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特許7195547リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、それを含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
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  • 特許-リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、それを含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、それを含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20221219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221219BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221219BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019572588
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 KR2018012447
(87)【国際公開番号】W WO2019078685
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2019-12-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】10-2017-0136890
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ヒ・ジュ
【合議体】
【審判長】清水 稔
【審判官】須原 宏光
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-40382(JP,A)
【文献】特開2013-137947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して60モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物と、
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に形成され、リチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層とを含み、
前記リチウム含有無機化合物は、Li BO 、α‐Li 、β‐Li 5、 Li 9、 α‐LiBO 、Li 、Li 12 、LiB 及びLi 13 からなる群より選択される一つ以上である、正極活物質。
【請求項2】
前記ニッケル酸化物及び前記ニッケルオキシ水酸化物は岩塩結晶構造を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記コーティング層は、前記ニッケル酸化物と前記ニッケルオキシ水酸化物を1~5:1の重量比で含む、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記正極活物質をX線光電子分光分析によって測定したスペクトルにおいて、結合エネルギーが60eVから80eVの領域と110eVから120eVの領域でそれぞれピークが現われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表され、
[化学式1]
Li1+a(NiCo 1-a
前記化学式1中、
Xは、Mn及びAlからなる群より選択される少なくとも一つ以上であり、
は、Zr、B、Al、Co、W、Mg、Ce、Ta、Ti、Sr、Ba、Ce、Hf、F、P、S、La及びYからなる群より選択される少なくとも一つ以上であり、
0≦a≦0.1、0.6≦b≦1.0、0≦c≦0.3、0≦d≦0.3、0≦e≦0.1である、請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して60モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を無機酸水溶液に混合してpH6から10の懸濁溶液を製造するステップと、
前記懸濁溶液を乾燥して200℃から400℃で低温熱処理することで、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層を形成するステップとを含み、
前記リチウム含有無機化合物は、Li BO 、α‐Li 、β‐Li 5、 Li 9、 α‐LiBO 、Li 、Li 12 、LiB 及びLi 13 からなる群より選択される一つ以上である、正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記混合によって前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物に含まれるリチウムイオン及びニッケルイオンが前記無機酸水溶液に解離される、請求項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記無機酸水溶液に解離されたリチウムイオンと前記無機酸水溶液に含まれる無機酸の酸塩基反応によってリチウム含有無機化合物が形成される、請求項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記無機酸水溶液に解離されたニッケルイオンと前記無機酸水溶液に含まれる酸素または水素が反応してニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物が形成される、請求項又はに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記無機酸水溶液はpH1からpH6である、請求項からのいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記無機酸水溶液は、ホウ酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、フッ酸及び臭化水素酸からなる群より選択される一つ以上を含む、請求項から10のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項12】
請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極。
【請求項13】
