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特許7195530フィルム、金属張積層板、フレキシブル基板、フィルムの製造方法、金属張積層板の製造方法、及びフレキシブル基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】フィルム、金属張積層板、フレキシブル基板、フィルムの製造方法、金属張積層板の製造方法、及びフレキシブル基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20221219BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221219BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20221219BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221219BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B27/00 M
B32B15/08 J
H05K1/03 670Z
H05K1/03 610N
H05K3/00 R
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019003369
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020110972
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2020-05-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】城野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】朴 諄龍
(72)【発明者】
【氏名】朴 永錫
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/004496(WO,A1)
【文献】特開2011-149067(JP,A)
【文献】特開2017-200759(JP,A)
【文献】特開2018-145303(JP,A)
【文献】特開2016-193543(JP,A)
【文献】特開2017-144730(JP,A)
【文献】特開2008-087254(JP,A)
【文献】特開2017-179149(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013627(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/133594(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/107043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
H05K1/03
3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロメリット酸二無水物及びm-トリジンから得られる基体用ポリイミドにより構成される基体層と、
前記基体層の一面に形成された、第1熱可塑性ポリイミドにより構成される第1接着層と、
前記基体層の他面に形成された、第2熱可塑性ポリイミドにより構成される第2接着層と、
を備え、
前記基体層と前記第1接着層との間の第1界面の最大高さ粗さ及び前記基体層と前記第2接着層との間の第2界面の最大高さ粗さが1.0μm以下であり、
前記第1熱可塑性ポリイミド及び前記第2熱可塑性ポリイミドは、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分とから得られるポリイミドである、フィルム。
【請求項2】
前記第1熱可塑性ポリイミドと前記第2熱可塑性ポリイミドとが同一のポリイミドである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記第1熱可塑性ポリイミド及び前記第2熱可塑性ポリイミドは、ピロメリット酸無水物及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンから得られるポリイミドである、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記第1接着層の厚さと前記第2接着層の厚さとが略同じである、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルムと、
前記フィルムの少なくとも一面に形成された金属箔層と、
を備える金属張積層板。
【請求項6】
前記フィルムから前記金属箔層を引きはがすための引きはがし強さは、前記フィルムの両面において10kg/cm以上である、請求項5に記載の金属張積層板。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルムと、
前記フィルムの少なくとも一面に形成された導電性パターンと、
を備えるフレキシブル基板。
【請求項8】
ピロメリット酸二無水物及びm-トリジンから得られる第1ポリアミック酸を含む第1前駆体を調製するステップと、
第2ポリアミック酸を含む第2前駆体及び第3ポリアミック酸を含む第3前駆体を調製するステップと、
前記第1前駆体、前記第2前駆体、及び前記第3前駆体を同時に押出成形することにより、前記第2前駆体と前記第3前駆体との間に前記第1前駆体が挟まれた積層体を形成するステップと、
前記積層体を加熱することにより三層フィルムを得るステップと、
を含み、
前記第2ポリアミック酸及び前記第3ポリアミック酸は、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分とから得られるポリアミック酸である、熱イミド化法によるフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記三層フィルムを得る前記ステップは、前記積層体を加熱することにより前記第1ポリアミック酸、前記第2ポリアミック酸、及び前記第3ポリアミック酸の熱イミド化を行い、前記第1ポリアミック酸に由来する基体用ポリイミド、前記第2ポリアミック酸に由来する第1熱可塑性ポリイミド、及び前記第3ポリアミック酸に由来する第2熱可塑性ポリイミドを生成させる工程を含む、請求項8に記載のフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記第2ポリアミック酸と前記第3ポリアミック酸とが同一のポリアミック酸である、請求項8又は9に記載のフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記第2ポリアミック酸及び前記第3ポリアミック酸は、ピロメリット酸無水物及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンから得られるポリアミック酸である、請求項8~10のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項12】
ピロメリット酸二無水物及びm-トリジンから得られる第1ポリアミック酸を含む第1前駆体を調製するステップと、
