(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20221216BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
G01N35/10 A
G01N35/00 F
(21)【出願番号】P 2021546494
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009136
(87)【国際公開番号】W WO2021053856
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019171551
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】平間 宏美
(72)【発明者】
【氏名】藤田 明直
(72)【発明者】
【氏名】宮川 拓士
(72)【発明者】
【氏名】有賀 洋一
(72)【発明者】
【氏名】井上 陽子
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188872(JP,A)
【文献】特開平10-239323(JP,A)
【文献】特開2015-114120(JP,A)
【文献】特開2014-238408(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103185622(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を入れる液体容器と、流路を介して前記液体容器内の液体を送液する送液部を備える自動分析装置において、
前記流路内の気体を検知する検知器と、
前記流路内の液体を入れ替えるプライム機能部と、
前記検知器で前記流路内に気体が検出された場合には、前記流路内の液体に気泡が混入した状態であると判断する制御部とを備え、
前記制御部は、前記流路内の液体に気泡が混入した状態であると判断した場合には、前記プライム機能部を制御して前記流路内の液体を入れ替えるとともに、前記液体の入れ替え中に前記検知器が再度気体を検知した場合には、前記液体容器内に必要量の液体がない試薬不足状態であると判断し、前記自動分析装置による分析処理を中止することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
内部標準液を収容する液体容器である内部標準液ボトルと希釈槽とを接続する流路と、
希釈液を収容する液体容器である希釈液ボトルと前記希釈槽とを接続する流路と、
前記内部標準液を前記希釈槽へ送液する内部標準液シリンジと、
前記希釈液を前記希釈槽へ送液する希釈液シリンジと、
比較電極液を収容する液体容器である比較電極液ボトルと比較電極とを接続する流路と、
前記比較電極液を比較電極に送液するシッパシリンジとを備える自動分析装置において、
前記流路内の気体を検知する検知器と、
前記流路内の液体を入れ替えるプライム機能部と、
前記検知器で前記流路内に気体が検出された場合には、前記流路内の液体に気泡が混入した状態であると判断する制御部とを備え、
前記制御部は、前記流路内の液体に気泡が混入した状態であると判断した場合には、前記プライム機能部を制御して前記流路内の液体を入れ替えるとともに、前記液体の入れ替え中に前記検知器が再度気体を検知した場合には、前記液体容器内に必要量の液体がない試薬不足状態であると判断し、前記自動分析装置による分析処理を中止することを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自動分析装置において、
前記流路の前記検知器よりも上流側に配置された脱気モジュールを備え、
前記制御部は、前記流路内の液体に気泡が混入した状態であると判断した場合には、前記プライム機能部を制御して前記流路内の液体を入れ替えるとともに、前記液体の入れ替え中に前記検知器が再度気体を検知した場合には、前記液体容器内に必要量の液体がない試薬不足状態であると判断し、前記自動分析装置による分析処理を中止することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の自動分析装置において、
前記制御部は、前記検知器において検知される前記流路内の気体の量が予め設定した基準量を上回った場合に前記流路内に気泡が混入した状態であると判断することを特徴とする自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を入れる容器と、流路を介して液体を送液する送液部を備える自動分析装置において、本来液体で満たされるべき流路中に気体が混入することは異常状態であり、対応が必要なものもある。そのような自動分析装置の一例としては、電解質分析装置がある。
