(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】二剤型アクリル系接着剤組成物、それにより接合された接合体
(51)【国際特許分類】
C09J 4/06 20060101AFI20221220BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221220BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C09J4/06
C09J11/06
C09J11/08
(21)【出願番号】P 2018153237
(22)【出願日】2018-08-16
【審査請求日】2021-07-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡 和行
(72)【発明者】
【氏名】近藤 徹
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170957(WO,A1)
【文献】特開2005-179548(JP,A)
【文献】特開2015-030748(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066619(WO,A1)
【文献】特開平04-249589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0045609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-5/10、9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体、(2)重合開始剤、(3)還元
剤、(4)ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレートを含む重合
体、(5)(メタ)アクリル酸エステル単量体に可溶なエラストマー及び、複数種類のパ
ラフィンワックスを含有してなる
第一剤と第二剤との二剤型アクリル系接着剤組成物であ
って、
第二剤の(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体が、メチル(メタ)
アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-
プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)
アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートのうちの1種又は2種以上のアルキル(
メタ)アクリレートと、水酸基含有(メタ)アクリレートと、リン酸エステル系重合性単
量体のみからなり、前記ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレー
トを含む重合体が前記(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体に膨潤可能であるこ
とを特徴とする二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項2】
(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体がメチルメタクリレートである請
求項1記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項3】
(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体が2-ヒドロキシエチルメタクリ
レートである請求項1に記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項4】
(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体が2-ヒドロキシエチルメタクリ
レートの6-ヘキサノリド付加重合物と無水リン酸との反応生成物である請求項1に記載
の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項5】
(2)重合開始剤がクメンハイドロパーオキサイドである請求項1~4のいずれか一項
に記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項6】
(3)還元剤がバナジルアセチルアセトネートである請求項1~5のいずれか一項に記
載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項7】
(4)ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレートを含む重合体
を(1)~(5)の合計100質量部に対し1~14質量部含む請求項1~6のいずれか
一項に記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項8】
(5)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体に可溶なエラストマーがアクリロ
ニトリル-ブタジエンゴムであり、前記アクリロニトリル-ブタジエンゴムは、アクリロ
ニトリルの含有量が15重量%以上である請求項1~7のいずれか一項に記載の二剤型ア
クリル系接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1~8項記載のうちのいずれか1項に記載の二剤型アクリル系接着剤組成物によ
り二つの被着体を接合してなることを特徴とする接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速硬化性に優れる二剤型アクリル系接着剤組成物、及びそれにより接合された接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場における組立ラインにおいて、高効率化のために速硬化型の接着剤を用いる
