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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】積層構造体及び積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20221219BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C23C14/14 G
C23C14/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022550351
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2021022329
(87)【国際公開番号】W WO2022059277
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2020155773
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】氏原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】若井 雅文
(72)【発明者】
【氏名】須川 淳三
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-223632(JP,A)
【文献】特開平4-264719(JP,A)
【文献】特開2012-164940(JP,A)
【文献】特開平10-060637(JP,A)
【文献】特開2015-177105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 -14/58
H01L 21/28 -21/288
H01L 21/44 -21/445
H01L 29/40 -29/51
H01L 21/768
B32B 1/00 -43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のチタン層と、アルミニウム層と、第2のチタン層とを順次積層した積層構造体において、
第1及び第2の各チタン層は、X線回折測定によるミラー指数における(002)面及び(100)面に回析ピークを持つ結晶構造を有し、(002)面での回折ピークの半値幅が1.0deg以下、(100)面での回折ピークの半値幅が0.6deg以下であることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記アルミニウム層は、X線回折測定によるミラー指数における(111)面に回析ピークを持つ結晶構造を有することを特徴とする請求項1記載の積層構造体。
【請求項3】
第1のチタン層と、アルミニウム層と、第2のチタン層とを順次積層した積層構造体の製造方法において、
スパッタリング法により、基材上に第1のチタン層を成膜する第1工程と、第1のチタン層の上にアルミニウム層を成膜する第2工程と、アルミニウム層の上に第2のチタン層を成膜する第3工程とを含み、
第1及び第3の各工程は、窒素ガスの分圧が3.0×10-4Pa以下、酸素ガスの分圧が9.0×10-5Pa以下、水蒸気ガスの分圧が8.0×10-4Pa以下、水素ガスの分圧が5.0×10-5Pa以下に夫々達するまで、チタン製のターゲットと基材とが配置された真空チャンバ内を真空排気する真空排気工程と、真空チャンバ内の全圧が0.2Pa~0.5Paの範囲内に維持されるように希ガスを導入し、チタン製のターゲットに所定電力を投入して3nm/sec~5nm/secの範囲内の成膜速度で第1及び第2の各チタン層を成膜する成膜工程と、を更に含むことを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程は、アルミニウム製のターゲットと基材とが配置された真空チャンバ内の全圧が0.2Pa~0.5Paの範囲内に維持されるように希ガスを導入し、アルミニウム製のターゲットに所定電力を投入して7nm/sec~10nm/secの範囲内の成膜速度でアルミニウム層を成膜する成膜工程を更に含むことを特徴とする請求項3記載の積層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のチタン層と、アルミニウム層と、第2のチタン層とを順次積層した積層構造体及び積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の積層構造体は、ディスプレイ、スマートフォンや電子ペーパーなどの電子デバイスにて、スイッチング素子(薄膜トランジスタ)のソース/ドレイン電極として用いられている(例えば特許文献1参照)。一方、近年の可撓性を有する電子デバイスの開発に伴い、比較的高硬度のチタン層を有する積層構造体に対し、高い屈曲耐性が要求されるようになっている。
