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特許7196345マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法並びに電波吸収体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法並びに電波吸収体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/11 20060101AFI20221219BHJP
   C04B 35/40 20060101ALI20221219BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01F1/11
C04B35/40
C01G49/00 C
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022025973
(22)【出願日】2022-02-22
(65)【公開番号】P2022135975
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2021035790
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】山地 秀宜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広海
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-032745(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021426(WO,A1)
【文献】特開2000-277312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/11
C04B 35/40
C01G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉であって、
前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の結晶構造の中に含まれる金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n- Al
(ここで、
Aは、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、
0.01≦x≦0.70、
1.00≦y≦2.20、
11.00≦n≦12.5である)を満たし、SrサイトはLaで置換され、FeサイトはAで置換される、
マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項2】
前記xの範囲が、
0.03≦x≦0.70である、
請求項1に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項3】
前記xの範囲が、
0.10≦x≦0.70である、
請求項1に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項4】
レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された体積基準での粒度分布において、累積50%粒径(D50)が、1.0μm以上10.0μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項5】
レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された体積基準での粒度分布において、累積50%粒径(D50)が、1.0μm以上5.0μm以下である、請求項4に記載の、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項6】
前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉0.36gと微結晶セルロース0.84gとを混合して得られた混合粉を151MPaで加圧成形して直径13mmの圧粉体を作製し、得られた圧粉体についてテラヘルツ波時間領域分光法を用いて30℃、60℃、90℃及び120℃の各温度における透過減衰量を測定し、それぞれのピーク周波数をX30、X60、X90、及びX120としたとき、X30、X60、X90、及びX120の最大値と最小値の差である周波数範囲Rが2.5GHz以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項7】
前記周波数範囲Rが、2.4GHz以下である、請求項6に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項8】
前記金属元素Aは、Sr、Baから選択される1種類以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項9】
比表面積が0.5m/g以上8.0m/g以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項10】
レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された個数基準での粒度分布において、最頻径が1.0μm以下であり、かつ最頻径が累積50%粒径(d50)より小さい、請求項1~9のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項11】
前記nの範囲が、
11.00≦n<12.00である、
請求項1~10のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂とを含む、電波吸収体。
【請求項13】
マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合して原料混合物を得る原料混合工程と、
前記原料混合物を焼成して焼成品を得る焼成工程と、
前記焼成品を粉砕して前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得る粉砕工程と、を含み、
前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉が、前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の結晶構造の中に含まれる金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n- Al
(ここで、
AはSr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、
0.01≦x≦0.70、
1.00≦y≦2.20、
11.00≦n≦12.5である)を満たし、SrサイトはLaで置換され、FeサイトはAで置換される、
マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項14】
前記xの範囲が、
0.03≦x≦0.70である、
請求項13に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項15】
