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特許7196438ビスフェノールの製造法およびポリカーボネート樹脂の製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造法およびポリカーボネート樹脂の製造法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/72 20060101AFI20221220BHJP
   C07C 37/84 20060101ALI20221220BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20221220BHJP
   C07C 37/20 20060101ALI20221220BHJP
   C08G 64/04 20060101ALI20221220BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C07C37/72
C07C37/84
C07C39/16
C07C37/20
C08G64/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018126676
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2020007233
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】村上 秀樹
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-040376(JP,A)
【文献】特開2008-214248(JP,A)
【文献】特開平11-152240(JP,A)
【文献】特開平09-176069(JP,A)
【文献】特開2002-187862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/00- 39/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールを含有する溶液と第1の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第1の有機相と炭酸塩を含有する第1の水相とに相分離させ、前記第1の水相を除去し、前記第1の有機相を得る第1工程と、
前記第1の有機相と第2の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第2の有機相と炭酸塩を含有する第2の水相とに相分離させ、前記第2水相を除去し、前記第2の有機相を得る第2工程と、
前記第2の有機相を晶析してビスフェノールを得る第3工程とを有するビスフェノールの製造法であり、
前記第1工程の前に、
酸触媒の存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、前記ビスフェノールが分散したスラリーを得るビスフェノール生成工程(1A)と、
前記スラリーと、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムからなる群から選択されるいずれかが水に溶解した塩基性水溶液とを加熱混合し、前記ビスフェノールを溶解させ、前記ビスフェノールを含有する混合液(m1)を得る溶解工程(1B)と、
前記混合液(m1)を、ビスフェノールを含有する有機相(o1)と水相(w1)とに相分離させた後、前記水相(w1)を除去し、前記有機相(o1)である前記ビスフェノールを含有する溶液を得る相分離工程(1C)とを有することを特徴するビスフェノールの製造法。
【請求項2】
前記酸触媒が、硫酸、塩酸、及び、塩化水素ガスからなる群より選ばれるいずれか1つである請求項に記載のビスフェノールの製造法。
【請求項3】
ビスフェノールを含有する溶液と第1の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第1の有機相と炭酸塩を含有する第1の水相とに相分離させ、前記第1の水相を除去し、前記第1の有機相を得る第1工程と、
前記第1の有機相と第2の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第2の有機相と炭酸塩を含有する第2の水相とに相分離させ、前記第2水相を除去し、前記第2の有機相を得る第2工程と、
前記第2の有機相を晶析してビスフェノールを得る第3工程とを有するビスフェノールの製造法であり、
前記第1工程の前に、
硫酸触媒の存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、前記ビスフェノールが分散したスラリーを得るビスフェノールの生成工程(2A)と、
混合後の混合液(m2)がpH4以下となるように、前記スラリーと、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムからなる群から選択されるいずれかが水に溶解した塩基性水溶液とを加熱混合し、前記ビスフェノールを溶解させ、前記ビスフェノールを含有する混合液(m2)を得る溶解工程(2B)と、
前記混合液(m2)を、ビスフェノールを含有する有機相(o2a)と水相(w2a)とに相分離させた後、前記水相(w2a)を除去し、前記有機相(o2a)を得る相分離工程(2C)と、
前記有機相(o2a)と水とを混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(o2b)と水相(w2b)とに相分離させ、前記水相(w2b)を除去し、前記有機相(o2b)である前記ビスフェノールを含有する溶液を得る相分離工程(2D)とを有することを特徴するビスフェノールの製造法。
【請求項4】
前記ビスフェノールが、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1から3のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造法。
【化1】
(式中、
1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基を表し、
1~R4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、
5とR6は、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、または、アリール基を表すか、あるいは、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成してもよい。)
【請求項5】
前記第1の炭酸塩水溶液中の炭酸塩の含有量が、前記ビスフェノールを含有する溶液中のビスフェノール1gに対して0.0001g以上、0.1以下gであり、
前記第2の炭酸塩水溶液中の炭酸塩の含有量が、前記第1の有機相中のビスフェノール1gに対して0.0001g以上、0.1g以下である請求項1から4のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造法。
【請求項6】
前記第1の炭酸塩水溶液及び前記第2の炭酸塩水溶液が、炭酸水素ナトリウム水溶液である請求項1からのいずれか1項に記載のビスフェノールの製造法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造法によりビスフェノールを得る工程と、
得られた前記ビスフェノールを用いてポリカーボネート樹脂を製造する工程と、を有することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールを製造するビスフェノールの製造法である。また、得られたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造法に関する。
本発明の方法で製造されたビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1)。また、金属イオン濃度及び溶存酸素濃度を規定したビスフェノール及びその製造方法が知られている(特許文献2)。更に、アルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物を添加して、ビスフェノールの塩基性度を調整する方法において、該ビスフェノールと炭酸ジエステルとをエステル交換反応させたときのエステル交換反応速度から求められることを特徴とするビスフェノールの製造方法も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-214248号公報
【文献】特開2015-209490号公報
【文献】特開平11-152240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に記載の方法で製造されるビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂等を溶融重合により製造するための原料としては、必ずしも十分なものではなかった。
ビスフェノールは、光学用ポリカーボネート樹脂のように光学用材料として使用される分野もあり、近年、より色調の優れた透明なビスフェノールが求められており、ビスフェノールの色調を悪化させる成分を効率的に除去できる方法が求められていた。
また、溶融重合反応により製造するポリカーボネート樹脂等の原料としては、高温でも優れた色調を有することが重要であり、従来のビスフェノールは改善の余地があった。
かかる状況下、本発明の目的は、ビスフェノールの色調を悪化させる成分を効率的に除去でき、良好な色調を有するビスフェノールを得られるビスフェノールの製造法を提供することである。また、本発明は、色調が改善されたビスフェノールを用いた、溶融重合反応によるポリカーボネート樹脂の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ビスフェノールの色調を悪化させる成分を効率的に除去する方法を見出し、良好な色調を有するビスフェノールの製造法の発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]から[8]に存する。
[1] ビスフェノールを含有する溶液と第1の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第1の有機相と炭酸塩を含有する第1の水相とに相分離させ、前記第1の水相を除去し、前記第1の有機相を得る第1工程と、前記第1の有機相と第2の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第2の有機相と炭酸塩を含有する第2の水相とに相分離させ、前記第2の水相を除去し、前記第2の有機相を得る第2工程と、前記第2の有機相を晶析してビスフェノールを得る第3工程とを有するビスフェノールの製造法。
[2] 前記ビスフェノールが、下記一般式(1)で表される化合物である[1]に記載のビスフェノールの製造法。
【化1】
(式中、R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基を表し、R1~R4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R5とR6は、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、または、アリール基を表すか、あるいは、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成してもよい。)
