミック化合物として、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等が見出されている。これら化合物は、プラスチックと複合化させることにより、フォトクロミック特性を有する光学物品とすることができるため、複合化の検討が数多くなされている。
【0003】
例えば、眼鏡レンズの分野においてもフォトクロミズムが応用されている。フォトクロミック化合物を使用したフォトクロミック眼鏡レンズは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能するものであり、近年その需要は増大している。
【0004】
フォトクロミック眼鏡レンズに関しては、軽量性や安全性の観点から特にプラスチック製のものが好まれており、このようなプラスチックレンズへのフォトクロミック性の付与は一般に上記フォトクロミック化合物と複合化することにより行なわれており、具体的には、次のような手段が知られている。
(a)重合性モノマーにフォトクロミック化合物を溶解させ、それを重合させることにより、直接、レンズ等の光学材料を成形する方法。この方法は、練り込み法と呼ばれている。
(b)レンズ等のプラスチック成形品の表面に、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層を、コーティング或いは注型重合により設ける方法。この方法は、積層法と呼ばれている。
【0005】
これら練り込み法の技術(特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)、積層法の技術(特許文献4及び特許文献3参照)は、種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/176439号
【文献】国際公開第2009/075388号
【文献】国際公開第2003/011967号
【文献】国際公開第2011/125956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトクロミック性が付与された光学物品などの光学材料については、次のような特性が求められている。
(I)紫外線を照射する前の可視光領域での着色度(初期着色)が低いこと。
(II)紫外線を照射した時の着色度(発色濃度)が高いこと。
(III)紫外線の照射を止めてから元の状態に戻るまでの速度(退色速度)が速いこと。
(IV)発色~退色の可逆作用の繰り返し耐久性がよいこと。
(V)保存安定性が高いこと。
(VI)光学物品として成形しやすく、ハードコート膜の形成などの後加工が容易であること。
(VII)機械的強度が低下することなく、フォトクロミック性が付与されること。
【0008】
練り込み法又は積層法で使用される、フォトクロミック化合物及びラジカル重合性単量体を含むフォトクロミック硬化性組成物は、前記(I)~(VII)の特性を高度に発揮するために、様々な改良がなされている。例えば、フォトクロミック硬化性組成物中に、シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体および/またはイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体を含めることにより、フォトクロミック特性とハードコート層の密着性を向上させる方法が知られている(特許文献3)。また、フォトクロミックコート層を形成するフォトクロミック硬化性組成物中のアクリレートモノマーとメタクリレートモノマーとの比率を限定し、フォトクロミック特性とハードコート層の密着性を向上させる方法も検討されている(特許文献4)。これらの方法によれば、優れた性能を有するフォトクロミック硬化体を製造することができる。
【0009】
しかしながら、近年、フォトクロミック硬化体に対する要求は、より一層高まってきており、優れたフォトクロミック特性を示すことはもちろん、今まで以上に、より優れたハードコート密着性を発現させることが求められている。
【0010】
また、特許文献3には、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体を配合することにより、フォトクロミック硬化体中のフォトクロミック化合物の耐久性を向上させることができ、フォトクロミック硬化体の性能を高められることが記載されている。また、特許文献4では、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体を配合することにより、ハードコート密着性を高められることが知られている。具体的には、特許文献3、4では、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体として、グリシジルメタクリレート(以下、単に「GMA」とする場合もある)が使用されている。
しかしながら、特許文献2に記載されている通り、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体を、多量に使用したり、特定のクロメン化合物と組み合わせると、得られるフォトクロミック硬化体の経時的な色調の変化が見られることが知られている。また、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体の中でも、GMAは、変異原性・発がん性物質の可能性があり、その使用を避けることが求められている。
そのため、フォトクロミック硬化体としては、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体(特に、「GMA」)を使用することなく、それを使用した場合の硬化性組成物から得られた硬化体の物性と少なくとも同等の物性を発揮するものが望まれている。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。先ず、フォトクロミック硬化性組成物に含まれる、各重合性単量体の役割について再度、見直したところ、該フォトクロミック硬化性組成物において、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体は、不純物である酸成分をクエンチし、フォトクロミック特性を高度に維持する作用を有することが判った。そこで、本発明者等は、上記課題が解決できる、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体に代る、他の重合性単量体についてさらなる検討を行った結果、分子内に少なくとも一つのオキセタニル基を有するラジカル重合性単量体を用いることにより、上記課題を解決した硬化体を与えるフォトクロミック硬化性組成物が得られることを見出した。さらには、エポキシ基を有するラジカル重合性単量体を使用した場合と比較して、得られるフォトクロミック硬化体の経時的な色調の変化を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
それ故、本発明の目的は、色調変化が少なく、発色濃度が高く、退色速度が速いといった優れたフォトクロミック特性を示すことはもちろん、フォトクロミック硬化体上に塗膜するハードコート層が十分な密着性を有する、エポキシ基を有するラジカル重合性化合物に代るラジカル重合性化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を提供することを目的とする。
本発明の他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【0013】
すなわち、本発明は、
(A)一分子中に少なくとも一つのオキセタニル基を有するラジカル重合性単量体(以下、単に(A)成分とする場合もある)、
(B)フォトクロミック化合物(以下、単に(B)成分とする場合もある)、および
(C)上記(A)成分以外のラジカル重合性単量体(以下、単に(C)成分とする場合もある)
を含有してなることを特徴とするフォトクロミック硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物を重合して得られる硬化体、及び該硬化体を有するフォトクロミック積層体は、フォトクロミック特性に優れるばかりでなく、フォトクロミック硬化体上に塗膜するハードコート層との密着性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物の各成分について説明する。
【0016】
(A)成分
本発明においては、(A)成分である少なくとも一つのオキセタニル基を有するラジカル重合性単量体成分を含むことを特徴とする。この(A)成分を配合することにより、フォトクロミック特性に優れ、ハードコートとの密着性が良好なフォトクロミック硬化体及びフォトクロミック積層体を形成できる。以下、具体的に(A)成分について説明する。
【0017】
(A)成分は、一分子中に少なくとも一つのオキセタニル基を有するラジカル重合性単量体である。ラジカル重合性基としては、例えばビニル基、アリル基、アクリレート基およびメタクリレート基等を挙げることができる。良好なフォトクロミック特性を得るためには、アクリレート基またはメタクリレート基が好ましい。本発明において好適に使用できる化合物は下記式(3)で示すことができる。
【0018】
【化1】
【0019】
式中、
は、水素原子またはメチル基であり、
およびRは、それぞれ独立に、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1~4のアルキレン基であり、
は直鎖状または分岐鎖状の炭素数1~4のアルキル基であり、そして
eおよびfは、それぞれ、平均値で0~20の数である。
【0020】
