(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】亜鉛電池の劣化の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20221219BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20221219BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221219BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221219BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20221219BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/378
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
H02J3/32
H02J3/38 130
H02J3/38 160
(21)【出願番号】P 2018095605
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100144440
【氏名又は名称】保坂 一之
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悠
(72)【発明者】
【氏名】大沼 孟光
(72)【発明者】
【氏名】黒田 直人
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016531(WO,A1)
【文献】特開平11-183574(JP,A)
【文献】特開2017-203659(JP,A)
【文献】特開2008-300038(JP,A)
【文献】特開2017-116522(JP,A)
【文献】特開2015-179006(JP,A)
【文献】特開2016-197955(JP,A)
【文献】特開2016-023979(JP,A)
【文献】特開2007-108063(JP,A)
【文献】特開2017-139054(JP,A)
【文献】特開2001-292534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
H02J 3/32
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛電池の1サイクルにおける放電容量および充電容量を取得する取得ステップと、
前記放電容量に対する前記充電容量の比である充放電率を算出する算出ステップと、
前記充放電率に基づいて前記亜鉛電池の劣化を判定する判定ステップと
を含み、
前記判定ステップでは、第1率閾値と、該第1率閾値よりも小さい第2率閾値と
、第1回数閾値と、該第1回数閾値よりも小さい第2回数閾値とを用いて、
前記充放電率が前記第2率閾値以上かつ前記第1率閾値未満であるという監視対象状態が発生した回数が、
前記第1回数閾値以上である場合に、前記亜鉛電池が
第1劣化状態であると判定し、
前記監視対象状態が発生した前記回数が、前記第2回数閾値以上かつ前記第1回数閾値未満である場合に、前記亜鉛電池が前記第1劣化状態よりも劣化の度合いが小さい第2劣化状態であると判定し、
前記充放電率が前記第1率閾値以上である場合に、前記亜鉛電池が
前記第1劣化状態であると判定する、
亜鉛電池の劣化の判定方法。
【請求項2】
前記第1率閾値が110%以上であり、前記第2率閾値が103%~109%の間の値である、
請求項
1に記載の亜鉛電池の劣化の判定方法。
【請求項3】
前記監視対象状態が発生した前記回数が、前記監視対象状態が連続して発生した回数を示す連続発生回数を含み、
前記第1回数閾値が第1連続回数閾値を含み、
前記第2回数閾値が第2連続回数閾値を含み、
前記判定ステップでは、
前記連続発生回数が、前記第1連続回数閾値以上である場合に、前記亜鉛電池が前記第1劣化状態であると判定し、
前記連続発生回数が、前記第2連続回数閾値以上かつ前記第1連続回数閾値未満である場合に、前記亜鉛電池が前記第2劣化状態であると判定する、
請求項1
または2に記載の亜鉛電池の劣化の判定方法。
【請求項4】
前記監視対象状態が発生した前記回数が、前記監視対象状態が発生した累積の回数を示す累積発生回数を含み、
前記第1回数閾値が第1累積回数閾値を含み、
前記第2回数閾値が第2累積回数閾値を含み、
前記判定ステップでは、
前記累積発生回数が、前記第1累積回数閾値以上である場合に、前記亜鉛電池が前記第1劣化状態であると判定し、
前記累積発生回数が、前記第2累積回数閾値以上かつ前記第1累積回数閾値未満である場合に、前記亜鉛電池が前記第2劣化状態であると判定する、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の亜鉛電池の劣化の判定方法。