【0003】
電解質分析装置は、人体の血液、尿等の電解質溶液中に含まれる特定の電解質濃度を測定する装置であり、イオン選択性電極を利用して濃度測定を行う。一般的な測定の方法としては、電解質溶液としての血清を直接、あるいは希釈液により希釈したサンプル溶液をイオン選択電極に供給して比較電極液との液間電位を測定し、次に(または測定に先立って)イオン選択電極に標準液を供給して同様に比較電極液との液間電位を測定し、2つの液間電位レベルからサンプル溶液の電位を算出する。そして、既知濃度のサンプルを測定して検量線を取得し、未知サンプルの濃度演算に用いている。電解質分析装置は、希釈液、標準液、比較電極液といった試薬をボトルに入れて消耗品として装置に設置しており、流路を介して試薬を必要箇所に供給している。
【0004】
試薬容器から試薬が正しく供給されれば、流路は液体で満たされる。一方、気泡が混入したり試薬が不足したりして流路が空になった状態は、正しい測定結果を得ることができない異常状態であり、測定を中断して対処することが必要となる。したがって、このような異常状態が生じた場合には即座にオペレータに報知し、測定不可時間を短縮することは電解質分析装置に期待されることの1つである。また、オペレータの手間をとらせずに装置が自動で正常状態に復帰することも望ましい。
【0005】
流路中の気体の検知機能を有する装置の従来技術としては、以下のものがあげられる。例えば、特許文献1には、流路内の気泡を検知し、検知した場合に複数回のプライム機能を実行して気泡を排除し、更に、各機能が実行される度に気泡が排除できたかどうかを確認する機能を備えた自動分析装置が開示されている。また、特許文献2,3,4には、流路内の気体を検知することで接続先容器の容量不足を判別する機能を備えた自動分析装置が開示されている。また、特許文献5には、気泡を検知する機能を持ち、検知した場合に自動でプライム実行する機能を持ち、試薬プライム後も気泡があると判断されたら異常であるとする装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-188872号公報
【文献】国際公開第2010/107042号
【文献】特開2014-238408号公報
【文献】特開2014-139580号公報
【文献】特開2015-114120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電解質分析装置において、流路への気泡混入と試薬不足とでは、測定を再開するまでに必要な対処が異なるため、両者は正しく識別されオペレータに周知されることが望ましい。気泡の混入の場合は流路中の試薬置換機能(試薬プライム)によって気泡を排出し、気泡の排出を確認できれば測定再開可能である。一方、試薬不足のときは、試薬容器の交換、試薬プライム、キャリブレーションが必要である。特にキャリブレーションは既知濃度の標準液を測定して検量線を得ており、濃縮や成分変性が生じるとキャリブレーション結果の信頼性が損なわれるため、標準液の準備や設置タイミングは適切に管理されなければならず、気泡混入に比べ、測定再開までに時間と労力を要する。そのため、両者は識別され、かつ試薬不足と誤判断されるリスクは低減されるべきである。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術においては、試薬不足の判定は意図していない。また、特許文献2,3,4に記載の従来技術においては、気体の混入と排出の判断は想定していない。また、特許文献5に記載の従来技術においては、気体の有無の確認は、試薬プライム後に特別な動作によりおこなう必要がある。すなわち、上記従来技術においては、気泡の混入と試薬不足を同一の検知器で判別することを意図していない。あるいは、気泡と試薬不足を判別可能であっても、効率的に両者を判別する機能になっているとはいえない。