本発明において好適に使用できる(A)成分の化合物としては例えば、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレート、2-(3-エチル-3-オキセタニル)エチルメタクリレート、3-(3-エチル-3-オキセタニル)プロピルメタクリレート、4-(3-エチル-3-オキセタニル)ブチルメタクリレート、2-[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]エチルメタクリレート、2-[2-[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]エトキシ]エチルメタクリレート、2-[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]-2-オキシエチルメタクリレート、(3-メチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレート、2-(3-メチル-3-オキセタニル)エチルメタクリレート、3-(3-メチル-3-オキセタニル)プロピルメタクリレート、4-(3-メチル-3-オキセタニル)ブチルメタクリレート、2-[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]エチルメタクリレート、2-[2-[(3-メチル-3-オキセタニル)メトキシ]エトキシ]エチルメタクリレート、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルアクリレート、2-(3-エチル-3-オキセタニル)エチルアクリレート、3-(3-エチル-3-オキセタニル)プロピルアクリレート、4-(3-エチル-3-オキセタニル)ブチルアクリレート、2-[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]エチルアクリレート、2-[2-[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]エトキシ]エチルアクリレート、2-[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]-2-オキシエチルアクリレート等があげられる。このうち、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレート、2-(3-エチル-3-オキセタニル)エチルメタクリレート、2-[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]エチルメタクリレート、(3-メチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレート、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルアクリレートが好ましく、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレートが特に好ましい。これらの(A)成分は単独であるいは2種以上併用することができる。
【0021】
(B)成分
次に(B)成分であるフォトクロミック化合物について説明する。
【0022】
フォトクロミック性を示すフォトクロミック化合物((B)成分)としては、それ自体公知のものを使用することができ、これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0023】
このようなフォトクロミック化合物として代表的なものは、フルギド化合物、クロメン化合物及びスピロオキサジン化合物であり、例えば、特開平2-28154号公報、特開昭62-288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレット等、多くの文献に開示されている。
【0024】
本発明においては、公知のフォトクロミック化合物の中でも、発色濃度、初期着色性、耐久性、退色速度などのフォトクロミック性の観点から、インデノ〔2,1-f〕ナフト〔1,2-b〕ピラン骨格を有するクロメン化合物を用いることがより好ましい。特に分子量が540以上のクロメン化合物が、発色濃度及び退色速度に特に優れるため好適に使用される。
【0025】
以下に示すクロメン化合物は、本発明において特に好適に使用されるクロメン化合物の例である。
【0026】
【化2】
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
本発明は、以上のインデノ〔2,1-f〕ナフト〔1,2-b〕ピラン骨格を有するクロメン化合物の中でも、特に、置換基としてアミノ基を有する化合物を使用する場合に、特に優れた効果を発揮する。本発明者等の検討によれば、アミノ基(2個の水素原子を有するもの、1つの水素原子が他の基で置換されたもの、および2つの水素原子共に他の基で置換されたもの)を有する該クロメン化合物を使用した場合には、得られるフォトクロミック硬化体は、経時的な色調変化が大きくなることがある。そのため、本発明は、このようなアミノ基を有するクロメン化合物を使用した場合に、特に効果的である。具体的なクロメン化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
(C)成分
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、前記(A)成分以外に、(A)成分とは異なる重合性単量体((C)成分)を含む。
【0033】
前記(C)成分としては、公知のものを使用することができる。中でも、一分子中に2つ以上の(メタ)アクリレート基を有する(メタ)アクリレートモノマー成分を含むことが好ましい。そして、一分子中に2つの(メタ)アクリレート基を有する2官能(メタ)アクリレートモノマー(以下、単に「(C1)2官能(メタ)アクリレートモノマー」、又は(C1)成分とする場合もある)、一分子中に3つ以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマー(以下、単に「(C2)多官能(メタ)アクリレートモノマー」、又は(C2)成分とする場合もある)、)を含むことがより好ましい。また、(メタ)アクリレート基を1つ有する単官能(メタ)アクリレート(以下、単に(C3)単官能(メタ)アクリレートモノマー、又は(C3)成分とする場合もある)を含むこともできる。これら(C)重合性単量体について説明する。
【0034】
(C1)2官能(メタ)アクリレートモノマー;
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、(C1)2官能(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。以下に、その具体例を示す。具体的には、下記式(1)、(4)および(5)に示す化合物である。この中でも、特に、下記式(1)で示される2官能(メタ)アクリレートモノマー成分であって、分子量が300~2000のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。
【0035】
下記式(1)で示される化合物を、以下、単に(C1-1)成分とする場合もあり、下記式(4)で示される化合物を、以下、単に(C1-2)成分とする場合もあり、下記式(5)で示される化合物を、以下、単に(C1-3)成分とする場合もある。
【0036】
また、その他の(C1)成分としては、ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレートモノマー(以下、単に(C1-4)成分とする場合もある)、前記(C1-1)成分、前記(C1-2)成分、前記(C1-3)成分、および前記(C1-4)成分に該当しない2官能(メタ)アクリレートモノマー(以下、単に(C1-5)成分とする場合もある)について、順次説明する。
【0037】
(C1-1)下記式(1)で示されるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマー
【0038】
【化7】
【0039】
式中、R及びRは、それぞれ、水素原子又はメチル基であり、a及びbは、それぞれ、0以上の整数であり、かつ、a+bは2以上の整数である。また、(C-1)成分は、製造上、混合物で得られる場合が多い。そのため、a+bは平均値で2以上であり、好ましくは平均値で2以上30以下の整数である。
【0040】
上記式(1)で示される(C1-1)成分である化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエチレングリコールジメタクリレート、ペンタプロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、ペンタプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの混合物よりなるジ(メタ)アクリレート(ポリエチレンが2個、ポリプロピレンが2個の繰り返し単位を有する)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特に平均分子量330)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特に平均分子量536)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特に平均分子量736)、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(特に平均分子量536)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特に平均分子量308)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特に平均分子量508)、ポリエチレングリコールジアクリレート、(特に平均分子量708)、ポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート(特に平均分子量536)を挙げることができる。さらに、これらポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーの中でも、組成物の粘度の観点から、分子量は300~2000であることが好ましい。
【0041】
本発明においては、特に優れた特性のフォトクロミック硬化体を得るためには、前記(C1-1)成分を必須成分として含むことが好ましい。
【0042】
(C1-2)下記式(4)で示されるモノマー
【0043】
【化8】
【0044】
式中、R10及びR11は、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、
12及びR13は、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、
14は、それぞれ、水素原子またはハロゲン原子であり、
Bは、-O-,-S-,-(SO)-,-CO-,-CH-,-CH=CH-,-C(CH)2-,-C(CH)(C)-の何れかであり、
g及びhは、それぞれ、1以上29以下の整数であり、g+hは平均値で2以上30以下の整数である。
【0045】
なお、上記式(4)で示される重合性モノマーは、通常、分子量の異なる分子の混合物の形で得られる。そのため、g及びhは平均値で示した。
【0046】