請求項12に記載のリチウム二次電池用正極を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年10月20日付韓国特許出願第2017-0136890号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に対する技術の開発と需要の増加に伴い、エネルギー源としての二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化されて広く用いられている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質にはリチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、この中でも作用電圧が高くて容量特性に優れたLiCoOなどのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に用いられている。しかし、LiCoOは、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため、熱的特性が非常に劣悪である。また、前記LiCoOは高価であるため、電気自動車などのような分野の動力源として大量で使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoOを代替するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リン酸鉄リチウム化合物(LiFePOなど)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiOなど)などが開発された。この中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有するため、大容量の電池の具現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に対する研究/開発がより活発に行われている。しかし、前記LiNiOは、LiCoOに比べて熱安定性が劣り、充電の状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると、正極活物質そのものが分解されて電池の破裂及び発火をもたらす問題があった。そのため、前記LiNiOの優れた可逆容量は維持しながらも、低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をCo及びMnまたはAlで置換したリチウムニッケルコバルト金属酸化物が開発された。
【0006】
しかし、前記リチウムニッケルコバルト金属酸化物の場合、充電/放電を繰り返えすに伴って、活物質を含む電極と電解質の間の界面抵抗の増加、電池内部の水分やその他の影響による電解質の分解、活物質の表面構造の劣化、及び急激な構造の崩壊を伴う発熱反応などにより、電池の安全性及び寿命特性が急激に低下する問題点があり、このような問題は高温及び高電圧条件で特に深刻である。
【0007】
このような問題点を解決するため、リチウムニッケルコバルト金属酸化物をドープすることによって活物質自体の構造的安定性を向上させ、前記リチウムニッケルコバルト金属酸化物の表面をコーティングすることによって表面安定性を向上させるだけでなく、電解質と活物質の間の界面安定性を高める方法等が提案されている。従来には、正極活物質を合成する際、表面に乾式コーティング方式を利用してコーティング層を形成する方法が行われていた。しかし、この場合、表面にコーティング層を均一に形成することが容易でないため、その効果及び工程の面で十分満足できなかった実情である。
【0008】
したがって、リチウムニッケルコバルト金属酸化物を含み、このとき、前記リチウムニッケルコバルト金属酸化物の表面に均一なコーティング層を形成することにより、抵抗が減少し、安定性及び寿命特性が向上された電池を製造することができる正極活物質の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のような問題点を解決するため、本発明の第1の技術的課題は、リチウム遷移金属酸化物の表面に均一に形成されたコーティング層を含むことにより、寿命特性が向上された正極活物質を提供することである。
【0010】
本発明の第2の技術的課題は、無機酸水溶液のpHを調整することによってコーティング層に生成される化合物の割合を調節可能な正極活物質の製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の第3の技術的課題は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供することである。
【0012】
本発明の第4の技術的課題は、前記リチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して60モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物と、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に形成され、リチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層とを含む、正極活物質を提供する。
【0014】
また、本発明は、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して60モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を無機酸水溶液に混合してpH6から10の懸濁溶液を製造するステップと、前記懸濁溶液を乾燥して200℃から400℃で低温熱処理することで、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層を形成するステップとを含む、正極活物質の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明に係る正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極を提供する。
【0016】
また、本発明に係る正極を含む、リチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、無機酸に高含量のニッケルを含むリチウム遷移金属酸化物を混合してpH6から10の懸濁溶液で湿式工程を行うことにより、リチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層を均一に形成することができる。特に、前記コーティング層に含まれるニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物は、構造的安定性が高い岩塩(rock salt)結晶構造を有し、リチウムイオン伝導性を有するため、これを電池に適用した時に充電/放電の効率が向上された電池を提供することができる。
【0018】
また、前記高含量のニッケルを含むリチウム遷移金属酸化物の表面にコーティング層を均一に形成することにより、高容量を示しながらも正極活物質の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る正極活物質を示した模式図である。
図2】実施例1で製造した正極活物質の透過型電子顕微鏡(TEM)イメージである。
図3】実施例1及び比較例1で製造した正極活物質のXPSスペクトルを示したグラフである。
図4】実施例1及び比較例1で製造した正極活物質のサイクルに従う寿命維持率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
本明細書及び特許請求の範囲に用いられた用語や単語は、通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0022】
本発明に係る正極活物質は、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して60モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物と、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に形成され、リチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層とを含むものである。