[3] 前記第1の炭酸塩水溶液中の炭酸塩の含有量が、前記ビスフェノールを含有する溶液中のビスフェノール1gに対して0.0001g以上、0.1以下gであり、前記第2の炭酸塩水溶液中の炭酸塩の含有量が、前記第1の有機相中のビスフェノール1gに対して0.0001g以上、0.1g以下である[1]または[2]に記載のビスフェノールの製造法。
[4] 前記第1の炭酸塩水溶液及び前記第2の炭酸塩水溶液が、炭酸水素ナトリウム水溶液である[1]から[3]のいずれかに記載のビスフェノールの製造法。
[5] 前記第1工程の前に、酸触媒の存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、前記ビスフェノールが分散したスラリーを得るビスフェノール生成工程(1A)と、前記スラリーと塩基性水溶液とを加熱混合し、前記ビスフェノールを溶解させ、前記ビスフェノールを含有する混合液(m1)を得る溶解工程(1B)と、前記混合液(m1)を、ビスフェノールを含有する有機相(o1)と水相(w1)とに相分離させた後、前記水相(w1)を除去し、前記有機相(o1)であるビスフェノールを含有する溶液を得る相分離工程(1C)とを有する[1]から[4]のいずれかに記載のビスフェノールの製造法。
[6] 前記酸触媒が、硫酸、塩酸、及び、塩化水素ガスからなる群より選ばれるいずれか1つである[5]に記載のビスフェノールの製造法。
[7] 前記第1工程の前に、硫酸触媒の存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、前記ビスフェノールが分散したスラリーを得るビスフェノールの生成工程(2A)と、混合後の混合液(m2)が酸性となるように、前記スラリーと塩基性水溶液とを加熱混合し、前記ビスフェノールを溶解させ、前記ビスフェノールを含有する混合液(m2)を得る溶解工程(2B)と、前記混合液(m2)を、ビスフェノールを含有する有機相(o2a)と水相(w2a)とに相分離させた後、前記水相(w2a)を除去し、前記有機相(o2a)を得る相分離工程(2C)と、前記有機相(o2a)と水とを混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(o2b)と水相(w2b)とに相分離させ、前記水相(w2b)を除去し、前記有機相(o2b)であるビスフェノールを含有する溶液を得る相分離工程(2D)とを有する[1]から[6]のいずれかに記載のビスフェノールの製造法。
[8] [1]から[7]のいずれかに記載のビスフェノールの製造法により得られたビスフェノールを用いてポリカーボネート樹脂を製造するポリカーボネート樹脂の製造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ビスフェノールの色調を悪化させる成分を効率的に除去できるビスフェノールの製造法を提供することができ、良好な色調を有するビスフェノールを製造することが可能である。また、得られたビスフェノールを用いて、溶融重合反応が進行しやすく、良好な色調のポリカーボネート樹脂が得られるポリカーボネート樹脂の製造法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のビスフェノールの製造法を示すフローチャートである。
図2】本発明のビスフェノールの製造法の好適な態様の一例を示すフローチャートである。
図3】本発明のビスフェノールの製造法の好適な態様の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0010】
[ビスフェノールの製造法]
本発明は、ビスフェノールを含有する溶液と第1の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第1の有機相と炭酸塩を含有する第1の水相とに相分離させ、前記第1の水相を除去し、前記第1の有機相を得る第1工程と、前記第1の有機相と第2の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第2の有機相と炭酸塩を含有する第2の水相とに相分離させ、前記第2の水相を除去し、前記第2の有機相を得る第2工程と、前記第2の有機相を晶析してビスフェノールを得る第3工程とを有するビスフェノールの製造法に関する(図1を参照)。
【0011】
本発明のビスフェノールの製造法の特徴は、第1工程及び第2工程を行い、ビスフェノールを含有する溶液を炭酸塩水溶液で2回連続して処理した後、第3工程にて晶析を行い、ビスフェノールを得ることである。ビスフェノールを含有する溶液中に含まれる、着色成分は、ケトン及び/又はアルデヒドの縮合化合物であることが推定されることから、炭酸塩水溶液と混合することでケトン又はアルデヒドの縮合物を塩とし、水相に除去できると推定される。また、第1工程で得られた第1の有機相を、第2の炭酸塩水溶液を用いて再度処理することで、残存する着色成分を著しく低減させることができる。このことは、着色が生じやすい高温条件(例えば、175℃)において、本発明のビスフェノールの製造法で得られたビスフェノールの色調が大きく改善していることからもわかる。
【0012】
[第1工程]
第1工程は、ビスフェノールを含有する溶液と第1の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第1の有機相と炭酸塩を含有する第1の水相とに相分離させ、前記第1の水相を除去し、前記第1の有機相を得る工程である。
【0013】
(ビスフェノールを含有する溶液)
ビスフェノールを含有する溶液は、ビスフェノールが有機溶媒に溶解した溶液である。
ビスフェノールは、通常、以下の一般式(1)で表される化合物である。
【0014】
【化2】
【0015】
1~R4は、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基は、置換あるいは無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0016】
これらのうち、R1~R4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であることが好ましい。また、これらのうちR2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから、R1およびR4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R2およびR3は水素原子であることが好ましい。また、R1およびR4の少なくとも1つは、アルキル基であり、R2およびR3が水素原子であることがより好ましく、R1がアルキル基であり、R2~R4が水素原子であることがさらに好ましい。
【0017】
5とR6は、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基は、置換あるいは無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0018】
5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成してもよい。なお、シクロアルキリデン基とは、シクロアルカンの1つの炭素原子から2個の水素原子を除去した2価の基である。R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合したシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0019】
中でも、本発明のビスフェノール製造法で用いられるビスフェノールとしては、一般式(1)において、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R1~R4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R5とR6は、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、または、アリール基、あるいは、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成した化合物であることが好ましい。より好ましくは、一般式(1)において、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R1およびR4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R2およびR3は水素原子であり、R5とR6は、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、または、アリール基、あるいは、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成した化合物である。さらに好ましくは、一般式(1)において、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、または、アルキル基であり、R1およびR4の少なくとも1つは、アルキル基であり、R2およびR3は水素原子であり、R5とR6は、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、または、アリール基、あるいは、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成した化合物である。
【0020】
単離したビスフェノールを有機溶媒に溶解してビスフェノールを含有する溶液を調製する場合、ビスフェノールを含有する溶液は、ビスフェノールを含有する溶液中のビスフェノールの含有量が5質量%以上となるように調製することが好ましく、10質量%以上となるように調製することが好ましい。また、ビスフェノールを含有する溶液中のビスフェノールの含有量が70質量%以下となるように調製することが好ましく、60質量%以下となるように調製することがさらに好ましい。このような範囲に調整することで、第3工程の晶析時に不純物の混入を抑えつつ、効率的にビスフェノールを析出させることができる。
【0021】
有機溶媒としては、ビスフェノールを溶解することができ、第1の炭酸塩水溶液と相分離できれば特に限定されず、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素、エステル等が挙げられ、これらを単独、または混合して用いることができる。
温度によるビスフェノールの溶解度差が大きく、温度差を利用してビスフェノールを析出させやすいことから、有機溶媒は芳香族炭化水素であることが好ましい。芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
また、ビスフェノール生成後の精製過程の溶液を、ビスフェノールを含有する溶液として用いることもできる。
【0022】
(第1の炭酸塩水溶液)
第1の炭酸塩水溶液は、炭酸塩を水に溶解した水溶液である。炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムが挙げられる。工業的に安価に入手できることから、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムが好ましく、炭酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0023】
