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特許7196574電解用陰極板及びこれを用いた電解精製方法
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  • 特許-電解用陰極板及びこれを用いた電解精製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電解用陰極板及びこれを用いた電解精製方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
C25C7/02 304
C25C7/02 302F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018224719
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020084297
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 大地
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-346269(JP,A)
【文献】実公昭53-054486(JP,Y2)
【文献】特開平01-319695(JP,A)
【文献】特開平07-070783(JP,A)
【文献】特開2001-062705(JP,A)
【文献】特表2017-503921(JP,A)
【文献】特開2011-032564(JP,A)
【文献】特開2014-214352(JP,A)
【文献】特開2009-102723(JP,A)
【文献】特開2001-131788(JP,A)
【文献】特開平03-150388(JP,A)
【文献】特開2018-012870(JP,A)
【文献】特開2003-048141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの電解槽に装入される複数の電解用陰極板であって、それらの各々は、該電解槽内の電解液に浸漬される略四角形状のステンレス製の平板部と、その上縁部の少なくとも両端において上方に突出する矩形突起部を表裏面から挟持する1対の銅製のクロスビームとからなり、前記1つの電解槽に装入される全ての電解用陰極板は、いずれも前記平板部と前記1対のクロスビームとの互いの当接面の表面粗さ(Ra)の算術平均値が2.5μm以上7.5μm以下であり、これら平板部と1対のクロスビームとの互いの当接面の表面粗さ(Ra)の前記算術平均値を、前記1つの電解槽に装入される全ての電解用陰極板について算出して得た複数の算術平均値の総平均値が5.0μm以下、標準偏差が2.5μm以下であることを特徴とする複数の電解用陰極板。
【請求項2】
前記平板部と1対のクロスビームとの前記当接面に電解液が侵入するのを防止するカバーが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の複数の電解用陰極板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複数の電解用陰極板を母板に用いて種板を作製することを特徴とする電解精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属の電解精錬で使用される陰極板及びこれを用いた電解精製方法に関し、より具体的には銅電解精錬の種板電解において母板として使用されるステンレス製の平板部と銅クロスビームとからなる陰極板及びこれを用いた電解精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅などの非鉄金属の電解精製では、電解液で満たされた電解槽内に、陽極板としての複数の不溶性アノードや目的金属アノードと、陰極板としての目的金属の複数の種板とを交互に装入し、これらに直流電流を通電して電気分解することが行われている。後者の複数の種板は、ステンレス等の母板を陰極板に用いて上記と同様の電解を行い、該母板に目的金属が薄く電着した時点でこの薄電着物を母板から剥ぎ取ることで作製される。この種板作製のための電解(種板電解)で使用する母板は、例えば特許文献1に開示されているように、所定の厚みを有する略四角形状のステンレス製の平板部と、該平板部を電解槽内に垂下させるためにその上縁部を挟持すると共に該平板部に給電する役割を担う1対の角棒状の銅クロスビームとから構成されている。
