IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

<>
  • 特許-払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法 図1
  • 特許-払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法 図2
  • 特許-払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法 図3
  • 特許-払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20221220BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20221220BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B41J2/165 401
B41J2/165 301
C11D7/26
C11D7/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018222255
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020082573
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】安宅 拓未
(72)【発明者】
【氏名】坂内 昭子
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】左近 洋太
(72)【発明者】
【氏名】田代 浩子
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069730(JP,A)
【文献】特開2012-171346(JP,A)
【文献】特開2014-188900(JP,A)
【文献】特開2008-137266(JP,A)
【文献】特開2018-111235(JP,A)
【文献】特開2010-052418(JP,A)
【文献】特開平02-198859(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047193(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
C11D 7/26
C11D 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面を払拭する払拭部材と、
前記ノズル形成面に付与される洗浄液と、
前記洗浄液を加熱する加熱手段と、を備え、
前記加熱手段の温度は、25℃以上50℃以下であり、前記払拭部材が前記ノズル形成面を払拭するとき、前記ノズル形成面に付与された洗浄液の温度は、25℃以上50℃以下であり、
前記洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有し、一般式(1)で表される化合物/グリコールエーテル化合物の含有量の比率は、1.0以上7.0以下である払拭装置。
【化1】
(前記一般式(1)で表される化合物において、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
【請求項2】
前記グリコールエーテル化合物の含有量は、前記洗浄液に対して1.0質量%以上30.0質量%以下である請求項1に記載の払拭装置。
【請求項3】
前記グリコールエーテル化合物の溶解量は、25℃の水に対して5.0gを超える請求項1又は2に記載の払拭装置。
【請求項4】
前記払拭部材は、少なくとも2層からなり、
前記ノズル形成面に接触する第一層目の空隙率は、前記第一層目以外の少なくとも一つの層の空隙率よりも小さい請求項1乃至のいずれか一項に記載の払拭装置。
【請求項5】
前記第一層目の厚みは、前記第一層目以外の層の厚みの合計よりも薄い請求項4に記載の払拭装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の払拭装置と、前記液体吐出ヘッドと、を備える液体吐出装置。
【請求項7】
ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面に洗浄液を付与する洗浄液付与工程と、
前記洗浄液を加熱する加熱工程と、
前記ノズル形成面を払拭部材で払拭する払拭工程と、を有する払拭方法であって、
前記加熱工程の温度は、25℃以上50℃以下であり、前記払拭工程において、前記ノズル形成面に付与される洗浄液の温度は、25℃以上50℃以下であり、
前記洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有し、一般式(1)で表される化合物/グリコールエーテル化合物の含有量の比率は、1.0以上7.0以下である払拭方法。
【化2】
(前記一般式(1)で表される化合物において、R1は炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに代表される液体吐出装置においては、ノズル形成面の異物によって吐出不良等の不具合が生じるため、定期的にクリーニングする必要がある。ノズル形成面のクリーニングに用いられる払拭部材としては、不織布や織布に代表されるシート状の払拭部材を組み合わせてクリーニングする方法が既に知られている。
【0003】
