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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】フラーレン誘導体、及びn型半導体材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/46 20060101AFI20221219BHJP
   C01B 32/156 20170101ALI20221219BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20221219BHJP
   C07D 209/58 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01L31/04 154F
C01B32/156
H01L31/04 164
H01L21/28 301B
C07D209/58
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019148684
(22)【出願日】2019-08-13
(62)【分割の表示】P 2017117205の分割
【原出願日】2014-05-16
(65)【公開番号】P2020021942
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2019-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2013104475
(32)【優先日】2013-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013181678
(32)【優先日】2013-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆文
(72)【発明者】
【氏名】足達 健二
(72)【発明者】
【氏名】安蘇 芳雄
(72)【発明者】
【氏名】家 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】辛川 誠
【審査官】本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-089538(JP,A)
【文献】特開平09-074216(JP,A)
【文献】特開2011-236109(JP,A)
【文献】特開2008-280323(JP,A)
【文献】特開2012-162506(JP,A)
【文献】特開2013-016669(JP,A)
【文献】特開2013-069663(JP,A)
【文献】特表2011-502363(JP,A)
【文献】特開平05-294606(JP,A)
【文献】国際公開第2007/129767(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0056720(US,A1)
【文献】特開2006-096803(JP,A)
【文献】特開2005-276832(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第04312632(DE,A1)
【文献】Yongye Liang et al.,For the Bright Future-Bulk Heterojunction Polymer Solar Cells with Power Conversion Efficiency of 7.4%,ADVANCED ENERGY MATERIALS,2010年01月04日,22,E135-E138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42 - 51/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後記で定義される純度が99%以上である、
式(1):
【化1】
[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;
は、1個以上の置換基[当該置換基は、式:R-O-(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基を表す。)で表される基、又は式:R-(OR-O-(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1~6のアルキル基を表し(Rは、各出現において、同一又は異なっていてもよい。)、及びnは1~4の整数を表す。)で表される基である。]を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、又は
1個以上のハロゲン原子置換基として有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表し;及び
Arは、1個以上の、炭素数1~6のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を表す。]
で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料と、
ドナーユニットとして、ベンゾジチオフェン、ジチエノシロール、又はN-アルキルカルバゾールを有し、かつアクセプターユニットとして、ベンゾチアジアゾール、チエノチオフェン、又はチオフェンピロールジオンを有する、ドナーアクセプター型π共役高分子からなるp型半導体材料とを
含有する、有機発電層
前記純度は、炭素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、水素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、及び窒素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値のうちの最大のものをDmax(%)としたときに、次式:
純度(%)=100-Dmax(%)
で定義される。
【請求項2】
は、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数6~14のアリール基である、請求項1に記載の有機発電層
【請求項3】
Arは、フェニル基である、請求項1又は2に記載の有機発電層
【請求項4】
有機薄膜太陽電池用である請求項1~3のいずれか1項に記載の有機発電層
【請求項5】
前記ドナーアクセプター型π共役高分子が、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン-co-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)、又はポリ(ジチエノ[1,2-b:4,5-b’][3,2-b:2’,3’-d]シロール-alt-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)である請求項1~4のいずれか1項に記載の有機発電層。
【請求項6】
前記ドナーアクセプター型π共役高分子が、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン-co-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)である請求項1~5のいずれか1項に記載の有機発電層。
【請求項7】
前記p型半導体材料が、ポリ[[4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル][3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル]]である請求項のいずれか1項に記載の有機発電層。
【請求項8】
更に、ジヨードオクタンを含有する請求項のいずれか1項に記載の有機発電層。
【請求項9】
請求項のいずれか1項に記載の有機発電層を備える光電変換素子。
【請求項10】
有機薄膜太陽電池である、請求項に記載の光電変換素子。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の有機発電層の製造方法であって、
(a)C60フラーレンから、前記フラーレン誘導体を得る工程、
(b)工程(a)で得られたフラーレン誘導体を、展開溶媒としてヘキサン-クロロホルム、ヘキサン-トルエン及びヘキサン-二硫化炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製する工程、
(c)工程(b)で精製したフラーレン誘導体を、展開溶媒としてクロロホルム及び/又はトルエンを用いて、分取GPCで精製する工程、並びに
(d)工程(c)で精製したフラーレン誘導体を、溶媒洗浄及び再結晶する工程
を備える、製造方法。
【請求項12】
前記工程(d)における溶媒洗浄は、メタノール及び/又はアセトンによる洗浄と、テトラヒドロフラン及び/又はヘキサンによる洗浄とを含有する、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記工程(d)における再結晶は、ヘキサン-クロロベンゼン及び/又はヘキサン-二硫化炭素を用いて行われる、請求項11又は12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体、及びn型半導体材料等に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、光電変換材料として有機化合物を用い、溶液からの塗布法によっ
て形成されるものであり、1)デバイス作製時のコストが低い、2)大面積化が容易であ