【請求項5】
亜鉛電池がニッケル亜鉛電池である、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の亜鉛電池の劣化の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、亜鉛電池の劣化の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電池の劣化を判定する手法が知られている。例えば、特許文献1には、充電式のバッテリの劣化状態の推定方法が記載されている。この方法は、バッテリの充放電電流を積算することによりクーロンカウント値を生成するステップと、バッテリの状態を監視するステップと、クーロンカウント値に基づいて、バッテリが所定電荷量だけ充放電されたことを検出するステップと、所定電荷量の充放電が検出されるたびに、バッテリの劣化を示す指標Xを、所定電荷量が充放電された期間において測定されたバッテリの状態に応じた変化量ΔXだけ変化させるステップとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の推定方法は積算値を考慮するため、亜鉛電池をその推定方法で監視しようとすると長い時間を要してしまう。そこで、より簡単に亜鉛電池の劣化を判定することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法は、亜鉛電池の1サイクルにおける放電容量および充電容量を取得する取得ステップと、放電容量に対する充電容量の比である充放電率を算出する算出ステップと、充放電率に基づいて亜鉛電池の劣化を判定する判定ステップとを含む。
【0006】
このような側面においては、亜鉛電池の1サイクルで得られる放電容量および充電容量の関係に基づいて、亜鉛電池が劣化しているか否かが判定される。1サイクルで得られる情報でその判定を実行できるので、より簡単に亜鉛電池の劣化を判定することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、より簡単に亜鉛電池の劣化を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】蓄電システムおよびその周辺の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図2】実施形態に係る統括コントローラの機能構成を示す図である。
【
図3】実施形態に係る統括コントローラの動作を示すフローチャートである。
【
図4】判定処理の具体例を示すフローチャートである。
【
図6】判定処理の具体例を示すフローチャートである。
【
図7】判定処理の具体例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
[蓄電システムの全体構成]
蓄電システム1は、生成された電気を蓄え、その蓄えた電気を必要に応じて供給するシステムである。蓄電システム1が適用される場面は限定されず、例えば、蓄電システム1は不動産にも動産にも適用可能である。不動産への適用の例として、蓄電システム1は、再生可能エネルギを利用して生成された電気を管理してもよく、例えば家庭、オフィス、工場、農場等の様々な場所で利用され得る。動産への適用の例として、蓄電システム1は自動車等の移動体に動力源として搭載されてもよい。
【0011】
図1を参照しながら、蓄電システム1を含む電力システムの全体像を説明する。
図1は、蓄電システム1およびその周辺の構成の一例を模式的に示す図である。蓄電システム1は、蓄電システム1に電力を供給可能な供給要素2と、蓄電システム1から電力を受け取ることが可能な需要要素4との間に設けられる。蓄電システム1および供給要素2を含む直流系統と、需要要素4を含む交流系統とは、PCS(パワーコンディショニングシステム)3を介して電気的に接続される。蓄電システム1、供給要素2、およびPCS3は、直流電流が流れるDC(Direct Current)バス6を介して電気的に接続される。需要要素4およびPCS3は、交流電流が流れるAC(Alternating Current)バス7を介して電気的に接続される。供給要素2により生成された電気、または蓄電システム1に蓄えられた電気は需要要素4に供給される。蓄電システム1は、蓄電池をクッションのように利用することで供給要素2から需要要素4への電力供給の変動を緩和する役割を担ってもよい。
【0012】
供給要素2は、蓄電システム1に電力を供給可能な装置または設備である。供給要素2の種類は何ら限定されない。例えば、供給要素2は、再生可能エネルギを利用して発電を行う発電装置であってもよい。発電方法および発電装置の種類は何ら限定されず、例えば、発電装置は太陽光発電装置でもよいし風力発電機でもよい。あるいは、供給要素2は、移動体に搭載されたモータあってもよい。