【0003】
一般に、積層構造体のチタン層やアルミニウム層は、真空雰囲気中でスパッタリング法により一貫して成膜される(例えば、特許文献1参照)。例えば、チタン層やアルミニウム層の成膜に際しては、チタン製またはアルミニウム製のターゲットと基材とを対向配置した真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気した後、真空チャンバ内に希ガス(例えば、アルゴンガス)を導入し、ターゲットに負の電位を持つ直流電力を投入してプラズマを形成し、プラズマ中で電離した希ガスのイオンによりターゲットをスパッタリングし、ターゲットから飛散したスパッタ粒子を基材に付着、堆積させて、所望の膜厚(例えば、第1のチタン層を50nm、アルミニウム層を500nm、第2のチタン層を50nm)でチタン層やアルミニウム層が成膜される。このとき、ターゲットへの投入電力、希ガスのガス導入量や成膜中の真空チャンバ内の全圧といった各種のスパッタ条件は、生産性や膜厚分布を考慮して設定される(例えば、投入電力20~40kW、全圧が0.2~1.0Pa)。
【0004】
ここで、積層構造体の屈曲耐性を確認するために、所定形状の試験基材を用い、試験基材表面に第1のチタン層、アルミニウム層、第2のチタン層を所定のスパッタ条件で順次積層した後、試験基材から剥離した積層構造体に対し、引張試験を実施したところ、5%の伸び量を与えるのに必要な引張荷重を加えただけで、積層構造体が倍以上に伸びることが判明した。また、引張試験後の積層構造体の表面(即ち、チタン層表面)状態を観察したところ、チタン層に厚さ方向にのびるクラックが多数発生していることが判明した。そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ね、比較的小さい結晶粒が膜厚方向に整列して結晶粒界がその膜厚方向にのびるように繋がった結晶構造を有すると共に、成膜時にチタン層内に取り込まれた窒素分子や酸素分子といった不純物により結晶粒界に硬くてもろい窒化チタンや酸化チタンといったチタン化合物が形成されていると、積層構造体に強い屈曲耐性が得られないことを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-177105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、強い屈曲耐性を有する積層構造体及び積層構造体の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、第1のチタン層と、アルミニウム層と、第2のチタン層とを順次積層した本発明の積層構造体は、第1及び第2の各チタン層が、X線回折測定によるミラー指数における(002)面及び(100)面に回析ピークを持つ結晶構造を有し、(002)面での回折ピークの半値幅が1.0deg以下、(100)面での回折ピークの半値幅が0.6deg以下であることを特徴とする。この場合、前記アルミニウム層は、X線回折測定によるミラー指数における(111)面に回析ピークを持つ結晶構造を有することが好ましい。
【0008】
また、上記課題を解決するために、第1のチタン層と、アルミニウム層と、第2のチタン層とを順次積層した積層構造体を製造する本発明の積層構造体の製造方法は、スパッタリング法により、基材上に第1のチタン層を成膜する第1工程と、第1のチタン層の上にアルミニウム層を成膜する第2工程と、アルミニウム層の上に第2のチタン層を成膜する第3工程とを含み、第1及び第3の各工程は、窒素ガスの分圧が3.0×10-4Pa以下、酸素ガスの分圧が9.0×10-5Pa以下、水蒸気ガスの分圧が8.0×10-4Pa以下、水素ガスの分圧が5.0×10-5Pa以下に夫々達するまで、チタン製のターゲットと基材とが配置された真空チャンバ内を真空排気する真空排気工程と、真空チャンバ内の全圧が0.2Pa~0.5Paの範囲内に維持されるように希ガスを導入し、チタン製のターゲットに所定電力を投入して3nm/sec~5nm/secの範囲内の成膜速度で第1及び第2の各チタン層を成膜する成膜工程と、を更に含むことを特徴とする。この場合、前記第2工程は、アルミニウム製のターゲットと基材とが配置された真空チャンバ内の全圧が0.2Pa~0.5Paの範囲内に維持されるように希ガスを導入し、アルミニウム製のターゲットに所定電力を投入して7nm/sec~10nm/secの範囲内の成膜速度でアルミニウム層を成膜する成膜工程を更に含むことが好ましい。