上記式(4)で示される化合物の具体例としては、例えば、以下のビスフェノールAジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。
2,2-ビス[4-メタクリロイルオキシ・エトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=2)、
2,2-ビス[4-メタクリロイルオキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=4)、
2,2-ビス[4-メタクリロイルオキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=7)、
2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン (g+h=2)、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン
(g+h=4)、
2,2-ビス[4-アクリロイルオキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=4)、
2,2-ビス[4-アクリロイルオキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=3)、
2,2-ビス[4-アクリロイルオキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=7)、
2,2-ビス[4-メタクリロイルキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=10)、
2,2-ビス[4-メタクリロイルキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=17)、
2,2-ビス[4-メタクリロイルキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=30)、
2,2-ビス[4-アクリロイルキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=10)、
2,2-ビス[4-アクリロイルキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン
(g+h=20)。
【0047】
(C1-3)下記式(5)で示されるモノマー
【0048】
【化9】
【0049】
式中、R15およびR16は、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、
iは平均値で1~20の数であり、
A及びA’は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数2~15の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、Aが複数存在する場合には、複数のAは同一の基であっても、異なる基であってもよい。
【0050】
上記式(5)で示される化合物は、ポリカーボネートジオールと(メタ)アクリル酸とを反応させることにより製造することができる。
【0051】
ここで、使用されるポリカーボネートジオールとしては、以下のものを例示することができる。具体的には、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ノナメチレングリコールなどのポリアルキレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(500~2,000の数平均分子量を有するもの);
2種以上のポリアルキレングリコールの混合物、例えば、トリメチレングリコールとテトラメチレングリコールの混合物、テトラメチレングリコールとヘキサメチレンジグリコールの混合物、ペンタメチレングリコールとヘキサメチレングリコールの混合物、テトラメチレングリコールとオクタメチレングリコールの混合物、ヘキサメチレングリコールとオクタメチレングリコールの混合物等のホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(数平均分子量500~2,000);
1-メチルトリメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(数平均分子量500~2,000)。
【0052】
本発明においては、前記(C1-1)成分、前記(C1-2)成分、および前記(C1-3)成分を使用する用途に応じて適宜使い分けることができる。例えば、練り込み法、積層法等のフォトクロミック硬化体の製造方法の違いによって、種類、配合量を適宜決定することができる。中でも、練り込み法、積層法の両方において、前記(C1-1)成分を使用することが好ましい。
次に、その他の(C)成分について説明する。
【0053】
(C1-4)ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレートモノマー
(C1-4)成分は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物が代表的である。ここで、ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンイソシアネート、2,2,4-ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、イソプロピリデンビス-4-シクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートまたはメチルシクロヘキサンジイソシアネートを挙げることができる。
【0054】
一方、ポリオールとしては、例えば炭素数2~4のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ヘキサメチレンオキシドの繰り返し単位を有するポリアルキレングリコール、或いはポリカプロラクトンジオール等のポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンジオール、又はペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
【0055】
また、(C1-4)成分としてはこれらポリイソシアネート及びポリオールの反応によりウレタンプレポリマーとしたものに、2-ヒドロキシ(メタ)アクリレートを更に反応させた反応混合物や、前記ジイソシアネートを2-ヒドロキシ(メタ)アクリレートと直接反応させた反応混合物であるウレタン(メタ)アクリレートモノマー等も使用することができる。
【0056】
(C1-4)成分の市販品としては、例えば新中村化学工業(株)製のU-2PPA(分子量482)、UA-122P(分子量1,100)、U-122P(分子量1,100)、及びダイセルユーシービー社製のEB4858(分子量454)を挙げることができる。
【0057】
(C1-5)その他の2官能(メタ)アクリレートモノマー
(C1-5)成分としては、置換基を有していてもよいアルキレン基の両末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物などが挙げられる。(C1-5)成分としては、炭素数6~20のアルキレン基を有するものが好ましい。具体的には、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート等が挙げられる。
【0058】
その他、(C-5)成分としては、硫黄原子を含む2官能(メタ)アクリレートモノマーを挙げることができる。この場合、硫黄原子はスルフィド基として分子鎖の一部を成しているものが好ましい。具体的には、ビス(2-メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、ビス(メタクリロイルオキシエチル)スルフィド、ビス(アクリロイルオキシエチル)スルフィド、1,2-ビス(メタクリロイルオキシエチルチオ)エタン、1,2-ビス(アクリロイルオキシエチル)エタン、ビス(2-メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、ビス(2-アクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、1,2-ビス(メタクリロイルオキシエチルチオエチルチオ)エタン、1,2-ビス(アクリロイルオキシエチルチオエチルチオ)エタン、1,2-ビス(メタクリロイルオキシイソプロピルチオイソプロピル)スルフィド、1,2-ビス(アクリロイルオキシイソプロピルチオイソプロピル)スルフィドが挙げられる。
【0059】
以上の(C1-1)成分、(C1-2)成分、(C1-3)成分、(C1-4)成分、および(C1-5)成分においては、各成分における単独成分を使用することもできるし、前記で説明した複数種類のものを使用することもできる。複数種類のものを使用する場合には、(C1)成分の基準となる質量は、複数種類のものの合計量である。
次に、(C2)多官能(メタ)アクリレートモノマーについて説明する。
【0060】
(C2)多官能(メタ)アクリレートモノマー
(C2)成分としては、下記式(2)で示される化合物(以下、単に(C2-1)成分とする場合もある)、ウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレートモノマー(以下、単に(C2-2)成分とする場合もある)、ポリロタキサンモノマー(以下、単に(C2-3)成分とする場合もある)、シルセスキオキサンモノマー(以下、単に(C2-4)成分とする場合もある)、並びに、前記(C2-1)成分、および前記(C2-2)成分に該当しない多官能(メタ)アクリレートモノマー(以下、単に(C2-5)成分とする場合もある)が挙げられる。その中でも、得られるフォトクロミック硬化体の特性を制御し易いという点から、前記(C2-1)成分を必須成分とすることが好ましい。
【0061】
(C2-1) 下記式(2)で示される多官能(メタ)アクリレートモノマー
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、下記式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0062】
【化10】
【0063】
式中、Rは、水素原子またはメチル基であり、
は、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、
は、炭素原子、炭素数1~10の3~6価の炭化水素基、または酸素原子を含む炭素数3~6の有機基であり、