【0013】
需要要素4は、蓄電システム1から電力を受け取ることが可能な装置または設備である。需要要素4の種類も何ら限定されない。例えば、供給要素は、発電、変電、送電、および配電を統合した商用電源の設備である外部の電力系統であってもよい。例えば、外部の電力系統は電力会社により提供される。あるいは、需要要素4は、電力を消費する1以上の機器または装置の集合である負荷であってもよい。負荷の例として、1以上の家庭用または業務用の様々な電気機器の集合と、任意の装置の任意の構成要素とが挙げられる。
【0014】
PCS3は、直流の電気を交流に変換する装置であり、電力変換器の一種である。PCS3は、DCバス6に接続するDC端子と、ACバス7に接続するAC端子とを有する。
【0015】
蓄電システム1は、蓄電装置10、電力変換器20、および統括コントローラ30を備える。一つの蓄電装置10には一つの電力変換器20が対応し、これら二つの装置はDCバスを介して電気的に接続する。対応し合う蓄電装置10および電力変換器20の組を蓄電ユニットということもできる。
図1の例では蓄電システム1は3組の蓄電装置10および電力変換器20(3個の蓄電ユニット)を備えるが、その組数は限定されず、1でも2でも4以上でもよい。複数の蓄電ユニットが存在する場合に、蓄電装置10の性能(例えば、定格容量、応答速度など)および電力変換器20の性能(例えば、定格出力、応答速度など)は統一されてもよいし、統一されなくてもよい。統括コントローラ30は、通信線40を介して各蓄電装置10および各電力変換器20と通信可能に接続される。
【0016】
蓄電装置10は、供給要素2から提供される電気を化学エネルギに変えて蓄える装置であり、充放電が可能である。蓄電装置10は、供給要素2から提供された直流電力の変動を緩和(平準化)するためにも用いられ得る。蓄電装置10は、直列に接続された複数のセルを含んで構成される亜鉛電池(亜鉛二次電池)11を備える。亜鉛電池11の例として、ニッケル亜鉛電池、酸化銀・亜鉛電池等が挙げられるが、これらに限定されない。亜鉛電池11を構成するセルの個数は限定されず、例えば、7個または8個でもよい。蓄電装置10はさらに、バッテリ・コントロール・ユニット(Battery Control Unit:BCU)などの制御機能を含み、この制御機能により、蓄電装置10に関するデータを統括コントローラ30に送信することができる。
【0017】
電力変換器20は、蓄電装置10の充放電を制御する装置である。電力変換器20は、統括コントローラ30から指示信号(データ信号)を受信し、その指示信号に基づいて蓄電装置10の充放電を制御する。電力変換器20は、充電モードでは、供給要素2から流れてきた電気を蓄電装置10に蓄え、放電モードでは、蓄電装置10を放電させて外部に電力を供給し、停止状態では充放電を行わない。電力変換器20は、例えばDC/DCコンバータであり得る。
【0018】
統括コントローラ30は蓄電装置10および電力変換器20を制御するコンピュータ(例えばマイクロコンピュータ)である。
図2は、統括コントローラ30の機能構成を示す図である。この図に示すように、統括コントローラ30はハードウェア装置としてプロセッサ101、メモリ102、および通信インタフェース103を備える。プロセッサ101は例えばCPUであり、メモリ102は例えばフラッシュメモリで構成されるが、統括コントローラ30を構成するハードウェア装置の種類はこれらに限定されず、任意に選択されてよい。統括コントローラ30の各機能は、プロセッサ101が、メモリ102に格納されているプログラムを実行することで実現される。例えば、プロセッサ101は、メモリ102から読み出したデータまたは通信インタフェース103を介して受信したデータに対して所定の演算を実行し、その演算結果を他の装置に出力することで、該他の装置を制御する。あるいは、プロセッサ101は受信したデータまたは演算結果をメモリ102に格納する。統括コントローラ30は1台のコンピュータで構成されてもよいし、複数のコンピュータの集合(すなわち分散システム)で構成されてもよい。
【0019】
統括コントローラ30は、通信ネットワーク41を介して監視コンピュータ8と接続してもよい。通信ネットワーク41の構成は限定されず、例えば、インターネットおよびイントラネットのうちの少なくとも一方を用いて構築されてもよい。監視コンピュータ8は、蓄電システム1の状況を監視するコンピュータである。監視コンピュータ8の種類は限定されない。例えば、監視コンピュータ8は携帯型または据置型のパーソナルコンピュータであってもよい。あるいは、監視コンピュータ8は、高機能携帯電話機(スマートフォン)、携帯電話機、携帯情報端末(PDA)、タブレットなどの携帯端末でもよい。監視コンピュータ8は蓄電システム1の一部でもよいし、蓄電システム1とは別のコンピュータシステムに設けられてもよい。
