(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】熱陰極電離真空計、熱陰極電離真空計を備える圧力測定システム並びに熱陰極電離真空計を用いた圧力測定方法
(51)【国際特許分類】
G01L 21/32 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
G01L21/32
(21)【出願番号】P 2019010223
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】宮下 剛
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊昭
(72)【発明者】
【氏名】福原 万沙洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴伸
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-129934(JP,A)
【文献】特開2015-184058(JP,A)
【文献】特開平11-083661(JP,A)
【文献】特開2016-033509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント、グリッド及びイオンコレクタを有するセンサ本体と制御手段とを備え、
制御手段は、測定対象物に本体を装着した状態でフィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、フィラメントより高い電位をグリッドに付与して、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンをイオンコレクタで捕集し、このときイオンコレクタを流れるイオン電流をIi、感度をS、フィラメントとグリッドとの間のエミッション電流をIeとして、Ii=Ie×S×Pの関係式から測定対象物内の圧力Pを指示する熱陰極電離真空計であって、
測定しようとする測定対象物内の圧力範囲に応じて、エミッション電流を切り換える電流切換部を備えるものにおいて、
予め設定される感度を標準感度、上記圧力範囲のうち比較的高い範囲を測定するときのエミッション電流を第1エミッション電流、上記圧力範囲のうち比較的低い範囲を測定するときのエミッション電流を第2エミッション電流として、制御手段は、第1及び第2の各エミッション電流にて前記関係式から第1圧力と第2圧力とを夫々算出し、その後に、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するのに際しては、第1圧力と第2圧力とに基づいて標準感度を補正した感度を用いることを特徴とする熱陰極電離真空計。
【請求項2】
前記第1圧力と前記第2圧力とが測定対象物の圧力を一定にした状態で夫々検出され、制御手段は、第2圧力に対する第1圧力の圧力比と前記標準感度とから、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するときの標準感度を補正することを特徴とする請求項1記載の熱陰極電離真空計。
【請求項3】
請求項1記載の熱陰極電離真空計であって、測定対象物に真空ポンプが接続され、真空ポンプを作動させて測定対象物内を真空排気したとき、この測定対象物内の圧力を指示するのに用いられるものにおいて、
前記第1圧力と前記第2圧力とは、真空ポンプを作動させて測定対象物内を所定圧力まで真空排気した後、測定対象物内を隔絶したビルドアップ状態で夫々検出され、
制御手段は、単位時間あたりの第2圧力の圧力上昇量に対する第1圧力の圧力上昇量の圧力上昇比と標準感度とから、切換後の第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するときの標準感度を補正することを特徴とする熱陰極電離真空計。
【請求項4】
請求項1記載の熱陰極電離真空計であって、測定対象物に真空ポンプが接続され、真空ポンプを作動させて測定対象物内を真空排気したとき、この測定対象物内の圧力を指示するのに用いられるものにおいて、
前記電流切換部により第1エミッション電流から第2エミッション電流に切り換わる前に、第1エミッション電流にて、単位時間当たりの前記第1圧力の圧力降下速度を求め、この求めた圧力降下速度から第2エミッション電流に切り換えた後の前記第2圧力を推測し、この推定圧力に対する第2エミッション電流にて検出された第2圧力との比を求め、