第2ポリアミック酸を含む第2前駆体及び第3ポリアミック酸を含む第3前駆体を調製するステップと、
前記第1前駆体、前記第2前駆体、及び前記第3前駆体を同時に押出成形することにより、前記第2前駆体と前記第3前駆体との間に前記第1前駆体が挟まれた積層体を形成するステップと、
前記積層体を加熱することにより三層フィルムを得るステップと、
金属箔層を前記三層フィルムにラミネートするステップと、
を含み、
前記第2ポリアミック酸及び前記第3ポリアミック酸は、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分とから得られるポリアミック酸である、熱イミド化法による金属張積層板の製造方法。
【請求項13】
ピロメリット酸二無水物及びm-トリジンから得られる第1ポリアミック酸を含む第1前駆体を調製するステップと、
第2ポリアミック酸を含む第2前駆体及び第3ポリアミック酸を含む第3前駆体を調製するステップと、
前記第1前駆体、前記第2前駆体、及び前記第3前駆体を同時に押出成形することにより、前記第2前駆体と前記第3前駆体との間に前記第1前駆体が挟まれた積層体を形成するステップと、
前記積層体を加熱することにより三層フィルムを得るステップと、
金属箔層を前記三層フィルムにラミネートするステップと、
前記金属箔層のエッチング処理により、前記三層フィルムの少なくとも一面に導電性パターンを形成するステップと、
を含み、
前記第2ポリアミック酸及び前記第3ポリアミック酸は、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分とから得られるポリアミック酸である、熱イミド化法によるフレキシブル基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、金属張積層板、フレキシブル基板、フィルムの製造方法、金属張積層板の製造方法、及びフレキシブル基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化及び軽量化に伴い、可撓性を有する軽量で薄いフレキシブルプリント基板(FPC:Flexible Printed Circuits)の需要が高まっている。FPCは、立体的な配線や可動部配線などを実現することができ、電子機器内の限られたスペースで高密度の実装が可能である。
【0003】
FPCの製造には、可撓性を有する絶縁体の基体と銅箔層などの金属箔層とが接着層などを介して予め張り合わされたフレキシブル銅張積層板(FCCL:Flexible Copper Clad Laminate)などが用いられることが多い。金属箔層をエッチングすることにより、積層板上で任意の配線パターンが形成される。
【0004】
このようなFCCLでは、基体の両側の層構造の対称性が低い場合、自然に反りが生じてしまうおそれがある。また、FCCLのエッチング処理はエッチング剤などの洗浄工程を含み得るが、FCCLの脱水性が低い場合、洗浄水がFCCLの構造中に長時間残存し得る。このような場合、洗浄水がFCCLから抜け切るまでFCCLの寸法が安定しないので、FCCLの大量生産の効率性が低下してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許出願公開第2006-051800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、構造対称性が高く寸法安定性に優れたポリイミドフィルム及び金属張積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ピロメリット酸二無水物及びm-トリジンから得られる基体用ポリイミドにより構成される基体層と、前記基体層の一面に形成された、第1熱可塑性ポリイミドにより構成される第1接着層と、前記基体層の他面に形成された、第2熱可塑性ポリイミドにより構成される第2接着層と、を備え、前記基体層と前記第1接着層との間の第1界面の最大高さ粗さ及び前記基体層と前記第2接着層との間の第2界面の最大高さ粗さが1.0μm以下である、フィルムである。
【0008】
上記態様のフィルムにおいて、前記第1熱可塑性ポリイミドと前記第2熱可塑性ポリイミドとが同一のポリイミドであってもよい。
【0009】
上記態様のフィルムにおいて、前記第1熱可塑性ポリイミド及び前記第2熱可塑性ポリイミドは、ピロメリット酸無水物及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンから得られるポリイミドであってもよい。
【0010】
上記態様のフィルムにおいて、前記第1接着層の厚さと前記第2接着層の厚さとが略同じであってもよい。
【0011】
本発明の別の態様は、上記態様のフィルムと、前記フィルムの少なくとも一面に形成された金属箔層と、を備える金属張積層板である。
【0012】
上記態様の金属張積層板において、前記フィルムの両面に金属箔層が形成されていてよく、前記フィルムから前記金属箔層を引きはがすための引きはがし強さは、前記フィルムの両面において10kg/cm以上であってもよい。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、上記態様のフィルムと、前記フィルムの少なくとも一面に形成された導電性パターンと、を備えるフレキシブル基板である。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、ピロメリット酸二無水物及びm-トリジンから得られる第1ポリアミック酸を含む第1前駆体を調製するステップと、第2ポリアミック酸を含む第2前駆体及び第3ポリアミック酸を含む第3前駆体を調製するステップと、前記第1前駆体、前記第2前駆体、及び前記第3前駆体を同時に押出成形することにより、前記第2前駆体と前記第3前駆体との間に前記第1前駆体が挟まれた積層体を形成するステップと、前記積層体を加熱することにより三層フィルムを得るステップと、を含む、熱イミド化法によるフィルムの製造方法である。
【0015】
上記態様のフィルムの製造方法において、前記三層フィルムを得る前記ステップは、前記積層体を加熱することにより前記第1ポリアミック酸、前記第2ポリアミック酸、及び前記第3ポリアミック酸の熱イミド化を行い、前記第1ポリアミック酸に由来する基体用ポリイミド、前記第2ポリアミック酸に由来する第1熱可塑性ポリイミド、及び前記第3ポリアミック酸に由来する第2熱可塑性ポリイミドを生成させる工程を含んでもよい。
【0016】
上記態様のフィルムの製造方法において、前記第2ポリアミック酸と前記第3ポリアミック酸とが同一のポリアミック酸であってもよい。
【0017】