前記xの範囲が、
0.10≦x≦0.70である、
請求項13に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項16】
前記粉砕工程において、前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定された体積基準での粒度分布において、累積50%粒径(D50)が、1.0μm以上10.0μm以下となるように粉砕する、請求項13~15のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項17】
前記粉砕工程の後に、さらに熱処理工程を含む、請求項13~16のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項18】
請求項13~17に記載の製造方法により得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂とを混練した後に成形する工程を含む、電波吸収体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法に関し、また、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を含む電波吸収体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の高度化に伴い、GHz帯域の電波が種々の用途で使用されるようになってきた。このような高周波技術を用いる用途としては、例えば携帯電話、無線LAN、衛星放送、高度道路交通システム、ノンストップ自動料金徴収システム(ETC)、自動車走行支援道路システム(AHS)などが挙げられる。このように高周波域での電波利用形態が多様化すると、電子部品同士の干渉による故障、誤動作、機能不全などが懸念され、その電磁両立性(EMC)対策が重要となってくる。その1つとして、電波吸収体を用いて不要な電波を吸収し、電波の反射及び侵入を防ぐ方法が有効である。
【0003】
このような電波吸収体用磁性粉体として、特許文献1には、組成式AFe(12-x)Al19(ただしAはSr、Ba、Ca及びPbの1種以上、x:1.0~2.2)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体であって、レーザー回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上であるストロンチウムフェライト粒子粉末が開示されており、76GHz付近の電波を吸収するための電波吸収体に使用することが開示されている。また、実施例には、前記組成式においてAがSrである、ストロンチウムフェライト粒子粉末が開示されている。また、ストロンチウムフェライト粒子粉末の製造方法として、ストロンチウムフェライト粒子粉末の原料となる粉末を混合し、焼成した後に粉砕する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-250823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、様々な用途に応じて周波数帯が割り振られ、各周波数帯に対応する電波吸収体が開発されている。また、76GHz帯を含む60~90GHz帯域の電波(ミリ波)を吸収するための電波吸収体は車間距離などの情報を検知する車載レーダー用途での実用化が検討されている。しかしながら、電波吸収体の実用化にあたっては、常温から100℃以上の高温にわたる広い温度域において、安定して電波吸収能を発揮することが求められている。一般に、電波吸収能は、ある周波数域で極大値を取り、その周波数域から外れると徐々に吸収量が減衰する傾向がみられるため、広い温度範囲で安定した電波吸収能を発揮するには、温度に対する周波数の極大値の変化幅が小さいことが望ましい。
【0006】
この点において、特許文献1のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、76GHz付近の電波吸収能を有する材料であるが、高温域においてピーク周波数が常温とは大きくずれてしまう問題点があった。本発明では、76GHz帯を含む60~90GHz帯域の電波吸収能を有し、広い温度域でピーク周波数の変化の小さいマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法並びに当該磁性粉を用いた電波吸収体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した。そして、電波吸収体の共鳴周波数は組成に固有の値であり、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉においても、各置換元素及び置換割合により異なる共鳴周波数を示すところ、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の単相の結晶構造の中に含まれる金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n-y-z)AlCo(式中、AはSr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、0.01≦x≦0.70、1.00≦y≦2.20、11.00≦n≦12.50、0.00≦z≦1.00である)を満たすマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉において、広い温度域でピーク周波数の変化が小さいことを確認した。すなわち本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉であって、金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n-y-z)AlCo(ここで、Aは、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、0.01≦x≦0.70、1.00≦y≦2.20、11.00≦n≦12.50、0.00≦z≦1.00である)を満たす、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0009】
(2)前記xの範囲が、
0.03≦x≦0.70である、
前記(1)に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0010】
(3)前記xの範囲が、
0.10≦x≦0.70である、
前記(1)に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0011】
(4)レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された体積基準での粒度分布において、累積50%粒径(D50)が、1.0μm以上10.0μm以下である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0012】
(5)レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された体積基準での粒度分布において、累積50%粒径(D50)が、1.0μm以上5.0μm以下である、前記(4)に記載の、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0013】