る、3)シリコン等の無機材料と比較してフレキシブルであり使用できる場所が広がる、
4)資源枯渇の心配が少ない、等の各種の利点を有するものである。このため、近年、有
機薄膜太陽電池の開発が進められており、特に、バルクヘテロジャンクション構造を採用
することによって光電変換効率を大きく向上させることが可能となり、広く注目を集める
に至っている。
【0003】
有機薄膜太陽電池に用いる光電変換素地用材料の内で、p型半導体については、特に、
ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)が優れた性能を有する有機p型半導体材料と
して知られている。最近では、より高機能を目指して、太陽光の広域の波長を吸収できる
構造やエネルギー準位を調節した構造を有する化合物が開発され(ドナーアクセプター型
π共役高分子)、性能向上に大きく貢献している。このような化合物の例としては、ポリ
-p-フェニレンビニレン、及びポリ[[4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ
]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル][3-フルオロ
-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル]
](PTB7)が挙げられる。
【0004】
一方、n型半導体についても、フラーレン誘導体が盛んに検討されており、優れた光電
変換性能を有する材料として、[6,6]-フェニルC61-酪酸メチルエステル(PC
BM)が報告されている(後記特許文献1,2等参照)。しかしながら、PCBM以外の
フラーレン誘導体に関しては、安定して良好な光電変換効率を達成できることが実証され
た例は殆どない。
近年、PCBM以外の有機太陽電池用フラーレン誘導体が報告されている。しかしなが
らそれらは、陽極(ITO電極)の集電材料を取り除いた特殊なデバイス構成での比較(
非特許文献1)や、PCBMとほとんど同程度の性能のものである(非特許文献2)。ま
た、Y. Li らにより報告されている二置換誘導体(非特許文献3)は、E. T. Hoke らの
報告のように、P3THではPCBMより高い変換効率を実現しているが、ドナーアクセ
プター型π共役高分子では、低い変換効率しか得られていない(非特許文献4)。
このように、p型材料に限定の無い、かつ高い変換効率を実現できる、PCBM以外の
高機能なn型材料はこれまで知られていなかった。
【0005】
フラーレン誘導体の合成方法に関しては、幾つかの合成方法が提案されており、収率、
純度の点から、ジアゾ化合物を用いた3員環部分を有するフラーレン誘導体の合成方法と
、グリシン誘導体とアルデヒドから発生させたアゾメチンイリドを付加させた5員環部分
を有するフラーレン誘導体の合成方法が優れた方法として知られている。
【0006】
前述したPCBMは、3員環部分を有するフラーレン誘導体であり、フラーレン骨格に
カルベン中間体が付加した3種類の生成物の混合物を得た後、光照射又は加熱処理による
変換反応を経由することによって得られるものである。しかしながら、この製造方法で得
られる3員環部分の誘導体は、置換基の導入位置、個数に関して制限が有るために、新規
なn型半導体の開発には大きな制約がある。
【0007】
一方、5員環部分を有するフラーレン誘導体に関しては、構造上の多様性面で優れてい
ると考えられるが、有機薄膜太陽電池のn型半導体材料として優れた性能を有するフラー
レン誘導体についての報告は殆どない。その少ない例の一つとしては、後記特許文献3に
記載のフラーレン誘導体が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-8426号公報
【文献】特開2010―92964号公報
【文献】特開2012-089538号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】T. Itohら、Journal of Materials Chemistry, 2010年, 20巻, 9226頁
【文献】T. Ohnoら、Tetrahedron, 2010年, 66巻, 7316頁
【文献】Y. Li ら、Journal of American Chemical Society, 2010年, 132巻, 1377頁
【文献】E. T. Hoke ら、Advanced Energy Materials, 2013年, 3巻, 220頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3によれば、これに記載されたフラーレン誘導体は、高い光電変換効率を示し
ているが、しかし、光電変換効率の更なる向上が望まれている。
すなわち、本発明の主な目的は、n型半導体、特に有機薄膜太陽電池等の光電変換素子
用のn型半導体として優れた性能を有する材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
特許文献3の実施例の各フラーレン誘導体は、いずれも、分取GPCで精製されている
ので、高い純度を有することが推定でき、実際、本発明者がHPCL分析を行った結果で
も、ほぼ純品といってよいものであった。
従って、これらのフラーレン誘導体を更に精製しても、光電変換効率の更なる向上は期
待できないと考えられた。
しかし、驚くべきことに、特許文献3の実施例における、分取GPCで精製された各フ
ラーレン誘導体のうち、次式(1):
【化1】
[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;
は、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有し
ていてもよいアリール基を表し;及び
Arは、1個以上のアルキル基で置換されていてもよいアリール基を表す。]
で表されるフラーレン誘導体を、更に精製したところ、光電変換効率の著しい向上を達成
できることが明らかになった。HPLCでは、この更なる精製による純度の向上の有無は
明確ではなかったが、元素分析では、ある程度の純度の向上が達成されていることが確認
された。
本発明者らは、以上の知見を元に、更に鋭意検討を重ねて、本発明を完成するに至った
【0012】
従って、本発明は、以下の態様等を有する。
【0013】
項1.
後記で定義される純度が99%以上である、
式(1):
【化2】
[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;
は、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有し
ていてもよいアリール基を表し;及び
Arは、1個以上のアルキル基で置換されていてもよいアリール基を表す。]
で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料。
前記純度は、炭素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、水素について
の元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、及び窒素についての元素分析の分析値と理
論値との差の絶対値のうちの最大のものをDmax(%)としたときに、次式:
純度(%)=100-Dmax(%)
で定義される。
項2.
有機薄膜太陽電池用である項1に記載のn型半導体材料。
項3.
項2に記載のn型半導体材料及びp型半導体材料を含有する有機発電層。
項4.
前記p型半導体材料が、ドナーユニットとして、ベンゾジチオフェン、ジチエノシロール
、又はN-アルキルカルバゾールを有し、かつアクセプターユニットとして、ベンゾチア
ジアゾール、チエノチオフェン、又はチオフェンピロールジオンを有する、ドナーアクセ
プター型π共役高分子からなる項1~3のいずれか1項に記載の有機発電層。
項5.
前記ドナーアクセプター型π共役高分子が、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン-c
o-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)、又はポリ(ジチエノ[1,2-
b:4,5-b’][3,2-b:2’,3’-d]シロール-alt-(2,1,3-
ベンゾチアジアゾール)である項4に記載の有機発電層。
項6.
前記ドナーアクセプター型π共役高分子が、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン-c
o-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)である項4に記載の有機発電層。
項7.
前記p型半導体材料が、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、又はポリ[[4,8-ビス[(
2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,
6-ジイル][3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,
4-b]チオフェンジイル]]である項1~6のいずれか1項に記載の有機発電層。
項8.
更に、ジヨードオクタンを含有する項1~7のいずれか1項に記載の有機発電層。
項9.
項3~8のいずれか1項に記載の有機発電層を備える光電変換素子。
項10.
有機薄膜太陽電池である、項9に記載の光電変換素子。
項11.
光センサアレイ用である項1に記載のn型半導体材料。
項12.
光センサアレイである、項9に記載の光電変換素子。
【0014】
項1A.