特許文献1には、ゴムブレード等のクリーニング部材により記録ヘッドに塗られるウェットワイピング溶液を加熱する事で、ウェットワイピング溶液の温度を常に一定にし、ウェットワイピング溶液の転写量を一定量以上に保つインクジェット記録装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の払拭部材を用いたクリーニング方法では、低温環境下において、ノズル形成面で液体が乾燥して付着した固着物を除去することが困難である課題がある。また、払拭部材でノズル形成面を払拭した後でノズルから液体を吐出するときに吐出乱れや不吐出などが生じる吐出信頼性の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面を払拭する払拭部材と、前記ノズル形成面に付与される洗浄液と、前記洗浄液を加熱する加熱手段と、を備え、前記加熱手段の温度は、25℃以上50℃以下であり、前記払拭部材が前記ノズル形成面を払拭するとき、前記ノズル形成面に付与された洗浄液の温度は、25℃以上50℃以下であり、前記洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有し、一般式(1)で表される化合物/グリコールエーテル化合物の含有量の比率が、1.0以上7.0以下である払拭装置である。
【化1】
(前記一般式(1)で表される化合物において、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基である。)

【発明の効果】
【0006】
本発明の払拭装置は、低温環境下においても、ノズル形成面で液体が乾燥して付着した固着物を容易に除去することができる優れた効果、及び、払拭部材でノズル形成面を払拭した後でノズルから液体を吐出するときに吐出信頼性が向上する優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、払拭装置を組み込んだ画像形成装置の一例を模式的に表した図である。
図2図2は、液体吐出ヘッドのノズル形成面の一例を模式的に表した図である。
図3図3は、払拭装置の一例を模式的に表した図である。
図4図4は、シート状の払拭部材の断面の一例を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
<<払拭装置、払拭方法>>
本実施形態の払拭装置は、払拭部材、洗浄液、及び加熱手段を有し、必要に応じて他の手段を有する。また、払拭装置によって実行される払拭方法は、洗浄液付与工程、加熱工程、及び払拭工程を有する。払拭装置は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドのノズル形成面に対して洗浄液を付与し、払拭部材を接触させることでノズル形成面を払拭する。また、払拭部材がノズル形成面を払拭するとき、ノズル形成面に付与された洗浄液は加熱手段により加熱された状態となっている。なお、本実施形態において「払拭」とは、払拭部材及びノズル形成面を接触させつつ、払拭部材と液体吐出ヘッドを相対移動させることを表す。本実施形態の払拭部材を用いてノズル形成面を払拭することにより、例えば、ノズル形成面で液体が乾燥して付着した固着物をノズル形成面から除去することができる。また、例えば、払拭部材でノズル形成面を払拭した後でノズルから液体を再吐出するときに生じる吐出乱れや不吐出などを抑制することができる。
【0010】
まず、図1乃至図3を用いて、この払拭装置を組み込んだ液体吐出装置の一例である画像形成装置を例に、払拭装置について説明する。画像形成装置は、液体の一例としてインクを吐出する装置である。図1は、払拭装置を組み込んだ画像形成装置の一例を模式的に表した図である。図2は、液体吐出ヘッドのノズル形成面の一例を模式的に表した図である。図3は、払拭装置の一例を模式的に表した図である。
【0011】
図1に示す画像形成装置は、シリアル型の液体吐出装置である。画像形成装置は、左右の側板に横架した主ガイド部材1及び従ガイド部材でキャリッジ3を移動可能に保持している。そして、キャリッジ3は、主走査モータ5によって、駆動プーリ6と従動プーリ7との間に架け渡したタイミングベルト8を介して主走査方向(キャリッジ移動方向)に往復移動する。このキャリッジ3には、液体吐出ヘッドの一例である記録ヘッド4a、4b(区別しないときは「記録ヘッド4」という。)を搭載している。記録ヘッド4は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出する。また、記録ヘッド4は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0012】
記録ヘッド4は、図2に示すように、ノズル形成面41に、複数のノズル4nを配列した2つのノズル列Na、Nbを有する。記録ヘッド4を構成する液体吐出ヘッドとしては、例えば、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータを用いることができる。
【0013】
また、図1に示す画像形成装置は、用紙10を搬送するために、用紙を静電吸着して記録ヘッド4に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト12を備えている。この搬送ベルト12は、無端状ベルトであり、搬送ローラ13とテンションローラ14との間に掛け渡されている。そして、搬送ベルト12は、副走査モータ16によって、タイミングベルト17及びタイミングプーリ18を介して搬送ローラ13が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。この搬送ベルト12は、周回移動しながら帯電ローラによって帯電(電荷付与)される。
【0014】