(6)前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉0.36gと微結晶セルロース0.84gとを混合して得られた混合粉を151MPaで加圧成形して直径13mmの圧粉体を作製し、得られた圧粉体についてテラヘルツ波時間領域分光法を用いて30℃、60℃、90℃及び120℃の各温度における透過減衰量を測定し、それぞれのピーク周波数をX30、X60、X90及びX120としたとき、X30、X60、X90及びX120の最大値と最小値の差である周波数範囲Rが2.5GHz以下である、前記(1)~(5)のいずれかに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0014】
(7)前記周波数範囲Rが、2.5GHz以下である、(6)に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0015】
(8)前記金属元素Aは、Sr、Baから選択される1種類以上である、前記(1)~(7)のいずれかに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0016】
(9)比表面積が0.5m/g以上8.0m/g以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0017】
(10)レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された個数基準での粒度分布において、最頻径が1.0μm以下であり、かつ最頻径が累積50%粒径(d50)より小さい、請求項1~9のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0018】
(11)前記nの範囲が、
11.00≦n<12.00である、
請求項1~10のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0019】
(12)前記(1)~(11)のいずれかに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂とを含む、電波吸収体。
【0020】
(13)マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合して原料混合物を得る原料混合工程と、前記原料混合物を焼成して焼成品を得る焼成工程と、前記焼成品を粉砕して前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得る粉砕工程と、を含み、前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉が、金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n-y-z)AlCo(ここで、AはSr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、0.01≦x≦0.70、1.00≦y≦2.20、11.00≦n≦12.50、0.00≦z≦1.00である)を満たす、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【0021】
(14)前記xの範囲が、0.03≦x≦0.70である、(13)に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【0022】
(15)前記xの範囲が、0.10≦x≦0.70である、(13)に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【0023】
(16)前記粉砕工程において、前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定された体積基準での粒度分布において、累積50%粒径(D50)が、1.0μm以上10.0μm以下となるように粉砕する、前記(13)~(15)のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【0024】
(17)前記粉砕工程の後に、さらに熱処理を含む、前記(13)~(16)のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【0025】
(18)前記(13)~(17)に記載の製造方法により得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂とを混練した後に成形する工程を含む、電波吸収体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、76GHz帯を含む60~90GHz帯域の電波吸収能を有し、広い温度域でピーク周波数の変化の小さいマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法、並びに当該磁性粉を用いた電波吸収体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態による製造フローを説明する図である。
図2】比較例2、実施例7及び12の76GHz帯を含む周波数帯域における電波吸収を示したプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉)
本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n-y-z)AlCo(ここで、Aは、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、0.01≦x≦0.7、1.0≦y≦2.2、11.0≦n≦12.5、0.0≦z≦1.0であり、より具体的には0.01≦x≦0.70、1.00≦y≦2.20、11.00≦n≦12.50、0.00≦z≦1.00である)を満たす、複合酸化物としてのマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉である。以下で、本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の組成、粒度分布等の態様について説明する。
【0029】
[原子比]
本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n-y-z)AlCo(ここで、Aは、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、0.01≦x≦0.70、1.00≦y≦2.20、11.00≦n≦12.50、0.00≦z≦1.00である)である、マグネトプランバイト型の結晶構造を有する六方晶フェライト磁性粉である。
【0030】
