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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】リフトオフ方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/57 20140101AFI20221219BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20221219BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20221219BHJP
【FI】
B23K26/57
H01L21/78 Y
B23K26/00 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018212063
(22)【出願日】2018-11-12
(65)【公開番号】P2020078808
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小柳 将
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103405(JP,A)
【文献】特開2013-107128(JP,A)
【文献】特開2015-204367(JP,A)
【文献】特開2007-173465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0132549(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面上にバッファ層を形成するバッファ層形成ステップと、
該バッファ層の上に光デバイス層を形成する光デバイス層形成ステップと、
該基板の表面上で、該バッファ層と、該光デバイス層と、を個々のデバイス毎に分割する分割ステップと、
個々のデバイス毎に分割された該光デバイス層の表面に移設部材を接合する移設部材接合ステップと、
該移設部材接合ステップを実施した後に、該基板に対しては透過性を有し該バッファ層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザを該基板の裏面側から該基板を透過させて該バッファ層に照射し、該バッファ層を破壊するバッファ層破壊ステップと、
該バッファ層破壊ステップを実施した後に、該光デバイス層を該基板から分離することで該光デバイス層を移設部材に移設する光デバイス層移設ステップと、を含み、
該バッファ層破壊ステップでは、該パルスレーザを該基板の該裏面よりも該バッファ層から離れた集光位置に集光し、該パルスレーザの1パルス当たりのエネルギー密度は1.0mJ/mm以上5.0mJ/mm以下であり、該パルスレーザは該光デバイス層と重なる該バッファ層のすべてに照射されるように走査されることを特徴とするリフトオフ方法。
【請求項2】
該バッファ層破壊ステップでは、該パルスレーザが複数回走査されることを特徴とする請求項1記載のリフトオフ方法。
【請求項3】
該移設部材は、エキスパンド性を有するテープであることを特徴とする請求項1又は2記載のリフトオフ方法。
【請求項4】
該バッファ層破壊ステップでは、該集光位置を該基板の該裏面から該基板の厚さの6倍~17倍の距離だけ離間させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のリフトオフ方法。
【請求項5】
該バッファ層破壊ステップでは、該集光位置を該基板の該裏面から2.0mm~5.0mmの距離だけ離間した位置に位置付けることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のリフトオフ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板と、基板上に形成された複数の光デバイス層と、基板及び複数の光デバイス層の間にそれぞれ設けられたバッファ層と、を備える光デバイスウェーハから光デバイス層を移設部材に移し替えるリフトオフ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode)などの光デバイスチップを形成する際には、例えば、サファイアやSiC等で形成された円板状の基板の表面に複数の交差する分割予定ラインを設定し、分割予定ラインによって区画された各領域に光デバイスを形成する。光デバイスは、例えば、pn接合を構成するn型半導体層及びp型半導体層を該基板の表面上にエピタキシャル成長させることにより形成される。その後、分割予定ラインに沿って基板を分割すると、光デバイスチップを形成できる。