ことが多くなってきている。このような用途には加熱炉などの装置を用いずとも硬化可能
な常温速硬化型の接着剤が適している。常温速硬化型の接着剤としては、二剤速硬化型エポキシ接着剤、シアノアクリレート系瞬間接着剤、第二世代アクリル系接着剤(以下、「SGA」という。)等が知られている。
【0003】
二剤速硬化型エポキシ接着剤は、第一剤と第二剤を正確に計量して混合しなければ接着性能が著しく低下するので作業性が悪い。また、シアノアクリレート系瞬間接着剤は、その硬化物が硬く脆いために衝撃強度が低いので組立ラインなどで使用するには不向きである。
【0004】
一方、SGAも二剤型ではあるが、第一剤と第二剤の配合比が二剤速硬化型エポキシ接着剤に比べて厳密ではなく、所定の配合比から少々外れた場合でも接着性能が大きく低下することがないので、作業性に優れている。また、SGAは衝撃強度や剥離強度が強いという利点を有する。さらに、SGAは常温で数分から数十分で硬化するため、常温速硬化型接着剤として電子部品、土木建築材料、自動車部材等の組立てにおいて使用されている。
【0005】
近年、組立ラインの高効率化の観点から、上記のSGAの利点に加え、接着強度が優れたSGAが求められている。SGAとして、例えば、特許文献1ではニトリルブタジエンラバー、MBS樹脂、さらには(メタ)アクリル系重合性単量体を用いた接着剤組成物が提案されている。
【0006】
しかし、特許文献1に具体的に開示されている接着剤組成物では接着強度が十分ではなく、さらなる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、常温において素早く硬化することで部材を短時間で固定でき、その場合にも接着強度の優れる接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体、(2)重合開始剤、
(3)還元剤、(4)ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレート
を含む重合体、(5)(メタ)アクリル酸エステル単量体に可溶なエラストマー及び、複
数種類のパラフィンワックスを含有してなるアクリル系接着剤組成物であって、前記ポリ
オルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレートを含む重合体が前記(メタ
)アクリロイル基を有する重合性単量体に膨潤可能であることを特徴とする二剤型アクリ
ル系接着剤組成物であり、さらにこの組成物により2つの被着体を接合してなる接合体で
ある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物は常温において素早く硬化することで部材を短時間で固定でき、その場合にも接着強度に優れる。そのため当該組成物を用いると接着強度に優れた接合体を短時間で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の二剤型アクリル系接着剤組成物は、(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体、(2)重合開始剤、(3)還元剤、(4)ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレートを含む重合体、(5)(メタ)アクリル酸エステル単量体に可溶なエラストマー、の五つの成分を含有する。本組成物は、(2)成分を含み(3)成分を含まない第一剤と、(3)成分を含み(2)成分を含まない第二剤を混合して得られる。以下、各成分について詳細に説明する。
なお本発明において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の総称であり、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の総称である。また、「(メタ)アクリロイル基」は「アクリロイル基」及び「メタクリロイル基」の総称であり、化学式
CH2=C(R)-C(=O)-(Rは水素原子又はメチル基)
で表される官能基である。
【0012】
(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体
本アクリル系接着剤組成物(以下、「本組成物」ともいう。)に配合される(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体(1)は、本組成物の粘度や接着力を調整するための成分である。(1)成分としては、例えば以下の単量体が挙げられる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート及びアダマンチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート及びブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のポリカプロラクトン変性(メタ)アクリル酸エステル;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸モノエステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸モノエステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸モノエステル及び2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピル-フタル酸モノエステル等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸モノエステル;2-エチルヘキシルジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール変性(メタ)アクリレート;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール変性(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリカーボネートジオールジ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート及びポリエステルジオールジ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン及びテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のヘテロ環構造を有する(メタ)アクリレート;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性(メタ)アクリロイル基を有するアルコキシシラン;2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート及び2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの6-ヘキサノリド付加重合物と無水リン酸との反応生成物等のリン酸エステル系重合性単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジメチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
(1)成分としては、(4)及び(5)成分との相溶性の点から、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、リン酸エステル系重合性単量体が好ましい。
【0014】
(2)重合開始剤
本組成物に含まれる(2)は、本組成物の硬化剤であり、(3)と反応してラジカルを発生する。本組成物でラジカルが発生し(1)が重合する。(2)成分としては、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステル、パーカーボネート挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。本組成物の硬化速度の点から、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0015】
本組成物における(2)成分の含有量は、(1)~(5)成分の合計量を100質量部としたとき、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。(2)の含有量は多いほど硬化速度が速くなり、少ないほど(2)を含む第一剤の貯蔵安定性が良好となる。
【0016】
(3)還元剤
本組成物に含まれる(3)は、本組成物の硬化促進剤であり、(2)と反応してラジカルを発生する。(3)成分としては、例えば、遷移金属塩、チオ尿素化合物が挙げられる。遷移金属塩の具体例としては、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルトが挙げられる。チオ尿素化合物の具体例としては、チオ尿素、エチレンチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジプロピルチオ尿素、N,N’-ジ-n-ブチルチオ尿素、N,N’-ジラウリルチオ尿素、N,N’-ジフェニルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、1-アセチル-2-チオ尿素、1-ベンゾイル-2-チオ尿素が挙げられる。反応性の点から、遷移金属塩が好ましく、中でもバナジルアセチルアセトネートがより好ましい。
【0017】
本組成物における(3)成分の含有量は、(1)~(5)成分の合計量を100質量部としたとき、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。また10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。(3)成分の含有量は多いほど硬化速度が速くなり、少ないほど(3)成分を含む第二剤の貯蔵安定性が良好となる。
【0018】
(4)ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレートを含む重合体
本組成物に含まれる(4)は、本組成物において粘度を調整するための成分である。また、この成分は本組成物を硬化してなる硬化物のせん断接着強度と剥離強度を両立させるための成分である。(4)であるポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレートを含む重合体とは、ビニル重合性官能基を有するポリオルガノシロキサンと、必要に応じてシロキサン系架橋剤とを重合させることで得られるシリコーンゴムに(メタ)アクリレートを重合して得られる重合体である。そしてこの(4)成分は、前記(1)成分に膨潤可能であることを要する。ここで「膨潤」とは樹脂が溶剤を吸収して膨れている状態のことをいう。トルエンなどの溶剤を樹脂に加え、体積膨張した樹脂を篩別し篩上に残った樹脂重量を測定することにより、膨潤の度合を「膨潤度」という指標で表すこともできる。(4)成分としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製のメタブレンSタイプ(商品名)やダイヤナールLP-4200(商品名)が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0019】
本組成物における(4)成分の配合量は、(1)~(5)成分の合計100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。また14質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。(4)成分の配合量は多いほど本引張せん断接着強度が高くなり、少ないほどT型剥離接着強度が高くなる。
【0020】
(5)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体に可溶なエラストマー