第1の炭酸塩水溶液は、飽和濃度でも、高濃度でも、低濃度でも良い。飽和濃度や高濃度の炭酸塩水溶液を混合した場合、得られるビスフェノールに炭酸塩が残存し、重合反応に影響を及ぼす可能性があることから、5質量%以下の低濃度の炭酸塩水溶液が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。また、第1の炭酸塩水溶液の濃度が低すぎると、ビスフェノールを含有する溶液中に含まれる着色成分であるケトン及び/又はアルデヒドの縮合化合物を塩として十分に除去できない場合があるため、第1の炭酸塩水溶液の濃度は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。
【0024】
また、第1の炭酸塩水溶液の使用量は、第1の炭酸塩水溶液中の炭酸塩の種類や濃度により適宜調整されるものであるが、少なすぎると着色成分を十分に塩として除去することができない場合がある。また、第1の炭酸塩水溶液の使用量が多すぎると、得られるビスフェノールに残存してビスフェノールの品質を悪化させてしまう場合がある。このことから、第1の炭酸塩水溶液中の炭酸塩の含有量が、第1工程におけるビスフェノールを含有する溶液に含まれるビスフェノール1gに対して0.0001g以上が好ましく、0.001g以上がより好ましく、0.01g以上がさらに好ましい。また、第1工程におけるビスフェノールを含有する溶液に含まれるビスフェノール1gに対して、炭酸塩水溶液中の炭酸塩の含有量が、0.1g以下が好ましく、0.05g以下がより好ましい。
【0025】
なお、ビスフェノール生成後の精製過程の溶液を、ビスフェノールを含有する溶液とする場合、例えば、ビスフェノールを含有する溶液の一部をサンプリングし、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定したビスフェノールの含有量に基づき、ビスフェノールを含有する溶液中のビスフェノールの含有量を算出することができる。
【0026】
第1工程では、ビスフェノールを含有する溶液に第1の炭酸塩水溶液を混合した後、静置することで、ビスフェノールを含有する第1の有機相と炭酸塩を含有する第1の水相とに相分離させる。また、ビスフェノールを含有する溶液中の着色成分等と炭酸塩とを効率的に反応させ塩を形成させるために、ビスフェノールを含有する溶液に第1の炭酸塩水溶液を添加した後、適宜撹拌する。また、第1工程を、ビスフェノールを含有する溶液を加熱した状態で行うことで、ビスフェノールの析出を抑制し、ビスフェノールを含有する溶液中の着色成分等をより効率的に除去することができる。
【0027】
例えば、ビスフェノールを含有する溶液に第1の炭酸塩水溶液を添加した後、50~90℃で、0.1~1時間程度撹拌し、0.3~2時間程度静置することで、ビスフェノールを含有する第1の有機相と炭酸塩を含有する第1の水相とに相分離できる。また、着色成分は水相に除去され、有機相中のビスフェノールの純度が向上する。
【0028】
[第2工程]
第2工程は、第1工程にて得られたビスフェノールを含有する第1の有機相と第2の炭酸塩水溶液とを混合した後、ビスフェノールを含有する第2の有機相と炭酸塩を含有する第2の水相とに相分離させ、前記第2の水相を除去し、前記第2の有機相を得る工程である。
第2工程は、第1工程におけるビスフェノールを含有する溶液に代えて、第1工程で得られた第1の有機相を用いる以外は、第1工程と同様に行うことができる。
【0029】
第1工程と同様に、第2の炭酸塩水溶液中の炭酸塩の含有量は、第1の有機相に含まれるビスフェノール1gに対して0.0001g以上が好ましく、0.001g以上がより好ましく、0.01g以上がさらに好ましい。また、第1の有機相に含まれるビスフェノール1gに対して、第2の炭酸塩水溶液中の炭酸塩の含有量が、0.1g以下が好ましく、0.05g以下がより好ましい。
なお、第1の有機相に含まれるビスフェノールの含有量は、例えば、第1の有機相の一部をサンプリングし、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定したビスフェノールの含有量に基づいて算出することができる。
【0030】
また、第2工程で用いる第2の炭酸塩水溶液は、第1工程で用いた第1の炭酸塩水溶液と同様のものとすることができる。第2の炭酸塩水溶液は、第1の炭酸塩水溶液と同じであっても、異なるものであってもよい。一方で、第1の炭酸塩水溶液と異なるものを用いる場合、混入しうる不純物の数が増え、管理が複雑になる。そのため、第1の炭酸塩水溶液と第2の炭酸塩水溶液とは同一のものを用いることが好ましく、同一の炭酸ナトリウム水溶液または同一の炭酸水素ナトリウム水溶液を用いることがより好ましく、同一の炭酸水素ナトリウム水溶液を用いることがさらに好ましい。
【0031】
なお、第2工程は、好ましくは1回であるが、複数回実施してもよい。すなわち、ビスフェノールを含有する有機相と炭酸塩水溶液とを混合し、相分離させた後、水相を除去する工程を複数回繰り返してもよい。具体的には、第2工程を2回行う場合、第2の有機相を第1の有機相に対応するものとして、第2の炭酸塩水溶液と同様の炭酸塩水溶液を混合した後に、水相を除去し、第3の有機相を得ることができる。この第3の有機相を、第3工程に用いればよい。第2工程をn回行う場合は、(n-1)回目の第2工程後に得られる第nの有機相を、第1の有機相に対応するものとすればよい。第nの有機相と炭酸塩水溶液とを混合した後に、水相を除去して得られる第(n+1)の有機相を、第2の有機相に対応するものとして、第3工程は、第(n+1)の有機相を晶析してビスフェノールを得る工程とすればよい。
【0032】
[第3工程]
第3工程は、第2工程で得られたビスフェノールを含有する第2の有機相を晶析してビスフェノールを得る工程である。晶析は、常法にて行うことができ、例えば、ビスフェノールの温度差による溶解度差を用いる方法、貧溶媒を供給することで固体を析出させる方法のいずれも適用できる。第2の有機相に貧溶媒を供給すると得られるビスフェノール組成物の純度が低下することから、ビスフェノールの温度差による溶解度差を用いる方法が好ましい。
貧溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの、炭素数5以上の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0033】
例えば、60~90℃に加熱した、第2の有機相を、-10~30℃に冷却することでビスフェノールが析出する。析出したビスフェノールは、固液分離し、乾燥等により回収することができる。
【0034】
また、第3工程にて得られたビスフェノールは、その用途に応じて、ふりかけ洗浄や水洗、晶析などの精製をさらに行ってもよい。水洗を行う場合、第3工程にて得られたビスフェノールを芳香族炭化水素等の溶媒に溶解させた後、この溶液を水と混合し洗浄すればよい。例えば、第3工程にて得られたビスフェノールを水洗し、さらに、水洗後の溶液を晶析してもよい。
【0035】
[本発明のビスフェノールの製造法の好適な態様]
本発明のビスフェノールの製造法は、ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとを縮合させビスフェノールを生成させた後、ビスフェノールを単離することなく、生成したビスフェノールを精製する工程において、第1工程と、第2工程と、第3工程とを行うことで、より簡単に色調が改善されたビスフェノールを得ることができる方法とすることができる。
【0036】
ビスフェノールは、硫酸等の酸触媒を触媒として、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させることにより得ることができる。生成するビスフェノールの分解をより抑制するために、ビスフェノールは、反応終了時に、ビスフェノールが分散したスラリーとして得られるように製造することが好ましく、ビスフェノールが分散したスラリーを精製する精製工程において、第1工程と、第2工程と、第3工程とを行うことが好ましい。
なお、ビスフェノールが分散したスラリーは、生成したビスフェノールを反応液中に完全には溶解させないように、酸触媒の種類、溶媒の種類や量、反応時間等を適宜調整することで調製することができる。
【0037】
[本発明のビスフェノールの製造法の好適な態様(1)]
本発明のビスフェノールの製造法の好適な態様のひとつは、図2に示すように、第1工程の前に、酸触媒の存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、前記ビスフェノールが分散したスラリーを得るビスフェノール生成工程(1A)と、前記スラリーと塩基性水溶液とを加熱混合し、前記ビスフェノールを溶解させ、前記ビスフェノールを含有する混合液(m1)を得る溶解工程(1B)と、前記混合液(m1)を、ビスフェノールを含有する有機相(o1)と水相(w1)とに相分離させた後、前記水相(w1)を除去し、前記有機相(o1)であるビスフェノールを含有する溶液を得る相分離工程(1C)とを有するビスフェノールの製造法である。すなわち、本発明のビスフェノールの製造法の好適な態様のひとつは、ビスフェノール生成工程(1A)の後の精製工程において、溶解工程(1B)および相分離工程(1C)を行った後、第1工程~第3工程を行う方法であり、ビスフェノール生成工程(1A)と、溶解工程(1B)と、相分離工程(1C)と、第1工程と、第2工程と、第3工程とを有するビスフェノールの製造法である。
【0038】
以下、ビスフェノール生成工程(1A)、溶解工程(1B)、および、相分離工程(1C)について説明する。
【0039】
[ビスフェノール生成工程(1A)]
ビスフェノールの生成工程(1A)は、酸触媒の存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、前記ビスフェノールが分散したスラリーを得る工程である。ビスフェノールの反応は、通常、以下に示す反応式(2)に従って行われる。
【0040】
【化3】
(式中、R1~R6は、一般式(1)におけるR1~R6と同義である。)
【0041】
(芳香族アルコール)
ビスフェノール生成工程(1A)に用いる芳香族アルコールは、通常、以下の一般式(3)で表される化合物である。
【0042】
【化4】
【0043】
一般式(3)において、R1~R4は、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、または、アリール基である。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基は、置換あるいは無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0044】
これらのうち、一般式(3)において、R1~R4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であることがより好ましい。また、これらのうちR2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから、R1およびR4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R2およびR3は水素原子であることが好ましい。また、R1およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または、アルキル基であり、R1およびR4の少なくとも1つは、アルキル基であり、R2およびR3が水素原子であることがより好ましく、R1がアルキル基であり、R2~R4が水素原子であることがさらに好ましい。
【0045】