【0003】
基板の分割には、切削装置やレーザ加工装置等の加工装置が使用される。例えば、レーザ加工装置を用いて基板を分割する場合、該基板に対して吸収性を有する波長のレーザビームを照射して分割予定ラインに沿ってアブレーション加工を実施し、レーザ加工溝を形成する(特許文献1参照)。基板が分割されて形成された個々の光デバイスチップは、所定の方法により個々にピックアップされ、電子機器や他の基板等に実装される。
【0004】
また、基板を分割せず光デバイスを基板から移設する方法として、n型半導体層及びp型半導体層を含む光デバイス層を基板から分離する手法が知られている。例えば、基板の表面にバッファ層を設け、バッファ層の上にエピタキシャル成長により光デバイス層を形成した後、基板を透過する波長のレーザビームを基板の裏面側から照射する。レーザビームによりバッファ層を破壊すると、基板と、光デバイス層と、を分離できる(特許文献2参照)。
【0005】
そして、基板と、光デバイス層と、を分離する前に、光デバイス層の上面に移設部材を接合すると、分離により光デバイス層は移設部材上に移設される。この方法は、レーザリフトオフ法とも呼ばれる。基板から分離された光デバイス層は、後に各デバイスに分割される。
【0006】
なお、バッファ層と、基板と、の界面近傍において、レーザビームによりバッファ層を十分に破壊(変質)できなければ光デバイス層のリフトオフに失敗するため、従来、確実に破壊(変質)を生じさせる加工条件でレーザビームがバッファ層に照射されていた。また、加工に要する時間を短縮させるためにも、レーザビームの1パルス当たりのエネルギー密度は可能な限り高められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-305420号公報
【文献】特開2013-21225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バッファ層上に形成された光デバイス層は、デバイス毎に分割されて使用される。バッファ層と、光デバイス層と、を基板上で予め個々の光デバイス毎に分割できると、光デバイス層を移設部材に移設した後に光デバイス層等を分割する必要がないため、光デバイスの形成が容易となる。
【0009】
しかし、分割により各光デバイス間でバッファ層と、光デバイス層と、が除去されていると、その後に基板の裏面側からレーザビームを照射したときに、個々の光デバイス間の隙間にもレーザビームが照射される。該隙間ではバッファ層が除去されておりレーザビームがバッファ層に吸収されないため、該隙間に照射されたレーザビームの熱的な影響により近傍の光デバイス層にチッピングやクラック等の損傷を生じさせるおそれがある。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、分割された状態で基板上に載る光デバイス層を、損傷を与えることなく移設部材に移設できるリフトオフ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によると、基板の表面上にバッファ層を形成するバッファ層形成ステップと、該バッファ層の上に光デバイス層を形成する光デバイス層形成ステップと、該基板の表面上で、該バッファ層と、該光デバイス層と、を個々のデバイス毎に分割する分割ステップと、個々のデバイス毎に分割された該光デバイス層の表面に移設部材を接合する移設部材接合ステップと、該移設部材接合ステップを実施した後に、該基板に対しては透過性を有し該バッファ層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザを該基板の裏面側から該基板を透過させて該バッファ層に照射し、該バッファ層を破壊するバッファ層破壊ステップと、該バッファ層破壊ステップを実施した後に、該光デバイス層を該基板から分離することで該光デバイス層を移設部材に移設する光デバイス層移設ステップと、を含み、該バッファ層破壊ステップでは、該パルスレーザを該基板の該裏面よりも該バッファ層から離れた集光位置に集光し、該パルスレーザの1パルス当たりのエネルギー密度は1.0mJ/mm以上5.0mJ/mm以下であり、該パルスレーザは該光デバイス層と重なる該バッファ層のすべてに照射されるように走査されることを特徴とするリフトオフ方法が提供される。