【0003】
ところで、上記の母板から剥ぎ取られた種板には、電着歪や剥ぎ取りの際の歪が生じている。種板は、通常は剥ぎ取られた後にパレットに積み重ねられて保管されるが、このパレット上の保管により歪が矯正されて平坦になることはほとんどない。このような歪んだ状態のままの種板を電解槽内へ装入して電気分解を行うと、陰極板としての当該種板と陽極板との面間距離において局所的に狭い部分が生じるため、その部分でショートを誘発してしまう。その結果、電流効率が低下し、電気銅の生産量が減少する。そこで、電解槽内へ装入する前に種板の歪を矯正することが行われている。上記の種板の歪の一般的な矯正には、ローラーを備えた成形機やプレス等の歪矯正装置を用いる方法が知られている。例えば特許文献2には、可動式圧下ロール及び固定式ロールの組み合わせからなる種板歪取装置を用いる技術が開示されている。
【0004】
一方、電解精錬を効率よく行うには、電解槽に装入した複数の母板に対して均一に給電するのが望ましい。しかしながら、母板は種板の剥離後に再利用されるため、繰り返し使用しているうちに変形や腐食等の劣化が生じて複数の母板への電流分布が不均一になることがあった。特に、上記した1対の銅クロスビームが平板部にボルト留めされた構造の場合は、母板の電解槽からの取り出し及び装入などの移動時や種板の剥ぎ取り時に、母板に衝撃や振動などの機械的な力が加わり、当該ボルトが少しずつ弛んで銅クロスビームと平板部との間のすき間に電解液のミストが侵入し、その部分において腐食が進行して腐食生成物が生成することがあった。
【0005】
その結果、銅クロスビームと平板部との両当接面での接触抵抗が増大し、電流分布が不均一になることがあった。この銅クロスビームと平板部との間の接触抵抗が増大するのを防ぐ方法として、例えば特許文献3には、これら銅クロスビームと平板部とを溶接する技術が提案されている。また、特許文献4には、これら銅クロスビームと平板部との間に金箔を介在させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-32564号公報
【文献】特開平9-165693号公報
【文献】特開平1-319695号公報
【文献】特開平7-70783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の歪矯正装置を用いた歪低減方法は、種板間で厚みにばらつきがあると歪を良好に矯正できないことがあった。例えば、ローラーを用いて種板の歪を矯正する際、過度に厚い種板はローラーの効きが高まることでかえって歪が増大したり、設備の過負荷により異常が発生したりすることがあった。逆に過度に薄い種板はローラーでの矯正が効かず、この場合も歪がかえって大きくなることがあった。このような歪矯正装置において生ずる問題を抑えるため、種板間で厚みがばらつかないように同じ厚みを有する種板群を作製し、それらを歪矯正装置に導入するのが望ましい。
【0008】
同じ厚みの種板群を作製するには、電解槽に装入した複数の母板に供給する電流分布を均一にするのが好ましい。すなわち、電流分布を均一化させることで複数の母板上にそれぞれ形成される銅電着量がばらつきにくくなり、よって全て同じ厚みを有する種板群を作製することが可能になる。逆に複数の母板に供給する電流がばらつくと種板の厚みにばらつきが生じ、例えば厚みが過度に薄い種板の場合は、母板から剥ぎ取りにくくなるため作業者の負荷が増大するうえ、不良種板が発生する割合が高くなる。
【0009】
上記の場合、前述した特許文献3及び4の技術を適用することで電流分布を均一化させることができるため、全て同じ厚みを有する種板群を作製することができる。しかしながら、上記特許文献3に開示されている方法で銅クロスビームと平板部とを溶接すると、加工硬化された銅クロスビームが熱によって焼なまされ、強度が低下するおそれがある。また、ステンレス製の平板部においては、粒界腐食割れが生じるおそれがある。更に、銅クロスビームと平板部とが互いに溶接されているので、長期間の使用で該ステンレス製の平板部又は銅クロスビームのいずれか一方に劣化が生じても、容易にこれらを分離して補修することができない。一方、上記特許文献4に開示されている方法で銅クロスビームと金箔とを接触させると、時間の経過に伴って金箔と銅クロスビームの銅との間で拡散が生じて最終的に金箔が無くなってしまい、その結果、銅クロスビームと平板部との当接面での接触抵抗の上昇により電流分布が不均一になるおそれがある。