cは、平均値で0~3の数であり、dは3~6の整数である。
【0064】
で示される炭素数1~2のアルキル基としてはメチル基が好ましい。Rで示される有機基としては、例えば、炭素原子、ポリオールから誘導される、水酸基を含む炭化水素基、3~6価の炭化水素基、3~6価のウレタン結合を含む有機基が挙げられる。
【0065】
上記式(2)で示される化合物を具体的に示すと以下の通りである。トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート。
【0066】
(C2-2)ウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレートモノマー
(C2-2)成分は、(C1-4)成分で説明したポリイソシアネート化合物とポリオール化合物を反応させて得られるものであり、分子中に3つ以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物である。市販品として、新中村化学工業(株)製のU-4HA(分子量596、官能基数4)、U-6HA(分子量1,019、官能基数6)、U-6LPA(分子量818、官能基数6)、U-15HA(分子量2,300、官能基数15)を挙げることができる。
【0067】
(C2-3)ポリロタキサンモノマー
ポリロタキサンモノマーは、
環状分子と、
該環状分子の環内を貫通し、該環が脱離しない様に、両末端に嵩高い基を有する軸分子とからなる複合分子構造を有し、且つ、分子内に3つ以上の(メタ)アクリレート基を有するモノマーである。
【0068】
ポリロタキサンモノマーにおいて、鎖状部分を形成するポリマーとして好適なものは、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールまたはポリビニルメチルエーテルであり、ポリエチレングリコールが最も好適である。
【0069】
さらに、鎖状部分の両端に形成される嵩高い基としては、アダマンチル基が好ましい。
【0070】
上述した軸分子の分子量は、特に制限されるものではないが、大きすぎると、他の成分、例えば、その他の重合性単量体等との相溶性が悪くなる傾向があり、小さすぎると環状分子の可動性が低下し、フォトクロミック性が低下する傾向がある。このような観点から、軸分子の重量平均分子量Mwは、好ましくは1,000~100,000、より好ましくは5,000~80,000、特に好ましくは8,000~30,000の範囲にある。
【0071】
また、環状分子は、上記のような軸分子を包接し得る大きさの環を有するものであればよく、このような環としては、シクロデキストリン環が好ましい。
【0072】
シクロデキストリン環には、α体(環内径0.45~0.6nm)、β体(環内径0.6~0.8nm)、γ体(環内径0.8~0.95nm)があるが、本発明では、特にα-シクロデキストリン環及びγ-シクロデキストリン環が好ましく、α-シクロデキストリン環が最も好ましい。
【0073】
上記のような環を有する環状分子は、1つの軸分子に複数個が包接しているが、一般に、軸分子1個当たりに包接し得る環状分子の最大包接数を1としたとき、環状分子の包接数は、0.001~0.6、より好ましくは、0.002~0.5、さらに好ましくは0.003~0.4の範囲にあることが好ましい。
【0074】
本発明で使用する(C2-3)ポリロタキサンモノマーは、上述した環状分子に、OH基(水酸基)を有する側鎖が導入されたポリロタキサン化合物である。
【0075】
上記の側鎖としては、特に制限されるものではないが、OH基を有し、かつ炭素数が3~20の範囲にある有機鎖の繰り返しにより形成されていることが好適である。このような側鎖の平均分子量は、好ましくは300~10,000、より好ましくは350~8,000、さらに好ましくは350~5,000の範囲、最も好ましくは、400~1,500の範囲にある。
【0076】
さらに、上記のような側鎖は、環状分子が有する官能基を利用し、この官能基を修飾することによって導入される。例えば、α-シクロデキストリン環は、官能基として18個のOH基(水酸基)を有しているので、このOH基を介して側鎖が導入される。即ち、1つのα-シクロデキストリン環に対しては最大で18個の側鎖を導入することができることとなる。本発明においては、前述した側鎖の機能を十分に発揮させるためには、このような環が有する全官能基数の6%以上、特に30%以上が、側鎖で修飾されていることが好ましい。
【0077】
本発明において、上記のような側鎖(有機鎖)は、OH基をその有機鎖に有するものであれば、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよい。
【0078】
例えば、開環重合により、ラクトンや環状エーテル等の環状化合物に由来する側鎖を導入することができる。ラクトンや環状エーテル等の環状化合物を開環重合して導入した側鎖は、該側鎖の末端にOH基が導入されることとなる。
【0079】
本発明において、側鎖導入のために好適に使用される化合物はラクトン化合物である。その例としては、ε-カプロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン等であり、ε-カプロラクトンがもっとも好ましい。
【0080】
また、開環重合により環状化合物を反応させて側鎖を導入する場合、環に結合している官能基(例えば水酸基)は反応性に乏しく、特に立体障害などにより大きな分子を直接反応させることが困難な場合がある。このような場合には、例えば、カプロラクトンなどを反応させるために、それに先立って、プロピレンオキシドなどの低分子化合物を官能基と反応させてヒドロキシプロピル化を行い、その後反応性に富んだ官能基(水酸基)に、前述した環状化合物を開環重合させて側鎖を導入するという手段を採用することができる。この場合、ヒドロキシプロピル化した部分も側鎖の1部であることはいうまでもない。
【0081】
本発明で使用する(C2-3)ポリロタキサンモノマーにおいては、該ポリロタキサン化合物における側鎖のOH基と、(メタ)アクリレート基を有する化合物とを反応させて、該ポリロタキサン化合物の側鎖に(メタ)アクリレート基を導入したものであることが好ましい。本発明においては、この反応を「変性」としている。
【0082】
重合性基を有する化合物は、前述した側鎖を利用して導入されるものであり、側鎖のOH基と反応する化合物を適宜使用できる。なお、この(メタ)アクリレート基を有する化合物自体は、他成分との相溶性を考慮すると、分子内にOH基を有さない化合物であることが好ましい。
【0083】
得られる硬化体の歩留り、機械的強度、フォトクロミック特性等を考慮すると、前記重合性基を有する化合物による変性割合は、一分子中に3つ以上の(メタ)アクリレート基が存在するようにすればよく、その他の側鎖、環状分子の水酸基は、水酸基のままであってもよいし、その他の重合性基以外の基で変性してもよい。中でも、ポリロタキサンモノマーの場合には、その特異な運動性から、一分子中に(メタ)アクリレート基が3~1000個含まれることが好ましく、50~500個含まれることがさらに好ましい。
【0084】
(C2-4)シルセスキオキサンモノマー
(C2-4)成分は、下記式(6)で示される、シルセスキオキサンモノマーである。
【0085】
【化11】
【0086】
(式中、
複数個あるR17は、互いに同一もしくは異なっていてもよく、水素原子または有機基であり、
jは、重合度を表わす、15~50の整数であり、
少なくとも10個のR17は、(メタ)アクリレート基を含む有機基である。)
【0087】
(C2-4)成分の重量平均分子量は3,000~8,000であることが好ましく、(メタ)アクリレート当量は150~800であることが好ましい。なお、(C2-4)成分の平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定した値である。
【0088】
ここで、R17における、(メタ)アクリレート基を含む有機基は、(メタ)アクリレート基のみのものを含む(珪素原子に直接、重合性基(例えば、(メタ)アクリレート等)が結合するものを含む。)。具体的には、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリロキシプロピル基、(3-(メタ)アクリロキシプロピル)ジメチルシロキシ基等が挙げられる。中でも(C2-4)成分製造時の原料の入手が容易であり、優れたフォトクロミック特性を発現しつつ、高い膜強度を得ることができるため、(メタ)アクリロキシプロピル基が、特に好ましい。
【0089】
上記式(6)中のR17は、(メタ)アクリレート基を含む有機基でない場合には、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、またはフェニル基であることが好ましい。
【0090】
ただし、(C2-4)成分は、平均して、一分子中に(メタ)アクリレート基が10個以上存在するように調製する必要がある。中でも、一分子中に(メタ)アクリレート基が10~100個含まれることが好ましく、15~35個含まれることがさらに好ましい。jは重合度を表わし、15~50の整数である。
【0091】
シルセスキオキサン化合物は、ケージ状、ハシゴ状、ランダムといった種々の構造を取ることができるが、本発明で使用する(C2-4)成分は、複数の構造からなる混合物であることが好ましい。(C2-4)成分としては、1種類のモノマーを使用することもできるし、複数のモノマーの混合物として使用することもできる。混合物の場合、混合物の合計質量を(C2-4)成分の配合量と見なす。
【0092】
(C2-5)多官能(メタ)アクリレートモノマー
(C2-5)成分としては、ポリエステル化合物の末端を(メタ)アクリレート基で修飾した化合物が好ましい。原料となるポリエステル化合物の分子量や(メタ)アクリレート基の修飾量により種々のポリエステル(メタ)アクリレート化合物として市販されているものを使用することができる。具体的には、4官能ポリエステルオリゴマー(分子量2,500~3,500、ダイセルユーシービー社、EB80等)、6官能ポリエステルオリゴマー(分子量6,000~8,000、ダイセルユーシービー社、EB450等)、6官能ポリエステルオリゴマー(分子量45,000~55,000、ダイセルユーシービー社、EB1830等)、4官能ポリエステルオリゴマー(特に分子量10,000の第一工業製薬社、GX8488B等)等を挙げることができる。
【0093】