【0012】
好ましくは、該バッファ層破壊ステップでは、該パルスレーザが複数回走査される。
【0013】
また、好ましくは、該移設部材は、エキスパンド性を有するテープである。また、好ましくは、該バッファ層破壊ステップでは、該集光位置を該基板の該裏面から該基板の厚さの6倍~17倍の距離だけ離間させる。または、好ましくは、該バッファ層破壊ステップでは、該集光位置を該基板の該裏面から2.0mm~5.0mmの距離だけ離間した位置に位置付ける。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係るリフトオフ方法では、基板の上にバッファ層を介して光デバイス層を形成する。そして、バッファ層を破壊して光デバイス層をリストオフする前に、バッファ層と、光デバイス層と、を個々のデバイス毎に分割する。
【0015】
そして、本発明の一態様に係るリフトオフ方法では、該パルスレーザの1パルス当たりのエネルギー密度を1.0mJ/mm以上5.0mJ/mm以下とする。レーザビームの1パルス当たりのエネルギー密度がこの範囲であれば、デバイス間のバッファ層が除去された領域にレーザビームが照射されても、光デバイス層等に損傷を生じさせずにバッファ層を破壊して光デバイス層を移設できる。
【0016】
したがって、本発明により、分割された状態で基板上に載る光デバイス層を、損傷を与えることなく移設部材に移設できるリフトオフ方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(A)は、バッファ層形成ステップと、光デバイス層形成ステップと、を模式的に示す断面図であり、図1(B)は、分割ステップを模式的に示す断面図である。
図2】個々のデバイス毎に分割された光デバイス層が載る基板を模式的に示す斜視図である。
図3】移設部材接合ステップの一例を模式的に示す斜視図である。
図4】移設部材接合ステップの他の一例を模式的に示す斜視図である。
図5】バッファ層破壊ステップを模式的に示す斜視図である。
図6】バッファ層破壊ステップを模式的に示す断面図である。
図7】リフトオフ方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図7は、本実施形態に係るリフトオフ方法の一例を示すフローチャートである。該リフトオフ方法では、バッファ層形成ステップS1により基板上にバッファ層を形成し、光デバイス層形成ステップS2によりバッファ層の上に光デバイス層を形成する。そして、分割ステップS3を実施して基板の表面上で、バッファ層と、光デバイス層と、を個々のデバイス毎に分割する。
【0019】
その後、個々のデバイス毎に分割された光デバイス層の表面に移設部材を接合する移設部材接合ステップを実施する。次に、基板に対しては透過性を有しバッファ層に対しては吸収性を有する波長のパルスレーザを基板の裏面側から基板を透過させてバッファ層に照射し、バッファ層を破壊するバッファ層破壊ステップS5を実施する。さらに、光デバイス層を基板から分離することで光デバイス層を移設部材に移設する光デバイス層移設ステップS6を実施する。
【0020】
まず、バッファ層形成ステップS1及び光デバイス層形成ステップS2について説明する。図1(A)は、バッファ層形成ステップS1と、光デバイス層形成ステップS2と、を模式的に示す断面図である。バッファ層形成ステップS1では、基板1の表面1a上にバッファ層3を形成する。そして、光デバイス層形成ステップS2では、バッファ層3の上に光デバイス層9を形成する。
【0021】
基板1の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば基板1として、半導体基板(シリコン基板、SiC基板、GaAs基板、InP基板、GaN基板など)、サファイア基板、セラミックス基板、樹脂基板、金属基板などを用いることができる。
【0022】