具体的には、芳香族アルコールとして、好ましくはクレゾール(一般式(3)において、R1がメチル基であり、R2~R4が水素原子である化合物)またはキシレノール(一般式(3)において、R1、R4がメチル基であり、R2、R3が水素原子である化合物)であり、特に好ましくはクレゾールである。
【0046】
(ケトン又はアルデヒド)
ビスフェノール生成工程(1A)に用いるケトン又はアルデヒドは、通常、以下の一般式(4)で表される化合物である。
【0047】
【化5】
【0048】
一般式(4)において、R5とR6は、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、または、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基は、置換あるいは無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0049】
5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成してもよい。このような構造としては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0050】
上記一般式(4)で表される化合物として、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタンアルデヒド、ヘキサンアルデヒド、ヘプタンアルデヒド、オクタンアルデヒド、ノナンアルデヒド、デカンアルデヒド、ウンデカンアルデヒド、ドデカンアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデカノン、ドデカノンなどのケトン類、ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケトン、クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリルプロピルケトンなどのアリールアルキルケトン類、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケトン類等が挙げられる。
【0051】
ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させる反応において、ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比((芳香族アルコールのモル数/ケトンのモル数)又は(芳香族アルコールのモル数/アルデヒドのモル数))は、少ない場合、ケトン又はアルデヒドが多量化しやすく、また多い場合は、芳香族アルコールを未反応のまま損出する。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上である。また、その上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
【0052】
酸触媒下でのケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの縮合は、通常、芳香族アルコールと酸触媒との混合溶液に、ケトン又はアルデヒドを供給して、一定時間反応させることで行う。芳香族アルコールと酸触媒との混合溶液へのケトン又はアルデヒドの供給方法は、一括で供給する方法、または分割して供給する方法を用いることができる。ビスフェノールを生成する反応が発熱反応であることから、ケトン又はアルデヒドの供給は、少しずつ滴下して供給するような分割して供給する方法が好ましい。
【0053】
(酸触媒)
本発明の酸触媒としては、硫酸、塩酸、塩化水素ガス、リン酸、p-トルエンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸などが挙げられる。酸触媒は、硫酸、塩酸、及び、塩化水素ガスからなる群より選ばれるいずれか1つであることが好ましい。また、反応効率に優れ、かつ、触媒の揮発性がなく設備への負担が少ないという観点から、酸触媒としては硫酸がより好ましい。
硫酸を用いる場合、その酸性度が高いことから、硫酸と脂肪族アルコールとを併用し、硫酸と脂肪族アルコールとの反応で生成した硫酸モノアルキルを共存させることが好ましい。これにより、触媒の酸強度を制御し、原料のケトン又はアルデヒドの縮合(多量化)及び着色を抑制することができる。このため、芳香族アルコールスルホン酸の過剰な生成が抑制され、かつ、生成物の着色が低減されたビスフェノールを簡便かつ効率よく製造することが可能となる。
【0054】
硫酸と併用する脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールなどの炭素数1~12のアルキルアルコール類などを挙げることができる。脂肪族アルコールは、炭素数が多くなると親油性が増加し、硫酸と混ざりにくくなり硫酸モノアルキルを得にくくなることから、炭素数が8以下のアルキルアルコールが好ましい。
【0055】
硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比(脂肪族アルコールのモル数/硫酸のモル数)は、少ないと発生する硫酸モノアルキルの量が少なくなり反応に長時間を要する。また、多い場合も、硫酸の濃度が低下し、反応時間に長時間を要することとなる。これらのことから、硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比の下限は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0056】
また、硫酸を用いる場合、用いる硫酸の濃度(硫酸水溶液の濃度)が高いと、ケトン又はアルデヒドの自己縮合反応が進行しやすく、ビスフェノールの色調悪化やビスフェノールの反応選択率の低下を引き起こす場合がある。また、用いる硫酸の濃度が低いと、芳香族アルコールのスルホン化を進行させることができなくなり、ビスフェノールを製造する反応時間が長くなり、効率的にビスフェノールを製造することが難しい。そのため、用いられる硫酸の濃度は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上である。また、用いられる硫酸の濃度は、好ましくは98質量%以下、より好ましくは90%質量以下、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0057】
(チオール)
ビスフェノール生成工程(1A)においては、助触媒としてチオールを添加することが好ましい。用いるチオールとしては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ウンデシルメルカプタン、ドデシルメルカプタンである。
【0058】
本発明において、ケトン又はアルデヒドに対するチオールのモル比((チオールのモル数/ケトンのモル数)又は(チオールのモル数/アルデヒドのモル数))は、少ない場合、反応選択性改善の効果が得られにくい。また、多い場合、得られるビスフェノールにチオールが混入して品質が悪化する場合がある。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対するチオールのモル比は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.01以上である。また、その上限は、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.1以下である。
【0059】
(溶媒)
ビスフェノール生成工程(1A)において、ビスフェノールを生成する反応は、トルエン、キシレンなどの溶媒存在下で行っても良い。また、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドを含有する反応液に、メタノール、エタノール、プロパノールなどの脂肪族アルコールを添加して反応を行っても良い。特に、上記のように硫酸を酸触媒とする場合、脂肪族アルコールを添加することで硫酸と反応して硫酸モノアルキルが生成して触媒作用を示すことから、脂肪族アルコールの添加が好ましい。
ビスフェノールの生成に使用した溶媒は、蒸留などで回収及び精製して再使用することが可能である。
また、溶媒を使わず芳香族アルコールを多量に使用して溶媒の代わりとしても良い。未反応の芳香族アルコールは損失となるが、蒸留などにより回収及び精製して再使用することが可能である。
【0060】
ビスフェノール生成工程(1A)において、ビスフェノールの生成反応は、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの縮合反応である。縮合反応の反応温度は、高温の場合、ケトン又はアルデヒドの多量化が進行しやすくなる。また、反応温度が低温の場合は、反応に要する時間が長時間化する。これらのことから、反応温度は、好ましくは-30℃以上、より好ましくは-20℃以上、更に好ましくは-15℃以上である。また、反応温度の上限は、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0061】
本発明において、縮合反応の反応時間は、長い場合は、生成したビスフェノールが分解しやすくなることから、好ましくは30時間以内、より好ましくは25時間以内、更に好ましくは20時間以内である。反応時間の下限は通常2時間以上であり、5時間以上であることが好ましく、15時間以上であることがより好ましい。
なお、反応時間は、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの混合時間も含むものである。例えば、芳香族アルコールと酸触媒とを混合した混合溶液に、ケトン又はアルデヒドを1時間かけて供給した後、1時間反応させた場合、反応時間は2時間である。
【0062】
[溶解工程(1B)]
溶解工程(1B)では、ビスフェノール生成工程(1A)で得られた、ビスフェノールが分散したスラリーと塩基性水溶液とを加熱混合することで、ビスフェノールを溶解させ、前記ビスフェノールを含有する混合液(m1)を得る。ビスフェノールが分散したスラリーと塩基性水溶液との混合は、ビスフェノール生成反応を停止させるためにものであり、加熱によるビスフェノールの溶解は、洗浄効率を上げるためのものである。加熱することで、スラリー中に分散したビスフェノールが、スラリー中の溶媒や未反応の芳香族アルコール等に溶解する。
【0063】
塩基性水溶液は、塩基性物質を水に溶解させた水溶液である。塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の強塩基性物質が挙げられる。工業的に安価に入手が可能であることから水酸化ナトリウムであることが好ましい。
塩基性水溶液の濃度は、濃度が高い場合、酸触媒との反応で生成する塩濃度が増加し、析出してしまう場合があることから、50質量%以下、好ましくは40質量%以下が好ましい。また、塩基性水溶液の濃度が低い場合は、ビスフェノール生成反応を停止させるために供給する塩基性水溶液の量が増えてしまい、容積が増加して効率が悪化する観点から、5質量%以上、好ましくは10質量%以上である。
塩基性水溶液の量は、酸触媒の量や塩基性水溶液の濃度に応じて、適宜調整される。塩基性水溶液の量を調製することで、スラリーと塩基性水溶液とを混合した混合液(m1)のpHを調整することができる。
【0064】
