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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ビタミン濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20221219BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N33/483 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018117866
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019219317
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-01-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116573
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 幸司
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 渉
(72)【発明者】
【氏名】岩永 安史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信二
(72)【発明者】
【氏名】中島 明信
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-165833(JP,A)
【文献】特表2011-515667(JP,A)
【文献】特開2010-230447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
G01N 33/483
G01N 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥育牛の血中のビタミン濃度を測定するビタミン濃度測定方法であって、
脂溶性ビタミンを抽出する抽出溶媒と測定対象である肥育牛の血液とを含み、極性プロトン性溶媒を含まない混合液を撹拌する撹拌工程と、
前記撹拌工程で撹拌した前記混合液の前記抽出溶媒の層に光を照射し、前記抽出溶媒の層からの光の光強度を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された光強度からビタミン濃度を算出する算出工程とを含む、ビタミン濃度測定方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒は、非極性溶媒及び/又は極性非プロトン性溶媒である、請求項1記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項3】
前記抽出溶媒は、誘電率50以下の非極性溶媒である、請求項2記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項4】
前記非極性溶媒として、アルカン、シクロアルカン、芳香族化合物、クロロホルム、酢酸エチル、及び、塩化メチレンからなる化合物群のうち、少なくとも1つを含む、請求項2記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項5】
前記極性非プロトン性溶媒として、ニトリル、ケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、及び、エーテルからなる化合物群のうち、少なくとも1つを含む、請求項2から4のいずれかに記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項6】
前記抽出溶媒は、ノルマルヘキサン、トルエン、テトラヒドロフラン、及び、アセトニトリルからなる化合物群のうち、少なくとも1つを含む、請求項1記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項7】
前記抽出溶媒は、ノルマルヘキサンである、請求項6記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項8】
前記血液は、血球を含む、請求項1から7のいずれかに記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項9】