上記態様のフィルムの製造方法において、前記第2ポリアミック酸及び前記第3ポリアミック酸は、ピロメリット酸無水物及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンから得られるポリアミック酸であってもよい。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、ピロメリット酸二無水物及びm-トリジンから得られる第1ポリアミック酸を含む第1前駆体を調製するステップと、第2ポリアミック酸を含む第2前駆体及び第3ポリアミック酸を含む第3前駆体を調製するステップと、前記第1前駆体、前記第2前駆体、及び前記第3前駆体を同時に押出成形することにより、前記第2前駆体と前記第3前駆体との間に前記第1前駆体が挟まれた積層体を形成するステップと、前記積層体を加熱することにより三層フィルムを得るステップと、金属箔層を前記三層フィルムにラミネートするステップと、を含む、熱イミド化法による金属張積層板の製造方法である。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、ピロメリット酸二無水物及びm-トリジンから得られる第1ポリアミック酸を含む第1前駆体を調製するステップと、第2ポリアミック酸を含む第2前駆体及び第3ポリアミック酸を含む第3前駆体を調製するステップと、前記第1前駆体、前記第2前駆体、及び前記第3前駆体を同時に押出成形することにより、前記第2前駆体と前記第3前駆体との間に前記第1前駆体が挟まれた積層体を形成するステップと、前記積層体を加熱することにより三層フィルムを得るステップと、金属箔層を前記三層フィルムにラミネートするステップと、前記金属箔層のエッチング処理により、前記三層フィルムの少なくとも一面に導電性パターンを形成するステップと、を含む、熱イミド化法によるフレキシブル基板の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る金属張積層板を示す概略断面図である
図2】実施形態に係る金属張積層板の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3】実施例に係る金属張積層板の一例を示す概略断面図である
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る吐出装置、成形装置、及び成形体の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。このような構成についての重複する説明は適宜省略する。
【0022】
図1を参照して、実施形態に係る金属張積層板について説明する。図1は、実施形態に係る金属張積層板を示す概略断面図である。
【0023】
[金属張積層板]
図1に示すように、金属張積層板1は、少なくとも第1金属箔層10、第1接着層12、基体層14、第2接着層16、及び第2金属箔層18がこの順で積層された構造を有する。すなわち、金属張積層板1は、その両面に金属箔層10、18を備え、金属箔層10、18の間には第1接着層12、基体層14、及び第2接着層16が挟まれて位置する。好ましくは、金属張積層板1は、積層方向に直交する平面に関して、基体層14を中心に対称的な構造を有する。ただし、第1金属箔層10及び第2金属箔層18の一方は省略されてもよい。また、金属張積層板1は、上記以外の層をさらに有してもよい。
【0024】
(金属箔層)
金属箔層10、18を構成する金属材料は、特に限定されない。例えば、当該金属材料は、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、鉄、ニッケル、銀など任意の金属材料、又はこれらのうち二つ以上の合金である。好ましくは、金属箔層10、18は、導電性や流通性、コストなどの点から、銅箔で構成される。金属箔層10、18の材料は互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
【0025】
(接着層)
接着層12、16は、金属箔層10、18と基体層14との間に介在してこれらを互いに接着する。第1接着層12は、第1金属箔層10と基体層14との間に位置し、第2接着層16は、第2金属箔層18と基体層14との間に位置する。
【0026】
接着層12、16は、熱可塑性ポリイミドから構成される。ここで、本明細書において「ポリイミド」とは、分子構造中にイミド結合を有するポリマーを意味する。なお、接着層12、16は、熱可塑性ポリイミドの他、可塑剤やフィラーなどを含んでもよい。熱可塑性ポリイミドは、高温で軟化するので、金属箔層10、18と基体層14とを互いに接着する接着材料として機能し得る。
【0027】
接着層12、16を構成するポリイミドとしては、例えば、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物(PMDA)を用い、ジアミン成分として2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(4,4-BAPP)を用いたものが好ましい。接着層12、16のポリイミドのテトラカルボン酸成分としては、上記以外に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、これらの誘導体(例えば、無水物でないテトラカルボン酸やそのエステル化物、ハロゲン化物など)などが挙げられる。2種類以上のテトラカルボン酸化合物が併用されてもよい。また、接着層12、16のポリイミドのジアミン成分としては、上記以外に、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、これらの誘導体(例えば、構造中のベンゼン環が低級アルキル置換基や低級アルコキシ置換基を有するものなど)などが挙げられる。2種類以上のジアミン化合物が併用されてもよい。第1接着層12を構成するポリイミドと第2接着層16を構成するポリイミドとは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
好ましくは、第1接着層12の厚さは、第2接着層16の厚さと略同じである。ここで、「略同じ」とは、第1接着層12と第2接着層16との厚さの差が、第1接着層12の厚さの10%以下であり、且つ第2接着層16の厚さの10%以下であることを意味する。
【0029】
(基体層)
基体層14は、金属張積層板1の基体として機能する。ここで、本明細書において「基体」とは、金属張積層板の構成要素であって、金属張積層板自体を支持する機能を有する部分を意味する。
【0030】
基体層14は、非熱可塑性ポリイミドから構成される。ここで、本明細書において「非熱可塑性」とは、温度を上げていっても、分解する温度まで軟化しない性質を意味し、軟化温度が分解温度よりも高いポリマーや熱硬化性のポリマーを含む。なお、基体層14は、非熱可塑性ポリイミドの他、可塑剤やフィラーなどを含んでもよい。
【0031】
基体層14を構成するポリイミドとしては、テトラカルボン酸成分としてPMDA又はその誘導体(例えば、ピロメリット酸やそのエステル化物、ハロゲン化物など)を用い、ジアミン成分としてm-トリジン(2,2’-ジメチルベンジジン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル)を用いたものが好ましい。
【0032】
[金属張積層板の製造方法]
次に、図2を参照して、金属張積層板の製造方法について説明する。
まず、基体層及び接着層を構成する各ポリイミドの原料を溶媒中でそれぞれ反応させることにより、基体層用の第1前駆体及び接着層用の第2前駆体が調製される(S100)。反応温度は、例えば20℃~60℃である。第1前駆体及び第2前駆体は、ポリイミドの原料であるテトラカルボン酸化合物及びジアミン化合物が反応して生成したポリアミック酸が溶媒に溶解した状態で得られる(ワニスともいう。)。
【0033】
次いで、得られた第1前駆体及び第2前駆体が、三層押出成形用ダイスにより、第2前駆体、第1前駆体、第2前駆体の順番で積層された三層積層体(三層シート)の形態で押出成形される(S102)。