制御手段は、上記で計算された比と標準感度とから、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するときの標準感度を補正することを特徴とする熱陰極電離真空計。
【請求項5】
前記標準感度に対する補正後の感度の比を外部機器に出力する出力手段を備えることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の熱陰極電離真空計。
【請求項6】
前記標準感度に対する補正後の感度の比が所定値を超えたときにセンサ異常を報知する報知手段を備えることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の熱陰極電離真空計。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の熱陰極電離真空計と、前記制御手段に通信回線を介して通信自在に接続が可能な外部機器とを備える圧力測定システムにおいて、
外部機器が、夫々算出された前記第1圧力と前記第2圧力との入力を受けると、前記標準感度を補正した感度を算出する演算部と、演算部で算出した感度を記憶する記憶部とを有し、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するのに際しては、記憶部に記憶された感度を用いる指令を前記制御手段に出力するように構成したことを特徴とする圧力測定システム。
【請求項8】
測定対象物に本体を装着した状態でフィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、フィラメントより高い電位をグリッドに付与して、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンをイオンコレクタで捕集し、このときイオンコレクタを流れるイオン電流をIi、感度をS、フィラメントとグリッドとの間のエミッション電流をIeとして、Ii=Ie×S×Pの関係式から測定対象物内の圧力Pを指示し、測定しようとする測定対象物内の圧力範囲に応じて、エミッション電流を切り換える工程を含む圧力測定方法において、
予め設定される感度を標準感度、上記圧力範囲のうち比較的高い範囲を測定するときのエミッション電流を第1エミッション電流、上記圧力範囲のうち比較的低い範囲を測定するときのエミッション電流を第2エミッション電流とし、第1及び第2の各エミッション電流にて前記関係式から第1圧力と第2圧力とを夫々算出する工程と、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するのに際し、第1圧力と第2圧力とに基づいて標準感度を補正した感度を用いる工程とを更に含むことを特徴とする圧力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器等の測定対象物の圧力(全圧)を測定するための熱陰極電離真空計、熱陰極電離真空計を備える圧力測定システム並びに熱陰極電離真空計を用いた圧力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングや蒸着による成膜等、真空処理装置内で実施される真空プロセスにおいては、真空処理装置の真空容器内の圧力が、例えば製品歩留まりに大きな影響を与える場合がある。真空プロセス中、測定対象物としての真空容器内の圧力のうち1Pa~10-6Paの広い範囲を精度よく測定するものとして熱陰極電離真空計が一般に知られている。熱陰極電離真空計は、通常、フィラメント、グリッド及びイオンコレクタを有する本体と制御手段とで構成される。
【0003】
真空容器内の圧力を測定する場合、本体を真空容器に装着した状態でその内部が真空排気されると、制御手段は、フィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、フィラメントより高い電位をグリッドに付与する。このとき、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンがイオンコレクタで捕集される。そして、制御手段は、イオンコレクタを流れるイオン電流をIi、感度をS、フィラメントとグリッドとの間のエミッション電流をIeとして、Ii=Ie×S×Pの関係式から真空容器内の圧力Pが圧力指示値として算出する。