本発明によれば、マグネトプランバイト型の結晶構造を骨格として、一般的に知られるストロンチウムフェライト(SrFe1219)を例とした場合に、上記一般式で示される各元素による置換の効果は以下のように説明できる。まず、FeサイトをAlで置換することにより吸収周波数を調整することができる。ここで、Al置換単独では温度上昇に伴い吸収周波数が高周波側へシフトしてしまうところ、さらにSrサイトをLaで置換することにより、調整した吸収周波数の温度依存性を小さくすることができる。また、SrサイトをLaで置換することと同時にFeサイトをCoで置換することでも、同様に温度依存性を小さくすることができる。このような原理により、76GHz帯を含む60~90GHz帯域の電波吸収能を有し、広い温度域でピーク周波数の変化の小さいマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得ることができる。
ピーク周波数の制御及びピーク周波数の温度依存性を小さくする効果を得るため、上記原子比を示す一般式において、La置換に関し、xの値を0.01以上とし、Al、Co置換に関し、yの値を1.0以上、zの値を0.0以上とし、より具体的にはLa置換に関し、xの値を0.01以上とし、Al、Co置換に関し、yの値を1.00以上、zの値を0.00以上とする。
一方、La、Al、Coの添加が過剰になると結晶構造の維持が困難となるため、上記原子比を示す一般式において、La置換に関し、xの値を0.7以下とし、Al、Co置換に関し、yの値を2.2以下、zの値を1.0以下とし、より具体的には、La置換に関し、xの値を0.70以下とし、Al、Co置換に関し、yの値を2.20以下、zの値を1.00以下とする。
xは0.03以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましく、また、0.6以下が好ましく、0.5以下がさらに好ましく、より具体的には、0.03以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.30以上がさらに好ましく、また、0.60以下が好ましく、0.50以下がさらに好ましい。ここで、La置換による効果は顕著であるため、xの値は0.01以上0.10以下の範囲であっても一定の効果を有する。
yの数値範囲は1.1以上1.9以下であることが好ましく、1.4以上1.7以下であることがさらに好ましく、より具体的には、1.10以上1.90以下であることが好ましく、1.40以上1.70以下であることがさらに好ましい。。
zの数値範囲は0.0以上0.5以下であることが好ましく、0.0以上0.4以下であることがさらに好ましく、より具体的には、0.00以上0.50以下であることが好ましく、0.00以上0.40以下であることがさらに好ましい。
【0031】
マグネトプランバイト型の結晶構造を有する六方晶フェライト磁性粉を得るため、上記原子比におけるnの値は、11.0以上12.5以下とし、より具体的には、11.00以上12.50以下とする。焼成後の未反応物の残量を抑制する点から、nの値は、11.00以上であることが好ましく、12.00未満であることが好ましく、nの値は、11.20以上12.30以下であってもよいし、11.40以上12.20以下であってもよい。
【0032】
電波吸収体の吸収周波数は、電波吸収体を構成する磁性粉の組成式に固有のものであり、組成式によって示される元素比は、混合物としての元素比を指すのではなく、単一の結晶構造によって決まる元素比をいう。本発明における金属元素の原子比の一般式において示される比は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の単相の結晶構造の中に含まれる金属元素の原子比を指し、各金属元素はマグネトプランバイト型結晶構造を構成するものとして、Srサイト及びFeサイトに置換しているものである。なお、原料として混合した各金属元素がマグネトプランバイト型六方晶フェライトの各サイトに置換せずに、その外側に別の形態(例えばAlなど)として残存した場合、最終的に得られる磁性粉混合物は所望の吸収周波数の領域から大きく外れた周波数となる。
【0033】
本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉には、原料に含まれる不純物や製造設備に由来する不純物等の不可避的な成分が含まれ得る。このような成分としては、例えばMn等の各酸化物が挙げられる。これらの含有量は、0.40質量%以下に抑制することが好ましい。上記の金属元素の原子比は、不可避的な成分を除いた原子比である。
【0034】
[粒度分布]
本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉において、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された体積基準での累積50%粒径(D50)を粒度の指標として用いることができる。本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、その磁性粉を使用した電波吸収体シートの薄層化を図るため、この累積50%粒径(D50)が1μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましく、2μm以上3μm未満であることがさらに好ましい。また本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉において、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定された個数基準での最頻径および累積50%粒径(体積基準での累積50%粒径と区別するため、便宜上d50と示す。以下、小文字dを個数基準の粒径表示に用いる。)を粒度の指標として用いることもできる。本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、シート化した際の薄膜の厚さを均一化しやすくする観点から、この個数分布における最頻径を1.0μm以下とし、かつ累積50%粒径(d50)よりも最頻径を小さくすることが好ましい。ここで、比表面積(BET)は、0.5m/g以上8.0m/g以下であることが好ましい。また、比表面積(BET)は、0.6m/g以上3.0m/g以下であることがより好ましく、0.9m/g以上2.2m/g以下であることがさらに好ましい。粒子の粉砕が進む、または小粒形になると比表面積が高くなるが、比表面積が8.0m/g超になると、樹脂との混合時に粘度が高くなり混合しにくく、均一な分散も困難となりやすいため、好ましくない。また、比表面積が0.5m/g未満となることは、粗大な粒子が多くなることを意味しており、シート化した際に充填密度が疎になる部分が多くなってしまうため好ましくない。同様に、個数基準での粒度分布において、最頻径が1.0μm以上であり、又は最頻径が累積50%粒径(d50)より大きいと、小粒形の粒子が少なくなるが、逆にシート化した際の粒子の充填性を考慮すると、大きな粒子同士の空隙間を埋める粒子が少なくなるため、好ましくない。比表面積を測定することで、レーザー回折式粒度分布測定装置では確認しづらい微粉の焼結状況を確認することができ、比表面積を上記数値範囲とすることで電波吸収体を作製する際に樹脂やゴム中にマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を均一に分散させる効果が期待できる。
【0035】
[透過減衰量]