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、液体への気泡の混入と試薬不足とをより効率的に識別することができる自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、液体を入れる液体容器と、流路を介して前記液体容器内の液体を送液する送液部を備える自動分析装置において、前記流路内の気体を検知する検知器と、前記流路内の液体を入れ替えるプライム機能部と、前記検知器で前記流路内に気体が検出された場合には、前記流路内の液体に気泡が混入した状態であると判断する制御部とを備え、前記制御部は、前記流路内の液体に気泡が混入した状態であると判断した場合には、前記プライム機能部を制御して前記流路内の液体を入れ替えるとともに、前記液体の入れ替え中に前記検知器が再度気体を検知した場合には、前記液体容器内に必要量の液体がない試薬不足状態であると判断し、前記自動分析装置による分析処理を中止するものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体への気泡の混入と試薬不足とをより効率的に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】気泡検知時の対処処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】試薬不足時の対処処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】気泡検知と試薬不足の判別処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態においては、試薬、洗剤、水、希釈液などの液体を入れる液体容器と、流路を介して液体を送液する送液部を備える自動分析装置の一例として電解質分析装置を示して説明するが、液体を入れる液体容器や送液部などを備える他の自動分析装置においても本発明を適用することが可能である。他の自動分析装置としては、例えば、生化学自動分析装置、免疫自動分析装置、臨床検査に用いる質量分析装置や血液の凝固時間を測定する凝固分析装置、または、これらを応用した自動分析システムなどが挙げられる。
【0014】
図1は、自動分析装置の一例として示す電解質分析装置の全体構成を概略的に示す図である。なお、電解質分析装置は単体で用いられるものに限られず、例えば、他の装置とともに自動分析装置の一機能として搭載されるものであっても良い。
【0015】
図1に示した電解質分析装置は、イオン選択電極(以下、ISE電極(Ion Selective Electrode))を用いたフロー型電解質分析装置である。
図1には、電解質分析装置の主要な機構として、サンプル分注部、ISE電極部、試薬部、機構部、廃液機構の5つの機構、及びこれらを含む電解質分析装置全体の動作を制御して測定結果を取得するとともに、測定結果より電解質濃度の演算、表示を行う制御装置を示している。
【0016】
サンプル分注部はサンプルプローブ14を含む。サンプルプローブ14によって、サンプル容器15内に保持された患者検体などのサンプルを分注し、分析装置内に引き込む。ここで、検体とは患者の生体から採取される分析対象の総称であり、例えば血液や尿などである。これらに対して所定の前処理を行った分析対象も検体と呼ばれる。
【0017】
ISE電極部は、希釈槽11、シッパノズル13、希釈液ノズル24、内部標準液ノズル25、ISE電極1、比較電極2、ピンチ弁23、電圧計27、及び、アンプ28を含む。
【0018】
サンプル分注部にて分注されたサンプルは、希釈槽11に吐出され、希釈液ノズル24から希釈槽11内へ吐出される希釈液で希釈・撹拌される。シッパノズル13はISE電極1に流路によって接続され、希釈槽11から吸引された希釈されたサンプル溶液は当該流路によってISE電極1へ送液される。一方、比較電極液ボトル5に収容された比較電極液は、ピンチ弁23が閉鎖した状態でシッパシリンジ10を動作させることで、比較電極2へ送液される。ISE電極流路に送液された希釈されたサンプル溶液と比較電極流路に送液された比較電極液が接液することで、ISE電極1と比較電極2とが電気的に導通する。
【0019】
ISE電極部は、ISE電極1と比較電極2との間の電位差によって、サンプルに含まれる特定の電解質の濃度を測定する。具体的には、ISE電極1にはサンプル溶液中の特定のイオン(例えば、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、クロールイオン(Cl-)など)の濃度に応じて起電力が変化する性質を持つイオン感応膜が貼り付けられており、ISE電極1はサンプル溶液中の各イオン濃度に応じた起電力を出力し、電圧計27及びアンプ28により、ISE電極1と比較電極2との間の起電力を取得する。
【0020】
制御装置29では、各イオンにつき、取得した起電力から検体中のイオン濃度を演算し、表示する。希釈槽11に残ったサンプル溶液は廃液機構により排出される。
【0021】