この算出された圧力指示値は、ディスプレイなどの外部機器に出力して表示できるようになっている。このとき、測定しようとする真空容器内の圧力範囲に応じて、エミッション電流を切り換える電流切換部を設け、例えば、上記圧力範囲のうち比較的高い範囲(例えば、1Pa~10-2Pa)を測定するときのエミッション電流を第1エミッション電流、上記圧力範囲のうち比較的低い範囲(10-2Pa~10-6Pa)を測定するときのエミッション電流を第2エミッション電流として圧力指示値を得ることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、上記熱陰極電離真空計によって真空容器内の圧力を測定していると、何等かの原因で真空容器内の分子や原子がイオンコレクタに付着して汚染される場合がある。そして、イオンコレクタが汚染されると、汚染層に起因して正イオンの流入が妨げられることで、実際の圧力より低い圧力を圧力指示値として指示してしまうことが一般に知られている。特に、比較的大きいエミッション電流により圧力測定しているような場合には、フィラメントからの熱電子の放出量が多くなって気体原子、分子の正イオンの量が多くなるが、有効に流入できないことで、実際の圧力より一層低い圧力を圧力指示値として指示してしまい、これでは、比較的低い圧力範囲(10-2Pa~10-6Pa)を正確に測定できない。
【0005】
このような問題の解決策として、真空容器に、熱陰極電離真空計以外の基準となる真空計を別途設け、この基準真空計で測定した圧力から標準感度を補正することが知られている(例えば、特許文献2参照)。然し、このように複数類の真空計を常時用いるのでは、例えば部品点数が増加してコスト高を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-129934号公報
【文献】特開2011-191284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、イオンコレクタの汚染状態に応じて感度を補正し、正確な圧力指示値が得られるようにした熱陰極電離真空計、この熱陰極電離真空計を備える圧力測定システム並びに熱陰極電離真空計を用いた圧力測定方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、フィラメント、グリッド及びイオンコレクタを有する本体と制御手段とを備え、制御手段は、測定対象物に本体を装着した状態でフィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、フィラメントより高い電位をグリッドに付与して、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンをイオンコレクタで捕集し、このときイオンコレクタを流れるイオン電流をIi、感度をS、フィラメントとグリッドとの間のエミッション電流をIeとして、Ii=Ie×S×Pの関係式から測定対象物内の圧力Pを指示する本発明の熱陰極電離真空計は、制御手段が、測定しようとする測定対象物内の圧力範囲に応じて、エミッション電流を切り換える電流切換部を備え、予め設定される感度を標準感度、上記圧力範囲のうち比較的高い範囲を測定するときのエミッション電流を第1エミッション電流、上記圧力範囲のうち比較的低い範囲を測定するときのエミッション電流を第2エミッション電流として、制御手段は、第1及び第2の各エミッション電流にて前記関係式から第1圧力と第2圧力とを夫々算出し、その後に、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するのに際しては、第1圧力と第2圧力とに基づいて標準感度を補正した感度を用いることを特徴とする。なお、本発明において、「第1圧力」及び「第2圧力」には、前記関係式から直接算出される値だけでなく、これらから夫々推測される値も含まれる。
【0009】
本発明において、前記第1圧力と前記第2圧力とが測定対象物の圧力を一定にした状態で夫々検出され、制御手段は、第2圧力に対する第1圧力の圧力比と前記標準感度とから、切換後の第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するときの標準感度を補正すればよい。
【0010】