スラリーと塩基性水溶液との加熱と混合は同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。例えば、加熱しながらスラリーに塩基性水溶液を混合してもよいし、スラリーと塩基性水溶液を混合した後、加熱してもよい。一方、スラリー中の酸濃度が高い状態で加熱を行うと、生成したビスフェノールが分解しやすくなるので、スラリーと塩基性水溶液を混合した後に、加熱することが好ましい。
また、スラリー中の溶媒や未反応の芳香族アルコールの量、ビスフェノールの濃度等によっては、ビスフェノールの溶解性を上げるために、スラリーと塩基性水溶液の混合時に溶媒を追加混合してもよい。
【0065】
加熱温度は、60~90℃であることが好ましい。加熱温度が高すぎると、ビスフェノールが分解しやすくなる。また、加熱温度が低すぎると、ビスフェノールの溶解が不十分であったり、ビスフェノールを溶解させるために過剰の溶媒が必要となる。
【0066】
[相分離工程(1C)]
相分離工程(1C)では、溶解工程(1B)にて得られた混合液(m1)を、ビスフェノールを含有する有機相(o1)と水相(w1)とに相分離させた後、前記水相(w1)を除去し、前記有機相(o1)であるビスフェノールを含有する溶液を得る。
また、相分離工程(1C)は、混合液(m1)中に溶解したビスフェノールが析出しないように、溶解工程(1B)の加熱温度となるように、温度を保持した状態で行われる。
混合液(m1)を任意の時間静置することで、相分離させることができる。有機相(o1)には、ビスフェノール生成工程(1A)にて生成したビスフェノールが溶解しており、水相(w1)を除去し、有機相(o1)を単離することで、この有機相(o1)を第1工程のビスフェノールを含有する溶液とすることができる。
【0067】
相分離工程(1C)で得られた有機相(o1)を、ビスフェノールを含有する溶液として用い、上記と同様に第1工程以降を実施することで、より簡単に色調の改善されたビスフェノールを得ることができる。
【0068】
[本発明のビスフェノールの製造法の好適な態様(2)]
また、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させてビスフェノールを得る反応における酸触媒が硫酸である場合、副生成物として芳香族アルコールスルホン酸が生じる。この芳香族アルコールスルホン酸は、ポリカーボネート樹脂の製造時の溶融重合反応を阻害する成分であることを本発明者らは見出した。酸触媒が硫酸である場合には、着色成分に加えて、副生成物である芳香族アルコールスルホン酸を除去することで、色調が改善するだけでなく、ポリカーボネート樹脂の製造時の溶融重合が進行しやすいものとなり、ポリカーボネート樹脂の原料として好適なものとすることができる。
【0069】
本発明のビスフェノールの製造法は、図3に示すように、硫酸を酸触媒し、ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとを縮合させビスフェノールを生成させた後の精製工程において、以下で説明する溶解工程(2B)、相分離工程(2C)、相分離工程(2D)を行った後、第1工程と第2工程と第3工程を行う方法である。このような製造法とすることで、着色成分に加えて、副生成物である芳香族アルコールスルホン酸を効率的に除去できる簡単な製造法とすることができる。
【0070】
図3に示すビスフェノールの製造法は、前記第1工程の前に、硫酸触媒の存在下、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、前記ビスフェノールが分散したスラリーを得るビスフェノールの生成工程(2A)と、混合後の混合液(m2)が酸性となるように、前記スラリーと塩基性水溶液とを加熱混合し、前記ビスフェノールを溶解させ、前記ビスフェノールを含有する混合液(m2)を得る溶解工程(2B)と、前記混合液(m2)を、ビスフェノールを含有する有機相(o2a)と水相(w2a)とに相分離させた後、前記水相(w2a)を除去し、前記有機相(o2a)を得る相分離工程(2C)と、前記有機相(o2a)と水とを混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(o2b)と水相(w2b)とに相分離させ、前記水相(w2b)を除去し、前記有機相(o2b)であるビスフェノールを含有する溶液を得る相分離工程(2D)とを有するビスフェノールの製造法である。
【0071】
以下、ビスフェノール生成工程(2A)、溶解工程(2B)、相分離工程(2C)、および、相分離工程(2D)について説明する。
【0072】
(ビスフェノール生成工程(2A))
ビスフェノール生成工程(2A)は、酸触媒を硫酸とし、ビスフェノール生成工程(1A)と同様に行うことができる。
【0073】
(溶解工程(2B))
溶解工程(2B)では、ビスフェノール生成工程(2A)で得られた、ビスフェノールが分散したスラリーと塩基性水溶液とを加熱混合することで、ビスフェノールを溶解させ、前記ビスフェノールを含有する混合液(m2)を得る。ビスフェノールが分散したスラリーと塩基性水溶液との混合は、ビスフェノール生成反応を停止させるためのものであり、加熱によるビスフェノールの溶解は、洗浄効率を上げるためのものである。加熱することで、スラリー中に分散したビスフェノールが、スラリー中の溶媒や未反応の芳香族アルコール等に溶解する。
塩基性水溶液や混合方法、加熱温度等は、上記溶解工程(1B)と同様に行うことができる。
【0074】
また、溶解工程(2B)では、混合後の混合液(m2)が酸性(pH4以下)となるように、塩基性水溶液を混合する。具体的には、塩基性水溶液の濃度や使用量を調整して、混合液(m2)のpHが4以下となるように混合する。
なお、混合液(m2)のpHは、pHメーターを用いて混合液(m2)のpHを測定して求めてもよいし、次工程である相分離工程(2C)にて除去される水相のpHを測定し判断してもよい。次工程である相分離工程(2C)にて除去される水相のpHから混合液(m2)のpHを求める場合、次工程である相分離工程(2C)にて除去される水相のpHが4以下である場合、混合液(m2)のpHが4以下であると判断できる。
【0075】
(相分離工程(2C))
相分離工程(2C)では、溶解工程(2B)で得られた混合液(m2)を、ビスフェノールを含有する有機相(o2a)と水相(w2a)とに相分離させた後、前記水相(w2a)を除去し、前記有機相(o2a)を得る。
また、相分離工程(2C)は、混合液(m2)中に溶解したビスフェノールが析出しないように、溶解工程(2B)の加熱温度となるように、温度を保持した状態で行われる。
【0076】
相分離工程(1C)と同様に、混合液(m2)を任意の時間静置することで、相分離させることができる。相分離後、ビスフェノール生成工程(2A)で生成したビスフェノールは有機相(o2a)に溶解する。また、ビスフェノール生成工程(2A)にて副生成物として生じる一般式(5)で表される芳香族アルコールスルホン酸は、酸性の水に溶解しやすいため、水相(w2a)に溶解する。そのため、水相(w2a)を除去することで、一般式(5)で表される芳香族アルコールスルホン酸は、効率的に除去される。
【0077】
【化6】
(式中、R1~R3は、一般式(3)におけるR1~R3と同義である。また、Xは、ナトリウム原子または水素原子を表す。)
【0078】
例えば、芳香族アルコールとしてクレゾールを用いた場合、一般式(6)に示すクレゾールスルホン酸が副生物として生じる。この一般式(6)で表されるクレゾールスルホン酸は、酸性の水に溶解しやすいため、相分離工程(2C)にて水相に除去される。
【0079】
【化7】
(式中、Xはナトリウム原子又は水素原子を表す。)
【0080】
(相分離工程(2D))
相分離工程(2D)では、相分離工程(2C)で得られた有機相(o2a)と水とを混合した後、ビスフェノールを含有する有機相(o2b)と水相(w2b)とに相分離させ、前記水相(w2b)を除去し、前記有機相(o2b)であるビスフェノールを含有する溶液を得る。すなわち、有機相(o2a)を水洗する工程である。
また、相分離工程(2D)は、有機相(o2b)中に溶解したビスフェノールが析出しないように、相分離工程(2C)の温度を保持した状態で行われる。
【0081】
有機相(o2a)に水を混合した後、任意の時間撹拌し、静置することで、相分離させることができる。相分離後、ビスフェノールは有機相(o2b)に溶解する。また、水相(w2b)には、硫酸および硫酸ナトリウム等の中和塩が溶解する。そのため、水相(w2b)を除去することで、硫酸および硫酸ナトリウム等の中和塩が効率的に除去される。
【0082】
相分離工程(2D)で得られた有機相(o2b)を、ビスフェノールを含有する溶液として用い、上記と同様に第1工程以降を実施することで、より簡単に色調の改善されたビスフェノールを得ることができる。
通常、第1工程では、第1の有機相が塩基性となるように、有機相(o2b)と第1の炭酸塩水溶液とは混合され、例えば、第1の有機相のpHが9以上となるように有機相(o2b)と第1の炭酸塩水溶液とを混合する工程とすることができる。
【0083】
なお、一般式(7)で表される芳香族アルコールスルホン酸は塩基性の水に溶解しやすいため、有機相(o2b)を用いて、第1工程や第2工程を実施することで、一般式(7)で表される芳香族アルコールスルホン酸を効率的に除去することができる。有機相(o2b)に炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩水溶液を混合し塩基性とし、塩基性条件下で水相を除去することで、着色成分と共に芳香族アルコールスルホン酸が除去される。
【0084】
【化8】
(式中、R1~R4は、一般式(3)におけるR1~R4と同義である。また、Xは、ナトリウム原子または水素原子を表す。)
【0085】
例えば、芳香族アルコールとしてクレゾールを用いた場合、一般式(8)に示すクレゾールスルホン酸が副生物として生じる。この一般式(8)で表されるクレゾールスルホン酸は、塩基性の水に溶解しやすいため、第1工程および第2工程にて水相に除去される。
【0086】
【化9】
(式中、Xはナトリウム原子又は水素原子を表す。)
【0087】
上記のように、酸触媒として、硫酸を用いた場合には、一般式(5)および一般式(7)で表される芳香族アルコールスルホン酸が副生成物して生じるが、一般式(5)で表される芳香族アルコールスルホン酸と、一般式(7)で表される芳香族アルコールスルホン酸とでは、溶解しやすい水の酸性度が異なる。図3で示すビスフェノールの製造法のように、相分離工程(2C)、相分離工程(2D)、第1工程および第2工程を行い、酸性度の異なる条件で精製を行うことで、副生成物である芳香族アルコールスルホン酸や酸触媒である硫酸を効率的に除去することができ、得られるビスフェノールは、良好な色調を有し、ポリカーボネート樹脂等の製造時の溶融重合反応が進行しやすいものとなる。
【0088】
<ビスフェノールの用途>
本発明のビスフェノールの製造法で製造されたビスフェノール(以下、「本発明のビスフェノール」と称する場合がある。)は、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0089】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることから、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の原料(モノマ-)として用いることが好ましく、なかでもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0090】
[ポリカーボネート樹脂の製造法]