前記血液は、全血である、請求項8記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項10】
前記測定工程において、照射する光が300nmから350nmの波長の光であり、測定する光が400nmから600nmの波長の光である、請求項1から9のいずれかに記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項11】
前記測定工程において、測定する光が470nmから560nmの波長の光である、請求項10記載のビタミン濃度測定方法。
【請求項12】
前記脂溶性ビタミンは、ビタミンAであ、請求項1から11のいずれかに記載のビタミン濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミン濃度測定方法であって、特に血中のビタミン濃度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産分野では従来から、高品質の牛肉を生産するために、肥育牛のビタミンA量の制御が行われている。一般に、肥育牛の月齢が12ヶ月に達すると、飼料中のビタミンA量を減らす。その結果、当該肥育牛の脂肪交雑が向上する。
【0003】
一方で、肥育牛の血中ビタミンA濃度が低下しすぎると、肥育牛の健康状態の悪化(死亡事故、浮腫など)や生産性の低下(体重の増加不良、筋肉水腫の発生など)が起こりやすくなる。
【0004】
そこで、肥育牛のビタミンA濃度を、肥育牛の健康状態及び生産性を良好に保ちつつ、脂肪交雑が向上する適切な濃度範囲に制御するために、肥育牛の血中ビタミンA濃度の測定を行う必要がある。
【0005】
従来から、肥育牛の血中ビタミンA濃度の測定には、一般にHPLC法が用いられている。しかしながら、装置等が大型で測定が大がかりとなるため、獣医師等が肥育現場で採取した血液サンプルを持ち帰り、検査機関等において測定される。そのため、検体である血液の採取からビタミンA濃度の測定結果が得られるまでに時間がかかってしまい、適切なタイミングで肥育牛のビタミンA制御ができないことがある。
【0006】
そのため、現状の肥育牛のビタミンA制御は、ビタミンA濃度の測定結果が活かされることなく、生産者の経験(肥育牛の外貌や、活力の観察)により推測された肥育牛の状態に基づき行われていることが多い。よって、肥育牛の個体差、観察不足により、肥育牛の健康事故の発生の回避が難しくなっている。あるいは、血中ビタミンA量が下がっていないという不具合が発生する場合がある。
【0007】
上記事情により、肥育牛の血中ビタミンA量を定量的に測定可能であって、かつ、サンプル採取当日に測定結果が判明する家畜の血中ビタミンA濃度測定方法が求められている。
【0008】
そこで、例えば、エタノール等のたんぱく変性液とヘキサン等の脂溶成分抽出液と抗酸化剤とを混合した混合液に、家畜の全血を添加し攪拌混合液を得て、この攪拌混合液を遠心分離して得られる脂溶成分抽出液層の吸光度測定を行い、当該脂溶成分抽出液層に抽出されているビタミンA量を測定する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法では遠心分離工程が採用されているため、手間がかかり、肥育現場で前記工程を実施することは困難である。よって、この方法は普及しなかった。
【0009】
また、家畜の全血を、エタノール等の極性有機溶媒とヘキサン等の非極性溶媒を含有する有機溶媒に添加して混合液を得て、この混合液を保持する容器を作業者の手で振り相分離させ、相分離された混合液の浮遊物層(上部層)を蛍光光度法で測定し、当該浮遊物層に抽出されているビタミンA量を測定する方法も提案されている(特許文献2)。特許文献2に開示されている方法は、遠心分離する工程が不要であり、小型の蛍光光度計があれば、肥育現場の傍で測定可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-230447号公報
【文献】特表2010-503838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2の測定方法を検証したところ、図6に示す通り、実際のビタミンA濃度との相関性が悪く、蛍光強度からビタミンA濃度を算出することが困難であることが分かった。図6は、縦軸が特許文献2の測定方法により得られた蛍光強度であり、6頭の牛A-Fの測定結果の蛍光強度を棒グラフで示している。牛A-CはビタミンA濃度が低い状態であり、牛D-FはビタミンA濃度が高い状態であることが予め分かっているサンプルであるが、得られた蛍光強度はいずれも同程度であった。
【0012】