【0023】
これに関し、図1は、本発明に係る正極活物質を示した模式図である。図1に示す通り、前記正極活物質100は、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物10と、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物10の表面に形成され、リチウム含有無機化合物11、ニッケル酸化物12及びニッケルオキシ水酸化物13を含むコーティング層とを含むことができる。
【0024】
より具体的に、前記正極活物質は、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して60モル%以上、好ましくは60モル%から99モル%のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含むことができる。前記のように高含量のニッケルを含む場合、これを電池に適用した時に電池の容量特性を向上させることができる。
【0025】
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物は、ドーピング元素Mでドープされることをさらに含み得る。例えば、前記リチウム遷移金属酸化物は、金属元素Mでさらにドープされる場合、リチウム遷移金属酸化物の構造安定性を確保することができ、これによって寿命特性が向上され得る。
【0026】
例えば、前記ドーピング元素Mは、Zr、B、Al、Co、W、Mg、Ce、Ta、Ti、Sr、Ba、Ce、Hf、F、P、S、La及びYからなる群より選択される少なくとも一つ以上であってよく、好ましくは、SまたはZrを含むことができる。
【0027】
より好ましくは、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されるものであってよい:
[化学式1]
Li1+a(NiCo 1-a
前記化学式1中、Xは、Mn及びAlからなる群より選択される少なくとも一つ以上であり、Mは、Zr、B、Al、Co、W、Mg、Ce、Ta、Ti、Sr、Ba、Ce、Hf、F、P、S、La及びYからなる群より選択される少なくとも一つ以上であり、0≦a≦0.1、0.6≦b≦1.0、0≦c≦0.3、0≦d≦0.3、0≦e≦0.1である。
【0028】
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物は、好ましくは、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(1.0≦x≦1.10)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(1.0≦x≦1.10)、LiNi0.87Co0.07Mn0.06(1.0≦x≦1.10)、LiNi0.9Co0.05Mn0.05(1.0≦x≦1.10)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1Al0.05(1.0≦x≦1.10)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2Al0.05(1.0≦x≦1.10)、LiNi0.87Co0.07Mn0.06Al0.03(1.0≦x≦1.10)、LiNi0.9Co0.05Mn0.05Al0.03(1.0≦x≦1.10)及びLiNi0.95Co0.03Mn0.02Al0.02(1.0≦x≦1.10)からなる群より選択される少なくとも一つ以上であってよい。
【0029】
また、前記正極活物質は、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に形成され、リチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層を含む。
【0030】
具体的に、前記リチウム含有無機化合物は、LiBO、LiPO、LiPO、LiP、α‐Li、β‐Li5、Li9、α‐LiBO、Li、Li12、LiB及びLi13からなる群より選択される少なくとも一つ以上であってよい。前記のように、リチウムを含有する無機化合物が前記リチウム遷移金属酸化物の表面に形成されることからリチウムイオンの移動性が向上でき、これによって正極活物質の電気伝導度が向上され、これを適用した電池の充電/放電の効率が向上され得る。特に、前記リチウム含有無機化合物がイオン伝導度に優れたLiBOを含む場合、これを含む正極活物質の抵抗を減少させて充電/放電の効率及び寿命特性が向上され得る。前記LiBOは、固相工程によっては合成が容易でなく、湿式工程によってのみ合成されるものであってよい。
【0031】
前記コーティング層は、リチウム含有無機化合物に分布されたニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むことができる。例えば、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層が単層に形成されるか、もしくは、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物の層が形成され、リチウム含有無機化合物の層の表面にニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物の層が形成された二重層に形成されてよい。
【0032】
このとき、前記ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物は、岩塩(rock salt)結晶構造を有する。前記岩塩結晶構造とは、金属原子が周りに正八面体の形状に位置した6個の酸素原子によって配位された面心立方構造(face centered cubic structure)を意味する。このような岩塩結晶構造を有する化合物は、構造的安定性が高くてリチウムイオン伝導性を有する。
【0033】
前記コーティング層が構造的安定性の高い岩塩結晶構造を有するニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むことから、正極活物質の表面安定性及び構造安全性を確保することができ、電解液との副反応を防止するので、電池に適用した時に寿命特性を改善することができる。
【0034】
前記コーティング層は、前記コーティング層の全重量に対し、リチウム含有無機化合物と、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むニッケル化合物とを(10~90):(90~10)の重量比で含むことができ、好ましくは、リチウム含有無機化合物をニッケル化合物よりさらに高い含量で含むことができる。この場合、構造的安定性が高い岩塩構造の化合物の形成によって正極活物質の表面安定性が向上され得る。一方、前記コーティング層の全重量部に対し、前記ニッケル化合物が前記リチウム含有無機化合物よりさらに高い含量で含まれる場合、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物から溶解されたニッケルの含量が増加したものであるため、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物に含まれるニッケルの含量が減少し、却ってこれを含む正極活物質の構造安定性が低下し、これによって寿命特性が低下し得る。