本発明のビスフェノールを原料とするポリカーボネート樹脂の製造法は、本発明のビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造する方法である。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明する。
【0091】
上記のポリカーボネート樹脂の製造法において、炭酸ジフェニルは、本発明のビスフェノールに対して過剰量用いることが好ましい。ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましい。また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上である。また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
【0092】
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0093】
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0094】
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上である。また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20μモル以下である。
【0095】
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0096】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【0097】
本発明のビスフェノールは、溶融重合反応の阻害成分を有さなく、良好な色調を有するため、良好な色調のポリカーボネート樹脂を製造することができる。
【実施例
【0098】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0099】
[原料及び試薬]
オルトクレゾール、トルエン、水酸化ナトリウム、硫酸、ドデカンチオール、メタノール、アセトン、炭酸水素ナトリウム(重曹)、ビスフェノールC、及び炭酸セシウムは、和光純薬株式会社製の試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
【0100】
[分析]
<ビスフェノールCの製造途中の溶液(有機相)の組成およびクレゾールスルホン酸の分析>
ビスフェノールCの製造途中の溶液(有機相)の組成分析、クレゾールスルホン酸分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製LC-2010A、Imtakt ScherzoSM-C18 3μm 150mm×4.6mmID
・低圧グラジェント法
・分析温度40℃
・溶離液組成:
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩水=3.000g:1mL:1Lの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1mL:900mLの溶液
・分析時間0分ではA液:B液=60:40(体積比、以下同様。)
分析時間0~25分は溶離液組成をA液:B液=90:10へ徐々に変化させ、
分析時間25~30分はA液:B液=90:10に維持、
流速0.8mL/分、検出波長は280nmにて分析した。
【0101】
<ビスフェノールCに含まれるナトリウ原子濃度及び塩素原子濃度>
ビスフェノールCに含まれるナトリウム原子濃度は、以下の手順で実施した。ビスフェノールCに硝酸を加え、マイクロウェーブ分解装置を用いて、加圧密閉分解した。得られた分解液を純水に希釈し、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ELEMENT2を用いてビスフェノールCに含まれるナトリウム原子濃度を測定した。
【0102】
ビスフェノールCに含まれる塩素原子濃度は、以下の手順で実施した。ビスフェノールCを三菱化学製固定床半回分式燃焼装置(QF-02)を用いて燃焼させ、燃焼ガスを吸収液に吸収させ、その吸収液中のイオンをサーモフィッシャーサイエンティフィック社製DX-500 Dionex社製カラム(Iоn Pac AS12A)、溶離液(炭酸ナトリウム2.7ミリモル/L+炭酸水素ナトリウム0.3ミリモル/L)を用いて、ビスフェノールCに含まれる塩素原子濃度を測定した。
【0103】
<ハーゼン色数の測定>
ビスフェノールCの溶融時のハーゼン色数の測定は、色差計を用いて、以下の手順と条件で行った。
分光色差計用の試験管は、日本理化硝子製の試験管(24mm×200m/m P-24)を使用した。
装置は、日本電色工業株式会社製「SE-6000」を使用した。
ハーゼン色数の測定は、ビスフェノールCを入れた分光色差計用の試験管をアルミブロックヒーターで所定の温度で加熱し、所定時間となったところで30秒以内に行った。
また、ビスフェノールCの製造途中の溶液(有機相)のハーゼン色数は、色差計を用いて、以下の手順と条件で行った。
分光色差計用の試験管は、日本理化硝子製の試験管(24mm×200m/m P-24)を使用した。
装置は、日本電色工業株式会社製「SE-6000」を使用した。
ハーゼン色数の測定は、得られた有機相を分光色差計用の試験管に入れてから1分以内に行った。
【0104】
<粘度平均分子量>
粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0105】
<ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度>
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度(OH)濃度は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem. 88,215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行うことにより測定した。
【0106】
<ペレットYI>
ペレットYI(ポリカーボネート樹脂の透明性)は、ASTM D1925に準拠して、ポリカーボネート樹脂ペレットの反射光におけるYI値(イエローネスインデックス値)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM-5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM-A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM-A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。次いで、白色校正板CM-A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が-0.43±0.01、YIが-0.58±0.01となることを確認した。ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。
【0107】
<製造例1>
滴下ロート、温度計、撹拌装置及び冷却管を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、オルトクレゾール92g(0.85モル)、アセトン36g(0.62モル)、トルエン12g、3-メルカプトプロピオン酸4gを入れ、内温を20℃とした。該滴下ロートに35質量%塩酸94gを入れ、内温が25℃以上にならないように、撹拌しながらゆっくり滴下した。次に、98質量%硫酸20gを内温が25℃以上にならないように、撹拌しながらゆっくり滴下した。その後、25℃に維持しながら、5時間撹拌した。
【0108】
その後、脱塩水80gとトルエン170gを加え、スラリー状となるまで撹拌してから、内温を80℃に昇温した。80℃に到達後、静置し、下相の水相を除去した。
さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて撹拌し、静置後、下相の水相を除去した。得られた有機相に脱塩水を加え、内温が80℃となるまで撹拌し、静置後、下相の水相を除去した。得られた有機相は、黄緑色の溶液であった。該有機相を80℃から5℃に冷却した後に、減圧濾過により固液分離させた。得られたケーキをトルエンで洗浄し、乾燥させることでビスフェノールC(i)82gを得た。
【0109】
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(i)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は65であった。
【0110】
<製造例2>
滴下ロート、温度計、撹拌装置及び冷却管を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、オルトクレゾール92g(0.85モル)、アセトン36g(0.62モル)、トルエ
ン12g、3-メルカプトプロピオン酸4gを入れ、内温を20℃とした。該滴下ロートに35質量%塩酸104gを入れ、内温が25℃以上にならないように、撹拌しながらゆっくり滴下した。その後、25℃に維持しながら、5時間撹拌した。
【0111】
その後、脱塩水80gとトルエン170gを加え、スラリー状となるまで撹拌してから、内温を80℃に昇温した。80℃に到達後、静置し、下相の水相を除去した。
さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて撹拌し、静置後、下相の水相を除去した。得られた有機相に脱塩水を加え、内温が80℃となるまで撹拌し、静置後、下相の水相を除去した。得られた有機相は、黄緑色の溶液であった。該有機相を80℃から5℃に冷却した後に、減圧濾過により固液分離させた。得られたケーキをトルエンで洗浄し、乾燥させることでビスフェノールC(ii)87gを得た。
【0112】
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(ii)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は55であった。
【0113】
<製造例3>
滴下ロート、温度計、撹拌装置及び冷却管を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、オルトクレゾール92g(0.85モル)、アセトン36g(0.62モル)、トルエン12g、3-メルカプトプロピオン酸4gを入れ、内温を20℃とした。該滴下ロートに、98質量%硫酸104gを内温が25℃以上にならないように、撹拌しながらゆっくり滴下した。その後、25℃に維持しながら、5時間撹拌した。
【0114】
その後、脱塩水80gとトルエン170gを加え、スラリー状となるまで撹拌してから、内温を80℃に昇温した。80℃に到達後、静置し、下相の水相を除去した。
さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて撹拌し、静置後、下相の水相を除去した。得られた有機相に脱塩水を加え、内温が80℃となるまで撹拌し、静置後、下相の水相を除去した。得られた有機相は、黄緑色の溶液であった。該有機相を80℃から5℃に冷却した後に、減圧濾過により固液分離させた。得られたケーキをトルエンで洗浄し、乾燥させることでビスフェノールC(iii)9gを得た。
【0115】
同様なプロセスを9回実施することによりビスフェノールC(iii)81gを得た。