なお、ISE電極1と比較電極2との間の電位差は温度変化等の影響を受ける。このような温度変化等の影響による電位変動を補正するため、一つのサンプル測定後、次のサンプル測定までの間に、内部標準液ノズル25より希釈槽11内へ内部標準液を吐出し、上述のサンプルの場合と同様に(ただし、内部標準液に対する希釈は行わない)測定を行う。サンプル測定間に実施される内部標準液測定結果を利用して、変動量に応じた補正を行うことが好ましい。
【0022】
試薬部は、試薬容器から試薬を吸引する吸引ノズル6、脱ガス機構7、フィルタ16を含み、測定に必要な試薬を供給する。電解質測定を行う場合には、試薬として内部標準液、希釈液、比較電極液の3種の試薬が使用され、内部標準液を収容する内部標準液ボトル3、希釈液を収容する希釈液ボトル4、比較電極液を収容する比較電極液ボトル5が試薬ボトルとして試薬部にセットされる。
図1はこの状態を示している。また、装置の洗浄を行う場合には、試薬部に、洗浄液を格納する洗浄液ボトルが試薬ボトルとしてセットされる。
【0023】
内部標準液ボトル3および希釈液ボトル4はそれぞれフィルタ16を有する流路を通じて内部標準液ノズル25および希釈液ノズル24に接続され、各ノズルは希釈槽11内に先端を導入した形状で設置されている。また、比較電極液ボトル5はフィルタ16を介して流路を通じて比較電極2に接続されている。希釈液ボトル4と希釈槽11との間の流路、および比較電極液ボトル5と比較電極2との間の流路には、それぞれ脱ガス機構7が接続されており、希釈槽11内および比較電極2内へは脱ガスした試薬が供給される。シリンジにより流路を陰圧にして試薬ボトルから試薬を吸い上げるため、試薬中に溶け込んでいたガスが試薬内に気泡として表れる場合があり、試薬に気泡が入ったまま希釈槽11や比較電極2に供給されないように脱ガス機構7が設けられている。
【0024】
機構部は、内部標準液シリンジ8、希釈液シリンジ9、シッパシリンジ10、電磁弁17,18,19,20,21,22,30、及び、プレヒート12を含み、各機構内または各機構間の送液等の動作を担う。例えば、内部標準液および希釈液は、それぞれ内部標準液シリンジ8および希釈液シリンジ9と、流路に設けられた電磁弁の動作により希釈槽11へ送液される。プレヒート12は、ISE電極1へ至る内部標準液および希釈液の温度を一定範囲内に制御することで、ISE電極1への温度の影響を抑制している。
【0025】
廃液機構は、第一の廃液ノズル26、第2の廃液ノズル36、真空ビン34、廃液受け35、真空ポンプ33、電磁弁31,32を含み、希釈槽11に残ったサンプル溶液やISE電極部の流路に残った反応液を排出する。
【0026】
図1に示した電解質測定装置による電解質濃度測定動作を説明する。測定動作は、制御装置29により制御される。
【0027】
まず、サンプル分注部のサンプルプローブ14によりサンプル容器15から分注したサンプルを、ISE電極部の希釈槽11に吐出する。希釈槽11にサンプルが分注された後、希釈液ノズル24から、希釈液シリンジ9の動作によって希釈液ボトル4より希釈液を吐出し、サンプルを希釈する。前述の通り、流路内の希釈液の温度や圧力変化により気泡が発生することを防ぐため、希釈液流路の途中に取り付けられた脱ガス機構7で脱ガス処理が行われている。希釈されたサンプル溶液は、シッパシリンジ10や電磁弁22の動作によりISE電極1へ吸引される。
【0028】
一方、ピンチ弁23とシッパシリンジ10により、比較電極2内へ比較電極液ボトル5より比較電極液が送液される。比較電極液は例えば、所定濃度の塩化カリウム(KCl)水溶液であり、サンプル溶液と比較電極液とが接することで、ISE電極1と比較電極2とが電気的に導通する。なお、比較電極液の電解質濃度はサンプル送液している間の濃度変動の影響を抑制するため、高濃度であることが望ましいが、飽和濃度付近では結晶化し流路詰まりの原因となる可能性があるため、0.5mmol/Lから3.0mmol/Lの間であること望ましい。比較電極電位を基準としたISE電極電位を電圧計27とアンプ28を用いて計測する。
【0029】
また、サンプル測定の前後に試薬部にセットされた内部標準液ボトル3の内部標準液を内部標準液シリンジ8により希釈槽11へ吐出し、サンプル測定と同様に内部標準液の電解質濃度測定を行う。
【0030】
サンプル溶液について計測されたISE電極電位を用いて制御装置29にて演算を行い、サンプル中の電解質濃度を算出する。このとき、内部標準液について計測されたISE電極電位に基づき較正することで、より正確な電解質濃度の測定が行える。