光デバイス層9は、正孔が多数キャリアとなるp型半導体によって構成されるp型半導体層5と、電子が多数キャリアとなるn型半導体によって構成されるn型半導体層7と、を備える。p型半導体層5と、n型半導体層7と、によってpn接合が構成され、正孔と電子との再結合による発光が可能な光デバイスが得られる。
【0023】
バッファ層3は、後述のバッファ層破壊ステップS5でパルスレーザの照射によって破壊される層であり、基板1と、光デバイス層9と、を分離するための分離層として機能する。また、バッファ層3は、例えば基板1と、p型半導体層5と、の間の格子不整合に起因する欠陥の発生を抑制する機能を有し、その材料は基板1の格子定数と、p型半導体層5の格子定数と、に基づいて選択される。
【0024】
バッファ層3、p型半導体層5、n型半導体層7の材料に制限はなく、基板1上に光デバイスが形成できる材料が選択される。例えば、基板1としてサファイア基板、SiC基板などを用い、基板1上にGaNからなるバッファ層3、p型GaNからなるp型半導体層5、n型GaNからなるn型半導体層7をエピタキシャル成長によって順次形成することができる。各層の成膜には、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法やMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることができる。
【0025】
なお、図1(A)ではp型半導体層5と、n型半導体層7と、によって構成された光デバイス層9を示したが、光デバイス層9の構成はこれに限定されない。例えば、p型半導体層5と、n型半導体層7と、の間に発光層を備え、該発光層から光が放出される光デバイス層9を用いることもできる。
【0026】
本実施形態に係るリフトオフ方法では、次に、バッファ層3及び光デバイス層9を上述の分割予定ラインに沿って部分的に除去し、光デバイス層9等をデバイス毎に分割する分割ステップS3を実施する。図1(B)は、分割ステップS3を模式的に示す断面図である。バッファ層3及び光デバイス層9の除去は、例えば、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)装置や、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)エッチング装置等のドライエッチング装置が使用される。
【0027】
例えば、ドライエッチング装置に基板1を搬入する前に、予め基板1の表面1a上にレジスト膜を形成し、該分割予定ラインに沿って該レジスト膜を部分的に除去する。そして、ドライエッチング装置に基板1を搬入し、ドライエッチングを実施して、該レジスト膜の間に露出された光デバイス層9及びバッファ層3を除去する。その後、ドライエッチング装置から基板1を搬出して、レジスト膜を除去する。なお、使用されるエッチャントや加工条件は、バッファ層3及び光デバイス層9の材質に応じて適宜選択される。
【0028】
また、分割ステップS3は他の方法で実施してもよい。例えば、円環状の砥石部を備える切削ブレードが装着された切削装置において、該分割予定ラインに沿って基板1を切削することで実施してもよい。この場合、切削装置に基板1を搬入し、切削ブレードをその貫通孔の周りに回転させ、砥石部の下端が基板1の表面1aに達する高さ位置となるように切削ブレードを下降させる。その後、基板1と、切削ブレードと、を相対的に移動させて、分割予定ラインに沿って基板1を切削加工させる。
【0029】
分割ステップS3を実施すると、図1(B)に示す通り、基板1の上にデバイス毎に分割されたp型半導体層5a及び分割されたn型半導体層7aを含む分割された光デバイス層9aと、分割されたバッファ層9aと、が残る。図2は、個々のデバイス毎に分割された光デバイス層9aが載る基板1を模式的に示す斜視図である。
【0030】
本実施形態に係るリフトオフ方法では、次に、移設部材接合ステップS4を実施する。図3は、移設部材接合ステップS4を模式的に示す斜視図である。移設部材接合ステップS4では、個々のデバイス毎に分割された光デバイス層9aの表面に移設部材13を接合する。移設部材13は、例えば、後述の光デバイス層移設ステップS6を実施した後、個々のデバイスを支持するプレート状の部材である。
【0031】