本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、圧粉体として76GHz帯を含む60~90GHz帯域の電波吸収能を有し、広い温度域でピーク周波数の変化の小さい電波吸収体として用いられる。ここで電波吸収能は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉0.36gと微結晶セルロース0.84gとを混合して得られた混合粉を151MPaで加圧成形して直径13mmの圧粉体を作製し、テラヘルツ波時間領域分光法を用いて測定する。測定される30℃、60℃、90℃及び120℃における透過減衰量のピーク周波数をそれぞれ、X30、X60、X90及びX120としたとき、X30は60GHz以上90GHz以下であることが好ましい。また、X30、X60、X90及びX120の最大値と最小値の差を周波数範囲Rとして定義した場合に、周波数範囲Rは2.5GHz以下であることが好ましい。そして、X30、X60、X90及びX120の最大値と最小値の差を周波数範囲Rとして定義した場合に、周波数範囲Rは2.4GHz以下であることがより好ましく、2.0GHz以下であることがさらに好ましく、1.0GHz以下であることが特に好ましい。本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉からなる圧粉体は主に76GHz帯を含む60~90GHz帯域の電波吸収体として用いられるため、幅広い範囲において安定した電波吸収特性が要求される。また、電波吸収体として用いることから、全てのピーク周波数において透過減衰量は6dB以上であることが好ましい。
【0036】
(電波吸収体の作製及び評価)
また、上述した実施の形態のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を樹脂と混練することにより、電波吸収体を製造することができる。この電波吸収体は、用途に応じて様々な形状にすることができるが、シート状の電波吸収体(電波吸収体シート)を作製する場合には、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を樹脂と混練して得られる電波吸収体素材(混練物)を圧延ロールなどにより所望の厚さ(好ましくは0.1~4.0mm、さらに好ましくは0.2~2.5mm)に圧延すればよい。また、電波吸収体素材(混練物)中のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の含有量は、76GHz帯を含む60~90GHz帯域の電波吸収能を有する電波吸収体を得るために、70~95質量%であるのが好ましい。また、電波吸収体素材(混練物)中の樹脂の含有量は、電波吸収体素材(混練物)中にマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を十分に分散させるために、5~30質量%であるのが好ましい。また、電波吸収体素材(混練物)中のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂の合計の含有量は99質量%以上であるのが好ましい。
【0037】
(マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法)
本発明のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法は、原料となる粉末を混合して原料混合物を得る原料混合工程と、前記原料混合物を焼成して焼成品を得る焼成工程と、前記焼成品を粉砕して前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得る粉砕工程と、を少なくとも備え、前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉が、金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n-y-z)AlCo(ここで、AはSr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、0.01≦x≦0.7、1.0≦y≦2.2、11.0≦n≦12.5、0.0≦z≦1.0であり、より具体的には、0.01≦x≦0.70、1.00≦y≦2.20、11.00≦n≦12.50、0.00≦z≦1.00であり、さらに、xは0.03以上が好ましく、0.10以上がより好ましい)を満たす。
【0038】
図1を参照しつつ、以下で、本発明に従うマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法の各工程を詳細に説明する。
【0039】
[原料混合工程]
まず、原料混合工程としては、金属元素の原子比を示す一般式:A(1-x)LaFe(n-y-z)AlCo(ここで、Aは、Sr、Ba及びCaからなる群より選択される1種以上であり、0.01≦x≦0.70、1.00≦y≦2.20、11.00≦n≦12.50、0.00≦z≦1.00である)を満たす、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の原料となる粉末を混合して原料混合物を得る。また、このときxは0.03以上が好ましく、0.10以上がより好ましい。原料粉末は特に限定されないが、SrCO、BaCO、BaCl・2HO、CaCO、La(OH)、Fe、Al及びCo等の粉末を用いることができる。また、原料粉末を混合する方法は特に限定されず、ヘンシェルミキサー等の公知の混合装置により混合を実施することができる。
【0040】
また、得られた原料混合物を造粒して成形体を得る工程を設けても良い。造粒方法は特に限定されず、任意の方法によりペレット状に成形することができる。造粒した成形体が水分を含んでいる場合は、その後にさらに乾燥工程を設けても良い。
【0041】
[焼成工程]
次いで、得られた原料混合物を焼成工程において焼成し、焼成品を得る。焼成は任意の焼成炉で1150℃以上1400℃以下の温度で実施することが好ましく、1170℃以上1350℃以下がより好ましく、1200℃以上1300℃以下がさらに好ましい。例えば箱型焼成炉を用いる場合においては、焼成用容器に原料を充填することができる。焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸化性雰囲気としては、大気、酸素、酸素及び窒素の混合ガス、酸素及び希ガスの混合ガス等の雰囲気とすることが好ましい。
【0042】
[粉砕工程]
次に、得られた焼成品を粉砕工程において焼成品を粉砕して、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得る。粉砕工程では、粗粉砕及び微粉砕を行ってもよい。ここで粗粉砕とは焼成品を解砕することであり、ハンマーミルによる衝撃粉砕など任意の粉砕方法を用いることができる。また、微粉砕とは粗粉砕後の焼成品をさらに微細な状態にすることであり、アトライターによる湿式粉砕など任意の方法を用いることができる。湿式粉砕後のスラリーは任意の方法で固液分離及び乾燥をすることにより、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得ることができる。
【0043】