【0031】
制御装置29は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及び、記憶装置、I/Oポートを備えたコンピュータとして構成するこができ、RAM、記憶装置、及び、I/Oポートは、内部バスを介して、CPUとデータ交換可能なように構成される。I/Oポートは、上述した各機構に接続され、それらの動作を制御する。動作制御は記憶装置に記憶されたプログラムをRAMに読み込み、CPUが実行することにより行われる。また、制御装置29には入出力装置が接続され、ユーザからの入力や測定結果の表示が可能とされる。
【0032】
次に本実施の形態の電解質分析装置の気泡検知器について説明する。
図1に示すように、気泡を検知する検知器としての検知器102は、内部標準液ボトル3から希釈槽11までを接続する流路上と、希釈液ボトル4からの流路に接続されている脱ガス機構7から希釈槽11までを接続する流路上と、比較電極液ボトル5からの流路に接続されている脱ガス機構7から比較電極2までの流路上とにそれぞれ備えられている。前述の通り、流路内の希釈液の温度や圧力変化により気泡が発生することを防ぐため、希釈液流路の途中に取り付けられた脱ガス機構7で脱ガス処理が行われているが、必ずしも全てのガスを取除くことができないことも想定される。そのため、検知器102は脱ガス機構7で取り除ききれなかった気泡を検知できるよう脱ガス機構7よりも下流側の位置に備え付けるほうがよい。なお、本実施の形態における検知器102は光学式であり、流路内が液体で満たされている状態と気体の状態の波長の違いを電気信号に変換して取得することで、流路中が液体であるか気体であるかを識別することができる。制御装置29は、検知器102での識別結果に基づいて、流路の液体に気泡が混入している状態か否かを判断する。具体的には、制御装置29は、シリンジ8,9,10の駆動量から得られる送液量と識別結果とから流路内の気体(気泡)の量を算出し、この気体の量が予め定めて記憶されている基準量を上回った場合に流路の液体に気体(気泡)が混入している状態であると判断する。
【0033】
前述のとおり、電解質の試薬はフロー方式で吸引吐出しており、流路中は液体で満たされている。内部標準液および希釈液の流路に気体(気泡)が混入すると、流路中の圧力を正しく伝達することができず分注不良を引き起こす。比較電極液の流路への気泡混入は起電力測定時のノイズとなりばらつきの要因となる。測定値信頼性を高めるためには、流路中の気泡を検出し、気泡のない状態で測定を行うことが必要である。気泡の混入の他に、流路が気体となる状況として試薬不足があげられる。どちらも対応が必要な事態であり、かつ測定再開までに実施する対処は異なっている。
【0034】
図2は、オペレーション中に気泡を検出した場合の測定再開までの処理内容を示すフローチャートである。
【0035】
電解質分析装置におけるオペレーション中において(ステップS1)、測定結果に影響を及ぼす気泡が混入したと判断したら(ステップS2)、装置は測定動作を中断させ、制御装置29に備え付けている図示しない表示部へアラームを表示させる(ステップS3)。停止後は、気泡が検知された流路内の気泡を排出するために、気泡検知を継続しつつ試薬プライムを実行する(ステップS4)。
【0036】
試薬プライムは、制御装置29の一機能部であるプライム機能部による制御により実現されるものであり、内部標準液であれば、内部標準液シリンジ8を用いて希釈槽11へ内部標準液を吐出させる。その後、第一の廃液ノズル26にて希釈槽11内の内部標準液を真空ポンプ33で吸引し廃液させる。これを複数回繰り返すことにより、流路内全てを新しい試薬に入れ替えることができる。同様に、希釈液であれば、希釈液シリンジ9を用いて希釈槽11へ内部標準液を吐出させる。その後、第一の廃液ノズル26にて希釈槽11内の希釈液を真空ポンプ33で吸引し廃液させる。これを複数回繰り返すことによって、流路内全てを新しい試薬に入れ替えることができる。また、比較電極液であれば、ピンチ弁23を閉にし、電磁弁22を開にした後、シッパシリンジ10を用いて比較電極液を廃液受け35へ流出させる。これを複数回繰り返すことにより、流路内全てを新しい試薬に入れ替えることができる。試薬プライム時も気泡の混入が無いことを検知器102で確認し(ステップS5)、気泡の検知がなければ、流路中の気泡は排出されたと判断し測定再開を可能にする(ステップS6)。気泡が排出されれば測定再開が可能であることから、試薬プライムの間、検体を搭載したラックをその場に待機させ、気泡排出後に測定再開するよう制御してもよい。
