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特許7195988菓子類用穀粉組成物、菓子類用生地及び菓子類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】菓子類用穀粉組成物、菓子類用生地及び菓子類
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20221219BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20221219BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D13/80
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019054456
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020150889
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】益田 美子
(72)【発明者】
【氏名】山本 克広
(72)【発明者】
【氏名】大楠 秀樹
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-184848(JP,A)
【文献】特開平06-153769(JP,A)
【文献】特開平09-220049(JP,A)
【文献】米国特許第06010736(US,A)
【文献】特許第6999359(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23G
日経テレコン
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールの小麦粉を含む菓子類用穀粉組成物であって、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールの小麦粉の合計質量に対して5~55質量%のデュラム小麦セトデュールの小麦粉を含む菓子類用穀粉組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の穀粉組成物を含む菓子類用生地。
【請求項3】
請求項2に記載の菓子類用生地を焼成してなる菓子類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菓子類用穀粉組成物、菓子類用生地及び菓子類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小麦粉を原材料とする菓子類は、植物学的分類における普通系小麦に属する軟質小麦から得られる比較的低タンパク質量である薄力小麦粉を主体として製造されている。
植物学的分類における二粒系小麦に属するデュラム小麦は、カロテノイド色素の含量が高く、高タンパク質含量、高硬度等の特性から、硬く弾力のある食感が求められるパスタ類の製造に使用される。一般に、タンパク質含量が少ない薄力小麦粉を主体として製造する菓子類に、普通小麦から得られるパン用小麦粉(強力小麦粉)と同程度の高タンパク質含量を有するデュラム小麦を使用すると、硬い製品となったりザラついた食感になったりするため、菓子類の製造には適さないとされてきた。デュラム小麦のセモリナを、マフィンなどをどっしりした食感にするために使用したり、海外ではスージーケーキ(シンガポール)、セモリナケーキ(イタリア)などに使用する例があるが、軽い食感が好まれる菓子類に使うことは一般にはほとんどない。
デュラムセモリナよりも粒度の細かいデュラム小麦粉を菓子類に使用した例として、特許文献1には、デュラム小麦粉の配合割合が30~100重量%である穀粉を使用することで解凍して喫食した場合の食感が良好で風味の優れた冷凍ベーカリー製品(イーストドーナツやホットケーキを含む)を提供出来ることが開示されている。また特許文献2には、所定のグルテンバイタリティとグルテン膨潤度となるように熱処理したデュラム小麦粉を使用することで外観、食感、触感及び風味に優れるケーキ類やドーナツ類の菓子類を提供出来ることが記載されている。
しかしながらこれらの方法による効果は十分とはいえず、また熱処理などの工程を必要とするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-153769
【文献】特開平9-220049
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食感に優れ、良好な生地性及び製品外観を有する菓子類の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、菓子類において、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールの小麦粉の合計質量に対して5~55質量%のセトデュールの小麦粉を使用することで優れた食感を有する菓子類を提供できること、またスポンジケーキ類などの起泡性の生地を使用するものについては作業時の生地性を向上し、さらにパウンドケーキでは製品外観(ボリューム)を損なわない製品が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールの小麦粉を含む菓子類用穀粉組成物であって、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールの小麦粉の合計質量に対して5~55質量%のデュラム小麦セトデュールの小麦粉を含む菓子類用穀粉組成物。
[2]前記[1]に記載の穀粉組成物を含む菓子類用生地。