【0034】
三層押出成形用ダイスは、押出成形した三層積層体を、回動する環状の平滑なシームレスベルト上に連続的に供給する(S104)。
【0035】
シームレスベルト上に配置された三層積層体は、ベルトによって運ばれながらヒーターや熱風送風機で適度に乾燥処理を施される(S106)。乾燥温度は、例えば100℃~200℃、好ましくは130℃~200℃である。
【0036】
次いで、三層積層体は、ベルトから剥離されて(S108)、別の乾燥機(例えばテンター式乾燥機)により加熱処理を施される(S110)。乾燥温度は、例えば200℃~500℃、好ましくは200℃~450℃である。これにより、溶媒が完全に除去されるとともに、第1前駆体及び第2前駆体のポリアミック酸の熱によるポリイミド化が行われ、三層ポリイミドフィルムが得られる(S112)。三層ポリイミドフィルムは、第2前駆体から得られた第1接着層、第1前駆体から得られた基体層、第2前駆体から得られた第2接着層の順番で積層された層構造を有する。
【0037】
次いで、三層ポリイミドフィルムは、金属箔とともに2本の回転するニップローラーの間を通されて、金属箔とラミネートされる(S114)。これにより、三層ポリイミドフィルムの片面又は両面に金属箔が形成され、金属張積層板が得られる(S116)。
【0038】
得られた金属張積層板に対して、所望の配線パターン形状に従ってマスク材料でマスキングが行われ(S118)、エッチング剤により非マスク部分のエッチング処理が行われた(S120)後、マスク材料及びエッチング剤が洗浄される(S122)ことにより、所望の配線パターンが形成されたフレキシブル基板が得られる(S124)。
【0039】
なお、本明細書では、上記のように触媒を用いず加熱によりポリイミド化を行う方法を「熱イミド化法」と称し、触媒を用いてポリイミド化を行う方法を「化学イミド化」と称する。本実施形態では、触媒が不要な熱イミド化法によりポリイミドフィルムの製造が行われるので、製造工程の簡便化及び製造コストの低減を図ることができる。また、以下の合成例において生成するポリアミック酸は、いずれも一般に熱イミド化法によってポリイミド化されるものであり、触媒反応による化学イミド化法の適用は不可能であるか、又は少なくとも困難である。
【実施例
【0040】
[合成例]
(合成例1-1:基体層用前駆体A1の合成)
m-トリジンを投入した反応容器に、適量のジメチルアセドアミド(DMAc)を撹拌しながら徐々に添加し、m-トリジンをDMAcに完全に溶解させた。次いで、PMDAとm-トリジンとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらPMDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液A1を得た。ブルックフィールドB型粘度計(コーンプレート型 DV3T)を用いて25℃で測定したポリアミック酸溶液A1の粘度は、2000ポアズ(200Pa・s)であった(以下、粘度測定の条件は同様である)。
【0041】
(合成例1-2:基体層用前駆体A2の合成)
p-フェニレンジアミン(PDA)を投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、PDAをDMAcに完全に溶解させた。次いで、s-BPDAとPDAとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらs-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液A2を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液A2の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0042】
(合成例2-1:接着層用前駆体B1の合成)
4,4-BAPPを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、4,4-BAPPをDMAcに完全に溶解させた。次いで、PMDAと4,4-BAPPとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらPMDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B1を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B1の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0043】
(合成例2-2:接着層用前駆体B2の合成)
4,4-BAPPを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、4,4-BAPPをDMAcに完全に溶解させた。次いで、PMDAとs-BPDAと4,4-BAPPとのモル比が0.9:0.1:1となるように、撹拌しながらPMDA及びs-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B2を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B2の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0044】
(合成例2-3:接着層用前駆体B3の合成)
4,4-BAPPを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、4,4-BAPPをDMAcに完全に溶解させた。次いで、PMDAとs-BPDAと4,4-BAPPとのモル比が0.5:0.5:1となるように、撹拌しながらPMDA及びs-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B3を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B3の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0045】
(合成例2-4:接着層用前駆体B4の合成)
4,4-BAPPを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、4,4-BAPPをDMAcに完全に溶解させた。次いで、s-BPDAと4,4-BAPPとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらs-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B4を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B4の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0046】
(合成例2-5:接着層用前駆体B5の合成)