そこで、本発明においては、より高精度に、血中ビタミンA濃度を定量的にオンサイトで測定可能なビタミン濃度測定方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の観点は、血中のビタミン濃度を測定するビタミン濃度測定方法であって、脂溶性ビタミンを抽出する抽出溶媒と測定対象である血液とを含み、極性プロトン性溶媒を含まない混合液を撹拌する撹拌工程と、前記撹拌工程で撹拌した前記混合液の前記抽出溶媒の層に光を照射し、前記抽出溶媒の層からの光の光強度を測定する測定工程と、前記測定工程で測定された光強度からビタミン濃度を算出する算出工程とを含む、ビタミン濃度測定方法である。
【0014】
本発明の第2の観点は、第1の観点のビタミン濃度測定方法であって、前記抽出溶媒は、非極性溶媒及び/又は極性非プロトン性溶媒である、ビタミン濃度測定方法である。
【0015】
本発明の第3の観点は、第2の観点のビタミン濃度測定方法であって、前記抽出溶媒は、誘電率50以下の非極性溶媒である。
【0016】
本発明の第4の観点は、第2の観点のビタミン濃度測定方法であって、前記非極性溶媒として、アルカン、シクロアルカン、芳香族化合物、クロロホルム、酢酸エチル、及び、塩化メチレンからなる化合物群のうち、少なくとも1つを含む。
【0017】
本発明の第5の観点は、第2から第4のいずれかの観点のビタミン濃度測定方法であって、前記極性非プロトン性溶媒として、ニトリル、ケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、及び、エーテルからなる化合物群のうち、少なくとも1つを含む。
【0018】
本発明の第6の観点は、第1の観点のビタミン濃度測定方法であって、前記抽出溶媒は、ノルマルヘキサン、トルエン、テトラヒドロフラン、及び、アセトニトリルからなる化合物群のうち、少なくとも1つを含む。
【0019】
本発明の第7の観点は、第6の観点のビタミン濃度測定方法であって、前記抽出溶媒は、ノルマルヘキサンである。
【0020】
本発明の第8の観点は、第1から第7のいずれかの観点のビタミン濃度測定方法であって、前記血液は、血球を含む。
【0021】
本発明の第9の観点は、第8の観点のビタミン濃度測定方法であって、前記血液は、全血である。
【0022】
本発明の第10の観点は、第1から第9のいずれかの観点のビタミン濃度測定方法であって、前記測定工程において、照射する光が300nmから350nmの波長の光であり、測定する光が400nmから600nmの波長の光である、ビタミン濃度測定方法である。
【0023】
本発明の第11の観点は、第10の観点のビタミン濃度測定方法であって、前記測定工程において、測定する光が470nmから560nmの波長の光である、ビタミン濃度測定方法である。
【0024】
本発明の第12の観点は、第1から第11のいずれかの観点のビタミン濃度測定方法であって、前記ビタミンは、ビタミンAであり、前記血液は、肥育牛由来の血液である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の各観点によれば、血中のビタミン濃度を定量的に高精度にオンサイトで測定することが可能になる。延いては、ビタミンA濃度を測定する回数及び頭数を増やすことができ、肉質にばらつきがない牛の肥育が可能になる。
【0026】
なお、従来の測定方法では、血液等の生体試料中の低分子成分を分析する場合、極性プロトン性溶媒であるエタノールを用いて試料中の蛋白質を除く工程が必要であると考えられていた。特許文献1においても、0012段落に蛋白変性液の影響により蛍光が低下する旨の記載があるにも関わらず、蛋白変性液を加えて測定しており、蛋白変性工程は測定精度を上げるために必要だと考えられていたと思われる。
【0027】
しかしながら、図1に示す通り、極性プロトン性溶媒であるエタノールを用いて蛋白変性工程を行う従来の測定方法より、蛋白変性工程を行わない本発明のビタミンA濃度測定方法の方が、HPLCによる測定結果との相関性が良い。これは、エタノールを添加することに起因する余計な夾雑物(阻害物質)の混入が抑制されるため、結果的にS/N比が上がるためである。すなわち、ヘキサン+全血の場合は、得られる測定信号は小さくなるが、光測定法として高感度測定可能な蛍光法を採用することで、高精度な測定を実現可能となる。従来のようにエタノールを用いた場合、血球を破壊して夾雑物が混入していたが、エタノールのような極性プロトン性溶媒以外の溶媒を用いることで血球の破壊が抑制されたためと考えられる。これは、本発明の発明者らによって初めて明らかにされたことであり、従来技術と比較した有利な効果といえる。