[3]前記[2]に記載の菓子類用生地を焼成してなる菓子類。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、食感が優れた菓子類を得ることが出来る。また本発明によれば製造作業時の生地性や作業性が良好で、製品外観が良好な菓子類を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において菓子類とは薄力小麦粉を代表とする穀粉などの澱粉含有物、油脂、砂糖、鶏卵など含む生地を混合しオーブンにて焼成した食品である。菓子類には、クッキー類、バターケーキ類、スポンジケーキ類が含まれる。
本発明においてクッキー類とは薄力小麦粉を主原料とする小型の焼き菓子であり、例えば、クッキー、サブレ、ビスケット、クラッカー等が挙げられる。
本発明においてバターケーキ類とは、主原料の1つとしてバターを用いたケーキであり、主な原料としてバター、砂糖、卵、薄力小麦粉、必要によりベーキングパウダー等の膨張剤から作られる。例えばパウンドケーキ、バターケーキ、カップケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘンが挙げられる。バターについては、食感などを考慮し、マーガリンやショートニングなど他の油脂を使用してもかまわない。
本発明においてスポンジケーキ類とは卵、砂糖、薄力小麦粉を基本材料として、卵の気泡性を利用した生地を使用して作られる。例えば、スポンジケーキ、シフォンケーキ、カステラ、ブッセが挙げられる。
【0008】
本発明の穀粉組成物は普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールの小麦粉を含む。
一般にデュラム小麦などの硬質小麦の製粉工程においては、「セモリナ」と称される比較的粒度の粗い状態の胚乳の粉砕物であって、目開き約300μmの篩を抜けない程度の粗さのものが汎用されている。
本発明において「小麦粉」は小麦の胚乳部分を製粉したものであってセモリナよりも粒度が細かいものを意味し、セモリナとは区別される。なお、食品の安全性に関する国際規格であるコーデックス規格では、規格178-1991において、粒度に関して、目開き315μmの篩を最大で79%抜けるものをデュラム小麦セモリナと定義している。同規格152-1985では目開き212μmの篩を98%以上抜けるものを小麦粉と定義している。
【0009】
本発明において「薄力小麦粉」は、軟質小麦を製粉して得られる小麦粉であって比較的低いタンパク質含有量のものを言う。薄力小麦粉のタンパク質含有量は、目安として6.5~9.5質量%程度であるがこれに限定されない。
本発明において「デュラム小麦」は、植物学的分類における二粒系小麦に属し、カロテノイド色素の含量が高く、高タンパク質含量、高硬度等の特性を有する。
本発明において小麦粉の原料となるデュラム小麦は、日本初のデュラム小麦品種である「セトデュール」のものに限定される。外国産デュラム小麦を菓子類に使用すると、硬い製品となったりザラついた食感になったりするため、菓子類の製造には適さないとされてきた。実際に外国産デュラム小麦の小麦粉を使用した場合、生地がベタついて作業性が悪化し、また硬い食感の製品となり、本発明の効果を得ることが出来ない。
本発明において、「普通小麦」とは上記デュラム小麦と異なる、植物学的分類における普通系小麦に属する小麦をいう。
本発明において薄力小麦粉の原料となる普通小麦は、菓子類に適した軟質小麦品種であれば特に限定されず、例えばWW(ウェスタン・ホワイト)や国内産普通小麦であるシロガネコムギ、さとのそら、などが挙げられる。
【0010】
本発明の菓子類用穀粉組成物において、デュラム小麦セトデュールの小麦粉の配合割合は、普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールの小麦粉の合計質量に対して5~55質量%であり、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~30質量%である。
【0011】
本発明の菓子類用生地は、前記菓子類用穀粉組成物を含む。また本発明の菓子類は本発明の菓子類用生地を焼成して成る。
本発明の菓子類用生地及び菓子類の製造においては、所定量の穀粉組成物以外に、強力小麦粉、中力小麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉;イースト、イーストフード、ベーキングパウダー、重曹、イスパタ;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常菓子類の製造に用いる副原料を使用することができる。
【0012】
本発明の菓子類は、所定量の普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦セトデュールの小麦粉を含む、前記穀粉組成物を含む以外は常法に従って製造することが出来る。例えばシュガーバッター法や共立て法やオールイン法やフラワーバッター法や別立て法が挙げられる。
【0013】
シュガーバッター法は、砂糖と油脂をよくすり混ぜ、分離しないように数回に分けて卵を加えながら都度混合した後、小麦粉と、必要に応じてベーキングパウダーを加えて生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。
【0014】
共立て法は、全卵と砂糖をじゅうぶんに泡立てた後、小麦粉と、必要に応じてベーキングパウダーを加えて生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。口溶けをよくするため、小麦粉を加えた後に、液状の油脂類を加える場合もある。
【0015】
オールイン法は、卵と砂糖と起泡性乳化油脂と小麦粉と、必要に応じて液状の油脂類を加えてじゅうぶんに泡立てて生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。
【0016】
フラワーバッター法は、油脂をクリーム状になるまで練り、小麦粉と、必要に応じてベーキングパウダーを加えて撹拌したところに、予め混ぜておいた卵と砂糖を分離しないように数回に分けて加えながら都度混合して生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。
【0017】