TPE-Rを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、TPE-RをDMAcに完全に溶解させた。次いで、s-BPDAとTPE-Rとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらs-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B5を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B5の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0047】
(合成例2-6:接着層用前駆体B6の合成)
TPE-Rを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、TPE-RをDMAcに完全に溶解させた。次いで、s-BPDAとa-BPDAとTPE-Rとのモル比が0.8:0.2:1となるように、撹拌しながらs-BPDA及びa-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B6を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B6の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0048】
(合成例2-7:接着層用前駆体B7の合成)
TPE-Rを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、TPE-RをDMAcに完全に溶解させた。次いで、s-BPDAとa-BPDAとTPE-Rとのモル比が0.5:0.5:1となるように、撹拌しながらs-BPDA及びa-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B7を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B7の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0049】
(合成例2-8:接着層用前駆体B8の合成)
TPE-Rを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、TPE-RをDMAcに完全に溶解させた。次いで、a-BPDAとTPE-Rとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらa-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B8を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B8の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0050】
(合成例2-9:接着層用前駆体B9の合成)
4,4-BAPPを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、4,4-BAPPをDMAcに完全に溶解させた。次いで、DSDAと4,4-BAPPとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらDSDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B9を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B9の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0051】
(合成例2-10:接着層用前駆体B10の合成)
4,4-BAPPを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、4,4-BAPPをDMAcに完全に溶解させた。次いで、ODPAと4,4-BAPPとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらODPAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B10を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B10の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0052】
(合成例2-11:接着層用前駆体B11の合成)
4,4-BAPPを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、4,4-BAPPをDMAcに完全に溶解させた。次いで、BTDAと4,4-BAPPとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらBTDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B11を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B11の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0053】
(合成例2-12:接着層用前駆体B12の合成)
TPE-Rを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、TPE-RをDMAcに完全に溶解させた。次いで、DSDAとTPE-Rとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらDSDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B12を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B12の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0054】
(合成例2-13:接着層用前駆体B13の合成)
TPE-Rを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、TPE-RをDMAcに完全に溶解させた。次いで、ODPAとTPE-Rとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらODPAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B13を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B13の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0055】
(合成例2-14:接着層用前駆体B14の合成)
TPE-Rを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、TPE-RをDMAcに完全に溶解させた。次いで、BTDAとTPE-Rとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらBTDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B14を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B14の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0056】
