(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】血糖値上昇抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/522 20060101AFI20221219BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20221219BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20221219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
A61K31/522
A61K31/19
A61P3/10
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2018225723
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 健志
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-208598(JP,A)
【文献】特開2003-116486(JP,A)
【文献】特開平06-062798(JP,A)
【文献】特開2009-242342(JP,A)
【文献】小田原 雅人,糖尿病,HEP,2012年,Vol.39, No.2,pp.295-304
【文献】井垣 誠,糖尿病に対する運動療法の最前線,理学療法学,2016年,Vol.43, No.6,pp.508-513
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種ならびにカフェインを有効成分として含有する血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項2】
カフェイン1質量部に対して、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、乳酸量換算で0.8~1000質量部である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヒト1人の1日摂取量中、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が乳酸量換算で40~10000mgであり、カフェインが10~1000mgである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
運動と併用して使用される、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血糖値上昇抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、過食、運動不足、ストレス、肥満、加齢等の様々な原因によって、高血糖状態になるリスクが高まるといわれている。また、高血糖状態が続くと、喉の渇き、頻尿、倦怠感等が生じやすくなり、また、更なる過食や肥満につながり、ひいては糖尿病や様々な合併症を引き起こすことが知られている。
【0003】
このような過食や運動不足といった生活習慣が高血糖のリスクを高める大きな要因の一つになっており、また、例えば、厚生労働省が3年ごとに実施している調査に基づくと、平成26年調査における糖尿病総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は平成23年調査よりも46万人以上増加したといわれていることから、日々の生活において、血糖値の上昇を抑えることは重要である。これまでに、血糖値の上昇抑制を目的とした様々な組成物が報告されており、例えば、難消化性デキストリンと、ラベンダーやレモングラスやといった特定の植物素材とを含有する血糖値上昇抑制用食品組成物(特許文献1及び2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-1965号公報
【文献】特開2017-88621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新たな血糖値上昇抑制用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題に鑑み鋭意検討を行ったところ、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とカフェインとの組み合わせによれば、血糖値の上昇を抑制できることを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねた結果完成されたものであり、次に掲げるものである。
項1.乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種ならびにカフェインを有効成分として含有する血糖値上昇抑制用組成物。