また、本発明において、測定対象物に真空ポンプが接続され、真空ポンプを作動させて測定対象物内を真空排気したとき、この測定対象物内の圧力を指示するのに用いられるような場合には、前記第1圧力と前記第2圧力とは、真空ポンプを作動させて測定対象物内を所定圧力まで真空排気した後、測定対象物内を隔絶したビルドアップ状態で夫々検出され、制御手段は、単位時間あたりの第2圧力の圧力上昇量に対する第1圧力の圧力上昇量の圧力上昇比と標準感度とから、切換後の第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するときの標準感度を補正することができる。他方で、前記電流切換部により第1エミッション電流から第2エミッション電流に切り換わる前に、第1エミッション電流にて、単位時間当たりの前記第1圧力の圧力降下速度を求め、この求めた圧力降下速度から第2エミッション電流に切り換えた後の前記第2圧力を推測し、この推定圧力に対する第2エミッション電流にて検出された第2圧力との比を求め、制御手段は、上記で計算された比と標準感度とから、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するときの標準感度を補正することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の圧力測定方法は、測定対象物に本体を装着した状態でフィラメントに通電してこのフィラメントを点灯させて熱電子を放出させ、フィラメントより高い電位をグリッドに付与して、このグリッド周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンをイオンコレクタで捕集し、このときイオンコレクタを流れるイオン電流をIi、感度をS、フィラメントとグリッドとの間のエミッション電流をIeとして、Ii=Ie×S×Pの関係式から測定対象物内の圧力Pを指示し、測定しようとする測定対象物内の圧力範囲に応じて、エミッション電流を切り換える工程を含み、予め設定される感度を標準感度、上記圧力範囲のうち比較的高い範囲を測定するときのエミッション電流を第1エミッション電流、上記圧力範囲のうち比較的低い範囲を測定するときのエミッション電流を第2エミッション電流とし、第1及び第2の各エミッション電流にて前記関係式から第1圧力と第2圧力とを夫々算出する工程と、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するのに際し、第1圧力と第2圧力とに基づいて標準感度を補正した感度を用いる工程とを更に含むことを特徴とする。
【0012】
以上によれば、例えば、測定対象物の圧力測定時、その内部の圧力に応じてエミッション電流を比較的小さい第1エミッション電流(例えば10μA)と比較的大きい第2エミッション電流(例えば1mA)との二段階に制御可能とし、圧力を一定にした状態(例えば1×10-3Pa)で、第1電流及び第2電流のエミッション電流毎に上記関係式から圧力指示値をみると、第1エミッション電流では、イオンコレクタの汚染状態が進行しても、圧力指示値が略一定になるのに対し、第2エミッション電流では、イオンコレクタの汚染の進行に伴って、圧力指示値が次第に低下することが判った。そこで、本発明では、第1エミッション電流(例えば、上記第1電流)と第2エミッション電流(例えば、上記第2電流)にて第1圧力及び第2圧力を夫々検出し、その後に、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するのに際しては、第1圧力と第2圧力とに基づいて標準感度を補正した感度を用いることで、電離真空計以外の基準真空計を利用することなく、圧力指示値を得ることが可能になる。この場合、真空容器内を大気開放したりする必要はなく、有利である。
【0013】
ここで、上記のように感度を補正する場合、これに併せて基準感度に対する補正後の感度の比を求めれば、センサ本体の構成要素としてのフィラメントやイオンコレクタの異常(寿命を含む)を判断することができる。そこで、本発明においては、前記標準感度に対する補正後の感度の比を外部機器に出力する出力手段や、前記標準感度に対する補正後の感度の比が所定値を超えたときにセンサ異常を報知する報知手段を備えることが好ましい。
【0014】