【0035】
前記コーティング層は、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を1から5:1の重量比で含むものであってよい。前記ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を1から5:1、好ましくは1から3:1の割合で含むことによって正極活物質の表面安定性を確保することから、これを適用した二次電池の寿命特性を改善することができる。
【0036】
前記正極活物質は、X線光電子分光分析(X‐ray photoelectron spectroscopy、XPS)によって測定したスペクトルにおいて、結合エネルギー(binding energy)が60eVから80eVの領域と110eVから120eVの領域でそれぞれピークが現われるものであってよい。前記コーティング層に含まれるニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物が前記の範囲でXPSピークを現わすことから、表面にニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物が形成されていることを確認することができる。
【0037】
前記コーティング層は、前記リチウム遷移金属酸化物の表面全体にかけて均一に形成されるものであってよい。
【0038】
前記コーティング層は、1nmから500nm、好ましくは1nmから100nm、最も好ましくは3nmから20nmの厚さで形成されてよく、前記範囲を満たす場合、正極活物質と電解液との接触を遮断して副反応の発生が抑えられるので、寿命特性を向上させることができる。
【0039】
また、本発明は、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して60モル%以上のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を無機酸水溶液に混合してpH6から10の懸濁溶液を製造するステップと、前記懸濁溶液を乾燥して200℃から400℃で低温熱処理することで、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層を形成するステップとを含む、正極活物質の製造方法を提供する。
【0040】
先ず、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対して60モル%以上、好ましくは60モル%から99モル%のニッケルを含むニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を無機酸水溶液に混合することで、pH6からpH10、好ましくはpH7からpH9の懸濁溶液を製造する。
【0041】
前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物は、60モル%以上のニッケルを含んで高容量特性を示す化合物であれば制限なく用いられてよく、好ましくは、下記化学式1で表されるものであってよい:
[化学式1]
Li1+a(NiCo 1-a
前記化学式1中、Xは、Mn及びAlからなる群より選択される少なくとも一つ以上であり、Mは、Zr、B、Al、Co、W、Mg、Ce、Ta、Ti、Sr、Ba、Ce、Hf、F、P、S、La及びYからなる群より選択される少なくとも一つ以上であり、0≦a≦0.1、0.6≦b≦1.0、0≦c≦0.3、0≦d≦0.3、0≦e≦0.1である。
【0042】
具体的に、前記無機酸水溶液に前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を混合する場合、前記無機酸水溶液の酸度により、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に存在する遷移金属、特にリチウムイオン及びニッケルイオンが前記無機酸水溶液内に解離され得る。
【0043】
例えば、前記懸濁溶液の酸度は、前記無機酸水溶液に含まれる無機酸の濃度、前記懸濁溶液に投入されるニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面残留リチウムの含量、または、無機酸水溶液とニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の混合量によって調節されるものであってよく、例えば、前記無機酸水溶液の酸度を調節することにより、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物のリチウムイオン及びニッケルイオンが前記無機酸水溶液内に解離される量を調節することができる。
【0044】
前記無機酸水溶液はpH1からpH6であってよい。前記懸濁溶液は、pH6からpH10、より好ましくはpH7からpH9であってよい。例えば、前記懸濁溶液の酸度が高いほど、無機酸水溶液の酸度も高いものであり、そのため、前記懸濁溶液内に解離されるニッケルイオンの量が増加し得る。前記懸濁溶液のpHが前記範囲を外れてpH10を超過する場合、懸濁溶液に解離されるニッケルイオンの量が減少することがあり、pH6未満の場合、強い酸度によってニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面に損傷(damage)を引き起こし得る。
【0045】
このとき、前記懸濁溶液内に解離されたリチウムイオンと前記懸濁溶液に含まれる無機酸が酸塩基反応し、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物が形成されるものであってよい。例えば、前記リチウム含有無機化合物は、下記のような反応によって生成されるものであってよい。
3LiCO + 2HBO → 2LiBO + 3HO + 3CO
3LiOH + HBO → LiBO + 3H
【0046】
前記無機酸水溶液は、ホウ酸(HBO)、リン酸(P、HPO)、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、炭酸(HCO)、フッ酸(HF)及び臭化水素酸(HBr)からなる群より選択される少なくとも一つ以上を含むことができる。
【0047】
最後に、前記懸濁溶液を100℃から200℃のオーブンで10時間から15時間乾燥し、200℃から400℃、好ましくは260℃から350℃で低温熱処理することで、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層を形成する。
【0048】
具体的に、前記懸濁溶液内に解離されたニッケルイオンは、乾燥の過程で前記無機酸水溶液に含まれる酸素及び水素とそれぞれ結合し、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表面にニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を形成するものであってよい。前記ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物は、前記リチウム含有無機化合物の層に均一に分布するようになり、最終的に、正極活物質の表面にリチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物を含むコーティング層を形成することができる。
【0049】