【0020】
蓄電システム1の特徴の一つは亜鉛電池の劣化の判定方法にあり、この特徴は特に統括コントローラ30により実現される。以下では、その判定処理に関する統括コントローラ30の機能および構成を説明する。
【0021】
プロセッサ101は取得部31、算出部32、判定部33、および出力部34として機能する。取得部31は、亜鉛電池11の1サイクルにおける放電容量および充電容量を取得する機能要素である。なお、本明細書では、ある時間にわたって行われる一回の充電と、該充電の前または後において、ある時間にわたって行われる一回の放電との組合せである充放電サイクルのことを単に「サイクル」ともいう。算出部32は、該放電容量に対する該充電容量の比である充放電率を算出する機能要素である。判定部33はその充放電率に基づいて亜鉛電池11の劣化状態を判定する機能要素である。出力部34はその判定に基づくデータを出力する機能要素である。劣化状態とは、亜鉛電池11の性能が初期状態(製造時の状態)からどのくらい低下したかを示す概念である。亜鉛電池11の劣化の典型は、負極(亜鉛電極)の表面から成長するデンドライト(針状または樹枝状の結晶)がセパレータを突き破って正極まで達することで発生する内部短絡である。亜鉛電池11の劣化の程度は、デンドライトの成長の程度に左右され得る。
【0022】
メモリ102はプロセッサ101の動作に必要な情報を記憶する。例えば、メモリ102は判定規則35を記憶する。判定規則35は、劣化状態の判定に用いられる情報である。判定規則35の記述方法は限定されない。例えば、判定規則35は数式、閾値、アルゴリズム、および対応表のいずれかで表されてもよいし、数式、閾値、アルゴリズム、および対応表のうちの任意の2以上の組合せで表されてもよい。あるいは、判定規則35は、プロセッサ101により実行されるプログラムの一部であってもよい。
【0023】
判定規則35は書き換え可能であってもよい。例えば、蓄電装置10または亜鉛電池11が別の型のものに交換されたり新しい型の蓄電装置10または亜鉛電池11が追加されたりした場合には、管理者がその構成の変更に応じてメモリ102内の判定規則35を書き換える。この場合、管理者は所定の通信ネットワーク(図示せず)を介して管理用のコンピュータ(図示せず)で統括コントローラ30にアクセスし、構成の変更を反映した新たな判定規則35を統括コントローラ30に転送してもよい。この転送により、メモリ102内の判定規則35が書き換えられる。
【0024】
通信インタフェース103はプロセッサ101と連携してデータの送受信を実行する。例えば、通信インタフェース103は取得部31と連携して、亜鉛電池11に関するデータを受信する。また、通信インタフェース103は出力部34と連携して、判定に基づくデータを送信する。
【0025】
[統括コントローラの動作]
図3~
図7を参照しながら、統括コントローラ30の動作を説明するとともに本実施形態に係る、亜鉛電池の劣化の判定方法について説明する。
図3は統括コントローラ30の動作の例を示すフローチャートであり、具体的には、一つの蓄電装置10に対する処理を示す。
図4、
図6、および
図7は、判定処理の具体例を示すフローチャートである。
図5は充放電率の変化の一例を示すグラフである。
【0026】
ステップS11では、取得部31が亜鉛電池11の1サイクルにおける放電容量および充電容量(単位はいずれもAh)を取得する(取得ステップ)。1サイクルにおける放電容量および充電容量とは、ある時間にわたって行われる一回の放電における放電容量と、その放電の前にまたは後において、ある時間にわたって行われる一回の充電における充電容量との組み合わせである。例えば、取得部31は、現サイクルの一つ前のサイクルにおける放電容量および充電容量を取得してもよいし、現サイクルの2以上前のサイクルにおける放電容量および充電容量を取得してもよい。取得部31は充電容量および放電容量を蓄電装置10から取得してもよいし他の装置から取得してもよい。
【0027】
ステップS12では、算出部32が、放電容量に対する充電容量の比である充放電率を算出する(算出ステップ)。なお、本実施形態では充放電率を百分率で示すが、百分率による表現は必須ではない。充放電率(%)をRとし、放電容量(Ah)をCdとし、充電容量(Ah)をCcとすると、充放電率は下記の式(1)で表される。
R=Cc/Cd*100 …(1)
【0028】
ステップS13では、判定部33が充放電率に基づいて亜鉛電池11の劣化状態を判定する(判定ステップ)。劣化状態を判定する具体的な手法は一つに限定されず、判定部33は様々な手法を用いて劣化状態を判定してもよい。
【0029】