また、上記課題を解決するために、上記熱陰極電離真空計と、前記制御手段に通信回線を介して通信自在に接続が可能な外部機器とを有する本発明の圧力測定システムは、外部機器が、夫々算出された前記第1圧力と前記第2圧力との入力を受けると、前記標準感度を補正した感度を算出する演算部と、演算部で算出した感度を記憶する記憶部とを有し、第2エミッション電流にて測定対象物の圧力を指示するのに際しては、記憶部で記憶した感度を用いる指令を前記制御手段に出力するように構成したことを特徴とする。これによれば、熱陰極電離真空計自体の構成を簡単なものにでき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態の熱陰極電離真空計の構成を模式的に示す図。
【
図2】真空容器内の圧力を一定にした状態での圧力指示値の変化を示す図。
【
図3】ビルドアップ状態での圧力指示値の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の熱陰極電離真空計の実施形態を説明する。以下においては、測定対象物である真空容器Moに対する後述のセンサ本体Sbの装着方向を上方として説明する。
【0017】
図1を参照して、本実施形態の熱陰極電離真空計IGは、センサ本体Sbと制御ユニットCuとで構成される。この場合、センサ本体Sbと制御ユニットCuとは一体に構成することもでき、他方で、センサ本体Sbと制御ユニットCuとを配線接続するように構成することもできる。センサ本体Sbは、有底筒状の容器(エンベロープ)を備え、その縮径させた上部先端に形成したフランジfl(及びOリング)を介して真空容器Moに着脱自在に取り付けられる。センサ本体Sb内には、フィラメント1と、グリッド2と、イオンコレクタ3とが設けられている。
【0018】
フィラメント1は、φ0.1~0.2mmの範囲の線材をヘアピン状に成形したもので構成される。線材としては、表面をイットリアで覆ったイリジウムやタングステン等の金属製のものが用いられる。そして、フィラメント1の両自由端がセンサ本体Sb内に図示省略の絶縁体を介して突設させた支持ピン11a,11bに接続され、センサ本体Sb内の所定位置に位置決め支持されるようにしている。
【0019】
フィラメント1に隣接配置されるグリッド2は、φ0.1mm~0.2mmの線材をコイル状に巻回して円筒状の輪郭を持つように成形したもので構成される。線材としては、タングステン、モリブデン、表面を白金で被覆したモリブデン、タンタル、白金、イリジウム、白金とイリジウムの合金、ニッケル、ニッケルと鉄との合金、ステンレスまたはこれらから選択された少なくとも二種類の合金製のものが用いられる。そして、グリッド2の一端が、図示省略の絶縁体を介してセンサ本体Sb内に突設させた支持ピン21aに接続され、センサ本体Sb内の位置決め支持されるようになっている。なお、グリッド2の形態はこれに限定されるものではなく、上記線材を格子状に組み付けて筒状の輪郭を持つように成形したものや、パンチングメタルまたはフォトエッチングシートを筒状に成形したものを用いることができる。
【0020】
グリッド2の軸線に沿ってのびるようにグリッド2に挿設されるイオンコレクタ3は、φ0.1~0.2mmの範囲の線材で構成される。線材としては、モリブデン、表面を白金で被覆したモリブデン、タンタル、白金、イリジウム、白金とイリジウムの合金、ニッケル、ニッケルと鉄との合金またはこれから選択された少なくとも二種類の合金製のものが用いられる。そして、イオンコレクタ3の一端が、図示省略の絶縁体を介してセンサ本体Sb内に突設させた支持ピン31aに接続され、センサ本体Sb内の所定位置に位置決めされ支持される。
【0021】
一方、制御ユニットCuは筐体F(
図1中、一点鎖線で示す)を備え、その筐体F内に、コンピューター、メモリやシーケンサ等を備える制御手段Cpが内蔵されている。制御手段Cpはまた、後述の各電源の作動を制御したり、電流計Aにて測定されたイオン電流値から圧力指示値を算出したり、この算出した後を例えば図示省略のディスプレイに出力したりする処理を含め、各種処理を統括制御するようになっている。筐体F内には、フィラメント1に直流電流を通電してフィラメント1を赤熱(点灯)するフィラメント点灯用の第1電源E1と、グリッド2に対してフィラメント1より高い電位を与えるグリッド用の第2電源E2と、支持ピン31aに接続されてイオンコレクタ3を流れるイオン電流を検出する電流計Aとが内蔵されている。この場合、第1電源E1は、フィラメント1に印加する電圧(または通電電流)が可変であり、これにより、真空容器Mo内の圧力範囲に応じて、フィラメント1とグリッド2との間のエミッション電流を、第1エミッション電流(10μA)と、第2エミッション電流(1mA)との二段階に制御可能とし、例えば、1×1Pa~1×10