移設部材13は、例えば、シリコン(Si)、銅(Cu)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化ガリウム(GaP)、またはモリブデン(Mo)等の材料で形成された部材であり、基板1と略同一の径を有する円板状の部材である。移設部材13を基板1の表面1a側に形成された光デバイス層9aの表面に接合する際には、例えば、接着剤またはワックス等を予め移設部材13の接合面に塗布しておく。そして、移設部材13を基板1の上に載せ、熱を加えながら移設部材13を基板1へ押圧する。
【0032】
または、移設部材接合ステップS4で使用される移設部材は、半導体ウェーハを分割して個々の半導体デバイスチップを形成する際に用いられるダイシングテープと呼ばれるテープでもよい。該テープは、一方の面に接着層を備える。図4は、移設部材17がテープである場合における移設部材接合ステップS4を模式的に示す斜視図である。この場合、移設部材17の接着層が形成された貼着面の外周部には、金属等で形成された円環状のフレーム15が貼着され、フレーム15の開口部に移設部材17の貼着面が露出する。
【0033】
そして、基板1の表面1a側をフレーム15の開口部に露出した移設部材17の貼着面に向け、基板1を移設部材17に下降させて移設部材17を基板1に貼着する。移設部材17に基板1を貼着すると基板1の裏面1b側が外側に露出される。以下、フレーム15に貼着されたテープを移設部材17とした場合を例に、本実施形態に係るリフトオフ方法の説明を続ける。
【0034】
本実施形態に係るリフトオフ方法では、移設部材接合ステップS4を実施した後に、バッファ層破壊ステップS5を実施する。バッファ層破壊ステップS5では、基板1に対しては透過性を有しバッファ層3aに対しては吸収性を有する波長のパルスレーザを基板1の裏面1b側から基板1を透過させてバッファ層3aに照射し、バッファ層3aを破壊する。
【0035】
なお、バッファ層3aの破壊とは、例えば、バッファ層3aを構成する材料の原子配列、分子構造等を変化させ、または、バッファ層3aを状態変化させ、バッファ層3aを脆化させることをいう。すなわち、バッファ層3aを変質させることをいう。
【0036】
図5は、バッファ層破壊ステップS5を模式的に示す斜視図である。バッファ層破壊ステップS5は、例えば、基板1を保持するチャックテーブル4と、チャックテーブル4に保持された基板1にパルスレーザ8aを照射するレーザ加工ユニット6と、を備えるレーザ加工装置2で実施される。
【0037】
チャックテーブル4は、例えば、基板1と同程度の径の多孔質部材を上面に備え、一端が該多孔質部材に通じた吸引路(不図示)を内部に備える。そして、該吸引路の他端には吸引源(不図示)が接続されており、基板1をチャックテーブル4の上に載せて該吸引源を作動させると、基板1に該吸引路を通じて負圧が作用して基板1がチャックテーブル4に吸引保持される。すなわち、チャックテーブル4の上面は、基板1の保持面となる。
【0038】
レーザ加工ユニット6は、基板1にパルスレーザ8aを照射する加工ヘッド8と、基板1を撮像できるカメラユニット10と、を備える。カメラユニット10は、チャックテーブル4に吸引保持された基板1を撮像できる。カメラユニット10を使用すると、基板1の予定された位置にパルスレーザ8aが照射されるように基板1と、レーザ加工ユニット6と、の相対位置及び基板1の向きを調整できる。
【0039】
レーザ加工ユニット6についてさらに詳述する。図6には、レーザ加工ユニット6の構成例と、パルスレーザ8aが照射される基板1の断面図と、が示されている。レーザ加工ユニット6は、パルスレーザ8aを発振するレーザ発振器12と、レーザ発振器12により発振されたパルスレーザ8aを所定の方向に反射させるミラー14と、パルスレーザ8aを所定の集光位置18に集光させる集光レンズ16と、を備える。
【0040】
レーザ発振器12は、基板1に対しては透過性を有しバッファ層3aに対しては吸収性を有する波長のパルスレーザ8aを発振できる。例えば、基板1がサファイア基板であり、バッファ層3aがGaNである場合、波長257nmのレーザを発振できるレーザ発振器12を使用できる。
【0041】
例えば、集光レンズ16は加工ヘッド8に収容されている。レーザ加工ユニット6と、チャックテーブル4と、は高さ方向に沿って相対的に移動可能であり、集光レンズ16の集光位置18が所定の高さに位置付けられる。また、チャックテーブル4と、レーザ加工ユニット6と、はチャックテーブル4の該保持面に平行な方向に相対移動できる。繰り返し発振されるパルスレーザ8aを基板1に照射しながらチャックテーブル4と、レーザ加工ユニット6と、を相対移動させると、パルスレーザ8aを基板1に走査できる。