【0028】
特に、本発明の第8及び第9の観点によれば、血液をフィルタリングする特別な装置が不要である。そのため、肥育現場等の装置の設置が期待できない場所においてビタミン濃度を速やかに測定することが可能となる。
【0029】
また、本発明の第10及び第11の観点によれば、ビタミン濃度の測定におけるS/N比が向上し、さらに高精度な測定が可能になる。
【0030】
ここで、肥育牛は、ビタミン濃度を測定する時期には飼料に草を混ぜず、ビタミンAの前駆物質であって測定ノイズになり得るβ-カロテンの血中濃度が下がっている。そのため、本発明の第12の観点によれば、特にS/N比が向上し、さらに高精度なビタミンAの濃度測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】蛍光法による測定結果とHPLC法による測定結果の相関を示す図である。
図2】本発明のビタミンA濃度測定方法による牛A-Fの蛍光強度を示す図である。
図3】本発明のビタミンA濃度測定方法による血中ビタミンA濃度との相関の強さを示す図である。
図4】470~560nmの波長域の蛍光強度とHPLCの測定結果の相関を示す図である。
図5】(a)ヘキサン、(b)トルエン、(c)THF、(d)アセトニトリルを用いた場合の蛍光スペクトルを示す図である。
図6】従来のビタミンA濃度測定方法による牛A-Fの蛍光強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明のビタミンA濃度測定方法の実施例について述べる。
【実施例1】
【0033】
本発明のビタミンA濃度測定方法は、下記の手順で行う。
(1)家畜(肥育牛)から測定対象となる血液を採取する。
(2)採取した全血をヘキサン(本願請求項の「抽出溶媒」の一例)に添加し混合液を得る。
(3)混合液を撹拌する(本願請求項の「撹拌工程」の一例)。
(4)撹拌後に層分離した上側層を蛍光法で測定する(本願請求項の「測定工程」の一例)。
(5)測定結果から、ビタミンA濃度を算出する(本願請求項の「算出工程」の一例)。
【0034】
手順(4)の蛍光測定では、ビタミンAが抽出されている上記混合液の分離層の上側層に対して、励起波長330nmで蛍光測定を行った。
【0035】
また、手順(3)の攪拌を終えて静置すると、混合液はすぐに相分離した。これは、エタノールを添加していないためである。具体的には、1秒程度で分離した。よって、手順(3)の攪拌の後、すぐに光学測定を行うことが可能である。
【0036】
図1は、ビタミンA濃度の蛍光法による測定結果とHPLC法による測定結果の相関を示す図である。縦軸は蛍光強度、横軸はHPLC法の測定結果であり、四角のマーカーはエタノールを用いて蛋白変性工程を行う従来の測定方法(以下、「エタノール+ヘキサン+全血」とも記載する。)による測定結果、円のマーカーは蛋白質変性工程を行わない本発明のビタミンA濃度測定方法(以下、「ヘキサン+全血」とも記載する。)による測定結果である。
【0037】
図示される通り、従来のエタノール+ヘキサン+全血より、本発明のヘキサン+全血の方が、HPLC法による測定結果との相関性が良い。なお、HPLC法は、一般にビタミンA濃度の測定に用いられている方法であり、装置等が大型で測定が大がかりであるが、精度の良い測定方法である。そのため、肥育現場での測定には適さないが、今回は従来方法と本発明方法の精度を比較し確認するために用いた。また、HPLC法は質量差を利用したクロマトグラフィーであるため、光測定法とは異なり、アルコールを添加してもビタミンA濃度を良好に測定できる。
【0038】
ヘキサン+全血の場合は、エタノール+ヘキサン+全血の場合と比較して、抽出されるビタミンAの絶対抽出量が減少し、検出信号(蛍光強度)が小さくなる。しかし、エタノールを添加することに起因する余計な夾雑物(阻害物質)の混入が抑制されるため、結果的にS/N比が上がる。すなわち、ヘキサン+全血の場合は、得られる測定信号は小さくなるが、光測定法として高感度測定可能な蛍光法を採用することで、高精度な測定を実現可能となる。これは、本発明の発明者らによって初めて明らかにされたことであり、従来技術と比較した有利な効果といえる。
【0039】
図2は、縦軸が本発明のビタミンA濃度測定方法で得られた蛍光強度であり、6頭の牛A-Fの測定結果の蛍光強度を棒グラフで示している。牛A-CはビタミンA濃度が低い状態であり、牛D-FはビタミンA濃度が高い状態であることが予め分かっているサンプルである。図示される通り、牛D-Fは、牛A-Cに比べて高い蛍光強度を示した。つまり、ヘキサン+全血の場合、従来のエタノール+ヘキサン+全血の場合に比べて、実際のビタミンA濃度と得られる蛍光強度が良い相関を示すため、蛍光強度からビタミンA濃度を精度よく算出できる可能性が高いことが分かった。