後記で定義される純度が99%以上である、
式(1A):
【化3】
[式中、環Aは、C60フラーレンを表す。]
で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料。
前記純度は、炭素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、水素について
の元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、及び窒素についての元素分析の分析値と理
論値との差の絶対値のうちの最大のものをDmax(%)としたときに、次式:
純度(%)=100-Dmax(%)
で定義される。
項2A.
有機薄膜太陽電池用である項1Aに記載のn型半導体材料。
項3A.
項2Aに記載のn型半導体材料及びp型半導体材料を含有する有機発電層。
項4A.
前記p型半導体材料が、ドナーユニットとして、ベンゾジチオフェン、ジチエノシロール
、又はN-アルキルカルバゾールを有し、かつアクセプターユニットとして、ベンゾチア
ジアゾール、チエノチオフェン、又はチオフェンピロールジオンを有する、ドナーアクセ
プター型π共役高分子からなる項1A~3Aのいずれか1項に記載の有機発電層。
項5A.
前記ドナーアクセプター型π共役高分子が、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン-c
o-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)、又はポリ(ジチエノ[1,2-
b:4,5-b’][3,2-b:2’,3’-d]シロール-alt-(2,1,3-
ベンゾチアジアゾール)である項4Aに記載の有機発電層。
項6A.
前記ドナーアクセプター型π共役高分子が、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン-c
o-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)である項4Aに記載の有機発電層

項7A.
前記p型半導体材料が、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、又はポリ[[4,8-ビス[(
2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,
6-ジイル][3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,
4-b]チオフェンジイル]]である項1A~6Aのいずれか1項に記載の有機発電層。
項8A.
更に、ジヨードオクタンを含有する項1A~7Aのいずれか1項に記載の有機発電層。
項9A.
項3A~8Aのいずれか1項に記載の有機発電層を備える光電変換素子。
項10A.
有機薄膜太陽電池である、項9Aに記載の光電変換素子。
項11A.
光センサアレイ用である項1Aに記載のn型半導体材料。
項12A.
光センサアレイである、項9Aに記載の光電変換素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明のn型半導体材料は、特に有機薄膜太陽電池等の光電変換素子用のn型半導体と
して有用であり、高い光電変換効率を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のn型半導体材料等について具体的に説明する。
【0017】
n型半導体材料
本発明のn型半導体材料は、
後記で定義される純度が99%以上である、
式(1):
【化4】
[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;
は、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、又は1個以上の置換基を有し
ていてもよいアリール基を表し;及び
Arは、1個以上のアルキル基で置換されていてもよいアリール基を表す。]
で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料
である。
従って、本発明のn型半導体材料は、式(1)で表されるフラーレン誘導体を、前記定
義の純度99%以上で含有するn型半導体材料であることができる。
本明細書中、「アルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロ
ピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチ
ル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブ
チル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、及び2-エチルブチル等の炭
素数1~8(好ましくは1~6)のアルキル基が挙げられる。
本明細書中、「アリール基」としては、例えば、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチ
ル、2-ビフェニリル、3-ビフェニリル、4-ビフェニリル、及び2-アンスリル等な
どの炭素数6~14のアリール基が挙げられる。
【0018】
で表される「1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基」の置換基としては
、例えば、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基及びポリエーテル基が挙げられる。
当該置換基の数は、好ましくは1個である。
本明細書中、「アルコキシ基」としては、例えば、式:R-O-(式中、Rは、ア
ルキル基を表す。)で表される基が挙げられる。
本明細書中、「アルコキシカルボニル基」としては、例えば、式:R-O-CO-(
式中、Rは、アルキル基を表す。)で表される基が挙げられる。
本明細書中、「ポリエーテル基」としては、例えば、式:R-(OR-O-(
式中、R及びRは、同一又は異なって、アルキル基を表し(Rは、各出現において
、同一又は異なっていてもよい。)、及びnは1~4の整数を表す。)で表される基が挙
げられる。
【0019】
で表される「1個以上の置換基を有していてもよいアリール基」の置換基としては
、例えば、ハロゲン原子が挙げられる。
本明細書中、「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が
挙げられる。
当該置換基の数は、好ましくは0(無置換)~2個である。
で表される「1個以上の置換基を有していてもよいアリール基」は、好ましくは、
1又は2個のフッ素原子で置換されていてもよいフェニル基である。
【0020】
Arは、好ましくは1個のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、より好まし
くはフェニル基である。
【0021】
式(1)で表されるフラーレン誘導体は、好ましくは、例えば、
式(1A):
【化5】
[式中、環Aは、C60フラーレンを表す。]
で表されるフラーレン誘導体、
式(1B):
【化6】