また、粉砕工程で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉に対し、熱処理工程において、任意の熱処理方法で熱処理することができる。熱処理の温度は850℃以上1000℃以下が好ましく、870℃以上930℃以下がより好ましい。また、当該熱処理時の雰囲気は酸化性雰囲気が好ましく、大気雰囲気がより好ましい。熱処理を施すことにより、微小なマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉が焼結し比表面積が小さくなるため、電波吸収体を作製する際に樹脂やゴム中にマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を均一に分散させる効果が期待できる。また、吸収周波数への直接の影響は分かっていないが、熱処理することにより粉砕工程で発生した結晶の歪みが除去されて、保磁力Hc等の磁気特性が回復する。
【0044】
(電波吸収体の作製)
また、得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、樹脂と混練することにより電波吸収体を製造することができる。この電波吸収体は、用途に応じて様々な形状にすることができるが、シート状の電波吸収体(電波吸収体シート)を作製する場合には、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を樹脂と混練して得られる電波吸収体素材(混練物)を圧延ロールなどにより所望の厚さ(好ましくは0.1~4.0mm、さらに好ましくは0.2~2.5mm)に圧延すればよい。
【実施例
【0045】
以下、実施例により、本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法について詳細に説明する。
【0046】
実施例における評価は以下のようにして行った。
[粒度分布及び累積50%粒径]
マグネトプランバイト型六方晶磁性粉の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子株式会社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS))を使用して、焦点距離200mm、分散圧1.7bar、吸引圧130mbarで乾式分散させて測定した。得られた測定結果から、体積基準の累積50%粒径(D50)及び個数基準の累積50%粒径(d50)を求めた。また、同様に累積10%粒径(D10及びd10)及び累積90%粒径(D90及びd90)を求め、併せて最頻径も確認した。
【0047】
[比表面積測定]
マグネトプランバイト型六方晶磁性粉の比表面積は比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のMacsorb model-1210)を用いて、BET1点法で測定した。
【0048】
[組成分析]
組成分析は、アジレントテクノロジー株式会社製の高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(720-ES)を使用して行った。測定波長としては、Sr;216.596nm、La;408.671nm、Fe;259.940nm、Al;396.152nm、Ba;233.527nm、Co;230.786nmにて行った。
【0049】
[磁気特性]
マグネトプランバイト型六方晶磁性粉の磁気特性として、振動試料型磁力計(VSM)(東英工業株式会社製のVSM-P7)を使用して、印加磁場1193kA/m(15kOe)でM-H曲線を測定し、保磁力Hc、飽和磁化σs、角形比SQ、保磁力分布SFDを求めた。
【0050】
[結晶構造]
マグネトプランバイト型六方晶磁性粉のX線回折測定は、粉末X線回折装置(株式会社リガク製の水平型多目的X線回折装置Ultima IV)を使用して、線源をCuKα線、管電圧を40kV、管電流を40mA、測定範囲を2θ=20°~50°として、粉末X線回折法(XRD)により行った。
【0051】
[電波吸収特性測定]
マグネトプランバイト型六方晶磁性粉0.36gと微結晶セルロース0.84gとを混合して得られた混合粉を151MPaで加圧成形して直径13mmの圧粉体を得た。得られた圧粉体に対して、テラヘルツ波時間領域分光法にて透過減衰量測定を行い、圧粉体のピーク周波数を求めた。具体的には、アドバンテスト社製のテラヘルツ分光システムTAS7400SLを用い、圧粉体をサンプルホルダーに置いた場合とブランクの場合との測定をおこなった。アドバンテスト社製の温度制御モジュールTAS1030を用い、圧粉体を30℃、60℃、90℃、120℃に加熱し、各温度での透過減衰量測定を行い、50~100GHzで最大の透過減衰量を示す周波数(周波数ピーク値、単位:GHz)を求めた。用いた条件を以下に列挙する。
・サンプルホルダー径:φ10mm
・MeasurementMode:Transmission
・FrequencyResolution:1.9GHz
・VerticalAxis:Absorbance
・HorizontalAxis:Frequency[THz]
・CumulatedNumber(Sample):2048
・CumulatedNumber(Background):2048
【0052】
観測されたサンプルの信号波形及びブランクの参照波形を8448psまで拡張してフーリエ変換し、得られたフーリエスペクトル(各々、Ssig、Srefとする。)の比(Ssig/Sref)を求め、サンプルホルダーに置かれた圧粉体の透過減衰量を算定した。主な測定結果の例として、実施例7、12及び比較例2の76GHz帯を含む周波数帯域における電波吸収を示したプロファイルを図2に示す。
【0053】
(実施例1)
まず、原料粉末として純度99質量%のSrCOを636gと、純度99.9質量%のAlを392gと、純度99質量%のFeを3880gと、純度99.99質量%のLa(OH)を90g秤量した。この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比は、Sr:La:Fe:Al=0.90:0.10:10.15:1.62である。このようにして得られた混合粉末をペレット状に造粒成形して成形体を得た後、成形体2kgを焼成サヤに充填し、この焼成サヤを箱型焼成炉内に入れ、大気中において1279℃で4時間保持して焼成した。この焼成により得られた焼成体をハンマーミルで粗粉砕した後、得られた粗粉を、溶媒として水を使用したアトライターにより70分間湿式粉砕し、得られたスラリーを固液分離し、得られたケーキを乾燥させ、解砕してマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉(以下、単に「磁性粉」という)を得た。
【0054】
このようにして得られた磁性粉について、まず物性値の評価として組成分析を行い、BET比表面積及び粒度分布を求めるとともに、X線回折(XRD)測定を行った。そして、磁気特性の測定及び圧粉体の透過減衰量を測定した後、周波数範囲Rを求めた。XRD測定の結果、本実施例で得られた磁性粉はマグネトプランバイト型の結晶構造を持つことが確認され、マグネトプランバイト型結晶以外の結晶相は確認されなかった。また、この結果は実施例2~32についても同様の結果が得られた。
【0055】
(実施例2)