【0009】
以上によれば、真空雰囲気中にて真空チャンバ内で第1のチタン層、アルミニウム層及び第2のチタン層をスパッタリング法により成膜するのに先立って、真空チャンバ内を不純物ガス(例えば窒素ガス、酸素ガス、水蒸気ガス、水素ガス)の分圧が所定値以下に達するまで真空排気することで、第1及び第2の各チタン層の結晶粒界に、窒化チタンや酸化チタンといったチタン化合物が形成されることが可及的に抑制される。そして、第1及び第2の各チタン層の成膜時には、その成膜速度を3nm/sec~5nm/secの範囲内にすれば、第1及び第2の各チタン層を、粒径の大きい結晶粒がその膜厚方向に不揃いに重なって結晶粒界が膜厚方向に繋がらない結晶構造を有するものにできる。
【0010】
上記のようにして成膜したチタン層をX線回折したところ、(002)面での回折ピークと、(100)面での回折ピークとが確認され、(002)面での回折ピークに対する(100)面での回折ピークの強度比は0.20以上であった。このとき、(002)面での回折ピークの半値幅が1.0deg以下、(100)面での回折ピークの半値幅が0.6deg以下であり、これから、上記回析パターンを有していれば、第1及び第2の各チタン層の結晶粒界に、チタン化合物が形成されることが抑制され、粒径の大きい結晶粒がその膜厚方向に不揃いに重なって結晶粒界が繋がらない結晶構造を有するものとなる。そして、上記同様の積層構造体に対する引張試験にて5%または10%の伸び量を与えるのに必要な引張荷重を加えても、積層構造体の伸び量は10%以内に抑制され、しかも、引張試験後の積層構造体の表面観察でも、クラックが発生していないことが確認された。その結果、本発明の積層構造体は、従来例のものと比較して強い屈曲耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の積層構造体を模式的に説明する図。
図2】本発明の実施形態の積層構造体の製造方法を実施するスパッタリング装置を模式的に説明する図。
図3図2に示す成膜チャンバPc1を模式的に説明する図。
図4】本発明の効果を確認する実験結果を示すグラフ。
図5】(a)~(c)は、比較実験1~比較実験3で成膜したチタン層の結晶構造を模式的に説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の積層構造体及び積層構造体の製造方法の実施形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の積層構造体LSは、基材Swを例えばガラス基板Sgの表面にポリイミドフィルムPfを貼付したものとし(ガラス基板SgとポリイミドフィルムPfとの界面で剥離可能)、基材Sw表面に、真空雰囲気中でスパッタリング法により一貫して順次成膜(積層)される第1のチタン層L1と、アルミニウム層L2と、第2のチタン層L3とを備える。
【0014】
図2に示すように、上記積層構造体LSの成膜に利用できるスパッタリング装置Smは、所謂クラスターツール式のものであり、搬送ロボットRを有する中央の搬送チャンバTcを備え、搬送チャンバTcの周囲に、ゲートバルブGvを介して、ロードロックチャンバLcと、第1のチタン層L1を成膜する真空チャンバ(以下「成膜チャンバ」という)Pc1と、アルミ二ウム層L2を成膜する成膜チャンバPc2と、第2のチタン層L3を成膜する成膜チャンバPc3とが夫々連結されている。ここで、成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3内には、使用されるターゲットを除き、同一の構造部品が設けられるため、図3を参照して、成膜チャンバPc1を例に説明すると、成膜チャンバPc1には、ターボ分子ポンプやロータリーポンプなどからなる真空ポンプユニットPuに通じる排気管11が接続され、成膜チャンバPc1を所定の真空度(例えば1×10-6Pa)まで真空排気することができる。真空チャンバPc1の側壁には、マスフローコントローラ12が介設されたガス管13が接続され、流量制御された希ガス(例えばアルゴンガス)を成膜チャンバPc1内に導入することができる。成膜チャンバPc1の上部には、チタン製のターゲット2(成膜チャンバPc2では、アルミニウム製のターゲット)が基材Swを臨む姿勢で配置され、その上方に公知の磁石ユニット3が配置されている。
【0015】