以上に例示した(C2)成分((C2-1)成分、(C2-2)成分、(C2-3)成分、(C2-4)成分、(C2-5)成分)を使用することにより、重合により架橋密度が向上し、得られる硬化体の表面硬度を高めることができる。したがって、特に、コーティング法で得られるフォトクロミック硬化体(積層体)とする場合においては、(C2)成分を含むことが好ましい。特に(C2)成分の中でも(C2-1)成分を使用することが好ましい。
【0094】
以上の(C2-1)成分、(C2-2)成分、(C2-3)成分、(C2-4)成分および(C2-5)成分は、各成分における単独成分を使用することもできるし、前記で説明した複数種類のものを使用することもできる。複数種類のものを使用する場合には、(C2)成分の基準となる質量は、複数種類のものの合計量である。
次に、(C3)単官能(メタ)アクリレートモノマーについて説明する。
【0095】
(C3)単官能(メタ)アクリレートモノマー
(C3)成分としては、下記式(7)で示される化合物が挙げられる。
【0096】
【化12】
【0097】
式中、R18は、水素原子またはメチル基であり、
19は、水素原子、メチルジメトキシシリル基またはトリメトキシシリル基であり、
kは、0~10の整数であり、
lは、0~20の整数である。
【0098】
上記式(7)で示される化合物としては、例えばメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(特に平均分子量293)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(特に平均分子量468)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(特に平均分子量218)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、(特に平均分子量454)、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランを挙げることができる。
【0099】
(C)成分における各成分の配合割合
(C)重合性単量体は、前記(C1)成分、前記(C2)成分、必要に応じて、前記(C3)成分を含むことが好ましい。前記(C)成分の全量を100質量部としたとき、各成分は、得られるフォトクロミック硬化体の硬度、機械的特性、並びに、発色濃度、および退色速度といったフォトクロミック特性を考慮すると、前記(C1)成分30~90質量部、前記(C2)成分5~50質量部、前記(C3)成分0~20質量部とすることが好ましい。
【0100】
(フォトクロミック硬化性組成物の好適な配合割合)
本発明のフォトクロミック硬化性組成物においては、前記(C)成分の全量を100質量部としたとき、各成分は、得られるフォトクロミック硬化体の硬度、機械的特性、並びに、発色濃度、および退色速度といったフォトクロミック特性を考慮すると、前記(A)成分0.1~5質量部、前記(B)成分0.001~10質量部とすることが好ましい。中でもより優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が1~400質量部であることがより好ましい。
【0101】
(フォトクロミック硬化性組成物;その他の添加剤)
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、以上の(A)成分、(B)成分、および(C)成分を必須成分とするものである。該フォトクロミック硬化性組成物は、公知の添加剤を配合することができる。例えば、界面活性剤、離型剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料等の各種安定剤、添加剤、重合調整剤を必要に応じて混合することができる。
【0102】
中でも、紫外線安定剤を混合して使用するとフォトクロミック化合物の耐久性をさらに向上させることができるために好適である。紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止、イオウ系酸化防止剤を好適に使用することができる。ヒンダードアミン光安定剤としては、特に限定されないが、特にフォトクロミック化合物の劣化防止の点で、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートが好ましい。また、旭電化工業(株)により、アデカスタブLA-52、LA-57、LA-62、LA-63、LA-67、LA-77、LA-82、LA-87、等の商品名で市販されているヒンダードアミン系光安定剤も好適に使用することができる。
【0103】
ヒンダードフェノール酸化防止剤としては、フォトクロミック化合物の劣化防止の点で好ましい。例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール、BASFジャパン株式会社製IRGANOX245(登録商標):エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トルイル]プロピオネート]、BASFジャパン株式会社製IRGANOX1076(登録商標):オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、BASFジャパン株式会社製IRGANOX1010(登録商標):ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、その他にもBASFジャパン株式会社製のIRGANOX1035、1075、1098、1135、1141、1222、1330、1425、1520、259、3114、3790、5057、565(登録商標)等を挙げることができる。
【0104】
この紫外線安定剤の使用量は、(A)成分及び(C)成分の合計量を100質量部として、0.01~20質量部であり、さらに好ましくは0.1~10質量部の範囲である。
【0105】
また、重合調整剤としては、tードデシルメルカプタン等のチオール類を添加することもできる。
【0106】
また、(メタ)アクリレートモノマー以外にも、ビニルモノマーなどの重合性モノマーを添加することもできる。ビニルモノマーとしては、公知の化合物を何ら制限なく使用できるが、その中でも重合調整剤として作用する化合物を配合することは、フォトクロミック硬化性組成物の成型性を向上させるために好適である。ビニルモノマーの具体例としては、α-メチルスチレンおよびα-メチルスチレンダイマー等があげられ、特にα-メチルスチレンとα-メチルスチレンダイマーを組み合わせることが好ましい。
【0107】
界面活性剤としては、シリコーン鎖(ポリアルキルシロキサンユニット)を疎水基とするシリコーン界面活性剤、フッ化炭素鎖を有するフッ素界面活性剤などの、公知の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を添加することにより、コーティング法により本発明のフォトクロミックコーティング層を形成する際、フォトクロミック特性や密着性に悪影響を与えることなく、光学基材や、光学基材上に密着性等を改善する目的で形成されたプライマーに対する濡れ性を向上させると共に外観不良の発生を防止することが可能となる。
【0108】
本発明で好適に使用できるシリコーン界面活性剤及びフッ素界面活性剤を具体的に例示すると、東レ・ダウコーニング株式会社製『L-7001』、『L-7002』、『L-7604』、『FZ-2123』、大日本インキ化学工業株式会社製『メガファックF-470』、『メガファックF-1405』、『メガファックF-479』、住友スリーエム社製『フローラッドFC-430』等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用しても良い。
【0109】
<重合開始剤、フォトクロミック硬化体の製法について>
フォトクロミック硬化性組成物から硬化体を得る方法としては、公知のラジカル重合方法を採用できる。具体的には、種々の過酸化物やアゾ化合物などのラジカル重合開始剤の使用、または、紫外線(UV線)、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者の併用によって行うことができる。代表的な重合方法を例示すると、エラストマーガスケット又はスペーサーで保持されているモールド間に、ラジカル重合開始剤を混合した本発明のフォトクロミック硬化体組成物を注入し、空気炉中で重合させた後、取り外す注型重合が採用される。
【0110】
また、積層体を得る方法についても、公知の方法を採用できる。具体的には、プラスチック基材上に、フォトクロミック硬化性組成物からなる層を存在させ、該硬化性組成物を重合硬化させればよい。フォトクロミック硬化性組成物を重合する方法としては、熱や、紫外線(UV線)、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者の併用等により行うことができる。この際、下記の熱重合開始剤や光重合開始剤などのラジカル重合開始剤を、本発明のフォトクロミック硬化性組成物中に配合することが好ましい。本発明のフォトクロミック組成物からコーティングにより硬化体を得る場合には、均一な膜厚が得られ易いという理由から、光重合を採用することが好ましい。
【0111】
本発明において、重合開始剤を使用する際、その重合開始剤の使用量は、(A)成分及び(C)成分の合計量を100質量部として、好ましくは0.001~10質量部、より好ましくは0.01~5質量部の範囲である。
【0112】
代表的な重合開始剤を例示すると、熱重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を挙げることができる。
【0113】
本発明のフォトクロミック硬化体組成物を熱重合させる際、重合条件のうち、特に温度は得られるフォトクロミック硬化体・積層体の性状に影響を与える。この温度条件は、熱重合開始剤の種類と量やモノマーの種類によって影響を受けるので一概に限定はできないが、一般的に比較的低温で重合を開始し、ゆっくりと温度を上げていき、重合終了時に高温下に硬化させる、所謂、テーパー型重合を行うのが好適である。重合時間も温度と同様に各種の要因によって異なるので、予めこれらの条件に応じた最適の時間を決定するのが好適である。2~24時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。
【0114】