【0010】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、電解槽内に装入した母板としての複数の電解用陰極板への電流分布を均一にすることで、ほぼ同じ厚みを有する種板群を作製することが可能な電解用陰極板及びこれを用いた電解精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、種板作製時の電解における電解槽内の各母板に流れる電流値と、該母板に流れる電流を決定する各抵抗値に関して検討を行ったところ、1対の銅クロスビームとこれらにより挟持される平板部との間の接触抵抗のばらつきが複数の母板に対する電流分布の不均一化の主要因であるとの知見を得、更に検討を進めたところ、この接触抵抗のばらつきはこれら銅クロスビームと平板部との両当接面の表面粗さに起因していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る電解用陰極板は、1つの電解槽に装入される複数の電解用陰極板であって、それらの各々は、該電解槽内の電解液に浸漬される略四角形状のステンレス製の平板部と、その上縁部の少なくとも両端において上方に突出する矩形突起部を表裏面から挟持する1対の銅製のクロスビームとからなり、前記1つの電解槽に装入される全ての電解用陰極板は、いずれも前記平板部と前記1対のクロスビームとの互いの当接面の表面粗さ(Ra)の算術平均値が2.5μm以上7.5μm以下であり、これら平板部と1対のクロスビームとの互いの当接面の表面粗さ(Ra)の前記算術平均値を、前記1つの電解槽に装入される全ての電解用陰極板について算出して得た複数の算術平均値の総平均値が5.0μm以下、標準偏差が2.5μm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電解槽内に装入した複数の母板に対する電流分布を均一にすることができるので、不良種板の発生割合を低減させてほぼ同じ厚みを有する種板群を作製することができる。この種板を歪矯正装置に導入することで歪の小さなカソードを安定的に作製することが可能となり、銅電解精錬時の電流効率を高めることができるので、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る電解用陰極板の一具体例の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電解用陰極板の実施形態について図1を参照しながら説明する。この本発明の一具体例の陰極板1は、銅電解精錬の種板電解時に使用される母板であり、略四角形状のステンレス製の平板部10と、該平板部10の上縁部を表裏面から挟持する1対の角棒状の銅製のクロスビーム20とから構成される。より具体的に説明すると、上記の平板部10は、その幅方向の長さが装入される電解槽の内側の幅よりわずかに狭く形成されており、その表裏面は所定の表面粗さとなるように研磨処理が施されている。
【0016】
この平板部10は、後述する突起部を除いてほぼ全体的に電解液に浸漬させるので、該電解液による腐食、変形に対する耐食性に優れた材料で形成されており、例えばSUS316Lが好適に用いられている。この平板部10には、その一方の側縁部の最上部から最下部までの領域とその下縁部のうちの上記一方の側縁部側の略半分の領域とを覆う略L字状に折り曲げられた断面コの字状の絶縁材11が取り付けられている。この絶縁材11により、種板電解時に両面に電着した電着銅を容易に剥ぎ取ることができる。
【0017】
また、この平板部10は、その上縁部の中央部と両端部との3ヶ所に上方に突出する略矩形の突起部12が設けられており、これら3ヶ所の突起部12において上記1対のクロスビーム20との接続が行われる。これにより、平板部10にクロスビーム20を介して電力が供給される。なお、陰極板1の形状は図1に限定されるものではなく、例えば略矩形の突起部が中央部には存在せずに両端部2ケ所のみの場合がある。
【0018】
上記の3ヶ所の突起部12は、各々ボルト30の挿通用の貫通孔13が設けられている。上記の1対のクロスビーム20において上記突起部12の貫通孔13に対応する位置にも貫通孔21が設けられており、これら1対のクロスビーム20で平板部10の突起部12を表裏面から挟持し、対応する該突起部12の貫通孔13とクロスビーム20の貫通孔21とにボルト30を挿通してナット31で螺着することで、平板部10とクロスビーム20とを固定することができる。
【0019】