項2.カフェイン1質量部に対して、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、乳酸量換算で0.8~1000質量部である、項1に記載の組成物。
項3.ヒト1人の1日摂取(投与)量中、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が乳酸量換算で40~10000mgであり、カフェインが10~1000mgである、項1または2に記載の組成物。
項4.運動と併用して使用される、項1~3のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物によれば、血糖値の上昇を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種ならびにカフェインを有効成分として含有する血糖値上昇抑制用組成物に関する。
【0009】
乳酸は、化学式CH3CH(OH)COOHで表される公知の有機酸である。乳酸にはD-体、L-体、DL体が存在するが、本発明においてこれらは問わない。
【0010】
乳酸の塩として、特に制限されないが、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩やカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、乳酸アルミニウム、乳酸亜鉛、乳酸鉄、乳酸マンガン等が例示される。乳酸塩として、好ましくは乳酸ナトリウム、乳酸カリウム等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0011】
本発明において、血糖値上昇抑制用組成物中の、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は特に制限されないが、該組成物中、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、合計量として、好ましくは0.4~99.9質量%、より好ましくは0.6~99.9質量%、更に好ましくは1~99.9質量%が例示される。乳酸塩を使用する場合、その含有量は乳酸量換算にて算出される。
【0012】
カフェインは、1,3,7-トリメチルキサンチンとも呼ばれる複素環式化合物であり、本発明において無水物(無水カフェイン、C8H10N4O2)、水和物(カフェイン水和物、例えばC8H10N4O2・H2O)の別を問わない。本発明を制限するものではないが、本発明においてカフェインとして好ましくは無水カフェインが例示される。
【0013】
本発明において、血糖値上昇抑制用組成物中の、カフェインの含有量は特に制限されないが、該組成物中、カフェインの含有量は、好ましくは0.02~33.3質量%、より好ましくは0.04~33.3質量%が例示される。
【0014】
本発明において、血糖値上昇抑制用組成物中の、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とカフェインとの質量比も制限されないが、カフェイン1質量部に対して、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、乳酸量換算で0.8~1000質量部、好ましくは2~500質量部、より好ましくは2~300質量部、更に好ましくは4~150質量部が例示される。
【0015】
本発明の組成物は、経口、非経口の別を問わず、好ましくは経口で投与(摂取)される。
【0016】
本発明の組成物の形態も制限されず、目的に応じて適宜設定すればよい。本発明の組成物の形態として、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤、エキス剤、酒精剤、エリキシル剤等の液状形態、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセルを含む)、トローチ、チュアブル、ゲル状、クリーム状、ペースト状、ムース状、シート状、液状形態の凍結乾燥物等の半固形または固形形態、この他、エアゾール剤、貼付剤(ハップ剤、テープ剤、経皮吸収型製剤等を含む)等の各種形態が例示される。
【0017】
また、例えば本発明の組成物が固形形態である場合、これは水等と混合して使用してもよく、また、本発明の組成物は徐放性の剤形であってもよい。また、例えば錠剤は、必要に応じて、従来公知の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、あるいは二重錠、多層錠としてもよい。
【0018】
また、本発明の組成物の使用態様も制限されず、目的に応じて適宜設定すればよい。本発明の組成物の使用態様として、食品組成物(飲料を含む、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、サプリメント等を含む)、健康補助食品、病者用食品を含む)、医薬組成物、医薬部外品組成物、飼料組成物、また、食品組成物、医薬組成物、医薬部外品組成物、飼料等への添加剤等として使用することができる。