さらに、キャリッジ3の主走査方向の一方側には搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4の維持回復を行う維持回復機構20が配置され、他方側には搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4から空吐出を行う空吐出受け21がそれぞれ配置されている。維持回復機構20は、例えば記録ヘッド4のノズル形成面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材20a、ノズル形成面を払拭する機構20b、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出受けなどで構成されている。
【0015】
また、画像形成装置は、キャリッジ3の主走査方向に沿って両側板間に、所定のパターンを形成したエンコーダスケール23を張装している。また、キャリッジ3にはエンコーダスケール23のパターンを読み取る透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ24が設けられている。これらのエンコーダスケール23とエンコーダセンサ24によってキャリッジ3の移動を検知するリニアエンコーダ(主走査エンコーダ)を構成している。
【0016】
また、搬送ローラ13の軸にはコードホイール25が取り付けられており、このコードホイール25に形成したパターンを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ26も設けられている。これらのコードホイール25とエンコーダセンサ26によって搬送ベルト12の移動量及び移動位置を検出するロータリエンコーダ(副走査エンコーダ)が構成されている。
【0017】
このように構成された画像形成装置において、用紙10が帯電された搬送ベルト12上に給紙されることで吸着され、搬送ベルト12の周回移動によって用紙10が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ3を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド4を駆動することにより、停止している用紙10にインク滴を吐出して1行分を記録する。そして、用紙10を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙10の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙10を排紙トレイに排紙する。
【0018】
また、記録ヘッド4のクリーニングを行う場合は、印字(記録)待機中にキャリッジ3を維持回復機構20に移動させ、維持回復機構20により清掃を実施する。また、記録ヘッド4は移動せず、維持回復機構20が移動してヘッドを清掃するようにしてもよい。図1で示した記録ヘッド4は、図2に示すように複数のノズル4nを配列した2つのノズル列Na、Nbを有する。記録ヘッド4aの一方のノズル列Naはブラック(K)の液滴を、他方のノズル列Nbはシアン(C)の液滴を吐出する。記録ヘッド4bの一方のノズル列Naはマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列Nbはイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。
【0019】
ノズル形成面を払拭する維持回復機構20bは、払拭装置の一例であって、図3に示すように、払拭部材の一例であるシート状払拭部材320とシート状払拭部材320を送り出す送り出しローラ410と、送り出されたシート状払拭部材320に洗浄液を付与する洗浄液付与工程を実行する洗浄液付与手段の一例である洗浄液滴下装置430と、洗浄液を付与されたシート状払拭部材320をノズル形成面に押し当てる押し当て手段の一例である押し当てローラ400と、払拭に使われたシート状払拭部材320を回収する巻き取りローラ420と、を有する。洗浄液は、途中に洗浄液を供給するポンプを設けられた洗浄液供給チューブを介し、洗浄液を収容する洗浄液収容容器から供給される。なお、ノズル形成面を払拭する機構20bは、シート状払拭部材320のほかに、ノズル形成面を払拭するゴムブレード等を備えていても良い。また、押し当てローラ400はバネを用いて、クリーニング部とノズル形成面の距離を調整することで、押し当て力を調整することができる。押し当て部材はローラに限らず、固定された樹脂やゴムの部材であっても良い。ゴムブレード等を備えている場合、シート状払拭部材320にゴムブレード等を当接させる機構を設けて、シート状払拭部材320にゴムブレード等のクリーニング機能を持たせても良い。また、シート状払拭部材は、小型化の観点から図3に示すようにロール状に巻き取られた状態で収納されていることが好ましいが、これに限らず、折り畳んで収納されている状態であってもよい。また、洗浄液付与手段としては、洗浄液滴下装置以外の手段であってもよく、例えば、洗浄液をローラで付与する洗浄液付与ローラ、洗浄液をスプレーで付与する洗浄液付与スプレーなどが挙げられる。また、洗浄液付与手段により実行される洗浄液付与工程は、洗浄液をノズル形成面に付与できる工程であれば特に制限はなく、上記実施形態のように、洗浄液付与手段を介して間接的に洗浄液を付与する工程以外に、洗浄液をノズル形成面に直接付与する工程であってもよいが、洗浄液付与手段を介して間接的に洗浄液を付与する工程が好ましい。
【0020】