1対のクロスビーム20は平板部10の幅よりも長いので、電解槽の対向する壁部の上縁部に該1対のクロスビーム20の両端部を載置することができ、これにより平板部10を1対のクロスビーム20から垂下した状態で電解液に浸漬させることができる。電解槽の上記対向する壁部上にはブスバーと称する給電板が載置されており、この給電板に1対のクロスビーム20の端部が当接することで、電源から該給電板及び1対のクロスビーム20を介して平板部10に給電が行われる。これにより平板部10の表裏面に目的金属としての銅を電着させることができる。
【0020】
この電着物が所定の厚みになった時点で該陰極板1を電解槽から引き上げ、前述した絶縁材11を用いて該電着物を平板部10から剥ぎ取る。これにより種板が得られる。種板が剥ぎ取られた後の陰極板1は、母板として再度使用することができる。しかしながら、上記1対のクロスビーム20と平板部10の突起部12との間の隙間に電解液が浸入すると、これらの当接部分が腐食される。この腐食の進行速度は該1対のクロスビーム20と、平板部10の突起部12との両当接面の表面粗さが陰極板1間でばらついていると差違を生じ、その結果、接触抵抗においても陰極板1間で差違が生じて複数の陰極板1に対する電流分布が不均一になる。
【0021】
このような不均一な電流分布の発生を防ぐため、本発明の実施形態においては、1対のクロスビーム20と突起部12との互いの当接面のそれぞれの表面粗さ(Ra)の平均値を、1つの電解槽に装入される全ての陰極板1について算出して得た複数の平均値の総平均値が5.0μm以下、標準偏差が2.5μm以下である。これにより、電解槽内に装入した母板としての複数の陰極板1に対する電流分布を均一にすることができるので、不良種板の発生割合を低減させてほぼ同じ厚みを有する種板群を作製することができる。逆に、上記の表面粗さ(Ra)の総平均値が5.0μmを超えるか、又は標準偏差が2.5μmを超えると、該当接面の接触抵抗のばらつきの影響が大きくなりすぎ、これら全ての陰極板1に対する電流分布が不均一になる。
【0022】
具体的には、1つの電解槽に装入される陰極板の合計枚数が例えば50枚の場合は、電解槽の一端部からi番目の陰極板の1対のクロスビーム20の当接面のうちの任意の部位の表面粗さ(Ra)をRa(i)、該i番目の陰極板の突起部12の当接面のうちの任意の部位の表面粗さ(Ra)をRa(i)としたとき、それらの算術平均値x(i)は下記式1で表わすことができる。
[式1]
x(i)=(Ra(i)+Ra(i))/2
【0023】
従って、1つの電解槽に装入される全ての陰極板1について上記関して上記x(i)を算出して得た複数の平均値(すなわち、x(1)、x(2)、・・・、x(50))の総平均値X及び標準偏差Yは、それぞれ下記式2及び式3で求めることができる。よって、下記式2の総平均値Xを5.0μm以下にし、且つ下記式3の標準偏差Yを2.5μm以下にすればよい。
[式2]
X=(x(1)+x(2)+・・・+x(50))/50
[式3]
Y=[((x(1)-X)+(x(2)-X)+・・・+(x(50)-X))/50]1/2
【0024】
本発明の実施形態においては、更に上記の1つの電解槽に装入される全ての陰極板1の各々において、1対のクロスビーム20と突起部12の両当接面の表面粗さ(Ra)の上記式1で得られる平均値が、2.5μm以上7.5μm以下であるのが好ましい。この表面粗さ(Ra)の平均値が7.5μmより大きくなると、上記当接面の隙間に電解液が侵入しやすくなる。逆に2.5μmより小さくするのは手間がかかりすぎるので好ましくない。
【0025】
なお、上記の1対のクロスビーム20と平板部10の突起部12との両当接面の表面粗さ(Ra)が上記の要件を満たさない場合は、該当接面に研磨を施せばよい。この研磨方法としては、一般的な平面研削盤や走行式のホイール研磨機などによる研磨方法を用いることができる。また、上記1対のクロスビーム20と平板部10の突起部12との間の隙間に電解液のミストが浸入するのを防止するため、上記の1対のクロスビーム20及び突起部12を覆うカバーを設けたり、該隙間の入口部をコーキングしたりするのが好ましい。
【0026】
次に、上記した本発明の一具体例の電解用陰極板を用いた銅電解精製用種板の製造方法について説明する。上記したように先ず銅製の1対のクロスビームとステンレス製の平板部を用意し、それらの互いの当接面を研磨した後、平板部の電着面に剥離剤を塗布して乾燥させる。そして、これら1対のクロスビームと平板部とをボルト、ナットで固定して母板を組み立てる。この1対のクロスビームの両端部を電解槽の対向する壁部上に載置することで、該電解槽下に吊り下げられる陰極としての平板部に対して該1対のクロスビームを介して電力が供給される。更に、この平板部の表裏の電着面に対向する位置にはそれぞれ粗銅からなる陽極が装入され電力が供給される。