【0019】
本発明の組成物は、前述の各種形態、使用態様等における従来公知の通常の手順に従い、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とカフェインとを混合して製造すればよく、必要に応じて、薬学的に許容される成分、香粧学的に許容される成分、可食性の成分といった任意の成分を、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種やカフェインと混合等して製造すればよい。
【0020】
該任意の成分として、溶剤(水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール等のアルコール類(無水、含水の別を問わない)等)、賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、香料、着色料、甘味料、矯味剤、懸濁剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、緩衝剤、結合剤、浸透促進剤、安定剤、増量剤、防腐剤、増粘剤、pH調整剤、界面活性剤、コーティング剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、酸化防止剤、抗炎症剤、清涼剤、皮膜形成剤、ゲル化剤、アミノ酸、ビタミン、酵素、各種栄養成分等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、その含有量も適宜決定すればよい。
【0021】
本発明において、組成物の対象者(対象動物)も制限されないが、ヒト、ヒト以外の哺乳動物、鳥類、爬虫類等が例示される。ヒト以外の哺乳動物としては、生体において血糖値上昇が望ましくない動物が挙げられ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、チンパンジー、ブタ、牛、馬、等の動物、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の動物が例示される。
【0022】
本発明の組成物において、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とカフェインの投与(摂取)量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、対象者(対象動物)の体格、年齢、症状、適用形態、使用目的、期待される効果の程度等に応じて適宜設定すればよい。本発明を制限するものではないが、本発明の組成物を経口投与(摂取)する場合、1日投与(摂取)量として、ヒト1人(体重60kgの成人)を基準として、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、乳酸量換算で、好ましくは40~10000mg、より好ましくは100~8000mg、更に好ましくは500~8000mgが例示される。また、本発明を制限するものではないが、本発明の組成物を経口投与(摂取)する場合、1日投与(摂取)量として、ヒト1人を基準として、カフェインが、好ましくは10~1000mg、より好ましくは10~500mg、更に好ましくは15~400mgが例示される。本発明の組成物は、1日あたり単回投与(摂取)であってもよく複数回投与(摂取)であってもよい。また、本発明の組成物の投与(摂取)は、食前、食後、食間等を問わない。
【0023】
本発明の組成物は、毎日続けて(連続して)投与(摂取)してもよく、1日以上の間をあけて(非連続で)投与(摂取)してもよく、その頻度は制限されず、本発明の組成物が投与(摂取)される対象者の体格、年齢、症状等に応じて適宜設定すればよい。前記1日投与(摂取)量は、連続、非連続にかかわらず、1日間に投与(摂取)する量を意味する。非連続で投与(摂取)する場合、その頻度は制限されず、本発明の効果が奏される限り適宜設定すればよく、例えば、1週間(7日間)のうち、1~6日間のうち少なくともいずれか1日において投与(摂取)すればよい。本発明を制限するものではないが、効果を維持する観点から、本発明の組成物は、例えば、好ましくは毎日、1日おき、2日おき、または3日おきに投与(摂取)される。
【0024】
本発明の組成物を非経口で投与する場合、該組成物の投与量及び頻度は、前述の経口投与(摂取)における値等を参考にして適宜変更すればよい。また、本発明の組成物をヒト以外の哺乳動物に投与(摂取)する場合、該組成物の投与(摂取)量及び頻度は、前述のヒトにおける値等を参考にして、動物に応じて適宜変更すればよい。
【0025】