本実施形態では、払拭工程の一例として、払拭部材に洗浄液を一定量塗布した後、払拭部材がノズル形成面に押し当てられながら維持回復機構20bと記録ヘッド4が相対的に移動することでノズル形成面に付着した異物500を払拭する工程が実行される。ノズル形成面に付着する異物500としては、ノズルからインクを吐出した際に発生するミストインクや、クリーニング等でノズルからインクを吸引したときに付着するインク、ミストインクやキャップ部材に付着したインクがノズル面で乾燥した固着インク、被印刷物から発生する紙粉などが挙げられる。本実施形態では、洗浄液を含有しない払拭部材に対して洗浄液が付与された後で異物500の払拭が行われるが、予め洗浄液を含む払拭部材を用いることで洗浄液付与手段を用いない構成としてもよい。また、洗浄液が付与される場所は払拭部材以外であってもよく、ノズル形成面に直接付与されてもよい。すなわち、「ノズル形成面に付与される洗浄液」とは、結果的にノズル形成面に付与される全ての態様の洗浄液を意味し、例えば、ノズル形成面に直接的に付与される洗浄液、洗浄液を含む払拭部材を介してノズル形成面に間接的に付与される洗浄液などが挙げられるが、洗浄液を含む払拭部材を介してノズル形成面に間接的に付与される洗浄液であることが好ましい。また、長時間の待機状態により、ノズル形成面でインクが乾燥して固着していると想定される場合は、洗浄液を含んだ払拭部材でノズル形成面を複数回払拭することで取り除くことができる構成であることが好ましい。なお、洗浄液を用いてノズル形成面を払拭する工程に加えて、洗浄液を用いずにノズル形成面を払拭する工程を追加的に有してもよい。
【0021】
本実施形態の画像形成装置は、洗浄液を加熱する加熱工程を実行する加熱手段の一例として、押し当てローラ400に設けられ払拭部材を加熱することで間接的に洗浄液を加熱するヒータ610、記録ヘッド4に設けられノズル形成面を加熱することで間接的に洗浄液を加熱するヒータ600、洗浄液滴下装置430に設けられ洗浄液を直接的に加熱するヒータ620を有する。洗浄液を用いてノズル形成面を払拭する工程では、これらヒータの一つ又は複数を使用して払拭時の洗浄液温度を上昇させ、ノズル形成面に固着したインクの洗浄液に対する溶解度または分散性を向上させることで、低温環境下(例えば、10℃以下)であっても払拭部材の払拭性が向上する。払拭部材がノズル形成面を払拭するとき、ノズル形成面に付与された洗浄液の温度または洗浄液を加熱する加熱手段の温度は25℃以上50℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがより好ましい。また、払拭部材がノズル形成面を払拭するとき、ノズル形成面に付与された洗浄液の温度及び洗浄液を加熱する加熱手段の温度が25℃以上50℃以下であることが更に好ましく、30℃以上50℃以下であることが特に好ましい。なお、洗浄液の温度が50℃以下であることで洗浄液が過度に加熱されて蒸発することを抑制することができる。払拭部材がノズル形成面を払拭するとき、ノズル形成面に付与された洗浄液の温度を所望の温度範囲に調整可能であれば、ヒータ600、610、620のすべてを備える必要はなく、少なくともいずれか一つを備えていればよい。また、払拭部材がノズル形成面を払拭するとき、ノズル形成面に付与された洗浄液の温度を所望の温度範囲に調整可能であれば、洗浄液を直接的に加熱する手段でも間接的に加熱する手段でもよく、図示した以外の加熱手段でもよい。加熱後の温度変動を避けるため、押し当てローラ400に設けられたヒータ610や洗浄液滴下装置430に設けられたヒータ620で加熱することが好ましい。
【0022】
<払拭部材>
次に、払拭部材について図4を用いて説明する。図4はシート状の払拭部材の断面の一例を模式的に表した図である。図4に示す払拭部材700は、一例として、2層の不織布であって、液体吐出ヘッドのノズル形成面を払拭するためにノズル形成面と接触する表面を有する第一層目710と、ノズル形成面と接触しない裏面を有する第二層目720(第一層目以外の層)と、を有する。これ以外にも、例えば、吸収したインクの裏写り防止や払拭部材の強度向上を目的としてフィルムを裏打ちした3層構造や、吸収性の異なる複数の吸収層を第二層以降に設けた多層構造などでも良い。すなわち、払拭部材は、第一層目以外の少なくとも一つの層を有していることが好ましい。
【0023】
払拭部材を構成する材料としては、不織布のほかに、織布や編布、多孔質体などが挙げられる。特に、厚さと空隙率のコントロールが比較的容易であり、様々な種類の繊維の配合も容易である不織布を用いるのが好ましい。不織布や織布、編布などの繊維の材質としては、綿、麻、絹、パルプ、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、レーヨン、キュプラ、アクリル、ポリ乳酸、などが挙げられる。1種類の繊維からなる不織布だけではなく、複数種類の繊維が混ざった不織布でも良い。多孔質体としては、ポリウレタン、ポリオレフィン、PVAなどが挙げられる。払拭部材の製造方法の一例として、払拭部材が不織布である場合について説明する。不織布の形成方法としては、例えば、湿式、乾式、スパンボンド、メルトブローン、フラッシュ紡糸などの方法が挙げられる。また、不織布の結合方法としては、例えば、スパンレース、ニードルパンチ、サーマルボンド、ケミカルボンドなどの方法が挙げられる。スパンレース法とは、堆積された繊維上にジェット水流を噴射し、その圧力によって繊維同士を絡み合わせてシート状に結合させる製法である。ニードルパンチ法とは、堆積された繊維をバーブと呼ばれる突起のついた針を数10回以上突き刺すことにより繊維同士を機械的に絡ませて不織布に加工する製法である。
【0024】
また、第一層目の空隙率は、第一層目以外の少なくとも一層の空隙率より小さいことで、固着インクに対するかきとり性が向上し、固着インク払拭性が向上する。ここで、空隙率は以下のように計算される。
【数1】
そして、シート状の不織布等の場合には、上記の「真密度」はシートを形成する繊維の真密度であり、「見掛の密度」はシート状の材料の目付量と厚さから「目付量÷厚さ]で求めることができる。
【0025】