【0040】
エタノールは水素結合を行う。つまり、特定の物質と結合して、当該特定物質が液中に溶けやすくする。すなわち、エタノールは液中に物質が溶けている状態を制御する。よって、エタノールを添加することにより、ビタミンA以外の阻害物質(ベータカロテンなど)も溶媒(エタノール+ヘキサン+全血)内に溶けてしまっていると考えられる。そのため、ビタミンA濃度の高低に対する蛍光強度の相関が殆ど無いという結果が得られたものと思われる。
【0041】
また、上記した肥育牛の場合、採取後の全血を使用することが可能である。分離することなく全血を用いることができるため、血液採取後、速やかに肥育現場で血中ビタミンA濃度を測定することが可能である。全血としては、肥育牛から採取して何も処理をしていない状態のものを使用したが、乾燥させたもの又は凍結させたものを用いても良い。また、全血ではなく、遠心分離等により血球成分を取り除いた血漿や血清についても測定可能である。
【0042】
図3は、縦軸が実施例1の手順(4)で測定した血中ビタミンA濃度との相関の強さ、横軸が波長を示す図である。励起波長は330nmである。図3に示される通り、470~560nmの波長域において蛍光が最大になることが分かった。
【0043】
図4は、470~560nmの波長域の蛍光強度とHPLCの測定結果の相関を示す図である。ピークの全波長域の蛍光強度を用いた場合と比較して、相関係数が高くなることが分かった。そのため、手順(4)において、蛍光波長として470~560nmの波長域を用いると、さらに高精度な測定が可能になる。
【実施例2】
【0044】
続いて、実施例1の手順(2)で用いるヘキサンの代わりに、有機溶媒(非プロトン性極性溶媒)を用いて測定を行った。図5に、(a)ノルマルヘキサン、(b)トルエン、(c)テトラヒドロフラン(THF)、(d)アセトニトリルを用いた場合の蛍光スペクトルを示す。それぞれ、4頭の牛A-Dの全血サンプルの測定結果の蛍光スペクトルと、有機溶媒自体の蛍光スペクトルを示している。なお、極性の高低は、ノルマルヘキサン、トルエン、THF、アセトニトリルの順に昇順となる。
【0045】
図5に示される通り、ビタミンA濃度が異なる牛A-Dの各サンプルの蛍光スペクトルは、それぞれピークの高さが異なり、特に(a)ヘキサンにおいてピークの高さが大きく異なる。蛍光強度とビタミンA濃度に良い相関がみられるためには、抽出溶媒として(a)ヘキサンが最も好ましいが、他の有機溶媒でも蛍光強度とビタミンA濃度とが相関を示す可能性があることが分かった。抽出溶媒としていずれの有機溶媒を使用した場合でも、励起波長が300~350nmの場合、測定蛍光波長域は、いずれもほぼ400~600nmであった。
【0046】
そのため、抽出溶媒として、誘電率50以下の非極性溶媒及び/又は極性非プロトン性溶媒を使用しても良いと考えられる。
【0047】
非極性溶媒としては、例えば、アルカン、シクロアルカン、芳香族化合物、クロロホルム、酢酸エチル及び/又は塩化メチレンを使用できる。アルカンであれば、特にC5~C12アルカン、なかでもノルマルヘキサンを使用することが好ましい。シクロアルカンであれば、特にシクロヘキサンを使用することが好ましい。芳香族化合物であれば、特に、トルエン及び/又はベンゼンを使用することが好ましい。
【0048】
極性非プロトン性溶媒としては、例えば、ニトリル、ケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,Nージメチルホルムアミド及び/又はエーテルを使用できる。ニトリルであれば、特にアセトニトリルを使用することが好ましい。ケトンであれば、特にアセトンを使用することが好ましい。エーテルであれば、特にジエチルエーテルを使用することが好ましい。
【0049】
なお、上記実施例では、肥育牛における血中ビタミンA濃度の測定を例として示したが、ビタミンA以外の血中ビタミンも、ヘキサンもしくはヘキサン以外の低極性非プロトン性溶媒と血液とを混合することにより抽出し、蛍光測定により濃度測定することが可能である。すなわち、血液と抽出溶媒(誘電率50以下の非極性溶媒及び/又は極性非プロトン性溶媒)とを混合し攪拌することにより、上記(1)~(5)の測定手順に準じて、血中のビタミン濃度を測定可能となる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6