[式中、環Aは、C60フラーレンを表す。]
で表されるフラーレン誘導体、又は
式(1C):
【化7】
[式中、環Aは、C60フラーレンを表す。]
で表されるフラーレン誘導体である。
【0022】
前記純度は、好ましくは99.0%以上、より好ましくは99.1%以上、更に好まし
く99.2%以上、更により好ましくは99.3%以上、特に好ましくは99.4%以上
99.5%以上、99.6%以上、又は99.7%以上である。
前記純度は、炭素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、水素について
の元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、及び窒素についての元素分析の分析値と理
論値との差の絶対値のうちの最大のものをDmax(%)としたときに、次式:
純度(%)=100-Dmax(%)
で定義される。
なお、元素分析について用いられる「%」は、質量パーセントである。
【0023】
すなわち、元素分析における炭素、水素、及び窒素についての元素分析の分析値と理論
値との差の絶対値を、それぞれDcarbon、Dhydrogen、及びDnitrogenとしたとき、例え
ば、これらのうちで、Dcarbonの値が最大であるときは、DmaxはDcarbonである。この
場合、純度(%)は、次式:
純度(%)=100-Dcarbon(%)
によって計算される。
【0024】
なお、本明細書中、環Aで表されるC60フラーレンを、当該技術分野において、しば
しば行われるように、次のような構造式:
【化8】
で表す場合がある。
また、C60フラーレンを、単にC60と記載する場合がある。
【0025】
すなわち、例えば、前記(1)で表されるフラーレン誘導体は、次式(1’):
【0026】
【化9】
で表すことができる。
【0027】
前記式(1)で表されるフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を
示すので、塗布法により、これを含有する薄膜を容易に形成できる。
更に、前記式(1)で表されるフラーレン誘導体は、これをn型半導体材料として、有
機p型半導体材料と共に用いて有機発電層を調製した際に、バルクヘテロジャンクション
構造を容易に形成できる。
【0028】
フラーレン誘導体(1)の製造方法
前記式(1)で表されるフラーレン誘導体は、例えば、前記特許文献3に記載の合成方
法、又はこれに準じた方法によって合成できる。
前記式(1)で表されるフラーレン誘導体は、具体的には、例えば、下記のスキームの
方法に従って、合成できる。
【0029】
【化10】
(本明細書中、化学式中のPhはフェニル基を表す。)
【0030】
<工程A>
工程Aでは、N-置換グリシン(化合物(b))をアルデヒド(化合物(a))及びC
フラーレン(化合物(c))と反応させて、式(1)で表されるフラーレン誘導体(化
合物(1))を得る。
【0031】
アルデヒド(化合物(a))、N-置換グリシン(化合物(b))及びC60フラーレン
(化合物(c))の量比は任意だが、収率を高くする観点から、通常、C60フラーレン
(化合物(c))1モルに対して、アルデヒド化合物(化合物(a))及びN-置換グリシ
ン(化合物(b))をそれぞれ0.1~10モル、好ましくは0.5~2モルの量で用い
る。
【0032】
当該反応は、無溶媒又は溶媒中で行われる。
当該溶媒としては、例えば、二硫化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン、トルエン、
キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらの溶媒は、適当な
割合で混合して用いてもよい。当該溶媒としては、クロロホルム、トルエン、又はクロロ
ベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン等が好ましく、トルエン、クロロベン
ゼン等が特に好ましい。
【0033】
反応温度は、通常、室温~およそ150℃の範囲内であり、好ましくは、およそ80~
およそ120℃の範囲内である。本明細書中、室温は、15~30℃の範囲内である。
【0034】
反応時間は、通常、およそ1時間~およそ4日間の範囲内であり、好ましくは、およそ
10~およそ24時間の範囲内である。
【0035】
当該反応は、好ましくは、還流下、攪拌しながら、実施される。
【0036】
当該工程Aで用いられる、アルデヒド(化合物(a))、N-置換グリシン(化合物(b
))及びC60フラーレン(化合物(c))は、それぞれ公知の化合物であり、公知の方
法(例えば、特許文献3に記載の方法)、又はこれに準じた方法によって合成するか、商
業的に入手可能である。
【0037】
工程Aで得られた化合物(1)を、前記で定義した純度が99%以上(好ましくは99
.0%以上、より好ましくは99.1%以上、更に好ましく99.2%以上、更により好
ましくは99.3%以上、特に好ましくは99.4%以上)になるまで、精製する。
当該精製は、慣用の精製方法で実施できる。
具体的には、例えば、当該精製は、次の方法で実施できる。
例えば、得られた化合物(1)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒と
しては、例えば、ヘキサン-クロロホルム、ヘキサン-トルエン、又はヘキサン-二硫化
炭素が好ましい。)で精製し、その後、更にHPLC(分取GPC)(展開溶媒としては
、例えば、クロロホルム、又はトルエン等が好ましく、クロロホルムが特に好ましい。)
で精製する。
【0038】
精製した化合物(1)を、溶媒洗浄、及び再結晶により、更に精製する。
当該溶媒洗浄では、好ましくは、前記で精製した化合物(1)の固体を異なる溶媒で2
回以上洗浄する。当該洗浄は、例えば、前記で精製した化合物(1)の固体をナスフラス
コ等の容器に採り、慣用の方法で実施すればよい。当該2回以上の洗浄は、好ましくは比
較的極性の高い溶媒(例、メタノール、及びアセトン)による洗浄及び比較的極性の低い
溶媒(例、テトラヒドロフラン(THF)、及びヘキサン)を含む。当該溶媒洗浄は、好
ましくは、残存溶媒を減少させる目的で、極性の高い溶媒による溶媒洗浄から先に実施さ
れる。当該溶媒洗浄は、具体的に特に好ましくは、順に、メタノール、アセトン、ジクロ
ロメタン、テトラヒドロフラン(THF)、及びヘキサンで洗浄することによって実施さ
れる。
再結晶は、好ましくは、例えば、ヘキサン-クロロベンゼン、又はヘキサン-二硫化炭
素から行われる。
当該溶媒洗浄、及び再結晶の精製法と組み合わせて、又は別法として、フラーレン分離
用HPLCカラムにより精製することも有効である。フラーレン分離用のHPLCカラム
は、商業的に入手可能であり、その例としては、コスモシールBuckyprepシリー
ズ(ナカライテスク社)が挙げられる。当該カラム精製は、必要に応じて2回以上行って
もよい。
フラーレン分離専用のHPLCカラムによる精製に用いられる溶媒としては、トルエン
、及びクロロホルム等からなる群より選択される1種以上が挙げられる。
このようにして更に精製された化合物(1)から、溶媒を除去する。溶媒の除去は、好