チタン製のターゲット2としては、純度が99.9%以上のものが、また、アルミニウム製のターゲットとしては、純度が99.99%以上のものが利用される。ターゲット2には、スパッタ電源Psからの出力が接続され、負の電位を持つ直流電力をターゲット2に投入できる。成膜チャンバPc1の下部には、ターゲット2に対向させて、ステージ4が配置され、基材Swを設置することができる。成膜チャンバPc1には、その内部の全圧と不純物ガス(例えば、窒素ガス、酸素ガス、水蒸気ガス、水素ガス)の分圧とを測定する測定器5が設けられている。このような測定器5としては、電離真空計や質量分析計などの公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。以下に、スパッタリング装置Smによる積層構造体LSの製造方法を具体的に説明する。
【0016】
大気雰囲気のロードロックチャンバLcに基材Swを投入し、ロードロックチャンバLcを真空排気した後、搬送ロボットRにより基材Swを成膜チャンバPc1に搬送する。なお、ロードロックチャンバLcへの基材Swの投入に先立ち、搬送チャンバTc及び各成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3は予め所定圧力(1×10-3Pa)まで真空排気され、待機状態となっている。基材Swが成膜チャンバPc1のステージ4上に設置されると、真空排気を続行し、質量分析計5により測定される窒素ガスの分圧が3.0×10-4Pa以下、酸素ガスの分圧が9.0×10-5Pa以下、水蒸気ガスの分圧が8.0×10-4Pa以下、水素ガスの分圧が5.0×10-5Pa以下に達するまで成膜チャンバPc1内を真空排気する(第1工程の真空排気工程)。
【0017】
次に、各ガスの分圧が夫々所定値以下になると、真空排気されている成膜チャンバPc1内に、その全圧が0.2Pa~0.5Paの範囲内に維持されるようにアルゴンガスを導入し、スパッタ電源Psからターゲット2に負の電位を持つ直流電力を20kW~30kW投入する。すると、成膜チャンバPc1内にプラズマが形成され。プラズマ中で電離したアルゴンガスのイオンによりターゲット2がスパッタリングされる。これにより、ターゲット2から飛散したスパッタ粒子が基材Swの成膜面(ポリイミドフィルムPf)に付着、堆積して基材Sw上に第1のチタン層L1が3nm/sec~5nm/secの成膜速度で成膜される(第1工程での成膜工程)。このとき、スパッタ時間を適宜設定して、第1のチタン層L1は、例えば10nm~50nmの膜厚とされる。
【0018】
第1工程の終了後、基材Swを成膜チャンバPc2に搬送し、第1工程と同様に真空排気工程を行う。各ガスの分圧が夫々所定値以下になると、真空排気されている成膜チャンバPc2内に、その全圧が0.2Pa~0.5Paの範囲内に維持されるようにアルゴンガスを導入し、スパッタ電源Psからアルミニウム製のターゲット2に負の電位を持つ直流電力を30kW~40kW投入する。すると、成膜チャンバPc2内にプラズマが形成され、ターゲット2から飛散したスパッタ粒子が第1のチタン層L1の表面に付着、堆積して第1のチタン層L1上にアルミニウム層L2が7nm/sec~10nm/secの成膜速度で成膜される(第2工程での成膜工程)。このとき、スパッタ時間を適宜制御して、アルミニウム層L2は、例えば200nm~800nmの膜厚とされる。
【0019】
第2工程の終了後、基材Swを成膜チャンバPc3に搬送し、第1工程と同様に真空排気工程を行う。各ガスの分圧が夫々所定値以下になると、第1工程と同じスパッタ条件で、アルミ二ウム層L2の上に第2のチタン層L3が3nm/sec~5nm/secの成膜速度で成膜される(第3工程での成膜工程)。このとき、スパッタ時間を適宜制御して、第2のチタン層L3の膜厚は、第1のチタン層L1と同様の膜厚(例えば10~50nm)とされる。
【0020】
以上説明したように積層構造体LSを製造すると、各チタン層L1,L3の内部に不純物が取り込まれることが可及的に抑制され、結晶粒界Cfに窒化チタンや酸化チタンといったチタン化合物が形成されることが抑制される(図1中、一点鎖線で囲う部分参照)。加えて、各チタン層L1,L3を3nm/sec~5nm/secの範囲内の成膜速度で成膜することで、結晶粒Cgの粒径が従来例のものと比較して大きくなり、しかも、これらの結晶粒Cgがその膜厚方向に不揃いに重なり、その結果として、結晶粒界Cfが膜厚方向に繋がらない結晶構造を有するものにできる(図1参照)。なお、このようなチタン層L1,L3のX線回折を測定したところ、(002)面での回折ピークと、(100)面での回折ピークとが確認され、(002)面での回折ピークに対する(100)面での回折ピークの強度比は0.20以上であった。このとき、(002)面での回折ピークの半値幅が1.0deg以下であり、(100)面での回折ピークの半値幅が0.6deg以下であった。