-2Paの範囲の圧力を第1エミッション電流、1×10
-2Pa~1×10
-6Paの範囲の圧力を第2エミッション電流で測定できるようにしている。本実施形態では、第1電源E1が電流切換部の役割を兼用する。
【0022】
また、制御ユニットCuの制御手段Cpは、
図1に示すように、真空処理装置の制御コントローラ、タブレットまたはパソコンといった外部機器Edに、通信回線としてのUSBケーブルCkを介して通信自在に接続することができ、熱陰極電離真空計IGと外部機器Edとで構成される圧力測定システムMSとしてもよい。なお、通信自在な接続方法はこれに限定されるものではなく、有線の他、赤外線通信、近距離通信規格であるBluetooth(登録商標)やWi-Fi等を利用することもできる。そして、真空容器Mo内の圧力を測定するのに際しては、センサ本体Sbを真空容器Moに装着した状態で真空容器Moが真空排気されると、制御手段Cpは、第1電源E1により比較的低い電圧でフィラメント1に通電してこのフィラメント1を点灯させて熱電子を放出させると共に、第2電源E2によりフィラメント1より高い電位をグリッド2に付与する(この場合、フィラメント1とグリッド2との間のエミッション電流が第1エミッション電流(10μA)に制御される)。このとき、このグリッド2周辺で熱電子と衝突して生じた気体原子、分子の正イオンがイオンコレクタ3で捕集される。そして、制御手段Cpは、イオンコレクタ3を流れるイオン電流をIi、感度をS、フィラメント1とグリッド2との間のエミッション電流をIeとして、Ii=Ie×S×Pの関係式から真空容器Mo内の圧力Pを圧力指示値として算出する。このように圧力指示値が算出されると、制御手段Cpは、その圧力指示値を例えば筐体Fに組み付けた図示省略のディスプレイに表示したり、または、圧力測定システムMSとしているような場合には、USBケーブルCkを介して外部機器Edに出力するようになっている。
【0023】
次に、真空容器Mo内の圧力低下に伴い、圧力指示値が所定値(例えば1×10-2Pa)を超えると、第1電源E1により比較的高い電圧でフィラメント1に通電され(この場合、フィラメント1とグリッド2との間のエミッション電流が、第2エミッション電流(1mA)に切り換えられて制御される)、上記と同様にして、イオンコレクタ3を流れるイオン電流Iiから真空容器Mo内の圧力Pを圧力指示値として算出する。この場合、感度Sとしては、予め実験的に求められたもの(例えば0.06/Pa)や、公知の校正で求められた各センサ本体Sbに固有の感度が標準感度として用いられ、制御手段Cpの記憶部(図示せず)に事前に記憶されている。
【0024】
ところで、何等かの原因で真空容器Mo内の分子や原子がイオンコレクタ3に付着して汚染されると、汚染層に起因して正イオンのイオンコレクタ3への流入が妨げられる。特に、比較的大きい第2エミッション電流により圧力測定しているような場合には、フィラメント1からの熱電子の放出量が多くなって気体原子、分子の正イオンの量が多くなるが、有効に流入できないことで、実際の圧力より一層低い圧力を圧力指示値として指示してしまい、これでは、比較的低い圧力範囲(1×10
-2Pa~1×10
-6Pa)を正確に測定できない。このため、特に、第2ミッション電流で圧力測定する際に感度Sを適宜補正して、真空容器Mo内の圧力を常時正確に指示できるようにする必要がある。そこで、本実施形態では、予め設定された感度Sを標準感度として、制御手段Cpは、第1エミッション電流と第2エミッション電流にて上記関係式から第1圧力及び第2圧力を夫々検出し、第2エミッション電流にて真空容器Mo内の圧力を指示するのに際しては、第1圧力と第2圧力とに基づいて標準感度を補正した感度を用いることとした。以下に、第1圧力と第2圧力とに基づいて標準感度を補正すれば、正確な圧力指示値が得られることにつき、発明者らの実験を含め、
図2を参照しつつ、本実施形態の圧力測定方法につき具体的に説明する。
【0025】
発明者らが実施した実験では、センサ本体Sbとして新品のもの(試料1)、センサ内部が汚染により若干変色した(つまり、イオンコレクタ3表面への正イオンの流入が妨げられる)もの(試料2)及び、センサ内部が汚染により変色したもの(試料3)を用意した。次に、試料1を真空容器Moの所定位置に装着した後、真空ポンプを作動させてその内部を真空排気した。そして、特に図示して説明しないが、真空ポンプから真空容器Moに通じる排気管に介設したコンダクタンスバルブの開度を適宜調整して真空容器Moが所定圧力(例えば、1×10