図4は判定処理(判定ステップ)の一例を示す。ステップS111では、判定部33が充放電率を閾値Taと比較する。充放電率がTa未満であれば(ステップS111においてNO)、処理はステップS112に移り、判定部33は亜鉛電池11が正常状態であると判定する。正常状態とは、亜鉛電池11が劣化していないか、または劣化の度合いが無視できる程度に小さいことを意味する。一方、充放電率がTa以上であれば(ステップS111においてYES)、処理はステップS113に移り、判定部33はさらに充放電率を閾値Tbと比較する。この閾値Tbは閾値Taよりも大きい値である。
【0030】
閾値Taおよび閾値Tbの具体的な値は限定されない。本発明の発明者は、亜鉛電池11の特性を考慮してそれらの閾値を以下のように設定できることを見出した。すなわち、充放電率が101%または102%である場合には、亜鉛電池11は正常であるといえる。充放電率がそれよりも高い値(例えば105%)を超えると、亜鉛電池11内でデンドライトが成長している可能性があり、したがって、内部短絡の可能性を意識し始める必要が生ずる。充放電率がさらに高い場合(例えば110%を超える場合)には、デンドライトがだいぶ成長している可能性があり、比較的近い将来に内部短絡が生ずる蓋然性が高いと見込まれる。
【0031】
このような充放電率の変化に関する実際の試験結果を
図5に示す。この試験では、亜鉛電池の一例である、定格容量が8Ahであるニッケル亜鉛電池を、環境温度25℃の状況下で稼働させた。まず、ニッケル亜鉛電池の初期放電容量および初期充電容量を確認して充放電率を求めた(ステップS1)。この確認の条件(これを「チェック条件」という。)を以下に示す。
[チェック条件(放電)]
・DCバスへの放電
・放電深度(DOD):100%
・電流:8A
・終止電圧:1.1V
・サンプリング間隔:1秒
[チェック条件(充電)]
・定電流定電圧(CC-CV:Constant Current-Constant Voltage)
・電流:8A(カットオフ電流:0.4A)
・電圧:1.9V
・充電後の休止時間:12時間以上
・サンプリング間隔:1秒
【0032】
その後、DODが50%であるサイクルを50回実行し、各サイクルにおいて、放電容量および充電容量を確認して充放電率を求めた(ステップS2)。各サイクルでの確認の条件(これを「サイクル条件」という。)を以下に示す。
[サイクル条件(放電)]
・DCバスへの放電
・DOD:50%
・電流:2A
・放電容量:4Ah
・放電後の休止時間:0
・サンプリング間隔:1秒
[サイクル条件(充電)]
・定電流定電圧(CC-CV)
・電流:8A(カットオフ電流:0.4A)
・電圧:1.9V
・充電後の休止時間:0
・サンプリング間隔:1秒
【0033】
上述した、DODが50%であるサイクルを50回実施する毎に、上記のチェック条件により放電容量および充電容量を確認して充放電率を求めた(ステップS3)。この処理において放電容量が4Ah未満になった場合にニッケル亜鉛電池の寿命が来たと判定し、放電容量が4Ahを維持する場合にはステップS2およびS3を繰り返した(ステップS4)。
【0034】
図5は、これらのステップS1~S4で構成される試験により得られた各サイクルでの充放電率を示す。グラフの縦軸は、サイクル条件下での充放電率(%)を示し、横軸はサイクル数(1~300)を示す。チェック条件での放電容量は、初期時点(サイクル数が0の時点)では約8.1Ahであり、サイクル数が250の時点では約5.6Ahまで下がった。サイクル数が300の時点で、チェック条件での放電容量が3.5Ahになったので、この時点でニッケル亜鉛電池の寿命が来たと判定して試験を終了した。
【0035】
この試験では、充放電率が105%を初めて超えたのは236サイクル目であった(約105.1%)。その後、充放電率は上昇し続け、259サイクル目で初めて110%を超えた(約110.2%)。充放電率はその後も上昇し続け、300サイクル目では約120.5%になった。
【0036】
上記の試験等から得られた知見に基づき、閾値(第2閾値)Taは例えば、103%~109%の間の値であってもよく、例えば103%、104%、105%、106%、107%、108%、または109%でもよい。閾値(第1閾値)Tbは例えば110%以上であってもよく、例えば110%、111%、112%、または113%でもよい。
【0037】
図4に戻る。充放電率がTb以上であれば(ステップS113においてYES)、処理はステップS114に移り、判定部33は亜鉛電池11が第1劣化状態であると判定する。第1劣化状態は、亜鉛電池11の劣化の度合いが比較的大きい状態のことをいう。一方、充放電率がTb未満であれば(ステップS113においてNO)、すなわち、充放電率がTa以上かつTb未満であれば、処理はステップS115に移り、判定部33は亜鉛電池11が第2劣化状態であると判定する。第2劣化状態は、亜鉛電池11の劣化の度合いが第1劣化状態よりも小さい状態のことをいう。この関係を維持する限り、第1劣化状態および第2劣化状態のそれぞれの具体的な意味は限定されない。例えば、第1劣化状態は、比較的近い将来に内部短絡が生ずる蓋然性が高い程にデンドライトが成長していると見込まれる状態に対応してもよい。第2劣化状態は、デンドライトは存在するものの、亜鉛極の放電によるデンドライトの溶解により亜鉛電池11の性能が改善する可能性がある状態に対応してもよい。