従来、健康維持や改善のためには運動を行うことも良いと言われている。このことから、本発明の組成物は運動と併用して使用してもよい。運動の程度や種類は制限されず、本発明の組成物が投与(摂取)される対象者の体格、年齢、症状等に応じて適宜設定すればよいが、例えば日常的な運動であればよい。
【0026】
運動の程度は、特に制限されないが、例えば目安として、1日1.5メッツ以上、好ましくは2メッツ以上、より好ましくは2.5~10メッツ、更に好ましくは3~8メッツのような運動が例示される。このような程度の運動は、歩く(ウォーキング)、走る(ジョギング、ランニング)、自転車をこぐ、階段昇降を行う、筋力トレーニングを行う、水泳を行う、荷物を持つといった活動をはじめ、家事、通勤、通学、労働、趣味等の日常的な活動により達成することができる。このような程度の運動は、例えば、毎日行ってもよく、毎日行わなくてもよく、毎日行わない場合は、1週間(7日間)のうち1~6日間の少なくともいずれか1日において行ってもよく、適宜決定すればよい。運動は、好ましくは毎日、1日おき、2日おき、または3日おきに行うことが例示される。前述の1日のメッツの値は1日間の合計値を意味する。本発明の組成物は、前述の運動を行った日と同日に投与(摂取)してもよく、前述の運動を行わなかった日に投与(摂取)してもよい。また、この場合、本発明の組成物の投与(摂取)は、運動と同時でもよく、運動の前後でもよく、投与(摂取)時期は制限されない。
【0027】
なお、メッツ(METs、Metabolic equivalents)は、運動強度を示す単位として従来知られており、厚生労働省の生活習慣病予防のための健康情報サイト(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-004.html)によれば、「運動強度の単位で、安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したもの」であり、「運動や身体活動の強度の単位」であると記載されている。該サイトには、「歩く・軽い筋トレをする・掃除機をかけるなどは3メッツ、速歩・ゴルフ(ラウンド)・自転車に乗る・子供と屋外で遊ぶ・洗車するなどは4メッツ、軽いジョギング・エアロビクス・階段昇降などは6メッツ、長距離走を走る・クロールで泳ぐ・重い荷物を運搬するなどは8メッツといったように、様々な活動の強度がすでに明らかになって」おり、「詳細はエクササイズガイド2006や、国立健康・栄養研究所のホームページに身体活動のメッツ表として掲載」されていると記載されている。このように、前記運動とメッツの関係は当業者であれば容易に把握することができる。
【0028】
本発明の組成物によれば、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とカフェインとを有効成分として、血糖値の上昇を抑制することができる。このことから、本発明は、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とカフェインとを有効成分として用いることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物の製造方法を提供するといえる。また、本発明は、乳酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とカフェインとを有効成分として用いることを特徴とする、血糖値上昇抑制方法を提供するといえる。
【0029】
このように本発明の組成物によれば、血糖値の上昇を抑制することができる。このことから、血糖値の上昇に起因する各種症状の予防または改善を目的として本発明の組成物を使用することができる。このため、本発明の組成物は、本発明を制限するものではないが、血糖値が気になる対象者、血糖値が気になり始めた対象者、生活習慣病が気になる対象者、生活習慣病が気になり始めた対象者、健康志向の対象者等に好ましく適用することができる。生活習慣病としては、糖尿病、肥満症、高血圧症、高脂血症、動脈硬化症、癌、脳卒中等が例示される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0031】
1.試験手順
1)試験動物の準備
本試験は倫理的承認を得て行った。雄性F344ラット(5週齢、日本エスエルシー株式会社)を、室温23℃、明暗12時間サイクル(明期は午前8時~午後8時)の制御環境下で、1匹ずつ動物飼育施設で飼育した。肥満を誘発するために、高脂肪食HFD-60(オリエンタル酵母工業株式会社)と水とを6週間自由摂取させた。
【0032】
このように6週間自由摂取させたラットを無作為に5群に分け、それぞれ、乳酸塩及びカフェイン摂取群(LC、n=9)、乳酸塩摂取群(Lac、n=5)、カフェイン摂取群(Caf、n=7)、運動群(比較群)(Ex、n=11)及び対照群(Sed、n=10)と名付けた。
【0033】
2)被験物の調製