-3Pa)に略一定に保持されるようにした。そして、当初は、エミッション電流を第1エミッション電流に設定し、所定時間経過すると、第2エミッション電流に切り換え、両エミッション電流にて上記に従い圧力指示値を算出し、その結果を
図2中、実線で示す。これによれば、エミッション電流の切換時、放出ガスなどの影響を受けて圧力指示値が変動しているものの、エミッション電流を第1エミッション電流と第2エミッション電流とに切り換えても、同等の圧力指示値を指示している。
【0026】
次に、試料2を真空容器Moの所定位置に装着した後、上記と同様にして圧力を測定すると、
図2中、点線で示すように、エミッション電流が比較的低い第1エミッション電流に設定されているとき、その圧力指示値の変化は殆どないものの、エミッション電流を第2エミッション電流に切り換えると、圧力指示値が約20%低くなっている。更に、試料3を真空容器Moの所定位置に装着した後、上記と同様にして圧力を測定すると、
図2中、一点鎖線で示すように、エミッション電流が比較的低い第1エミッション電流に設定されているとき、その圧力指示値の変化は殆どないものの、エミッション電流を第2エミッション電流に切り換えると、圧力指示値が約80%低くなっている。
【0027】
以上からすると、イオンコレクタ3の汚染状態に応じて標準感度を補正すれば、上記所定圧力(1×10-3Pa)より低い真空容器Mo内の圧力を第2エミッション電流にて正確に測定できる(即ち、正確な圧力指示値が得られる)ことが判る。この知見を基に、真空容器Moが所定圧力(1×10-3Pa)に保持される状態で第1エミッション電流と第2エミッション電流とで第1圧力及び第2圧力を夫々検出し、第2圧力に対する第1圧力の圧力比を求め、これを制御手段Cpの記憶部に記憶させておく。そして、真空容器Mo内を更に真空排気し、比較的高い第2エミッション電流によりそのときの圧力を測定する場合には、制御手段Cpは、標準感度に上記圧力比を乗じて感度を補正し、この補正後の感度を用いて上記関係式から圧力指示値を得ればよい。その結果、熱陰極電離真空計IG以外の基準真空計を利用することなく、正確な圧力指示値を得ることが可能になる。この場合、真空容器Mo内を大気開放したりする必要はなく、有利である。
【0028】
上記においては、真空容器Mo内の圧力が高くなる程、圧力Pとイオン電流Iiとの関係にリニアリティがなくなる一方で、圧力が低いときには、真空容器Moの壁面等から放出されるガス量などの影響を受け易くなる。このため、上記のようにして感度を補正する場合、1×10-2Pa~1×10-4Paの圧力範囲で実施することが好ましい。また、標準感度に上記圧力比を乗じて感度を補正するとき、制御手段Cpは、基準感度に対する補正後の感度の比を求め、この求めた比が予め設定された所定値を超えている場合、センサ本体Sbの構成要素としてのフィラメント1やイオンコレクタ3のセンサ異常(寿命を含む)を判断するようにしてもよい。この場合、制御手段Cpは、例えば筐体Fに付設したディスプレイやスピーカー(図示せず)といった報知手段を介してセンサ異常を報知することができる。他方で、圧力測定システムMSとしている場合には、外部機器Edの記憶部(図示せず)にセンサ異常(寿命を含む)を判断するための閾値を予め記憶させておき、制御手段Cpが基準感度に対する補正後の感度の比を求めると、この求めた比を外部機器Edに出力し、外部機器Edの演算部(図示せず)にて、入力された比と閾値とからセンサ異常を判断するようにしてもよい。この場合、制御手段Cpが、外部機器Edに出力する出力手段を兼用する。また、センサ異常と判断したような場合には、外部機器Edが有するディスプレイやスピーカー(図示せず)といった報知手段を介してセンサ異常を報知することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変形が可能である。上記実施形態では、真空容器Moが所定圧力(1×10-3Pa)に保持される状態で、感度補正を行うものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、真空容器Mo内を真空ポンプにより所定圧力(例えば1×10-5Pa)まで真空排気した後、コンダクタンスバルブを完全に閉じて真空容器Mo内を隔絶したビルドアップ状態とし、このときの第1圧力と第2圧力との関係から感度補正を行うこともできる。