【0037】
図3は、オペレーション中に試薬不足が生じた場合の測定再開までの処理内容を示すフローチャートである。
【0038】
電解質分析装置におけるオペレーション中において(ステップS11)、試薬容器内の試薬が不足すると測定を継続することはできない。そのため試薬不足であると判断した場合は(ステップS12)、測定動作を停止し、制御装置29に備え付けている図示しない表示部へアラームを表示する(ステップS13)。該当の試薬容器を交換し(ステップS14)、流路を新規試薬で満たすために試薬プライムを実行し(ステップS15)、
図2のフローチャートで示した処理により気泡の排除を確認する。電解質分析装置は、測定に用いる試薬のロットや開封後の状態によって得られる起電力が変動するため、試薬交換時はキャリブレーションを実施し(ステップS16)、新たに検量線を得なければならない。
【0039】
ステップS16に示すように、キャリブレーションは、依頼を作成し、既知濃度の標準液を装置に設置し、測定を実施する。測定完了後、正しい検量線が得られたことを確認したら、検体の測定を再開可能にする。なお、標準液は濃縮や成分変性が生じると検量線の信頼性が損なわれるため、準備や装置設置タイミングの管理に注意を払う必要がある。このように、試薬不足は気泡混入時と比較して、測定再開までに手間と時間を要する。
【0040】
図4は、本発明における気泡混入と試薬不足を判断する処理を示すフローチャートである。
【0041】
電解質分析装置におけるオペレーション中において(ステップS21)、制御装置29は、検知器102からの検出結果に基づいて、流路内の液体に気体(気泡)が混入した状態であるかどうかを判断し(ステップS22)、気泡ありと判断した場合には、測定を中断してアラームを表示する(ステップS23)。続いて、気泡検知を継続しつつ試薬プライムを自動的に実施して気泡を排出させる(ステップS24)。続いて、試薬プライム後の流路内に気体(気泡)が混入しているかどうかを判断し(ステップS25)、気泡がないと判断したら測定を再開する(ステップ,S26)。また、ステップS25において、気泡ありと判断した場合には、表示部にアラームを表示し、測定を停止する(ステップS27)。試薬プライム中も気泡が混入する状況は、正常に吸引可能な量の試薬が試薬容器にない状態と推測されるため試薬不足と判断する。
【0042】
なお、流路に混入する気泡の大きさやパターンは一様ではなく、試薬の液性や残液量、流路の構造などにより変わる。たとえば界面活性剤が含まれた試薬の場合は、気泡混入時に泡ができやすいため流路が多数の泡で満たされることもある。また、試薬容器側の流路先端が液に達するか達しないかの残液量の時は断続的な気泡混入がみられるが、流路先端が液から完全に離れたら流路を気体が占める。したがって、試薬プライム中に気泡を再検知したら試薬プライムは途中で停止する仕組みとしてもよい。また、混入する気泡のサイズ、頻度に閾値を設け、それ以下であれば試薬プライムを継続する仕組みとしてもよい。また、試薬プライムの実施回数を設定する機能を持ち、設定回数までは気泡検知を停止し、超えたら気泡検知開始する仕組みとしてもよい。
【0043】
以上のように構成した本実施の形態においては、気泡の検知と試薬不足とを別々の判定機能を設けることなく識別することができる、すなわち、1つの検知機能で気泡混入と試薬不足を識別することができる。また、試薬不足を1回の気泡検知結果で判断するのではなく、試薬プライム動作中に気泡検知を含めて判断するので、試薬不足の誤検知のリスクを低減することができる。また、試薬プライムと試薬判断のチェックを同時に行うため、試薬プライム後に試薬不足を判定する時間を別途設ける必要はなく、液体への気泡の混入と試薬不足とをより効率的に識別することができる。
【0044】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1:イオン選択電極、2:比較電極、3:内部標準液ボトル、4:希釈液ボトル、5:比較電極液ボトル、6:吸引ノズル、7:脱ガス機構、8:内部標準液シリンジ、9:希釈液シリンジ、10:シッパシリンジ、11:希釈槽、12:プレヒート、13:シッパノズル、14:サンプルプローブ、15:サンプル容器、16:フィルタ、17,18,19,20,21,22,30,31,32,41,42:電磁弁、23:ピンチ弁、24:希釈液ノズル、25:内部標準液ノズル、26:第一の廃液ノズル、27:電圧計、28:アンプ、29:制御装置、33:真空ポンプ、34:真空ビン、35:廃液受け、101:試薬容器、102:気泡検知器