(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】バイト工具の修正方法
(51)【国際特許分類】
B23P 15/38 20060101AFI20221219BHJP
B24B 3/34 20060101ALI20221219BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20221219BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B23P15/38
B24B3/34
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2018218456
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小池 和裕
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-006400(JP,A)
【文献】特開2017-121674(JP,A)
【文献】特開平03-190607(JP,A)
【文献】特開平02-088119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 15/28-15/38
B24B 3/02-3/38
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃にダイヤモンドを含むバイト工具の該切刃の刃先に生じた欠陥を除去するためのバイト工具の修正方法であって、
該刃先を修正するための修正用基板を準備する準備工程と、
該準備工程の後、該切刃の該刃先を該修正用基板に切り込ませて該バイト工具により該修正用基板をバイト切削させ、該刃先を消耗させることで該刃先に形成された欠陥を除去する切刃修正工程と、
を備え
、
前記修正用基板は、シリコン基板であることを特徴とするバイト工具の修正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切刃にダイヤモンドを含むバイト工具の該切刃の刃先に生じた欠陥を除去するバイト工具の修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated Circuit)やLSI(Large Scale Integrated Circuit)等の複数のデバイスが表面に形成されたウェーハの裏面側を研削して該ウェーハを薄化し、その後、該ウェーハをデバイス毎に分割すると、個々のデバイスチップを形成できる。形成されたデバイスチップは、携帯電話やパソコン等の電子機器に搭載される。
【0003】
近年、デバイスチップの薄型化や小型化を実現するために、例えば、フリップチップボンディングと呼ばれる実装技術が実用化されている。該実装技術では、デバイスチップの表面に複数の10μm~100μm程度の高さのバンプと呼ばれる金属製の突起物を形成する。そして、デバイスチップを配線基板に実装する際には、これらのバンプを配線基板に形成された電極に相対させ、直接接合させる。
【0004】
さらに、ウェーハに形成された複数のデバイスの表面にそれぞれ直接バンプを形成し、ウェーハ表面とともに該バンプを封止材で封止し、その後、該ウェーハをデバイス毎に分割してデバイスチップを形成する技術が実用化されている(例えば、特許文献1参照)。この技術は、WL-CSP(Wafer-level Chip Size Package)と呼ばれている。
【0005】
これらの技術において、複数のバンプの高さは不均一であるため、実装対象となる配線基板の各電極にすべてのバンプを一様に接合するのは困難である。そこで、切刃にダイヤモンドを含むバイト工具が装着されたバイト切削装置により、デバイスチップの表面を覆う封止材を薄化するとともにバンプの高さを揃える加工方法が実用化されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-7135号公報
【文献】特開2000-173954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
デバイスチップの表面を覆う封止材は硬いため、封止材をバイト工具でバイト切削すると、切刃の刃先に小さな欠陥が生じやすい。切刃の刃先に欠陥が生じたバイト工具を使用して被加工物のバイト切削を継続すると、被加工物の表面に凹凸形状が形成されたり被加工物にクラックが生じたりする場合がある。すなわち、バイト切削装置は被加工物の加工を適切に実施できなくなる。
【0008】
そこで、バイト工具の切刃の刃先に欠陥が生じた際、バイト切削装置により実施されるバイト切削を停止させバイト工具を交換する。バイト工具を交換すると、バイト切削装置は再び被加工物を適切に加工できるようになる。しかしながら、バイト工具を交換する間は被加工物のバイト切削を実施できず、また、新しいバイト工具にコストがかかるため、バイト切削装置によるバイト切削の時間的及び費用的な効率が低下してしまう。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、バイト切削装置にバイト工具が装着された状態で該バイト工具の切刃の刃先に生じた欠陥を除去できるバイト工具の修正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、切刃にダイヤモンドを含むバイト工具の該切刃の刃先に生じた欠陥を除去するためのバイト工具の修正方法であって、該刃先を修正するための修正用基板を準備する準備工程と、該準備工程の後、該切刃の該刃先を該修正用基板に切り込ませて該バイト工具により該修正用基板をバイト切削させ、該刃先を消耗させることで該刃先に形成された欠陥を除去する切刃修正工程と、を備え、前記修正用基板は、シリコン基板であることを特徴とするバイト工具の修正方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様では、バイト工具の切刃の刃先を修正するための修正用基板を準備する。該修正用基板は、例えば、シリコン基板である。そして、バイト工具の切刃の刃先を修正用基板に切り込ませて、バイト工具により修正用基板をバイト切削させる。すると、切刃が刃先から消耗する。