【0027】
このように1対のクロスビームと平板部とからなる母板の陰極と粗銅の陽極との間に通電することにより、該母板の表裏両面の電着面に銅を電着させる。電解液には硫酸銅溶液が使用され、必要に応じて添加剤が添加される。なお電解条件は電解装置や工程に見合ったものを適宜選べばよい。母板の電着面に形成させる種板の厚みは0.6mm程度である。この電着の終了後、引き剥がし装置により母板の電着面から種板が引き剥がされる。引き剥がす際に発生した破れやシワを有する種板は検査工程で検出され、不良品として処理される。
【実施例
【0028】
[参考例]
横1070mm、縦1050mm、厚み3mmの電着部の上縁部の中央と両端の3ヶ所にいずれも縦35mm、横200mmの突起部が一体成形された形状のステンレス製の平板部と、該突起部を表裏面から挟持する1対の銅製のクロスビーム(長さ1460mm、幅35mm、厚み10mm)を用意した。上記の突起部をクロスビームで挟持する前に、これらが互いに当接する当接面のそれぞれの算術平均粗さ(Ra)を、JIS B0601-2001に準拠して求めた。なお、算術平均粗さ(Ra)を求めるための粗さ曲線の作成にはミツトヨ社製の触針式粗さ測定機(SJ-201)を用いた。そして、上記突起部を1対のクロスビームで挟持した後、該突起部に各々設けた2ヶ所の内径10mmの貫通孔及びこれらに対応するクロスビームの螺刻された貫通孔に合計6本の長ねじボルトを挿通させて固定した。
【0029】
このようにして組み立てた母板50枚及びアノード51枚を交互になるようにして電解槽内に配列し、Cu濃度45~47g/L、HSO濃度180~190g/Lの組成を有する電解液で満たして電解温度60℃、陰極電流密度250A/mの並列法の条件で22時間通電して電気銅からなる種板を製造した。なお、通電中は電解槽にビニールシートをかけることで保温及び蒸発防止を行った。この電解を開始してから4時間以上経過した時点で、キーサイト・テクノロジー社製のクランプメータ(keysight U1213A)を使用してクロスビームにおけるカソード電流を測定した。
【0030】
また、平板部とクロスビームとの間の接触抵抗を、上記と同様のクランプメータを用いて測定したカソード電流及び電圧降下より求めた。通電停止後、50枚全ての母板を電解槽から引き上げて種板を剥ぎ取った。これら50枚の母板における電着量のばらつきを評価するため、該50枚の母板の各々の対して剥ぎ取った2枚の種板の質量を測定した。この母板1枚当たり作製される2枚の種板の合計質量である種板単重の算術平均及び標準偏差に基づいて50枚の母板における電着量のばらつきを評価した。
【0031】
[実施例]
次に上記の参考例で使用した50枚の母板の各々に対して、突起部とクロスビームとの互いの当接面をいずれも#400のサンドペーパーで研磨した後、これらクロスビームと突起部との両当接面の表面粗さを上記の参考例と同様にして測定した。そして、これらを再度組み立てて母板とした後は、上記参考例と同様に電解槽内に装入して電解し、カソード電流及び各接点抵抗値の測定を行った。また、電解後は各母板から剥ぎ取った種板の種板単重を測定した。上記の実施例及び参考例における50枚の母板のカソード電流及び種板単重のばらつきを、前述した式1~式3で求めた50枚の母板におけるクロスビームと突起部との当接面の表面粗さ(Ra)の総平均値X及び標準偏差Yと共に下記表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
上記表1の結果から、実施例では母板のクロスビームと平板部の突起部との当接面を研磨により平坦にしたため、参考例に比べて、表面粗さ、接触抵抗及びカソード電流のばらつきが低減しており、これにより各母板から剥ぎ取った種板の種板単重のばらつきも参考例に比べて低減していることが分かる。従って、繰り返し使用されるステンレスカソードであってもクロスビームと平板部の突起部との当接面に研磨を施すことで、1つの電解槽から同じ厚みを有する種板群を作製できることが分かる。
【符号の説明】
【0034】
1 陰極板
10 平板部
11 絶縁材
12 突起部
13 貫通孔
20 1対のクロスビーム
21 貫通孔
30 ボルト
31 ナット
図1