【0038】
図4に示す例では判定部33が第1劣化状態および第2劣化状態という2段階で亜鉛電池11の劣化を判定するが、判定部33は、その第1劣化状態および第2劣化状態を含む3以上の段階で亜鉛電池の劣化を判定してもよい。
【0039】
図6は判定処理(判定ステップ)の別の例を示す。ステップS121では、判定部33が充放電率を閾値Taと比較する。充放電率がTa未満であれば(ステップS121においてNO)、処理はステップS122に移り、判定部33は亜鉛電池11が正常状態であると判定する。
【0040】
一方、充放電率がTa以上であれば(ステップS121においてYES)、処理はステップS123に移り、判定部33は、「充放電率が閾値Ta以上である」という状態(監視対象状態)が連続して発生した回数nを取得する。言い換えると、判定部33は、その監視対象状態が何サイクル連続して発生したかを特定する。判定部33は、亜鉛電池11の状態を判定する度にその判定結果を履歴としてメモリ102に記録し、ステップS123においてその履歴を参照することで、その回数nを求めることができる。
【0041】
回数nが閾値Tc未満であれば(ステップS124においてNO)、処理はステップS122に移り、判定部33は亜鉛電池11が正常状態であると判定する。一方、回数nが閾値Tc以上であれば(ステップS124においてYES)、処理はステップS125に移り、判定部33は亜鉛電池11が第1劣化状態であると判定する。閾値Tcの具体的な値は限定されず、任意の基準に基づいて設定されてよい。例えば、閾値Tcは、亜鉛電池11の特性などの様々な要因を考慮して設定されてもよい。
【0042】
負極を構成する亜鉛は析出と溶解とを繰り返すので、デンドライトは時間の経過に伴って単調に成長するとは限らず、デンドライトが一時的に解消する(負極表面からのデンドライトの突出量が一時的に下がる)場合があり得る。したがって、デンドライトのこのような特性を考慮し、判定部33は、連続する複数の充放電サイクルにおける複数の充放電率に基づいて亜鉛電池11の劣化状態を判定してもよい。充放電率が比較的高い状態が続いている場合には、デンドライトがある程度大きく成長していると予想されるので、亜鉛電池11の劣化がある程度進んでいると判定することができる。
【0043】
図7は判定処理(判定ステップ)のさらに別の例を示す。ステップS131では、判定部33が充放電率を閾値Taと比較する。充放電率がTa未満であれば(ステップS131においてNO)、処理はステップS132に移り、判定部33は亜鉛電池11が正常状態であると判定する。一方、充放電率がTa以上であれば(ステップS131においてYES)、処理はステップS133に移り、判定部33はさらに充放電率を閾値Tb(Tb>Ta)と比較する。閾値Taおよび閾値Tbの具体的な値は、
図4の例と同様に設定してよい。
【0044】
充放電率がTb以上であれば(ステップS133においてYES)、処理はステップS134に移り、判定部33は亜鉛電池11が第1劣化状態であると判定する。
【0045】
一方、充放電率がTb未満であれば(ステップS133においてNO)、処理はステップS135に移り、判定部33は、「充放電率が閾値Ta以上である」という状態(監視対象状態)が連続して発生した回数nを取得する。
【0046】
回数nが閾値Tc未満であれば(ステップS136においてNO)、処理はステップS132に移り、判定部33は亜鉛電池11が正常状態であると判定する。一方、回数nが閾値Tc以上であれば(ステップS136においてYES)、処理はステップS134に移り、判定部33は亜鉛電池が第1劣化状態であると判定する。
【0047】
図7に示す例は、
図4および
図6に示す二つの手法の組合せであるともいえる。
【0048】
図6および
図7は、監視対象状態が発生した回数に基づいて亜鉛電池11の劣化を判定する処理を含む。この処理の変形として、判定部33は、「充放電率が閾値Ta以上である」という状態(監視対象状態)が連続して発生した回数nに代えて、「充放電率が閾値Ta以上である」という状態(監視対象状態)が発生した累積の回数mに基づいて劣化状態を判定してもよい。すなわち、判定部33は、累積発生回数mが閾値Td未満であれば亜鉛電池11が正常状態であると判定し、累積発生回数mが閾値Td以上であれば亜鉛電池11が第1劣化状態であると判定してもよい。上述したように、デンドライトは一時的に解消する場合があり得る。しかし、充放電率の比較的高い状態が連続して発生したか不連続で発生したかにかかわらず、該状態を多く検知してきた場合には、デンドライトがある程度大きく成長していると予想される。したがって、判定部33はこのような場合に、亜鉛電池11の劣化がある程度進んでいると判定してもよい。閾値Tdの具体的な値は限定されず、任意の基準に基づいて設定されてよい。例えば、閾値Tdは、亜鉛電池11の特性などの様々な要因を考慮して設定されてもよい。