【0013】
これは、切刃にダイヤモンドを含むバイト工具と、修正用基板であるシリコン基板と、が接触した際に、ダイヤモンドと、シリコンと、の間で化学反応が生じるためと考えられる。または、バイト切削により生じる加工熱によりダイヤモンドが炭化するためと考えられる。または、他の可能性として、切刃の刃先及び修正用基板の接触点でプラズマが生じ、該プラズマがダイヤモンドを炭化する、または、ダイヤモンドのC-C結合を切断するためと考えられる。
【0014】
切刃の刃先に欠陥が生じたバイト工具で修正用基板をバイト切削して積極的に切刃の刃先を消耗させると、欠陥の形成された箇所が消失して、欠陥のない新たな刃先が形成される。そのため、バイト切削装置は該バイト工具により再び被加工物をバイト切削できるようになる。このとき、バイト工具を交換する必要がないためバイト切削装置の稼働を停止させる時間が少なくて済む。また、バイト工具の寿命を伸ばせる。そのため、バイト切削のコストが低下し加工効率が飛躍的に高まる。
【0015】
したがって、本発明によりバイト切削装置にバイト工具が装着された状態で該バイト工具の切刃の刃先に生じた欠陥を除去できるバイト工具の修正方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】
図4(A)は、刃先に欠陥を生じたバイト工具を模式的に示す拡大側面図であり、
図4(B)は、刃先の欠陥が除去されたバイト工具を模式的に示す拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。まず、本実施形態に係るバイト工具の修正方法により修正されるバイト工具が使用されるバイト切削装置について説明する。バイト切削装置は、被加工物を該バイト工具でバイト切削する機能を有する。
図2には、バイト切削装置2の側面図が示されている。
【0018】
図2に示す通り、バイト切削装置2はチャックテーブル4を備える。チャックテーブル4は、上面側に露出する多孔質部材(不図示)と、該多孔質部材に接続された吸引源(不図示)と、を備え、チャックテーブル4の上面は被加工物を保持する保持面4aとなる。また、チャックテーブル4は、保持面4aに平行な面に沿った方向に移動可能である。
【0019】
バイト切削装置2は、被加工物をバイト切削するバイト切削ユニット6をチャックテーブル4の上方に備える。バイト切削ユニット6は、チャックテーブル4の保持面に垂直な方向に沿ったスピンドル8と、該スピンドル8の下端に固定された円板状のホイールマウント8aと、を備える。ホイールマウント8aの下面には、外周部にバイト工具12が装着された円環状のバイトホイール10が固定される。
【0020】
スピンドル8をチャックテーブル4の保持面4aに垂直な方向に沿った軸の周りに回転させると、バイトホイール10に装着されたバイト工具12が回転する。このときのバイト工具12の回転軌道の半径が被加工物の径よりも大きくなるように、バイトホイール10の所定の位置にバイト工具12が装着されている。
【0021】
図3は、バイト工具12を模式的に示す斜視図である。バイト工具12は、ダイヤモンドからなる切刃16を支持する支持体14と、支持体14の下端付近に固定された切刃16と、を備える。支持体14の上部は、バイトホイール10の下面に固定される。
【0022】
被加工物をバイト切削する際には、被加工物の加工深さにより決定された所定の高さ位置に刃先が位置付けられるようにバイト切削ユニット6を下降させ、バイト工具12を回転させる。そして、バイト切削ユニット6の下方を通過するようにチャックテーブル4を保持面4aに平行な方向に移動させる。そして、回転するバイト工具12の切刃16の刃先16aがチャックテーブル4に保持された被加工物に接触すると、該被加工物がバイト切削される。
【0023】
バイト切削装置2で加工される被加工物は、例えば、ICやLSI等の複数のデバイスが表面に形成されたウェーハである。該ウェーハをデバイス毎に分割すると、個々のデバイスチップが形成される。該デバイスチップは、所定の配線基板等に実装される。近年、予めデバイスチップの表面に複数の金属製のバンプを形成しておき、デバイスチップを配線基板に実装する際にはこれらのバンプを配線基板に形成された電極に相対させ、直接接合させる技術が実用化されている。
【0024】
バンプは、例えば、ウェーハを分割する前に、ウェーハの表面側に形成された各デバイスの電極に形成される。そして、ウェーハの表面側は封止材により覆われて封止される。ここで、複数のバンプの高さは不均一であるため、配線基板の各電極にすべてのバンプを一様に接合するのは困難である。そこで、バイト切削装置2により、ウェーハの表面を覆う封止材を薄化するとともにバンプの高さを揃える。
【0025】
ウェーハの表面を覆う封止材は硬度が高いため、封止材をバイト工具12でバイト切削すると、該バイト工具12の切刃16の刃先16aに小さな欠陥が生じやすい。
図4(A)は、刃先16aに欠陥16bが生じた切刃16を拡大して模式的に示す側面図である。
【0026】
切刃16の刃先16aに欠陥16bが生じたバイト工具12を使用してウェーハのバイト切削を継続すると、バイト切削装置2はウェーハの加工を適切に実施できず、ウェーハにクラックが生じる場合もある。また、ウェーハの被加工面に欠陥16bに起因する凹凸形状が形成される場合もある。
【0027】