本組成物に含まれる(5)は、本組成物において粘度を調整するための成分である。また、この成分は接着剤組成物を硬化してなる硬化物の柔軟性を向上させるための成分である。(5)成分であるエラストマーとは、25℃でゴム弾性を有する高分子量体である。(5)としては、例えば、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムが挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併せて使用してもよい。
【0021】
(5)成分としては、(1)成分との相溶性の点から、アクリロニトリルの含有量が15重量%以上のアクリロニトリルブタジエンゴムが好ましい。(5)成分の構造は、例えば、直鎖状、分岐鎖状、グラフト状が挙げられる。
【0022】
本組成物における(5)成分の配合量は、(1)~(5)成分の合計100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。また14質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。(5)成分の配合量は多いほどT型剥離接着強度が高くなり、少ないほど本組成物の粘度が低下するので作業性が良好となる。
【0023】
・その他の成分
本組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、(1)~(5)成分以外のその他の成分(以下、「その他の成分」という。)を含んでもよい。その他の成分の具体例としては、ビニル系モノマー等のアクリル系以外のラジカル重合性単量体や、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、消泡剤、重合禁止剤、無機微粒子等の各種添加剤が挙げられる。
【0024】
その他の成分としては、本硬化物の強度向上のために、加熱によりラジカルを発生する熱重合開始剤(2)成分以外の過酸化物、アゾ化合物等、紫外線等の活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等)を加えてもよい。
【0025】
その他の成分としては、硬化時間を短縮するために、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジイソプロピル-p-トルイジン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン等の第3級アミン化合物を加えてもよい。
【0026】
その他の成分の含有量は、特に限定されないが、(1)~(5)成分の合計100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。その他の成分の含有量は多すぎると、本組成物の常温における高速硬化性、接着強度が損なわれる場合がある。
【0027】
・接着剤組成物
本組成物は、(2)成分を含み(3)成分を含まない第一剤と(3)成分を含み(2)成分を含まない第二剤を混合して得られる。このような混合は、通常は接着直前に行われる。第一剤と第二剤は混合してから被着体に塗布してもよいが、本組成物は硬化速度が速いことから、第一剤を一方の被着体に塗布し、第二剤をもう一方の被着体に塗布して、第一剤と第二剤が混ざるように両者を圧着することが好ましい。
【0028】
第一剤と第二剤の組み合わせの具体例としては、(1)、(4)及び(5)成分の混合物に(2)成分を加えた第一剤と、(1)、(4)及び(5)成分の混合物に(3)成分を加えた第二剤との二剤型、(1)成分の混合物に(2)成分を加えた第一剤と、(3)成分からなる第二剤との二剤型、(2)成分からなる第一剤と、(1)、(4)及び(5)成分の混合物に(3)成分が溶解した第二剤との二剤型が挙げられる。
【0029】
本組成物の製造方法としては、(1)、(4)及び(5)成分を加熱混合することで相溶した後に、常温まで冷却し、第一剤に(2)成分、第二剤に(3)及び(4)成分を混合する手法や、(1)、(4)及び(5)成分をプラネタリーミキサー等でせん断力を加えることで相溶した後、第一剤に(2)成分、第二剤に(3)成分を配合し、常温で混合する手法等が挙げられる。本硬化物は、二剤を混合し、重合反応を起こすことにより得られる。また、本発明の接合体は、第一剤、第二剤を混合したものを被着体に塗布する接着方法や、第一剤、第二剤を別々に塗布した被着体を貼り合わせる接着方法などで得られる。また、先端で二剤を混合できるような構造を有する2剤型接着剤塗布機を用いることもできる。
・被着体
本組成物により二つの被着体を接合したものは、接着強度に優れる。被着体としては特に限定されないが、例えば、金属、紙、木材、セラミック、ガラス、陶磁器、ゴム、プラスチック、モルタル、コンクリート等が挙げられるが、特に接着強度が高い点で金属が好ましい。前記二つの被着体を複数組み合わせた構造体としてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により説明する。以下において、「部」は「質量部」を意味する。実施例及び比較例における接着強度の評価は、以下の方法で実施した。各種測定及び評価方法は以下の通りである。
【0031】
[引張せん断接着強度の評価]
JISK6850に準じて評価した。2枚のSPCC板(長さ100mm×幅25mm×厚み1.6mm)の表面をアセトンによって脱脂した。各例の第一剤及び第二剤を等量(各10g)混合した接着剤組成物を調製した。
この接着剤組成物を用いて、JISK6850に記載の通り、2枚のSPCC板の短辺同士を重ね合わせるようにして、被着面積が12.5mm×25mmとなるように貼り合わせ、クリップで固定した。はみ出した接着剤組成物を取り除いた後、23℃で24時間養生後、クリップを取り除いて、接着試験体を得た。得られた試験体を引張り速度1mm/分で引張り、引張せん断接着力(単位:N)を測定し、得られた接着力を被着面積で除して、せん断接着強度(単位:MPa)として記録した。
得られた測定値から、下記基準にて引張せん断接着強度を判定した。引張せん断接着強度は18.0MPa以上あれば良好である。
○:20.0MPa以上
△:18.0MPa以上20.0MPa未満
×:18.0MPa未満
○優良、△良、×不可
【0032】
[T型剥離接着の評価]