【0042】
または、レーザ加工ユニットは、ガルバノスキャナによりパルスレーザ8aを走査し、テレセントリックfθレンズを集光レンズに使用してパルスレーザ8aを集光してもよい。この場合、レーザ加工ユニット6は、2枚のミラー14を備えてよく、ミラー14の向きを変えることにより集光位置18をチャックテーブル4の保持面に平行な面内に走査できる。
【0043】
本実施形態に係るリフトオフ方法では、バッファ層破壊ステップS5を実施する前に分割ステップS3が実施されるため、バッファ層3と、p型半導体層5及びn型半導体層7を含む光デバイス層9と、がデバイス毎に分割されている。すなわち、バッファ層破壊ステップS4を実施する際、基板1の表面1aには、分割されたバッファ層3aと、分割された光デバイス層9aと、が形成されている。分割された光デバイス層9aは、分割されたp型半導体層5a及びn型半導体層7aを含む。
【0044】
バッファ層破壊ステップS5では、基板1の裏面1b側からパルスレーザ8aを照射し、基板1の表面1a側に形成されたバッファ層3aのすべてにパルスレーザ8aを走査する。このとき、パルスレーザ8aは、分割されたバッファ層3aの隙間にも照射される。該隙間にパルスレーザ8aが照射されると、パルスレーザ8aの熱的な影響により近傍の光デバイス層9aにチッピングやクラック等の損傷が生じるおそれがある。
【0045】
したがって、加工条件が強すぎるとバッファ層3aの隙間を進行するパルスレーザ8aにより光デバイス層9aに損傷が生じる。その一方で、加工条件が弱すぎるとバッファ層3aを十分に破壊できず、後述の光デバイス層移設ステップS6において光デバイス層9aを基板1から適切に剥離できない。そこで、本実施形態に係るリフトオフ方法では、光デバイス層9aに損傷等を生じさせず、かつ、バッファ層3aを破壊できる加工条件でパルスレーザ8aを基板1の裏面1b側から照射する。
【0046】
そして、本実施形態に係るリフトオフ方法では、基板1の裏面1bに照射されるパルスレーザ8aの1パルス当たりのエネルギー密度が着目され、該エネルギー密度を1.0mJ/mm以上5.0mJ/mm以下とする。パルスレーザ8aの1パルス当たりのエネルギー密度をこの範囲とすると、光デバイス層9aに損傷等を生じさせず、かつ、バッファ層3aを破壊できる。
【0047】
該エネルギー密度を当該範囲とするために、例えば、レーザ発振器12に1パルス当たりのエネルギーが0.5μJ~10μJのパルスレーザ8aを発振させる。そして、集光レンズ16の集光位置18を基板1の裏面1bから上方に2.0mm~5.0mmの位置に位置付ける。ここで、基板1の裏面1bから集光位置18までの距離をデフォーカス量と呼ぶ。
【0048】
例えば、本実施形態に係るリフトオフ方法によらず、分割されていないバッファ層3が基板1の表面1aの全域に形成されており、このバッファ層3を破壊しようとする場合、確実にバッファ層3を破壊できるように集光位置18の高さが設定される。この場合、集光位置18を基板1の裏面1bに合わせるか、または、基板1の裏面1bよりもバッファ層3に近づいた位置に集光位置18の高さを設定する。
【0049】
これに対して、本実施形態に係るリフトオフ方法においては、パルスレーザ8aの1パルス当たりのエネルギー密度を上述の範囲とするために、あえて集光位置18を基板1の裏面1bから上方に大きく離間させる。例えば、基板1の裏面1bから基板1の厚さの6倍~17倍の距離だけ高い位置に集光位置18を位置付けてもよい。すなわち、デフォーカス量を2.0mm~5.0mmの範囲内で設定してもよく、基板1の厚さの6倍~17倍の範囲内で設定してもよい。
【0050】
バッファ層破壊ステップS5では、まず、外周部にフレーム15が貼着された移設部材17に貼着された基板1をレーザ加工装置2のチャックテーブル4の保持面の上に該移設部材17を介して載せる。このとき、基板1の表面1a側を保持面に向け、裏面1b側を上方に露出させる。次に、チャックテーブル4の吸引源を作動させ、基板1に吸引保持させる。
【0051】