【0116】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(iii)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は80であった。
【0117】
<製造例4>
[ビスフェノールを含有する溶液の調製]
滴下ロート、温度計、撹拌装置及び冷却管を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、製造例1で得られたビスフェノールC(i)30g、及びトルエン270gを入れて、80℃に昇温してビスフェノールC(i)を溶解させ、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(1A)を得た。
【0118】
[ビスフェノールの製造]
(第1工程)
得られたトルエン溶液(1A)に、1.5質量%の炭酸水素ナトリウム水100mLを加え、80℃に維持した状態で、30分間撹拌し、30分間静置させ、有機相と水相とに相分離させた。次いで、水相を除去して、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(1B)(第1の有機相)を得た。
【0119】
(第2工程)
得られたトルエン溶液(1B)に、1.5質量%の重曹水100mLを加え、80℃に維持した状態で、30分間撹拌し、30分間静置させ、有機相と水相とに相分離させた。次いで、水相を除去し、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(1C)(第2の有機相)を得た。
【0120】
(第3工程)
得られたトルエン溶液(1C)を、80℃から10℃に降温させることにより、ビスフェノールを析出させ、減圧濾過により固液分離させた。
得られたケーキをトルエンで洗浄し、乾燥させることでビスフェノールC(IA)25gを得た。
【0121】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(IA)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は20であった。
【0122】
<製造例5>
製造例5では、製造例4の第2工程を行わずに、第1工程で得られたビスフェノールを含有するトルエン溶液(1B)(第1の有機相)からの晶析(「第3’工程」と称する)を行い、ビスフェノールを得た。
【0123】
[ビスフェノールを含有する溶液の調製]
ビスフェノールC(i)を用いて、製造例4と同様にして、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(1A)を調製した。
【0124】
[ビスフェノールの製造]
(第1工程)
得られたトルエン溶液(1A)に、1.5質量%の重曹水100mLを加え、80℃に維持した状態で、30分間撹拌し、30分間静置させ、有機相と水相とに分離させた。次いで、水相を除去して、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(1B)(第1の有機相)を得た。
【0125】
(第3’工程)
得られたトルエン溶液(1B)を、80℃から10℃に降温させることにより、ビスフェノールを析出させ、減圧濾過により固液分離させた。
得られたケーキをトルエンで洗浄し、乾燥させることでビスフェノールC(Ia)25gを得た。
【0126】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(Ia)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は60であった。
【0127】
<製造例6>
[ビスフェノールを含有する溶液の調製]
ビスフェノールC(i)30gの代わりに、製造例2で得られたビスフェノールC(ii)30gを用いた以外は、製造例4と同様に実施し、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(2A)を得た。
【0128】
[ビスフェノールの製造]
トルエン溶液(1A)の代わりに、トルエン溶液(2A)を用いた以外は、製造例4と同様に実施し、ビスフェノールC(IIA)を得た。
【0129】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(IIA)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は20であった。
【0130】
<製造例7>
[ビスフェノールを含有する溶液の調製]
ビスフェノールC(ii)を用いて、製造例6と同様にして、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(2A)を調製した。
【0131】
[ビスフェノールの製造]
トルエン溶液(1A)の代わりに、トルエン溶液(2A)を用いた以外は、製造例5と同様に実施し、ビスフェノールC(IIa)を得た。
【0132】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(IIa)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は、50であった。
【0133】
<製造例8>
[ビスフェノールを含有する溶液の調製]
ビスフェノールC(i)30gの代わりに、製造例3で得られたビスフェノールC(iii)27gを用いた以外は、製造例4と同様に実施し、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(3A)を得た。
【0134】
[ビスフェノールの製造]
トルエン溶液(1A)の代わりに、トルエン溶液(3A)を用いた以外は、製造例4と同様に実施し、ビスフェノールC(IIIA)を得た。
【0135】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(IIIA)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は30であった。
【0136】
<製造例9>
[ビスフェノールを含有する溶液の調製]
ビスフェノールC(iii)を用いて、製造例8と同様にして、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(3A)を調製した。
【0137】
[ビスフェノールの製造]
トルエン溶液(1A)の代わりに、トルエン溶液(3A)を用いた以外は、製造例5と同様に実施し、ビスフェノールC(IIIa)を得た。
【0138】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(IIIa)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は70であった。
【0139】
[製造例10]
[ビスフェノールを含有する溶液の調製]
ビスフェノールC(i)30gの代わりに、市販のビスフェノールCを用いた以外は、製造例4と同様に実施し、ビスフェノールを含有するトルエン溶液(4A)を得た。
なお、用いた市販のビスフェノールCについて、上記と同様に溶融時の色調を測定したところ、そのハーゼン(APHA)は、50であった。
【0140】
[ビスフェノールの製造]
トルエン溶液(1A)の代わりに、トルエン溶液(4A)を用いた以外は、製造例4と同様に実施し、ビスフェノールC(IV)を得た。
【0141】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(IV)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は、20であった。
【0142】
製造例4~10について、原料として用いたビスフェノールCの種類、原料として用いたビスフェノールCの色調、第1~第3工程の有無、得られたビスフェノールCの色調をまとめたものを表2に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
表1からわかるように、第1~第3工程を行う本発明のビスフェノールの製造法とすることで、原料として用いるビスフェノールCの種類によらず、得られるビスフェノールCの色調が改善されることがわかる。
【0145】
<製造例11>
(ビスフェノール生成工程(1A))
温度計、撹拌機及び100mLの滴下ロートを備えたフルジャケット式1Lのセパラブルフラスコのジャケットに、-10℃の冷媒を流した。そこへ窒素雰囲気下で、トルエン240g、メタノール9g、及びオルトクレゾール172.5g(1.60モル)を入れ、内温を-5℃まで冷却した。その後、98質量%硫酸67.5gを加えた。該滴下ロートに、ドデカンチオール4.1g及びアセトン45.8g(0.79モル)の混合物を入れた。該セパラブルフラスコの内温が-5℃となったところで、該混合物を1時間かけてゆっくり滴下した。滴下後、10℃で1時間撹拌した後、更に45℃に昇温して45℃のまま1時間撹拌することで、生成したビスフェノールが分散したスラリー(1)を得た。
【0146】
(溶解工程(1B))
得られたスラリー(1)に、28質量%の水酸化ナトリウム水溶液を128g加えた。更に、80℃に昇温しながら、pHが5~8の間となるように28質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加え、スラリー中のビスフェノールをトルエンに溶解させた。
【0147】
(相分離工程(1C))(ビスフェノールを含有する溶液の調製)
内温が80℃に到達後、静置し相分離させ、反応中に析出していたビスフェノールが有機相に溶解したことを確認した後、下相の水相を抜出し、有機相(5A)を得た。
【0148】
(第1工程)
80℃に維持した状態で、有機相(5A)に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、混合し、洗浄した後、水相を除去し、有機相(5B)を得た。なお、目視で得られた水相に着色が見られた。
【0149】
(第2工程)
80℃に維持した状態で、有機相(5B)に更に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、混合し、洗浄した後、水相を除去し、有機相(5C)を得た。なお、水相に着色は見られなかった。
【0150】
(第3工程)
有機相(5C)の内温を80℃から10℃まで低下させることで晶析し、遠心分離機で固液分離した。
【0151】
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1Lのセパラブルフラスコに、得られたケーキ全量及びトルエン280gを入れ、80℃まで昇温し、溶解させた。得られた溶液を水洗し、内温を10℃まで低下し晶析後、遠心分離機で固液分離し、得られたケーキを、オイルバスを備えたエバポレータを用いて50hPa、100℃で5時間乾燥させることで、ビスフェノールC(V)150gを得た。
【0152】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(V)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は25であった。
【0153】
(ポリカーボネート樹脂の製造)
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、得られたビスフェノールC(V)100g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.5g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶解した。