例えば、前記ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物が、リチウムを除いた遷移金属の総モル数に対してニッケルを60モル%未満で含む場合、前記リチウム遷移金属酸化物に含まれるニッケル含量の低減によって表面上のニッケル及び残留リチウムの含量も低減されるため、リチウム遷移金属酸化物と無機酸水溶液を混合するとしても、ニッケルイオン及びリチウムイオン、特にニッケルイオンが無機酸水溶液内に解離されなくなる。よって、リチウム遷移金属酸化物の表面にニッケル酸化物、ニッケルオキシ水酸化物及びリチウム含有無機化合物を含むコーティング層を形成することは容易でなくなる。
【0050】
一方、前記懸濁溶液を乾燥させる際、懸濁溶液をフィルタリングした後で乾燥させる場合、前記リチウム遷移金属酸化物の表面に形成されたニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物が前記フィルタリングによって除去され得る。しかし、本願発明のように、懸濁溶液をフィルタリングすることなくオーブンを利用して乾燥させる場合、正極活物質の表面にニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物が維持され得る。
【0051】
併せて、前記懸濁溶液を乾燥させた後、200℃から400℃で低温熱処理を行うことにより、前記懸濁溶液中に含まれている残留溶液(水)を除去することができ、前記熱処理によってリチウム遷移金属酸化物の表面にリチウム含有無機化合物、ニッケル酸化物及びニッケルオキシ水酸化物が硬化され、コーティング層として形成されるものであってよい。前記熱処理温度が前記範囲以上で行われる場合、コーティング層に含まれているニッケルオキシ水酸化物がニッケル酸化物に変換されることがあり、この場合、正極活物質の表面安定性を確保できないので、結果的に寿命特性が低下し得る。
【0052】
前記コーティング層は、1nmから500nm、好ましくは1nmから100nm、最も好ましくは3nmから20nmの厚さを有し、リチウム遷移金属酸化物の表面全体にかけて均一に形成され得る。
【0053】
また、本発明に係る正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極を提供する。具体的に、前記二次電池用正極は、正極集電体、前記正極集電体上に形成された正極活物質層を含み、前記正極活物質層は本発明に係る正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極を提供する。
【0054】
このとき、前記正極活物質は、前述したところと同一なので具体的な説明を省略し、以下では他の構成に対してのみ具体的に説明する。
【0055】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく、且つ導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが用いられてよい。また、前記正極集電体は、通常、3μmから500μmの厚さを有してよく、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態に用いられてよい。
【0056】
前記正極活物質層は、前記正極活物質とともに、導電材、及び必要に応じて選択的にバインダーを含むことができる。
【0057】
このとき、前記正極活物質は、正極活物質層の全重量に対して80から99重量%、より具体的には、85から98.5重量%の含量で含まれてよい。前記含量の範囲で含まれるとき、優れた容量特性を示すことができる。
【0058】
前記導電材は、電極に導電性を与えるために用いられるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性を有するものであれば、特別な制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてよい。前記導電材は、正極活物質層の全重量に対して0.1から15重量%で含まれてよい。
【0059】
前記バインダーは、正極活物質粒子同士の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を担う。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ビニリデンフルオリド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体が挙げられ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてよい。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して0.1から15重量%で含まれてよい。
【0060】
前記正極は、前記正極活物質を使用することを除き、通常の正極の製造方法により製造され得る。具体的に、前記正極活物質、及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することで製造することができる。
【0061】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般に用いられる溶媒であればよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)、または水などが挙げられ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてよい。前記溶媒の使容量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材、及びバインダーを溶解または分散させ、後続の正極製造のための塗布時に優れた厚さ均一性を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0062】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0063】
また、本発明は、前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的に、電池、キャパシタなどであってよく、より具体的にはリチウム二次電池であってよい。
【0064】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質と、を含む。前記正極は、前記で説明したところと同一なので具体的な説明を省略し、以下では他の構成に対してのみ具体的に説明する。
【0065】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、及び前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0066】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体、及び前記負極集電体上に位置する負極活物質層を含む。
【0067】
前記負極集電体としては、電池に化学的変化を誘発することなく、且つ高い導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが用いられてよい。また、前記負極集電体は、通常、3μmから500μmの厚さを有し、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成することで、負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態に用いられてよい。