【0021】
次に、上記効果を確認するために、上記スパッタリング装置Smを用い、以下の実験を行った。
【0022】
発明実験では、基材Swをガラス基板Sg上面にポリイミドフィルムPfが貼付されたものとし、基材Swを成膜チャンバPc1のステージ4上に設置した後、質量分析計5により測定される窒素ガスの分圧が1.0×10-4Pa、酸素ガスの分圧が8.0×10-5Pa、水蒸気ガスの分圧が5.0×10-4Pa、水素ガスの分圧が5.0×10-5Paに達するまで真空排気した(第1工程の真空排気工程)。このとき、真空チャンバPc1内の全圧は7.3×10-4Paであった。真空排気工程の後、真空チャンバPc1内の全圧が0.3Paに維持されるようにアルゴンガスを流量120sccmで真空チャンバPc1内に導入し、これと併せてターゲット2に直流電力を20~30kW投入してチタン製ターゲット2をスパッタリングして、3nm/secの成膜速度で基材Sw表面に第1のチタン層L1を50nmの膜厚で成膜した(第1工程の成膜工程)。成膜した第1のチタン層L1のX線回折を測定した結果を図4に実線で示す。表1も参照して、回折角(2θ)38~39°付近に(002)面での回折ピークが、回折角35~36°付近に(100)面での回折ピークが夫々確認され、(002)面での回折ピークに対する(100)面での回折ピークの強度比は0.25、(002)面での回折ピークの半値幅は0.5deg、(100)面での回折ピークの半値幅は0.6degであった。第1工程の後、基材Swを成膜チャンバPc2に搬送し、第1工程と同様に真空排気工程を行った後、成膜チャンバPc2の全圧が0.3Paに維持されるようにアルゴンガスを流量120sccmで成膜チャンバPc2内に導入し、これと併せてアルミニウム製のターゲット2に直流電力を35~40kW投入してターゲット2をスパッタリングして、7nm/secの成膜速度で第1のチタン層L1上にアルミニウム層L2を500nmの膜厚で成膜した。成膜したアルミニウム層L2のX線回折を測定したところ、回折角(2θ)38~39°付近に(111)面での回折ピークが確認された。第2工程の後、基材Swを成膜チャンバPc3に搬送し、第1工程と同様に真空排気工程を行い、その後、第1工程と同じ成膜条件で、3nm/secの成膜速度でアルミニウム層L2上に第2のチタン層L3を50nmの膜厚で成膜し、これにより、積層構造体LSを得た。成膜した第2のチタン層L3のX線回折を測定したところ、第1のチタン層L1と同様の回折パターン(図4参照)が得られた。そして、このようにして得られた積層構造体LSの屈曲耐性を確認するため、公知の形状(幅5mm、長さ20mm、厚さ0.02mm)を有する試験基材(ポリイミドフィルムPf)をガラス基板Sg上に形成し、試験基材表面に上述したスパッタ条件で第1のチタン層L1、アルミニウム層L2、第2のチタン層L3を順次積層した後、ガラス基板SgとポリイミドフィルムPfとの界面で剥離して得た積層構造体LSに対して、引張試験機(ORIENTEC製の「STA-1150」)を用いて引張試験(引張速度は0.5mm/min)を実施したところ、5%、10%の伸び量を与えるのに必要な引張荷重を加えても、積層構造体の伸び量は10%以内(5%、8%)に抑えられることが確認された。また、5%、10%の伸び量を与える引張荷重を加えたときの抵抗Rを抵抗測定器(ADVANTEST製の「AD7461A」)を用いて夫々測定し、引張荷重を加えないときの抵抗R0に対する抵抗上昇率(=(R-R0)/R0)を求めたところ、10%以内(5%、8%)に抑えることができることが確認された。また、引張試験後の積層構造体LSの表面状態を市販のMicroscopeを用いて観察したところ、クラックが発生していないことが確認された。これらの結果より、本発明実験で得られた積層構造体LSは、従来例のものと比較して強い屈曲耐性を有することが判った。
【0023】
(表1)
【0024】
次に、上記発明実験に対する比較のため、以下の比較実験を行った。比較実験1では、第1及び第3の各工程の成膜工程での成膜チャンバPc1内の全圧を0.6Paに維持して成膜速度を2nm/secとした点を除き、上記発明実験と同様の方法で積層構造体LSを得た。上記発明実験と同様の条件で引張試験を実施したところ、積層構造体LSの伸び量が倍以上となることが確認された。また、上記発明実験と同様に抵抗上昇率を求めたところ、30%、400%であった。また、上記発明実験と同様に引張試験後の積層構造体LSの表面状態を観察したところ、クラックが発生して白色化していることが確認された。これらの結果より、本比較実験1で得られた積層構造体LSは弱い屈曲耐性を有することが判った。尚、本比較実験1で成膜された第1のチタン層L1のX線回折を測定したところ、図4に破線で示すように、(100)面での回折ピークは確認されず、(002)面での回折ピークのみが確認され、その(002)面での回折ピークの半値幅は0.9degであった。このような回折パターンを有する場合、図5(a)に示すように、小さな結晶粒Cgが膜厚方向に整列して結晶粒界Cfがその膜厚方向にのびるように繋がった結晶構造を有すると推察される。