【0154】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
【0155】
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
【0156】
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0157】
その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0158】
該ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は25000であった。またペレットYIは、12.0であった。
【0159】
<製造例12>
(ビスフェノール生成工程(1A))
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でメタノール5g及びオルトクレゾール235g(2.2モル)を入れた後に、80質量%硫酸250gをゆっくり加え、30℃に維持した状態で1時間撹拌した。得られたメタノールとオルトクレゾールと硫酸の混合物には、着色は見られなかった。該滴下ロートにトルエン250g、ドデカンチオール7.5g、アセトン61g(1.1モル)を入れてアセトン混合物を調製し、滴下ロートを用いて該アセトン混合物を1時間かけてゆっくりセパラブルフラスコへ滴下して供給した。該アセトン混合物の滴下終了後、更に30分間混合させた。その後、反応温度を30分かけて45℃まで昇温させた。
【0160】
(溶解工程(1B))
反応終了後、トルエン60.0g及び28%水酸化ナトリウム水溶液540gを供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置し相分離させ、反応中に析出していたビスフェノールが有機相に溶解したことを確認した後、撹拌を再開し、28%水酸化ナトリウム水溶液を添加しながらpHを10.5とした。
【0161】
(相分離工程(1C))(ビスフェノールを含有する溶液の調製)
その後、80℃に維持した状態で、静置し相分離させ、下相の水相を除去し、有機相(6A)を得た。
【0162】
(第1工程)
80℃に維持した状態で、得られた有機相(6A)に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加え、混合および静置し、下相の水相を抜き出し、有機相(6B)を得た。
【0163】
(第2工程)
80℃に維持した状態で、得られた有機相(6B)に、更に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて撹拌後、静置し、水相を抜き出し、有機相(6C)を得た。
【0164】
なお、得られた有機相(6C)の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが16面積%、ビスフェノールCが81面積%、その他の生成物が3面積%であった。
【0165】
(第3工程)
この有機相(6C)を80~30℃まで冷却して、30℃に到達時にした時に種晶ビスフェノールC 1gを添加させて析出を確認した。その後、10℃まで冷却することで、さらにビスフェノールを析出させた。
【0166】
10℃到達後、遠心分離機を用いて固液分離を行い、ウェットケーキとしてビスフェノール(VI’)を得た。
【0167】
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1Lのセパラブルフラスコに、ビスフェノール(VI’)全量とトルエン373gを入れ、80℃に昇温した。均一溶液となったことを確認し、該有機相を脱塩水600gで3回に分けて十分洗浄し、水相を除去した。得られた有機相を、80℃から10℃まで冷却した。その後、遠心分離器(毎分3000回転で10分間)を用いて濾過を行い、ウェットのビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色のビスフェノールC(VI)179gを得た。
【0168】
得られたビスフェノールC(VI)に含まれるクレゾールスルホン酸は30質量ppm、ナトリウム原子は28質量ppmであった。
【0169】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(VI)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は20であった。
【0170】
<製造例13>
(ビスフェノール生成工程(2A))
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でメタノール5g及びオルトクレゾール235g(2.2モル)を入れた後に、80質量%硫酸250gをゆっくり加え、30℃に維持した状態で1時間撹拌した。得られたメタノールとオルトクレゾールと硫酸の混合物には、着色は見られなかった。該滴下ロートにトルエン250g、ドデカンチオール7.5g、アセトン61g(1.1モル)を入れてアセトン混合物を調製し、滴下ロートを用いて該アセトン混合物を1時間かけてゆっくりセパラブルフラスコへ滴下して供給した。該アセトン混合物の滴下終了後、更に30分間混合させた。その後、反応温度を30分かけて45℃まで昇温させた。
【0171】
(溶解工程(2B))
反応終了後、トルエン60.0g及び28%水酸化ナトリウム水溶液350gを供給して80℃まで昇温し、スラリー中に分散したビスフェノールを溶解させた。水相のpHは<1だった。
【0172】
(相分離工程(2C))
80℃に到達後、静置し相分離させ、反応中に析出していたビスフェノールが有機相に溶解したことを確認した後、下相の水相を抜き出し、有機相(7A)を得た。
なお、該有機相(7A)の一部を分光色差計用の試験管に取出し、分光色差計にてハーゼン色数を測定したところ、ハーゼン色数は、306であった。
【0173】
(相分離工程(2D))(ビスフェノールを含有する溶液の調製)
80℃に維持した状態で、得られた有機相(7A)に脱塩水400gを入れ、30分混合して静置し、水相を除去し、有機相(7B)を得た。
なお、該有機相(7B)の一部を分光色差計用の試験管に取出し、分光色差計にてハーゼン色数を測定したところ、ハーゼン色数は、201であった。
【0174】
(第1工程)
80℃に維持した状態で、得られた有機相(7B)に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、下相の水相pHが9以上になったことを確認し、下相の水相を抜き出し、有機相(7C)を得た。
なお、該有機相(7C)の一部を分光色差計用の試験管に取出し、分光色差計にてハーゼン色数を測定したところ、ハーゼン色数は、132であった。
【0175】
(第2工程)
80℃に維持した状態で、得られた有機相(7C)に、更に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて撹拌後、静置し、水相を抜き出し、有機相(7D)を得た。
なお、該有機相(7D)の一部を分光色差計用の試験管に取出し、分光色差計にてハーゼン色数を測定したところ、ハーゼン色数は、105であった。
【0176】
なお、得られた有機相(7D)の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが16面積%、ビスフェノールCが81面積%、その他の生成物が3面積%であった。
【0177】
(第3工程)
この有機相(7D)を80~30℃まで冷却して、30℃に到達時にした時に種晶ビスフェノールC 1gを添加させて析出を確認した。その後、10℃まで冷却することで更にビスフェノールを析出させた。
【0178】
10℃到達後、遠心分離機を用いて固液分離を行い、ウェットケーキとしてビスフェノール(VII’)を得た。
【0179】
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1Lのセパラブルフラスコに、ビスフェノール(VII’)全量とトルエン373gを入れ、80℃に昇温した。均一溶液となったことを確認し、該有機相を脱塩水600gで3回に分けて十分洗浄し、水相を除去した。得られた有機相を、80℃から10℃まで冷却した。その後、遠心分離器(毎分3000回転で10分間)を用いて濾過を行い、ウェットのビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色のビスフェノールC(VII) 179gを得た。
【0180】
得られたビスフェノールC(VII)の硫酸イオンは、1質量ppm未満、クレゾールスルホン酸は30質量ppb未満、ナトリウム原子は1質量ppm未満、塩素原子は1質量ppm未満であった。
【0181】
[溶融時の色調]
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC(VII)20gを入れ、175℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、溶融液を調製した。完全に溶融したことを確認した5分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は15であった。
【0182】
(ポリカーボネート樹脂の製造)
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、ビスフェノールC(VII)100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶解した。
【0183】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
【0184】
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
【0185】
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0186】
その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0187】
該ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は24200であり、末端水酸基濃度(OH)濃度は719質量ppmであった。またペレットYIは、8.5であった。
【0188】
製造例12および製造例13の精製工程の手順、得られたビスフェノールCに含まれるイオン量についてまとめたものを表2に示す。表2の結果、酸性の条件で水相を除去する、相分離工程2Cおよび相分離工程2Dを有する製造法とすることで、クレゾールスルホン酸を0.03質量ppm未満、ナトリウム原子を1質量ppm未満まで除去できることがわかる。なお、「クレゾールスルホン酸を0.03質量ppm未満」、「ナトリウム原子を1質量ppm未満」とは、上記したクレゾールスルホン酸およびナトリウム原子の測定における定量下限以下であることを示している。また、製造例13の方法とすることにより、イオン成分も効率的に除去できることがわかる。
【0189】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明によれば、良好な色調を有するビスフェノールを製造することができる。製造されたビスフェノールはポリカーボネート樹脂を製造するための原料として好適に利用できる。
図1
図2
図3