乳酸ナトリウムの終濃度が200mg/mL、カフェインの終濃度が7.2mg/mLとなるように、乳酸ナトリウムとカフェイン(いずれも和光純薬工業株式会社製)とを注射用水(株式会社大塚製薬工場製)に混合、溶解し、乳酸ナトリウムとカフェインとの混合液(LC液)を得た。同様に、乳酸ナトリウムの終濃度が200mg/mLとなるように、乳酸ナトリウムを注射用水に混合、溶解し、乳酸ナトリウム液(Lac液)を得た。同様に、カフェインの終濃度が7.2mg/mLとなるように、カフェインを注射用水に混合、溶解し、カフェイン液(Caf液)を得た。
【0034】
3)被験物の投与
被験物の投与は、1日1回で、1日おきに5週間行った。LC群には、LC液を、1回投与あたり乳酸ナトリウムが1000mg/kg体重(乳酸として803.52mg/kg体重)、カフェインが36mg/kg体重となるように、投与した。Lac群には、Lac液を、1回投与あたり乳酸ナトリウムが1000mg/kg体重(乳酸として803.52mg/kg体重)となるように、投与した。Caf群には、Caf液を、1回投与あたりカフェインが36mg/kg体重となるように、投与した。Ex群、Sed群には、被験物として注射用水を用い、5mL/kg体重となるように注射用水を投与した。被験物の投与は、通常の試験投与方法に従い、経口ゾンデを用いて強制的に経口投与した。
【0035】
なお、該投与量に基づくヒト(体重60kg)への投与量換算は次のように説明できる。ラットにおける体表面積に基づくヒト等価用量(HED、Human equivalent dose)は換算係数6.2から算出できる(米国FDA「Guidance for Industry Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」July 2005参照)。これに基づくと、前述のラットにおける乳酸ナトリウム1000mg/kg体重(乳酸として803.52mg/kg体重)は乳酸として7776mg/60kg体重(ヒト)、カフェイン36mg/kg体重はカフェイン348mg/60kg体重(ヒト)と算出される。
【0036】
4)運動
LC群、Lac群、Caf群、Ex群の各ラットには、回転運動器(回転ケージ80859、Lafayette Model 80859、米国ラファイエット社製)を用いた自発的な走運動を、1日おきに5週間行わせた。ここで行った運動は、ヒトにあてはめるとジョギング~ランニング程度の運動(5~8メッツ程度の運動)に相当する。Sed群の各ラットには、回転運動器を用いた自発的な走運動を行わなかった。
【0037】
運動は、被験物の投与日とは別の日に行った。すなわち、LC群、Lac群、Caf群、Ex群は、被験物を投与した日は前記運度を行わせず、これを5週間続けた。なお、被験物の投与と運動とを交互に行った5週間中も、前記高脂肪食HFD-60と水との自由摂取を各ラットに続けさせた。また、Sed群の各ラットには、前記運動を行わせず、また、他の群と同様に、被験物の投与を行った5週間中も高脂肪食HFD-60と水との自由摂取を続けさせた。
【0038】
5)血糖値の測定
前述のようにして被験物の投与と運動とを交互に5週間続けたのち(Sed群は運動なし)、各ラットを12時間絶食させた。次いで、グルコース負荷試験(Glucose Tolerance Tests)の手順に従い、各ラットにデキストロース(2g/kg体重)を経口投与し、グルコース分析装置(メディセーフフィット、テルモ株式会社製)を用いて血中グルコース濃度を測定した。
【0039】
群毎に、デキストロース投与0分後の血中グルコース濃度の平均値、120分後の血中グルコース濃度の平均値を算出した。次いで、Ex群の平均値を基準にして、次の式に従い、Ex群の平均値に対する各群の平均値の増減割合をそれぞれ算出した。
血中グルコース濃度(平均値)の増減割合=(各群の平均値×100/Ex群の平均値)-100
【0040】
2.結果
結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
表1中、例えば、Caf群のグルコース負荷後0分に示す「-0.4」は、Caf群において、デキストロース投与0分後の血中グルコース濃度(平均値)が、Ex群における同0分後の血中グルコース濃度(平均値)よりも、0.4ポイント減少したことを示す。また、例えば、Sed群のグルコース負荷後0分に示す「0.3」は、Sed群において、デキストロース投与0分後の血中グルコース濃度(平均値)が、Ex群における同0分後の血中グルコース濃度(平均値)よりも、0.3ポイント高かったことを示す。
【0043】
表1に示す通り、グルコース負荷後0分後及び120分後のいずれにおいても、LC群において値が最も減少した。具体的には、同0分後において、Ex群に対する減少が、Caf群では0.4ポイント、Lac群で13.1ポイントであり、これらの合計が13.5ポイント(0.4+13.1)にとどまるのに対して、LC群では16.1ポイント減少し、相乗的な減少が認められた。また、グルコース負荷後120分後においても、Ex群に対する減少が、Caf群では2.7ポイント、Lac群で2.9ポイントであり、これらの合計が5.6ポイント(2.7+2.9)にとどまるのに対して、LC群では13ポイント減少し、相乗的な減少が認められた。