JISK6854-3に準じて評価した。2枚のSPCC板(長さ200mm×幅25mm×厚み0.3mm)の表面をアセトンによって脱脂した。各例の第一剤及び第二剤を等量(各10g)混合した接着剤組成物を調製した。
この接着剤組成物を用いて、JISK6854-3に記載の通り、2枚のSPCC板の重ね合わせるようにして、被着面積が150mm×25mmとなるように貼り合わせ、クリップで固定した。はみ出した接着剤組成物を取り除いた後、23℃で24時間養生後、クリップを取り除いて、接着試験体を得た。
得られた試験体を引張り速度100mm/分で引張り、最初の25mmと最後の25mmを除いたT型剥離接着力(単位:N)を記録した曲線から平均剥離接着力を読み取る。得られた平均剥離接着力を25mmで除して、T型剥離接着強度(単位:kN/m)として記録した。
得られた測定値から、下記基準にてT型剥離接着強度を判定した。T型剥離接着強度は3.0kN/m以上あれば良好である。
○:4.0kN/m以上
△:3.0kN/m以上4.0kN/m未満
×:3.0kN/m未満
○優良、△良、×不可
【0033】
[実施例1]
表1に示す配合で接着剤組成物第一剤と第二剤を調製した。具体的な調製方法を以下に示す。
【0034】
第一剤の調製
攪拌機、温度計、冷却管付きの1Lフラスコに(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体としてメチルメタクリレート(三菱ケミカル社製、商品名:アクリエステルM)65質量部、水酸基を含有する(メタ)アクリル酸エステル単量体として2-ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱ケミカル社製、商品名:アクリエステルHO)20質量部、(4)ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキルメタアクリレートを含む重合体としてダイヤナールLP-4200 5質量部、(5)(メタ)アクリル酸エステル単量体に可溶なエラストマーとして、アクリロニトリルの含有量が18重量%のアクリロニトリル-ブタジエンゴム(日本ゼオン社製、商品名:DN401LL)10質量部、重合禁止剤として0.05部のBHT、パラフィンワックスとしてP-150(日本精蝋社製、商品名:パラフィンワックス150)0.2質量部とP-130(日本精蝋社製、商品名:パラフィンワックス130)0.2質量部とP-115(日本精蝋社製、商品名:パラフィンワックス115)を配合した。
【0035】
次いで、フラスコ内温を60℃まで昇温して、2時間撹拌し、均一な乳白色分散液を得た。その後、フラスコ内を30℃以下となるまで冷却した。冷却したフラスコ内に(2)重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド(化薬アクゾ社製、商品名:カヤクメンH)5質量部を加え、室温で1時間撹拌を継続して均一化した接着剤組成物を得た。
【0036】
第2剤の調製
攪拌機、温度計、冷却管付きの1Lフラスコに(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体としてメチルメタクリレート(三菱ケミカル社製、商品名:アクリエステルM)65質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱ケミカル社製、商品名:アクリエステルHO)20質量部、(4)ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキルメタアクリレートを含む重合体としてダイヤナールLP-4200 5質量部、(5)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体に可溶なエラストマーとして、アクリロニトリルの含有量が18重量%のアクリロニトリル-ブタジエンゴム(日本ゼオン社製、商品名:DN401LL)10質量部、重合禁止剤として0.05部のBHT、パラフィンワックスとしてP-150(日本精蝋社製、商品名:パラフィンワックス150)0.2質量部とP-130(日本精蝋社製、商品名:パラフィンワックス130)0.2質量部とP-115(日本精蝋社製、商品名:パラフィンワックス115)を配合した。
次いで、フラスコ内温を60℃まで昇温して、2時間撹拌し、均一な乳白色分散液を得た。その後、フラスコ内を30℃以下となるまで冷却した。冷却したフラスコ内に(1)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体としてとして、PM-21(日本化薬社製、商品名:KAYAMER PM―21)5質量部、(3)還元剤として、バナジルアセチルアセトネート(新興化学工業社製、商品名:バナジルアセチルアセトネート)を加え、室温で1時間撹拌して均一化した接着剤組成物を得た。
【0037】
【0038】
[実施例2]
表1に示すように各成分の組成比を変更した以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物を得た。
【0039】
[比較例1]
(4)ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキルメタアクリレートを含む重合体を含まないこと以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物を得た。
【0040】
[比較例2]
(5)(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体に可溶なエラストマーを含まないこと以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物を得た。
【0041】
評価結果を表2に示した。
【0042】
【0043】
表2の結果から、(4)及び(5)の両方を含有する本接着剤組成物を用いた実施例1及び2では、T型剥離接着強度及び引張せん断接着強度が高く良好であった。しかしながら、(5)成分のみを含有する比較例1と、(4)成分のみ含有する比較例2は引張せん断接着強度もしくはT型剥離接着強度のいずれかが不良であった。