ましくは、上澄みの溶媒の除去後、前記化合物(1)の固体に残った溶媒をエバポレーシ
ョンで除去し、更に減圧下(例、10mmHg以下、より好ましくは1mmHg以下)で
、加熱乾燥(例、60~100℃、8~24時間乾燥)する。
【0039】
n型半導体材料の用途
本発明のn型半導体材料は、特に有機薄膜太陽電池等の光電変換素子用のn型半導体材
料として好適に使用できる。
【0040】
本発明のn型半導体材料は、通常、有機p型半導体材料(有機p型半導体化合物)と組
み合わせて用いられる。
当該有機p型半導体材料としては、例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT
)、ポリ-p-フェニレンビニレン、ポリ-アルコキシ-p-フェニレンビニレン、ポリ
-9,9-ジアルキルフルオレン、ポリ-p-フェニレンビニレンなどが挙げられる。
これらは太陽電池としての検討例が多く、かつ入手が容易であるので、容易に安定した
性能のデバイスを得ることができる。
また、より高い変換効率を得るためには、バンドギャップを狭くすることで(ローバン
ドギャップ)長波長光の吸収を可能にした、ドナーアクセプター型π共役高分子が有効で
ある。
これらドナーアクセプター型π共役高分子は、ドナーユニットとアクセプターユニット
とを有し、これらが交互に配置された構造を有する。
ここで用いられるドナーユニットとしては、ベンゾジチオフェン、ジチエノシロール、
N-アルキルカルバゾールが、またアクセプターユニットとしては、ベンゾチアジアゾー
ル、チエノチオフェン、チオフェンピロールジオンなどが挙げられる。
具体的には、これらのユニットを組み合わせた、ポリ(チエノ[3,4-b]チオフェ
ン-co-ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]チオフェン)(PTBxシリーズ)、ポ
リ(ジチエノ[1,2-b:4,5-b’][3,2-b:2’,3’-d]シロール-
alt-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)類などの高分子化合物が挙げられる。
これらのうちでも、好ましいものとしては、
(1)ポリ({4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4
,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル}{3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキ
シル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル})(PTB7、構造式を以
下に示す)、
(2)ポリ[(4,8-ジ(2-エチルヘキシルオキシ)ベンゾ[1,2-b:4,5-
b’]ジチオフェン)-2,6-ジイル-alt-((5-オクチルチエノ[3,4-c
]ピロール-4,6-ジオン)-1,3-ジイル)(PBDTTPD、構造式を以下に示
す)、
(3)ポリ[(4,4’-ビス(2-エチルヘキシル)ジチエノ[3,2-b:2’,3
’-d]シロール)-2,6-ジイル-alt-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)-
4,7-ジイル](PSBTBT、構造式を以下に示す)、
(4)ポリ[N-9’’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-アルト-5,5-(
4’,7’-ジ-2-チエニル-2’,1’,3’-ベンゾチアジアゾール)](PCD
TBT、構造式を以下に示す)、及び
(5)ポリ[1-(6-{4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]-6-メチル
ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2-イル}{3-フルオロ-4-メ
チルチエノ[3,4-b]チオフェン-2-イル}-1-オクタノン)(PBDTTT-
CF、構造式を以下に示す)
などが挙げられる。
なかでも、より好ましい例としては、アクセプターユニットとしてチエノ[3,4-b
]チオフェンの3位にフッ素原子を有するPTB系化合物が挙げられ、特に好ましくい例
としては、PBDTTT-CF及びPTB7が挙げられる。
【0041】
【化11】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【化12】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【化13】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【化14】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【化15】
(式中、nは繰り返し数を表す。)
【0042】
本発明のn型半導体材料を、前記の有機p型半導体材料(好ましくは、例えば、P3H
T、又はドナーアクセプター型π共役高分子材料、より好ましくは、例えば、PTB7な
どのPTBシリーズ)との組み合わせにおいて、用いて調製された有機発電層は、PCB
Mを始めとするフラーレン誘導体からなる既存のn型半導体材料を用いた場合よりも高い
変換効率を発現できる。
本発明のn型半導体材料は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示すので、塗布法
による有機発電層の調製が可能であり、大面積の有機発電層の調製も容易である。
【0043】
また、本発明のn型半導体材料は、有機p型半導体材料との相溶性が良好であって、且
つ適度な自己凝集性を有する。このため、当該フラーレン誘導体をn型半導体材料(有機
n型半導体材料)としてバルクジャンクション構造の有機発電層を容易に形成する。この
有機発電層を用いることによって、高い変換効率を有する有機薄膜太陽電池、或いは光セ
ンサーを得ることができる。
本発明のn型半導体材料は、n型半導体材料として単独で用いられることが好ましいが
、他のn型半導体材料と組み合わせても用いられ得る。すなわち、本発明のn型半導体材
料は、本発明のn型半導体材料と他のn型半導体材料との混合物として用いてもよい。言
うまでも無いが、このような組み合わせ、又は混合物の使用も、本発明のn型半導体材料
の使用である。
【0044】
よって、本発明のn型半導体材料として用いることによって、低コストで優れた性能を
有する有機薄膜太陽電池を作製することが可能となる。
また、本発明のn型半導体材料を含有する(又は、からなる)有機発電層の別の応用と
して、デジタルカメラ用イメージセンサーがある。デジタルカメラの高機能化(高精細化
)の要求に対して、既存のシリコン半導体からなるイメージセンサーには、感度低下の課
題が指摘されている。これに対して、光感度の高い有機材料からなるイメージセンサーに
より、高感度と高精細化が可能になると期待されている。このようなセンサーの受光部を
構築する材料には、光を感度良く吸収し、ここから電気信号を高効率で発生させることが