そして、集光レンズ16の集光位置18を基板1の裏面1bの上方の所定の位置に位置づけ、パルスレーザ8aを基板1の裏面1b側から基板1を透過させてバッファ層3aに照射する。そして、例えば、レーザ加工ユニット6がガルバノスキャナを備える場合、基板1の裏面1b側のすべての領域にパルスレーザ8aが照射されるようにパルスレーザ8aを基板1の裏面1bに平行な方向に移動させてパルスレーザ8aを走査する。このとき、基板1の裏面1bの中央から外周まで、らせん状に集光位置18を移動させる。
【0052】
例えば、最初に基板1の裏面1bの中心にパルスレーザ8aを照射し、レーザ発振器12にパルスレーザ8aの発振を繰り返させながら、基板1の径方向外側にパルスレーザ8aの被照射領域を移動させつつ該中心の周りに回転させる。このとき、パルスレーザ8aのオーバーラップ率を80%~95%程度とする。パルスレーザ8aの走査中にオーバーラップ率が一定となるようにパルスレーザ8aが基板1の外周に近づくにつれ、該被照射領域の回転の速度を低下させる。
【0053】
なお、バッファ層破壊ステップS5では、パルスレーザ8aの走査を複数回実施してもよく、例えば、3回走査(3パス)する。パルスレーザ8aの走査を複数回実施する場合、集光位置18の高さ位置を変化させてもよく、また、変化させなくてもよい。
【0054】
バッファ層破壊ステップS5を実施してバッファ層3aを破壊した後、光デバイス層9aを該基板1から分離することで該光デバイス層9aを移設部材17に移設する光デバイス層移設ステップS6を実施する。光デバイス層移設ステップS6では、例えば、基板1を移設部材17の上から除去することにより、光デバイス層9aを基板1から分離する。そして、個々の光デバイス層9aは、移設部材17に上に残される。すなわち、光デバイス層9aを基板1からリフトオフできる。
【0055】
移設部材17にテープを使用している場合、光デバイス層移設ステップS6を実施した後に移設部材17を径方向外側へ拡張する拡張ステップを実施してもよい。移設部材17を径方向外側に拡張すると、移設部材17に残された個々の光デバイス層9aの間隔が広げられる。そのため、個々の光デバイス層9aのピックアップが容易となる。
【0056】
本実施形態に係るリフトオフ方法では、光デバイス層9aを基板1からリフトオフする前にデバイス毎に分割されているため、リフトオフの後に光デバイス9aを分割する必要がない。また、バッファ層破壊ステップS5では、光デバイス層9aの隙間にもバッファ層3aを破壊するパルスレーザ8aが照射されるが、1パルス当たりのエネルギー密度が上述の範囲であるため、光デバイス層9aを損傷させることなくバッファ層3aを破壊できる。
【実施例
【0057】
本実施例では、複数の基板1に対して同じ条件でバッファ層形成ステップS1から移設部材接合ステップS4までを実施して複数のサンプルを作成した。そして、基板1に照射されるパルスレーザ8aの照射条件をサンプル毎に変えてバッファ層破壊ステップS5を実施し、パルスレーザ8aによりバッファ層3aの破壊を試み、1パルス当たりのエネルギー密度と、加工結果と、の関係を調べた。
【0058】
本実施例では、基板1としてサファイア基板を使用した。まず、バッファ層形成ステップS1を実施して、それぞれの基板1の表面1a上にGaNからなるバッファ層3を形成した。次に、光デバイス層形成ステップS2を実施して、p型GaNからなるp型半導体層5と、n型GaNからなるn型半導体層7と、をエピタキシャル成長によって順次形成することにより、光デバイス層9を形成した。
【0059】
次に、分割ステップS3を実施して、バッファ層3及び光デバイス層9をデバイス毎に分割した。その後、移設部材接合ステップS4を実施して、基板1の表面1aに載る光デバイス層9aの上に移設部材17としてダイシングテープと呼ばれるテープを貼着した。ここで、基板1の厚さは300μm、バッファ層3の厚さは1μm、光デバイス層9の厚さは5μmとした。各デバイスは10μm角の矩形状とし、デバイス間の間隔を5μmとした。
【0060】
次に、それぞれのサンプルに対してバッファ層破壊ステップS5を実施した。バッファ層破壊ステップS5は、図5に示すレーザ加工装置2を使用した。レーザ加工ユニット6により、波長257nmのパルスレーザ8aを基板1の裏面1b側から照射した。波長257nmは、基板1に対して透過性を有する(基板1を透過できる)波長であり、かつ、バッファ層3に対して吸収性を有する(バッファ層3が吸収できる)波長である。
【0061】