(合成例2-15:接着層用前駆体B15の合成)
APBを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、APBをDMAcに完全に溶解させた。次いで、PMDAとAPBとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらPMDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B15を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B15の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0057】
(合成例2-16:接着層用前駆体B16の合成)
APBを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、APBをDMAcに完全に溶解させた。次いで、s-BPDAとAPBとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらs-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B16を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B16の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0058】
(合成例2-17:接着層用前駆体B17の合成)
APBを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、APBをDMAcに完全に溶解させた。次いで、a-BPDAとAPBとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらa-BPDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B17を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B17の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0059】
(合成例2-18:接着層用前駆体B18の合成)
APBを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、APBをDMAcに完全に溶解させた。次いで、DSDAとAPBとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらDSDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B18を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B18の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0060】
(合成例2-19:接着層用前駆体B19の合成)
APBを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、APBをDMAcに完全に溶解させた。次いで、ODPAとAPBとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらODPAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B19を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液A1の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0061】
(合成例2-20:接着層用前駆体B20の合成)
APBを投入した反応容器に、適量のDMAcを撹拌しながら徐々に添加し、APBをDMAcに完全に溶解させた。次いで、BTDAとAPBとのモル比が1:1となるように、撹拌しながらBTDAを徐々に添加し、40℃にて反応させて、高粘度のポリアミック酸溶液B20を得た。上記条件で測定したポリアミック酸溶液B20の粘度は2000ポアズ(200Pa・s)であった。
【0062】
(合成例3:基体層用前駆体a1の合成)
粘度が500ポアズ(50Pa・s)となるように固形分の濃度を変更した点を除き、合成例1-1と同様にポリアミック酸溶液の調製を行い、ポリアミック酸a1を得た。ポリアミック酸a1の化学組成は、ポリアミック酸A1と同一である。
【0063】
(合成例4-1~4-20:接着層用前駆体b1~b20の合成)
粘度が500ポアズ(50Pa・s)となるように固形分の濃度を変更した点を除き、合成例2-1及び2-20と同様にポリアミック酸溶液の調製を行い、それぞれポリアミック酸b1~b20を得た。ポリアミック酸b1~b20の化学組成は、それぞれポリアミック酸B1~B20と同一である。
【0064】
以上の合成例により得られたポリアミック酸溶液A1、A2、B1~B20、a1、b1~b20について、原料となるテトラカルボン酸成分及びジアミン成分を以下の表にまとめて示す。表中の数字はモル比を表す。
【表1】
【0065】
[実施例及び比較例]
(実施例1-1:ラミネート法による銅張積層板C1-1の製造)
三層押出成形用ダイスを用いて、ポリアミック酸溶液A1及びポリアミック酸溶液B1の押出成形を行った。具体的には、ポリアミック酸溶液A1を三層押出成形用ダイスの内層部に供給するとともに、ポリアミック酸溶液B1を当該内層部の両側の外層部に供給し、ポリアミック酸溶液B1、ポリアミック酸溶液A1、ポリアミック酸溶液B1の順番で積層された三層シートの形態で、ポリアミック酸溶液A1、B1をダイスの吐出口からステンレス鋼製のシームレスベルト上に連続して押し出した。
【0066】
この三層シートを130℃5分、160℃5分、180℃5分の条件で加熱することにより、溶媒のDMAcを除去した。次いで、当該三層シートを、テンター乾燥機により延伸させながら200℃3分、250℃3分、300℃3分、350℃3分、400℃3分、450℃3分の条件で加熱することにより、三層シートを完全に乾燥させるとともに、各層のポリアミック酸成分のポリイミド化を行った。これにより、三層構造のポリイミドフィルムc1-1を得た。
【0067】
銅箔及び市販のポリイミドフィルム(バッファ層として利用する)を用意して、市販のポリイミドフィルム(バッファ層)、銅箔、ポリイミドフィルムc1-1、銅箔、市販のポリイミドフィルム(バッファ層)の順番でラミネートされるように、窒素置換した環境下でこれらを約400℃に加熱した2本のニップローラーに通してラミネート処理を行った。ニップローラーとして、表面がクロム処理された鉄製のローラーを使用した。
【0068】
両面のバッファ層を剥離することにより、ポリイミドフィルムc1-1の両面に銅箔がラミネートされた銅張積層板C1-1を得た。銅張積層板C1-1中の三層構造ポリイミドフィルムc1-1の厚さは20μmであった。以下、上記の製造方法を「ラミネート法」という。
【0069】
(実施例1-2:ラミネート法による銅張積層板C1-2の製造)