そこで、バイト工具12の切刃16の刃先16aに欠陥16bが生じて、バイト工具12が被加工物のバイト切削を適切に実施できない状態となった場合、本実施形態に係るバイト工具の修正方法によりバイト工具12を修正する。バイト工具12の修正には、修正用基板を使用する。
図1は、修正用基板1を模式的に示す斜視図である。
【0028】
切刃16にダイヤモンドを含むバイト工具12の修正には、例えば、修正用基板1としてシリコン基板を使用する。または、修正用基板1として、硬質の樹脂やゴム等の材料で形成された基板を使用してもよい。以下、修正用基板1としてシリコン基板を使用する場合を例に説明する。修正用基板1は、例えば、ICやLSI等を搭載したデバイスチップを製造する際に使用可能なシリコン基板であり、両方の面が平坦な円板状の基板である。
【0029】
次に、本実施形態に係るバイト工具の修正方法の各工程について説明する。該バイト工具の修正方法では、まず、切刃16の刃先16aを修正するための修正用基板1を準備する準備工程を実施する。
【0030】
該準備工程では、まず、チャックテーブル4をバイト切削ユニット6の直下から外れた位置に移動させ、修正用基板1をバイト切削装置2のチャックテーブル4の保持面4a上に載せる。このとき、修正用基板1のバイト工具12の切刃16の刃先16aを修正できる被切削面1aを上方に向け、刃先16aの修正に使用されない面1bをチャックテーブル4の保持面4aに向ける。そして、チャックテーブル4の吸引源を作動させて、修正用基板1をチャックテーブル4に吸引保持させる。
【0031】
本実施形態に係るバイト工具の修正方法では、該準備工程の後、刃先16aに形成された欠陥16bを除去する切刃修正工程を実施する。
図2は、切刃修正工程を模式的に示す側面図である。切刃修正工程では、まず、バイト切削ユニット6を所定の高さ位置に位置付ける。そして、スピンドル8を回転させてバイト工具12を回転移動させながらチャックテーブル4をバイト切削ユニット6の下方を通過するように保持面4aに平行な方向に移動させ、バイト工具12により修正用基板1をバイト切削させる。
【0032】
なお、バイト切削ユニット6の該所定の高さ位置は、例えば、バイト工具12の切刃16が修正用基板1を2μm~5μmの深さにまで切り込む高さ位置とする。切刃16の刃先16aを修正用基板1に切り込ませると、バイト工具12により修正用基板1がバイト切削されるとともに、刃先16aが消耗する。
【0033】
刃先16aの消耗が生じるのは、切刃16にダイヤモンドを含むバイト工具と、修正用基板1であるシリコン基板と、が接触すると、ダイヤモンドと、シリコンと、の間で化学反応が生じるためと考えられる。または、バイト切削により生じる加工熱によりダイヤモンドが炭化するためと考えられる。または、他の可能性として、刃先16a及び修正用基板1の接触点でプラズマが生じ、該プラズマがダイヤモンドを炭化する、または、ダイヤモンドのC-C結合を切断するためと考えられる。
【0034】
いずれにせよ、バイト工具12により修正用基板1をバイト切削すると、バイト工具12の刃先16aが消耗することが確認されている。そして、刃先16aが消耗することにより刃先16aの欠陥16bが生じている部分も消耗する。さらに、刃先16aに形成された欠陥16bがすべて消失するまで修正用基板1のバイト切削を継続する。すると、刃先16aから欠陥16bが除去され、被加工物のバイト切削に適した状態となる。
【0035】
図4(B)は、欠陥16bが除去された切刃16を拡大して模式的に示す側面図である。
図4(B)には、切刃修正工程を実施する前の刃先16aの位置16cが示されている。切刃修正工程では、このように欠陥16bが除去される程度に刃先16aを積極的に消耗させる。その後、チャックテーブル4による修正用基板1の吸引保持を解除して、修正用基板1を取り外すと、バイト切削装置2は被加工物のバイト切削に適した状態となる。
【0036】
すなわち、切刃16の刃先16aに欠陥16bが生じたバイト工具12で修正用基板1をバイト切削して積極的に切刃16の刃先16aを消耗させると、欠陥16bの形成された箇所が消失して、欠陥のない新たな刃先16aが形成される。このとき、バイト工具12を交換する必要がないためバイト切削装置2の稼働を停止させる時間が少なくて済む。また、バイト工具12の寿命を伸ばせる。そのため、バイト切削のコストが低下し加工効率が飛躍的に高まる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、バイト切削装置2に装着された状態でバイト工具12の切刃16の刃先16aを修正する場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。例えば、バイト切削装置2から欠陥16bが生じたバイト工具12を取り外して、バイト切削装置2と同様に構成される専用のバイト工具修正装置にバイト工具12を取り付け、バイト工具修正装置に修正用基板1を設置してバイト工具12を修正してもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、切刃16にダイヤモンドを含むバイト工具12の刃先16aを修正する場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。例えば、本発明の一態様では、切刃16にコバルトが含有された炭化タングステン(WC-Co)を含む超硬バイトの切刃16の刃先16aを修正してもよい。この場合、修正用基板1には超硬バイトの修正に適した材料を使用する。
【0039】
上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0040】
1 修正用基板1
1a,1b 面
2 バイト切削装置
4 チャックテーブル
4a 保持面
6 バイト切削ユニット
8 スピンドル
8a ホイールマウント
10 バイトホイール
12 バイト工具
14 支持体
16 切刃
16a 刃先
16b 欠陥
16c 切刃修正工程を実施する前の刃先の位置