求められる。このような要求に対して、本発明のn型半導体材料を含有する(又は、から
なる)有機発電層は、可視光を効率良く電気エネルギーに変換できるので、上記イメージ
センサー受光部材料としても、高い機能を発現できる。
【0045】
有機発電層
本発明の有機発電層は、本発明のn型半導体材料及びp型半導体材料を含有する。
本発明の有機発電層は、好ましくは、本発明のn型半導体材料及びp型半導体材料から
なる。
本発明の有機発電層は、光変換層(光電変換層)であることができる。
本発明の有機発電層においては、好ましくは、本発明のn型半導体材料と前記有機p型
半導体材料とがバルクヘテロジャンクション構造を形成している。
【0046】
当該有機発電層の薄膜形成において、本発明のn型半導体材料は、有機p型半導体材料
(好ましくは、P3HT、又はドナーアクセプター型π共役高分子材料)との相溶性が良
好であって、且つ適度な自己凝集性を有するので、本発明によれば、本発明のn型半導体
材料及び有機p型半導体材料を含有し、かつバルクヘテロジャンクション構造を有する有
機発電層を容易に得ることができる。
本発明の有機発電層は、更に、ジヨードオクタン、又はオクタンジチオールを含有する
。これにより、本発明の有機発電層は高い光電変換効率をもたらす。このことは、後述す
るように、本発明のn型半導体材料と前記有機p型半導体材料とがバルクヘテロジャンク
ション構造を形成することによると考えられるが、本発明はこれに限定されるものではな
い。
【0047】
本発明の有機発電層は、例えば、本発明のn型半導体材料及び前記有機p型半導体材料
を有機溶媒(添加剤を含有してもよい)に溶解させ、得られた溶液から、スピンコート法
、キャスト法、ディッピング法、インクジェット法、及びスクリーン印刷法等の公知の薄
膜形成方法を採用して、基板上に薄膜を形成することにより、調製できる。
【0048】
前記有機溶媒の主成分(すなわち、後述する添加剤以外の成分である、溶媒としての成
分)は、例えば、クロロホルム、トルエン及びクロロベンゼンからなる群より選択される
1種又は2種以上である。
前記有機溶媒は、好ましくは、添加剤として、ジヨードオクタン、又はオクタンジチオ
ールを含有する。このことにより、より高い光電変換効率を与える有機発電層を形成でき
る。これは、本発明のn型半導体材料と前記有機p型半導体材料とがバルクヘテロジャン
クション構造を形成することによると考えられる。前記有機溶媒におけるジヨードオクタ
ン、又はオクタンジチオールの含有量は通常1~5%(v/v)であり、好ましくは、2
~4%(v/v)、特に好ましくは3%(v/v)である。
n型半導体及びp型半導体から成る有機発電層において、有効なバルクヘテロジャンク
ション構造を形成させるために、有機薄膜形成後にアニールする場合がある。特にp型半
導体材料としてP3HT、ポリ-p-フェニレンビニレン、ポリ-アルコキシ-p-フェ
ニレンビニレン、ポリ-9,9-ジアルキルフルオレン、ポリ-p-フェニレンビニレン
などを用いる場合には、例えば、80~130℃で10~30分間程度の条件でアニール
を行なうことで、変換効率の向上が図れる。
一方で、PTB7などのドナーアクセプター型π共役高分子をp型半導体材料に用いた
場合には、アニールの必要は無い。
【0049】
有機薄膜太陽電池
本発明の有機薄膜太陽電池は、前記で説明した本発明の有機発電層を備える。
このため、本発明の有機薄膜太陽電池は、高い光電変換効率を有する。
当該有機薄膜太陽電池の構造は特に限定されず、公知の有機薄膜太陽電池と同様の構造
であることができ、及び本発明の有機薄膜太陽電池は、公知の有機薄膜太陽電池の製造方
法に従って製造できる。
【0050】
当該フラーレン誘導体を含む有機薄膜太陽電池の一例としては、例えば、基板上に、透
明電極(陽極)、陽極側電荷輸送層、有機発電層、陰極側電荷輸送層及び対極(陰極)が
順次積層された構造の太陽電池を例示できる。当該有機発電層は、好ましくは、有機p型
半導体材料、及びn型半導体材料としての本発明のフラーレン誘導体を含有し、バルクヘ
テロジャンクション構造を有する半導体薄膜層(すなわち、光電変換層)である。このよ
うな構造の太陽電池において、有機発電層以外の各層の材料としては、公知の材料を適宜
使用できる。具体的には、電極の材料としては、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、及
び酸化インジウム(ITO)等が挙げられる。電荷輸送層の材料としては、例えば、PE
DOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンス
ルフォネート))等が挙げられる。
【0051】
光センサー
上記のように、本発明で得られる光電変換層は、デジタルカメラの高機能製品における
、イメージセンサー用受光部として有効に機能する。従来のシリコンフォトダイオードを
用いた光センサーに比較して、明るいところで白トビが起こらず、また暗いところでもは
っきりした映像を得ることができる。このため、従来のカメラより高品位の映像を得るこ
とができる。光センサーは、シリコン基板、電極、光電変換層からなる光受光部、カラー
フィルター、及びマイクロレンズから構築される。当該受光部の厚さは数100nm程度で
あることができ、従来のシリコンフォトダイオードの数分の1の厚さで構成され得る。
【実施例
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるもので
はない。
【0053】
実施例中の記号及び略号は、以下の意味で用いられる。この他にも、本明細書中、本発
明が属する技術分野において、通常用いられる記号及び略号が用いられ得る。
s:シングレット
bs:ブロードシングレット
d:ダブレット
d-d:ダブルダブレット
t:トリプレット
m:マルチプレット
【0054】
製造例1(化合物1)
フラーレン誘導体(化合物1)を、以下の反応式により合成した。
【化16】
C60フラーレン(175mg, 0.25mmol)、ベンツアルデヒド(27mg, 0.25mmol)及びN-フ
ェニルグリシン(76mg, 0.5mmol)をトルエン(100mL)中で、還流下で24時間撹拌し
た。冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカラムクロマト(n-ヘキサン:トル
エン = 20:1~10:1)で分離し、更に分取GPC(クロロホルム)で精製して、化合物1
の試料1-1を得た。収率29.7%。
得られた化合物の構造を、核磁気共鳴スペクトル(NMR):JEOL JNM-EC
S400型(400MHz)、及びマススペクトル(MS):JEOL JMS-700
型(FAB:マトリックス-NBA)により確認した。
1H-NMR(CDCl3):δ5.00 (1H, d, J = 10.5 Hz), 5.68 (1H, d, J = 10.5 Hz), 6.08 (1H,
s), 7.02-7.10 (1H, m), 7.22-7.40 (7H, m), 7.70-7.81 (2H, m).
MS(FAB+):m/z 916(M+H). HRMS calcd for C74H13N 915.1048; found 915.1039.