得られるポリイミドフィルムc1-2の厚さが15μmとなるようにダイスから供給される各ポリアミック酸溶液の量を調節した点を除き、実施例1-1と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、三層構造ポリイミドフィルムc1-2(厚さ15μm)を含む銅張積層板C1-2を得た。
【0070】
(実施例2-1~20-1:ラミネート法による銅張積層板C2-1~C20-1の製造)
接着層用の前駆体としてポリアミック酸溶液B1の代わりにポリアミック酸溶液B2~B20をそれぞれ用いた点を除き、実施例1-1と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、ポリアミック酸溶液A1から得られた基体層とポリアミック酸溶液B2~B20から得られた接着層とが接着層、基体層、接着層の順番でそれぞれ積層された、三層構造ポリイミドフィルムc2-1~c20-1(厚さ20μm)を含む銅張積層板C2-1~C20-1を得た。
【0071】
(実施例2-2~20-2:ラミネート法による銅張積層板C2-2~C20-2の製造)
接着層用の前駆体としてポリアミック酸溶液B1の代わりにポリアミック酸溶液B2~B20をそれぞれ用いた点を除き、実施例1-2と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、ポリアミック酸溶液A1から得られた基体層とポリアミック酸溶液B2~B20から得られた接着層とが接着層、基体層、接着層の順番でそれぞれ積層された、三層構造ポリイミドフィルムc2-2~c20-2(厚さ15μm)を含む銅張積層板C2-2~C20-2を得た。
【0072】
(比較例1-1:キャスト法による銅張積層板D1-1の製造)
銅箔の片面上にポリアミック酸溶液b1を均一に塗布し(第1接着層)、40℃3分、60℃3分、80℃3分、120℃3分の条件で加熱することにより、溶媒を一部除去した。次いで、この第1接着層上(銅箔と反対側)にポリアミック酸溶液a1を均一に塗布し(基体層)、40℃3分、60℃3分、80℃3分、120℃3分の条件で加熱することにより、一部溶媒を除去した。次いで、この基体層(第1接着層と反対側)にポリアミック酸溶液b1を均一に塗布し(第2接着層)、40℃3分、60℃3分、80℃3分、120℃3分の条件で加熱することにより、一部溶媒を除去した。次いで、この積層体を、窒素雰囲気のエアーフロー乾燥機にて、ロールツウロール工程で、100℃3分、150℃3分、200℃3分、250℃3分、300℃3分、350℃3分の条件で乾燥し、完全にイミド化を行い、片面銅張積層板D1-1’を製造した。
【0073】
銅箔及び表面平滑な銅箔(バッファ層として利用する)を用意して、表面平滑な銅箔(バッファ層)、片面銅張積層板D1-1’、銅箔、表面平滑な銅箔(バッファ層)の順番でラミネートされるように、積層し、窒素置換した環境下でこれらを約400℃に加熱した2本のニップローラーに通してラミネート処理を行った。ニップローラーとして、表面がクロム処理された鉄製のローラーを使用した。
【0074】
両面のバッファ層を剥離することにより、片面銅張積層板D1-1’の銅箔層が形成されていなかった側にも銅箔が積層された銅張積層板D1-1を得た。銅張積層板D1-1中の三層構造ポリイミドフィルムd1-1の厚さは20μmであった。以下、上記の製造方法を「キャスト法」という。
【0075】
(比較例1-2:キャスト法による銅張積層板D1-2の製造)
最終厚みが15μmになるように各ポリアミック酸溶液の塗布量を調製した点を除き、比較例1-1と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、三層構造ポリイミドフィルムd1-2(厚さ15μm)を含む銅張積層板D1-2を得た。
【0076】
(比較例2-1~20-1:キャスト法による銅張積層板D2-1~D20-1の製造)
接着層用の前駆体としてポリアミック酸溶液b1の代わりにポリアミック酸溶液b2~b20をそれぞれ用いた点を除き、比較例1-1と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、ポリアミック酸溶液A1から得られた基体層とポリアミック酸溶液b2~b20から得られた接着層とが接着層、基体層、接着層の順番でそれぞれ積層された、三層構造ポリイミドフィルムd2-1~d20-1(厚さ20μm)を含む銅張積層板D2-1~D20-1を得た。
【0077】
(比較例2-2~20-2:キャスト法による銅張積層板D2-2~D20-2の製造)
接着層用の前駆体としてポリアミック酸溶液b1の代わりにポリアミック酸溶液b2~b20をそれぞれ用いた点を除き、比較例1-2と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、ポリアミック酸溶液a1から得られた基体層とポリアミック酸溶液b2~b20から得られた接着層とが接着層、基体層、接着層の順番でそれぞれ積層された、三層構造ポリイミドフィルムd2-2~d20-2(厚さ15μm)を含む銅張積層板D2-2~D20-2を得た。
【0078】
(比較例21-1:ラミネート法による銅張積層板D21-1の製造)
基体層用の前駆体としてポリアミック酸溶液A1の代わりにポリアミック酸溶液A2を用いた点を除き、実施例1-1と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、ポリアミック酸溶液A2から得られた基体層とポリアミック酸溶液B1から得られた接着層とが接着層、基体層、接着層の順番でそれぞれ積層された、三層構造ポリイミドフィルムd21-1(厚さ20μm)を含む銅張積層板D21-1を得た。
【0079】
(比較例21-2:ラミネート法による銅張積層板D21-2の製造)
得られるポリイミドフィルムd21-2の厚さが15μmとなるようにダイスから供給される各ポリアミック酸溶液の量を調節した点を除き、比較例21-1と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、三層構造ポリイミドフィルムd21-2(厚さ15μm)を含む銅張積層板D21-2を得た。
【0080】
(比較例22-1~40-1:ラミネート法による銅張積層板D22-1~D40-1の製造)
接着層用の前駆体としてポリアミック酸溶液B1の代わりにポリアミック酸溶液B2~B20をそれぞれ用いた点を除き、比較例21-1と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、ポリアミック酸溶液A2から得られた基体層とポリアミック酸溶液B2~B20から得られた接着層とが接着層、基体層、接着層の順番でそれぞれ積層された、三層構造ポリイミドフィルムd22-1~D40-1(厚さ20μm)を含む銅張積層板D22-1~D40-1を得た。
【0081】
(比較例22-2~40-2:ラミネート法による銅張積層板D22-2~D40-2の製造)
接着層用の前駆体としてポリアミック酸溶液B1の代わりにポリアミック酸溶液B2~B20をそれぞれ用いた点を除き、比較例21-2と同様の方法で銅張積層板の製造を行った。これにより、ポリアミック酸溶液A2から得られた基体層とポリアミック酸溶液B2~B20から得られた接着層とが接着層、基体層、接着層の順番でそれぞれ積層された、三層構造ポリイミドフィルムD22-2~D40-2(厚さ15μm)を含む銅張積層板D22-2~D40-2を得た。