本発明の光重合開始剤としては、アセトフェノン系やアシルフォスフィン系といった化合物を採用することが出来る。具体的には、ベンゾフェノン;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン等のアセトフェノン系化合物;1,2-ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリコキシレート等のα-ジカルボニル系化合物;2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,6-ジクロルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキシド系化合物;1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]などを挙げることができる。これらの重合開始剤は1種、又は2種以上を混合して用いてもかまわない。
【0115】
本発明のフォトクロミック硬化体組成物を光重合させる際には、重合条件のうち、特にUV強度は得られるフォトクロミック硬化体・積層体の性状に影響を与える。この照度条件は、光重合開始剤の種類と量やモノマーの種類によって影響を受けるので一概に限定はできないが、一般的に365nmの波長で、50~500mW/cmのUV光を、0.5~5分の時間で光照射するように条件を選ぶのが好ましい。
【0116】
また、熱重合開始剤と光重合開始剤を併用することもできる。光重合開始剤を用いる場合には3級アミン等の公知の重合促進剤を併用することができる。
【0117】
積層法によりフォトクロミック層を光学基材の表面に形成する場合、光学基材は特に制限されるものでなく、公知の基材を使用することができる。これら光学基材上に、フォトクロミック硬化性組成物の硬化体の層を有する、フォトクロミック積層体の上記硬化体の層も、本発明のフォトクロミック硬化体に含まれる。
【0118】
光学基材としては、具体的には、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、チオウレタン樹脂、ウレタン樹脂、チオエポキシ樹脂、ガラス等が挙げられ、本発明においては、何れの光学基材にも適用できる。また、これらの光学基材上に、ハードコート層などを積層したレンズ基材にも適用可能である。
【0119】
光学基材は、得られるフォトクロミック積層体の密着性向上のために、アルカリ溶液、酸溶液などによる化学的処理、コロナ放電、プラズマ放電、研磨などによる物理的処理を行っておくことにより、フォトクロミック層と光学基材の密着性を高めることもできる。なお、フォトクロミック硬化性樹脂を光学基材の表面上に塗布してコーティング層を形成する前に、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリビニルアセタール系、エポキシ系などのプライマーを塗布、硬化しておくことも可能である
コーティング法によりフォトクロミック積層体を製造する場合、光学基材上に、光重合開始剤を混合した本発明のフォトクロミック硬化体組成物をスピンコーティング法などにより塗布し、窒素などの不活性ガス中に設置した後に、UV照射を行うことで、コーティング法によるフォトクロミック積層体を得ることができる。そして、フォトクロミックコート層とプラスチック基材との密着性を高めるため、80~120℃の温度範囲で0.5~5時間程度加熱処理することが好ましい。こうすることにより、プラスチックレンズ基材/必要に応じて形成される、プライマーコート層/フォトクロミックコート層がこの順で積層されたフォトクロミック積層体を得ることができる。コーティング法で形成されるフォトクロミックコート層の厚みは、特に制限されるものではないが、10~70μmとすることが好ましい。
【0120】
<フォトクロミック硬化体の2次加工; 他層の積層(ハードコート層)>
このようにして得られたフォトクロミック硬化体及びフォトクロミック積層体は、そのままフォトクロミック光学材料として使用することが可能であるが、通常は、さらにハードコート層で被覆して使用される。これにより、フォトクロミック光学材料の耐擦傷性を向上させることができる。
【0121】
ハードコート層を形成するためのコーティング剤(ハードコート剤)としては、公知のものがなんら制限なく使用できる。具体的には、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、チタン等の酸化物のゾルを主成分とするハードコート剤や、有機高分子体を主成分とするハードコート剤が使用できる。コーティングされたフォトクロミック光学材料へのハードコート剤の被覆は、好ましくは、光学基材をフォトクロミック硬化性組成物でコーティングするのと同様の操作により行われる。また、同様に、フォトクロミック光学材料を前処理、即ち、水酸化ナトリウム水溶液、あるいは水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液にフォトクロミック光学材料を含浸する前処理、あるいはフォトクロミック光学材料をアルカリ溶液に含浸したまま超音波洗浄する前処理を行った後、上記に示した公知の方法でハードコート剤を該光学材料の表面に塗布することができる。この被覆したハードコート剤は、公知の方法、例えば、加熱することにより硬化させ、ハードコート層とすることができる。
【0122】
<ハードコート層以外のその他の層>
さらに、前記の方法で得られるフォトクロミック硬化体、あるいは該硬化体上にさらにハードコート層を形成した光学物品は、SiO、TiO、ZrO等の金属酸化物の薄膜の蒸着や有機高分子の薄膜の塗布による反射防止処理、帯電防止処理等の加工および2次処理を施すことも可能である。
【実施例
【0123】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を掲げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において用いた評価方法は以下の通りである。
【0124】
(フォトクロミック特性)
フォトクロミック硬化体/積層体に、(株)浜松ホトニクス製のキセノンランプL-2480(300W)SHL-100を、エアロマスフィルター(コーニング社製)を介して20℃±1℃、重合体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm、245nm=24μW/cmで300秒間照射して発色させ、前記硬化体のフォトクロミック特性を測定した。各フォトクロミック特性を以下の方法で評価し、その結果を対応する表に示した。
【0125】
・最大吸収波長(λmax):
(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は発色時の色調に関係する。
【0126】
・発色濃度{ε(300)-ε(0)}:
前記最大吸収波長における、300秒間光照射した後の吸光度{ε(300)}と光照射前の吸光度ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0127】
・退色速度〔t1/2(sec.)〕:
300秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記最大吸収波長における吸光度が{ε(300)-ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0128】
(煮沸密着性試験)
光学物品(ハードコートレンズ)を沸騰させた蒸留水に入れ、1時間毎にハードコートレンズの密着性を評価した。試験評価は、試験前と試験1時間毎にハードコート膜とレンズの密着性をJIS D-0202に準じてクロスカットテープ試験によって行った。即ち、カッターナイフを使い、ハードコート膜面に約1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させる。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向へ一気に引っ張り剥離した後、ハードコート膜が残っているマス目を測定した。評価結果は、対応する表に(残っているマス目数)/100で表している。
【0129】
(レンズ保存安定性 発色時の赤変 Δa
保存安定性の促進試験として、恒温恒湿槽にて、60℃/98%湿度でフォトクロミック硬化体/積層体を1週間保存し、発色時の色調変化を測定した。測定方法は、上記ε(300)のスペクトルをJIS(JISZ8729)に基づいて、L表色系に変換し、赤さを示すaの変化Δを以下の式から得た。
Δa=a(1週間後)-a(初期)
Δaの上昇度が高いほど、フォトクロミック硬化体/積層体が赤くなっていることを示す。本試験は実保存1年分に相当すると考えられる。
【0130】
(耐久性 残存率)
光照射による発色の耐久性の促進試験として、スガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により96時間促進劣化させた。その後、上記発色濃度の評価を試験前後で行い、試験前の発色濃度(A)及び試験後の発色濃度(A96)から以下の式に従い残存率を得た。
残存率(%)=(A96/A)×100
【0131】
以下に、本実施例で使用した化合物の略号と名称を示す。
【0132】
(A)成分:一分子中に少なくとも一つのオキセタニル基を有するラジカル重合性単量体
・OXE-30:(3-エチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレート。
【0133】
(B)成分:フォトクロミック化合物
【0134】
【化13】
【0135】
【化14】
【0136】
【化15】
【0137】
【化16】
【0138】
【化17】
【0139】
【化18】
【0140】
【化19】
【0141】
(C)ラジカル重合性単量体
(C1-1)成分
・A-200:テトラエチレングリコールジアクリレート。
・A-400:ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が536)。
・4G:テトラエチレングリコールジメタクリレート。
・14G:ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が14であり、平均分子量が736)。
【0142】
(C1-2)成分
・BPE100:2,2-ビス[4-(メタクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン(エチレグリコール鎖の平均鎖長が、2.6であり、平均分子量が478)。
・A-BPE-10:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(エチレグリコール鎖の平均鎖長が、10であり、平均分子量が776)。