【0055】
試料1-1を次のように、有機溶媒で洗浄及び再結晶することにより、純度を向上させ
た試料1-2を得た。
試料1-1をナスフラスコに採り、順にメタノール、アセトン、ジクロロメタン、TH
F、及びヘキサンで洗浄し、更にヘキサンークロロベンゼンから再結晶を行なった。
上澄みの溶媒を除去後、得られた固体に残った溶媒をエバポレーションし、更に真空ポ
ンプを用いて減圧下(1mmHg)にし、80℃の恒温槽中で15時間乾燥して、試料1
-2を得た。
【0056】
製造例2(化合物2)
【0057】
【化17】
【0058】
ヘプタナール (28.5mg, 0.25mmol), N-フェニルグリシン (76mg, 0.5mmol), 及びC60
ラーレン (175mg, 0.25mmol) を、トルエン100ml中で110℃で24時間撹拌した。冷却後
、溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2, n-ヘキサン:トルエン=10:
1)により分離し、化合物2(163mg, 70.6%)を得た後、さらに分取GPC(クロロホル
ム)で精製して、化合物2の試料2-1を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ: 0.88 (3H, t, J=6.9Hz), 1.25-1.40 (4H, m), 1.40-1.60 (2H, m), 1
.72-1.86 (2H, m), 2.40-2.52 (1H, m), 2.58-2.70 (1H, m), 5.09 (1H, d, J=10.5Hz),
5.39 (1H, d, J=10.5Hz), 5.66 (1H, d-d, J=7.8, 5.0Hz), 7.00 (1H, d-d, J=7.3, 7.3H
z), 7.30 (2H, d, J=7.3Hz), 7.45 (2H, d-d, J=7.3, 7.3Hz)。
【0059】
試料2-1を、さらにHPLC(使用カラム:コスモシールBuckyprep(20
φx250mm)(ナカライテスク社);溶媒:トルエン)により精製した。ここで得ら
れた試料を次のように、有機溶媒で洗浄及び再結晶することにより、純度を向上させた試
料2-2を得た。
試料2-1をナスフラスコに採り、順にメタノール、アセトン、ジクロロメタン、TH
F、及びヘキサンで洗浄し、更にヘキサンークロロベンゼンから再結晶を行なった。
上澄みの溶媒を除去後、得られた固体に残った溶媒をエバポレーションし、更に真空ポ
ンプを用いて減圧下(1mmHg)にし、80℃の恒温槽中で15時間乾燥して、試料2
-2を得た。
【0060】
製造例3(化合物3)
【0061】
【化18】
【0062】
(1)2,5,8-トリオキサデカナールの合成工程
Journal of Organic Chemistry 1996年61巻9070頁に記載の方法に従って、下記の方法
で2,5,8-トリオキサデカナールを合成した。
【0063】
まず、塩化オキサリル(3mL)の塩化エチレン溶液(75mL)中にジメチルスルホキシ
ド(DMSO)(5mL)の塩化エチレン溶液(15mL)を-78℃で滴下した。これに-78℃で2,5
,8-トリオキサデカノール(5mL)及び塩化エチレン溶液(30mL)を加え、この温度でさ
らにトリエチルアミン(20mL)を加えて30分間撹拌した後、室温で15時間撹拌した。溶
媒を溜去し、反応物をシリカゲルカラムクロマト(溶離液CH2Cl2:EtOH=10:1)で分離し、
2,5,8-トリオキサデカナールを得た。
1H-NMR(CDCl3):δ 3.34 (3H, s), 3.45-3.75 (8H, m), 4.16 (2H, bs), 9.80 (1H, s)。
【0064】
(2)化合物3の合成工程
N-フェニルグリシン(76mg、0.5mmol)、C60フラーレン(360mg, 0.5mmol)及び上記
方法で合成した2,5,8-トリオキサデカナール(324mg, 0.5mmol)をクロロベンゼン(200
mL)中で120℃で72時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカ
ラムクロマト(トルエン:酢酸エチル=50:1)で分離し、化合物3を194mg得た後(収率
40.0%)、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製して、化合物3の試料3-1を得た

1H-NMR(CDCl3):δ 3.34 (3H, s), 3.45-3.76 (8H, m), 4.40 (1H, d-d, J=10.3, 2.8Hz)
, 4.59 (1H, d-d, J=10.3, 6.2Hz), 5.30 (2H, s), 5.84 (1H, d, J=6.2, 2.8Hz), 7.01
(1H, t, J=7.7Hz), 7.28 (2H, d, J=8.0Hz), 7.47 (2H, d-d, J=8.0, 7.7Hz)。
【0065】
試料3-1を、さらにHPLC(使用カラム:コスモシールBuckyprep(20
φx250mm)(ナカライテスク社);溶媒:トルエン)により精製した。ここで得ら
れた試料を次のように、有機溶媒で洗浄及び再結晶することにより、純度を向上させた試
料3-2を得た。
試料3-1をナスフラスコに採り、順にメタノール、アセトン、ジクロロメタン、TH
F、及びヘキサンで洗浄し、更にヘキサンークロロベンゼンから再結晶を行なった。
上澄みの溶媒を除去後、得られた固体に残った溶媒をエバポレーションし、更に真空ポ
ンプを用いて減圧下(1mmHg)にし、80℃の恒温槽中で15時間乾燥して、試料3
-2を得た。
【0066】
化合物1の試料の純度決定
化合物1の試料1-1(比較例1-1)及び試料1-2(実施例1-2)の純度を、元
素分析により決定した。
元素分析は、元素分析装置CHN-Corder MT6型(ヤナコ社)を用いて、各
試料を燃焼させて得られた気体(CO、HO、及びN)の量比を測定し、これに基
づいて、炭素、水素、及び窒素の質量パーセントを求めた。
<化合物1の分子式>C7413
<炭素、水素、及び窒素の質量パーセントの理論値(同位体比を考慮し化合物の炭素;
水素;窒素の重量比を計算して求めた)>
C:97.04%; H:1.43%; N:1.53%
<炭素、水素、及び窒素の質量パーセントの実測値>
C:93.78%; H:1.82%; N:1.44%
炭素、水素、及び窒素について、元素分析の理論値と実測値の差のうち、その絶対値が
最も大きなものの絶対値をDmax(%)として、試料の純度を次式により算出した。
試料の純度(%)=100-Dmax
その結果を以下に示す。
【0067】
試料1-1
炭素についての元素分析の理論値と実測値の差=-3.26%、Dcarbon=3.26%
水素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.39%、Dhydrogen=0.39%
窒素についての元素分析の理論値と実測値の差=-0.09%、Dnitrogen=0.09%
max=Dcarbon=3.26%
純度:97.0%
【0068】
試料1-2