【0082】
以上の実施例及び比較例を以下にまとめた。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0083】
[評価例]
(評価1:各層の厚さ及び界面粗さ)
上記実施例及び比較例において得られた各銅張積層板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、各銅張積層板について、ポリイミドフィルムの第1接着層の厚さtT1、基体層の厚さt、及び第2接着層の厚さtT2、並びに第1接着層と基体層との間の界面粗さRz1、第2接着層と基体層との間の界面粗さRz2を測定した。ここで、図3に示すように、界面粗さRz1、Rz2は、JIS B 0601により定められた「最大高さ粗さRz」に従って計算され、2層界面の粗さ曲線Rの最大山高さと最大谷深さとの和(すなわち、最も高い部分と最も深い部分との高さの差)で定義される。
【0084】
(評価2:接着性)
JIS C 6481に従い、上記実施例及び比較例において得られた各銅張積層板の一方の銅箔を当該銅張積層板から剥離する際の引きはがし強さを引張試験機により表裏両面とも測定した。
【0085】
(評価3:脱水性、寸法安定性)
上記実施例及び比較例において得られた各銅張積層板に対して、銅箔のエッチング処理前後で寸法を測定し、寸法安定性を調べた。具体的には、銅張積層板の四隅に位置揃え用のマーカーを付け、KEYENCE社製の顕微鏡IM7000を用いて、銅張積層板のマーカー間の縦の長さ及び横の長さを測定した。次いで銅箔のエッチング処理を行い、その後、上記マーカー間の縦の長さ及び横の長さを測定しながら、エッチング処理前に測定した長さと同じ長さになるまでの所要時間を測定した。このような寸法安定に要する時間は、概ねエッチング処理後の洗浄水の脱水時間に相当する。
【0086】
(評価4:半田耐熱性)
上記実施例及び比較例において得られた各銅張積層板に対して約340℃で半田付けを行い、銅張積層板が使用できなくなるような損傷が生じない程度の耐熱性を有する(〇)か否(×)かを調べた。
【0087】
各銅張積層板に対する評価1~4の結果を以下の表に示す。ここで、接着性の欄には、左側に第1接着層側の引きはがし強さを記載し、右側に第2接着層側の引きはがし強さを記載した。キャスト法により製造した銅張積層板D1-1~20-2においては、厚さtT1の第1接着層→基体層→厚さtT2の第2接着層の順番で塗布成膜を行った。
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0088】
界面粗さRz1及びRz2を見ると、ラミネート法により銅張積層板を製造した実施例1-1~20-2及び比較例21-1~40-2では、基体層と接着層との界面の粗さRz1及びRz2がいずれも1.0μm以下であった。これに対し、キャスト法により銅張積層板を製造した比較例1-1~20-2では、基体層と接着層との界面の粗さRz1及びRz2のうち一方は1.0μm以下であったが、他方は1.0μmを上回っていた。すなわち、ラミネート法により製造した銅張積層板は、キャスト法により製造した銅張積層板と比較すると、基体層の両側において界面粗さが抑制された。一度に三層構造のラミネートフィルムを製造するラミネート法に比べると、第1接着層→基体層→第2接着層という順番で塗布を行うキャスト法では、層界面での2層の混ざり合いが大きくなるとともに、界面粗さが基体層の両側で非対称になると考えられる。すなわち、ラミネート法では、キャスト法に比べて、層の厚さだけでなく界面粗さまで含めて高い構造対称性を有する銅張積層板が得られた。
【0089】
接着性を見ると、ラミネート法により銅張積層板を製造した実施例1-1~20-2及び比較例21-1~40-2では、銅箔の引きはがし強さは銅箔積層板の両面でいずれも10kg/cmであった。これに対し、キャスト法により銅張積層板を製造した比較例1-1~20-2では、第1接着層側の引きはがし強さは8kg/cmと、ラミネート法による銅張積層板の値よりも小さかった。なお、比較例1-1~20-2においても、第2接着層側の引きはがし強さは10kg/cmであった。すなわち、ラミネート法により製造した銅張積層板は、キャスト法により製造した銅張積層板よりも銅箔の接着性において優れていた。
【0090】
脱水性を見ると、ポリアミック酸溶液A1から基体層を形成した実施例1-1~20-2及び比較例1-1~20-2では、エッチング処理後の銅張積層板の寸法がエッチング前の寸法に戻るまでの時間は1時間であった。これに対し、ポリアミック酸溶液A2から基体層を形成した比較例21-1~40-2では、エッチング処理後の銅張積層板の寸法がエッチング前の寸法に戻るまでの時間は10時間であった。すなわち、ポリアミック酸溶液A1から形成された基体層を含む銅張積層板は、ポリアミック酸溶液A2から形成された基体層を含む銅張積層板に比べて格段に優れた寸法安定性及び脱水性を有することが分かった。
【0091】
半田付け温度における耐熱性を見ると、実施例1-1~20-2による銅張積層板D1-1~D20-2は、いずれも優れた耐熱性を有していた。これに対し、比較例1-1~20-2では、ポリイミドフィルムの厚さが20μmである比較例1-1、2-1、……、20-1はいずれも優れた耐熱性を有していたものの、ポリイミドフィルムの厚さが15μmである比較例1-2、2-2、……、20-2は半田付け温度で損傷した。また、比較例21-1~40-2では、接着層を形成するポリイミドの材料としてポリアミック酸B1又はB2を使用した比較例21-1、比較例21-2、比較例22-1、及び比較例22-2を除き、いずれもポリイミドフィルムの厚さにかかわらず銅張積層板が半田付け温度で損傷した。
【0092】
以上より、PMDA及び4,4-BAPPを原料とするポリアミック酸溶液A1から形成した基体層を含むポリイミドフィルムをラミネート法で製造することにより、接着性、寸法安定性、及び耐熱性に優れ、層界面における2層間の混ざり合いが少ないポリイミドフィルム及び金属張積層板を製造することができた。また、ラミネート法により製造した銅張積層板は、キャスト法により製造した銅張積層板よりも構造の対称性が高かった。
【0093】
ラミネート法による銅張積層板では、キャスト法による銅張積層板と比較すると、高い構造対称性により、積層板の両面の非対称構造に起因する積層板の反りが抑制され得るので、積層板の構造安定性が向上し得る。また、ラミネート法による銅張積層板は、キャスト法による銅張積層板よりも基体層の両側の界面粗さが小さいので、フィルム内の均一性が良好であり、取扱いが容易である。さらに、ラミネート法は、積層板全体をまとめて乾燥させることができるので、層ごとに塗布及び乾燥を繰り返すキャスト法よりも効率的である。
【0094】
以上のように、本発明を限定された実施例と図面によって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の属する技術分野で通常の知識を持つ者によって本発明の技術思想と特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0095】
1 金属張積層板
10 第1金属箔層
12 第1接着層
14 基体層
16 第2接着層
18 第2金属箔層
図1
図2
図3