払拭部材は、厚さが薄く、空隙率が小さいことで固着インクのかきとり性が高くなる。しかし、厚さが薄く、空隙率が小さい場合にはインクや洗浄液等の液成分を保持することが困難になり、結果として単一層ではクリーニング性が不十分となる場合がある。そこで、第一層目以外の層に、液成分を保持可能な層を設けることが好ましい。また、払拭部材の層間において、上記の通り、第一層目の空隙率を第一層目以外の少なくとも一層の空隙率より小さくすることで、固着インク払拭性が向上する。また、第一層目の空隙率を第一層目以外の層全ての空隙率より小さくすることで、固着インク払拭性がより向上する。なお、第一層目の厚みは、第一層目以外の層の厚みの合計よりも薄いことが好ましい。これにより、固着インク払拭性がより向上する。
【0026】
第一層目の空隙率は0.60以上0.85以下が好ましく、0.75以上0.80以下がより好ましい。第一層目の空隙率が0.60以上0.85以下であることで、固着インクの払拭性を向上させることができ、また、払拭部材が液体や洗浄液を透過しないフィルム状とならず、透過性を向上させることができる。
また、第一層目以外の少なくとも一つの層の空隙率は0.80以上0.99以下であることが好ましい。第一層目以外の層の空隙率が上記範囲内にあることで、液体や洗浄液の吸収性を向上させることが出来る。これらの第一層目と第一層目以外の層を組み合わせることにより、固着インクのかきとり性と液体や洗浄液の吸収性を両立させ、払拭性を向上させることができる。なお、第一層目以外の全ての層の空隙率が上記範囲内であることが好ましい。
【0027】
払拭部材の厚さは0.1mmから3.0mmが好ましい。払拭部材の厚さが0.1mm以上であることで、払拭部材の所定面積あたりの液体や洗浄液の飽和吸水量が十分となる。また、払拭部材の厚さが3mm以下であることで、第一層目から第一層目以外の層へ好適にインクの液体成分を移動させ、第一層目以外の層に液体成分を吸収させることができる効果が損なわれず、装置の小型化が可能となる。
【0028】
<洗浄液>
払拭装置に搭載される洗浄液は、一般式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテル化合物を含有し、必要に応じて他の有機溶剤、水、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴材、防錆材、及びpH調整剤などを更に含有する。洗浄液を直接的または間接的にノズル形成面に付与してから払拭部材で払拭することで、ノズル形成面に形成された固着物の粘性が低下し除去が容易になる。また、払拭部材でノズル形成面を払拭した後でノズルから液体を再吐出するときに生じる吐出乱れや不吐出などを抑制することができる。なお、洗浄液は収容容器に充填されて払拭装置に搭載されることが好ましい。
【0029】
-一般式(1)で表される化合物-
洗浄液は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。加熱された洗浄液が一般式(1)で表される化合物を含むことで、液体(インクなど)が乾燥して形成される固着物(インク膜など)の洗浄液に対する溶解性が向上する。また、洗浄液の固着物に対する浸透性が向上する。
【化2】
一般式(1)のRは、炭素数1以下4以上のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などがあげられる。一般式(1)で表される化合物としては、例えば、一般式(1)のRがメチル基の場合(3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド)、Rがブチル基の場合(3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド)などが挙げられる。
一般式(1)で表される化合物の含有量は、洗浄液の全量に対して20.0質量%以上60.0質量%以下であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物の含有量が上記範囲内であると、洗浄液の洗浄性を向上させることができる。
【0030】
-グリコールエーテル化合物-
洗浄液は、グリコールエーテル化合物を含む。加熱された洗浄液がグリコールエーテル化合物を含むことで、液体(インクなど)が乾燥して形成される固着物(インク膜など)の洗浄液に対する溶解性が向上する。また、洗浄液の固着物に対する浸透性が向上する。グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどがあげられる。これらは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
グリコールエーテル化合物の含有量は、洗浄液の全量に対して1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。グリコールエーテル化合物の含有量が上記範囲内であると、洗浄液の洗浄性と吐出安定性を両立させることができる。
【0032】
また、グリコールエーテル化合物は、25℃の水に対する溶解量が5.0gを超えることが好ましい。グリコールエーテル化合物の溶解量が上記範囲であると、洗浄液の洗浄性と吐出安定性を両立させることができる。溶解量が5.0gを超えるグリコールエーテル化合物としては、例えば、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなど。ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテルなどを挙げることができる。
【0033】
洗浄液は、一般式(1)で表される化合物とグリコールエーテル化合物を併用することが好ましい。これらを併用することで高い払拭性が得られる。一般式(1)で表される化合物の含有量とグリコールエーテル化合物の含有量の比率(一般式(1)で表される化合物/グリコールエーテル化合物)は、1.0以上7.0以下であることが好ましい。
【0034】
-有機溶剤-