【0044】
このことから、乳酸とカフェインの単独摂取と比較して、これらの併用によれば、血中グルコース濃度を相乗的に減少させることができ、従って、血糖値の上昇を効果的に抑制できることが確認された。
【0045】
グルコース負荷後0分後は12時間絶食後の結果を示しており、これは、ヒトにあてはめると健康診断時等に測定される空腹時の結果を示すといえる。また、グルコース負荷後120分後の結果は、食事摂取後の結果を示すといえる。血糖値が高い状態が続くと過食、肥満、高血圧等につながり、ひいては動脈硬化、糖尿病合併症といった各種症状や疾病のリスクが高くなることが知られている。このため、血糖値を下げることは重要である。また、前述のようにグルコース負荷試験の手順に従い各ラットにデキストロースを経口投与し、グルコース分析装置を用いてデキストロース投与0分後、30分後、60分後、120分後の血中グルコース濃度を測定し、0~120分間のAUC(Area under the curve、曲線下面積)を求めた結果、LC群においてのみ、Ex群に対するAUCの有意な減少が認められた。
【0046】
以上のことから、乳酸とカフェインとの併用によれば、空腹時や食後といった日常の血糖値上昇を効果的に抑制できることが分かった。
【0047】
処方例
次の処方例を示す。次の処方例に示す組成物は、いずれも血糖値上昇抑制用作用を示す。
【0048】
処方例1(飲料)
乳酸 0.2質量%
乳酸ナトリウム 0.25質量%
(乳酸として合計0.4質量%)
カフェイン(無水) 0.2質量%
グラニュー糖 6質量%
クエン酸ナトリウム 0.1質量%
スクラロース 0.01質量%
水 残余
合計 100質量%
【0049】
処方例2(飲料)
乳酸 0.63質量%
乳酸ナトリウム 0.78質量%
(乳酸として合計1.25質量%)
カフェイン(無水) 0.06質量%
グラニュー糖 6質量%
クエン酸ナトリウム 0.1質量%
スクラロース 0.01質量%
水 残余
合計 100質量%
【0050】
処方例3(飲料)
乳酸 1.25質量%
乳酸ナトリウム 1.56質量%
(乳酸として合計2.5質量%)
カフェイン(無水) 0.11質量%
グラニュー糖 6質量%
クエン酸ナトリウム 0.1質量%
スクラロース 0.01質量%
水 残余
合計 100質量%
【0051】
処方例4(飲料)
乳酸 2.5質量%
乳酸ナトリウム 3.11質量%
(乳酸として合計5質量%)
カフェイン(無水) 0.05質量%
グラニュー糖 6質量%
クエン酸ナトリウム 0.1質量%
スクラロース 0.01質量%
水 残余
合計 100質量%
【0052】
処方例5(飲料)
乳酸 7.5質量%
乳酸ナトリウム 9.33質量%
(乳酸として合計15質量%)
カフェイン(無水) 0.03質量%
グラニュー糖 6質量%
クエン酸ナトリウム 0.1質量%
スクラロース 0.01質量%
水 残余
合計 100質量%
【0053】
処方例6(ハードカプセル)
乳酸 41.18質量%
乳酸カルシウム 26.08質量%
(乳酸として合計62.72質量%)
カフェイン 31.36質量%
二酸化ケイ素 1.38質量%
合計 100質量%
【0054】
処方例7(ハードカプセル)
乳酸 57.64質量%
乳酸カルシウム 36.51質量%
(乳酸として合計87.78質量%)
カフェイン 3.93質量%
二酸化ケイ素 1.92質量%
合計 100質量%
【0055】
処方例8(ハードカプセル)
乳酸 59.89質量%
乳酸カルシウム 37.93質量%
(乳酸として合計91.21質量%)
カフェイン 0.18質量%
二酸化ケイ素 2質量%
合計 100質量%
【0056】
処方例9(飲料)
乳酸 0.2質量%
乳酸ナトリウム 0.25質量%
(乳酸として合計0.4質量%)
カフェイン(無水) 0.45質量%
グラニュー糖 6質量%
クエン酸ナトリウム 0.1質量%
スクラロース 0.01質量%
水 残余
合計 100質量%
【0057】
処方例10(飲料)
乳酸 0.2質量%
乳酸ナトリウム 0.25質量%
(乳酸として合計0.4質量%)
カフェイン(無水) 0.431質量%
グラニュー糖 6質量%
クエン酸ナトリウム 0.1質量%
スクラロース 0.01質量%
水 残余
合計 100質量%
【0058】
処方例11(タブレット)
乳酸カルシウム 63.54質量%
(乳酸として52.46質量%)
カフェイン 1質量%
D-マンニトール 26.36質量%
クロスポビドン 5質量%
ヒドロキシプロピルセルロース 3質量%
サッカリンナトリウム 0.1質量%
ステアリン酸マグネシウム 1質量%
合計 100質量%