・KT50:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(エチレグリコール鎖の平均鎖長が、10であり、平均分子量が804)。
・A-PC:ペンタメチレングリコールとヘキサメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500)とアクリル酸のエステル化合物。
【0143】
(C2-1)成分
・TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
【0144】
(C2-3)成分
・T15;ポリロタキサンモノマー 製造方法は下記<ポリロタキサンモノマーの準備>記載の通りである。一分子中、平均してアクリレート基が220個存在する。
【0145】
(C2-4)成分
・S21;シルセスキオキサンモノマー 製造方法は下記の通りである。
【0146】
<S21の合成>
3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレート248g(1.0mol)にエタノール196mlおよび水54g(3.0mol)を加え、触媒として水酸化ナトリウム0.20g(0.005mol)を添加し、45℃で3時間反応させた。原料の消失を確認後、希塩酸で中和し、トルエン174ml、ヘプタン174ml、および水174gを添加し、水層を除去した。その後、水層が中性になるまで有機層を水洗し、溶媒を濃縮することによってシルセスキオキサンモノマー(S21)を得た。なお、H-NMRより、原料は完全に消費されていることを確認した。また、29Si-NMRより、ケージ状構造、ラダー状構造およびランダム構造の混合物であることを確認した。シルセスキオキサンモノマー(PMS1)の分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定したところ、重量平均分子量が3800であった。メタクリル当量は、約178であった(一分子中に、平均してメタクリル基が178個存在する)。
【0147】
(C3)成分
・GMA:グリシジルメタクリレート(ただし、比較成分。分子中にメタクリル基を1つ有する成分のため、(C3)成分として記載。)。
・TSL8370:γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン。
【0148】
(その他単量体成分)
・αMS:αメチルスチレン。
・MSD:αメチルスチレンダイマー。
【0149】
(添加剤)
(安定剤)
・HALS:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート。
・HP:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]。
【0150】
(開始剤)
・ND:t-ブチルパーオキシネオデカノエート。
・PI:フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド。
(レベリング剤)
・L7001:ポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製)。
【0151】
<ポリロタキサンモノマーの準備>(C2-3)成分の製造((T15)の製造)
以下の方法に従い、ポリロタキサンモノマーT15を準備した。
【0152】
(重合性官能基導入側鎖を有するポリロタキサンモノマー(T15))
製造例
(1)PEG-COOHの調製;
軸分子形成用のポリマーとして、分子量11,000の直鎖状ポリエチレングリコール(PEG)を用意した。
【0153】
下記処方;
PEG 10g、
TEMPO (2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル)100mg
臭化ナトリウム 1g
を準備し、各成分を水100mLに溶解させた。この溶液に、市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)5mLを添加し、室温で10分間撹拌した。その後、エタノールを最大5mLまでの範囲で添加して反応を終了させた。そして、50mLの塩化メチレンを用いた抽出を行った後、塩化メチレンを留去し、250mLのエタノールに溶解させてから、-4℃の温度で12時間かけて再沈させ、PEG-COOHを回収し、乾燥した。
【0154】
(2)ポリロタキサンの調製;
上記で調製されたPEG-COOH 3gおよびα-シクロデキストリン(α-CD)12gを、それぞれ、70℃の温水50mLに溶解させ、得られた各溶液を混合し、よく振り混ぜた。次いで、この混合溶液を、4℃の温度で12時間再沈させ、析出した包接錯体を凍結乾燥して回収した。その後、室温でジメチルホルムアミド(DMF)50mlに、アダマンタンアミン0.13gを溶解した後、上記の包接錯体を添加して速やかによく振り混ぜた。続いてBOP試薬(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)0.38gをDMFに溶解した溶液をさらに添加して、よく振り混ぜた。さらにジイソプロピルエチルアミン0.14mlをDMFに溶解させた溶液を添加してよく振り混ぜてスラリー状の試薬を得た。
【0155】
上記で得られたスラリー状の試薬を4℃で12時間静置した。その後、DMF/メタノール混合溶媒(体積比1/1)50mlを添加、混合、遠心分離を行なって上澄みを捨てた。さらに、上記DMF/メタノール混合溶液による洗浄を行った後、メタノールを用いて洗浄、遠心分離を行い、沈殿物を得た。得られた沈殿物を真空乾燥で乾燥させた後、50mLのDMSOに溶解させ、得られた透明な溶液を700mLの水中に滴下してポリロタキサンを析出させた。析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し、真空乾燥させた。さらにDMSOに溶解、水中で析出、回収、乾燥を行い、精製ポリロタキサンを得た。このときのα-CDの包接量は0.25である。
【0156】
(3)ポリロタキサンへの側鎖の導入;
上記で精製されたポリロタキサン500mgを1mol/LのNaOH水溶液50mLに溶解し、プロピレンオキシド3.83g(66mmol)を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で12時間撹拌した。次いで、1mol/LのHCl水溶液を用い、上記のポリロタキサン溶液を、pHが7~8となるように中和し、透析チューブにて透析した後、凍結乾燥し、ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンを得た。得られたヒドロキシプロピル化ポリロタキサンは、H-NMRおよびGPCで同定し、所望の構造を有するヒドロキシプロピル化ポリロタキサンであることを確認した。
【0157】
尚、ヒドロキシプロピル基による環状分子のOH基への修飾度は0.5であり、GPC測定により重量平均分子量Mw:180,000であった。
【0158】
得られたヒドロキシプロピル化ポリロタキサン5gを、ε-カプロラクトン15.0gに80℃で溶解させた混合液を調製した。この混合液を、乾燥窒素をブローさせながら110℃で1時間攪拌した後、2-エチルヘキサン酸錫(II)の50wt%キシレン溶液0.16gを加え、130℃で6時間攪拌した。その後、キシレンを添加し、不揮発濃度が約35質量%の側鎖を導入したポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンキシレン溶液を得た。
【0159】
(4)OH基導入側鎖修飾ポリロタキサンの調製;
上記で調製されたポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンキシレン溶液をヘキサン中に滴下し、回収し、乾燥することにより、側鎖の末端としてOH基を有する側鎖修飾ポリロタキサンを得た。
このOH基導入側鎖修飾ポリロタキサンの物性は以下の通りであった。
側鎖の修飾度:0.5 (%で表示すると50%となる)。
側鎖の分子量:平均で約400。
ポリロタキサン重量平均分子量Mw(GPC):180,000。
【0160】
(5)アクリレート基導入側鎖修飾ポリロタキサンモノマー(T15)の調製
上記製造例(4)で調製されたOH基導入側鎖修飾ポリロタキサンを用いた。OH基導入側鎖修飾ポリロタキサン10.0gをメチルエチルケトン50mlに溶解し、ジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)5mgを添加した後、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート1.85gを滴下した。触媒としてジラウリン酸ジブチルスズを10mg添加し、70℃で4時間攪拌し、ポリカプロラクトン末端にアクリレート基を導入したポリロタキサンのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をヘキサン中に滴下し、析出した固体を回収し、乾燥することで、重合性基としてアクレート基が側鎖に導入されたポリロタキサンモノマー(T15)を得た。
【0161】
このアクリレート基導入側鎖修飾ポリロタキサンモノマー(T15)を(C2-3)成分として使用した。物性は以下のとおりであった。
側鎖の分子量:平均で約400。
ポリロタキサンモノマー重量平均分子量Mw(GPC):200,000。
アクリレート基 変性率:81モル%。
残存するOH基の割合:19モル%。
【0162】
<ハードコート剤の準備>
以下の方法に従い、ハードコート剤1を準備した。
ハードコート剤1の製造
γ-グリシドキシエチルトリメトキシシラン 13.86質量部、メチルトリエトキシシラン 11.16質量部、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製L7001)0.059質量部、エチレングリコールイソプロピルエーテル 4.2質量部、アセチルアセトン 2.98質量部、t-ブチルアルコール 9.77質量部を加え、30分撹拌混合した。得られた溶液を撹拌しながら、0.05N塩酸水溶液 5.84質量部を液温が50℃を超えないように注意しながら加え、添加終了後、継続して1時間撹拌した。続いて、無機酸化物微粒子としてメタノール分散シリカゾル(日産化学株式会社製)46.69質量部を加え、30分間撹拌した。その後、硬化触媒としてトリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III) 0.54質量部を加え、撹拌混合した。次いで、エチレングリコールイソプロピルエーテル 1.4質量部、3-アミノプロピルトリメトキシシラン 0.14質量部を加え、室温で3時間撹拌混合した。得られた混合液をハードコート剤1とした。