そして、それぞれのサンプルについて、集光位置18の基板1の裏面1bからの高さ(デフォーカス量)を2.0μm~2.5μmの間で設定し、裏面1bに照射されるパルスレーザ8aのスポット径(円形の被照射領域の直径)を50μm~65μmの範囲で設定した。また、パルスレーザ8aの照射周期を50kHz~200kHzの範囲で設定した。
【0062】
本実施例では、6サンプルを準備し、それぞれの加工条件でバッファ層破壊ステップS5を実施し、その後、光デバイス層移設ステップS6を実施した。それぞれのサンプルでは、バッファ層破壊ステップS5におけるパルスレーザ8aの1パルス当たりのエネルギー密度は下記に示す表の通りであった。下記の表には、それぞれのサンプルの加工結果についても示されている。
【0063】
【表1】
【0064】
サンプル“比較例1”では、パルスレーザ8aの1パルス当たりのエネルギー密度は約0.75mJ/mmであった。“比較例1”では、光デバイス層移設ステップS6を実施した際に、光デバイス層9aを該基板1から容易には剥離できず、光デバイス層9を剥離させるために比較的大きな力が必要となった。これは、バッファ層破壊ステップS5において、バッファ層3を十分に破壊できなかったためと考えられる。そして、大きな力が必要となった結果、光デバイス層9aに損傷が生じた。
【0065】
また、サンプル“比較例2”では、バッファ層破壊ステップS5におけるパルスレーザ8aの1パルス当たりのエネルギー密度は約5.27mJ/mmであった。“比較例2”では、バッファ層破壊ステップS5においてパルスレーザ8aが基板1の裏面1b側から照射された際に、一部の光デバイス層9aに損傷が生じた。これは、分割されたバッファ層3の隙間に照射されたパルスレーザ8aの熱的な影響により光デバイス層9aに損傷が生じたためと考えられる。
【0066】
サンプル“実施例1”、“実施例2”、“実施例3”、“実施例4”において、バッファ層破壊ステップS5におけるパルスレーザ8aの1パルス当たりのエネルギー密度は、それぞれ、約1.21mJ/mm、約1.51mJ/mm、約3.31mJ/mm、約4.97mJ/mmであった。いずれのサンプルにおいても、パルスレーザ8aの照射による光デバイス層9aへの損傷が確認されなかった。また、光デバイス層移設ステップS6を実施した際に、光デバイス層9aを該基板1から容易に剥離できた。
【0067】
本実施例により、パルスレーザ8aの1パルス当たりのエネルギー密度を1.0mJ/mm以上5.0mJ/mm以下とすると、光デバイス層9aを損傷させることなく、光デバイス層9aを該基板1から容易に剥離できることが確認された。
【0068】
以上に説明する通り、本実施形態に係るリフトオフ方法によると、分割された状態で基板1上に載る光デバイス層9aを、損傷を与えることなく移設部材17に移設できるリフトオフ方法が提供される。すなわち、基板1の表面1a側に光デバイス層9を形成した後、まず光デバイス層9を分割し、次に分割された状態で基板1上に載る光デバイス層9aを移設部材17に移設できる。そのため、光デバイス層9aを移設部材17に移設した後に光デバイス層9等を分割する必要がないため、光デバイスの形成が容易となる。
【0069】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では光デバイス層9を基板1の上に形成し、この光デバイス層9を予め分割する場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。例えば、基板1には光デバイス層以外のICやLSIを構成する半導体デバイス層を形成してもよい。
【0070】
上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0071】
1 基板
1a 表面
1b 裏面
3,3a バッファ層
5,5a n型半導体層
7,7a p型半導体層
9,9a 光デバイス層
11 露出領域
13 移設部材
15 環状フレーム
17 エキスパンドテープ
19 フレームユニット
2 レーザ加工装置
4 保持テーブル
6 レーザ加工ユニット
8 加工ヘッド
8a パルスレーザビーム
10 カメラユニット
12 レーザ発振器
14 ミラー
16 集光レンズ
18 集光点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7