洗浄液に使用できる有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
多価アルコール類の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等が挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
多価アルコールアリールエーテル類としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
アミド類としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等が挙げられる。
アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
含硫黄化合物類としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等が挙げられる。
その他の有機溶剤としては、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
【0035】
有機溶剤として、炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0036】
有機溶剤の洗浄液中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0037】
-水-
洗浄液における水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、洗浄液の乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0038】
-界面活性剤-
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。
シリコーン系界面活性剤には特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。中でも高pHでも分解しないものが好ましい。シリコーン系界面活性剤としては、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学などから入手できる。
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一般式(S-1)式で表わされる、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
【化3】
(但し、一般式(S-1)式中、m、n、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表わし、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-618、KF-642、KF-643(信越化学工業株式会社)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(日本エマルジョン株式会社)、FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)、BYK-33、BYK-387(ビックケミー株式会社)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(東芝シリコン株式会社)などが挙げられる。
【0040】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2~16の化合物が好ましく、フッ素置換した炭素数が4~16である化合物がより好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、特に一般式(F-1)及び一般式(F-2)で表わされるフッ素系界面活性剤が好ましい。
【化4】
上記一般式(F-1)で表される化合物において、水溶性を付与するためにmは0~10の整数が好ましく、nは0~40の整数が好ましい。
【化5】
上記一般式(F-2)で表される化合物において、YはH、又はCmF2m+1でmは1~6の整数、又はCHCH(OH)CH-CmF2m+1でmは4~6の整数、又はCpH2p+1でpは1~19の整数である。nは1~6の整数である。aは4~14の整数である。
上記のフッ素系界面活性剤としては市販品を使用してもよい。この市販品としては、例えば、サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF-470、F-1405、F-474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR、キャプストーンFS-30、FS-31、FS-3100、FS-34、FS-35(いずれも、Chemours社製);FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(いずれも、株式会社ネオス社製)、ポリフォックスPF-136A,PF-156A、PF-151N、PF-154、PF-159(オムノバ社製)、ユニダインDSN-403N(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、Chemours社製のFS-3100、FS-34、FS-300、株式会社ネオス製のFT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW、オムノバ社製のポリフォックスPF-151N及びダイキン工業株式会社製のユニダインDSN-403Nが特に好ましい。
【0041】
洗浄液中における界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0042】