【0068】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダー及び導電材を含む。
【0069】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的な挿入及び脱離が可能な化合物が使用可能である。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金、またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープ及び脱ドープできる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用可能である。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料としては、低結晶性炭素及び高結晶性炭素などのいずれが用いられてもよい。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)及びハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、麟片状、球状、または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso‐carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)、及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0070】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量を基準に80重量%から99重量%で含まれてよい。
【0071】
前記バインダーは、導電材、活物質及び集電体の間の結合を助ける成分であって、通常、負極活物質層の全重量を基準として0.1重量%から10重量%で添加される。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン‐ブタジエンゴム、ニトリル‐ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体などが挙げられる。
【0072】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であって、負極活物質層の全重量を基準として10重量%以下、好ましくは5重量%以下で添加されてよい。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく、且つ導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが用いられてよい。
【0073】
例えば、前記負極活物質層は、負極集電体上に、負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布して乾燥するか、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されてよい。
【0074】
前記負極活物質層は、一例として、負極集電体上に、負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布して乾燥するか、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0075】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、且つリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、リチウム二次電池でセパレータとして通常用いられるものであれば特に制限されずに使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対する抵抗が低く、且つ電解液含浸能に優れたものが好適である。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体が使用可能である。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するために、セラミック成分または高分子物質がコーティングされたセパレータが用いられてもよく、選択的に、単層または多層構造として用いられてもよい。
【0076】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0077】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含んでもよい。
【0078】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たすことができるものであれば特に制限されずに用いられてよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状、または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてよい。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充電/放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなど)との混合物がより好ましい。この際、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して用いることが、電解液の性能に優れてよい。
【0079】
前記リチウム塩としては、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供できる化合物であれば特に制限されずに使用可能である。具体的に、前記リチウム塩としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが用いられてよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で用いることが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲内である場合、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0080】
前記電解質には、前記の電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノール、または三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。この際、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1~5重量%で含まれてよい。
【0081】
前記のように、本発明に係る正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性、及び寿命特性を安定して示すため、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0082】
これにより、本発明の他の一態様によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール、及びそれを含む電池パックが提供される。
【0083】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として利用され得る。
【0084】