実施例1で得られた磁性粉をさらに電気マッフル炉(アドバンテック東洋株式会社製のFUW253PB)により大気雰囲気中において900℃で20分間し、熱処理後の磁性粉を得た。このようにして得られた磁性粉について、実施例1と同様に組成分析を行い、BET比表面積及び粒度分布を求めるとともに、X線回折(XRD)測定を行った。そして、磁気特性の測定及び圧粉体の透過減衰量を測定した後、周波数範囲Rを求めた。
【0056】
(実施例3)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.80:0.20:10.15:1.62とし、焼成後の湿式粉砕の時間を60分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0057】
(実施例4)
実施例3で得られた磁性粉をさらに900℃で20分間熱処理し、熱処理後の磁性粉を得た。得られた磁性粉は、実施例1と同じ条件で評価した。
【0058】
(実施例5)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.71:0.29:10.15:1.62とし、焼成後の湿式粉砕の時間を35分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0059】
(実施例6)
実施例5で得られた磁性粉をさらに900℃で20分間熱処理し、熱処理後の磁性粉を得た。得られた磁性粉は、実施例1と同じ条件で評価した。
【0060】
(実施例7)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.61:0.39:10.15:1.62とし、焼成後の湿式粉砕の時間を50分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0061】
(実施例8)
実施例7で得られた磁性粉をさらに900℃で20分間熱処理し、熱処理後の磁性粉を得た。得られた磁性粉は、実施例1と同じ条件で評価した。
【0062】
(実施例9)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.61:0.39:9.45:1.56とし、La原料として、La(OH)に代えてLaを用い、焼成後の湿式粉砕の時間を50分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0063】
(実施例10)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.51:0.49:10.15:1.62とし、焼成温度を1270℃、焼成後の湿式粉砕の時間を55分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0064】
(実施例11)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.41:0.59:10.15:1.62とし、焼成温度を1270℃、焼成後の湿式粉砕の時間を60分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0065】
(実施例12)
原料粉末として純度99質量%のSrCOを595gと、純度99.9質量%のAlを469gと、純度99質量%のFeを4487gと、純度99.99質量%のLa(OH)を316gと、純度99.99質量%のCoを133g秤量した。この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比は、Sr:La:Fe:Al:Co=0.71:0.29:9.84:1.63:0.29である。その他は焼成後の湿式粉砕の時間を60分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0066】
(実施例13)
実施例12で得られた磁性粉をさらに900℃で20分間熱処理し、熱処理後の磁性粉を得た。得られた磁性粉は、実施例1と同じ条件で評価した。
【0067】
(実施例14)
原料粉末として純度99質量%のSrCOを467gと、純度99.9質量%のAlを454gと、純度99質量%のFeを4508gと、純度99.99質量%のLa(OH)を410gと、純度99質量%のBaCl・2HOを160g秤量した。この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比は、Sr:La:Ba:Fe:Al=0.53:0.36:0.11:9.41:1.50である。その他は焼成後の湿式粉砕の時間を55分とし、焼成温度を1270℃とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0068】
(実施例15)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.71:0.29:10.59:1.18とし、焼成温度を1270℃、焼成後の湿式粉砕の時間を10分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0069】
(実施例16)
焼成後の湿式粉砕の時間を20分とした以外は、実施例15と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0070】
(実施例17)
焼成後の湿式粉砕の時間を30分とした以外は、実施例15と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0071】
(実施例18)
焼成後の湿式粉砕の時間を40分とした以外は、実施例15と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0072】
(実施例19)
焼成後の湿式粉砕の時間を55分とした以外は、実施例15と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0073】
(実施例20)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.53:0.47:9.80:1.96とし、焼成温度を1270℃、焼成後の湿式粉砕の時間を10分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0074】
(実施例21)
焼成後の湿式粉砕の時間を20分とした以外は、実施例20と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0075】
(実施例22)
焼成後の湿式粉砕の時間を30分とした以外は、実施例20と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0076】
(実施例23)
焼成後の湿式粉砕の時間を40分とした以外は、実施例20と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0077】
(実施例24)
焼成後の湿式粉砕の時間を50分とした以外は、実施例20と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0078】
さらに、次の実施例25から実施例32の実施例について試験を実施し、評価を行った。
【0079】
(実施例25)
焼成後の湿式粉砕を実施しなかった以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0080】