別立て法は、卵黄と砂糖をよくすり混ぜたところに、卵白と砂糖で予め作っておいたメレンゲを数回に分けて加えながら都度混合後、小麦粉と、必要に応じてベーキングパウダーを加えて生地を作り、型などを適宜使用して焼成する。
【実施例
【0018】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
製造例1 スポンジケーキの製造
(1)乳化剤(三菱ケミカルフーズ株式会社製:商品名 リョートーエステルSP-A)5質量部、水25質量部、上白糖120質量部、全卵110質量部、サラダ油10質量部を加え、低速1分間ミキシングする。
(2)上記に、普通小麦の薄力小麦粉(日本製粉株式会社製:商品名 ハート)100質量部を加え、低速1分、高速1分、中速3分間ミキシングし、生地を得た。
(3)スポンジ型に350g流し込み、170℃、30分間焼成し、スポンジケーキを得た。
【0020】
試験1 スポンジケーキの生地性、食感及び製品外観に与えるセトデュールの影響
普通小麦の薄力小麦粉の代わりに普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦の小麦粉を表2記載の割合で含む小麦粉混合物を使用した以外は製造例1に従ってスポンジケーキを製造した。
【0021】
官能評価
それぞれのスポンジケーキについて、生地性、食感及び製品外観を、熟練パネラー10名により表1の評価基準に従って評価した。なお、デュラム小麦の小麦粉を使用せず普通小麦の薄力小麦粉100質量%で製造した比較例1を3点とした。
【0022】
評価基準表
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
実施例1~3は、生地性、食感及び製品外観とも良好であり、デュラム小麦の小麦粉を使用せず普通小麦の薄力小麦粉100質量%で製造した比較例1と比較して生地性、食感及び製品外観の改善効果が認められた。セトデュールの小麦粉を60質量%にした比較例2、外国産デュラムを使用した比較例3では、生地性、食感及び製品外観のいずれも劣る結果となった。
【0025】
製造例2 パウンドケーキの製造
(1)上白糖90質量部、バター90質量部を中速5分間すりあわせる。ついで全卵90質量部を添加し、低速2分間ミキシングする。更に、普通小麦の薄力小麦粉(日本製粉株式会社製:商品名 ハート)100質量部、ベーキングパウダー2質量部を加え、低速1分間ミキシングし、生地を得た。
(2)パウンド型に得られた生地を350g入れ、180℃、30分間焼成しパウンドケーキを得た。
【0026】
試験2 パウンドケーキの生地性、食感及び製品外観に与えるセトデュールの影響
普通小麦の薄力小麦粉の代わりに普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦の小麦粉を表3記載の割合で含む小麦粉混合物を使用した以外は製造例2に従ってパウンドケーキを製造した。
それぞれのパウンドケーキについて、生地性、製品外観及び食感を、熟練パネラー10名により表1の評価基準に従って評価した。なお、デュラム小麦の小麦粉を使用せず普通小麦の薄力小麦粉100質量%で製造した比較例4を3点とした。
【0027】
【表3】
【0028】
実施例4~6では、生地性、製品外観及び食感とも良好であり、デュラム小麦の小麦粉を使用せず普通小麦の薄力小麦粉100質量%で製造した比較例4と比較して生地性、食感及び製品外観の改善効果が認められた。セトデュールの小麦粉を60質量%にした比較例5では生地性、製品外観及び食感ともに劣る結果となった。外国産デュラムを使用した比較例6では、生地性及び製品外観が好ましくなかった。
【0029】
製造例3 クッキーの製造
(1)上白糖46質量部、脱脂粉乳3質量部、塩0.8質量部、重曹0.4質量部、重炭酸アンモニウム0.5質量部、水22質量部、ショートニング30質量部をミキサーにて低速1分、中速3分、高速3分間すりあわせてクリーム状のペーストを得た。
(2)ついで標準的な薄力小麦粉(日本製粉株式会社製:商品名 ダイヤ)100質量部を加え、低速1分間ミキシングし、クッキー生地を得た。
(3)麺棒で7mm厚に延し、直径6cmの抜き型で抜いた後、200℃に予熱したオーブンに投入し、14分間200℃で焼成して型抜きクッキーを得た。
【0030】
試験3 クッキーの生地性及び食感に与えるセトデュールの影響
普通小麦の薄力小麦粉の代わりに普通小麦の薄力小麦粉とデュラム小麦の小麦粉を表5記載の割合で含む小麦粉混合物を使用した以外は製造例3に従ってクッキーを製造した。
それぞれのクッキーについて、生地性及び食感を、熟練パネラー10名により下記の表4の評価基準に従って評価した。また、クッキーの硬さ(サクサク感)の指標として、破断強度を評価した。破断強度は、テクスチャーアナライザー(英弘精機株式会社製、TA-XT Plus)を用いて、試料厚の40%まで圧縮した際の荷重(g)の試料3枚の平均値で示した。食感及び破断強度はクッキー製造の翌日に評価した。なお、デュラム小麦の小麦粉を使用せず普通小麦の薄力小麦粉100質量%で製造した比較例7を3点とした。
【0031】
評価基準表
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
実施例7~9においては生地性、食感(サクサク感、口溶け)のいずれも良好であり、デュラム小麦の小麦粉を使用せず普通小麦の薄力小麦粉100質量%で製造した比較例7と比較して食感の改善効果が認められた。
実施例7~9において、セトデュールの小麦粉の割合が多くなるにつれ、荷重が増す傾向にあり、クッキーが硬くなるにつれ、サクサクとした歯応えがある食感が付与されることを裏付ける結果となった。
セトデュールの小麦粉を60質量%にした比較例8では、比較例7よりもわずかに生地性及び食感の評点が下がる結果となったが、食感については荷重が比較的大きいことより、硬さが口溶けなどに影響したためであると考えられた。
外国産デュラムを使用した比較例9では、コントロールとした比較例7と大差はなく、食感の改善効果は認められなかった。