本発明のリチウム二次電池の外形は特に制限されないが、缶を用いた円筒形、角形、パウチ(pouch)形、またはコイン(coin)形などが可能である。
【0085】
本発明に係るリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに使用可能であるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールにおける単位電池としても好適に使用可能である。
【0086】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は幾多の他の形態に変形されてよく、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業者に、本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0087】
実施例1
LiNi0.8Co0.1Mn0.1 300gをpH4のHBO 100mLに混合してpH9の懸濁溶液を製造した後、0.5時間反応させた。これを150℃のオーブンで12時間乾燥させた後、280℃で熱処理することで、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にLiBO、Li、Li12及びLiBを含むLi‐B‐O化合物、NiO及びNiOOHを含む5nmのコーティング層が形成された正極活物質を製造した。このとき、生成されたコーティング層に含まれるNiO及びNiOOHの重量比は2:1であった。
【0088】
前記で製造した正極活物質:カーボンブラック導電材:PVdFバインダーを95:2.5:2.5の重量比でN‐メチルピロリドン溶媒の中で混合することにより、正極形成用組成物を製造した。これを厚さ20μmのAl集電体に塗布した後、乾燥し、ロールプレスを実施して正極を製造した。
【0089】
一方、対極としてリチウム金属を用いた。
【0090】
前記で製造した正極とリチウム金属をセパレータ(Celgard社製)とともに積層して電極組立体を製造した後、これを電池ケースに入れ、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):ジエチルカーボネート(DEC)を40:30:30の体積比で混合した混合溶媒に1MのLiPFを溶解させた電解液を注入することで、リチウム二次電池を製造した。
【0091】
実施例2
LiNi0.8Co0.1Mn0.1 300gをpH2のHPO 100mLに混合し、pH7の懸濁溶液を用いて、LiPO、LiPO、NiO及びNiOOHを含むコーティング層を形成しており、前記コーティング層に含まれるNiO及びNiOOHの重量比が5:1である正極活物質を用いることを除き、前記実施例1と同様の方法を利用して正極及びこれを含むリチウム二次電池を製造した。
【0092】
実施例3
LiNi0.8Co0.1Mn0.1 300gをpH6のHBO水溶液150mLに混合し、pH10の懸濁溶液を用いて、コーティング層に含まれるNiO及びNiOOHの重量比が1:1である正極活物質を用いることを除き、前記実施例1と同様の方法を利用して正極及びこれを含むリチウム二次電池を製造した。
【0093】
比較例1
LiNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)及びLiOHを1:1.03の重量比で混合した後、これを800℃で焼成することで、LiNi0.8Co0.1Mn0.1を製造した。これを25℃以下の蒸留水を用いて水洗した。前記水洗されたLiNi0.8Co0.1Mn0.1とHBOを、1:0.01の重量比でFM混合機を利用して乾式混合した後、280℃で熱処理することで、表面にLiBO及びLiを含むLi‐B‐O化合物がLiNi0.8Co0.1Mn0.1の表面に不均一に形成された正極活物質を製造した。前記で製造した正極活物質を用いることを除き、実施例1と同様の方法を利用して正極及びこれを含むリチウム二次電池を製造した。
【0094】
比較例2
リチウム遷移金属酸化物及び無機酸水溶液を混合した懸濁溶液を乾燥させた後、熱処理の際に500℃で熱処理することで、リチウム遷移金属酸化物の表面にB、LiBO及びLi及びNiOを含むコーティング層を形成した正極活物質を用いることを除き、前記実施例1と同様の方法を利用して正極及びこれを含むリチウム二次電池を製造した。
【0095】
比較例3
リチウム遷移金属酸化物及び無機酸水溶液を混合した懸濁溶液を乾燥させるとき、減圧フィルターを利用してフィルタリングを行った後、熱処理を行うことで、リチウム遷移金属酸化物の表面にLiBO、LiBO及びLiを含むコーティング層を形成した正極活物質を用いることを除き、前記実施例1と同様の方法を利用して正極及びこれを含むリチウム二次電池を製造した。
【0096】
実験例1:正極活物質の表面特性の確認
前記実施例1で製造した正極活物質の表面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を利用してその表面特性を確認し、これを図2に示した。
【0097】
図2に点線で表示した部分に示されている通り、実施例1で製造した正極活物質の場合、正極活物質の結晶の成長が層状構造ではなく、岩塩構造に形成されたことを確認することができた。
【0098】
実験例2:コーティング層の光電子分光分析(XPS)
前記実施例1及び比較例1で製造した正極活物質に対し、K‐alpha社製のサーモ・サイエンティフィック(Thermo Scientific)装置を利用し、X線光電子分光法によって前記正極活物質に含まれるコーティング層を評価し、XPS分析の結果を図3に示した。
【0099】
実験の結果、実施例1で製造した正極活物質の場合、66.8eVでニッケル酸化物のピークが現われ、113.02eVでニッケルオキシ水酸化物のピークが現われることを確認することができた。
【0100】
しかし、比較例1で製造した正極活物質の場合、水洗の過程を行うことによってNiOピークが一部形成されたことを確認することができた。しかし、前記比較例1で製造した正極活物質の場合、生成されたNiOピークの強度が非常に軽微で、正極活物質の安定性を向上させる効果を大きく奏することができなかった。一方、前記比較例1で製造した正極活物質では、ニッケルオキシ水酸化物のピークが現われないことを確認した。
【0101】
実験例3:寿命特性の評価
前記実施例1~3及び比較例1~3で製造したリチウム二次電池のそれぞれに対して寿命特性を測定した。
【0102】
具体的に、実施例1~3及び比較例1~3で製造した二次電池を、それぞれ25℃で、1C定電流で4.4Vまで0.05Cカットオフ(cut off)で充電を実施した。その後、1C定電流で3Vになるまで放電を実施した。前記充電及び放電挙動を1サイクルとし、このようなサイクルを100回繰り返して実施した後、前記実施例1~3及び比較例1~3によるリチウム二次電池の容量維持率を測定し、これを図4及び下記表1に示した。
【0103】

【表1】
【0104】
実施例1及び3で製造した二次電池の場合、100回目のサイクルでの容量維持率が90%及び85%で、比較例1~3で製造した二次電池より優れることを確認することができた。実施例2で製造した二次電池の場合、無機酸溶液の酸度が強すぎるため、却って正極活物質の表面に欠陷が発生して寿命特性が多少低下したことを確認することができた。
【符号の説明】
【0105】
10 正極活物質
11 リチウム含有無機化合物
12 ニッケル酸化物
13 ニッケルオキシ水酸化物
100 正極活物質
図1
図2
図3
図4