【0025】
また、比較実験2では、第1及び第3の各工程にて真空排気工程を行わない点(成膜工程のみを行う点)を除き、上記発明実験と同様の方法で積層構造体LSを得た。即ち、真空チャンバPc1内の全圧が所定真空度(2.8×10-3Pa)に到達すると、不純物ガスの分圧に関わらず、真空チャンバPc1内に希ガスを導入した。このときの不純物ガスの分圧を測定したところ、窒素ガスの分圧が5.0×10-4Pa、酸素ガスの分圧が2.0×10-4Pa、水蒸気ガスの分圧が2.0×10-3Pa、水素ガスの分圧が5.0×10-5Paであり、水素ガス以外は基準値を下回っていた。上記発明実験と同様の条件で引張試験を実施したところ、積層構造体LSの伸び量は倍以上となることが確認された。また、上記発明実験と同様に抵抗上昇率を求めたところ、比較実験1よりも更に悪い120%、650%であった。また、上記発明実験と同様に引張試験後の積層構造体LSの表面状態を観察したところ、クラックが発生して白色化していることが確認された。これらの結果より、本比較実験2で得られた積層構造体LSは弱い屈曲耐性を有することが判った。尚、成膜した第1のチタン層L1のX線回折を測定したところ、(002)面での回折ピークだけでなく(100)面での回折ピークが観察されたものの、(002)面での回折ピークに対する(100)面での回折ピークの強度比は0.20よりも小さい0.11であった。また、(100)面での回折ピークの半値幅は0.6degよりも大きい0.7degであった。このような回折パターンを有する場合、図5(b)に示すように、結晶粒界Cfに窒化チタンや酸化チタンといったチタン化合物Imが形成されていると推察される。
【0026】
また、比較実験3では、第1及び第3の各工程の成膜時の成膜チャンバPc1,Pc3内の全圧を0.6Paに維持して成膜速度を2nm/secとし、第1及び第3の各工程にて真空排気工程を行わない点(成膜工程のみを行う点)を除き、上記発明実験と同様の方法で積層構造体LSを得た。上記発明実験と同様の条件で引張試験を実施したところ、積層構造体LSの伸び量が倍以上となることが確認された。また、上記発明実験と同様に抵抗上昇率を求めたところ、比較実験2よりも更に悪い300%、900%であった。また、上記発明実験と同様に引張試験後の積層構造体LSの表面状態を観察したところ、クラックが発生して白色化していることが確認された。これらの結果より、本比較実験3で得られた積層構造体LSは上記比較実験1,2よりも弱い屈曲耐性を有することが判った。尚、本比較実験3で成膜された第1のチタン層L1のX線回折を測定したところ、(100)面での回折ピークは確認されず、(002)面での回折ピークのみが確認され、その(002)面での回折ピークの半値幅は0.8degであった。このような回折パターンを有する場合、図5(c)に示すように、小さい結晶粒Cgが膜厚方向に整列して結晶粒界Cfがその膜厚方向にのびるように繋がった結晶構造を有し、しかも、その結晶粒界Cfにチタン化合物Imが形成されていると推測される。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、積層構造体LSとして第1のチタン層L1、アルミニウム層L2、第3のチタン層L3を積層したものを例に説明したが、第3のチタン層L3の上に更に窒化チタン層が積層されたものに対しても本発明を適用することができる。
【0028】
また、上記実施形態では、成膜チャンバPc1,Pc2,Pc3の間で基材Swをin-situで搬送し、真空雰囲気中で第1のチタン層L1、アルミニウム層L2、第2のチタン層L3を一貫して成膜する場合を例に説明したが、これに限定されず、第1及び第2のチタン層L1,L3とアルミニウム層L2とを異なるスパッタリング装置で実施する場合にも本発明は適用することができる。また、第1のチタン層L1と第2のチタン層L3とを同一の成膜チャンバで成膜してもよい。
【符号の説明】
【0029】
LS…積層構造体、L1…第1のチタン層、L2…アルミニウム層、L3…第2のチタン層、Sw…基材、Pc1,Pc2,Pc3…成膜チャンバ(真空チャンバ)、2…ターゲット。
図1
図2
図3
図4
図5