【0163】
実施例1
フォトクロミック硬化体の作製・評価
(A)OXE-30 1質量部、(C1-1)A-200 4.5質量部、A-400 1.8質量部、4G 40.5質量部、14G 0.5質量部、(C1-2)BPE100 26.1質量部、A-BPE-10 0.5質量部、(C2-1)TMPT 9.3質量部、(その他単量体成分)αMS 7.2質量部、MSD 1.8質量部、からなる重合性単量体の混合物に、(B)フォトクロミック化合物PC1 0.04質量部、重合開始剤としてND 1質量部を添加し、十分に混合してフォトクロミック硬化性組成物を製造した。表1に各配合割合をまとめた。
【0164】
混合液である該フォトクロミック硬化性組成物をガラス板とエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合により上記単量体の実質的全量を重合した。重合は空気炉を用い、30℃~85℃ まで18時間かけ徐々に温度を上げていき、85℃ で2時間保持した。重合終了後、硬化体を鋳型のガラス型から取り外し、フォトクロミック硬化体( 厚さ2mm)を得た。得られたフォトクロミック硬化体のフォトクロミック特性及び保存安定性、耐久性の評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0165】
<フォトクロミック硬化体へのハードコート層の塗布・硬化>
上記方法で作製したフォトクロミック硬化体を50℃の20質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、超音波洗浄器を用いて、5分間アルカリエッチングを行った。アルカリエッチング後、水道水、及び50℃の蒸留水で順次洗浄し、残余のアルカリ分を取り除いた後、室温になるまで約10分間放置した。このレンズ基材(フォトクロミック硬化体)に、前記方法で作製したハードコート剤1を25℃で引き上げ速度15cm/分の速さで、ディップコートした。この後、70℃のオーブンにて15分間予備硬化した後、110℃で3時間の硬化を行い、フォトクロミック硬化体の両面に、それぞれ2.1μmの厚みでハードコート層が形成された光学物品(ハードコートレンズ)を得た。得られたハードコートレンズの煮沸密着評価を行い、結果を表2に示した。
【0166】
参考例1、比較例1
表1に示した配合割合のフォトクロミック硬化性組成物を準備した以外、実施例1と同様な方法でフォトクロミック硬化体を作製し、フォトクロミック特性及び保存安定性、耐久性の評価を行った。また、得られたフォトクロミック硬化体を用いてハードコートレンズを作成し、実施例1と同様に煮沸密着性試験を実施した。結果を表2に示した。
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
実施例2
フォトクロミック積層体の作製・評価
(A)OXE-30 1質量部、(C1-1)14G 45質量部、(C1-2)A-PC 11質量部、(C2-1)TMPT 40質量部、(C2-3)T15 3質量部、(C3)TSL8370 6.5質量部、からなる重合性単量体の混合物に、(B)フォトクロミック化合物PC2 0.25質量部、PC3 1.4質量部、PC4 0.8質量部、PC5 0.15質量部、PC6 0.3質量部、安定剤としてHALS 3質量部、HP 1質量部、重合開始剤としてPI 0.3質量部、レベリング剤としてL7001 0.1質量部を添加し、十分に混合してフォトクロミック硬化性組成物を製造した。表3に各配合割合をまとめた。
【0170】
混合液である該フォトクロミック硬化性組成物を用い、積層法によりフォトクロミック積層体を得た。重合方法を以下に示す。
【0171】
まず、光学基材として中心厚が2mmで屈折率が1.60のチオウレタン系プラスチックレンズを用意した。なお、このチオウレタン系プラスチックレンズは、事前に10%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、50℃で5分間のアルカリエッチングを行い、その後十分に蒸留水で洗浄を実施した。
【0172】
スピンコーター(1H-DX2、MIKASA製)を用いて、上記のプラスチックレンズの表面に、湿気硬化型プライマー(製品名;TR-SC-P、(株)トクヤマ製)を回転数70rpmで15秒、続いて1000rpmで10秒コートした。その後、上記で得られたフォトクロミック組成物 約2gを、回転数60rpmで40秒、続いて600rpmで10~20秒かけて、フォトクロミックコーティング層の膜厚が40μmになるようにスピンコートした。
【0173】
このようにコーティング剤が表面に塗布されているレンズを、窒素ガス雰囲気中で出力200mW/cmのメタルハライドランプを用いて、90秒間光を照射し、塗膜を硬化させた。その後さらに110℃で1時間加熱して、フォトクロミック層を有するフォトクロミック積層体を作製した。得られたフォトクロミック積層体のフォトクロミック特性及び保存安定性、耐久性の評価を行った。評価結果を表4に示した。
【0174】
また、得られたフォトクロミック積層体に対して実施例1と同様にハードコート層を積層し、ハードコートレンズを得た。得られたハードコートレンズを用いて、煮沸密着性試験を行った。結果を表4に示した。
【0175】
参考例2、比較例2
表3に示した配合割合のフォトクロミック硬化性組成物を準備した以外、実施例2と同様な方法でフォトクロミック積層体を作製し、フォトクロミック特性及び保存安定性、耐久性の評価を行った。また、得られたフォトクロミック積層体を用いてハードコートレンズを作製し、実施例2と同様に煮沸密着性試験を実施した。結果を表4に示した。
【0176】
【表3】
【0177】
【表4】
【0178】
実施例3
フォトクロミック積層体の作製・評価
(A)OXE-30 1質量部、(C1-1)14G 25質量部、(C1-2)A-PC 10質量部、KT50 35質量部、(C2-1)TMPT 24質量部、(C2-4)S21 5質量部、(C3)TSL8370 6.5質量部、からなる重合性単量体の混合物に、(B)フォトクロミック化合物PC2 0.25質量部、PC3 1.4質量部、PC4 0.8質量部、PC5 0.15質量部、PC6 0.3質量部、安定剤としてHALS 3質量部、HP 3質量部、重合開始剤としてPI 0.25質量部、レベリング剤としてL7001 0.1質量部を添加し、十分に混合してフォトクロミック硬化性組成物を製造した。表5に各配合割合をまとめた。
【0179】
混合液である該フォトクロミック硬化性組成物を用い、実施例2と同様に積層法によりフォトクロミック積層体を得た。得られたフォトクロミック積層体のフォトクロミック特性及び保存安定性、耐久性の評価を行った。評価結果を表6に示した。
【0180】
また、得られたフォトクロミック積層体に対して実施例1と同様にハードコート層を積層し、ハードコートレンズを得た。得られたハードコートレンズを用いて、煮沸密着性試験を行った。結果を表6に示した。
【0181】
参考例3、比較例3
表5に示した配合割合のフォトクロミック硬化性組成物を準備した以外、実施例3と同様な方法でフォトクロミック積層体を作製し、フォトクロミック特性および保存安定性、耐久性の評価を行った。また、得られたフォトクロミック積層体を用いてハードコートレンズを作製し、実施例2と同様に煮沸密着性試験を実施した。結果を表6に示した。
【0182】
【表5】
【0183】
【表6】
【0184】
実施例4
フォトクロミック硬化体の作製・評価
(A)OXE-30 1質量部、(C1-1)A-200 5質量部、4G 32質量部、(C1-2)KT50 5質量部、BPE100 49質量部、(C2-1)TMPT 8質量部、(その他単量体成分)αMS 9質量部、MSD 2質量部、からなる重合性単量体の混合物に、(B)フォトクロミック化合物PC7 0.04質量部、重合開始剤としてND 1質量部を添加し、十分に混合してフォトクロミック硬化性組成物を製造した。表7に各配合割合をまとめた。
【0185】
混合液である該フォトクロミック硬化性組成物を用い、実施例1と同様の方法でフォトクロミック硬化体(厚さ2mm)を得た。得られたフォトクロミック硬化体のフォトクロミック特性及び保存安定性、耐久性の評価を行った。評価結果を表8に示した。
【0186】
また、得られたフォトクロミック硬化体に対して実施例1と同様にハードコート層を積層し、ハードコートレンズを得た。得られたハードコートレンズを用いて、煮沸密着性試験を行った。結果を表8に示した。
【0187】
実施例5~7、比較例4、参考例4~7
表7に示した配合割合のフォトクロミック硬化性組成物を準備した以外、実施例4と同様な方法でフォトクロミック硬化体を作製し、フォトクロミック特性及び保存安定性、耐久性の評価を行った。また、得られたフォトクロミック積層体を用いてハードコートレンズを作製し、実施例4と同様に煮沸密着性試験を実施した。結果を表8に示した。
【0188】
【表7】
【0189】
【表8】
【0190】
実施例8
フォトクロミック積層体の作製・評価
(A)OXE-30 1質量部、(C1-1)14G 46.5質量部、(C1-2)A-PC 11.5質量部、(C2-1)TMPT 41質量部、からなる重合性単量体の混合物に、(B)フォトクロミック化合物PC7 0.5質量部、安定剤としてHALS 3質量部、HP 1質量部、重合開始剤としてPI 0.3質量部、レベリング剤としてL7001 0.1質量部を添加し、十分に混合してフォトクロミック硬化性組成物を製造した。表9に各配合割合をまとめた。
【0191】
混合液である該フォトクロミック硬化性組成物を用い、実施例2と同様に積層法によりフォトクロミック積層体を得た。得られたフォトクロミック積層体のフォトクロミック特性及び保存安定性、耐久性の評価を行った。評価結果を表10に示した。
【0192】
また、得られたフォトクロミック積層体に対して実施例1と同様にハードコート層を積層し、ハードコートレンズを得た。得られたハードコートレンズを用いて、煮沸密着性試験を行った。結果を表10に示した。
【0193】
実施例9~11、比較例5、参考例8~11
表9に示した配合割合のフォトクロミック硬化性組成物を準備した以外、実施例8と同様な方法でフォトクロミック積層体を作製し、フォトクロミック特性および保存安定性の評価を行った。また、得られたフォトクロミック積層体を用いてハードコートレンズを作製し、実施例2と同様に煮沸密着性試験を実施した。結果を表10に示した。
【0194】
【表9】
【0195】
【表10】