【0030】
即ち、
図3を参照して、真空容器Moのビルドアップ状態では、例えばその壁面からの放出ガスの影響を受けて真空容器Mo内の圧力は時間の経過に伴い上昇する。ビルトアップ状態の当初は、第2エミッション電流によりそのときの圧力指示値が算出されるが、イオンコレクタ3の汚染状態に応じてその圧力指示値は次第に低下する(
図3中、点線と一点鎖線参照)。そこで、制御手段Cpは、第2圧力を算出したとき、これに併せて、単位時間あたりの第2圧力の圧力上昇量を求め、これを制御手段Cpの記憶部に記憶させる。次に、真空容器Mo内の圧力が所定圧力(1×10
-2Pa)まで上昇すると、制御手段Cpは、第1エミッション電流(10μA)に切り換えてそのときの圧力指示値を第1圧力として算出し、単位時間あたりの第1圧力の圧力上昇量を求め、夫々算出した圧力上昇量から、第1圧力に対する第2圧力の圧力上昇比を求める。その後にコンダクタンスバルブの開度をあげて真空容器Mo内を更に真空排気し、第2エミッション電流によりそのときの圧力を測定する場合には、制御手段Cpは、標準感度に上記圧力上昇比を乗じて感度を補正し、この補正後の感度を用いて上記関係式から圧力指示値を得る。
【0031】
また、変形例に係るものでは、真空ポンプにより真空容器Mo内を大気圧から真空排気している状態で、第1圧力と第2圧力との関係から感度補正を行うこともできる。即ち、
図4を参照して、真空容器Mo内の真空排気を開始した当初は、第1エミッション電流により第1圧力を検出し、真空容器Mo内の圧力が所定圧力(8×10
-3Pa)まで下降すると、第2エミッション電流に切り換えて第2圧力を検出するが、イオンコレクタ3の汚染状態に応じてその圧力指示値は次第に低下する(
図4中、点線と一点鎖線参照)。そこで、制御手段Cpは、第1圧力を算出したとき、これに併せて、単位時間あたりの第1圧力の圧力降下速度を求め、この圧力降下速度から第2エミッション電流に切り換えた後の真空容器Mo内の圧力を推測し、これを推定圧力として制御手段Cpの記憶部に記憶させる。次に、真空容器Mo内の圧力が所定圧力まで降下したら、制御手段Cpは、第2エミッション電流に切り換えてそのときの圧力指示値を第2圧力として算出し、これに併せて、上記推定圧力に対する第2圧力との比を求める。真空容器Mo内の真空排気を継続し、第2エミッション電流によりそのときの圧力を測定する場合には、制御手段Cpは、標準感度に上記で計算された比を乗じて感度を補正し、この補正後の感度を用いて上記関係式から圧力指示値を得ればよい。なお、上記実施形態では、エミッション電流を二段階に可変制御するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、複数段でエミッション電流を切り換えて圧力測定するものにも本発明は適用できる。
【0032】
ところで、上記実施形態では、例えば、真空容器Moが所定圧力に保持される状態で第1エミッション電流と第2エミッション電流とで第1圧力及び第2圧力を夫々検出した後、第2圧力に対する第1圧力の圧力比を算出したり、これを記憶したりすることの全てを制御手段Cpで行うものを例に説明したが、このように全ての処理を熱陰極電離真空計IGに集中させるのでは、例えば高機能の制御手段Cpが必要になったり、制御プログラムが複雑になったりして、熱陰極電離真空計IG自体の構成の複雑化やコストアップを招来するなどの問題が生じる。そこで、圧力測定システムMSとしているような場合には、制御手段Cpが、上記関係式から圧力指示値を求め、この求めた圧力指示値を外部機器Edに出力する処理のみを行うように構成する一方で、外部機器Edの記憶部に基準感度を記憶させると共に、外部機器Edの演算部が、制御手段Cpからの第1圧力と第2圧力との入力を受けると、第2圧力に対する第1圧力の圧力比を求め、標準感度に上記圧力比を乗じて感度を補正し、この補正後の感度を用いて上記関係式から圧力指示値を得る一連の処理を行うようにしてもよい。これによれば、熱陰極電離真空計IG自体の構成をより簡単なものにでき、有利である。
【符号の説明】
【0033】
MS…圧力測定システム、Mo…真空容器(測定対象物)、Ed…外部機器、IG…熱陰極電離真空計、Cp…制御手段(電流切換部)、Sb…センサ本体、1…フィラメント、2…グリッド、3…イオンコレクタ。