(実施例26)
原料粉末として純度99質量%のSrCOを595gと、純度99.9質量%のAlを469gと、純度99質量%のFeを4596gと、純度99.99質量%のLa(OH)を316gと、純度99.99質量%のCoを22g秤量した。この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比は、Sr:La:Fe:Al:Co=0.71:0.29:10.08:1.63:0.05である。その他は焼成後の湿式粉砕の時間を60分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0081】
(実施例27)
原料粉末として純度99質量%のSrCOを507gと、純度99.9質量%のAlを454gと、純度99質量%のFeを4508gと、純度99.99質量%のLa(OH)を410gと、純度99質量%のBaCl・2HOを84g秤量した。この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比は、Sr:La:Ba:Fe:Al=0.58:0.37:0.06:9.47:1.51である。その他は焼成後の湿式粉砕の時間を55分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0082】
(実施例28)
原料粉末として純度99質量%のSrCOを378gと、純度99.9質量%のAlを454gと、純度99質量%のFeを4508gと、純度99.99質量%のLa(OH)を410gと、純度99質量%のBaCl・2HOを299g秤量した。この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比は、Sr:La:Ba:Fe:Al=0.43:0.37:0.21:9.47:1.51である。その他は焼成後の湿式粉砕の時間を55分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0083】
(実施例29)
焼成後の湿式粉砕を実施しなかった以外は、実施例15と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0084】
(実施例30)
焼成後の湿式粉砕の時間を120分とした以外は、実施例15と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0085】
(実施例31)
焼成後の湿式粉砕を実施しなかった以外は、実施例20と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0086】
(実施例32)
原料粉末中のSrとLaとFeとAlのモル比を、Sr:La:Fe:Al=0.95:0.05:10.14:1.62とし、焼成温度を1270℃、焼成後の湿式粉砕の時間を60分とした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0087】
(比較例1)
まず、原料粉末として純度99質量%のSrCOを515gと、純度99.9質量%のAlを284gと、純度99質量%のFeを2701gとを秤量した。この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のSrとFeとAlのモル比は、Sr:Fe:Al=1.00:9.71:1.61である。このようにして得られた混合粉末を、焼成温度を1260℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法により磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0088】
(比較例2)
まず、原料粉末として純度99質量%のSrCOを470gと、純度99.9質量%のAlを290gと、純度99質量%のFeを2646gと、純度99質量%のBaCl・2HOを93gとを秤量した。この原料粉末をヘンシェルミキサーにより混合した後、さらに振動ミルにより乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のSrとBaとFeとAlのモル比は、Sr:Ba:Fe:Al=0.89:0.11:9.30:1.61である。このようにして得られた混合粉末を、湿式粉砕を60分としたこと以外は、実施例1と同様の方法により磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。
【0089】
以上の実施例及び比較例における製造条件、磁性粉の評価結果及び電波吸収特性測定結果を表1に示す。また、表1では体積基準の粒度分布D50のみを示したが、体積基準のD10、D90及び最頻径と、個数基準でのd10、d50、d90及び最頻径の各測定結果について実施例29、15~19、30の測定結果を代表例として表2に示す。なお、各実施例及び比較例において示される原料粉末中のモル比と、表1の磁性粉の評価結果において示される組成式中のモル比に若干のずれが生じるのは、製造工程中の不純物の不可避的な混入によるものであり、これらは実質同じものである。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
表1の結果から、Srの系における実施例32と比較例1とを比較すると、SrからLaに僅かでも置換することにより、圧粉体の周波数範囲Rを小さくすることができ、Laの置換量xが0.05のとき、周波数範囲Rを2.5GHzとすることができることが分かる。
また、Srの系における実施例1と比較例1とを比較すれば、Laの置換量xが0.10のとき、周波数範囲Rを2.0GHzとすることができることが分かる。
さらに、Srの系における実施例1と比較例1との比較及びBaをさらに有する実施例1と比較例2との比較において、Laを置換することにより、圧粉体の周波数範囲Rを2.0GHz以下とすることができることが分かる。
また、実施例1~8の結果から、同じ仕込み組成であれば、粉砕工程まで同じ処理をした磁性粉において熱処理を施しても周波数範囲Rを2.0GHz以下とすることができることが分かった。
【0093】
こうして、実施例1~32の結果からは、Alの置換量によって周波数ピークを制御しつつ、かつ圧粉体の周波数範囲Rを2.5GHz以下に抑えることができることが分かる。
また、Laの置換量を限定することにより、圧粉体の周波数範囲Rを2.4GHz以下に抑えることができ、Laの置換量をさらに限定することにより、圧粉体の周波数範囲Rを2.0GHz以下に抑えることができることが分かる。
【0094】
また、表2の結果からは、個数基準での粒度分布において、最頻径が1.0μm以下であり、かつ最頻径が累積50%粒径(d50)より小さいときに、良好な電波吸収体シートを得ることができ、圧粉体の周波数範囲Rを小さくすることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、La、Al、Coの置換量を調整することで、76GHz帯を含む60~90GHz帯域の電波吸収能を有し、広い温度域でピーク周波数の変化の小さいマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法並びに当該磁性粉を用いた電波吸収体及びその製造方法を提供することができる。
図1
図2