炭素についての元素分析の理論値と実測値の差=-0.56%、Dcarbon=0.56%
水素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.33%、Dhydrogen=0.33%
窒素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.13%、Dnitrogen=0.13%
max=Dcarbon=0.56%
純度:99.4%
【0069】
化合物2及び3の試料の純度決定
化合物2の試料(試料2-1(比較例2-1)及び試料2-2(実施例2-2))及び
化合物3の試料(試料3-1(比較例3-1)及び試料3-2(実施例3-2))につい
て、前記化合物1の試料の純度決定と同様にして、元素分析により決定した。
その結果を以下に示す。
試料2-1
炭素についての元素分析の理論値と実測値の差=-3.41%、Dcarbon=3.41%
水素についての元素分析の理論値と実測値の差=+1.09%、Dhydrogen=1.09%
窒素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.73%、Dnitrogen=0.73%
max=Dcarbon=3.41%
純度:96.6%
試料2-2
炭素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.71%、Dcarbon=0.71%
水素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.29%、Dhydrogen=0.29%
窒素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.18%、Dnitrogen=0.18%
max=Dcarbon=0.71%
純度:99.3%
試料3-1
炭素についての元素分析の理論値と実測値の差=-1.18%、Dcarbon=1.18%
水素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.04%、Dhydrogen=0.04%
窒素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.06%、Dnitrogen=0.06%
max=Dcarbon=1.18%
純度:98.8%
試料3-2
炭素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.30%、Dcarbon=0.33%
水素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.20%、Dhydrogen=0.20%
窒素についての元素分析の理論値と実測値の差=+0.22%、Dnitrogen=0.22%
max=Dcarbon=0.33%
純度:99.7%
【0070】
各試料について、以下に示す手順により太陽電池を作製し、性能評価を行なった。
【0071】
性能試験例1
n型半導体材料として、前記製造例で得た試料1-1又は試料1-2を用い、p型半導
体材料として、P3HT(ポリ3-ヘキシルチオフェン)又はPTB7を用い、電荷輸送
層材料としてPEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ
(4-スチレンスルフォネート))を用い、及び電極として、ITO(酸化インジウムス
ズ)(陽極)及びアルミニウム(陰極)を用いて、後記の方法で試験用太陽電池を作製し
、及びその性能を評価した。
【0072】
(1)試験用太陽電池の作製
以下の手順により試験用太陽電池を作製した。
1)基板の前処理
ITOパターニングガラス板(三容真空社製)をトルエン、アセトン、水、及びIPA
(イソプロピルアルコール)の順に超音波で各15分間洗浄した。
次に、ITOガラス板をUVオゾンクリーナー装置(Filgen社、UV253)中
に入れて、酸素ガス6分間、オゾンガス30分~60分間、及び窒素ガス2分間の順で洗
浄処理した。
2)PEDOT:PSS薄膜の作製
ABLE/ASS-301型のスピンコート法製膜装置を用い、PEDOT:PSS混
合溶液を用いて、前記1)で前処理を施したITOガラス板上に、電荷輸送層としてのP
EDOT:PSS薄膜を形成させた。
スピンコート条件は、500rpm(5秒間)及び3000rpm(1分間)とした。
形成されたPEDOT:PSS薄膜の膜厚は約30nmであった。
3)アニーリング
前記2)で得た、表面上にPEDOT:PSS薄膜を配置されたITO板を、135℃
、及び大気雰囲気の条件下でホットプレートの上に置いて、10分間、アニーリングした
。アニーリング後、室温まで冷却した。
4)有機半導体膜の作製
スピンコート法製膜装置(マニュアルスピンナー)(ミカサ社、MS-100)を用い
、それぞれ事前に溶かしたP3HT又はPTB7と化合物1の試料1-1又は試料1-2
を含有する溶液を、前記PEDOT:PSS薄膜上にスピンコート(1200rpm、2
分間)して、厚さ約100~150nmの有機半導体薄膜(光変換層)を有する積層体を
得た。
前記溶液における溶媒としては、クロロベンゼン(ジヨードオクタンを3%(v/v)
添加)を用いた。
5)金属電極の真空蒸着
小型高真空蒸着装置(エイコー社、VX-20)を用い、前記4)で作製した積層体を高
真空蒸着装置中のマスクの上に置き、陰極として30nmのカルシウム層と80nmのア
ルミニウムを順次蒸着した。
【0073】
(2)擬似太陽光照射による電流測定
擬似太陽光照射による電流測定には、ソースメーター(Keithley社、型番2400)、電流
電圧計測ソフト及び疑似太陽光照射装置(三永電気製作所社、XES-301S)を用いた。
前記(1)で作製した各試験用太陽電池に対して一定量の疑似太陽光を照射して、発生
した電流と電圧を測定して、以下の式によりエネルギー変換効率を算出した。
短絡電流、開放電圧、曲線因子(FF)及び変換効率の測定結果を表1に示す。尚、変換
効率は、下記式により求めた値である。
変換効率η(%)=FF(Voc×Jsc/Pin)×100
FF:曲線因子、Voc:開放電圧、Jsc:短絡電流、Pin:入射光強度(密度)
【表1】
【0074】
表1から明らかなように、純度99.4%の化合物1を用いた場合、純度97%の化合
物1を用いた場合に比べて、変換効率が著しく高かった。また、N型半導体材料としての
化合物1との組み合わせにおいて、p型半導体材料としてPTB7を用いた場合、P3H
Tを用いた場合に比べて、変換効率が著しく高かった。そして、n型半導体材料として純
度99.4%の化合物1を用い、かつp型半導体材料としてPTB7を用いた場合、極め
て高い変換効率が得られた。
【0075】
性能試験例2
性能試験例1と同様の方法で、n型半導体材料として前記製造例2で得た試料2-1、
又は試料2-2を用いて試験用太陽電池を作製し、及びその性能を評価した。その結果を
表2に示す。
【表2】
【0076】
性能試験例3
性能試験例1と同様の方法で、n型半導体材料として前記製造例3で得た試料3-1、
又他は試料3-2を用いて試験用太陽電池を作製し、及びその性能を評価した。その結果
を表3に示す。
【表3】