【0049】
あるいは、判定部33は、連続発生回数と累積発生回数との双方を用いて劣化状態を判定してもよい。例えば、判定部33は連続発生回数nおよび累積発生回数mの双方をカウントする。そして、判定部33は、連続発生回数nが閾値Tc以上であるかまたは累積発生回数mが閾値Td以上である場合には、亜鉛電池11が第1劣化状態であると判定し、それ以外の場合には、亜鉛電池11が正常状態であると判定してもよい。
【0050】
連続発生回数および累積発生回数の少なくとも一方を用いる場合に、判定部33は、第1劣化状態だけでなく第2劣化状態も判定してもよい。連続発生回数nについては、判定部33は二つの閾値TclowおよびTchighを用いる(ただし、Tclow<Tchigh)。そして判定部33は、n<Tclowの場合には亜鉛電池11が正常状態と判定し、Tclow≦n<Tchighの場合には亜鉛電池11が第2劣化状態と判定し、Tchigh≦nの場合には亜鉛電池11が第1劣化状態と判定してもよい。累積発生回数mについては、判定部33は二つの閾値TdlowおよびTdhighを用いる(ただし、Tdlow<Tdhigh)。そして判定部33は、m<Tdlowの場合には亜鉛電池11が正常状態と判定し、Tdlow≦m<Tdhighの場合には亜鉛電池11が第2劣化状態と判定し、Tdhigh≦mの場合には亜鉛電池11が第1劣化状態と判定してもよい。連続発生回数および累積発生回数の少なくとも一方を用いる場合においても、判定部33は、第1劣化状態および第2劣化状態を含む3以上の段階で亜鉛電池の劣化を判定してもよい。
【0051】
このように劣化状態の判定については様々な手法を採用し得る。いずれにしても、判定部33は、予め定められた判定規則35(例えば、上記の閾値を含む判定規則35)を用いて亜鉛電池11の劣化状態を判定することができる。
【0052】
図3に戻り、ステップS14では、出力部34が、判定部33による判定に基づくデータを出力する。データの内容は限定されない。例えば、出力部34は、判定結果(例えば、正常状態、第1劣化状態、または第2劣化状態のいずれか)を通信ネットワーク41を介して監視コンピュータ8に送信してもよい。監視コンピュータ8はその判定結果をモニタ上に表示したりデータベースに格納したりするなどの任意の処理を実行してよい。あるいは、出力部34は判定結果が第1劣化状態である場合に停止指示を生成し、対応する蓄電装置10に向けてその停止指示を送信してもよい。「蓄電装置に向けて停止指示を送信する」とは、亜鉛電池11に充放電をさせないために、該蓄電装置10に、または該蓄電装置10に対応する他の装置に、停止指示を送信することをいう。例えば、出力部34は、蓄電装置10に対応する電力変換器20に通信線40を介して停止指示を送信してもよい。停止させられた蓄電装置10の亜鉛電池11は、例えば人手により、新しいものに交換される。
【0053】
蓄電システム1が複数の蓄電装置10を備える場合には、統括コントローラ30はすべての蓄電装置10についてステップS11~S14の処理を実行する。一つの蓄電装置10について、ステップS11~S14の処理は繰り返し(例えば個々の充放電サイクルにおいて)実行される。
【0054】
[プログラム]
コンピュータを統括コントローラ30として機能させるための判定プログラムは、該コンピュータを取得部31、算出部32、判定部33、および出力部34として機能させるためのプログラムコードを含む。この判定プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等の有形の記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、判定プログラムは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。提供された判定プログラムは例えばメモリ102に記憶される。プロセッサ101がメモリ102と協働してその判定プログラムを実行することで、上記の各機能要素が実現する。
【0055】
[効果]
以上説明したように、本発明の一側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法は、亜鉛電池の1サイクルにおける放電容量および充電容量を取得する取得ステップと、放電容量に対する充電容量の比である充放電率を算出する算出ステップと、充放電率に基づいて亜鉛電池の劣化を判定する判定ステップとを含む。
【0056】