-消泡剤-
消泡剤としては特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤やポリエーテル系消泡剤、高級アルコール系消泡剤などが挙げられる。
【0043】
-防腐防黴剤-
防腐防黴剤としては特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0044】
-防錆剤-
防錆剤としては特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩やチオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0045】
-pH調整剤-
pH調整剤としては特に制限はなく、例えば、pHを7以上に調整することが可能なジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0046】
-洗浄液の物性-
洗浄液の物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
洗浄液の25℃での粘度は、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業社製RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
洗浄液の表面張力としては、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
洗浄液のpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【実施例
【0047】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
<洗浄液の調整>
マグネティックスターラーを用いて、下記表1に示す成分の混合物を30分間攪拌し、各洗浄液を作製した。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、表1において、各組成の詳細については下記の通りである。
・3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(出光興産株式会社製)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成工業株式会社製)
・ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル(Dow社製製)
・シリコーン系界面活性剤 WET-240(日信化学株式会社製)
【0051】
<払拭部材の作製>
下記表2に示す材質からなるシート状の不織布を用意し、第一層目、第二層目として貼り合わせることで払拭部材を作製した。
【0052】
【表2】
【0053】
[固着物の払拭性評価]
インクジェットヘッド(商品名:MH5440、株式会社リコー製)のノズルプレート上にインク(商品名:RICOH Pro AR インクホワイト、株式会社リコー製)を0.1ml滴下後、15時間放置し、インクの固着したノズルプレートを作成した。表3に示す払拭部材に対し表3に示す洗浄液を20μl/cm塗布した後、払拭部材でノズルプレート表面を拭き取った。拭き取る際の条件は、押し当て力6N、拭き取り速度50mm/s、環境温度10℃とした。また、洗浄液はあらかじめヒータを備えた別容器にて加熱し、ノズルプレート表面で表2に示す温度になるものを使用した。なお、比較例3では洗浄液を加熱せず、環境温度下で3時間以上静置した洗浄液を使用した。
【0054】
次に、払拭後のノズルプレートを目視で観察し、固着インクが除去された払拭回数を下記評価基準に従って判断した。C以上が実用可能な範囲であり、Bが好ましく、Aがさらに好ましい。結果を表3に示す。
〔評価基準〕
A:5回以下の払拭でノズルプレート上の固着インクが除去された
B:6回以上7回以下の払拭でノズルプレート上の固着インクが除去された
C:8回以上10回以下の払拭でノズルプレート上の固着インクが除去された
D:10回払拭しても固着インクが残存していた
【0055】
[吐出信頼性評価]
インクジェットヘッド(商品名:MH5440、株式会社リコー製)を有する図1に示す画像形成装置にインク(商品名:RICOH Pro AR インクホワイト、株式会社リコー製)を搭載し、インクを45分間連続吐出させた。吐出を停止させてから30分経過後に、図3に示す払拭装置を用いてインク吐出ヘッドのノズル形成面を払拭した。具体的には、表3に示す払拭部材に対し表3に示す洗浄液を20μl/cm塗布した後、払拭部材でノズルプレート表面を拭き取った。拭き取る際の条件は、押し当て力6N、拭き取り速度50mm/s、環境温度10℃とした。また、洗浄液はあらかじめヒータ620にて加熱し、ノズルプレート表面で表3に示す温度になるものを使用した。
【0056】
次に、再度インクを吐出し、下記評価基準に従って吐出信頼性の評価を行った。Bが好ましく、Aがさらに好ましい。結果を表3に示す。
〔評価基準〕
A:吐出乱れや不吐出は全く見られない
B:5つ以下のノズルで吐出乱れ、不吐出がある
C:5つより多いノズルで吐出乱れ、不吐出がある
【0057】
【表3】
【符号の説明】
【0058】
3 キャリッジ
4、4a、4b 記録ヘッド
4n ノズル
20 維持回復機構
20b ノズル形成面を払拭する機構
41 ノズル形成面
320 シート状払拭部材
400 押し当てローラ
410 送り出しローラ
420 巻き取りローラ
430 洗浄液滴下装置
500 異物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0059】
【文献】特許第6162344号
図1
図2
図3
図4