このような側面においては、亜鉛電池の1サイクルで得られる放電容量および充電容量の関係に基づいて、亜鉛電池が劣化しているか否かが判定される。1サイクルで得られる情報でその判定を実行できるので、より簡単に亜鉛電池の劣化を判定することができる。亜鉛電池の性能が劣化する際には充放電率が大きく変化する傾向があるので、1サイクルの充放電率からだけでも劣化状態を判定できるこの手法は、亜鉛電池の特定に合ったものといえる。
【0057】
他の側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法では、判定ステップでは、充放電率が閾値以上である場合に亜鉛電池が劣化状態であると判定してもよい。充放電率を閾値と比較するという簡単な処理により、亜鉛電池の劣化を判定することができる。
【0058】
他の側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法では、判定ステップでは、充放電率が第1閾値以上である場合に、亜鉛電池が第1劣化状態であると判定し、充放電率が第2閾値以上かつ第1閾値未満である場合に、亜鉛電池が、第1劣化状態よりも劣化の度合いが小さい第2劣化状態であると判定してもよい。亜鉛電池の劣化状態はデンドライトの成長の程度に左右され得る。複数の閾値を用いて劣化状態を多段階で判定することで、亜鉛電池のそのような特性を考慮して劣化状態を正確に判定することができる。
【0059】
他の側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法では、第1閾値が110%以上であり、第2閾値が103%~109%の間の値であってもよい。これらのような値を閾値として用いることで、亜鉛電池の劣化状態を正確に判定することができる。
【0060】
他の側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法では、判定ステップでは、充放電率が閾値以上であるという監視対象状態が発生した回数に基づいて亜鉛電池の劣化を判定してもよい。亜鉛電池の中でデンドライトは徐々に成長する。複数サイクルにおける充放電率の履歴(充放電率が閾値以上であった状態の発生回数)に基づいて劣化状態を判定することで、そのような亜鉛電池の劣化状態を正確に判定することができる。
【0061】
他の側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法では、判定ステップでは、監視対象状態が連続して発生した回数が、予め定められた閾値以上である場合に、亜鉛電池が劣化状態であると判定してもよい。監視対象状態の連続発生回数を考慮することで、亜鉛電池の劣化状態を正確に判定することができる。
【0062】
他の側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法では、判定ステップでは、監視対象状態が発生した累積の回数が、予め定められた閾値以上である場合に、亜鉛電池が劣化状態であると判定してもよい。監視対象状態の累積発生回数を考慮することで、亜鉛電池の劣化状態を正確に判定することができる。
【0063】
他の側面に係る亜鉛電池の劣化の判定方法では、亜鉛電池がニッケル亜鉛電池であってもよい。この場合には、より簡単にニッケル亜鉛電池の劣化を判定できる。
【0064】
[変形例]
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0065】
例えば少なくとも一つのプロセッサにより実行される、亜鉛電池の劣化の判定方法の処理手順は上記実施形態での例に限定されない。例えば、上述したステップ(処理)の一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正又は削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0066】
蓄電システム1内で二つの数値の大小関係を比較する際には、「以上」および「よりも大きい」という二つの基準のどちらを用いてもよく、「以下」および「未満」の二つの基準のうちのどちらを用いてもよい。このような基準の選択は、二つの数値の大小関係を比較する処理についての技術的意義を変更するものではない。
【0067】
上記実施形態では統括コントローラ30が亜鉛電池の劣化の判定方法を実行するが、この方法の一部または全部が人手により行われてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…蓄電システム、2…供給要素、3…PCS、4…需要要素、6…DCバス、7…ACバス、8…監視コンピュータ、10…蓄電装置、11…亜鉛電池、20…電力変換器、30…統括コントローラ、31…取得部、32…算出部、33…判定部、34…出力部、35…判定規則、40…通信線、41…通信ネットワーク。